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特許7420918機械的に安定な限外濾過膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】機械的に安定な限外濾過膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/12 20060101AFI20240116BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 71/12 20060101ALI20240116BHJP
   B01D 71/20 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 37/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D61/14 500
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/12
B01D71/20
B32B37/02
【請求項の数】 33
(21)【出願番号】P 2022505632
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-13
(86)【国際出願番号】 EP2020071417
(87)【国際公開番号】W WO2021018971
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】102019005373.7
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511034561
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム ビオテック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュレウス トビアス
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0284267(US,A1)
【文献】特開2012-110889(JP,A)
【文献】特表2002-537988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
61/00-71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1のポリマー溶液(2)を支持体層(1)に塗布して、前記支持体層(1)上に及び/又は前記支持体層(1)内に部分的に又は完全に第1のポリマー層を形成する工程と、
(b)工程(a)からのコーティングされた前記支持体層を、前記第1のポリマー溶液(2)中の前記ポリマーに対する非溶媒を含む気体(3)と接触させる工程と、
(c)第2のポリマー溶液(4)を前記第1のポリマー層に塗布して、前記第1のポリマー層上に第2のポリマー層を形成する工程と、
(d)複数回コーティングされた前記支持体層を、前記第1のポリマー溶液(2)及び/又は前記第2のポリマー溶液(4)中の前記ポリマーに対する析出剤の入った析出浴(5)中に導入する工程と、
を含み、
前記接触が、コーティングされた前記支持体層が、対応する気体雰囲気を有するチャンバを介して導かれることにより行われ、又は
前記接触が、対応する気体の流れを供給することにより行われ、ここで気体の流量が、0.3m/s~8m/sの速度(v(気体))で10m/h~600m/hである、限外濾過膜の製造方法。
【請求項2】
前記ポリマー溶液は、互いに独立に、2重量%~40重量%の同一の又は異なる固形分含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のポリマー溶液(2)は、前記第2のポリマー溶液(4)よりも高い固形分含有量を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマー溶液は、互いに独立に、800mPa・s~40000mPa・sの粘度を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)及び工程(c)における塗布温度は、互いに独立に、4℃~40℃である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)における前記支持体層(1)及び工程(c)におけるコーティングされた前記支持体層は、ポリマー溶液の塗布の際、それぞれの前記ポリマー溶液(2、4)に対して、30m/h~500m/hの速度で移動する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記気体(3)は、1.0g/m~20g/mの非溶媒を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記気体(3)は、1.7g/m~18g/m又は1.7g/m~19g/mの非溶媒を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記気体(3)は、3.0g/m~16g/m又は5.0g/m~18g/mの非溶媒を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記気体(3)は、5.0g/m~15g/m又は12g/m~17g/mの非溶媒を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1のポリマー溶液中の前記ポリマーに対する非溶媒を含む前記気体は、キャリア気体としての窒素と、非溶媒の総量に対して50体積%~100体積%の水及び0体積%~50体積%のエタノールからなる非溶媒(混合物)とを含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)における曝露時間は、500ms~20sである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程(b)における曝露温度は、前記第1のポリマー溶液(2)の最も沸点の低い構成成分の沸点より少なくとも10℃低く、前記沸点は50℃を上回る、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)はチャネルを用いて行い、前記チャネル内で、前記非溶媒含有気体の流れを、コーティングされた前記支持体層に対して0度~45度の角度で当てる、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程(b)における、前記非溶媒含有気体によって形成された雰囲気から、塗布された前記第1のポリマー溶液内への前記非溶媒の浸透深さは、塗布された前記第1のポリマー溶液の総深さに対して80%未満である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
(c1)工程(c)と工程(d)との間で、工程(c)からの複数回コーティングされた前記支持体層を、前記第2のポリマー溶液(4)中の前記ポリマーに対する非溶媒を含む気体と接触させる工程を更に含む、
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
(e)工程(d)の後、複数回コーティングされた前記支持体層を1つ以上の洗浄槽(6)中に導入する工程を更に含む、
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
1種以上の前記ポリマー溶液は、セルロースエステルを含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
(f)前記セルロースエステルを加水分解する工程を更に含む、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(g)前記ポリマー層中のポリマー鎖を架橋する工程を更に含む、
請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
工程(c)を、工程(d)の前に、異なる又は同じポリマー溶液を用いて1回以上行い、任意選択で、複数回の工程(c)の間に、互いに独立に、直前に塗布した前記ポリマー溶液の前記ポリマーに対する非溶媒を含む対応する気体を用いて、更なる工程(b)を行う、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
限外濾過膜であって、
以下の検査方法により決定される対流性圧力上昇が、600回を上回る衝突回数で生じ、該検査方法は、筐体内に配置し、その上方及び下方を密閉した、水で湿らした検査対象の限外濾過膜(11)に、直径20mmの試験体(K)を、少なくとも1Nかつ250N以下の力で繰り返し当て、前記膜(11)の上の圧力はPであり、前記膜(11)の下の圧力はPであり、P>Pであり、センサ(S)が前記膜(11)の下の圧力上昇を検出し、前記試験体(K)の衝撃により前記膜(11)が損傷するとすぐに、前記圧力上昇を検出するための前記センサ(S)が、拡散成分の他の対流成分を検出し、
前記限外濾過膜は、支持体層(1)上に重なって配置された2つ以上のポリマー層を含み、
前記支持体層(1)上に直接及び/又は前記支持体層(1)内に部分的に又は完全に配置された前記第1のポリマー層は、前記第1のポリマー層上に配置された前記第2のポリマー層に隣接する側に減衰領域(23、33)を有し、前記減衰領域(23、33)は、第1のポリマー層の残りの領域と比較して、より延性のある孔構造を有する、限外濾過膜。
【請求項23】
前記ポリマー層は、スポンジ構造(22、24)を有し、
最も外側の前記ポリマー層は、外面保持スキン層(21)を有する、
請求項2に記載の限外濾過膜。
【請求項24】
前記外面保持スキン層(21)は、0.01μm~2.0μmの厚さを有する、請求項2に記載の限外濾過膜。
【請求項25】
前記第1のポリマー層は、0.05μm~30μmの平均孔径を有する微多孔性スポンジ構造(24)を有し、
前記第1のポリマー層の前記スポンジ構造(24)は、少なくとも25%で前記支持体層(1)中に浸透している、
請求項2~2のいずれか1項に記載の限外濾過膜。
【請求項26】
前記支持体層(1)は、30μm~300μmの厚さを有し、
前記第1のポリマー層は、10μm~100μmの厚さを有し、前記第1のポリマー層は少なくとも25%で前記支持体層(1)内に浸透しており、
前記第2のポリマー層は20μm~100μmの厚さを有し、前記第2のポリマー層の厚さは、前記第1のポリマー層と前記支持体層(1)との組み合わせの厚さ以下であり、 前記第1のポリマー層の前記減衰領域(23、33)は、前記第1のポリマー層の厚さの最大20%を占める、
請求項2~2のいずれか1項に記載の限外濾過膜。
【請求項27】
前記限外濾過膜は、50μm~400μmの総厚さを有する、請求項2~2のいずれか1項に記載の限外濾過膜。
【請求項28】
前記ポリマー層は、互いに独立に、非対称な又は対称なスポンジ構造(22、24)を有する、請求項2~2のいずれか1項に記載の限外濾過膜。
【請求項29】
前記第1のポリマー層及び前記第2のポリマー層は、非対称なスポンジ構造を有する、請求項28に記載の限外濾過膜。
【請求項30】
前記第1のポリマー層及び前記第2のポリマー層は、共に複雑な構造を有することを特徴とする、請求項29に記載の限外濾過膜。
【請求項31】
該構造は、前記孔がまず第1の主面から前記第2のポリマー層内を拡がり、次いで該膜内の前記孔が前記第1のポリマー層に入るとテーパし、前記孔が前記構造の過程で第2の主面に向かって再び拡がることを特徴とする、請求項3に記載の限外濾過膜。
【請求項32】
前記ポリマー層は、セルロースエステル、硝酸セルロース、再生セルロース及び架橋再生セルロースからなる群より選択されるセルロース誘導体を含む、請求項2~3のいずれか1項に記載の限外濾過膜。
【請求項33】
前記限外濾過膜は、ウシ血清アルブミンを50%以下の範囲で保持する、請求項2~3のいずれか1項に記載の限外濾過膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的に安定な限外濾過膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
濾過膜は、保持性及び孔径に基づいて分類される。例えば、孔径に基づいて、精密濾過膜(平均孔径:0.1μm~10μm)、限外濾過膜(平均孔径:0.01μm~0.1μm未満)、ナノ濾過膜(平均孔径:0.001μm~0.01μm未満)、及び逆浸透膜(平均孔径:0.0001μm~0.001μm未満)に大別される(非特許文献1参照)。
【0003】
膜の保持性に関して、分画分子量(MWCO:molecular weight cut-off)に基づいて同様に定義され得る。MWCOは、膜に溶質の90%の割合が保持される最小の分子量(ダルトン単位)を有する溶質(通常はデキストラン)に関し、又は代替で、膜にその分子量を有する分子の90%の割合が保持される分子の分子量(ダルトン単位)に関する。例えば、10kDaのMWCOを有する膜は、10kDa以上のデキストランを少なくとも90%保持する。
【0004】
通常の使用の過程で、限外濾過膜は、例えば、クロスフロープロセスにおける、例えばポンプ又は他のプラント構成部品の脈動により、頻繁に衝撃を受け得る。しかし、多くの限外濾過膜は、フィルタ面に対する直交方向において低い耐衝撃性を示し、このため、寿命が短く、或る特定の要求の厳しい用途には十分な安定性が得られない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Shang-Tian Yang, Bioprocessing for Value-Added Products from Renewable Resources, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、フィルタ面に対する直交方向において高い耐衝撃性を有する限外濾過膜、及び更にそのような限外濾過膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、特許請求の範囲に特徴が記載されている実施の形態によって解決される。
【0008】
より特に、本発明は、
(a)第1のポリマー溶液を支持体層に塗布して、支持体層上に及び/又は支持体層内に部分的に又は完全に第1のポリマー層を形成する工程と、
(b)工程(a)からのコーティングされた支持体層を、第1のポリマー溶液中のポリマーに対する非溶媒を含む気体と接触させる工程と、
(c)第2のポリマー溶液を第1のポリマー層に塗布して、第1のポリマー層上に第2のポリマー層を形成する工程と、
(d)複数回コーティングされた支持体層を、第1のポリマー溶液及び/又は第2のポリマー溶液中のポリマーに対する析出剤の入った析出浴中に導入する工程と、
を含む、限外濾過膜の製造方法に関する。
【0009】
本発明の方法により、フィルタ面に対する直交方向において高い耐衝撃性を有する限外濾過膜を得ることができる。これは、例えば従来の二重コーティングにより製造される限外濾過膜等の既知の限外濾過膜とは一線を画している。本発明の方法では、第1のポリマー層(予備コーティング)を非溶媒含有気体に曝し、第1のポリマー層中に減衰領域を形成する。その後にのみ、時間をおいて、第2のポリマー層(主コーティング)を塗布する。工程(b)における非溶媒含有気体との中間接触により、限外濾過膜に減衰領域を設け、その結果、高められた耐衝撃性を有する膜が得られる。
【0010】
本発明において、「限外濾過膜」の語は、1kDa~1000kDaのMWCOを有する膜を指す。
【0011】
本発明によれば、工程(a)において、第1のポリマー層を支持体層に塗布し、支持体層上に及び/又は支持体層内に部分的に又は完全に第1のポリマー層を形成し、(c)において、第2のポリマー溶液をコーティングされた支持体層に塗布し、第1のポリマー層上に第2のポリマー層を形成する。
【0012】
限外濾過膜の製造に使用されるポリマー溶液は、特に制限されない。したがって、膜形成に適した1種以上のポリマーの任意の溶液を使用し得る。
【0013】
ポリマー溶液中に溶解するポリマー(膜形成ポリマー)は、セルロースエステル、硝酸セルロース及び再生セルロースからなる群より選択されるセルロース誘導体であることが好ましい。ポリマー溶液は、互いに独立、これらの膜形成ポリマーの1種以上、好ましくは1種を含み得る。セルロースエステルの例は、セルロースアセテート、例えばセルロースモノアセテート、セルロースジアセテート及びセルローストリアセテート等、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、及びセルロースアセトブチレートである。
【0014】
ポリマー溶液に用いられる溶媒は、対象の単数又は複数のポリマーを溶解できるものであれば、特に制限されない。好ましくは、対象の膜形成ポリマー用(又は各膜形成ポリマー用)の溶媒は、標準条件(25℃、1013hPa)における、(各場合において)少なくとも2重量%、より特に少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、非常に好ましくは少なくとも30重量%の溶解度を有する。適切な溶媒は当業者に知られている。セルロースアセテートに適切な溶媒は、例えば、ケトン(例えばアセトン)、ジオキサン、アミド(例えばジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルプロパンアミド、2-ヒドロキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド)及びN-ブチルピロリドン及びこれらの混合物である。硝酸セルロース用の適切な溶媒は、例えば、アセトン、及びエチルアセテートである。
【0015】
ポリマー溶液は、互いに独立に、1種以上の添加剤を更に含んでいてもよい。適切な添加剤は、例えば、膨潤剤、可溶化剤、親水化剤、孔形成剤(ポロゲン)及び/又は対象のポリマーに対する非溶媒である。この種の添加剤は、当業者に知られており、膜形成ポリマーに適合される。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、特にPEG1000又はPEG2000、グリセロール又はポリビニルピロリドン(PVP)を膨潤剤又は孔形成剤として使用し得る。ポリマー溶液は、互いに独立に、対応する膜形成ポリマー、溶媒、及び任意選択で1種以上の添加剤、好ましくは孔形成剤、膨潤剤及び/又は非溶媒のみからなることが好ましい。
【0016】
本明細書において「非溶媒」の語は、膜形成ポリマーを溶解することができない液体を指す。好ましくは、膜形成ポリマー(又は各膜形成ポリマー)に対する非溶媒は、標準条件下において、(各場合において)最大1重量%の溶解度、非常に好ましくは最大0.1重量%の溶解度を有する。
【0017】
ポリマー溶液が、対応する膜形成ポリマーに対する非溶媒(又は他の析出剤)を含む場合、非溶媒(又は析出剤)の最大濃度は、膜形成ポリマーの析出をもたらすのに不十分な濃度である。ポリマー溶液は、互いに独立に、対応する膜形成ポリマーに対する溶媒、対応する膜形成ポリマー及び非溶媒(混合物)のみからなることが好ましい。
【0018】
適切な非溶媒は、例えば、水、グリセロール、イソプロパノール、エタノール及びこれらの混合物である。セルロースアセテートに対する適切な非溶媒は、例えば、水、グリセロール、イソプロパノール、エタノール(非溶媒性の低下を伴う)、及びこれらの混合物である。硝酸セルロースに対する適切な非溶媒は、例えば、水及びアルコールである。特に特定しない限り、非溶媒に関する上記の定義及び考察は、本発明の全ての態様に同様に適用される。
【0019】
ポリマー溶液中の固形分含有量は、特に制限されず、例えば、所望のフィルタタイプに基づいて選択し得る。本明細書において「固形分含有量」の語は、存在する純粋な膜形成ポリマーの含有量を指す。好ましい実施の形態において、ポリマー溶液は、互いに独立に、2重量%~40重量%、より特に5重量%~30重量%、より好ましくは7重量%~20重量%、非常に好ましくは10重量%~16重量%の同一の又は異なる固形分含有量を有する。
【0020】
ポリマー溶液は、異なる固形分含有量を有していてもよく、これらの固形分含有量は、例えば、所望の膜特性に基づいて選択され得る。好ましい実施の形態において、第1のポリマー溶液は、第2のポリマー溶液よりも高い固形分含有量を有する。例えば、第1のポリマー溶液は10重量%~30重量%の固形分含有量を有し、第2のポリマー溶液は5重量%~20重量%の固形分含有量を有する場合があり、第1のポリマー溶液は第2のポリマー溶液よりも高い固形分含有量を有している。
【0021】
ポリマー溶液の粘度は特に制限されない。例えば、ポリマー溶液は、互いに独立に、800mPa・s~40000mPa・s、より特に1000mPa・s~25000mPa・s、非常に好ましくは3000mPa・s~15000mPa・sの粘度を有し得る。
【0022】
ポリマー溶液には、規定の熱的前処理を施す必要はなく、すなわち、膜/構造形成のための熱的前処理を使用する必要はない。より特に、ポリマー溶液は、下限の又は上限の臨界溶液温度を有しないことが好ましい。
【0023】
ポリマー溶液を塗布する方法は、従来技術から当業者に知られており、本発明の方法において特に制限なく使用することができる(例えば、工程(a)において及び工程(c)において)。このような方法は、例えば、(コーティングされた)支持体層を、例えば、対応するポリマー溶液が出るドクターブレードシステム又はスロットダイを通して搬送する方法である。工程(a)は、スロットダイを用いて行われることが好ましい。工程(c)は、スロットダイを用いて行われることが好ましい。
【0024】
本発明によれば、工程(a)において、第1のポリマー溶液2を支持体層1に塗布し、支持体層1上に及び/又は支持体層1内に部分的に又は完全的に第1のポリマー層を形成する。これにより、(単一の)コーティングされた支持体層が製造される(図1に例示するように)。本発明による工程(c)において、第2のポリマー溶液4を第1のポリマー層に塗布し、第1のポリマー層上に第2のポリマー層を形成する(図1に例示するように)。これにより、複数回コーティングされた支持体層が製造される。
【0025】
工程(a)において、第1のポリマー溶液は、支持体層内に部分的に又は完全に浸透し得る。例えば、第1のポリマー層は、少なくとも25%、より特に少なくとも50%、非常に好ましくは少なくとも75%の範囲で、支持体層内に浸透し得る。
【0026】
支持体層は、特に制限されないキャリアによって搬送し得る。従来技術からの膜製造方法に適切な任意のキャリアを使用し得る。キャリアは、平坦な表面を有し、使用される物質(例えばポリマー溶液及びその構成成分)に対して不活性であることが好ましい。好ましくは、移動ベルト(コンベアベルト)又はドラム(図1に例示されるような)がキャリアとして機能し、これによって連続的な本方法の実施が可能になる。
【0027】
好ましい一実施の形態において、工程(a)における支持体層及び工程(c)におけるコーティングされた支持体層は、ポリマー溶液の塗布の際、それぞれのポリマー溶液に対して、30m/h~500m/h、より特に60m/h~400m/h、非常に好ましくは100m/h~300m/hの速度で移動する。すなわち、(コーティングされた)支持体層は、例えば、それぞれのポリマー溶液を塗布するためのドクターブレードシステム又はスロットダイを通して、上述の速度で搬送される。
【0028】
工程(a)及び工程(c)における塗布温度は、特に制限されない。例えば、塗布温度は、互いに独立に、4℃~40℃であり得る。
【0029】
本発明によれば、工程(b)において、工程(a)からのコーティングされた支持体層を、第1のポリマー溶液2中のポリマーに対する非溶媒を含む気体3と接触させる(図1に例示されるように)。非溶媒に関する上記の定義及び考察は、特に特定しない限り、気体中に存在する非溶媒にも同様に適用される。工程(b)は規定の条件下で行うことが好ましい。
【0030】
非溶媒含有気体との接触により、好ましくは第1のポリマー溶液2中で相分離が起こる。本明細書において「相分離」の語は、流延膜(cast film)(塗布されたポリマー溶液)中に予備構造化を引き起こす相分離を指し、これがポリマー鎖の動きを制限することを意味する。
【0031】
第2のポリマー層の第1のポリマー層への接着性は、第1のポリマー層中の任意の相分離によって低下し得る。しかし、第2のポリマー層の溶媒と相分離した層との相互作用によって接着が促進され得る。すなわち、第2のポリマー溶液を塗布する際に溶媒を適切に選択することによって、(第1のポリマー層の)薄い相分離した層を、第2のポリマー溶液の塗布の際に部分的に再溶解させて、有効な接着を確実にすることができる。
【0032】
ここで、気体の非溶媒の含有量は、特に制限されない。例えば、気体は、好ましくは20℃の温度で、1.0g/m~20g/m、より特に1.7g/m~18g/m、更により好ましくは3.0g/m~16g/m、非常に好ましくは5.0g/m~15g/mの非溶媒(非溶媒の絶対量)を含み得る。また、気体は、好ましくは20℃の温度で、1.0g/m~20g/m、より特に1.7g/m~19g/m、更により好ましくは5.0g/m~18g/m、更により好ましくは12g/m~17g/m、非常に好ましくは15g/m~17g/mの非溶媒(非溶媒の絶対量)を含み得る。存在する場合、気体(又は気体混合物)の残りの構成成分は、使用される物質又は装置に対して不活性であることが好ましい。気体(又は気体混合物)の残りの構成成分は、例えば、窒素、空気、又は他の気体、好ましくは窒素であり得る。第1のポリマー溶液中のポリマーに対する非溶媒を含む、使用される気体は、(大気)空気だけではないことが好ましい。気体(又は気体混合物)は、酸素を含まないことが好ましい。例えば、第1のポリマー溶液中のポリマーに対する非溶媒を含む気体は、キャリア気体としての窒素、及び、非溶媒の総量に対して50体積%~100体積%の水及び0体積%~50体積%のエタノール、好ましくは80体積%~100体積%の水及び0体積%~20体積%のエタノール、非常に好ましくは90体積%~100体積%の水及び0体積%~10体積%のエタノールからなる非溶媒(混合物)のみからなってもよく、又はこれらを含んでもよい。
【0033】
コーティングされた支持体層を非溶媒含有気体と接触させるために用いることができる手段は、特に制限されない。例えば、コーティングされた支持体層を、適切な気体雰囲気を有し、その中で好ましくは規定の条件が作られるチャンバを介して(例えば、キャリアによって)導くことができる。チャンバは、非溶媒が充填された雰囲気を含み、該雰囲気は組成を維持するが、好ましくは規定の流れが生じないように交換される。これは、例えば、わずかな過圧によって達成されてもよく、これは例えば小さな隙間を介して周囲の環境に排出することができる。閉鎖型チャンバを使用する場合、チャンバを通って気体が0.2m/s未満の速度で移動し、ポリマー層表面で乱流が発生しないように媒体が交換されるように制御する。
【0034】
接触は、例えば、内部に好ましくは規定の条件が生じるチャネル内に適切な気体の流れを供給することによっても行い得る。ここでは一般的な気体供給技術を使用し得る。例えば、気体の流量は、0.3m/s~8m/sの速度(v(気体))で10m/h~600m/h、好ましくは2.5m/s~5m/sで150m/h~300m/hであり得る。
【0035】
工程(b)は、好ましくは、チャネルを用いて行う。チャネルを用いて、ポリマー層上に意図的に気体の流れをもたらすことができ、流した後に再びチャンバから気体を放出する。チャネルは、好ましくは、非溶媒含有気体の規定の(好ましくは層状の)流れが、0度~45度、好ましくは0度~35度、非常に好ましくは0度~15度の角度でコーティングされた支持体層に当たるように選択される。層上の流れは、プロセス方向に、又はプロセス方向とは反対に生じ得る。チャネル内の気体の速度は、有効な層上の流れの速度が0.3m/s~8m/s、好ましくは2.5m/s~5m/sとなるように選択される。
【0036】
工程(b)における曝露時間は、特に制限されない。曝露時間は、例えば、500ms~20s、より特に1.0s~10s、非常に好ましくは2.0s~5.0sであり得る。上述の接触時間を用いると、限外濾過膜の所望の特性を特に有利に発現させることができる。接触時間が長すぎると、固体層がすでに形成されてしまって、析出特性が変化し、又は、(透過性)膜が形成されない可能性がある。
【0037】
好ましい一実施の形態において、工程(b)における曝露温度は、第1のポリマー溶液の最も沸点の低い成分(通常は溶媒)の沸点よりも少なくとも10℃低い。本発明によれば、最も沸点の低いポリマー溶液成分のこの沸点は50℃を上回り、すなわちこのポリマー溶液成分は50℃において液体の形態で存在する。適切な曝露温度は、例えば、10℃~40℃の範囲である。
【0038】
工程(b)において、非溶媒含有気体により形成される雰囲気から、塗布された第1のポリマー溶液内への非溶媒の(拡散)浸透深さは、好ましくは、塗布された第1のポリマー溶液の総深さに対して80%未満である。浸透深さは、好ましくは最大50%、更により好ましくは最大33%、更に最も好ましくは最大25%である。浸透深さは、好ましくは少なくとも5.0%、更により好ましくは少なくとも10%、最も好ましくは少なくとも15%である。
【0039】
本発明によれば、工程(d)において、複数回コーティングされた支持体層を、析出浴5(図1に例示するように)中に導入し、析出浴5は、第1のポリマー溶液2及び/又は第2のポリマー溶液4、好ましくは第2のポリマー溶液4中のポリマーに対する析出剤を含む。工程(d)で用いられる析出剤は、特に制限されない。本発明によれば、従来のポリマー膜製造方法と同じ析出剤を使用し得る。析出剤によって、第1のポリマー層及び/又は第2のポリマー層中に膜形成ポリマーの析出(転相)が生じる。析出剤は、一種の化合物又は2種以上の化合物の混合物であり得る。好ましくは、析出浴中で析出剤は液体中に存在しており、特に好ましくは、析出浴中で析出剤自体が液体であるか、又は析出浴が析出剤のみからなる。析出剤は、好ましくは、膜形成ポリマー又は両ポリマー溶液の各膜形成ポリマーに対する非溶媒であり、好ましくは、析出浴は、水、アルコール、及び添加剤を含む水からなる群より選択される析出剤からなり、特に好ましくは、析出浴は析出剤としての水のみからなる。
【0040】
析出浴の温度は、特に制限されない。例えば、析出浴の温度は、1℃~60℃、より特に3℃~30℃、非常に好ましくは4℃~20℃であり得る。
【0041】
本発明の方法は、
(c1)工程(c)と工程(d)との間に、工程(c)からの複数回コーティングされた支持体層を、第2のポリマー溶液中のポリマーに対する非溶媒を含む気体と接触させる工程を更に含み得る。
【0042】
第1のポリマー溶液中のポリマーに対する非溶媒に関する上記の定義及び考察は、第2のポリマー溶液中のポリマーに対する非溶媒にも同様に適用される。
【0043】
本発明の方法は、
(e)工程(d)の後に、複数回コーティングされた支持体層を1つ以上の洗浄槽6中に導入する工程を更に含み得る(図1に例示するように)。工程(e)で使用される洗浄槽は、特に制限されない。本発明によれば、従来のポリマー膜の製造方法と同じ洗浄槽を使用することができる。洗浄プロセスは当業者に知られており、膜に関する要件(例えば、残留不純物、抽出物、及び浸出物(それぞれ、抽出物質及び浸出物質)に関する)に応じて選択し得る。適切な洗浄槽は、例えば、水、一価又は多価アルコール、又は他の親水性液体を含み得る。
【0044】
上述のように、1種以上のポリマー溶液は、セルロースエステルを含み得る。対応する加水分解生成物を得るため、本発明の方法は、
(f)セルロースエステルを加水分解する工程を更に含み得る。
【0045】
工程(f)において用いられる加水分解方法は、特に制限されない。本発明によれば、例えば複数回コーティングされた支持体層をアルカリ槽に入れる、従来のポリマー膜の製造方法と同じ加水分解方法を用いることができる。加水分解に関する一般的な方法の例は、例えば、米国特許第7422686号に記載されている。適切なアルカリ槽は、例えば、水中若しくはアルコール中、又はこれらの混合物中に50%KOHを含み得る。曝露時間は、例えば、1.0分~30分であり得る。
【0046】
本発明による方法は、
(g)ポリマー層中のポリマー鎖を架橋する工程を更に含み得る。
【0047】
工程(g)で用いられる架橋方法は、特に制限されない。本発明によれば、従来のポリマー膜の製造方法と同じ架橋方法を使用することができる。適切な架橋方法は、例えば、米国特許第7422686号に記載されているような方法による、再生セルロースの架橋である。
【0048】
本発明の方法は、3つ以上のポリマー層を有する限外濾過膜を製造するために使用し得る。このために、工程(c)を、工程(d)の前に、繰り返し実施してもよく、この場合、異なる又は同じポリマー溶液を用い得る。したがって、工程(d)における析出浴は、更なるポリマー溶液のポリマーに対する析出剤も含み得る。任意選択で、複数回の工程(c)の間に、互いに独立に、各場合に更なる工程(b)を行ってもよく、この場合、対応する気体は、直前に塗布されたポリマー溶液のポリマーに対する非溶媒を含む。それに応じて、工程(c)の回数は工程(b)の回数以上である。
【0049】
本発明の更なる態様は、限外濾過膜を製造する本発明の方法によって得られる限外濾過膜に関する。上述の定義及び実施の形態は、本発明のこの態様にも同様に適用される。同様に、以下の定義及び実施の形態も、限外濾過膜を製造する本発明の方法に同様に適用される。本発明の限外濾過膜は、平坦な膜であることが好ましい。
【0050】
上記に見られるように、本発明の方法の工程(b)における非溶媒含有気体との中間接触により、限外濾過膜に減衰領域を設け、その結果、高められた耐衝撃性が得られる。限外濾過膜の耐衝撃性は、対流性圧力上昇の発生に関して調べ得る。限外濾過膜が対流性圧力上昇の発生なしに耐える、試験体による衝撃の回数が大きいほど、この膜の耐衝撃性は高くなる。したがって、対流性圧力上昇の発生は、対象の限外濾過膜の不安定化の指標である。
【0051】
対流性圧力上昇は、以下の検査方法により決定し得る(図2に例示するように)。この検査では、筐体内に入れて上下を密閉した、水で濡らした検査対象の限外濾過膜11を観察する。直径20mmの円筒状の試験体Kを、少なくとも1Nかつ250N以下、好ましくは80N~120Nの力、非常に好ましくは85Nの力で繰り返し膜11に当て、そうすることにより、膜11に衝撃を発生させる。膜11の上(スキン側)の圧力はPであり、膜11の下の圧力はPであり、P>P(例えばP=3bar、P=1bar)である。センサSによって膜11の下の圧力上昇(ΔP)を検出する。この圧力上昇は、膜11が無傷であれば、拡散によって起こる。試験体Kに曝されることで膜11が破裂すると、拡散成分の他に対流成分が存在し、この対流成分がセンサSによって検出される。したがって、試験体Kの衝撃によって膜11が損傷するとすぐに、センサSによって、圧力上昇に関して、拡散成分の他に、対流成分が検出される。センサSによってこの対流成分が検出された衝撃の回数を、検査対象の膜11の耐衝撃性の指標として使用する。
【0052】
本発明の限外濾過膜の好ましい一実施の形態において、上記検査方法により決定される対流性圧力上昇は、600回を上回る、より好ましくは700回を上回る、更により好ましくは800回を上回る、最も好ましくは900回を上回る衝撃回数で発生する。
【0053】
本発明の限外濾過膜は、好ましくは、支持体層上に重ねて配置された、2つ以上、より好ましくは2つのポリマー層を含み、支持体層上に直接及び/又は支持体層内に部分的に又は完全に配置された第1のポリマー層は、第1のポリマー層上に配置された第2のポリマー層と隣接する側に減衰領域を有する。減衰領域は、第1のポリマー層の一部であり、本発明の方法の工程(b)において、非溶媒含有気体との中間接触によって得られる。第1のポリマー層の残りの領域と比較して、減衰領域は、改変された、好ましくはより延性のある孔構造を有する。
【0054】
限外濾過膜の支持体層は、特に制限されない。したがって、従来技術から当業者に知られる全ての支持体層を使用することができる。例えば、支持体層は、不織布、織布、又は開口型マイクロフィルタ膜であり得る。不織布の例は、ポリオレフィン不織布、例えばPP/PEコアシェル不織布、及びポリエステル不織布等である。マイクロフィルタ膜は、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、又は再生セルロース製であり得る。支持体層は、ポリオレフィン不織布又はポリオレフィン膜であることが好ましい。
【0055】
支持体層の厚さは、例えば、30μm~300μm、より特に50μm~250μm、非常に好ましくは80μm~200μmであり得る。
【0056】
本発明の限外濾過膜の好ましい一実施の形態において、ポリマー層はスポンジ構造を有し、最も外側のポリマー層(すなわち、二層膜の場合の第2のポリマー層)は、外面保持スキン(又はスキン層)(その下に位置するスポンジ構造の上の)を有する。このスポンジ構造は、連続的であってもよく、又は、可視的な境界層によって中断されてもよい。本明細書において、「スポンジ構造」の語は、膜マトリックスが、その各層に同様の径の孔が存在する、ポリマー材料の微細な開口型孔ネットワークからなる構造、すなわち、例えば、フィンガ構造又はマクロボイド(マクロ孔)構造ではない構造を意味する。外面保持スキン層は、好ましくは、0.01μm~2.0μm、更により好ましくは0.05μm~1.0μm、非常に好ましくは0.1μm~0.50μmの厚さを有する。外面保持スキン層の平均孔径は、好ましくは0.5nm~200nm、更により好ましくは1.0nm~150nm、非常に好ましくは2.0nm~100nmである。
【0057】
第1のポリマー層は、好ましくは0.05μm~30μm、更により好ましくは0.1μm~10μm、非常に好ましくは1.0μm~5.0μmの平均孔径を有する微孔性スポンジ構造を有する。さらに、第1のポリマー層のスポンジ構造は、好ましくは少なくとも25%、更により好ましくは少なくとも50%、非常に好ましくは少なくとも75%で、支持体層内に浸透している。
【0058】
第1のポリマー層の厚さは、好ましくは10μm~100μm、更により好ましくは20μm~80μm、非常に好ましくは30μm~60μmである。第1のポリマー層は、好ましくは5μm(最小の25%で浸透し、第1のポリマー層の最小厚さが20μmの場合)~100μmで支持体層内に浸透している。第1のポリマー層と支持体層との組み合わせの厚さは、好ましくは50μm~350μm、更により好ましくは80μm~250μm、非常に好ましくは100μm~200μmである。
【0059】
第1のポリマー層の減衰領域の厚さは、特に制限されない。例えば、第1のポリマー層の減衰領域は、第1のポリマー層の厚さの最大20%を占め得る。より特に、第1のポリマー層の減衰領域は、0.1μm~20μm、更により好ましくは0.5μm~10μm、非常に好ましくは1.0μm~5.0μmの厚さを有し得る。第1のポリマー層の減衰領域の厚さは、例えば、本発明の方法の工程(b)における、気体の非溶媒含有量又は曝露時間を変化させることによって変え得る。
【0060】
第2のポリマー層の厚さは、好ましくは、20μm~100μm、更により好ましくは30μm~80μm、非常に好ましくは35μm~70μmである。ここで、第2のポリマー層の厚さは、好ましくは、第1のポリマー層と支持体層との組み合わせの厚さ以下である。第2のポリマー層(外面保持スキン層の下)の平均孔径は、好ましくは0.1μm~20μm、更により好ましくは0.2μm~10μm、非常に好ましくは0.5μm~5.0μmである。
【0061】
限外濾過膜の総厚さは、特に制限されない。例えば、限外濾過膜は、50μm~400μm、より特に80μm~350μm、非常に好ましくは120μm~300μmの総厚さを有する。
【0062】
ポリマー層は、互いに独立に、非対称な(層の過程で孔が拡がる)又は対称なスポンジ構造を有し得る。好ましい一実施の形態において、第1のポリマー層は、非対称なスポンジ構造を有し、これは、更により好ましくは砂時計(hourglass (sand timer))に類似する(図6参照)。第2のポリマー層は、非対称なスポンジ構造を有することが好ましい。最も好ましくは、ポリマー層、好ましくは第1のポリマー層及び第2のポリマー層は、共に、複雑な構造(図6参照)を有し、該構造において、孔は、まず第1の主面から始まって膜を通って不織布側に、すなわち第2のポリマー層内を拡がり(非対称スポンジ構造)、孔は、次いで、膜内、好ましくは不織布層の上でテーパし(第1のポリマー層内に入る)、そして孔は、構造の過程で第2の主面に向かって、好ましくは不織布内を再び拡がる。
【0063】
上記で定義したように、膜形成ポリマーは、好ましくは、セルロースエステル、硝酸セルロース、及び再生セルロースからなる群より選択されるセルロース誘導体であり、これは、任意選択の加水分解及び/又は架橋方法(本発明の方法の任意選択の工程(f)及び工程(g))に供され得る。したがって、本発明の限外濾過膜の好ましい一実施の形態において、ポリマー層は、セルロースエステル、硝酸セルロース、再生セルロース及び架橋再生セルロースからなる群より選択されるセルロース誘導体を含む。ポリマー層は、互いに独立に、これらのポリマーのうちの1種以上、好ましくは1種を含み得る。非常に好ましくは、ポリマー層は、セルロースエステル、より特にセルロースアセテート、又は架橋再生セルロースを含み、最も好ましくは、これらのみからなる。
【0064】
本発明の限外濾過膜は、上記で考察したように、3つ以上のポリマー層を有し得る。この場合、最も外側のポリマー層が外面保持スキン層を有する。第2のポリマー層の実施の形態及び定義は、他のポリマー層にも同様に適用可能である。下層の(外面でない)ポリマー層は、互いに独立に、それぞれ減衰領域を有し得る。
【0065】
限外濾過膜の濾過能力は、特に制限されない。例えば、濾過能力は、外面保持スキン層の孔径によって必要な際にかつ必要とされるように、調整可能である。例えば、外面濾過膜の濾過能力は、限外濾過膜がウシ血清アルブミンを50%以下の範囲で保持するように設計し得る。
【0066】
本発明の膜の使用可能性に関しては、特に制限はない。濾過、より特に、ウイルス、タンパク質、又は高分子の濾過に使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】本発明の方法を実施するための例示的な装置を示す図である。
図2】膜11の耐衝撃性の検査方法を実施するための例示的な装置を示す図である。
図3】実施例1の膜のSEM画像である。
図4】第2のポリマー層及び第1のポリマー層中の減衰領域23、33及び該領域の上/下に位置するスポンジ構造22、24を示すために、図3のSEM画像を拡大した画像である。
図5】異なる限外濾過膜M-1~M-3の耐衝撃性の検査方法の結果を示す図である。
図6】工程(b)における非溶媒含有気体の異なる拡散浸透深さ(50%、33%、25%)に関する、本発明の膜の例示的構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本発明について、以下の非限定的な実施例によって、より詳細に説明する。
【0069】
(平均)孔径の決定
膜の(平均)孔径を決定するために、走査型電子顕微鏡法(SEM)により分析した膜断面に基づく方法を使用した(P. Poelt et., Journal of Membrane Science 2012, vol. 399-400, pp. 86-94に記載)。
【実施例
【0070】
実施例1:減衰領域及び高められた耐衝撃性を有する限外濾過膜の製造
75重量%のジメチルアセトアミド(DMAc)、15重量%のセルロースアセテート(Acetati、タイプAceplast PC/FG)及び5重量%のPEG1000、5重量%の水からなる第1のポリマー溶液を、出口開口に対して直交方向に100m/hで移動するPP/PEコアシェル不織布(OMB-60;Mitsubishi)にスロットダイにより塗布する。その後、ポリマー膜を、温度20℃で相対湿度(rh)35%の雰囲気を含む長さ10cmのチャンバに通す。チャンバを出た後、ポリマー膜を第2の塗布媒体(ドクターブレード付きキャリッジ)の出口開口に対して直交方向に移動させ、78重量%のDMAc、11重量%のセルロースジアセテート(Acetati、タイプAceplast PC/FG)、4重量%のPEG2000、4重量%のグリセロール、及び3重量%の水からなる第2のポリマー溶液を塗布し、その後温度6℃の水の析出浴に相分離のために移す。上記の残りのプロセスは室温で行う。
【0071】
得られた膜を、その後多数の洗浄槽を介して、50%KOHの入った槽中に送り、そこでアセチル基を加水分解する。再生セルロース膜は、同等の単層膜又は多層膜と比較して、z方向に特定の安定性を有する。例えば独国特許出願公開第102004053787号に記載の方法に従って架橋することにより、膜を、同様に特別な機械的安定性を有する架橋再生セルロース膜(セルロース水和物膜)に変換することができる。得られた膜のSEM画像を図3及び図4に示す。
【0072】
実施例2:異なる限外濾過膜の耐衝撃性の検査
再生セルロース(RC)の従来の2種の限外濾過膜M-1及びM-2(工程(b)を含まない従来のコキャスト(Cocast)法(二重コーティング法)によって製造した、分画限界100kDaの単層膜M-1及び分画限界300kDaの多層膜M-2)と、本発明の方法によって製造した、減衰領域を有する分画限界300kDaの再生セルロースの本発明による限外濾過膜M-3とを、耐衝撃性又は対流性圧力上昇を決定するための上述の検査方法に供した。この場合、圧力P=3bar及び圧力P=1barを加え、直径20mmの円筒状試験体を85Nの力で繰り返し膜に当てた。得られた結果は図5に示されており、本発明による減衰領域を有する限外濾過膜M-3により、従来の限外濾過膜M-1及びM-2と比較して、はるかに高い耐衝撃性を達成できることを示す。
【0073】
実施例3:チャンバ内における、減衰領域及び高められた耐衝撃性を有する限外濾過膜の製造
50重量%のアセトン、28重量%のジオキサン、2重量%の水、12重量%のセルロースアセテート(Acetati、タイプAceplast PC/FG)、及び8重量%のグリセロールからなる第1のポリマー溶液を、ドクターブレード及びキャリッジにより、出口開口に対して直交方向に70m/hで移動するPP/PEコアシェル不織布(OMB-60;Mitsubishi)に塗布する。キャリッジに直接隣接した長さ30cmのチャンバには、キャリア気体として窒素雰囲気、更に、19g/mの1:19のエタノール:水混合物が含まれており、20℃の定温に保たれている。チャンバの上部領域には、あらかじめ調整された雰囲気の流れが流れており、この流れは0.2m/sの流れを超えないように制御されており、これによりポリマー膜が通過するチャンバの下部領域には乱流が発生しない。チャンバは、周囲空間に対して常に1mbarの過圧が加わるように動作させる。少量のエタノールを正しく除去するために、周囲環境を吸引する。チャンバを出た後、ポリマー膜を第2の塗布媒体(ドクターブレード付きキャリッジ)の出口開口に対して直交方向に移動させ、50重量%のアセトン、28重量%のジオキサン、2重量%の水、12重量%のセルロースアセテート(Acetati、タイプAceplast PC/FG)、及び8重量%のグリセロールからなる第2のポリマー溶液を塗布し、その後温度15℃の水の析出浴に相分離のために移す。
【0074】
得られた膜を、その後多数の洗浄槽を介して、50%KOHの入った槽に送り、ここでアセチル基を加水分解する。膜を洗浄し、過剰なアルカリは希酢酸で中和する。再生セルロース膜は、同等の単層膜又は多層膜と比較して、z方向に特定の安定性を有する。例えば独国特許出願公開第102004053787号に記載の方法に従って架橋することにより、膜を、同様に特別な機械的安定性を有する架橋再生セルロース膜(セルロース水和物膜)に変換することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 支持体層
2 第1のポリマー溶液
3 非溶媒含有気体(第1のポリマー溶液に対する)
4 第2のポリマー溶液
5 析出浴
6 洗浄槽
11 支持体上の湿らした膜
21 外面保持スキン層
22 スポンジ構造(第2のポリマー層)
23、33 減衰領域
24 スポンジ構造(第1のポリマー層)
25 繊維支持体層
46 第2のポリマー層
47 第1のポリマー層
K 試験体
M-1 従来の限外濾過膜(単層膜、RC、100kDa)
M-2 従来の限外濾過膜(多層膜、RC、300kDa)
M-3 本発明の限外濾過膜(多層膜、RC、300kDa)
膜11の上で得られる圧力
膜11の下で得られる圧力
S センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6