(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ハイリスクヒトパピローマウイルス感染症の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 33/04 20060101AFI20240116BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240116BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240116BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240116BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240116BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240116BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240116BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240116BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240116BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20240116BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20240116BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20240116BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61K33/04
A61K9/10
A61K9/107
A61K9/14
A61K9/48
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/42
A61K47/46
A61P15/00
A61P15/02
A61P31/20
(21)【出願番号】P 2021510859
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 EP2019072926
(87)【国際公開番号】W WO2020043762
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-01
(32)【優先日】2018-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513208135
【氏名又は名称】セロ メディカル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】SELO MEDICAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】フィッツ、 ノルベルト
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-505708(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0323328(US,A1)
【文献】特表2004-518758(JP,A)
【文献】Modern Pathology,2006年,Vol.19,p.384-391
【文献】The American Journal of Surgical Pathology,2001年,Vol.25, No.7,p.884-891
【文献】Gynecologic Oncology,2011年,Vol.122,p.303-306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58から選択される少なくとも1つのヒトパピローマウイルス(HPV)による女性患者の内部生殖器官の感染の予防または治療に使用するための、
亜セレン酸含有化合物およびクエン酸、酢酸、リンゴ酸、炭酸、硫酸、硝酸、塩酸、
酒石酸、シュウ酸、フマル酸およびそれらの混合物から選択される薬学的に許容される酸を含有する医薬組成物であって、膣内に適用される医薬組成物。
【請求項2】
患者が少なくとも内部生殖器官の領域においてp16陽性、または、p16陽性およびKi-67陽性であり、患者が該領域においてp16陰性、または、p16陰性およびKi-67陰性になるまで適用される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
全セレン含量が、組成物5ml当たり0.01mg~1.25mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
全セレン含量が、組成物5ml当たり0.025mg~1.00mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
全セレン含量が、組成物5ml当たり0.05mg~0.75mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
全セレン含量が、組成物5ml当たり0.10mg~0.50mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
全セレン含量が、組成物5ml当たり0.15mg~0.40mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項8】
全セレン含量が、組成物5ml当たり0.20mg~0.30mgである請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項9】
全セレン用量が、適用当たり0.01mg~1.25mgである請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
全セレン用量が、適用当たり0.025mg~1.00mgである請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
全セレン用量が、適用当たり0.05mg~0.75mgである請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
全セレン用量が、適用当たり0.10mg~0.50mgである請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
全セレン用量が、適用当たり0.15mg~0.40mgである請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
全セレン用量が、適用当たり0.20mg~0.30mgである請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
組成物が1日に少なくとも1回適用され、任意選択で、該適用は患者の月経中に中止される、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
組成物が少なくとも30日間適用され、任意選択で、該適用は患者の月経中に中止される、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
組成物が少なくとも60日間適用され、任意選択で、該適用は患者の月経中に中止される、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
組成物が少なくとも90日間適用され、任意選択で、該適用は患者の月経中に中止される、請求項1~14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記組成物が1日1回適用され、任意選択で、該適用は、患者の月経中に中止される、請求項1~18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記適用が患者の月経中に中止される、請求項1~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記組成物が、前記内部生殖器の感染がもはや検出されなくなるまで適用される、請求項1~20のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記組成物が、ゲル、懸濁液、エマルジョン、ゼラチンカプセル若しくはゼラチンを含まないカプセルなどの坐剤、噴霧または粉末の形態で存在する、請求項1~21のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記組成物が、二酸化ケイ素をさらに含有する、請求項1~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記組成物が、高分散二酸化ケイ素をさらに含有する、請求項1~22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
7.0未満のpHを有する、請求項1~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
5.0未満のpHを有する、請求項1~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
4.0~2.5のpHを有する、請求項1~24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
薬学的に許容される酸がクエン酸である請求項1~27のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記亜セレン酸塩含有化合物が、亜セレン酸ナトリウムである請求項1~28のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
内部生殖器官が患者の膣または子宮頸部である請求項1~29のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項31】
患者がHPV感染以外の癌および/または慢性ウイルス疾患を有さず、および/または患者が免疫抑制されていない、請求項1~30のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膣分泌物中のヒトパピローマウイルス(HPV)、p16およびKi-67のような危険因子を低下させること、ならびに膣または子宮頸部のような内部生殖器官の高リスクHPV感染の予防または治療に関する。
【背景技術】
【0002】
パピローマウイルスは非常に多様である(De Villiers, E.M.ら(2004)、パピローマウイルスの分類、Virology, 324(1), 17-27)。HPVには100種類以上の型があり、異なる属および種のパピローマウイルス内に散在しており、そのゲノムにおける配列の同一性はしばしば55%未満である。このうち、「高リスク」(すなわち、発癌の潜在的因子)であるのは約10%~15%にすぎず、その他は良性であり、例えばいぼ(疣贅)を引き起こす。
【0003】
高リスク型HPV感染に対する現在の標準治療はワクチン接種である。例えば、Gardasil(登録商標)(silgard)はHPV6、HPV11、HPV16およびHPV18を標的とする広く使用されている組換えHPVワクチンであり、後者はハイリスクであると考えられる。しかしながら、このワクチンは予防にのみ適しており、したがって、ワクチン接種前にこれらのHPV型の1つに既に感染している可能性が高い高齢者では効果がない可能性がある。全身療法に関しては、局所療法に関連する副作用のリスクよりも、ワクチン接種による副作用のリスクの方が高い傾向にある。さらに、一般市民の一部が現在一般のワクチン接種および特にHPVワクチン接種に向けて極めて批判的であるため、ワクチン接種コンプライアンスの達成は困難である。
【発明の概要】
【0004】
したがって、本発明の目的はHPV16またはHPV18などの高リスクHPVによる感染の改善された治療、特に、これらのHPV型のうちの1つによる感染を既に有する患者において有効であり、かつ/または局所的に適用することができる治療を提供することである。
【0005】
本発明は、セレン酸塩含有化合物並びにクエン酸、酢酸、リンゴ酸、炭酸、硫酸、硝酸、塩酸、果実酸(例えば、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、シュウ酸およびフマル酸、特にクエン酸)およびそれらの混合物から選択される薬学的に許容される酸を含有する医薬組成物に関する。組成物は女性患者の膣分泌物中のHPV、p16および/またはKi-67のような危険因子を低下させるための使用、および/またはHpv16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58から選択される少なくとも1つのHPVを有する女性患者の内部生殖器官の感染の(追加の)予防または治療における使用のためであり、特にHPVがHPV16および/またはHPV18である。組成物は、膣内で患者に適用される。
【0006】
本発明の過程において、驚くべきことに、本医薬組成物はこれらの2つの高リスクHPV型が進化的に互いに非常に離れているという事実にもかかわらず、膣内に適用される場合、HPV16およびHPV18に対して有効であることが見出された(de Villiersら、
図1を参照のこと)。このことは比較臨床試験によって確認された(実施例2参照)。
【0007】
本医薬組成物は、他の治療適応症に対する使用のために以前に開示されているが、これらの開示は本発明を予想も示唆もしていない。
【0008】
US 2003/0180387 A1は、セレン含有水溶液の抗酸化能を増加させるための方法に関する。セレン、すなわち亜セレン酸塩の薬学的に投与可能な形態または食品適合性の形態、ならびにクエン酸、酢酸、リンゴ酸、炭酸、種々の果実酸およびそれらの混合物から選択される薬学的に受容可能な酸または食品適合性の酸を含む調製物が、多くの他の適応症の中でもとりわけ、単純ヘルペス感染を予防または処置するために使用され得ることが開示される。しかしながら、この文献は、膣内適用も、標的器官が女性患者の内部生殖器官であることも、パピローマウイルスに対する組成物の使用も開示していない。
【0009】
US 2005/0048134 A1は、局所投与または口腔投与される亜セレン酸塩含有化合物の使用に関する。乳頭腫ウイルス、特に生殖器領域の感染症の治療または予防は、多くの適応症の中の一つとして開示されている。しかしながら、この文献は、膣内適用も、標的器官が女性患者の内部生殖器官であることも、上記の高リスクHPV型に対する組成物の使用も開示していない。
【0010】
US 2013/0323328 A1は、頸部異形成または癌腫を治療するための、亜セレン酸塩または亜セレン酸塩含有化合物を含有する医薬製剤に関する。しかしながら、この文献は、感染症全般の予防または治療、および特に上述の高リスク型HPVに関するものについては言及していない。この文献は「HPV感染の陽性検出がしばしばその後の治療決定に影響を及ぼさない」と記載され、開示は「特定の病原体に対して向けられる戦略を表しているのではなく、むしろ、指向的な方法で子宮頸部の炎症、異形成および/または癌腫の治療を目的としている、すなわち、潜在的な病原体が疾患の症状を誘発した後に(長い間)採用されてもよい」と記載されているので、本発明から離れたことを教えている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
HPV感染はHPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58のゲノム配列が知られているので、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または子宮頸部塗抹標本などの生検試料の転写媒介増幅(TMA)アッセイ、または当技術分野で公知の他の方法によって特異的に検出することができる。これらのHPV型のゲノム配列は例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)GenBankにおいて、以下の受託番号で公開されている: K02718.1(HPV16)、X05015.1(HPV18)、J04353.1(HPV31)、M12732.1(HPV33)およびD90400.1(HPV58)。
【0012】
p16(p16INK4aまたはサイクリン依存性キナーゼ阻害剤2Aとしても知られる)は、ヒトにおいてCDKN2A遺伝子によってコードされる蛋白質である。p16の過剰発現は、癌に関連する特定のトランスフォーミング高リスクHPV感染のバイオマーカーである。Ki-67(KI-67またはMKI67としても知られる)は、ヒトのMKI67遺伝子にコードされているタンパク質である。Ki-67は、細胞増殖のためのバイオマーカーである。これらのバイオマーカーの両方は例えば、市販の承認された細胞学的アッセイであるCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche、スイス)を用いて試験され得る(例えば、Ravarino、A.ら(2012)を参照のこと)。子宮頚部腺病変の細胞診断ツールとしてのCINtec PLUS免疫細胞化学。American Journal of Clinical Pathology、138(5)、652-656)。
【0013】
本発明の過程において、本発明の治療は、HPV16、HPV18、HPV31、HPV33またはHPV58がバイオマーカーp16およびKi-67と関連している場合、それらの感染に対して特に有効であることが見出された。従って、本発明の好ましい実施形態において、患者は、少なくとも内部生殖器官の領域において、p16陽性、好ましくはp16陽性およびKi-67陽性である。好ましくは、本医薬組成物が患者が前記領域においてp16陰性、好ましくはp16陰性およびKi-67陰性になるまで適用される。
【0014】
当業者は、内部生殖器官の領域がp16陽性であるかどうかを、例えば、その領域において生検を行い、そして当該分野で公知のp16分析(例えば、免疫細胞化学分析)を使用することによって、どのように評価するかを知っている。好ましくは、内部生殖器官の領域から得られる生検試料が生検試料中の健康な隣接細胞などの健康な対照組織と比較して、少なくとも1つの細胞、好ましくは少なくとも2つの隣接細胞、より好ましくは少なくとも3つの隣接細胞、さらにより好ましくは少なくとも5つの隣接細胞、特に少なくとも10の隣接細胞がp16を過剰発現する場合、p16陽性と定義され、好ましくは前記細胞の各々は上皮細胞である。逆に、そのような生検試料は好ましくは10未満の隣接細胞、好ましくは5未満の隣接細胞、より好ましくは3未満の隣接細胞、さらにより好ましくは2未満の細胞、特に、生検試料中の健康な隣接細胞などの健康な対照組織と比較してp16を過剰発現しない場合、好ましくはp16陰性と定義され、好ましくは前記細胞の各々は上皮細胞である。
【0015】
さらに、当業者はまた、内部生殖器官の領域がKi-67陽性であるかどうかを、例えば、その領域において生検を行い、そして当該分野で公知のKi-67評価(免疫細胞化学評価のよう)を使用することによって、どのように評価するかを知っている。好ましくは、内部生殖器官の領域から得られる生検試料が生検試料中の健康な隣接細胞などの健康な対照組織と比較して、少なくとも1つの細胞、好ましくは少なくとも2つの隣接細胞、より好ましくは少なくとも3つの隣接細胞、さらにより好ましくは少なくとも5つの隣接細胞、特に少なくとも10の隣接細胞がKi-67を過剰発現する場合、Ki-67陽性と定義され、好ましくは前記細胞の各々は上皮細胞である。逆に、このような生検試料は、好ましくは10未満の隣接細胞、好ましくは5未満の隣接細胞、より好ましくは3未満の隣接細胞、さらにより好ましくは2未満の細胞、特に細胞が生検試料中の健康な隣接細胞などの健康な対照組織と比較してKi-67を過剰発現しない場合、好ましくはKi-67陰性と定義され、好ましくは前記細胞の各々は上皮細胞である。
【0016】
特に好ましくは、「p16陽性およびKi-67陽性」が特にCINtec(登録商標)PLUS解釈ガイド(Roche,2016)に開示されるように、確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche、スイス)における陽性結果として定義される。この解釈ガイドでは、陽性結果が少なくとも1つの二重染色された頸部上皮細胞(細胞質染色は褐色(p16)、核染色は赤色(Ki-67))の存在として定義される。
【0017】
本発明の過程において、本発明の組成物は、驚くべき低濃度のセレンですでに有効であることが判明した。したがって、さらなる好ましい実施形態では、医薬組成物の全セレン含有量が組成物5ml当たり0.01mg~1.25mg、好ましくは0.025mg~1.00mg、より好ましくは0.05mg~0.75mg、さらにより好ましくは0.10mg~0.50mg、さらにより好ましくは0.15mg~0.40mg、特に0.20mg~0.30mgである。「全セレン含有量」はセレンが組成物中の元素セレンとして存在しなければならないことを意味しないことは明らかであり、例として、組成物5ml当たりの唯一のセレン含有化合物としての0.83mgセレン酸ナトリウムは、5ml当たり0.25mgの全セレン含有量(「セレン換算含有量」)に相当する。
【0018】
また、適用当たりのセレン用量は低く、依然として有効であることが見出された。さらなる好ましい実施形態によれば、全セレン用量は適用当たり、0.01mg~1.25mg、好ましくは0.025mg~1.00mg、より好ましくは0.05mg~0.75mg、さらにより好ましくは0.10mg~0.50mg、なおさらにより好ましくは0.15mg~0.40mg、特に0.20mg~0.30mgである。「全セレン用量」とはセレンがセレン元素として用量中に存在しなければならないことを意味するものではないことは明らかであり、例えば、適用される用量単位のセレン含有化合物としての亜セレン酸ナトリウム0.83mgは適用当たり0.25mgの全セレン用量(「セレン当量」)に相当する。
【0019】
有効性を高めるために、本医薬組成物は、少なくとも1日1回、好ましくは少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、さらにより好ましくは少なくとも90日間適用されることが好ましい。
【0020】
有効性を達成するためには、組成物を1日に1回のみ適用することが適切であることが判明した。これは1日当たり数回の適用と比較して副作用のリスクをさらに低減するので、さらに好ましい実施形態は組成物が1日当たり1回、好ましくは少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、さらにより好ましくは少なくとも90日間適用される、使用のための本発明の医薬組成物に関する。
【0021】
医薬組成物の適用は、患者の月経中に中止されてもよい。
【0022】
さらなる好ましい実施形態によれば、組成物は、内部生殖器官またはその領域の感染がもはや検出できなくなるまで適用される。
【0023】
本発明による使用のための医薬組成物は、さらなる適切な成分および/または薬学的に許容される賦形剤をさらに含有し得る。
【0024】
好ましくは、本発明による使用のための医薬組成物が亜セレン酸ナトリウム(40℃で結晶水を放出し始める五水和物化合物として大部分が存在する)の形態の亜セレン酸塩を含有する。
【0025】
本発明のさらに好ましい実施形態では、組成物が組成物100g当たり(特に、酸がその固体形態で添加される場合)、1mg~10gの間の酸、より好ましくは10mg~5gの間の酸、特に100mg~1gの間の総量で1つ以上の酸を含有する。あるいは、酸はまた、その液体形態で(例えば、水と共に、すなわち、水溶液として)添加されてもよく、さらなる成分を任意に含有する水および水溶液は組成物100g当たり、0~(約)99.9g、好ましくは50~99g、特に80~98gの量で、本発明による組成物に添加されてもよい。
【0026】
さらに好ましい実施形態によれば、組成物は、ゲル、懸濁液、エマルジョン、ゼラチンカプセルまたはゼラチンを含まないカプセルなどの坐剤、噴霧または粉末の形態で存在する。
【0027】
ゲルの形態で存在する場合、本発明に従う使用のための医薬組成物は、好ましくはゲル化剤を含有する。ゲル化剤としては、無機及び有機の両水溶液ゲル化剤を用いてもよい。特に好適なゲル化剤は、セルロース誘導体、特にカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、および特にヒドロキシエチルセルロースである。好ましくはゲル化剤、特にヒドロキシエチルセルロースは組成物100g当たり0.1g~30gの間、より好ましくは0.5g~5gの間、特に1g~3gの間の総濃度で使用される。
【0028】
本発明による使用のための組成物のさらに特に好ましい実施形態は、特に組成物がゲルの形態で存在する場合、技術的懸濁媒体としておよび/または吸着剤として、二酸化ケイ素、特に高度に分散された二酸化ケイ素(例えば、WO 2001/85852A1に従う)を含有する。好ましくは、組成物100g当たり100mg~50g、より好ましくは500mg~10g、特に1g~5gの量のSiO2が使用される。
【0029】
本発明による使用のための組成物は、好ましくは7.0未満、より好ましくは5.0未満、特に4.0~2.5のpH値を有する。
【0030】
有利には、組成物がさらなる賦形剤および/またはさらなる活性成分、特に緩衝物質、着色剤、安定剤、防腐剤、担体物質またはそれらの組み合わせを含有し得る。防腐剤の好ましい例は、ソルビン酸カリウムおよび安息香酸ナトリウムである。
【0031】
さらに、組成物は、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、疼痛阻害剤、抗炎症剤、またはそれらの組み合わせなどのさらなる活性剤をさらに含んでもよい。
【0032】
本発明はまた、HPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58から選択される少なくとも1つのHPVを有する女性患者の内部生殖器官の感染の発症を遅延させるか、またはその感染を治療するための方法であって、
-本明細書で定義される医薬組成物を得ること;および
-有効量の組成物を患者に投与すること(ここで、組成物は膣内に適用される)を含む方法にも関する。
【0033】
本発明の全文脈において、本明細書中で使用される「予防する」または「予防」という語はとりわけ患者または被験体が疾患状態または状態に罹患する危険性にかかりやすい場合に、疾患状態または状態が患者または被験体において完全にまたはほとんど完全にまたは少なくとも(好ましくは有意である)程度に生じるのを止めることを意味する。
【0034】
典型的には患者(好ましくはHPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58(特に、HPV16および/またはHPV18から選択される少なくとも1つのHPVによる内部生殖器官の感染を有し、特に前記感染と診断されている)は、本発明の治療を必要とする。HPV感染の予防のための本発明の治療との関連において、患者はHPV感染を有さないが、HPV感染を発症するリスクがある患者であってもよい。
【0035】
本明細書において、本発明の予防または治療を受ける患者は、好ましくは20歳を超え、好ましくは30歳を超え、さらにより好ましくは40歳を超え、さらにより好ましくは50歳を超える。
【0036】
本発明の治療は、免疫抑制患者においてそれほど効率的ではないことが見出された。したがって、患者は免疫抑制されないことが好ましい。それに加えて、またはその代わりに、患者は、好ましくは癌および/または慢性ウイルス疾患(HPV感染以外)を有さない。
【0037】
好ましくは、本明細書で言及される内部生殖器官は患者の膣または子宮頸部である。
【0038】
本明細書において、遺伝子(生成物)Aに関して「過剰発現」または同様の用語は典型的には例えば、生検試料中のAの発現量(例えば、ウェスタンブロットまたは免疫組織化学または免疫細胞化学によって測定される)が適切な対照(例えば、同じ型の健康な組織)の発現量よりも、少なくとも1.2倍(すなわち、少なくとも20%の増加)、好ましくは少なくとも1.4、より好ましくは少なくとも1.6、さらにより好ましくは少なくとも1.8、特に少なくとも2.0の増加であることを意味し得る。
【0039】
本発明を、以下の図面および実施例によってさらに説明するが、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】HPV16型、18型、31型、33型および58型の排除を示す図である。非処置対照群と比較して、HPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58のはるかに大きな排除率が、本発明の治療で処置された活性群において観察された。「HPV陰性」:HPV16、HPV18、HPV31、HPV33及びHPV58が検出されなかった。「HPV陽性」:HPV16、HPV18、HPV31、HPV33および/又はHPV58が検出された。「スクリーニング時」:患者の最初のスクリーニング。「3回目の来院時」:1日1回治療の3×28日後。
【
図2】p16/Ki-67の改善を示す図である。非処置対照群と比較して、p16/Ki-67二重染色陽性からのはるかに大きな排除率が、本発明の治療で処置された活性群において観察された。「p16/Ki-67-stain -」:確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche、スイス)で陰性、「p16/Ki-67-stain +」:確立されたCINtec(登録商標)PLUS試験(Roche、スイス)で陽性。「スクリーニング時」:患者の最初のスクリーニング。「3回目の来院時」:1日1回治療の3×28日後。
【実施例】
【0041】
実施例1 HPV16型、18型、31型、33型および58型感染の膣内療法のための医薬品組成物
組成物は、以下の成分(ゲル5ml当たり)を有する水溶液膣ゲルである:
高分散二酸化ケイ素 10.00 mg
クエン酸 24.80 mg
亜セレン酸ナトリウム 0.83 mg
(セレン当量0.25mg相当)
安息香酸ナトリウム 2.50 mg
ソルビン酸カリウム 5.00 mg
ヒドロキシエチルセルロース 100.00 mg
水 (最大 5ml)。
【0042】
実施例2 比較対照臨床試験
本試験は、症例1(女性患者116例、年齢25~60歳、慢性ウイルス性疾患、癌および免疫抑制治療なし)の構成で1日1回3×28日間の治療を行う対照群多施設共同無作為化プロスペクティブ非盲検試験であった。毎日の用量は、膣内に適用された組成物5mlであった。
【0043】
58人の患者がアクティブアーム(実施例1の組成物で処置された)にあり、そして58人が、コントロールアーム(処置されていない)にあった。活動群の平均年齢は34.5+/7.4歳であり、対照群では33.6+/7.5歳であった。
【0044】
3施設で被験者を募集した。子宮頸部塗抹標本を、SurePath(登録商標)(Becton & Dickinson)と呼ばれる特定の液体環境中に保存された、当技術分野で公知の標準的な手順に従って収集した。試料を、とりわけCINtec(登録商標)PLUS細胞診キット(Roche、スイス)を用いて分析した。
【0045】
臨床試験は、ヘルシンキ宣言2013及びISO14155:2011+Cor1:2011の倫理原則に従って実施した。
【0046】
結果
評価したデータから、活動群の患者では、測定したすべてのパラメータで明らかに結果が改善したことが実証されている。わずかな有害事象が報告されたのみであった。
【0047】
非処置対照群と比較して、HPV16、HPV18、HPV31、HPV33およびHPV58のはるかに大きなクリアランス速度が、本発明の治療で処置された活動群において観察された(
図1を参照のこと)。
【0048】
さらに、非処置対照群と比較して、p16/Ki-67二重染色陽性からのはるかに大きな排除率が、本発明の治療で処置された活動群において観察された(
図2を参照のこと)。
【0049】
これらの結果は、本明細書に記載のHPV適応症に対する組成物の例外的な適合性を実証する。