(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】分離膜モジュール
(51)【国際特許分類】
B01D 63/00 20060101AFI20240116BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240116BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20240116BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240116BHJP
C01B 39/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B01D63/00 500
B01D53/22
B01D69/12
B01D71/02 500
C01B39/00
(21)【出願番号】P 2022528461
(86)(22)【出願日】2021-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2021014506
(87)【国際公開番号】W WO2021246046
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020098750
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】中西 貴大
(72)【発明者】
【氏名】清水 克哉
(72)【発明者】
【氏名】木下 直人
(72)【発明者】
【氏名】市川 真紀子
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226395(JP,A)
【文献】特開2009-220104(JP,A)
【文献】特開昭57-122293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0162785(US,A1)
【文献】国際公開第2019/187640(WO,A1)
【文献】特開2016-155098(JP,A)
【文献】国際公開第2015/166656(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
C01B33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離膜モジュールであって、
支持体、および、前記支持体に設けられた分離膜を有する分離膜複合体と、
長手方向に延びる筒状部材であり、前記分離膜複合体を収容する収容容器と、
前記収容容器の内部に設けられた支持面と、前記分離膜複合体の被支持面との間にて両者に密着するシール部材と、
を備え、
前記被支持面が、前記支持体に設けられる封止部の面であり、前記封止部がガラスにより形成され、
前記分離膜モジュールに対して振動または衝撃が作用した場合に、前記シール部材と前記被支持面との間で滑りが発生して、前記収容容器に対して前記分離膜複合体が前記長手方向に移動し得る構造であり、
前記シール部材と前記被支持面との間における第1静止摩擦係数が、0.5以下であり、
前記第1静止摩擦係数に前記シール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに前記分離膜複合体の質量[kg]で割った値が1.0以上である分離膜モジュール。
【請求項2】
分離膜モジュールであって、
支持体、および、前記支持体に設けられた分離膜を有する分離膜複合体と、
長手方向に延びる筒状部材であり、前記分離膜複合体を収容する収容容器と、
前記収容容器の内部に設けられた支持面と、前記分離膜複合体の被支持面との間にて両者に密着するシール部材と、
を備え、
前記分離膜モジュールに対して振動または衝撃が作用した場合に、前記シール部材と前記支持面との間で滑りが発生して、前記収容容器に対して前記分離膜複合体が前記長手方向に移動し得る構造であり、
前記シール部材と前記支持面との間における第2静止摩擦係数が、0.5以下であり、
前記第2静止摩擦係数に前記シール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに前記分離膜複合体の質量[kg]で割った値が1.0以上である分離膜モジュール。
【請求項3】
分離膜モジュールであって、
支持体、および、前記支持体に設けられた分離膜を有する分離膜複合体と、
長手方向に延びる筒状部材であり、前記分離膜複合体を収容する収容容器と、
前記収容容器の内部に設けられた支持面と、前記分離膜複合体の被支持面との間にて両者に密着するシール部材と、
を備え、
前記分離膜モジュールに対して振動または衝撃が作用した場合に、
前記シール部材と前記被支持面との間で滑りが発生して、前記収容容器に対して前記分離膜複合体が前記長手方向に移動し得る構造であり、かつ、前記シール部材と前記支持面との間で滑りが発生して、前記収容容器に対して前記分離膜複合体が前記長手方向に移動し得る構造であり、
前記シール部材と前記被支持面との間における第1静止摩擦係数が、0.5以下であり、
前記第1静止摩擦係数に前記シール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに前記分離膜複合体の質量[kg]で割った値が1.0以上であり、
前記シール部材と前記支持面との間における第2静止摩擦係数が、0.5以下であり、
前記第2静止摩擦係数に前記シール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに前記分離膜複合体の質量[kg]で割った値が1.0以上である分離膜モジュール。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1つに記載の分離膜モジュールであって、
100℃にて72時間加熱した場合に、加熱前の前記分離膜複合体のガス透過量に対する、加熱後の前記分離膜複合体のガス透過量の比率が80%以上である分離膜モジュール。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載の分離膜モジュールであって、
前記シール部材の表面に潤滑剤が塗布されている分離膜モジュール。
【請求項6】
請求項5に記載の分離膜モジュールであって、
前記潤滑剤を100℃にて72時間加熱した場合における、前記潤滑剤の質量の減少率が5%以下である分離膜モジュール。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の分離膜モジュールであって、
前記支持面が、前記収容容器の本体における内面の一部であり、
前記被支持面が、前記分離膜複合体における外面の一部である分離膜モジュール。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の分離膜モジュールであって、
前記分離膜がゼオライト膜である分離膜モジュール。
【請求項9】
請求項8に記載の分離膜モジュールであって、
前記ゼオライト膜が酸素8員環以下の細孔構造を有する分離膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜モジュールに関する。
[関連出願の参照]
本願は、2020年6月5日に出願された日本国特許出願JP2020-098750からの優先権の利益を主張し、当該出願の全ての開示は、本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
従来、分離膜モジュールが利用されている。例えば、特開2020-23432号公報(文献1)では、ゼオライトおよび無機多孔質支持体の複合体と、緻密部材とを無機接着剤で接合した分離膜モジュールが開示されている。また、特開2009-226395号公報(文献2)では、分離膜エレメントが複数直列に連結されて耐圧容器内に装填された分離膜モジュールが開示されている。当該分離膜モジュールでは、分離膜エレメントを連結する連結部材において、耐圧容器の内面に対する摩擦抵抗を低減する摩擦抵抗低減構造が設けられる。なお、特開2004-83375号公報(文献3)および国際公開WO2011/105511号(文献4)では、DDR型ゼオライトの製造方法について記載されている。また、国際公開WO2018/180095号(文献5)では、分離膜モジュールにおいてガスリークを検査する方法について記載されている。
【0003】
ところで、分離膜モジュールでは、分離膜および支持体を有する分離膜複合体が、収容容器内において支持される。分離膜モジュールの一例では、収容容器の容器本体の内面と分離膜複合体の外面との間にて、両者に密着するシール部材が設けられ、分離膜複合体がシール部材を用いて収容容器内にて支持される。一般的にはシール部材と、分離膜複合体の外面および容器本体の内面との間の摩擦力が大きく(滑りが悪く)、シール部材の交換は非常に手間がかかる。しかしながら、分離膜に比べてシール部材は使用条件(温度、ガス種など)によって劣化が早いため、シール部材を定期的に交換する必要があり、メンテナンス性向上のためにもシール部材を交換しやすくする必要がある。
【0004】
例えば、特開2009-226395号公報(上記文献2)に記載されているようにシール部材に2個以上の凸部をつけることで、上記摩擦力を小さくする(滑りやすくする)ことも考えられるが、分離膜モジュールに対して振動や衝撃が作用した場合に、シール部材と、分離膜複合体の外面または容器本体の内面との間にて滑りが発生し、収容容器内において分離膜複合体を適切に支持し、気密性を確保することができなくなる。これらの問題は、収容容器内において、容器本体の内面以外の支持面に対して、シール部材を介して分離膜複合体を取り付ける場合も同様である。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、分離膜モジュールに向けられており、収容容器内において分離膜複合体を適切に支持しつつ、収容容器に対する分離膜複合体の取り付けおよび取り外しを容易に行うことを目的としている。
【0006】
本発明に係る一の分離膜モジュールは、支持体、および、前記支持体に設けられた分離膜を有する分離膜複合体と、長手方向に延びる筒状部材であり、前記分離膜複合体を収容する収容容器と、前記収容容器の内部に設けられた支持面と、前記分離膜複合体の被支持面との間にて両者に密着するシール部材とを備え、前記被支持面が、前記支持体に設けられる封止部の面であり、前記封止部がガラスにより形成され、前記分離膜モジュールに対して振動または衝撃が作用した場合に、前記シール部材と前記被支持面との間で滑りが発生して、前記収容容器に対して前記分離膜複合体が前記長手方向に移動し得る構造であり、前記シール部材と前記被支持面との間における第1静止摩擦係数が、0.5以下であり、前記第1静止摩擦係数に前記シール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに前記分離膜複合体の質量[kg]で割った値が1.0以上である。
本発明に係る他の分離膜モジュールは、支持体、および、前記支持体に設けられた分離膜を有する分離膜複合体と、長手方向に延びる筒状部材であり、前記分離膜複合体を収容する収容容器と、前記収容容器の内部に設けられた支持面と、前記分離膜複合体の被支持面との間にて両者に密着するシール部材とを備え、前記分離膜モジュールに対して振動または衝撃が作用した場合に、前記シール部材と前記支持面との間で滑りが発生して、前記収容容器に対して前記分離膜複合体が前記長手方向に移動し得る構造であり、前記シール部材と前記支持面との間における第2静止摩擦係数が、0.5以下であり、前記第2静止摩擦係数に前記シール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに前記分離膜複合体の質量[kg]で割った値が1.0以上である。
本発明に係るさらに他の分離膜モジュールは、支持体、および、前記支持体に設けられた分離膜を有する分離膜複合体と、長手方向に延びる筒状部材であり、前記分離膜複合体を収容する収容容器と、前記収容容器の内部に設けられた支持面と、前記分離膜複合体の被支持面との間にて両者に密着するシール部材とを備え、前記分離膜モジュールに対して振動または衝撃が作用した場合に、前記シール部材と前記被支持面との間で滑りが発生して、前記収容容器に対して前記分離膜複合体が前記長手方向に移動し得る構造であり、かつ、前記シール部材と前記支持面との間で滑りが発生して、前記収容容器に対して前記分離膜複合体が前記長手方向に移動し得る構造であり、前記シール部材と前記被支持面との間における第1静止摩擦係数が、0.5以下であり、前記第1静止摩擦係数に前記シール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに前記分離膜複合体の質量[kg]で割った値が1.0以上であり、前記シール部材と前記支持面との間における第2静止摩擦係数が、0.5以下であり、前記第2静止摩擦係数に前記シール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに前記分離膜複合体の質量[kg]で割った値が1.0以上である。
【0007】
本発明によれば、収容容器内において分離膜複合体を適切に支持しつつ、収容容器に対する分離膜複合体の取り付けおよび取り外しを容易に行うことができる。
【0008】
好ましくは、分離膜モジュールを100℃にて72時間加熱した場合に、加熱前の前記分離膜複合体のガス透過量に対する、加熱後の前記分離膜複合体のガス透過量の比率が80%以上である。
【0009】
好ましくは、前記シール部材の表面に潤滑剤が塗布されている。
【0010】
好ましくは、前記潤滑剤を100℃にて72時間加熱した場合における、前記潤滑剤の質量の減少率が5%以下である。
【0011】
好ましくは、前記支持面が、前記収容容器の本体における内面の一部であり、前記被支持面が、前記分離膜複合体における外面の一部である。
【0012】
好ましくは、前記分離膜がゼオライト膜である。
【0013】
好ましくは、前記ゼオライト膜が酸素8員環以下の細孔構造を有する。
【0014】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】ゼオライト膜複合体の一部を拡大して示す断面図である。
【
図4】シール部材と収容容器の支持面との間における静止摩擦係数を測定する様子を示す図である。
【
図5】シール部材とゼオライト膜複合体の被支持面との間における静止摩擦係数を測定する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る分離装置2の概略構造を示す図である。
図1では、一部の構成の断面における平行斜線を省略している。分離装置2は、流体(すなわち、ガスまたは液体)から、後述するゼオライト膜複合体1に対する透過性が高い物質を分離させる装置である。分離装置2における分離は、例えば、透過性が高い物質を流体から抽出する目的で行われてもよく、透過性が低い物質を濃縮する目的で行われてもよい。
【0017】
上述の流体は、1種類のガス、もしくは、複数種類のガスを含む混合ガスであってもよく、1種類の液体、もしくは、複数種類の液体を含む混合液であってもよく、ガスおよび液体の双方を含む気液二相流体であってもよい。
【0018】
流体は、例えば、水素(H2)、ヘリウム(He)、窒素(N2)、酸素(O2)、水(H2O)、水蒸気(H2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物、アンモニア(NH3)、硫黄酸化物、硫化水素(H2S)、フッ化硫黄、水銀(Hg)、アルシン(AsH3)、シアン化水素(HCN)、硫化カルボニル(COS)、C1~C8の炭化水素、有機酸、アルコール、メルカプタン類、エステル、エーテル、ケトンおよびアルデヒドのうち、1種類以上の物質を含む。
【0019】
窒素酸化物とは、窒素と酸素の化合物である。上述の窒素酸化物は、例えば、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、亜酸化窒素(一酸化二窒素ともいう。)(N2O)、三酸化二窒素(N2O3)、四酸化二窒素(N2O4)、五酸化二窒素(N2O5)等のNOX(ノックス)と呼ばれるガスである。
【0020】
硫黄酸化物とは、硫黄と酸素の化合物である。上述の硫黄酸化物は、例えば、二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)等のSOX(ソックス)と呼ばれるガスである。
【0021】
フッ化硫黄とは、フッ素と硫黄の化合物である。上述のフッ化硫黄は、例えば、二フッ化二硫黄(F-S-S-F,S=SF2)、二フッ化硫黄(SF2)、四フッ化硫黄(SF4)、六フッ化硫黄(SF6)または十フッ化二硫黄(S2F10)等である。
【0022】
C1~C8の炭化水素とは、炭素が1個以上かつ8個以下の炭化水素である。C3~C8の炭化水素は、直鎖化合物、側鎖化合物および環式化合物のうちいずれであってもよい。また、C2~C8の炭化水素は、飽和炭化水素(すなわち、2重結合および3重結合が分子中に存在しないもの)、不飽和炭化水素(すなわち、2重結合および/または3重結合が分子中に存在するもの)のどちらであってもよい。C1~C4の炭化水素は、例えば、メタン(CH4)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、プロパン(C3H8)、プロピレン(C3H6)、ノルマルブタン(CH3(CH2)2CH3)、イソブタン(CH(CH3)3)、1-ブテン(CH2=CHCH2CH3)、2-ブテン(CH3CH=CHCH3)またはイソブテン(CH2=C(CH3)2)である。
【0023】
上述の有機酸は、カルボン酸またはスルホン酸等である。カルボン酸は、例えば、ギ酸(CH2O2)、酢酸(C2H4O2)、シュウ酸(C2H2O4)、アクリル酸(C3H4O2)または安息香酸(C6H5COOH)等である。スルホン酸は、例えばエタンスルホン酸(C2H6O3S)等である。当該有機酸は、鎖式化合物であってもよく、環式化合物であってもよい。
【0024】
上述のアルコールは、例えば、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、イソプロパノール(2-プロパノール)(CH3CH(OH)CH3)、エチレングリコール(CH2(OH)CH2(OH))またはブタノール(C4H9OH)等である。
【0025】
メルカプタン類とは、水素化された硫黄(SH)を末端に持つ有機化合物であり、チオール、または、チオアルコールとも呼ばれる物質である。上述のメルカプタン類は、例えば、メチルメルカプタン(CH3SH)、エチルメルカプタン(C2H5SH)または1-プロパンチオール(C3H7SH)等である。
【0026】
上述のエステルは、例えば、ギ酸エステルまたは酢酸エステル等である。
【0027】
上述のエーテルは、例えば、ジメチルエーテル((CH3)2O)、メチルエチルエーテル(C2H5OCH3)またはジエチルエーテル((C2H5)2O)等である。
【0028】
上述のケトンは、例えば、アセトン((CH3)2CO)、メチルエチルケトン(C2H5COCH3)またはジエチルケトン((C2H5)2CO)等である。
【0029】
上述のアルデヒドは、例えば、アセトアルデヒド(CH3CHO)、プロピオンアルデヒド(C2H5CHO)またはブタナール(ブチルアルデヒド)(C3H7CHO)等である。
【0030】
以下の説明では、分離装置2により分離される流体は、複数種類のガスを含む混合物質(すなわち、混合ガス)であるものとして説明する。
【0031】
分離装置2は、分離膜モジュール21と、供給部26と、第1回収部27と、第2回収部28とを備える。分離膜モジュール21は、ゼオライト膜複合体1と、収容容器22と、2つのシール部材23とを備える。ゼオライト膜複合体1およびシール部材23は、収容容器22内に収容される。供給部26、第1回収部27および第2回収部28は、収容容器22の外部に配置されて収容容器22に接続される。
【0032】
図2は、ゼオライト膜複合体1の断面図である。
図3は、ゼオライト膜複合体1の一部を拡大して示す断面図である。
図2では、後述の封止部13の図示を省略している。ゼオライト膜複合体1は、分離膜複合体であり、多孔質の支持体11と、支持体11上に設けられた分離膜であるゼオライト膜12とを備える。ゼオライト膜12とは、少なくとも、支持体11の表面にゼオライトが膜状に形成されたものであって、有機膜中にゼオライト粒子を分散させただけのものは含まない。また、ゼオライト膜12は、構造や組成が異なる2種類以上のゼオライトを含んでいてもよい。
図2では、ゼオライト膜12を太線にて描いている。
図3では、ゼオライト膜12に平行斜線を付す。また、
図3では、ゼオライト膜12の厚さを実際よりも厚く描いている。
【0033】
なお、分離装置2では、ゼオライト膜複合体1以外の分離膜複合体が用いられてよく、ゼオライト膜12に代えて、ゼオライト以外の無機物により形成される無機膜、または、無機膜以外の膜が、分離膜として支持体11上に形成されていてもよい。また、有機膜中にゼオライト粒子を分散させた分離膜が用いられてもよい。以下の説明では、分離膜がゼオライト膜12であるものとする。
【0034】
支持体11はガスおよび液体を透過可能な多孔質部材である。
図2に示す例では、支持体11は、一体成形された一繋がりの柱状の本体に、長手方向(すなわち、
図2中の左右方向)にそれぞれ延びる複数の貫通孔111が設けられたモノリス型支持体である。
図2に示す例では、支持体11は略円柱状である。各貫通孔111(すなわち、セル)の長手方向に垂直な断面は、例えば略円形である。
図2では、貫通孔111の径を実際よりも大きく、貫通孔111の数を実際よりも少なく描いている。ゼオライト膜12は、貫通孔111の内面上に形成され、貫通孔111の内面を略全面に亘って被覆する。
【0035】
支持体11の長さ(すなわち、
図2中の左右方向の長さ)は、例えば10cm~200cmである。支持体11の外径は、例えば0.5cm~200cmである。隣接する貫通孔111の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmである。支持体11の表面粗さ(Ra)は、例えば0.1μm~5.0μmであり、好ましくは0.2μm~2.0μmである。なお、支持体11の形状は、例えば、ハニカム状、平板状、管状、円筒状、円柱状または多角柱状等であってもよい。支持体11の形状が管状または円筒状である場合、支持体11の厚さは、例えば0.1mm~10mmである。
【0036】
支持体11の材料は、表面にゼオライト膜12を形成する工程において化学的安定性を有するのであれば、様々な物質(例えば、セラミックまたは金属)が採用可能である。本実施の形態では、支持体11はセラミック焼結体により形成される。支持体11の材料として選択されるセラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が挙げられる。本実施の形態では、支持体11は、アルミナ、シリカおよびムライトのうち、少なくとも1種類を含む。
【0037】
支持体11は、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも1つを用いることができる。
【0038】
支持体11の平均細孔径は、例えば0.01μm~70μmであり、好ましくは0.05μm~25μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の平均細孔径は0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。平均細孔径は、例えば、水銀ポロシメータ、パームポロシメータまたはナノパームポロシメータにより測定することができる。支持体11の表面および内部を含めた全体における細孔径の分布について、D5は例えば0.01μm~50μmであり、D50は例えば0.05μm~70μmであり、D95は例えば0.1μm~2000μmである。ゼオライト膜12が形成される表面近傍における支持体11の気孔率は、例えば20%~60%である。
【0039】
支持体11は、例えば、平均細孔径が異なる複数の層が厚さ方向に積層された多層構造を有する。ゼオライト膜12が形成される表面を含む表面層における平均細孔径および焼結粒径は、表面層以外の層における平均細孔径および焼結粒径よりも小さい。支持体11の表面層の平均細孔径は、例えば0.01μm~1μmであり、好ましくは0.05μm~0.5μmである。支持体11が多層構造を有する場合、各層の材料は上記のものを用いることができる。多層構造を形成する複数の層の材料は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0040】
ゼオライト膜12は、微細孔(マイクロ孔)を有する多孔膜である。ゼオライト膜12は、複数種類の物質が混合した流体から、分子篩作用を利用して特定の物質を分離する分離膜として利用可能である。ゼオライト膜12では、当該特定の物質に比べて他の物質が透過しにくい。換言すれば、ゼオライト膜12の当該他の物質の透過量は、上記特定の物質の透過量に比べて小さい。
【0041】
ゼオライト膜12の厚さは、例えば0.05μm~30μmであり、好ましくは0.1μm~20μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmである。ゼオライト膜12を厚くすると分離性能が向上する。ゼオライト膜12を薄くすると透過速度が増大する。ゼオライト膜12の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm以下であり、好ましくは2μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0042】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの種類は特に限定されないが、CO2の透過量増大および分離性能向上の観点では、ゼオライト膜12が酸素8員環以下の細孔構造を有することが好ましい。すなわち、ゼオライト膜12に含まれるゼオライトの最大員環数は、8以下(例えば、6または8)であることが好ましい。ここで、酸素n員環とは、細孔を形成する骨格を構成する酸素原子の数がn個であって、各酸素原子が後述のT原子と結合して環状構造をなす部分のことである。処理されるガスの種類によっては、ゼオライトの最大員環数は8よりも大きくてもよい。
【0043】
ゼオライト膜12は、例えば、DDR型のゼオライトである。換言すれば、ゼオライト膜12は、国際ゼオライト学会が定める構造コードが「DDR」であるゼオライトである。この場合、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの固有細孔径は、0.36nm×0.44nmであり、平均細孔径は、0.40nmである。ゼオライト膜12の固有細孔径は、支持体11の平均細孔径よりも小さい。
【0044】
ゼオライト膜12は、DDR型のゼオライトには限定されず、他の構造を有するゼオライトであってもよい。ゼオライト膜12は、例えば、AEI型、AEN型、AFN型、AFV型、AFX型、BEA型、CHA型、DDR型、ERI型、ETL型、FAU型(X型、Y型)、GIS型、LEV型、LTA型、MEL型、MFI型、MOR型、PAU型、RHO型、SAT型、SOD型等のゼオライトであってよい。
【0045】
ゼオライト膜12は、例えば、ケイ素(Si)を含む。ゼオライト膜12は、例えば、Si、アルミニウム(Al)およびリン(P)のうちいずれか2つ以上を含んでいてもよい。ゼオライト膜12を構成するゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO4)の中心に位置する原子(T原子)がSiのみ、もしくは、SiとAlとからなるゼオライト、T原子がAlとPとからなるAlPO型のゼオライト、T原子がSiとAlとPとからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPとからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPとからなるZnAPSO型のゼオライト等を用いることができる。T原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0046】
ゼオライト膜12がSi原子およびAl原子を含む場合、ゼオライト膜12におけるSi/Al比は、例えば1以上かつ10万以下である。当該Si/Al比は、好ましくは5以上、より好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上であり、高ければ高いほど好ましい。後述する原料溶液中のSi源とAl源との配合割合等を調整することにより、ゼオライト膜12におけるSi/Al比を調整することができる。ゼオライト膜12は、アルカリ金属を含んでいてもよい。当該アルカリ金属は、例えば、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。
【0047】
20℃~400℃におけるゼオライト膜12のCO2の透過量(パーミエンス)は、例えば100nmol/m2・s・Pa以上である。また、20℃~400℃におけるゼオライト膜12のCO2の透過量/N2漏れ量比(パーミエンス比)は、例えば5以上である。当該パーミエンスおよびパーミエンス比は、ゼオライト膜12の供給側と透過側とのCO2の分圧差が1.5MPaである場合のものである。
【0048】
ここで、ゼオライト膜複合体1の製造の流れの一例について説明する。ゼオライト膜複合体1の製造では、まず、ゼオライト膜12の製造に利用される種結晶が準備される。種結晶は、例えば、水熱合成にてDDR型のゼオライトの粉末が生成され、当該ゼオライトの粉末から取得される。当該ゼオライトの粉末はそのまま種結晶として用いられてもよく、当該粉末を粉砕等によって加工することにより種結晶が取得されてもよい。
【0049】
続いて、種結晶を分散させた溶液に多孔質の支持体11を浸漬し、種結晶を支持体11に付着させる。あるいは、種結晶を分散させた溶液を、支持体11上のゼオライト膜12を形成させたい部分に接触させることにより、種結晶を支持体11に付着させる。これにより、種結晶付着支持体が作製される。種結晶は、他の手法により支持体11に付着されてもよい。
【0050】
種結晶が付着された支持体11は、原料溶液に浸漬される。原料溶液は、例えば、Si源および構造規定剤(Structure-Directing Agent、以下「SDA」とも呼ぶ。)等を、溶媒に溶解または分散させることにより作製する。原料溶液の溶媒には、例えば、水、または、エタノール等のアルコールが用いられる。原料溶液に含まれるSDAは、例えば有機物である。SDAとして、例えば、1-アダマンタンアミンを用いることができる。
【0051】
そして、水熱合成により当該種結晶を核としてDDR型のゼオライトを成長させることにより、支持体11上にDDR型のゼオライト膜12が形成される。水熱合成時の温度は、好ましくは120~200℃である。水熱合成時間は、好ましくは6~100時間である。
【0052】
水熱合成が終了すると、支持体11およびゼオライト膜12を純水で洗浄する。洗浄後の支持体11およびゼオライト膜12は、例えば80℃にて乾燥される。支持体11およびゼオライト膜12を乾燥した後に、ゼオライト膜12を加熱処理することによって、ゼオライト膜12中のSDAをおよそ完全に燃焼除去して、ゼオライト膜12内の微細孔を貫通させる。これにより、上述のゼオライト膜複合体1が得られる。
【0053】
図1に示すゼオライト膜複合体1の一例では、長手方向における支持体11の両端部に封止部13が設けられる。封止部13は、支持体11の長手方向両端面、および、当該両端面近傍の外面を被覆して封止する部材である。封止部13は、支持体11の当該両端面からのガスの流入および流出を防止する。封止部13は、例えば、ガラス、樹脂または金属により形成される。封止部13の材料および形状は、適宜変更されてよい。なお、各貫通孔111の長手方向両端は、封止部13により被覆されておらず、当該両端から貫通孔111へのガスの流入および流出は可能である。
【0054】
図1の分離膜モジュール21において、収容容器22は、例えば略円筒状の筒状部材である。収容容器22は、円筒状以外であってもよい。収容容器22は、耐圧容器であり、例えばステンレス鋼または炭素鋼により形成される。収容容器22の長手方向は、ゼオライト膜複合体1の長手方向に略平行である。収容容器22の長手方向の一方の端部(すなわち、
図1中の左側の端部)には供給ポート221が設けられ、他方の端部には第1排出ポート222が設けられる。収容容器22の側面には、第2排出ポート223が設けられる。供給ポート221には、供給部26が接続される。第1排出ポート222には、第1回収部27が接続される。第2排出ポート223には、第2回収部28が接続される。収容容器22の内部空間は、収容容器22の周囲の空間から隔離された密閉空間である。
【0055】
図1に示す例では、収容容器22は、容器本体224と、2つの蓋部226とを備える。容器本体224は、長手方向の両端部に開口を有する略円筒状の部材である。容器本体224には、2つのフランジ部225が設けられる。2つのフランジ部225はそれぞれ、容器本体224の上記2つの開口の周囲において、容器本体224から径方向外側へと広がる略円環板状の部位である。容器本体224および2つのフランジ部225は、一繋がりの部材である。2つの蓋部226はそれぞれ、容器本体224の上記2つの開口を覆った状態で、2つのフランジ部225にボルト締め等により固定される。これにより、容器本体224の当該2つの開口は、気密に封止される。上述の供給ポート221は、
図1中の左側の蓋部226に設けられる。第1排出ポート222は、
図1中の右側の蓋部226に設けられる。第2排出ポート223は、容器本体224の長手方向の略中央に設けられる。
【0056】
2つのシール部材23は、ゼオライト膜複合体1の長手方向両端部近傍において、ゼオライト膜複合体1の外面と収容容器22の内面との間に(
図1の例では、ゼオライト膜複合体1の外周面と容器本体224の内周面との間に)、全周に亘って配置される。各シール部材23は、ガスが透過不能な材料により形成された部材である。
図1の例では、シール部材23は環状であり、例えば、可撓性を有する樹脂により形成されたOリングである。シール部材23の材料は、例えば、パーフルオロ系フッ素ゴム(FFKM)、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム(FKM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等である。
【0057】
各シール部材23は、ゼオライト膜複合体1の外面および収容容器22の内面に全周に亘って密着する。
図1に示す例では、シール部材23は、封止部13の外面に密着し、封止部13を介して支持体11の外面に間接的に密着する。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外面との間、および、シール部材23と収容容器22の内面との間は、シールされており、ガスの通過はほとんど、または、全く不能である。分離膜モジュール21では、第2排出ポート223と、供給ポート221および第1排出ポート222との間における気密性が、シール部材23により確保される。シール部材23の表面には潤滑剤が付着する。潤滑剤の詳細については後述する。
【0058】
供給部26は、混合ガスを、供給ポート221を介して収容容器22の内部空間に供給する。供給部26は、例えば、収容容器22に向けて混合ガスを圧送するブロワーまたはポンプを備える。当該ブロワーまたはポンプは、収容容器22に供給する混合ガスの圧力を調節する圧力調節部を備える。第1回収部27および第2回収部28は、例えば、収容容器22から導出されたガスを貯留する貯留容器、または、当該ガスを移送するブロワーもしくはポンプを備える。
【0059】
混合ガスの分離が行われる際には、上述の分離装置2が用意されることにより、ゼオライト膜複合体1が準備される。続いて、供給部26により、ゼオライト膜12に対する透過性が異なる複数種類のガスを含む混合ガスが、収容容器22の内部空間に供給される。例えば、混合ガスの主成分は、CO2およびN2である。混合ガスには、CO2およびN2以外のガスが含まれていてもよい。供給部26から収容容器22の内部空間に供給される混合ガスの圧力(すなわち、導入圧)は、例えば、0.1MPaA~20.0MPaAである。混合ガスの分離が行われる温度は、例えば、10℃~100℃である。
【0060】
供給部26から収容容器22に供給された混合ガスは、矢印251にて示すように、ゼオライト膜複合体1の
図1中の左端から、支持体11の各貫通孔111内に導入される。混合ガス中の透過性が高いガス(例えば、CO
2であり、以下、「高透過性物質」と呼ぶ。)は、各貫通孔111の内面上に設けられたゼオライト膜12、および、支持体11を透過して支持体11の外面から導出される。これにより、高透過性物質が、混合ガス中の透過性が低いガス(例えば、N
2であり、以下、「低透過性物質」と呼ぶ。)から分離される。
【0061】
ゼオライト膜複合体1を透過して支持体11の外面から導出されたガス(以下、「透過物質」と呼ぶ。)は、矢印253にて示すように、第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収される。第2排出ポート223を介して第2回収部28により回収されるガスの圧力(すなわち、透過圧)は、例えば、約1気圧(0.101MPaA)である。
【0062】
また、混合ガスのうち、ゼオライト膜複合体1を透過したガス以外のガス(以下、「不透過物質」と呼ぶ。)は、支持体11の各貫通孔111を
図1中の左側から右側へと通過する。不透過物質は、矢印252にて示すように、第1排出ポート222を介して収容容器22の外部へと排出され、第1回収部27により回収される。第1排出ポート222を介して第1回収部27により回収されるガスの圧力は、例えば、導入圧と略同じ圧力である。不透過物質には、上述の低透過性物質以外に、ゼオライト膜12を透過しなかった高透過性物質が含まれていてもよい。
【0063】
次に、潤滑剤の詳細について説明する。既述のように、潤滑剤はシール部材23の表面に付着する。潤滑剤は、例えば、液状潤滑油に増ちょう剤(粘度や乳化安定性を増すための薬剤)等の固体が添加されたものである。潤滑剤は、例えばフッ素油系のグリースである。潤滑剤の一例は、デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル製のMOLYKOTE(登録商標)HP-500である。
【0064】
潤滑剤は、シール部材23の表面に直接塗布されてもよく、シール部材23と接触するゼオライト膜複合体1の外面、または、収容容器22の内面に塗布されて、シール部材23の表面に付着してもよい。一例では、潤滑剤は、シール部材23の表面のほぼ全体に付着する。潤滑剤は、シール部材23の表面において、ゼオライト膜複合体1の外面と接触する領域、および、収容容器22の内面と接触する領域に付着していればよい。シール部材23とゼオライト膜複合体1の外面との間、および、シール部材23と収容容器22の内面との間には潤滑剤が介在するが、以下の説明では、潤滑剤が介在する場合でも、シール部材23とゼオライト膜複合体1の外面とが接触し、シール部材23と収容容器22の内面とが接触しているものとする。
【0065】
潤滑剤は、揮発性が低いことが好ましい。潤滑剤の揮発性は、潤滑剤を常温で静置した場合における揮発率により評価することが可能である。例えば、潤滑剤の製品容器から潤滑剤を採取し、25~30℃にて72時間静置した場合に、72時間経過後の潤滑剤の質量減少量の、静置前の質量に対する割合(すなわち、(潤滑剤の質量減少量)/(静置前の潤滑剤の質量)×100)が、揮発率として求められる。上記揮発率は、例えば1%以下であり、好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。これにより、常温で潤滑剤から揮発した物質がゼオライト膜12に付着して、ゼオライト膜複合体1における分離性能が低下することが抑制される。
【0066】
潤滑剤は、熱安定性を有することが好ましい。潤滑剤の熱安定性は、潤滑剤を所定の条件で加熱した場合における質量の減少率により評価することが可能である。例えば、未加熱の潤滑剤を100℃にて72時間加熱した場合に、加熱による潤滑剤の質量減少量の、加熱前の質量に対する割合(すなわち、(潤滑剤の質量減少量)/(加熱前の潤滑剤の質量)×100)が、質量減少率として求められる。このとき、潤滑剤のみを加熱することが好ましいが、潤滑剤が多く付着したシール部材23を切り取って、潤滑剤およびシール部材23を加熱してもよい。潤滑剤およびシール部材23を加熱する場合であっても、典型的には、上記温度での加熱によるシール部材23の質量の変化はほとんど生じないため、潤滑剤およびシール部材23の全体の質量減少量を、潤滑剤の質量減少量とすることが可能である。潤滑剤を取り除いた他のシール部材23を同様に加熱して、シール部材23の質量減少量を測定することにより、加熱による潤滑剤の質量減少量が求められてもよい。
【0067】
上記質量減少率は、例えば5%以下であり、好ましくは3%以下であり、より好ましくは1%以下である。これにより、加熱により潤滑剤から発生した物質がゼオライト膜12に付着して、ゼオライト膜複合体1における分離性能が低下することが抑制される。
【0068】
加熱により潤滑剤から発生する物質に起因する分離性能の低下は、分離膜モジュール21を所定の条件で加熱し、加熱前後における所定のガスの透過量の変化を求めることにより評価することが可能である。例えば、まず、未だ使用されていない分離膜モジュール21(未加熱の分離膜モジュール21)を備える分離装置2が準備される。続いて、分離装置2に混合ガスを供給することにより、混合ガスに含まれる所定のガスが、ゼオライト膜複合体1を透過する透過量(第2排出ポート223を介して回収される量であり、以下、単に「ガス透過量」という。)が測定される。その後、供給ポート221、第1排出ポート222および第2排出ポート223に蓋をして収容容器22を密閉した状態で、分離膜モジュール21が100℃にて72時間加熱される。加熱の完了後、分離装置2において混合ガスに対するガス透過量が再度測定される。
【0069】
そして、加熱前のゼオライト膜複合体1のガス透過量に対する、加熱後のゼオライト膜複合体1のガス透過量の比率(すなわち、(加熱後のガス透過量)/(加熱前のガス透過量)×100)が求められる。当該比率が高いほど、分離性能の低下が抑制されているといえる。分離膜モジュール21では、当該比率が例えば80%以上であり、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。当該比率は、通常、100%以下である。ゼオライト膜複合体1を透過する上記ガスは、一例では、二酸化炭素(CO2)ガスであるが、これに限定されるものではない。CO2透過量を測定する場合、例えば、CO2とN2の混合ガスが用いられる。
【0070】
分離膜モジュール21では、シール部材23によりゼオライト膜複合体1の位置が収容容器22に対して維持(保持)される。
図1に示す例では、収容容器22の内部において、ゼオライト膜複合体1は、シール部材23以外のいずれの部材にも接触していない。また、ゼオライト膜複合体1の両端部における外面、すなわち、封止部13の外面が、長手方向に関して平坦な円筒面である。換言すると、当該外面には、シール部材23を保持する凹部等は形成されていない。したがって、ゼオライト膜複合体1とシール部材23との相対位置は、ゼオライト膜複合体1の外面(後述の被支持面14)とシール部材23の表面との摩擦により維持される。さらに、ゼオライト膜複合体1の両端部に対向する位置では、収容容器22の内面が、長手方向に関して平坦な円筒面である。すなわち、当該内面には、シール部材23を保持する凹部等は形成されていない。したがって、シール部材23と収容容器22との相対位置は、シール部材23の表面と収容容器22の内面との摩擦により維持される。
【0071】
以上のように、
図1に示す分離膜モジュール21では、収容容器22に対するゼオライト膜複合体1の位置が、ゼオライト膜複合体1の外面とシール部材23との摩擦、および、シール部材23と収容容器22の内面との摩擦により維持される。以下の説明では、ゼオライト膜複合体1の外面においてシール部材23と接触する部分14(
図1の例では、封止部13の外面)を「被支持面14」といい、収容容器22の内面においてシール部材23と接触する部分24を「支持面24」という。被支持面14および支持面24は、シール部材23を挟んで互いに対向する。
図1の例では、被支持面14および支持面24は、共に環状である。なお、ゼオライト膜複合体1において封止部13が設けられない場合には、被支持面14が支持体11の表面であってもよい。
【0072】
既述のように、分離膜モジュール21では、供給ポート221から供給される混合ガスが、ゼオライト膜複合体1を透過して第2排出ポート223に導かれる透過物質と、ゼオライト膜複合体1を透過せずに第1排出ポート222に導かれる不透過物質とに分離される。また、第2排出ポート223と、供給ポート221および第1排出ポート222との間における気密性が、シール部材23により確保される。
【0073】
ここで、分離膜モジュール21に対して振動や衝撃が作用した場合に、仮にシール部材23と、支持面24または被支持面14との間にて滑りが発生して、ゼオライト膜複合体1またはシール部材23が収容容器22に対して大きく移動すると、上記気密性を維持することができなくなる可能性がある。また、シール部材23がゼオライト膜複合体1から外れてゼオライト膜複合体1と収容容器22とがぶつかり、ゼオライト膜複合体1が損傷する可能性もある。したがって、分離膜モジュール21に対して振動や衝撃が作用した場合であっても、収容容器22に対するゼオライト膜複合体1およびシール部材23の相対位置が維持され、収容容器22内においてゼオライト膜複合体1が適切に支持されていることが好ましい。
【0074】
分離膜モジュール21に対する振動や衝撃により、ゼオライト膜複合体1およびシール部材23が収容容器22に対して動かないためには、シール部材23と、被支持面14および支持面24との間における摩擦力F1が、振動や衝撃により、長手方向に与えられる力F2(以下、「衝撃力F2」という。)よりも大きい必要がある。ここで、摩擦力F1は、数1にて表され、衝撃力F2は、数2にて表される。
【0075】
(数1)
摩擦力F1=(静止摩擦係数)×(シール部材による垂直抗力[N])=(静止摩擦係数)×(シール部材の圧縮力[N])=(静止摩擦係数)×(1mあたりのシール部材の圧縮力[N/m])×(シール部材の総接触長さ[m])
(数2)
衝撃力F2=(ゼオライト膜複合体の質量[kg])×(振動加速度[m/s2])
これより、ある振動加速度が与えられたとき、ゼオライト膜複合体が動かないための条件は数3で表される。
【0076】
(数3)
(静止摩擦係数)×(1mあたりのシール部材の圧縮力[N/m])×(シール部材の総接触長さ[m])/(ゼオライト膜複合体の質量[kg])>(振動加速度[m/s2])
数1および数3において、「1mあたりのシール部材の圧縮力」は、シール部材23の硬度、線径、および、つぶし代により決定され、例えばシール部材メーカーの開示する値を用いてもよいし、実験で求めてもよい。数1および数3において「シール部材の総接触長さ」はシール部材が被支持面または支持面と接触する長さであり、例えばシール部材がOリングであり、被支持面14との接触長さの場合、シール部材の総接触長さは、数4で求められる。
【0077】
(数4)
シール部材の総接触長さ[m]=(シール部材の内径[m])×π×(シール部材の個数)
シール部材23のつぶし代は、JIS規格により定められる。後述の実施例では、P-180、A50、つぶし代0.65、線形8.4のシール部材が用いられる。また、数2および数3において、「振動加速度」は、振動の大きさにより決定される。後述の実施例では、97~100dBに相当する0.7~1m/s2の振動が設定される。「振動加速度」が、分離膜モジュール21に求められる仕様等に応じて所定値に決定される場合、「静止摩擦係数」が大きい、「シール部材の圧縮力」(「1mあたりのシール部材の圧縮力」に「シール部材の総接触長さ」を掛けた値)が大きい、または、「ゼオライト膜複合体の質量」が小さいほど、ゼオライト膜複合体1およびシール部材23が収容容器22に対して動きにくくなる。したがって、「静止摩擦係数」に「シール部材の圧縮力」を掛け、さらに「ゼオライト膜複合体の質量」で割った値が大きいほど、分離膜モジュール21が振動や衝撃に対して強くなり、気密性を確保した状態が維持されやすくなるといえる。
【0078】
振動や衝撃が付与された後においても、収容容器22内においてゼオライト膜複合体1を適切に支持して、シール部材23による気密性を維持するには、シール部材23と被支持面14との間における静止摩擦係数(以下、「第1静止摩擦係数」という。)にシール部材の圧縮力[N]を掛け、さらにゼオライト膜複合体1の質量[kg]で割った値が、例えば0.7よりも大きく、好ましくは0.9以上であり、より好ましくは1.0以上である。同様に、シール部材23と支持面24との間における静止摩擦係数(以下、「第2静止摩擦係数」という。)にシール部材の圧縮力[N]を掛け、さらにゼオライト膜複合体1の質量[kg]で割った値が、例えば0.7よりも大きく、好ましくは0.9以上であり、より好ましくは1.0以上である。
【0079】
例えば、所定の振動または衝撃を付与した後においても、第2排出ポート223と、供給ポート221および第1排出ポート222との間において気密性が維持されている場合には、収容容器22内においてゼオライト膜複合体1が適切に支持されていると捉えられる。気密性の確認では、例えば、国際公開WO2018/180095号(上記文献5)に記載の検査方法が利用可能である。当該方法では、第1排出ポート222を閉塞した状態で、供給ポート221から検査用ガスが供給される。検査用ガスは、動的分子径がゼオライト膜12の細孔径よりも大きいものである。収容容器22内において検査用ガスが所定の圧力となると、供給ポート221が閉塞される。続いて、第2排出ポート223への検査用ガスのリーク量が取得される。検査用ガスのリーク量は、例えば供給ポート221側における検査用ガスの圧力変化に基づいて算出される。検査用ガスのリーク量が所定の閾値未満である場合に、シール部材23により気密性が確保されていると判定され、リーク量が閾値以上である場合に、気密性が確保されていないと判定される。なお、検査用ガスのリーク量は、厳密には、シール部材23に由来するリーク量以外に、ゼオライト膜12の膜欠陥に由来するリーク量を含むため、判定に用いられるリーク量が、膜欠陥に由来するリーク量を除外したものであってもよい。膜欠陥に由来するリーク量は、例えば、実験により得られる算出式に基づいて算出される。
【0080】
例えば、第1および第2静止摩擦係数は、ゼオライト膜複合体1および収容容器22とそれぞれ同じ材料であり、かつ、同じ表面状態(表面粗さ(Ra))となるように形成されたシート状または板状の部材と、実際のシール部材23とを用いて測定される。分離膜モジュール21において、シール部材23の表面の表面粗さ(Ra)は、例えば1μm~100μmであり、好ましくは5μm~20μmである。ゼオライト膜複合体1における被支持面14の表面粗さ(Ra)は、例えば5μm~100μmであり、好ましくは10μm~50μmである。収容容器22における支持面24の表面粗さ(Ra)は、例えば1μm~50μmであり、好ましくは5μm~20μmである。表面粗さの測定には、例えばレーザー顕微鏡が用いられる。
【0081】
図4は、シール部材23と収容容器22の支持面24との間における第2静止摩擦係数を測定する様子を示す図である。
図4の例では、収容容器22の支持面24(容器本体224)と同じ材料であり、かつ、同じ表面状態となるように形成した板部材91が、所定の水平面上に載置される。また、板部材91の上に、実際のシール部材23が重ねられる。このとき、シール部材23において板部材91と接触する面には、分離膜モジュール21にて用いる潤滑剤と同じものが塗布される。潤滑剤の塗布量は0.01g~1gであることが好ましい。シール部材23上には、重り93(例えば、質量1kg以上の重り)が乗せられる。シール部材23と重り93とが必要に応じて固定されてもよい。また、シール部材23(または、シール部材23に固定された重り93)に対してフォースゲージ94が接続される。そして、フォースゲージ94を介してシール部材23を水平方向に引っ張り、シール部材23が移動した際に得られる力F[N](以下、「降伏点での力」という。)が測定される。第2静止摩擦係数μは、数5により求められる。
【0082】
(数5)
μ=F/{(シートの質量[kg]+重りの質量[kg])×重力加速度}
図4の例では、収容容器22と等価な部材を用いて第2静止摩擦係数が測定されるが、上述のように、ゼオライト膜複合体1と等価な部材を用いて第1静止摩擦係数が測定されてもよい。また、第1および第2静止摩擦係数は、ゼオライト膜複合体1および収容容器22をそれぞれ切断して得た切断片を用いて測定されてもよく、大型の測定装置が利用可能である場合には、分離膜モジュール21の状態で(切断することなく)測定されてもよい。静止摩擦係数は、接触面の面積に依存しないため、いずれの測定によっても同様の結果が得られる。
【0083】
図5は、シール部材23とゼオライト膜複合体1の被支持面14との間における第1静止摩擦係数を測定する様子を示す図である。
図5の例では、定盤95上に実際のシール部材23が載置される。シール部材23は必要に応じて定盤95に固定されてもよい。シール部材23には潤滑剤が塗布されている。また、ゼオライト膜複合体1を切断して得た切断片(例えば、質量1kg以上)が、封止部13の部分のみが接触するようにしてシール部材23の上に載置される。
図5では、ゼオライト膜複合体1の切断片に、ゼオライト膜複合体1と同じ符号を付している。必要に応じて、切断片に重りが乗せられてもよく、切断片と重りとが固定されてもよい。そして、フォースゲージ94を介して切断片を水平方向に引っ張り、切断片が移動した際に得られる力(降伏点での力)F[N]が測定される。第1静止摩擦係数μは、数5と同様にして求められる。収容容器22を切断して得た切断片を用いて測定を行う場合も同様である。
【0084】
収容容器22にゼオライト膜複合体1を取り付ける際には、例えば、蓋部226を外した容器本体224内にゼオライト膜複合体1が配置され、長手方向における容器本体224の両端部の開口から、容器本体224の内面(支持面24)とゼオライト膜複合体1の外面(被支持面14)との間にシール部材23が嵌め込まれる。その後、容器本体224に蓋部226が取り付けられる。
【0085】
また、分離膜モジュール21では、混合ガスの種類や温度等によっては、シール部材23が劣化するため、シール部材23を定期的に交換する必要がある。分離膜モジュール21を分解して、メンテナンスを行う場合もある。このような場合には、まず、蓋部226が容器本体224から取り外される。その後、容器本体224の両端部の開口を介して、シール部材23が容器本体224の内面(支持面24)とゼオライト膜複合体1の外面(被支持面14)との間から抜き取られる。これにより、収容容器22からゼオライト膜複合体1が取り外される。
【0086】
収容容器22に対するゼオライト膜複合体1の取り付けおよび取り外しを容易に行うには、シール部材23と被支持面14との間における第1静止摩擦係数は、例えば0.5以下であり、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.3以下である。この場合に、シール部材23と被支持面14との間では、摩擦力F1(最大静止摩擦力)が、例えば250N以下となり、好ましくは200N以下となり、より好ましくは150N以下となる。同様に、シール部材23と支持面24との間における第2静止摩擦係数は、例えば0.5以下であり、好ましくは0.4以下であり、より好ましくは0.3以下である。この場合に、シール部材23と支持面24との間では、摩擦力F1が、例えば250N以下となり、好ましくは200N以下となり、より好ましくは150N以下となる。
【0087】
以上に説明したように、分離膜モジュール21では、収容容器22の内部に設けられた支持面24と、ゼオライト膜複合体1の被支持面14との間にて両者に密着するとともに、表面に潤滑剤が付着したシール部材23が設けられる。そして、シール部材23と被支持面14との間における第1静止摩擦係数、および、シール部材23と支持面24との間における第2静止摩擦係数が、0.5以下である。また、第1静止摩擦係数および第2静止摩擦係数にシール部材23の圧縮力[N]を掛け、さらにゼオライト膜複合体1の質量[kg]で割った値が0.7より大きい。これにより、分離膜モジュール21に対して振動や衝撃が作用した場合であっても、収容容器22内においてゼオライト膜複合体1を適切に支持することができる。また、収容容器22に対するゼオライト膜複合体1の取り付けおよび取り外しを容易に行うことができる。その結果、分離膜モジュール21の組立やメンテナンス等を容易に行うことが可能となり、分離膜モジュール21の生産性およびメンテナンス性を向上することが実現される。
【0088】
また、分離膜モジュール21を100℃にて72時間加熱した場合に、加熱前のゼオライト膜複合体1のガス透過量に対する、加熱後のゼオライト膜複合体1のガス透過量の比率が80%以上である。これにより、潤滑剤に起因する分離性能の低下が抑制された分離膜モジュール21を提供することができる。また、潤滑剤を100℃にて72時間加熱した場合における、潤滑剤の質量の減少率が5%以下である。これにより、分離膜モジュール21おける分離性能の低下をさらに抑制することができる。
【0089】
次に、分離膜モジュールの実施例について説明する。ここで、ゼオライト膜複合体の作製では、まず、モノリス型支持体を準備した。支持体は、直径180mmであり、全長1000mmである。支持体には、長手方向の両端面、および、当該両端面近傍の外面に、ガラスにより封止部を形成した。また、特開2004-83375号公報(上記文献3)に記載のDDR型ゼオライトを製造する方法を基に、DDR型ゼオライト結晶粉末を製造し、これを種結晶に使用した。種結晶を水に分散させた後、粗い粒子を除去して種結晶分散液を作製した。次に、国際公開WO2011/105511号(上記文献4)に記載の方法に基づき、直径180mm、全長1000mmのゼオライト膜複合体を作製した。
【0090】
また、シール部材および収容容器を準備した。シール部材は、ショア硬度A50であるゴム製のOリングであり、内径(直径)179.5mm、線径(直径)8.4mmである(P規格におけるP-180)。また、収容容器の内面の直径は、JISB2401に従って、シール部材のつぶし代が0.65mmとなるように設計した。そして、シール部材を用いてゼオライト膜複合体を収容容器内に取り付け、分離膜モジュールを得た。このとき、実施例1~3の分離膜モジュールでは、潤滑剤をシール部材の表面に塗布した。実施例1で用いた潤滑剤は、デュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアル製のMOLYKOTE(登録商標)HP-500であり、実施例2で用いた潤滑剤は、MOLYKOTE(登録商標)高真空用グリースであり、実施例3で用いた潤滑剤は、住鉱潤滑剤製のスミロン2250スプレーである。比較例1の分離膜モジュールでは、潤滑剤をシール部材に塗布しなかった。
【0091】
(ゼオライト膜複合体とシール部材との間における第1静止摩擦係数の測定)
シール部材の上にゼオライト膜複合体を切断した切断片の被支持面がシール部材に接触するよう切断片を重ねた。このとき、シール部材とゼオライト膜複合体の被支持面が接触する面には、実施例1~3のそれぞれで用いた潤滑剤と同じものを塗布した。比較例1については、当該面に潤滑剤を塗布しなかった。そして、フォースゲージを介して切断片を水平方向に引っ張り、降伏点での力F[N]を測定した。第1静止摩擦係数は、既述の数5により求めた。表1は、第1静止摩擦係数を示す。
【0092】
【0093】
実施例1~3で用いた潤滑剤では、いずれも0.25以下の第1静止摩擦係数が得られたのに対し、潤滑剤を用いない比較例1では、第1静止摩擦係数が0.7よりも大きくなった。
【0094】
(収容容器とシール部材との間における第2静止摩擦係数の測定)
収容容器の容器本体(支持面)と同じ材料であり、かつ、同じ表面状態となるように形成した板部材(100×100mm)の上に、シール部材を重ねた。このとき、シール部材において板部材と接触する面には、実施例1~3のそれぞれで用いた潤滑剤と同じものを塗布した。比較例1については、当該面に潤滑剤を塗布しなかった。続いて、シール部材上に質量1.2kgの重りを乗せ、両面テープで固定した。そして、フォースゲージを介して当該重りを水平方向に引っ張り、降伏点での力F[N]を測定した。第2静止摩擦係数は、既述の数5により求めた。表2は、第2静止摩擦係数を示す。
【0095】
【0096】
実施例1~3で用いた潤滑剤では、いずれも0.35以下の第2静止摩擦係数が得られたのに対し、潤滑剤を用いない比較例1では、第2静止摩擦係数が0.7よりも大きくなった。本試験では、実施例1~3における第1静止摩擦係数および第2静止摩擦係数がともに0.5以下であるものの、メンテナンス性においていずれか片方が0.5以下であればよい。
【0097】
(加熱前後における分離性能の評価)
二酸化炭素(CO
2)と窒素(N
2)の混合ガス(各ガスの体積比を50:50とし、各ガスの分圧を0.2MPaとした。)を、実施例1~3、並びに、比較例1の分離膜モジュールに導入し、ゼオライト膜複合体を透過したガスの透過流量をマスフローメーターにて測定した。また、ゼオライト膜複合体を透過したガスに対してガスクロマトグラフを用いて成分分析を行い、当該ガス中のCO
2濃度を得た。そして、ガスの透過流量にCO
2濃度を乗じることにより、CO
2透過量を求めた。続いて、収容容器において供給ポート、第1排出ポートおよび第2排出ポート(
図1の符号221~223参照)に蓋をして収容容器を密閉した状態で、分離膜モジュールを100℃で72時間加熱した。その後、加熱前と同様にしてCO
2透過量を求め、加熱前のCO
2透過量に対する加熱後のCO
2透過量の比率[%]を求めた。表3は、加熱前のCO
2透過量に対する加熱後のCO
2透過量の比率を示す。
【0098】
【0099】
実施例1,2、並びに、比較例1の分離膜モジュールでは、加熱前のCO2透過量に対する加熱後のCO2透過量の比率が85%以上となるのに対し、実施例3の分離膜モジュールでは、当該比率が45%となった。
【0100】
(潤滑剤の熱安定性の評価)
実施例1~3で用いた潤滑剤を10~30mg程度採取し、熱重量測定(TG)を行うことにより質量減少率を求めた。熱重量測定では、Bruker製のTG-DTA2000SAを用いた。また、測定条件は、雰囲気:N2 200ml/min、最高到達温度:100℃、昇温速度:100℃/h、キープ条件:100℃72hとした。質量減少率は、加熱前の潤滑剤の質量に対する、加熱による質量減少量の割合として求めた。表4は、潤滑剤の質量減少率を示す。
【0101】
【0102】
実施例1,2で用いた潤滑剤では、質量減少率が1.0%以下となるのに対し、実施例3で用いた潤滑剤では、質量減少率が29%よりも大きくなった。
【0103】
(潤滑剤の揮発性の評価)
実施例1~3で用いた潤滑剤を製品容器から10~30mg程度採取し、25~30℃にて72時間静置した。静置前の潤滑剤の質量に対する、静置後の質量減少量の割合を、揮発率として求めた。表5は、潤滑剤の揮発率を示す。
【0104】
【0105】
実施例1,2で用いた潤滑剤では、揮発率が0.01%以下となるのに対し、実施例3で用いた潤滑剤では、揮発率が23%よりも大きくなった。
【0106】
(振動試験前後における気密性の評価)
質量が異なる3種類のゼオライト膜複合体を用意し、シール部材を用いて収容容器に取り付けて分離膜モジュールを作製した。実施例1-1,1-2、並びに、比較例2では、シール部材に実施例1の潤滑剤を塗布し、実施例2-1,2-2,2-3では、シール部材に実施例2の潤滑剤を塗布した。また、実施例3-1,3-2,3-3では、シール部材に実施例3の潤滑剤を塗布し、比較例1-1,1-2,1-3では、シール部材に潤滑剤を塗布しなかった。3種類のゼオライト膜複合体のうち、質量が最も小さいゼオライト膜複合体を、実施例1-1,2-1,3-1、並びに、比較例1-1にて用い、質量が2番目に小さいゼオライト膜複合体を、実施例1-2,2-2,3-2、並びに、比較例1-2にて用い、質量が最も大きいゼオライト膜複合体を、比較例2、実施例2-3,3-3、並びに、比較例1-3にて用いた。
【0107】
まず、検査用ガスを用いた検査により分離膜モジュールにおける気密性を確認した。当該検査の方法は、上述のように国際公開WO2018/180095号(上記文献5)に記載の検査方法と同様である。振動試験前では、全ての分離膜モジュールにおいて、シール部材による気密性が確保されていることが確認された。続いて、分離膜モジュールを大型振動装置上に設置し、振動加速度レベル97、99、100dB、加速度0.71、0.89、1.00m/s2の振動を与えた。その後、分離膜モジュールにおける気密性を再度確認した。表6は、振動試験後における気密性、および、(静止摩擦係数×シール部材圧縮力)/分離膜複合体質量の値を示す。なお、表6では、「第1静止摩擦係数」および「第2静止摩擦係数」の欄において、各潤滑剤種(「なし」を含む。)に対して取得された静止摩擦係数(表1および表2参照)が0.5以下のものに○を記し、0.5よりも大きいものに×を記している。
【0108】
【0109】
表6の「振動試験後の気密性」の欄において、○は気密性が確保されたことを示し、×は気密性が確保されなかったことを示す。また、「(静止摩擦係数×シール部材圧縮力)/分離膜複合体質量」の欄では、静止摩擦係数にシール部材の圧縮力[N]を掛け、さらにゼオライト膜複合体の質量[kg]で割って得た値を示している。「(静止摩擦係数×シール部材圧縮力)/分離膜複合体質量」としては、各潤滑剤種(「なし」を含む。)に対して取得された表1の第1静止摩擦係数および表2の第2静止摩擦係数から(静止摩擦係数×シール部材圧縮力)/分離膜複合体質量の値をそれぞれ求め、2つの値のうち小さい方の値を記載している。比較例2を除く、全ての実施例および比較例の分離膜モジュールでは、振動加速度レベル97dBでの振動試験後においても気密性が確保された。実際の使用環境下では種々の温度、圧力のガスが接するため、本試験での条件とは異なるものの、本試験で与えている衝撃値はこれらの差を考慮して決定されたものであり、本試験で気密性が確保されれば、使用環境下でも位置ずれは起きないと考えられる。このことから、第1および第2静止摩擦係数にシール部材の圧縮力[N]を掛け、さらにゼオライト膜複合体の質量[kg]で割った値が0.7より大きければ、97dB振動試験後においても収容容器内にてゼオライト膜複合体が適切に支持されると考えられる。さらに大きい振動においても気密性を維持するという観点では、(静止摩擦係数×シール部材圧縮力)/分離膜複合体質量の値は0.9以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましい。
【0110】
上記分離膜モジュール21では様々な変形が可能である。
【0111】
分離膜モジュール21の設計によっては、
図1の収容容器22の内面においてシール部材23が配置される環状の凹部が設けられてもよい。この場合、シール部材23は当該凹部内に保持されるため、収容容器22内においてゼオライト膜複合体1を適切に支持しつつ、収容容器22に対するゼオライト膜複合体1の取り付けおよび取り外しを容易に行うには、シール部材23とゼオライト膜複合体1の被支持面14との間における第1静止摩擦係数が、0.5以下であり、第1静止摩擦係数にシール部材の圧縮力[N]を掛け、さらにゼオライト膜複合体1の質量[kg]で割った値が0.7より大きいことが重要となる。
【0112】
同様に、ゼオライト膜複合体1の外面においてシール部材23が配置される環状の凹部が設けられてもよい。この場合、シール部材23は当該凹部内に保持されるため、シール部材23と収容容器22の支持面24との間における第2静止摩擦係数が、0.5以下であり、第2静止摩擦係数にシール部材の圧縮力[N]を掛け、さらにゼオライト膜複合体1の質量[kg]で割った値が0.7より大きいことが重要となる。以上のように、被支持面14および支持面24のうち、シール部材23を収容する凹部が設けられない面と、シール部材23との間における静止摩擦係数が0.5以下であり、当該静止摩擦係数にシール部材23の圧縮力[N]を掛け、さらに分離膜複合体(上記では、ゼオライト膜複合体1)の質量[kg]で割った値が0.7より大きいことが重要である。換言すれば、分離膜モジュール21では、シール部材23とゼオライト膜複合体1の被支持面14との間における第1静止摩擦係数、および/または、シール部材23と収容容器22の支持面24との間における第2静止摩擦係数が、0.5以下であり、第1静止摩擦係数および/または第2静止摩擦係数にシール部材の圧縮力[N]を掛け、さらに分離膜複合体の質量[kg]で割った値が0.7より大きければよい。上記条件を満たすことが可能であるならば、シール部材23に対する潤滑剤の塗布が省略されてもよい。
【0113】
図1の分離膜モジュール21では、支持面24が、収容容器22の容器本体224における内面の一部であるが、例えば、
図6に示すように、収容容器22に固定された略円筒状の支持部229が設けられ、当該支持部229に設けられる環状の外面(内面であってもよい。)が支持面24とされてもよい。また、
図1の例では、被支持面14が、ゼオライト膜複合体1における外面の一部であるが、例えば、
図6のゼオライト膜複合体1のように、管状の支持体11が用いられ、当該支持体11の内面が被支持面14とされてもよい。
図6の例では、当該支持体11の内面は、上記支持部229における環状の外面に対向し、環状のシール部材23が両者の間にて両者に密着することにより、ゼオライト膜複合体1が収容容器22内にて支持される。
【0114】
ゼオライト膜複合体1は、支持体11およびゼオライト膜12に加えて、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜をさらに備えていてもよい。このような機能膜や保護膜は、ゼオライト膜、シリカ膜または炭素膜等の無機膜であってもよく、ポリイミド膜またはシリコーン膜等の有機膜であってもよい。また、ゼオライト膜12上に積層された機能膜や保護膜には、CO2等の特定の分子を吸着しやすい物質が添加されていてもよい。
【0115】
分離膜モジュール21は、上記説明にて例示した物質以外の物質の、混合物質からの分離に利用されてよい。
【0116】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0117】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の分離膜モジュールは、様々な流体の分離に利用可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 ゼオライト膜複合体
11 支持体
12 ゼオライト膜
14 被支持面
21 分離膜モジュール
22 収容容器
23 シール部材
24 支持面
224 容器本体