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特許7420672測距システム及び測距センサの検知強度分布表示方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】測距システム及び測距センサの検知強度分布表示方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/51 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
G01S7/51
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020122589
(22)【出願日】2020-07-17
(65)【公開番号】P2022019047
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501009849
【氏名又は名称】株式会社日立エルジーデータストレージ
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤星 健司
(72)【発明者】
【氏名】市川 紀元
【審査官】藤脇 昌也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-217873(JP,A)
【文献】特開2014-038314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0219697(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する測距システムにおいて、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知可能領域内の検知強度を表示する検知強度分布表示装置を備え、
前記検知強度分布表示装置は、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aに基づき検知強度分布の表示を行い、
前記数値Aは、前記測距センサから照射された光により生成される点群数を、前記測距センサからの距離に応じて数値化した数値A2であることを特徴とする測距システム。
【請求項2】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する測距システムにおいて、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知可能領域内の検知強度を表示する検知強度分布表示装置を備え、
前記検知強度分布表示装置は、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aに基づき検知強度分布の表示を行い、
前記数値Aは、
前記測距センサから照射された光強度を、前記測距センサからの距離に応じて数値化した数値A1と、
前記測距センサから照射された光により生成される点群数を、前記測距センサからの距離に応じて数値化した数値A2を、
両方を用いて算出される数値A3であることを特徴とする測距システム。
【請求項3】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する測距システムにおいて、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知可能領域内の検知強度を表示する検知強度分布表示装置を備え、
前記検知強度分布表示装置は、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aに基づき検知強度分布の表示を行い、
前記検知強度分布表示装置は、前記数値Aの大小に応じて色や濃淡の表示を行い可視化し、
前記検知強度分布表示装置は、複数の前記測距センサの検知可能領域が重複した場合、重複個所の前記数値Aに重み係数を乗算して加算し、加算後の数値の大小に基づいて色や濃淡の表示を行い可視化することを特徴とする測距システム。
【請求項4】
請求項に記載の測距システムにおいて、
前記検知強度分布表示装置は、前記測距センサから前記対象物へ照射する光の入射角度と入射本数に応じて、前記重み係数を変えて加算することを特徴とする測距システム。
【請求項5】
請求項に記載の測距システムにおいて、
前記検知強度分布表示装置は、前記加算後の最大の数値を、色や濃淡の表示レベルの最大レベルに割り当てることを特徴とする測距システム。
【請求項6】
請求項に記載の測距システムにおいて、
検知可能領域が重複しないときの検知強度の数値の最大値を数値Bとすると、
前記検知強度分布表示装置は、色や濃淡の表示レベルの最大レベルに割り当てられる数値の範囲の定義は、数値B以上とすることを特徴とする測距システム。
【請求項7】
請求項に記載の測距システムにおいて、
検知可能領域が重複しないときの検知強度の数値の最大値を数値Bとすると、
前記検知強度分布表示装置は、前記加算結果が数値B以上となる場合は、既存の色や濃淡の定義は変更せず、新たに色や濃淡を追加で定義し、追加した定義で数値B以上の検知強度分布表示を行うことを特徴とする測距システム。
【請求項8】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する測距システムにおいて、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知可能領域内の検知強度を表示する検知強度分布表示装置を備え、
前記検知強度分布表示装置は、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aに基づき検知強度分布の表示を行い、
前記検知強度分布表示装置は、前記数値Aの大小に応じて色や濃淡の表示を行い可視化し、
前記検知強度分布表示装置は、障害物の領域及び該障害物で光が遮蔽される領域の検知強度の数値を0、色や濃淡の表示レベルを最低レベルで定義し、可視化することを特徴とする測距システム。
【請求項9】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する測距システムにおいて、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知可能領域内の検知強度を表示する検知強度分布表示装置を備え、
前記検知強度分布表示装置は、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aに基づき検知強度分布の表示を行い、
前記検知強度分布表示装置は、
前記測距センサの垂直角度、水平角度、高さの設置情報を取得する測距センサ設置情報設定部と、
前記測距センサの画角、照射可能距離、光源の仕様を設定する測距センサ仕様設定部と、
前方の空間を立方体とみなし該立方体を複数のボクセルに分割する空間分割部と、
前記測距センサから照射された光が前記各ボクセルに届く光強度、または前記各ボクセルにおける点群数を数値化する検知強度数値化部と、
前記立方体のある平面を抜き出し、前記数値Aの大小に応じて色や濃淡で可視化する可視化部と、
を備えることを特徴とする測距システム。
【請求項10】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する際の測距センサの検知強度分布表示方法において、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知強度分布を表示するため、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aを算出する数値化ステップと、
前記算出した数値Aに基づき測定領域内の検知強度分布を可視化する可視化ステップと、を備え、
前記数値化ステップで算出する前記数値Aは、前記測距センサから照射された光により生成される点群数を、前記測距センサからの距離に応じて数値化した数値A2であることを特徴とする測距センサの検知強度分布表示方法。
【請求項11】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する際の測距センサの検知強度分布表示方法において、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知強度分布を表示するため、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aを算出する数値化ステップと、
前記算出した数値Aに基づき測定領域内の検知強度分布を可視化する可視化ステップと、を備え、
前記数値化ステップで算出する前記数値Aは、
前記測距センサから照射された光強度を、前記測距センサからの距離に応じて数値化した数値A1と、
前記測距センサから照射された光により生成される点群数を、前記測距センサからの距離に応じて数値化した数値A2とを、
両方を用いて算出される数値A3であることを特徴とする測距センサの検知強度分布表示方法。
【請求項12】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する際の測距センサの検知強度分布表示方法において、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知強度分布を表示するため、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aを算出する数値化ステップと、
前記算出した数値Aに基づき測定領域内の検知強度分布を可視化する可視化ステップと、を備え、
前記可視化ステップでは、前記数値Aの大小に応じて色や濃淡の表示を行い可視化し、
前記数値化ステップでは、複数の前記測距センサの検知可能領域が重複した場合、重複個所の前記数値Aに重み係数を乗算して加算し、
前記可視化ステップでは、加算後の数値の大小に基づいて色や濃淡の表示を行い可視化することを特徴とする測距センサの検知強度分布表示方法。
【請求項13】
請求項12に記載の測距センサの検知強度分布表示方法において、
前記数値化ステップでは、前記測距センサから前記対象物へ照射する光の入射角度と入射本数に応じて、前記重み係数を変えて加算することを特徴とする測距センサの検知強度分布表示方法。
【請求項14】
請求項12に記載の測距センサの検知強度分布表示方法において、
前記可視化ステップでは、前記加算後の最大の数値を、色や濃淡の表示レベルの最大レベルに割り当てることを特徴とする測距センサの検知強度分布表示方法。
【請求項15】
請求項12に記載の測距センサの検知強度分布表示方法において、
検知可能領域が重複しないときの検知強度の数値の最大値を数値Bとすると、
前記可視化ステップでは、色や濃淡の表示レベルの最大レベルに割り当てられる数値の範囲の定義は、数値B以上とすることを特徴とする測距センサの検知強度分布表示方法。
【請求項16】
請求項12に記載の測距センサの検知強度分布表示方法において、
検知可能領域が重複しないときの検知強度の数値の最大値を数値Bとすると、
前記可視化ステップでは、前記加算結果が数値B以上となる場合は、既存の色や濃淡の定義は変更せず、新たに色や濃淡を追加で定義し、追加した定義で数値B以上の検知強度分布の可視化を行うことを特徴とする測距センサの検知強度分布表示方法。
【請求項17】
複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する際の測距センサの検知強度分布表示方法において、
前記測距センサは、光の伝達時間に基づいて対象物を検知する方式のものであって、
前記測距センサの検知強度分布を表示するため、前記測距センサからの距離が長くなるにつれて減少していく数値Aを算出する数値化ステップと、
前記算出した数値Aに基づき測定領域内の検知強度分布を可視化する可視化ステップと、を備え、
前記可視化ステップでは、前記数値Aの大小に応じて色や濃淡の表示を行い可視化し、
前記数値化ステップ及び前記可視化ステップでは、障害物の領域及び該障害物で光が遮蔽される領域の検知強度の数値を0とし、色や濃淡の表示レベルを最低レベルで定義し、可視化することを特徴とする測距センサの検知強度分布表示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距センサを用いて対象物までの距離を測定する測距システム、及び測距センサの検知強度分布表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光の伝達時間に基づいて対象物までの距離を測定したり、対象物を検知したりする方式として、TOF法(タイム・オブ・フライト法)による測距センサ(以下、TOFセンサとも呼ぶ)が知られている。TOFセンサで取得した距離データの特徴量から、例えば人物等を検知し、その検知した人物等の時間変化を追跡することで、移動経路を求めることができる。TOFセンサの原理は、光源から出射した照射光が対象物にて反射し、受光部に戻ってくるまで戻り光の時間を計測することで、対象物までの距離を算出するものである。TOFセンサには、1台で測定可能な距離と視野角(画角)には限界があるので、広い空間を測定する場合には、複数台のTOFセンサを配置して測定する必要がある。
【0003】
室内で人の流れを検知するカメラは従来から用いられており、例えば特許文献1には、動線を取得するために室内に設置したカメラを用いて、顧客の動線を切れ目なく検出する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-162256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のカメラを設置する場合は、対象物を映像として捉えることが大切であるため、カメラの映像で対象物が目視できるかを確認しながら設置すればよい。しかしTOFセンサを設置する場合は、対象物の距離を可視化できる位置に設置することが大切であるため、一般的なカメラのように目視で設置作業を行うことは難しい。またTOFセンサでは、対象物までの距離が遠くなるにつれ検知強度が低下することが知られているが、その検知強度を目視で確認し設置作業を行うのは困難であった。
【0006】
本発明の目的は、複数の測距センサの設置作業のための作業者の負荷を軽減し、容易に設置作業を実施できる測距システム及び測距センサの検知強度分布表示方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の測距センサを設置して測定領域内の対象物を検知する測距システムにおいて、各測距センサから照射された光が対象物に届く光強度(光の強さを示す数値)、または点群数(点群に相当する数値)に応じて数値化を行い、数値の大小に応じて色や濃淡の表示を行い可視化して表示する検知強度分布表示装置を備える。検知強度分布表示装置は、測距センサ前方の空間を1つの立方体とみなし、該立方体を複数の小立方体(ボクセル)に分割し、測距センサから照射された光が各ボクセルに届く光強度、または各ボクセルにおける点群数、に応じて検知強度を数値化する。
【0008】
また本発明は、測距センサの検知強度分布表示方法において、各測距センサの検知強度分布を、各測距センサから対象物に届く光強度、または点群数に応じて数値化を行い、数値の大小に応じて色や濃淡の表示を行い可視化して表示する。その際、複数の測距センサの検知可能領域が重複した場合、重複個所の数値に重み係数を乗算して加算する。また、障害物の領域及びそれで遮蔽される領域では、数値を0とし、色や濃淡の表示レベルを最低レベルで定義する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、測距センサの設置作業のための作業者の負荷を軽減し、実際の設置の前に、最適な設置シミュレーションを容易に実施できるとともに、設置後に検知の強度分布を容易に確認できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1に係る測距システムの構成を示す図。
図2】測距センサ(TOFセンサ)の構成を示す図。
図3】TOF法による距離測定の原理を説明する図。
図4】検知強度分布表示装置の構成を示す図。
図5】測距センサの測定可能な範囲を説明する図。
図6】測距センサの検知可能範囲の表示方法を説明する図。
図7】測距センサの検知可能範囲の表示例を示す図。
図8】測距センサの検知可能範囲の表示例を示す図。
図9】測距センサの検知可能範囲の表示例を示す図。
図10】複数の測距センサを配置したときの検知可能範囲の例を示す図。
図11】ボクセルを用いて検知強度分布を数値化する方法を説明する図。
図12】検知強度分布の数値化の他の例を示す図。
図13】検知強度を色分け(ヒートマップ化)して表示する例を示す図。
図14】検知可能範囲が重なった場合のヒートマップ化を説明する図。
図15】ヒートマップ化の効果を説明する図。
図16】オクリュージョンの発生を説明する図(実施例2)。
図17】測距センサを追加した場合のオクリュージョンの例を示す図。
図18】測距センサを追加した場合のオクリュージョンの例を示す図。
図19】測距センサを追加した場合の検知強度計算の改善方法を説明する図。
図20】2台の測距センサを並列配置した場合の検知強度の計算例を示す図。
図21】2台の測距センサを対向配置した場合の検知強度の計算例を示す図。
図22】検知可能領域に障害物が存在する状態を示す図。
図23】障害物が存在するときの検知強度分布の表示方法を説明する図。
図24】複数の測距センサが互いに干渉する場合の表示方法を説明する図。
図25】測距センサの設置の手順を示すフローチャート。
図26】ボクセル位置により点群数が変化することを説明する図(実施例3)。
図27】ボクセル位置により点群数が変化することを説明する図。
図28】ボクセル位置と点群数の関係を説明する詳細図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の各実施例では、測距センサの検知強度分布の表示について説明する。これは、測距センサの前方に広がる測定可能な3次元空間に対し、測距センサからの距離に応じた検知強度を示す数値を割り当て、3次元空間を床面と平行な平面で切り取った2次元の断面図を、検知強度の数値に応じて可視化するものである。
【実施例1】
【0012】
実施例1では、測距システムと測距センサの構成、及び検知強度分布表示の基本的な方法について説明する。
【0013】
図1は、実施例1に係る測距システムの構成を示す図である。測距システムは、複数台の測距センサ(以下、「TOFセンサ」、あるいは単に「センサ」とも呼ぶ)1a,1bと、測距センサの検知強度分布を表示する検知強度分布表示装置2(以下、単に「表示装置」とも呼ぶ)とがネットワーク3で接続されている。表示装置2には、例えばパソコン(PC)やサーバを用いる。
【0014】
図1に示す例では、2台のセンサ1a,1bを測定空間の天井5に取り付け、床面4に存在する対象物6(ここでは人物)までの距離を測定して、2台で人物6を検知する。1台のセンサでは測定可能距離や視野角(垂直画角と水平画角で決まる)が限られているので、測定したい領域が1台のセンサでカバーできない場合は、センサを複数台設置することが必要になる。また、障害物なども考慮し、どの位置にどの方向で、何台のセンサを設置するかを検討する必要がある。
【0015】
検知強度分布表示装置2は、測距センサを実際に設置する前に、測定空間における検知強度分布を計算して表示する設置シミュレータである。これにより、最適な設置シミュレーションを容易に実施できるとともに、測距センサの設置作業のための作業者の負荷を軽減することができる。また表示装置2は、設置後の測距センサで測定した対象物までの距離データを基に、対象物の距離画像(例えば人物の移動軌跡)を表示する機能を有する。
【0016】
図2は、測距センサ(TOFセンサ)1の構成を示す図である。測距センサ1は、レーザダイオード(LD)や発光ダイオード(LED)などの光源から赤外光のパルス光を照射する発光部7、対象物から反射したパルス光をCCDセンサやCMOSセンサなどで受光する受光部8、発光部7の点灯/消灯と発光量の制御を行う発光制御部9、受光部8の検出信号(受光データ)から対象物までの距離を計算する距離計算部10を備える。距離計算部10で計算された距離データは、表示装置2へ送信される。また測距センサ1の発光制御部9は、表示装置2からの測定指令信号に従い発光を開始させる。
【0017】
図3は、TOF法による距離測定の原理を説明する図である。測距センサ(TOFセンサ)1は、発光部7から対象物6(例えば人物)に向けて距離測定用の照射光11を出射する。受光部8は、対象物6で反射された反射光12を2次元センサ13で受光する。2次元センサ13はCCDセンサなどの複数の画素を2次元配列したもので、各画素における受光データから距離計算部10は2次元状の距離データを算出する。
【0018】
対象物6は、発光部7及び受光部8から距離dだけ離れた位置に存在する。ここで、光速をcとして、発光部7が照射光11を出射してから受光部8が反射光12を受光するまでの時間差をtとすると、対象物6までの距離dは、d=c×t/2で求められる。なお、距離計算部10の行う実用的な距離測定では、時間差tの代わりに、所定幅の照射パルスを出射し、これを2次元センサ13で露光ゲートのタイミングをずらしながら受光する。そして、異なるタイミングにおける受光量(蓄積量)の値から距離dを算出するようにしている(露光ゲート方式)。
【0019】
図4は、検知強度分布表示装置2の構成を示す図である。表示装置2は以下の機能ブロックを有する。測距センサ設置情報設定部47は、各測距センサ1a,1bもしくはユーザの設定情報から、センサの垂直設置角度、水平設置角度、設置高などの設置情報を取得する。測距センサ仕様設定部48は、センサ1a,1bもしくはユーザの設定情報から、画角、照射可能距離、光源などの各測距センサの仕様を設定する。空間分割部49は、前方の空間を1つの立方体とみなし、測距センサ設置情報設定部47と測距センサ仕様設定部48の情報を用いて、該立方体を複数の小立方体(以下、「ボクセル」と呼ぶ)に分割する。
【0020】
検知強度数値化部50は、センサ1a,1bから照射された光が各ボクセルに届く光強度(光の強さを表す数値)、または各ボクセルの点群数(点群に相当する数値)、もしくは光強度と点群数の両方と、測距センサ設置情報設定部47と測距センサ仕様設定部48の情報を用いて、ボクセル単位の検知強度を数値化する。可視化部51は、立方体において床面と平行な平面を抜き出し、検知強度数値化部50で算出された検知強度の数値の大小に応じて色や濃淡で可視化する。可視化後の画像データは、表示器であるモニタ46で表示される。なお、モニタ46は表示装置2に内蔵されても、外付けされてもよい。これらの要素以外に、各センサ1a,1bからの測定データを受信するデータ受信部や、各センサ1a,1bに対し測定指示信号を送信する送信部などを有しているが、図示を省略している。
【0021】
図5は、測距センサ1の測定可能な範囲を説明する図である。(a)は床面4と平行の真横から見た側面図、(b)は床面4を真上から見た上面図である。測距センサ1は、対象物6との距離dが長くなるにつれ徐々に対象物6の検知強度が下がり、最終的に検知できなくなるため、センサとしての測定可能な測定可能最大距離15が存在する。また、対象物6が近距離にある場合、受光部8が飽和し、検知ができなることがあるため、センサとしての測定可能な測定可能最短距離14が存在する。
【0022】
さらに、センサとして測定可能な角度範囲(視野角、画角)も存在し、(a)において横方向から見た時の垂直画角αvと、(b)において上方向から見た時の水平画角αhが存在する。
【0023】
つまり、測距センサ1が測定可能な範囲は、測定可能最小距離線14、測定可能最大距離線15と、垂直画角αv、水平画角αhとで囲まれた範囲となる。このように、測距センサ1が仕様上測定可能な範囲は、測距センサの仕様(画角と距離)から求めることができる。この測定可能な範囲(空間)を可視化し、測距センサ1を設置する部屋の見取り図(店舗のフロアマップなど)と重ね合わせて表示すれば、検知したい領域がカバーできているかどうかを目視で判断できる。
【0024】
ここで、測距センサを何個、どの位置にどの方向で設置すればよいかをシミュレーションする「測距センサ設置シミュレータ」(以下、単に「設置シミュレータ」とも呼ぶ)を導入する。つまり設置シミュレータは、店舗のフロアマップに測距センサを適切に配置し、測距センサの仕様に基づいた検知範囲を可視化するものである。この設置シミュレータの機能は、前記図4の検知強度分布表示装置2で実現し、例えばPC内のアプリケーションで動作させる。そして、実際の測距センサの動作と連携させてもよい(アプリケーションでの照射方向の調整結果を反映し、測距センサが受信したデータをアプリケーション上に表示するなど)。あるいは連携させずに設置シミュレータの機能のみとして、測距センサなしで単独で稼働するようにしてもよい。
【0025】
図6は、測距センサ設置シミュレータによる測距センサの検知可能範囲の表示方法を説明する図である。(a)は側面図、(b)は上面図である。センサの検知範囲は3次元の空間となるが、3次元での表示は特に複数のセンサが立体的に重なった場合には見にくくなるので、説明を容易にするため、上から見下ろした2次元の平面で表示する方法で説明する。
【0026】
(a)のように、測距センサ1が床面4から高さ18の位置に、センサの測定方向(視野角の中心方向)が俯角(水平から下向きの角度)θで設置されている。垂直画角αvで決まる測定境界の天井側を境界線19、床面側を境界線20とする。よってセンサ1を横から見た場合、境界線19、境界線20、測定可能最小距離線14、測定可能最大距離線15、で囲われた扇形が測定可能範囲となる。当然、床面4などの障害物がある場合は、床面4より上にある範囲が測定可能範囲となる。
【0027】
(b)のように、測距センサ1を天井側(上側)から俯瞰した場合も同様に、水平画角αhで決まる測定境界を、測距センサ1から見て左側を境界線21、右側を境界線22とする。センサ1を上から見た場合、境界線21、境界線22、測定可能最小距離線14、測定可能最大距離線15、で囲われた扇形が測定可能範囲となる。
【0028】
ここで、測定可能範囲を上から見下ろした2次元の平面で可視化する場合、検知したい対象物6の高さも考慮する必要がある。なぜなら、対象物6を確実に検知するためには、対象物6の検知可能な高さを定義し、その高さの占める空間を考慮した上で、上から見た時の対象物6の検知可能な範囲(以下、対象物検知可能範囲)を決めなければならないからである。
【0029】
次にこの対象物検知可能範囲の決め方を説明する。(a)において、対象物6を検知したい高さレベルを最低高さ23と最高高さ24とする。この2つの高さレベルに挟まれた範囲内にある対象物6をセンサ1で検知できる対象物検知可能範囲は、横から見た扇形(符号14、15、19、20で囲われた領域)内に収まる矩形25aの範囲となる(グレーで示す)。本例では、矩形25aの形は次の2点A,Bを対角にもつ形状となる。点Aは境界線20と高さ23の交点、点Bは境界線19と高さ24の交点である。
【0030】
(b)は、(a)の矩形25aで示す対象物検知可能範囲を上から俯瞰したものである。対象物6の検知距離の境界は境界線26aと境界線27aであり、上から見た時の対象物検知可能範囲は、境界線21、境界線22、境界線26a、境界線27aで囲われた扇形28aで示すことができる(グレーで示す)。なお、対象物検知可能範囲は必ずしも扇形となる訳ではなく、測距センサ1の設置角度や設置高さによって形状は矩形や丸型となり、その大きさも変化する。以下、この形状の変化について図7図9で説明する。
【0031】
図7は、図6における設置俯角θを0度(測定方向が床面と平行)とした場合である。この場合の対象物検知可能範囲は、(a)のように、矩形25bで示す次の2点A,Bを対角にもつ形状となる。点Aは、図6と同様に境界線20と高さ23の交点である。点Bは、測定可能最大距離線15と高さ23の交点A’から床面に垂直に伸ばした線と高さ24の交点である。
【0032】
この矩形25bの範囲を上から俯瞰すると、(b)のように、境界線26b、境界線27bのような検知境界となり、上から見た時の対象物検知可能範囲は、境界線21、境界線22、境界線26b、境界線27bで囲われた狭い扇形28bとなる(グレーで示す)。このように測距センサ1の設置角度を変えると、対象物検知可能範囲の形や大きさが変化することが分かる。
【0033】
図8は、図6における設置俯角θを90度(測定方向が床面と垂直)とした場合である。この場合の対象物検知可能範囲は、(a)のように、矩形25cで示す次の2点A,Bを対角にもつ形状となる。点Aは、境界線20と高さ24の交点A’から床面への垂線と高さ23の交点である。点Bは、境界線19と高さ24の交点である。
【0034】
この矩形25cの範囲を上から俯瞰すると、(b)のように、境界線26c、境界線27cのような検知境界となり、上から見た時の対象物検知可能範囲は、境界線21、境界線22、境界線26c、境界線27cで囲われた矩形28cとなる(グレーで示す)。このように測距センサ1の設置角度を変えると、対象物検知可能範囲が扇形ではなく矩形に変化することがある。
【0035】
図9は、設置俯角θは90度で図8と同じであるが、設置高さ18dを図8よりも高くした場合である。この場合の対象物検知可能範囲は、(a)の矩形25dで示す次の2点A,Bを対角にもつ形状となる。点Aは、測定可能最大距離線15と高さ23の交点の一方である。点Bは、測定可能最大距離線15と高さ23の他方の交点A’から真上に伸ばした線と高さ24の交点である。
【0036】
この矩形25dの範囲を上から俯瞰すると、(b)のように、対象物検知可能範囲は、円形(楕円形)27dになる(グレーで示す)。これは測定可能最大距離線15の集まりが曲面で、それを床面と水平にスライスするような形に切り取られるためである。このように測距センサ1の設置高さ18dを変えると、対象物検知可能範囲が扇形でも矩形でもなく楕円形に変化することがある。
【0037】
以上、図7図9で説明したように、測距センサの設置角度や設置高さなどで対象物検知可能範囲は様々な形状となるが、以下の説明では、図6(b)のように、上から見下ろした対象物検知可能範囲28aが扇形となる場合を例に説明する。
【0038】
次に、実際の設置シミュレータで対象物検知可能範囲をどのように表示するかを説明する。
図10は、複数の測距センサを配置したときの対象物検知可能範囲の例を示す図である。(a)は、測距センサ1aと測距センサ1bが対面になるように配置された例である。この場合、センサで検知可能な範囲(上から見た範囲)を示す扇形はそれぞれ28e、28fとなる。ここで範囲28eには範囲28fが重なって一部が隠れているが、範囲28eも扇形である。
【0039】
(b)は、測定空間に8個の測距センサ1a~1hを配置した例である。点線で囲った矩形領域29の内側を確実に検知したい場合、センサの位置や角度を調整し、領域29内の隙間が見えなくなるよう扇形で覆えば、漏れなく検知できることが、実際の配置を行う前にシミュレータ上で把握することができる。
【0040】
しかし、測距センサは対象物までの距離が遠くなると検知強度が低下するため、この扇形の領域内の検知強度はセンサから遠ざかるにつれて低下する。よって、全て扇形で覆われたとしても、実際にはセンサから遠い位置では良好に検出できない場合もある。さらに、後述するように、各ボクセル当たりの点群数もセンサから遠ざかるにつれて低下するため、検知強度が低下する。
【0041】
従って、図10で示すようなセンサ仕様(視野角と測定可能距離)で検知可能範囲を表示する表現方法では、検知強度を含めて可視化することができない。そこで、この検知強度を数値化して可視化する方法を、以下で説明する。検知強度は、ボクセルに届く光強度とボクセル当たりの点群数が影響する。理解を容易にするため、まずは光強度と検知強度についての説明を行う。
【0042】
図11は、ボクセルを用いて測定空間内の検知強度分布を数値化する方法を説明する図である。(a)は斜視図、(b)は縦断面図である。(a)のように、測距センサ1の前方にある所定の長さを持つ小さな立方体(ボクセル)30を積み上げ、複数のボクセル30が組み合わさって大きな立方体31を構成している。この大きな立方体31を構成しているボクセル30の1つ1つに、測距センサ1からの各ボクセル30のある位置(例えばボクセルの重心位置)までの距離に応じて、検知強度を示す数値を割り当てる。(a)の例では、この大きな立方体31は縦8個×横8個×高さ8個の512個のボクセル30で構成されている。
【0043】
(b)は、立方体31の断面図32の例である。例えば(a)の立方体31の断面位置31a(横方向の左から5番目)で、縦・高さ方向に8×8個のボクセル30を抜き出したものを、横方向から見た断面図である。各ボクセル30には、測距センサ1からの距離に応じて検知の強度を表す数値を与える。この数値の割り当て方を前記図3で説明すると、センサ1からの照射光11は対象物6に届くまでに距離の2乗で減衰し、センサの受光部8が受光する反射光12はその照射光の強さに比例するため、照射光が強ければ受光も強くなり、対象物6を検知しやすくなる。つまり測距センサ1の検知強度を数値化するには、対象物6における照射光の強さを数値化すればよい。
【0044】
光の強さは光源からの距離dの2乗で減衰するため、光の強度を示す数値は(測定可能最大距離-d)^2(2乗)などで算出することができる(ここでdが測定可能最大距離を超える場合は、光強度=0とする)。ただし算出方法はこの限りではなく、製品仕様や環境に応じて決定すればよい。なお、図11を含む以下の例で使用している光強度の数値は、実施例の動作を説明しやすい簡単な数値(例えば0~10の整数)を割り当てているが、実際の検知強度(光強度)の大きさに比例させた値である。(b)の断面図32の例では、最大値は光強度=9、最小値は光強度=0となる。以上の説明は光源が1つの時の例を示したが、測距センサが複数光源を持つ場合は、それぞれの光源からの影響を考えて計算し、その数値の和がボクセル30に割り当てられる数値となる。
【0045】
図12は、検知強度分布の数値化の他の例を示す図である。(a)は斜視図、(b)は横断面図である。ここでは、表示する領域(断面)の選択について説明する。(a)は図11と同様の立方体31を示すが、(b)のように床面4からある所定の高さにあるボクセル群を床面と平行に抜き取る。例えば下から2段目の高さ位置31bにあるボクセルを全て抜き取って並べて、上から見た図が(b)の断面図33である。なお、断面図33は、図11(b)の断面図32における枠32aで囲った部分に該当する。
【0046】
(b)の断面図33において、各ボクセル(マス目)の数値は測距センサ1からの距離に応じて与えられており、ユーザはこの数値を確認することで検知強度の分布を把握できる。なお、抜き取る高さはユーザが選択することができ、検出したい対象物の高さに応じてどこを抜き取ってもよい。また抜き取る面も1か所ではなく、例えば下から2段目と3段目の高さのボクセルを抜き取って、2つの数値の平均値をとって断面図33としたり、高さ方向で一番数値が低いボクセルを抜き取って断面図33としたりするなど、断面図33で代表させる数値の決め方は様々である。
【0047】
次に、上記で求めた検知強度の数値をどのように可視化して表示するかについて説明する。
図13は、検知強度の数値に応じて色分けして表示する例を示す図である。(a)は、図12(b)の断面図33において各ボクセルを色分けした例である。この例ではグレースケール(濃淡)表記であり、図12(b)のような数値のみの表示に比べ、検知強度の分布が視覚的に分かりやすくなる。もちろん、カラー表記とすれば視覚的により分かりやすくなる。なお、数値に応じた配色の決め方はカラーでも白黒でもよく、ユーザが検知強度の強弱を視覚的に判別できればよい。また、強弱の閾値(色の変化の閾値)はセンサの仕様によって異なる。以下、この数値に応じて色や濃淡で可視化することを、検知強度のヒートマップ化と呼ぶ。
【0048】
また図13(b)(c)は、ヒートマップ化の他の例を示す図である。(b)の扇形34は、図10(a)の扇形28eの検知強度を数値化し、数値の大きさに応じてヒートマップ化して表現したものである。ここでは各ボクセルの数値は非表示としている。なお、扇形34は元来カラー表記のものをさらにモノクロ化して示しているため、白黒の濃淡にムラがあるように見えるが、数値は連続的に変化している。一方(c)の扇形35は、元来モノクロ表記であり、白黒の濃淡が連続的に変化するグラデーションで示される。このように、光強度を距離に応じてボクセル単位で数値化し、色や濃淡で表現することで、測距センサからの距離に応じた検知強度を可視化できる。
【0049】
図14は、複数のセンサの検知可能範囲が重なった場合の検知強度のヒートマップ化の表記方法を説明する図である。(a)は、2台の測距センサ1a、1bの配置と検知可能範囲の重なりを示す。2台のセンサは、図12(b)の断面図33で示される同じ検知強度分布を持つとする。この例では、センサ1aの断面図33a(8×8マス)とセンサ1bの断面図33b(8×8マス)が5行分重なり合って、2台合わせて11×8マスの断面図となっている。各マス目における検知強度の数値の計算方法は、重なっていないマス目では単独のセンサによる数値をそのまま使用し、重なっているマス目では2台のセンサによる数値を単純に加算する。(a)は加算前の数値、(b)~(d)は加算後の数値を示す。
【0050】
検知可能範囲が重なった場合のヒートマップ化の表記方法は3通り(方法1~3)考えられ、(b)~(d)で説明する。
(b)は方法1について断面図36aで説明する。まず検知強度を示す色が、例えば10段階のレベル(レベル1~10)で定義されていたとする。最低レベル1は数値0で、最高レベル10は、同じ領域内に配置された測距センサ内で、数値の最大値を割り当てる。つまり、数値の加算により最大値が変わると、最大値の数値によって他の数値に割り当てられる表示レベルが変化する。例えば、数値の最大値が9、最低が0、その他の数値が1~8で分布しているものをヒートマップ化すると、10段階のレベルの色全てで表示されることになる。その後、重ね合わせにより、数値の最大値が9から1000に変化し、最低の数値が0、その他の数値が1~8で変わらない、となった場合、数値の最大値1000のマス目は数値9の時と変わらず最高のレベル10で表示されるが、その他の数値1~8はレベル1前後相当の表記となる(数値1000と比較したとき相対的に小さな値となってしまうため)。このことから分かるように、方法1のヒートマップ化の方法では、同じ設置領域内にある測距センサの検知強度表示は最高値に対する相対表示となる。
【0051】
断面図36aを例に説明する。単体設置のときの図13では数値の最大値が6で強度レベル10であったが、36aの場合は数値の最大値6から10に変化したため、絶対値としての数値は6で変化はないのだが、現在の最大値に対する強度レベルが下がり、図13よりも低い強度レベルの色で表示されている。方法1のメリットは、設置対象の空間全体で見た時に検知強度分布の強い個所、弱い個所が相対的に分かることである。デメリットは、数値の重なりが増えた場合、検知強度の数値が絶対値として問題ない個所が相対的に弱く見えてしまう場合が生じることである。
【0052】
(c)は方法2について断面図36bで説明する。方法1と同じく検知強度を示す色が、例えば10段階のレベル(レベル1~10)で定義されていたとする。最低レベル1は数値0で、最高レベル10は、測距センサ単体で使用した時の強度分布の最大値の数値で固定し、重なり合いによりこの最大値の数値を超えても最大値と同じ検知強度扱いとする。つまり方法2では、ある所定の数値以上の値は同じ強度レベルでの表示とする。仮に数値の最大値が9、数値の最低が0、その他数値が1~8で分布していたとし、数値9は強度レベル10の定義であったとする。その後、重ね合わせにより、数値の最大値が1000、数値の最低が0、その他数値が1~8で変わらずとなった場合、最大値1000の強度レベルは数値9と同じ強度レベル10で変わらない。つまり、方法2では同じ設置領域内にある測距センサの検知強度表示は、測距センサ単体での最大検知強度を超えない範囲での絶対値での表示となる。
【0053】
断面図36bを例に説明する。図13では数値の最大値が6で強度レベルは10であり、36bの場合は数値の最大値が10となったが、強度レベル10の定義が数値6以上で定義されているため、6以上の数値は全て数値6と同じ強度レベルで表示される。このように、方法2のメリットは、重なりが増えて数値が増えても、ある値以上になると検知強度の視覚的な変化がないため、過度に検知強度が増えず、測距センサが検知可能な実力の評価が可能となることである。デメリットは、重なり合いにより検知強度が高まっている個所があってもそれを表示できないことと、重なり合いにより相対的な検知強度が変化しても相対的な検知強度の変化が分からないことである。
【0054】
(d)は方法3について断面図36cで説明する。検知強度を示す色が10段階のレベル(レベル1~10)で定義されていたとする。最低レベル1は数値0で、最高レベル10は、同じ領域内に配置された測距センサ単体使用時の最大値の数値とする。方法3では、もしこの最大値を超えるような数値が計算された場合、現在の最高レベル10よりも上の新たな最高レベルを設けて、その数値に応じた強度レベルを表示させる。仮に数値の最大値が9、数値の最低が0、その他数値が1~8で分布していたとし、数値9が強度レベル10で定義であったとする。重ね合わせにより、数値の最大値が1000、数値の最低が0、その他の数値が1~8で変わらず、となった場合、数値の最大値1000のマス目の強度レベルを示すために、新たな強度レベルを定義し、ヒートマップ化する。元々設定していた10段階の数値のレベル定義には変化がないため、その他のマス目の1~8の数値の強度レベル表示は変わらない。
【0055】
断面図36cを例に説明する、図13では数値の最大値が6で強度レベルは10であり、36cの場合は重なり合いにより、これまでの最大値であった数値6を超える値として、数値8と数値10が出現している。重なり合い前の最高レベル10の定義を6とした数値6以下の検知強度表記は変えず、重なり合いにより新たに強度が高まったところだけを、新たな強度レベルで表示し(この例では数値8と数値10)、重なり合いにより強度が高まった個所をヒートマップ化する。よって方法3では、測距センサ単体での実力値を正確に表示しつつ、重なり合いによって検知強度が高くなっている個所も表示できるため、方法1と方法2のメリットを備えた方法となる。
【0056】
図15は、ヒートマップ化の効果を説明する図である。図10(b)のような検知強度分布を考慮しない表記方法では検出強度分布は可視化できておらず、測距センサ1a~1hで領域29の内側が不足なくカバーできているように見える。しかし、図13、14に述べたヒートマップ化を適用すると、図15(a)のように表示され、実際は白色で表示される領域29aのように検知強度が低い個所が生じていることが目視で確認できる。この検知強度が低い領域をなくすように改善するために、図10(a)のように測距センサを対面させて配置した例を説明する。
【0057】
図15(b)は、図10(a)の対面配置の場合をヒートマップ化したものである。この場合にも、2つの測距センサ1a、1bの中央付近の領域29bにおいて検知強度が低くなっている可能性があることが分かる。
【0058】
そこで、図15(c)のように2つのセンサ1a、1bの位置を近づければ、検知強度の低い領域29bがなくなり、検知強度が高められたことを容易に確認できる。
【0059】
このように本実施例によれば、測距センサの検知強度分布を重ね合わせも考慮してヒートマップ化し、検知強度が低くなる可能性がある領域をシミュレータ上でセンサ設置の段階で把握することができる。そして、その領域をなくするようにセンサを設置することで、設置作業者の調整負荷を軽減したり、設置の際に作業者の設置スキルに依存せず、最適な設置を行ったりすることが可能となる。また、シミュレータ上で表示する検知強度を測距センサの仕様と合わせることで、より正確な設置シミュレーションが可能となる。
【実施例2】
【0060】
実施例2では、測距センサで発生するオクリュージョンや障害物の影響を考慮した検知強度分布の表示について説明する。
【0061】
図16は、オクリュージョンの発生を説明する図である。測距センサ1aから見て対象物6aの背後に別の対象物6bが存在する場合、対象物6bは対象物6aに隠れた位置になるため、測距センサ1aでは対象物6bを検知できないことになる。このように、他の物体の陰になり測距センサから検知できない現象をオクリュージョンと呼ぶ。この例では、1台の測距センサ1aのみで検知可能な領域は符号37aで示され、対象物6aの背後の格子状の領域38aでオクリュージョンが発生し、この領域では対象物の検知強度が低下してしまう。
【0062】
図17は、測距センサを追加した場合のオクリュージョンの例を示す図である。図16の状態において、測距センサ1bを測距センサ1aと同じ方向を向くように追加して設置した場合である。この場合、検知可能な領域は符号37bのようになり、オクリュージョンが発生しやすい領域38bは図16での領域38aと比較すると狭くなるが、やはり検知強度が低下している領域が残ってしまう。
【0063】
図18は、測距センサ1bを測距センサ1aと対面するように追加して設置した場合である。この場合、検知可能な領域は符号37cのようになり、オクリュージョンが発生しやすい領域はほぼなくなっている。よって、前後に並んだ対象物6a,6bはいずれも検出可能である。
【0064】
図17図18から言えることは、測距センサの配置方法によってオクリュージョンの発生する確率が変化する、ということである。つまり、単純に測距センサの検知可能領域が重なっても、その配置方法によっては、検知強度が必ずしも向上するとは言えない。つまり、図14で説明したような単純な数値の加算だけでは検知強度分布を正しく表現できない場合がある。
【0065】
図19は、測距センサを追加した場合の検知強度計算の改善方法を説明する図である。センサを追加する位置(a)~(d)に応じてどのように計算すべきかを説明する。
【0066】
(a)は、測距センサ1aが設置されている位置とほぼ同じ位置に、測距センサ1bを追加した場合であり、2つの照射方向の角度差0度で、中央のマス目(ボクセル)40に対して同じ位置からから照射している。なお、説明を分かりやすくするため、中央のマス目40は、図12(b)の断面図33におけるマス目の1つ(つまりボクセルを上から見た図)を示しており、そのマス目に与えられる検知強度の数値は全て「6」であったとする。
【0067】
(a)の例では、センサ1a、1b共にA面に向けて照射されているため、図17で説明したオクリュージョンが発生しやすく、同方向からのセンサ1bの追加は検知強度の向上にはあまり寄与しない。従って(a)の場合には、図14で説明したように重なっているマス目の数値を単純に加算する方法は不適当である。センサ1a+センサ1bの検知強度の計算方法として、例えば、6+6×0=6や、6+6×0.1=6.6など、追加されたセンサ1bの検知強度に、ある一定の重み係数w(この場合w=0~0.1)を乗算して加える。こうすることで、同方向からの照射の重なり合いにおいて過度な検知強度の向上を避けることができる。
【0068】
(b)は、測距センサ1aの位置とは異なる位置に測距センサ1bを追加し、2つのセンサの照射方向が角度差90度で、双方とも中央のマス目40に向かって照射させた場合である。この場合は、センサ1aはA面、センサ1bはB面に向かって照射するため、(a)の場合よりもオクリュージョンは発生しにくく、センサ1bの追加で検知強度は(a)の場合よりも向上する。従って、(b)におけるセンサ1a+センサ1bの検知強度の計算方法は、例えば、6+6×0.3=7.8や、6+6×0.5=9のように、一方のセンサの検知強度に(a)の場合よりも大きい重み係数w(w=0.3~0.5)を乗算して加える。こうすることで、測距センサ1bの追加による検知強度を(a)の場合よりも適度に向上させて数値化できる。
【0069】
(c)は、測距センサ1aに対し、中央のマス目40を介して対向する位置に測距センサ1bを設置した場合で、2つのセンサの照射方向が角度差180度で、マス目40を照射している。この場合は、センサ1aはA面、センサ1bはC面に向かって照射するため、(b)の場合よりもオクリュージョンがさらに発生しにくく、センサ1bの追加により検知強度が向上する。従って、(c)におけるセンサ1a+センサ1bの検知強度の計算方法は、例えば、6+6×0.7=10.2や、6+6×1.0=12のように、一方のセンサの検知強度に(b)の場合よりも大きい重み係数w(w=0.7~1.0)を乗算して加える。こうすることで、測距センサ1bの追加による検知強度を(b)の場合よりも適度に向上させて数値化できる。
【0070】
(d)は、測距センサを3台設置した場合である。すなわち、(b)の状態において、測距センサ1bに対し測距センサ1cを角度差90度で追加した場合、または測距センサ1bに対し測距センサ1dを角度差180度で追加した場合であり(破線で示す)、3台のセンサは中央のマス目40に向かって照射する。その結果、マス目40に対しA面、B面、C面への照射(パターン1)、またはA面、B面、D面への照射(パターン2)のいずれかとなる。いずれのパターンも3面が照射されているため、この2つのパターンのマス目40に対する検知強度は同じ値にならなければならない。従って、既に複数の面が照射されているマス目に対し、追加で照射された時の検知強度の計算方法は、追加するセンサ(1c、1d)だけではなく、既に設置済みのセンサ(1a,1b)が照射している面や、各センサとの角度差などを考慮し、各センサの数値に乗算する重み係数を決定する必要がある。
【0071】
なお、以上で説明した重み係数の数値や計算方法は一例であり、測距センサの仕様や設置状況に応じて決めるべきである。大切な考え方は、マス目のどの方向から照射されているかを確認して計算を行う、ということである。また、本実施例ではマス目を90度、4面で分割して説明したが、180度2面や、30度12面などで照射面を管理し、重み係数wを決定し、計算することも可能である。
【0072】
次に、オクリュージョンの発生を考慮した検知強度分布の計算例を説明する。
図20は、2台の測距センサを並列に配置した場合の検知強度の計算例を示す図である。(a)はセンサの配置を、(b)は検知強度分布の計算例を示す。(a)のように、2台の測距センサ1a、1bを検知領域が一部重なるように並べて配置する。具体的には、図13で示した検知強度分布を持つ2台のセンサ1a、1bを、図14(a)と同じような検知領域の重なり(5行分)をもつように配置している。この場合、領域41aで示す部分が、2センサの検知領域が重なっているが、図19(a)に近い配置であるため、オクリュージョンの発生が予想される。
【0073】
(b)は、検知領域が重なった領域の計算方法を示す。枠42a内のマス目は、上記の重なり領域41aに対応している。センサ1aとセンサ1bが同方向からの照射(図19でマス目40の同じ面への照射)の場合は、2つのセンサ数値のうち大きい数値を採用する。つまり、2つの数値のOR処理で大きい方の数値を選択する処理である。この処理方法に基づいて重なり合ったマス目を計算した結果が、枠42a内の数値となる。図14の計算結果と比較すると、重なり領域において、単純な数値の加算が行われていないことが分かる。図17で説明した通り、対象物へ同じ方向から照射するような配置はオクリュージョンが発生しやすいことを考慮し、重なり合いが生じても検知強度の数値が過度に大きくならないよう抑えている。
【0074】
図21は、2台の測距センサを対向させて配置した場合の検知強度の計算例を示す図である。(a)はセンサの配置を(b)(c)は検知強度分布の計算例を示す。(a)のように、2台の測距センサ1a、1bを検知領域が一部重なるように対向して配置する。具体的には、図13で示した検知強度分布を持つ2台の測距センサ1a、1bを、図18と同じように向かい合わせて配置している。この時、重なった部分は領域41bで示し、(b)で示すようにマス目4列分が重なり合ったとする。この配置は図19(c)に近い配置であるため、オクリュージョンは発生しにくくなる。
【0075】
(c)は、検知領域が重なった領域の計算方法を示す。枠42bのマス目は、上記の重なり領域41bに対応している。センサ1aとセンサ1bが向かい合うような照射の場合は、単純に数値の加算を行う。この処理方法に基づいて重なりあったマス目を計算した結果が、枠42b内の数値となる。前記図20(b)の枠42aの計算結果とは異なり、重なり合ったマス目の数値を単純に加算したものである。図19(c)で説明した通り、オクリュージョンが発生しにくい測距センサの配置の場合は、数値の加算で検知強度の強さを表現できることが分かる。
【0076】
次に、検知可能領域に障害物が存在する時の検知強度分布の表示方法を説明する。
図22は、検知可能領域に障害物が存在する状態を示す図である。測距センサ1a、1bが配置され、検知可能領域には、壁43aや柱43b、43cなど、その動きを検知する必要のない障害物(黒で塗りつぶし)が存在している。これらの障害物を無視して検知強度の分布を表示させると、次のような問題が生じる。
【0077】
まず、障害物(壁)43aが高く、測距センサの検知を完全に遮蔽するような場合でも、考慮すべきではない重なり合いの領域44(斜線部分)の重なり合いが考慮して数値化されてしまう(問題点1)。また、本来表示しなくてもよい障害物(柱)43b、43cの領域の検知強度の数値が表示されてしまう(問題点2)。さらには、障害物43b、43cの後方の領域(格子部分)38c、38dでは図16で説明したオクリュージョンが発生しやすく、この領域では検知強度が弱くなることを表示できない(問題点3)。つまり障害物や、障害物によるオクリュージョンを考慮しないと、これらの検知強度が低い領域38c、38dを正しく表示できず、シミュレータでの表示上の検知強度分布が実際とは異なってしまうという問題がある。
【0078】
図23は、図22で示した問題を解決し、障害物が存在するときの検知強度分布の表示方法を説明する図である。まず、問題点1「考慮すべきではない重なり合いの領域44の重なり合いが考慮して数値化されてしまう」に対しては、障害物43aよりも後方の領域の検知強度の数値(加算分)を全て0にする。問題点2「本来表示しなくてもよい障害物43b、43cの領域の検知強度の数値が表示されてしまう」に対しても、障害物43b、43cに該当するマス目の領域の検知強度の数値を0にする。最後に問題点3「オクリュージョンが発生しやすくなる領域38c、38dで、検知強度が弱くなることを表示できない」に対しても、領域38c、38dに該当するマス目の検知強度の数値を0や通常の値よりも低い数値にする。以上のように、障害物による遮蔽やオクリュージョンを考慮したマス目の数値化を行うことで、各問題点を解決し、より実際に近い検知強度の表示が可能となる。
【0079】
次に、複数の測距センサ間で生じる干渉の問題について説明する。例えば複数のTOFセンサを同時に同じ領域内で使用すると、レーザーの干渉が発生し、距離データの精度が低下する。通常は干渉防止のために、干渉しないパルスパターンの組み合わせに従って、TOFセンサ毎に異なるパルスパターンを設定することで、この干渉を抑制することが可能である。しかし、設定ミスや設定漏れなどで、ユーザが干渉発生に気付かない場合もある。そこで、この干渉発生がシミュレータ画面上で設定時に可視化できれば、設定ミスや設定漏れを発見しやすくなる。
【0080】
図24は、複数の測距センサ1a,1bが互いに干渉する場合の表示方法を説明する図である。例えば、設置した2台のセンサの検知領域が重なった領域45では、干渉が発生しやすくなるので、この領域45をユーザに分かりやすく通知するように表現する。干渉発生領域を通知するために、可視化した時に、「領域45を点滅させる」、「ヒートマップで使用している色とは異なる色で表示する」、「斜線などのパターンで表示する」などの表現方法が有効である。また、領域45そのものを目立たせるのではなく、センサ1a、1bの表示色を変えたり点滅させたりして、ユーザに通知してもよい。3台以上の測距センサが重なり合った場合は、それぞれに対して干渉がないかをチェックして表示させることもできる。
【0081】
以上に述べた各手法により、測距センサの設置シミュレータを用いて検知強度分布を表示し、複数の測距センサを好適に設置する手順を説明する。
図25は、測距センサの設置の手順の一例を示すフローチャートである。ここでは、測距センサとしてTOFセンサを例にステップ順に説明する。
【0082】
S101:設置シミュレータ上で実際にTOFセンサを設置する領域(例えば店舗のフロアマップ)を読み込んで、検知したい領域が照射される向きとなるようにTOFセンサを追加していく。
S102:複数のTOFセンサを同時に同じエリア内で使用するとレーザーの干渉が発生し、距離データの精度が低下するため、TOFセンサ毎に互いに干渉しないような異なるパルスパターンを設定する。
【0083】
S103:TOFセンサの物理的な設置位置に応じて、TOFセンサ内でもつ座標軸を実空間の座標軸と合わせるため、角度や高さの調整を行う。
S104:複数のTOFセンサが取得するデータを1つの動線としてつなぎ合わせるために、TOFセンサの位置や方向を合わせこむ。S103、S104はキャリブレーション処理と呼ばれ、実際にTOFセンサと設置シミュレータが接続されている場合は、表示装置2が各TOFセンサに指示を出して実施する。
【0084】
S105:各TOFセンサの検知強度分布を、検知可能領域の重なり合いや障害物を考慮し、色や濃淡で表示(ヒートマップ化)する。
S106:ユーザは、設置シミュレータに表示された検知強度分布の判定を行う。判定の結果、(A1)~(A3)に分岐する。まず(A1)は、検知強度分布に問題なく、TOFセンサの台数の過不足もない場合であり、これで処理を終了する。
【0085】
S107:判定結果が(A2)であり、検知強度の弱い領域があるが現在のTOFセンサの台数では調整不可と判断した場合は、TOFセンサの追加を行い、S102に戻る。
S108:判定結果が(A3)であり、検知強度の弱い領域はなく、現在のTOFセンサの台数は余剰と判断した場合は、余剰なTOFセンサの削除を行い、処理を終了する。
【0086】
このように、設置シミュレータを用いて検知強度分布を表示し、ユーザはこれを確認することで測距センサを好適に設置することができる。特に、S105のヒートマップ化表示のステップでは、本実施例で取り上げたオクリュージョンや障害物の影響を考慮した検知強度分布を表示することで、より現実の測定環境に即した精度の高い表示を行うことができる。
【実施例3】
【0087】
前記実施例1、2では、光強度に基づき検知強度分布を表現するものであったが、実施例3では、検知強度を点群数で表現する方法について説明する。
【0088】
図26は、ボクセルの位置により点群数が変化することを説明する図である。測距センサ内のある光源52から光が照射され、測距センサの視野角54の範囲内にボクセルが配置されている。説明しやすいように、測定範囲内のボクセル(サイズは設計者が決める)をいくつか抜き出し、55a、55b、55cで示す。光源52から4本の光線53(光の進む方向を矢印で示す)を出射している場合を想定する。
【0089】
図から分かるように、光源52に最も近い位置のボクセル55aには、4本の光線53が全て照射され、次のボクセル55bには2本の光線が照射され、最も遠いボクセル55cには1本の光線のみが照射される。よって、光源52からの距離に応じて、ボクセルに照射される光線53の本数が変化することが分かる。このように、光源52に近いボクセルほど光線53(光の矢)の当たる本数が多く、言い換えれば、測距センサが点群として捉える数(=点群数)が多くなる。一方、光源52から遠いボクセルほど光線の当たる本数が少なく、つまり、測距センサが点群として捉える数(=点群数)が少なくなる。
【0090】
図27は、図26の光線の状態を上から見た図である。水平画角αhの範囲に光が照射されており、各ボクセル55a、55b、55cにおいて入射する光線の数(入射面と光線の交点の数)を示している。図26と同じように、各ボクセルでの光線数は、それぞれ4個、2個、1個となり、光源からの距離が遠くなるにつれて測距センサが点群として捉える数(点群数)が減少していくのが分かる。
【0091】
図28は、図26図27の説明をさらに詳細に行う図である。測距センサ1を上からみた図であり、光源から垂直に伸ばした線を57、各ボクセル55a、55b、55cまでの距離をd、水平視野角をαhとする。ボクセル55aの位置で、線57と垂直なライン60a上で隣接する他のボクセルを視野角範囲内に並べる。すると、図面右側の拡大図で示すように、ライン60aに並べたボクセル列61aとなり、この例ではボクセル数は10個含まれる。同様に、ボクセル55b、55cの位置では、ライン60b、60cに示すボクセル列61b、61cとなり、これらに含まれるボクセル数はそれぞれ14個、20個となる。なお、これは床面からある高さにある平面におけるボクセル数である。
【0092】
対象物で反射した光は、図面左下に示す2次元センサ13(図3参照)で受光する。この2次元センサ13の水平画素数Phが80画素とすると、水平方向はボクセル列61aの範囲をこの80画素で受光することになる。ボクセル列61aではボクセル数が10個であり、1ボクセル当たり80画素/10個(=8画素、図中の8メモリ相当)で受光する。これを「点群相当数」と呼び、ボクセル内にある対象物を点群相当数(この例では8個)で表現することができる。同様に、ボクセル列61bの範囲ではボクセル数は14個なので、1ボクセル当たり80画素/14個(=約5.7画素、図中の5.7メモリ相当、点群相当数5.7個)、ボクセル列61cではボクセル数は20個なので、1ボクセル当たり80画素/20個(=4画素、図中の4メモリ相当、点群相当数4個)で対象物を表現することになる。よって、測距センサからの距離が離れると1ボクセルを表現するための画素数(点群相当数、メモリ数)が減少していく。
【0093】
対象物6を表現する指標となる点群数が少なくなるということは、検知強度レベルが低下することを意味する。実施例1の図11図13の説明では、検知強度をボクセルに届く光強度で数値化する例で説明したが、本実施例の図26図27で説明したように、1ボクセル当たりの点群数も検知強度に大きく関連していることが分かる。
【0094】
従って、検知強度の数値化のもう1つの手法として、ボクセル当たりの点群数で表現する方法が有効である。光強度の手法と異なる点は、数値化の方法のみであり、ヒートマップ化、すなわち数値の可視化の手法は同じである。以下、点群数の数値化の方法を詳しく説明する。まず、1ボクセル当たりの点群数をどのように数値化するかを説明する。
【0095】
再び図28において、ボクセル列の長さである直線の範囲59は、測距センサからの距離dと、水平視野角αhを用いて、2*d*tan(αh/2)となる。ボクセル列61a、61b、61cで示す範囲内の1メモリの長さ(水平方向)Mhは、水平画素数Phを用いて、Mh=(2*d*tan(αh/2))/Ph、で計算できる。さらに1ボクセルの長さをLとすると、1ボクセル当たりの水平方向の点群相当数Nhは、Nh=L/Mhで計算できる。
【0096】
また図示はしないが、1ボクセル当たりの垂直方向の点群相当数Nvも、同様に計算できる。測距センサの垂直視野角αv、及び2次元センサ13の垂直画素数Pvから、垂直方向の1メモリの長さMvは、Mv=(2*d*tan(αv/2))/Pv、となり、1ボクセル当たりの垂直方向の点群相当数Nvは、Nv=L/Mvとなる。よって、1ボクセルの照射面当たりの点群相当数Nは、水平方向と垂直方向を掛け合わせて、N=Nh*Nvで計算できる。
【0097】
ここで、2次元センサ13の水平画素数Phを80画素、垂直画素数Pvを40画素(水平画素数Phの半分)とすると、ライン60aにある1ボクセルの点群相当数は、図28で図示した通りの縮尺だとすると、Nh=8、Nv=4となるため、N=8*4=32となる。また、ライン60cにある1ボクセルの点群相当数は同様に計算して、N=4*2=8となる。この計算例は一例であるが、測距センサからの距離d、ボクセルサイズL、視野角αが分かれば、点群相当数の数値化が可能であり、光強度を数値化した方法と同様に1ボクセル当たりの検知強度を数値化できることになる。
【0098】
以上のように、検知強度を示すための数値化方法は、ボクセルにおける「光強度」と「点群数」の2種類があり、どちらを使っても数値化できることを示した。さらには他の方法として、この2つの数値化方法を組み合わせて、両者の積「光強度×点群数」を指標に数値化して使用することも可能である。これについて以下説明する。
【0099】
例えば、ライン60aにおいて、あるボクセルに与えられた点群相当数が32、光強度の数値が9だとすると、両者の積は32*9=288と計算される。またライン61cにおいて、あるボクセルに与えられた点群相当数が8、光強度の数値が3だとすると、積は8*3=24となる。この結果より、近距離にあるボクセルは光強度が強く、点群数も多くなるため、両者の積はより数値が強まる方向で、遠距離にあるボクセルは光強度が弱く、点群数も少なくなるため、両者の積はより数値が弱まる方向であることが分かる。なお、これは計算の一例であり、実際には、それぞれの数値に重み係数などを掛けて実情に合わせて数値化することが好ましい。
【0100】
このように、本実施例で説明した点群数による検知強度の表現法は、前記実施例1、2で述べた光強度による表現法に置き換えて、あるいは光強度による表現法と組み合わせて同様に用いることができ、またその効果も同様に得られる。
【0101】
以上、各実施例によれば、測距センサからの距離に応じてボクセル単位で検知強度の数値化を行い、お互いの照射方向や障害物などを考慮した検知強度のヒートマップ化を行うことで、設置作業者の作業負荷を軽減し、容易に設置作業を実施できる測距システム及び測距センサの検知度分布表示方法が提供可能となる。
【0102】
本発明は、測距センサと対象物までの距離に応じて検知強度が変化するようなLiDAR、RADAR、超音波などの距離を測定するセンサに適用可能である。
【符号の説明】
【0103】
1,1a,1b:測距センサ(TOFセンサ)、
2:検知強度分布表示装置(表示装置)、
3:ネットワーク、
4:床面、
5:天井、
6:対象物(人物)、
7:発光部、
8:受光部、
9:発光制御部、
10:距離計算部、
11:照射光、
12:反射光、
13:2次元センサ、
30:小さな立方体(ボクセル)、
31:大きな立方体、
40:マス目(ボクセル)、
43a,b,c:障害物、
46:モニタ、
47:測距センサ設置情報設定部、
48:測距センサ仕様設定部、
49:空間分割部、
50:検知強度数値化部、
51:可視化部、
52:光源、
53:光線、
55a,b,c:ボクセル、
αv:垂直画角、
αh:水平画角。
図1
図2
図3
図4
図5
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