(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】エラストマー-金属コード複合体およびこれを用いたタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20240116BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B60C9/20 E
D07B1/06 A
(21)【出願番号】P 2020553263
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040762
(87)【国際公開番号】W WO2020080441
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2018196207
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】上村 一樹
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-292275(JP,A)
【文献】特開2015-058899(JP,A)
【文献】特開2007-063724(JP,A)
【文献】特開2006-249635(JP,A)
【文献】特開平04-095506(JP,A)
【文献】特開平08-300905(JP,A)
【文献】特開2004-009974(JP,A)
【文献】特表2017-532416(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0159154(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0064438(US,A1)
【文献】特開平10-292276(JP,A)
【文献】特開平07-304307(JP,A)
【文献】特開2017-101352(JP,A)
【文献】国際公開第2014/208480(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/002111(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/00
B60C 9/18-9/20
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5本以上の
型付けされていない真直な金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードが、エラストマーにより被覆されたエラストマー-金属コード複合体において、
前記金属コードがラッピングフィラメントを有さず、
隣り合う前記金属フィラメント同士の間に隙間が設けられており、
前記金属コードの延在方向に直交する方向に測った、隣り合う該金属コード同士の間の距離であるコード間距離wが、0.25mm以上2.0mm以下であり、
前記隣り合う金属フィラメントの、前記金属コードの幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、単位長さ当たり80%以上であり、かつ、
前記金属フィラメントの線径をD(mm)、前記金属コードの延在方向に直交する方向に測った、前記隣り合う金属フィラメント同士の表面間の距離である隙間量をG(mm)、該金属コードを構成する金属フィラメントの本数をN(本)としたとき、下記式(1)、
0.45≦[(D/2)
2×π×N]/{D×[D×N+G×(N-1)]}≦0.77 (1)
(但し、D,G>0であり、Nは整数である)で表される関係を満足することを特徴とするエラストマー-金属コード複合体。
【請求項2】
前記隙間量Gが0.01mm以上0.24mm未満である請求項1記載のエラストマー-金属コード複合体。
【請求項3】
前記金属フィラメントの線径が、0.15mm以上0.40mm以下である請求項1または2記載のエラストマー-金属コード複合体。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか一項記載のエラストマー-金属コード複合体が用いられてなることを特徴とするタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー-金属コード複合体およびこれを用いたタイヤに関し、詳しくは、金属フィラメントを撚り合わせずに引き揃えた束からなる金属コードをエラストマーで被覆してなるエラストマー-金属コード複合体、および、これを用いたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、強度が必要とされるタイヤの内部には、リング状のタイヤ本体の子午線方向に沿って埋設された補強コードを含むカーカスが配置され、カーカスのタイヤ半径方向外側には、ベルト層が配置される。このベルト層は通常、スチール等の金属コードをエラストマーで被覆してなるエラストマー-金属コード複合体を用いて形成され、タイヤに耐荷重性、耐牽引性等を付与している。
【0003】
近年、自動車の燃費を向上させるために、タイヤを軽量化する要求が高まっており、タイヤの軽量化の手段として、ベルト補強用の金属コードが注目され、金属フィラメントを撚らずにベルト用コードとして使用する技術が多数公開されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、単一のモノフィラメントからなるスチールコード本体の周囲に熱可塑性樹脂中にエラストマーを分散させた熱可塑性エラストマー組成物を被覆したタイヤ補強用スチールコード、および、これを使用したタイヤが開示されている。また、特許文献2には、同一の径の2~6本の主フィラメントを、撚り合わせることなく単一の層をなすように並列させて主フィラメント束とし、主フィラメントより小径で真直の1本のスチールフィラメントをラッピングフィラメントとして主フィラメント束の周囲に巻き付けてなるスチールコードを、タイヤベルト層に用いた空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-053495号公報
【文献】特開2012-106570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに対し、金属のモノフィラメントを隙間なく引き揃えた束にしてエラストマーで被覆してコードを形成することで、ベルトの薄ゲージ化による軽量化と、モノフィラメント束間の距離の確保による耐ベルトエッジセパレーション(BES)性の向上とを両立することができる。しかし、このようなコードにおいては、隣接する金属フィラメントの側面部分でフィラメント同士が接触しているため、長手方向に連続するエラストマーの非浸透領域(非エラストマー被覆領域)が生じてしまい、タイヤに損傷が生じた際の浸水時における耐腐食進展性が悪化してしまう。また、このような非エラストマー被覆領域が存在すると、タイヤ転動時に金属フィラメント同士が相互にずれて、面内剛性(タイヤ接地面内の剛性)が低下することにより、操縦安定性の向上が得られない。さらに、ベルトトリートの薄ゲージ化に伴い、ベルト層の耐セパレーション性が悪化するという問題もあった。
【0007】
この点、特許文献1は、タイヤ補強用スチールコードの接着性の向上を図ることにより耐久性の向上を図った空気入りタイヤを提供することを目的とするものであり、特許文献2は、操縦安定性や乗り心地性、耐久性に優れるとともに軽量化を実現した空気入りラジアルタイヤの提供を目的とするものであり、耐腐食進展性やベルト層の耐セパレーション性の両立については検討がなされていない。よって、これらの要求性能を満足できる補強材の実現が求められていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、複数本の金属フィラメントを撚り合わせずに引き揃えた束からなる金属コードがエラストマーで被覆されてなり、操縦安定性や耐腐食進展性、ベルト層の耐セパレーション性等のタイヤの諸性能を改善し得るエラストマー-金属コード複合体、および、これを用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討した結果、金属フィラメントの束の構成を下記のとおりとするとともに、金属コードの断面内に含まれる金属フィラメントの断面積の比率を所定に規定することにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のエラストマー-金属コード複合体は、5本以上の型付けされていない真直な金属フィラメントが撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コードが、エラストマーにより被覆されたエラストマー-金属コード複合体において、
前記金属コードがラッピングフィラメントを有さず、
隣り合う前記金属フィラメント同士の間に隙間が設けられており、
前記金属コードの延在方向に直交する方向に測った、隣り合う該金属コード同士の間の距離であるコード間距離wが、0.25mm以上2.0mm以下であり、
前記隣り合う金属フィラメントの、前記金属コードの幅方向側面におけるエラストマー被覆率が、単位長さ当たり80%以上であり、かつ、
前記金属フィラメントの線径をD(mm)、前記金属コードの延在方向に直交する方向に測った、前記隣り合う金属フィラメント同士の表面間の距離である隙間量をG(mm)、該金属コードを構成する金属フィラメントの本数をN(本)としたとき、下記式(1)、
0.45≦[(D/2)2×π×N]/{D×[D×N+G×(N-1)]}≦0.77 (1)
(但し、D,G>0であり、Nは整数である)で表される関係を満足することを特徴とするものである。
【0011】
本発明のエラストマー-金属コード複合体においては、前記隙間量Gが0.01mm以上0.24mm未満であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のエラストマー-金属コード複合体においては、前記金属フィラメントの線径が、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。
【0013】
ここで、本発明において、エラストマー被覆率とは、例えば、エラストマーとしてゴムを用い、金属コードとしてスチールコードを用いた場合、スチールコードをゴム被覆し、加硫した後、得られたゴム-スチールコード複合体からスチールコードを引き抜き、スチールコードを構成するスチールフィラメント同士の間隙に浸透したゴムにより被覆されている、スチールフィラメントの金属コード幅方向側面の長さを測定し、下記算出式に基づいて算出した値の平均をいう。
エラストマー被覆率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
なお、エラストマーとして、ゴム以外のエラストマーを用いた場合、および、金属コードとして、スチールコード以外の金属コードを用いた場合も、同様に算出することができる。また、本発明のエラストマー-金属コード複合体において、真直の金属フィラメントとは、意図的に型付けをしておらず、実質的に型がついていない状態の金属フィラメントを指す。
【0014】
本発明のタイヤは、本発明のエラストマー-金属コード複合体が用いられてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数本の金属フィラメントを撚り合わせずに引き揃えた束からなる金属コードがエラストマーで被覆されてなり、操縦安定性や耐腐食進展性、ベルト層の耐セパレーション性等のタイヤの諸性能を改善し得るエラストマー-金属コード複合体、および、これを用いたタイヤを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一好適な実施の形態に係るエラストマー-金属コード複合体の幅方向における部分断面図である。
【
図2】本発明の一好適な実施の形態に係るエラストマー-金属コード複合体における金属コードの概略平面図である。
【
図3】本発明における金属コードの断面内に含まれる金属フィラメントの断面積の比率の規定に係る説明図である。
【
図4】本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のエラストマー-金属コード複合体について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一好適な実施の形態に係るエラストマー-金属コード複合体の幅方向における部分断面図であり、
図2は、本発明の一好適な実施の形態に係るエラストマー-金属コード複合体における金属コードの概略平面図である。
【0018】
本発明のエラストマー-金属コード複合体10は、複数本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに一列に引き揃えられた束からなる金属コード2が、エラストマー3により被覆されたものである。金属フィラメント1は、好適には2本以上、より好適には5本以上であって、好適には20本以下、より好適には18本以下、さらに好適には15本以下、特に好適には12本以下の束で金属コード2を構成する。図示例においては、5本の金属フィラメント1が、撚り合わされずに引き揃えられて、金属コード2を形成している。
【0019】
図示するように、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、隣り合う金属フィラメント1同士の間に隙間が設けられている。これにより、この隙間にエラストマー3が入り込むことになり、金属フィラメント1間における連続した非エラストマー被覆領域が解消されるので、隣り合う金属フィラメント1間にエラストマーを十分に浸透させることが可能となる。その結果、圧縮入力時にスチールコードが面外変形でき、スチールコード折れを抑止することができる。また、タイヤに損傷が生じた際の浸水時における水分の通水経路がなくなるので、耐腐食進展性が大幅に改善される。さらに、隣り合う金属フィラメント1同士がエラストマーにより拘束されるので、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をタイヤのベルト用コードとして用いることで、タイヤ転動時においても隣り合う金属フィラメントが相互にずれてしまうことがなく、結果としてベルトの面内剛性を向上させることができ、操縦安定性を改善することができる。
【0020】
また、本発明者は、金属コードの断面内に含まれる金属フィラメントの断面積の比率を所定に規定することで、良好な操縦安定性と耐セパレーション性をバランスよく得られることを見出した。
図3に、本発明における金属コードの断面内に含まれる金属フィラメントの断面積の比率の規定に係る説明図を示す。この図示例においては、7本の金属フィラメント1が撚り合わされずに引き揃えられて金属コード2を形成しており、具体的には、7本の型付けされていない真直な金属フィラメント1が等間隔の隙間をあけて並行に配置されて、エラストマー3により被覆されている。ここで、等間隔の隙間とは、製造上の誤差を含む範囲を意味する。
【0021】
本発明においては、図示するように、金属フィラメント1の線径をD(mm)、金属コード2の延在方向に直交する方向に測った、隣り合う金属フィラメント1同士の表面間の距離である隙間量をG(mm)、金属コード2を構成する金属フィラメント1の本数をN(本)としたとき、下記式(1)、
0.45≦[(D/2)2×π×N]/{D×[D×N+G×(N-1)]}≦0.77 (1)
(但し、D,G>0であり、Nは整数である)で表される関係を満足するものとする。上記式(1)は、図中の点線部分の断面積を金属コード2の断面積として、金属コード2の1本あたりに占める金属フィラメント1の断面積の比率を規定したものである。すなわち、図中の点線部分の断面積(金属フィラメント1の断面積+エラストマー3の断面積)は上記式(1)における分母の{D×[D×N+G×(N-1)]}により表され、図中の点線部分に含まれる金属フィラメント1の断面積は、上記式(1)における分子の[(D/2)2×π×N]により表される。
【0022】
よって、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、上記所定量の隙間をあけて引き揃えられた金属フィラメント1の束からなる金属コード2を用いるとともに、金属コード2の断面内に含まれる金属フィラメント1の断面積の比率を所定に規定することにより、タイヤに適用した際に、軽量性、操縦安定性、耐腐食進展性およびベルト層の耐セパレーション性等についてバランスよく向上することができるものである。
【0023】
本発明においては、各性能をバランス良く得る観点から、下記式(2)、
0.48≦[(D/2)2×π×N]/{D×[D×N+G×(N-1)]}≦0.77 (2)
で表される関係を満足することが好ましく、下記式(3)、
0.50≦[(D/2)2×π×N]/{D×[D×N+G×(N-1)]}≦0.77 (3)
で表される関係を満足することがより好ましい。
【0024】
本発明において、隣り合う金属フィラメント間における連続する非エラストマー被覆領域の存在を解消して、耐腐食進展性を確保するとともに、ベルトの面内剛性を向上させ、操縦安定性を改善する効果を良好に得るためには、隣り合う金属フィラメント1の、金属コード2の幅方向側面におけるエラストマー被覆率は、単位長さ当たり10%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上である。さらに好ましくは50%以上被覆されており、80%以上被覆されていることが特に好ましい。もっとも好ましくは、90%以上被覆されている状態である。
【0025】
また、本発明において、隣り合う金属フィラメント1同士の間の隙間の量、すなわち、金属コード2の延在方向に直交する方向に測った、隣り合う金属フィラメント1同士の表面間の距離である隙間量G(mm)は、好適には0.01mm以上0.24mm未満である。隙間量G(mm)を0.24mm未満とすることで、束内の金属フィラメント1間におけるセパレーションの発生を確実に抑制することができる。また、隙間量G(mm)を0.01mm以上とすることで、束内の金属フィラメント1間における連続した非エラストマー被覆領域の発生をより効果的に抑制することができる。上記隙間量G(mm)は、より好適には0.03mm以上0.20mm以下であり、さらに好適には0.03mm以上、0.18mm以下である。
【0026】
また、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属フィラメント1の線径Dは、0.15mm以上0.40mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.18mm以上、さらに好ましくは0.20mm以上であって、また、0.35mm以下であることがより好ましい。金属フィラメント1の線径Dを0.40mm以下とすることで、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をタイヤに用いた場合に、タイヤの軽量化効果を良好に得ることができるものとなる。一方、金属フィラメント1の線径Dを0.15mm以上とすることで、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をタイヤのベルト層に用いた場合に、十分なベルト強度を発揮させることができるものとなる。
【0027】
さらに、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属コード2の延在方向に直交する方向に測った、金属コード2同士の間の距離であるコード間距離wが、0.25mm以上2.0mm以下であることが好ましい。金属コード2同士の間の間隔wを0.25mm以上とすることで、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をタイヤのベルト層に用いた場合、ベルト幅方向端部のコード端を起点としたゴム剥離が隣り合う金属コード間に伝播する、ベルトエッジセパレーションの発生を抑制することができる。また、金属コード同士の間の間隔wを2.0mm以下とすることで、ベルトの剛性を維持することができる。上記コード間距離wは、より好ましくは0.3mm以上1.8mm以下であり、さらに好ましくは0.35mm以上1.5mm以下である。
【0028】
本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属フィラメント1は、一般に、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属フィラメントの全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする線状の金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
【0029】
また、本発明のエラストマー-金属コード複合体10において、金属フィラメント1の表面状態については特に制限されないが、例えば、下記の形態をとることができる。すなわち、金属フィラメント1としては、表面のN原子が2原子%以上60原子%以下であって、かつ、表面のCu/Zn比が1以上4以下であることが挙げられる。また、金属フィラメント1としては、フィラメント表面からフィラメント半径方向内方に5nmまでのフィラメント最表層に酸化物として含まれるリンの量が、C量を除いた全体量の割合で、7.0原子%以下である場合が挙げられる。
【0030】
さらに、本発明のエラストマー-金属コード複合体10において、金属フィラメント1の表面には、めっきが施されていてもよい。めっきの種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛(Zn)めっき、銅(Cu)めっき、スズ(Sn)めっき、ブラス(銅-亜鉛(Cu-Zn))めっき、ブロンズ(銅-スズ(Cu-Sn))めっき等の他、銅-亜鉛-スズ(Cu-Zn-Sn)めっきや銅-亜鉛-コバルト(Cu-Zn-Co)めっき等の三元めっきなどが挙げられる。これらの中でもブラスめっきや銅-亜鉛-コバルトめっきが好ましい。ブラスめっきを有する金属フィラメントは、ゴムとの接着性が優れているからである。なお、ブラスめっきは、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60~70:30~40、銅-亜鉛-コバルトめっきは、通常、銅が60~75質量%、コバルトが0.5~10質量%である。また、めっき層の層厚は、一般に100nm以上300nm以下である。
【0031】
さらに、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属フィラメント1の抗張力や断面形状については、特に制限はない。例えば、金属フィラメント1としては、抗張力が2500MPa(250kg/mm2)以上のものを用いることができる。さらに、金属フィラメント1の幅方向の断面形状も特に制限されず、楕円状や矩形状、三角形状、多角形状等であってもよいが、円状が好ましい。なお、本発明のエラストマー-金属コード複合体10においては、金属コード2を構成する金属フィラメント1の束を拘束する必要がある場合には、ラッピングフィラメント(スパイラルフィラメント)を使用してもよい。
【0032】
さらにまた、本発明に係るエラストマー-金属コード複合体10においては、金属コード2を被覆するエラストマー3に関しても特に制限はなく、従来、金属コードを被覆するために用いていたゴム等を用いることができる。これ以外にも、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR、高シスBRおよび低シスBR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化NBR、水素化SBR等のジエン系ゴムおよびその水添物、エチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M-EPM)、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー等のオレフィン系ゴム、Br-IIR、CI-IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br-IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、塩素化ポリエチレンゴム(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレンゴム(M-CM)等の含ハロゲンゴム、メチルビニルシリコンゴム、ジメチルシリコンゴム、メチルフェニルビニルシリコンゴム等のシリコンゴム、ポリスルフィドゴム等の含イオウゴム、ビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム等のフッ素ゴム、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等の熱可塑性エラストマーを好ましく使用することができる。これらのエラストマーは1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、エラストマーには、硫黄、加硫促進剤、カーボンブラックの他に、タイヤやコンベアベルト等のゴム製品で通常使用される老化防止剤、酸化亜鉛、ステアリン酸等を適宜配合することができる。
【0033】
本発明のエラストマー-金属コード複合体は、既知の方法にて製造することができる。例えば、複数本の金属フィラメントを撚り合わせずに引き揃えた束からなる金属コードとしてのスチールコードを、所定の間隔で平行に並べてゴムで被覆して製造することができ、評価用サンプルは、その後、一般的な条件で加硫することにより、製造することができる。また、金属フィラメントの型付けについても、通常の型付け機を用いて、従来の手法に従い、行うことができる。
【0034】
次に、本発明のタイヤについて説明する。
図4に、本発明の一好適な実施の形態に係るタイヤの概略片側断面図を示す。本発明のタイヤ100は、本発明のエラストマー-金属コード複合体10を用いてなるものであり、これにより、操縦安定性や耐腐食進展性、ベルト層の耐セパレーション性等を向上することができる。図示するタイヤ100は、接地部を形成するトレッド部101と、このトレッド部101の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイドウォール部102と、各サイドウォール部102の内周側に連続するビード部103とを備えた空気入りタイヤである。本発明のタイヤ100としては、例えば、乗用車用タイヤやトラック・バス用タイヤを挙げることができる。
【0035】
図示するタイヤ100において、トレッド部101、サイドウォール部102およびビード部103は、一方のビード部103から他方のビード部103にわたってトロイド状に延びる一枚のカーカス層からなるカーカス104により補強されている。また、トレッド部101は、カーカス104のクラウン領域のタイヤ径方向外側に配設した少なくとも2層、図示する例では2層の第1ベルト層105aと第2ベルト層105bとからなるベルト105により補強されている。ここで、カーカス104のカーカス層は複数枚としてもよく、タイヤ周方向に対してほぼ直交する方向、例えば、70°以上90°以下の角度で延びる有機繊維コードを好適に用いることができる。
【0036】
本発明のタイヤ100においては、第1ベルト層105aおよび第2ベルト層105bに、上記本発明のエラストマー-金属コード複合体10を用いることができる。本発明のエラストマー-金属コード複合体10を用いることにより、第1ベルト層105aおよび第2ベルト層105bの厚みを薄くすることができ、タイヤの軽量化を図ることができる。また、本発明のエラストマー-金属コード複合体10をベルト用コードに用いることで、操縦安定性や耐腐食進展性、ベルト層の耐セパレーション性等を同時に向上させることができる。ベルト105におけるコード角度は、タイヤ周方向に対し30°以下とすることができる。
【0037】
本発明のタイヤ100は、本発明のエラストマー-金属コード複合体10を用いてなるものであればよく、それ以外の具体的なタイヤ構造については、特に制限されるものではない。また、本発明のエラストマー-金属コード複合体10の適用箇所はベルト105に限られるものではない。例えば、ベルト105のタイヤ径方向外側に配置されたベルト補強層や、その他の補強部材としても用いてもよい。なお、タイヤ100に充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0039】
(エラストマー-金属コード複合体の作製)
下記表中に示す条件に従う金属コードとしてのスチールコードを、上下両側から、下記に示すゴム組成物よりなる厚さ0.5mm程度のシートにより被覆して、各実施例および比較例のエラストマー-金属コード複合体を作製した。
【0040】
天然ゴム 100質量部
カーボンブラック*1 61質量部
亜鉛華 5質量部
老化防止剤*2 1質量部
加硫促進剤*3 1質量部
硫黄*4 5質量部
*1)N326、DBP吸油量 72ml/100g、N2SA 78m2/g
*2)N-フェニル-N’-1,3-ジメチルブチル-p-フェニレンジアミン(商品名:ノクラック6C、大内新興化学工業株式会社製)
*3)N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(商品名:ノクセラーDZ、大内新興化学工業株式会社製)
*4)不溶性硫黄(商品名:クリステックスHS OT-20、フレキシス社製)
【0041】
得られた実施例1および比較例1,2のエラストマー-金属コード複合体につき、エラストマー被覆率および操縦安定性について、評価を行った。なお、エラストマー被覆率は、以下の手順で算出した。得られた結果を下記の表中に併記する。
【0042】
<エラストマー被覆率(%)>
エラストマー被覆率は、スチールコードをゴム被覆し、160℃、10~15分の加硫条件で加硫した後、得られたゴム-スチールコード複合体からスチールコードを引き抜き、スチールコードを構成するスチールフィラメント同士の間隙に浸透したゴムにより被覆されている、スチールフィラメントの金属コード幅方向側面の長さを測定し、下記算出式に基づいて算出した値の平均とする。エラストマー被覆率の算出式は以下のとおりである。
エラストマー被覆率=(ゴム被覆長/試料長)×100(%)
なお、ゴム被覆長は引き抜いたスチールコードをコード長手方向に直交する方向から観察した際にスチールフィラメント表面がゴムで完全に被覆されている領域の長さである。数字が大きいほど接着力が高く、性能がよいことを示す。
【0043】
<操縦安定性>
実施例1および比較例1,2について、得られたゴム-スチールコード複合体を用いて作製した交錯ベルト層サンプルを用いて面内剛性の評価を行い、操縦安定性の指標とした。交錯ベルト層サンプルの下2点、上1点に冶具を配置し、上1点から押し込んだ時の荷重を面内剛性とし評価した。結果は比較例1を基準の△として、劣っている場合を×、同等である場合を△、優れている場合を○、非常に優れている場合を◎として評価した。
【0044】
【0045】
*10)比較のために、比較例1のコード断面積は、フィラメント線径Dに対し(D×2)2として算出し、フィラメント断面積は(D/2)2×π×2として算出した。
*11)各実施例および比較例のベルト層における金属コード間に存在するゴムの、金属コードの延在方向に直交する方向に測った厚みである。
【0046】
また、実施例1のエラストマー-金属コード複合体は、比較例1のエラストマー-金属コード複合体を基準としたとき、耐セパレーション性においても優れるものであった。一方、比較例2のエラストマー-金属コード複合体は、比較例1のエラストマー-金属コード複合体よりも耐セパレーション性に劣るものであった。
【0047】
上記表中に示すように、金属フィラメントの束の構成、および、金属コードの断面内に含まれる金属フィラメントの断面積の比率を所定に規定するものとしたことにより、操縦安定性や耐腐食進展性、ベルト層の耐セパレーション性等のタイヤの諸性能を改善し得るエラストマー-金属コード複合体およびタイヤが得られる。
【符号の説明】
【0048】
1 金属フィラメント
2 金属コード
3 エラストマー
10 エラストマー-金属コード複合体
100 タイヤ(空気入りタイヤ)
101 トレッド部
102 サイドウォール部
103 ビード部
104 カーカス
105 ベルト
105a 第1ベルト層
105b 第2ベルト層