(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】介助装置
(51)【国際特許分類】
A61G 7/12 20060101AFI20240116BHJP
A61G 5/14 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61G7/12
A61G5/14
(21)【出願番号】P 2022523799
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2020019829
(87)【国際公開番号】W WO2021234827
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 聡志
(72)【発明者】
【氏名】神谷 有城
【審査官】五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-192779(JP,A)
【文献】特開2008-073485(JP,A)
【文献】特開2012-187284(JP,A)
【文献】国際公開第2017/009946(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/061151(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/179294(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 7/00-7/16
A61G 5/00-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
被介助者の左右の脇をそれぞれ支持する一対の脇支持部と、
前記基台を基準として、一対の前記脇支持部を少なくとも上下方向に移動させる駆動部と、を備える介助装置であって、
前記脇支持部は、前記被介助者の少なくとも前記脇および上腕部に接触する通常表面部と、前記通常表面部よりも小さな摩擦係数を有して前記被介助者の側腹部に接触する摩擦低減表面部と、を有する、
介助装置。
【請求項2】
前記脇支持部は、
芯部材と、
前記芯部材を覆いつつ弾性変形が可能な外周部材と、
前記外周部材を覆い、前記通常表面部を構成する通常カバー部材と、
前記外周部材を覆い、前記摩擦低減表面部を構成する摩擦低減カバー部材と、
を有する、請求項1に記載の介助装置。
【請求項3】
前記摩擦低減カバー部材は、前記通常カバー部材の外面に重ねて配置される、請求項2に記載の介助装置。
【請求項4】
前記通常カバー部材は、その表面が相対的に粗い合成皮革であり、前記摩擦低減カバー部材は、その表面が相対的に滑らかな合成樹脂製シートである、請求項2または3に記載の介助装置。
【請求項5】
基台と、
被介助者の左右の脇をそれぞれ支持する一対の脇支持部と、
前記基台を基準として、一対の前記脇支持部を少なくとも上下方向に移動させる駆動部と、を備える介助装置であって、
前記脇支持部は、
芯部材と、
前記芯部材を覆いつつ弾性変形が可能であり、その中心よりも下方に前記芯部材が配置される外周部材と、を有し、
前記外周部材は、前記芯部材を覆う筒形状に形成され、上側の厚みが下側の厚みより大き
く、かつ、
前記外周部材は、前記芯部材を覆う第1部材と、前記第1部材よりも軟質な材質で形成されるとともに、前記第1部材の上側を覆い、前記第1部材の下側を覆わない形状に形成された第2部材と、を備える、
介助装置。
【請求項6】
基台と、
被介助者の左右の脇をそれぞれ支持するとともに、互いに接近または離間する方向に揺動可能または移動可能な一対の脇支持部と、
前記基台を基準として、一対の前記脇支持部を少なくとも上下方向に移動させる駆動部と、
一対の前記脇支持部が互いに接近する方向の揺動範囲または移動範囲を制限する制限機構と、を備え、
前記脇支持部の所定位置が揺動可能に支持されており、
前記制限機構は、前記脇支持部の前記所定位置以外の制限位置と、前記脇支持部と一体的に移動する部材に設けられた定点位置と、を結ぶ制限ベルトである、
介助装置。
【請求項7】
前記制限ベルトは、一方の前記脇支持部の前記制限位置と、他方の前記脇支持部の前記制限位置とを結びつつ、前記定点位置で摺動可能に折り返される、請求項
6に記載の介助装置。
【請求項8】
前記被介助者の体格に応じて、前記制限ベルトの長さを調整する調整バックルをさらに備える、請求項
6または
7に記載の介助装置。
【請求項9】
基台と、
被介助者の左右の脇をそれぞれ支持するとともに、互いに接近または離間する方向に揺動可能または移動可能な一対の脇支持部と、
前記基台を基準として、一対の前記脇支持部を少なくとも上下方向に移動させる駆動部と、
一対の前記脇支持部が互いに接近する方向の揺動範囲または移動範囲を制限する制限機構と、
前記被介助者の体格に応じて、前記制限機構が制限する前記揺動範囲または前記移動範囲を調整する調整部と、
を備える介助装置。
【請求項10】
一対の前記脇支持部に作用する下向きの荷重に応じて、一対の前記脇支持部を互いに接近する方向に揺動または移動させる脇支持アシスト機構をさらに備える、請求項1~
9のいずれか一項に記載の介助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、被介助者の脇を支持する脇支持部を備えた介助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の進展に伴い、介助装置のニーズが増大している。介助装置は、一般的に、被介助者の身体の一部を支持した支持部材を駆動して、被介助者の各種の動作を介助する。被介助者の起立動作や着座動作を介助する介助装置は、被介助者の左右の脇をそれぞれ支持する一対の脇支持部や、被介助者の上体を支持する上体支持部を備えることが多い。介助装置の導入によって、介助者および被介助者の身体的な負担が軽減されるとともに、介助者の人手不足も緩和される。この種の介助装置の一技術例が特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1の介助装置は、基台と、被介助者の左右の脇を支持しつつ基台に対する相対的な移動が可能な脇支持部と、脇支持部を駆動する駆動部と、を備える。そして、脇支持部は、芯部材と、芯部材に対して回転可能に設けられ被介助者の胴体に接触する外周部材と、を有する。これによれば、外周部材は、被介助者の姿勢変化に追従しながら芯部材に対して回転することができる。したがって、被介助者と脇支持部の間に発生する摩擦力は、緩衝されて抑制され、被介助者の快適な使い心地が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の介助装置は、芯部材に対して外周部材が回転することにより、被介助者の側腹部に摩擦力で生じる痛みを軽減できる点で好ましい。しかしながら、外周部材が無限に回転する構成であると、脇支持部が被介助者を抱え上げる力が逃げてしまい、本来の役割を果たせなくなる。このため、外周部材の回転量は制限されており、その結果、摩擦力により生じる痛みの軽減には限界があった。また、脇支持部は、被介助者の体重の半分以上に相当する荷重を支持する場合がある。この場合、被介助者は、脇支持部が両脇を押し上げる強い圧迫感により痛みを感じることがあった。
【0006】
さらに、一部の介助装置では、一対の脇支持部に作用する下向きの荷重に応じて、一対の脇支持部を互いに接近する方向に揺動または移動させ、被介助者を確実に支持できるようにした構成も採用されている。この構成において、被介助者は、左右の脇支持部が側腹部を挟み込む圧迫力により痛みを感じることがあった。この痛みは、大柄な体格の被介助者で顕著になりがちである。
【0007】
それゆえ、本明細書では、被介助者の痛みを軽減して快適な使い心地を実現した介助装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書は、基台と、被介助者の左右の脇をそれぞれ支持する一対の脇支持部と、前記基台を基準として、一対の前記脇支持部を少なくとも上下方向に移動させる駆動部と、を備える介助装置であって、前記脇支持部は、前記被介助者の少なくとも前記脇および上腕部に接触する通常表面部と、前記通常表面部よりも小さな摩擦係数を有して前記被介助者の側腹部に接触する摩擦低減表面部と、を有する、介助装置を開示する。
【0009】
これによれば、脇支持部の表面のうち被介助者の側腹部に接触する部分は摩擦低減表面部となる。このため、摩擦力により生じる被介助者の痛みが軽減される。したがって、快適な使い心地を実現した介助装置を提供することができる。
【0010】
また、本明細書は、基台と、被介助者の左右の脇をそれぞれ支持する一対の脇支持部と、前記基台を基準として、一対の前記脇支持部を少なくとも上下方向に移動させる駆動部と、を備える介助装置であって、前記脇支持部は、芯部材と、前記芯部材を覆いつつ弾性変形が可能であり、その中心よりも下方に前記芯部材が配置される外周部材と、を有する、介助装置を開示する。
【0011】
これによれば、脇支持部を構成する外周部材の上側の厚みを従来よりも大きくして、脇を押し上げる圧迫感の発生を抑制できる。このため、被介助者の痛みが軽減される。したがって、快適な使い心地を実現した介助装置を提供することができる。
【0012】
さらに、本明細書は、基台と、被介助者の左右の脇をそれぞれ支持するとともに、互いに接近または離間する方向に揺動可能または移動可能な一対の脇支持部と、前記基台を基準として、一対の前記脇支持部を少なくとも上下方向に移動させる駆動部と、一対の前記脇支持部が互いに接近する方向の揺動範囲または移動範囲を制限する制限機構と、を備える介助装置を開示する。
【0013】
これによれば、一対の脇支持部が互いに接近したときの最接近距離が制限される。このため、被介助者の側腹部を両側から挟み込む圧迫力が抑制され、被介助者の痛みが軽減される。したがって、快適な使い心地を実現した介助装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の介助装置の全体構成を示す側面図である。
【
図2】胴体支持部および脇支持部を含む支持部材を後方から見た図である。
【
図3】
図2のIII-III断面に示される脇支持部の断面図である。
【
図4】第1実施形態の介助装置の作用を説明する図である。
【
図5】第2実施形態の脇支持部の後部を後方から見た図である。
【
図6】第2実施形態の介助装置の作用を説明する図である。
【
図7】第3実施形態の介助装置において、制限機構および調整部の一形態に相当する制限ベルトおよび調整バックルを示す斜視図である。
【
図8】制限ベルトおよび調整バックルの機能を説明する図である。
【
図9】第3実施形態の介助装置の作用を説明する図である。
【
図10】第4実施形態の介助装置の制限機構および調整部を模式的に示す図である。
【
図11】各実施形態に追加できる脇支持アシスト機構を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.第1実施形態の介助装置1の全体構成
第1実施形態の介助装置1の全体構成について、
図1を参考にして説明する。
図1の右上の矢印に示されるように、介助装置1の上下前後を定める。介助装置1は、例えば、被介助者のベッドと車椅子と間の移乗や、車椅子と便座の間の移乗など、異なる二箇所の間の移乗に利用される。介助装置1は、被介助者の上体を支持して、座位姿勢から起立姿勢への起立動作、および起立姿勢から座位姿勢への着座動作を介助する。
【0016】
ここで、起立姿勢は、臀部が座面から浮いて脚部が伸びた姿勢を意味し、立位姿勢および中腰姿勢を含む。つまり、起立姿勢は、上体が概ね直立した立位姿勢、および上体が前傾した中腰の前かがみの姿勢などを含む。また、介助装置1は、移乗する二箇所が離れている場合に、被介助者が搭乗して移動する用途にも使用される。例えば、介助装置1は、被介助者が居室からトイレや食堂などへ移動する用途に使用される。介助装置1は、基台2、アーム部材3、上体支持部4および脇支持部5を含む支持部材6、アクチュエータ7、ならびに図略の制御部などで構成される。
【0017】
基台2は、被介助者が搭乗する部位である。基台2は、アーム部材3およびアクチュエータ7が組み付けられる。基台2は、フットプレート20、左右一対のパイプフレーム21、および左右一対の組み付けフレーム22などで形成される。フットプレート20は、金属製や樹脂製の板材で形成され、床面Fよりもわずかに高い位置で水平に延在する。フットプレート20の左右の縁は、下方に折り曲げられている。フットプレート20は、被介助者が足を載せる部材である。
【0018】
パイプフレーム21は、金属製のパイプが曲げ加工されて形成される。左右一対のパイプフレーム21は、フットプレート20の下側に取り付けられ、前方に延在する。各パイプフレーム21の前部211は、フットプレート20の前方で上方に屈曲されている。一対のパイプフレーム21の前部211の前側に、起立した板形状の組み付けフレーム22がそれぞれ設けられる。
【0019】
左右一対の組み付けフレーム22の上部に、揺動支持座29がそれぞれ設けられる。一対の組み付けフレーム22の下方に、前輪25がそれぞれ設けられる。パイプフレーム21の前部211の上端に、位置調整部281がそれぞれ設けられる。位置調整部281は、被介助者の体格などに合わせて、膝当て部材28の前後方向の位置を介助者等が調整する手動調整機構である。
【0020】
膝当て部材28は、フットプレート20の上方に位置しており、被介助者の膝が当接する部位である。膝当て部材28が膝の位置を定めることにより、被介助者の起立動作や着座動作が安定化する。膝当て部材28は、ベースプレート282、膝当て本体283、および2本の支持ロッド284などで形成される。ベースプレート282は、金属の板材を用いて左右方向に延在するように形成され、垂直方向よりも少しだけ前傾して配置される。膝当て本体283は、弾性変形可能なウレタンフォームなどで形成され、ベースプレート282の後側に取り付けられる。2本の支持ロッド284は、金属の棒材を用いて形成され、ベースプレート282を左右の位置調整部281に結合する。
【0021】
フットプレート20の前寄り位置に、アクチュエータ支持材23が設けられる。フットプレート20の前寄りの下面の左右両側に、中輪26がそれぞれ設けられる。フットプレート20の後端部の下面の左右両側に、後輪27がそれぞれ設けられる。中輪26および後輪27は、前輪25よりも小径である。前輪25、中輪26、および後輪27は、転舵機能を有する。したがって、介助装置1は、直進移動および旋回移動だけでなく、横移動および超信地旋回が可能である。さらに、前輪25は、介助装置1の移動を規制するロック機能を備える。
【0022】
アーム部材3は、
図1に示されるように、側方から見て途中で屈折した形状に形成される。アーム部材3の下部寄りに、左右一対の揺動軸31が設けられる。一対の揺動軸31は、それぞれ組み付けフレーム22の揺動支持座29に揺動可能に支持される。アーム部材3の揺動角度範囲を規制するために、図略のストッパ機構が揺動支持座29の近傍に設けられる。これにより、アーム部材3は、基台2に対して上前方向および下後方向に揺動可能となっている。アーム部材3は、被介助者の起立動作時に上前方向へ揺動する(
図1における時計回りの揺動)。また、アーム部材3は、被介助者の着座動作時に下後方向へ揺動する。
【0023】
アーム部材3の内部に、図略のバッテリおよびリンク機構が収納される。バッテリは、アクチュエータ7および制御部の電源となる。アーム部材3の上部の後側に揺動支持部(符号略)が設けられ、揺動支持部に揺動部材32が設けられる。揺動部材32は、アーム部材3に対して揺動する。ただし、被介助者が支持部材6に接触する以前の初期状態において、揺動部材32は、リンク機構に規制されて揺動しない。なお、本願出願人は、リンク機構の詳細な構成例を国際公開第2018/167856号に開示している。
【0024】
揺動部材32は、後側にベースプレート33を有する。ベースプレート33は、金属製や樹脂製の剛性の大きな板材を用いて形成される。ベースプレート33は、ハンドル34を前面に有する。ハンドル34は、概ね四角形の枠形状に形成され、アーム部材3の上方に延在する。ハンドル34は、被介助者が把持する部位であるとともに、介助装置1を移動させるために介助者が把持する部位でもある。
【0025】
支持部材6は、ベースプレート33の後側に設けられる。支持部材6は、上体支持部4および一対の脇支持部5を含んで構成される。上体支持部4は、ベースプレート33の後面に取り付けられる。上体支持部4は、硬質緩衝部材41および軟質緩衝部材42が積層されて形成される。上体支持部4は、被介助者の上半身、主に胸部から腹部の辺りを支持する。
【0026】
一対の脇支持部5は、ベースプレート33の左右に取り付けられ、上体支持部4の左右両側に配置される。脇支持部5は、鈍角に屈曲するL字形状に形成される。脇支持部5の屈曲箇所より上側の起立した上部は、被介助者の肩に当接する。脇支持部5の屈曲箇所より下側の傾斜した直線部は、被介助者の脇に進入して上半身を支持する。被介助者の起立動作時に、脇支持部5は、被介助者を抱え上げる役割を果たす。脇支持部5の詳細構成については後述する。
【0027】
アクチュエータ7は、基台2を基準として、一対の脇支持部5を少なくとも上下方向に移動させる駆動部の一実施形態である。アクチュエータ7は、伸縮する直動アクチュエータであり、本体部71、可動部72、およびモータ73などで形成される。本体部71は、上下に長い太径の円筒状の部材であり、上部に開口部を有する。本体部71の下端は、基台2のアクチュエータ支持材23に支持される。可動部72は、上下に長い細径の丸棒状の部材である。可動部72の上端は、アーム部材3のリンク機構に接続される。可動部72の下部は、本体部71の開口部に嵌入している。
【0028】
モータ73は、本体部71の下部の前側に取り付けられる。モータ73は、制御部によって電流の通電方向が切り替え制御され、可動部72の伸び動作および縮み動作を駆動する。これにより、可動部72は、本体部71に対して伸縮動作する。アクチュエータ7は、最小長さから所定の途中長さまで伸びる第一伸び動作、および、途中長さから最大長さまで伸びる第二伸び動作を行う。
【0029】
アクチュエータ7の第一伸び動作により、支持部材6は、リンク機構を介して駆動され、上前方向に揺動する。アクチュエータ7の第二伸び動作により、アーム部材3は、リンク機構を介して駆動され、上前方向に揺動する。このように、支持部材6は、基台2に対して上方に移動しつつ、前方にも移動する。これにより、介助装置1は、被介助者の起立動作を介助する。また、アクチュエータ7の縮み動作により、支持部材6は、下方に移動しつつ、後方にも移動する。これにより、介助装置1は、被介助者の着座動作を介助する。
【0030】
図略の制御部は、操作器および制御本体部などで構成される。操作器は、アクチュエータ7を操作する上昇ボタンおよび下降ボタンを有する。操作器は、介助者によって操作される。制御本体部は、CPUを有してソフトウェアで動作するコンピュータ装置である。制御本体部は、上昇ボタンおよび下降ボタンの操作情報に応じて、アクチュエータ7に流れる電流を制御する。これにより、アクチュエータ7の動作および停止、ならびに伸び動作と縮み動作の切り替えが制御される。
【0031】
2.脇支持部5の詳細構成および作用
次に、脇支持部5の詳細構成および作用について、
図2~
図4を参考にして説明する。
図2および
図3に示されるように、脇支持部5は、芯部材51、外周部材52、通常カバー部材53、および摩擦低減カバー部材54で構成される。芯部材51は、例えば、金属製または硬質樹脂製の丸棒やパイプがL字形状に屈曲されて形成される。芯部材51の屈曲箇所より上側の上部、および屈曲箇所より下側の直線部は、脇支持部5の上部および直線部に対応する。芯部材51は、被介助者の体重を支持できる十分な機械的強度を有する。
【0032】
外周部材52は、弾性変形が可能なクッション材を用いて、芯部材51の少なくとも下側の直線部の外周を覆う肉厚の筒形状に形成されている。外周部材52を形成するクッション材の材質として、エチレンプロピレンゴムを原料とするスポンジゴムを例示できる。クッション材からなる外周部材52は、被介助者Mから作用する荷重に対して容易に圧縮変形する。外周部材52は、芯部材51に対する接着などの拘束が施されてもよいし、芯部材51に対して所定の角度範囲内で回転可能とされてもよい。
【0033】
通常カバー部材53は、例えば合成皮革を用いて形成される。通常カバー部材53は、外周部材52の外周を覆う筒形状に形成されている。通常カバー部材53は、外周部材52に接着され、外周部材52と共に変形可能である。通常カバー部材53は、芯部材51および外周部材52の下後側の端面を覆っていてもよい。
【0034】
摩擦低減カバー部材54は、略四角形の合成樹脂製シート、例えばポリプロピレン製シートを用いて形成される。
図3に示されるように、摩擦低減カバー部材54は、一対の脇支持部5の上側から向かい合う内側を経由して下側まで延在する。摩擦低減カバー部材54は、通常カバー部材53の外面に接着され、または縫い付けられて配置される。
【0035】
上記の構成によれば、摩擦低減カバー部材54は、被介助者の側腹部に接触する。また、通常カバー部材53は、被介助者の少なくとも脇および上腕部に接触する。ここで、通常カバー部材53の表面は、摩擦低減カバー部材54と比較して相対的に粗く、相対的に大きな摩擦係数を有する。逆に、摩擦低減カバー部材54の表面は、相対的に滑らかであり、相対的に小さな摩擦係数を有する。したがって、通常カバー部材53は、被介助者の少なくとも脇および上腕部に接触する通常表面部を構成する。また、摩擦低減カバー部材54は、通常表面部よりも小さな摩擦係数を有して被介助者の側腹部に接触する摩擦低減表面部を構成する。
【0036】
図4に示される被介助者Hの起立動作の初期状態において、脇支持部5は、被介助者Hの脇の下方の側腹部と上腕部の間に位置する。介助装置1による起立動作の介助が始まると、脇支持部5は、上方に移動しながら被介助者Hを抱え上げる。このとき、脇支持部5は、側腹部に接触しながら上昇し、摩擦力F1が発生する。この摩擦力F1により、外周部材52は、摩擦低減カバー部材54が下降する回転方向R1(
図3参照)に捻じれ変形し、圧縮変形も伴う。また、被介助者Hの側腹部には、摺り上げる方向の摩擦力F1が作用する。それでも、側腹部に接触するのは摩擦低減カバー部材54(摩擦低減表面部)であるため、発生する摩擦力F1が軽減される。
【0037】
一方、通常カバー部材53は、適度の面圧および摩擦力で被介助者Hの脇および上腕部に接触するので、抱え上げる力が確保される。したがって、脇支持部5は、被介助者Hを安定的に抱え上げることができる。仮に、通常カバー部材53を用いず、外周部材52の全周を摩擦低減カバー部材54で覆うと、側腹部や上腕部の滑動が過大となり、被介助者Hの姿勢が不安定化するおそれが生じる。
【0038】
第1実施形態の介助装置1によれば、脇支持部5の表面のうち被介助者Hの側腹部に接触する部分は摩擦低減カバー部材54(摩擦低減表面部)となる。このため、摩擦力F1により生じる被介助者Hの痛みが軽減される。したがって、快適な使い心地を実現した介助装置1を提供することができる。
【0039】
なお、通常カバー部材53および摩擦低減カバー部材54の材質の組み合わせは、上記した例に限定されず、別の材質の組み合わせであってもよい。また、摩擦低減カバー部材54は、通常カバー部材53の外面に重ねて配置される二層構成でなく、通常カバー部材53に形成された略四角形の切り欠き部に配置される一層構成でもよい。さらに、通常カバー部材53が省略され、外周部材52の外面の一部に直接的に摩擦低減カバー部材54が接着されていてもよい。この場合、摩擦低減カバー部材54の表面の摩擦係数は、外周部材52の外面の摩擦係数よりも小さく設定される。
【0040】
3.第2実施形態の介助装置1の脇支持部5A
次に、第2実施形態の介助装置1について、
図5および
図6を参考にして、第1実施形態と異なる点を主に説明する。第2実施形態において、脇支持部5A以外の構成は、第1実施形態と同じである。
図5に示されるように、第2実施形態の脇支持部5Aは、芯部材51、中間部材55、および外周部材52で構成される。
【0041】
芯部材51は、金属製または硬質樹脂製の丸棒やパイプを用いて形成される。中間部材55は、外周部材52よりも硬質であるが弾性変形が可能な材質、例えば硬めのスポンジゴムを用いて、芯部材51の外周を覆う肉厚の筒形状に形成されている。外周部材52は、クッション材を用いて、中間部材55の外周のうち上側を覆い、下側を覆わない形状に形成されている。なお、中間部材55は、外周部材52と同じ材質で形成されてもよく、または外周部材52と一体に形成されてもよい。また、脇支持部5Aの側腹部に接触する内側と、外側とが対称構造である必要はない。
【0042】
本第2実施形態において、中間部材55は、芯部材51を覆いつつ弾性変形が可能な外周部材52の一部となっている。これによれば、中間部材55を含む外周部材52の中心よりも下方に、芯部材51が配置されたことになる。また、中間部材55を含む外周部材52の上側の厚みD1が下側の厚みD2より大きい。さらに、上側の厚みD1は、略回転対称断面を有する従来の脇支持部のそれよりも大きく設定されている。
【0043】
図6に示される被介助者Hの起立動作の途中状態において、被介助者Hの体重による荷重W1が脇支持部5Aに作用する。この反力として、脇支持部5Aは、被介助者Hの脇を押し上げるので、被介助者Hは、脇に圧迫感をもつ。それでも、中間部材55を含む外周部材52の上側の厚みD1が大きいので、従来よりも大きな変形が発生して圧迫感が抑制される。
【0044】
第2実施形態の介助装置1によれば、脇支持部5Aを構成する外周部材52の上側の厚みD1を従来よりも大きくして、脇を押し上げる圧迫感の発生を抑制できる。このため、被介助者Hの痛みが軽減される。したがって、快適な使い心地を実現した介助装置1を提供することができる。
【0045】
なお、中間部材55を含む外周部材52の厚みを全周にわたって一律に大きくするのでなく、上側の厚みD1を大きく、下側の厚みD2を小さくする。これにより、脇支持部5Aの大型化を抑制することができる。加えて、下側の厚みD2を小さくすることで、脇支持部5Aと床面Fとの間に広いスペースを確保でき、車椅子の進入が容易になる。これにより、被介助者Hは、車椅子からフットプレート20へ容易に移乗することができ、使用快適性が向上する。
【0046】
また、中間部材55は、弾性変形しないソリッドな材質で形成して、芯部材51の一部とすることができる。この変形態様において、外周部材52は、中間部材55を含む芯部材51の上側を覆い、下側を覆わない。ただし、外周部材52の上側の厚みD3は、従来の脇支持部のそれよりも大きく設定される。
【0047】
4.第3実施形態の介助装置1
次に、第3実施形態の介助装置1について、
図7~
図9を参考にして、第1および第2実施形態と異なる点を主に説明する。第3実施形態の介助装置1は、基台2、アーム部材3、上体支持部4および脇支持部5Bを含む支持部材6、アクチュエータ7、図略の制御部に加えて、制限ベルト81および調整バックル83を備える。
図8において、上体支持部4および外周部材52は、図示省略されている。
【0048】
図8に示されるように、脇支持部5Bを構成する芯部材51は、起立した前部の内側に取り付け板56を有する。取り付け板56は、ベースプレート33の後面に至近して配置される。取り付け板56の概ね中央に、所定位置57が設定される。所定位置57は、ベースプレート33によって揺動可能に支持されている。これにより、一対の芯部材51および脇支持部5Bは、矢印M1に示されるように、所定位置57を揺動中心として互いに接近する方向に揺動可能となる。また、取り付け板56の下縁の芯部材51に近い位置に制限位置58が設定される。
【0049】
図7および
図8に示されるように、概ね四角形の枠形状のハンドル34の上部の中央に、定点位置82が設定される。制限ベルト81は、一方の脇支持部5Bの制限位置58と、他方の脇支持部5Bの制限位置58とを結びつつ、定点位置82で摺動可能に折り返されている。制限ベルト81は、幅方向に伸縮可能であるが、長さ方向には伸縮しない。なお、ハンドル34は、脇支持部5Bと一体的に移動および揺動するので、
図7および
図8に示された位置関係は、常に保たれる。
【0050】
制限ベルト81は、張ってテンションが生じた状態で、左右の制限位置58を規制して、取り付け板56および芯部材51の揺動範囲を制限する。これにより、脇支持部5Bの揺動範囲が制限される。つまり、制限ベルト81は、一対の脇支持部5Bが相互に接近するときの最接近距離を制限する機能を有する。また、制限ベルト81は、一対の脇支持部5Bが互いに離間する方向に関して、弛みが生じるだけであり、制限機能を有さない。制限ベルト81は、一対の脇支持部5Bが互いに接近する方向の揺動範囲または移動範囲を制限する制限機構の一形態である。
【0051】
制限ベルト81の一方の制限位置58と定点位置82の間に、調整バックル83が挿入されている。調整バックル83は、制限ベルト81の長さを調整する機能をもつ。介助者等は、被介助者の体格に応じ、調整バックル83を操作して制限ベルト81の長さを調整する。調整バックル83は、被介助者の体格に応じて、制限機構(制限ベルト81)が制限する揺動範囲または移動範囲を調整する調整部の一形態である。
【0052】
図9に示される被介助者Hの起立動作の初期状態において、脇支持部5Bは、被介助者Hの脇の下方の側腹部と上腕部の間に位置する。このとき、一対の脇支持部5Bは、被介助者Hの側腹部を両側から挟み込むため、圧迫力F2が発生する。それでも、制限ベルト81によって一対の脇支持部5Bの最接近距離が制限されるので、圧迫力F2が軽減される。
【0053】
また、被介助者Hが小柄である場合に、介助者等は、制限ベルト81を長めに調整して、一対の脇支持部5Bの最接近距離を小さめに設定する。一方、被介助者Hが大柄である場合に、介助者等は、制限ベルト81を短めに調整して、一対の脇支持部5Bの最接近距離を大きめに設定する。これによれば、制限ベルト81の長さを調整することにより、一対の脇支持部5Bの最接近距離を被介助者Hの体格に適合させることができ、いつでも圧迫力F2を適正に軽減する効果が発生する。
【0054】
第3実施形態の介助装置1によれば、一対の脇支持部5Bが互いに接近したときの最接近距離が制限される。このため、被介助者Hの側腹部を両側から挟み込む圧迫力F2が抑制され、被介助者Hの痛みが軽減される。したがって、快適な使い心地を実現した介助装置1を提供することができる。
【0055】
なお、左右の脇支持部5Bの制限位置58と、定点位置82とを個別に結ぶ左右一対の制限ベルトを用いてもよい。この態様では、一対の制限ベルトのそれぞれに調整バックル83を設ける。また、調整バックル83を省略することが可能である。さらに、一対の脇支持部5Bは、揺動するのでなく、平行状態を維持しつつ互いに接近または離間する方向に移動可能であってもよい。この態様において、制限ベルト81に代わる制限機構は、一対の脇支持部5Bが互いに接近する方向の移動範囲を制限する。
【0056】
5.第4実施形態の介助装置1
次に、第4実施形態の介助装置1について、
図10を参考にして、第1~第3実施形態と異なる点を主に説明する。
図10において、上体支持部4および外周部材52は、図示省略されている。第4実施形態の介助装置1は、第3実施形態と同様に芯部材51および脇支持部5Bが揺動し、第3実施形態と異なる制限機構および調整部を備える。制限機構は、一対の制限ピン86と制限ロッド87により構成される。調整部として、ロッド位置調整部88が設けられる。
【0057】
一対の制限ピン86は、第3実施形態の制限位置58に代えて、左右の取り付け板56の下縁寄りの芯部材51に近い位置に設けられる。制限ロッド87は、左右の取り付け板56の後面に架け渡されて設けられ、制限ピン86よりも下側に配置される。脇支持部5Bおよび芯部材51が互いに接近する方向M1に揺動する途中で、制限ピン86が制限ロッド87の上面に当接して、揺動が制限される。
【0058】
制限ロッド87の左右方向の中央部分は、ロッド位置調整部88によって支持され、上下方向にスライド移動可能となっている。ロッド位置調整部88は、ベースプレート33を貫通して設けられる。ロッド位置調整部88は、制限ロッド87の上下方向の位置を調整する機能を有する。介助者等は、ベースプレート33の前側からロッド位置調整部88を操作して、矢印M2に示されるように、制限ロッド87の上下方向の位置を調整することができる。
【0059】
具体的に、被介助者が小柄である場合に、介助者等は、制限ロッド87の位置を低めに調整して、一対の脇支持部5Bの最接近距離を小さめに設定する。一方、被介助者が大柄である場合に、介助者等は、制限ロッド87の位置を高めに調整して、一対の脇支持部5Bの最接近距離を大きめに設定する。これによれば、第3実施形態と同様、一対の脇支持部5Bの最接近距離を被介助者の体格に適合させることができ、いつでも圧迫力を軽減する効果が発生する。
【0060】
6.脇支持アシスト機構9
次に、第1~第4実施形態の介助装置1に追加することができる脇支持アシスト機構9について、
図11を参考にして説明する。脇支持アシスト機構9は、ベースプレート33の前面または後面に設けられる。
図11に示されるように、脇支持アシスト機構9は、一対の脇支持部5B(5、5A)に作用する下向きの荷重W2に応じて、一対の脇支持部5B(5、5A)を互いに接近する方向M3に揺動または移動させる。これによれば、被介助者が一対の脇支持部5B(5、5A)にもたれかかったときに、一対の脇支持部5B(5、5A)は、相互に接近して確実に被介助者を支持する。
【0061】
本願出願人は、脇支持アシスト機構9に適用可能な機構の一例を、国際公開2015/011838号に保持位置調整機構と名付けて開示している。また、第3実施形態の介助装置1に脇支持アシスト機構9を追加した態様では、被介助者の姿勢の左右のアンバランスを抑制する作用がある。詳述すると、被介助者が一方の脇支持部5Bにもたれかかったときに、その脇支持部5Bは揺動するが、制限ベルト81が張ってテンションが生じる。これにより、一方の脇支持部5Bの揺動範囲が制限されて、他方の脇支持部5Bとのアンバランスが抑制される。結果として、介助装置1は、被介助者の姿勢の左右のアンバランスを抑制することができる。
【0062】
7.実施形態の変形および応用
なお、第1実施形態と第2実施形態を組み合わせて実施することができる。また、第1および第2実施形態は、第3または第4実施形態と組み合わせることができる。換言すると、第1および第2実施形態の介助装置1は、第3または第4実施形態に記載された制限機構および調整部を備えてもよい。その他にも、第1~第4実施形態は、様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0063】
1:介助装置 2:基台 20:フットプレート 21:パイプフレーム 22:組み付けフレーム 3:アーム部材 33:ベースプレート 34:ハンドル 4:上体支持部 5、5A、5B:脇支持部 51:芯部材 52:外周部材 53:通常カバー部材 54:摩擦低減カバー部材 55:中間部材 56:取り付け板 57:所定位置 58:制限位置 6:支持部材 7:アクチュエータ 81:制限ベルト 82:定点位置 83:調整バックル 86:制限ピン 87:制限ロッド 88:ロッド位置調整部 9:脇支持アシスト機構