(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電極板製造方法、電極板、および、非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240116BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240116BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240116BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20240116BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M10/0566
(21)【出願番号】P 2021107232
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107249
【氏名又は名称】中嶋 恭久
(72)【発明者】
【氏名】永橋 直也
(72)【発明者】
【氏名】若松 直樹
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-057431(JP,A)
【文献】特開2018-181781(JP,A)
【文献】国際公開第2018/186017(WO,A1)
【文献】特開2018-085182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、電極合材層と、を備えた非水電解液二次電池の電極板製造方法であって、
前記集電体上に前記電極合材層を形成する工程は、
電極活物質と導電材とバインダとを溶剤で湿潤させ顆粒状とした湿潤顆粒物を、圧延処理により前記集電体上に展延して第1層を形成する工程と、
前記集電体上に前記第1層を被覆するように、前記電極活物質と前記導電材と前記バインダと前記溶剤と分散剤とを含むペーストを塗工して第2層を形成する工程と、
を備える電極板製造方法。
【請求項2】
前記第1層の第1厚さ(T1)と前記第2層の厚さ(T2)との関係は、
(T1)≧(T2)
である
請求項1に記載の電極板製造方法。
【請求項3】
前記第1層の第1厚さ(T1)と前記第2層の厚さ(T2)との比が、5:5以上、9.5:0.5以下
である
請求項1または2に記載の電極板製造方法。
【請求項4】
前記集電体上における、前記第1層の外縁と前記第2層の外縁との間の距離(D)は、0μm以上、7μm以下である
請求項1ないし3のうち何れか1項に記載の電極板製造方法。
【請求項5】
前記第1層に含まれる前記電極活物質の比表面積(Sa1)と前記第2層に含まれる前記電極活物質(Sa2)の比表面積との関係は、
(Sa1)≧(Sa2)
である
請求項1ないし4のうち何れか1項に記載の電極板製造方法。
【請求項6】
前記第1層に含まれる前記導電材の量(V1)および比表面積(Sc1)と前記第2層に含まれる前記導電材の量(V2)および比表面積(Sc2)との関係は、
(V1)≧(V2)、かつ、(Sc1)≧(Sc2)
である
請求項1ないし5のうち何れか1項に記載の電極板製造方法。
【請求項7】
集電体と、電極合材層と、を備えた非水電解液二次電池の電極板であって、
前記集電体上に設けられる前記電極合材層は、
電極活物質と導電材とバインダと溶剤とを含み、
かつ分散剤を含まない湿潤粉体のシートからなり、前記集電体上に設けられる第1層と、
前記第1層を被覆した、前記電極活物質と前記導電材と前記バインダと前記溶剤と分散剤とを含む第2層と、を備え、
前記第1層における前記集電体の長手方向に延びる外縁は、前記長手方向に直交する幅方向のがたつきを備え、前記がたつきを構成する凹部の底点と凸部の頂点との間の長さ(L)が2mm以上である
非水電解液二次電池の電極板。
【請求項8】
正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられたセパレータと、非水電解液と、を備える非水電解液二次電池であって、
前記正極板および前記負極板の少なくとも1つの電極板は、集電体上に、正極合材層および負極合材層の少なくとも1つの電極合材層を備え、
前記電極合材層は、
電極活物質と導電材とバインダと溶剤とを含み、
かつ分散剤を含まない湿潤粉体のシートからなり、前記集電体上に設けられる第1層と、
前記第1層を被覆した、前記電極活物質と前記導電材と前記バインダと前記溶剤と分散剤とを含む第2層と、を備え、
前記第1層における前記集電体の長手方向に延びる外縁は、前記長手方向に直交する幅方向のがたつきを備え、前記がたつきを構成する凹部の底点と凸部の頂点との間の長さ(L)が2mm以上である非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極板の製造方法、電極板、および、非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池の1つである例えばリチウムイオン二次電池において、正極板は、集電体上に、正極合材層が設けられている。正極合材層は、正極活物質、バインダ、導電材及び分散剤を含んだ正極合材ペーストを、ダイコータ等を用いて集電体上に塗工することによって設けられている。このような正極板は、分散剤を含むことで、導電材が分散されることで、電子伝導性が向上し、電池内の直流抵抗成分を良化できる。また、量産性を向上させることができる。一方で、分散剤は、正極活物質の表面を被覆するため、電極表面で生じる電子移動に伴うLi+/Li脱離挿入反応を妨げる。結果として、電池全体としての反応抵抗が増加してしまうおそれがある。
【0003】
特許文献1には、正極板の製造方法が記載されている。特許文献1では、正極活物質およびバインダを少量の溶媒で湿潤させた湿潤粉体のシートを成形し、次いで、シートを集電体に配置して乾燥させ、次いで、荷重を加えて集電体にシートを定着させて正極板を製造する方法が記載されている。特許文献1の製造方法は、溶剤を加え、分散剤を使用しないことで、分散剤による電子移動に伴うLi+/Li脱離挿入反応の妨げを抑えることができる。また、導電材が均一に分散される。その結果、電子伝導性が向上した正極板を製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、上記特許文献1の製造方法は、湿潤粉体のシートを集電体に対して定着させる工程で、一対のロールプレスなどによって、湿潤粉体のシートを集電体に対して定着させるための荷重を加える。このため、製膜された正極合材層の表面形状が不均一となってしまうことがある。すなわち、正極合材層の寸法安定性が悪く、表面形状にばらつきが生じやすい。この結果、リチウムイオン二次電池としての性能も安定しにくくなる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電極板製造方法は、集電体と、電極合材層と、を備えた非水電解液二次電池の電極板製造方法であって、前記集電体上に前記電極合材層を形成する工程は、電極活物質と導電材とバインダとを溶剤で湿潤させ顆粒状とした湿潤顆粒物を、圧延処理により前記集電体上に展延して第1層を形成する工程と、前記集電体上に前記第1層を被覆するように、前記電極活物質と前記導電材と前記バインダと前記溶剤と分散剤とを含むペーストを塗工して第2層を形成する工程と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、電極合材層を構成する第1層は、分散剤を使用することなく、導電材を均一に分散することができるので、電池反応性が向上する。一方で、第1層は、その表面形状が不均一となる。第2層は、第1層を被覆することで、電極合材層の表面を平滑にする。これにより、電極合材層は、第1層上に第2層がコーティングされるので、表面形状のばらつきが抑えられる。したがって、非水電解液二次電池の性能を安定させることができる。また、電極合材層は、分散剤の分量を低減しつつ、表面粗さや外縁の形状を均一にすることができるので、サイクル耐久、ハイレート特性などの電池性能を向上させることができる。
【0008】
上記電極板製造方法において、前記第1層の第1厚さ(T1)と前記第2層の厚さ(T2)との関係は、(T1)≧(T2)であることが好ましい。また、前記第1層の第1厚さ(T1)と第2層12bの厚さ(T2)との比が、5:5以上、9.5:0.5以下であることが好ましい。上記構成によれば、これらの条件を満たすことで、電池反応が妨げになる電極合材層における分散剤の分量を低減することができる。
【0009】
上記電極板製造方法において、前記集電体上における、前記第1層の外縁と前記第2層の外縁との間の距離(D)は、0μm以上、7μm以下であることが好ましい。上記構成によれば、第1層を第2層で被覆することで、電極合材層の表面形状を均一にすることができる。
【0010】
上記電極板製造方法において、前記第1層に含まれる前記電極活物質の比表面積(Sa1)と前記第2層に含まれる前記電極活物質(Sa2)の比表面積との関係は、(Sa1)≧(Sa2)であることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、電池反応は電極合材層の表面の方が内部よりも高い特性を有するところ、電極合材層の内部を構成する第1層での反応性を高めることで、電極合材層の表面を構成する第2層と第1層との反応速度差を低減できる。これにより、電極合材層全体での反応分布を均一化できる。
【0012】
上記電極板製造方法において、前記第1層に含まれる前記導電材の量(V1)および比表面積(Sc1)と前記第2層に含まれる前記導電材の量(V2)および比表面積(Sc2)との関係は、(V1)≧(V2)、かつ、(Sc1)≧(Sc2)であることが好ましい。上記構成によれば、第1層での導電性が高まるため、相対的に第2層に対する反応性が高まることになる。これにより、電極合材層全体での反応分布を均一化できる。
【0013】
上記課題を解決する非水電解液二次電池の電極板は、集電体と、電極合材層と、を備えた非水電解液二次電池の電極板であって、前記集電体上に設けられる前記電極合材層は、電極活物質と導電材とバインダと溶剤とを含み、かつ分散剤を含まない湿潤粉体のシートからなり、前記集電体上に設けられる第1層と、前記第1層を被覆した、前記電極活物質と前記導電材と前記バインダと前記溶剤と分散剤とを含む第2層と、を備える。そして、前記第1層における前記集電体の長手方向に延びる外縁は、前記長手方向に直交する幅方向のがたつきを備え、前記がたつきを構成する凹部の底点と凸部の頂点との間の長さ(L)が2mm以上である。
【0014】
上記課題を解決する非水電解液二次電池は、正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に設けられたセパレータと、非水電解液と、を備える非水電解液二次電池であって、前記正極板および前記負極板の少なくとも1つの電極板は、集電体上に、正極合材層および負極合材層の少なくとも1つの電極合材層を備え、前記電極合材層は、電極活物質と導電材とバインダと溶剤とを含み、かつ分散剤を含まない湿潤粉体のシートからなり、前記集電体上に設けられる第1層と、前記第1層を被覆した、前記電極活物質と前記導電材と前記バインダと前記溶剤と分散剤とを含む第2層と、を備える。そして、前記第1層における前記集電体の長手方向に延びる外縁は、前記長手方向に直交する幅方向のがたつきを備え、前記がたつきを構成する凹部の底点と凸部の頂点との間の長さ(L)が2mm以上である。
【0015】
上記電極板および非水電解液二次電池の構成によれば、がたつきあっても、第2層によって、第1層を被覆することで、電極合材層の表面を平滑にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非水電解液二次電池の性能を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図3】
図1の正極板を製造する製造装置を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明が適用された、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池の正極板、および、正極板製造方法について、図面を参照して説明する。
<リチウムイオン二次電池>
リチウムイオン二次電池は、負極にはリチウムの挿入脱離が可能なカーボンやグラファイトが用いられ、正極には各種リチウム複合酸化物が用いられる。充電時には正極の結晶の中にあったリチウム原子がリチウムイオンとして電解液中に放出され、同時に電解液中のリチウムイオンが負極の結晶の中に侵入し、放電時には充電時と逆方向のリチウムイオンの動きが生じる。
【0019】
リチウムイオン二次電池は、例えばセル電池として構成され、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケースと、電池ケースを封止する蓋体を備えている。電池ケースの内部には、巻回した極板群が収容され、さらに非水電解液が注入される。極板群は、正極板と、負極板と、正極板と負極板との間に介在されるセパレータとを備えている。
【0020】
<正極板>
図1および
図2に示すように、電極板としての正極板は、正極集電体11の表面に電極活物質としての正極合材層12が形成されている。電極合材層としての正極合材層12は、正極集電体11上に設けられる第1層12aと、第1層12aを被覆する第2層12bとを備えている。第1層12aは、正極活物質と導電材とバインダとを溶剤で湿潤させ顆粒状とした湿潤顆粒物を圧延処理により正極集電体11上に展延して構成されている。第2層12bは、正極活物質と導電材とバインダと溶剤と分散剤とを含むペーストを塗工して構成されている。第1層12aは、分散剤を含まず、第2層12bは、分散剤を含んでいる点で、両者は相違している。
【0021】
正極集電体11には、アルミニウム、アルミニウムを主成分とする合金からなる薄膜などを用いることができる。
正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)などのリチウム複合金属酸化物を用いることができる。また、LiCoO2、LiMn2O4、LiNiO2を任意の割合で混合した材料を用いることもできる。
【0022】
なお、第1層12aで使用する正極活物質の粒子は、第2層12bで使用する正極活物質粒子よりも、粉砕などによって相対的に粒子の細かい正極活物質粒子を使用してもよい。これにより、第1層12aに含まれる正極活物質の比表面積(Sa1)と第2層12bに含まれる正極活物質(Sa2)の比表面積との関係が、(Sa1)≧(Sa2)となるようにする。
【0023】
導電材は、天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを用いることができる。導電材は、これらを、単独で用いてもよいし、複数組み合わせて用いることもできる。
【0024】
ここでは、導電材として、カーボンナノチューブを用いている。カーボンナノチューブは、単層・複層、端部開放・閉鎖などの形状は問わない。カーボンナノチューブは、非常に高い導電性、熱伝導性・耐熱性を有している。したがって、バインダに用いられる樹脂が通常は電気を伝導しない素材であっても、高い導電性を付加することができる。すなわち、カーボンナノチューブにより、正極集電体11と正極活物質と電解液との間の導通が良好となり、正極板の抵抗を低く抑えることができる。
【0025】
なお、第1層12aで使用する導電材は、第2層12bで使用する導電材よりも、相対的に粒子の細かい導電材を使用する。また、第1層12aで使用する導電材の分量は、第2層12bで使用する導電材の分量よりも多くされる。これにより、第1層12aに含まれる導電材の量(V1)および比表面積(Sc1)と第2層12bに含まれる導電材の量(V2)および比表面積(Sc2)との関係が、(V1)≧(V2)、かつ、(Sc1)≧(Sc2)となるようにする。
【0026】
バインダは、例えば、リチウムイオン二次電池で一般的に用いられるものが用いられる。具体的に、バインダは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAA-Na)などを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。ここでは、特にポリフッ化ビニリデン(PVdF)が好ましい。
【0027】
溶媒としては、例えばNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液、水などを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
第2層12bに用いられる分散剤は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレンポリアミン、ベンゾイミダゾールなどを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。溶剤は、第1層12aの形成時、第1層12aを形成するだけの材料を湿潤顆粒物とするためのものであるが、製造後においても若干程度、揮発せず残留する。
【0028】
第1層12aと第2層12bとは、第1層12aの第1厚さ(T1)と第2層12bの厚さ(T2)との関係が何れの位置でも(T1)≧(T2)となるように形成される。または、第1層12aの第1厚さ(T1)と第2層12bの厚さ(T2)との比が、5:5~9.5:0.5となるように形成される。第2層12bは、第1層12aに対して薄いほど好ましい。
【0029】
さらに、第1層12aが第2層12bを被覆するように、第2層12bの外縁は、第1層12aの外縁の外側に位置し、第1層12aの外縁と第2層12bの外縁との間の距離(D)は、外縁の何れの位置でも0μm以上、7μm以下とされる。すなわち、第1層12aの正極集電体11の長手方向に延びる外縁は、直線形状ではなく、不均一な波形状のようながたつきを有している。がたつきは、一例として、当該がたつきを構成する凹部の底点13と凸部の頂点14との間の長さ(L)が2mm以上である。また、長さ(L)は、4mm以下である。第2層12bは、どの部分でも第1層12aを被覆するようにコーティングされる。
【0030】
なお、第1層12aと第2層12bとを合わせた正極合材層12の全体の厚みは、一例として、50μm程度である。
<負極板>
負極板は、負極集電体の表面に負極合材層が形成されている。
【0031】
負極集電体は、例えば銅やニッケルあるいはそれらの合金からなる薄膜を用いることができる。
負極合材層は、負極活物質と、バインダとを備えている。負極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、カーボンナノチューブなどの炭素材料、チタン酸リチウム(LTO)などの酸化物材料、SixCなどのSi系合金材料などを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0032】
バインダは、アクリルゴム、変性アクリルゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴムなどを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0033】
増粘剤は、リチウム塩、ナトリウム塩を有し、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)などを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0034】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)などを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiIなどを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0035】
<セパレータ>
セパレータは、正極板及び負極板の間の導通を防ぐ機能を有するポリオレフィン系などの多孔ポリマー膜、セルロース系などの不織布などである。また、セパレータとしては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜などの多孔性ポリマー膜、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜などを用いることができる。また、これらの材料を任意の割合で組み合わせて用いることもできる。
【0036】
<正極板の製造方法>
図3に示すように、正極板の製造装置20は、第1層12aを形成するための膨潤粉体製膜ユニット21と、第2層12bを形成するためのダイコータユニット31とを備えている。
【0037】
膨潤粉体製膜ユニット21は、材料投入部22と、第1ロール23と、第2ロール24と、第3ロール25とを備えている。第1ロール23と第2ロール24とは対をなし、第1ロール23と第2ロール24との間には、材料投入部22から材料が投入される。材料投入部22には、正極合材層12を構成する第1層12aの材料が供給される。具体的には、正極活物質、導電材、バインダ、溶剤など供給され撹拌混合される。そして、溶剤によって湿潤され顆粒状となった湿潤顆粒物22aが第1ロール23と第2ロール24との間に供給される。
【0038】
一例として、材料投入部22には、正極活物質、導電材、バインダ、および、溶剤を、例えば78:1:1:20の割合で混合し、湿潤顆粒物の固形分率が70質量%以上、90質量%以下となるように供給される。
【0039】
第2ロール24と第3ロール25とも対をなし、第1ロール23と第2ロール24との間で圧延処理により展延された第1層シート12xが供給される。第3ロール25は、正極集電体11となる集電体シート11xが巻回され、集電体シート11xを第2ロール24と第3ロール25との間に搬送する。第1層シート12xは、第2ロール24と第3ロール25とによるロールプレスによって、圧延処理され、集電体シート11x上に展延される。そして、第2ロール24と第3ロール25との間において、集電体シート11xには、第1層シート12xが配置される。
【0040】
なお、例えば、集電体シート11xの厚さは、5μm以上、30μm以下、好ましくは8μm以上、20μm以下である。また、第1層シート12xは、平均厚み(片面当たり)が10μm以上、200μm以下、好ましくは10μm以上、100μm以下である。さらに、第1層12aの正極集電体11の長手方向に延びる外縁における幅方向のがたつきは、凹部の底点13と凸部の頂点14との間の長さ(L)が2mm以上となることが多い。また、長さ(L)が、4mm以下となることが多い。
【0041】
第1層シート12xにおいて含まれるカーボンナノチューブは、製造工程での圧延処理などによって、機械的な力が加えられることで、正極活物質の表面に直接接着される。カーボンナノチューブ同士の接着よりも圧延処理などによる機械的なせん断力が大きく、さらに正極活物質との接着力が最も大きいことで、カーボンナノチューブは、均一に分散された状態で、正極活物質の表面に接着されることになる。
【0042】
ダイコータユニット31は、集電体シート11x上に、第1層シート12xを被覆するように第2層シート12yを形成する。ダイコータユニット31は、ダイ32と、ノズル33とを備える。第2層12bを構成するペースト33xは、タンクなどの供給部より供給配管を通じてノズル33に供給される。ノズル33は、集電体シート11xに対して対向する先端部に吐出口を備えている。ノズル33は、吐出口が集電体シート11xの搬送方向に対して直交する幅方向において、第2層シート12yの幅が第1層シート12xの幅よりも広くなるように区画されている。
【0043】
ダイコータユニット31は、集電体シート11x上に、第1層シート12xを被覆する第2層シート12yを形成する。第2層シート12yを構成するペースト33xは、正極活物質、導電材、バインダ、分散剤、および、溶剤を、例えば77:1:1:1:20の割合で混合する。第2層シート12yは、例えば平均厚み(片面当たり)が第1層シート12xの平均厚み以下であり、10μm以上、40μm以下、好ましくは10μm以上、20μm以下である。また、第2層シート12yは、第1層シート12xよりも薄膜である。
【0044】
なお、第1層シート12xで使用する正極活物質の粒子と第2層シート12yで使用する正極活物質の粒子とを比較すると、第1層シート12xで使用する正極活物質の粒子は、第2層シート12yで使用する正極活物質の粒子よりも、粉砕などによって相対的に細かい正極活物質の粒子が使用されてもよい。これにより、電極厚み方向の反応速度が均一化するため好ましい。
【0045】
また、第1層12aに含まれる導電材の量(V1)は、膨潤粉体製膜ユニット21の材料投入部22に投入される量で設定され、第2層12bに含まれる導電材の量(V2)は、ダイコータユニット31に投入される量で設定される。そして、各導電材は、第1層12aに含まれる導電材の量(V1)と第2層12bに含まれる導電材の量(V2)との関係が(V1)≧(V2)となるように供給される。また、材料投入部22に供給される導電材は、例えばダイコータユニット31に供給される導電材よりも相対的に細かい導電材が使用される。
【0046】
集電体シート11x上に第1層シート12xを被覆するように第2層シート12yを形成した積層シートは、熱風方式、赤外線方式などを用いた乾燥工程で乾燥される。これにより、第1層シート12xおよび第2層シート12yに含まれる溶剤が揮発されて正極合材層12となる。この後、積層シートは、ロールプレスなどによって表面が平滑となるように成形される。
【0047】
第2層シート12yにおいて含まれるカーボンナノチューブは、分散剤を用いた機械処理により事前に解繊されている。分散剤は、ファンデルワールス力によって、カーボンナノチューブ同士が再び凝集するのを抑制し、カーボンナノチューブを液中で安定化させる。集電体シート11x上に正極合材層12が形成された正極シートは、電池の仕様に合わせて、適宜裁断して正極板として用いられる。
【0048】
<実施形態の効果>
以上のような正極板の製造方法によれば、以下のような正極板を製造することができる。
【0049】
(1)正極合材層12を構成する第1層12aは、分散剤を使用することなく、導電材を均一に分散することができるので、分散剤によりLi+/Li脱離挿入反応が妨げられにくくなり、その結果、電池反応性が向上する。ただし、第1層12aは、膨潤粉体製膜ユニット21により製造されることで、その表面形状が不均一となる。第2層12bは、第1層12aを被覆することで、正極合材層12の表面を平滑にする。これにより、正極合材層12は、膨潤粉体製膜ユニット21で形成された第1層12a上に第2層12bがコーティングされているので、表面形状のばらつきが抑えられる。したがって、リチウムイオン二次電池の性能を安定させることができる。
【0050】
(2)正極合材層12は、分散剤の分量を低減しつつ、表面粗さや外縁の形状を均一にすることができるので、サイクル耐久、ハイレート特性などの電池性能の悪化を抑制できる。
【0051】
(3)第1層12aの第1厚さ(T1)と第2層12bの厚さ(T2)との関係が、(T1)≧(T2)となる正極板を製造することができる(
図2参照)。または、第1層12aの第1厚さ(T1)と第2層12bの厚さ(T2)との比が、5:5~9.5:0.5である正極板を製造することができる。第2層12bは薄いほどよく、これにより、正極合材層12の全体における分散剤の分量を低減できる。すなわち、分散剤は、第1層12aを被覆する第2層12bに含まれるだけとなる。これにより、Li
+/Li脱離挿入反応が妨げられにくくなる。
【0052】
(4)正極集電体11上における、第1層12aの外縁と第2層12bの外縁との間の距離(D)が0μm以上、7μm以下となる正極板を製造することができる(
図1参照)。すなわち、膨潤粉体製膜ユニット21により製造されることで、第1層12aの外縁は、直線形状ではなく、不均一な波形状のようながたつきを有している。一例として、がたつきを構成する凹部の底点13と凸部の頂点14との間の長さ(L)が2mm以上である。また、4mm以下である。第2層12bは、第1層12aの外縁形状が不均一であっても、どの部分でも第1層12aを被覆するようにコーティングされる。これにより、正極合材層12の表面形状を均一にすることができる。これにより、反応分布が均一化されるので、電池を長寿命化できる。
【0053】
(5)リチウムイオン二次電池の電池反応は、正極合材層12の表面の方が内部よりも反応性が高い特徴を有する。
本実施形態では、第1層12aに含まれる正極活物質の比表面積(Sa1)と第2層12bに含まれる正極活物質(Sa2)の比表面積との関係が、(Sa1)≧(Sa2)である正極板を製造することができる。比表面積は、一例として、ここでは窒素吸着法で測定された窒素吸着量をBET法で解析して算出する。正極合材層12は、比表面積の相対的に大きい正極活物質を第1層12aに使用することで、正極合材層12の第1層12aでの反応性を向上させることができる。これにより、第1層12aと第2層12bとの反応速度差を低減でき、正極合材層12における全体での反応分布を均一化できる。この結果、電池を長寿命化できる。
【0054】
(6)第1層12aに含まれる導電材の量(V1)および比表面積(Sc1)と第2層12bに含まれる導電材の量(V2)および比表面積(Sc2)との関係は、(V1)≧(V2)、かつ、(Sc1)≧(Sc2)である。これによれば、正極合材層12の内部である第1層12aでの導電性が高まるため、相対的に表面を構成する第2層12bに対する反応性が高まる。これにより、正極合材層12の全体での反応分布を均一化できる。この結果、電池を長寿命化できる。
【0055】
なお、上記実施形態は以下の形態にて実施することもできる。
・第1層12aにおける正極集電体11の長手方向に延びる外縁が有する幅方向のがたつきは、凹部の底点13と凸部の頂点14との間の長さ(L)が2mm以上で4mm以下の箇所が多い。凹部の底点13と凸部の頂点14との間の長さ(L)は、2mm以上の部分が存在するのであれば、2mm未満の部分が存在していてもよい。また、長さ(L)が4mmより大きい部分が存在していてもよい。そして、このように構成された第1層12aの全体が第2層12bによって被覆されることになる。
【0056】
・第1層12aに含まれる導電材の量(V1)と第2層12bに含まれる導電材の量(V2)との関係は、(V1)≧(V2)の関係を有していなくてもよい。また、第1層12aに含まれる導電材の比表面積(Sc1)と第2層12bに含まれる導電材の比表面積(Sc2)との関係は、(Sc1)≧(Sc2)の関係を有していなくてもよい。すなわち、第1層12aが第2層12bによって被覆されて表面形状のばらつきが抑えられることで、必要とされる電池性能を実現できるのであれば、いずれかの条件を満たしていなくてもよいし、両方の条件を満たしていなくてもよい。
【0057】
・第1層12aに含まれる正極活物質の比表面積(Sa1)と第2層12bに含まれる正極活物質(Sa2)の比表面積との関係は、(Sa1)≧(Sa2)の関係を有していなくてもよい。すなわち、第1層12aが第2層12bによって被覆されて表面形状のばらつきが抑えられることで、必要とされる電池性能を実現できるのであれば、当該条件を満たしていなくてもよい。
【0058】
・正極集電体11上における、第1層12aの外縁と第2層12bの外縁との間の距離(D)は、7μmよりも大きくてもよい。
また、第1層12aが第2層12bによって被覆されて表面形状のばらつきが抑えられることで、必要とされる電池性能を実現できるのであれば、第1層12aの外縁が第2層12bの外縁よりはみ出している部分が一部にあってもよい。
【0059】
・第1層12aの第1厚さ(T1)と第2層12bの厚さ(T2)との比は、5:5以上、9.5:0.5以下の範囲を外れていてもよい。また、第1層12aの第1厚さ(T1)と第2層12bの厚さ(T2)との関係は、(T1)≧(T2)を満たさない箇所を有していてもよい。一例として、必要とされる電池性能を実現できるのであれば、部分的に、第1層12aの第1厚さ(T1)と第2層12bの厚さ(T2)との関係が、これらの条件を外れていてもよい。
【0060】
・本実施形態の極板群は、捲回タイプを例示したが、積層タイプの極板群としてもよい。また、各原材料は例示であり、これらに限定されるものではない。
・リチウムイオン二次電池は、板状のケースを備えるが、円筒形など、その形状は限定されない。
【0061】
・リチウムイオン二次電池において、負極板における負極合材層の形成に適用してもよい。
・非水電解液二次電池の正極板や負極板の製造であれば、リチウムイオン二次電池の正極板や負極板の製造に限定されるものではない。例えば、ニッケル水素二次電池の正極板や負極板の製造などに適用してもよい。
【0062】
・以上のような非水電解液二次電池は、電気自動車やハイブリッド自動車用の電源として搭載することもできるし、小型情報処理装置などの小型電子機器の電源としても使用することができる。
【符号の説明】
【0063】
11…正極集電体
11x…集電体シート
12…正極合材層
12a…第1層
12b…第2層
12x…第1層シート
12y…第2層シート
13…底点
14…頂点
20…製造装置
21…膨潤粉体製膜ユニット
22…材料投入部
22a…湿潤顆粒物
23…第1ロール
24…第2ロール
25…第3ロール
31…ダイコータユニット
32…ダイ
33…ノズル
33x…ペースト