(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】表層型ガスハイドレートの回収方法及び表層型ガスハイドレートの回収システム
(51)【国際特許分類】
E21B 43/00 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
E21B43/00 A
(21)【出願番号】P 2020142244
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】391064625
【氏名又は名称】三井海洋開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和則
(72)【発明者】
【氏名】横田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】望月 幸司
(72)【発明者】
【氏名】岩本 駿介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 茂
【審査官】佐久間 友梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-166476(JP,A)
【文献】特開2018-076743(JP,A)
【文献】特開2016-176314(JP,A)
【文献】特開2016-108774(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0211654(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 43/00
E21C 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底面から水底面下100m以内の範囲に塊状で存在する表層型ガスハイドレートの回収方法であって、
ガスハイドレートを含む水底面を掘削して掘削面に近づけた揚収管の吸入口から掘削物を水と共に吸入して揚収することで前記ガスハイドレートを回収する揚収工程と、
掘削を停止して、水の吸入を続けながら前記吸入口を次の掘削地点まで水中を移動することで、掘削時の前記揚収管内の水よりガス飽和率の低い移動経路上の水を吸入して前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートを溶解させて除去する付着物除去工程と、
前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を検出する付着量検出工程を実施
し、
前記揚収工程中、および/または前記付着物除去工程中、および/または前記揚収工程の終了後かつ前記付着物除去工程の前に、前記付着量検出工程を行い、検出した前記ガスハイドレートの付着量に基づき、前記揚収工程の掘削を停止させる、および/または前記付着物除去工程の移動条件を選定することを特徴とする表層型ガスハイドレートの回収方法。
【請求項2】
前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を前記揚収工程中に検出する揚収中付着量検出工程を実施し、
前記付着物除去工程は、
前記揚収中付着量検出工程で検出した前記ガスハイドレートの付着量が予め定められた上限以上になると掘削を停止して、前記揚収管の前記吸入口を次の掘削地点に移動する工程である請求項1に記載の表層型ガスハイドレートの回収方法。
【請求項3】
前記付着物除去工程は、
前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を前記吸入口の移動中に検出する移動中付着量検出工程と、
前記移動中付着量検出工程で検出した前記ガスハイドレートの付着量が多くなるほど、移動中の前記ガスハイドレートの溶解量が多くなるように前記吸入口の移動条件を変更する移動条件変更工程と、
を実施する請求項1又は2に記載の表層型ガスハイドレートの回収方法。
【請求項4】
前記移動条件変更工程は、
前記移動中付着量検出工程で検出した前記ガスハイドレートの付着量が多くなるほど前記吸入口の移動速度を遅くし、少なくなるほど前記吸入口の移動速度を速くする工程である請求項3に記載の表層型ガスハイドレートの回収方法。
【請求項5】
前記移動条件変更工程は、
前記移動中付着量検出工程で検出した前記ガスハイドレートの付着量が多くなるほど前記揚収管が吸入する水の流速を速くし、少なくなるほど流速を遅くする工程である請求項3又は4に記載の表層型ガスハイドレートの回収方法。
【請求項6】
前記移動条件変更工程は、
前記移動中付着量検出工程で検出した前記ガスハイドレートの付着量が多くなるほど次の掘削地点までの経路が長くなるように、少なくなるほど次の掘削地点までの経路が短くなるように前記吸入口の移動経路を変更する工程である請求項3~5のいずれか一項に記載の表層型ガスハイドレートの回収方法。
【請求項7】
前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を前記揚収工程の終了後で、かつ前記付着物除去工程の前に検出する移動前付着量検出工程と、
前記移動前付着量検出工程で検出した前記ガスハイドレートの付着量に基づき、次の掘削地点に到達するまでに前記ガスハイドレートの付着量が予め定められた所定量未満になるように次の掘削地点及び移動条件を選定する選定工程を実施する請求項1~6のいずれか一項に記載の表層型ガスハイドレートの回収方法。
【請求項8】
水底面から水底面下100m以内の範囲に塊状で存在する表層型ガスハイドレートを含む水底を掘削する掘削機と前記掘削機に設けられ掘削物を吸入する揚収管と前記揚収管に接続され吸入力を生成する吸入機構を備える掘削装置と、前記掘削装置を移動させる移動機構と、前記掘削機、前記吸入機構、及び前記移動機構を制御する制御部を備える表層型ガスハイドレートの回収システムであって、
前記揚収管は、その内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を検出する検出部を有し、
前記制御部は、
前記掘削機を駆動してガスハイドレートを含む水底面を掘削して、前記吸入機構を駆動して前記揚収管から掘削物を水と共に吸入して前記ガスハイドレートを回収し、
回収が終了すると前記掘削機の駆動を停止し、水の吸入を続けながら前記移動機構を駆動して前記掘削装置を次の掘削地点まで水中を移動することで、掘削時の揚収管内の水よりもガス飽和率の低い移動経路上の水を吸入して前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートを溶解させて除去する
と共に、前記ガスハイドレートの掘削・回収中、および/または前記掘削装置の前記揚収管の吸入口の移動中、および/または前記ガスハイドレートの回収が終了した後かつ前記掘削装置の移動を開始する前に、前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を検出し、検出した前記ガスハイドレートの付着量に基づき、前記ガスハイドレートの掘削を停止させる、および/または前記掘削装置の移動条件を選定することを特徴とする表層型ガスハイドレートの回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表層型ガスハイドレートの回収方法及び表層型ガスハイドレートの回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスハイドレートはメタン等のガスの水和物であり、燃料としての利用が期待されているが、低温、高圧環境下でないと水和物として安定して存在できないため、天然の存在箇所は海底や湖底のような水底や永久凍土層が存在する地帯に限られる。
ガスハイドレートには海底の砂層に存在する砂層型ガスハイドレートもあるが、回収のために海底から数百~数千m近くまで掘削する必要があるため、海底面から海底面下100m以内の範囲に塊状で存在する表層型ガスハイドレートが注目されている。
一方で、掘削したガスハイドレートは水と共に揚収管に吸入することで揚収するが、掘削中の揚収管内はメタンが溶解した飽和水で満たされるため、メタンの分解/ハイドレート化が平衡状態にある。そのため掘削の際にガスハイドレートが分解して生成したメタンガスが揚収管内でハイドレート化して壁面に付着して閉塞させる恐れがある。
これに対し特許文献1では表層型ガスハイドレートの掘削中に掘削地点と離れた別の場所からメタン未飽和の海水をホースで吸入して揚収管内に引き込むことで、壁面に付着したガスハイドレートをメタンに分解して海水に溶解させて除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は表層型ガスハイドレートの掘削中に再ハイドレート化による揚収管の閉塞を防止できる点で有用である。
一方で特許文献1の技術ではメタン未飽和の水を揚収管内に引き込むホースやポンプが必要になり、重量やコストの面で改善の余地がある。また、引き込み用のホースやポンプがない既存の掘削装置に適用できない。そのため揚収管内の温度や圧力制御や添加剤注入で揚収管内を非平衡状態にしたり、揚収管内にピグを投入して付着物を機械的に除去したりする方法が必要となり、費用とコストを要する点も改善の余地がある。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、装置の構造によらず、重量やコストを増加させずにガスハイドレートによる揚収管の閉塞を防止できる表層型ガスハイドレートの回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、水底面から水底面下100m以内の範囲に塊状で存在する表層型ガスハイドレートの回収方法であって、ガスハイドレートを含む水底面を掘削して掘削面に近づけた揚収管の吸入口から掘削物を水と共に吸入して揚収することで前記ガスハイドレートを回収する揚収工程と、掘削を停止して、水の吸入を続けながら前記吸入口を次の掘削地点まで水中を移動することで、掘削時の前記揚収管内の水よりガス飽和率の低い移動経路上の水を吸入して前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートを溶解させて除去する付着物除去工程と、前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を検出する付着量検出工程を実施し、前記揚収工程中、および/または前記付着物除去工程中、および/または前記揚収工程の終了後かつ前記付着物除去工程の前に、前記付着量検出工程を行い、検出した前記ガスハイドレートの付着量に基づき、前記揚収工程の掘削を停止させる、および/または前記付着物除去工程の移動条件を選定することを特徴とする。
【0006】
本発明の他の態様は、水底面から水底面下100m以内の範囲に塊状で存在する表層型ガスハイドレートを含む水底を掘削する掘削機と前記掘削機に設けられ掘削物を吸入する揚収管と前記揚収管に接続され吸入力を生成する吸入機構を備える掘削装置と、前記掘削装置を移動させる移動機構と、前記掘削機、前記吸入機構、及び前記移動機構を制御する制御部を備える表層型ガスハイドレートの回収システムであって、前記揚収管は、その内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を検出する検出部を有し、前記制御部は、前記掘削機を駆動してガスハイドレートを含む水底面を掘削して、前記吸入機構を駆動して前記揚収管から掘削物を水と共に吸入して前記ガスハイドレートを回収し、回収が終了すると前記掘削機の駆動を停止し、水の吸入を続けながら前記移動機構を駆動して前記掘削装置を次の掘削地点まで水中を移動することで、掘削時の揚収管内の水よりもガス飽和率の低い移動経路上の水を吸入して前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートを溶解させて除去すると共に、前記ガスハイドレートの掘削・回収中、および/または前記掘削装置の前記揚収管の吸入口の移動中、および/または前記ガスハイドレートの回収が終了した後かつ前記掘削装置の移動を開始する前に、前記揚収管の内壁に付着した前記ガスハイドレートの付着量を検出し、検出した前記ガスハイドレートの付着量に基づき、前記ガスハイドレートの掘削を停止させる、および/または前記掘削装置の移動条件を選定することを特徴とする。
【0007】
この構成では、ある掘削地点での掘削終了後に水の吸入を続けながら揚収管の吸入口を次の掘削地点に移動することで、移動経路上のガス飽和率の低い水を吸入して、揚収管の内壁に付着したガスハイドレートを溶解させる。
よって、ガス飽和率の低い水を引き込むホースやポンプを別置する必要が無いので、装置の構造によらず、重量やコストを増加させずにガスハイドレートによる揚収管の閉塞を防止できる。
また、この構成では次の掘削地点への移動中に水を吸入するだけで揚収管の内壁に付着したガスハイドレートを除去できるため、除去のための作業工程を別途設ける必要もなく、工数増によるコスト増加も抑制できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、装置の構造によらず、重量やコストを増加させずにガスハイドレートによる揚収管の閉塞を防止できる表層型ガスハイドレートの回収方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る表層型ガスハイドレートの回収方法に用いられる回収システムの概要を示す側面図である。
【
図2】
図1の領域Rの拡大図であって、(a)はメタンハイドレートの掘削中を、(b)は(a)の掘削地点で掘削終了後の次の掘削地点への移動中を示す。
【
図3】
図1の回収システムの機能ブロック図である。
【
図4】表層型ガスハイドレートの回収方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づき本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。
まず
図1~
図3を参照して本実施形態に係る表層型ガスハイドレートの回収方法に用いられる回収システム1の概略構成を説明する。
ここでは回収システム1として掘削船100に搭載されたシステムであって、海底201の水底面から水底面下100m以内の範囲に塊状で存在するメタンハイドレート層203を掘削してメタンハイドレート207(MH)を回収するシステムを例示する。
図1~
図3に示すように回収システム1は掘削装置3、移動機構5、及び制御部7を備える。
【0011】
掘削装置3はメタンハイドレート層203を掘削してメタンハイドレート207を回収する装置であり、掘削機9、揚収管11、ポンプ13、及び検出部15を備える。
掘削機9はメタンハイドレート層203を掘削する円筒状の回転式ドリルである。掘削機9は円筒の底面に掘削用の突起やカッターが突設されており、メタンハイドレート層203が埋設された海底201の表層に底面を接触させ円筒の軸を中心に
図2(a)のA方向に回転させながら下降させてメタンハイドレート層203を掘削する。
【0012】
図2(a)では掘削用の突起の例としてドリルビット9aを例示している。ドリルビット9aは掘削機9よりも径の小さいドリルであり、掘削機9に対して回転可能に取り付けられるが、掘削機9に対して回転しないように掘削機9に固定してもよい。
【0013】
掘削機9を回転させる動力は、例えば掘削船100内の主機や発電機の動力を利用できる。この場合、この動力を利用した回転機構を掘削船100の暴露甲板上に設け、図示しない動力伝達軸を揚収管11内に設けて動力を掘削機9に伝達すればよい。
【0014】
揚収管11は
図2(a)の白矢印で示すように掘削機9が掘削した掘削物を海水と共に吸入してメタンハイドレート層203からメタンハイドレート207を回収する管であり、掘削機9に設けられる。より具体的には
図2(a)に示すように、揚収管11の先端であり掘削物を吸入する吸入口11aが掘削機9の円筒の内部に配置される。
揚収管11は要求される掘削物の揚収量に対応した内径寸法を有し、掘削物や海水が内壁に接触しても損傷、腐食しない物性と、海流で変形しない程度の強度を備えたものであれば公知のライザー管を用いることができる。なお、メタンハイドレート層203はメタンハイドレート207を含む地層であるが、
図2(a)に示すようにメタンハイドレート207は泥205に埋まった状態で存在するため、掘削物は泥205とメタンハイドレート207の両方である。
【0015】
図3に示すポンプ13は、掘削機9が掘削した掘削物や海水を掘削地点の上方、ここでは掘削船100まで引き上げるための吸入力を生成する吸入機構としての流体機械であり、揚収管11に接続される。メタンハイドレート207は海水や泥等の他の揚収管11が吸入した物質よりも密度が小さいため、外力を付与しなくても浮力で掘削地点の上方に移動するが、本実施形態では海水のみを吸入する場合もあるため、ポンプ13が設けられる。
ポンプ13は所望の流量の掘削物及び海水を吸入できるのであれば公知のポンプを利用でき、例えば水中に設置された流体ポンプが例示できる。ただし、吸入機構は掘削物及び海水を吸入できればよいので、揚収管11内にガスを注入して掘削物及び海水を吸入するガスリフト方式の装置を吸入機構として用いてもよい。
【0016】
検出部15は揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aを検出する装置であり、必要に応じて揚収管11に設けられる。検出部15を設ける理由は以下の通りである。
掘削機9はメタンハイドレート層203中のメタンハイドレート207を表層の泥205ごと掘削し、揚収管11はこれらの掘削物と共に海水も吸入する。そのため、掘削中の揚収管11内はメタンハイドレート207、泥205、及び掘削地点の海水で満たされる。
また、メタンハイドレート層203中にはメタンハイドレート207だけでなく、メタンガスも存在する。さらに、メタンハイドレート207は低温、高圧環境下でないと水和物として安定して存在できないため、掘削時の環境によってはメタンガスに分解する。これらのメタンガスは海水中に溶解するため、揚収管11内の海水はメタンが溶解した飽和水となり、メタンハイドレートが分解してメタンが生成する反応とメタンが水和物化してメタンハイドレートになる反応が揚収管11内で平衡状態になる。この状態では掘削時に揚収管11内でメタンが発生すると平衡状態になろうとして揚収管11内でメタンがハイドレート化して壁面に付着して揚収管11を閉塞させる恐れがある。
そのため検出部15で内壁に付着したメタンハイドレート207aの位置及び寸法を検出するのが好ましい。
【0017】
検出部15は内壁に付着したメタンハイドレート207aの位置及び寸法を検出できるのであれば構造は適宜選択できる。
例えば
図2(a)では揚収管11の外壁に設けた超音波検査装置15aを検出部15として例示している。この構造では揚収管11の外壁側から内壁側に超音波を照射して反射波からメタンハイドレート207aの付着位置及び付着物の揚収管11の径方向の長さを検出できる。
検出部15が超音波検査装置15aの場合、予めメタンハイドレート207aが付着しやすい場所に固定してもよい。あるいは検出部15を固定せずに図示しないアクチュエータ等で揚収管11の外壁を、揚収管11の軸方向である
図2(a)のB1、B2の向き、及び径方向であるB3の向きに移動可能に構成してもよい。
【0018】
検出部15としては
図1に示すカメラ15b等の撮像装置も例示できる。この場合は撮像装置のレンズを揚収管11の内部に配置して内壁を撮像し、画像解析等でメタンハイドレート207aの付着位置及び径方向の長さを検出すればよい。
【0019】
移動機構5は掘削装置3を海中で水平移動及び垂直移動させる機構である。
図1では回収システム1が掘削船100に搭載されているため、水平移動させる機構は掘削船100を航行させるプロペラや主機を例示できる。垂直移動させる機構は揚収管11がライザー管の場合、ライザー管を巻き上げるプルインウィンチが挙げられる。ただし移動機構5は正確には揚収管11の吸入口11aの水平移動及び垂直移動ができればよいので、必ずしも掘削装置3及び掘削船100の全体を移動させる構成でなくてもよい。
【0020】
制御部7は掘削機9、ポンプ13、及び移動機構5の駆動を制御するコンピュータであり、
図1では掘削機9の甲板室に設けられたコンピュータを例示している。
図1では移動機構5として掘削船100を航行させるプロペラや主機を例示しているため、
図1の制御部7は掘削船100の航行を制御するコンピュータでもあるが、航行を制御するコンピュータと別のコンピュータでもよい。
【0021】
制御部7は掘削機9を駆動して
図2(a)に示すようにメタンハイドレート207を含む水底面を掘削しながらポンプ13を駆動して、揚収管11から掘削物を海水と共に吸入してメタンハイドレート207を回収する。この工程を揚収工程ともいう。
【0022】
予め定められた所定の深さだけ掘削地点を掘削するか、掘削開始から所定の時間が経過する等してメタンハイドレート207の回収が終了すると制御部7は掘削機9の駆動を停止して、次の掘削地点に掘削装置3を海中で移動させる。
この際、
図2(b)の白矢印に示すように制御部7は吸入口11aからの海水の吸入を続けながら移動機構5を駆動して、掘削装置3を鉛直方向であるZ方向に、掘削前の水底面の高さより数m程度上方の高さまで上昇させる。さらに水平方向であるX方向及びY方向に所定の距離だけ移動して次の掘削地点の上方まで掘削装置3を移動させる。さらにZ方向に下降させて掘削装置3を次の掘削地点に配置する。移動の際には吸入口11aも移動するので、掘削時の揚収管11内の海水よりもガス飽和率の低い移動経路上の海水を吸入口11aから吸入して揚収管11内の海水をメタン不飽和状態にする。これにより揚収管11内を非平衡状態にする。この状態では内壁に付着したメタンハイドレート207aは平衡状態になろうとしてメタンに分解してメタン不飽和の海水に溶解する。制御部7は、この反応で内壁に付着したメタンハイドレート207aを除去する。この工程を付着物除去工程ともいう。
【0023】
このように回収システム1は、掘削終了後に海水の吸入を続けながら揚収管11の吸入口11aを次の掘削地点に移動することで、移動経路上のガス飽和率の低い海水を吸入して、揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aを溶解させる。
つまり、ガス飽和率の低い場所から海水をホースで揚収管11内に引き込むのではなく、ガス飽和率の低い海水がある場所に揚収管11の吸入口11aを移動して海水を吸入する。
【0024】
この構成では海水を揚収管11内に引き込むのは
図2(a)に示すように掘削時に掘削物を引き込む吸入口11a及びポンプ13であり、ガス飽和率の低い海水を引き込むホースやポンプを別置する必要が無い。そのため、海水を引き込むホースやポンプのない従来の回収システム1でも、制御部7のプログラムを本実施形態と同じものに変更するだけで揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aを溶解させられる。そのため装置の構造によらず、重量やコストを増加させずにメタンハイドレート207aによる揚収管11の閉塞を防止できる。
【0025】
またこの構成では次の掘削地点への移動中に海水を吸入するだけで揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aを除去できるため、除去のための作業工程を別途設ける必要もなく、工数増によるコスト増加も抑制できる。
【0026】
制御部7は、検出部15が検出したメタンハイドレート207aの付着量に基づき掘削条件を変更してもよい。
例えば掘削時に掘削物を揚収管11内に揚収中に、メタンハイドレート207aの付着量を検出部15に検出させ、付着量が予め定められた上限以上になると掘削を停止して揚収管11の吸入口11aを次の掘削地点に移動させてもよい。
予め定められた上限とは、メタンハイドレート207aの寸法のうち、揚収管11の径方向寸法が、このまま掘削を続けると掘削量が目標掘削量に達する前に揚収管11が閉塞される恐れがある程度の寸法になる量を例示できる。
【0027】
この構成では掘削中に揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aの量が上限以上になると掘削を停止して次の掘削地点に移動する。これにより移動経路上のガス飽和率の低い海水を吸入して、揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aを溶解させる。
そのため掘削中にメタンハイドレート207aで揚収管11が閉塞されるのを防止できる。
【0028】
なお、このように掘削中に揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aの量が上限以上になったことが理由で掘削を停止して次の掘削地点に移動する場合、「次の掘削地点」とは、掘削を停止した掘削地点と同じ地点でもよい。具体的には掘削を停止してから掘削地点から一端離れる向きに移動して移動経路上のガス飽和率の低い海水を吸入して、揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aを溶解させてから掘削を停止した地点に戻ってきてもよい。掘削を停止した掘削地点は目標となる深さまで掘削されていないため、目標となる掘削深さまで再度掘削するためである。
【0029】
制御部7は、次の掘削地点への移動中に海水を吸入している際に、検出部15が検出したメタンハイドレート207aの付着量に基づき移動条件を変更してもよい。
例えば制御部7は検出部15を駆動して揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aの付着量を揚収管11の吸入口11aの移動中に検出する。検出したメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど、メタンハイドレート207aの溶解量が多くなるように吸入口11aの移動条件を変更する。より具体的には検出したメタンハイドレート207aの付着量が予め定められた移動中上限付着量以上の場合、メタンハイドレート207aの溶解量が多くなるように吸入口11aの移動条件を変更する。「移動中上限付着量」とは、現在の移動条件で次の掘削地点に到達して掘削を開始した場合、掘削量が目標掘削量に到達する前に揚収管11が閉塞される可能性がある付着量である。
【0030】
このように揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど、メタンハイドレート207aの溶解量が多くなるように移動条件を変更してもよい。
この構成では内壁に付着したメタンハイドレート207aの除去が不十分な状態で揚収管11が次の掘削地点に到達するのを防止できる。
移動条件としては以下のものを例示できる。
【0031】
まず、移動速度を移動条件として例示できる。
具体的にはメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど吸入口11aの移動速度を遅くし、少なくなるほど移動速度を速くすればよい。
このようにメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど移動速度を遅くすることで、次の掘削地点に到達するまでに揚収管11内に吸入されるメタン未飽和の海水の量を増やすことができる。これにより海水中に溶解するメタンハイドレート207aの溶解量を多くできる。よって内壁に付着したメタンハイドレート207aの除去が不十分な状態で揚収管11が次の掘削地点に到達するのを防止できる。
なお、移動速度は常に一定である必要はない。例えば移動速度を遅くする場合、移動経路上で一次停止したり、次の掘削地点に到着後に掘削を直ちに開始せずに待機したりすることで平均速度を遅くしてもよい。
【0032】
揚収管11が吸入する海水の流速も移動条件として例示できる。
具体的にはメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど揚収管11が吸入する海水の流速を速くし、少なくなるほど流速を遅くすればよい。
このようにメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど吸入する海水の流速を速くすることで、次の掘削地点に到達するまでに揚収管11内に吸入されるメタン未飽和の海水の量を増やすことができる。これにより海水中に溶解するメタンハイドレート207aの溶解量を多くできる。
【0033】
移動経路も移動条件として例示できる。
具体的にはメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど次の掘削地点までの経路が長くなるように、少なくなるほど次の掘削地点に移動するまでの経路が短くなるように吸入口11aの移動経路を変更すればよい。
次の掘削地点までの経路を長くする具体的な方法としては、次の掘削地点に移動するまでの経路を最短距離ではなく、敢えて遠回りになるような経路とすればよい。変更する経路は水平方向でも鉛直方向でもよく、両方でもよい。あるいは、次の掘削地点の候補が複数ある場合、移動予定の掘削地点よりも遠方にある別の掘削地点に、次の掘削地点を変更してもよい。
このようにメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど移動経路を長くして移動に要する時間を長くすることで、次の掘削地点に到達するまでに揚収管11内に吸入される海水の量を増やすことができる。これにより移動中に海水に溶解するメタンハイドレート207aの溶解量を多くできる。
【0034】
移動条件は移動速度、流速、移動経路のいずれか1つを各々の利点を考慮して選択してもよいし、複数を同時に実施してもよい。
例えば移動速度を変更する構成は、海水の吸入量や揚収管11の移動経路を変更する必要がないので、これらの変更が困難な装置に好適である。
流速を変更する構成は移動時間や移動経路が変わらないので、掘削時の作業時間を変えずにメタンハイドレート207aの溶解を促進させたい場合に好適である。
移動経路を変更する構成では移動速度や吸入速度を変える必要が無いので、移動中にこれらの変更が困難な装置に好適である。
以上が移動条件の例示である。
【0035】
揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aの付着量を検出部15が検出するのは、掘削中や移動中に限定されない。
例えば、ある地点での掘削終了後で、かつ次の掘削地点への移動前にメタンハイドレート207aの付着量を検出部15が検出してもよい。この場合、検出した付着量に基づき、次の掘削地点に到達するまでに付着量が予め定められた所定量未満になるように次の掘削地点及び移動条件を選定してもよい。例えばメタンハイドレート207aの付着量が多くなるほど遠方の掘削地点を次の掘削地点として選定したり、揚収管11の移動速度を遅くしたりしてもよい。この構成では掘削中や移動中に掘削条件や移動条件を変更しなくてもメタンハイドレート207aの付着量を所定量未満にできる。なお、ここでいう予め定められた所定量とは、移動中上限付着量と同様に、現在の移動条件で次の掘削地点に到達して掘削を開始した場合、掘削量が目標掘削量に到達する前に揚収管11が閉塞される可能性がある付着量である。
【0036】
なお、回収システム1には泥205を含む掘削物からメタンハイドレート207を分離する装置や、分離したメタンハイドレート207を貯蔵する装置も設けられるが、これらは公知の装置を用いればよいので、図示及び詳細な説明を省略する。
以上が本実施形態に係るメタンハイドレート207の回収方法に用いる回収システム1の構成の説明である。
【0037】
次に
図4を参照して本実施形態に係るメタンハイドレート207aの回収方法の具体例を説明する。
まず制御部7は移動機構5としての掘削船100の推進装置を移動させる等して掘削装置3を掘削船100ごと水平方向に移動させ、揚収管11の吸入口11aを掘削地点の真上に配置する。
次に制御部7は移動機構5としてのプルインウィンチを駆動する等して揚収管11を海底201に向けて繰り出し、掘削機9の底面を掘削地点の掘削面に接触させる。これにより吸入口11aを掘削面に近づける。
【0038】
次に
図2(a)に示すように制御部7は掘削機9を回転させながら下降させ、ドリルビット9aでメタンハイドレート207aを含むメタンハイドレート層203である水底面の掘削を開始する。同時に制御部7はポンプ13を駆動して掘削面に近づけた揚収管11の吸入口11aから掘削物を海水と共に吸入して揚収することでメタンハイドレート207aを回収する(
図4のS0、揚収工程)。
【0039】
次に制御部7は検出部15を駆動して揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aの付着量を揚収工程中に検出する(
図4のS1、揚収中付着量検出工程)。
次に制御部7は、S1で検出したメタンハイドレート207aの付着量が上限未満か否かを判断する。上限未満の場合はS3に進み、上限未満でない場合はS2-2に進む(
図4のS2)。
S2で付着量が上限未満でない場合、つまり上限以上の場合、掘削を続けると揚収管11が閉塞する恐れがあるため、掘削中の掘削地点での掘削を停止してS4に進む(
図4のS2-2)。
【0040】
S2で付着量が上限未満の場合、制御部7は掘削時間や掘削した深さ等から掘削中の掘削地点での掘削量が目標掘削量以上か否かを判断し、目標掘削量以上の場合はS4に進み、目標掘削量以上でない場合は掘削を続けてS1に戻る(
図4のS3)。
S2で付着量が上限以上の場合、及びS3で掘削量が目標掘削量以上の場合、制御部7は掘削機9の駆動を停止して掘削を停止する(
図4のS4)。ただしポンプ13による海水の吸入は続ける。
【0041】
次に制御部7は検出部15を駆動して揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aの付着量を、揚収工程終了後で、かつ付着物除去工程前に検出する(
図4のS5、移動前付着量検出工程)。
制御部7はS5で検出したメタンハイドレート207aの付着量に基づき、次の掘削地点に到達するまでにメタンハイドレート207aの付着量が所定量未満になるように次の掘削地点又は移動条件を選定する(
図4のS6、選定工程)。
【0042】
次に制御部7はポンプ13による海水の吸入を続けながら移動機構5を駆動して揚収管11の吸入口11aを次の掘削地点まで移動する。これにより、
図2(b)に示すように掘削時の揚収管11内の海水よりもガス飽和率の低い移動経路上の海水を吸入して、揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aを、吸入した海水に溶解させて除去する(
図4のS7、付着物除去工程)。
【0043】
次に制御部7は、検出部15を駆動して揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aの付着量を揚収管11の吸入口11aの移動中に検出する(
図4のS8、移動中付着量検出工程)。
次に制御部7は、S8で検出したメタンハイドレート207aの付着量が移動中上限付着量未満か否かを判断する。移動中上限付着量未満の場合はS10に進み、移動中上限付着量未満でない場合はS11に進む(
図4のS9)。
S9で検出したメタンハイドレート207aの付着量が移動中上限付着量未満の場合、制御部7は揚収管11の吸入口11aの移動条件を変更せずに次の掘削地点まで移動してリターンする(
図4のS10)。
【0044】
S9で検出したメタンハイドレート207aの付着量が移動中上限付着量未満でない場合、つまり移動中上限付着量以上の場合、制御部7はメタンハイドレート207aの溶解量が多くなるように揚収管11の吸入口11aの移動条件を変更する。さらに変更した移動条件で次の掘削地点まで移動してリターンする(
図4のS11、移動条件変更工程)。具体的には移動速度、吸入する海水の流速、移動経路のいずれか又は複数を変更する。
【0045】
移動速度を変更する場合、吸入口11aの移動速度を遅くする。吸入する海水の流速を変更する場合、吸入する海水の流速を速くする。移動経路を変更する場合、次の掘削地点までの経路が長くなるように吸入口11aの移動経路を変更する。
以上が本実施形態に係る表層型ガスハイドレートの回収方法の具体例の説明である。
【0046】
このように本実施形態の回収方法ではメタンハイドレート207を含む水底面を掘削して海水と共に吸入する揚収工程と、掘削を停止して、海水の吸入を続けながら吸入口11aを次の掘削地点まで移動する付着物除去工程を実施する。
この構成では、ある掘削地点での掘削終了後に海水の吸入を続けながら揚収管11の吸入口11aを次の掘削地点に移動することで、移動経路上のガス飽和率の低い海水を吸入して、揚収管11の内壁に付着したメタンハイドレート207aを溶解させる。
そのため、ガス飽和率の低い海水を引き込むホースやポンプを別置する必要が無いので、装置の構造によらず、重量やコストを増加させずにメタンハイドレート207aによる揚収管11の閉塞を防止できる。
【0047】
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明に含まれる。
【0048】
例えば本実施形態では掘削装置3及び移動機構5の動作を制御部7が制御することでガスハイドレートの回収方法を実施しているが、これらの動作を制御部7ではなく作業員が手動で制御してもよい。
【0049】
また本実施形態では検出部15が検出したメタンハイドレート207aの付着量に基づき移動条件や次の掘削地点を選定しているが、検出部15で付着量を検出せずに移動条件や次の掘削地点を選定してもよい。例えば掘削装置3の移動条件や掘削条件とメタンハイドレートの付着量との関係を実験等で求めておき、この関係を参照して掘削中に揚収管11を閉塞しない程度にメタンハイドレートの付着量が維持されるように掘削条件や移動条件を選定してもよい。
【0050】
また本実施形態では海底201に存在するメタンハイドレート207の回収方法を例に説明したが、本実施形態は湖底に存在するガスハイドレートの回収にも適用できる。例えば湖が塩湖の場合はガス飽和率の低い塩水を揚収管11が吸入することで内壁に付着したガスハイドレートを除去し、淡水湖の場合はガス飽和率の低い淡水を揚収管11が吸入することで内壁に付着したガスハイドレートを除去する。
【符号の説明】
【0051】
1 :回収システム
3 :掘削装置
5 :移動機構
7 :制御部
9 :掘削機
9a :ドリルビット
11 :揚収管
11a :吸入口
13 :ポンプ
15 :検出部
15a :超音波検査装置
15b :カメラ
100 :掘削船
201 :海底
203 :メタンハイドレート層
205 :泥
207、207a :メタンハイドレート