(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 3/04 20060101AFI20240116BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20240116BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240116BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240116BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240116BHJP
B65D 65/40 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C08L3/04 ZBP
C08L29/04 Z
B32B27/30 102
C08J5/18 CEP
C08J5/18 CEX
C08L101/16
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020504189
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 IB2019061369
(87)【国際公開番号】W WO2020136598
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018243738
(32)【優先日】2018-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502247341
【氏名又は名称】プランティック・テクノロジーズ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】太田 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】小鷹 昭広
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・ジョン・マキャフリィ
(72)【発明者】
【氏名】ブレンダン・リー・モリス
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-020993(JP,A)
【文献】FANTA, G. F. et al.,Films prepared from poly(vinyl alcohol) and amylose-fatty acid salt inclusion complexes with increased surface hydrophobicity and high elongation,Starch/Starke,2016年,Vol. 68,p. 874-884
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B32B 27/00- 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性基を含み、かつアミロース含有量が45質量%以上である変性デンプン(A)と、ポリビニルアルコール(B)とを含む樹脂組成物であって、
変性デンプン(A)とポリビニルアルコール(B)との合計100質量部を基準に、変性デンプン(A)の含有量が40~98質量部であり、ポリビニルアルコール(B)の含有量が2~60質量部であ
り、
前記変性デンプン(A)は、アミロース含有量が50質量%以上である高アミロース変性デンプン(A-1)、及び、高アミロース変性デンプン(A-1)とは異なり、かつ疎水性基を有する疎水変性デンプン(A-2)からなり、
前記疎水性基は、炭素原子数6~24の疎水性化合物による変性基である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記疎水変性デンプン(A-2)は、アミロース含有量が50質量%未満である、請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記高アミロース変性デンプン(A-1)は、ヒドロキシアルキル基を有するエーテル化デンプン及びカルボン酸無水物変性基を有するエステル化デンプンから選択される少なくとも1種である、請求項
1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記疎水変性デンプン(A-2)は、炭素原子数6~24のグリシジルエーテル変性基を有するエーテル化デンプン及び炭素原子数6~24のカルボン酸無水物変性基を有するエステル化デンプンから選択される少なくとも1種である、請求項
1~
3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記疎水変性デンプン(A-2)は、15質量%水溶液を95℃で5分撹拌して糊化させた後、30℃に冷却した際の粘度が1000cP以下である、請求項
1~
4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール(B)は、JIS Z 8803に準拠して測定した4%水溶液の20℃における粘度が1~50mPa・sである、請求項1~
5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の樹脂組成物を紙又はフィルムに被覆してなる、被覆物。
【請求項8】
請求項
7に記載の被覆物を含む、多層構造体。
【請求項9】
請求項
7に記載の被覆物、若しくは請求項
8に記載の多層構造体からなる、包材。
【請求項10】
押出機を用いて、請求項1~
6のいずれかに記載の樹脂組成物を、引取機で搬送されたフィルム又は紙に被覆する工程を含み、該工程において、式(1)
ドロー比=(引取機の引取速度)/(押出機のダイス出口の流速) (1)
で表されるドロー比が5~20である、請求項
7に記載の被覆物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の包装容器等に用いられる樹脂組成物、該樹脂組成物を紙又はフィルムに被覆してなる被覆物及びその製造方法、該被覆物を含む多層構造体、並びに、該被覆物又は該多層構造体からなる包材を提供する。
【背景技術】
【0002】
従来、変性デンプン及びポリビニルアルコールを含む樹脂組成物は、生分解性に優れることから、食品を包装する容器に広く用いられている(例えば特許第4782284号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの食品を包装する容器の中には、前記樹脂組成物を紙又はフィルムに被覆してなる被覆物を材料として使用する容器が多く存在し、該被覆物には高い酸素バリア性が要求される。一方、該被覆物は、例えば引取機で搬送された紙又はフィルム上に、押出機のダイス出口から吐出した樹脂組成物を被覆して製造される。しかし、本発明者の検討によれば、高い酸素バリア性を担保できる樹脂組成物は流動性が低く、ダイス出口の流速に対する最大引取速度で表されるドロー比が低いために、生産性を向上できないことがわかった。
【0005】
従って、本発明の目的は、製造時の最大ドロー比が高く、かつ酸素バリア性に優れた被覆物を形成可能な樹脂組成物、該被覆物及びその製造方法、該被覆物を含む多層構造体、並びに、該被覆物又は該多層構造体からなる包材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、疎水性基を含み、かつアミロース含有量が45質量%以上である変性デンプン(A)と、ポリビニルアルコール(B)とを含む樹脂組成物において、変性デンプン(A)の含有量を40~98質量部、及びポリビニルアルコール(B)の含有量を2~60質量部に調整すると、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
[1]疎水性基を含み、かつアミロース含有量が45質量%以上である変性デンプン(A)と、ポリビニルアルコール(B)とを含む樹脂組成物であって、
変性デンプン(A)とポリビニルアルコール(B)との合計100質量部を基準に、変性デンプン(A)の含有量が40~98質量部であり、ポリビニルアルコール(B)の含有量が2~60質量部である、樹脂組成物。
[2]前記変性デンプン(A)は、アミロース含有量が50質量%以上である高アミロース変性デンプン(A-1)、及び、高アミロース変性デンプン(A-1)とは異なり、かつ疎水性基を有する疎水変性デンプン(A-2)からなる、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記疎水変性デンプン(A-2)は、アミロース含有量が50質量%未満である、[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記疎水性基は、炭素原子数6~24の疎水性化合物による変性基である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記高アミロース変性デンプン(A-1)は、ヒドロキシアルキル基を有するエーテル化デンプン及びカルボン酸無水物変性基を有するエステル化デンプンから選択される少なくとも1種である、[2]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記疎水変性デンプン(A-2)は、炭素原子数6~24のグリシジルエーテル変性基を有するエーテル化デンプン及び炭素原子数6~24のカルボン酸無水物変性基を有するエステル化デンプンから選択される少なくとも1種である、[2]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記疎水変性デンプン(A-2)は、15質量%水溶液を95℃で5分撹拌して糊化させた後、30℃に冷却した際の粘度が1000cP以下である、[2]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]前記ポリビニルアルコール(B)は、JIS Z 8803に準拠して測定した4%水溶液の20℃における粘度が1~50mPa・sである、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物を紙又はフィルムに被覆してなる、被覆物。
[10][9]に記載の被覆物を含む、多層構造体。
[11][9]に記載の被覆物、若しくは[10]に記載の多層構造体からなる、包材。
[12]押出機を用いて、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物を、引取機で搬送されたフィルム又は紙に被覆する工程を含み、該工程において、式(1)
ドロー比=(引取機の引取速度)/(押出機のダイス出口の流速) (1)
で表されるドロー比が5~20である、[9]に記載の被覆物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の樹脂組成物は、製造時の最大ドロー比が高く、かつ酸素バリア性に優れた被覆物を形成できるため、食品用包装及び容器等の材料として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例で使用された二軸押出機の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、変性デンプン(A)とポリビニルアルコール(B)とを含む。
<変性デンプン(A)>
変性デンプン(A)は、疎水性基を含み、かつアミロース含有量が45質量%以上である。本発明の樹脂組成物は、特に変性デンプン(A)を含むことで、引取性が良好となり、最大ドロー比及び密着性を向上することができる。なお、本明細書において、引取性とは、搬送された紙又はフィルム上に押出機のダイス出口から吐出された樹脂組成物を被覆する際に、該樹脂組成物が裂けずに被覆し得る特性を示し、引取性が向上するとは、紙またはフィルムを高速搬送させた場合においても該樹脂組成物が裂けずに被覆しやすくなることを示す。また本明細書において、密着性とは、被覆物中の紙又はフィルムと樹脂組成物との密着性を示す。
【0011】
変性デンプン(A)の原料となるデンプンは、例えばキャッサバ、トウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、サゴ、タピオカ、モロコシ、豆、ワラビ、ハス、ヒシ、小麦、コメ、オート麦、クズウコン、エンドウ等に由来するデンプンであってよい。これらの中でも、アミロース含有量の観点から、変性デンプン(A)の原料となるデンプンはトウモロコシ(コーン)又はキャッサバに由来するデンプンであることが好ましく、トウモロコシに由来するデンプンであることがより好ましい。変性デンプン(A)は1種又は2種以上のデンプンで構成されていてもよい。
【0012】
変性デンプン(A)は疎水性基を含む。疎水性基とは、水に対する親和性が低い原子団のことを示す。変性デンプンに含まれる疎水性基は、特に限定されないが、疎水性化合物による変性基(疎水性化合物変性基ということがある)であることが好ましい。変性デンプン(A)が疎水性化合物変性基を含むと、樹脂組成物の引取性が良好となり、最大ドロー比及び密着性を向上しやすい。疎水性基は、デンプンに含まれる水酸基と疎水性化合物の反応性基とが反応することにより、デンプンに導入させることが好ましく、エーテル化、エステル化又はアミド化により、デンプンに結合させることがより好ましい。また、変性前又はそれと同時に、酸による分解や酸化等の公知の方法により、デンプンの分子量を減少又は増大させる処理を行ってよい。
【0013】
疎水性化合物は、デンプン間の水素結合による擬架橋を低減させ、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上させやすい観点から、炭素原子数6~24の疎水性化合物であることが好ましい。炭素原子数は7~24であることがより好ましく、8~18であることがさらに好ましい。
本発明の好ましい実施態様では、疎水性化合物は、炭素原子数6~24、好ましくは7~20、より好ましくは8~18の脂肪族基及び/又は芳香族基を含む疎水性化合物である。この態様であると、最大ドロー比及び密着性の観点から有利である。
【0014】
疎水性化合物は、例えばハロゲン基、ハロヒドリン基、エポキシ基、グリシジル基、酸無水物基、及びアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの反応性基を含むことが好ましい。
【0015】
疎水性基をエーテル化、すなわちエーテル結合によりデンプンに結合させる場合、疎水性化合物に含まれる反応性基は、例えばハロゲン基、ハロヒドリン基、エポキシ基、グリシジル基であってよく、該疎水性化合物は炭素原子数6~24の疎水性化合物であることが好ましい。具体的に疎水性化合物としては、臭化セチル、臭化ラウリル;エポキシ化大豆脂肪アルコール、エポキシ化亜麻仁脂肪アルコール;アリルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、デカングリシジルエーテル、ラウリルフェニルグリシジルエーテル、ミリストイルグリシジルエーテル、セチルグリシジルエーテル、パルミチルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、リノリルグルシジルエーテル等の炭素原子数2~24のグリシジルエーテル、好ましくは炭素原子数6~24のグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0016】
疎水性化合物をエステル化、すなわちエステル結合によりデンプンに結合させる場合、疎水性化合物に含まれる反応性基は、例えば酸無水物基であってよく、該疎水性化合物としては、炭素原子数6~24、好ましくは炭素原子数7~20のカルボン酸無水物が好ましい。具体的にカルボン酸無水物としては、例えばオクタン酸酢酸無水物、デカン酸酢酸無水物、ラウリン酸酢酸無水物、ミリスチン酸酢酸無水物等のアルカン酸カルボン酸無水物;アルキル又はアルケニルコハク酸無水物、アルキル又はアルケニルマレイン酸無水物等のアルキル又はアルケニルジカルボン酸無水物が挙げられる。これらの中でも、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすい観点から、アルキル又はアルケニルジカルボン酸無水物が好ましく、オクテニルコハク酸無水物、ノニルコハク酸無水物、デシルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、オクテニルマレイン酸無水物、ノニルマレイン酸無水物、デシルマレイン酸無水物、ドデセニルマレイン酸無水物がより好ましく、オクテニルコハク酸無水物又はオクテニルマレイン酸無水物がさらに好ましい。
【0017】
疎水性化合物をアミド化、すなわちアミド結合によりデンプンに結合させる場合、疎水性化合物に含まれる反応性基は、例えばアミノ基であってよく、該疎水性化合物としては、炭素原子数6~24の飽和又は不飽和炭化水素基を含む脂肪族アミンを好適に使用でき、該脂肪族アミンは分岐鎖を含んでいてよいが、直鎖であることが好ましい。具体的に脂肪族アミンとしては、n-ドデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、n-オクタデシルアミン、ココアミン、タローアミン、水素添加N-タロー-1,3-ジアミノプロパン、N-水素化タロー-1,3-ジアミノプロパン、N-オレイル-1,3-ジアミノプロパンなどが挙げられる。変性デンプン(A)は、1種又は2種以上の疎水性基、好ましくは疎水性化合物変性基で構成されていてもよい。
【0018】
これらの疎水性化合物の中でも、デンプンの水素結合による擬架橋を低減させて引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすい観点から、炭素原子数6~24のグリシジルエーテル及び炭素原子数6~24のカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種が好ましく、炭素原子数6~24のカルボン酸無水物がより好ましく、炭素原子数6~24のアルキル又はアルケニルジカルボン酸無水物がさらに好ましい。
【0019】
変性デンプン(A)において、1グルコースユニット当たりの変性された水酸基の平均数[置換度(DS)という]は、好ましくは1.0×10-4以上、より好ましくは5.0×10-4以上、さらに好ましくは1.0×10-3以上であり、好ましくは1.0×10-1以下、より好ましくは2.0×10-2以下、さらに好ましくは1.5×10-2以下、特に好ましくは1.0×10-2以下である。置換度(DS)が上記範囲であると、引取性、最大ドロー比及び密着性の点で有利である。
【0020】
変性デンプン(A)は、疎水性基とは別に親水性基を含んでいてもよい。親水性基とは、水に対する親和性が高い原子団のことを示す。変性デンプン(A)に含まれる親水性基は、特に限定されないが、成形後のデンプンの老化を阻害しやすい観点から、親水性化合物による変性基(親水性化合物変性基ということがある)であることが好ましい。親水性基は、デンプンに含まれる水酸基と親水性化合物の反応性基とが反応することにより、デンプンに導入させることが好ましく、エーテル化、エステル化又はアミド化により、デンプンに結合させることがより好ましい。また、化学変性前又はそれと同時に、酸による分解や酸化等の公知の方法により、デンプンの分子量を減少又は増大させる処理を行ってよい。
【0021】
親水性化合物としては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素原子数2~5のアルキレンオキシド;クロロ酢酸等の炭素原子数2~5のハロゲン化カルボン酸;炭素原子数2~5の臭化メチル等のハロゲン化アルキル;マレイン酸無水物、フタル酸無水物等の炭素原子数2~5のカルボン酸無水物;硝酸ナトリウムやリン酸ナトリウム等のオキソ酸塩;2-ジエチルアミノエチルクロライド;2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。親水性化合物は単独又は2種以上組み合わせて用いられる。これらの中でも、デンプンに対する反応性の観点から、炭素原子数2~5の親水性化合物が好ましく、炭素原子数2~5の脂肪族基及び/又は芳香族基を含む親水性化合物がより好ましく、炭素原子数2~5のアルキレンオキシド及び炭素原子数2~5のカルボン酸無水物から選択される少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0022】
変性デンプン(A)は、アミロース含有量が45質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であり、好ましくは80質量%以下である。変性デンプン(A)のアミロース含有量が上記の下限以上であると、成膜性、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすく、また樹脂組成物の成形加工性も高めやすい。なお、本明細書において、アミロース含有量は、例えば「Starch 50 No.4 158-163(1998)」に記載のヨウ素呈色法により測定できる。ここで、変性デンプン(A)が2種以上の変性デンプンで構成されている場合、変性デンプン(A)のアミロース含有量は、2種以上の変性デンプンのアミロース含有量を加重平均した平均アミロース含有量を意味する。
【0023】
本発明の好ましい実施態様では、変性デンプン(A)は、アミロース含有量が50質量%以上である高アミロース変性デンプン(A-1)、及び、高アミロース変性デンプン(A-1)とは異なり、かつ疎水性基を有する疎水変性デンプン(A-2)からなる。この態様であると、樹脂組成物の引取性を高めやすく、最大ドロー比及び密着性を向上しやすい観点から有利である。
【0024】
<高アミロース変性デンプン(A-1)>
高アミロース変性デンプン(A-1)は、アミロース含有量が50質量%以上である変性デンプンである。高アミロース変性デンプン(A-1)のアミロース含有量は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、特に好ましくは70質量%以上であり、好ましくは90質量%以下である。高アミロース変性デンプン(A-1)のアミロース含有量が上記の下限以上であると、成膜性、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすく、また樹脂組成物の成形加工性も高めやすい。
【0025】
高アミロース変性デンプン(A-1)の原料となるデンプンとしては、変性デンプン(A)の原料となるデンプンとして上記に例示のものが挙げられる。高アミロース変性デンプン(A-1)は1種又は2種以上のデンプンで構成されていてもよい。
【0026】
高アミロース変性デンプン(A-1)は、例えば<変性デンプン(A)>の項に記載の疎水性基及び/又は親水性基を含む変性デンプンであってよく、該親水性基を含む変性デンプンであることが好ましい。具体的に高アミロース変性デンプン(A-1)は、例えばエーテル化デンプン、エステル化デンプン、カチオン化デンプン及び架橋デンプンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
エーテル化デンプンとしては、例えば、メチルエーテル化デンプン等のアルキルエーテル化デンプン、好ましくは炭素原子数2~5のアルキルエーテル化デンプン;カルボキシメチルエーテル化デンプン等のカルボキシアルキルエーテル化デンプン、好ましくは炭素原子数2~5のカルボキシメチルエーテル化デンプン;ヒドロキシエチレン基、ヒドロキシプロピレン基、ヒドロキシブチレン基等のヒドロキシアルキル基を有するエーテル化デンプン(ヒドロキシアルキルエーテル化デンプン)、好ましくは炭素原子数2~5のヒドロキシアルキル基を有するエーテル化デンプン;アリルエーテル化デンプン、好ましくは炭素原子数2~5のアリルエーテル化デンプンなどが挙げられる。炭素原子数2~5のヒドロキシアルキルエーテル化デンプンは、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素原子数2~5のアルキレンオキシドとデンプンとの反応により得ることができる。
【0028】
エステル化デンプンとしては、例えば、酢酸由来の構造単位を有するエステル化デンプン等のカルボン酸変性基を有するエステル化デンプン(カルボン酸由来の構造単位を有するエステル化デンプンともいう);マレイン酸無水物由来の構造単位を有するエステル化デンプン、フタル酸無水物由来の構造単位を有するエステル化デンプン、オクテニルスクシン酸無水物由来の構造単位を有するエステル化デンプン等のカルボン酸無水物変性基を有するエステル化デンプン(カルボン酸無水物由来の構造単位を有するエステル化デンプンともいう);硝酸エステル化デンプン、リン酸エステル化デンプン、尿素リン酸エステル化デンプン等のオキソ酸由来の構造単位を有するエステル化デンプン;キサントゲン酸エステル化デンプン;アセト酢酸エステル化デンプンなどが挙げられる。
【0029】
カチオン化デンプンとしては、例えばデンプンと2-ジエチルアミノエチルクロライドとの反応物、デンプンと2,3-エポキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドとの反応物等が挙げられる。
【0030】
架橋デンプンとしては、ホルムアルデヒド架橋デンプン、エピクロルヒドリン架橋デンプン、リン酸架橋デンプン、アクロレイン架橋デンプン等が挙げられる。
【0031】
これらの中でも、成膜性、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすい観点から、高アミロース変性デンプン(A-1)は、ヒドロキシアルキル基を有するエーテル化デンプン及びカルボン酸無水物変性基を有するエステル化デンプンから選択される少なくとも1種であることが好ましく、炭素原子数2~5のヒドロキシアルキル基を有するエーテル化デンプン及び炭素原子数2~5のカルボン酸無水物変性基を有するエステル化デンプンから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。なお、本発明の樹脂組成物は、高アミロース変性デンプン(A-1)を1種又は2種以上含んでいてもよい。また、高アミロース変性デンプン(A-1)において、1グルコースユニット当たりの変性された水酸基の平均数[置換度(DS)という]は、好ましくは0.05~2である。なお、本明細書において、「デンプン」の前に記載された炭素原子数は、デンプン中の1つの水酸基に置換した基(デンプン中の1つの水酸基を変性して形成された基)の炭素原子数を表す。例えば炭素原子数2~5のヒドロキシアルキル基を有するエーテル化デンプンは、該デンプン中の1つの水酸基を変性して形成されたヒドロキシアルキル基の炭素原子数を示す。
【0032】
高アミロース変性デンプン(A)中の含水量は、高アミロース変性デンプン(A)の質量に対して好ましくは10~15質量%である。
【0033】
高アミロース変性デンプン(A-1)として市販されているものを用いることができる。高アミロース変性デンプン(A-1)の代表的市販品の例としては、例えばIngredion社やNational Starch & Chemical Company社から入手できる、ECOFILM(登録商標)、GELOSE(登録商標)A939等が挙げられる。
【0034】
<疎水変性デンプン(A-2)>
疎水変性デンプン(A-2)は、高アミロース変性デンプン(A-1)とは異なる変性デンプンである。疎水変性デンプン(A-2)の原料となるデンプンとしては、変性デンプン(A)の原料となるデンプンとして上記に例示のものが挙げられる。疎水変性デンプン(A-2)は1種又は2種以上のデンプンで構成されていてもよい。
【0035】
疎水変性デンプン(A-2)は疎水性基を含む。該疎水性基は、特に限定されないが、疎水性化合物による変性基であることが好ましい。疎水性基及び疎水性化合物は、<変性デンプン(A)>の項に記載の疎水性基及び疎水性化合物と同様である。具体的に疎水変性デンプン(A-2)は、例えばエーテル化デンプン、エステル化デンプン及びアミド化デンプンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、炭素原子数6~24のエーテル化デンプン、炭素原子数6~24のエステル化デンプン及び炭素原子数6~24のアミド化デンプンからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0036】
エーテル化デンプンは、疎水性化合物による変性基を有するエーテル化デンプンであることが好ましく、該疎水性化合物としては、<変性デンプン(A)>の項において疎水性基をエーテル化によりデンプンに結合させる場合に使用する疎水性化合物として例示のものが挙げられる。エステル化デンプンは、疎水性化合物による変性基を有するエステル化デンプンであることが好ましく、該疎水性化合物としては、<変性デンプン(A)>の項において疎水性基をエステル化によりデンプンに結合させる場合に使用する疎水性化合物として例示のものが挙げられる。アミド化デンプンは、疎水性化合物による変性基を有するアミド化デンプンであることが好ましく、該疎水性化合物としては、<変性デンプン(A)>の項において疎水性基をアミド化によりデンプンに結合させる場合に使用する疎水性化合物として例示のものが挙げられる。
【0037】
これらの中でも、引取速度、最大ドロー比及び密着性を向上しやすい観点から、疎水変性デンプン(A-2)は、炭素原子数6~24のグリシジルエーテル変性基を有するエーテル化デンプン(グリシジルエーテル由来の構造単位を有するエーテル化デンプン)及び炭素原子数6~24のカルボン酸無水物変性基を有するエステル化デンプン(カルボン酸無水物由来の構造単位を有するエステル化デンプン)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0038】
疎水変性デンプン(A-2)のアミロース含有量は、高アミロース変性デンプン(A-1)と該疎水変性デンプン(A-2)との平均アミロース含有量が45質量%以上であれば、特に限定されないが、好ましくは50質量%未満、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、特に好ましくは20質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。疎水変性デンプン(A-2)のアミロース含有量が上記範囲であると、引取性、最大ドロー比及び密着性の点で有利である。
【0039】
疎水変性デンプン(A-2)は、15質量%水溶液を95℃で5分撹拌して糊化させた後、30℃に冷却した際の粘度が好ましくは1000cP以下、より好ましくは500cP以下、さらに好ましくは300cP以下、特に好ましくは100cP以下、最も好ましくは50cP以下であり、好ましくは10cP以上である。該粘度が上記の上限以下であると、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすく、また該粘度が上記の下限以上であると、成形物の水溶性を低減できる。なお、疎水変性デンプン(A-2)の上記粘度は、粘度計を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0040】
疎水変性デンプン(A-2)中の含水量は、疎水変性デンプン(A-2)の質量に対して好ましくは10~15質量%である。
【0041】
疎水変性デンプン(A-2)としては、市販されているものを用いてもよいし、所定のアミロース含有量を有するデンプンを、慣用の方法を用いて疎水性化合物により変性することで製造してもよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物において、高アミロース変性デンプン(A-1)と疎水性変性デンプン(A-2)との割合は、該高アミロース変性デンプン(A-1)と疎水変性デンプン(A-2)との平均アミロース含有量が45質量%以上となるように適宜調整すればよい。本発明の好適な実施態様では、高アミロース変性デンプン(A-1)の含有量は、疎水変性デンプン(A-2)1質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上、特に好ましくは2.0質量部以上であり、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5.0質量部以下である。疎水変性デンプン(A-2)の含有量に対する高アミロース変性デンプン(A-1)の含有量が上記の下限以上であると、酸素バリア性を向上しやすく、また上記の上限以下であると、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすい。
【0043】
<ポリビニルアルコール(B)>
本発明の樹脂組成物は、ポリビニルアルコール(B)を含む。ポリビニルアルコール(B)は、鹸化度が好ましくは80~99.8モル%である。ポリビニルアルコール(B)の鹸化度が上記範囲内である場合には、十分な強度や酸素バリア性が得られやすい。鹸化度は、より好ましくは85モル%以上、さらに好ましくは88モル%以上である。なお、本明細書において、鹸化度は、ポリビニルアルコール(B)における水酸基とエステル基との合計に対する水酸基のモル分率をいう。
【0044】
ポリビニルアルコール(B)は、ビニルアルコール単位以外の他の単量体単位をさらに含むことができる。他の単量体単位としては、エチレン性不飽和単量体に由来する単量体単位等が挙げられる。エチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物、酢酸イソプロペニル;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カルリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどのビニルエステル単量体が例示される。また、不飽和単量体に由来する単量体単位であって、けん化されなかったものも、前記他の単量体単位に含まれる。他の単量体単位の含有量は、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0045】
ポリビニルアルコール(B)の製造方法は特に限定されない。例えばビニルアルコール単量体と、他の単量体とを共重合し、得られた共重合体を鹸化してビニルアルコール単位に変換する方法が挙げられる。共重合する際の重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合等が挙げられる。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。共重合体の鹸化は、公知の方法を適用できる。例えばアルコール又は含水アルコールに当該共重合体が溶解した状態で行うことができる。このとき使用できるアルコールは、例えばメタノール、エタノール等の低級アルコールであることが好ましい。
【0046】
ポリビニルアルコール(B)は、JIS Z 8803に準拠して測定した4%水溶液の20℃における粘度が好ましく1mPa・s以上、より好ましくは2mPa・s以上、さらに好ましくは3mPa・s以上であり、好ましくは45mPa・s以下、より好ましくは35mPa・s以下である。ポリビニルアルコール(B)の上記粘度が上記範囲内である場合には、十分な強度や酸素バリア性が得られやすい。なお、ポリビニルアルコール(B)の上記粘度は粘度計を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0047】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、前記変性デンプン(A)と前記ポリビニルアルコール(B)とを含み、変性デンプン(A)とポリビニルアルコール(B)との合計100質量部を基準に、変性デンプン(A)の含有量が40~98質量部であり、ポリビニルアルコール(B)の含有量が2~60質量部であるため、製造時の最大ドロー比及び酸素バリア性に優れた被覆物を形成できる。さらに該被覆物は良好な生分解性も示すことができる。そのため、本発明の樹脂組成物は食品を包装する容器の材料として好適に使用できる。
【0048】
変性デンプン(A)の含有量は、変性デンプン(A)とポリビニルアルコール(B)との合計100質量部を基準に、40質量部以上、好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上、さらに好ましくは70質量部以上であり、98質量部以下、好ましくは95質量部以下、より好ましくは90質量部以下、さらに好ましくは85質量部以下である。変性デンプン(A)の含有量が上記の下限以上であると、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすく、また上記の上限以下であると、酸素バリア性を向上しやすい。
【0049】
ポリビニルアルコール(B)の含有量は、変性デンプン(A)とポリビニルアルコール(B)との合計100質量部を基準に、2質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上であり、60質量部以下、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。ポリビニルアルコール(B)の含有量が上記の下限以上であると、酸素バリア性を向上しやすく、また上記の上限以下であると、引取性、最大ドロー比及び密着性を向上しやすい。
【0050】
本発明の樹脂組成物において、変性デンプン(A)とポリビニルアルコール(B)との合計割合は、樹脂組成物の質量に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上、特に好ましくは80質量%以上であり、好ましくは98質量%以下である。変性デンプン(A)とポリビニルアルコール(B)との合計割合が上記範囲であると、最大ドロー比、密着性及び酸素バリア性を向上できる。
【0051】
本発明の樹脂組成物は、炭素原子数が12~22の脂肪酸及び/又はその脂肪酸塩をさらに含んでいてよい。炭素原子数が12~22の脂肪酸及びその脂肪酸塩としては、例えばステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、パルミチン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノレイン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。これらの中でも加工性の観点から、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムが好ましい。炭素原子数が12~22の脂肪酸及びその脂肪酸塩はそれぞれ単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0052】
本発明の樹脂組成物が、炭素原子数が12~22の脂肪酸及び/又はその脂肪酸塩を含有する場合、樹脂組成物中の含有量は、樹脂組成物の質量に対して、好ましくは0.01~3質量%、より好ましくは0.03~2質量%、さらに好ましくは0.1~1質量%である。炭素原子数が12~22の脂肪酸及び/又はその脂肪酸塩の含有量が上記範囲であると加工性の点で有利となる傾向がある。
【0053】
本発明の樹脂組成物は、粘土をさらに含んでいてもよい。粘土としては、合成又は天然層状ケイ酸塩粘土、例えばモンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、雲母(マイカ)、ヘクトライト、サポナイト、ノントロナイト、ソーコナイト、バーミキュライト、レディカイト、マガダイト、ケニヤアイト、スチーブンサイト、ヴォルコンスコイトなどが挙げられる。粘土は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0054】
本発明の樹脂組成物が粘土を含有する場合、樹脂組成物中の含有量は、樹脂組成物の質量に対して、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.1~3質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%である。粘土の含有量が上記範囲であると、透明性及び強度の点で有利となる傾向がある。
【0055】
本発明の樹脂組成物は、成膜性の観点から、可塑剤をさらに含むことができる。可塑剤としては、例えば水、ソルビトール、グリセロール、マルチトール、キシリトール、マンニトール、トリオレイン酸グリセロール、エポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、トリ酢酸グリセリル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチラート、ポリエチレンオキシド、ポリエチレングリコールが挙げられる。可塑剤は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの可塑剤の中でも、良好な成膜性及び塗布性が得られる観点から、水が好ましい。
【0056】
樹脂組成物中の含水量(含水率)は、樹脂組成物の成膜性と酸素バリア性の観点から、樹脂組成物の質量に対して、好ましくは3~20質量%、より好ましくは4~18質量%、さらに好ましくは7~15質量%である。含水量が上記範囲であると、樹脂組成物が優れた成膜性を発現でき、被覆物の密着性及び酸素バリア性が良好となる。なお、含水量は、温度23℃・相対湿度50%で2週間調湿した後に、加熱乾燥式水分率計を用いて温度130℃で30分間測定したときの含水量である。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤、加工安定剤、耐候性安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、他の熱可塑性樹脂、潤滑剤、香料、消泡剤、消臭剤、増量剤、剥離剤、離型剤、補強剤、架橋剤、防かび剤、防腐剤、結晶化速度遅延剤などの添加剤をさらに含むことができる。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、ペレット及びフィルム又はシートの形態であってよい。本発明の樹脂組成物をフィルム又はシートとして用いる場合、フィルムの厚みは一般的には5~100μmであり、シートの厚みは一般的には100μm~1000μmである。また、フィルム又はシートは単層体又は多層体であってもよい。
【0059】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、少なくとも、前記変性デンプン(A)及びポリビニルアルコール(B)を混合して混合物を得る工程(1)、該混合物を押出す工程(2)、及び押出された混合物を冷却及び乾燥する工程(3)を含む方法により製造できる。
【0060】
工程(1)は、少なくとも変性デンプン(A)及びポリビニルアルコール(B)を混合する工程であり、任意に他の成分、例えば前記炭素原子数が12~22の脂肪酸及び/又はその脂肪酸塩、前記粘土、前記可塑剤、及び前記添加剤を共に混合することができる。
【0061】
工程(1)は通常、押出機を用いて行う。押出機中において、各成分にスクリューによりせん断応力を与え、バレルへの外部熱の適用により加熱しながら均質に混合する。
【0062】
押出機としては、例えば二軸スクリュー押出機を用いることができる。二軸スクリュー押出機は、共回転又は逆回転のいずれであってもよい。スクリュー直径は、例えば20~150mm、押出機長さ(L)とスクリュー直径(D)の比L/D比は、例えば20~50であってよい。スクリューの回転速度は、好ましくは80rpm以上、より好ましくは100rpm以上である。また、押出成形圧力は、好ましくは5バール(0.5MPa)以上、より好ましくは10バール(1.0MPa)以上である。各成分はそれぞれ直接、押出機中へ導入することができる。また、これらの各成分をミキサーを用いて予備混合したものを押出機中へ導入してもよい。
【0063】
工程(1)において、樹脂組成物の成膜性と酸素バリア性の観点から、混合物の質量に対して、下限として好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上、最も好ましくは20質量%以上、上限として好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下の可塑剤、好ましくは水を混合することが好ましい。ここで、該混合物の質量は可塑剤を含む混合物の総質量を示す。工程(1)において、押出の初期段階に可塑剤を導入してもよく、上記加熱温度に達する前、例えば100℃以下のときに可塑剤を導入することができる。変性デンプン(A)は、水分、熱及びせん断応力の組み合わせによりクッキング処理が施され、ゼラチン(ゲル)化させることができる。また、別途可塑剤、好ましくは水を導入することにより、ポリビニルアルコール(B)等の水溶性ポリマーを溶解し、樹脂組成物を軟化し、モジュラス及び脆性を低下させることができる。
【0064】
工程(1)において、好ましくは100℃超150℃以下、より好ましくは115℃以上140℃以下の温度に加熱してクッキング処理を行う。ここで、クッキング処理とは、デンプン粒を破砕し、ゲル化させる処理である。加熱は押出機のバレルに外部から熱を適用することにより行える。各バレルへは、段階的に変えた温度を適用することにより、目的とする温度にまで加熱できる。120℃超の温度においてクッキング処理を行う場合、加工性の点で有利となる。
【0065】
クッキング処理した混合物は、発泡を防止するため、好ましくは85~120℃、より好ましくは90~110℃の温度へ低下しながら、ダイの方へ押し進めるのがよい。また、バレルから排気することにより発泡を防止し、水分を除去できる。
【0066】
押出機中の滞留時間は、温度プロファイルやスクリュー速度に応じて設定可能であり、好ましくは1~2.5分である。
【0067】
混合物を押出す工程(2)では、溶融混練されながら押出機中を押し進められてきた溶融した混合物をダイから押出す。ダイの温度は好ましくは85~120℃、より好ましくは90~110℃の温度である。
【0068】
押出された混合物(溶融物)を冷却及び乾燥する工程(3)では、混合物(溶融物)はフィルム状又はストランド状に押出すことができる。
【0069】
混合物をフィルム状に押出す場合、混合物はフィルム成形用ダイから押出し、次いで引取りローラーで巻取りながら冷却及び乾燥することができる。ダイ及びローラーの間では、混合物がローラーに付着するのを防ぐように冷却するのが好ましい。乾燥のために、ロールは加温してもよく、巻取の際に脱湿空気を供給してもよい。脱湿空気は、吹込チューブ法の場合、フィルムがダイを退出するときにフィルムを膨張させるために使用できる。タルクを空気流中に同伴させてフィルムのブロッキングを防ぐこともできる。
【0070】
混合物をストランド状に押出す場合、複数穴のストランドノズルから押出し、回転カッターで切断することでストランドをペレット形状にできる。ペレットの膠着を防ぐために、振動を定期的もしくは定常的に与え、熱風、脱湿空気又は赤外線ヒーターによりペレット中の水分を除去することができる。
【0071】
[被覆物及びその製造方法]
本発明は、本発明の樹脂組成物を紙又はフィルムに被覆してなる被覆物を包含する。本発明の被覆物は、前記樹脂組成物を含むため、製造時の最大ドロー比が高く、高い生産性を有するとともに、酸素バリア性及び生分解性にも優れる。さらに本発明の被覆物は、製造時における樹脂組成物の最大ドロー比が高いため、紙又はフィルムと樹脂組成物との密着性にも優れる。これは樹脂組成物の粘度が低く、例えば紙の繊維間に樹脂組成物が浸入しやすいためだと考えられる。
【0072】
樹脂組成物を紙に被覆する場合、該紙としては、特に限定されず、例えばクラフト紙、上質紙、模造紙、グラシン紙、パーチメント紙、合成紙、白板紙、マニラボール、ミルクカートン原紙、カップ原紙、アイボリー紙、白銀紙などが挙げられる。被覆物中の紙の厚みは、特に限定されず、好ましくは1~500μm、より好ましくは10~300μmである。被覆物中の紙の厚みが上記範囲であると、被覆物製造時の引取速度を大きくでき、生産性を向上しやすい。
【0073】
樹脂組成物をフィルムに被覆する場合、該フィルムとしては、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム(好ましくは低密度ポリエチレン(LDPE)フィルム)及びポリ乳酸フィルム等が挙げられる。被覆物中のフィルムの厚みは、特に限定されず、好ましくは1~500μm、より好ましくは10~300μm、さらに好ましくは50~100μmである。
【0074】
本発明の被覆物中の樹脂組成物の厚みは、好ましくは1~300μm、より好ましくは5~100μm、さらに好ましくは10~50μmである。被覆物中の樹脂組成物の厚みが上記範囲であると、良好な成膜性及び酸素バリア性が得られやすい。
【0075】
本発明の被覆物製造時の最大ドロー比、すなわち、樹脂組成物の最大ドロー比は、好ましくは5以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上であり、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは20以下である。最大ドロー比が上記範囲であると、紙又はフィルムと樹脂組成物との密着性及び酸素バリア性に優れた被覆物を高い生産性で得ることができる。
なお、最大ドロー比は、以下の式で表される。
(最大ドロー比)=(最大引取可能速度)/(押出機のダイス出口の流速)
(押出機のダイス出口の流速)=(吐出量)/((リップ開度)×(ダイ幅))
最大引取可能速度は、引取機で搬送された紙又はフィルムに、押出機のダイス出口から吐出された樹脂組成物を被覆する際に、一定の吐出量の条件下、紙又はフィルムの搬送速度(引取速度)を1.0m/分刻みで上げ、10秒保持後も樹脂組成物のメルトカーテンが端部から裂けない最大速度を示す。樹脂組成物の押出機のダイス出口からの吐出量、リップ開度及びダイ幅は適宜調整すればよい。最大ドロー比は、例えば実施例に記載の方法により測定して求めることができる。なお、最大ドロー比は、樹脂組成物の特性により変化するため、樹脂組成物が有する特定のパラメータということもできる。
ここで上記した式中に記載の項目のそれぞれの単位は、(最大引取可能速度)[m/s]、(押出機のダイス出口の流速)[m/s]、(吐出量)[m3/s]、(リップ開度)[m]及び(ダイ幅)[m]であり、(最大ドロー比)は[無単位]となる。
【0076】
本発明の被覆物の23℃・50%RHにおける酸素透過度(mL・20μm/m2・atm・24hr)は、好ましくは8.0以下、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下、特に好ましくは3.0以下、より特に好ましくは2.0以下、最も好ましくは1.0以下である。被覆物における酸素透過度が上記の上限以下であると、優れた酸素バリア性を発現できる。また、該酸素透過度(mL・20μm/m2・atm・24hr)は通常0.1以上である。なお、被覆物の酸素透過度は、23℃・50%RHに二週間保管し調湿させた後、酸素透過量測定装置により測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。また、本明細書において、酸素バリア性が向上するとは、酸素透過度が低減されることを示し、酸素バリア性に優れるとは、酸素透過度が低いことを示す。
【0077】
本発明の被覆物は、紙又はフィルムと樹脂組成物との優れた密着性を発現できる。本発明の被覆物における密着強度(N/15mm)は、好ましくは2.0以上、より好ましくは3.0以上、さらに好ましくは4.0以上、特に好ましくは5.0以上である。また、該密着強度(N/15mm)は通常10.0以下である。なお、密着強度は、23℃・50%RHに二週間保管し調湿させた後、引っ張り試験機を用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0078】
本発明の被覆物の製造方法は、紙又はフィルムに樹脂組成物を被覆できる方法であれば、特に限定されない。好ましい態様では、本発明の被覆物は、押出機を用いて、前記樹脂組成物を、引取機で搬送されたフィルム又は紙に被覆する工程(工程(A)とする)を含む方法により製造できる。
【0079】
本発明の一実施態様では、工程(A)において、樹脂組成物、好ましくはペレット形態の樹脂組成物に特定量の水を吸収させた後、得られた含水ペレットを押出機に投入する。該含水ペレット中の含水量(含水率)は、含水ペレットの質量に対して、好ましくは0.1~50質量%、より好ましくは10~45質量%である。押出機としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機などが挙げられる。押出機のスクリュー直径は例えば20~150mmであり、押出機長さ(L)とスクリュー直径(D)の比L/D比は例えば15~50であり、スクリューの回転速度は、好ましくは80rpm以上、より好ましくは100rpm以上である。押出機中のシリンダー温度は例えば80~120℃、好ましくは90~110℃であってよい。
【0080】
押出機に投入された樹脂組成物は可塑化され、ダイス出口から吐出される。一方、引取機、好ましくはローラー式引取機で紙又はフィルムを搬送させる。該搬送させた紙又はフィルム上にダイス出口から吐出した樹脂組成物をコートすることで被覆物が得られる。得られた被覆物は、例えば加圧ロール等で基材と圧着させて巻取機でロール状に巻き取ってよい。なお、本明細書において、「被覆」を「コート」ということがある。
【0081】
工程(A)において、式(1)
ドロー比=(引取機の引取速度)/(押出機のダイス出口の流速) (1)
で表されるドロー比が5~20であることが好ましい。このようなドロー比で被覆物を製造すると、生産性が向上され、かつ密着性及び酸素バリア性に優れた被覆物が得られやすい。なお、押出機のダイス出口の流速は、上記の通り、(吐出量)/((リップ開度)×(ダイ幅))で表される。吐出量を単位時間当たりの質量で表現する場合、吐出量は好ましくは1~500kg/hr、より好ましくは5~200kg/hrであり、リップ開度は好ましくは0.01~5mm、より好ましくは0.1~1mmであり、ダイ幅は好ましくは100~3000mm、より好ましくは200~2000mmである。
【0082】
[多層構造体及び包材]
本発明は、本発明の被覆物を含む多層構造体を包含する。本発明の多層構造体は、被覆物以外の層、例えばフィルム、紙又は接着剤を含むことができる。これらの層は単独又は二種以上組み合わせて使用できる。本発明の多層構造体は複数の層を有するが、層の数は特に限定されず、例えば3~10層であってよい。フィルム及び紙としては、それぞれ、[被覆物]の項に記載のフィルム及び紙として例示のものが挙げられる。
【0083】
多層構造体に含んでもよい接着剤としては、例えばアクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤、酢酸ビニル系接着剤、エチレン-酢酸ビニル系接着剤、塩化ビニル系接着剤、シリコーン系接着剤、ニトリルセルロース系接着剤、フェノール系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、メラミン系接着剤、スチレン系接着剤などが挙げられる。
【0084】
本発明の好適な実施態様において、多層構造体は、フィルム/接着剤/樹脂組成物/紙/接着剤/フィルムの順に積層された層構成を有する。この態様において、フィルム又は紙の種類は特に限定されないが、フィルムはポリエチレンフィルムであることが好ましい。
【0085】
本発明は、本発明の被覆物、若しくは多層構造体からなる包材を包含する。該包材は、酸素バリア性、密着性及び生分解性に優れることから、食品用の包材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0087】
<試験方法>
(1)最大ドロー比の測定
実施例及び比較例で得られたペレット形状の樹脂組成物に、樹脂組成物の質量に対して35質量%となるまで水を添加した。水の添加時はペレット同士の膠着を防ぎ、かつペレット全体に水を均一に吸収させるために、水を複数回に分けて添加しながらタンブラーミキサーで15分間撹拌した。撹拌後は水分が揮散しないようにポリエチレン袋に入れて密封し6時間室温で静置した。上述の水分率は、メトラー・トレド社製加熱乾燥式水分計「HR73」を用いて、130℃で60分間測定することで確認した。
下記の表1に記載の単軸押出機に上記の含水ペレットを投入し、製膜用ダイスから押出し、ローラー式引取機で搬送させた紙の上にコートした。コートして得られた被覆物は直ちに加圧ロールにて基材と圧着させた後、巻取機でロール状に巻き取った。
・単軸押出機:プラスチック工学研究所製押出機(40mm径、L/D=25)
・設定温度:
【表1】
・吐出量:20kg/hr
・ダイス:450mm幅コートハンガーダイ、リップ開度0.2mm
・ダイス-キャストロール間の距離(エアーギャップ):150mm
・紙:日本製紙社製 白銀(無塗工紙、厚み70μm)
【0088】
一定の吐出量の条件下、紙の搬送速度を1.0m/分から1.0m/分刻みで上げ、10秒保持後もメルトカーテンが端部から裂けない最大速度を最大引取可能速度として記録した。下記の式に基づいて最大ドロー比を計算した。
(最大ドロー比)=(最大引取可能速度)/(押出機のダイス出口の流速)
(押出機のダイス出口の流速)=(吐出量)/((リップ開度)×(ダイ幅))
【0089】
(2)酸素透過度の測定
実施例及び比較例で得られた被覆物を23℃・50%RHに二週間保管し調湿させた後、酸素透過量測定装置に取り付け、酸素透過度を測定した。測定条件は以下の通りとした。
装置:モダンコントロール社製「MOCON OX-TRAN2/20」
温度:23℃
酸素供給側及びキャリアガス側の湿度:50%RH
酸素圧:1.0atm
キャリアガス圧力:1.0atm
【0090】
(3)紙への密着性の評価
実施例及び比較例で得られた被覆物を23℃・50%RHに二週間保管し調湿させた後、15mm×100mmの短冊状に切断し、紙から剥離させた樹脂組成物を引っ張ることで、紙と樹脂組成物(樹脂層)の密着強度を測定した。
装置:インストロン社製3367、ロードセル最大荷重1kN
温度:23℃
湿度:50%RH
剥離面角度:180°
【0091】
(4)疎水変性デンプン(A-2)の粘度測定法
実施例及び比較例における疎水変性デンプン(A-2)の水分率を、メトラー・トレド社製加熱乾燥式水分計「HR73」を用いて130℃で30分間加熱することで測定し、乾燥質量を求めた。乾燥質量で15質量%となるように水溶液を調製し、エヌエスピー社製「ラピッドビスコシティアナライザーTecMaster」を用いて、95℃で5分撹拌することで糊化させた後、30℃に冷却した際の粘度を測定し、疎水変性デンプン(A-2)の15質量%水溶液における粘度(30℃)とした。
【0092】
(5)ポリビニルアルコール(B)の粘度測定法
JIS Z 8803(落球式粘度計)及びJIS K 6726(ポリビニルアルコール試験方法)に準拠して、実施例及び比較例におけるポリビニルアルコールの4%水溶液を調製し、ヘブラー粘度計を用いて20℃での粘度を測定し、ポリビニルアルコール(B)の4%水溶液における粘度(20℃)とした。
【0093】
(6)用いた材料
<高アミロース変性デンプン(A-1)>
・ECOFILM(登録商標):プロピレンオキシドにより変性されたトウモロコシデンプン、アミロース含有量70質量%、Ingredionから入手
・Gelose A939(登録商標):プロピレンオキシドにより変性されたトウモロコシデンプン、アミロース含有量80質量%、National Starch and Chemical Companyから入手
【0094】
<疎水変性デンプン(A-2)>
低アミロースデンプンに、以下の化学変性法を適用することにより、疎水変性デンプンとして表2に示すOSA変性デンプンa~c、及び親水変性デンプンとしてPO変性デンプンd、eを得た。なお、未変性デンプンfは化学変性法を適用していないデンプンである。
【0095】
(オクテニルマレイン酸無水物(OSA)変性法)
2Lのプラスチックビーカー中に、500gの原料デンプンと750mlの水道水を入れて、スラリー化した。3%の水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを7.5に調製しながら、そのスラリーを攪拌機で混合した。15gのオクテニル無水マレイン酸(OSA)を30分おきに3回に分けて添加しながら攪拌を続けた。3%の水酸化ナトリウム溶液を添加することによって、pHを7.5に維持した。水酸化ナトリウムの消費が止まるまで(10分間で消費量が1ml未満となるまで)、その反応物を攪拌した。次いでそのデンプンをWaltmanの1番の濾紙に通して濾過し、得られたデンプンを水道水750mlで洗浄した。次いでそのデンプンを500mlの水中に再スラリー化し、25%の塩酸を添加してpHを5.5に調整した。そのスラリーを再度濾過し、追加の水750mlで洗浄し、そして15%未満の水分まで自然乾燥して、OSA変性デンプンを作製した。
【0096】
(プロピレンオキシド(PO)変性法)
4gの固体の水酸化ナトリウムを750gの水道水に溶かして、完全に溶解するまで混合した。次いで50gの硫酸ナトリウムをその水に添加して、溶解するまで混合した。次いで原料デンプン100gをその攪拌されている水性混合物に素早く添加し、均一になるまで混合した。種々のレベルのプロピレンオキシドをそのデンプンスラリーに添加し、1~2分間混合した。次いでそのスラリーを2Lのプラスチックボトル中に移して、封入した。次いでそのボトル及び内容物を40℃に設定された予備加熱混合キャビネット中に置いて、18時間攪拌した。その反応が完了した後、そのスラリーを希硫酸でpH3に調製し、次いで30分間混合した。次いで希薄な水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを5.5~6.0に調製した。次いで、濾過による回収を行い、得られたデンプンケークを水(3×250ml)で洗浄し、ベンチの上に広げて、自然乾燥させた。これにより、PO変性デンプンを作製した。PO変性デンプンは、親水変性デンプン(親水変性基を有する変性デンプン)であり、疎水性基を有さない。
【0097】
【0098】
<ポリビニルアルコール(B)>
・ELVANOL(登録商標)71-30:ポリビニルアルコール樹脂、鹸化度99mol%以上、粘度27-33mPa・s(20℃、4%水溶液)、クラレ社から入手
・ELVANOL(登録商標)90-50:ポリビニルアルコール樹脂、鹸化度99mol%以上、粘度12-15mPa・s(20℃、4%水溶液)、クラレ社から入手
・クラレポバール(登録商標)22-88:ポリビニルアルコール樹脂、鹸化度88mol%、粘度22mPa・s(20℃、4%水溶液)、クラレ社から入手
・クラレポバール(登録商標)5-88:ポリビニルアルコール樹脂、鹸化度88mol%、粘度5mPa・s(20℃、4%水溶液)、クラレ社から入手
・クラレポバール(登録商標)3-98:ポリビニルアルコール樹脂、鹸化度98mol%、粘度3mPa・s(20℃、4%水溶液)、クラレ社から入手
【0099】
<実施例1>
(樹脂組成物)
原料としてECOFILM(登録商標)(7.35kg)、OSA変性デンプンa(2.45kg)、及びELVANOL71-30(200g)をタンブラーミキサー内で2時間混合し、得られた混合物を、液体ポンプを接続した二軸押出機に供した。
図1に実施例1で用いられた二軸押出機の概略図を示し、押出機のスクリュー直径、L/D比、回転速度、運転方式、及び温度プロファイル(表3)を以下に示した。
【0100】
【0101】
スクリュー直径:27mm
L/D比:48
スクリュー回転速度500rpm
運転方式:共回転(かみ合せ自己ワイピング)方式
【0102】
具体的には、得られた混合物を二軸押出機の重量フィーダーを経由して3.5kg/時間の速度でC1におけるホッパーを通ってバレル内に供給した。水をC4における液体ポンプ(L)を通して、26g/分の流速でバレル内に噴射した。C5~C9の温度域はクッキング域であり、これらの帯域内で完全なゼラチン化を完了した。ストランドダイは、C11以後にある。樹脂組成物を複数穴のストランドノズルから押出し、回転カッターで切断することで、ストランドをペレット形状に成形した。ペレットは過剰の水分を含有するため、膠着を防ぐために振動を定常的に与えながら、熱風、脱湿空気もしくは赤外線ヒーターで水分を除去した。
【0103】
(被覆物)
上記[(1)最大ドロー比の測定]に記載の方法と同様の方法により、最大ドロー比でコート厚が20μmとなるように樹脂組成物を紙にコートした被覆物を作製した。
【0104】
<実施例2>
原料として、ECOFILM(登録商標)(6.75kg)、OSA変性デンプンa(2.25kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(1.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0105】
<実施例3>
原料として、ECOFILM(登録商標)(5.25kg)、OSA変性デンプンa(1.75kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(3.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0106】
<実施例4>
原料として、ECOFILM(登録商標)(3.75kg)、OSA変性デンプンa(1.25kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(5.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0107】
<実施例5>
ポリビニルアルコール(B)として、ELVANOL(登録商標)90-50を用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0108】
<実施例6>
ポリビニルアルコール(B)として、クラレポバール(登録商標)22-88を用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0109】
<実施例7>
ポリビニルアルコール(B)として、クラレポバール(登録商標)5-88を用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0110】
<実施例8>
ポリビニルアルコール(B)として、クラレポバール(登録商標)3-98を用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0111】
<実施例9>
原料として、ECOFILM(登録商標)(5.40kg)、OSA変性デンプンa(3.60kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(1.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0112】
<実施例10>
原料として、ECOFILM(登録商標)(8.10kg)、OSA変性デンプンa(0.90kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(1.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0113】
<実施例11>
疎水変性デンプン(A-2)として、OSA変性デンプンbを用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0114】
<実施例12>
疎水変性デンプン(A-2)として、OSA変性デンプンcを用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0115】
<実施例13>
高アミロース変性デンプン(A-1)として、Gelose A939(登録商標)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0116】
<比較例1>
原料として、ECOFILM(登録商標)(10.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0117】
<比較例2>
原料として、OSA変性デンプンa(10.00kg)を用いた以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。また、樹脂組成物は製膜できなかった。
【0118】
<比較例3>
原料として、OSA変性デンプンa(9.00kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(1.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。また、樹脂組成物は製膜できなかった。
【0119】
<比較例4>
原料として、ECOFILM(登録商標)(7.50kg)、及びOSA変性デンプンa(2.50kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0120】
<比較例5>
原料として、ECOFILM(登録商標)(7.42kg)、OSA変性デンプンa(1.57kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(100g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0121】
<比較例6>
原料として、ECOFILM(登録商標)(2.25kg)、OSA変性デンプンa(0.75kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(7.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。また、樹脂組成物は製膜できなかった。
【0122】
<比較例7>
疎水変性デンプン(A-2)に代えて、PO変性デンプンdを用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0123】
<比較例8>
疎水変性デンプン(A-2)に代えて、PO変性デンプンeを用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0124】
<比較例9>
疎水変性デンプン(A-2)に代えて、未変性デンプンfを用いたこと以外は、実施例2と同様にして樹脂組成物及び被覆物を得た。
【0125】
<比較例10>
原料として、ECOFILM(登録商標)(3.60kg)、OSA変性デンプンa(5.40kg)、及びELVANOL71-30(登録商標)(1.00kg)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。また、樹脂組成物は製膜できなかった。
【0126】
<比較例11>
高アミロース変性デンプン(A-1)として、Gelose A939(登録商標)を用いたこと以外は、比較例10と同様にして樹脂組成物を得た。また、樹脂組成物は製膜できなかった。
【0127】
糊化処理後の疎水変性デンプン(A-2)の15質量%水溶液における粘度(30℃)の測定結果、高アミロース変性デンプン(A-1)と疎水変性デンプン(A-2)との混合比及び平均アミロース含有量、ポリビニルアルコール(B)の添加量、ケン化度及び4%水溶液における粘度(20℃)の測定結果、被覆物の最大ドロー比、酸素透過度及び紙と樹脂組成物との密着性の評価結果を表4に示した。
【0128】
【0129】
表4に示されるように、実施例1~13で得られた被覆物は、製造時の最大ドロー比が高く、かつ酸素透過度が低いことが確認された。これに対して、比較例1~11では、実施例1~13と比べ、最大ドロー比又は酸素透過度又は両方において劣ることが確認された。従って、本発明の被覆物は、製造時の最大ドロー比が高く、かつ酸素バリア性に優れることがわかった。さらに実施例1~13で得られた被覆物は、紙と樹脂組成物との密着性に優れることもわかった。