IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポスコの特許一覧

特許7420963タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法
<>
  • 特許-タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法 図1
  • 特許-タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法 図2
  • 特許-タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法 図3
  • 特許-タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法 図4
  • 特許-タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法 図5
  • 特許-タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法 図6
  • 特許-タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法 図7
  • 特許-タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
B22D11/108 A
B22D11/108 F
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022555841
(86)(22)【出願日】2021-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-08
(86)【国際出願番号】 KR2021001152
(87)【国際公開番号】W WO2021187749
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】10-2020-0033221
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ソン フン
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-246408(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104874755(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10,11/108,11/11,11/111
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造の際にタンディッシュに投入されるタンディッシュフラックスであって、
全体の重量%に対して、酸化カルシウム(CaO)を40重量%~60重量%、酸化アルミニウム(Al)を25重量%~40重量%、酸化ケイ素(SiO)を5重量%~10重量%、酸化ボロン(B)を2重量%~10重量%を含み、残りは不可避な不純物からなり、
前記タンディッシュフラックスは、1400℃における粘度が7poise以下であることを特徴とするタンディッシュフラックス。
【請求項2】
前記タンディッシュフラックスの全体の重量%に対して、前記酸化ボロン(B)が5重量%~10重量%含まれていることを特徴とする請求項1に記載のタンディッシュフラックス。
【請求項3】
前記タンディッシュフラックスは、前記タンディッシュフラックスの全体の重量%に対して、2重量%~10重量%の酸化ナトリウム(NaO)及び2重量%~10重量%のフッ化カルシウム(CaF)のうちの少なくともどちらか一方をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のタンディッシュフラックス。
【請求項4】
前記タンディッシュフラックスは、前記タンディッシュフラックスの全体の重量%に対して、2重量%~6重量%の酸化ナトリウム(NaO)及び2重量%~6重量%のフッ化カルシウム(CaF)のうちの少なくともどちらか一方をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載のタンディッシュフラックス。
【請求項5】
前記タンディッシュフラックスの全体の重量%に対して、前記酸化カルシウム(CaO)が50重量%~60重量%、前記酸化アルミニウム(Al)が25重量%~34重量%、前記酸化ケイ素(SiO)が6重量%~9重量%含まれていることを特徴とする請求項4に記載のタンディッシュフラックス。
【請求項6】
前記タンディッシュフラックスの融点は1310℃以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のタンディッシュフラックス。
【請求項7】
前記タンディッシュフラックスの融点は1280℃以下であることを特徴とする請求項6に記載のタンディッシュフラックス。
【請求項8】
前記タンディッシュフラックスは、1400℃における粘度が2poise以上4poise以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のタンディッシュフラックス。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のタンディッシュフラックスを用意する過程と、
タンディッシュに溶鋼を供給する過程と、
前記タンディッシュ内に前記タンディッシュフラックスを投入して、前記タンディッシュ内の溶鋼の湯面の上にフラックスプールを形成する過程と、
前記タンディッシュの溶鋼を鋳型に供給し、前記鋳型において溶鋼を凝固させて鋳片を鋳造する過程と、
を含むことを特徴とする鋳造方法。
【請求項10】
溶鋼が収容された取鍋を前記タンディッシュに複数回取り替えて接続して、前記タンディッシュに溶鋼を連続して供給する複数のチャージの鋳造を行い、
前記複数のチャージの鋳造のうち、1回目の取鍋の溶鋼をタンディッシュに供給する1回目のチャージの鋳造において、前記タンディッシュに前記タンディッシュフラックスを投入し、
前記複数のチャージの鋳造のうち、最後のチャージの鋳造時に前記タンディッシュ内のフラックスプールの融点が1400℃以下であることを特徴とする請求項に記載の鋳造方法。
【請求項11】
前記タンディッシュに投入された前記タンディッシュフラックスは、8分内にすべて溶融されることを特徴とする請求項10に記載の鋳造方法。
【請求項12】
前記1回目のチャージの鋳造時にタンディッシュ内のフラックスプールの厚さが10mm以上であることを特徴とする請求項10に記載の鋳造方法。
【請求項13】
前記複数のチャージの鋳造のうち、1回目のチャージから最後のチャージの鋳造までの前記鋳型内の溶鋼の酸素の含量が20ppm以下であることを特徴とする請求項10に記載の鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法に係り、さらに詳しくは、鋳片の品質及び生産性を向上させることのできるタンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造工程は、タンディッシュ内の溶鋼を鋳型に注入し、鋳型内において半凝固された鋳片を引き抜いてスラブ、ブルーム、ビレット、ビームブランクなどの様々な形状の鋳片を製造する工程である。
【0003】
このような鋳造工程に際して、タンディッシュ内の溶鋼の介在物の除去、溶鋼の再酸化による介在物の発生及び溶鋼の温度の低下を抑えるために、タンディッシュ内の溶鋼の湯面をフラックスでカバーする。
【0004】
フラックスは、固相またはパウダーの状態に用意され、鋳造の初期に所定の量の溶鋼が収容されているタンディッシュに前記フラックスを投入する。タンディッシュにフラックスが投入されれば、これは、溶鋼の熱により溶融される。このため、溶鋼の湯面の上に溶融されたフラックス、すなわち、フラックスプールが所定の厚さに形成される。すなわち、溶鋼の湯面がフラックスプールによりカバーされる。溶鋼の湯面にフラックスプールが形成されれば、溶鋼中の介在物がフラックスプールに溶解されて吸収され、このため、溶鋼中の介在物が除去される。なお、フラックスプールが大気と溶鋼との間の接触を遮断するため、溶鋼の再酸化及び温度の低下を抑える。
【0005】
一方、タンディッシュに供給された固相のフラックスは、所定の時間が経過して始めて溶融される。ところが、鋳造の初期には投入されたフラックスが溶融される時間が足りないため、フラックスプールの生成量が足りず、その厚さが薄い。このため、鋳造の初期に形成されたフラックスプールは介在物への溶解度が低く、大気との遮断効果が弱い。これにより、溶鋼中の介在物の除去率が低く、溶鋼の再酸化による介在物が多量生じてしまうことにより、鋳片の表面または内部に溶鋼中の介在物による欠陥が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国登録特許第1233836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、介在物の溶解度が向上したタンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法を提供することである。
【0008】
また、本発明が目的とするところは、溶鋼の再酸化及びこれによる介在物の発生を抑制もしくは防止することのできるタンディッシュフラックス及びこれを用いた鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、鋳造の際にタンディッシュに投入されるタンディッシュフラックスであって、全体の重量%に対して、酸化カルシウム(CaO)を40重量%~60重量%、酸化アルミニウム(Al)を25重量%~40重量%、酸化ケイ素(SiO)を5重量%~10重量%、酸化ボロン(B)を2重量%~10重量%を含み、残りは不可避な不純物からなる。
【0010】
前記タンディッシュフラックスの全体の重量%に対して、前記酸化ボロン(B)が5重量%~10重量%含まれてもよい。
【0011】
前記タンディッシュフラックスは、2重量%~10重量%の酸化ナトリウム(NaO)及び2重量%~10重量%のフッ化カルシウム(CaF)のうちの少なくともどちらか一方をさらに含んでいてもよい。
【0012】
前記タンディッシュフラックスは、2重量%~6重量%の酸化ナトリウム(NaO)及び2重量%~6重量%のフッ化カルシウム(CaF)のうちの少なくともどちらか一方をさらに含んでいてもよい。
【0013】
前記タンディッシュフラックスの全体の重量%に対して、前記酸化カルシウム(CaO)が50重量%~60重量%、前記酸化アルミニウム(Al)が25重量%~34重量%、前記酸化ケイ素(SiO)が6重量%~9重量%含まれてもよい。
【0014】
前記タンディッシュフラックスの融点は1310℃以下である。
【0015】
前記タンディッシュフラックスの融点は、1280℃以下であってもよい。
【0016】
前記タンディッシュフラックスは、1400℃における粘度が7poise以下である。
【0017】
前記タンディッシュフラックスは、1400℃における粘度が2poise以上4poise以下であってもよい。
【0018】
本発明の鋳造方法は、タンディッシュフラックスを用意する過程と、タンディッシュに溶鋼を供給する過程と、前記タンディッシュ内に前記タンディッシュフラックスを投入して、前記タンディッシュ内の溶鋼の湯面の上にフラックスプールを形成する過程と、前記タンディッシュの溶鋼を鋳型に供給し、前記鋳型において溶鋼を凝固させて鋳片を鋳造する過程と、を含む。
【0019】
溶鋼が収容された取鍋を前記タンディッシュに複数回取り替えて接続して、前記タンディッシュに溶鋼を連続して供給する複数のチャージの鋳造を行い、前記複数のチャージの鋳造のうち、1回目の取鍋の溶鋼をタンディッシュに供給する1回目のチャージの鋳造において、前記タンディッシュに前記タンディッシュフラックスを投入し、前記複数のチャージの鋳造のうち、最後のチャージの鋳造時に前記タンディッシュ内のフラックスプールの融点が1400℃以下である。
【0020】
前記タンディッシュに投入された前記タンディッシュフラックスは、8分内にすべて溶融される。
【0021】
前記1回目のチャージの鋳造時にタンディッシュ内のフラックスプールの厚さが10mm以上である。
【0022】
前記複数のチャージの鋳造のうち、1回目のチャージから最後のチャージの鋳造までの前記鋳型内の溶鋼の酸素の含量が20ppm以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、介在物の溶解度または介在物の除去効率が従来に比べて高い。これにより、従来に比べて介在物による欠陥の発生が抑制もしくは防止された鋳片を製造することができ、鋳片の品質を向上させることができる。
【0024】
また、実施形態に係るフラックスの融点が従来に比べて低いので、溶融速度が速い。このため、実施形態に係るフラックスを用いる場合、従来に比べて短い時間内に多い量のフラックスを溶融することができる。これにより、鋳造の初期に十分な量及び厚さのフラックスプールが形成されることにより、鋳造の初期の再酸化及び温度の低下をより有効に防ぐことができる。
【0025】
そして、フラックスの融点が低いので、たとえ複数のチャージの鋳造を連続して行うとしても、フラックスの固化を抑制もしくは防止することができる。したがって、連続鋳造の初期から末期まで介在物による欠陥の発生が抑制もしくは防止された鋳片を製造することができ、鋳片の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】通常の鋳造設備を示す図である。
図2】第1乃至第5の実験例によるフラックスを用いた実験時における試片の浸食速度を示すグラフである。
図3】実験装置を示す図である。
図4】第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスをタンディッシュに投入したとき、時間の経過に伴うフラックスの溶融状態を撮った写真である。
図5】第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて七回のチャージを連続して行う鋳造を行うとき、各チャージごとに鋳型内の溶鋼中の酸素の含量(ppm)を測定した結果である。
図6】第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて六回のチャージ(charge)の鋳造を連続して行うとき、タンディッシュ内のフラックスの状態をチャージの順番に従って撮影して示す写真である。
図7】第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて六回のチャージ(charge)の鋳造を連続して行うとき、2回目、4回目、6回目のチャージ時にタンディッシュ内のフラックスの融点を測定した結果である。
図8】第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて六回のチャージの鋳造を連続して行うとき、各チャージごとに鋳型内の溶鋼内の酸素の含量(ppm)を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態をより詳しく説明する。しかしながら、本発明は以下に開示される実施形態に何ら限定されるものではなく、異なる様々な形態に具体化され、単にこれらの実施形態は本発明の開示を完全たるものにし、通常の知識を有する者に発明の範囲を完全に知らせるために提供されるものである。本発明の実施形態を説明するために図面は誇張されていてもよく、図中、同じ符号は、同じ構成要素を指し示す。
【0028】
本発明は、介在物の溶解度または介在物の除去効率が向上したタンディッシュフラックスに関するものである。なお、本発明は、溶鋼の再酸化及び温度の低下を抑制もしくは防止することのできるタンディッシュフラックスに関するものである。ここで、介在物の溶解度とは、フラックスに介在物が溶解される度合いのことを意味する。
【0029】
本発明の実施形態に係るタンディッシュフラックスについて説明するに当たって、まず、タンディッシュフラックスが適用される通常の鋳造方法について説明する。
【0030】
図1は、通常の鋳造設備を示す図である。
【0031】
鋳造工程は、タンディッシュ100内に受鋼されている溶鋼Mが浸漬ノズル400を介して鋳型300に流れ込むと、冷却されている鋳型300内において溶鋼Mが凝固され始めて中間製品である半凝固状態の鋳片が得られる工程である。鋳型300から引き抜かれた半凝固鋳片は、前記鋳型300の下側において一方向に並べて配置された複数のセグメント(図示せず)に沿って移動しながら成形及びさらなる冷却が行われて完全に凝固された鋳片となる。
【0032】
タンディッシュ100は、取鍋200から溶鋼を提供されて、これを鋳型300に供給する。このために、取鍋200をタンディッシュ100の上側に移動させ、前記取鍋200の下部に接続されたノズル(以下、取鍋ノズル220)、例えば、シュラウドノズル(Shroud nozzle)の下部がタンディッシュ100の内部に位置するようにする。このため、取鍋200内の溶鋼は、取鍋ノズル220を介してタンディッシュ100に供給された後、浸漬ノズル400を介して鋳型300に供給される。
【0033】
タンディッシュ100は、内部空間を有する本体110及び本体110の上側を覆うカバー部材140を備える。カバー部材140には、取鍋ノズル220が嵌入する孔及びサンプリングのための孔が設けられてもよい。
【0034】
また、タンディッシュ100は、取鍋ノズル220が嵌入する位置の外側に位置するように本体110内の上部に配設された上堰(weir)120及び上堰120の外側に位置するように本体110内の底面に配設された下堰(weir)130をさらに備えていてもよい。
【0035】
例えば、タンディッシュ100の下側に2つの鋳型(以下、第1及び第2の鋳型300:300a、300b)が配置される場合、取鍋200がタンディッシュ100の上側に位置するとき、取鍋ノズル220が第1の鋳型300aと第2の鋳型300bとの間に位置するように配置される。そして、上堰は一対にて設けられ、一対の上堰(以下、第1及び第2の上堰120:120a、120b)は取鍋ノズル220を中心として両側にそれぞれ位置するように本体110内の上部に接続されてもよい。このとき、第1及び第2の上堰120a、120bの下端は、本体110内の底面から離れるように配設される。
【0036】
また、下堰130もまた一対にて設けられてもよく、一対の下堰(以下、第1及び第2の下堰130:130a、130b)はタンディッシュ100と鋳型とをつなぐ浸漬ノズルと上堰との間に位置するように配設されてもよい。すなわち、タンディッシュ100と第1の鋳型300aとをつなぐ第1の浸漬ノズル400aと第1の上堰120aとの間に第1の下堰130aが位置し、タンディッシュ100と第2の鋳型300bとをつなぐ第2の浸漬ノズル400bと第2の上堰120bとの間に第2の下堰130bが位置する。
【0037】
そして、上堰120の上下の延長長さは、下堰130の延長長さに比べて長く形成されてもよい。なお、上堰120の下端が下堰130の上端に比べて低く位置するように設けられる。
【0038】
タンディッシュ100または本体110の内部空間は、第1の上堰120aと第2の上堰120bとの間の空間である中央領域111a、中央領域111aの一側の外側に位置している空間である第1の外側領域111b及び中央領域111aの他側の外側に位置している空間である第2の外側領域111cに仕切られてもよい。ここで、第1の外側領域111bは、本体110内の一方の側壁と第1の上堰120aとの間の空間であり、第2の外側領域111cは、本体110内の他方の側壁と第2の上堰120bとの間の空間であると説明され得る。このようなタンディッシュ100によれば、取鍋ノズル220を通過してタンディッシュ100内の中央領域111aに供給された溶鋼Mの一部は、第1の上堰120aと第1の下堰130aとの間の通路を介して第1の外側領域111bに移動し、第2の上堰120bと第2の下堰130bとの間の通路を介して第1の外側領域111bに移動する。なお、第1及び第2の外側領域111b、111cに移動した溶鋼は、第1及び第2の浸漬ノズル400a、400bを介して第1及び第2の鋳型300a、300bに供給される。
【0039】
タンディッシュ100は、上述したように、取鍋200から溶鋼Mを提供されるが、以下、取鍋200の溶鋼Mがタンディッシュ100に供給される過程について簡略に説明する。取鍋200の底面には、溶鋼Mの排出される通路である排出口210が設けられており、排出口210内には、酸化クロム及び酸化ケイ素などの金属酸化物を含むフィラー(filler)が充填されている。フィラーは、取鍋200内に収容された溶鋼Mの熱により焼結され、これにより、排出口210が焼結されたフィラーにより閉止されている。この状態で、取鍋ノズル220に設けられているゲート221をオープン(open)すると、排出口210内において焼結されていたフィラー(filler)が溶鋼Mの荷重により破壊される。このため、排出口210が自然開孔(開放)されることにより、取鍋200内の溶鋼Mが排出口210及び取鍋ノズル220を通過してタンディッシュ100に供給される。
【0040】
一方、鋳片を鋳造するに当たって、タンディッシュ100に溶鋼Mを連続して供給して鋳片を鋳造する連続鋳造を行ってもよい。すなわち、タンディッシュ100内の溶鋼Mが鋳型300に完全に排出される前に、またはタンディッシュ100内に溶鋼が空になる前に前記タンディッシュ100に溶鋼を供給する。このために、溶鋼Mが収容されている取鍋200をタンディッシュ100に複数回接続する。すなわち、タンディッシュ100内の溶鋼Mがすべて排出される前に、タンディッシュ100の上側に位置している空いた取鍋200を溶鋼Mが収容されている他の取鍋200に取り替えて接続し、これを複数回行う。一般に、一つの取鍋200に収容された溶鋼を用いて鋳片を鋳造することを1チャージ(charge)と称する。そして、1番目(最初)の取鍋、2番目の取鍋、3番目の取鍋、…の順に取鍋を取り替えながら鋳片を鋳造するが、取鍋の順番または取り替えられる順番に応じて、その鋳造を1回目のチャージ、2回目のチャージ、3回目のチャージ、…と命名する。
【0041】
一方、取鍋200に受鋼されてタンディッシュ100に移動する溶鋼Mは、その前に不純物を除去する精練操業を終えた溶鋼である。不純物を除去する精練操業は、溶鋼中の硫黄(S)を除去する予備脱黄過程、転炉内の溶鋼に酸素を吹き込んで溶鋼中のリン(P)及び炭素(C)を除去する転炉精練過程及び溶鋼中の酸素(O)を除去する脱酸過程を含む。
【0042】
溶鋼中の酸素(O)を除去する脱酸を行うに当たって、溶鋼に脱酸剤、例えば、アルミニウム(Al)を投入する。ところが、脱酸操業に際して溶鋼中の金属酸化物、例えば、酸化アルミニウム(Al)などの介在物が生成され、この介在物は、鋳片の表面または内部欠陥の要因となる。このため、溶鋼中の介在物の除去のために真空脱ガス設備、例えば、RH(Rheinstahl-Heraus)を用いてバブリング(bubbling)を行っているが、この段階において、溶鋼中の介在物を狙いの所定の含量以下に下げるのに限界がある。
【0043】
このため、鋳造工程においてさらに介在物を除去しており、このために、タンディッシュ100の上部に介在物が溶解されて吸収可能なタンディッシュフラックス(以下、フラックスF)を投入する。このとき、タンディッシュ内に詰め込もうとする溶鋼目標量の40%~45%の溶鋼が詰め込まれた時点で、タンディッシュ100にフラックスFを投入する。
【0044】
また、複数のチャージの鋳造を連続して行う連続鋳造に際して、最初のチャージ、すなわち、1回目のチャージにおいてタンディッシュ100にフラックスFを投入した後、最後のチャージまでさらにフラックスを投入しない。すなわち、1回目のチャージにおいてタンディッシュに投入されたフラックスを用いて、複数のチャージの連続鋳造を行う。
【0045】
フラックスFは、固相またはパウダーの状態に用意され、タンディッシュ100内の溶鋼MにフラックスFが投入されれば、フラックスFが溶鋼の熱により溶融される。このため、溶鋼Mの湯面の上に所定の厚さの溶融されたフラックス層または液状のフラックス層が形成される。ここで、溶融されたフラックス層または液状のフラックス層は、フラックスプール(pool)FPと命名可能である。このように、フラックスFが溶融されて液状のフラックスプールFPが用意されれば、溶鋼M中の介在物が前記フラックスプールFPに溶解されて吸収され、これにより、溶鋼から介在物が除去される。すなわち、固相のフラックスFが溶融されて液状のフラックスプールFPが形成されてはじめて、溶鋼M中の介在物が前記フラックスプールFPに溶解されて除去されることが可能になる。
【0046】
フラックスプールFPの介在物の吸収能は、前記フラックスプールFPの介在物の溶解度が増加することにつれて向上する。ここで、フラックスプールFPの介在物の溶解度とは、フラックスプールFPが介在物を溶解させ得る度合いのことを意味する。
【0047】
フラックスプールFPが十分な介在物の溶解度を有するためには、フラックスプールFPの粘度を低く確保する必要がある。すなわち、フラックスプールFPの粘度が十分に低いとき、フラックスプールFPの介在物の溶解度が向上する。
【0048】
上述したように、タンディッシュ100に投入されるフラックスFは、固相またはパウダーの状態であって、タンディッシュ100内の溶鋼Mに投入されたフラックスFが溶融されてこそ、介在物の溶解または吸収が可能である。このため、投入された固相のフラックスFが早く溶融されればされるほど、またはフラックスプールFPが早く形成されればされるほど、介在物の除去に有利である。
【0049】
ところが、固相フラックスFの融点が高ければ、タンディッシュ100にフラックスFが投入されたときに、溶融されるまで長時間がかかってしまう。このため、フラックスFが投入された直後、または鋳造の初期にはフラックスの溶融またはフラックスプールが足りない状態で鋳造が行われることにより、溶鋼中の介在物を十分に除去することができないため、これによる欠陥が生じる虞がある。したがって、フラックスの早い溶融のために、融点の低いフラックスを用意する必要がある。
【0050】
また、タンディッシュ100は、カバー部材140によりカバーされているが、大気との接触を完璧に遮断することはできない。このため、タンディッシュ100内の溶鋼Mは、大気との接触により酸化(以下、再酸化)される虞があり、これにより、溶鋼中に大量の介在物が生じる虞がある。すなわち、大気中の酸素と溶鋼中の酸化成分、例えば、アルミニウム(Al)とが反応して酸化アルミニウム(Al)などの介在物が多量生じてしまう虞がある。このような介在物は、鋳片の表面及び内部欠陥などを生じさせる要因となる。そして、タンディッシュ100には別途の熱源が配設されないため、タンディッシュ100内に収容された溶鋼は次第にその温度が低下してしまい、このため、タンディッシュ100内において溶鋼が凝固されてしまう虞がある。なお、溶鋼の温度の低下及び凝固により鋳型300に溶鋼を供給する浸漬ノズル400が閉塞されてしまう虞があり、このような場合、操業を中断せざるを得ない。
【0051】
このため、タンディッシュ100内の溶鋼の再酸化及び温度の低下を抑制もしくは防止することを目指して、タンディッシュ100にフラックスFを投入する。すなわち、タンディッシュ100内の溶鋼Mの湯面をフラックスプールFPがカバーすることにより、溶鋼Mと大気との間の接触及び溶鋼の温度の低下を抑制もしくは防止することができる。
【0052】
ところが、固相フラックスの融点が高ければ、タンディッシュにフラックスが投入されたとき、溶融されるまで長時間がかかってしまう。このため、フラックスが投入された鋳造の初期にフラックスの溶融が足りなくなり、このため、溶鋼の湯面における一部の領域にフラックスプールが形成されなくなる虞がある。このため、溶鋼の湯面の一部が大気に晒されてしまうことが懸念される。また、フラックスが十分に溶融されてフラックスプールの厚さが10mm以上になってはじめて、大気と溶鋼との間の直接的な接触を抑えることができる。ところが、フラックスが投入された鋳造の初期には、フラックスの溶融が足りないため、フラックスの厚さが10mm以上にならない。このため、鋳造の初期にフラックスプールによる溶鋼の再酸化の抑制効果が低い。したがって、溶鋼の再酸化及び温度の低下の抑制のために融点の低いフラックスを用意する必要がある。
【0053】
また、溶融されたフラックス、すなわち、フラックスプールFPの粘度が高ければ、溶鋼Mの湯面の上においてフラックスが広くまたは均一に行き渡らない。別の言い方で説明すれば、溶鋼Mの湯面にフラックスプールFPが均一に形成されず、一部の領域に形成されないため、溶鋼Mの湯面の一部が晒されてしまう虞がある。このような場合、晒された湯面を介して溶鋼の再酸化が起こる。したがって、溶鋼の再酸化の防止のためにフラックスプールの粘度を低く確保する必要がある。
【0054】
以下では、本発明の実施形態に係るフラックスの成分について詳しく説明する。
【0055】
本発明の実施形態に係るフラックスFは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)及び酸化ケイ素(SiO)を含み、これらの他に、不可避な不純物が含まれてもよい。なお、フラックスは、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)のうちの少なくともどちらか一方をさらに含んでいてもよい。
【0056】
ここで、酸化ケイ素(SiO)は、フラックスFの製造のために人為的に添加される成分ではない。フラックスFの製造のために混合される酸化アルミニウム(Al)を含む原料及び酸化カルシウム(CaO)を含む原料のそれぞれに酸化ケイ素(SiO)が含まれているため、フラックス内に酸化ケイ素(SiO)が含まれることになる。
【0057】
上述したように、フラックスは、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)のうちの少なくともどちらか一方をさらに含んでいてもよいが、以下では、説明のしやすさのために、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)のそれぞれを含むか否かに応じて、互いに異なるフラックスに分けて説明する。
【0058】
すなわち、酸化ボロン(B)を含み、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)を含まないフラックスを第1の実施形態に係るフラックス、酸化ボロン(B)及び酸化ナトリウム(NaO)を含み、フッ化カルシウム(CaF)を含まないフラックスを第2の実施形態に係るフラックス、酸化ボロン(B)及びフッ化カルシウム(CaF)を含み、酸化ナトリウム(NaO)を含まないフラックスを第3の実施形態に係るフラックス、酸化ボロン(B)、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)をいずれも含むフラックスを第4の実施形態に係るフラックスと命名する。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に基づいて再び説明すると、第1の実施形態に係るフラックスは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)及び酸化ケイ素(SiO)を含み、第2の実施形態に係るフラックスは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)、酸化ケイ素(SiO)及び酸化ナトリウム(NaO)を含む。また、第3の実施形態に係るフラックスは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)、酸化ケイ素(SiO)及びフッ化カルシウム(CaF)を含み、第4の実施形態に係るフラックスは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)、酸化ケイ素(SiO)、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)を含む。これらの実施形態に係るフラックスは、融点が1310℃以下、より具体的には、1250℃以上1310℃以下と低い。なお、フラックスを投入してから8分以内、より具体的には、6分~7.5分内に完全に溶融される。
【0061】
また、フラックスの融点は、1250℃以上1280℃以下であってもよい。そして、1400℃における粘度が7poise以下、より具体的には、2poise以上7poise以下と低い。さらに、フラックスの粘度は、2poise以上4poise以下であってもよい。なお、このようなフラックスプールの介在物の溶解度または除去効率が従来に比べて高い。
【0062】
以下、第1の実施形態に係るフラックスについて詳しく説明する。成分の含量について説明するに当たって、「下限値~上限値」の形で説明されるが、これらは、「下限値以上、上限値以下」のことを意味する。
【0063】
第1の実施形態に係るフラックスFは、フラックスFの全体の重量%に対して、40重量%~60重量%の酸化カルシウム(CaO)、25重量%~40重量%の酸化アルミニウム(Al)、2重量%~10重量%の酸化ボロン(B)及び5重量%~10重量%の酸化ケイ素(SiO)を含む。フラックスFは、より好ましくは、フラックスFの全体の重量%に対して、酸化カルシウム(CaO)が50重量%~60重量%、酸化アルミニウム(Al)が25重量%~34重量%、酸化ボロン(B)が5重量%~10重量%、酸化ケイ素(SiO)が6重量%~9重量%含まれてもよい。
【0064】
酸化カルシウム(CaO)及び酸化アルミニウム(Al)は、タンディッシュフラックスを構成するベース物質であって、フラックスFの全体の重量%に対して酸化カルシウム(CaO)は40重量%~60重量%含まれ、酸化アルミニウム(Al)は25重量%~40重量%含まれる。より好ましくは、酸化カルシウム(CaO)は50重量%~60重量%含まれ、酸化アルミニウム(Al)は25重量%~34重量%含まれてもよい。
【0065】
一方、酸化カルシウム(CaO)が40重量%~60重量%を外れるか、あるいは、酸化アルミニウム(Al)が25重量%~40重量%の範囲を外れる場合、フラックスFの融点及びフラックスプールFPの粘度が高いという不都合がある。このため、タンディッシュ100に投入されたフラックスFの溶融速度が遅く、介在物の溶解度が低い他、溶鋼の湯面の全体にフラックスプールFPが均一に行き渡らないため、湯面が晒されてしまうという不都合が生じる虞がある。
【0066】
酸化ケイ素(SiO)は、フラックス内に5重量%~10重量%にて含有されるが、これは、フラックスの製造のための酸化アルミニウム(Al)を含む原料及び酸化カルシウム(CaO)を含む原料のそれぞれに酸化ケイ素(SiO)が含まれているためである。すなわち、40重量%~60重量%の酸化カルシウム(CaO)、25重量%~40重量%の酸化アルミニウム(Al)を含むフラックスの製造のために酸化アルミニウム(Al)を含む原料及び酸化カルシウム(CaO)を含む原料を混合すれば、前記フラックスF内に5重量%~10重量%の酸化ケイ素(SiO)が含まれることが可能になる。他の例を挙げると、50重量%~60重量%の酸化カルシウム(CaO)、25重量%~34重量%の酸化アルミニウム(Al)を含むフラックスの製造のために酸化アルミニウム(Al)を含む原料及び酸化カルシウム(CaO)を含む原料を混合すれば、前記フラックスF内に6重量%~9重量%の酸化ケイ素(SiO)が含まれることが可能になる。
【0067】
酸化ボロン(B)は、フラックスFの全体の重量%に対して2重量%~10重量%にて含まれる。より好ましくは、酸化ボロン(B)が5重量%~10重量%にて含まれてもよい。酸化ボロン(B)は、主として融点を低下させる機能をする。ところが、酸化ボロン(B)が2重量%未満である場合、融点を低下させる効果があまり得られない。これにより、フラックスの融点が高いため、タンディッシュ100に投入されたフラックスFの溶融速度が遅いという不都合がある。
【0068】
一方、酸化ボロン(B)の含量が増加すればするほど、フラックスの融点が下がる傾向にある。そして、融点が低ければ低いほど、フラックスが早く溶融されるので、鋳造の初期の介在物の除去、溶鋼の再酸化及び温度の低下を防ぐのに有利である。なお、一般に、タンディッシュに投入されるフラックスは、製造される鋼種によらずに同一の成分組成のフラックスを用いる。ところが、ほとんどの鋼種は、溶鋼中のボロン(B)の含量を特に制限しないが、肉厚の厚い厚板などの鋼種を製造する場合、ボロン(B)の含量を所定の含量以下に制限する。
【0069】
このため、酸化ボロン(B)が多量含有されているフラックスは、厚板のようにボロン(B)の含量の制限が必要な鋼種の製造に際して用いることができない。これは、フラックス内のボロン(B)が溶鋼にピックアップされて溶鋼中のボロン(B)の含量を増加させるためである。なお、ボロン(B)の含量の制限が必要な鋼種の製造のためにフラックスを別途に用意する場合、それに伴うコストが追加される。
【0070】
したがって、ボロン(B)の含量が制限されない鋼種とボロン(B)の含量が制限される鋼種を問わずに、汎用的に使用可能なフラックスを用意する必要がある。このため、実施形態においては、酸化ボロン(B)がフラックスの全体の重量%に対して10重量%以下にて含まれるように用意する。一方、酸化ボロン(B)が10重量%を超える場合、これは、ボロン(B)の含量の制御が必要な鋼種、例えば、厚板の製造に使用できなくなる虞がある。
【0071】
このようなフラックスFは、パウダーまたは顆粒の状態に用意されるが、その粒径が10mm以下になるように用意される。好ましくは、0.1mm~10mm、より好ましくは、0.1mm~7mmの粒径を有するように用意される。
【0072】
一方、フラックスFを構成する粒子の粒径が10mmを超える場合、フラックスの溶融速度が遅いため、十分な溶融速度を確保することができなくなる虞がある。なお、粒径が小さければ小さいほど、溶融速度が増加するが、粒径が過剰に小さ過ぎる場合、フラックスFをタンディッシュ100に投入したり、製造されたフラックスFを搬送したりするとき、粉塵が多量生じて操業に難点が生じる虞がある。したがって、0.1mm~10mmの粒径を有するようにフラックスを用意することが好ましい。
【0073】
上述したフラックスFは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)及び酸化ケイ素(SiO)を含む。しかしながら、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、フラックスFは、酸化ナトリウム(NaO)をさらに含んでいてもよい。
【0074】
すなわち、第2の実施形態に係るフラックスは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)及び酸化ケイ素(SiO)を含み、酸化ナトリウム(NaO)をさらに含む。より具体的に、フラックスFは、フラックスの全体の重量%に対して、40重量%~60重量%の酸化カルシウム(CaO)、25重量%~40重量%の酸化アルミニウム(Al)、2重量%~10重量%の酸化ボロン(B)、5重量%~10重量%の酸化ケイ素(SiO)及び2重量%~10重量%の酸化ナトリウム(NaO)を含む。より好ましくは、フラックスは、酸化カルシウム(CaO)が50重量%~60重量%、酸化アルミニウム(Al)が25重量%~34重量%、酸化ボロン(B)が5重量%~10重量%、酸化ケイ素(SiO)が6重量%~9重量%、酸化ナトリウム(NaO)が2重量%~6重量%含まれてもよい。
【0075】
酸化ナトリウム(NaO)は、融点及び粘度を下げる効果がある物質であって、フラックスの全体の重量%に対して2重量%~10重量%、より好ましくは、2重量%~6重量%含まれる。ところが、酸化ナトリウム(NaO)が2重量%未満である場合、酸化ナトリウム(NaO)の添加により融点及び粘度を低下させる効果があまり得られない虞がある。
【0076】
一方、酸化ナトリウム(NaO)は、フラックス中の酸化アルミニウム(Al)と反応してNaO-Alの形態の高融点結晶相を生成することができる。そして、高融点結晶相が生成されるか、あるいは、その生成量が多ければ多いほど、フラックスFの融点が上がる。また、フラックスF内の高融点結晶相の含量が多ければ多いほど、フラックスプールFPの粘度が高い。したがって、酸化ナトリウム(NaO)による高融点結晶相の生成を抑えるために、酸化ナトリウム(NaO)の含量を10重量%以下に調節する。
【0077】
一方、酸化ナトリウム(NaO)が10重量%を超える場合、酸化ナトリウム(NaO)と酸化アルミニウム(Al)との間の反応量が多いため、多量の高融点結晶相が生成される虞がある。そして、これにより、フラックスの融点が上がり、粘度が増加する虞がある。
【0078】
上述した第2の実施形態に係るフラックスFは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)、酸化ケイ素(SiO)及び酸化ナトリウム(NaO)を含む。しかしながら、本発明はこれに何ら限定されず、フラックスFは酸化ナトリウム(NaO)を含まず、フッ化カルシウム(CaF)をさらに含む。
【0079】
すなわち、第3の実施形態に係るフラックスFは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)及び酸化ケイ素(SiO)を含み、フッ化カルシウム(CaF)をさらに含んでいてもよい。より具体的に、フラックスFは、フラックスの全体の重量%に対して、40重量%~60重量%の酸化カルシウム(CaO)、25重量%~40重量%の酸化アルミニウム(Al)、2重量%~10重量%の酸化ボロン(B)、5重量%~10重量%の酸化ケイ素(SiO)及び2重量%~10重量%のフッ化カルシウム(CaF)を含む。より好ましくは、フラックスは、酸化カルシウム(CaO)が50重量%~60重量%、酸化アルミニウム(Al)が25重量%~34重量%、酸化ボロン(B)が5重量%~10重量%、酸化ケイ素(SiO)が6重量%~9重量%、フッ化カルシウム(CaF)が2重量%~6重量%含まれてもよい。
【0080】
フッ化カルシウム(CaF)は、融点及び粘度を下げる効果がある物質であって、フラックスの全体の重量%に対して2重量%~10重量%、より好ましくは、2重量%~6重量%含まれる。ところが、フッ化カルシウム(CaF)が2重量%未満である場合、フッ化カルシウム(CaF)の添加により融点及び粘度を低下させる効果があまり得られない虞がある。
【0081】
一方、フッ化カルシウム(CaF)は、酸化アルミニウム(Al)と反応してCaO-Alの形態の高融点結晶相を生成する虞があり、この高融点結晶相は、フラックスの融点及びフラックスプールの粘度を増加させる要因となる。したがって、フッ化カルシウム(CaF)による高融点結晶相の生成を抑えるために、フッ化カルシウム(CaF)の含量を10重量%以下に調節する。
【0082】
しかしながら、フッ化カルシウム(CaF)が10重量%を超える場合、フッ化カルシウム(CaF)と酸化アルミニウム(Al)との間の反応量が多いため、多量の高融点結晶相が生成する虞がある。そして、これにより、フラックスの融点が上がり、粘度が増加する虞がある。
【0083】
上述した第2及び第3の実施形態に係るフラックスFには、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)のうちのどちらか一方が含まれる。しかしながら、本発明はこれに何ら限定されるものではなく、フラックスFは、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)を両方とも含んでいてもよい。
【0084】
すなわち、第4の実施形態に係るフラックスFは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ボロン(B)及び酸化ケイ素(SiO)を含み、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)をさらに含む。より具体的に、フラックスFは、フラックスの全体の重量%に対して、40重量%~60重量%の酸化カルシウム(CaO)、25重量%~40重量%の酸化アルミニウム(Al)、2重量%~10重量%の酸化ボロン(B)、5重量%~10重量%の酸化ケイ素(SiO)、2重量%~10重量%の酸化ナトリウム(NaO)及び2重量%~10重量%のフッ化カルシウム(CaF)を含む。より好ましくは、フラックスは、酸化カルシウム(CaO)が50重量%~60重量%、酸化アルミニウム(Al)が25重量%~34重量%、酸化ボロン(B)が5重量%~10重量%、酸化ケイ素(SiO)が6重量%~9重量%、酸化ナトリウム(NaO)が2重量%~6重量%、フッ化カルシウム(CaF)が2重量%~6重量%含まれてもよい。
【0085】
上述したような第1乃至第4の実施形態に係るフラックスは、融点が1310℃以下と低く、1400℃における粘度が7poise以下と低い。なお、従来のフラックスに比べて介在物の溶解度が高いため、介在物の吸収率または除去率が高い。
【0086】
表1は、第1乃至第5の実験例によるフラックスの成分組成、融点、粘度及び浸食率を示す表である。図2は、第1乃至第5の実験例によるフラックスを用いた実験時における試片の浸食速度を示すグラフである。図3は、実験装置を示す図である。
【0087】
第1の実験例は、従来のフラックスであって、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化ケイ素(SiO)を含み、酸化ボロン(B)、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)を含まない。そして、第2乃至第5の実験例によるフラックスは、酸化カルシウム(CaO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ケイ素(SiO)及び酸化ボロン(B)を含む。なお、第3乃至第5の実験例によるフラックスは、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)のうちの少なくともどちらか一方をさらに含む。
【0088】
第1乃至第5の実験例は、いずれも酸化カルシウム(CaO)が40重量%~60重量%、酸化アルミニウム(Al)が25重量%~40重量%、酸化ケイ素(SiO)が5重量%~10重量%にて含まれている。そして、第2乃至第5の実験例は、いずれも酸化ボロン(B)が2重量%~10重量%にて含まれている。また、第3及び第5の実験例は、酸化ナトリウム(NaO)が2重量%~10重量%にて含まれ、第4及び第5の実験例は、フッ化カルシウム(CaF)が2重量%~10重量%にて含まれている。
【0089】
このため、第2の実験例は第1の実施形態に係るフラックス、第3の実験例は第2の実施形態に係るフラックス、第4の実験例は第3の実施形態に係るフラックス、第5の実験例は第4の実施形態に係るフラックスであると説明され得る。
【0090】
【表2】
【0091】
粘度は、第1乃至第5の実験例によるフラックスのそれぞれを1400℃の温度に加熱し、1400℃の温度において粘度測定器により測定したものである。なお、浸食率は、図3に示された実験装置を用いて実験して得た結果である。まず、図3に基づいて、実験装置について説明する。
【0092】
図3を参照すると、実験装置10は、内部空間を有するチューブ11と、チューブ11の内部に配設され、フラックスFが収容可能なルツボ12と、ルツボ12を加熱するヒーター13と、試片Sの下部がルツボ12の内部に嵌入できるように前記試片Sを支持し、回転可能な回転体14と、ルツボ12の温度を測定可能な測温器15と、を備える。
【0093】
チューブ11は、クォーツ(quartz)を含む材料から作製されてもよい。ヒーター13は、チューブ11の外側において前記チューブ11の外周面を取り囲むように配設されてもよい。ここで、ヒーター13は、抵抗加熱方式によりヒーティングされる発熱線を備える手段であってもよい。測温器15は、ルツボの下部に位置するように少なくとも一部がチューブ11の内部に位置するように配設されてもよい。このような測温器15は、例えば、熱電対(thermo couple)であってもよい。
【0094】
試片Sは、溶鋼中の介在物と同じ成分から作製され、本実験のために用いられた試片Sは、酸化アルミニウム(Al)からなる。
【0095】
実験のために、ルツボ12内にフラックスFを装入し、ヒーターを動作させてフラックスを溶融させる。このため、ルツボ内にフラックスプールFPが用意される。フラックスプールFPが形成されれば、回転体14を下降させて試片Sの下部をフラックスプールFPに沈積させる。そして、回転体14を用いて試片Sを所定の時間の間に回転させる。
【0096】
このような実験は、第1乃至第5の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて別途に行われる。そして、実験時ごとにルツボ12に投入されるフラックスの量、試片SがフラックスプールFPに沈積される深さ、沈積させる時間、回転時間、回転速度をいずれも同一にした。なお、実験時ごとに用いられる試片Sは、その組成、大きさ及び質量が同じである。
【0097】
浸食率は、フラックスプールFPに沈積される前に試片Sの重さ(試片の最初の重さ)と実験が終わった後の試片Sの重さとの間の差分を用いて算出することができる。より具体的に説明すれば、実験を始める前に試片Sの重さ(試片の最初の重さ)を測定し、実験が終わった後に試片Sの重さを測定する。そして、試片Sの最初の重さと実験終了後の試片のS重さとの間の差分を算出する。ここで、算出された重さがフラックスプールFPに溶解されて減少した重さ(以下、減少重さ)である。
【0098】
そして、減少重さを試片Sの最初の重さで割ると(減少重さ/試片の最初の重さ)、重さ減少率が算出される。また、算出された重さ減少率に100%を乗算して%単位の重さ減少率(%)を算出することもできる。次いで、算出された重さ減少率(%)を試片SがフラックスプールFPに沈積された全体の時間(min)で割ると、時間当たり、例えば、分(min)当たりの重さ減少率(%/min)が算出され、これを浸食率(%/min)と定義する。
【0099】
表1を参照すると、酸化ボロン(B)が含まれている第2乃至第5の実験例が酸化ボロン(B)が含まれていない第1の実験例に比べて融点及び粘度が低く、浸食率が高い。すなわち、第1の実験例は、融点が1360℃以上と高く、粘度は23poise以上と高い。これに対し、第2乃至第5の実験例は、融点が1310℃以下と低く、粘度は7poise以下と低い。
【0100】
また、浸食率を比較すると、第1の実験例は0.6以下と低いものの、第2乃至第5の実験例は0.8以上と高い。
【0101】
ここで、試片Sは、介在物と同じ物質からなり、試片Sがルツボ内のフラックスプールFPに溶融されて前記試片の重さが減少するわけであるため、算出された浸食率が高ければ高いほど、フラックスプールが介在物への溶解度または介在物の除去効率が高いと解釈することができる。したがって、第2乃至第5の実験例によるフラックスにより生成されたフラックスプールが第1の実験例に比べて介在物の溶解度及び介在物の除去効率が高いということが分かる。
【0102】
図2は、上述したように、フラックスに沈積された時間に伴う試片の重さ減少率を示すものである。すなわち、フラックスに沈積された時間の経過に伴い、試片の減少重さを累積計算し、これを試片の最初の重さで割って比率化して示せば、図2の通りである。
【0103】
図2において、第1の実験例を例にとって説明すると、試片がフラックスに沈積された時間が10分となったとき、試片の最初の重さの約6%が減少した状態である。また、試片がフラックスに沈積された時間が20分となったとき、試片の最初の重さの約9%が減少した状態である。そして、このように時間に伴う重さ減少率の変化を用いて、重さ減少速度を知ることができる。ここで、試片の重さ減少は、試片がフラックスプールに溶解、すなわち、浸食されて起こるわけであるため、図2の重さ減少速度は、試片の浸食速度であると解釈することができる。
【0104】
図2を参照すると、第2乃至第5の実験例は、第1の実験例に比べて浸食速度が速い。これは、第2乃至第5の実験例によるフラックスにより形成されたフラックスプールが第1の実験例に比べて介在物の溶解速度が速いということを意味する。
【0105】
このように、第2乃至第5の実験例によるフラックスは、第1の実験例に比べて粘度が低く、浸食率及び浸食速度が高い。したがって、第1の実験例に比べて、第2乃至第5の実験例によるフラックスを用いて鋳造するとき、溶鋼の介在物を溶解させて除去する介在物の除去効率が向上する。したがって、介在物による欠陥の発生が抑制もしくは防止された鋳片を製造することができ、鋳片の品質を向上させることができる。
【0106】
また、第2乃至第5の実験例によるフラックスの融点が第1の実験例に比べて低い。したがって、第1の実験例に比べて、第2乃至第5の実験例によるフラックスの溶融速度が速い。このため、第1の実験例に比べて第2乃至第5の実験例によるフラックスを用いる場合、短い時間内に相対的に多い量または肉厚の厚いフラックスプールを生成することができる。したがって、鋳造の初期に十分な量及び厚さのフラックスプールFPが形成されることにより、鋳造の初期の再酸化及び温度の低下をより有効に防ぐことができる。
【0107】
表1及び図2に戻り、第2乃至第5の実験例を比較すると、第3及び第5の実験例の浸食率は1.4以上であって、第2及び第4の実験例(1以下)に比べて高く、第3及び第5の実験例の浸食速度が第2及び第4の実験例に比べて高い。このことから、第2及び第4の実験例に比べて、第3及び第5の実験例によるフラックスにより形成されたフラックスプールが介在物の溶解度または介在物の除去効率が高いということが分かる。
【0108】
これを別の言い方で説明すれば、酸化ボロン(B)、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)のうち、酸化ボロン(B)を含むフラックス(第2の実験例)、酸化ボロン(B)及びフッ化カルシウム(CaF)を含むフラックス(第4の実験例)を用いるときに比べて、酸化ボロン(B)及び酸化ナトリウム(NaO)を含むフラックス(第3の実験例)、酸化ボロン(B)、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)をいずれも含むフラックス(第5の実験例)を用いるときに、溶鋼中の介在物の除去効率が向上するということが分かる。
【0109】
また、第3の実験例と第5の実験例とを比較すると、酸化ボロン(B)及び酸化ナトリウム(NaO)を含むフラックス(第3の実験例)を用いるときに比べて、酸化ボロン(B)、酸化ナトリウム(NaO)及びフッ化カルシウム(CaF)をいずれも含むフラックス(第5の実験例)を用いるときに、溶鋼中の介在物の除去効率が向上するということが分かる。
【0110】
図4は、表1の第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスをタンディッシュに投入したとき、時間に伴うフラックスの溶融状態を撮った写真である。図5は、第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて七回のチャージを連続して行う鋳造を行うとき、各チャージごとに鋳型内の溶鋼中の酸素含量(ppm)を測定した結果である。
【0111】
実験のために、図1に示したような実際の鋳造設備のタンディッシュ100に第1及び第3の実験例によるフラックスを投入した。すなわち、タンディッシュ100の中央領域111a及び第1の外側領域111bに第1の実験例によるフラックスを投入し、第2の外側領域111cに第3の実験例によるフラックスを投入した。
【0112】
タンディッシュ100内に総70トン(ton)の溶鋼を供給するが、タンディッシュ内に溶鋼が30トン(ton)となる時点で第1及び第3の実験例によるフラックスを投入した。このとき、中央領域111a、第1の外側領域111b及び第2の外側領域111cに投入されるフラックスの量を130kgと同一にした。
【0113】
タンディッシュ100の内部は、第1及び第2の上堰120a、120bにより画成されているため、中央領域111a、第1及び第2の外側領域111b、111cのそれぞれに投入されたフラックスは互いに混合されない。
【0114】
タンディッシュ100へのフラックスの投入が完了した後、第1の実験例によるフラックスが投入された第1の外側領域111bの上側及び第3の実験例によるフラックスが投入された第2の外側領域111cの上側のそれぞれにおいて写真を撮影した。より具体的に、カバー部材140にサンプリングのために設けられた孔を用いて撮影した。このとき、時間の経過に伴い写真を撮影し、これをまとめて図4のように示した。
【0115】
また、上述したように、タンディッシュ100の中央領域111a及び第1の外側領域111bに第1の実験例によるフラックス、第2の外側領域111cに第3の実験例によるフラックスを投入して七回のチャージの鋳造を連続して行うとき、各チャージ時ごとに鋳型300内の溶鋼中の酸素の含量(ppm)を測定した。すなわち、各チャージ時ごとに第1の鋳型300a内の溶鋼M及び第2の鋳型300b内の溶鋼Mのそれぞれをサンプリングして酸素の含量を測定し、これをまとめて図5のように示した。
【0116】
ここで、第1の鋳型300a内の溶鋼は、タンディッシュ100内において第1の実験例によるフラックスによりカバーされていた溶鋼であり、第2の鋳型300b内の溶鋼は、タンディッシュ100内において第3の実験例によるフラックスによりカバーされていた溶鋼である。
【0117】
図4を参照すると、第1の外側領域111bに投入されたフラックス(第1の実験例)は、投入されてから約14分となる時点で完全に溶融された。これに対し、第2の外側領域111cに投入されたフラックス(第3の実験例)は、投入されてから約6.9分で完全に溶融されたということが分かる。このことから、第3の実験例によるフラックスが第1の実験例によるフラックスに比べて融点が低く、溶融速度が約2倍速いということが分かる。
【0118】
さらに、図5を参照すると、チャージの順番が増加するにつれて、溶鋼中の酸素(O)の含量が減少する傾向にあるが、第3の実験例が第1の実験例に比べて酸素(O)の含量が低いということが分かる。
【0119】
一方、溶鋼中の介在物は、金属酸化物の形態で存在するため、溶鋼中の酸素(O)の含量を用いて、溶鋼中の介在物の含量を相対的に知ることができる。すなわち、溶鋼中の酸素(O)の含量が低いときに、高いときに比べて、溶鋼中の介在物の含量が相対的に低いと解釈することができる。このため、図5から、第1の実験例に比べて第3の実験例によるフラックスを用いるときに溶鋼中の介在物の除去効率が高いということが分かる。
【0120】
図6は、第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて六回のチャージ(charge)の鋳造を連続して行うとき、タンディッシュ内のフラックスの状態をチャージが進むにつれて撮影して示す写真である。図7は、第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて六回のチャージ(charge)の鋳造を連続して行うとき、2回目、4回目、6回目のチャージ時にタンディッシュ内のフラックスの融点を測定した結果である。図8は、第1の実験例によるフラックス及び第3の実験例によるフラックスのそれぞれを用いて六回のチャージの鋳造を連続して行うとき、チャージごとに鋳型内の溶鋼中の酸素の含量(ppm)を測定した結果である。
【0121】
実験のために、図1に示したような実際の鋳造設備のタンディッシュ100にフラックスを投入して、六回のチャージの鋳造を連続して行った。このとき、タンディッシュ100の中央領域111a、第1及び第2の外側領域111b、111cのすべてに第1の実験例によるフラックスを投入して六回のチャージの鋳造を連続して行った。また、同様に、タンディッシュの中央領域111a、第1及び第2の外側領域111b、111cのすべてに第3の実験例によるフラックスを投入して六回のチャージの鋳造を連続して行った。
【0122】
タンディッシュ内に総70トン(ton)の溶鋼を供給するが、タンディッシュ内に溶鋼が30トン(ton)となる時点でフラックスを投入した。なお、第1及び第3の実験例によるフラックスの投入量を130kgと同一にした。
【0123】
また、実際の鋳造の操業に際して複数のチャージの鋳造を連続して行うとき、タンディッシュ内の溶鋼Mの保温のために灰化もみ殻が投入される。このため、実験に際しても取鍋200が取り替えられる度に、または新たなチャージが始まる度にタンディッシュ100に灰化もみ殻を投入した。
【0124】
このようにして投入された第1及び第3の実験例によるフラックスを用いて、六回のチャージの鋳造を連続して行う。このとき、2回目のチャージから6回目のチャージまで各チャージごとにタンディッシュ100の中央領域111aの上側から写真を撮影し、これをまとめて図6のように示した。
【0125】
なお、六回のチャージの連続鋳造を行いながら、2回目、4回目、6回目のチャージ時にタンディッシュ内のフラックスをサンプリングして融点を測定し、これをまとめて示したものが図7である。
【0126】
また、六回のチャージの連続鋳造を行いながら、2回目のチャージから6回目のチャージまで各チャージごとに鋳型内の溶鋼中の酸素の含量(ppm)を測定し、これをまとめて示したものが図8である。
【0127】
図6の第1の実験例の3回目のチャージの写真を見ると、相対的に彩度が高い、または暗い部分があるが、この部分が、フラックスプールが固化された部分である。なお、3回目のチャージに比べて、4回目のチャージ、5回目のチャージ、6回目のチャージにおいて全体的に彩度が高いか、あるいは、暗い。これは、3回目のチャージに比べて、4回目のチャージ、5回目のチャージ、6回目のチャージにおけるフラックスプールの固化面積が広くなる(または、増加する)ためである。
【0128】
さらに、フラックスの固化は、上述したような彩度または明暗だけではなく、写真ではない目視にて表面の粗さを把握して知ることもできる。第1の実験例の3回目のチャージを例に取って説明すれば、部分的に固化された部分はその表面がまるで石のように粗いものの、残りの領域はそうではない。このため、目視にて表面粗さを把握してフラックスプールの固化の有無または固化面積を知ることができる。
【0129】
第1の実験例の場合、3回目のチャージにおいてフラックスの固化の現象が起こり始める。そして、4回目のチャージからは固化された面積が増加する。フラックスの固化は、取鍋の取り替え時ごとに取鍋のフィラー(filler)及び灰化もみ殻が投入されて、タンディッシュ内のフラックスの融点が高くなるためである。
【0130】
これに対し、第3の実験例の場合、6回目のチャージまでも固化が起こっていない。これは、第3の実験例によるフラックスが第1の実験例に比べて融点が低いため、固化の現象が第1の実験例に比べて緩和されるためである。したがって、第3の実験例によるフラックスは、第1の実験例に比べて固化が遅く起こり始めるか、あるいは、固化されない。このため、フラックスの使用チャージ回数または使用時間を増やすことができる。
【0131】
上述したような第1及び第3の実験例のそれぞれの固化の有無及び固化面積は、図6の写真上における彩度または明暗をもって把握したり、作業者が目視にて表面粗さを把握したりして判断したものである。
【0132】
フラックスが固化されるか、あるいは、固化された量が増えると、タンディッシュに投入されたフラックスの融点が上がる。図7を参照すると、第1の実験例は、4回目のチャージ時に融点が1400℃を超えるのに対し、第3の実験例は、6回目のチャージ(最後のチャージ)までも融点が1350℃を超えず、1400℃以下である。
【0133】
このことから、たとえ取鍋の取り替え時ごとに同じ量にて取鍋フィラー及び灰化もみ殻が投入されるとしても、第3の実施形態に係るフラックスを用いる第1の実施形態に比べて、タンディッシュ内のフラックスの融点を低く保つことができるということが分かる。
【0134】
また、図8を参照して、各チャージに応じた鋳型内の溶鋼中の酸素(O)の含量(ppm)を比較すると、第3の実験例が第1の実験例に比べて低い。そして、第3の実験例の場合、1回目のチャージから最後のチャージの鋳造まで鋳型内の溶鋼の酸素の含量が20ppm以下である。これを通じて、第1の実験例に比べて、第3の実験例によるフラックスを用いたときに介在物の除去効率が高いということが分かる。
【0135】
本発明の実施形態に係るフラックスまたは前記フラックスにより形成されたフラックスプールは、介在物の溶解度または介在物の除去効率が従来に比べて高い。これにより、従来に比べて介在物による欠陥の発生が抑制もしくは防止された鋳片を製造することができ、鋳片の品質を向上させることができる。
【0136】
また、実施形態に係るフラックスの融点が従来に比べて低いので、溶融速度が速い。このため、実施形態に係るフラックスを用いる場合、従来に比べて短い時間内に多い量のフラックスを溶融することができる。これにより、鋳造の初期に十分な量及び厚さのフラックスプールが形成されることにより、鋳造の初期の再酸化及び温度の低下をより有効に防ぐことができる。
【0137】
さらに、フラックスの融点が低いので、たとえ複数のチャージの鋳造を連続して行うとしても、フラックスの固化を抑制もしくは防止することができる。したがって、連続鋳造の初期から末期まで介在物による欠陥の発生が抑制もしくは防止された鋳片を製造することができ、鋳片の品質を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の実施形態に係るフラックスによれば、介在物の溶解度または介在物の除去効率が従来に比べて高い。これにより、従来に比べて介在物による欠陥の発生が抑制もしくは防止された鋳片を製造することができ、鋳片の品質を向上させることができる。
【0139】
また、実施形態に係るフラックスの融点が従来に比べて低いので、溶融速度が速い。このため、実施形態に係るフラックスを用いる場合、従来に比べて短い時間内に多い量のフラックスを溶融することができる。これにより、鋳造の初期に十分な量及び厚さのフラックスプールが形成されることにより、鋳造の初期の再酸化及び温度の低下をより有効に防ぐことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8