(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】柑橘類果実様飲料、柑橘類果実様飲料用濃縮物、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20240116BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20240116BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240116BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20240116BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A23L2/00 B
A23L2/02 B
A23L2/52 101
A23L2/56
C12G3/06
(21)【出願番号】P 2022069793
(22)【出願日】2022-04-21
(62)【分割の表示】P 2018001173の分割
【原出願日】2018-01-09
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【氏名又は名称】堅田 健史
(74)【代理人】
【識別番号】230112025
【氏名又は名称】小林 英了
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 嘉昭
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-350571(JP,A)
【文献】特開2015-084751(JP,A)
【文献】特開2004-168936(JP,A)
【文献】Flavourings: Production,Composition, Applications, Regulations, 2007, p.196-199, 208-211
【文献】Flavor chemistry oflemon-lime carbonated beverages, J Agric Food Chem, 2015, vol.63, no.1, p.112-119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00-2/84
C12G 3/00-3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘類果実様アルコール飲料を製造する方法であって、
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル、を添加含有させ;
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし;
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし;
前記柑橘類果実様アルコール飲料のpH値を2.1以上7未満とし;
前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10.0ppm以下とする;ことを含んでなる、柑橘類果実様アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
柑橘類果実様アルコール飲料を製造する方法であって、
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルと、を添加含有させ;
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし;
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし;
前記柑橘類果実様アルコール飲料のpH値を2.1以上7未満とし;
リモネンを、更に添加含有し、
前記酢酸ゲラニルの含有量を「X」とし、
前記酢酸ネリルの含有量を「Y」とし、
前記リモネンの含有量を「Z」とした場合に、
(X+Y)/Zの値が0.014以上1.5以下とする;ことを含んでなる、柑橘類果実様アルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
前記柑橘類果実様アルコール飲料の酸度が0.03以上7.0以下であり、又は、
前記柑橘類果実様アルコール飲料の糖度が0.2以上40以下である、請求項1又は2に記載の柑橘類果実様アルコール飲料
の製造方法。
【請求項4】
前記柑橘類の果汁を含んでなり、
前記果汁の含有量が、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.1%以上20%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載の柑橘類果実様アルコール飲料
の製造方法。
【請求項5】
前記柑橘類がレモンである、請求項4に記載の柑橘類果実様アルコール飲料
の製造方法。
【請求項6】
柑橘類果実様香気成分由来の劣化物による劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法であって、
柑橘類果実様飲料又は柑橘類果実様飲料用濃縮物に、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル、を添加含有させ;
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし;
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし;
前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量を、前記柑橘類果実様アルコール飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10.0ppm以下とする;ことを含んでなる、劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法。
【請求項7】
柑橘類果実様香気成分由来の劣化物による劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法であって、
柑橘類果実様飲料又は柑橘類果実様飲料用濃縮物に、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル、を添加含有させ;
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし;
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし;
リモネンを、更に添加含有させ;
前記酢酸ゲラニルの含有量を「X」とし、
前記酢酸ネリルの含有量を「Y」とし、
前記リモネンの含有量を「Z」とした場合に、
(X+Y)/Zの値が0.014以上1.5以下とする;ことを含んでなる、劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法。
【請求項8】
柑橘類果実様飲料が、ノンアルコール飲料又はアルコール飲料である、請求項
6又は
7に記載の劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘類果実様飲料及びそれ用濃縮物、並びにこれらの製造方法、とりわけ、レモン果実様飲料等に関する。
【背景技術】
【0002】
柑橘類果実様香味及び風味(特に、レモン果実様香味及び風味;以下同じ)を有する成分としては、シトラール又はリモネン、特に、シトラールが知られている。このため、従来から、柑橘類果実様飲料(特に、レモン果実様飲料;以下同じ)及びそれ用濃縮物は、強い柑橘類(特に、レモン;以下同じ)香味及び風味を発揮させるために、シトラールを主要成分とした柑橘類香料(特に、レモン香料;以下同じ)を含有させている。
【0003】
しかしながら、柑橘類香料の主要成分であるシトラールは、熱、光、酸素、酸性等の外因的要因又は経時的要因によって、その化学構造が変化することが知られている。その結果、シトラールを含有した飲料は、柑橘類果実様香味及び風味、とりわけ、シトラールによるレモン果実様香味及び風味が低減し、かつ、柑橘類果実(特に、レモン果実;以下同じ)由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感が経時的に喪失することとなる。また、シトラールは、その外因的要因又は経時的要因によって、その化学構造が変化し、分解生成物、特に、劣化生成物が生じることもまた知られている。特に、この劣化生成物には劣化臭を放出し、また劣化味を付与するものがあり、その劣化臭及び劣化味(オフフレーバー及びディテリオレィションテースト:併せて、「劣化臭味」と云うことがある)が柑橘類香料を含有した柑橘類果実様飲料及びそれ用濃縮物に望ましくない劣化臭味を付与することがある。
【0004】
シトラールの化学構造変化(分解)、又は、劣化物の発生は、柑橘類果実様飲料のpHが低い程、生じやすい傾向にある。従って、pHが酸性領域である柑橘類果実様飲料、又は、pH調整剤及び酸味料等が濃縮された結果、低酸性を示す柑橘類果実様飲料用濃縮物にあっては、重要な関心事となる。
【0005】
特に、柑橘類果実様飲料用濃縮物にあっては、低酸性以外にも、PETボトル、紙パック等の酸素透過性が高い大容量の容器に充填され市販されているものが殆どであり、しかも、開栓後、一度で使い切らないまま、室温で長期間保管されることから、柑橘類果実様飲料用濃縮物において、長期間酸化され、また、柑橘類果実様香気成分(例えば、シトラール)の分解による劣化生成物の発生等により、柑橘類香味及び風味を維持することは困難であった。
【0006】
従来、例えば、非特許文献1〔日本食品工業学会誌、第15巻、第7号、p.285-
289 (1968)〕では、クエン酸ナトリウム等の有機酸塩を添加して飲料のpHを上げることで、シトラールの分解を抑制する方法が提案されている。また、特許文献1(特開2004-18613号公報)では、発酵茶葉抽出物を添加することにより、シトラール由来の劣化臭生成物の発生を抑制する方法が提案されている。特許文献2(特開2004-123788号公報)では、抗酸化性成分と、遷移金属イオンとを添加することにより、シトラール由来の劣化臭生成物の発生を抑制する方法が提案されている。他方、特許文献3(特開2016-36319号公報)では、シネオールとシス-3-ヘキセノールを必須成分として包含し、更に酢酸ゲラニルを含有する柑橘系果実の香味を呈した飲料が開示されている。
【0007】
しかしながら、本願発明者等によれば、未だ、シトラールの代替成分又は少量のシトラ
ールとの併用において、外因的要因又は経時的要因、特に、酸性領域を呈し、かつ、長期間の保存及び酸素存在下に置かれてもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、かつ、長期間維持し、並びに、柑橘類果実由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感が長期間維持される、柑橘類果実様飲料及びそれ用濃縮物は見出されていない。
【0008】
よって、今尚、外因的要因又は経時的要因、例えば、酸性領域、長期間の保存及び酸素存在下においてもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、長期間維持し、柑橘類果実様香味及び風味を促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少されることなく、長期間維持される、シトラール以外の柑橘類果実様風味及び香味成分を含有した、柑橘類果実様飲料、及び柑橘類果実様飲料用濃縮物並びにこれらの製造方法の開発が要望されている。また、柑橘類果実様香料成分(例えば、シトラール等)から発生した劣化物による劣化臭味を消臭又は消味(マスキングと云うことがある)することができる、柑橘類果実様風味及び香味成分を含有した、柑橘類果実様飲料、及び柑橘類果実様飲料用濃縮物並びにこれらの製造方法の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-18613号公報
【文献】特開2004-123788号公報
【文献】特開2016-36319号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】日本食品工業学会誌, 第15巻, 第7号,p.285-289(1968)
【発明の概要】
【0011】
本願発明者等は、今般、シトラール代替成分又は少量のシトラールとの併用成分として、酸性領域、長期保存期間、又は酸素存在状況下であってもなお、柑橘類果実様香味及び風味が強く呈され、或いは劣化又は減少することなく長期間維持され、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化臭味をマスキングできる物質として、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルが優れた化合物であることを見出した。本願発明は、係る知見に基づいてなされたものである。
【0012】
〔本発明の一態様〕
よって、本発明は、以下の一態様を提案することができる。
〔1〕 柑橘類果実様飲料であって、
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルとを含んでなり、
前記酢酸ゲラニルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下であり、及び/又は
前記酢酸ネリルの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下であり、
前記柑橘類果実様飲料のpH値が2.1以上7未満である、柑橘類果実様飲料。
〔2〕 前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10ppm以下である、〔1〕に記載の柑橘類果実様飲料。
〔3〕 リモネンをさらに含んでなり、
前記酢酸ゲラニルの含有量を「X」とし、前記酢酸ネリルの含有量を「Y」とし、前記リモネンの含有量を「Z」とした場合に、(X+Y)/Zの値が0.014以上1.5以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の柑橘類果実様飲料。
〔4〕 前記柑橘類果実様飲料の酸度が0.03以上7.0以下であり、又は、
前記柑橘類果実様飲料の糖度が0.2以上40以下である、〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載の柑橘類果実様飲料。
〔5〕 前記柑橘類の果汁を含んでなり、
前記果汁の含有量が、0.1%以上20%以下である、〔1〕~〔4〕の何れか一項に記載の柑橘類果実様飲料。
〔6〕 前記柑橘類がレモンである、〔5〕に記載の柑橘類果実様飲料。
〔7〕 柑橘類果実様飲料がアルコール飲料又はノンアルコール飲料である、〔1〕~〔6〕の何れか一項に記載の柑橘類果実様飲料。
〔8〕 〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載された柑橘類果実様飲料を製造する方法であって、
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルとを含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし、
前記柑橘類果実様飲料のpH値を2.1以上7未満としてなることを含んでなる、柑橘類果実様飲料の製造方法。
〔9〕 柑橘類果実様飲料用濃縮物であって、
〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載の柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として1.0倍超過200倍以下としたものである、柑橘類果実様飲料用濃縮物。
〔10〕 柑橘類果実様飲料用濃縮物を製造する方法であって、
〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載された柑橘類果実様飲料を用意し、
柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として1.0倍超過200倍以下とすることを含んでなる、柑橘類果実様飲料用濃縮物の製造方法。
〔11〕 柑橘類果実様香気成分由来の劣化物による劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法であって、
柑橘類果実様飲料又は柑橘類果実様飲料用濃縮物に、
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルとを含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2ppm以下とし、
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8ppm以下とすることによる、劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法。
〔12〕 前記柑橘類果実様飲料が〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載されたものであり、
前記柑橘類果実様飲料用濃縮物が〔9〕に記載されたものである、〔11〕に記載の劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法。
【0013】
本発明によれば、シトラールの代替柑橘類香料成分として、或いは、少量のシトラールとの併用香料成分として、特定含有量の酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルを採用することにより、酸性領域、長期間の保存又は酸素存在下等の外因的要因又は経時的要因によってもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、かつ、長期間維持促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少することなく、そして、柑橘類由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感を長期間発揮及び維持することができ、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることができる、柑橘類果実様飲料及びそれ用濃縮物並びにこれらの製造方法を提案することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔定 義〕
(酢酸ゲラニル)
「酢酸ゲラニル:ゲラニルアセテート(C12H20O2)」は、下記〔化学式1〕で表さ
れる化合物(構造式:CH3COOC10H17)であり、モノテルペンに分類され、芳香又
は果実香を呈する無色の液体である。酢酸ゲラニルは、コリアンダー油、セイロンシトロネラ油、パルマローザ油等の天然精油から分別蒸留により得ることができる。又は、酢酸ゲラニルは、天然テルぺノイドのゲラニオールと酢酸との縮合反応(化学合成)によっても得ることができる。
【0015】
【0016】
(酢酸ネリル)
「酢酸ネリル:ネリルアセテート(C12H20O2)」は、下記〔化学式2〕で表される
化合物であり、モノテルペンに分類され、芳香又は果実香を呈する無色の液体である。酢酸ネリルは、ネロリ油、プチグレーン油、キク科のムギワラギク油等の天然精油の成分として存在する。酢酸ネリルは、これらの精油から分別蒸留により得ることができる。又は、酢酸ネリルは、無水酢酸ナトリウムの存在下で、ネロールと無水酢酸との加熱縮合反応(化学合成)によっても得ることができる。
【0017】
【0018】
(リモネン)
「リモネン:(C10H16)」は、下記〔化学式3〕で表される化合物であり、通常、天然物に存在し、単環式モノテルペンとして存在するものであり、キラル化合物であって、D型、L型のエナンチオマーとして存在する。リモネンは、柑橘類の果皮に存在する精油に存在し、無色透明の液体であるが、強いレモン香を呈するのは、D(+)-リモネンであ
る。
【0019】
【0020】
(シトラール)
「シトラール(C
10H
16O)」は、下記〔化学式4〕で表される化合物であり、ゲラニ
アール(trans-E体)とネラール(cis-Z体)という化合物(立体異性体)として存在し、一般には、精油に含まれる芳香成分の一つとして知られている。シトラールは、レモングラス、メリッサ(レモンバーム)、レモンバーベナ等の植物に多く含まれており、また、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、ライム等の柑橘類果実、並びに、山椒、生姜等の野菜に含まれている。
また、シトラール香料(柑橘類香料)は、強いレモン香を呈し、抗菌作用、鎮痙及び発汗作用に優れるという効果を有することから、従来、様々な飲食料品及び生活用品に使用されている。
ところで、シトラールは、加熱、光、酸性物質、酸素等の外因的要因により、また、柑橘類果実様飲料の保存、搬送、陳列等による経時的要因により、シトラールの化学構造が、環化、水和、異性化等の反応により変化し、その結果、劣化化学物質、例えば、p-クレゾール、p-サイメン、p-メチルアセトフェノンの化合物に変化する。しかもこれら劣化化合物は臭気を放ち、柑橘類果実様飲料に好ましくない劣化臭を呈し及び劣化味を付与することがある。
【化4】
〔化学式4〕
【0021】
(アルコール飲料)
「アルコール飲料」は、酒税法で「アルコール分一度以上の飲料」と定義されており、食品衛生法でも食品として扱われ、当該法律の適用を受けるものである。「アルコール飲料」としては、醸造酒、蒸留酒、その他の酒類、又はこれらの一種又は二種以上の混合酒が含まれる。なお、酒税法に定義されている通り、「アルコール分」とは、温度十五度の時において原容量百分中に含有するエチルアルコールの容量をいう。「アルコール度数」とは、アルコール飲料に対するエタノールの体積濃度を百分率(%)で表した割合である。また、「エキス分」とは、温度十五度の時において原容量百立方センチメートル中に含有する不揮発性成分のグラム数をいう。
【0022】
(純アルコール換算)
「純アルコール換算」とは、アルコール飲料(1L)に含まれる特定成分(mg)の濃度(mg/L=ppm)を、このアルコール飲料のアルコール度数割合(v/v)で割って、アルコール度数100(v/v%)当たりの数値に換算したものをいう。
例えば、特定のアルコール飲料〔アルコール度数(v/v%)が50度(%)〕に、特定の香気成分が50ppmで含まれていた場合、特定の香気成分の含有量は、純アルコール換算で、〔50ppm÷(50度÷100)〕=100ppmとなる。
【0023】
(含有量)
本発明にあっては、含有量は、本明細書において特にことわりがない限り、基本的に、mg/L、即ち、ppm(質量/体積)にて表す。
【0024】
〔柑橘類果実様飲料〕
(酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル)
本発明による柑橘類果実様飲料は、主成分として、特定含有量の酢酸ゲラニル及び/又
は酢酸ネリルを含んでなるものであり、好ましくは酢酸ネリルであり、より好ましくは酢酸ゲラニルと酢酸ネリルとの混合物を含んでなるものである。酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルは、例えば香料として添加することにより、上記柑橘類果実様飲料に含有させることができる。
【0025】
酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、又はこれらの混合物を含有することにより、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈することが可能となり、又は、劣化又は減少することなく長期間維持され、柑橘類果実由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感が長期間維持され、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることを可能とする。特に、本発明にあっては、強い柑橘類果実様香味及び風味を呈するシトラールを使用せず、或いは、極めて微量で含有されるシトラールとの併用であっても、極めて強い柑橘類果実香味及び風味を長期間維持し、かつ、とりわけ、劣化物(例えば、シトラール由来のもの)による劣化臭味を劣化生成物のオフフレーバーを有意にマスキングすることができる。
【0026】
《含有量》
酢酸ゲラニルの含有量(X)は、柑橘類果実様飲料の全質量に対して、下限値が0.02ppm以上であり、好ましくは0.04ppm以上であり、より好ましくは0.06ppm以上であり、上限値が2.0ppm以下であり、好ましくは1.5ppm以下であり、より好ましくは1.0ppm以下である。
また、酢酸ネリルの含有量(Y)は、柑橘類果実様飲料の全質量に対して、下限値が0.08ppm以上であり、好ましくは0.16ppm以上であり、より好ましくは0.24ppm以上であり、上限値が8.0ppm以下であり、好ましくは4.0ppm以下であり、より好ましくは2.0ppm以下である。
本発明の好ましい態様である、酢酸ゲラニル及び酢酸ネリルの混合物の含有量(X+Y)は、柑橘類果実様飲料の全質量に対して、下限値が0.10ppm以上であり、好ましくは0.20ppm以上であり、上限値が10.0ppm以下であり、好ましくは5.0ppm以下であり、より好ましくは3.0ppm以下である。
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルの含有量が上記範囲内にあることにより、極めて強い柑橘類果実(レモン果実)香味及び風味を長期間呈することが可能となり、又は、劣化又は減少することなく長期間維持され、柑橘類果実由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感が長期間維持され、さらにまた、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることを可能とする。
【0027】
(pH)
柑橘類果実様飲料のpHは、下限値が2.1以上、好ましくは2.4以上、上限値が、7.0未満、好ましくは、3.5以下である。
pHをこの範囲にすることにより、飲料の飲みやすさ、清涼感を付与すると共に、飲料に対して長期間の保存安定性、防黴性又は防菌性を付与することが可能となる。pH値は、例えば、JIS Z 8802:2011に準じて測定することができ、また、pH値は、pH測定器(例えば、東亜ディーケーケー社製のpHメーター)によって測定してよい。
【0028】
(シトラール及び/又はリモネン)
本発明にあっては、柑橘類香料成分として、シトラール及び/又はリモネン、好ましくはリモネンを含有するものであってよもよい。リモネンを含有することにより、レモン香味及び風味をさらに付与することができる。
また、本発明における柑橘類果実様飲料にあっては、本来、シトラールの代わりに、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルを必須成分として含有するものであるが、少量のシトラールの含有を許容するものである。
【0029】
《含有量》
リモネンの含有量は、柑橘類果実様飲料の全質量に対して、下限値が2.0ppm以上であり、好ましくは7.0ppm以上であり、上限値が20ppm以下であり、好ましくは9ppm以下である。また、シトラールの含有量は、柑橘類果実様飲料の全質量に対して上限値が0.8ppm以下であり、好ましくは0.1ppm以下である。
【0030】
《含有量比》
本発明にあっては、柑橘類果実様飲料の全質量に対して、柑橘類果実様飲料に含まれる酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、及びリモネンの各含有量を夫々、X、Y及びZ(ppm)と定義した場合に、(X+Y)/Z〔数式1〕の値が、下限値が0.015以上であり、好ましくは0.10ppm以上であり、上限値が1.5ppm以下であり、好ましくは0.20ppm以下である。
前記含有量比が上記範囲内にあることにより、強い柑橘類果実(レモン果実)香味及び風味を長期間呈することができ、また、発生したオフフレーバーを有意にマスキングすることが可能となる。
【0031】
(酸度)
柑橘類果実様飲料の酸度は、下限値が0.03以上、好ましくは0.3以上、であり、上限値が7.0以下、好ましくは、0.8 以下である。
酸度を上記範囲の数値にすることにより、飲料の飲みやすさ、清涼感を付与する。「酸度」とは、柑橘類果実様飲料に含有される(有機)酸の含有量(質量%)を意味し、柑橘類果実様飲料の酸味を示す指標となる。「酸度」は、中和滴定法により測定され、例えば、日本農業規格(JAS)の酸度測定方法に準じて測定することができ、また、酸度値は、市販されている酸度測定器(平沼社製酸度計)によって測定してよい。
【0032】
(糖度)
柑橘類果実様飲料の糖度は、下限値が0.2以上、好ましくは0.3以上であり、上限値が40以下、好ましくは4以下である。
糖度を上記範囲の数値にすることにより、飲料の飲みやすさ、清涼感を付与することが可能となる。「糖度」とは、柑橘類果実様飲料に含有される果糖、ぶどう糖及び蔗糖等の糖類の含有量(質量%)を意味し、柑橘類果実様飲料の酸味を示す指標となる。「糖度」は、例えば、JASのBrix測定方法に準じて測定することができ、また、糖度値(Brix値)は、糖度測定器(例えば、シロ産業社製デジタル糖度計)によって測定してよい。
【0033】
(柑橘類)
本発明にあっては、柑橘類(和柑橘類を含む)の果皮、果実(果汁)、新芽、葉、茎又は棘を使用することができ、好ましくは、これらの搾汁であり、より好ましくは果皮、果実の搾汁(果汁)を用いることができる。柑橘類は、内外国の様々な生産者、農業協同組合等から入手可能である。柑橘類は、レモン、ライム、グレープフルーツ、オレンジ等が例示され、好ましくは、レモン又はライムが挙げられる。また、和柑橘類は、様々なものが使用できるが、日本原産種又は在来種である、温州ミカン、伊予柑、夏ミカン、八朔、柚子、臭橙(カボス)、シークワサー、すだち、ダイダイ、日向夏、伊予柑、ぽんかん、デコポン(不知火)、清見、たんかん、夏みかん、甘夏、マイヤーレモン、げんこう、せとか、はるみ、たんかん(桶柑)、マーコット、アンコール、セミノール、晩白柚(ばんぺいゆ)、文旦(ブンタン)、カラ(カラマンダリン)、天草、スイートスプリング、はるか、南津海 (なつみ)、はれひめ、まりひめ、黄金柑、河内晩柑(美生柑)、紅まど
んな、ひめのつき、甘平、麗紅、クレメンタイン、カクテルフルーツ、及びミネオラからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物を使用することができる。
【0034】
《含有量》
柑橘類の搾汁(果汁;以下同じ)の含有量は、柑橘類果実様飲料の全質量に対して、下限値が0.1%以上であり、好ましくは1%以上であり、上限値が20%以下であり、好ましくは10%以下である。
柑橘類の搾汁の含有量が上記範囲内にあることにより、極めて強い天然由来の柑橘類果実香味及び風味を呈することができる。
柑橘類の搾汁には、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、リモネン、シトラール等を含有してなるものであるが、本発明にあっては、柑橘類果実様飲料に、柑橘類果実様香料成分として、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、リモネン、シトラール等の各香料成分を別途添加する場合には、柑橘類の搾汁に含有されるこれら成分の含有量は包含しないものとして扱う。なお、参考までに、レモン果汁中の香気成分分析値は、酢酸ネリルは0.00ppmであり、酢酸ゲラニル0.00ppmであり、リモネンは約0.39ppm程度であり、シトラールは約0.02ppm程度である。
【0035】
(任意成分)
本発明にあっては、柑橘類果実様飲料は、必要に応じて、任意成分を含んでなるものであってよい。任意成分としては、劣化臭味生成抑制剤、劣化臭味消臭(消味剤)〔マスキング剤〕、色素、果汁、エキス、香料、甘味料、酸味料、pH調整剤、酸化防止剤、保存料、ビタミン類、旨み成分、食物繊維、安定化剤、乳化剤等が挙げられる。これら任意成分は、厚生労働省、消費者庁等において定められたガイドライン及び関連法規(食品衛生法等)に規定されたものを用いる。
【0036】
《酸味料》
酸味料の具体例としては、アジピン酸、クエン酸、クエン酸(三)ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸及びこれらの塩(カリウム塩、ナトリウム塩)が挙げられる。酸味料は、pH調整剤としても使用可能である。
【0037】
《甘味料》
甘味料としては、例えば、果糖、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖、麦芽糖、ショ糖、高果糖液糖、糖アルコール、オリゴ糖、はちみつ、サトウキビ搾汁液(黒糖蜜)、水飴、ステビア末、ステビア抽出物、羅漢果末、羅漢果抽出物、甘草末、甘草抽出物、ソーマトコッカスダニエリ種子末、ソーマトコッカスダニエリ種子抽出物などの天然甘味料や、アセスルファムカリウム、スクラロース、ネオテーム、アスパルテーム、サッカリンなどの人工甘味料などが挙げられる。
【0038】
また、高甘味度甘味料、糖類及び糖アルコールが挙げられる。高甘味度甘味料の具体例としては、アスパルテーム、アセスルファムカリウム(K)、キシリトール、グリチルリチン酸二ナトリウム、サッカリン、サッカリンカルシウム、サッカリンナトリウム、スクラロース、ネオテーム、アラビノース、カンゾウ抽出物、キシロース、ステビア、タウマチン、ラカンカ抽出物、ラムノース及びリボースが挙げられる。糖類の具体例としては、異性化糖、ブドウ糖、果糖、砂糖、麦芽糖及び乳糖が挙げられる。糖アルコールの具体例としては、還元麦芽糖水飴、エリスリトール、キシリトール及びマルチトールが挙げられる。
【0039】
《色素》
色素の具体例としては、カラメル、アントシアニン色素、フラボノイド色素、カロテノ
イド色素、キノン色素、ポリフィリン、ジケトン色素、ベタシアニン色素、アザフィロン色素、クチナシ色素等が挙げられる。
【0040】
(柑橘類果実様飲料の態様)
柑橘類果実様飲料は、果汁飲料、野菜飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料、乳飲料などのソフト飲料;果汁入り炭酸飲料、乳類入り炭酸飲料、エキス入り飲料等の炭酸飲料;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティー、ミルクティー、コーヒー飲料等の嗜好飲料、アルコール飲料;又はノンアルコール飲料のいずれであってよもよい。本発明にあっては、好ましくはアルコール飲料(より好ましい)又はノンアルコール飲料とされてよい。
【0041】
ノンアルコール飲料は、実質的にアルコールを含まないアルコールテイストの飲料である。ノンアルコール飲料には、ノンアルコールビール(ビールテイスト飲料)、ノンアルコールワイン、ノンアルコールカクテル、ノンアルコール酎ハイ(酎ハイテイスト飲料)、ノンアルコール日本酒及びノンアルコール焼酎(焼酎テイスト飲料)等が含まれる。ノンアルコール飲料のアルコール濃度は、酒税法上は温度15度の時において原容量百分中に含有するエチルアルコールの容量が1%未満であると定義される。
【0042】
アルコール飲料は、ビール、酎ハイ、カクテル、発泡酒等が挙げられる。ベースとなるアルコールは、飲料として許可されたアルコールであってよく、べースアルコールとしては、醸造酒又は蒸留酒(好ましい)であってよい。蒸留酒としては、好ましくは、焼酎、ウォッカ、ジン、ラム等であってよい。アルコール飲料は、そのアルコール含有量は特に限定されるものではないが、柑橘類果実様飲料の特性、酒税法等を考慮して適宜調整できる。アルコール含有量は30容量%以下、より好ましくは9容量%以下が好ましく、より好ましくは、3容量%以上9容量%以下、さらに好ましくは7容量%以上9容量%以下である。
【0043】
〔柑橘類果実様飲料の製造方法〕
本発明の一態様によれば、本発明による柑橘類果実様飲料の製造方法を提案することができ、具体的には、以下の一態様を提案することができる。
【0044】
〈1〉 本発明による柑橘類果実様飲料の製造方法であって、
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルとを含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2ppm以下とし、及び/又は
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下とし、
前記柑橘類果実様飲料のpH値を2.1以上7未満としてなることを含んでなる、柑橘類果実様飲料の製造方法。
〈2〉 前記酢酸ゲラニルと前記酢酸ネリルとの含有量が、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.1ppm以上10ppm以下である、〈1〉に記載の製造方法。
〈3〉 リモネンをさらに含んでなり、
前記酢酸ゲラニルの含有量を「X」とし、前記酢酸ゲラニルの含有量を「Y」とし、前記リモネンの含有量を「Z」とした場合に、(X+Y)/Zの値が、0.014以上1.5以下である、〈1〉又は〈2〉に記載の製造方法。
〈4〉 前記柑橘類果実様飲料の酸度が0.03以上7.0以下であり、又は、
前記柑橘類果実様飲料の糖度が0.2以上40以下である、〈1〉~〈3〉の何れか一項に記載の製造方法。
〈5〉 前記柑橘類の果汁を含んでなり、
前記果汁の含有量が、0.1%以上20%以下である、〈1〉~〈4〉の何れか一項に
記載の製造方法。
〈6〉 前記柑橘類がレモンである、〈5〉に記載の製造方法。
【0045】
酸度の調製、糖度の調整、柑橘類の搾汁(果汁)、柑橘類香料成分、任意成分の添加、含有量等、これらの調製等については、先の〔柑橘類果実様飲料〕で説明したのと同様であってよい。
よって、本発明による柑橘類果実様飲料の製造方法は、本発明による柑橘類果実様飲料の内容を製造方法に適宜置き換えて使用することができる。
【0046】
より具体的な、柑橘類果実様飲料の製造態様は概説すると以下の通りである。酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル(必要に応じてリモネン)と、任意成分と、飲用水又は炭酸水、必要に応じてベースアルコールとを所定の量で準備し、これらを混合する。次に、混合液を冷却し、必要に応じてカーボネーションを行う。その後、容器に充填・密封することにより、所望の柑橘類果実様飲料を得ることができる。容器に充填する前に膜ろ過フィルターを用いてろ過してもよい。また、本発明による柑橘類果実様飲料用濃縮物を使用し、中間液を作成した後に、飲料水又は炭酸水等を添加して飲料を調製してもよい。酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル(必要に応じてリモネン)の形態は限定されるものではなく、例えば、香料や果汁の成分として混合してもよく、単一製剤又は香料液体として混合してもよい。
【0047】
〔柑橘類果実様飲料用濃縮物及びその製造方法〕
本発明の一態様として、柑橘類果実様飲料用濃縮物であって、
本発明による柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として、1.0倍超過200倍以下としたものである、柑橘類果実様飲料用濃縮物が提案できる。
本発明にあっては、柑橘類果実様飲料用濃縮物は、本発明による柑橘類果実様飲料における含有成分濃度を上げたもの、例えば、飲料水(飲用アルコール)の含有量を減少し、含有成分の含有量を増加し、或いは、本発明による柑橘類果実様飲料における濃度を食品衛生法上許容される方法で濃縮(加熱、乾燥等)したものとして提案することができる。柑橘類果実様飲料用濃縮物は、本発明による柑橘類果実様飲料の一態様ともいえる。
【0048】
柑橘類果実様飲料用濃縮物における『濃縮物』とは、割り材で希釈することで通常の飲用状態にすることができる濃縮タイプの飲料を言い、例えば、コンク飲料、濃縮飲料、飲料コンク、シロップ等とも言われる。
希釈用の割り材としては、例えば、水、炭酸水、氷、アルコール、アルコール飲料、
果汁、果汁入り飲料、その他の飲料、並びに、これらの一種又は二種以上の組み合わせを用いることができる。通常飲料ベースは、家庭や店舗において、柑橘類果実様飲料用濃縮物に対して、割り材を用いて、例えば1.2~20倍、好ましくは2~12倍程度になるよう希釈して提供される。
【0049】
《濃度/濃縮》
柑橘類果実様飲料用濃縮物は、濃度換算において、上記した本発明による柑橘類果実様飲料の濃度を下限値として1.0超過倍であり、好ましくは1.2倍以上であり、上限値として200倍以下であり、好ましくは100倍以下であり、より好ましくは10倍以下程度にしたものである。
【0050】
柑橘類果実様飲料用濃縮物は、濃度が相違するのみであることから、本発明による柑橘類果実様飲料の一態様ということができる。また、柑橘類果実様飲料用濃縮物にあっては、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル等の含有成分、任意成分、pH、酸度の調製、糖度の調製、柑橘類の搾汁(果汁)、柑橘類香料成分としてのシトラール及び/又はリモネン、任意成分の添加、含有量等の全ての事項は、先の〔柑橘類果実様飲料〕の項で説明した
のと同様であってよい。
【0051】
〔柑橘類果実様飲料用濃縮物の製造方法〕
本発明の一態様として、柑橘類果実様飲料用濃縮物を製造する方法であって、
本発明による柑橘類果実様飲料を用意し、
柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として1.0倍超過200倍以下とすることを含んでなる、柑橘類果実様飲料用濃縮物の製造方法が提案できる。
【0052】
柑橘類果実様飲料用濃縮物の製造方法にあっては、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル等の含有成分、任意成分、pH、酸度の調製、糖度の調製、柑橘類の搾汁(果汁)、柑橘類香料成分としてのシトラール及び/又はリモネン、任意成分の添加、含有量等の全ての事項は、先の〔柑橘類果実様飲料〕、〔柑橘類果実様飲料の製造方法〕、及び〔柑橘類果実様飲料用濃縮物〕の各項で説明したのと同様であってよい。
【0053】
柑橘類果実様飲料用濃縮物の製造方法は、一般的には、柑橘類果実様飲料からベースとなる溶媒(飲料水、飲用アルコール等)を添加せず、又は含有量を減らして調製するものであってよく、或いは、このベース溶媒と同量又はそれ以下の糖類を添加したもの、又は、柑橘類果実様飲料を加熱し又は乾燥させて高濃度のものとして調製してもよい。
【0054】
〔容器詰め飲料〕
別の好ましい態様によれば、柑橘類果実様飲料又は柑橘類果実様飲料用濃縮物を容器に詰めた容器詰飲料を提案することができる。容器詰飲料とすることにより、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、かつ、長期間維持促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少することなく、そして、柑橘類由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感を長期間発揮及び維持することができる。さらに、劣化物が発生する場合には劣化物による劣化臭味をマスキングすることができる。さらにまた、柑橘類果実様飲料又は柑橘類果実様飲料用濃縮物の提供利便性、流通利便性、保存性、品質劣化防止を図ることが可能となる。
【0055】
容器は、内容物が漏洩しない材料であれば、ビニール、プラスチック、ガラス、金属、紙、木又は皮等で、様々な形状で形成された容器に詰めることができる。より好ましい態様によれば、容器の内外に、光、熱、酸素、紫外線等を遮断するための素材(例えば、着色又は機能性フィルム、金属箔)を備えたものであってよい。
【0056】
〔柑橘類香気成分由来の劣化物による劣化臭又は劣化味の低減方法又は消滅方法〕
本発明にあっては、柑橘類香気成分由来の劣化物による劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法であって、
柑橘類果実様飲料又は柑橘類果実様飲料用濃縮物に、
酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリルとを含有させ、
前記酢酸ゲラニルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.02ppm以上2.0ppm以下とし、
前記酢酸ネリルの含有量を、前記柑橘類果実様飲料の全質量に対して、0.08ppm以上8.0ppm以下としてなる、劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法が提案される。
本発明にあっては、前記柑橘類果実様飲料のpH値を2.1以上7未満としてなることを含んでなり、前記柑橘類果実様飲料用濃縮物が、本発明による柑橘類果実様飲料の濃度を、濃度換算として1.0倍超過200倍以下としたものに好ましくは使用される。
【0057】
本発明による方法あっては、柑橘類果実様飲料は、本発明によるものであってよい。本発明による方法によって、柑橘類果実様香気成分由来の劣化物によって発生される劣化臭味を有意に低減し又は消滅(マスキング)させることができる。
【0058】
柑橘類香気成分由来の劣化物による劣化臭又は劣化味を低減し又は消滅させる方法にあっては、酢酸ゲラニル及び/又は酢酸ネリル等の含有成分、任意成分、pH、酸度の調製、糖度の調製、柑橘類の搾汁(果汁)、柑橘類香料成分としてのシトラール及び/又はリモネン、任意成分の添加、含有量等の全ての事項は、先の〔柑橘類果実様飲料〕、〔柑橘類果実様飲料の製造方法〕、及び〔柑橘類果実様飲料用濃縮物〕の各項で説明したのと同様であってよい。特に、『低減し又は消滅させる方法』は、〔柑橘類果実様飲料の製造方法〕の製造工程及びそれらの表現をそのまま用いてよい。
【実施例】
【0059】
以下の実施例により、本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は下記実施例に限定して解釈されるものではない。また、以下の実施例は、本発明の実施態様の一例を示すものであるが、これら実施例により当業者は本発明の全ての範囲について容易に実施することができることを当然に理解するものである。
【0060】
〔分析〕
実施例、比較例及び対照例におけるレモン果汁様飲料中に含まれる各成分は、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)を用いて定量を行った。GC/MS分析の手順は以下の通りであった。
【0061】
(香気成分分析方法)
〈分析用試料調製〉
試料を5.0g秤量し、内部標準としてリナロール-d5を200μl添加した上で、45mLの水で希釈した。次にアセトニトリル浸漬および加熱にてコンディショニングを
行ったTwister(PDMS,0.5mm×20mm)を希釈した試料に投入し、4
0℃2時間の撹拌吸着反応を行ったものを分析用試料として調製した。なお、試料調製は2点並行して行った。
【0062】
〈定量方法〉
分析用試料中のレモン香気成分の量は、内部標準(リナロール-d5)とのピーク面積比から計算した。また、同一試料について2点並行で行った分析値の平均値を試料中の成分量であるものとして定量を行った。
【0063】
〈GC条件〉
装置:測定には昇温気化型注入口(CIS4,Gerstel社製)、加熱脱着ユニット(TDU, Gerstel社製)およびLTMカラム(1st:DB-WAX,20m×0.18mm;0.3μm、2nd:DB-5,10m×0.18mm;0.4μm,Agilent Technologies社製)を搭載した7890B GC System(Agilent Technologies社製)、5977A MSD(Agilent
Technologies社製)を使用した。
TDU:20℃(1min)-(720℃/min)-250℃(3min)
CIS:-50℃(1.5min)-(12℃/min)-240℃(60min)
スプリット比:30:1
注入口圧:508.28kPa
ベント圧:314.11kPa
1stカラム温度:40℃(3min)-(5℃/min)-180℃(0min)
2ndカラム温度:40℃(31min)-(5℃/min)-200℃(0min)
MSD:Scan mode,m/z 29-230, 20Hz, EI
【0064】
〔柑橘類果実様飲料の調製1〕
〔実施例A〕
酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、リモネンを主体としたレモン果汁様飲料を調製した。
〈組成表〉
レモン果汁 100g/L
グラニュー糖 293g/L
クエン酸 60g/L
クエン酸ナトリウム 3g/L
リモネン 0.007g/L
酢酸ゲラニル 0.0002g/L
酢酸ネリル 0.0008g/L
【0065】
〔比較例A〕
実施例Aと同様にして、シトラールを主体としたレモン果汁様飲料を調製した。
〈組成表〉
レモン果汁 100g/L
グラニュー糖 293g/L
クエン酸 60g/L
クエン酸ナトリウム 3g/L
リモネン 0.006g/L
シトラール 0.0008g/L
【0066】
〔評価試験〕
〔評価試験1:レモン様香気成分の長期保存安定性評価〕
【0067】
〔評価手法1〕
実施例A及び比較例Aにおけるレモン果実様飲料を、それぞれ三つに分けて、0℃初期、37℃7日間、60℃3日間の加速度試験を行って、レモン香気成分の残存量を上記GC/MS分析し、その結果を下記表1に記載した。
〔評価結果1〕
実施例Aは、比較例Aに対して、優れたレモン様香気成分の長期間の維持と、その強いレモン様香気成分を発揮していたことが理解された。
【0068】
〔評価試験2:レモン様香気成分のオフフレーバー(劣化物)の生成量評価価〕
〔評価手法2〕
実施例A及び比較例Aにおけるレモン果実様飲料を、それぞれ三つに分けて、0℃初期、37℃7日間、60℃3日間の加速度試験を行って、レモン様香気成分のオフフレーバー(劣化物)の生成量を上記GC/MS分析し、その結果を下記表1に記載した。
〔評価結果2〕
実施例Aは、比較例Aに対して、オフフレーバーの発生量が極めて少なく、劣化物の劣化臭が非常に感じ取れなかった。
【表1】
【0069】
〔柑橘類果実様飲料の調製2〕
【0070】
(実施例及び対照例)
実施例及び対照例には、レモン果汁様飲料濃縮物を、純水で10倍に希釈したレモン果汁様飲料を用いた。下記〔表2〕の組成表には、10倍希釈後のレモン果実様飲料の処方を記載している。
【0071】
(分析値)
調製したレモン果実様飲料のpH値は東亜ディーケーケー社製のpHメーター:HM-30Rを用いて測定した。酸度値は、平沼社製酸度計を用いて測定した。糖度は、シロ産業社製デジタル糖度計を用いて測定した。
【0072】
〔評価試験3:官能評価試験〕
本出願人会社内の食品官能評価能力のある男女合わせて6~8名のパネルにより、実施例及び対照例の飲料を以下の基準で評価し、その平均値を得て、その結果を、下記〔表2〕に記載した。
【0073】
(官能評価1:レモン感(らしさ))
レモン感(らしさ)は、レモンを搾った際のレモン香味として、以下の評価基準で評価して平均値を下記〔表2〕に記載した。
評価点1:レモン感が極めて弱かった。
評価点2:レモン感が弱かった。
評価点3:レモン感が強くも、弱くもなかった。
評価点4:レモン感が強かった。
評価点5:レモン感が極めて強かった。
【0074】
(官能評価2:レモン爽快感(フレッシュ感))
レモン爽快感は、レモン自体の爽やかさ、フレッシュ感として、以下の評価基準で評価して平均値を下記〔表2〕に記載した。
評価点1:フレッシュなレモン爽快感が極めて弱かった。
評価点2:フレッシュなレモン爽快感が弱かった。
評価点3:フレッシュなレモン爽快感が強くも、弱くもなかった。
評価点4:フレッシュなレモン爽快感が強かった。
評価点5:フレッシュなレモン爽快感が極めて強かった。
【0075】
(官能評価3:劣化臭味の有無)
劣化臭の評価は、60℃で3日間強制保管した後のサンプルにつき、レモン特有の劣化臭味の有無について、以下の評価基準で評価して平均値を下記〔表2〕に記載した。
評価点1:劣化臭がなかった。
評価点2:劣化臭は殆どしなかった。
評価点3:やや劣化臭を感じた。
評価点4:若干劣化臭がした。
評価点5:劣化臭がした。
【0076】
(官能評価4:総合評価)
総合評価は、レモン果実様飲料としてのバランスが良いか、以下の評価基準で評価して平均値を下記〔表2〕に記載した。
評価点1:レモン飲料として極めてバランスが悪かった。
評価点2:レモン飲料として若干バランスが悪かった。
評価点3:レモン飲料としてバランスが良かった。
評価点4:レモン飲料としてかなりバランスが良かった。
評価点5:レモン飲料として極めてバランスが良かった。
【0077】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【0078】
〔総合評価〕
実施例2は、実施例1と比較して、レモンらしさやフレッシュ感が感じられた。
実施例3は、実施例1と比較して、よりレモンらしさやフレッシュ感が感じられた。
実施例4は、実施例1と比較して、ややレモンらしさやフレッシュ感が感じられた。
実施例5は、実施例1と比較して、レモンらしさやフレッシュ感が弱く感じられた。
実施例6は、実施例1と比較して、劣化臭の増加がみられなかった。
実施例7は、実施例2と比較して、劣化臭の増加がみられなかった。
実施例8は、実施例3と比較して、劣化臭の増加がみられなかった。
実施例9は、実施例4と比較して、劣化臭の増加がみられなかった。
【0079】
実施例14は、実施例10と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感が低下、劣化臭が増加していた。
実施例15は、実施例11と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感が低下、劣化臭が増加していた。
実施例16は、実施例12と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感が低下、劣化臭が増加していた。
実施例17は、実施例13比較して、レモンらしさ、フレッシュ感が低下、劣化臭が増加していた。
【0080】
実施例18は実施例2と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感が低下していた。
実施例19は実施例3と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感が低下していた。
実施例20は実施例2と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感が低下していた。
実施例21は実施例3と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感が低下していた。
実施例22は実施例3と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感に差がなかった。
実施例23は実施例3と比較して、レモンらしさ、フレッシュ感に差がなかった。
【0081】
[アルコール飲料評価]
上記実施例及び比較例において、アルコール濃度5-9%に調製したアルコール飲料(それ用濃縮物)であっても、同様の効果を得ることができた。
【0082】
〔総合結果〕
特定含有量の酢酸ネリルと酢酸ゲラニルと(必要に応じてリモネンと)を柑橘類果実様飲料及びそれ用濃縮物(これらの製造方法)によれば、シトラールの代替柑橘類香料成分(又は極めて少量のシトラールとの併用香料成分)として、酸性領域、長期間の保存又は酸素存在下等の外因的要因又は経時的要因によってもなお、柑橘類果実様香味及び風味を強く呈し、かつ、長期間維持促進させ、柑橘類果実様香味及び風味が劣化又は減少することなく、そして、柑橘類由来の新鮮感、爽快感、及び清涼感を長期間発揮及び維持することができることが理解された。さらには、特定含有量の酢酸ネリルと酢酸ゲラニルと(必要に応じてリモネンと)を柑橘類果実様飲料及びそれ用濃縮物(これらの製造方法)によれば、柑橘類果実様香気成分由来の劣化物が発生する場合には、この劣化物による劣化臭味をマスキングすることができることが理解された。