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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   B29C 71/00 20060101AFI20240116BHJP
   B29C 37/02 20060101ALI20240116BHJP
   B29C 48/151 20190101ALI20240116BHJP
   B29C 48/25 20190101ALI20240116BHJP
【FI】
B29C71/00
B29C37/02
B29C48/151
B29C48/25
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020086225
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021178498
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】横田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 勝哉
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-236572(JP,A)
【文献】特開2001-001431(JP,A)
【文献】特開2013-245328(JP,A)
【文献】特開2015-86311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の成形体であって、
前記繊維は精練及び/又は晒処理されたコットン繊維屑であり、
前記熱可塑性樹脂は融点が120~200℃であり、
前記成形体の表面は研磨され、前記繊維が露出していることを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記成形体は芯材の表面に被覆された被覆層である請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記コットン繊維屑は平均繊維長が1~20mmである請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
前記コットン繊維屑の添加割合は、繊維と熱可塑性樹脂の合計を母数としたとき、5~55重量%である請求項1~3のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項5】
前記コットン繊維屑はコットン製品の製造工程で発生する工程屑である請求項1~のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂である請求項1~のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項7】
前記被覆層の表面は一方向に研磨されている請求項に記載の成形体。
【請求項8】
前記芯材と被覆層との間には接着層が存在する請求項に記載の成形体。
【請求項9】
前記芯材はアルミニウム製である請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維強化成形体はよく知られている。マトリックス樹脂に繊維を加えると強度などの物性が高くなる利点がある。強化繊維として繊維屑を再使用することも知られている。特許文献1には、特定の合成樹脂材料から構成された廃棄プラスチック、或いは複数種類の互いに異なる合成樹脂材料から構成された複数の廃プラ群と、熱硬化性樹脂、木屑、繊維屑などを混合し成形加工することが提案されている。特許文献2には、柔軟熱可塑性樹脂に、平均繊維長が0.1~6mmである合成繊維を混入させて樹脂製留め具を成形することが提案されている。特許文献3には、廃材の低密度ポリエチレン樹脂に繊維屑、木質繊維、ガラス繊維、タルク等の強化繊維を混入させる再生樹脂部品を成形することが提案されている。また、特許文献4には、芯材に樹脂組成物を押出し成形し、表面をサンディング処理することにより、木質観を出すことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-305802号公報
【文献】特開2004-346954号公報
【文献】特開2003-261689号公報
【文献】特開2000-141326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術は、混合工程及び/又は成形工程で熱により繊維が劣化してしまい、成形体の物性が低下し、外観品位も低下する問題、及びファブリック触感と外観を出すことが困難であり、さらなる改善が求められていた。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、繊維の劣化を防ぎ、物性及び外観品位が高く、ファブリック触感と外観を有する成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の成形体は、繊維と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の成形体であって、前記繊維は精練及び/又は晒処理されたコットン繊維屑であり、前記熱可塑性樹脂は融点が120~200℃であり、前記成形体の表面は研磨され、前記繊維が露出していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の成形体は、繊維と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物の成形体であって、前記繊維は天然繊維であり、前記熱可塑性樹脂は融点が120~200℃であり、前記成形体の表面は研磨され、前記繊維が露出していることにより、繊維の劣化を防ぎ、成形体の物性も高く維持でき、外観品位の高い繊維強化成形体を提供できる。また、表面は研磨され、繊維が露出していることにより、滑らかなタッチとなり、外観も良好となる。すなわち、ファブリック的な触感と外観を有する成形体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aは本発明の一実施形態の被覆成形体の模式的斜視図、図1Bは同断面図である。
図2図2は本発明の実施例1の被覆成形体の表面拡大写真(倍率40)である。
図3図3は本発明の実施例2の被覆成形体の表面拡大写真(倍率40)である。
図4図4は本発明の実施例3の被覆成形体の表面拡大写真(倍率40)である。
図5図5は比較例1の被覆成形体の表面拡大写真(倍率40)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の成形体は、繊維と熱可塑性樹脂を含み、前記繊維は天然繊維であり、熱可塑性樹脂は融点が120~200℃である。本発明は、繊維として天然繊維を選択し、マトリックス樹脂として特定融点の熱可塑性樹脂を選択して組み合わせることにより、繊維と樹脂との混合工程及び/又は成形工程で繊維の熱劣化を抑え、外観品位の高い成形体が得られる。また、成形体の表面は研磨され、天然繊維が露出していることにより、軟らかいタッチであり、外観も良好となる。被覆成形体の場合は、研磨前の被覆層の厚さは1~5mmが好ましく、より好ましくは2~3mmであり、研磨後の被覆層の厚さは0.5~4.5mmが好ましく、より好ましくは1.5~2.5mmである。
天然繊維の露出は表面観察用の顕微鏡などで確認することができる。
【0010】
前記天然繊維は、平均繊維長1~20mmが好ましく、より好ましくは2~18mmであり、さらに好ましくは3~15mmである。前記の範囲であれば、マトリックス樹脂の熱可塑性樹脂と均一混合しやすい。天然繊維は植物繊維と動物繊維があり、植物繊維はコットン、麻、カポック、パーム繊維、サイザル繊維、バナナ繊維、ヤシ繊維、竹繊維などがあり、動物繊維はウール、ヤギ毛、カシミヤ、モヘア、アンゴラ、アルパカ、ラクダ毛、シルクなどがあるが、コストと安定供給などの点からコットンが好ましい。
【0011】
前記天然繊維の添加割合は、繊維と熱可塑性樹脂の合計を母数としたとき、5~55重量%が好ましく、より好ましくは7~50重量%であり、さらに好ましくは20~40重量%である。前記の範囲であれば、成形体の補強効果がより高くなり、かつ研磨により繊維が露出しやすくなる。
【0012】
前記天然繊維はコットン(木綿)が好ましい。コットンは熱可塑性樹脂との親和性が高く、成形体の補強効果も高い。前記天然繊維はコットン製品の製造工程で発生する繊維屑が好ましい。工程屑としては、例えば起毛工程で発生する繊維屑、裁断工程で発生する繊維屑、反毛(はんもう)工程で発生する繊維屑など様々な工程屑がある。このほか、古着などを開繊、反毛して得られる繊維屑も使用できる。このような屑は従来廃棄していたが、回収して再使用することは資源の有効活用としての利点がある。精練及び/又は晒工程を経たコットン繊維屑は白度が高く好ましい。繊維屑の白度が高いと、成形時に着色剤で着色する際にベースの色が安定し、着色ムラが少なくなる。
【0013】
前記熱可塑性樹脂は、成形性がよいことからポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-塩化ビニル共重合体、又はこれらの樹脂のブレンド体などが使用できる。ポリオレフィン系樹脂以外にもABS樹脂などが使用できる。
【0014】
芯材を使用せず、繊維を添加した樹脂で成形体を構成することもできる。樹脂を2層押出品として、被覆部に繊維を添加した樹脂を用いることもできる。
【0015】
芯材の材質は特に限定されない。金属、樹脂、木材等の材質を状況に応じて選択できる。強度が必要な場合は、芯材に金属を用いるのが好ましい。芯材が金属の場合はアルミニウムが好ましい。強度と精度、重量の点で優れるためである。他の金属としては、鉄、ステンレス、銅、各種合金などが好ましい。形状は、板、中空体、パイプなど任意の形状を使用できる。住宅建材、家具、棚板、倉庫の壁などに使用されているものを適用できる。なお、本発明において「アルミニウム製」とは、「アルミニウム合金製」もその範疇に含むものであり、他の金属でも同様である。
【0016】
芯材と被覆層との間には接着層が存在するのが好ましい。接着剤は、例えばエポキシ基含有ポリオレフィンを含む樹脂を使用できる。接着層の厚さは50~300μmが好ましく、より好ましくは100~200μmである。
【0017】
本発明の成形体は、次の工程によって製造できる。
(1)繊維と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して溶融混錬してコンパウンドとし、冷却して造粒又は粉砕しペレットとする。
(2)前記ペレットを溶融し、押し出し等で所定の形状の成形体とする。
(3)冷却後、前記生成体の表面を研磨し、前記繊維を露出させる。
【0018】
本発明の被覆成形体は、次の工程によって製造できる。
(1)繊維と熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物を、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して溶融混錬してコンパウンドとし、冷却して造粒又は粉砕しペレットとする。
(2)前記ペレットを溶融し、芯材の表面に押し出して被覆層を成形する。
(3)冷却後、前記被覆層の表面を研磨し、前記繊維を露出させる。
【0019】
混練工程においては、ニーダーなどの混練機を使用し、樹脂の溶融以上の温度で天然繊維と熱可塑性樹脂を混合してコンパウンド(混合物)にし、このコンパウンドを押し出し、造粒又は粉砕してペレットとする。前記ペレットはマスターバッチとして使用し、成形時に新たな樹脂を加えることもできる。
【0020】
前記コンパウンド工程及び/又は成形工程では着色剤、各種安定剤、分散剤、相溶化剤等の添加剤を加えてもよい。
着色剤は任意の色を使用できる。前記着色剤の例として、顔料、着色用マスターバッチ、ドライカラー、ペーストカラー、リキッドマスターバッチ等が挙げられる。
安定剤は、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤等が挙げられる。
相溶化剤としては不飽和カルボン酸等が挙げられる。不飽カルボン酸は不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸等が挙げられ、特に不飽和ジカルボン酸及びその無水物が好ましく、例えば、マレイン酸、及び無水マレイン酸が挙げられる。
着色剤の色を変えることにより、任意の色調の成形体を得られる。着色剤の含有量はポリオレフィン系樹脂に対して3~5重量%が好ましい。
【0021】
研磨工程においては、被覆層の表面を一方向に研磨するのが好ましい。研磨はサンドペーパーを使用したサンディング加工、又はブラシを使用したブラッシングが好ましい。サンドペーパーは番手が24~120が好ましい。サンディング加工の際には発熱を伴うことがあるが、熱可塑性樹脂の融点が120~200℃であることにより、樹脂の劣化は防げる。
【0022】
以下図面を用いて説明する。以下において同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態の被覆成形体1の模式的斜視図、図1Bは同断面図である。この被覆成形体1は、芯材2の表面に接着層3と被覆層4が一体押し出し成形により形成されている。芯材2は中空アルミニウム、被覆層4の表面は一方向にサンディング加工されている。
【実施例
【0023】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
<芯材>
図1A,Bに示す芯材2として、建材用アルミニウム製中空材、外径タテ30mm,ヨコ
50mm、厚さ1.2mm、長さ1m(断面矩形、中空部2個)を用いた。
<被覆材料>
(1)繊維
精練及び晒工程を経たコットン繊維屑(起毛繊維屑)を使用した。平均繊維長は2.0mmであった。
(2)樹脂
融点160℃のポリプロピレン樹脂(PP)を使用した。この樹脂は190℃、2.16kgfにおけるメルトフローレート(MFR)は30g/10minであった。
(3)コンパウンド-ペレット
PPを60重量部、繊維屑を40重量部、ブルー着色剤5.0重量部の割合で計量し、温度190℃に加熱したニーダーで溶融混錬し、押し出し、冷却して粉砕し、ペレット化した。繊維屑と熱可塑性樹脂の合計を母数としたとき、繊維屑は40重量%であった。
<接着層材料>
芯材2の表面にエポキシ基含有ポリオレフィン系樹脂として以下の接着剤を使用した。
ボンドファースト(登録商標)7B(住友化学株式会社製、エチレン-グリシジルメタクリレート-酢酸ビニル(共重合比(重量比)83:12:5)、融点95℃、190℃、2.16kgfにおけるメルトフローレート(MFR)7g/10min)
<押し出し被覆成形>
共押出式の一体化押出成形機によって一体押出成形体を製造した。前記接着層材料および前記被覆層用材料ペレットをそれぞれ押出機から同時に押出し、ダイス内でアルミ製芯材に積層・被覆して、アルミ製芯材の外表面における周方向の全部に接着層および被覆層を有する一体押出成形体を製造した。なお、押出条件、芯材条件は次の通りである。
・押出機:直径40mm、一軸押出機(押出温度約190℃ )
・アルミ製芯材は、ダイス内に挿入直前に予備加熱(約100℃)した。
・得られた被覆成形体の冷却後の接着層の厚さは200μm、被覆樹脂の厚さは1.5mmであった。
<研磨>
被覆成形体の表面をベルトサンダーで研磨した。なお、サンドペーパーの番手、研磨方法は次のとおりである。
・サンドペーパーの番手:#40(サンドペーパーC40:炭化ケイ素研磨剤)
・ペーパースピード:13m/min
・成形体送り速度:8m/min
また、研磨後の被覆樹脂の厚さは1.0mmであった。
以上の結果、見た目、手触り共に滑らかな風合いが認められ、ファブリック感のある被覆成形体が得られた。得られた被覆成形体を図1A,B及び図2(表面写真、倍率40倍)に示す。
【0025】
(実施例2)
研磨の際、サンドペーパーとして♯34(サンドペーパー784F:セラミック研磨材50%入り)を使用し、続いて♯60(サンドペーパーC60:炭化ケイ素研磨材)を用いて研磨した。上記以外の点は実施例1と同様に実施した。得られた被覆成形体を図3(表面写真、倍率40倍)に示す。
【0026】
(実施例3)
研磨の際、サンドペーパーとして♯34(サンドペーパー784F:セラミック研磨材50%入り)を使用し、続いて♯60(サンドペーパーC60:炭化ケイ素研磨材)を用いて研磨を2回行った。上記以外の点は実施例1と同様に実施した。得られた被覆成形体を図4(表面写真、倍率40倍)に示す。
【0027】
(比較例1)
繊維屑の代わりに木粉を使用した以外は実施例2と同様に実施した。得られた被覆成形体を図5(表面写真、倍率40倍)に示す。
【0028】
実施例1~3、比較例1の見た目と手触りの滑らかさからファブリック感を評価し、結果を表1に記載した。
・見た目(滑らかさ)
A:よい
B:中間
C:悪い
・手触り(滑らかさ)
A:サラサラ感がある
B:中間
C:ザラザラ感がある
・ファブリック感
A:よい
B:中間
C:悪い
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1~3は見た目の滑らかさと手触りが一定以上であり、ファブリック感が得られた。比較例1はファブリック感が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の被覆成形体は、建材、家具、棚板、倉庫の壁、車両内の壁等に有用である。
【符号の説明】
【0032】
1 被覆成形体
2 芯材
3 接着層
4 被覆層
図1
図2
図3
図4
図5