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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】呼吸器系疾患を治療又は予防する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20240116BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 11/08 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P11/00
A61P11/06
A61P11/08
A61P37/06
A61P37/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022024306
(22)【出願日】2022-02-18
(62)【分割の表示】P 2020026138の分割
【原出願日】2013-12-12
(65)【公開番号】P2022065132
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】61/736,352
(32)【優先日】2012-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515158652
【氏名又は名称】メソブラスト、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】イテシュー、シルビウ
(72)【発明者】
【氏名】クリシュナン、ラビ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーシュ、ピーター
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/162754(WO,A1)
【文献】特表2008-538495(JP,A)
【文献】特表2008-520185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/28
A61P 11/00
A61P 11/06
A61P 11/08
A61P 37/06
A61P 37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象において、IgE媒介性炎症性呼吸器系疾患を治療するための剤であって、前記剤がヒトTNAP+ STRO-1 + 間葉系前駆細胞が富化された、培養増殖された細胞集団を含む、剤。
【請求項2】
前記炎症性呼吸器系疾患が、急性呼吸器系疾患又は慢性呼吸器系疾患である、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
前記炎症性呼吸器系疾患が特発性肺線維症である、請求項1に記載の剤。
【請求項4】
前記炎症性呼吸器系疾患がハウスダストマイトアレルゲン(HDM)に対するアレルギーである、請求項1に記載の剤。
【請求項5】
前記剤が全身投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の剤。
【請求項6】
前記剤が、静脈内又は鼻腔内に投与される、請求項5に記載の剤。
【請求項7】
前記剤が、以下:
(i)対象が、持続的に、喘鳴し始め、及び/又は咳をし始め、及び/又は胸部圧迫感を有し始め、及び/又は呼吸困難を有し始める;
(ii)対象が、スパイロメーターにより評価した場合に、以下の1つ以上を示す:
a)少なくとも2週間、週に少なくとも3日間で20%の差異;
b)以下での治療後に、≧20%のピークフローの改善:
吸入βアゴニストを10分間;
吸入コルチコステロイドを6週間;
30 mgのプレドニゾロンを14日間;
c)トリガーへの暴露後、≧20%のピークフローの低下;
(iii)気管支鏡検査により、異常な細胞及び/又は外来物質及び/又は対象の気道閉塞が示される;又は
(iv)胸部CTスキャンにより、肺血管の異常、肺における血液又は体液の貯留、気管支拡張症、胸水又は肺炎が示される
の1つ以上が生じた場合に投与される、請求項1~6のいずれか一項に記載の剤。
【請求項8】
以下:
(i)気管支過敏性の改善;
(ii)肺又は気管支肺胞洗浄液の好酸球浸潤の低下;
(iii)肺又は気管支肺胞洗浄液の好中球浸潤の低下;
(iv)遅発性喘息反応の低下;及び/又は
(v)早期喘息反応の低下;
の1つ以上を達成するのに十分な用量の前記集団を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の剤。
【請求項9】
1×106個~150×106個の間の前記培養増殖された集団由来の細胞を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の剤。
【請求項10】
全身用量の前記培養増殖された集団由来の細胞を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の剤。
【請求項11】
10 mL中150×106個の前記培養増殖された集団由来の細胞を含む、請求項10に記載の剤
【請求項12】
前記培養増殖された細胞集団が同種異系である、請求項1~11のいずれか一項に記載の剤。
【請求項13】
TNAP+間葉系前駆細胞はSTRO-1強陽性(bri)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願データ
本出願は、2012年12月12日に出願された「Methods of treating or preventing respiratory conditions」と題される米国特許出願第61/736352号の優先権を主張する。当該出
願の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、呼吸器系疾患(respiratory conditions)、例えば、IgE媒介性(IgE-mediated)のアレルギー性呼吸器系疾患などを治療又は予防するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
イントロダクション
呼吸器系疾患は、ガス交換に関与する臓器及び組織に影響を及ぼす病的状態を包含するものと認識され、上気道、気管、気管支、細気管支、肺胞、胸膜及び胸膜腔、並びに呼吸の神経及び筋肉の状態を含む。慢性呼吸器系疾患は、世界中の総死者数のおよそ7%にあ
たる死者をもたらし、世界疾病負担の約4%に相当する。慢性呼吸器系疾患のコストは、
米国単独で、直接及び間接コストを含めて毎年約1,540億USドルであると見積もられる。
呼吸器系疾患は、以下を含む複数のクラスに分類できる:
・炎症性肺疾患(lung conditions)、例えば、喘息、嚢胞性線維症、肺気腫、慢性閉塞
性肺疾患又は急性呼吸窮迫症候群などであって、対象の肺における好中球及び/又は炎症性サイトカインレベルの上昇により特徴付けられるもの;
・閉塞性肺疾患、例えば、慢性閉塞性肺疾患及び喘息などであって、気道容積の低下又は自由なガス流の障害により特徴付けられるもの;及び
・拘束性肺疾患(間質性肺疾患としても知られる)、例えば、乳児呼吸窮迫症候群などであって、不完全な肺拡張及び/又は肺の硬さの高まりを引き起こす肺コンプライアンスの喪失により特徴付けられるもの。
【0004】
喘息は、一般的な慢性呼吸器系疾患であり、変動性及び反復性の症状、可逆性気道閉塞、気道(例えば、気管支)過敏性、並びに原因となる炎症により特徴付けられる。喘息の急性症状は、咳、喘鳴、息切れ及び夜間覚醒を含む。これらの症状は通常、気管支痙攣から生じ、気管支拡張薬治療を必要とし、これに応答する。喘息の病態生理学の中心は、原因となる気道炎症の存在であり、これは、マスト細胞、好酸球、Tリンパ球、マクロファ
ージ、樹状細胞及び好中球を含む複数の細胞タイプの動員及び活性化により媒介される。気道過敏性に影響を及ぼすメカニズムは複合的であり、炎症、機能不全に陥った神経調節(dysfunctional neuroregulation)及び気道リモデリングを含む。気道リモデリングは
、基底膜下(sub-basement membrane)の肥厚、上皮下線維症、気道平滑筋の肥大及び過
形成、血管の増生及び拡張を含む構造的変化を伴い、これは、気流閉塞を増加させ、且つ現行の治療法により予防されないか又は完全に可逆性(reversible)ではない、結果として生じる永久的な気道の変化を有する。
【0005】
喘息に対する現行の標準治療は、コルチコステロイドとβ2アゴニストとの組み合わせ
(抗炎症薬及び気管支拡張薬)である。これらの薬物は、多くの喘息患者に対して、許容可能な状態コントロールを提供する。しかし、このコルチコステロイドとβ2アゴニスト
との組み合わせを用いた治療にもかかわらず、喘息患者の5~10%は、症候性の状態を有
すると見積もられている(Chanez et al, J Allergy Clin Immunol 119:1337-1348(2007))。
【0006】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、顕著な罹患率及び死亡率を伴う最も一般的な慢性肺疾患である。米国において、COPDは、死亡原因の第4位であり、300億ドル超の年間ヘルスケアコストを占める。推計1,600万人の成人がCOPDに罹患しており、毎年約120,000人のアメリカ人がこの疾患により死亡する。COPDは、気管支拡張薬治療で部分的に改善される測定気流閉塞(FEV1/FVC<70%及びFEVi<80%予測値)を有する、気道/肺胞/全身性の炎症により特徴付けられる慢性疾患として定義される。肺細胞による炎症性メディエータの局所的及び全身性の放出は、気道疾患(慢性閉塞性気管支炎)を引き起こし、少数の患者では実質組織の破壊(肺気腫)を引き起こし、それらはともに、COPDを特徴とする気流制限をもたらし得る。肺細胞によるこれら炎症性メディエータの放出はまた、他の臓器系における炎症、例えば、冠状動脈、脳血管及び末梢血管系の疾患で観察されるものなどを悪化させる場合がある。
【0007】
COPDを治療するための現行の治療法は、気管支拡張薬、特に抗コリン剤を含み、これらは、過膨張をある程度低下させ、それにより深吸気量を増加させ、呼吸困難を緩和するのに役立つ。コルチコステロイドは、喘息の大半のケースに対して効果的な治療法であるものの、COPDにおける炎症性細胞及びメディエータは、全身性又は吸入コルチコステロイドを用いた治療に感受性がなく、COPDにおけるこれらの薬剤を用いた治療の有用性を限定的なものにする。
【0008】
特発性肺線維症(IPF)は、慢性で進行性の下気道線維性障害であり、典型的には、40
歳超の成人に影響を及ぼす。IPFは、肺胞への好中球、リンパ球及びマクロファージの動
員を引き起こす、タバコの煙などの環境因子による肺への最初の損傷の結果として生じると考えられている。肺胞上皮細胞による線維形成性サイトカイン、例えばTGF-βなどの放出は、線維芽細胞の増殖、遊走、及び線維症をもたらす。これらの線維芽細胞は、呼吸空間を満たすだけでなく、多くのサイトカインに応答してコラーゲン及びマトリックスタンパク質を分泌し、実質リモデリングを導く(Shimizu et al., Am J Respir Crit Care Med 163:210-217(2001))。この線維芽細胞の分化はおそらくIPFの慢性の性質の鍵となる。これらの事象は、咳及び進行性の息切れを引き起こす。IPF患者は、肺機能不全を有し
ており、制限された肺容積及びキャパシティを示している。コルチコステロイド、免疫抑制剤、好中球エラスターゼ阻害剤、肝細胞増殖因子及びインターフェロンγ-IbがIPFに対する治療剤として提案されているが、生存期間を延長させるためには、肺移植以外の治療法は知られておらず、IPFは依然として、生存期間の平均範囲が3~6年である致命的な障
害のままである。従って、IPFの第一選択の治療法は未だ確立されていない。
【0009】
他の呼吸器系疾患は、肺動脈高血圧症(PAH)、肺血管収縮、リンパ脈管筋腫症(LAM)、結節性硬化症複合体(TSC)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)及び人工呼吸器誘発肺損傷
(VILI)を含むが、これらに限定されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
呼吸器系疾患が、蔓延し消耗性の状態クラスであり、限定的な治療オプションしか存在しないことは上記開示から当業者には明らかだろう。従って、これらの状態に対する新規治療法が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
要旨
本発明者らは、現在、喘息(例えば、アレルギー性喘息)などのヒト呼吸器系疾患の受け入れられている動物モデルにおいて、STRO-1+細胞調製物を用いて、用量依存性の様式
で、TH2媒介性アレルギー反応(例えば、IgE媒介性アレルギー反応)を低下(例えば、好酸球及び/又はIL-4レベル及び/又はIgEレベルを低下)させることができ、且つ気管支
過敏性を低下させることができることを示している。本発明者らは、それらが、早期(early)アレルギー反応及び/又は遅発性(late)アレルギー反応のいずれか(又は両方)
を抑制できることを発見した。この用量反応性は、STRO-1+細胞調製物が治療的有用性を
提供していることを実証する。
【0012】
STRO-1+細胞調製物はさらに、気道内腔及び気管支肺胞洗浄液における好酸球細胞の浸
潤、並びに気管支肺胞洗浄液における好中球数を低下させたことから、これらの調製物が、例えば炎症性呼吸器系疾患(例えば、喘息)に罹患した対象などの対象の肺において、炎症を抑制する能力が実証される。
【0013】
STRO-1+細胞調製物はさらに、処置動物において、アレルゲン特異的IgEレベルを低下させた。
【0014】
本発明者らはまた、遅発性喘息反応(例えば、呼吸器系への好中球及び好塩基球の遊走により引き起こされるもの)が、STRO-1+細胞調製物を投与(receiving)された対象において改善されることを観察した。これらの観察は、STRO-1+細胞調製物が、呼吸器系への
損傷(例えば、好中球及び好塩基球によって引き起こされる炎症及び/又はリモデリング)を低下又は予防するのに有用であることを示す。
【0015】
本発明者らによる発見は、対象において呼吸器系疾患を治療又は予防する方法であって、STRO-1+細胞が富化(enriched for)された細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそ
れに由来する可溶性因子を該対象に投与することを含む方法の基礎を提供する。
【0016】
本開示はさらに、対象においてIgE媒介性アレルギー(又はTH2媒介性アレルギー)を治療又は予防する方法であって、STRO-1+細胞が富化された細胞集団及び/又はその子孫及
び/又はそれに由来する可溶性因子を該対象に投与することを含む方法を提供する。
【0017】
本開示はさらに、アレルゲンに対するアレルギー反応を低下させるため、及び/又はアレルゲンに対してアネルギーを誘導するための方法であって、STRO-1+細胞が富化された
細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を該対象に投与することを含む方法を提供する。
【0018】
本開示はさらに、ハウスダストマイト(house dust mite)アレルゲン(HDM)に対するアレルギー反応を治療若しくは予防する、若しくはHDMに対するアレルギー反応を低下さ
せるため、及び/又はHDMに対してアネルギーを誘導するための方法であって、STRO-1+細胞が富化された細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を該対象に投与することを含む方法を提供する。
【0019】
本開示はさらに、対象において肺機能を改善するための方法であって、STRO-1+細胞が
富化された細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を該対象に投与することを含み、ここで、該対象が、アレルギー、IgE媒介性アレルギー又はHDMに対するアレルギー反応に罹患している、方法を提供する。
【0020】
一例において、呼吸器系疾患は、過剰な細胞増殖、リモデリング、炎症、血管収縮、気管支収縮、気道過敏性及び/又は浮腫と関連する。例えば、本開示は、例えば、喘息、慢性閉塞性肺疾患、肺動脈高血圧症;急性呼吸窮迫症候群、人工呼吸器誘発肺損傷、嚢胞性線維症、気管支拡張症、α1アンチトリプシン欠損症、鼻炎、副鼻腔炎、原発性線毛ジス
キネジア、肺炎、細気管支炎、間質性肺疾患(リンパ脈管筋腫症、特発性肺線維症、閉塞性細気管支炎(obliterative bronchiolitis)若しくは閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans)、非特異性間質性肺炎、特発性器質化肺炎、急性間質性肺炎、呼吸細気管
支炎を伴う間質性肺疾患又は肺サルコイドーシスを含む)などの状態を治療又は予防するための方法を提供する。
【0021】
一例において、肺又は状態は急性肺損傷である。例えば、急性肺損傷は、身体外傷、化学的損傷、例えば、化学火傷、煙吸入、又は毒性物質への暴露の1つ以上である。別の特
定の実施態様において、前記肺疾患、障害又は状態は、腫瘍性又は腫瘍随伴性の疾患により引き起こされる損傷である。
【0022】
一例において、呼吸器系疾患は慢性である。この点について、本開示の方法は、慢性呼吸器系疾患の初期段階若しくは後期段階又はその両方の段階を治療するために使用できる。
【0023】
一例において、呼吸器系疾患は、炎症性呼吸器系疾患、閉塞性呼吸器系疾患又は拘束性呼吸器系疾患である。
【0024】
一例において、呼吸器系疾患又はアレルギーは可逆性気道閉塞である。
【0025】
一例において、呼吸器系疾患又はアレルギーは閉塞性呼吸器系疾患、例えば、COPD、喘息、閉塞性細気管支炎(obliterative broncholitis)又は嚢胞性線維症などである。一
例において、呼吸器系疾患は喘息である。
【0026】
一例において、呼吸器系疾患は拘束性呼吸器系疾患、例えば、拘束性肺疾患(例えば、外因性アレルギー性肺胞炎、線維化性肺胞炎、石綿症又は好酸球性肺炎)、又は拘束性胸膜疾患(restrictive pleural condition)(例えば、胸水、気胸又は気管支拡張症)な
どである。
【0027】
一例において、呼吸器系疾患は感染又は癌に起因しない。
【0028】
一例において、呼吸器系疾患は炎症状態である。例えば、当該状態は、気道過敏性及び/又は気管支過敏性、並びに/又は気道内腔及び気管支肺胞洗浄液における好酸球細胞浸潤と関連する。この点について、一例において、本開示の方法は、気道過敏性及び/若しくは気管支過敏性、並びに/又は気道内腔及び/若しくは気管支肺胞洗浄液における好酸球細胞浸潤及び/若しくは好中球浸潤が低下するように、STRO-1+細胞が富化された細胞
集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を投与することを含む。
【0029】
一例において、当該疾患(the condition)は喘息、例えば、慢性喘息若しくは急性喘
息、又はアレルギー性喘息などである。例えば、当該疾患は、慢性喘息又はアレルギー性喘息である。
【0030】
一例において、当該疾患は、肺のリモデリングと関連し、例えば、喘息又は肺線維症(例えば、特発性肺線維症)などである。
【0031】
一例において、喘息は重症喘息及び/又は難治性喘息である。
【0032】
一例において、当該疾患はステロイド難治性喘息である。例えば、喘息に罹患した対象は、ステロイド、例えば、コルチコステロイド、例えば、フルニソリド、フランカルボン酸モメタゾン、トリアムシノロン、フルチカゾン、ブデソニド、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、又は前記いずれか2つ以上の組み合わせなどを用いた治療が無効である。
【0033】
別の例において、当該疾患は、長時間作用性βアゴニスト(long acting beta agonist
(LABA))難治性喘息である。例えば、喘息に罹患した対象は、長時間作用性βアゴニスト、例えば、サルメテロール、ホルモテロール、バンベテロール(bumbeterol)又はクレンブテロールなどを用いた治療が無効である。
【0034】
別の例において、当該疾患は、LABA及びステロイド難治性喘息である。
【0035】
一例において、当該方法は、早期(early phase)アレルギー反応又は喘息反応を低下
又は予防する。
【0036】
別の例において、当該方法は、遅発性(late phase)アレルギー反応又は喘息反応を低下又は予防する。
【0037】
一例において、当該疾患は線維性状態である。肺の線維性疾患は、間質性肺疾患(びまん性実質性肺疾患)であってよい。別の例において、間質性肺疾患は、ケイ肺症、石綿症、ベリリウム症、全身性硬化症、多発性筋炎又は皮膚筋炎である。他の例において、間質性肺疾患は、抗生物質、化学療法薬、抗不整脈薬、又は感染により引き起こされる。
【0038】
さらなる例において、当該疾患は特発性肺線維症である。
【0039】
一例において、本明細書中いずれかの例で記載するような方法は、STRO-1強陽性(bright)細胞が富化された細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を投与することを含む。
【0040】
一例において、本明細書中いずれかの例で記載するような方法は、STRO-1+及び組織非
特異型アルカリホスフェート(alkaline phosphate)+(TNAP)+細胞が富化された細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を投与することを含む。
【0041】
一例において、本明細書中いずれかの例で記載するような方法は、組織非特異型アルカリホスフェート+(TNAP)+細胞が富化された細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を投与することを含む。本明細書に示すように、かかる細胞は、STRO-1+、例えば、STRO-1強陽性(bright)などである。一例において、細胞は、STRO-3+細胞が富化される。
【0042】
一例において、STRO-1+細胞が富化された集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由
来する可溶性因子は、全身投与される。
【0043】
例えば、集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子は、静脈内投与される。
【0044】
別の例において、集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子は、鼻腔内投与又は吸入により投与される。
【0045】
一例において、集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子は、複数回投与される。この点について、本発明者らは、本明細書に記載するような細胞集団が、4週間まで又は少な
くとも4週間、治療的有用性を提供できることを示している。従って、一例において、集
団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子は、3週間以上毎に1回投与される。例えば、集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子は、4週間以上毎に1回投与される。例えば、集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子は、5週間以上毎に1回投与される。例えば、集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子は、10週間以上毎に1回投与される。例えば、集団及び
/又は子孫及び/又は可溶性因子は、12週間以上毎に1回投与される。
【0046】
一例において、当該方法は、対象をモニタリングすること、並びに以下の1つ以上が生
じた場合に、更なる用量の集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子を投与することを含む:
(i)対象が、持続的に、喘鳴し始め、及び/又は咳をし始め、及び/又は胸部圧迫感を
有し始め、及び/又は呼吸困難を有し始める;
(ii)対象が、スパイロメーターにより評価した場合に、以下の1つ以上を示す:
a)少なくとも2週間、週に少なくとも3日間で20%の差異;
b)例えば、
吸入βアゴニスト(例えば、サルブタモール)を10分間;
吸入コルチコステロイド(例えば、ベクロメタゾン)を6週間;
30 mgのプレドニゾロンを14日間
などの治療後、≧20%のピークフローの改善;
c)トリガー(例えば、エクササイズ)への暴露後、≧20%のピークフローの低下;
(iii)気管支鏡検査により、異常な細胞及び/又は外来物質及び/又は対象の気道閉塞
が示される;又は
(iv)胸部CTスキャンにより、肺血管の異常、肺における血液又は体液の貯留、気管支拡張症、胸水又は肺炎が示される。
【0047】
一例において、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法は、以下の1つ以上を達成す
るのに十分な用量の集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子を投与することを含む:
(i)例えば気管支チャレンジテストを用いて評価されるような、気管支過敏性の改善;
(ii)気道過敏性の改善;
(iii)肺又は気管支肺胞洗浄液の好酸球浸潤の低下;
(iv)肺又は気管支肺胞洗浄液の好中球浸潤の低下;
(v)例えばスパイロメーターにより評価されるような、遅発性喘息反応の低下;
(vi)例えばスパイロメーターにより評価されるような、早期喘息反応の低下;及び/又は
(vii)例えば胸部CTスキャンにより評価されるような、肺リモデリング/線維症の低下
【0048】
一例において、用量は、前記の少なくとも2つ又は3つ又は4つ又は5つ(four of five)又はすべてを達成するのに十分である。
【0049】
一例において、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法は、1×106個から150×106個の間のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を投与することを含む。
【0050】
一例において、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法は、25×106個から150×106
個の間のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を投与することを含む。例えば、当該方法は、
約25×106個又は75×106個又は150×106個のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を投与する
ことを含む。
【0051】
一例において、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法は、1 kgあたり約2.5×104個の細胞から4.5×106個の間のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を投与することを含む。
【0052】
一例において、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法は、1 kgあたり約4.5×105個から4.5×106個の間のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を投与することを含む。例えば、
当該方法は、1 kgあたり約4.5×105個又は約5.5×106個又は約1.7×106個又は約1.9×106個又は約3.5×106個又は約4.5×106個のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を投与すること
を含む。
【0053】
一例において、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法は、全身用量(whole body dose)のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を投与することを含む。例えば、細胞又は可溶性因子が複数回投与される場合、全身用量は一定のままである。
【0054】
例えば、当該方法は、10 mL中150×106個のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫、すなわち、1 mLあたり1.5×106個のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を対象に投与することを含む
【0055】
一例において、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法は、ステロイド難治性喘息若しくはLABA難治性喘息、又はステロイド及びLABA難治性喘息に罹患した対象に、例えば対象に対して10 mL中150×106個のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫、すなわち、1 mLあたり1.5×106個のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を投与することを含む。
【0056】
一例において、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法は、特発性肺線維症に罹患した対象に、例えば対象に対して10 mL中150×106個のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫、すなわち、1 mLあたり1.5×106個のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫を投与することを含む
【0057】
一例において、集団及び/又は子孫細胞は、自己性(autogeneic)又は同種異系であり、且つ/或いは可溶性因子は、自己性又は同種異系細胞に由来し得る。一例において、集団及び/又は子孫は同種異系であり、且つ/或いは可溶性因子は同種異系細胞に由来する。
【0058】
上記の例によれば、当該方法はさらに、集団及び/又は子孫細胞及び/又は可溶性因子を得ることを含み得、或いはさらに集団及び/又は子孫細胞及び/又は可溶性因子を単離することを含み得る。一例において、集団及び/又は子孫細胞は、STRO-1及び/又はTNAPの発現に基づく。
【0059】
一例において、集団及び/又は子孫細胞及び/又は可溶性因子は、治療されている対象から得られる。他の例において、集団及び/又は子孫細胞及び/又は可溶性因子は、同じ種の異なる対象から得られる。
【0060】
一例において、STRO-1+細胞が富化された集団及び/又は子孫細胞は、投与前に、及び
/又は可溶性因子を得る前に、培養増殖(culture expanded)されている。
【0061】
上記の例によれば、本明細書に記載するようないずれかの例に従う方法はさらに、集団及び/又は子孫細胞を培養することを含み得る。
【0062】
一例において、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性
因子は、前記STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子
、並びに担体及び/又は賦形剤を含む組成物の形態で投与される。
【0063】
上記の例によれば、本明細書に記載するようないずれかの例に従う方法はさらに、集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子を組成物に製剤化することを含み得る。
【0064】
一例において、対象は、治療時に呼吸器系疾患又はその憎悪(例えば、喘息発作)に罹患している。例えば、対象は治療を必要としている。
【0065】
一例において、対象は、呼吸器系疾患を有するが、治療時に呼吸器系疾患又はその憎悪
(例えば、喘息発作)に活発に(actively)罹患しておらず、すなわち、当該方法は、当該疾患又はその憎悪を予防する方法である。
【0066】
本開示はまた、呼吸器系疾患の治療又は予防に使用するための、STRO-1+細胞が富化さ
れた細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子を提供する。
【0067】
本開示はまた、対象において呼吸器系疾患を治療又は予防するための医薬の製造における、STRO-1+細胞が富化された細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可
溶性因子の使用を提供する。
【0068】
本開示はまた、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法で使用するための指示書とともに包装された、STRO-1+細胞が富化された細胞集団及び/又はその子孫及び/又はそれ
に由来する可溶性因子、を含むキットを提供する。
【0069】
例えば、本開示は、本明細書に記載のいずれかの例に従う方法における組成物の使用を指示する製品情報とともに包装された、集団及び/又は子孫及び/又は可溶性因子を含む組成物、を含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】成人骨髄単核細胞(bone marrow morphonuclear cells)(BMMNC)によるTNAP(STRO-3)と間葉系前駆細胞マーカーSTRO-1強陽性(bright)との共発現。STRO-1 MACSで選別され、FITC結合ヤギ抗マウスIgM抗体で間接標識(x軸)されたBMMNCを、PE結合ヤギ抗マウスIgGで間接標識されるSTRO-3 mAb(マウスIgG1)(y軸)とインキュベーションすることにより、二色免疫蛍光法及びフローサイトメトリーを行った。ドットプロットヒストグラムはリストモードデータとして収集した5×104個の事象を表している。垂直線及び水平線は、同一条件下で処置したアイソタイプマッチコントロール抗体1B5(IgG)及び1A6.12(IgM)で得られた<1.0%平均蛍光の反応性レベルに設定した。結果は、少数のSTRO-1強陽性(bright)細胞集団がTNAPを共発現した一方(右上の象限)、残りのSTRO-1+細胞はSTRO-3 mAbと反応しなかったことを実証する。
図2】アイソタイプ(IgM、IgG2a及びIgG1)ネガティブコントロール(破線)と比較して、間葉系幹細胞マーカーSTRO-1、STRO-4及びCD146(実線)の陽性の細胞表面発現を有する(ヤギ抗マウスIgM又はIgG結合FITC二次抗体を用いて検出した)、カニクイザルMPC由来の培養増殖骨髄の単一細胞懸濁液を用いて生成した代表的フローサイトメトリーヒストグラムを示すグラフ表示。代表的ヒストグラムはまた、カニクイザルMPCが、単球/マクロファージマーカー(CD14)、造血幹/前駆細胞マーカー(CD34)及び成熟白血球マーカー(CD45)について細胞表面発現を欠くことを示す。アイソタイプコントロールと比較して1%超の蛍光レベルが陽性を意味する。
図3図3は、ヒツジ喘息モデルの治療におけるMPCの安全性及び有効性を評価するための研究タイムラインの図式である。
図4図4は、生理食塩水(saline)及びMPC処置グループに関する研究過程にわたる早期(early-phase)喘息反応(EAR)を示す一連のグラフ表示である。EARの要約データは、コントロールグループ及び3つの処置グループ(2,500万個、7,500万個及び1億5,000万個のoMPC)について(A)に示す。データは、コントロール生理食塩水のエアロゾル化チャレンジから得られたベースライン抵抗測定値から、アレルゲンチャレンジ後最初の1時間にわたって得られたピーク抵抗測定値までの抵抗の変化%を示す。EAR測定値は、試験を通じて3回の機会から得られた:oMPC/生理食塩水処置の2週間前(処置前(pretreatment));oMPC/生理食塩水処置から1週間後(処置1週間後);及びoMPC/生理食塩水処置から4週間後(処置4週間後)。(B)及び(C)におけるデータは、それぞれ、処置前から、処置1週間後及び4週間後までのEARの変化%に関する、コントロールと処置グループとの間の比較を示す。データは、平均±SEMとして示す。コントロールグループ及び7,500万個のoMPCグループについてはN=11;2,500万個及び1億5,000万個のoMPCグループについてはN=10。**p<0.01*p<0.05。
図5図5は、生理食塩水及びMPC処置グループに関する研究過程にわたる遅発性喘息反応(LAR)を示す一連のグラフ表示である。LARの要約データは、コントロールグループ及び3つの処置グループ(2,500万個、7,500万個及び1億5,000万個のoMPC)について(A)に示す。データは、エアロゾル化アレルゲンチャレンジ前に得られたベースライン抵抗測定値から、アレルゲンチャレンジから6時間後に得られた抵抗測定値までの抵抗の変化%を示す。LAR測定値は、試験を通じて3回の機会から得られた:oMPC/生理食塩水処置の2週間前(処置前);oMPC/生理食塩水処置から1週間後(処置1週間後);及びoMPC/生理食塩水処置から4週間後(処置4週間後)。(B)及び(C)におけるデータは、それぞれ、処置前から、処置1週間後及び4週間後までのLARの変化%に関する、コントロールと処置グループとの間の比較を示す。データは、平均±SEMとして示す。コントロールグループ及び7,500万個のoMPCグループについてはN=11;2,500万個及び1億5,000万個のoMPCグループについてはN=10。**p<0.01*p<0.05。
図6図6は、生理食塩水及びMPC処置グループに関する研究過程にわたる気管支過敏性(bronchial hyperresponsiveness)(BHR)を示す一連のグラフ表示である。BHRの要約データは、コントロールグループ及び3つの処置グループ(2,500万個、7,500万個及び1億5,000万個のoMPC)について(A)に示す。y軸におけるBHRデータは、100%の抵抗の変化を誘導するために必要とされるカルバコールの呼吸単位の平均数を表す。BHR測定値は、試験を通じて3回の機会から得られた:oMPC/生理食塩水処置の2週間前(処置前);oMPC/生理食塩水処置から1週間後(処置1週間後);及びoMPC/生理食塩水処置から4週間後(処置4週間後)。(B)及び(C)におけるデータは、それぞれ、処置前から、処置1週間後及び4週間後までのBHRの変化%に関するコントロールと処置グループとの間の比較を示す。(D)におけるデータは、コントロールグループとプールした処置グループとの間のBHRデータの比較を示す。データは、平均±SEMとして示す。コントロールグループ及び7,500万個のoMPCグループについてはN=11;2,500万個及び1億5,000万個のoMPCグループについてはN=10。*p<0.05**p<0.01。
図7図7は、生理食塩水及びMPC処置グループに関する研究過程にわたる気管支肺胞(BAL)洗浄液中の好酸球を示す一連のグラフ表示である。データは、好酸球%の要約(A)、処置前から処置1週間後(C)及び4週間後(D)での好酸球%の変化、並びにコントロールグループとプールした処置グループとの比較(E)として示す。好酸球/mLを(B)に示す。データは、平均±SEMとして示す。コントロールグループ及び7,500万個のoMPCグループについてはN=11;2,500万個及び1億5,000万個のoMPCグループについてはN=10。*p<0.05、**p<0.01。
図8図8は、生理食塩水及びMPC処置グループに関する研究過程にわたる気管支肺胞(BAL)洗浄液中の好中球を示す一連のグラフ表示である。データは、好中球%の要約(A)、及び好中球/mL(B)として示す。データは、平均±SEMとして示す。コントロールグループ及び7,500万個のoMPCグループについてはN=11;2,500万個及び1億5,000万個のoMPCグループについてはN=10。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.005。
図9図9は、生理食塩水及びMPC処置グループに関する研究過程にわたる気管支肺胞(BAL)洗浄液中のマクロファージを示す一連のグラフ表示である。データは、マクロファージ%の要約(A)、及びマクロファージ/mL(B)として示す。データは、平均±SEMとして示す。コントロールグループ及び7,500万個のoMPCグループについてはN=11;2,500万個及び1億5,000万個のoMPCグループについてはN=10。
図10図10は、生理食塩水及びMPC処置グループに関する研究過程にわたる気管支肺胞(BAL)洗浄液中のリンパ球を示す一連のグラフ表示である。データは、リンパ球%の要約(A)、及びリンパ球/mL(B)として示す。データは、平均±SEMとして示す。コントロールグループ及び7,500万個のoMPCグループについてはN=11;2,500万個及び1億5,000万個のoMPCグループについてはN=10。
図11図11は、喘息ヒツジの血清中におけるIgEレベルを示す一連のグラフ表示である。ELISAデータは、試験ヒツジの血清中、HDM特異的IgEに関する平均吸光度(Abs)レベルを示す。データは、平均±SEMとして示し、oMPC処置の前後のHDM-IgEレベルの比較(A)、並びに処置前から、1週間(B)及び4週間(C)でのIgEレベルの変化%を示す。処置前、処置1週間後、及び処置4週間後の血清は、それぞれ、試験51日目、72日目及び93日目に全てのヒツジから得た。コントロールグループ及び7,500万個のoMPCグループについてはN=11;2,500万個及び1億5,000万個のoMPCグループについてはN=10。*p<0.05 **p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0071】
詳細な説明
一般的技術及び選択された定義
本明細書を通じて、特記のない限り、又は文脈がそうでないことを要求する場合を除き、単一の工程、組成物、工程の群又は組成物の群への言及は、1及び複数(すなわち、1以上)のそれらの工程、組成物、工程の群又は組成物の群を包含すると解されるものとする。
【0072】
本明細書に記載の各例は、特記のない限り、本開示のそれぞれ及びすべての他の例に準用されるものとする。
【0073】
当業者ならば、本開示及びその個々の例が、具体的に記載されたもの以外の変形及び修正を許容できることを理解するであろう。本開示がそのような変形及び修正すべてを含むことを理解すべきである。本開示はまた、本明細書で言及又は表示される工程、特徴、組成物及び化合物のすべてを個々に又は集合的に、並びに前記工程又は特徴のいずれか及びすべての組み合わせ又はいずれか2以上を含む。
【0074】
本開示は、本明細書に含まれる開示の具体的な実施例によって範囲を制限されるものではなく、例示を目的とすることだけを意図している。機能的に等価な生成物、組成物、及び方法は、本明細書に記載されるように、明確に、本開示及びその実施例の範囲内にある。
【0075】
本開示は、特記のない限り、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶
液中でのペプチド合成、固相ペプチド合成及び免疫学の従来技術を用いて過度の実験なしに実施される。かかる手順は、例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Second Edition (1989), Vols I, II及びIIIの全部; DNA Cloning: A Practical Approach, Vols. I and II (D. N. Glover, ed., 1985), IRL Press, Oxford, テキスト全体; Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach (M. J. Gait, ed, 1984) IRL Press, Oxford, テ
キスト全体、特にその中でのGaitによるppl-22の論文; Atkinson et al, pp35-81; Sproat et al, pp 83-115; and Wu et al, pp 135-151; 4. Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach (B. D. Hames & S. J. Higgins, eds., 1985) IRL Press, Oxford,
テキスト全体; Immobilized Cells and Enzymes: A Practical Approach (1986) IRL Press, Oxford, テキスト全体; Perbal, B., A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); Methods In Enzymology (S. Colowick and N. Kaplan, eds., Academic Press, Inc.), シリーズ全体; J.F. Ramalho Ortigao, "The Chemistry of Peptide Synthesis" In:
Knowledge database of Access to Virtual Laboratory website (Interactiva, Germany); Sakakibara, D., Teichman, J., Lien, E. Land Fenichel, R.L. (1976). Biochem. Biophys. Res. Commun. 73 336-342; Merrifield, R.B. (1963). J. Am. Chem. Soc. 85,
2149-2154; Barany, G. and Merrifield, R.B. (1979) in The Peptides (Gross, E. and Meienhofer, J. eds.), vol. 2, pp. 1-284, Academic Press, New York. 12. Wunsch,
E., ed. (1974) Synthese von Peptiden in Houben-Weyls Metoden der Organischen Ch
emie (Muler, E., ed.), vol. 15, 4th edn., Parts 1 and 2, Thieme, Stuttgart; Bodanszky, M. (1984) Principles of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg; Bodanszky, M. & Bodanszky, A. (1984) The Practice of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg; Bodanszky, M. (1985) Int. J. Peptide Protein Res. 25, 449-474; Handbook of Experimental Immunology, VoIs. I-IV (D. M. Weir and C. C. Blackwell, eds., 1986, Blackwell Scientific Publications); 及びAnimal Cell Culture: Practical Approach, Third Edition (John R. W. Masters, ed., 2000), ISBN 0199637970,
テキスト全体、に記載されている。
【0076】
本明細書を通じて、文脈がそうでないことを要求する場合を除き、単語「含む(comprise)」、又は「含む(comprises)」若しくは「含むこと(comprising)」などの変化形
は、述べられた工程若しくは要素若しくは完全体(integer)、又は工程若しくは要素若
しくは完全体の群の包含を意味するが、あらゆる他の工程若しくは要素若しくは完全体、又は要素若しくは完全体の群の排除を意味するものではないことが理解されるであろう。
【0077】
本明細書で使用する場合、用語「由来する(derived from)」とは、特定の完全体(integer)が、具体的な供給源から、その供給源から必ずしも直接的ではないにしても得ら
れてよいことを示すものと解されるものとする。STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞に
由来する可溶性因子という文脈では、この用語は、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞
のin vitro培養の間に産生される1つ以上の因子、例えば、タンパク質、ペプチド、炭水
化物などを意味すると解されるものとする。
【0078】
用語「呼吸器系疾患」とは、対象において肺機能を低下させる任意の疾患又は状態を含むものと解されるものとし、例えば、喘息、慢性気管支炎、肺気腫、嚢胞性線維症、呼吸不全、肺浮腫、肺塞栓症、肺高血圧症(pulmonary hypertension)(高血圧(high blood
pressure))、肺炎及び結核症(TB)、肺癌、肺の硬直及び瘢痕化(例えば、薬物、毒
物、感染又は放射線により引き起こされる)、異常気圧に由来する肺障害(例えば、人工呼吸器により引き起こされる)を含む。一例において、呼吸器系疾患は、慢性肺疾患、及び/又は肺における炎症と関連する肺疾患であり、例えば、肺疾患は、喘息COPD又は嚢胞性線維症又は肺線維症又は細気管支炎又は肺胞炎又は血管炎又はサルコイドーシスである。別の例において、当該疾患は、対象の肺のリモデリング又は線維症と関連し、例えば、当該疾患は、肺線維症(例えば、特発性肺線維症)又は喘息である。
【0079】
本明細書で使用する場合、用語「喘息」とは、内因性若しくは外因性の刺激に対する可変気流制限及び気道過敏性と関連する、呼吸困難、胸部圧迫感、喘鳴、痰の産生及び咳の発作性若しくは持続性の症状により特徴付けられる疾患(Canadian Asthma Consensus Guidelines)、並びに/又は自然に若しくは治療時のいずれかにおいて多くの場合可逆的である可変気流閉塞を伴う、特に夜間若しくは早朝における、喘鳴、息切れ、胸部圧迫感及び咳嗽の再発エピソードを導く気道過敏性により特徴付けられる状態(The Global Initiative for Asthma)を意味することが理解されるだろう。
【0080】
本明細書で使用する場合、用語「重症喘息」とは、経口コルチコステロイドの使用の有無にかかわらず、高用量から非常に高用量の吸入コルチコステロイドにて十分にコントロールされる喘息症状を意味することが理解され;且つ「非常に重症な喘息」とは、追加の治療を必要とするかどうかにかかわらず、且つ非常に高用量の吸入及び摂取コルチコステロイドにもかかわらず、十分にコントロールされない喘息症状、又は十分にコントロールされる喘息症状を意味することが理解されるだろう。これらの定義について、吸入コルチコステロイドの高い日用量及び非常に高い日用量(およそ等価な用量)は以下のように定義される:高用量とは、ベクロメタゾンジプロプリオネート(beclomethasone diproprionate)1000~2000 μg;フルチカゾン500~1000 μg;及びブデソニド800~1600 μgであ
り、非常に高用量とは、フルチカゾン1000~2000 μg及びブデソニド1600~3200 μgである。
【0081】
本明細書で使用する場合、用語「難治性喘息」は、「致命的」又は「ほぼ致命的」な喘息、並びに喘息のサブグループであって、「重症喘息」及び「ステロイド依存性及び/又は抵抗性喘息」、「コントロールが困難な喘息」、「十分にコントロールされていない喘息」、「ブリットル(brittle)喘息」、又は「不可逆性喘息」として以前に記載される
ものを有する患者を含む。難治性喘息は、American Thoracic Societyガイドラインによ
り、以下に記載する1つ又は両方のメジャー基準及び2つのマイナー基準を満たす場合に定義され得る。メジャー基準は以下である:軽度から中等度の持続性喘息レベルへとコントロールを達成するために:(1)連続的又はほぼ連続的(1年のうち≧50%)な経口コルチコステロイドでの治療、(2)高用量吸入コルチコステロイドでの治療の必要性。マイナ
ー基準は以下である:(1)吸入コルチコステロイドに加えてコントローラー医薬(例え
ば、LABA、テオフィリン又はロイコトリエンアンタゴニスト)での毎日の治療の必要性、(2)毎日又はほぼ毎日のように、短時間作用性βアゴニストの使用を必要とする喘息症
状、(3)持続性気道閉塞(FEV1<80%予測値;日中の最大呼気流量(PEF)変動性>20%)、(4)年間1回以上の喘息に関する緊急ケア訪問、(5)年間3回以上の経口ステロイド「バースト(bursts)」、(6)経口又は吸入コルチコステロイド用量の≦25%の減少を
伴う急速な悪化、(7)過去のほぼ致命的な喘息事象。難治性喘息の定義の目的のために
、薬物(μg/d)及び用量(puffs/d)は以下のとおりである:(a)ジプロピオン酸ベク
ロメタゾン>1,260>40 puffs(42 μg/吸入)>20 puffs(84 μg/吸入);(b)ブデソ
ニド>1,200>6 puffs;(c)フルニソリド>2,000>8 puffs;(d)プロピオン酸フルチカゾン>880>8 puffs(110 μg)、>4 puffs(220 μg);(e)トリアムシノロンアセトニド>2,000>20 puffs。
【0082】
本明細書で使用する場合、用語「急性喘息」又は「アレルギー性喘息」とは、気道の下気道粘膜下に位置するマスト細胞を活性化するアレルゲン(例えば、ダストマイトの糞又は花粉)により誘発される喘息をいう。マスト細胞の活性化は、鼻上皮を刺激する顆粒の放出を誘発して、粘液を産生し、その後、気道内の平滑筋の収縮をもたらす。この平滑筋の収縮により、気道が収縮され、特徴的な喘息の喘鳴が引き起こされる。
【0083】
「慢性喘息」はアレルゲンにより引き起こされず、むしろ急性喘息から得られる炎症の結果である。全体的な急性喘息の作用は、慢性的な炎症を引き起こし、これにより粘膜上皮を環境応答に対して過敏性にさせる。非常に単純な環境要因、例えば煙などによって、過敏性上皮が刺激され、多量の粘液及び収縮が生じ得る。
【0084】
本明細書で使用する場合、用語「特発性肺線維症」とは、肺の支持フレームワーク(間質)の線維症により特徴付けられる、未知の起源の慢性で進行性の肺疾患の形態を意味することが理解されるものとする。一般的な症状は、進行性呼吸困難(progressive dyspnea)(呼吸困難(difficulty breathing))であるが、乾性咳嗽、クラビング(指の変形
(disfigurement))、及びラ音(聴診器で聞こえる、吸入の間の肺における有響音)も
含む。特発性間質性肺炎に関する2002 ATS/ERS Multidisciplinary Consensus Statementは、肺生検を行うことなくIPFの診断を確立するために以下の基準を提案した:
・メジャー基準(4つ全てが必要):
○間質性肺疾患の他に知られた原因の排除(薬物、暴露、結合組織疾患);
○拘束性(肺活量の低下)及びガス交換障害(pO2, p(A-a)O2, DLCO)の所見を有
する肺機能検査異常;
○高分解能CT(high-resolution CT)スキャンで最小のすりガラス様を有する両肺底部の網状の異常;及び
○経気管支肺生検又は気管支肺胞洗浄(BAL)で代替的診断を支持する特徴が示され
ないこと。
・マイナー基準(4つのうち3つが必要):
○年齢>50歳;
○他の理由では説明できない労作時呼吸困難の潜行性の発症;
○病気の期間が>3ヶ月;及び
○両側肺野の吸気性クラックル。
【0085】
用語「憎悪」とは、呼吸器系疾患の呼吸器症状の悪化(exaggeration)(例えば、喘息発作)を意味することが理解されるものとする。
【0086】
「早期(early phase)アレルギー反応」(又は喘息反応)は、典型的には、アレルゲ
ン暴露後2時間以内、又は1時間若しくは30分若しくは10分若しくは1分以内に生じ、一般
的には、即時性アレルギー反応又はI型アレルギー反応とも称される。当該反応は、脱顆
粒と称されるプロセスによるヒスタミン及びマスト細胞顆粒タンパク質の放出、並びにマスト細胞FcεRI受容体と結合するアレルゲン特異的IgE分子の架橋後のマスト細胞による
ロイコトリエン、プロスタグランジン及びサイトカインの産生により生じる。これらのメディエータは、神経細胞に影響を及ぼして掻痒を引き起こし、平滑筋細胞に影響を及ぼして収縮を引き起こし(アレルギー性喘息で見られる気道の狭窄を導く)、杯細胞に影響を及ぼして粘液産生を引き起こし、且つ内皮細胞に影響を及ぼして血管拡張及び浮腫を引き起こす。
【0087】
「遅発性アレルギー反応」(又は喘息反応)は通常、アレルゲン暴露後約6~12時間、
又は8~12時間で発症し、例えばマスト細胞などにより媒介される。初期反応の生成物は
、ケモカイン及び内皮細胞に作用する分子を含み、それらに細胞間接着分子(例えば、血管細胞接着分子及びセレクチン)を発現させ、それらは一緒になって、血液中からアレルギー反応部位への白血球の動員及び活性化をもたらす。典型的には、アレルギー反応で観察される浸潤細胞は、高い割合のリンパ球、特に好酸球を含む。動員された好酸球は、脱顆粒して、多くの細胞傷害性分子(主要塩基性タンパク質及び好酸球ペルオキシダーゼを含む)を放出し、且つIL-5などの多くのサイトカインを産生するだろう。動員されたT細
胞は、典型的には、Th2バラエティのものであり、それらが産生するサイトカインは、マ
スト細胞及び好酸球の更なる動員、並びに形質細胞におけるIgEへのアイソタイプの交換
を導き、これがマスト細胞FcεRI受容体と結合し、更なるアレルギー反応のために個体をプライミング(prime)する。
【0088】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」とは、本明細書に記載するような呼吸器系疾患の1つ以上の症状を低下させるのに十分な量のSTRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子を意味すると解されるものとする。
【0089】
本明細書で使用する場合、用語「治療上有効量」とは、呼吸器系疾患を治療するのに十分な量、すなわち対象が呼吸器系疾患又はその憎悪についての臨床基準をもはや満たさなくなるような量の、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶
性因子を意味すると解されるものとする。
【0090】
本明細書で使用する場合、用語「予防上有効量」とは、呼吸器系疾患又はその憎悪の発症、又はその再発を予防する又は抑制する又は遅延させるのに十分な量のSTRO-1+細胞及
び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子を意味すると解されるものとする。
【0091】
本明細書で使用する場合、用語「全身用量(whole body dose)」とは、対象が、その
体重又は体表面積にかかわらず、特定用量の細胞及び/又は可溶性因子を投与されること
を意味することが理解されるだろう。
【0092】
本明細書で使用する場合、用語「治療する(treat)」又は「治療(treatment)」又は「治療すること(treating)」とは、治療上有効量の可溶性因子及び/又は細胞を投与すること、並びに呼吸器系疾患の症状(1以上)を、対象がもはや当該疾患又はその憎悪を
伴うと臨床的に診断されないように低下させる又は抑制することを意味すると理解されるものとする。
【0093】
本明細書で使用する場合、用語「予防する(prevent)」又は「予防すること(preventing)」又は「予防(prevention)」とは、予防上有効量の可溶性因子及び/又は細胞を
投与すること、並びに呼吸器系疾患又はその憎悪の発症又は進行を停止する又は妨げる又は遅延させることを意味すると解されるものとする。呼吸器系疾患を予防することはまた、予防上有効量の可溶性因子及び/又は細胞を投与すること、並びに当該疾患の憎悪の頻度を予防又は低下させることを包含する。
【0094】
本明細書で使用する場合、用語「可溶性因子」とは、STRO-1+細胞及び/又はその子孫
によって産生される、水溶性の任意の分子、例えば、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、炭水化物などを意味すると解されるものとする。かかる可溶性因子は、細胞内にあってよく、及び/又は細胞によって分泌されてよい。かかる可溶性因子は、複雑な混合物(例えば上清)及び/若しくはその画分(fraction)であってよく、並びに/又は精製された因子であってよい。一例において、可溶性因子は、上清であるか、又は上清内に含有される。従って、1つ以上の可溶性因子の投
与を目的とする本明細書のいかなる例も、上清の投与に準用されると解されるものとする。
【0095】
本明細書で使用する場合、用語「上清」とは、適切な培地(例えば、液体培地)においてSTRO-1+細胞及び/又はその子孫のin vitroでの培養後に生成される非細胞性物質をい
う。典型的には、上清は、適切な条件及び時間下にて培地中で細胞を培養し、それに続いて、遠心分離などのプロセスにより細胞性物質を除去することによって生成される。上清は、投与前にさらなる精製工程に供されていてよく、又は供されていなくてもよい。一例において、上清は、105個未満、さらには104個未満など、例えば103個未満の生細胞を含
み、例えば生細胞を含まない。
【0096】
本明細書で使用する場合、用語「正常又は健康な個体」とは、当分野で既知の及び/又は本明細書に記載の任意の方法により評価されるように、呼吸器系疾患に罹患していない対象を意味すると解されるものとする。一例において、「正常又は健康な個体」は、呼吸器系疾患の症状のいずれにも罹患していない。
【0097】
アレルゲン
一例において、本開示は、アレルゲンに対する反応(例えば、アレルギー反応)を低下させる又は予防するための方法を提供する。本明細書で使用する場合、用語「アレルゲン」とは、特異的なIgE形成(すなわちアレルギー反応)を誘導することができる1つ以上の抗原を含む物質を意味すると解されるものとする。IgEの生成後、IgEはマスト細胞又は好塩基球の表面上のFc受容体と結合する。その後のアレルゲンへの暴露後、アレルゲンの少なくとも2つのエピトープと結合した少なくとも2つのIgE抗体が、IgE分子のFab'領域の架橋を引き起こし、マスト細胞又は好塩基球において様々な血管作用性アミン(例えば、ヒスタミン)の放出がもたらされ、これによりアレルギー症状が誘導される。用語アレルゲンは、すべてのタイプのアレルゲン、例えば、ポリペプチドアレルゲン、リン脂質アレルゲン、脂肪酸又は炭水化物などを含む。一般的なアレルゲンの例を表1に記載する。
【0098】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0099】
一例において、アレルゲンは動物、例えば哺乳動物、例えばイヌ又はネコ又はラット又はマウスなどに由来する。
【0100】
一例において、アレルゲンは植物、例えば植物花粉などに由来する。
【0101】
一例において、アレルゲンは昆虫、例えばダニなどに由来する。
【0102】
一例において、アレルゲンはHDMである。
【0103】
STRO-1 + 細胞又は子孫細胞、及びそれに由来する上清又は1つ以上の可溶性因子
STRO-1+細胞は、骨髄、血液、乳歯(例えば、脱落乳歯)、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚
、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靱帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜で見られる細胞である。
【0104】
一例において、STRO-1+細胞は、1つ以上、又は2つ以上及び/又は3つの生殖細胞系(中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉など)に分化することができる。
【0105】
一例において、STRO-1+細胞は、多数の細胞型(脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組
織、筋肉組織及び線維性結合組織を含むが、これらに限定されない)に分化可能な多能性(multipotential)細胞である。これらの細胞が進む特定の分化系列決定及び分化経路は、機械的影響及び/又は内因性生物活性因子(例えば、増殖因子、サイトカイン)、及び/又は宿主組織によって確立される局所微小環境条件からの様々な影響によって決まる。従って、STRO-1+多能性細胞は、分裂して、幹細胞又は前駆細胞(その後、不可逆的に分
化して、表現型細胞を生じる)のいずれかである娘細胞を生じる、非造血系前駆細胞である。
【0106】
一例において、STRO-1+細胞は、対象、例えば、治療を受けるべき対象又は近縁(related)の対象若しくは非近縁(unrelated)の対象(同一種か異種かにかかわらない)から
得られたサンプルから富化される。用語「富化された(enriched)」、「富化(enrichment)」、又はその変化形は、無処置の細胞集団(例えば、天然環境にある細胞)と比較した場合に、ある特定の細胞型の割合又はいくつかの特定の細胞型の割合が増加している細胞集団を記述するために本明細書で使用する。一例において、STRO-1+細胞が富化された
集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%
又は25%又は30%又は50%又は75%のSTRO-1+細胞を含む。この点について、用語「STRO-1+細胞が富化された細胞集団」は、用語「X%のSTRO1+細胞を含む細胞集団」(ここで、X%は、本明細書で記載されるパーセンテージである)を明確に支持すると解されるであろう。
【0107】
STRO-1+細胞は、いくつかの例において、クローン原性コロニー、例えば、CFU-F(線維芽細胞)を形成し得、又はそのサブセット(例えば、50%又は60%又は70%又は70%又は90%又は95%)は、この活性を有し得る。
【0108】
一例において、細胞集団は、選択可能な形態でSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から富化
される。この点について、用語「選択可能な形態」とは、細胞が、STRO-1+細胞の選択を
可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解されるであろう。マーカーは、STRO-1であり得るが、そうである必要はない。例えば、本明細書に記載される及び/又は例示されるように、STRO-2及び/又はSTRO-3(TNAP)及び/又はSTRO-4及び/又はVCAM-1及び/又はCD146及び/又は3G5を発現する細胞(例えば、MPC
)はまた、STRO-1を発現(且つSTRO-1強陽性(bright)であり得る)する。従って、細胞がSTRO-1+であるとの表示は、細胞がSTRO-1発現によって選択されることを意味するもの
ではない。一例において、細胞は、少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えば、それらはSTRO-3+(TNAP+)である。
【0109】
細胞又はその集団の選択への言及は、特定の組織源からの選択を必要としない。本明細書に記載されるように、STRO-1+細胞は、非常に多様な供給源から選択又は単離又は富化
され得る。とはいえ、いくつかの例において、これらの用語は、STRO-1+細胞(例えば、MPC)を含む任意の組織、又は血管組織、又は周皮細胞(例えば、STRO-1+周皮細胞)を含
む組織、又は本明細書に列挙される組織のいずれか1つ以上からの選択を支持する。
【0110】
一例において、本開示の方法で使用される細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+
、STRO-4+(HSP-90β)、CD45+、CD146+、3G5+又はその任意の組み合わせからなる群から個々に又は集合的に選択される1つ以上のマーカーを発現する。
【0111】
「個々に(individually)」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はマーカー群を個別に包含すること、及び個々のマーカー又はマーカー群が本明細書に個別に列挙されていなくてもよいにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、かかるマーカー又はマーカー群を互いに個別且つ可分的に定義してよいことを意味する。
【0112】
「集合的に(collectively)」とは、本開示が、列挙されたマーカー又はペプチド群の任意の数又は組み合わせを包含すること、及びかかるマーカー又はマーカー群の数又は組み合わせが本明細書に具体的に列挙されていなくてもよいにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、かかる組み合わせ又は部分的組み合わせ(sub-combinations)を、マーカー又はマーカー群の任意の他の組み合わせから個別且つ可分的に定義してよいことを意味する。
【0113】
例えば、STRO-1+細胞はSTRO-1強陽性(bright)(STRO-1強陽性(bri)と同義)である。一例において、Stro-1強陽性(bri)細胞は、STRO-1弱陽性(dim)又はSTRO-1中間(intermediate)細胞と比較して優先的に富化される。
【0114】
一例において、STRO-1強陽性(bright)細胞はさらに、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、STRO-2+、STRO-4+(HSP-90β)及び/又はCD146+の1つ以上(又はすべて)である。例えば、
細胞は、1つ以上の前記マーカーに対して選択され、且つ/或いは1つ以上の前記マーカーを発現することが示される。この点について、マーカーを発現することが示される細胞は、具体的に試験される必要はなく、むしろこれまで富化又は単離された細胞を試験でき、その後使用される単離又は富化された細胞は、同様に同じマーカーを発現するものと合理的に推定できる。
【0115】
一例において、間葉系前駆細胞は、WO 2004/85630で定義されるような、血管周囲の間
葉系前駆細胞である。
【0116】
所与のマーカーに関して「陽性」であるとされる細胞は、該マーカーが細胞表面上に存在する程度に応じて、低(低(lo)又は弱陽性(dim))レベル若しくは高(強陽性(bright、bri))レベルのいずれかのレベルのマーカーを発現してよく、ここで、該用語は、蛍光強度、又は細胞のソーティングプロセスで使用される他のマーカーに関する。低(lo)(又は弱陽性(dim)若しくは微陽性(dull))及び強陽性(bri)の区別は、ソーティングされる特定の細胞集団で使用されるマーカーとの関連で理解されるだろう。所与のマーカーに関して「陰性」であるとされる細胞は、必ずしもその細胞に全く存在していないわけではない。この用語は、マーカーが当該細胞によって相対的に非常に低いレベルで発現されること、及び検出可能に標識された場合に非常に低いシグナルを生じるか、又はバックグラウンドレベル(例えば、アイソタイプコントロール抗体を用いて(suing)検出
されるレベル)を超えて検出不能であることを意味する。
【0117】
用語「強陽性(bright)」とは、本明細書で使用する場合、検出可能に標識された場合に相対的に高いシグナルを生じる細胞表面上のマーカーをいう。理論に制限されることを望むものではないが、「強陽性(bright)」細胞は、サンプル中の他の細胞よりも、標的マーカータンパク質(例えば、STRO-1により認識される抗原)を多く発現すると提案される。例えば、STRO-1強陽性(bri)細胞は、FITC結合STRO-1抗体で標識された場合、蛍光
活性化セルソーティング(FACS)分析によって測定されるように、強陽性でない(non-bright)細胞(STRO-1微陽性(dull)/弱陽性(dim))よりも大きな蛍光シグナルを生成
する。一例において、「強陽性(bright)」細胞は、出発サンプル中に含まれる、少なくとも約0.1%の最も明るく標識された細胞(例えば、骨髄単核細胞)を構成する。他の例
において、「強陽性(bright)」細胞は、出発サンプル中に含まれる、少なくとも約0.1
%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、又は少なくとも約2%の最も明るく標識された細胞(例えば、骨髄単核細胞)を構成する。一例において、STRO-1強陽性(bright)細胞は、「バックグラウンド」、すなわちSTRO-1-である細胞と比較し
て、STRO-1表面発現が2ログマグニチュード(2 log magnitude)高い発現を有する。比較した場合、STRO-1弱陽性(dim)及び/又はSTRO-1中間(intermediate)細胞は、「バッ
クグラウンド」よりもSTRO-1表面発現が2ログマグニチュード未満高い発現を有し、典型
的には約1ログ未満である。
【0118】
本明細書で使用する場合、用語「TNAP」とは、組織非特異型アルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図される。例えば、当該用語は、肝アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)及び腎アイソフォーム(KAP)を包含する。一例
において、TNAPはBAPである。一例において、TNAPは、本明細書で使用する場合、ブダペ
スト条約の規定に基づきPTA-7282の寄託アクセッション番号で2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるSTRO-3抗体と結合することができる分子をいう。
【0119】
さらに、好ましい一例において、STRO-1+細胞はクローン原性CFU-Fを生じさせることができる。
【0120】
一例において、かなりの割合のSTRO-1+多能性細胞が、少なくとも2つの異なる生殖細胞系に分化することができる。多能性細胞が決定(committed)され得る系列の非限定的な
例として、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞に対して多能性である肝細胞前駆細胞;乏突起膠細胞及び星状膠細胞へと進行するグリア細胞前駆細胞を生じることができる神経限定細胞(neural restricted cells);ニューロンへと進行する神経前駆細胞;心筋及
び心筋細胞の前駆細胞、グルコース応答性インスリン分泌膵β細胞株が挙げられる。他の系列として、象牙芽細胞、象牙質産生細胞及び軟骨細胞、並びに以下の前駆細胞:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、尿細管(renal duct)上皮細胞、平滑筋細胞及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄基質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経細胞、星状膠細胞及び乏突起膠細胞、が挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
別の例において、STRO-1+細胞は、培養に際して、造血細胞を生じさせることができな
い。
【0122】
一例において、細胞は、治療されるべき対象から得られ、標準的な技術を用いてin vitroで培養され、自己成分又は同種異系成分として該対象に投与するための上清又は可溶性因子又は増殖細胞を得るために用いられる。代替的な例において、樹立されたヒト細胞株の1つ以上の細胞が用いられる。本開示の別の有用な例において、非ヒト動物(又は患者
がヒトでない場合、別の種由来)の細胞が用いられる。
【0123】
本開示は、in vitro培養から生成される、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞(後者
は増殖細胞(expanded cells)とも称される)から得られる又は由来する上清又は可溶性因子の使用も企図する。本開示の増殖細胞は、培養条件(培地中の刺激因子の数及び/又は種類を含む)、継代数などに応じて、種々様々な表現型を有してよい。ある例において、子孫細胞は、親集団から約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9又は約10継代後に得られる。しかしながら、子孫細胞は、親集団から任意の数の継代後に得られてよい。
【0124】
子孫細胞は任意の適切な培地中で培養することによって得られてよい。用語「培地(medium)」とは、細胞培養に関して使用される場合、細胞周辺の環境の成分を含む。培地は、固体、液体、気体、又は相及び物質の混合物であってよい。培地は、液体増殖培地、及び細胞増殖を維持しない液体培地を含む。培地はまた、寒天、アガロース、ゼラチン及びコラーゲン基質などのゼラチン質の培地も含む。例示的な気体培地は、ペトリ皿又は他の固体若しくは半固体の支持体上で増殖する細胞が暴露される気相を含む。用語「培地」とはまた、それが未だ細胞と接触していない場合であっても、細胞培養での使用を目的とした物質をいう。すなわち、細菌培養用に調製された、栄養分に富む液体が培地である。水
又は他の液体と混合されたときに細胞培養に適したものとなる粉末状混合物は、「粉末状培地」と称され得る。
【0125】
一例において、本開示の方法に有用な子孫細胞は、STRO-3抗体で標識した磁気ビーズを用いて、TNAP+ STRO-1+細胞を骨髄から単離し、次いでその単離細胞を培養増殖すること
によって得られる(適切な培養条件の例は、Gronthos et al. Blood 85: 929-940, 1995
を参照)。
【0126】
一例において、かかる増殖細胞(子孫)(例えば、少なくとも5継代後)は、TNAP-、CC9+、HLAクラスI+、HLAクラスII-、CD14-、CD19-、CD3-、CD11a-c-、CD31-、CD86-、CD34-及び/又はCD80-であり得る。しかし、本明細書に記載の条件とは異なる培養条件下では
、種々のマーカーの発現が異なり得る可能性がある。また、これらの表現型の細胞は増殖細胞集団において優勢であり得るが、一方で、そのことはこの表現型(1以上)を有さな
い細胞が少ない割合で存在すること(例えば、わずかな比率の増殖細胞がCC9-であり得る)を意味するものではない。一例において、増殖細胞は異なる細胞型への分化能を未だなお有している。
【0127】
一例において、上清若しくは可溶性因子、又は細胞それ自体を得るために用いられる消費(expended)細胞集団は、細胞の少なくとも25%、例えば少なくとも50%などがCC9+である細胞を含む。
【0128】
別の例において、上清若しくは可溶性因子、又は細胞それ自体を得るために用いられる増殖細胞集団は、細胞の少なくとも40%、例えば少なくとも45%などがSTRO-1+である細
胞を含む。
【0129】
さらなる例において、増殖細胞は、LFA-3、THY-1、VCAM-1、ICAM-1、PECAM-1、P-セレ
クチン、L-セレクチン、3G5、CD49a/CD49b/CD29、CD49c/CD29、CD49d/CD29、CD 90、CD29、CD18、CD61、インテグリンβ6-19、トロンボモジュリン、CD10、CD13、SCF、PDGF-R、EGF-R、IGF1-R、NGF-R、FGF-R、レプチン-R(STRO-2=レプチン-R)、RANKL、STRO-4(HSP-90β)、STRO-1強陽性(bright)及びCD146、又はこれらのマーカーの任意の組み合わせからなる群から集合的に又は個々に選択される1つ以上のマーカーを発現してよい。
【0130】
一例において、子孫細胞は、WO 2006/032092に定義及び/又は記載されるような、多能性増殖STRO-1+多能性細胞子孫(Multipotential Expanded STRO-1+ Multipotential cells Progeny)(MEMP)である。子孫が由来し得るSTRO-1+多能性細胞の富化集団を調製するための方法は、WO 01/04268及びWO 2004/085630に記載される。in vitroの状況では、STRO-1+多能性細胞は完全に純粋な調製物として存在することは稀であり、通常は組織特異的分化決定済細胞(tissue specific committed cells)(TSCC)である他の細胞と共に存
在するだろう。WO 01/04268は、そのような細胞を骨髄から約0.1%~90%の純度レベルで収集することに言及している。子孫が由来するMPCを含む集団は、組織源から直接収集さ
れてよく、或いはまたex vivoで既に増殖されている集団であってよい。
【0131】
例えば、子孫は、実質的に精製されたSTRO-1+多能性細胞の収集され増殖されていない
集団(それらが存在する集団の全細胞の少なくとも約0.1、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80又は95%を含む)から得られてよい。このレベルは、例えば、TNAP、STRO-4(HSP-90β)、STRO-1強陽性(bright)、3G5+、VCAM-1、THY-1、CD146及びSTRO-2からなる
群から個々に又は集合的に選択される少なくとも1つのマーカーが陽性である細胞を選択
することによって達成されてよい。
【0132】
MEMPSは、STRO-1強陽性(bri)マーカーに対して陽性であり、アルカリホスファターゼ
(ALP)マーカーに対して陰性であるという点で、新たに収集されたSTRO-1+多能性細胞と区別することができる。対照的に、新たに単離されたSTRO-1+多能性細胞は、STRO-1強陽
性(bri)及びALPの両方に対して陽性である。本開示の一例において、投与される細胞の少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は95%が、STRO-1強陽性(bri)、ALP-の表現型を有する。さらなる一例において、MEMPSは、Ki67、CD44及び/又はCD49c/CD29、VLA-3、α3β1マーカーの1つ以上に対して陽性である。なおさらなる一例において、MEMPは、TERT活性を示さず、且つ/又はCD18マーカーに対して陰性である。
【0133】
STRO-1+細胞出発集団は、WO 01/04268又はWO 2004/085630に記載される任意の1つ以上
の組織型、すなわち、骨髄、歯髄細胞、脂肪組織及び皮膚由来であってよく、或いはおそらくより広範に、脂肪組織、歯、歯髄、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、脾臓、リンパ節、胸腺、膵臓、骨、靱帯、骨髄、腱及び骨格筋由来であってもよい。
【0134】
本開示に記載の方法を実施する際、任意の所与の細胞表面マーカーを保持する細胞の分離は、多数の異なる方法によって達成できるが、例示的な方法は、結合剤(例えば、抗体又はその抗原結合断片)を関連するマーカーへと結合し、それに続いて、結合(高レベルの結合又は低レベルの結合又は結合なしのいずれかである)を示すものを分離することに依ることが理解されるだろう。最も簡便な結合剤は、抗体又は抗体ベースの分子であり、例えば、モノクローナル抗体、又はこれらの後者の作用物質(agents)の特異性によりモノクローナル抗体に基づくもの(例えば、その抗原結合断片を含むタンパク質)である。抗体は両方の工程で使用することができるが、他の作用物質を用いてもよく、従って、これらのマーカーに対するリガンドを用いて、それらを保持する細胞、又はそれらを欠く細胞を富化してよい。
【0135】
抗体又はリガンドは、粗分離を可能にするために固体支持体に結合させてよい。例えば、分離技術により、回収される画分の生存率の保持が最大化される。異なる効率の種々の技術を用いて、比較的粗い分離を得てよい。使用される特定の技術は、分離効率、随伴する細胞毒性、実施の容易性及びスピード、並びに高性能機器及び/又は技巧の必要性に応じて決まるだろう。分離の手順は、抗体コーティング磁気ビーズを用いた磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、及び固体マトリックスに付着した抗体での「パンニング(panning)」を含んでよいが、これらに限定されない。正確な分離を提供する技術とし
てFACSが挙げられるが、これに限定されない。FACSを実施するための方法は、当業者には明らかであるだろう。
【0136】
本明細書に記載のマーカーの各々に対する抗体は市販されており(例えば、STRO-1に対するモノクローナル抗体はR&D Systems, USAから市販される)、ATCC若しくは他の寄託機関から入手可能であり、且つ/或いは当該分野で認知される技術を用いて作製することができる。
【0137】
一例において、STRO-1+細胞を単離するための方法は、例えば、STRO-1の高レベル発現
を認識する磁気活性化セルソーティング(magnetic activated cell sorting)(MACS)
を利用する固相ソーティング工程である第一の工程を含む。次いで、所望であれば、第二のソーティング工程を続けて、特許明細書WO 01/14268に記載されるように、より高レベ
ルの前駆細胞発現をもたらすことができる。この第二のソーティング工程は、2以上のマ
ーカーの使用を伴ってよい。
【0138】
STRO-1+細胞を得る方法は、既知の技術を用いて、第一の富化工程の前に細胞の供給源
を収集することを含んでもよい。従って、組織は外科的に摘出されるだろう。次いで、細胞を含む供給源組織は、いわゆる単細胞浮遊液へと分離されるだろう。この分離は、物理
的及び又は酵素的手段によって達成されてよい。
【0139】
適切なSTRO-1+細胞集団が得られたら、任意の適切な手段によりそれを培養又は増殖さ
せてMEMPを得てよい。
【0140】
一例において、細胞は、治療されるべき対象から得られ、標準的な技術を用いてin vitroで培養され、自己成分又は同種異系成分として該対象に投与するための上清又は可溶性因子又は増殖細胞を得るために用いられる。代替的な例において、樹立されたヒト細胞株の1つ以上の細胞が、上清又は可溶性因子を得るために使用される。本開示の別の有用な
例において、非ヒト動物(又は患者がヒトでない場合、別の種由来)の細胞が、上清又は可溶性因子を得るために使用される。
【0141】
本開示の方法及び使用は、任意の非ヒト動物種由来の細胞(非ヒト霊長類細胞、有蹄動物、イヌ科、ネコ科、ウサギ目、げっ歯類、鳥類、及び魚類の細胞を含むが、これらに限定されない)を用いて実施できる。本開示の方法を実施してよい霊長類細胞として、チンパンジー、ヒヒ、カニクイザル、及び他の任意の新世界ザル又は旧世界ザルの細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本開示を実施してよい有蹄動物細胞として、ウシ属、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ科、バッファロー及びバイソンの細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本開示を実施してよいげっ歯類細胞として、マウス、ラット、モルモット、ハムスター及びスナネズミ(gerbil)の細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本開示を実施してよいウサギ目の種の例として、家畜のウサギ、ジャック・ウサギ(jack rabbits)、野ウサギ、ワタオウサギ、カンジキウサギ、及びナキウサギが挙げられる。ニワトリ(Gallus gallus)は、本開示の方法を実施してよい鳥類の種の例である。
【0142】
一例において、細胞はヒト細胞である。
【0143】
本開示の方法に有用な細胞は、使用前、又は上清若しくは可溶性因子を得る前に、保管されてよい。真核細胞、特に哺乳動物細胞を保存及び保管するための方法及びプロトコールは、当分野で既知である(例えば、Pollard, J. W. and Walker, J. M.(1997)Basic Cell Culture Protocols, Second Edition, Humana Press, Totowa, N.J.; Freshney, R.
I.(2000)Culture of Animal Cells, Fourth Edition, Wiley-Liss, Hoboken, N.J.を
参照)。単離された幹細胞、例えば間葉系幹/前駆細胞、又はその子孫の生物活性を維持する任意の方法を、本開示に関連して利用してよい。一例において、細胞は、凍結保存を用いることにより維持及び保管される。
【0144】
遺伝子改変細胞
一例において、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞は、例えば目的のタンパク質を発
現及び/又は分泌するために、遺伝子改変される。例えば、細胞は、呼吸器系疾患の治療に有用なタンパク質、例えば、プロテアーゼ、DNアーゼ(DNAse)又はサーファクタント
タンパク質(例えば、サーファクタントタンパク質C)などを発現するよう操作される。
【0145】
細胞を遺伝的に改変するための方法は、当業者に明らかであるだろう。例えば、細胞で発現されるべき核酸は、細胞での発現を誘導するためのプロモーターと操作可能に連結される。例えば、核酸は、対象の様々な細胞中で操作可能なプロモーター、例えば、ウイルスプロモーター(例えば、CMVプロモーター(例えば、CMV-IEプロモーター)又はSV-40プロモーター)などに連結される。さらなる適切なプロモーターは当分野で既知であり、本開示の例に準用すると解されるものとする。
【0146】
一例において、核酸は発現コンストラクトの形態で提供される。本明細書で使用する場合、用語「発現コンストラクト」とは、細胞中、操作可能に連結された核酸(例えば、レ
ポーター遺伝子及び/又は対抗選択可能(counter-selectable)なレポーター遺伝子)を発現させる能力を有する核酸をいう。本開示の文脈において、発現コンストラクトは、プラスミド、バクテリオファージ、ファージミド、コスミド、ウイルスのサブゲノム断片若しくはゲノム断片、又は異種DNAを発現可能な形態で維持及び/若しくは複製できる他の
核酸を含むか、又はそれらであってよいことが理解されるべきである。
【0147】
本開示を実施するための適切な発現コンストラクトを構築するための方法は、当業者に明らかであり、例えば、Ausubel et al(In: Current Protocols in Molecular Biology.
Wiley Interscience, ISBN 047 150338, 1987)又は Sambrook et al(In: Molecular Cloning: Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories,
New York, Third Edition 2001)に記載される。例えば、発現コンストラクトの各成分
は、例えばPCRを用いて適切な鋳型核酸から増幅され、その後、例えばプラスミド又はフ
ァージミドなどの適切な発現コンストラクト中にクローニングされる。
【0148】
かかる発現コンストラクトに適切なベクターは、当分野で既知であり、及び/又は本明細書に記載される。例えば、哺乳動物細胞における本開示の方法に適した発現ベクターは、例えば、Invitrogenより提供されるpcDNAベクター一式のベクター、pCIベクター一式(Promega)のベクター、pCMVベクター一式(Clontech)のベクター、pMベクター(Clontech)、pSIベクター(Promega)、VP16ベクター(Clontech)又はpcDNAベクター一式(Invitrogen)のベクターなどである。
【0149】
当業者は、さらなるベクター、及びかかるベクターの供給源、例えば、Life Technologies Corporation、Clontech又はPromegaなどを承知しているだろう。
【0150】
単離された核酸分子又はそれを含む遺伝子コンストラクトを発現のために細胞に導入するための手段は当業者に既知である。所与の生物に使用される技術は、既知の成功した技術によって決まる。組換えDNAを細胞に導入するための手段として、マイクロインジェク
ション、DEAE-デキストランによって媒介されるトランスフェクション、リポソームによ
って媒介されるトランスフェクション、例えば、リポフェクタミン(Gibco, MD, USA)及び/又はセルフェクチン(Gibco, MD, USA)を用いることによるもの、PEGによって媒介
されるDNAの取り込み、エレクトロポレーション、並びに微粒子銃法(microparticle bombardment)、例えば、DNAをコーティングしたタングステン又は金粒子(Agracetus Inc.,
WI, USA)を用いることによるもの、が特に挙げられる。
【0151】
或いは、本開示の発現コンストラクトはウイルスベクターである。適切なウイルスベクターは当分野で既知であり、市販されている。核酸のデリバリー及び宿主細胞ゲノムへの核酸の組込みのための従来のウイルスベースの系として、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター又はアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。或いは、アデノウイルスベクターは、エピソームのまま核酸を宿主細胞に導入するのに有用である。ウイルスベクターは、標的細胞及び組織における、効率的且つ用途の広い遺伝子導入方法である。さらに、高い導入効率が、多くの異なる細胞型及び標的組織で確認されている。
【0152】
例えば、レトロウイルスベクターは、通常、最大6~10 kbの外来配列パッケージング容量を有する、シス作動性長鎖末端反復配列(long terminal repeats)(LTR)を含む。最小のシス作動性LTRであってもベクターの複製及びパッケージングには十分であり、その
後、発現コンストラクトを標的細胞に組み込むのに使用され、長期発現を提供する。広く使用されるレトロウイルスベクターとして、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SrV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びその組み合わせをベースとするものが含まれる(例えば、Buchscher et al., J Virol. 56:2731-2739(1992); Johann et al, J. Virol. 65:1635-1640(1992); Sommerf
elt et al, Virol. 76:58-59(1990); Wilson et al, J. Virol. 63:274-2318(1989);
Miller et al., J. Virol. 65:2220-2224(1991); PCT/US94/05700; Miller and Rosman BioTechniques 7:980-990, 1989; Miller, A. D. Human Gene Therapy 7:5-14, 1990; Scarpa et al Virology 75:849-852, 1991; Burns et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 90:8033-8037, 1993を参照)。
【0153】
また、様々なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター系が核酸デリバリー用に開発されて
いる。AAVベクターは、当分野で既知の技術を用いて容易に構築することができる。例え
ば、米国特許第5,173,414号及び同第5,139,941号;国際公開WO 92/01070及びWO 93/03769;Lebkowski et al. Molec. Cell. Biol. 5:3988-3996, 1988; Vincent et al.(1990)Vaccines 90(Cold Spring Harbor Laboratory Press);Carter Current Opinion in Biotechnology 5:533-539, 1992; Muzyczka. Current Topics in Microbiol, and Immunol. 158:97-129, 1992; Kotin, Human Gene Therapy 5:793-801, 1994; Shelling and Smith Gene Therapy 7:165-169, 1994; and Zhou et al. J Exp. Med. 179:1867-1875, 1994を参照。
【0154】
本開示の発現コンストラクトをデリバリーするのに有用なさらなるウイルスベクターとして、例えば、ポックス科のウイルス、例えば、ワクシニアウイルス及び鳥ポックスウイルスなどに由来するもの、又はアルファウイルス又はコンジュゲートウイルスベクター(例えば、Fisher-Hoch et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 56:317-321, 1989に記載のもの)が挙げられる。
【0155】
細胞及び可溶性因子の治療/予防における有用性試験
呼吸器系疾患の発症又は進行を治療又は予防又は遅延させる細胞又は可溶性因子の能力を測定するための方法は、当業者に明らかだろう。
【0156】
例えば、細胞又は可溶性因子(例えば、因子の混合物、又は単一因子、又は因子のフラクション(例えば、アフィニティー精製又はクロマトグラフィーにより得られる))を呼吸器系疾患モデルに投与し、1つ以上の症状におよぼす影響を評価する。
【0157】
例示的な呼吸器系疾患モデルは、アレルギー(例えば、アレルギー性喘息)の動物モデル、例えば、WO 2002/098216に記載されるモデルなど、アレルギー性喘息のマウスモデル(例えば、ホストダストマイトタンパク質(host dust mite protein)により誘導されるもの(Fattouh et al., Am J Respir Crit Care Med 172: 314-321, 2005))、IL-5及びエオタキシンが過剰発現する重症喘息のマウスモデル、エアロゾルとしてデリバリーされる場合にメタコリンに高感受性であるポリ-l-リジンの気管内注入を受けたマウス(Homma
et al., Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 289: L413-L418, 2005)、ブレオマイシン又はFITC又はシリカにより誘導される肺線維症モデル(Muggia et al., Cancer Treat Rev 10: 221-243, 1983; Roberts et al., J Pathol 176: 309-318, 1995; Oberdorster Inhal Toxicol 8: 73-89, 1996)を含む。
【0158】
上記から当業者には明らかであるが、本開示はまた、呼吸器系疾患を治療、予防又は遅延するための細胞又は可溶性因子を同定又は単離するための方法であって、
(i)呼吸器系疾患に罹患した試験対象に細胞又は可溶性因子を投与すること、及び呼吸
器系疾患の症状を評価すること;
(ii)(i)における対象の呼吸器系疾患症状レベルを、該細胞又は可溶性因子を投与さ
れていない、呼吸器系疾患に罹患したコントロール対象の呼吸器系疾患症状と比較すること、
を含み、
ここで、該コントロール対象と比較して、該試験対象における症状の改善が、該細胞又は
可溶性因子が呼吸器系疾患を治療することを示す、方法を提供する。
【0159】
細胞は、本明細書に記載のいずれかの例に従う任意の細胞であってよい。
【0160】
例示的な症状は、本明細書に記載される。
【0161】
細胞組成物
本開示の一例において、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞は、組成物の形態で投与
される。一例において、かかる組成物は医薬上許容される担体及び/又は賦形剤を含む。
【0162】
用語「担体」及び「賦形剤」とは、貯蔵、投与、及び/又は活性化合物の生物活性を促進するために当分野で従来使用される物質の組成物(compositions of matter)をいう(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th Ed., Mac Publishing Company(1980)を参照)。担体はまた、活性化合物のあらゆる望ましくない副作用を低下させ得る
。適切な担体は、例えば、安定であり、例えば、担体中の他の成分と反応することができない。一例において、担体は、治療に使用される投与量及び濃度において、重大な局所的又は全身的な有害作用をレシピエントにもたらさない。
【0163】
本開示のための適切な担体には、従来使用されるものが含まれ、例えば、水、食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンゲル液、緩衝液、ヒアルロナン及びグリコールは、特に液剤用(等張である場合)に、例示的な液体担体である。適切な医薬担体及び賦形剤として、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
【0164】
別の例において、担体は、例えば、その中で細胞が増殖又は懸濁される、培地組成物である。例えば、かかる培地組成物は、それを投与された対象においていかなる有害作用も誘導しない。
【0165】
例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存能、及び/又は呼吸器系疾患を低下、予防若しくは遅延させる細胞の能力に悪影響を及ぼさない。
【0166】
一例において、担体又は賦形剤は、細胞及び/又は可溶性因子を適切なpHで維持するために緩衝作用(buffering activity)を提供し、それにより生物活性が発揮され、例えば、担体又は賦形剤はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは、魅力的な担体又は賦形剤であるが、その理由は、本開示の組成物が、血流中、又は組織中若しくは組織の周辺若しくは隣接する領域中へと直接適用(例えば、注入により)するための液体として製造されてよいような場合に、PBSは細胞及び因子と最小限しか相互作用せず、細胞及び因子の
迅速な放出を可能とするからである。
【0167】
STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞はまた、レシピエント適合性の足場であって、且
つレシピエントに対して有害ではない産物に分解される足場に組み込まれるか、又は包埋され得る。これらの足場は、レシピエント対象に移植されるべき細胞のために支持及び保護を提供する。天然及び/又は合成の生分解性足場は、かかる足場の例である。
【0168】
様々な異なる足場が、本開示の方法の実施において首尾よく使用されてよい。例示的な足場として、生物学的な分解性の足場が挙げられるが、これに限定されない。天然の生分解性足場として、コラーゲン、フィブロネクチン及びラミニンの足場が挙げられる。細胞移植の足場のための適切な合成材料は、広範な細胞増殖及び細胞機能をサポートできるべ
きである。かかる足場は吸収性であってもよい。適切な足場として、ポリグリコール酸足場、例えば、Vacanti, et al. J. Ped. Surg. 23:3-9 1988; Cima, et al. Biotechnol. Bioeng. 38:145 1991; Vacanti, et al. Plast. Reconstr. Surg. 88:753-9 1991に記載
されるようなもの;又は合成ポリマー、例えば、ポリ酸無水物、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などが挙げられる。
【0169】
別の例において、細胞はゲル状足場(例えば、Upjohn CompanyのGelfoam)中で投与さ
れてよい。
【0170】
細胞は、鼻腔内投与のために具体的に製剤化される医薬組成物の成分として投与されてよい。特定の例において、細胞は、酵素阻害剤又は吸収促進剤と共投与される。他の例において、鼻腔内投与のために製剤化される医薬組成物は、酵素阻害剤及び/又は吸収促進剤を含む。さらに他の例において、医薬組成物は、合成界面活性剤、胆汁酸塩、リン脂質及びシクロデキストリン(cylodextrins)を含む。細胞はまた、エマルジョン又はリポソームを介して鼻腔内投与されてもよい。特定の例において、鼻腔内投与は、ポリマーマイクロスフェアの使用により達成される。細胞は、グリココール酸ナトリウム(sodium glycohcholate)(NaGC)及びリノール酸の存在下で投与されてよい。
【0171】
鼻腔内投与のための医薬組成物は、スプレー、エアロゾル、ゲル、溶液、エマルジョン又は懸濁液として投与されてよい。或いは、医薬組成物は、上気道、例えば副鼻腔などに直接投与される。一例において、細胞又は医薬組成物は、マイクロカテーテルを介して投与される。
【0172】
本明細書に記載の方法に有用な細胞組成物は、単独で、又は他の細胞との混合物として投与されてよい。本開示の組成物と併せて投与されてよい細胞として、他の多能性(multipotent)若しくは多能性(pluripotent)細胞若しくは幹細胞、又は骨髄細胞が挙げられるが、これらに限定されない。異なるタイプの細胞を、本開示の組成物と、投与の直前又は投与の少し前に混合してよく、或いは投与前にある一定期間一緒に共培養してよい。
【0173】
一例において、組成物は、有効量、又は治療上若しくは予防上有効量の細胞を含む。例示的な投与量は本明細書に記載される。投与されるべき細胞の正確な量は、患者の年齢、体重及び性別、並びに呼吸器系疾患の程度及び重症度を含む様々な因子に応じて決定される。
【0174】
いくつかの例において、細胞は、該細胞が対象の循環中に出て行くことは不可能であるが、細胞により分泌される因子が循環に進入することは可能であるチャンバー内に含まれる。このような方法では、可溶性因子は、細胞が対象の循環中に因子を分泌することを可能とすることにより、対象に投与されてよい。かかるチャンバーは、対象のある部位に均等に埋め込まれて、可溶性因子の局所レベルを増加させてよく、例えば、膵臓中又はその近くに埋め込まれてよい。
【0175】
本開示のいくつかの例において、細胞組成物を用いた治療の開始前に患者を免疫抑制することは必須でなくてよく、又は望ましくなくてよい。従って、同種異系又はさらには異種のSTRO-1+細胞又はその子孫を用いた移植が、場合によって、許容されてよい。
【0176】
しかし、他の場合では、細胞療法の開始前に患者を薬理学的に免疫抑制すること、及び/又は細胞組成物に対して対象の免疫応答を低下させることが望ましいか、又は適切であってよい。これは、全身的又は局所的な免疫抑制剤の使用を介して達成されてよく、或いはカプセル化デバイスにて細胞をデリバリーすることにより達成されてよい。細胞は、細胞及び治療因子に必要とされる栄養分及び酸素に対して透過性であるが、免疫液性因子及
び細胞に対しては非透過性であるカプセル中にカプセル化されてよい。例えば、カプセル材料は、低刺激性で、標的組織内に容易且つ安定して位置し、移植された構造体にさらなる保護を提供する。移植細胞に対する免疫反応を低下又は除去するためのこれら及び他の手段は、当分野で既知である。代わりに、細胞を遺伝的に改変して、それらの免疫原性を低下させてよい。
【0177】
可溶性因子の組成物
一例において、STRO-1+細胞由来の及び/又は子孫細胞由来の上清又は可溶性因子は、
組成物の形態、例えば適切な担体及び/又は賦形剤を含む組成物の形態で投与される。一例において、担体又は賦形剤は、可溶性因子又は上清の生物学的効果に悪影響を及ぼさない。
【0178】
一例において、組成物は、可溶性因子、又は上清成分(例えば、プロテアーゼ阻害剤)を安定化させるための物質の組成物を含む。一例において、プロテアーゼ阻害剤は、対象に対して有害作用を有するのに十分な量では含まれない。
【0179】
STRO-1+細胞由来の及び/又は子孫細胞由来の上清又は可溶性因子を含む組成物は、例
えば、培地中で、又は安定な担体若しくは緩衝溶液、例えば、リン酸緩衝生理食塩水中で、適切な液体懸濁液として調製されてよい。適切な担体は上記にて本明細書に記載される。別の例において、STRO-1+細胞由来の及び/又は子孫細胞由来の上清又は可溶性因子を
含む懸濁液は、注射用の油状懸濁液である。適切な親油性溶媒又はビヒクルとして、脂肪油、例えば、ゴマ油;又は合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチル若しくはトリグリセリド;又はリポソームが挙げられる。注射用に使用されるべき懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランなどを含有してもよい。任意選択で、懸濁液は、適切な安定剤又は作用物質であって、化合物の溶解度を高めて、高濃度の溶液の調製を可能とするものを含有してもよい。
【0180】
滅菌注射剤は、必要量の上清又は可溶性因子を、必要に応じて上記成分の1つ又は組み
合わせとともに、適切な溶媒に組み入れ、それに続いてフィルター滅菌することにより調製できる。
【0181】
通常、ディスパージョン(dispersions)は、上清又は可溶性因子を、基本(basic)分散媒及び上に列挙されたものから必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクルに組み入れることによって調製される。滅菌注射剤調製用の滅菌粉末の場合、例示的な調製方法は、真空乾燥及び凍結乾燥であり、それによって、予め滅菌濾過したその溶液から、活性成分と任意の追加の所望成分との粉末が得られる。本開示の別の例によれば、上清又は可溶性因子は、その溶解度を高める1つ以上のさらなる化合物と共に製剤化されてよい。
【0182】
他の例示的な担体又は賦形剤は、例えば、Hardman, et al.(2001)Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, McGraw-Hill, New York, N. Y.; Gennaro(2000)Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott, Williams, and Wilkins, New York, N. Y.; Avis, et al.(eds.)(1993)Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications, Marcel Dekker, NY; Lieberman, et al.(eds.)(1990)Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Marcel Dekker, NY; Lieberman, et al.(eds.)(1990)Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, Marcel Dekker, NY; Weiner and Kotkoskie(2000)Excipient Toxicity and Safety, Marcel Dekker, Inc., New York, N. Y.に記載される。
【0183】
治療組成物は、典型的には、製造及び貯蔵条件下で無菌且つ安定であるべきである。組
成物は、溶液、マイクロエマルション、リポソーム、又は他の規則構造として製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)及び適切なその混合物を含有する溶媒又は分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、ディスパージョンの場合には必要な粒径を維持することにより、及び界面活性剤の使用により維持することができる。いくつかの場合、組成物中には等張剤、例えば、糖類、多価アルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、又は塩化ナトリウムが含まれる。注射用組成物の持続的吸収は、組成物中に、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアレート塩(monostearate salts)及びゼラチンを含むことによってもたらされ得る。さらに、可溶性因子は、徐放性製剤中、例えば徐放性ポリマーを含む組成物中で投与されてよい。活性化合物は、急速な放出から化合物を保護する担体とともに調製することができ、例えば、インプラント及びマイクロカプセル化デリバリーシステムを含む放出制御製剤などである。生分解性、生体適合性のポリマー、例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸及びポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(polylactic, polyglycolic copolymers)(PLG)などを使用することができる。かかる製剤を調製するための多くの方法が、特許されているか、又は当業者に一般的に知られている。
【0184】
上清又は可溶性因子は、例えば可溶性因子を除放させるために、適切なマトリックスと組み合わせて投与されてよい。
【0185】
組成物の追加成分
STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1+細胞又はその子孫は、他の有益な薬物又は生物学的分子(増殖因子、栄養因子)とともに投与されてよい。他の薬剤とともに投与される場合、それらは、単一医薬組成物又は別個の医薬組成物で、同時に、又は該他の薬剤と連続して(該他の薬剤の投与の前又は後のいずれか)、一緒に投与されてよい。共投与されてよい生物活性因子には、抗アポトーシス剤(例えば、EPO、EPOミメチボディ、TPO、IGF-I及びIGF-II、HGF、カスパーゼ阻害剤);抗炎症剤(例えば、p38 MAPK阻害剤
、TGFベータ阻害剤、スタチン、IL-6及びIL-1阻害剤、ペミロラスト、トラニラスト、レ
ミケード、シロリムス及びNSAID(非ステロイド性抗炎症薬;例えば、テポキサリン、ト
ルメチン、スプロフェン);免疫抑制/免疫調節剤(例えば、カルシニューリン阻害剤、例えば、シクロスポリン、タクロリムスなど;mTOR阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス);抗増殖剤(例えば、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン);抗体、例えば、モノクローナル抗IL-2Rアルファ受容体抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)、ポリク
ローナル抗T細胞抗体(例えば、抗胸腺細胞グロブリン(ATG);抗リンパ球グロブリン(ALG);モノクローナル抗T細胞抗体OKT3));抗血栓形成剤(例えば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、PPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロ
ロメチルケトン)、抗トロンビン化合物、血小板受容体アンタゴニスト、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害剤及び血小板阻害剤);及び抗酸化剤(例えば、プロブコール、ビタミンA、アスコルビン酸、トコフェロール、コエンザイムQ-10、グルタチオン、L-システイ
ン、N-アセチルシステイン)及び局所麻酔薬などが挙げられる。
【0186】
一例において、本明細書に記載するようないずれかの例に従う組成物は、抗炎症剤、免疫調節剤、免疫抑制剤、鎮痛剤又は抗生物質を含む。一例において、第二の治療剤は、免疫調節剤である。別の例において、第二の薬剤は、抗CD3抗体(例えば、OKT3、ムロノマ
ブ(muronomab))、抗IL-2受容体抗体(例えば、バシリキシマブ及びダクリズマブ)、
抗T細胞受容体抗体(例えば、ムロモナブ-CD3)、アザチオプリン、カルシニューリン阻
害剤、コルチコステロイド、シクロスポリン、メトトレキサート、メルカプトプリン、ミ
コフェノール酸モフェチル、タクロリムス、又はシロリムスである。
【0187】
或いは又は加えて、本明細書に記載するようないずれかの例に従う細胞、分泌される因子及び/又は組成物は、呼吸器系疾患の既知の治療、例えば、ステロイド又はLABAなどと組み合わされる。
【0188】
一例において、本明細書に記載するようないずれかの例に従う医薬組成物は、呼吸器系疾患を治療するために使用される化合物を含む。或いは、本開示の本明細書に記載するようないずれかの例に従う治療/予防の方法はさらに、呼吸器系疾患を治療するために使用される化合物を投与することを含む。例示的な化合物は、本明細書に記載され、本開示のこれらの例に準用すると解されるものとする。
【0189】
別の例において、本明細書に記載するようないずれかの例に従う組成物は、前駆細胞の血管細胞への分化を誘導する又は促進する因子をさらに含む。例示的な因子として、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF;例えば、PDGF-BB)、及びFGFが挙げられる。
【0190】
別の例において、本明細書に記載するようないずれかの例に従う組成物は、組織特異的分化決定済細胞(tissue specific committed cell)(TSCC)をさらに含む。これに関して、国際特許出願PCT/AU2005/001445は、TSCC及びSTRO-1+細胞の投与が、TSCCの増殖の促進を導くことができることを実証する。一例において、TSCCは血管細胞である。かかる組成物の対象への投与は、血管系の産生の増加を導き、例えば、罹患組織へデリバリーされる栄養物の増加を導いてよい。
【0191】
医療デバイス
本開示はまた、本明細書に記載するようないずれかの例に従う方法で使用するため、又は当該方法で使用される場合の医療デバイスを提供する。例えば、本開示は、本明細書に記載するようないずれかの例に従うSTRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれ
からの可溶性因子及び/又は組成物を含む、シリンジ若しくはカテーテル若しくは吸入具、又は他の適切なデリバリーデバイスを提供する。任意選択で、シリンジ又はカテーテル又は吸入具は、本明細書に記載するようないずれかの例に従う方法で使用するための指示書とともにパッケージされる。
【0192】
他の例において、本開示は、本明細書に記載するようないずれかの例に従うSTRO-1+
胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれからの可溶性因子及び/又は組成物を含むインプラント(implant)を提供する。任意選択で、インプラントは、本明細書に記載するよ
うないずれかの例に従う方法で使用するための指示書とともにパッケージされる。適切なインプラントは、足場(例えば、本明細書で上述するようなもの)、並びにSTRO-1+細胞
及び/又はその子孫細胞及び/又はそれからの可溶性因子とともに形成されてよい。
【0193】
投与様式
STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1+細胞又はその子孫は、外科的に移植、注入、吸入、デリバリー(例えば、カテーテル又はシリンジを手段として)されてよく、或いは修復又は増強を必要とする部位、例えば肺に直接的又は間接的に投与されてよい。
【0194】
一例において、STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1+細胞又はその子孫は、対象の血流にデリバリーされる。例えば、STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1+細胞又はその子孫は非経口的にデリバリーされる。例示的な非経口投与経路として、腹腔内、心室内(intraventricular)、脳室内、くも膜下腔内、又は静脈内が挙げられるが、これらに限定されない。一例において、STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-
1+細胞又はその子孫は、動脈内、大動脈中、心臓の心房若しくは心室中、又は血管中に、例えば、静脈内にデリバリーされる。この点について、STRO-1+細胞は、損傷部位及び/
又は肺へと移動(migrate)することが示されている。
【0195】
心臓の心房又は心室への細胞デリバリーの場合、肺への急速な細胞デリバリーによって生じ得る合併症を避けるため、細胞を左心房又は左心室に投与できる。
【0196】
一例において、STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1+細胞又はその子孫は、静脈内にデリバリーされる。
【0197】
一例において、STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1+細胞又はその子孫は、例えば、シリンジを用いて、又はカテーテル若しくはセントラルライン(central line)を通じて、デリバリー部位に注入される。
【0198】
一例において、STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1+細胞又はその子孫は、鼻腔内に又は吸入によりデリバリーされる。
【0199】
治療製剤の投与レジメンの選択は、血清又は組織での実体(entity)の代謝回転速度、症状レベル、及び実体(entity)の免疫原性を含む複数の因子に依存する。一例において、投与レジメンは、許容可能な副作用レベルと一致して、対象にデリバリーされる細胞及び/又は因子の量を最大化する。従って、デリバリーされる細胞及び/又は因子の量は、特定の実体(entity)及び治療されている疾患の重症度によって部分的に決まる。
【0200】
一例において、STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性因子、STRO-1+細胞又はその子孫は、単回ボーラス投与としてデリバリーされる。或いは、STRO-1+細胞由来の上清又は可溶性
因子、STRO-1+細胞又はその子孫は、持続注入によって、又は例えば、1日、1週間の間隔
若しくは週に1~7回での投薬(doses)によって投与される。例示的な投与プロトコール
は、重大な望ましくない副作用を回避する、最大の投与量又は投与頻度を含むものである。週当たりの合計投与量は、使用される化合物/細胞のタイプ及び活性に応じて決まる。適切な投与量の決定は臨床医によって、例えば、当分野において治療に影響を与えることが知られている若しくは疑われている、又は治療に影響を与えると予想されるパラメーター又は因子を用いるなどして行われる。通常、投与量は、やや適量未満の投与量から開始され、その後、なんらかの負の副作用と比較して所望の又は最適の効果が達成されるまで、少しずつ増加される。
【0201】
本発明者らは、STRO-1+細胞及び/又はその子孫及び/又はそれに由来する可溶性因子
によって提供される治療的有用性が、対象において少なくとも4週間観察されることを示
している。従って、いくつかの例において、細胞は、毎週、2週間毎、3週間毎に1回、又
は4週間毎に1回投与される。
【0202】
呼吸器系疾患の進行を治療又は遅延させることを目的とした本開示の例に従って、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子は、例えば当分野
で既知の及び/又は本明細書に記載の標準的な方法を用いて、障害の診断の後に投与される。
【0203】
呼吸器系疾患の発症を予防又は遅延させることを目的としたそれらの例について、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又はそれに由来する可溶性因子は、障害の臨床診
断の前に投与することができる。
【0204】
一例において、本開示の治療方法は、投与後(例えば、その後7日間~30日間)に肺機
能のパラメーターの1つ以上の改善について治療対象を評価することを含み、ここで、肺
機能のパラメーターとは、1秒間努力呼気容量(FEV1);努力性肺活量(forced volume vital capacity)(FVC);FEV1/FVC;最大呼気流量(PEF);努力性呼気流量25%~50%
又は25% 75%(呼気の中央部分の間の肺に存在する空気の平均流量);努力性呼気時間
(FET);全肺活量(TLC);酸化炭素拡散能(DLCO);最大随意換気量;胸部X線、CTス
キャン、MRI、気管支鏡検査又は類似のスキャンの1つ以上において検出可能な改善(例えば、肺の外観における目に見える改善);又は血中で検出可能な二酸化炭素レベルの検出可能な改善(例えば、正常範囲内へのCO2レベルの移動)である。一例において、投与は
、肺機能のパラメーターの1つ以上の、(1)期待の80%以上;又は(2)少なくとも2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、50%までの改善をもたらす。一例において、該方
法は、投与の前に、同じ身長及び体重の個体に関する期待値の80%未満であるパラメーターのいずれかを同定すること、並びに治療後に該パラメーターを評価することを含み、ここで、治療は、肺機能の該パラメーターの1つ以上の、(1)期待の80%以上;又は(2)
少なくとも2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、50%までの改善をもたらす。
【0205】
本開示は、以下の非限定的な実施例を含む。
【実施例
【0206】
実施例1:STRO-3 + 細胞の選択によるMPCの免疫選択
骨髄(BM)を、健康な正常成人ボランティア(20~35歳)から採取する。簡潔には、40
mlのBMを、後腸骨稜から、リチウム-ヘパリン抗凝固剤含有チューブに吸引する。
【0207】
BMMNCを、以前に記載されるように(Zannettino, A.C. et al.(1998)Blood 92: 2613-2628)、Lymphoprep(商標)(Nycomed Pharma, Oslo, Norway)を用いて、密度勾配分
離によって調製する。400×g、4℃、30分間の遠心分離後、淡黄色の層をホールピペット
で除去し、5%ウシ胎児血清(FCS, CSL Limited, Victoria, Australia)を含有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS;Life Technologies, Gaithersburg, MD)からなる「HHF」中で3回洗浄する。
【0208】
続いて、STRO-3+(又はTNAP+)細胞を、以前に記載されるように(Gronthos et al.(2003)Journal of Cell Science 116: 1827-1835;Gronthos, S. and Simmons, P.J.(1995)Blood 85: 929-940)、磁気活性化セルソーティングにより単離した。簡潔には、およそ1~3×108個のBMMNCを、HHF中10%(v/v)正常ウサギ血清からなるブロッキングバッファー中で、20分間、氷上でインキュベートする。細胞を、ブロッキングバッファー中10
μg/mlのSTRO-3 mAb溶液(200 μl)とともに、氷上で1時間インキュベートする。続いて、細胞を400×gでの遠心分離によってHHF中で2回洗浄する。HHFバッファー中1/50希釈の
ヤギ抗マウスγ-ビオチン(Southern Biotechnology Associates, Birmingham, UK)を加え、細胞を氷上で1時間インキュベートする。細胞を、上記と同様に、MACSバッファー(1%BSA、5 mM EDTA及び0.01%アジ化ナトリウムを補充したCa2+及びMn2+を含まないPBS)
中で2回洗浄し、最終体積0.9 mlのMACSバッファー中に再懸濁する。
【0209】
100 μlのストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec;Bergisch Gladbach,
Germany)を細胞懸濁液に添加し、氷上で15分間インキュベートする。細胞懸濁液を0.5 mlのMACSバッファーで2回洗浄し、再懸濁した後、ミニMACSカラム(mini MACS column)
(MS Columns, Miltenyi Biotec)上にロードし、0.5 mlのMACSバッファーで3回洗浄して、STRO-3 mAb(2005年12月19日にAmerican Type Culture Collection(ATCC)にPTA-7282の受託番号で寄託;国際公開WO 2006/108229を参照)と結合しなかった細胞を回収する。さらに1 mlのMACSバッファーを加えた後、カラムを磁石から取り除き、TNAP+細胞を陽圧
で単離する。各画分からの細胞アリコートをストレプトアビジン-FITCで染色し、純度を
フローサイトメトリーで評価することができる。
【0210】
実施例2:STRO-3 mAbにより選択される細胞はSTRO-1 強陽性(bright) 細胞である
STRO-1強陽性(bright)細胞を単離するための単一試薬としてSTRO-3 mAbを用いることの可能性を確認するために実験を設計した。
【0211】
STRO-3(IgG1)はSTRO-1(IgM)とは異なるアイソタイプであることを考慮して、STRO-3がクローン原性CFU-Fを同定する能力を、MACS手順を用いて単離したSTRO-1+細胞での共
発現に基づき、二色FACS分析によって評価した(図1)。ドットプロットヒストグラムは
リストモードデータとして収集した5×104個の事象を表している。垂直線及び水平線は、同一条件下で処置したアイソタイプマッチコントロール抗体1B5(IgG)及び1A6.12(IgM
)で得られた<1.0%平均蛍光の反応性レベルに設定した。結果は、少数(minor)のSTRO-1強陽性(bright)細胞集団がTNAPを共発現した一方(右上の象限)、残りのSTRO-1+
胞はSTRO-3 mAbと反応しなかったことを実証する。その後、4つの象限全てからFACSで単
離された細胞をCFU-Fの発生率について評価した(表1)。
【0212】
表1:細胞表面マーカーSTRO-1及びTNAPの共発現に基づく二色FACS分析によるヒト骨髄細
胞の富化(図1参照)。FACSソーティングした細胞を、20%FCSを補充したαMEM中で、標
準的なクローン原性条件下で培養した。データは、播種した105個細胞当たりの14日目の
コロニー形成細胞(CFU-F)の平均数±SE(n=3の異なる骨髄穿刺液)を表す。これらの
データは、ヒトMPCは、STRO-1抗原を明るく共発現するBMのTNAP陽性画分だけに限定され
ることを示唆する。
【0213】
【表1-A】
【0214】
実施例3:ヒツジ喘息(ovine asthma)のヒツジ(sheep)モデルにおけるヒツジMPCの治
療的適応
3.1 方法
アレルギー性喘息のハウスダストマイト(HDM)ヒツジモデルは、ヒトと臨床的に関連
するアレルゲンを使用することから、喘息に対するMPCの効果を研究するために選択した
。他の喘息モデルは不足部分がある。例えば、マウスOVAチャレンジモデルは、ヒトと臨
床的に関連しないアレルゲンを使用しており、肺炎症のパターン及び分布はヒトで観察されるものとは異なっており、ヒトにおける慢性喘息とは対照的に、肺及び肺実質の両方の炎症/リモデリングが観察され、気道平滑筋の大幅な増加は観察されない。同様に、喘息の回虫(Ascaris)ヒツジモデルは、臨床的に関連する抗原を使用せず、ヒトでは通常暴
露されないアレルゲン(豚回虫(ascaris suum))に対して比較的弱い好酸球反応とともに強い好中球反応を有する。
【0215】
ヒツジにおいて、2週間間隔でアラム(alum)とともにハウスダストマイト抗原(50 μg)を3回皮下注射して投与することにより喘息を開始させた。次いで、ELISAにより検出
されるように、高IgE反応を示すヒツジを選択した(抗原投与後のIgEレベルが1.5倍増加
した場合「高IgE反応」とみなす)。
【0216】
7日目、28日目及び49日目に、人工呼吸器につないだネブライザーを用いて、ハウスダ
ストマイト抗原(200 μg/mLの抗原を含む5 mL)でのエアロゾルチャレンジをヒツジに受
けさせた。人工呼吸器は、ヒツジが1分間あたり20回の呼吸で10分間呼吸を行うことを助
け、その結果、各ヒツジは、チャレンジあたりエアロゾル化抗原を200回の呼吸用量で投
与された。このチャレンジは、ヒツジにおいて喘息反応及び炎症反応を誘導するのに十分であることが以前に示されている。
【0217】
7日目、28日目及び49日目に、気管支収縮剤カルバコールの濃度増加に対する用量反応
を計算することにより気管支過敏性を定量化した。この試験について期待される用量範囲は、100%の抵抗の増加を付与するために、1 mg/mlのエアロゾル化カルバコールを5~300回の間呼吸することである。
【0218】
早期喘息反応も測定し、反応の期待される範囲は、ベースライン(抗原投与前)値と比較して、抗原投与後、50%~900%の間の抵抗の変化である。
【0219】
次いで、表2に示すようにヒツジを4グループにランダム化し、すべてのグループが同様の生理学的反応範囲を有するヒツジを含むようにした。ProFreeze(商標)/DMSO/αMEM中のヒツジMPC(5継代)を生理食塩水(saline)で希釈し、次いで、63日目(3回目の抗原
エアロゾルチャレンジの投与から2週間後)に関連グループに投与した。処置プロトコー
ルの要約を図3に示す。
【0220】
【表2】
【0221】
ヒツジMPCを静脈内注入(100 mL/30分間)により頸動脈に投与した。次いで、ヒツジをハウスダストマイトアレルゲンで1及び4週間(それぞれ、70日目及び91日目)にて再度チャレンジした。
【0222】
ベースラインの肺機能(早期喘息反応[EAR])の測定は、Koumoundouros et al., Exp. Lung Res., 32: 321-330, 2006により以前に記載されるように、気道抵抗を計算するために食道及び気管支の内圧、並びに肺気流を評価することによって実施した。このプロトコールでは、バルーンカテーテルを下部食道に経鼻的に挿入して、食道内圧(すなわち、外圧)を測定した。内部気道内圧(internal airway pressure)を測定するために、経鼻的に挿入した気管内チューブ中に気管カテーテルを入れた。気流は、気管内チューブの近接端部に結合した呼吸気流計(Hans Rudolph, Kansas City, USA)を介して測定した。食道及び気管カテーテル、並びに呼吸気流計は、気流と一緒に肺圧差の測定を可能にする差動型トランスデューサー(differential transducers)と繋いだ。これらの記録からのデジタルデータを、カスタマイズされたLabview Pty Ltdソフトウェアプログラムで解析し
て、呼吸ごとに基づく(breath-by-breath basis)気道抵抗を記録した。アレルゲンにより誘導される気管支収縮は、ヒツジにおいて、HDMでのエアロゾルチャレンジ後、特定の
時間での気道抵抗の変化を分析することにより測定した。抵抗値は、このチャレンジの直後1時間記録して、早期喘息反応(EAR)を評価し、次いでチャレンジから6時間後に再度
記録して、6時間喘息反応を評価した。EARに関する結果は、エアロゾル化生理食塩水チャレンジ後のベースライン抵抗値から、HDMチャレンジ後最初の1時間にわたるピーク抵抗値までの気道抵抗の変化%として表す。LARデータは、ベースライン抵抗値から、HDMチャレンジから6時間後に測定された平均抵抗値までの気道抵抗の変化%として表す。
【0223】
気道過敏性(AHR)とも称される気管支過敏性(BHR)は、非特異的刺激物質に反応する気道閉塞の反応性の尺度(measure)である。喘息気道は、神経過敏であることが有名で
あり、比較的低い用量の気管支収縮剤(例えば、コリン作動薬カルバコール及びメタコリン)と反応する。ヒツジにおいて、HDMチャレンジ期間の開始前、次いでHDMチャレンジの数週間後にBHRを評価した。これは、気管支収縮剤カルバコールを2倍(doubling)エアロゾル用量(0.25%~4% w/v カルバコール)の範囲で投与し、各用量のカルバコールの直後に気道抵抗の変化を測定することにより達成された。結果は、ベースラインから100%
の気道抵抗の増加に必要とされるカルバコールエアロゾル濃度、又は到達しているカルバコール(carbicol)の最大用量として表した。投与されるカルバコール用量の濃度は呼吸単位(Breath Units)(BU)で測定した;1 BUは、1% w/v カルバコールを1呼吸である
。肺においてHDMに感作されているヒツジは通常、比較的低い用量のカルバコールで気管
支収縮する。
【0224】
-7日目(研究エントリーベースライン)及びBHR試験から24時間後(2日目、51日目、72日目、93日目)におよそ20~30 mLの血液を集め、以下の分析を実施した:
・血液学及び凝固:赤血球数(RBC)、白血球数(WBC)、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット、血小板、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、フィブリノゲン。
・生化学:ナトリウム、カリウム、塩化物、重炭酸塩、グルコース、クレアチニン、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩、総タンパク質、アルブミン、総ビリルビン、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、アラニントランスアミナーゼ(ALT)、γ-グルタミ
ルトランスペプチダーゼ(GGT)。
・サイトカイン試験:サイトカイン(TNF-α及びIFN-γ)。
【0225】
49日目、63日目及び91日目に集めた血清サンプルを、標準的な酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によりIgEの存在ついて分析した。
【0226】
気管支-肺胞洗浄(BAL)細胞は、気管支ファイバースコープを用いて左肺に10 mLの生
理食塩水(saline)を注入し、BAL細胞及び液体を回収することにより集めた。BAL細胞をHaem Kwik(HD Scientific Pty Ltd.)染色により差別的に(differentially)染色して
、様々な白血球の存在パーセンテージを確認した。BALは、-7日目(研究エントリーベー
スライン)及びBHR試験から24時間後(2日目、51日目、72日目、93日目)に実施した。
【0227】
過剰量のペントバルビタールナトリウム(pentobarbitone sodium)(少なくとも200 mg/kg;すなわち40 kgのヒツジあたり、400 mg/mL溶液を20 mL)を用いて動物を安楽死さ
せた。
【0228】
剖検及び組織回収は、死亡したか又は安楽死させた全ての動物に対して実施する。
【0229】
組織サンプルは、剖検時(93日目)に左後ろ(left caudal)の肺野から回収し、免疫
組織化学のために液体窒素に浮かせたアルミニウムトレイ上にて、OCT包埋メディウムの
型中で凍結させた。ヒツジ肺あたり2つの組織ブロックを凍結させた。ヒツジ細胞表面分
子CD4、CD8、CD45R、γδ、及びIgEに対するmAbを用いて凍結切片(5 μm)を染色した。内因性ペルオキシダーゼでの組織染色後に好酸球を同定し、ヘマトキシリン及びエオシン-yで対比染色した。個々の細胞を、各ヒツジについて、実質、気道の粘膜固有層及び気道外壁(outer airway wall)において検証及び計数し、検証した組織mm2あたりの細胞数として表した。高密度の細胞タイプについては、細胞密度を確認するために、200倍の倍率
で、少なくとも100個の細胞をそれぞれの領域で計数した。低密度の細胞タイプについて
は、密度は、完全セクションのすべての関連領域から得られた非オーバーラップフィールドから計算した。細胞同定、計数及び密度の計算はすべて、処置グループについてブラインドである観察者により実施した。
【0230】
3.2 結果
HDM感作させた喘息ヒツジにおける、処置前(pre-treatment)、oMPC又は生理食塩水の単回静脈内注入から1週間後及び4週間後の初期喘息反応(EAR)
1億5,000万個のoMPCを投与したヒツジは、oMPC処置から4週間後の時点において、アレ
ルゲンチャレンジ後1時間の間、肺機能が有意に改善した(図4A、B及びC)。oMPC処置か
ら4週間後の時点における肺機能の改善は、oMPC処置前のEARと比較した場合、アレルゲンチャレンジ後のEARにおいて57.1%の低下として現れた(p<0.05(図4A及びC))。
【0231】
HDM感作させた喘息ヒツジにおける、処置前、oMPC又は生理食塩水の単回静脈内注入から1週間後及び4週間後の遅発性喘息反応(LAR)
生理食塩水コントロールグループは、処置前の値と比較した場合、1週間及び4週間の両方の時点で評価した際にアレルゲンチャレンジから6時間後のLARにおいて増加傾向を示した(図5A)。2,500万個のoMPCで処置したグループは、処置前の値と比較した場合、1週間にて6時間LARの有意な低下と関連した(図5A)。7,500万個及び1億5,000万個のoMPCで処
置したグループはすべて、処置前の値と比較した場合、処置から1週間後及び4週間後の両方の時点にて6時間LARにおいて低下傾向が認められた。6時間LARにおける処置グループ間の比較変化を示す要約グラフを図5Bに示す。処置前からその後の(follow-up)処置まで
の変化%によりLARの相対変化を評価する場合、2,500万個のoMPC用量グループにおけるLARの変化%は、1週間の時点でコントロールと比較して有意に改善した(p<0.05、図5B
。同様の傾向は、oMPCの処置から4週間後の時点での6時間LARについても示された(図5C
)。
【0232】
喘息ヒツジにおける、処置前、oMPC又は生理食塩水の単回静脈内注入から1週間後及び4週間後の気管支過敏性(BHR)
oMPCの代わりに生理食塩水ビヒクル処置を受けたコントロールグループは、1週間及び4週間の時点で、BHRの有意な変化は認められなかった(図6A、B、C及びD)。7,500万個のoMPCを受けたヒツジグループは、oMPC処置前に測定されたBHRと比較した場合、oMPC処置から1週間後及び4週間後の両方の時点にて有意に改善されたBHR指標を有した(図6A)。処
置前と1週間及び4週間の時点との間の差は、すべての処置グループを事後解析(post hoc
analysis)にて一緒にプールした場合、統計的に有意であった(図6D)。
【0233】
気管支肺胞洗浄(BAL)液分析:喘息ヒツジにおける、処置前、oMPC又は生理食塩水の単
回静脈内注入から1週間後及び4週間後のBAL液中の炎症性細胞プロファイル
気管支肺胞洗浄(BAL)は、oMPC又は生理食塩水コントロール処置のいずれかから1週間及び4週間後におけるアレルゲンチャレンジから2日後にサンプリングした。この試験で使用したすべてのヒツジにおいて、アレルゲンチャレンジ及び幹細胞処置の前にサンプリングした全BAL細胞の好酸球の平均ベースラインパーセンテージは4.5%である。アレルゲンチャレンジから2日後であって、幹細胞又は生理食塩水の処置前にサンプリングしたすべ
てのヒツジのBAL中の好酸球の平均パーセンテージ(すなわち、BAL好酸球の平均処置前パーセンテージ)は15.0%である。アレルゲンチャレンジから2日後であってoMPC処置後の
試験ヒツジから回収されたBAL液中の好酸球の分析により、2,500万個のoMPCを注入したヒツジについて、処置前と1週間の時点との間に有意な差が存在することが明らかとなった
図7A及びB)。7,500万個及び1億5,000万個のoMPCで処置したグループについては、処置前と1週間及び4週間の時点との間におけるBAL液中の好酸球数の差は、統計学的有意に達
しなかった。しかしながら、1週間及び4週間の両方の時点において、処置前と処置後との間のBAL好酸球の差は、3つの処置の値をすべて事後解析にてプールした場合、統計学的に有意であった(図7E)。
【0234】
この試験で使用したすべてのヒツジにおいて、アレルゲンチャレンジから2日後であっ
て、幹細胞又は生理食塩水の処置前にサンプリングした全BAL細胞の好中球の平均パーセ
ンテージは比較的低く0.89%である。BAL液中の好中球のパーセンテージは、2,500万個及び1億5,000万個のoMPCで処置したヒツジについて、処置前の値と比較して、oMPCから1週
間後の時点で有意に低かった(図8A)。7,500万個のoMPCグループについては、BAL液中の好中球のパーセンテージは、処置前の値と比較して、oMPCから4週間後の時点で有意に低
かった(図8A)。
【0235】
アレルゲンチャレンジから2日後のすべての試験ヒツジから回収されたBAL液中、リンパ球及びマクロファージのサイトスポット(cytospot)分析により、BAL液中、これらの細
胞タイプのいずれについてもグループ間に有意な差がなんら存在しないことが明らかとなった(図9~10)。
【0236】
処置前、oMPC又は生理食塩水の単回静脈内注入から1週間後及び4週間後における喘息ヒツジ血清中のHDM特異的IgE
アレルゲン誘発性の喘息は、アレルゲン特異的IgEと関連することから、すべてのヒツ
ジの血清中の循環HDM特異的IgEのレベルを、oMPC投与前、並びにoMPC処置から1週間後及
び4週間後の2つの時点において評価した(図11A)。結果は、1億5,000万個のoMPC用量が
、処置前のHDM特異的IgEレベルと比較して、oMPC処置から1週間後にHDM特異的IgEの有意
な低下に効果的であったことを示す(図11A)。2,500万個及び7,500万個のoMPC処置は、
処置前のHDM特異的IgEレベルと比較して、oMPC処置から4週間後にHDM特異的IgEを有意に
低下させた。生理食塩水で処置したコントロールヒツジにおいては、HDM特異的IgEレベルは、処置前の値と比較して、1週間及び4週間の時点でわずかに低下した;しかしながら、この差は有意ではなかった(図11A)。処置前から処置から1週間後及び4週間後までの血
清中のIgEレベルの変化%を評価した、コントロールヒツジと、異なる用量のoMPCを注入
したヒツジとの比較を図11B及びCに示す。
【0237】
肺組織の免疫組織学分析:oMPC又は生理食塩水の単回静脈内注入から4週間後の喘息ヒツ
ジの肺における炎症性細胞プロファイル
試験ヒツジの左後葉(left caudal lobe)から剖検時にサンプリングした肺組織に対して免疫組織化学を実施した。細胞表面抗体マーカーパネルを組織切片に使用して、CD4、CD8及びγδ陽性T細胞サブセット、CD45R陽性細胞、並びにIgE陽性細胞(マスト細胞を同
定する)を同定した。好酸球は、ペルオキシダーゼ陽性染色細胞として同定した。これらの細胞タイプの相対密度は、以下を含む3つの異なる肺の位置にて評価した:実質(肺胞
腔及び肺胞壁などの非気道組織を含んだ);気道壁の粘膜固有層(細胞密度分析を、内腔上皮と気道平滑筋束の内側境界との間の気道壁領域に制限した);並びに全気道壁(気道内腔上皮と、肺胞に接する外側の外膜との間の密度計数を含んだ)。
【0238】
喘息ヒツジからサンプリングした肺組織切片に対するペルオキシダーゼ陽性好酸球の分析により、1億5,000万個のoMPCで処置したヒツジの気道壁における好酸球密度は、生理食塩水で処置したコントロールヒツジの気道壁における好酸球密度と比較して有意に低下したことが示される(p<0.05)。まとめると、これらのデータは、剖検4週間前に与えられ
た1億5,000万個のoMPC用量処置は、アレルゲンに暴露された気道壁において、より低い密度のペルオキシダーゼ陽性好酸球と関連したことを示す。
【0239】
組織病理学分析:oMPC又は生理食塩水の単回静脈内注入から4週間後及びHDMでの再チャレンジから24時間後の喘息ヒツジの肺における好酸球浸潤
好酸球顆粒を特徴的な赤色に染色し、バックグラウンド組織を青色に染色することにより好酸球を同定するLuna組織学的方法により肺組織を染色した。
【0240】
上部(cranial)及び下部(caudal)の肺における気管支内腔デブリ(debris)/好酸
球、及び好酸球を伴う無気肺の研究結果の分析により、コントロールと処置動物との間にいずれの有意差も明らかとならなかった。コントロール及び処置ヒツジの肺前葉及び後葉における研究結果の分析により、グループCの動物(すなわち、1億5,000万個のoMPCで処
置したヒツジ)において、Luna陽性好酸球の減少傾向が明らかとなった。左肺前葉において、Luna陽性好酸球を示すヒツジ数の発生率は、コントロールグループにおける5匹から
、1億5,000万個のoMPCグループにおける3匹のヒツジまで低下した。右肺前葉において、Luna陽性好酸球を示すヒツジ数の発生率は、コントロールグループにおける5匹のヒツジから、1億5,000万個のoMPC処置グループにおける4匹まで低下した。左肺後葉において、Luna陽性好酸球を有するヒツジ数の発生率は、コントロールグループにおける5匹のヒツジから、1億5,000万個のoMPC処置グループにおける3匹まで低下した。右肺後葉において、Luna陽性好酸球を有するヒツジ数の発生率は、コントロールグループにおける4匹から、1億5,000万個のoMPC処置グループにおける2匹まで低下した。2,500万個及び7,500万個のoMPC
用量グループとコントロールグループとの間に、Luna陽性好酸球を示すヒツジの発生率に差はなかった。
【0241】
事後(post-hoc)解析を実施して、1億5,000万個のoMPC用量が、コントロールヒツジと比較して、Luna陽性好酸球の存在を低下させるのに全体としてより効果的であるかどうかを評価した。この分析は、検証した4つの肺葉のそれぞれに対して、顕著なLuna陽性好酸
球染色を示すヒツジ数を加えることにより実施した。この分析により、一方で、生理食塩水で処置したコントロールグループと比較して、1億5,000万個のoMPCグループでは、Luna陽性好酸球病理学を示すヒツジ数は低下したことが示された。
【0242】
3.3 ディスカッション
本研究では、ヒツジ喘息モデルにおいて、oMPC療法の安全性及び有効性を評価した。免疫化前(pre-immunization)のレベルと比較して血清中に高レベルのHDM特異的IgE抗体を有するヒツジに、6週間の期間にわたって、HDMで肺全体へのエアロゾルチャレンジを3回
行って、気道をHDMに感作させた。ヒツジを4つのグループにランダムに配置し、生理食塩水(コントロール)、又は3つの用量のうち1つのoMPC処置(2,500万個、7,500万個又は1
億5,000万個のoMPC)のいずれかをIV注入により与えた。次いで、それら各々のoMPC又は
生理食塩水処置から7日後及び28日後に、ヒツジをHDMで再チャレンジした。HDM再チャレ
ンジ後すぐに、先に示した時点において、肺機能及びBAL細胞分析を評価した。2,500万個、7,500万個又は1億5,000万個のoMPCでのoMPCのIV注入は、良好な認容性を示し、これら
の細胞の投与と関連する有害事象はなかった。
【0243】
今回の研究において、単回用量のoMPCのi.v.注入は、コントロールヒツジと比較して、アレルゲンチャレンジに対して一般には重症度の低い生理学的反応と関連する。例えば、1億5,000万個のoMPCでの処置から4週間後に、EAR肺機能反応は統計的に有意に弱まった。興味深いことに、EARの有意な低下は、1億5,000万個のoMPC処置グループにおいて、遅延
し、MPC処置から4週間後に観察された。いずれの理論又は作用機序に拘束されるものではないが、この遅延作用は、膜結合型のマスト細胞アレルゲン特異的IgEの長期半減期に起
因する可能性がある。これは、アレルゲン特異的IgEが最終的にマスト細胞から脱落(she
d)した後、次いでMPCがマスト細胞の脱顆粒を低下させることができ、最終的に、oMPC処置から4週間後におけるEARの低下がもたらされることを示すのかもしれない。
【0244】
3つのoMPC処置グループはすべて、通常、コントロールと比較して、oMPC処置から1週間後、LAR肺機能指標を弱めている。3つの異なるoMPC用量からプールされたデータを分析することにより、処置から1週間後及び4週間後の両方の時点において、コントロール生理食塩水注入ヒツジと比較して、oMPC処置が統計的に有意にBHR肺機能指標を改善したことが
示される。従って、oMPC処置ヒツジに関するBHR肺機能指標の改善は、oMPC注入後4週間持続するようであった。これは、oMPC注入の有意な治療効果が、4週間の時点で明らかであ
ることを示す、1億5,000万個の用量グループから得られたEARデータの解釈と一致する。
【0245】
いずれの理論又は作用機序に拘束されるものではないが、実験的喘息を有するヒツジにおける肺機能の改善に対するoMPCの効果は、これらのoMPC処置動物において、気道壁における好酸球密度が若干低いことと少なくとも一部は関連するのかもしれない。気道壁における好酸球組織密度をブラインドで形態計測により分析することにより、1億5,000万個のoMPCで処置したグループが、生理食塩水で処置したコントロールヒツジと比較して、組織好酸球密度が有意に低下していたことが示された。さらに、この分析に関する形態学的データはすべて、単回用量のoMPCから4週間後の剖検で集められたことを考慮すると、最も
高いoMPC用量が、4週間の研究期間にわたって気道好酸球密度を低下させるのに効果的で
あった。
【0246】
結果は、oMPC処置が、BAL液中の好中球レベルの低下と関連することを示す。処置前の
すべての試験ヒツジにおいて、アレルゲンチャレンジから2日後の全BAL細胞中の好中球の平均パーセンテージは0.89%である。この比較的低いパーセンテージから、2,500万個及
び1億5,000万個のoMPCでの処置は、oMPCから1週間後の時点でBAL中の好中球%を50%超効果的に低下させた。もっと遅いoMPC投与から4週間後の時点では、7,500万個のoMPCでの処置は、BAL中の好中球を有意に低下させた。BAL液及び気道壁中の好中球の存在は、喘息の特定の表現型の病理と関連している。
【0247】
本研究で使用したヒツジはすべて、HDMでの末梢免疫化の完了から7日後、血清中のHDM
特異的IgE抗体が高レベルであることに基づき試験に選択されており、そのため、感作さ
れたヒツジのみを本研究で使用した。注目すべきは、結果により、oMPC処置がアレルゲン特異的IgE抗体を弱め、その効果は、2,500万個又は7,500万個のいずれかのoMPCを単回注
入してから4週間持続することが示されることである。1億5,000万個のoMPCグループでは
、IgEの抑制(dampening)は、oMPCから1週間後において有意であり、4週間のサンプリング時点にて低下した。生理食塩水処置コントロールヒツジは、処置前の値と比較して、1
週間又は4週間のいずれの時点においても血清HDM特異的IgEレベルの有意な低下を示さな
かった。
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