(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】バイオ印刷された半月板インプラント及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/52 20060101AFI20240116BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240116BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20240116BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240116BHJP
A61L 27/22 20060101ALI20240116BHJP
A61L 27/26 20060101ALI20240116BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20240116BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61L27/52
A61L27/20
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/22
A61L27/26
A61L27/12
A61L27/50
(21)【出願番号】P 2020534196
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 US2018066980
(87)【国際公開番号】W WO2019126600
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-17
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517440553
【氏名又は名称】アスペクト バイオシステムズ リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】517000117
【氏名又は名称】デピュー シンセス プロダクツ,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】DePuy Synthes Products, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】サム ウォズワース
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ベイヤー
(72)【発明者】
【氏名】タマー モハメド
(72)【発明者】
【氏名】コンラッド ウォラス
(72)【発明者】
【氏名】モハマッド モストファ カマル カーン
(72)【発明者】
【氏名】エリ カピラ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア ファン
(72)【発明者】
【氏名】ジョー オールト
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/092106(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/096352(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/031171(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/214736(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/148722(WO,A1)
【文献】Biomacromolecules,2015年,Vol.16,pp.1489-1496,DOI: 10.1021/acs.biomac.5b00188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオプリンターにより堆積された複数の層を含む半月板インプラントであって、各層が、固化生体適合性マトリックスを含む合成組織繊維(複数可)を含み、前記半月板インプラントの少なくとも1つの層中の前記固化生体適合性マトリックスが、ハイドロゲル材料とブレンドされた第1の強化材料を含む強化複合ハイドロゲルを含み、ここで前記ハイドロゲル材料及び前記強化材料は印刷と同時又は逐次的に架橋されて二重網目構造ハイドロゲルを形成しており;及び
ここで前記ハイドロゲル材料は、
キトサン
であって、ここで前記強化材料は、
ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、
並びに、PVA及びポリエチレン(グリコール)ジアクリラート(PEGDA)の組み合わせ
、からなる群より選択される、
前記半月板インプラント。
【請求項2】
前記強化材料の架橋が印刷後に生じる、請求項1
に記載の半月板インプラント。
【請求項3】
前記強化材料の添加及び架橋が、印刷後に生じる、請求項1
に記載の半月板インプラント。
【請求項4】
第2の強化材料が、印刷後に、前記印刷層に添加されて、架橋される、請求項1に記載の半月板インプラント。
【請求項5】
前記第1の強化材料が、PVAであり、前記第2の強化材料が、PEGDAである、請求項
4に記載の半月板インプラント。
【請求項6】
前記ハイドロゲル材料が、2.5%~6%(w/v)のキトサンを含む、請求項1に記載の半月板インプラント。
【請求項7】
前記キトサンが、トリポリリン酸ナトリウム(STP)及びポリエチレングリコール(PEG)20kDaを含む架橋剤と架橋される、請求項
6に記載の半月板インプラント。
【請求項8】
前記強化複合ハイドロゲルが、キトサン及びPVAのブレンドを含む、請求項
6または
7に記載の半月板インプラント。
【請求項9】
前記強化複合ハイドロゲルが、
1000~6000Daの分子量を有するPEGDAを含む、請求項
1に記載の半月板インプラント。
【請求項10】
半月板インプラントを作製する方法であって、バイオプリンターから合成組織繊維(複数可)を堆積させて、複数層を形成することを含み、各繊維が、固化生体適合性マトリックスを含み、前記半月板インプラントの少なくとも1つの層中の前記固化生体適合性マトリックスが、ハイドロゲル材料とブレンドされた第1の強化材料を含む強化複合ハイドロゲルを含み、ここで前記ハイドロゲル材料及び前記強化材料は印刷と同時又は逐次的に架橋されて二重網目構造ハイドロゲルを形成しており;及び
ここで前記
ハイドロゲル材料
がキトサンであり、
前記第1の強化材料が、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、
並びに、PVA及びポリエチレン(グリコール)ジアクリラート(PEGDA)の組み合わせ
、からなる群より選択される
、
前記方法。
【請求項11】
円周方向に配向された合成組織繊維(複数可)の1つ以上の層が、半径方向に配向された合成組織繊維(複数可)の1つ以上の層と交互になる、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法がさらに、前記層に前記
第1の強化材料を添加すること、及び印刷後に前記
第1の強化材料を架橋することを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、印刷後に前記第1の強化
材料を架橋させることを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項14】
前記方法がさらに、印刷後に、前記層に第2の強化材料を添加すること、及び得られる構造体を架橋することを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記方法がさらに、前記第2の強化材料に指向性圧力を印加して、前記印刷層への前記第2の強化材料の浸潤を増加させることを含む、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
前記印刷層の充填密度が、前記第2の強化材料の添加の前に、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、または10%未満である、請求項
14に記載の方法。
【請求項17】
前記ハイドロゲル材料が、キトサンであり、前記第1の強化材料が、PVAであり、前記第2の強化材料が、PEGDAある、請求項
14に記載の方法。
【請求項18】
前記ハイドロゲル材料が、2.5%~6%(w/v)のキトサンを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項19】
前記キトサンが、トリポリリン酸ナトリウム(STP)及びポリエチレングリコール(PEG)20kDaを含む架橋剤で架橋される、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記強化複合ハイドロゲルが、キトサン及びPVAのブレンドを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項21】
前記強化複合ハイドロゲルが、
1000~6000Daの分子量を有するPEGDAを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項22】
前記PEGDAが、過硫酸アンモニウム(APS)及びテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)で架橋される、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
前記ハイドロゲル材料が、4.5%(w/v)のキトサンを含む、請求項1に記載の半月板インプラント。
【請求項24】
前記架橋剤が、2.5%のSTP及び15%のPEG 20kDaを含む、請求項
7に記載の半月板インプラント。
【請求項25】
前記ブレンドが、15%のPVAと1:1の比でブレンドされた4.5%(w/v)のキトサンを含む、請求項
8に記載の半月板インプラント。
【請求項26】
前記強化複合ハイドロゲルが、
3400Daの分子量を有するPEGDAを含む、請求項
1に記載の半月板インプラント。
【請求項27】
前記第1の強化材料が、PVAを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項28】
前記第2の強化材料が、PEGDAである、請求項
14に記載の方法。
【請求項29】
前記ハイドロゲル材料が、4.5%(w/v)のキトサンを含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項30】
前記架橋剤が、2.5%のSTP及び15%のPEG 20kDaを含む、請求項
19に記載の方法。
【請求項31】
前記ブレンドが、15%のPVAと1:1の比でブレンドされた4.5%(w/v)のキトサンを含む、請求項
20に記載の方法。
【請求項32】
前記強化複合ハイドロゲルが、
3400Daの分子量を有するPEGDAを含む、請求項
21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2018年12月20日に出願された米国仮出願第62/608,523号に関連し、これらの内容は、あらゆる目的のために、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、人工半月板インプラントを含む、内因性半月板組織の機械的特性を再現する複合ハイドロゲル材料の正確にパターン化された層を含む、合成組織構造体ならびにそれらの製造及び使用のための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
半月板は、膝関節の最も一般に損傷している領域の1つであり、米国では、10万人当たりの66の損傷の平均発生率を有する。半月板の完全または部分的な除去は、急性疼痛を緩和するが、適切な交換がなければ、半月板の除去は、変形性関節症(OA)をもたらす膝の関節軟骨の損傷をもたらし得る。半月板は通常、不十分な治癒可能性を示し、半月板の損傷に対する長期的な解決策を提供するために、周囲の組織にうまく生着しながらも、この固有の組織の必要な耐荷重性及び生体力学的要件を満たす現在利用可能な半月板交換品の選択肢はない。
【0004】
特に、半月板のミクロ解剖学的形状は、生体力学的特性と密接に関連する。半月板の水和性(約72%の水)は、水が圧縮できないので、圧縮応力に対する耐性を付与するが、半月板はまた、同様にかなりの引張強度があり、これは、組織全体にコラーゲン繊維の秩序正しい配置を介して付与される。線維軟骨マトリックスの重要な構成要素間の相互作用は、半月板組織を繊維強化多孔質透過性複合材料として挙動させ、流体の流れにより引き起こされる摩擦抵抗が動的荷重への応答を制御する。半月板の表面及び層状ゾーンは、ランダムに配向されたコラーゲン繊維で構成されるが、半月板のより深い繊維は、円周方向及び半径方向に配向している。通常の使用では、膝の内部で体重の数倍の力が発生し、半月板が、円周方向に整列したコラーゲン線維の密な網目構造を通して、この荷重の50~100%を伝達する。この秩序立った構造は、繊維方向に非常に高い引張特性を生じる(引張弾性率50~300MPa)(Baker & Mauck、2007)(Fithian et al.、1990)。
【0005】
引張フープ応力は、膝が軸方向の荷重を受ける時に円周方向に生じ、この応力は、膝関節から半月板を押し出そうとする。しかし、円周方向に整列したコラーゲン繊維の引張強度ならびに前部及び後部挿入靭帯での強固な付着は、半月板の突出を防ぐのに役立ち、応力を大幅に低減させ、脛骨軟骨を保護する。対照的に、前部または後部の挿入靭帯または周辺の周囲コラーゲン線維が断裂する場合、荷重伝達機序が変化し、脛骨軟骨が損傷し得る。圧縮強度は、新鮮凍結の死体のヒト半月板で測定されており、12%の歪での軸方向及び半径方向の非拘束圧縮ヤング率は、平衡状態でそれぞれ83.4kPa及び76.1kPaであった。歩行に関連する生理学的歪率の影響を受ける場合、12%の歪の軸方向及び半径方向の圧縮弾性率は、それぞれ718kPa及び605kPa(Chia & Hull、2008)であり、引張弾性率は、数桁大きい(50~300MPa)(Baker & Mauck、2007)(Fithian et al.、1990)。
【0006】
従って、天然に存在する半月板組織は、合成構造体で再現することが困難であることが証明されている著しい組み合わせである、顕著な引張及び圧縮強度を有している。US2017/0202672では、例えば、ポリカプロラクトン(PCL)のシェル及びKevlar繊維で強化されたポリカーボネートウレタン(PCU)コアを含む成形人工半月板が記載されている。しかし、残念ながら、強化PCU/Kevlarコアを比較的硬くて脆いPCLコートで取り囲んでも、天然の機械的特性に近づくことさえできない。嵩高いPCLの圧縮弾性率が、ヒト半月板組織の測定された圧縮弾性率よりも桁が大きい(歪%、速度、及び配向に応じて、PCLの場合約300MPa対ヒト半月板場合の約70~1000kPa)。そのようなものであるから、強化PCU/Kevlarコアなどの合成構造体は、インプラントの早期破損及び既存の半月板組織または周囲の関節軟骨への潜在的な損傷のリスクが高くなり得る。
【0007】
同様に、WO2015/026299は、揮発性有機溶媒に可溶なPCLを用いるエレクトロジェッティング技術について記載し、これは、同心円及び直線パターンに配置された繊維の網目組織を生成するが、全ては同じ材料から作製される。しかし、上述したように、PCL単独は、ホスト半月板に適合する圧縮弾性率及び粘弾性に関する適切な機械的特性ならびにインプラント及びホスト半月板間の圧縮弾性率の不一致を有せず、移植片の破損及び関節の損傷をもたらし得る。さらに、PCLが細胞接着をサポートし得るが、インプラントは、異なる領域に異なる割合で、細胞で占められることになり、それにより、PCLが生分解するにつれて、インプラントは、生細胞で適切に占められ強化されない領域での分解のために、おそらく失敗するであろう。
【0008】
そのようなものであるから、人工半月板インプラントの構築に使用される従来のアプローチ及び材料は、これまでのところ、一方で、必要なレベルの引張及び圧縮強度を有し、他方で、生理学的適合性及び細胞生存力を有する構造体の生成に失敗している。さらに、先行技術の構造体及び材料はまた、別の重要な機械的特性である縫合糸保持強度に対処できず、これは、移植された半月板組織の縫合糸引き抜きを回避することが重要である。本発明は、これらの且つ他の満たされないニーズに対処する。本明細書に記載の先行技術の参考文献は全て、全体が参照により組み込まれる。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、部分的には、特定の複合ハイドロゲル材料を、バイオ印刷された半月板インプラントにうまく用いて、引張強度及び圧縮強度の両方に関して、自然の半月板組織の機械的特性をより厳密に再現することができるという予想外の観察に基づく。決定的に、本明細書に記載の複合材料はさらに、十分な縫合糸引き抜き強度を提供し、それにより、膝関節内で得られる半月板インプラントの安全且つ有効な固定を可能にする。本発明の態様は、バイオプリンターで堆積された強化複合ハイドロゲルの少なくとも1つの層を含む半月板組織構造体、及びそれを作製する方法を含み、複合ハイドロゲルは、印刷と同時に、または、より好ましくは、印刷後に連続して強化することができる。
【0010】
一態様では、本発明は、バイオプリンターで堆積された複数の層を含む半月板インプラントを提供し、各層は、固化生体適合性マトリックスを含む合成組織繊維(複数可)を含み、半月板インプラントの少なくとも1つの層中の固化生体適合性マトリックスは、好ましくは、該層の全体にわたって、強化複合ハイドロゲルを含む。一部の実施形態では、1つ以上の合成組織繊維が所望のパターンまたは構成で施されて、第1の層が形成され、次に、異なるパターンまたは構成を有する1つ以上の追加の層が上部に施される。
【0011】
例示的な実施形態では、円周方向に配向された合成組織繊維(複数可)のうちの1つ以上の層は、半径方向に配向された合成組織繊維(複数可)のうちの1つ以上の層と交互になる。一部の実施形態では、円周方向に配向された合成組織繊維(複数可)は、第1の固化生体適合性マトリックス、例えば、強化複合ハイドロゲルを含み、半径方向に配向された合成組織繊維(複数可)は、第2の異なる固化生体適合性マトリックス、例えば、柔らかい細胞適合性ハイドロゲル材料、または第2の強化複合ハイドロゲルを含む。一部の実施形態では、円周方向に配向された合成組織繊維(複数可)及び半径方向に配向された合成組織繊維(複数可)は、同じ固化生体適合性マトリックスを含む。
【0012】
好ましい実施形態では、半月板インプラントの少なくとも1つの層中の強化複合ハイドロゲルは、アルギナート及びキトサンからなる群より選択されるハイドロゲル材料、ならびにポリエチレン(グリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ポリエチレン(グリコール)メタクリラート(PEGMA)、ゼラチンメタクリロイル(GelMA)、ポリアクリル酸(PAA)、及びポリ(ビニルアルコール)(PVA)、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される強化材料を含む。好ましい一実施形態では、ハイドロゲル材料は、アルギナートまたはキトサンを含み、強化材料は、アクリル化PEG誘導体、例えば、PEGDA、を含む。別の好ましい実施形態では、ハイドロゲル材料は、キトサンを含み、強化材料は、PVAを含む。別の好ましい実施形態では、ハイドロゲル材料は、キトサンを含み、強化材料は、PVA及びPEGDAの両方を含む。
【0013】
一部の実施形態では、強化材料の架橋は、印刷後に行われる。一部の実施形態では、強化材料の添加及び架橋の両方は、印刷後に行われる。一部の実施形態では、第1の強化材料は、ハイドロゲル材料とブレンドされ、印刷と同時または逐次的に架橋され、第2の強化材料は、例えば、キャストマトリックスとして、印刷後に印刷層に添加されて、架橋される。一部の実施形態では、例えば、遠心分離または真空により第2の強化材料に、指向性圧力を印加して、印刷層への第2の強化材料の浸潤を増加させる。一部の実施形態では、印刷層の充填密度は、第2の強化材料の添加前に、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、または10%未満である。一部の実施形態では、第1及び第2の強化材料は、同じである。特定の実施形態では、第1及び第2の強化材料は双方ともに、PVAである。一部の実施形態では、第1及び第2の強化材料は、異なる。特定の実施形態では、第1の強化材料は、PVAであり、第2の強化材料は、PEGDAである
【0014】
例示的な実施形態では、ハイドロゲル材料は、約2.5%~6%(w/v)のキトサン、例えば、少なくとも約2.5%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約3.0%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約3.5%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約4.0%(w/v)のキトサン、さらにより好ましくは、少なくとも約4.5%(w/v)のキトサンを含む。一部の実施形態では、キトサンは、トリポリリン酸ナトリウム(STP)を含む架橋剤で架橋される。一実施形態では、STP系架橋剤は、少なくとも約1%のSTP濃度、より好ましくは、少なくとも約1.5%、さらにより好ましくは、少なくとも約2.0%、最も好ましくは、少なくとも約2.5%のSTPを含む。一部の実施形態では、STP系架橋剤はさらに、ポリエチレングリコール、好ましくは、高分子量のPEG、例えば、PEG20000を含む。一実施形態では、STP系架橋剤は、約10~20%のPEG20000、より好ましくは、約12~18%のPEG20000、最も好ましくは、約15%のPEG20000を含む。
【0015】
さらなる実施形態では、強化複合ハイドロゲルは、好ましくは、1:1の比(w/w)のキトサン及びPVAのブレンドを含む。一部の実施形態では、ハイドロゲル材料は、少なくとも約10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%のPVA、より好ましくは、約13%~17%のPVA、最も好ましくは、約15%のPVAを含む強化材料と1:1の比でブレンドされた少なくとも約2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、または4.5%(w/v)のキトサンを含む。
【0016】
例示的な実施形態では、強化複合ハイドロゲルは、アルギナートまたはキトサン及び約1000~6000Da、より好ましくは、約1000~4000Da、最も好ましくは、約3400Daの分子量を有するPEGDAを含む。一部の実施形態では、PEGDAは、光開始剤(例えば、Irgacure2959)及びUV光で架橋される。一部の実施形態では、PEGDAは、フリーラジカルの放出を介して(例えば、過硫酸アンモニウム(APS)及びテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を用いて)架橋される。好ましい実施形態では、PEGDAの添加及び架橋の両方が、第2の強化材料として印刷後に行われる。
【0017】
一部の実施形態では、人工半月板インプラントは、前端、後端、該前端及び後端間の湾曲した経路を規定するそれらの間の中間部分、内側、ならびに外側を有する弓形形状を有する。
【0018】
別の態様では、バイオプリンターから合成組織繊維(複数可)を堆積させて、複数の層を形成することを含む、半月板インプラントの作製方法が提供され、各層は、固化生体適合性マトリックスを含み、半月板インプラントの少なくとも1つの層中の固化生体適合性マトリックスは、好ましくは、該層の全体にわたって、強化複合ハイドロゲルを含む。一部の実施形態では、1つ以上の合成組織繊維が所望のパターンまたは構成で施されて、第1の層が形成され、次に、異なるパターンまたは構成を有する1つ以上の追加の層が上部に施される。
【0019】
例示的な実施形態では、円周方向に配向された合成組織繊維(複数可)のうちの1つ以上の層は、半径方向に配向された合成組織繊維(複数可)のうちの1つ以上の層と交互になる。一部の実施形態では、円周方向に配向された合成組織繊維(複数可)は、第1の固化生体適合性マトリックス、例えば、強化複合ハイドロゲルを含み、半径方向に配向された合成組織繊維(複数可)は、第2の異なる固化生体適合性マトリックス、例えば、柔らかい細胞適合性ハイドロゲル材料、または第2の強化複合ハイドロゲルを含む。一部の実施形態では、円周方向に配向された合成組織繊維(複数可)及び半径方向に配向された合成組織繊維(複数可)は、同じ固化生体適合性マトリックスを含む。
【0020】
好ましい実施形態では、半月板インプラントの少なくとも1つの層中の強化複合ハイドロゲルは、アルギナート及びキトサンからなる群より選択されるハイドロゲル材料、ならびにポリエチレン(グリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ポリエチレン(グリコール)メタクリラート(PEGMA)、ゼラチンメタクリロイル(GelMA)、ポリアクリル酸(PAA)、及びポリ(ビニルアルコール)(PVA)、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される強化材料を含む。好ましい一実施形態では、ハイドロゲル材料は、アルギナートまたはキトサンを含み、強化材料は、アクリル化PEG誘導体、例えば、PEGDA、を含む。別の好ましい実施形態では、ハイドロゲル材料は、キトサンを含み、強化材料は、PVAを含む。別の好ましい実施形態では、ハイドロゲル材料は、キトサンを含み、強化材料は、PVA及びPEGDAの両方を含む。
【0021】
一部の実施形態では、方法はさらに、層の印刷後の強化材料の架橋を含む。一部の実施形態では、方法はさらに、層の印刷後の強化材料の添加及び架橋を含む。好ましい実施形態では、方法はさらに、印刷前に第1の強化材料をハイドロゲル材料とブレンドすること、及び印刷後に該第1の強化材料を架橋することを含む。特に好ましい実施形態では、方法はさらに、印刷後に第2の強化材料を層に添加すること、及び例えば、キャストマトリックスとしての、得られる構造体を架橋することを含む。一部の実施形態では、方法はさらに、例えば、遠心分離または真空により第2の強化材料に指向性圧力を印加して、印刷層への第2の強化材料の浸潤を増加させることを含む。一部の実施形態では、印刷層の充填密度は、第2の強化材料の添加前に、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、または10%未満である。一部の実施形態では、第1及び第2の強化材料は、同じである。特定の実施形態では、第1及び第2の強化材料は双方ともに、PVAである。一部の実施形態では、第1及び第2の強化材料は、異なる。特定の実施形態では、第1の強化材料は、PVAであり、第2の強化材料は、PEGDAである。
【0022】
例示的な実施形態では、ハイドロゲル材料は、約2.5%~6%(w/v)のキトサン、例えば、少なくとも約2.5%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約3.0%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約3.5%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約4.0%(w/v)のキトサン、さらにより好ましくは、少なくとも約4.5%(w/v)のキトサンを含む。一部の実施形態では、キトサンは、トリポリリン酸ナトリウム(STP)を含む架橋剤で架橋される。一実施形態では、STP系架橋剤は、少なくとも約1%のSTP濃度、より好ましくは、少なくとも約1.5%、さらにより好ましくは、少なくとも約2.0%、最も好ましくは、少なくとも約2.5%のSTPを含む。一部の実施形態では、STP系架橋剤はさらに、ポリエチレングリコール、好ましくは、高分子量のPEG、例えば、PEG20000を含む。一実施形態では、STP系架橋剤は、約10~20%のPEG20000、より好ましくは、約12~18%のPEG20000、最も好ましくは、約15%のPEG20000を含む。
【0023】
さらなる実施形態では、強化複合ハイドロゲルは、1:2、2:1、または1:1の比、好ましくは、1:1の比(w/w)でキトサン及びPVAを含む。一部の実施形態では、ハイドロゲル材料は、少なくとも約10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%のPVA、より好ましくは、約13%~17%のPVA、最も好ましくは、約15%のPVAを含む強化材料と1:1の比でブレンドされた少なくとも約2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、または4.5%(w/v)のキトサンを含む。
【0024】
例示的な実施形態では、強化複合ハイドロゲルは、アルギナートまたはキトサン及び約1000~6000Da、より好ましくは、約1000~4000Da、最も好ましくは、約3400Daの分子量を有するPEGDAを含む。一部の実施形態では、PEGDAは、光開始剤(例えば、Irgacure2959)及びUV光で架橋される。一部の実施形態では、PEGDAは、フリーラジカルの放出を介して(例えば、過硫酸アンモニウム(APS)及びテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を用いて)架橋される。好ましい実施形態では、PEGDAの添加及び架橋の両方が、第2の強化材料として印刷後に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、印刷されたアルギナート:PEGDAリングの機械的特性へのポリエチレングリコールジアクリラート(PEGDA)の分子量(Mw)の影響を示すグラフである。アルギナートリング(「LVM」=高強度の非常に柔らかく伸縮性のあるアルギナート)を印刷した後に、(示されるような)光開始剤Irgacure(登録商標)2959を含む各PEGDA溶液200μlを添加した。印刷されたアルギナートリングを添加した後に、フリーラジカルの放出を引き起こすUV露光を介して、PEGDAを架橋した。グラフにみられるように、種々のMwは、種々のポリマー特性(低Mw=脆い、高Mw=柔らかい及び伸縮性のある)を与え、一部は、急なカーブをもたらし、カーブが急になるほど、材料は硬くなる(弾性率が高くなる)。
【
図2】
図2は、ピーク接触圧力で測定したPEGDA 3.4Kを用いたまたは用いない、動物(ヒツジ)半月板対バイオ印刷されたアルギナート半月板の押し込み強度を示すグラフである。グラフに示されるように、PEGDA 3.4Kを添加すると、アルギナート組織の押し込み強度が増加する。
【
図3】
図3は、引張強度に対するキトサン濃度の影響を示す。(a)新たに印刷された、及び(b)0.9%の生理食塩水中で水和した後の、種々のキトサン濃度での2.5%のSTP及び15%のPEG20kで印刷されたリングの引張特性。
【
図4】
図4は、(a)5%のPEG20k及び種々のSTP濃度、(b)2.5%のSTP及び種々のPEG20k濃度、ならびに(c)新たに印刷されるかまたは生理食塩水中で水和した(「ウェット」)、15%のPEG20k中の2.5%または5%STPでの、3.5%のキトサンリングの引張特性を示す。
【
図5】
図5は、(a)側面及び(b)上面からの、15%のPEG20k中の3.5%のキトサン及び2.5%のSTPで印刷された半月板試料を示す。サイズ参照ボールの直径は、2.4mm(3/32’’)である。
【
図6】
図6は、示されるような種々のキトサン:PVA比を使用するキトサン:PVA繊維の引張強度を示す3つのグラフを提供し;凍結-融解サイクルは、PVAを結晶化させ、凍結-融解時に全てのキトサン:PVA比の最大応力を増加させることにより、示される強固な網目構造を形成させる。最大応力は、PVA凍結-融解では、キトサン単独の3~80倍増加した。
【
図7】
図7は、印刷されたキトサン-PVAリングの引張特性を示す。(a)10、12.5、または15%のPVAと組み合わせた3.5%のキトサン、キトサン:PVA=1:1(w/w)、(b)15%のPVAと組み合わせた3.5%または4.5%のキトサン、キトサン:PVA=1:1(w/w)、及び(c)50:50または60:40(w/w)のいずれかのキトサン:PVA比で15%のPVAと組み合わされた4.5%のキトサン。
【
図8】
図CCは、(a、b)側面図及び(c)上面からの印刷されたキトサン-PVA半月板試料を示す。サイズ参照ボールの直径は、2.4mm(3/32’’)である。
【
図9】
図8は、複数のバイオ印刷された半月板タイプに対する縫合糸引き抜き(SPO)及び押し込み強度のプロットを示す。4つの研究プロトタイプは、緑色で囲まれている。それらがSPO目標(20N)に達したので、全てを選択した。1つの組織(アルギナート+PEGDA)のみが、SPO及び圧縮試験の両方の目標を達成した。
【
図10】
図9は、2次材料としてPEGDAが添加されたキトサン-PVAの印刷を示す。a)5サイクルの凍結-融解後にキトサン-PVAで印刷された直線半月板足場を示す写真、b)APS/TEMEDによるPEGDA-3.4Kの組み込み及び架橋後の複合半月板、c)縫合糸引き抜き試験から得られた代表的な力-時間曲線、ならびに、d)キトサン-PVA-PEGDA-3.4K半月板の引張試験からの代表的な応力-歪曲線。
【
図11】
図10は、印刷キトサン-PVAメッシュ組織及び2次添加物としてPVAが添加された複合組織を示す。(a)12%の充填を有する印刷されたキトサン-PVAメッシュ、(b)部分的に乾燥したメッシュ、(c)20%のPVA溶液中のメッシュ、(d)PVAマトリックスならびに最終的な凍結-融解及び水和複合材料を有するメッシュ(e)上部から、ならびに、(f)側面から。サイズ参照ボールの直径は、2.4mm(3/32’’)である。
【
図12】
図11は、印刷、キャスト、及び複合キトサン:PVA組織の直接比較を示す。重量で1:1の4.5%のLMWキトサン+15%の146~186kのPVAの印刷繊維を使用して、組織を製造した。20%の146~186kのPVAの2次マトリックスを用いたまたは用いない、充填密度12%で印刷されたキトサン:PVA繊維を試験した。キャスト20%のPVAのみの組織の第3グループも試験した。全ての組織をいくつかの凍結-融解サイクルにさらして、PVAを結晶化及び硬化する。
【
図13】
図12は、印刷、キャスト、及び複合キトサン:PVA組織の縫合糸引き抜き強度を示す(赤い破線は、20Nの目標SPO値を示す)。
【
図14】
図13は、印刷、キャスト、及び複合組織の押し込み(圧縮)強度を示す(赤い線は、目標の押し込み値100kPaを示す)。
【
図15】
図14は、MPaでの最大組織引張強度及び引張弾性率の値を示す。
【
図16】
図15は、キャスト、印刷、及び複合キトサン:PVA組織の最大引張強度及び引張弾性率を示す(赤線は、1MPaの目標最大引張強度値を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の態様は、バイオプリンターで堆積された複数の層を含む合成組織構造体を含み、各層は、固化生体適合性マトリックスを含む合成組織繊維(複数可)を含み、組織構造体の少なくとも1つの層内中の固化生体適合性マトリックスは、好ましくは、該層の全体にわたって、強化複合ハイドロゲルを含む。本明細書で使用される「固化」という用語は、堆積時にその形状忠実度及び構造的完全性を維持する固体または半固体状態の材料を指す。本明細書で使用される「形状忠実度」という用語は、材料が3次元形状を維持する能力を意味する。一部の実施形態では、固化材料は、約30秒以上、例えば、約1、10、または30分以上、例えば、約1、10、24、または48時間以上、の期間3次元形状を維持する能力を有するものである。本明細書で使用される「構造的完全性」という用語は、破断または曲げに抵抗しながら、それ自体の重量を含む荷重の下で材料が互いに保持する能力を意味する。
【0027】
一部の実施形態では、固化組成物は、平衡状態で12%の歪の非拘束圧縮下のヤング(弾性)係数が、約15、20または25キロパスカル(kPa)超、より好ましくは、約30、40、50、60、70、80、または90kPa超、さらにより好ましくは、約100、110、120、または130kPa超であり、最大圧縮弾性率が、1,000kPa、より好ましくは、約900、800、700、600、または500kPa未満であるものである。歩行などの活動を表す生理学的歪速度、12%の歪レベルでの好ましい非拘束圧縮弾性率は、好ましくは、200kPa超~最大値約2,000kPaであるべきである。
【0028】
一部の実施形態では、固化組成物は、張力下のヤング率が、約1、2、または3メガパスカル(MPa)超、より好ましくは、約5、10、15、または20MPa超、さらにより好ましくは、25または30MPa超であり、理想的な最大引張弾性率が、2000MPa未満、理想的には、1,800、1,600、1,400、または1,200MPa未満、さらに理想的には、1,000、900、800、700、600、及び500MPa未満であるものである。
【0029】
本発明のさらなる態様は、固化生体適合性マトリックスとしてバイオプリンターから分配された合成組織繊維(複数可)を含む、哺乳動物対象の損傷または罹患した半月板組織の修復及び/または置換に使用される人工半月板インプラントを含み、固化生体適合性マトリックスが、強化複合ハイドロゲルを含む。
【0030】
固化生体適合性マトリックスは、有利なことに、ハイドロゲル材料としてのアルギナートもしくはキトサン、または印刷ヘッドから分配しながら瞬時に固化することができる任意の他の好適な生体適合性ポリマーを含んでもよい。好ましい実施形態では、アルギナートベースのマトリックスは、印刷され、印刷ヘッドからの分配前または分配時に二価カチオン架橋溶液(例えば、CaCl2溶液)と接触させることにより、印刷時に同時に架橋される。別の好ましい実施形態では、キトサンベースのマトリックスが印刷され、印刷ヘッドからの分配前または分配時に、多価アニオン架橋溶液(例えば、トリポリリン酸ナトリウム(Na5P3O10)溶液)と接触させることにより、印刷時に同時に架橋される。特に好ましい実施形態では、アルギナートまたはキトサンの生体適合性マトリックスはさらに、本明細書でより詳細に記載されるように、1つ以上の強化材料を含む。さらに好ましい実施形態では、固化生体適合性マトリックスは、各合成組織繊維の半径方向の断面全体にわたってアルギナートまたはキトサンの均質な組成物を含む。
【0031】
一部の実施形態では、1つ以上の合成組織繊維が、第1の層を形成するために、所望のパターンまたは構成で施され、次に、同じまたは異なるパターンまたは構成を有する1つ以上の追加の層が、上部に施される。特定の実施形態では、複数の層が、人工半月板インプラントとして使用することができる3次元構造体を形成するように積み重ねられる。好ましくは、該層のうちの少なくとも1つは、可変組成を有するバイオプリンターから分配された単一の連続合成組織繊維を含む。より好ましくは、該層のそれぞれは、可変組成を有する単一の連続合成組織繊維を含む。
【0032】
一部の実施形態では、合成組織構造体は、約1~約250の範囲の多数の個別層、例えば、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、200、205、210、215、220、225、230、235、240、または約245の個別層を含む。任意の好適な数の個別層は、所望の寸法を有する組織構造体を生成するように組み込むことができる。
【0033】
一部の実施形態では、1つ以上の個々の繊維及び/または層は、組織構造体内に1つ以上のゾーンを作成するように編成され、各ゾーンは、1つ以上の所望の特性(例えば、1つ以上の機械的及び/または生物学的特性)を有する。本明細書で使用される場合、「領域」という用語は、x-y平面で定義される組織構造体の一部(例えば、組織構造体の各層がx-y平面を規定する個別層の領域または部分)を指すが、「ゾーン」という用語は、z方向に規定され且つ別のxy平面からの少なくとも2つの隣接領域を含む組織構造体の部分、または層(例えば、複数の個別の「ミクロ層」を含む「マクロ層」)を指す。
【0034】
本発明の実施形態によるゾーンは、任意の所望の3次元形状を有し得、合成組織構造体の任意の所望の部分を占め得る。例えば、一部の実施形態では、ゾーンは、合成組織構造体の全長、幅、または高さに及び得る。一部の実施形態では、ゾーンは、合成組織構造体の長さ、幅、または高さの一部のみに及ぶ。一部の実施形態では、合成組織構造体は、合成組織構造体の長さ、幅、高さ、またはそれらの組み合わせに沿って編成される複数の異なるゾーンを含む。好ましい一実施形態では、合成組織構造体は、合成組織構造体の高さに沿って編成される3つの異なるゾーンを含み、その結果、合成組織構造体を通る経路が、下から上へと、3つのゾーン全てを通過する。
【0035】
一部の実施形態では、ゾーンは、約2~約250の範囲の多数の層、例えば、約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、200、205、210、215、220、225、230、235、240、または約245の個別層を含み得る。一部の実施形態では、ゾーン内の個別層は、ゾーンに1つ以上の機械的及び/または生物学的特性を付与する方法で編成される。例えば、一部の実施形態では、ゾーン内の個別層は、ゾーンに機械的強度の増加を付与する1つ以上の強化材料を含む。一部の実施形態では、ゾーン内の個別層は、ゾーンに望ましい細胞成長特性を付与する1つ以上の材料を含む。一部の実施形態では、ゾーン内の個別層、またはゾーンを通過する繊維構造体の複数の個別区画は、ゾーンに望ましい特性を付与するように交互にすることができる。例えば、一部の実施形態では、ゾーン内の個別層または領域は、奇数層が、ゾーンに望ましい機械的特性を付与する1つ以上の強化材料を含有し且つ偶数層が、ゾーンに望ましい生物学的特性を付与する1つ以上の材料(例えば、細胞の遊走、成長、生存力などを助長するより柔らかい材料)を含有するように、交互になる。一部の実施形態では、ゾーンは、ゾーンに機械的強度の増加を付与する1つ以上の強化材料を含む複数の隣接する個別層(例えば、約2、3、4、5、6、7、8、9、または約10以上の隣接層)を含み、この隣接層は、ゾーンに望ましい生物学的特性の増加を付与する1つ以上の材料(例えば、細胞の遊走、成長、生存力などを助長するより柔らかい材料)を含む別の複数の隣接する個別層(例えば、約2、3、4、5、6、7、8、9、または約10以上の隣接層)と交互になる。
【0036】
本発明の実施形態による合成組織繊維構造体は、異なるマトリックス材料(例えば、天然及び/または合成ポリマー)の制御されたパターニングならびに所与の区画内に所望の断面プロファイルを生じる架橋技術を含み得る。例えば、一部の実施形態では、合成組織繊維構造体は、固体、管状、または多孔性の断面プロファイルを有する区画を含む。本発明の実施形態に従って合成組織繊維構造体内に作成することができる断面プロファイルの非限定例としては、Jun,Yesl,et al.“Microfluidic spinning of micro-and nano-scale fibers for tissue engineering.”Lab on a Chip 14.13(2014):2145-2160に記載されるものが挙げられ、この開示は、全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
一部の実施形態では、得られる合成組織繊維は、任意に複数の生体適合性マトリックス材料を含有する層を形成するために、ソフトウェアツールを使用してパターン化される。特定の実施形態では、複数の層は、複数のゾーンを含む多層半月板インプラントを生成するように順次堆積させる。一部の実施形態では、半月板インプラントは、少なくとも1つの底部ゾーン、少なくとも1つの内部ゾーン、及び少なくとも1つの表面ゾーンを含み、内部ゾーンは、少なくとも1つの円周方向に配向された合成組織繊維、及び少なくとも1つの半径方向に配向された合成組織繊維を含む少なくとも1つの層を含む。好ましくは、該層のうちの少なくとも1つは、強化複合ハイドロゲルを含むバイオプリンターから分配された単一の連続合成組織繊維を含む。
【0038】
主題の半月板インプラントの1つの利点は、マトリックス組成物が、インプラントのいずれかの層の任意の部分の任意の所与の点で制御され、それにより、半月板組織の天然の構造により密接に類似する半月板インプラントの生成を促進することができること、ならびに限定されないが、半月板インプラント内のインプラントの周辺の強化アンカー領域ならびに円周方向及び半径方向に配向された繊維構造体を含む望ましい生体力学的特性を有することである。
【0039】
特定の実施形態では、主題の半月板インプラントは、例えば、個別繊維構造体内の、別々の繊維構造体間の、層内または層全体の、ゾーン内またはゾーン全体の、本質的に構造体全体にわたって任意の点での材料スイッチング、を達成するために、合成組織繊維(複数可)の1つ以上の特性を調節する自動制御システムを使用して生成される。その結果、半月板インプラント組成物のポイントツーポイント制御が達成される。さらに、ファイバーの直径及び層厚みなどの主要なパラメーターは、所望の通りに調節することもできる。このレベルの自動制御は、天然の膝半月板にみられる不均一な組成及び形態を正確に再現するために不可欠である。
【0040】
生体適合性マトリックス材料:
固化生体適合性マトリックスは、例えば、アルギナート、ラミニン、フィブリン、ヒアルロン酸、ポリ(エチレン)グリコールベースのゲル、ゼラチン、キトサン、アガロースまたはそれらの組み合わせを含む生細胞の生存力をサポートする多種多様な天然または合成ポリマーのいずれかを含んでもよい。好ましい実施形態では、固化生体適合性マトリックスは、アルギナートもしくはキトサン、または印刷ヘッドから分配しながら瞬時に固化することができる他の好適な生体適合性ポリマーを含む。
【0041】
本発明の態様は、単一網目構造ハイドロゲル及び複合ハイドロゲルを含む。単一網目構造ハイドロゲルは、例えば、アルギナート、キトサン、またはPEGDAなどの単一のハイドロゲル材料、及び大量の水(50~90%)から構成される。材料に応じて、架橋ハイドロゲル網目構造は、水素結合及び疎水性相互作用を含む共有、イオン、または物理的な架橋など種々の機序によりを生成することができる。ブレンドされたハイドロゲル材料は、一般に液体状態で架橋する前に組み合わされる2つ以上の材料から構成することができる。次に、これらの異なる材料を含む網目構造は、適切な方法で同時にまたは逐次的に異なる成分を架橋することにより生成される。この組み合わされた網目構造では、異なるハイドロゲルは、異なる網目構造が絡み合い且つ同じ空間に共存する相互侵入網目(IPN)またはsemi-IPNを形成し得る。そうでなければ、材料は、異なる微視的な領域に分離することができる。複合ハイドロゲルはまた、異なる分子量の同じポリマーなどの異なる形態の同じ材料を含み得、これはまた、単一の網目構造ハイドロゲルとは異なる特性を有する網目構造を生成し得る。二重網目構造ハイドロゲル(DNH)、または、一部の場合では、三重もしくは四重網目構造ハイドロゲルは、硬くて脆い材料及び柔らかく延性のある材料などの対照的な特性を有する材料の同時または逐次的な架橋により生成される相互侵入ハイドロゲル網目構造である。本明細書に示されるように、二重網目構造ハイドロゲルは、材料の適切な組み合わせを用いて、高強度及び靭性などの機械的特性を劇的に向上させることができる。この機械的特性の大幅な増強は、他のIPNまたはsemi-IPNハイドロゲルから真のDNHを分離すると考えられるものである。従って、DNH及び他の多成分ハイドロゲル間の差異は、個々の成分と比較した複合ハイドロゲル材料の機械的性能に基づく。
【0042】
一部の実施形態では、複合ハイドロゲルは、アルギナートまたはキトサン及びポリエチレングリコールジアクリラート(PEGDa)のブレンドを含む。一実施形態では、ブレンドは、水中で1~8%(w/v)、例えば、2~6%、の範囲の濃度を有するアルギナート溶液、及び水中で50~100%(w/v)の範囲の濃度を有するPEGDa溶液を含む。一部の実施形態では、PEGDaは、1kDa~6kDa、より好ましくは、1~4kDa、最も好ましくは、3.4kDaの範囲の平均分子量を有する。PEGDa溶液の調製プロセスの非限定例は、以下の通りである:液体PEGDaまたは固体粉末を室温での磁気撹拌により水に溶解させる。光開始剤(「PI」)、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(Irgacure 2959)を、磁気撹拌により0.1~1.0%の範囲の濃度でPEGDa溶液に溶解させる。
【0043】
アルギナート/PEGDaブレンドの調製プロセスの非限定例は、以下の通りである:光開始剤を含有するアルギナート及びPEGDa溶液を、アルギナートに対して種々の濃度のPEGDaで磁気撹拌により混合する(PEGDaの濃度は、50~100%の範囲で変動する)。PEGDa及び光開始剤の光分解を避けるために、複合溶液を印刷前に新たに調製する。
【0044】
架橋剤溶液は、水中の1~5%のPVA溶液中に50~125mMの塩化カルシウムを含み得る。特定の一実施形態では、架橋剤溶液は、2%のPVA溶液中の125mMのCaCl2を含む。インプラントの印刷は、アルギナート繊維を生成するために、印刷中にアルギナートをCa2+でイオン架橋することにより行われるが、PEGDaは、非架橋で、アルギナート繊維に埋め込まれたままであった。印刷後、第2の網目構造を形成するPEGDaの架橋は、365nmのUV光を5~40分間照射することにより達成される。
【0045】
好ましい実施形態では、複合ハイドロゲルは、印刷構築物へのPEGDaの含浸により調製されるアルギナートまたはキトサン及びポリエチレングリコールジアクリラート(PEGDa)の二重網目構造ハイドロゲルを含む。一実施形態では、ハイドロゲルは、水中で1~8%(w/v)、例えば、2~6%、の範囲の濃度を有するアルギナート溶液を含む。架橋剤溶液は、水中の1~5%のPVA溶液中に50~125mMの塩化カルシウムを含み得る。特定の一実施形態では、架橋剤溶液は、2%のPVA溶液中の125mMのCaCl2を含む。
【0046】
水中で50~100%(w/v)の範囲の濃度を有するPEGDa溶液を使用する。一部の実施形態では、PEGDaは、1kDa~6kDaの範囲、より好ましくは、1kDa~4kDa、最も好ましくは、3.4kDaの平均分子量を有する。PEGDa溶液の調製プロセスの非限定例は、以下の通りである:液体PEGDaまたは固体粉末を室温での磁気撹拌により水に溶解させる。光開始剤、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(Irgacure 2959)を、磁気撹拌により0.1~1.0%の範囲の濃度でPEGDa溶液に溶解させる。任意に、組成物は、PEGDa/光開始剤溶液にCNCを含み得る。一部の実施形態では、CNCの濃度は、PEGDaの重量で5~50%の範囲であり得る。
【0047】
二重網目構造ハイドロゲルの調製プロセスの非限定例は、以下の通りである:光開始剤を含有するPEGDa溶液を、印刷構築物上に少しずつ注ぎ、室温で暗所に一晩浸漬させた。一部の実施形態では、PEGDaの濃度は、50~100%で変動する。一晩浸漬した後、365nmのUV光を5~40分間照射することにより、印刷構築物におけるPEGDaの架橋を行い、第2の網目構造を生成する。あるいは、有利には、PEGDAはまた、直接のフリーラジカル放出を介して、過硫酸アンモニウム(APS)及びテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)と架橋され得る。好ましい実施形態では、第2の強化材料としてのPEGDAの添加及び架橋は、印刷後に行われる。
【0048】
一部の実施形態では、インプラントは、以下を含むキトサン-ポリビニルアルコール(PVA)ブレンドを含む:
【0049】
キトサン溶液:2%の酢酸中で1~10%(w/v)、好ましくは、約2.5%~6%(w/v)のキトサン、例えば、少なくとも約2.5%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約3.0%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約3.5%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約4.0%(w/v)のキトサン、さらにより好ましくは、少なくとも約4.5%(w/v)のキトサン。
【0050】
PVA溶液:121℃で15分間オートクレーブ処理することにより調製される、水または塩溶液で、キトサンと1:1(w/v)の比で10~40%(例えば、10~20%)、好ましくは、少なくとも約10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%のPVA、より好ましくは、約13%~17%のPVA、最も好ましくは、約15%のPVA。
【0051】
ブレンド調製:種々の比で混合され、ボルテックスされ、マグネチックスターラーで混合されるキトサン及びPVA溶液。例えば、2:1、1:1、1:2のキトサン:PVAの比。PVAエージングの印刷適性への影響を回避するために、印刷ごとに新たに調製されるブレンド(PVA溶液は、RTで時間をかけてより粘稠になる)。
【0052】
架橋剤溶液:1~20%のポリエチレングリコール(PEG、Mw=20000)中の1~10%のトリポリリン酸ナトリウム(STP)。特定の一実施形態では、15%のPEG20k中の2.5%のSTP。
【0053】
印刷:キトサン-PVA繊維を作成するために、印刷中にSTPでイオン架橋されたキトサン。凍結-融解サイクリング及び/または塩浸漬(食塩水または硫酸ナトリウム)を使用した印刷後にゲル化されたPVA。キトサン-PVAブレンドならびにキトサン-PVAシェル及び純粋なPVAコアが印刷及び試験されたコア-シェル繊維。
【0054】
一部の実施形態では、キトサンは、トリポリリン酸ナトリウム(STP)を含む架橋剤で架橋される。一実施形態では、STP系架橋剤は、少なくとも約1%のSTP濃度、より好ましくは、少なくとも約1.5%、さらにより好ましくは、少なくとも約2.0%、最も好ましくは、少なくとも約2.5%のSTPを含む。一部の実施形態では、STP系架橋剤はさらに、ポリエチレングリコール、好ましくは、高分子量のPEG、例えば、PEG20000を含む。一実施形態では、STP系架橋剤は、約10~20%のPEG20000、より好ましくは、約12~18%のPEG20000、最も好ましくは、約15%のPEG20000を含む。
【0055】
一部の実施形態では、インプラントは任意に、アルギナート及びセルロースナノ結晶(CNC)のブレンドを含む。一部の実施形態では、ブレンドは、水中で1~8%(w/v)、例えば、2~6%、の範囲の濃度を有するアルギナート溶液、及び水中で1~6%(w/v)の範囲の濃度を有するCNC分散液を含む。CNC分散液の調製プロセスの非限定例は、以下の通りである:45℃で25分間激しく撹拌しながら、64wt%の硫酸(パルプ1グラム当たりの8.75mLの硫酸溶液)を用いる完全に漂白された市販のクラフト針葉樹パルプの酸加水分解により、ブレンドを調製する。CNCの表面改質は、例えば、TEMPO媒介性酸化により、実施することができる。
【0056】
アルギナート/CNCブレンドの調製プロセスの非限定例は、以下の通りである:アルギナート溶液を、室温での磁気撹拌により調製し;CNC分散液を、室温での磁気撹拌及び超音波処理により調製し;アルギナート及びCNCの複合溶液(すなわち、ブレンド)を、アルギナートに対するCNCの種々の濃度で磁気撹拌しながら混合することにより調製する。一部の実施形態では、CNCの濃度を、5~50%で変動させる。複合分散液は、沈殿及びCNCの濃度の不均一性を回避するために、印刷前に新たに調製することができる。
【0057】
架橋剤溶液は、水中の1~5%のPVA溶液中に50~125mMの塩化カルシウムを含み得る。特定の一実施形態では、架橋剤溶液は、2%のPVA溶液中の125mMのCaCl2を含む。インプラントの印刷は、アルギナート繊維を作成するために、印刷中にアルギナートをCa2+でイオン架橋することにより行われる。TEMPO変性CNCは、それらをアルギナート溶液に均一に分散させ、Ca2+イオンを介して架橋させて、アルギナート-CNC複合繊維が得られる表面カルボキシル基を有する。
【0058】
一部の実施形態では、固化生体適合性マトリックスは、生理学的に適合性であり、すなわち、細胞の成長、分化、及び伝達を助長する。「生理学的マトリックス材料」は、天然の哺乳動物組織に見出される生物学的材料を意味する。そのような生理学的マトリックス材料の非限定例としては、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、グリコサミノグリカン(GAG)(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、またはケラチン硫酸)、デオキシリボ核酸(DNA)、接着糖タンパク質、及びコラーゲン(例えば、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVI、またはコラーゲンXVIII)が挙げられる。
【0059】
一部の実施形態では、高強度繊維はまた、限定されないが、コラーゲン、キトサン、絹フィブロイン、またはそれらの任意の組み合わせを含む高濃度の生体ポリマーから生成されてもよく、これらは、1つ以上のアンカー領域に組み込まれてもよい。
【0060】
一部の実施形態では、高強度繊維は、人工半月板インプラントの1つ以上の強化された周辺領域に組み込んで(例えば、パターン化して)、インプラントの周辺に沿って強度を高めることができる。一部の実施形態では、高強度繊維は、インプラントの周辺全体に組み込まれる。人工半月板インプラントのアンカー領域及び/または強化された周辺領域内に、高強度材料の層は、細胞の生存及び内部成長に最適化される、より柔らかい材料の層と交互にすることができる。アンカー領域内の強度の増加及び/または周辺領域の強化は、繊維材料の濃度を増加させることにより、印刷された繊維の充填密度を増加させることにより、印刷された繊維の直径を増加させることにより、またはそれらの任意の組み合わせにより付与することができる。一部の実施形態では、アンカー領域が、手術中の視覚的ガイドとして作用するために、例えば、非毒性染料を印刷可能なアンカー材料に組み込むことにより着色され、それにより、縫合糸の配置に適合する人工半月板インプラントの強化領域の位置を外科医に知らせることができる。
【0061】
ヒト半月板では、コラーゲン繊維の正しい配向及び整列が、組織に適切な生体力学的特性を付与するために重要である。従って、特定の実施形態では、主題の半月板インプラントはさらに、1つ以上の合成組織繊維構造体が、合成組織繊維の長手方向と平行に、合成ポリマー鎖のマイクロファイバーまたはコラーゲン原線維などの生物学的マトリックスを整列させることを促進するように構築される層を含む。そのようなものであるから、特定の実施形態では、合成組織繊維(複数可)は、半径方向及び/または円周方向に配向して堆積され、合成組織繊維(複数可)の半径方向及び/または円周方向の配向に沿って、合成ポリマーマイクロファイバー及び生物学的コラーゲン繊維の整列を促進するように構成される。このようにして、強化ポリマー繊維及びコラーゲン繊維の円周方向及び/または半径方向の配向を達成することができる。
【0062】
一部の実施形態では、合成組織繊維の直径は、組織の異なる領域に適切な配向を付与するために、印刷された繊維内でポリマー鎖及び/またはコラーゲン原線維の長手方向の配置を調節するように約20μm~約500μmに調節され;例えば、半月板の表面及び周辺の直径の大きい繊維は、ランダムに配向された(例えば、無秩序な)ポリマー鎖及びコラーゲン原線維を含有し、内部領域(複数可)の直径の小さい繊維は、長手方向に整列したポリマー鎖及びコラーゲン原線維を含有し、印刷繊維の配向と一致するように、微視的原線維の円周方向及び半径方向のパターン化がもたらされるであろう。
【0063】
半月板の損傷及び外科的修復の選択肢
半月板の損傷は、膝関節で最も一般的である。半月板病変は通常、異なる年齢層により分類される。若いヒト患者(40歳未満)の半月板損傷は通常、外傷または先天性半月板疾患により引き起こされ、高齢のヒト患者(40歳を超える)の損傷は、変性断裂に関連する傾向がある。半月板損傷は簡単に、周辺半月板病変及び無血管性半月板病変に臨床的に分類することができる。堅固な膝の若い患者の全体的に成功率が高い(63~91%)血管(赤-赤)ゾーンの半月板断裂を修復する数多くの外科的手法が開発されている。半月板の無血管(白-白)ゾーンの損傷及び断裂は多くの場合、修復後の予後不良に関連し、従って、多様な結果を有するいくつかの異なる治療方策が試みられている。最も顕著なものは、半月板滑膜組織の使用、半月板断裂の縫合による周辺半月板の縁の穿孔術、血管アクセスチャネルの作成、ならびに間葉系幹細胞及び/または成長因子の使用を含む。上記の技術は一般に、全く採用されておらず、従って、整形外科医の主な方策は、この処置方策が膝OAの進行を予防しない場合であっても、修復不可能なまたは変形性半月板損傷の場合に、部分的な半月板切除術を実施することである。部分的な半月板切除術は、大腿顆部と脛骨プラットフォームの間の接触面積を減少させることにより、OAをもたらし得る。関節膝軟骨の荷重特性を変更すると、損傷、炎症、及びさらなる組織変性の悪循環を介して、半月板及び関節軟骨の進行性変性につながり得る。
【0064】
人工半月板インプラント:
上で概説されるように、本発明の態様は、バイオプリンターにより堆積された複数の層を含む人工半月板インプラントを含み、各層は、固化生体適合性マトリックスを含む合成組織繊維(複数可)を含み、組織構造体の少なくとも1つの層中の固化生体適合性マトリックスは、強化複合ハイドロゲルを含む。一部の実施形態では、主題の人工半月板インプラントの少なくとも1つの層は、少なくとも1つの円周方向及び/または半径方向に配向された合成組織繊維を含み得る。円周方向及び/または半径方向の繊維(複数可)は、同じもしくは異なる直径及び/または同じもしくは異なるマトリックス材料を有し得る。
【0065】
特定の実施形態では、合成組織繊維は、合成組織繊維の長手方向と整列したコラーゲン繊維及び合成ポリマー鎖の堆積を促進するように構成される。特定の実施形態では、合成組織繊維は、ランダムに配向されたコラーゲンまたは合成ポリマー繊維の堆積を促進するように構成される。特定の実施形態では、主題の半月板インプラントは、上述のように、層の逐次的堆積を使用して構築され、その結果、半月板インプラントは、内側、中央、及び外側ゾーンを含む。特定の実施形態では、任意の所与のゾーンに存在するマトリックス材料を制御して、それにより、天然の半月板組織の天然の構築物及び生体力学的特性に類似する半月板インプラントを生成することができる。
【0066】
バイオプリンターから合成組織繊維(複数可)を堆積させて、複数の層を形成することを含む、半月板インプラントの作製方法もまた、本明細書で提供され、各層は、固化生体適合性マトリックスを含み、半月板インプラントの少なくとも1つの層中の固化生体適合性マトリックスは、好ましくは、該層の全体にわたって、強化複合ハイドロゲルを含む。一部の実施形態では、1つ以上の合成組織繊維が所望のパターンまたは構成で施されて、第1の層が形成され、次に、異なるパターンまたは構成を有する1つ以上の追加の層が上部に施され、例えば、円周方向に配向された合成組織繊維(複数可)の1つ以上の層は、半径方向に配向された合成組織繊維(複数可)の1つ以上の層と交互になる。
【0067】
好ましい実施形態では、半月板インプラントの少なくとも1つの層中の強化複合ハイドロゲルは、アルギナート及びキトサンからなる群より選択されるハイドロゲル材料、ならびにポリエチレン(グリコール)ジアクリラート(PEGDA)、ポリエチレン(グリコール)メタクリラート(PEGMA)、ゼラチンメタクリロイル(GelMA)、ポリアクリル酸(PAA)、及びポリ(ビニルアルコール)(PVA)、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される強化材料を含む。好ましい一実施形態では、ハイドロゲル材料は、アルギナートまたはキトサンを含み、強化材料は、アクリル化PEG誘導体、例えば、PEGDA、を含む。別の好ましい実施形態では、ハイドロゲル材料は、キトサンを含み、強化材料は、PVAを含む。別の好ましい実施形態では、ハイドロゲル材料は、キトサンを含み、強化材料は、PVA及びPEGDAの両方を含む。
【0068】
一部の実施形態では、方法はさらに、層の印刷後の強化材料の架橋を含む。一部の実施形態では、方法はさらに、層の印刷後の強化材料の添加及び架橋の両方を含む。好ましい実施形態では、方法はさらに、印刷前に第1の強化材料をハイドロゲル材料とブレンドすること、及び印刷後に該第1の強化材料を架橋することを含む。特に好ましい実施形態では、方法はさらに、印刷後に第2の強化材料を層に添加すること、及びキャストマトリックスとしの、得られる構造体を架橋することを含む。
【0069】
一部の実施形態では、方法はさらに、架橋前に、例えば、遠心分離または真空により第2の強化材料に指向性圧力を印加して、印刷層への第2の強化材料の浸潤を増加させることを含む。一部の実施形態では、印刷層の充填密度は、第2の強化材料の添加前に、90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、または10%未満である。一部の実施形態では、第1及び第2の強化材料は、同じである。特定の実施形態では、第1及び第2の強化材料は双方ともに、PVAである。一部の実施形態では、第1及び第2の強化材料は、異なる。特定の実施形態では、第1の強化材料は、PVAであり、第2の強化材料は、PEGDAである
【0070】
例示的な実施形態では、ハイドロゲル材料は、約2.5%~6%(w/v)のキトサン、例えば、少なくとも約2.5%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約3.0%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約3.5%(w/v)のキトサン、より好ましくは、少なくとも約4.0%(w/v)のキトサン、さらにより好ましくは、少なくとも約4.5%(w/v)のキトサンを含む。一部の実施形態では、キトサンは、トリポリリン酸ナトリウム(STP)を含む架橋剤で架橋される。一実施形態では、STP系架橋剤は、少なくとも約1%のSTP濃度、より好ましくは、少なくとも約1.5%、さらにより好ましくは、少なくとも約2.0%、最も好ましくは、少なくとも約2.5%のSTPを含む。一部の実施形態では、STP系架橋剤はさらに、ポリエチレングリコール、好ましくは、高分子量のPEG、例えば、PEG20000を含む。一実施形態では、STP系架橋剤は、約10~20%のPEG20000、より好ましくは、約12~18%のPEG20000、最も好ましくは、約15%のPEG20000を含む。
【0071】
さらなる実施形態では、強化複合ハイドロゲルは、好ましくは、1:1の比(w/w)のキトサン及びPVAを含む。一部の実施形態では、ハイドロゲル材料は、少なくとも約10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、または20%のPVA、より好ましくは、約13%~17%のPVA、最も好ましくは、約15%のPVAを含む強化材料と1:1の比でブレンドされた少なくとも約2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、または4.5%(w/v)のキトサンを含む。
【0072】
例示的な実施形態では、強化複合ハイドロゲルは、アルギナートまたはキトサン及び約1000~6000Da、より好ましくは、約1000~4000Da、最も好ましくは、約3400Daの分子量を有するPEGDAを含む。一部の実施形態では、PEGDAは、光開始剤(例えば、Irgacure2959)及びUV光で架橋される。一部の実施形態では、PEGDAは、フリーラジカルの放出を介して(例えば、過硫酸アンモニウム(APS)及びテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を用いて)架橋される。好ましい実施形態では、PEGDAの添加及び架橋の両方が、第2の強化材料として印刷後に行われる。
【0073】
半月板の欠損を修復するための方法:
本発明の態様は、対象の半月板の少なくとも一部を修復及び/または交換するための方法を含む。本明細書に記載の半月板インプラントのいずれもが、半月板の修復または再生を達成するために、それを必要とする対象に移植することができる。従って、対象における半月板の欠損を修復する方法または半月板の再生を促進する方法も本明細書で提供される。一実施形態では、方法は、本明細書に記載の半月板インプラントを、半月板の修復または再生を必要とする欠損部位に移植することを含む。
【0074】
「対象」という用語は、ヒト、チンパンジーなどの非ヒト霊長類、ならびに他の類人猿及びサル種;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、及びウマなどの家畜;イヌ及びネコなどの家畜哺乳動物;マウス、ラット、及びモルモットなどの齧歯動物を含む実験動物を含むが、これらに限定されない。用語は、特定の年齢または性別を表さない。従って、男性であれ女性であれ、成人及び新生児対象ならびに胎児が含まれる。一実施形態では、対象は、哺乳動物である。一実施形態では、対象は、ヒト対象である。
【0075】
一部の実施形態では、方法は、半月板インプラントもしくはそのアンカー領域を欠損部位に固定すること、及び/または半月板インプラントの1つ以上のアンカー領域を対象内の少なくとも1つの解剖学的構造体に固定することを含み得る。一部の実施形態では、方法はさらに、対象から欠損のある半月板の少なくとも一部を除去することを含み得る。
【0076】
本明細書で言及される全ての特許及び特許公開は、全体が本明細書で参照により組み込まれる。特定の修正及び改善は、上述の説明を読むと、当業者らに想起させるであろう。そのような修正及び改善の全ては、簡潔さ及び読みやすさのために、本明細書に含まれているわけではないが、適切に以下の特許請求の範囲内にあることと理解すべきである。
【実施例】
【0077】
実施例1:アルギナート-セルロースナノクリスタルブレンドを用いる印刷
アルギナートの種類及び純度に応じて、水中で1~8%(w/v)、通常、2~6%のアルギナート水溶液を使用した。アルギナート溶液を、室温での磁気撹拌により調製した。
【0078】
セルロースナノクリスタル(CNC)分散液を、以下の通りに、室温での磁気撹拌及び超音波処理により調製した。
●水中で1~6%(w/v)
●45℃で25分間激しく撹拌しながら、完全に漂白した市販のクラフト針葉樹パルプを64wt%の硫酸(パルプ1グラム当たり8.75mLの硫酸溶液)で酸加水分解することにより調製する。
●CNCの表面改質を、TEMPO媒介性酸化により実施した。
【0079】
アルギナートに対するCNCの種々の濃度で磁気撹拌しながら混合することにより、アルギナート及びCNCの複合溶液を調製した。CNCの濃度は、5~50%で変動した。沈殿及びそれによるCNCの濃度の不均一性を回避するために、複合分散液を印刷前に新たに調製した。
【0080】
架橋剤溶液は、水中で1~5%のPVA溶液中に50~125mMの塩化カルシウムを含んでいた。通常、2%のPVA溶液中で125mMのCaCl2を使用した。
【0081】
バイオ印刷では、印刷中にアルギナートをCa2+でイオン架橋して、アルギナート繊維を作成した。TEMPO変性CNCは、それらをアルギナート溶液に均一に分散させ、Ca2+イオンを介して架橋させ、アルギナート-CNC複合繊維が得られる表面カルボキシル基を有する。
【0082】
この及び他の印刷材料の引張機械的特性を試験する場合、特許取得済みのマイクロ流体押出装置を使用して、アルギナート:CNCブレンドの繊維を3D印刷して、外径約18mm、幅1mm、及び高さ1mmの多層環状構造体を生成した。カスタムフックを使用して、印刷されたリングをUniVert(CellScale)機械的試験装置に搭載し、3D印刷されたリングが破断するまで、漸増する歪をかけた。測定可能なパラメーターは、破損時のピーク応力(Pa)、引張弾性率(Pa)、及び破損時の組織伸張(%元の長さ)を含む。
【0083】
結果-アルギナートと共にCNCが含まれると、材料の引張強度または柔軟性が大幅に改善されなかった。
【0084】
実施例2:アルギナート-ポリエチレングリコールジアクリラート(PEGDa)ブレンドを用いる印刷
アルギナートの種類及び純度に応じて、水中で1~8%(w/v)、通常、2~6%のアルギナート水溶液を使用した。アルギナート溶液を、室温での磁気撹拌により調製した。
【0085】
PEGDa溶液を、以下の通りに調製した。
●試験されたPEGDaの平均分子量:575Da、1kDa、3.4kDa、8kDa、10kDa、及び20kDa
●濃度:水中で50~100%(w/v)
●室温で磁気撹拌することにより、液体(PEGDa 575Da及び1KDa)または固体粉末を水に溶解させることにより、溶液を調製した。
●光開始剤、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン(Irgacure 2959)を、磁気撹拌により0.1~1.0%の濃度でPEGDa溶液に溶解させた。
【0086】
アルギナート及びPEGDaのブレンドを、以下の通りに調製した。
●アルギナートに対するPEGDaの種々の濃度で磁気撹拌により、光開始剤を含有するアルギナート及びPEGDa溶液を混合した。
●PEGDaの濃度は、50~100%で変動した。
●PEGDa及び光開始剤の光分解を回避するために、複合溶液を印刷前に新たに調製した。
【0087】
架橋剤溶液は、1~5%のPVA水溶液中に50~125mMの塩化カルシウムを含んでいた。通常は、2%のPVA溶液中の125mMのCaCl2を使用した。
【0088】
印刷、続いて光架橋では:印刷中に、Ca2+を用いてアルギナートをイオン架橋して、アルギナート繊維を作製したが、PEGDaは、未架橋で、アルギナート繊維に埋め込まれたままであった。印刷後、365nmのUV光を5~40分間照射することにより、PEGDaの架橋が達成され、第2の網目構造が形成された。3.4及び10kDaの平均分子量を有するPEGDaを試験した。
【0089】
考察:印刷構造体の最適な機械的増強をもたらす適切なMWを有するPEGDAを同定するために、本発明者らは、直径25mm及び断面の厚さ約1mmの印刷されたアルギナートリングを用いて、575~20,000Daの範囲のMWを有するPEGDAを調査した(
図1)。光開始剤を含有する50%(w/v)のPEGDA溶液に、印刷されたリングを一晩暗所で浸漬させ、UV光の下で架橋して、二重網目構造ハイドロゲル(DNH)を生成した。光架橋されたアルギナート-PEGDAリングは、水に浸漬させた時に膨潤した。使用されたPEGDAの分子量の増加に伴い、膨潤の一般的な増加傾向があった。アルギナート-PEGDA DNHリングを、CellScale装置の引張モードでの機械的性能について試験し、種々のMWのPEGDAを用いて調製された、DNHリングに対する応力-歪曲線が示される。以下の表1は、これらのDNHリングの引張試験の結果をまとめたものである。
表1.アルギナートPEGDAの二重網目構造ヒドロゲルリングの引張試験データ
【表1】
【0090】
ニートなアルギナートで印刷されたリングは、最大応力(450%を超える)での非常に高い伸び及び1.41MPaの最大引張応力を示すが、むしろ、低い引張弾性率(0.21MPa)を示すことがわかる。印刷されたアルギナートリングにPEGDAを組み込むと、歪及び最大引張応力の低減をもたらしたが、比較的低分子量のPEGDAで調製されたDNHリングの引張弾性率が大幅に増加した。DNH試料全ての中で、平均MWが3,400Da(PEGDA-3.4K)のPEGDAで調製されたアルギナート-PEGDAリングは、最高引張弾性率及び最大引張応力を示す。この機械的強度のデータに基づいて、PEGDA-3.4Kは、ニートなアルギナートと同様の最大強度を有する硬い材料を提供するので、協働する最も有望なポリマーと考えられた。
【0091】
実施例3:印刷後にPEGDaを印刷されたアルギナート構築物に含浸することよるアルギナート-ポリエチレングリコールジアクリラート(PEGDa)ブレンドの二重網目構造ハイドロゲル
アルギナート、PEGDa、及び架橋剤溶液を、上記のように調製した。
【0092】
特定のブレンドされた組成物は、PEGDa/光開始剤溶液にCNCを含んでいた。CNCの濃度は、PEGDaの重量の5~50%の範囲であった。
【0093】
印刷されたリング構造体及び3D印刷された半月板組織中でのPEGDa溶液の浸潤及び光架橋を、以下の通りに実施した:CNC含有光開始剤を用いたまたは用いないPEGDa溶液を印刷された構築物上に少しずつ注ぎ、室温、暗所で一晩浸漬させた(PEGDaの濃度は、50~100%で変動した)。一晩の浸漬後、365nmのUV光を5~40分間照射することにより、印刷された構築物におけるPEGDaの架橋を達成して、第2の網目構造がもたらされた。
【0094】
機械的結果-上記のUniVert装置を使用して、引張強度を定量した。印刷後のアルギナートの添加:PEGDaは引張特性に大きな影響を与え、3.4KDaのPEGDaをLVM-アルギナート(低粘度、高M)に添加すると、引張弾性率が0.21±0.09MPaから1.17±0.12MPaに増加した。破断前の元の長さの462%まで伸びたLVM-アルギナート単独と比較して、最大破断点伸びを115%に低減させることにより、PEGDaを含む材料をより強く示した。最大破断点荷重は、LVM-アルギナート及びLVM-アルギナート:PEGDaの試料において同様であった。
【0095】
機械的結果-上記のMach-1押し込み装置を使用して、圧縮強度を定量した。人工半月板組織では、印刷後に、3D印刷されたLVM-アルギナートの先端面にPEGDa 3.4Kを添加し、続いて、UV架橋すると、圧縮強度が20kPa未満から300kPa超に大幅に増加した。PEGDA 3.4Kが印刷後に添加されると、アルギナート組織のピーク接触圧力押し込み強度が、少なくともヒツジ半月板のものまで増加することを、本発明者らは示す(
図2)。
【0096】
考察-PEGDAをアルギナートとブレンドして印刷した時に、印刷後にPEGDAを架橋するのが困難であることがわかった。これは、印刷中にブレンドされた混合物から、より小さいMwのPEGDA及びIrgacure(登録商標)光開始剤が拡散するためであったと、本発明者らは仮定した。代わりに、印刷後にアルギナート繊維にPEGDAを添加すると、引張弾性率の調節がもたらされ、低MwのPEGDAは、硬いが弾性及び脆性が低いアルギナート構造体を生じ、高MwのPEGDAを組み込むと、純粋なアルギナートよりも低い引張強度を有する柔らかいゲルが得られた。3.4kDaのPEGDAを印刷されたアルギナート半月板に添加すると、ニートなアルギナート半月板と比較してはるかに高い圧縮弾性率を有した先端面に滑らかで堅いPEGDAゲルコーディングが生じたことも、本発明者らは見出した。
【0097】
実施例4:アルギナート-ポリカプロラクトン(PCL)ミクロスフェアを用いる印刷
アルギナート及び架橋剤溶液を、上記のように調製した。
【0098】
PCLミクロスフェアを、水中油滴(o/w)エマルション凝固法で合成した。1.5~3.0%(w/v)のPCLのジクロロメタン溶液(DCM)を分散相として使用するが、1~5%(w/v)のポリ(ビニルアルコール)(PVA)の水溶液を連続相として使用した。1200rpmで10分間磁気撹拌することにより、PCL溶液を1:10(v/v)の比でPVA溶液に分散させた。DCMを蒸発させて、ドラフト内でエマルションを800rpmで6~8時間、磁気撹拌することにより、周囲条件でPCLミクロスフェアが固化した。PCLミクロスフェアを膜で濾過し、遠心分離器で分離した。このプロセスにより、ミクロスフェアの多分散性が低減して、サイズ分布が5~50μmの範囲の混合物がもたらされる。異なるサイズのミクロスフェアは、細孔の開口部の幅が異なる膜を使用する濾過により分離することができる。より広いサイズ範囲の調製がマイクロ流体チャネルの遮断を引き起こすので、多分散性のレベルを低減することは、マイクロ流体ディスペンサー法を使用して、高忠実度の印刷を可能にするために不可欠である。
【0099】
磁気撹拌を使用してそれぞれの溶液を混合することにより、アルギナート及びPCLミクロスフェアの複合溶液を調製した。PCLミクロスフェアの濃度は、1~5%(w/v)で変動した。沈殿及びそれによるPCLマイクロスフェアの濃度の不均一性を回避するために、複合分散液を、印刷前に新たに調製した。印刷では、印刷中にアルギナートをCa2+でイオン架橋して、アルギナート繊維を生成した。
【0100】
PCLミクロスフェアの溶解:一連の2元水/エタノール溶媒混合物を使用して、アルギナート繊維に埋め込まれたPCLミクロスフェアを含有する印刷構築物を水からエタノールに溶媒交換した。使用された水/エタノール混合物は、100/0、75/25、50/50、25/100、及び0/100であった。溶媒交換後、構築物を室温で10~30分間DCM蒸気にさらして、PCLミクロスフェアを溶解させて、アルギナート繊維内に第2の網目構造が生成された。溶媒交換とは逆の順序で、水/エタノール混合物を使用して、構築物を再水和した。
【0101】
考察-印刷繊維としては、PCLミクロスフェアは、架橋されたアルギナートが、例えば、EDTAで溶解することにより除去された場合、任意の相互連結された網目構造なしで分散してばらばらになったままであった。その結果、アルギナート網目構造にPCL MSを取り込んでも、繊維の機械的特性が改善されなかった。次に、PCL MSは、選択的に溶融/溶解することができる場合、印刷繊維の機械的強度の改善につながるアルギナートマトリックス内のPCLの相互侵入2次網目構造を形成し得ると、本発明者らは仮定した。溶媒DCMとの選択的溶解及びMS融合時に、ポリマー粒子により、一部の好ましい機械的特性を有した複合繊維をもたらすハイドロゲルフレームワーク内に共連続2次網目構造が生成された。しかし、残念ながら、中程度の濃度(2.5%)のPCLマイクロスフィアが半月板構築物に付加されると、縫合糸保持強度及び接触圧力の両方が、ニートなアルギナート半月板と比較して減少し、これらの効果は、濃度の増加と共に悪化した。これらの結果は、PCLの付加が増加すると、印刷構造体がより硬くなるが、脆くなることを示す。
【0102】
実施例5:キトサンを用いる印刷
印刷用のキトサン及び架橋剤溶液の調製
数時間激しく撹拌しながら、キトサン粉末を2%(v/v)の酢酸に溶解させることにより、低分子量キトサン(Sigma Aldrich、脱アセチル化度77%)の2.5%~4.5%(w/v)の溶液を作製した。MW=20000(PEG20k、Alfa Aesar)を有する5%のポリエチレングリコール(低粘度の架橋剤)または15%のポリエチレングリコール(高粘度の架橋剤)と共に、0.5%~5%のトリポリリン酸ナトリウム(STP、SigmaAldrich)を脱イオン水に溶解させることにより、キトサン用の架橋剤溶液を調製した。適切な量の16%(w/v)のSTP貯蔵液、脱イオン水で調製された30%(w/v)のPEG20k溶液を組み合わせて、所望の最終STP及びPEG20k濃度にすることにより、架橋剤を調製した。
【0103】
STP架橋剤を使用したキトサンの3D印刷
3D印刷のために、酸性キトサン溶液及びSTP-PEG架橋剤を、プリントヘッド中で組み合わせて、キトサンポリマー鎖中の正荷電アミノ基及びSTP中の負荷電リン酸基のイオン架橋により固体繊維が生成された。印刷中に緩衝液として2%の酢酸を使用して、酸性条件でキトサンを維持して、pH増加による沈殿を防止した。種々のキトサン及び架橋剤の配合で生成された繊維の機械的特性を評価するために、直径が15または20mm、高さ及び幅が約1mmのリング状の構造体を印刷した。リングに使用される代表的な印刷パラメーターは、キトサン溶液の場合の圧力が300~1000mbar、低粘度の架橋剤の場合の圧力が50~100mbar、高粘度の架橋剤の場合の圧力が300~500mbar、印刷速度が5~20mm/sであった。半月板用途では、キトサン構造体を、特定の三日月形半月板モデルに従って印刷した。半月板試料印刷のため、代表的な印刷パラメーターは、キトサン溶液の場合の圧力が500~600mbar、高粘度架橋剤の場合の圧力が300~1000mbar、印刷速度が18~22mm/sであった。
【0104】
リング引張試験を使用した材料強度の測定
新たに印刷されたキトサンリング及び0.9%(w/v)の生理食塩水で水和されたリングの両方の機械的性能を引張試験で評価した。全ての実験を室温で実施した。印刷されたキトサンリングを、機械的試験機(UniVert、CellScale、Waterloo,ON,Canada)のフックに搭載し、0.5mm/sの速度及び0.1Nの先行荷重で、破損まで引っ張った。力-変位データから、円周方向応力(MPa)、Green歪(%)、引張弾性率(MPa)、最大引張強度(MPa)、及び最大応力時の伸び(%)を計算した。
【0105】
結果
キトサン濃度が機械的性能に及ぼす影響
2.5%のSTP及び15%のPEG20kを有する標準的な高粘度架橋剤を使用しながら、2.5%から4.5%にキトサン濃度を変動させることにより、印刷されたリングの機械的性能に対するキトサン濃度の影響を試験した。新たに印刷されたリング及び0.9%の生理食塩水で水和されたリングの両方を試験した。リングの引張試験の結果を
図3にまとめた。生理食塩水による水和(
図3b)は、引張弾性率をわずかに低減させ、新たに印刷されたリングと比較して、2.5%及び3.5%の低いキトサン濃度に対する最大引張強度を大幅に低減させた(
図3a)。対照的に、4.5%の最高のキトサン濃度を有するリングは、水和状態でも機械的特性を十分に保持していた。実際には、これらのリングの引張弾性率及び最大引張強度は、新たに印刷された状態と比較して、水和状態でわずかに増加した。従って、キトサン濃度を増加させることは、機械的観点から有益であり、これは、より架橋されたキトサン網目構造の形成及び水性媒体中でのより少ない膨潤が原因である可能性が高い。高いキトサン濃度はまた、生理食塩水中で印刷された構造体をより安定させた。例えば、2.5%のキトサンを有するリングは、脆弱であり、溶液中で容易に崩壊するが、3.5%のキトサンリングは、より堅牢であり、生理食塩水中で崩壊しなかった。しかし、キトサン濃度が増加すると、粘度も大幅に増加し、溶液の粘度が高くなるほど、印刷に使用されるべき速度が非常に低い必要がある(4.5%のキトサンの場合5mm/s対2.5%のキトサン場合20mm/s)。試験された種々のキトサン濃度に対する引張弾性率、最大引張強度、及び最大応力時の伸びの計算値が表2にまとめられる。
表2.2.5%のSTP、15%のPEG20k、及び種々のキトサン濃度で印刷されたリングの引張特性。
【表2】
【0106】
考察-機械的性能に対するSTP濃度及びPEG濃度の影響。STP系架橋剤の組成は、印刷されたキトサンリングの機械的特性に顕著な影響を及ぼした。低粘度の5%のPEG 20k架橋剤を用いて、0.5~5%のSTP濃度を試験した(
図4a)。0.5%~1%にSTP濃度を増加させると、3.5%のキトサンリングの引張弾性率、最大引張強度、及び伸びが大幅に増加した。しかし、STP濃度がさらに増加すると、リングは、より脆くなり、特に最大引張強度及び伸びが減少した。これは、より脆いキトサン網目構造をもたらす架橋度の増加のためであり得る。架橋のPEG濃度を5%から15%に増加させることによりこの脆さの増加を効果的に打ち消すことができる(
図4b)。PEG濃度が高いので、STP濃度として2.5%を選択し、1%のSTPで印刷された構造体は、安定性が低く、水性媒体中で崩壊する傾向があった。STP濃度が5%に増加しても、新たに印刷または水和されたリングの機械的性能が大幅に改善しなかった(
図4c)。全体で、2.5%のSTPを含む高粘度の15%のPEG20k架橋剤を用いて、引張弾性率、最大引張強度、及び水中での安定性の両方に関して最高の機械的性能を達成した。種々のキトサン及び架橋剤の配合に対する引張弾性率、最大引張強度、及び最大応力時の伸びの計算値が表3にまとめられる。
表3.3.5%のキトサン及び種々の架橋剤濃度で印刷されたリングの引張特性。
【表3】
【0107】
15%のPEG20k中の3.5%のキトサン及び2.5%のSTPを使用して、キトサン半月板試料を印刷した(
図5)。平均高さ及び幅がそれぞれ4mm及び9mm(3D半月板設計では4mm及び8mm)の印刷された構造体は、3D半月板設計を十分に再現した。
【0108】
実施例6:キトサン-ポリ(ビニルアルコール)(PVA)ブレンドを用いる印刷
所望の比率(w/w)で酸性キトサン溶液及びPVA溶液を組み合わせることにより、キトサン-PVAブレンドを調製した。10%または15%のいずれかのPVA溶液(PVA MW 146000~186000、99+%加水分解、SigmaAldrich)の特定の比で、2%(v/v)の酢酸中の低分子量のキトサン(SigmaAldrich、脱アセチル化度77%)の3%、3.5%、または4.5%(w/v)の溶液を組み合わせた。15分間のオートクレービング(121℃、100kPaまたは50kPa)により、PVA溶液を調製した。
【0109】
キトサン-PVAブレンドの印刷、後処理、及び機械的試験
純粋なキトサンの標準的な架橋剤、すなわち、2.5%のSTP及び15%のPEG20kを含む溶液を使用して、キトサン-PVAブレンドを印刷した。2%の酢酸を緩衝液として使用した。種々のブレンドの機械的試験のために、直径が15mm、高さ及び幅が1mmのリング試料を印刷した。リング試料の印刷に使用される種々のブレンドの組成及びパラメーターは、以下の表4にまとめられる。
表4.キトサン-PVAリング試料の印刷に使用される組成及びパラメーター
【表4】
【0110】
印刷中に、ブレンド中のキトサンをSTPでイオン架橋して固化した。PVA(1)を結晶化して固化するために、印刷されたキトサン-PVA試料を、-70~-80℃での凍結及び室温での融解サイクルの繰り返しにかけた。代表的な凍結-融解サイクルは、15分の凍結及び30分の融解を含んでいた。試料を、合計5回の凍結-融解サイクルにかけ、次に、0.9%の生理食塩水で水和した。純粋なキトサン試料と同じプロトコールを使用したUniVertの機械的試験(CellScale、Waterloo,ON,Canada)を使用して、水和された試料を引張特性について試験した。引張特性に加えて、フックから試料をとりはずし、元の試料サイズと伸びたサイズを比較することにより、キトサン-PVAリング試料の回復も評価した。
【0111】
3.5%のキトサン及び10%のPVA 1:1(低粘度)のブレンドまたは4.5%のキトサン及び15%のPVA 1:1(高粘度)のブレンドのいずれかを使用して、半月板用途では、キトサン-PVA構造体を印刷した。種々の充填パターンも試験した。正方形パターンを12%充填または7%充填のいずれかで印刷し、ダイヤモンドパターン、三角形パターン、及び三角形+ダイヤモンドパターンを7%充填で印刷した。種々の材料組成で半月板試料印刷に使用される代表的な印刷パラメーターは、表5にまとめられる。
表5.キトサン-PVA半月板試料の印刷に使用される組成及びパラメーター
【表5】
【0112】
結果
機械的性能への凍結-融解の影響
凍結-融解のサイクルにさらすことにより、印刷されたキトサン-PVAリングの引張特性を大幅に改善した(
図6)。キトサンの3つの種々の比で印刷されたリングの引張強度:PVAブレンドを、凍結-融解の前及び後で試験し、全ての場合について、凍結-融解サイクルにさらすと、最大引張強度及び破断点伸びが大幅に増加した。
【0113】
ブレンド組成の機械的性能への影響
印刷されたキトサン-PVAリングの引張特性は、ブレンド中のキトサン及びPVA濃度、ならびにキトサン対PVAの比により影響を受けた(
図7)。PVA濃度またはキトサン濃度のいずれかを増加させることにより、印刷された構造体の引張弾性率及び最大引張強度の両方を大幅に増加させることができる。PVA貯蔵液の濃度を10%から15%に増加させると、印刷されたリングの引張強度がほぼ100%増加した(
図7a)。それに対応して、PVA貯蔵濃度を15%に保ちながら、キトサンのストック濃度を3.5%から4.5%に増加させることにより、引張強度をさらにほぼ25%増加させることができる(
図7b)。最終的に、ブレンド中のキトサン量が、PVAと比較して10%増加した場合、印刷された構造体は、弾性が少なくなり、引張強度が30%低減した。これらの結果に基づいて、1:1(w/w)の比で15%のPVAと組み合わせた4.5%のキトサンとして、最適なブレンド組成を選択した。
【0114】
高い引張強度及び弾性に加えて、キトサン-PVAブレンドは、引張変形後の顕著な回復も示した。3.5%のキトサン及び10%のPVAで印刷されたリングは、ほぼ1000%の歪の変形後に、ほぼ元のサイズ(92%±2%回復、n=5)に回復し、わずかな損傷しかなかった。
【0115】
キトサン-PVAブレンドを使用した半月板試料の印刷
3.5%及び10%のPVA 1:1のブレンドを使用して、高充填(65%超)の半月板試料を印刷した(
図40)。より高い濃度のブレンドと比較して、より速い印刷速度を使用することができる(20mm/s対7mm/s)ので、このより低い粘度のブレンドを選択した。高充填半月板試料の印刷時間は、このように、約1時間に短縮することができる。
【0116】
印刷された半月板試料は、3D半月板設計を比較的よく再現できたが、特に、幾分幅がより大きかった。試料の平均高さ及び幅は、3D半月板設計の4mm及び8mmと比較して、それぞれ4.2mm±0.4mm及び10.6mm±0.5mm(n=4)であった。
【0117】
考察:キトサンを含む2次マトリックスとしてPVAを組み込むと、キトサン繊維の機械的特性を向上させ、引張強度及び弾性が大幅に増加した。興味深いことに、キトサン及びPVAの濃度及び比を調整することにより、これらの機械的パラメーターを調節することができる。印刷された高充填のキトサン-PVA半月板の主な制限は、以下に説明する後続の死体ラボ用試験で強調される全体的な柔軟性及び弱い繊維間接着であった。
【0118】
実施例6:死体ラボ用試験
以下を含む4つの半月板組織タイプを死体の試験に使用した:キトサンのみ(印刷された3.5%のキトサン)、キトサン+PVA(5X凍結/融解サイクルからの重合PVA)、アルギナート+PCL(DCMを使用して融合したPCLミクロスフェア)、及びアルギナート+PEGDA(UVを使用して架橋されたPEGDA)。死体ラボ用試験を実施する前に、縫合糸の引き抜き強度及び押し込み強度について同様の半月板試料を試験し、データをプロットした(
図8)。キトサンのみ、キトサン+PVA、及びアルギナート+PCLの試料は全て、20Nの縫合糸保持強度の目標を満たしたが、100kPaの目標よりも低い圧縮強度を示した。2次PEGDAマトリックス及び印刷後のUV架橋ステップを用いた、印刷されたアルギナートからなる組織は、縫合糸引き抜き目標に達し、圧縮強度目標を約30kPa上回る。SPOを押し込み強度に対してプロットする時、一般に、2つの値の間に逆相関があることを、本発明者らは観察し、最大の縫合糸保持を有する試料は、圧縮状態でより柔らかく、逆もまた同様である。これは、SPOが引張試験の一種であるためであり、縫合糸が組織から引き抜かれるので繊維が伸び、それ故、張力が強い柔軟な弾性繊維を含有する構造体は、非弾性のより硬い繊維よりも大きい縫合糸引き抜き力に耐えることができると、本発明者らは仮定する。しかし、柔軟な弾性繊維は、容易に変形可能でもあり、それ故、圧縮状態でより柔らかである構造体をもたらす傾向があった。
【0119】
死体ラボは、人工半月板組織の外科的適合性を評価するために、死体のヒト膝関節全体を使用した。組織をサイズにトリミングし、関節内に行き来させ、関節内で外科的に処置し、関節内に残留する周辺半月板に縫合することができることを確認するために、実験を実施した。移植前に、鍵穴状開口部のアクセスポイントを関節の皮膚に切り入れ、膝腔を洗浄した。関節の内部を洗浄した後、膝の側方の半月板をトリミングして、インタクトな組織の周辺部分だけをそのまま残した。半月板の欠損空間を専用の測定装置で測定し、ハサミまたは外科用メスの刃を使用して、交換用半月板を適切なサイズにトリミングした。組織クランプを使用して、交換用半月板組織を皮膚の鍵穴状開口部から関節内に行き来させた。「L」字型プローブを使用して、さらに組織を処置し、残りの周辺半月板組織に対して関節内の正しい位置に組織を配置及び配向した。エチボンド2-0縫合糸材料を使用して、人工組織を周辺半月板に縫合した。垂直及び水平ループ縫合糸を試験して、インプラントを周辺半月板組織に固定した。以下に記載の組織試験の手順を用いて、同じ膝への6つの試験移植を順番に実施した(表6)。
表6.死体の膝試験番号及び半月板プロトタイプ組成。
【表6】
【0120】
全ての場合について、組織をサイズにトリミングすることができ、関節腔内にうまく行き来させた。しかし、液体で満たされた関節内に入り、物理的ストレスにさらされると、組織の層間剥離が一般的な問題であったが、キトサン+PVA試料は、他の組織よりも影響を受けなかった。キトサン、キトサン+PVA、及びアルギナート+PEGDAを含むいくつかの組織のタイプをうまく縫合することができる。キトサン+PVA(試験番号1)及びアルギナート+PEGDA(試験番号3及び6)が最も安定した縫合糸であった。組織の柔軟性も問題であり、キトサンのみ及びキトサン+PVA組織が、柔らかすぎて、関節腔で簡単に処置することができなかった。アルギナート+PEGDAは、魅力的であったより頑丈な上面を有したが、アルギナートと高密度構造体の表面に拘束されたPEGDAの上部との界面で層間剥離が生じた。死体ラボは、本発明者らの印刷された半月板組織が、縫合糸保持の本発明者らの主な目標を達成することができることを明確に示したが、外科的観察は、半月板組織の将来の開発を導くために不可欠であった。
【0121】
実施例7-繊維+キャストマトリックス複合組織の印刷
上記の死体ラボの結果に基づいて、機械的な成果物のうちの3つ全て、縫合糸引き抜き強度(20N)、押し込み強度(100kPa)、及び引張強度(1MPa)を達成した半月板試料を生成するための、キャストマトリックスに囲まれた繊維の印刷されたフレームワークからなる複合組織を製造する可能性を、本発明者らは説明した。本発明者らは、印刷された網目組織が、引張強度及び縫合引き抜き抵抗に寄与するであろうが、2次キャストハイドロゲルマトリックスが、増加した繊維-繊維及び層間結合を介して、繊維網目構造との相乗効果を与えて、安定性及び剪断強度を向上させ、コンクリート中の鉄筋の効果に類似した、より機能的に適切な組織を生成する圧縮強度を増加させるであろうと仮定した。本発明者らは既に、高い繊維充填密度(80%)で印刷されたアルギナート構築物にPEGDAを2次添加することにより、これをある程度まで試みていたが、キャスト及び印刷された成分間の層間剥離をもたらす、PEGDA及びアルギナート間のへき開面を有するPEGDAゲルの外側のコーティングをもたらす、印刷された構造体への2次網目構造の侵入がないことを観察した。JSC番号12では、本発明者らは、遠心分離または真空を介した後続の注入のための、より低い充填密度で、繊維の印刷された網目構造の製造を含む、印刷された組織への2次マトリックスの侵入を改善するための潜在的な方策について考察した。本発明者らは、カスタム組織設計ソフトウェアを使用して、7%~15%の充填密度で直線繊維の堆積を伴う組織を生成した。本発明者らは、PEGDAの2次キャストマトリックス、セルロースナノクリスタル(CNC)、またはPVAと組み合わせて、キトサンのみの繊維及びキトサン+PVA印刷繊維を試験した。縫合糸引き抜き、引張、圧縮、及び機械的な重ね剪断試験を使用して、複合組織の機械的性能を定量した。結果を、高充填密度(70%平均)で印刷された2次マトリックスなしの非複合印刷組織及び純粋PVAのキャストハイドロゲル組織と比較した(表7)。
表7.複合対非複合組織機械的特性
【表7】
【0122】
本発明者らの後続の研究中に、CNCゲルは、機械的性能を向上させていないことがすぐに明らかになり、PEGDAは、光開始剤の光活性化を使用して、より大きな組織での架橋することが困難であった。印刷されたキトサン+PVA繊維とキャストPEGDA(3.4kDa)の2次マトリックスまたはPVAの組み合わせによる複合組織は、縫合糸保持、押し込み、及び引張強度の3つの機械的目標を達成した唯一の組織であった。キトサンまたはキトサン+PVAの印刷された繊維のみを含有する組織は、縫合糸保持及び引張目標を達成する傾向があるが、高充填密度でも、100kPaの目標押し込み強度に到達できなかった。キャストPVAのみの組織は、標的縫合糸保持を達成し、押し込み強度を達成することに非常に近いが、キャスト-PVA組織は1MPaの目標引張強度以下であった。重ね剪断試験は、DH-アルギナートのみが印刷された組織が、生理食塩水で水和された時、剪断強度が5分の1に低下したことを示した。この結果は、生理食塩水で満たされた膝関節内で完全に水和した時に、印刷された組織(特に、アルギナートベースの組織)が層間剥離した死体ラボの観察を反映している。対照的に、キャストPVAマトリックスの2次網目構造を含むキトサン及びPVA繊維の複合組織は、水和アルギナート試料に対して、剪断強度が150倍以上増加した(164kPa対1kPa)。このデータは、印刷された繊維のみを含む組織において層間剥離を防止するのが困難であることを強調し、複合組織を生成する2次キャストマトリックスを使用することは、印刷された構造体の安定性を増大させる1つのアプローチであることを示唆する。以下では、本発明者らは、印刷されたメッシュ、キャスト、及び複合組織の機械的特性を直接比較する詳細な研究を実施することにより、複合組織アプローチの機械的利点を示すために、本発明者らが実施した研究について、より詳細に記載する。
【0123】
実施例8:キトサン-PVA+PEGDa複合半月板組織
PEGDA:アルギナートブレンドは、リング引張試験においてアルギナートハイドロゲル強度への有益な効果を有することが示され、高い繊維充填密度(80%)を有する印刷されたアルギナート半月板の表面に2次マトリックスとして添加されたPEGDAはまた、死体試験における組織の圧縮強度及び有用性になんらかのプラスの影響を有することが観察された。キトサン:PVA印刷繊維組織は、このように、印刷されたキトサン-PVA半月板試料の制限、すなわち、柔らかさ及び弱い繊維同士の接着を克服する、最も強い引張強度及び縫合糸引き抜き強度を示し、本発明者らは、より低い密度のキトサン:PVAの印刷多孔性メッシュを、印刷された構造体全体に侵入したPEGDAの2次マトリックスと組み合わせることを決定した。凍結-融解処理が不透明な組織足場をもたらすので、光媒介のPEGDA架橋は、不適切であり、従って、本発明者らは、過硫酸アンモニウム(APS)及びテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を使用して、直接フリーラジカル放出を介してキトサンPVAメッシュ構造体の内部のPEGDAを架橋する。
【0124】
材料及び方法
磁気撹拌することで、必要量の粉末キトサンを2%の酢酸溶液に溶解させることにより、キトサン溶液を調製した。60℃で磁気撹拌することで、必要量を脱イオン水に溶解させることにより、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)溶液(2~3%w/v)を調製した。PVA及び水の混合物を121℃で15分間オートクレーブすることにより、より高濃度のPVA溶液を調製した。
【0125】
キトサン-PVA半月板へのPEGDAの浸潤:直線半月板フレームワーク(Ch-PVAメッシュ)を、以前の実験と同様の複合キトサン-PVA方策を使用して、低い(12%)充填密度で印刷した。要約すると、4.5%(w/v)のLMWキトサン溶液及び15%(w/v)のPVA溶液の等しい重量分率を含有する溶液。15%のPEG-20K中の2.5%(w/v)のトリポリリン酸ナトリウム溶液(STP)を、架橋剤として使用して、繊維を生成した。-75℃~-80℃で15分間凍結し、室温で30分間融解させることにより、印刷された半月板試料を処理した。5回の凍結-融解サイクルの後、半月板試料を、真空下で3時間乾燥させた。円周方向の長さが約25mmの印刷された半月板(押し込み及びSPO試験用)に、0.625MのTEMED 7μl及び1.25MのAPS溶液7μlと混合された300μlの150%(w/v)のPEGDA-3.4K溶液を滴下により含浸させ、密閉容器内に3時間浸漬及び架橋させた。次に、PEGDAで架橋された半月板試料を、水に浸漬させて、未反応の試薬を15分間除去し、0.9%の生理食塩水中に2時間浸漬させた。最終的に、キトサン-PVA-PEGDA半月板試料を、機械的特性について試験されるまで、カスタムメイドの水蒸気容器に保存した。円周方向の長さが約40mmの印刷された半月板(引張試験用)に、比例量のTEMED及びAPS溶液と混合された150%(w/v)のPEGDA-3.4K溶液600μlを含浸させた。残りの手順は、同一のままであった。
【0126】
結果
キトサン-PVA繊維を印刷して、印刷繊維の充填密度が低い(12%)半月板構造体になった。PVAの物理的架橋を促進するための5回の凍結-融解サイクルの後、印刷されたキトサン:PVA構築物は、PEGDA-3.4Kの2次マトリックスがうまく侵入した高度に多孔性の半月板足場を提供し、その後、これをAPS/TEMEDと架橋して、キトサン:PVA-PEGDA複合半月板を生成した(
図9)。
【0127】
機械的試験は、キトサン:PVA-PEGDA複合組織が、32.7NのSPO値を有する縫合糸引き抜き目標をうまく超え、圧縮強度は、キトサン:PVA単独メッシュよりも1桁超大きく、303kPaの2次圧縮強度目標を上回り、キトサン:PVA-PEGDA複合材料の引張強度は、0.96MPaの目標に非常に近かったことを示した(表7)。
【0128】
実施例9-キトサン-PVA+PVA複合半月板組織の印刷
本発明者らは、PVAハイドロゲルがヒト半月板と非常に類似する含水量及び粘弾性を有するので、印刷された多孔性メッシュ構造体を、2次マトリックスとしてのキャストPVAと組み合わせる第2の方策を開発した。これらの研究では、本発明者らは、溶液を取り扱うのに十分に低い粘度を維持しながら剛性を増加させることの妥協案として、2次マトリックスに対して20%のPVA濃度を使用した。濃度が25%及び30%のPVA溶液は、粘性が高すぎて、印刷されたメッシュに効率的に組み込むことができないと考えられていた。
【0129】
材料及び方法
キャストPVA複合半月板を含むキトサン:PVAメッシュの調製について、10%または15%のいずれかのPVA溶液(PVA MW 146000~186000、99+%加水分解された、Sigma Aldrich)と特定の比で組み合わせた、2%(v/v)の酢酸中で4.5%の低分子量キトサン(Sigma Aldrich、脱アセチル化度77%)のブレンドを使用して、比較的低い充填(7%または12%)を有するキトサン:PVA繊維構造体を最初に印刷した。印刷後、繊維構造体を5回の凍結-融解サイクルにかけ、次に、真空下で30分~1時間乾燥させた。乾燥後、試料を印刷に使用されたものと同じタイプの20%のPVA溶液に浸漬させ、2000rpmで10分間遠心分離して、印刷された多孔性構造体内にPVAを完全に浸潤させた。遠心分離後、試料を粘性PVA溶液から取り出し、0.9%の生理食塩水で水和する前に、5回以上の凍結-融解サイクルにかけた。従って、複合半月板は、印刷されたキトサン-PVA繊維メッシュ及び印刷された繊維を包む20%の固体PVAマトリックスを含んでいた。キャストPVA組織を生成した。
【0130】
複合半月板中の印刷されたキトサン-PVA繊維、PVAマトリックス、及び組み込まれた水の比を定量するために、印刷されたメッシュを生理食塩水中で完全に水和し、湿潤質量を測定した。これの後に、真空下での一晩の乾燥及び乾燥質量の測定が続いた。乾燥した試料を、生理食塩水中で短時間、再水和し(15分)、次に、真空下で30分間置いた後、遠心分離により20%のPVAマトリックスを取り込んだ。生理食塩水中での凍結-融解サイクリング及び水和の後、複合材料の湿潤質量を測定した。最終的に、複合試料を、真空下で一晩乾燥させ、乾燥質量を測定した。
【0131】
印刷されたメッシュ構造体の測定された支柱(strut)サイズは、約300μmであった。PVAマトリックスの添加に起因して、複合半月板は、滑らかで滑りやすい表面を有し、それらは、印刷されたメッシュ構造体単独よりも機械的にはるかに硬くて強力であった。複合半月板試料の最終的な寸法は、設計値よりも約20%大きかった。平均高さ及び幅がそれぞれ4.6mm±0.1mm及び9.5mm±0.4mm(n=6)であり、これは、目標値により比較的近い(高さが4mm、幅が8mm)(
図10)。
【0132】
結果
a.キトサン:PVA-PVA組織組成の分析
本発明者らは、キトサン:PVA複合組織の体積、乾燥重量、及び水和重量を測定する実験を実施して、組織の全体的な組成に対する、印刷された繊維、2次マトリックス、及び水の相対的な%寄与を計算した。結果に基づいて、複合材料の水、繊維、及びマトリックスの合計量を計算することができる。複合材料は、取り込まれた水の質量を合計の水和複合材料の質量と比較することにより計算された74%±3%の水を含有していた。これは、72%~78%の水を含有すると報告されている天然の半月板によく対応する(Bryceland 2017、Bilgen 2018)。それに対応して、複合材料は、総重量で約26%のポリマーを含有していた。この総ポリマー量のうち、印刷されたキトサン-PVA繊維及びPVAマトリックスは、それぞれ39%±4%及び61%±4%(w/w、乾燥)を占める。要約すれば、複合半月板は、約74%の水及び26%のポリマーを含有し、繊維対マトリックスの比は、約40/60であった。
【0133】
b.キャスト、印刷、及び複合組織の機械的強度の比較。
印刷されたキトサン:PVAメッシュ、キャストPVAのみ、及び複合キトサン:PVAメッシュ+キャストPVA組織を、上記の方法に従って製造した。全ての組織タイプは、類似した寸法であり、種々の機械的試験プロトコールと適合性があった(
図11)。本発明者らは、キャストPVA成分が、印刷されたメッシュの圧縮強度を増加させること、及び印刷されたメッシュが、キャストPVA足場の縫合糸保持強度を増加させることを仮定した。印刷されたメッシュ及び組織のキャスト成分間の任意の相乗的相互作用を詳細に調査するために、本発明者らは、印刷された(キトサン:PVA)、複合(キトサン:PVA-PVA)、及びキャスト(PVA)組織の複数の実施に対する縫合糸引き抜き強度、押し込み(圧縮)強度、引張強度、及び弾性率の直接比較を実施した(
図12~15)。
【0134】
縫合糸引き抜き(
図12)について、本発明者らの試験は、複合キトサン:PVA組織が、印刷のみの組織(40.7±3.8N、ANOVAでp<0.01)またはキャストPVAのみの組織(30.1±9.6N、p<0.001)に対する縫合糸引き抜き強度(58.6±1.3N)を大幅に増加させていることを示し、印刷された繊維網目構造及びキャストPVAが、縫合糸保持強度を増加させる相乗効果を有することが示唆された。具体的には試験されなかったが、本発明者らはさらに、印刷された繊維の円周方向パターンは、生物学的半月板と類似するいわゆる「フープ応力」を介して半月板組織全体に適切に圧縮応力を分散させるのに役立つことを仮定する。
【0135】
組織押し込み(圧縮)強度(
図13)については、キャストPVA(93.1±4.5kPa)及びキトサン:PVA複合(105.4±10.4kPa)組織が双方ともに、印刷のみの組織(23.9±2.4kPa)と比較して著しく大きい押し込み強度を有することを、本発明者らは示す(ANOVAによるp<0.0001)。このデータは、2次キャストPVAマトリックスが、組織の押し込み強度に大幅に貢献していることを示す。複合材対キャスト組織における押し込み強度のわずかな(有意ではない)増加は、複合材料中のキャストPVAが、印刷された繊維の直線パターン内の目立たない「セル」に拘束されていることに起因し得る。これが、圧縮時のキャストPVAの膨張を制限し、組織の剛性を増加させ得るが、この効果は、仮定的である。
【0136】
3つの組織タイプ、キャストPVA、印刷されたメッシュ、及び複合材料を、組織の剛性の尺度としての最大引張強度(破断強度)及び引張弾性率についても試験した(
図14及び15)。試験は、キャストPVA組織(0.66±0.08MPa)が、1MPaの必要な目標引張強度のほぼ半分以上であり、0.98±0.1MPaの目標値に近い印刷のみの組織よりも著しく弱い(p<0.05)ことを示す。キトサン:PVA複合組織は、キャスト(p<0.001)及び印刷されたメッシュ組織(P<0.01)の両方と比較して著しく大きい最大引張強度1.52±0.2MPaを有し、再度、印刷されたメッシュ及び2次キャストマトリックス成分が、増加した引張強度を有する組織をもたらす相乗的相互作用を有することが示唆される。3つの組織タイプの引張弾性率は、キャスト組織が0.23±0.03MPaで最も柔らかく、印刷のみの組織が0.44±0.04MPaで著しく硬く(p<0.01)、複合組織が印刷されたメッシュのみ(p<0.001)及びキャストPVA組織(p<0.0001)よりも著しく硬く、0.62±0.05MPaの引張弾性率を有する最大強度測定と同様のパターンに従う(
図JJ及びKK)。
【0137】
考察:ブレンドされたキトサン:PVAの印刷された繊維は、特に、高い弾性及び最大引張強度を有し、従って、このブレンドを含有する印刷された半月板構造体は、7~15%の比較的低い繊維充填密度でさえ、高い引張力及び縫合糸引き抜き力に抵抗することが可能である。残念ながら、これらの印刷された構造体の圧縮強度は、はるかにこのプロジェクトの目標を下回り、死体ラボの試験は、外科処置中に層間剥離の問題も解決する方策を見つけることの重要性を強調した。印刷された繊維及びキャスト2次マトリックスを組み合わせるという概念を、試験されたCNC、PEGDA、及びPVA2次マトリックスの両方の制限を同時に解決する潜在的な方法として仮定した。キャストPVAハイドロゲルは、完全な半月板交換品としての将来性を以前に示している;PVAベースの半月板インプラントを使用する小動物の研究は、ウサギの関節軟骨損傷を防ぐことにおいて、半月板切除術制御に対するプラスの効果を示した(Kobayashi、2003)が、より大きい動物における研究は、ヒツジにおけるPVAハイドロゲルインプラントが、半径方向の断裂及び膝関節から突出による移植片が定期的に破損する半月板同種移植(Kelly、2007)と比較した時、プラスの結果を有さなかったことを示した。著者らは、これらのインプラントの破損が、PVA自体の使用によるものではなかったが、以下により引き起こされたと結論づけた;1.インプラントの不適切なサイジング、2.インプラントの不適切な固定、3.表面下の摩耗、4.インプラントは、等方性であり、適切な方法でフープ応力を分散できなかった。PVAハイドロゲルについての別の懸念材料は、細胞移植を妨げる多孔性の欠如であるが、近年の研究は、ポロゲンとして炭酸水素ナトリウムを含むと、ex-vivoモデルで線維軟骨細胞の内殖及び移植の改善を示す多孔性PVA半月板インプラントを生成し得ることを示している(Coluccino、2018)。
【0138】
本発明者らは、2次キャストマトリックスを含む、特定の繊維配向及び高い縫合糸保持強度を有するカスタムサイズの繊維足場を含む複合アプローチは、本発明者らの研究において本発明者らが強調した制限、及びKellyの研究において移植の失敗につながった問題を改善し得ると仮定した。本発明者らが生成したデータは、本発明者らが試験したラボ条件で、キトサン:PVAメッシュ及びPVAまたはPEGDA2次マトリックスを組み合わせることが、組織の機械的性能に相加効果または一部の場合では、相乗効果を有していたことを示す。