(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】高分子電解質
(51)【国際特許分類】
H01M 8/10 20160101AFI20240116BHJP
C08G 65/34 20060101ALI20240116BHJP
C08G 65/48 20060101ALI20240116BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240116BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20240116BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20240116BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H01M8/10 101
C08G65/34
C08G65/48
H01B1/06 A
H01B1/12 Z
H01B13/00 Z
H01M4/86 B
(21)【出願番号】P 2020071180
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179866
【氏名又は名称】加藤 正樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 章
(72)【発明者】
【氏名】多胡 貴広
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186154(JP,A)
【文献】特開2016-006173(JP,A)
【文献】特開2017-117575(JP,A)
【文献】特開2013-188742(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0043656(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0264589(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0247756(US,A1)
【文献】米国特許第8814982(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
C08G 65/34
C08G 65/48
H01B 1/06
H01B 1/12
H01B 13/00
H01M 4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性基を有する含フッ素微多孔性高分子であ
り、
前記含フッ素微多孔性高分子が、下記式(3)で表される繰り返し単位を含み、
【化1】
式中、
Ar
1
は、下記で表されるいずれか1つの構造を表し;
【化2】
Ar
2
は、下記で表されるいずれか1つの構造を表し;
【化3】
R
1
は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、置換もしくは非置換のアルキル基を表し;
mは0または1であり;
xは0<x≦6であり、yは0≦y<6であり、x+y≦6であり;
Aは、下記の構造を表し;
【化4】
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表し;
pは0または1を表し、qは0~2の整数を表し、rは0~12の整数を表し、ただし、q及びrは同時に0にならず;
*は結合手を表すことを特徴とする、高分子電解質。
【請求項2】
前記Ar
2が、下記式(4)~(8)のうちのいずれか1つで表される構造である、請求項
1に記載の高分子電解質。
【化5】
式中、
xは0<x≦6であり、yは0≦y<6であり、x+y≦6である。
【請求項3】
BET法で求められる比表面積が250~6000m
2/gである、請求項1
または2に記載の高分子電解質。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の含フッ素微多孔性高分子電解質と、水および有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とする、高分子電解質溶液。
【請求項5】
請求項
4に記載の高分子電解質溶液と、触媒とを含むことを特徴とする、電極触媒インク。
【請求項6】
請求項
5に記載の電極触媒インクを含むことを特徴とする、電極触媒層。
【請求項7】
請求項
6に記載の電極触媒層と電解質膜とを備えることを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項8】
請求項
7に記載の膜電極接合体を備えることを特徴とする、燃料電池。
【請求項9】
含フッ素芳香族モノマー(M3)と、芳香族モノマー(M4)とを縮合重合させて、芳香族基と、当該芳香族基に直接結合した1個以上のフッ素原子とを有する含フッ素微多孔性高分子(P1)を形成する工程と、
(i)
前記含フッ素微多孔性高分子(P1)に、SO
3X基(式中、Xは、アルカリ金
属である。)を有する化合物を用いて、SO
3X基を導入し、SO
3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(ii)前記SO
3X基を有する含フッ素微多孔性高分子の前記SO
3X基をスルホン酸基に変換する工程と、
を含
み、
前記含フッ素芳香族モノマー(M3)が、下記式(17)で表されるモノマーのいずれかであり、
【化6】
前記芳香族モノマー(M4)が、下記式(14)で表されるモノマーのいずれかであり、
【化7】
前記SO
3
X基を有する化合物が、下記式(9)で表される構造を有し、
【化8】
式中、
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表し;
qは0~2の整数、rは0~12の整数を表し、ただし、q及びrは同時に0にならず; Xは、アルカリ金属であることを特徴とする、スルホン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質の製造方法。
【請求項10】
前記(i)工程が、
(iii)前記含フッ素微多孔性高分子(P1)に、OW基(式中、Wは、水素、アルカリ金
属である)を導入して、OW基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(iv)前記OW基を有する含フッ素微多孔性高分子を、前記SO
3X基を有する化合物と反応させて、前記SO
3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
を含む、請求項
9に記載の高分子電解質の製造方法。
【請求項11】
前記(ii)工程が、(v)前記SO
3X基のXを、水素へイオン交換する工程を含む、請求項
9または10に記載の高分子電解質の製造方法。
【請求項12】
前記SO
3X基を有する化合物が、下記式(11)で表される構造を有する、請求項
9~11のいずれか1項に記載の高分子電解質の製造方法。
【化9】
式中、
Xは、アルカリ金
属である。
【請求項13】
(ア)芳香族基と、当該芳香族基の炭素原子に結合した4個以上のハロゲン原子と、SO
3X基(Xは、アルカリ金
属である。)と、1個以上のフッ素原子とを有する芳香族モノマー(M1)と、芳香族基と、当該芳香族基の炭素原子に結合した4個以上の水酸基とを有する芳香族モノマー(M2)とを準備する工程と、
(イ)触媒存在下に、前記芳香族モノマー(M1)のハロゲン原子と前記芳香族モノマー(M2)の水酸基とを縮合重合させて、SO
3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(ウ)前記SO
3X基を有する含フッ素微多孔性高分子の前記SO
3X基をスルホン酸基に変換する工程と、
を含
み、
前記芳香族モノマー(M1)が、下記(12)で表されるいずれか1つの構造を有し、
【化10】
式中、
R
1
は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、置換もしくは非置換のアルキル基を表し;
mは0または1であり;
Bは、下記の構造を表し;
【化11】
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表し;
pは0または1を表し、qは0~2の整数を表し、rは0~12の整数を表し、ただし、q及びrは同時に0にならず;
Xは、アルカリ金属であり;
*は結合手を表し、
前記芳香族モノマー(M2)が、下記(14)で表されるいずれか1つの構造を有する、
【化12】
ことを特徴とする、スルホン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質の製造方法。
【請求項14】
前記(ウ)工程が、(エ)前記SO
3X基のXを、水素へイオン交換する工程を含む、請求項
13に記載の高分子電解質の製造方法。
【請求項15】
前記芳香族モノマー(M1)が、下記(13)で表されるいずれか1つの構造を有する、請求項
13または14に記載の高分子電解質の製造方法。
【化13】
式中、
Xは、アルカリ金
属である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質、高分子電解質溶液、電極触媒インク、電極触媒層、膜電極接合体、燃料電池、および高分子電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池を構成する膜電極接合体(MEA)には、白金等の触媒及び高分子電解質から形成される電極触媒層が設けられている。白金等の触媒は高価であるため、その使用量の低減が求められているが、触媒の使用量を削減すると電池の性能が低下する傾向がある。この不利益を回避するために、電極触媒層を形成する高分子電解質の酸素透過性を向上させて、電極中に酸素を行き渡らせる試みがなされてきた。
【0003】
特許文献1には、酸素透過性が高く、カソード側触媒層高分子電解質として好適な高分子電解質として、ラジカル重合により主鎖に脂肪族環構造を有するポリマーを与える含フッ素モノマーに基づく繰り返し単位と、フッ素系スルホン酸含有モノマーに基づく繰り返し単位とを含む共重合体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている高分子電解質は、微多孔性高分子ではないため、実際の燃料電池の運転環境に近い低加湿条件及び高加湿条件のいずれにおいても発電性能が不十分であり、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、低加湿と高加湿のいずれの条件でも高い発電性能を発現することができる高分子電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0008】
・態様1
プロトン伝導性基を有する含フッ素微多孔性高分子であることを特徴とする、高分子電解質。
【0009】
・態様2
前記プロトン伝導性基が、スルホン酸基、およびリン酸基からなる群より選択される少なくとも1つである、態様1に記載の高分子電解質。
【0010】
・態様3
前記スルホン酸基が、下記式(1)で表される構造を含む、態様2に記載の高分子電解質。
【化1】
式中、*は結合手を表す。
【0011】
・態様4
前記リン酸基が、下記式(2)で表される構造を含む、態様2または3に記載の高分子電解質。
【化2】
式中、*は結合手を表す。
【0012】
・態様5
前記含フッ素微多孔性高分子の繰り返し単位の少なくとも一部が、1,4-ジオキシン構造を含む、態様1~4のいずれか1項に記載の高分子電解質。
【0013】
・態様6
前記含フッ素微多孔性高分子が、下記式(3)で表される繰り返し単位を含む、態様1~5のいずれか1項に記載の高分子電解質。
【化3】
式中、
Ar
1は、下記で表されるいずれか1つの構造を表し;
【化4】
Ar
2は、下記で表されるいずれか1つの構造を表し;
【化5】
R
1は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリール基を表し;
mは0または1であり;
xは0<x≦6であり、yは0≦y<6であり、x+y≦6であり;
Aは、下記のいずれかの構造を表し;
【化6】
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表し;
pは0または1を表し、qは0~2の整数を表し、rは0~12の整数を表し、ただし、q及びrは同時に0にならず;
sは0または1を表し、tは0または1を表し;
Yは、F、又はエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表し;
R
fは、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表し;
*は結合手を表す。
【0014】
・態様7
前記Ar
2が、下記式(4)~(8)のうちのいずれか1つで表される構造である、態様6に記載の高分子電解質。
【化7】
式中、
xは0<x≦6であり、yは0≦y<6であり、x+y≦6である。
【0015】
・態様8
BET法で求められる比表面積が250~6000m2/gである、態様1~7のいずれか1項に記載の高分子電解質。
【0016】
・態様9
態様1~8のいずれか1項に記載の含フッ素微多孔性高分子電解質と、水および有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含むことを特徴とする、高分子電解質溶液。
【0017】
・態様10
態様9に記載の高分子電解質溶液と、触媒とを含むことを特徴とする、電極触媒インク。
【0018】
・態様11
態様10に記載の電極触媒インクを含むことを特徴とする、電極触媒層。
【0019】
・態様12
態様11に記載の電極触媒層と電解質膜とを備えることを特徴とする、膜電極接合体。
【0020】
・態様13
態様12に記載の膜電極接合体を備えることを特徴とする、燃料電池。
【0021】
・態様14
(i)芳香族基と、当該芳香族基に直接結合した1個以上のフッ素原子とを有する含フッ素微多孔性高分子(P1)に、SO3X基(式中、Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR1R2R3R4であり;R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。)を有する化合物を用いて、SO3X基を導入し、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(ii)前記SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子の前記SO3X基をスルホン酸基に変換する工程と、
を含むことを特徴とする、スルホン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質の製造方法。
【0022】
・態様15
前記(i)工程が、
(iii)前記含フッ素微多孔性高分子(P1)に、OW基(式中、Wは、水素、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属である)を導入して、OW基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(iv)前記OW基を有する含フッ素微多孔性高分子を、前記SO3X基を有する化合物と反応させて、前記SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
を含む、態様14に記載の高分子電解質の製造方法。
【0023】
・態様16
前記(ii)工程が、(v)前記SO3X基のXを、水素へイオン交換する工程を含む、態様14または15に記載の高分子電解質の製造方法。
【0024】
・態様17
前記SO
3X基を有する化合物が、下記式(9)または(10)で表される構造を有する、態様14~16のいずれか1項に記載の高分子電解質の製造方法。
【化8】
式中、
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表し;
qは0~2の整数、rは0~12の整数を表し、ただし、q及びrは同時に0にならず;
tは0または1を表し;
Yは、F、又はエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表し;
R
fは、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表し;
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4であり;
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0025】
・態様18
前記SO
3X基を有する化合物が、下記式(11)で表される構造を有する、態様14~17のいずれか1項に記載の高分子電解質の製造方法。
【化9】
式中、
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4であり;
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0026】
・態様19
(ア)芳香族基と、当該芳香族基の炭素原子に結合した4個以上のハロゲン原子と、SO3X基(Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR1R2R3R4であり、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。)と、1個以上のフッ素原子とを有する芳香族モノマー(M1)と、芳香族基と、当該芳香族基の炭素原子に結合した4個以上の水酸基とを有する芳香族モノマー(M2)とを準備する工程と、
(イ)触媒存在下に、前記芳香族モノマー(M1)のハロゲン原子と前記芳香族モノマー(M2)の水酸基とを縮合重合させて、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(ウ)前記SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子の前記SO3X基をスルホン酸基に変換する工程と、
を含むことを特徴とする、スルホン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質の製造方法。
【0027】
・態様20
前記(ウ)工程が、(エ)前記SO3X基のXを、水素へイオン交換する工程を含む、態様19に記載の高分子電解質の製造方法。
【0028】
・態様21
前記芳香族モノマー(M1)のハロゲン原子が、フッ素原子である、態様19又は20に記載の高分子電解質の製造方法。
【0029】
・態様22
前記芳香族モノマー(M1)が、下記(12)で表されるいずれか1つの構造を有する、態様19~21に記載の高分子電解質の製造方法。
【化10】
式中、
R
1は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリール基を表し;
mは0または1であり;
Bは、下記のいずれかの構造を表し;
【化11】
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表し;
pは0または1を表し、qは0~2の整数を表し、rは0~12の整数を表し、ただし、q及びrは同時に0にならず;
sは0または1を表し、tは0または1を表し;
Yは、F、又はエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表し;
R
fは、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表し;
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4であり;
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基であり;
*は結合手を表す。
【0030】
・態様23
前記芳香族モノマー(M1)が、下記(13)で表されるいずれか1つの構造を有する、態様19~22に記載の高分子電解質の製造方法。
【化12】
式中、
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4であり;
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0031】
・態様24
前記芳香族モノマー(M2)が、下記(14)で表されるいずれか1つの構造を有する、態様19~23に記載の高分子電解質の製造方法。
【化13】
【発明の効果】
【0032】
本発明の含フッ素微多孔性高分子電解質は、低加湿と高加湿のいずれの条件でも高い発電性能を発現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる
【0034】
本明細書に記載の製造方法において、(i)、(ii)および(iii)、ならびに(ア)、(イ)および(ウ)などの語句は、その製造方法における工程を他の工程と区別するためのみに用いている便宜的な語句であり、工程の順序を示すものではない。
【0035】
本開示において、数値範囲は、別段の記載がない限り、その範囲の下限値および上限値を含むことを意図している。例えば、250~6,000m2/gは、250m2/g以上6,000m2/g以下を意味する。
【0036】
・含フッ素微多孔性高分子電解質
本実施形態の高分子電解質は、プロトン伝導性基を有する含フッ素微多孔性高分子であることで、高分子電解質の空隙が高まり、高酸素透過性を発現し、低加湿と高加湿のいずれの条件でも高い発電性能を発現することができる。ここで、高加湿とは相対湿度60%RH以上、低加湿とは相対湿度30%RH以下を指す。また、上記高分子電解質を含む電極触媒層は、表面にひび割れがなく、燃料電池の運転において、高化学耐久性を発現することができる。
【0037】
本明細書において、微多孔性高分子とは、PIM(polymers of intrinsic microporosity)のことを言う。PIMは、マイクロポーラスポリマーの一種であり、高いガス透過性を有する。微多孔性高分子がフッ素原子を含むことで、高分子電解質の疎水性と耐久性が向上し、高い電池性能に寄与する。
【0038】
プロトン伝導性基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、スルホンアミド基等が挙げられる。プロトン伝導性基は、スルホン酸基、およびリン酸基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。スルホン酸基とリン酸基のどちらか一方を有してもよいし、その両方を有していてもよい。スルホン酸基を有することで、本発明の高分子電解質は、幅広い加湿条件下で高いプロトン伝導性を示す。リン酸基を有することで、本発明の高分子電解質は、低加湿から無加湿条件でも高いプロトン伝導性を示す。
【0039】
一実施形態では、高加湿条件は、60~100%RHである。一実施形態では、低加湿条件は、0~30%RHである。
【0040】
スルホン酸基は、プロトン伝導性の観点から、強酸である下記式(1)で表される構造を含むことが好ましい。スルホン酸基に隣接する炭化水素が含フッ素であることで、スルホン酸基の酸性度が高まり、プロトン伝導性が向上し、高い発電性能に寄与する。
【化14】
*は結合手を表す。
【0041】
リン酸基としては、合成容易性の観点から、下記式(2)で表される構造を含むことが好ましい。
【化15】
*は結合手を表す。
【0042】
フッ素微多孔性高分子の繰り返し単位の少なくとも一部は、1,4-ジオキシン構造を含むことが好ましい。例えば、フッ素微多孔性高分子の繰り返し単位の一部が、1,4-ジオキシン構造を含み、フッ素微多孔性高分子の他の繰り返し単位が1,4-ジオキシン構造以外の構造を含んでいてもよいし;フッ素微多孔性高分子の繰り返し単位の全てが、1,4-ジオキシン構造を含んでいてもよい。1,4-ジオキシン構造とは、下記式(15)で表されるジベンゾ-1,4-ジオキシンを言う。Arは芳香族基を表す。1,4-ジオキシン構造は、置換基を有してもよい。
【化16】
*は結合手を表す。
【0043】
芳香族基としては、例えば、単環構造、多環構造、縮合環構造等の芳香族基が挙げられる。また、芳香族基は置換基を有してもよい。
【0044】
芳香族基の置換基としては、例えば、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、フェニル基、フッ素置換フェニル基、アリール基、フェノキシ基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0045】
式(15)のArの具体例としては、下記の芳香族基等が挙げられる。
【化17】
式中、R
2は、例えば、-O-、-S-、-C(=O)-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、-C
2H
4-、-C(CF
3)
2-、-C
2F
4-、-C
4F
8-、-C
6F
12-、-C
8F
16-、-C
6H
4-、-C
6F
4-等の2価有機基を表す。
【0046】
含フッ素微多孔性高分子は、例えば、下記式(3)で表される構造を含む骨格が挙げられ、下記式(3)で表される構造を繰り返し単位に含むことが好ましい。
【化18】
式中、
Ar
1は、下記で表されるいずれか1つの構造を表す。
【化19】
Ar
2は、下記で表されるいずれか1つの構造を表す。
【化20】
R
1は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリール基を表す。
mは0または1である。
xは0<x≦6であり、yは0≦y<6であり、x+y≦6である。
Aは、下記の構造のいずれかを表す。
【化21】
式中、
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表す。
pは0または1、qは0~2の整数、rは0~12の整数を表す。ただし、q及びrは同時に0にならない。
sは0または1、tは0または1を表す。
Yは、F、又はエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表す。
R
fは、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表す。
*は結合手を表す。
【0047】
本開示において、2つの芳香族環に結合しているFv(A)w(B)x基は、その芳香族環に直接結合し得る箇所の各置換基の数v、wまたはxを示し、その置換基F,(A)および(B)の位置は任意であることを示す。したがって、上記F6-x-y(OA)x(OH)y基を有するAr2の構造は、芳香族環の任意の位置に直接結合した(OA)基をx個有し、芳香族環の任意の位置に直接結合したOH基をy個有し、そして芳香族環の任意の位置に直接結合したF基を6-x-y個有することを意味する。同様に、上記F6-x(PO3H2)x基を有するAr2の構造は、芳香族環の任意の位置に直接結合した(PO3H2)基をx個有し、そして芳香族環の任意の位置に直接結合したF基を6-x個有することを意味する。他の2つの芳香族環に結合している置換基を有する構造についても同様である。
【0048】
Ar
2は、酸素溶解度の観点から、下記式(4)~(8)のうちのいずれか1つで表される構造であることが好ましい。式(4)~(8)の構造である場合、スルホン酸基を有する側鎖が短いことで、高分子電解質中に形成される空隙が大きくなり、酸素溶解度が高まる。また、Ar
2は、合成容易性の観点から、下記式(5)、(6)、および(8)のうちのいずれか1つで表される構造であることが更に好ましい。
【化22】
xは0<x≦6であり、yは0≦y<6であり、x+y≦6である。
xは、プロトン伝導性と熱水耐性の観点から、0.1≦x≦5.0が好ましく、0.3≦x≦4.0がより好ましく、0.5≦x≦3.0が更に好ましい。
yは、耐熱性の観点から、0≦y≦3が好ましく、0≦y≦1がより好ましく、0≦y≦0.5が更に好ましい。xおよびyは、それぞれ、NMRおよびEW測定より算出できる。
【0049】
Ar
1は、合成容易性の観点から、下記で表される構造のいずれかであることが好ましい。
【化23】
【0050】
含フッ素微多孔性高分子は、式(3)で表される構造以外に、他の構造を含んでいても良い。含フッ素微多孔性高分子は、異なるAr1およびAr2からなる群より選択される少なくとも1種を有する共重合体であってもよい。
【0051】
(特性)
高分子電解質は、当量重量EW(プロトン交換基1当量あたりの高分子電解質の乾燥質量グラム数)が100~2000g/eqであることが好ましい。即ち、上記EWの範囲内となるように共重合比やプロトン性伝導基導入率を制御することが好ましい。EWが上記の範囲内にあることにより、高分子電解質の加工性に一層優れ、電極触媒層の伝導度が低くなりすぎず、熱水への溶解性も小さい。EWの上限は、より好ましくは1000g/eqであり、更に好ましくは900g/eqである。EWの下限は、より好ましくは300g/eqであり、更に好ましくは500g/eqである。EWは、後述の実施例に記載の方法により、算出することができる。
【0052】
高分子電解質は、高分子電解質の加工性、電気伝導度及び機械的強度がより一層優れることから、高分子電解質の重量平均分子量が、1,000~2,000,000であることが好ましく、より好ましくは5,000~1,000,000、さらに好ましくは10,000~700,000万である。
【0053】
重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミェーションクロマトグラフ)法により測定される値であり、例えば、以下に示す方法により、標準ポリスチレンを基準として数平均分子量を算出することができる。
【0054】
GPC法の一例:TOSOH社製 HLC-8020を用い、カラムはShodex SuperHM-Mを3本、60℃、DMAc(50mmol/L LiBr含有)溶剤、またはカラムはShodex Super K-806HとK-803Lを用いて、35℃、クロロホルム溶剤にて、流速1.0mL/分で行うことができる。サンプル濃度は、0.1重量%で打ち込み量は100μLで行うことができる。
【0055】
GPCにより分子量が測定できない場合は、メルトフローレート(MFR)により測定しても良い。
【0056】
高分子電解質のMFRは、0.1~1,000g/10分であることが好ましく、0.5g/10分以上であることがより好ましく、1.0g/10分以上であることが更に好ましく、200g/10分以下であることがより好ましく、100g/10分以下であることが更に好ましい。
【0057】
MFRは、例えば、ASTM規格D1238に従って270℃、荷重2.16kgの条件下で、MELT INDEXER TYPE C-5059D(商品名、東洋精機社製)を用いて測定することができる。
【0058】
高分子電解質は、80℃、30%RH条件でPt厚膜法により測定した酸素溶解度が7.0mol/m3以上であることが、電池性能の観点から好ましい。触媒表面を覆う高分子電解質の薄膜は数nm程度であり、そこでの酸素透過性はバルクでの挙動とは異なる。すなわち、バルクでは酸素拡散性が律速となるが、薄膜では酸素溶解性が律速となる。酸素溶解度は、後述の実施例に記載の方法により、算出することができる。
【0059】
高分子電解質の空隙の指標として、BET法による比表面積を用いることができる。比表面積は後述の方法で算出することができる。高分子電解質のBET法による比表面積は、酸素透過性の観点から、250m2/g以上であることが好ましく、300m2/g以上であることがより好ましく、350m2/g以上であることが最も好ましい。比表面積は、バインダーの密着性の観点から、6,000m2/g以下であることが好ましく、2,000m2/g以下であることがより好ましく、1,000m2/g以下であることが最も好ましい。
【0060】
(高分子電解質の製造方法)
スルホン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質は、例えば、以下の第1および第2の製造方法で得ることができる。また、リン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質は、例えば、以下の第3の製造方法で得ることができる。
【0061】
第1の製造方法
第1の製造方法は、
(i)芳香族基と、当該芳香族基に直接結合した1個以上のフッ素原子とを有する含フッ素微多孔性高分子(P1)に、SO3X基(式中、Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR1R2R3R4であり;R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。)を有する化合物を用いて、SO3X基を導入し、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(ii)前記SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子の前記SO3X基をスルホン酸基に変換する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0062】
(i)工程
(i)工程では、芳香族基と、当該芳香族基に直接結合した1個以上のフッ素原子とを有する含フッ素微多孔性高分子(P1)に、SO3X基(式中、Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR1R2R3R4であり;R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。)を有する化合物を用いて、SO3X基を導入し、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る。
【0063】
含フッ素微多孔性高分子(P1)を得る方法としては、例えば、芳香族基を有し、当該芳香族基の炭素原子に4個以上のハロゲン原子および1個以上のフッ素原子が結合した含フッ素芳香族モノマー(M3)と、芳香族基を有し、芳香族基の炭素原子に4個以上の水酸基が結合した芳香族モノマー(M4)とを用い、触媒存在下に、モノマー(M3)のハロゲン原子と、モノマー(M4)の水酸基とを縮合重合させる方法が挙げられる。以下の式16に、一例として、芳香族基に結合した4個のハロゲン原子を有するモノマー(M3)と、芳香族基に結合した4個の水酸基を有するモノマー(M4)との縮合重合による含フッ素微多孔性高分子(P1)の形成を示す。
【化24】
式中、
nは整数で、構造単位の繰り返し数を表す。
Arは芳香族基を表す。
R
3は、ハロゲン原子を表す。
ただし、モノマー(M3)のArに結合している1個以上のフッ素原子は省略している。
【0064】
Arの芳香族基としては、例えば、単環構造、多環構造、縮合環構造等の芳香族基が挙げられる。また、芳香族基は置換基を有してもよい。
【0065】
R3のハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0066】
含フッ素芳香族モノマー(M3)としては、公知のモノマーが利用できるが、酸素溶解度の観点から、式(17)で表されるモノマーのいずれかであることが好ましい。モノマー(M3)は、合成容易性の観点から、下記式(18)で表されるモノマーであることが更に好ましい。
【化25】
【0067】
前記芳香族モノマー(M4)としては、公知のモノマーが利用できるが、酸素溶解度の観点から、下記式(14)で表されるモノマーのいずれかであることが好ましい。モノマー(M4)は、合成容易性の観点から、下記式(19)で表されるモノマーのいずれかであることが更に好ましい。
【化26】
【0068】
モノマー(M3)とモノマー(M4)との縮合重合は、塩基性触媒存在下、極性溶媒中で実施することが好ましい。
【0069】
塩基性触媒としては、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩又は水酸化物が好ましい。これらの塩基性触媒の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられる。
【0070】
塩基性触媒の添加量はモノマー(M4)に対して、0.1~12当量が好ましく、0.5~8当量がより好ましく、1~4当量が最も好ましい。
【0071】
極性溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等の非プロトン性の極性溶媒を含有する溶媒が好ましい。極性溶媒には、生成する含フッ素微多孔性高分子の溶解性を低下せず、縮合重合に悪影響を及ぼさない範囲で、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ベンゾトリフルオライド、キシレンヘキサフルオライド等が含有されてもよい。
【0072】
縮合重合の反応温度としては、10~300℃が好ましく、より好ましくは30~240℃であり、最も好ましくは60~200℃である。
【0073】
縮合重合の反応時間としては、1~80時間が好ましく、より好ましくは2~60時間であり、最も好ましくは3~48時間である。
【0074】
含フッ素微多孔性高分子(P1)は、加工性、電気伝導度及び機械的強度がより一層優れることから、重量平均分子量が、1,000~2,000,000であることが好ましく、より好ましくは5,000~1,000,000、さらに好ましくは10,000~700,000万である。P1の分子量は、例えば、縮合重合時のモノマー(M3)とモノマー(M4)の仕込み比率を変化させることや、反応温度、反応時間によって制御することができる。
【0075】
前述のモノマー(M3)とモノマー(M4)に、1種類以上の他のモノマーを加えて縮合重合を行ってもよい。
【0076】
SO
3X基(Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4であり、R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。)を有する化合物は、例えば、下記式(9)または(10)で表される構造を有することが好ましい。式(9)および(10)のように、スルホン酸基に隣接する炭化水素が含フッ素であることで、酸性度が高まり、プロトン伝導性が向上し、高い発電性能に寄与する。
【化27】
式中、Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表す。
qは0~2の整数、rは0~12の整数を表す。ただし、q及びrは同時に0にならない。
tは0または1を表す。
Yは、F、又はエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表す。
R
fは、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表す。
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4である。
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0077】
Xのアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。
【0078】
Xのアルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。
【0079】
SO3X基を有する化合物の具体例としては、CF2=CF-OCF2CF2SO3X、CF2=CF-OCF2CF(CF3)-OCF2CF2SO3X、CF2=CF-OCF2CF(CF2OCF2CF2SO3X)-OCF2CF2SO3Xが挙げられる。
【0080】
SO
3X基を有する化合物は、下記式(11)で表される構造を有することが、酸素溶解度の観点から好ましい。式(11)では、SO
3X基を有する化合物の構造が小さいことで、高分子電解質中に形成される空隙が大きくなり、酸素溶解度が高まる。
【化28】
式中、
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4である。
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0081】
SO3X基を有する化合物が、前述のような二重結合を有する含フッ素スルホン酸誘導体であることで、含フッ素微多孔性高分子(P1)にOW基の導入を行う場合、含フッ素微多孔性高分子のOW基が、含フッ素スルホン酸誘導体の二重結合へ付加し、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得ることができる。
【0082】
SO3X基の導入量は、SO3X基を有する化合物の添加量や、反応温度、反応時間によって調整することができる。
【0083】
SO3X基を有する化合物の添加量は、含フッ素微多孔性高分子(P1)の繰り返し単位(SO3X基が導入される繰り返し単位、例えば、1,4-ジオキシン構造を有する繰り返し単位など)に対して、0.1~20当量が好ましく、1~10当量がより好ましく、1.1~5当量が最も好ましい。
【0084】
SO3X基を有する化合物の溶媒への溶解性を向上させるため、各種クラウンエーテルを添加してもよい。クラウンエーテルの具体例としては、15-クラウン-5、および18-クラウン-6が挙げられる。クラウンエーテルの添加量としては、SO3X基を有する化合物に対して、0.01~10当量が好ましく、0.01~5当量がより好ましく、0.01~3当量が最も好ましい。
【0085】
含フッ素微多孔性高分子にOW基を導入する場合、そのOW基を、SO3X基を有する化合物の二重結合へ効率よく付加させるため、塩基を添加してもよい。塩基としては、水素化ナトリウム、t―ブトキシカリウム、t-ブトキシナトリウム、リチウムジイソプロピルアミドなどの嵩高い塩基が好ましい。嵩高い塩基であることで、塩基による二重結合への求核攻撃などの副反応を抑えることができる。副反応を抑制する観点から、OW基を有する含フッ素微多孔性高分子と塩基を反応させ、その後、SO3X基を有する化合物を添加する方法が好ましい。
【0086】
塩基の添加量としては、含フッ素微多孔性高分子(P1)の繰り返し単位(SO3X基が導入される繰り返し単位、例えば、1,4-ジオキシン構造を有する繰り返し単位など)に対して、0.01~10当量が好ましく、0.1~5当量がより好ましく、0.5~3当量が最も好ましい。
【0087】
P1にSO3X基を導入する反応における溶媒としては、一般的な有機溶媒を使用可能であるが、二重結合部位への副反応を抑制する観点から、非プロトン性溶媒が好ましい。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0088】
反応温度としては、30~200℃が好ましく、より好ましくは40~160℃、最も好ましくは50~120℃である。
【0089】
反応時間としては、1~80時間が好ましく、より好ましくは2~60時間、最も好ましくは3~24時間である。
【0090】
第1の製造方法では、(i)工程が、
(iii)前記含フッ素微多孔性高分子(P1)に、OW基(式中、Wは、水素、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属である)を導入して、OW基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(iv)前記OW基を有する含フッ素微多孔性高分子を、前記SO3X基を有する化合物と反応させて、前記SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
を含むことが好ましい。
【0091】
(iii)工程
(iii)工程では、含フッ素微多孔性高分子(P1)に、OW基を導入して、OW基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る。OW基を導入する方法としては、P1に、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物(以下、(iii)工程では、アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ土類金属の水酸化物を単に「水酸化物」という)を反応させる方法が挙げられる。このような水酸化物の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等が挙げられる。
【0092】
OW基の導入量は、水酸化物の添加量、反応温度、および反応時間によって調整することができる。OW基の導入量は、NMRから算出できる。
【0093】
水酸化物の添加量は、OW基の導入量の観点から、P1の繰り返し単位(SO3X基が導入される繰り返し単位、例えば、1,4-ジオキシン構造を有する繰り返し単位など)に対して、0.1~10当量が好ましく、0.5~5当量がより好ましく、1~3当量が最も好ましい。
【0094】
水酸化物の溶媒への溶解性が低い場合は、各種クラウンエーテルを添加することができる。クラウンエーテルの具体例としては、15-クラウン-5、および18-クラウン-6が挙げられる。クラウンエーテルの添加量としては、水酸化物に対して、0.01~10当量が好ましく、0.5~5当量がより好ましく、1~3当量以下が最も好ましい。
【0095】
(iii)工程の溶媒としては一般的な有機溶媒を使用可能であるが、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が溶解性の観点から好ましい。アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物を溶解するため、少量の水を添加してもよい。
【0096】
(iii)工程の反応温度としては、30~200℃が好ましく、より好ましくは40~160℃、最も好ましくは50~120℃である。
【0097】
(iii)工程の反応時間としては、1~80時間が好ましく、より好ましくは2~60時間、最も好ましくは3~24時間である。
【0098】
(iv)工程
(iv)工程では、OW基を有する含フッ素微多孔性高分子を、SO3X基を有する化合物と反応させて、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る。SO3X基を有する化合物が上述したように、二重結合を有する場合、OW基がその二重結合に付加し、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子が得られる。
【0099】
(iv)工程で用いる塩基、および溶媒ならびに(iv)工程の反応温度、および反応時間は、(i)工程で説明した内容と同様である。
【0100】
(ii)工程
(ii)工程では、前記SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子の前記SO3X基をスルホン酸基に変換する。SO3X基をスルホン酸基に変換可能な方法であれば特に限定されないが、SO3X基のXを、水素へイオン交換することが好ましい。
【0101】
イオン交換の方法としては、特に限定されないが、例えば、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を、過剰量の塩酸の水溶液またはアルコール溶液にて処理する方法、およびSO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子の溶液を陽イオン交換樹脂に通液させる方法が挙げられる。
【0102】
スルホン酸基の導入量は、NMR、EWから算出できる。
【0103】
第2の製造方法
第2の製造方法は、
(ア)芳香族基と、当該芳香族基の炭素原子に結合した4個以上のハロゲン原子と、SO3X基(Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR1R2R3R4であり、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。)と、1個以上のフッ素原子とを有する芳香族モノマー(M1)と、芳香族基と、当該芳香族基の炭素原子に結合した4個以上の水酸基とを有する芳香族モノマー(M2)とを準備する工程と、
(イ)触媒存在下に、前記芳香族モノマー(M1)のハロゲン原子と前記芳香族モノマー(M2)の水酸基とを縮合重合させて、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る工程と、
(ウ)前記SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子の前記SO3X基をスルホン酸基に変換する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0104】
(ア)工程
(ア)工程では、芳香族基と、当該芳香族基の炭素原子に結合した4個以上のハロゲン原子と、SO3X基(Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR1R2R3R4であり、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。)と、1個以上のフッ素原子とを有する芳香族モノマー(M1)と;芳香族基と、当該芳香族基の炭素原子に結合した4個以上の水酸基とを有する芳香族モノマー(M2)とを準備する。
【0105】
芳香族モノマー(M1)
モノマー(M1)の芳香族基は、上記式(15)のArで説明した芳香族基と同様である。芳香族基の置換基もArで説明した置換基と同様である。
【0106】
モノマー(M1)は、その芳香族基の炭素原子に結合した4個以上のハロゲン原子を有する。重合性の観点から、モノマー(M1)の芳香族基の炭素原子に結合したハロゲン原子のうち4個は、フッ素原子であることが好ましい。モノマー(M1)は、前記4個以上のハロゲン原子とは別に、1個以上のフッ素原子を有する。
【0107】
モノマー(M1)は、合成容易性の観点から、下記(12)で表されるいずれか1つの構造を有することが好ましい。
【化29】
式中、
R
1は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリール基を表す。
mは0または1であり、Bは、下記のいずれかの構造を表す。
【化30】
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表す。
pは0または1を表し、qは0~2の整数を表し、rは0~12の整数を表す。ただし、q及びrは同時に0にならない。
sは0または1を表し、tは0または1を表す。
Yは、F、又はエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表す。
R
fは、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表す。
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4である。
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
*は結合手を表す。
【0108】
モノマー(M1)は、酸素溶解度の観点から、下記式(13)で表されるいずれか1つの構造を有することが好ましい。式(13)の構造では、SO
3X基を有する側鎖が短いことで、高分子電解質中に形成される空隙が大きくなり、酸素溶解度が高まる。また、重合性の観点から、下記式(20)で表されるいずれかの構造を有することが更に好ましい。式(20)の構造では、電子吸引性基を有することで、縮合重合が進行しやすくなる。
【化31】
式中、
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4である。
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0109】
Xのアルカリ金属およびアルカリ土類金属は、SO3X基のものと同様である。
【0110】
(芳香族モノマーM1の合成)
モノマー(M1)は、例えば、以下の2つの方法で合成することができる。
【0111】
モノマー(M1)の合成方法の1つ目は、対応するフェノール類と、SO
3X基を有する化合物を反応させる方法である(式21)。
【化32】
式中、
R
1は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリール基を表す。
Bは、下記のいずれかの構造を表す。
【化33】
Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表す。
pは0または1を表し、qは0~2の整数を表し、rは0~12の整数を表す。ただし、q及びrは同時に0にならない。
sは0または1を表し、tは0または1を表す。
Yは、F、又はエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表す。
R
fは、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表す。Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4である。
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
*は結合手を表す。
【0112】
SO
3X基を有する化合物は、下記式(9)または(10)で表される構造を有することが好ましい。式(9)および(10)のように、スルホン酸基に隣接する炭化水素が含フッ素であることで、酸性度が高まり、プロトン伝導性が向上し、高い発電性能に寄与する。
【化34】
式中、Zは、H、Cl、F、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表す。
qは0~2の整数、rは0~12の整数を表す。ただし、q及びrは同時に0にならない。
tは0または1を表す。
Yは、F、又はエーテル結合性酸素原子を有してもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキル基を表す。
R
fは、それぞれ独立にエーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表す。
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4である。
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0113】
Xのアルカリ金属およびアルカリ土類金属は、第1の製造方法で説明したXのものと同様である。
【0114】
SO3X基を有する化合物の具体例としては、CF2=CF-OCF2CF2SO3X、CF2=CF-OCF2CF(CF3)-OCF2CF2SO3X、CF2=CF-OCF2CF(CF2OCF2CF2SO3X)-OCF2CF2SO3Xが挙げられる。
【0115】
前記SO
3X基を有する化合物は、下記式(11)で表される構造を有することが、酸素溶解度の観点から好ましい。式(11)では、SO
3X基を有する化合物の構造が小さいことで、高分子電解質中に形成される空隙が大きくなり、酸素溶解度が高まる。
【化35】
【0116】
モノマー(M1)の合成において、SO3X基を有する化合物が、前述のような二重結合を有する含フッ素スルホン酸誘導体であることで、フェノールの水酸基が、二重結合へ付加し、SO3X基を有するモノマー(M1)を得ることができる。
【0117】
モノマー(M1)の1つ目の合成方法では、SO3X基を有する化合物に対して、フェノール類を当量以上用いて、反応を行うことが好ましい。具体的には、SO3X基を有する化合物に対して、フェノール類の水酸基が、1.0~10当量が好ましく、1.1~5当量がより好ましく、1.2~3.0当量が最も好ましい。フェノール類が1.0当量以上であることで、目的の反応が選択的に進行する。また、添加量が10当量以下であることで、精製工程の負荷が小さくなる。
【0118】
モノマー(M1)の1つ目の合成方法では、反応を効率よく進行させるため、塩基を添加することが好ましい。塩基としては、水素化ナトリウム、t―ブトキシカリウム、t-ブトキシナトリウム、リチウムジイソプロピルアミドなどの嵩高い塩基が好ましい。嵩高い塩基であることで、塩基によるSO3X基を有する化合物の二重結合部位への求核攻撃などの副反応を抑えることができる。副反応を抑制する観点から、まずフェノール類の水酸基を塩基と反応させ、フェノキシドを発生させた後、SO3X基を有する化合物を添加することが好ましい。
【0119】
塩基の添加量としては、フェノール類の水酸基に対して、0.1~5.0当量が好ましく、0.1~2.0当量がより好ましく、0.1~1.0当量が最も好ましい。
【0120】
モノマー(M1)の1つ目の合成方法の溶媒としては一般的な有機溶媒を使用可能であるが、二重結合部位への副反応を抑制する観点から、非プロトン性溶媒が好ましい。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられる。
【0121】
モノマー(M1)の1つ目の合成方法の反応温度としては、30~200℃が好ましく、より好ましくは40~160℃、最も好ましくは50~120℃である。
【0122】
モノマー(M1)の1つ目の合成方法の反応時間としては、1~80時間が好ましく、より好ましくは2~60時間、最も好ましくは3~24時間である。
【0123】
得られたモノマー(M1)を、更に精製してもよい。精製方法としては、特に限定されないが、例えば、分液抽出、晶析、再沈殿、カラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0124】
モノマー(M1)の合成方法の2つ目の方法としては、銅触媒を用いた脱ハロゲンカップリング反応が挙げられる(式22)。
【化36】
式中、
R
1は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、ヒドロキシ基、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のシクロアルキル基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアリール基を表す。
R
fは、エーテル結合性酸素原子を含む炭素数1~10のフッ素化炭化水素基を表す。
Xは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
1R
2R
3R
4である。
R
1、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素、又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0125】
モノマー(M1)の2つ目の合成方法では、例えば、Journal of Fluorine Chemistry, 2016,189,43-50を参考にすることで、下記式(23)のように、新たに4-トリフルオロメチル-2,3,5,6-テトラフルオロブロモベンゼンと1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(1,1,2,2-テトラフルオロ-2-ヨードエトキシ)エタンスルホン酸カリウムを用いることで、SO
3X基を有する芳香族モノマー(M1)を得ることができる。
【化37】
【0126】
芳香族モノマー(M2)
モノマー(M2)の芳香族基は、上記式(15)のArで説明した芳香族基と同様である。芳香族基の置換基もArで説明した置換基と同様である。
【0127】
モノマー(M2)は、その芳香族基の炭素原子に結合した4個以上の水酸基を有する。
【0128】
芳香族モノマー(M2)としては、公知のモノマーが利用できるが、酸素溶解度の観点から、下記式(14)で表されるモノマーのいずれかであることが好ましい。合成容易性の観点から、下記式(19)で表されるモノマーのいずれかであることが更に好ましい。
【化38】
【0129】
(イ)工程
(イ)工程では、触媒存在下に、芳香族モノマー(M1)のハロゲン原子と芳香族モノマー(M2)の水酸基とを縮合重合させて、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子を得る。
【0130】
モノマー(M1)とモノマー(M2)との縮合重合の触媒、および反応条件などの詳細に関しては、前述の第1の製造方法を参考にできる。
【0131】
モノマー(M1)とモノマー(M2)に、1種類以上の他のモノマーを加えて縮合重合を行ってもよい。
【0132】
(ウ)工程
(ウ)工程では、SO3X基を有する含フッ素微多孔性高分子のSO3X基をスルホン酸基に変換する。SO3X基をスルホン酸基に変換可能な方法であれば特に限定されないが、
SO3X基のXを、水素へイオン交換することが好ましい。イオン交換の方法としては、第1の製造方法のイオン交換に記載した通りである。
【0133】
第3の製造方法
第3の製造方法は、
芳香族基と、当該芳香族基に直接結合した1個以上のフッ素原子とを有する含フッ素微多孔性高分子に、亜りん酸トリス(トリメチルシリル)を反応させる工程を含むことを特徴とする、リン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質の製造方法である。
【0134】
第3の製造方法は、
含フッ素微多孔性高分子(P1)を得る工程と、
上記で得られた含フッ素微多孔性高分子に、亜りん酸トリス(トリメチルシリル)を反応させて、トリメチルシリルエーテル基を導入する工程と、
トリメチルシリルエーテル基を加水分解によりリン酸基に変換する工程と、
を含むことが好ましい。
【0135】
含フッ素微多孔性高分子(P1)を得る方法は、第1の製造方法に記載した通りである。
【0136】
(リン酸基の導入)
含フッ素微多孔性高分子(P1)に、亜りん酸トリス(トリメチルシリル)を反応させて、トリメチルシリルエーテル基を導入する工程と、トリメチルシリルエーテル基を加水分解によりリン酸基に変換する工程については、Macromolecules,2011,44,6416-6423を参考にすることができる。これによって、リン酸基として下記式(2)で表される構造を含む、含フッ素微多孔性高分子電解質を得ることができる。
【化39】
*は結合手を表す。
【0137】
本発明の含フッ素微多孔性高分子電解質は、添加剤として、塩基性基含有金属錯体(以下、単に「金属錯体」ということがある)を含んでいてもよい。含フッ素微多孔性高分子電解質が、塩基性基含有金属錯体を含むことで、酸素溶解度が更に高くなり、燃料電池の高い発電性能と高い化学耐久性の更なる向上につながる。
【0138】
金属錯体としては、例えば、シッフ塩基金属錯体又はポルフィリノイド金属錯体が挙げられる。
【0139】
シッフ塩基金属錯体としては、例えば、サレン金属錯体が挙げられ、中でもコバルトサレンが強酸であるスルホン酸存在下でも脱金属が起こりにくく耐酸安定性が高く、かつ酸素溶解性に優れている。また、コバルトサレンは、特筆すべきことに、白金に対する被毒が少なく、電池性能と電池化学耐久性の両面で優れている。
【0140】
ポルフィリノイド金属錯体としては、例えば、ポルフィリン誘導体、フタロシアニン誘導体、コロール誘導体、クロリン誘導体、およびフェナントロリン誘導体のいずれかからなる金属錯体が挙げられ、中でもコバルトフッ素系フタロシアニンとフェナントロリンのコバルト錯体が、耐酸安定性と酸素溶解性に優れている。その中でも、白金に対する被毒が少なく、電池性能と電池化学耐久性の両面に優れているのはフェナントロリンのコバルト錯体である。
【0141】
本実施形態において、金属錯体と、高分子電解質の混合比は、例えば、1~15/85~99重量パーセントであることが好ましい。金属錯体の割合が1重量パーセントより多いと、酸素溶解性の効果が高まり電池性能が高まる。一方、金属錯体の割合が15重量パーセント以下であると、白金に対する被毒の影響を抑え、電池性能を高められる。より好ましくは、金属錯体と、高分子電解質の混合比は、5~10/90~95重量パーセントであることが好ましい。
【0142】
金属錯体は、含フッ素微多孔性高分子中に固定化されていてもよい。固定化の方法としては、特に限定されないが、下記論文を参考にできる。
Chemical Communication,2002,2780-2781
Chemical Communication,2002,2782-2783
Journal of Materials Chemistry,2003,13,2721-2726
Journal of Materials Chemistry,2005,15,1977-1986
【0143】
固定化された金属錯体を添加剤として、含フッ素微多孔性高分子電解質に含んでよい。あるいは、第1~第3の製造方法で述べた方法を用いて、固定化された金属錯体中の芳香族に直接結合したフッ素原子にスルホン酸基ないしリン酸基を導入することで、金属錯体が固定化された含フッ素微多孔性高分子電解質としてもよい。
【0144】
本発明の高分子電解質は、電極触媒インクを形成する原料として好適に用いることができる。
【0145】
(高分子電解質溶液)
本実施形態の高分子電解質溶液は、本発明の高分子電解質と、水及び有機溶媒からなる群より選択される少なくとも1種とを含むことが好ましい。高分子電解質溶液は、燃料電池の電極触媒層(例えば、カソード用電極触媒層)を形成する原料として好適に用いることができる。高分子電解質溶液は、燃料電池の電極触媒層形成用高分子電解質溶液であることが好ましい。
【0146】
高分子電解質溶液中の高分子電解質の質量割合は、1~50質量%であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることが更に好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。高分子電解質溶液中の高分子電解質の含有量が1質量%以上であることにより、電極触媒インクの組成調製に自由度を付与でき、当該含有量が、50質量%以下であることにより高分子電解質溶液の粘度の経時安定性を付与できる。
【0147】
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、グリセリン等のプロトン性有機溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、アセトニトリル、酢酸エチル等の非プロトン性溶媒;トリフルオロエタノール、バートレルXF、ノベック7100、ノベック7300等のフッ素系溶媒;等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0148】
高分子電解質溶液は、有機系添加剤を含んでもよい。また、高分子電解質溶液は、無機系添加剤を含んでもよい。
【0149】
有機系添加剤としては、例えば、3級炭素に結合した水素、炭素-ハロゲン結合等を構造中に有する化合物等の原子がラジカルにより引き抜かれやすい化合物が挙げられる。有機系添加剤としては、具体的には、例えば、ポリアニリンなどの官能基で一部置換された芳香族化合物、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサジアゾール、フェニル化ポリキノキサリン、フェニル化ポリキノリン等の不飽和の複素環化合物を挙げることができる。
【0150】
また、有機系添加剤としては、チオエーテル化合物も挙げられる。チオエーテル化合物としては、例えば、ジメチルチオエーテル、ジエチルチオエーテル、ジプロピルチオエーテル、メチルエチルチオエーテル、メチルブチルチオエーテルのようなジアルキルチオエーテル;テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロアピランのような環状チオエーテル;メチルフェニルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジベンジルスルフィドのような芳香族チオエーテル;等が挙げられる。
【0151】
有機系添加剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上の混合物を用いても良い。
【0152】
高分子電解質溶液中の有機系添加剤の質量割合は、0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、3.0質量%以上がさらに好ましい。有機系添加剤を0.1質量%以上含有することで、燃料電池運転での化学耐久性を向上させることが可能となる。
【0153】
無機系添加剤としては、例えば、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硝酸塩等が挙げられる。無機系添加剤は、1種を単独で用いても良いし、2種以上の混合物を用いても良い。
【0154】
金属酸化物としては、例えば、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3、FeO、Fe3O4)、酸化銅(CuO、Cu2O)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化モリブデン(MoO3)、酸化インジウム(In2O3、In2O)、酸化スズ(SnO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化タングステン(WO3、W2O5)、酸化鉛(PbO、PbO2)、酸化ビスマス(Bi2O3)、酸化セリウム(CeO2、Ce2O3)、酸化アンチモン(Sb2O3、Sb2O5)、酸化ゲルマニウム(GeO2、GeO)、酸化ランタン(La2O3)、酸化ルテニウム(RuO2)、および酸化マンガン(MnO)、スズ添加酸化インジウム(ITO)、アンチモン添加酸化スズ(ATO)、および酸化アルミニウム亜鉛(ZnO・Al2O3)等の複合酸化物を挙げることができる。
【0155】
金属炭酸塩としては、例えば、炭酸ジルコニウム(Zr(CO3)2)、炭酸チタニウム(Ti(CO3)2)、炭酸鉄(FeCO3)、炭酸銅(Cu2CO3)、炭酸亜鉛(ZnCO3)、炭酸モリブデン、炭酸セリウム(CeCO3)、炭酸ニッケル(NiCO3)、炭酸コバルト(CoCO3)、および炭酸マンガン(MnCO3)等が挙げられる。
【0156】
金属硝酸塩としては、例えば、硝酸ジルコニウム(Zr(NO3)4)、硝酸鉄(Fe(NO3)3)、硝酸銅(Cu(NO3)2)、硝酸チタン(Ti(NO3)4)、硝酸セリウム(Ce(NO3)3)、硝酸ニッケル(Ni(NO3)2)、硝酸コバルト(Co(NO3)2)、および硝酸マンガン(Mn(NO3)2)等が挙げられる。
【0157】
無機添加剤は、親水性向上の観点からシリカ(SiO2)が好ましく、化学耐久性向上の観点から酸化セリウム(CeO2、Ce2O3)、酸化マンガン(MnO)、炭酸セリウム(CeCO3)、炭酸マンガン(MnCO3)、硝酸セリウム(Ce(NO3)3)、硝酸マンガン(Mn(NO3)2)、および硝酸チタン(Ti(NO3)4)が好ましい。
【0158】
無機系添加剤の形態としては、粒子状、繊維状、非定形が挙げられるが、特に非定形であることが望ましい。
【0159】
高分子電解質溶液中の無機系添加剤の質量割合は、0.01~100質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~45質量%、更に好ましくは0.01~25質量%、特に好ましくは0.5~6.0質量%である。無機系添加剤を0.01質量%以上含有することで、燃料電池運転での化学耐久性を向上させることが可能となる。
【0160】
高分子電解質溶液は、所望の固形分濃度にするために、濃縮することが可能である。濃縮の方法としては特に限定されない。例えば、加熱し、溶媒を蒸発させる方法や、減圧濃縮する方法等がある。その結果得られる高分子電解質溶液の固形分率は、取り扱い性及び生産性を考慮して、最終的な高分子電解質溶液の固形分率は0.5~50質量%が好ましい。
【0161】
高分子電解質溶液は、粗大粒子成分を除去する観点から、濾過されることがより好ましい。濾過方法は、特に限定されず、従来行われている一般的な方法が適用できる。
【0162】
高分子電解質溶液は、含フッ素微多孔性高分子電解質以外にも、含フッ素微多孔性高分子ではない他の高分子電解質を含んでいてもよい。
【0163】
含フッ素微多孔性高分子ではない他の高分子電解質としては、特に限定されず、既知の高分子電解質を使うことができる。例えば、下記式(24)又は(25)で表わされる繰り返し単位を有する重合体が挙げられる。
【化40】
式中、
Y
31は、それぞれ独立して、F、Cl、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表す。
kは0~2の整数を表し、nは0~8の整数を表す。
Y
32は、それぞれ独立して、F又はClを表す。
mは2~6の整数を表す。
Z
31は、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
4を表す。
Rは、それぞれ独立に、アルキル基又はHを表す。)
【化41】
式中、
Y
33は、F、Cl、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基を表す。
oは0~1の整数を表す。
Q
31は、エーテル結合を有していてもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基である。
Q
32は、単結合又はエーテル結合を有していてもよい炭素数1~6のパーフルオロアルキレン基である。
R
31は、エーテル結合を有していてもよいパーフルオロアルキル基である。
Xは、O、N、又はCであり、XがOの場合はaは0であり、XがNの場合はaは1であり、XがCの場合はaは2である。
Z
32は、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又はNR
32
4を表す。
R
32は、それぞれ独立に、アルキル基又はHを表わす。)
【0164】
式(24)について、Y31はF又はCF3であることが好ましい。kは0であることが好ましい。nは0又は1であることが好ましい。Y32はFであることが好ましい。mは2であることが好ましい。Z31はH、Na、K、又はNH4であることが好ましい。
【0165】
式(24)は、上述したものの中でも特に、-CF2-CF(-O-CF2-CF2-SO3H)-、又は-CF2-CF(-O-CF2-CF(CF3)-O-CF2-CF2-SO3H)-が好ましい。
【0166】
式(25)について、Y33はFであることが好ましい。oは0であることが好ましい。Q31は、-CF2-CF2-又は-CF2-O-CF2-CF2-であることが好ましい。Q32は、-O-CF2-CF2-であることが好ましい。R31は、-CF3又は-CF2-CF3であることが好ましい。XはOであることが好ましい。Z32は、H、Na、K、又はNH4であることが好ましい。
【0167】
式(25)は、上述したものの中でも特に、-CF2-CF(-O-CF2-CF(-CF2-O-CF2-CF2-SO3H)(-O-CF2-CF2-SO3H)-が好ましい。
【0168】
(電極触媒インク)
本実施形態の電極触媒インクは、本発明の高分子電解質溶液と触媒とを含むことが好ましい。
電極触媒インクは、燃料電池の電極触媒層(例えば、カソード用電極触媒層)を形成する原料として好適に用いることができる。電極触媒インクは、燃料電池の電極触媒層形成用電極触媒インクであることが好ましい。
【0169】
触媒としては、電極触媒層において活性を有し得るものであれば特に限定されず、電極触媒層が用いられる燃料電池の使用目的に応じて適宜選択される。触媒は、触媒金属であることが好ましい。
【0170】
触媒としては、水素の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する金属であることが好ましく、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム、及びこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属であることがより好ましい。中でも、白金が好ましい。
【0171】
触媒金属の粒子径は限定されないが、10~1000オングストロームが好ましく、より好ましくは10~500オングストローム、最も好ましくは15~100オングストロームである。
【0172】
電極触媒インク中の高分子電解質の含有量は、電極触媒インクに対して、5~30質量%であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましい。
【0173】
電極触媒インク中の触媒の含有量は、高分子電解質に対して、50~200質量%であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%以上であることが更に好ましく、150質量%以下であることがより好ましく、130質量%以下であることが更に好ましい。
【0174】
電極触媒インクは、更に、導電剤を含むことが好ましい。触媒及び導電剤は、触媒の粒子を担持した導電剤からなる複合粒子(例えば、Pt担持カーボン等)であることも好ましい形態の一つである。この場合、高分子電解質は、バインダーとしても機能する。
【0175】
導電剤としては、導電性を有する粒子(導電性粒子)であれば限定されないが、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛及び各種金属(触媒金属を除く)からなる群より選択される少なくとも1種の導電性粒子であることが好ましい。これら導電剤の粒子径としては、好ましくは10オングストローム~10μm、より好ましくは50オングストローム~1μm、最も好ましくは100~5000オングストロームである。
【0176】
複合粒子としては、導電性粒子に対する触媒粒子の含有量が、好ましくは1~99質量%、より好ましくは10~90質量%、最も好ましくは30~70質量%である。具体的には、田中貴金属工業(株)製TEC10E40E、TEC10E50E、TEC10E50HT等のPt触媒担持カーボンが好適な例として挙げられる。
【0177】
複合粒子の含有量は、高分子電解質に対して、1.0~3.0質量%であることが好ましく、より好ましくは1.4~2.9質量%、更に好ましくは1.7~2.9質量%、特に好ましくは1.7~2.3質量%である。
【0178】
電極触媒インクは、更に、撥水剤を含んでもよい。撥水剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFE)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)の共重合体が挙げられる。撥水剤の形状としては特に限定されないが、定形性のものであればよく、粒子状、繊維状であることが好ましく、これらが単独で使用されても混合して使用されていてもよい。
【0179】
撥水剤の含有量は、高分子電解質に対して、0.01~30.0質量%であることが好ましく、より好ましくは1.0~25.0質量%、更に好ましくは2.0~20.0質量%、特に好ましくは5.0~10.0質量%である。
【0180】
(電極触媒層)
本実施形態の電極触媒層としては、高分子電解質を含む電極触媒層であることが好ましい。電極触媒層は、電極触媒インクを含むことが好ましく、電極触媒インクからなることがより好ましい。電極触媒層は、安価に製造することができる上、酸素透過性が高い。電極触媒層は、カソード用電極触媒層として用いることができ、燃料電池用として好適に用いることができる。
【0181】
電極触媒層は、高分子電解質及び触媒からなることが好ましい。電極触媒層は、電極面積に対する高分子電解質の担持量が、好ましくは0.001~10mg/cm2、より好ましくは0.01~5mg/cm2、更に好ましくは0.1~1mg/cm2である。
【0182】
電極触媒層は、高分子電解質、触媒及び導電剤からなるものであることが好ましい。電極触媒層は、高分子電解質と、上記複合粒子(例えば、Pt担持カーボン等)と、からなるものであることも好ましい形態の一つである。この場合、高分子電解質は、バインダーとしても機能する。
【0183】
導電剤としては、電極触媒インクで説明したものと同様である。
【0184】
複合粒子としては、導電性粒子に対して触媒粒子が、好ましくは1~99質量%、より好ましくは10~90質量%、最も好ましくは30~70質量%である。具体的には、田中貴金属工業(株)製TEC10E40E等のPt触媒担持カーボンが好適な例として挙げられる。
【0185】
複合粒子の含有率は、電極触媒層の全質量に対し、20~95質量%であることが好ましく、より好ましくは40~90質量%、更に好ましくは50~85質量%、特に好ましくは60~80質量%である。
【0186】
電極触媒層が燃料電池の電極触媒層として用いられる場合、電極面積に対する触媒金属の担持量としては、電極触媒層を形成した状態で、好ましくは0.001~10mg/cm2、より好ましくは0.01~5mg/cm2、更に好ましくは0.1~1mg/cm2、更により好ましくは0.2~0.5mg/cm2である。
【0187】
電極触媒層の厚みとしては、好ましくは0.01~200μm、より好ましくは0.1~100μm、最も好ましくは1~50μmである。
【0188】
電極触媒層は、必要に応じて撥水剤を含んでもよい。
【0189】
撥水剤としては、電極触媒インクで説明したものと同様である。
【0190】
電極触媒層が撥水剤を含有する場合、撥水剤の含有率としては、電極触媒層の全質量に対し、好ましくは0.001~20質量%、より好ましくは0.01~10質量%、最も好ましくは0.1~5質量%である。
【0191】
電極触媒層は、親水性向上及び化学耐久性向上のため、無機系添加剤を配合しても良い。
【0192】
無機系添加剤としては、高分子電解質溶液で説明したものと同様である。
【0193】
無機系添加剤の含有率としては、電極触媒層の全質量に対し、好ましくは0.001~20質量%、より好ましくは0.01~10質量%、最も好ましくは0.1~5質量%である。
【0194】
電極触媒層の製造方法は、例えば、得られた高分子電解質溶液に触媒を分散させて電極触媒インクを調製する工程と、電極触媒インクを基材に塗布する工程と、基材に塗布した電極触媒インクを乾燥させて電極触媒層を得る工程と、を含む。
【0195】
得られた高分子電解質溶液に触媒を分散させて電極触媒インクを調製する工程は、得られたエマルジョン又は高分子電解質溶液に、複合粒子を分散させた電極触媒インクを調製するものであることが好ましい。
【0196】
電極触媒インクの塗布は、例えば、スクリーン印刷法、スプレー法等の一般的に知られている各種方法を用いることが可能である。
【0197】
(膜電極接合体)
本実施形態の膜電極接合体(membrane/electrode assembly)(以下、「MEA」ともいう。)は、電極触媒層と電解質膜とを備えることが好ましい。本実施形態の膜電極接合体は、電極触媒層を備えるため、電池特性並びに機械的強度に優れ、安定性に優れる。膜電極接合体は、燃料電池用として好適に用いることができる。
【0198】
電解質膜の両面にアノードとカソードの2種類の電極触媒層が接合したユニットは、膜電極接合体と呼ばれる。電極触媒層のさらに外側に一対のガス拡散層を対向するように接合したものについても、MEAと呼ばれる場合がある。電極触媒層はプロトン伝導性を有することが必要となる。
【0199】
アノードとしての電極触媒層は、燃料(例えば水素)を酸化して容易にプロトンを生じさせる触媒を包含し、カソードとしての電極触媒層は、プロトン及び電子と酸化剤(例えば酸素や空気)を反応させて水を生成させる触媒を包含する。アノードとカソードのいずれについても、触媒としては上述した触媒金属を好適に用いることができる。
【0200】
ガス拡散層としては、例えば、市販のカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等を用いることができる。これらのガス拡散層は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等により撥水処理されていることが好ましい。ガス拡散層の具体例として、炭素繊維トレカ(東レ社製)、パイロフィル(三菱ケミカル社製)、SIGRACET GDL(MFCテクノロジー社製)等が挙げられる。
【0201】
MEAは、例えば、電極触媒層の間に電解質膜を挟みこみ、熱プレスにより接合することにより作製することができる。当業者にはMEAの作製方法は周知である。MEAの作製方法は、例えば、JOURNAL OF APPLIED ELECTROCHEMISTRY,22(1992)p.1-7に詳しく記載されている。
【0202】
MEA(一対のガス拡散電極が対向した構造のMEAを含む。)は、例えば、更にバイポーラプレートやバッキングプレート等の一般的な燃料電池に用いられる構成成分と組み合わされて、燃料電池が構成される。
【0203】
バイポーラプレートとは、例えば、その表面に燃料や酸化剤等のガスを流すための溝を形成させたグラファイトと樹脂との複合材料、又は金属製のプレート等を意味する。バイポーラプレートは、電子を外部負荷回路へ伝達する機能の他、燃料や酸化剤を電極触媒近傍に供給する流路としての機能を持っている。こうしたバイポーラプレートの間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池が製造される。
【0204】
(燃料電池)
本実施形態の燃料電池は、上記膜電極接合体を備えることが好ましい。燃料電池は、固体高分子形燃料電池であることが好ましい。燃料電池は、膜電極接合体を有するものであれば特に限定されず、通常、燃料電池を構成するガス等の構成成分を含むものであってよい。燃料電池は、電極触媒層を有する膜電極接合体を備えるものであるため、電池特性並びに機械的強度に優れ、安定性に優れる。
【実施例】
【0205】
次に本発明を、実施例をあげて説明するが、この実施例は本発明を例示することのみを目的としており、本発明を限定するものではない。
【0206】
(イオン交換容量)
イオン交換基の対イオンがプロトンの状態となっている高分子電解質膜、およそ2~20cm2を、25℃、飽和NaCl水溶液30mlに浸漬し、撹拌しながら30分間放置した。次いで、飽和NaCl水溶液中のプロトンを、フェノールフタレインを指示薬として0.01N水酸化ナトリウム水溶液として中和滴定した。中和後に得られた、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの状態となっている高分子電解質膜を、純水ですすぎ、更に真空乾燥して秤量した。中和に要した水酸化ナトリウムの物質量をM(mmol)、イオン交換基の対イオンがナトリウムイオンの高分子電解質膜の重量をW(mg)とし、下記式により当量重量EW(g/eq)を求めた。
EW=(W/M)-22
【0207】
(比表面積)
高分子電解質の空隙の指標として、BET法による比表面積を用いた。比表面積は、液体窒素温度下(77K)での窒素ガス吸着法をマイクロトラック・ベル社製のBelsorp Mini Xを用いて測定し、BET法による解析にて、比表面積を算出した。
【0208】
(酸素溶解度)
Electrochimica Acta 209 (2016) 682-690を参考に、高分子電解質の膜の酸素溶解度を、クロノアンペロメトリー法を用いて測定した。ガラス封入した100μmφの白金微小電極を厚さ200μm程度のサンプルに押し当てて、温度、湿度を調整した。窒素又は酸素雰囲気下にて、電位を1100mV(vs.SHE)に保持した後、400mVにステップして電流値を測定した。窒素及び酸素雰囲気下で観測された電流値の差分を印加時間の-1/2乗に対してプロットし、直線性が得られた範囲において下記式を用いて酸素溶解度を算出した。
I=4πFrDc[1+r/(πDt)1/2+0.2732exp{-0.3911r/(Dt)1/2}]
ただし、Iは電流値(A)、Fはファラデー定数(96500C/mol)、rは電極半径(cm)、Dは酸素拡散係数(cm2/s)、cは酸素溶解度(mol/m3)、tは時間(s)である。本検討では評価温度80℃、湿度30%での酸素溶解度を示した。
【0209】
(SEM観察)
ダイコーターで作製した触媒層の表面を、走査型電子顕微鏡(製品名:VE8800、キーエンス社製)を用い、倍率50倍、加速電圧1kVの条件で観察した。観察の結果、触媒層表面にひび割れがなかった場合を「A」(良好)、ひび割れが見られた場合を「B」(不良)と表記した。
【0210】
(燃料電池評価)
高温低加湿条件下におけるMEAの性能を評価するため、以下のような手順で発電試験を実施した。
【0211】
(1)電極触媒インクの調製
固形分濃度15質量%の高分子電解質溶液、電極触媒(TEC10E40E、田中貴金属工業(株)製、白金担持量36.7wt%)を白金/パーフルオロスルホン酸ポリマーが1/1.15(質量)となるように配合し、次いで、固形分(電極触媒とパーフルオロスルホン酸ポリマーの合計)が11wt%となるようにエタノールを加え、ホモジナイザー(アズワン社製)により回転数が3000rpmで10分間、撹拌することで電極触媒インクを得た。
【0212】
(2)電極触媒層の作製
ダイコーター(製品名:理化ダイ、伊藤忠ファインテクノ社製)を用い、膜厚100μmのテフロン(登録商標)基材(製品名:ナフロンテープ、ニチアス社製)上に上記電極触媒インクを、白金量が0.2mg/cm2となるように塗布し、160℃、5分の条件で乾燥および固化させることで電極触媒層を得た。
【0213】
(3)MEAの作製
プレス機(製品名:SFA-37、神藤金属工業社製)を用い、電解質膜(製品名:NafionHP、ケマーズ社製)の両面に、アノード側に高分子電解質としてNafionDE2020CSを用いた電極触媒層を、カソード側に本実施形態の高分子電解質を用いた電極触媒層を、温度160℃、圧力13MPaの条件で熱プレスすることで、MEAを得た。
【0214】
(4)燃料電池単セルの作製
MEAの両極にガス拡散層(製品名:GDL35BC、MFCテクノロジー社製)を重ね、次いでガスケット、バイポーラプレート、およびバッキングプレートを重ねることで燃料電池単セルを得た。
【0215】
(5)発電試験
燃料電池単セルを評価装置(東陽テクニカ社製燃料電池評価システム890CL)にセットして、発電試験を実施した。
【0216】
発電の試験条件は、高加湿条件を、セル温度65℃、アノード及びカソードの加湿ボトル60℃(相対湿度80%RH)に設定し、低加湿条件を、セル温度90℃、アノード及びカソードの加湿ボトル61℃(相対湿度30%RH)に設定し、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを、それぞれ900ml/minの条件で供給した。また、アノード側とカソード側の両方を無加圧(大気圧)とした。
【0217】
上記高加湿条件において、電流密度0.2A/cm2において電圧値が0.830V以上であれば「A」(優れる)、0.820V超0.830V未満であれば「B」(普通)、0.820V以下であれば「C」(劣る)として表記し;電流密度0.8A/cm2において電圧値が0.685V以上であれば「A」(優れる)、0.675V超0.685V未満であれば「B」(普通)、0.675V以下であれば「C」(劣る)として表記した。
【0218】
また、上記低加湿条件において、電流密度0.2A/cm2において電圧値が0.750V以上であれば「A」(優れる)、0.720V超0.750V未満であれば「B」(普通)、0.720V以下であれば「C」(劣る)として表記し;電流密度0.8A/cm2において電圧値が0.550V以上であれば「A」(優れる)、0.440V超0.550V未満であれば「B」(普通)、0.440V以下であれば「C」(劣る)として表記した。
【0219】
(化学耐久性)
燃料電池単セルを評価装置(東陽テクニカ製燃料電池評価システム890CL)にセットして、セル温度90℃、加湿ボトル61℃(相対湿度30%RH)、アノード側に水素ガス、カソード側に空気ガスを、それぞれ300cc/minの条件で流通させることでOCV試験を実施した。
【0220】
OCV試験の終点を判定するために、カソード側にマイクロガスクロマトグラフ(製品名:CP-4900、GLサイエンス社製)を接続し、アノード側より透過するH2ガスの濃度を測定した。H2ガスの濃度が1000ppmを越えた時点を終点とした。終点が200時間以上を「A」(良好)、200時間未満を「B」(不良)と表記した。
【0221】
(実施例1)
100mlの三つ口フラスコに、2,3,5,6-テトラフルオロ-4-(トリフルオロメチル)フェノール7.0g(30mmol)、1,2-ジメトキシエタン10ml、および水素化ナトリウム0.45g(60%、12mmol)を入れ、窒素置換してキャップをした後、50℃で1時間撹拌した。その後、CF
2=CF-OCF
2CF
2SO
3Na 3.5g(12mmol)と、1,2-ジメトキシエタン10mlを加え、95℃で6時間撹拌した。反応終了後、エバポレーターにより溶媒を除去し、残固体に酢酸エチルおよび食塩水を加え、分液抽出および溶媒留去を行った。その後、カラムクロマトグラフィーにて精製を行い、溶媒留去後、式(26)で表されるスルホン酸ナトリウム基を有する芳香族モノマー(M1)を4.0g(収率65%)で得た。
19F-NMRにて、-58ppmに積分比3、-84ppmに積分比1、-86ppmに積分比1、-89ppmに積分比2、-119ppmに積分比2、-141ppmに積分比2、-146ppmに積分比1、-155ppmに積分比2のピークが各々見られた。
1H-NMRにて、6.5~6.8ppmに積分比1のピークが見られた。
【化42】
【0222】
続いて、モノマー(M1)と3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン-5,5’,6,6’-テトラオール(モノマー(M2))を用いて縮合重合を行った。100mlの三つ口フラスコに、モノマー(M1) 4.0g(7.5mmol)、モノマー(M2)2.5g(7.5mol)、炭酸カリウム 2.1g(15mmol)、およびN,N-ジメチルホルムアミド50mlを入れ、窒素置換してキャップをした後、150℃で48時間撹拌した。重合終了後、放冷し、反応液をイオン交換水に投入し、ガラスフィルターで減圧ろ過後、イオン交換水で十分に洗浄し、100℃で12時間乾燥した。SO3Na基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質(A1)を、収量4.2g(収率70%)で得た。
【0223】
更に、以下のように、その高分子電解質(A1)のイオン交換を行った。250mlのPPボトルに、高分子電解質(A1) 4.2gおよび4N塩酸水溶液100ml加え、60℃で2時間撹拌した。その後、デカンテーションで上澄みの液を除去した。このイオン交換の操作を4回繰り返した。その後、ガラスフィルターで減圧ろ過後、イオン交換水で十分に洗浄し、100℃で12時間乾燥した。式(27)で表されるスルホン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質(A2)を、収量3.7g(収率88%)で得た。
19F-NMRにて、-57~-60ppmに積分比3、-83~-92ppmに積分比4、-118~-121ppmに積分比2、-145~-148ppmに積分比1のピークが各々見られた。
1H-NMRにて、0.8-1.7ppmに積分比12、1.9~-2.5ppmに積分比4、5.7-7.3ppmに積分比5のピークが見られた。
【化43】
【0224】
得られた高分子電解質(A2)をエタノールとともに100mLオートクレーブ中に入れて密閉し、窒素置換した後、撹拌翼で撹拌しながら160℃まで昇温して6時間保持した。その後、オートクレーブを自然冷却して、固形分濃度10質量%の均一なポリマー溶液を作製した。得られた固形分濃度10質量%のポリマー溶液を80℃にて減圧濃縮して、固形分濃度15質量%の高分子電解質溶液を作製した。
【0225】
その高分子電解質溶液を、シャーレへ投入し、80℃30分、続いて120℃30分乾燥し、さらに続いて160℃15分熱処理することで、厚み200μmの膜を作製した。高分子電解質(A2)の比表面積、膜のEW及び酸素溶解度を表1に示す。また高分子電解質溶液を用いて、上記「燃料電池評価」の(1)~(4)に記載の方法に従い、電極触媒インク、電極触媒層、MEA、燃料電池単セルを作製し、電極触媒層のひび割れの有無、電池性能及び化学耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0226】
高分子電解質(A2)の比表面積は大きく、膜は高い酸素溶解度を示す。また高分子電解質溶液を含む電極触媒層にはひび割れがなく、電池性能及び化学耐久性が比較例の材料よりも高いことが分かる。
【0227】
(実施例2)
100ml三つ口フラスコに、3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン-5,5’,6,6’-テトラオール(モノマーM4)4.1g(12mol)、炭酸カリウム 1.7g(12mmol)、およびN,N-ジメチルホルムアミド25mlを入れ、窒素置換してキャップをした後、100℃で30分間撹拌した。その後、デカフルオロビフェニル(モノマーM3)4.0g(12mol)、およびN,N-ジメチルホルムアミド115mlを、三つ口フラスコにゆっくり滴下した。滴下終了後、100℃で24時間撹拌した。その後、放冷し、再沈殿をメタノールクロロホルムにて3回行った。ガラスフィルターで減圧ろ過後、イオン交換水で十分に洗浄し、100℃で12時間乾燥した。式(28)で表される含フッ素微多孔性高分子(P1)を、収量5.2g(収率73%)で得た。
19F-NMRにて、-138~-141ppmに積分比2、-142~-145ppmに積分比2、-163~166ppmに積分比2のピークが各々見られた。
1H-NMRにて、1.0-1.8ppmに積分比12、1.9~-2.5ppmに積分比4、6.3-6.9ppmに積分比4のピークが各々見られた。GPCにて、重量平均分子量は20,000、分子量分布5であった。
【化44】
【0228】
次に、高分子(P1)に、以下のようにOW基の導入を行った。200mlの三つ口フラスコに、高分子(P1) 5g、水酸化カリウム 0.8g(14mmol)、18-クラウン-6 3.8g(14mmol)、水5ml、および1,4-ジオキサン90mlを入れ、窒素置換してキャップをした後、100℃で6時間撹拌した。反応液をイオン交換水に投入し、ガラスフィルターで減圧ろ過後、イオン交換水で十分に洗浄し、100℃で12時間乾燥した。式(29)で表されるOW基を有する含フッ素微多孔性高分子(P2)を、収量3.7g(収率70%)で得た。その高分子(P2)のNMRより、式(28)の繰り返し単位中に6つある芳香族に直接結合したフッ素原子のうち1つがOW基に変換されていることが分かった。(式(29))
【0229】
続いて、200mlの三つ口フラスコに、高分子(P2) 3.5g、水素化ナトリウム0.21g(60%、5.7mmol)、および1,4-ジオキサン30mlを入れ、窒素置換してキャップをした後、50℃で1時間撹拌した。その後、CF2=CF-OCF2CF2SO3Na 8.0g(27mmol)、15-クラウン-5 1.2g(5.4mmol)、および1,4-ジオキサン40mlを加え、100℃で24時間撹拌した。その後、反応液をイオン交換水に投入し、ガラスフィルターで減圧ろ過後、イオン交換水で十分に洗浄し、100℃で12時間乾燥した。式(30)で表されるSO3Na基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質を、収量3.2g(収率66%)で得た。
【0230】
更に、以下のように、高分子電解質のイオン交換を行った。250mlのPPボトルに、高分子電解質 3.2gおよび4N塩酸水溶液100mlを加え、60℃で2時間撹拌した。その後、デカンテーションで上澄みの液を除去した。前述と同じ操作を4回繰り返した。その後、ガラスフィルターで減圧ろ過後、イオン交換水で十分に洗浄し、100℃で12時間乾燥した。式(31)で表されるスルホン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質を、収量2.9g(収率90%)で得た。式(31)の高分子電解質のNMRより、式(29)の繰り返し単位中にあるOW基にスルホン酸基を有する化合物が付加していると分かった。
19F-NMRにて、-85~-94ppmに積分比4、-120~-123ppmに積分比2、-140~-151ppmに積分比4、-165~171ppmに積分比2のピークが各々見られた。
1H-NMRにて、0.7-1.6ppmに積分比12、1.9~-2.5ppmに積分比4、5.8-7.4ppmに積分比5のピークが見られた。
【化45】
【0231】
得られた式(31)の高分子電解質を、実施例1と同様な方法で溶液化し、固形分濃度15質量%の高分子電解質溶液を得た。高分子電解質溶液を用いて上述の方法により、厚み200μmの膜を作製した。式(31)の高分子電解質の比表面積、膜のEW及び酸素溶解度を表1に示す。また高分子電解質溶液を用いて、実施例1と同様な方法で、電極触媒インク、電極触媒層、MEA、燃料電池単セルを作製し、電極触媒層のひび割れ有無、電池性能及び化学耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0232】
式(31)の高分子電解質の比表面積は大きく、膜は高い酸素溶解度を示す。また高分子電解質溶液を含む電極触媒層にはひび割れがなく、電池性能及び化学耐久性が比較例の材料よりも高いことが分かる。
【0233】
(実施例3)
3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン-5,5’,6,6’-テトラオール(モノマーM4)にかえて、2,2’,3,3’-テトラヒドロキシ-1,1’-ビナフチルを用いたこと以外は、実施例2と同様の方法で、式(32)で表されるスルホン酸基を有する含フッ素微多孔性高分子電解質を得た。
19F-NMRにて、-84~-93ppmに積分比4、-119~-122ppmに積分比2、-140~-151ppmに積分比4、-165~171ppmに積分比2のピークが各々見られた。
1H-NMRにて、5.7-7.8ppmに積分比11のピークが各々見られた。
【化46】
【0234】
その高分子電解質を、実施例1と同様な方法で溶液化し、固形分濃度15質量%の高分子電解質溶液を得た。高分子電解質溶液を用いて上述の方法により、厚み200μmの膜を作製した。高分子電解質の比表面積、膜のEW及び酸素溶解度を表1に示す。また高分子電解質溶液を用いて、実施例1と同様な方法で、電極触媒インク、電極触媒層、MEA、燃料電池単セルを作製し、電極触媒層のひび割れ有無、電池性能及び化学耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0235】
高分子電解質の比表面積は大きく、膜は高い酸素溶解度を示す。また高分子電解質溶液を含む電極触媒層にはひび割れがなく、電池性能及び化学耐久性が比較例の材料よりも高いことが分かる。
【0236】
(比較例1)
市販のナフィオン溶液(Nafion DE2020CS、SIGMA-ALDRICH社製)を用いて、実施例1と同様にして、厚さ200μmのキャスト膜を製膜し、EW、比表面積、酸素溶解度を測定した。結果を表1に示す。
【0237】
またナフィオン溶液を用い実施例1と同様に、電極触媒インク、電極触媒層、MEA、燃料電池単セルを作製し、電極触媒層のひび割れ有無、電池性能及び化学耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0238】
Nafion DE2020CSは、比表面積が小さく、酸素溶解度が低い。また電極触媒層にひび割れが生じており、電池性能及び化学耐久性が低くなる。
【0239】
(比較例2)
ラジカル重合法で得られた、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)とCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO2Fとの共重合体(69.8mol%/30.2mol%)をポリマー前駆体として用い、水酸化カリウム(15質量%)を溶解した水溶液中に70℃で10時間接触させ、70℃水中に5時間浸漬後、70℃の2N塩酸水溶液に1時間浸漬させる処理を4回繰り返した後、イオン交換水で水洗し、乾燥させることで、パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)/CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2SO3H(パーフルオロスルホン酸樹脂)からなる高分子電解質を得た。実施例1と同様の方法で、パーフルオロスルホン酸樹脂溶液、及び厚さ200μmのキャスト膜を作製した。パーフルオロスルホン酸樹脂の比表面積、キャスト膜のEW及び酸素溶解度を表1に示す。
【0240】
またパーフルオロスルホン酸樹脂溶液を用いて実施例1と同様に、電極触媒インク、電極触媒層、MEA、燃料電池単セルを作製し、電極触媒層のひび割れ有無、電池性能及び化学耐久性を評価した。結果を表1に示す。
【0241】
パーフルオロスルホン酸樹脂は、実施例に比べて比表面積が低く、酸素溶解度も実施例に比べ低いため、電池性能も十分ではない。また、電極触媒層にひび割れが生じており、化学耐久性が低くなる。
【0242】