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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】積層体不織布
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20240116BHJP
   B32B 7/03 20190101ALI20240116BHJP
   A61F 13/00 20240101ALI20240116BHJP
   A61F 13/51 20060101ALI20240116BHJP
   D04H 1/492 20120101ALI20240116BHJP
【FI】
B32B5/26
B32B7/03
A61F13/00 355F
A61F13/51
D04H1/492
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020097133
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021187120
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】花岡 博克
(72)【発明者】
【氏名】小路 喜朗
(72)【発明者】
【氏名】竹内 政実
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-78435(JP,A)
【文献】特開2014-194089(JP,A)
【文献】特開平9-228122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
A61F 13/00
A61F 13/51
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
捲縮繊維を含んでいる第一の繊維層と、捲縮繊維を含んでいる第二の繊維層とが、熱可塑性エラストマーによって接着一体化してなる、積層体不織布であって、
前記第一の繊維層および/または前記第二の繊維層は、主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有している、
積層体不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メディカル用品や衛生用品などに使用できる伸縮性シートを提供可能な、積層体不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、おむつのウエスト周りや足の付根周り、サポーターや包帯、貼付薬用基材やプラスター基材、フェイシャルマスクといったメディカル用品や衛生用品などの構成部材として、追従性に優れていることから伸縮性シートが採用されている。このような伸縮性シートの具体例として、例えば、特開2002-1855号公報(特許文献1)には、熱可塑性エラストマーの交絡ウェッブを間に介して短繊維不織ウエッブ同士を積層一体化してなる高伸縮性不織布複合体(積層体不織布)が開示されている。そして、当該積層体不織布を備えた伸縮性シートは、タテ方向とヨコ方向共に高い破断伸度と伸張回復性を備えていることが開示されている。
なお、特許文献1には、短繊維材料をカーディング、ランダムウエッビング、空気開繊などの手段によって開繊ならびに集積し、さらに必要に応じて水流交絡法、熱融着法、ニードルパンチング法などの手段で交絡せしめることで、短繊維不織ウエッブを調製することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-1855号公報(特許請求の範囲、0014、0028など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願出願人が検討を続けた結果、特許文献1に開示されている積層体不織布を備える伸縮性シートを、体に巻き付けるなど立体形状に沿わせ貼付して使用した場合、使用者が伸縮性シートをヨコ方向へ不要に伸ばして亀裂や破断を発生させてしまうという問題が発生し易いことを見出した。そして、この問題の発生し易さと伸縮性シートにおけるヨコ方向の諸物性とは、直接的な比例関係を有していないと考えられた。具体的には、ヨコ方向の強度が増した積層体不織布を備える伸縮性シートであっても、なおも上述の問題が発生し易いものであった。
更に、本願出願人が検討を続けたところ、上述した問題の発生は、積層体不織布におけるタテ方向の強度に対しヨコ方向の強度が大きく劣る場合に、発生し易いことを見出した。
【0005】
つまり、伸縮性シートをタテ方向へ伸ばした際に感じる感覚のまま、使用者は同様に伸び耐えるであろうと想定して伸縮性シートをヨコ方向へ伸ばす傾向がある。しかし、従来技術にかかる積層体不織布ではタテ方向に対しヨコ方向の強度が大きく劣っている。そのため、伸縮性シートをタテ方向と同様の感覚でヨコ方向へ伸ばしてしまい、ヨコ方向に亀裂や破断を発生させてしまう。
【0006】
このような理由から、積層体不織布におけるタテ方向とヨコ方向の強度が大きく異なる場合には、例え当該積層不織布のタテ方向とヨコ方向の諸物性を、そのまま比例的に向上させたとしても、使用者の想定と反する限り、使用者が伸縮性シートをヨコ方向へ不要に伸ばして亀裂や破断を発生させてしまうという問題が発生し易いままである。
【0007】
そのため、使用者の想定と反することに起因する、ヨコ方向に亀裂や破断が発生し易いという問題の発生が防止された伸縮性シートを提供可能な、積層体不織布の実現が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
「捲縮繊維を含んでいる第一の繊維層と、捲縮繊維を含んでいる第二の繊維層とが、熱可塑性エラストマーによって接着一体化してなる、積層体不織布であって、前記第一の繊維層および/または前記第二の繊維層は、主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有している、積層体不織布。」
である。
【発明の効果】
【0009】
本願出願人が検討を続けた結果「捲縮繊維を含んでいる第一の繊維層と、捲縮繊維を含んでいる第二の繊維層とが、熱可塑性エラストマーによって接着一体化してなる、積層体不織布」において、第一の繊維層および/または第二の繊維層の構成を調整することによって、積層体不織布におけるタテ方向とヨコ方向の諸物性の相関性を調整できることを見出した。
そして、第一の繊維層および/または第二の繊維層が、例えばクロスレイウェブやクリスクロスレイウェブなどの、主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有している繊維層であることによって、タテ方向とヨコ方向の強度が大きく異なるのが防止されている積層体不織布を提供した。
そのため、本発明にかかる積層体不織布によって、使用者の想定と反することに起因する、ヨコ方向に亀裂や破断が発生し易いという問題の発生が防止された、伸縮性シートを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行った。そして、本発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、少数第一位までが求める値である場合、測定によって少数第二位まで値を求め、得られた少数第二位の値を四捨五入することで少数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。また、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0011】
本発明の積層体不織布は、捲縮繊維を含んでいる第一の繊維層と、捲縮繊維を含んでいる第二の繊維層、ならびに、両繊維層同士を接着一体化している熱可塑性エラストマーを備えている。なお、本発明でいう繊維層とは、繊維ウェブや不織布など繊維同士がランダムに絡み合うことで形成されているシート状の繊維集合体の層を指す。
【0012】
積層体不織布において、捲縮繊維を含んでいる第一の繊維層および第二の繊維層(以降、併せて両繊維層と称することがある)は、積層体不織布の主たる骨格をなす役割を担い、また両繊維層は捲縮繊維を含んでいるため積層体不織布へ柔軟性や追従性ならびに伸縮性や伸張回復性を付与する役割を担う。
【0013】
両繊維層は構成繊維として捲縮繊維を含んでいる。ここでいう捲縮繊維とは、例えば、クリンプを有する繊維や潜在捲縮繊維の捲縮が発現してなる複合繊維(例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型などの複合繊維など)であり、両繊維層は捲縮繊維を含んでいることによって柔軟性や追従性ならびに伸縮性や伸張回復性に富むものである。
【0014】
両繊維層は捲縮繊維以外にも、単繊維や接着繊維(全溶融型の接着繊維や、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの一部溶融型の接着繊維)など、他の繊維を含有していても良い。これらの捲縮繊維以外の繊維は、後述するように捲縮繊維と同様の樹脂で構成でき、繊維長や繊度も捲縮繊維と同様の構成とすることができる。
【0015】
両繊維層を構成する繊維の質量に占める捲縮繊維の質量割合は適宜調整するものであるが、より柔軟性や追従性ならびに伸縮性や伸張回復性に富む積層体不織布を提供できるよう、30質量%以上であるのが好ましく、40質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのが好ましく、60質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのが好ましく、80質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのが好ましく、両繊維層の構成繊維が捲縮繊維のみであるのがより好ましい。
【0016】
両繊維層の構成繊維(捲縮繊維を含む)をなすポリマーは適宜選択でき、例えば、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をニトリル基またはフッ素或いは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン系樹脂など)、スチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエーテル系樹脂(例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトンなど)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル樹脂など)、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド系樹脂(例えば、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエーテルアミド樹脂、ナイロン樹脂など)、二トリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリルなど)、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリスルホン系樹脂(例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、フッ素系樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、セルロース系樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル系樹脂(例えば、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルなどを共重合したポリアクリロニトリル系樹脂、アクリロニトリルと塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル系樹脂など)など、公知のポリマーを採用できる。なお、これらのポリマーは、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、またポリマーがブロック共重合体やランダム共重合体でも構わず、またポリマーの立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。更には、多成分の樹脂を混ぜ合わせたものでも良い。
【0017】
特に、貼付薬用基材として使用した際に、非水系膏体に含まれる薬効成分が吸収され難いよう、両繊維層の構成繊維はエラストマーを含有していないのが好ましい。この観点から、両繊維層の構成繊維は、ポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂のみで構成されている繊維であるのが好ましく、ポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂のみで構成されている潜在捲縮繊維の捲縮が発現してなる捲縮繊維であるのがより好ましい。
【0018】
構成繊維は、一種類の樹脂から構成されてなるものでも、複数種類の樹脂から構成されてなるものでも構わない。複数種類の樹脂から構成されてなる繊維として、一般的に複合繊維と称される、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの態様であることができる。
【0019】
また、構成繊維は上述した樹脂以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、染料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を含有していてもよい。顔料が含有されていることによって、肌の色をイメージした色(例えば、薄いオレンジ色など)の繊維など、原着繊維であることができる。また、染料を用いて繊維あるいは繊維層を染色してもよい。
【0020】
また、構成繊維は、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維を含んでいてもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維であってもよい。
【0021】
両繊維層の構成繊維の繊度も適宜選択でき、柔軟性や追従性ならびに伸縮性や伸張回復性に優れた積層体不織布を提供できるよう、例えば0.01~100dtexであることができ、0.1~50dtexであることができ、0.5~30dtexであることができ、1~10dtexであることができる。
【0022】
また、両繊維層の構成繊維の繊維長は適宜選択でき、特定長にカットされた短繊維や長繊維、連続繊維(直接紡糸法を用いて調製された特定長にカットされていない繊維など)であることができるが、柔軟性や追従性ならびに伸縮性や伸張回復性に優れた積層体不織布を提供できるよう、特定長にカットされた繊維であるのが好ましい。繊維長は、特に乾式法を用いてウェブを作成する場合には、20~150mmであることができ、25~100mmであることができ、30~90mmであることができ、40~80mmであることができる。また、特に湿式法を用いてウェブを作成する場合には1~30mmであることができ、3~20mmであることができ、5~15mmであることができる。なお、「繊維長」は、JIS L1015(2010)、8.4.1c 直接法(C法)に則って測定された繊維長をいう。
【0023】
両繊維層の構成繊維は、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、静電紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法、繊維を叩解して分割された繊維を得る方法など公知の方法により得ることができる。
【0024】
第一の繊維層と第二の繊維層の繊維組成、および/または、目付や厚さなどの諸構成は、同一であっても異なっていても良い。しかし、積層体不織布における一方の主面側に存在する繊維層(例えば、第一の繊維層)と、もう一方の主面側に存在する繊維層(例えば、第二の繊維層)との物性が近いほど、伸縮した際にカールが発生し難く体に巻き付けるなど立体形状に沿い追従し易い伸縮性シートを提供できる傾向がある。そのため、第一の繊維層と第二の繊維層の繊維組成、および/または、目付や厚さなどの構成は、同一であるのが好ましく、第一の繊維層と第二の繊維層として同一の繊維層を備える積層体不織布であるのが好ましい。
【0025】
本発明にかかる積層体不織布では、第一の繊維層および/または第二の繊維層は、主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有している。ここでいう第一の繊維層の主面方向とは第一の繊維層におけるその厚さ方向と垂直をなす方向を指し、第二の繊維層の主面方向とは第二の繊維層におけるその厚さ方向と垂直をなす方向を指す。なお、厚さ方向とは主面と垂直をなす方向を指す。なお、積層体不織布が備えている第一の繊維層および/または第二の繊維層が、主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有しているか否かは、以下の確認方法を用いることで判断できる。
【0026】
(主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有しているか否かの確認方法)
(1)測定対象物(例えば、積層体不織布など)から、測定対象物を構成する繊維層を採取する。なお、測定対象物の主面と採取される繊維層の主面とが平行をなすようにして、繊維層を採取する。そして、採取した繊維層が捲縮繊維を含んでいることを確認する。なお、確認には目視を用いる以外にも顕微鏡を使用することができる。
なお、測定対象物から繊維層を採取するのが困難な場合は、測定対象物における繊維層部分を観察し、繊維層部分が捲縮繊維を含んでいることを確認する。なお、確認には目視を用いる以外にも顕微鏡を使用することができる。
(2)採取した繊維層あるいは観察した繊維層部分から、試験片(正方形、タテ:100mm、ヨコ:100mm)を採取する。なお、採取した繊維層あるいは観察した繊維層部分の主面と採取される試験片の主面とが平行をなすようにして、試験片を採取する。このとき、測定対象物の生産方向が判明している場合には、測定対象物の生産方向と試験片のタテ方向が並行を成すようにして、試験片を採取する。また、測定対象物の生産方向が判明していない場合には、採取した繊維層あるいは観察した繊維層部分の様々な方向から採取した試験片を、後述する引張強度(単位:N/50mm)の測定方法へ各試験片を供した結果、最も高い破断強度を示した方向と平行をなす方向を、測定対象物の生産方向とする。
(3)試験片を定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、チャック間の距離(つかみ間隔):50mm、引張速度:100mm/分)へ供し、チャック間の距離が75mmとなるまで試験片をタテ方向へ引っ張り、その後、同速度でチャック間の距離を50mmまで戻す。次いで、試験片を定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、チャック間の距離(つかみ間隔):50mm、引張速度:100mm/分)へ供し、チャック間の距離が75mmとなるまで試験片をヨコ方向へ引っ張り、その後、同速度でチャック間の距離を50mmまで戻す。
(4)項目3のようにして試験片を、タテ方向ならびにヨコ方向へ交互に10回ずつ伸縮させる。
(5)項目4を経て伸張させた後の試験片を、タテ方向ならびにヨコ方向へ伸張させながら、150mm×150mmの大きさになるよう引き延ばして台紙に固定する。
(6)台紙に固定されている試験片における一方の主面を構成している繊維の中から、当該一方の主面側から見た際に、試験片のタテ方向に対し繊維の長さ方向が右回りに0°より大きく90°未満の角度を有する状態で存在している繊維を、ランダムに50本選出する。なお、繊維の長さ方向とは、対象とする繊維を撮影した顕微鏡写真あるいは電子顕微鏡写真中に当該繊維を囲む最小の長方形を作図し、作図した当該長方形の長辺方向を指す。
(7)選出した50本の繊維における繊維の長さ方向が試験片のタテ方向に対し成す角度とその平均値から、標準偏差を算出する。この時、標準偏差の値が20以内である場合、測定対象物を構成する繊維層は、試験片のタテ方向に対し右回りに0°より大きく90°未満の角度を有する繊維配向Aを有すると判断する。
(8)台紙に固定されている試験片における一方の主面を構成している繊維の中から、当該一方の主面側から見た際に、試験片のタテ方向に対し繊維の長さ方向が左回りに0°より大きく90°未満の角度を有する状態で存在している繊維を、ランダムに50本選出する。
(9)選出した50本の繊維における繊維の長さ方向が試験片のヨコ方向に対し成す角度とその平均値から、標準偏差を算出する。この時、標準偏差の値が20以内である場合、測定対象物を構成する繊維層は、試験片のタテ方向に対し左回りに0°より大きく90°未満の角度を有する繊維配向Bを有すると判断する。
以上の測定結果から、測定対象物を構成する繊維層が繊維配向Aならびに繊維配向Bを共に有する場合、当該繊維層は主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有していると判断する。
【0027】
本発明にかかる主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有している繊維層は、例えばクロスレイウェブやクリスクロスレイウェブなどが由来の繊維層であることができる。なお、クロスレイウェブとは、一方向繊維ウェブの繊維配向が生産方向と平行とならないようにして一方向繊維ウェブを折りたたむことで形成された繊維ウェブであって、当該一方向繊維ウェブが折り重なっている部分において、折り重なっている各一方向繊維ウェブ部分における各構成繊維が配向している方向が、生産方向と平行を成すことなく互いに異なっている繊維ウェブである。そのため、クロスレイウェブ由来の繊維層は主面方向内で二方向性の繊維配向を有している。
【0028】
また、クリスクロスレイウェブとは、繊維配向が生産方向と平行をなす一方向繊維ウェブと、クロスレイウェブとを積層してなる繊維ウェブである。そのため、クリスクロスレイウェブ由来の繊維層は主面方向内で二方向性の繊維配向を有していることに加え生産方向にも繊維配向を有している。
【0029】
クロスレイウェブやクリスクロスレイウェブを用いて、第一の繊維層および/または第二の繊維層を構成可能であるが、タテ方向とヨコ方向の強度が大きく異なるのが防止されている積層体不織布を実現し易いことから、第一の繊維層および/または第二の繊維層はクロスレイウェブ由来の繊維層であるのが好ましく、第一の繊維層および第二の繊維層はクロスレイウェブ由来の繊維層であるのが好ましい。
【0030】
なお、構成繊維が不均一に配向しているランダムウェブや、一方向繊維ウェブを積層や折りたたむなどせず生産方向と平行をなす繊維のみで構成されたパラレルウェブのみで構成された繊維層は、主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有するものとはならない。
【0031】
なお、第一の繊維層および/または第二の繊維層は機能性成分を含んでいてもよい。機能性成分の種類は求められる機能によって適宜選択できるため、限定されるものではないが、例えば、抗菌剤や殺菌剤、抗ウイルス剤、抗カビ剤、触媒(例えば、酸化チタンや二酸化マンガンあるいは白金担持アルミナなど)、調湿剤(例えば、シリカゲルやシリカマイクロカプセルなど)、活性炭やカーボンブラックなどの脱臭剤、顔料、芳香剤、陽イオン交換樹脂や陰イオン交換樹脂、薬効成分や美容成分などを挙げることができる。
【0032】
そして、機能性成分は第一の繊維層および/または第二の繊維層の構成繊維の表面および/または内部に粒子状、あるいは、第一の繊維層および/または第二の繊維層の表面の一部または全部を被覆するように皮膜状で存在していることができる。第一の繊維層および/または第二の繊維層に機能性成分を担持する方法は適宜選択できるが、例えば、機能性成分の溶液や分散液、あるいはバインダを含んだ機能性成分の溶液や分散液を、繊維層を構成可能な繊維ウェブや第一の繊維層および/または第二の繊維層の一方の主面あるいは両主面へ、噴霧あるいは既知のコーティング方法(例えば、グラビアロールを用いたキスコーティング法、ダイコーティング法など)を用いて担持した後、溶媒や分散媒を除去する方法や、繊維層を構成可能な繊維ウェブや第一の繊維層および/または第二の繊維層を上述の溶液や分散液に浸漬し引き上げた後、溶媒や分散媒を除去する方法などを採用できる。
【0033】
第一の繊維層および/または第二の繊維層の目付や厚さなどの諸構成や諸物性は適宜調整できるものであるが、目付は5~1000g/mであることができ、10~500g/mであることができ、20~200g/mであることができ、30~100g/mであることができる。そして、厚さは0.05~5mmであることができ、0.1~3mmであることができ、0.5~2mmであることができる。なお、本発明でいう「目付」とは主面における面積1mあたりの質量をいい、主面とは面積が最も広い面をいう。また、本発明でいう「厚さ」は、高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ社製ライトマチック(登録商標))により計測した値であり、具体的には測定対象物の主面に対して5cmの荷重領域に100gfの荷重をかけた際の前記領域における厚さの値をいう。
【0034】
本発明にかかる積層体不織布では、第一の繊維層と第二の繊維層とが、熱可塑性エラストマーによって接着一体化している。本発明でいう熱可塑性エラストマーとは、熱可塑性を有するエラストマーであり、例えば、ポリオレフィン系、ポリスチレン系、ポリウレタン系、ポリエステル系などのポリマーであることができ、また、それぞれの繰り返し単位を備えたコポリマーであってもよい。なお、熱可塑性エラストマーは上述した樹脂以外にも、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、乳化剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0035】
本発明でいう接着一体化とは、第一の繊維層の一方の主面と第二の繊維層の一方の主面とが、熱可塑性エラストマーによって接着していることを指す。積層体不織布が有する熱可塑性エラストマーの目付や厚さなどの諸構成や諸物性は適宜調整できるものであるが、目付は1~300g/mであることができ、3~200g/mであることができ、5~100g/mであることができ、10~60g/mであることができる。
【0036】
また、積層体不織布の全質量に対する熱可塑性エラストマーの質量の比が6.0質量%より高く、27.7質量%未満である場合、コシが強くなることで取扱い性に優れる積層体不織布を提供し易くなり好ましい。なお、積層不織布のコシの強さは、積層不織布におけるタテ方向およびヨコ方向の剛軟度の平均値で評価可能であり、当該平均値が高い積層体不織布であるほど、取扱い性に優れる傾向がある。取扱い性に優れる積層体不織布であるよう、積層体不織布の剛軟度は25mm以上であるのが好ましく、30mm以上であるのが好ましく、35mm以上であるのが好ましく、40mm以上であるのが好ましい。
【0037】
積層体不織布における熱可塑性エラストマーの存在態様は適宜選択できるが、第一の繊維層を構成する繊維ウェブと第二の繊維層を構成する繊維ウェブとの間にフィルム状(多孔フィルム状あるいは無孔フィルム状)をなして存在していても、ウェブ状をなして存在していても、不定形やドット状など非連続的な態様をなし存在していてもよい。しかし、第一の繊維層と第二の繊維層を接着一体化する熱可塑性エラストマーの量を低減化できると共に多孔構造であることによって、柔軟性や追従性ならびに伸縮性や伸張回復性に優れた積層体不織布を提供できるよう、熱可塑性エラストマーはウェブ状をなして存在しているのが好ましい。ウェブ状をなしているか否かは、積層体不織布から第一の繊維層部分または第二の繊維層部分を剥離し、露出する熱可塑性エラストマーの存在態様を確認することで判断できる。なお、第一の繊維層を構成する繊維ウェブと第二の繊維層を構成する繊維ウェブとの間に、熱可塑性エラストマーで構成されたホットメルトウェブを介在させ積層体不織布を調製することで、ウェブ状をなす熱可塑性エラストマーによって第一の繊維層と第二の繊維層とが接着一体化している積層体不織布を調製できる。
【0038】
積層体不織布の目付や厚さなどの諸構成や諸物性は適宜調整できるものであるが、目付は10~1000g/mであることができ、20~500g/mであることができ、30~300g/mであることができ、40~200g/mであることができる。そして、厚さは0.1~5mmであることができ、0.3~3mmであることができ、0.5~2mmであることができる。
【0039】
一方向へ伸張させた際に破断を発生し難いよう、積層体不織布の引張強度は20N/50mm以上であるのが好ましく、40N/50mm以上であるのが好ましく、60N/50mm以上であるのが好ましい。なお、「引張強度」が高いほど、伸張時に破断を発生し難いことを意味する。
【0040】
伸張性に優れる積層体不織布であるよう、積層体不織布の伸度は20%以上であるのが好ましく、60%以上であるのが好ましく、100%以上であるのが好ましい。一方、伸度が高過ぎると、積層体不織布の使用感が劣る恐れがあることから、500%以下であるのが現実的である。なお、「伸度」が高いほど、伸長性に優れることを意味する。
【0041】
貼付薬用基材として使用した際の貼付感に優れるよう、積層体不織布の50%伸長時強さは50N/50mm以下であるのが好ましく、30N/50mm以下であるのが好ましい。一方、伸長時強さが低過ぎると、積層体不織布のもつ上記特徴が劣る恐れがあることから、0.1N/50mm以上であるのが現実的である。更に、積層体不織布の100%伸長時強さは100N/50mm以下であるのが好ましく、50N/50mm以下であるのが好ましい。一方、伸長時強さが低過ぎると、積層体不織布のもつ上記特徴が劣る恐れがあることから、0.1N/50mm以上であるのが現実的である。
【0042】
伸張後の収縮性に優れる積層体不織布であるよう、積層体不織布の50%伸長時の回復率は20%以上であるのが好ましく、30%以上であるのが好ましく、40%以上であるのが好ましい。
【0043】
肌に長時間貼付、あるいは、巻きつけて使用しても蒸れて不快感を与えないように、積層体不織布の通気度は、10cm/cm/sec以上であるのが好ましく、30cm/cm/sec以上であるのが好ましく、50cm/cm/sec以上であるのが好ましく、70cm/cm/sec以上であるのが更に好ましい。なお、この「通気度」はJIS L1913:2010「一般不織布試験方法」に規定される6.8.1(フラジール形法)によって測定される値をいう。
【0044】
なお、以上に挙げた積層体不織布の各種物性は、(主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有しているか否かの確認方法)において測定対象物から採取した試験片と同様にして採取した、別の試験片を以下の測定方法へ供することで求めることができる。なお、試験片におけるタテ方向を長さ方向としヨコ方向を幅方向とした試験片に対し、当該長さ方向と伸長方向が平行を成すようにして測定を行うことでタテ方向の各種物性を求めることができる。また、試験片におけるヨコ方向を長さ方向としタテ方向を幅方向とした試験片に対し、当該長さ方向と伸長方向が平行を成すようにして測定を行うことでヨコ方向の各種物性を求めることができる。
【0045】
(引張強度(単位:N/50mm)の測定方法)
長さ:250mm、幅:50mmの大きさの試験片を定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、チャック間の距離(つかみ間隔):200mm、引張速度:500mm/分)へ供し、試験片を引張り、試験片が破断するまでの最大荷重を測定する。この最大荷重の測定を3枚の試験片について行い、これら最大荷重を算術平均し「引張強度」とする。当該測定値が高いほど強度に勝ることを意味する。
【0046】
(伸度(Sr、単位:%)の測定方法)
前述の引張強度の測定を行った時の、最大荷重時の試験片の伸び(Smax、単位:mm)[=(最大荷重時の長さ、単位:mm)-(つかみ間隔=200mm)]のつかみ間隔(200mm)に対する百分率をいう。つまり、次の式から得られる値である。この測定を3回行い、前記百分率の算術平均値を「伸度」とする。
Sr=(Smax/200)×100
【0047】
(伸長時強さ(単位:N/50mm)の測定方法)
長さ:250mm、幅:50mmの大きさの試験片を定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、チャック間の距離(つかみ間隔):200mm、引張速度:500mm/分)へ供し、試験片を100mm(=50%)伸長するまでに測定された最大荷重、200mm(=100%)伸長するまでに測定された最大荷重を各々測定する。この最大荷重の測定を3枚の試験片について行い、これら最大荷重を算術平均し「50%伸長時強さ」、「100%伸長時強さ」とする。
【0048】
(50%伸長時の回復率(単位:%)の測定方法)
長さ:250mm、幅:50mmの大きさの試験片を定速伸長型引張試験機(オリエンテック社製、テンシロン、チャック間の距離(つかみ間隔):200mm、引張速度:500mm/分)へ供し、このつかみ間隔200mmの位置を始点とし、始点から100mmの位置、即ち50%伸長位置(L50=100mm)まで速度500mm/分で引っ張った後、同速度で始点まで戻す。この引張時に試験片の引張応力が0.3Nになったときのつかみ間隔の長さから初期つかみ間隔の長さ(200mm)を引いた長さ(Lf)、及び、戻す時に試験片の引張応力が0.3Nになったときのつかみ間隔の長さから初期つかみ間隔の長さ(200mm)を引いた長さ(Lb)を測定する。
この測定を3枚の試験片について行い、前記長さをそれぞれ算術平均することで、つかみ間隔の長さ(Lf)の平均値(Lf1)及びつかみ間隔の長さ(Lb)の平均値(Lb1)を求め、次の式から算出される数値を50%伸長時の回復率とする。
50%伸長時の回復率(%)=〔[(L50-Lf1)―(Lb1-Lf1)]/(L50-Lf1)〕×100
【0049】
(剛軟度の測定方法)
長さ:150mm、幅:20mmの大きさの試験片をJIS L1096に規定のカンチレバー法へ供することによって、剛軟度(単位:mm)を求める。
【0050】
本発明にかかる積層体不織布は、第一の繊維層と第二の繊維層および熱可塑性エラストマーのみで構成されていても良いが、布帛あるいはフィルム(無孔フィルムや多孔フィルム)や発泡体(無孔発泡体や多孔発泡体)などの他の部材を、更に積層してなる構造であってもよい。他の部材を積層させる方法は適宜選択できるが、ただ積層しただけの態様であっても、パウダーバインダ、スプレーバインダ、ホットメルトウェブなどのバインダにより接着して積層一体化した態様であっても、接着繊維など構成成分の溶融により接着して積層一体化した態様であってもよい。なお、他の部材の素材、目付や厚さなどの諸構成は、積層体不織布に求められる態様に合わせ適宜調整あるいは選択できる。
【0051】
本発明の積層体不織布の製造方法について、一例を挙げ説明する。本発明の積層体不織布の調製方法は適宜選択できるが、例えば、以下の工程を経て調製できる。
(1)潜在捲縮繊維を含んだクロスレイウェブを2枚用意する工程。
(2)各クロスレイウェブを繊維絡合工程へ供する工程、
(3)繊維絡合工程へ供した後の各クロスレイウェブを、加熱処理へ供することで潜在捲縮繊維の捲縮を発現させる工程、
(4)間にウェブ状の熱可塑性エラストマーを介在させ、加熱処理へ供した後のクロスレイウェブ同士を積層して積層体を調製する工程、
(5)積層体を加熱処理へ供しウェブ状の熱可塑性エラストマーを軟化させることで、クロスレイウェブ同士を接着一体化する工程、
を採用できる。
【0052】
上述した工程(1)において、主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有している繊維層を構成可能な繊維ウェブの一例としてクロスレイウェブを採用しているが、クロスレイウェブは、例えば、次のようにして調製できる。潜在捲縮繊維を含む繊維群をカード機またはエアレイ機などへ供することにより、一方向繊維ウェブを調製する。そして、調製した一方向繊維ウェブをクロスラッパー等へ供することで一方向繊維ウェブを折り重ね、当該一方向繊維ウェブが積層している部分を有する繊維ウェブを調製する。このとき、積層している各一方向繊維ウェブ部分における各構成繊維が配向している方向が、生産方向と平行を成すことなく互いに異なり、主面方向内で少なくとも二方向性の繊維配向を有するように調整する。
【0053】
上述した工程(2)において、クロスレイウェブの構成繊維を絡合させる方法は適宜選択でき、繊維絡合工程としてニードルパンチ処理へ供する方法や、水流絡合処理へ供する方法などを採用できる。特に、強度に優れると共に表面の毛羽立ちの少ない積層体不織布を提供し易いことから、水流絡合処理へ供することでクロスレイウェブの構成繊維を絡合させるのが好ましい。
【0054】
上述した工程(3)において、加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射して含まれている有機樹脂を加熱する方法などを用いることができる。
また、加熱温度はクロスレイウェブを構成する潜在捲縮繊維の捲縮が発現する温度であるが、クロスレイウェブの構成成分(構成繊維、バインダ、機能性成分など)に意図しない変性が発生しない温度に調整するのが好ましい。なお、本工程においてバインダを溶融させる、および/または、接着繊維による繊維接着機能を発揮させることで、クロスレイウェブの構成繊維同士を接着一体化してもよい。
なお、加熱処理へ供した後のクロスレイウェブは、放冷あるいは冷却することなくそのまま次の工程へ供することができるが、加熱処理へ供した後に放冷したクロスレイウェブを次の工程へ供してもよい。
【0055】
上述した工程(4)において、間にウェブ状の熱可塑性エラストマーを介在させ、加熱処理へ供した後のクロスレイウェブ同士を積層することで積層体不織布を調製できるが、一方のクロスレイウェブの主面へウェブ状をなすように溶融した熱可塑性エラストマーを付与してもよい。また、クロスレイウェブ同士を積層して積層体を調製する際に、ロール装置へ供するなどして厚さ方向へ圧力を作用させて積層体を調製してもよい。
【0056】
上述した工程(5)において、加熱処理の方法は上述した通り適宜選択できる。また、加熱温度は熱可塑性エラストマーが軟化してクロスレイウェブ同士を接着一体化できる温度であるが、クロスレイウェブの構成成分(構成繊維、バインダ、機能性成分など)に意図しない変性が発生しない温度に調整するのが好ましい。なお、本工程においてバインダを溶融させる、および/または、接着繊維による繊維接着機能を発揮させることで、クロスレイウェブの構成繊維同士を接着一体化してもよい。クロスレイウェブ同士を接着一体化する際に、ロール装置へ供するなどして厚さ方向へ圧力を作用させてもよい。
そして、加熱処理へ供した後、放冷するあるいは冷却することで積層体不織布を調製できる。
【0057】
本発明の積層体不織布は、更に別の多孔体、フィルム、発泡体などの部材を備えていてもよい。更に、本発明の積層体不織布をリライアントプレス処理などの、表面を平滑とするために加圧処理する工程へ供してもよい。また、用途や使用態様に合わせて形状を打ち抜いた後に加熱成形する工程や、機能性成分を担持する工程、薬剤との親和性を向上するための親水化処理工程など、各種二次加工工程へ供してもよい。
【実施例
【0058】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0059】
(繊維ウェブの用意)
サイドバイサイド型に構成されたポリエステル系樹脂の潜在捲縮繊維A(繊維の断面形状:円形、繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、160℃の加熱条件下では溶融せず、120℃以上で捲縮発現が始まる)のみをランダムカード機へ供し、潜在捲縮繊維が不均一に配向しているランダムウェブを調製した。このようにして調製したランダムウェブを水流絡合装置へ供することで構成繊維を絡合させた後、オーブン(加熱温度:160℃)へ供することで、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させた。このようにして、水流絡合ランダムウェブA(目付:50g/m)を調製した。なお、水流絡合ランダムウェブAでは構成繊維が不均一に配向しており、主面方向内で二方向性の繊維配向を有していなかった。
潜在捲縮繊維Aのみをカード機へ供し、一方向繊維ウェブを調製した。このようにして調製した一方向繊維ウェブをクロスラッパー装置へ供し、潜在捲縮繊維が主面方向内で二方向性の繊維配向を有しているクロスレイウェブを調製した。このようにして調製したクロスレイウェブを水流絡合装置へ供することで構成繊維を絡合させた後、オーブン(加熱温度:160℃)へ供することで、潜在捲縮繊維の捲縮を発現させた。このようにして、水流絡合クロスレイウェブB1(目付:50g/m)を調製した。なお、水流絡合クロスレイウェブB1は、主面方向内で二方向性の繊維配向を有していた。
また、カード機へ供する潜在捲縮繊維Aを増量したこと以外は、水流絡合クロスレイウェブB1の調製方法と同様にして、水流絡合クロスレイウェブB2(目付:85g/m)を調製した。なお、水流絡合クロスレイウェブB2は、主面方向内で二方向性の繊維配向を有していた。
【0060】
(比較例1)
熱可塑性エラストマーであるスチレン系樹脂をホットメルトスプレ―にて、水流絡合ランダムウェブAにおける一方の主面上へウェブ状に塗布(目付10g/m)した後、当該スチレン系樹脂を間に介して、もう一枚用意した水流絡合ランダムウェブAを積層した。
その後、当該スチレン系樹脂の熱可塑性が残っている状態でニップロールを使って圧着し、放冷して、積層体不織布を調製した。
【0061】
(実施例1)
水流絡合ランダムウェブAの替わりに水流絡合クロスレイウェブB1を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、積層体不織布を調製した。
【0062】
(比較例2)
熱可塑性エラストマーの塗布量を20g/mに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、積層体不織布を調製した。
【0063】
(実施例2)
水流絡合ランダムウェブAの替わりに水流絡合クロスレイウェブB1を用いたこと以外は、比較例2と同様にして、積層体不織布を調製した。
【0064】
(比較例3)
熱可塑性エラストマーの塗布量を40g/mに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、積層体不織布を調製した。
【0065】
(実施例3)
水流絡合ランダムウェブAの替わりに水流絡合クロスレイウェブB1を用いたこと以外は、比較例3と同様にして、積層体不織布を調製した。
【0066】
調製した各積層体不織布の諸物性を評価し、表1~表2にまとめた。なお、調製した各積層体不織布の厚さは、いずれも0.9mmであった。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
比較例で調製した積層体不織布はいずれも、タテ方向の引張強度がヨコ方向の引張強度よりも3.4倍以上強いものであった。そのため、比較例で調製した積層体不織布はいずれも、タテ方向とヨコ方向の物性(特に、引張強度)が大きく異なるものであった。
それに対し、実施例で調製した積層体不織布はいずれも、タテ方向の引張強度がヨコ方向の引張強度の2倍未満(1.5倍以下)の強さであった。
そのため、実施例で調製した積層体不織布はいずれも、タテ方向とヨコ方向の物性(特に、引張強度)が大きく異なるのが防止されていた。
【0070】
(実施例4~7)
水流絡合クロスレイウェブB1の替わりに水流絡合クロスレイウェブB2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、積層体不織布を調製した。
なお、実施例4では熱可塑性エラストマーの塗布量を10g/mに調整し、実施例5では熱可塑性エラストマーの塗布量を20g/mに調整し、実施例6では熱可塑性エラストマーの塗布量を40g/mに調整し、実施例7では熱可塑性エラストマーの塗布量を60g/mに調整した。
【0071】
調製した各積層体不織布の諸物性を評価し、表3~表4にまとめた。なお、調製した実施例4の積層体不織布の厚さは1.5mm、実施例5の積層体不織布の厚さは1.7mm、調製した実施例6の積層体不織布の厚さは1.5mm、調製した実施例7の積層体不織布の厚さは1.4mmであった。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
実施例4~7で調製した積層体不織布もまた、タテ方向の引張強度がヨコ方向の引張強度の2倍未満の強さであり、タテ方向とヨコ方向の物性(特に、引張強度)が大きく異なるのが防止されていた。
【0075】
以上から、本発明にかかる積層体不織布によって、使用者の想定と反することに起因する、ヨコ方向に亀裂や破断が発生し易いという問題の発生が防止された、伸縮性シートを提供できるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の積層体不織布によって、例えば、おむつのウエスト周りや足の付根周り、サポーターや包帯、貼付薬用基材やプラスター基材、フェイシャルマスクといったメディカル用品や衛生用品などの構成部材をなす伸縮性シートを提供できる。