IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 林テレンプ株式会社の特許一覧 ▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両内装材向けスエード調表皮材 図1
  • 特許-車両内装材向けスエード調表皮材 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】車両内装材向けスエード調表皮材
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/02 20060101AFI20240116BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20240116BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20240116BHJP
   D06M 17/00 20060101ALI20240116BHJP
   D06M 17/10 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 5/26 20060101ALI20240116BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B60R13/02 Z
D04B1/16
D04B21/16
D06M17/00 H
D06M17/10
B32B27/12
B32B27/36
B32B27/40
B32B5/26
D02G3/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020189776
(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公開番号】P2022078834
(43)【公開日】2022-05-25
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】小川 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高井 将臣
(72)【発明者】
【氏名】上村 知行
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-342436(JP,A)
【文献】特開2019-099970(JP,A)
【文献】特開2013-155473(JP,A)
【文献】特許第3281126(JP,B2)
【文献】特開平06-114981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
D03D 15/37
D03D 15/47
D04B 1/16
D04B 21/16
D06M 17/00
D06M 17/10
B32B 27/12
B32B 27/36
B32B 27/40
B32B 5/26
D02G 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、表面層、接着層及び裏面層を有するスエード調表皮材であって、
前記表面層は、割繊糸を含む織物からなり、
前記織物は、経糸が、割繊糸と高伸縮糸または高収縮糸とからなる合撚糸を含み、緯糸がポリエステル捲縮糸を含み、
前記表面層は、その目付が、150g/m 以上300g/m 以下であり、
縦及び/又は横方向において、10kg荷重時10%以上の伸び(定荷重伸度)を有する、車両内装材向けスエード調表皮材。
【請求項2】
前記接着層は、無溶剤のポリエステル系ポリウレタン接着剤を含む、請求項に記載のスエード調表皮材。
【請求項3】
前記裏面層は、編物からなり、編組織がトリコットまたはジャージである、請求項1又は2に記載のスエード調表皮材。
【請求項4】
前記裏面層の編組織が、ジャージであり、該裏面層の目付が200g/m 以上500g/m 以下である、又は、前記裏面層の編組織がトリコットであり、該裏面層の目付が、200g/m 以上500g/m 以下である、請求項3に記載のスエード調表皮材
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両内装材向けスエード調表皮材に関するもので、詳しくは、高い伸び性能を有し、摩擦堅牢性にも優れるとともに、コストパフォーマンスにも優れる車両内装材向けスエード調表皮材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、風合が柔軟で高級感があるということから、様々な分野でスエード調表皮材が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、構成繊維の一部が突出したパイルを形成してなる不織布意匠層と、該意匠層と一体的に積層され、保形性増強及び緩衝機能を有する不織布基材層とを含み、全体として熱可塑性合成繊維の短繊維からなる自動車内装用嵩高起毛不織布が開示されている。
【0004】
通常のスエード表皮は、一般的にポリウレタン樹脂組成物を生地に含浸させ風合いに滑(ぬめ)り感を出すことが行われている。
例えば、特許文献2には、ポリテトラメチレンカーボネートジオールを用いて得られたポリウレタン樹脂組成物が開示されており、このポリウレタン樹脂組成物は、基材に直接塗布するか、中間層又は接着層を介して塗布することで使用される。
【0005】
一方、油分や指紋などの拭き取り性能に優れる繊維として、割繊糸(極細繊維)が知られている。例えば、割繊糸(極細繊維)の使用例として、特許文献3には、生地の少なくとも携帯端末と接する面が割繊糸を起毛状に形成してなる起毛面からなる携帯端末収納袋が開示されている。
【0006】
この割繊糸(極細繊維)は、スエードの柔らかな風合と質感を得ることができるためにスエード調表皮材にも用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3715731号
【文献】特許第3281126号
【文献】特開2012-243078号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スエード調表皮に使用されるポリウレタン樹脂組成物は、生地の風合いに滑(ぬめ)り感を出すことができるが、背反として摩擦堅牢度を代表とする色落ち性能が悪化するという問題がある。これはポリウレタン樹脂に染料が移行し色汚染されたポリウレタン樹脂が剥離することに由来する。
またスエード調表皮は、伸びが低く、そのため用途が限られていることに加え、割繊糸を用いたスエード調表皮材は、製造原価が高額になる傾向がある。
したがって、本発明の目的は、従来品に比して、伸度が高く、摩擦堅牢性に優れ、しかも、価格面でも比較的安価であり、特に車両内装材向けとして好適なスエード調表皮材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになしたものであり、以下の構成を有する。
<1> 少なくとも、表面層、接着層及び裏面層を有するスエード調表皮材であって、
前記表面層は、割繊糸を含む織物からなり、
前記織物は、経糸が、割繊糸と高伸縮糸または高収縮糸とからなる合撚糸を含み、緯糸がポリエステル捲縮糸を含み、
前記表面層は、その目付が、150g/m 以上300g/m 以下であり、
縦及び/又は横方向において、10kg荷重時10%以上の伸び(定荷重伸度)を有する、車両内装材向けスエード調表皮材
<2> 前記接着層は、無溶剤のポリエステル系ポリウレタン接着剤を含む、前記<1>に記載のスエード調表皮材。
<3> 前記裏面層は、編物からなり、編組織がトリコットまたはジャージである、前記<1>又は2>に記載のスエード調表皮材。
<4> 前記裏面層の編組織が、ジャージであり、該裏面層の目付が200g/m 以上500g/m 以下である、又は、前記裏面層の編組織がトリコットであり、該裏面層の目付が、200g/m 以上500g/m 以下である、前記<3>に記載のスエード調表皮材
【発明の効果】
【0010】
本発明は、従来品に比して、伸び性能が高く、摩擦堅牢性に優れ、しかも、比較的安価であり、特に車両内装材向けとして好適なスエード調表皮材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は実施例1の実施品(A)を示す模式断面図である。
図2図2は比較例1及び2の比較品(B)及び(C)を示す模式段目図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、伸び性能が低く、摩擦堅牢性に劣り、さらに製造原価が高額になる傾向があるという従来品のスエード調表皮材の問題点を解決すべく、検討を重ねた結果、スエード調表皮材を、表面層、接着層及び裏面層の3層とする構成を採用するとともに、割繊糸の使用を表面層の一部にとどめることにより、上記問題点を解決できることを見出したものである。以下、本発明の構成について順に説明する。
【0013】
本発明のスエード調表皮材は、表面層と裏面層と、前記表面層と前記裏面層との間に介在する接着層とで構成されており、前記表面層は、割繊糸を含む織物からなり、前記接着層は、ポリエステル系接着剤を含んでいる。
【0014】
(表面層)
表面層は、割繊糸を含む織物、好ましくは高密度な織物からなり、スエード調の滑(ぬめ)り感のある風合いを表現する役割を果たす。
従来品のスエード調表皮材では、スエード調の滑(ぬめ)り感のある風合いを表現するために、ポリウレタン樹脂組成物を生地に含浸させ風合いに滑(ぬめ)り感を出すことが行われているが、前述の如く、このポリウレタン樹脂組成物は摩擦堅牢性の低下やコストアップの要因となる。
これに対し、本発明では、表面層に、ポリウレタン樹脂組成物を使用せず、割繊糸が独自の滑(ぬめ)り感を有する風合いを表現しているため、摩擦堅牢性の低下が抑制されている。
【0015】
前記織物では、経糸に、割繊糸を用いる。織物の一部に割繊糸を用いることにより、コスト増の要因である割繊糸の使用量を抑制することができる。またスエード調の表皮の風合いに影響を与えるのは、緯糸ではなく、経糸の方であるので、経糸に、割繊糸を用いることで、スエード調の風合いは十分表現できる。なお、前記織物の形態(組織)としては、特に限定されるものではなく、平織、綾織、朱子織のいずれでも良いが、緻密な表面風合いを求める場合、朱子織が望ましい。
【0016】
前記織物に使用される割繊糸は、特定の溶媒に溶解しない合成樹脂と溶解する合成樹脂とを溶融状態で複数のノズルから吐出して複合させつつ混合紡糸を行ったのち、溶媒で溶解する構成樹脂を溶解・除去してなる糸のことである。
溶媒に溶解しない合成樹脂と溶解する合成樹脂の組み合わせとしては、例えば、ナイロン(登録商標)とアルカリ易溶ポリエステルとが挙げられるが、これに限定されるものではなく、同様の効果が得られるのであれば公知の合成樹脂を組み合わせて使用すればよい。
【0017】
前記割繊糸は、単繊維度が好ましくは0.07dtex以上0.44dtex以下であり、0.10dtex以上0.22dtex以下であることがより好ましく、また総繊度が好ましくは84dtex以上330dtex以下であり、84dtex以上167dtex以下であることがより好ましい。単繊維度が上記の範囲にあることで、滑らかな表面触感と緻密な表面風合いが得られる。また総繊度が上記の範囲にあることで、スエード生地として車両内装材向けに必要なボリューム感や強度性能を得ることが出来る。
【0018】
前記割繊糸としては、物理分割にて割繊される原糸(ミカンタイプ)とアルカリ処理を行い薬剤分割にて割繊される原糸(海島タイプ)の大きく2種類が存在し、後者の割繊糸を使用する方が高品位な風合い・触感を再現するには好ましく、特にスエードとしての良好な風合いと車両に使用した場合に必要な物性を維持する点から、84T/24Fの海島タイプで16分割の割繊糸を使用することがより好ましい。このような割繊糸としては、衣料・靴・雑貨等の市販品が挙げられる。
【0019】
前記経糸は、割繊糸と高伸縮糸(伸縮性に優れる原糸)または高収縮糸(収縮性に優れる原糸)との合撚糸とすることが好ましい。原糸に高伸縮糸または高収縮糸を使用することで、割繊糸の伸縮性の低さを補完できる。かかる伸縮性の高い繊維としては、高伸縮ポリエステル糸、高捲縮ポリエステル糸等が挙げられるが、染色加工仕上がり後の仕上がり製品としての伸縮性の点から、より高い伸び性能が求められる場合は、伸縮性に優れるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)やポリブチエンテレフタレート(PBT)等の様な高伸縮糸を用いてもよい。
【0020】
前記高伸縮糸または高収縮糸は、単繊維度が好ましくは2.5dtex以上4.0dtex以下であることが好ましく、また総繊度が好ましくは33dtex以上84dtex以下であり、33dtex以上55dtex以下であることがより好ましい。単繊維度と総繊維度が上記の範囲にあることで、良好な起毛性を確保することが出来、前記割繊糸の有する表面触感と風合いを損なうことなく合撚原糸として高い伸度を与えることが出来る。
【0021】
割繊糸と高伸縮糸または高収縮糸との合撚糸は、撚り数が好ましくは50回/m以上300回/m以下、特に100回/m以上200回/m以下であることが好ましいが、意匠・風合い・性能・価格等の観点からインターレースによる合わせが比較的好ましい。撚り数が上記の範囲にあることにより、意匠・風合い・性能面のいずれかを損なうことなく調和された製品を仕上げることが出来る。
【0022】
前記織物を構成する経糸の密度は、仕上がり時、好ましくは200本/インチ以上300本/インチ以下であり、特に220本/インチ以上270本/インチ以下であることが好ましい。経糸密度が上記の範囲にあることにより、スエード織物として仕上げた際、緻密な表面風合いに仕上げることが出来る。
【0023】
前記緯糸は、捲縮糸を含むことが好ましい。捲縮糸は、単繊維度が好ましくは1.2dtex以上3.5dtex以下であり、2.0dtex以上3.5dtex以下であることがより好ましく、また総繊度が好ましくは55dtex以上330dtex以下であり、84dtex以上167dtex以下であることがより好ましい。単繊維度が上記の範囲にあることで、タテ方向同様、ヨコ方向に関しても高伸度性能を有することが出来、タテ/ヨコの伸度バランスの良い高密度性な品位が確保できる。
【0024】
前記捲縮糸は、その捲縮率が20%以上60%以下であることが好ましく、30%以上
50%以下であることがより好ましい。捲縮率が上記の範囲にあることで、織物の高密度化及びタテ/ヨコにバランスの良い伸び性能を実現することが出来る。
【0025】
また前記織物は、仕上がり時、緯糸密度が好ましくは80本/インチ以上150本/インチ以下であり、特に100本/インチ以上130本/インチ以下であることが好ましい。
緯糸密度が上記の範囲にあることにより、緻密な外観風合いと滑らかな触感及びタテ/ヨコバランスが整った高い伸び性能を確保することが出来る。
【0026】
以上説明したように、前記表面層は、経糸が、割繊糸とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)糸との合撚糸を含み、緯糸が捲縮糸を含んでいることが好ましい。
従来品のスエード調表皮材は、伸びが低く、シート仕立て性やドア等のトリム部品への貼り込みには不向きであり、高い伸びが要求されない車両シートなど、その用途が限られていた。
これに対し、本発明では、高い伸縮性を有するPTT糸と捲縮糸を原糸として使用しているため、最終製品として、縦/横方向において、10kg荷重時10%以上の伸び(定荷重伸度)を確保することができ、シート仕立て性やドア等のトリム部品への貼り込みに好適であり、ドア・インパネ等の成形部品においても良好な貼り合わせや仕立て性が期待できる。なお、本発明において、定荷重伸度とは実施例の評価方法に記載した方法により測定される値をいう。
【0027】
前記表面層は、その目付が、好ましくは150g/m以上300g/m以下であり、特に170g/m以上230g/m以下であることが好ましい。目付が上記の範囲にあることにより製造原価をおさえつつ商品性を確保できる。
【0028】
前記表面層は、その厚みが0.3mm以上0.8mm以下であることが好ましく、
0.4mm以上0.6mm以下であることがより好ましい。厚みが上記範囲にあることにより、コスト増の要因である割繊糸の使用量を適正にすることができる。一方、厚み(ボリューム)及び強度等の物性値の低下は、後述する裏面層を設けることにより補完することが出来る。
【0029】
前記表面層の製造方法は、特に制限されず公知の方法により製造することができるが、例えば、生機→リラックス加工→減量加工→脱水→染色→脱水→起毛剤付与→起毛→最終セットという工程を経ることにより製造することができる。
前記表面層は、さらにその表面を用途に応じて加工してもよく、例えば、良好な起毛風合いを実現する為、織物表面にバフィング(エメリー)加工を施してもよい。
【0030】
(裏面層)
裏面層は、表面層の織物の厚み(ボリューム)や性能について表面層との複合体を形成することで補完する役割を果たす。
また裏面層は、完成体に要求される特性、例えば、強度、伸度、厚み、燃焼特性等の特性、に応じて、適用する表皮を変更することで、様々な機能性を付与できる。
【0031】
(ジャージ)
例えば、完成体として高伸度の要求がある場合、表面層のスエード織物よりも伸び特性に優れた、編み組織が丸編みである編物(ジャージ)を用いることが望ましい。この場合、原糸構成としては、55dtex以上450dtex以下の太さのPET糸を使用することが望ましい。
ジャージの場合の裏面層の目付は好ましくは200g/m以上500g/m以下であり、特に250g/m以上350g/m以下であることが好ましいが、要求性能に従いその要求に適切な重量を選択することに問題はない。
ジャージの場合の裏面層の密度は、ウェル方向35本/インチ以上40本/インチ以下、コース方向35本/インチ以上45本/インチ以下が好ましく、厚みに関しては、0.5mm以上1.5mm以下が望ましいが、要求性能に従いその要求に適切な厚み・重量を選択することに問題はない。
【0032】
(トリコット)
完成体として伸び特性が求められない場合、或いはパーフォレーション加工による孔明けが後加工として必要な際には低伸度にて解れにくく高密度である、編組織がトリコットである編物を用いることが望ましい。この場合、原糸構成としては、84dtex以上330dtex以下の太さのPET糸を使用することが望ましい。
トリコットの場合の裏面層の目付は好ましくは200g/m以上500g/m以下であり、特に250g/m以上450g/m以下であることが好ましいが、要求性能に従いその要求に適切な重量を選択することに問題はない。
トリコットの場合の裏面層の密度は、ウェル方向30本/インチ以上45本/インチ以下、コース方向50本/インチ以上65本/インチ以下が好ましく、厚みに関しては、0.5mm以上1.5mm以下が望ましいが、要求性能に従いその要求に適切な重量を選択することに問題はない。
【0033】
裏面層の厚みは、完成体に要求される特性から適宜変更されるものであり特に制限されないが、表面層と複合体を形成することで完成体の厚み(ボリューム)や性能を補完する必要性から少なくとも0.5mm以上であることが望ましく、1.0mm以上であることがより望ましいが、要求性能や原価設定に従いその要求に適切な厚みを選択することに問題はない。
【0034】
また裏面層は、表面層のスエード織物表面への凹凸転写を防ぐため、裏面層の裏面状態は極力凹凸が無くフラットな表面状態であることが望ましい。
【0035】
裏面層は、ジャージ及びトリコットのいずれの場合においても公知の方法により製造することができ、その製造方法に制限はないが、例えば、ジャージの場合、編み→染色→脱水→樹脂加工→セットにより製造することができ、トリコットの場合も同様の工程を経て仕上げることが出来る。
【0036】
さらに裏面層は、1mm以上の厚みを有する生地を貼り合わせる事により通常のスエードよりも地厚感と弾力性を得られ、エンボス加工やキルティング加工等の凹凸表現を伴う意匠的な二次加工の仕上がりに通常の織物表皮よりも有効な凹凸感を得ることが出来る。
【0037】
難燃性付与に関しては、特定の難燃剤をディッピング処理にて任意の比率を裏面層に付与することができる。
また、ディッピング処理であることから、要求性能による難燃強度について自由度を得られる。
【0038】
(接着層)
接着層は、表面層と裏面層をボンディング(接着)する役割を果たす。この接着層を形成する接着剤としては、表面層と裏面層をボンディング(接着)する役割を果たす限り公知の接着剤を制限なく使用することができる。このような接着剤としては、ポリエステル系ポリウレタン接着剤などのポリエステル系接着剤のほか、ポリエーテル系ポリウレタン接着剤、ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤等が挙げられ、いずれを使用しても良い。ポリエステル系ポリウレタン接着剤としては、例えば溶剤系、水系、固形ホットメルト系の接着剤樹脂が存在し、そのいずれを用いても良いが、車両SPECの環境特性に配慮し無溶剤タイプとすることが好ましい。さらに、接着強度と耐久性を考慮した場合、無溶剤且つ乾燥工程が不要である湿気硬化型ホットメルトウレタン樹脂を接着剤として用いることがより好ましい。
前記接着層の塗布重量は、20g/m以上60g/m以下であることが好ましく、35g/m以上50g/m以下であることが剥離強度以外の性能への背反影響を考えた場合、より好ましい。
【0039】
接着層は、特定のボンディング機を使用し、20g/m以上60g/m以下の塗布量を塗布することにより形成される。また、製品に通気が要求される場合は点接着にて接着させたり、仕上がり製品に伸度が要求される場合は裏面層の表側に、伸度が要求されない場合は、表面層の裏面に接着剤を塗布することが望ましい。
接着層の形成については養生時間を必要とし、概ね48時間以上72時間以下程度の養生時間が望ましく、環境条件としては、40℃×55%RHでの環境下が望ましい。
【0040】
以上の構成を有する本発明のスエード調表皮材は、定荷重伸度にてタテ/ヨコ方向にて約10%前後の伸度を有するため、伸度が低くその用途が限られていた従来品のスエード調表皮材に比して、より広範な用途で使用できる。また従来品のスエード調表皮材に比して圧倒的な価格優位性を有する。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。尚、実施例における各項目の測定は次の方法に拠った。
【0042】
<実施例1> 本発明のスエード調表皮材の構成
表面層として、目付が180g/mであるPET割繊フィラメント繊維入高密度織物、裏面層として、目付が260g/mである編物(ニット)を、公知の方法により製造し、得られた裏面層の表側に、ボンディング機を使用し、無溶剤ポリカーボネート系ウレタン接着剤を塗布し、表面層と裏面層を点接着にて接着させ、40℃×55%RHで48~72時 間養生させて、表面層と裏面層の間に、目付が35g/mである接着層を形成し、図1に示す断面構成を有する本発明のスエード調表皮材の実施品(A)(以下に示すグラフ中では、単に「A」とも記載する)を製造した。実施品(A)の厚みは1.2mmであった。
【0043】
<比較例1> 比較評価用の類似スエード調表皮材の構成
基布層である織物を、目付460g/mの、2つのベース層であるPET割繊短繊維積層体で挟んだ構造を有する、比較評価用の類似スエード調表皮材の比較品(B)(以下に示すグラフ中では、単に「B」とも記載する)を製造した(図2参照)。
比較品(B)の厚みは1.1mmであった。
【0044】
<比較例2> 比較評価用の類似スエード調表皮材の構成
比較例1において、2つのベース層であるPET割繊短繊維積層体の目付が300g/mに変更する以外は同様の構成を有する、比較評価用の類似スエード調表皮材の比較品(C)(以下に示すグラフ中では、単に「C」とも記載する)を製造した(図2参照)。比較品(C)の厚みは1.0mmであった。
【0045】
得られた実施品(A)並びに比較品(B)及び(C)について以下に示す方法により評価を行った。
<特定荷重別伸度(短冊)>
得られた実施品(A)及び比較品(B)及び(C)を規定サイズの試験サンプルに加工し、定速度伸長型の引張試験機(オリエンテック製 型版RTC1310A)に取り付け、一定速度(200mm/min)にて、各方向(タテ方向、ヨコ方向、バイアスR方向、バイアスL方向)に対し引張り、それぞれ1kg、2.5kg、5kg、7kg、10kg荷重時の定荷重伸度、及び破断時の伸度を算出した。結果を表1及び表2に示す。
【0046】
【表1】
表1より、タテ方向においては1kg荷重~破断時まで本発明品(A)の伸度が比較品(B)及び(C)の伸度よりも高伸度であることが確認できた。
【0047】
【表2】
表2より、ヨコ方向においては1kg荷重~10kg荷重まで本発明品(A)の伸度が比較品(B)及び(C)の伸度よりも高伸度であることが確認できた。
【0048】
【表3】
【表4】
【0049】
表3及び4より、両バイアス方向においては1kg荷重~破断時まで本発明品の伸度が比較品(B)及び(C)の伸度よりも高伸度であることが確認できた。総じて、全方向において類似品よりも高伸度を有するスエードであることが確認できた。また、特にタテ方向での優位性が確認できた。
【0050】
<特定伸度別必要荷重(円形)>
得られた実施品(A)及び比較品(B)及び(C)を直径300mmの円形に裁断した試験サンプルを、定速度伸長型のインストロン型引張試験機(オリエンテック製RTG1210)にて各方向(タテ方向、ヨコ方向、バイアスR方向、バイアスL方向 )に対し一定速度(200mm/min)にて引張り、荷重-伸長曲線を求め、荷重-伸長曲線から、2.5%,5.0%,10%,15%伸長時の荷重を読み取った。結果を表5ないし8に示す。
【0051】
【表5】
表5より、タテ方向においては2.5~15%の伸度を得られる為に要する荷重は比較品(B)及び(C)よりも本発明品(A)の方が、必要荷重は低荷重であることが確認できた。
【0052】
【表6】
表6より、ヨコ方向においては2.5~15%の伸度を得られる為に要する荷重は比較品(B)及び(C)よりも本発明品(A)の方が必要荷重は低荷重であることが確認できた。
【0053】
【表7】
【表8】
【0054】
表7及び8より、両バイアス方向においては2.5~15%の伸度を得られる為に要する荷重は比較品(B)及び(C)よりも本発明品(A)の方が必要荷重は低荷重であることが確認できた。総じて、全方向において比較品(B)及び(C)よりも本発明品(A)の方が低荷重にて高伸度を得られることが確認できた。また、特にタテ方向での優位性が確認できた。
【0055】
<表面摩擦特性(滑らかさ)(1)>
得られた実施品(A)及び比較品(B)及び(C)の表面摩擦特性(滑らかさ)(1)を以下の方法にて評価した。具体的には、実施品(A)及び比較品(B)及び(C)を200×200mmに裁断加工して試料サンプルを作製し、KES-FB4表面試験機(カトーテック製)を使用し、(表面)摩擦にはシリコン、(表面)粗さにはピアノ線を接触子とし、作製した試料サンプルを一定速度(0.1cm/sec)で移動させ、試料の摩擦特性及び(試料表面の)凹凸状態を測定し、得られた測定値より、MIU(平均摩擦係数)、MMD(平均摩擦係数の変動)、SMD(表面粗さの平均偏差)を算出した。なお、MIU(平均摩擦係数)、MMD(平均摩擦係数の変動)、SMD(表面粗さの平均偏差)は、測定値を以下の数式に当てはめて算出した。結果を表9及び10に示す。
【数1】
【数2】
【数3】
【0056】
【表9】
表9より、MIU(A>B、C)、MMD/SMD(A<B、C)であり、いずれの特性もAが滑らかである事を示す傾向にあることが確認できた。
【0057】
【表10】
表10より、MIU(A>B、C)、MMD/SMD(A<B、C)であり、いずれの特性もAが滑らかである事を示す傾向にあることが確認できた。
【0058】
<表面摩擦特性(滑らかさ)(2)>
得られた実施品(A)及び比較品(B)及び(C)の表面摩擦特性(滑らかさ)(2)を以下の方法にて評価した。
具体的には、実施品(A)及び比較品(B)及び(C)を動摩擦:500×500mm角,静摩擦:100×150mm角のように加工して試料サンプルを作製した。
動摩擦係数は、試験サンプルの上にJIS L 0803に規定される綿白布で包んだスレッド(直径80mm,質量705g)を置き、プッシュプルゲージ(IMADA製 PS-100N)で水平にタテ方向及びヨコ方向にそれぞれ一定速度(0.1m/sec.)で引き、ゲージが一定値を保つ時点での数値から摩擦係数を算出した。
【数4】
静摩擦係数は、試験機(TOYOSEIKI製 SLIP ANGLE TESTER AN)の傾斜板に試験サンプルを設置し、上に載せたスレッド(白帆布を巻き付けた質量1500g)が傾斜角の増加によって斜面を滑りはじめる角度(θ)から摩擦係数(tanθ)を算出した。傾斜速度は2.7°/sとなる。なお、スレッドは、試験サンプルに対し順目方向、逆目方向、右左方向、左右方向についてそれぞれ測定した、結果を表11及び12に示す。
【0059】
【表11】
表11より、いずれの方向も本発明品(A)の数値が低く滑らかな表面特性であることが確認できた。
【0060】
【表12】
表12より、いずれの方向も本発明品(A)の数値が低く滑らかな表面特性であることが確認できた。
【0061】
<裏基布有無での強度物性の変化>
実施品(A)において、表面層に対し裏面層を接着する前の表面層単独品(以下の表中では、「裏生地無し」と記載)と、裏面層を接着した実施品(A)(以下の表中では、「裏生地有り」と記載)について、以下の試験を行った。
・引張強度
規定サイズの試験サンプルを用意し、この試験サンプルを定速度伸長型の引張試験機に取り付け、一定速度にて引張り、破断時の最大荷重(引張強度)を測定した。
・引裂強度
規定サイズの試験サンプルを用意し、その中央部に切り込みを入れ同様に引張り、引裂時の荷重(引裂強度)を測定した。
規定サイズの試験サンプル2枚を規定条件で縫製し同様に引張り、縫い目切断時の荷重(縫目強度)を測定した。
以上の測定は、タテ方向及びヨコ方向のそれぞれについて実施した。結果を表13及び14に示す。
【0062】
【表13】
【表14】
表13及び14より、表層単体では車両向け内装材の強度に不十分であっても裏基布と一体になる事で強度(特に引裂強度と縫目強度)は向上し必要強度を満たすことが出来ることが確認できた。
【0063】
<通気性>
得られた実施品(A)及び比較品(B)及び(C)について、フラジール型試験機(TEXTEST社製 FX3300)を使用し、一定の差圧(空気が試験面を通過するときの圧力差)の下、繊維材料である実施品(A)及び比較品(B)及び(C)を通る空気量 (cm/cm/s)を求めた。
試験は、JIS L 1096 8.26.1 A法に準拠し、180×180mm角の試料サンプル3枚の平均値となる。
【0064】
【表15】
表15より、本発明品(A)が最も通気性が高く、車両シートの様な長時間人が接触する様なケースにおいては蒸れにくい性能を有する傾向であると確認できた。
また、本発明品(A)の通気性が高い理由として、生地自身にウレタン樹脂が含侵されていない点と表裏層を貼り合わせている接着方法が点接着であることに由来する。
図1
図2