(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】3次元部品をリソグラフィに基づいて生成して製造するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/135 20170101AFI20240116BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240116BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20240116BHJP
B29C 64/268 20170101ALI20240116BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240116BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240116BHJP
G02F 1/33 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B29C64/135
B23K26/21 Z
B23K26/34
B29C64/268
B33Y10/00
B33Y30/00
G02F1/33
(21)【出願番号】P 2022559543
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 IB2021052284
(87)【国際公開番号】W WO2021198835
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-28
(32)【優先日】2020-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521375977
【氏名又は名称】アップナノ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グルーバー、ペーター
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-525474(JP,A)
【文献】特表2014-517929(JP,A)
【文献】特開2014-133422(JP,A)
【文献】特開2014-111385(JP,A)
【文献】特開2003-025453(JP,A)
【文献】特開平09-001674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21,26/34
B29C 64/124,64/135,64/268
B33Y 10/00,30/00,40/00,50/00,70/00,
80/00
G02F 1/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元部品をリソグラフィに基づいて生成して製造する方法であって、電磁放射源(2)から放出された少なくとも1つのビームが照射デバイス(3)によって材料内の複数の焦点上に順次集束し、その結果、各ケースにおいて前記焦点に位置する前記材料の体積要素(15)が多光子吸収によって固化される方法において、前記焦点がz方向に変位し、前記z方向が、前記少なくとも1つのビームの前記材料の中への照射方向に対応し、前記焦点の前記z方向における前記変位が、音波が発生し、前記音波の周波数が周期的に変調されるビーム経路に配置された少なくとも1つの音響光学偏向器(6)によって行われ
、前記音響光学偏向器(6)による前記焦点の前記z方向における前記変位が、層の層厚の範囲内で行われることを特徴とする、方法。
【請求項2】
周波数変調の音波周波数勾配を変化させることによって前記焦点が変位することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも2つの音響光学偏向器(6)が、前記ビーム経路において前後に置かれて使用さ
れることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも2つの音響光学偏向器(6)では、ビーム偏向の方向が互いに実質的に垂直であるか、又はビーム偏向の向きが同じである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記焦点が、前記z方向に対して横断方向に延在するx-y平面内で変位し、前記x-y平面内の前記変位が、前記少なくとも1つの音響光学偏向器(6)とは別の偏向ユニット(9)によって行われることを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記部品が、前記
z方向に対して横断方向に延在するx-y平面内に延在する層で1層ずつ構築され、ある層から次の層への変更は、前記z方向における前記部品に対する前記照射デバイス(3)の相対位置の変更を含むことを特徴とする、請求項1から
5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
湾曲した外形又は前記
z方向に対して横断方向に延在するx
-y平面に対して傾斜した前記部品の外形を形成するために、前記音響光学偏向器(6)によって前記焦点を前記z方向において変位さ
せることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記外形を形成する前記体積要素(15)のサイズが、等しくなるように選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
3次元部品をリソグラフィに基づいて生成して製造する、特に請求項1から
8までのいずれか一項に記載の方法を実行するための装置であって、固化可能な材料のための材料保持体(1)と、少なくとも1つのビームで前記固化可能な材料を位置選択的に照射するために制御することができる照射デバイス(3)とを備え、前記照射デバイス(3)が、前記少なくとも1つのビームを前記材料内の複数の焦点上に順次集束させるための光学偏向ユニット(9)を備え、これによって、各ケースにおいて、前記焦点に位置する前記材料の体積要素(15)を、多光子吸収によって固化することができる装置において、前記照射デバイス(3)が、前記ビームのビーム経路に配置され、前記焦点をz方向において変位させるように設計された少なくとも1つの音響光学偏向器(6)を備え、前記z方向が、前記少なくとも1つのビームの前記材料の中への照射方向に対応
し、前記照射デバイス(3)が、前記音響光学偏向器(6)による前記焦点の前記z方向における前記変位が、層の層厚の範囲内で行われるように設計されていることを特徴とする、装置。
【請求項10】
前記少なくとも1つの音響光学偏向器(6)が、音波周波数を周期的に変調するように適合された周波数発生器を備えることを特徴とする、請求項
9に記載の装置。
【請求項11】
前記周波数発生器が、音波周波数勾配を変化させるように適合されていることを特徴とする、請求項
10に記載の装置。
【請求項12】
少なくとも2つの音響光学偏向器(6)が、前記ビーム経路において前後に配置さ
れることを特徴とする、請求項
9から
11までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
前記少なくとも2つの音響光学偏向器(6)では、ビーム偏向の方向が互いに実質的に垂直に延びているか、又はビーム偏向の向きが同じである、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記偏向ユニット(9)が、前記z方向に対して横断方向に延在しているx-y平面内で前記焦点を変位させるように設計されていることを特徴とする、請求項
9から
13までのいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
前記照射デバイス(3)が、前記
z方向に対して横断方向に延在しているx-y平面内に延在する層で1層ずつ前記部品を構築するように適合され、ある層から次の層への変更が、前記z方向における前記部品に対する前記照射デバイス(3)の相対位置の変更を含むことを特徴とする、請求項
9から
14までのいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元部品をリソグラフィに基づいて生成して製造する方法であって、電磁放射源から放出された少なくとも1つのビームが照射デバイスによって材料内の複数の焦点上に順次集束し、それにより各ケースにおいて焦点に位置する材料の体積要素が多光子吸収によって固化される方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、3次元部品をリソグラフィに基づいて生成して製造するための装置に関する。
【背景技術】
【0003】
感光材料の固化が多光子吸収によって実行される、部品形成のためのプロセスは、例えば、DE10111422A1で知られるようになった。この目的のために、集束したレーザ・ビームが感光材料の浴槽の中に照射され、それによって、固化を引き起こす多光子吸収プロセスの照射条件は焦点のごく近傍のみで満たされ、そのためビームの焦点は、生産される部品の幾何データに従って浴槽体積内の固化すべき箇所に誘導される。
【0004】
それぞれの焦点において、材料の体積要素が固化し、それによって隣接する体積要素が互いに接着され、隣接する体積要素が連続的に固化することによって部品が構築される。部品は層状に構築され、すなわち、最初の層の体積要素がまず固化され、その後に次の層の体積要素が固化される。
【0005】
多光子吸収法のための照射デバイスは、レーザ・ビームを集束させる光学系と、レーザ・ビームを偏向させる偏向デバイスとを含む。偏向デバイスは、ビームの材料への入射方向に垂直な同一平面上にある材料内の複数の焦点に、ビームを順次集束させるように設計されている。x,y,z座標系では、この平面はx,y平面とも呼ばれる。x,y平面における、ビームの偏向によって作成された固化体積要素が部品の層を形成する。
【0006】
次の層を構築するために、部品に対する照射デバイスの相対位置をz方向において変更し、このz方向は、少なくとも1つのビームの材料の中への照射方向に対応し、x,y平面に垂直である。主にモータによって駆動される、部品に対する照射デバイスの調節により、照射デバイスの焦点は、前段のx,y平面から所望の層厚だけz方向に離れた新しいx,y平面に変位する。
【0007】
説明した手順では、3次元グリッド内の事前に定義された位置にしか固化体積要素を生成することができない。しかしながら、部品の湾曲表面上では、画面上の曲線をピクセル様に表現したものに類似した、段差のある形状が生じてしまう。部品の表面上の構造化分解能は、固化体積要素のサイズ及び層厚に依存する。構造化分解能を上げるために層厚を減少させることができるが、層の数を増やさなければならないので、構築プロセスの期間の著しい増加につながる。
【0008】
実際の表面と所望の表面とのずれができるだけ小さくなるように、部品のエッジ領域における固化体積要素のサイズを所望の表面形状に合わせて調節する様々な提案が、既になされてきている。例えば、DE1020171140241A1は、表面に隣接する体積要素を作り出すための照射量を、定義されたパターンに従って変化させるプロセスを開示している。これにより、エッジ領域に描画された体積要素が異なる延在量を有し、所望通りに表面を構造化することができるようになる。しかしながら、そのようなプロセスの不利な点は、照射量を増加させたときに材料の中に放射されるエネルギーにより、材料の熱破壊及び気泡の形成につながることである。さらに、そのような方法では調節範囲は非常に限定的である。体積要素のサイズの最大の変化量は、初期サイズの20%未満である。
【0009】
米国特許出願公開第2003/013047A1号及び米国特許出願公開第2014/029081A1号の文献は、本発明の本主題に関する一般的な先行技術を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】DE10111422A1
【文献】DE1020171140241A1
【文献】米国特許出願公開第2003/013047A1号
【文献】米国特許出願公開第2014/029081A1号
【文献】WO2018/006108A1
【非特許文献】
【0011】
【文献】Zipfelら、「Nonlinear magic:multiphoton microscopy in the biosciences」NATURE BIOTECHNOLOGY、第21巻、第11号、2003年11月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、部品の湾曲表面及び傾斜表面を高い形状精度で形成することができ、上記の不利な点を回避できるように、3次元部品をリソグラフィに基づいて生成して製造するための方法及び装置をさらに発展させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題を解決するために、本発明は冒頭で述べたタイプの方法において提供し、この方法では、焦点がz方向に変位し、z方向が少なくとも1つのビームの材料の中への照射方向に対応し、焦点のz方向の変位はビーム経路に配置された少なくとも1つの音響光学偏向器によって行われ、このビーム経路において、音波が発生し、その周波数が周期的に変調される。
【0014】
放射源から放出されるビームのビーム経路に少なくとも1つの音響光学偏向器を配置することで、焦点をz方向に連続的に、高速で変位させることができる。これにより、体積要素の位置をz方向において自由に選択できるようになるので、各ケースにおいて実現すべき表面形状に最適に適合させるために、体積要素を上記グリッドで定義された位置の外側にも配置することができる。z方向における焦点の変位は、部品に対する照射デバイスの機械的な調節を一切必要としないので、最初の層から次の層への変更とは無関係である。特に、z方向における焦点の変位は、可動部を使用することなく、前述の音響光学偏向器の効果のみによって実現される。
【0015】
音響光学偏向器は、入射光を周波数及び伝搬方向又は強度について制御する光学部品である。この目的のため、音波を用いて透明な固体に光回折格子が作成され、そこで光ビームを回折させると同時にその周波数をシフトさせる。これにより、透明固体中の光と超音波との相対的な波長に応じた偏向角で、ビームが偏向する。
【0016】
透明固体内で発生した音波の周波数の周期的な変化は、いわゆる「シリンドリカル・レンズ効果(cylindrical lens effect)」を生じさせ、シリンドリカル・レンズと同じように入射光ビームを集束させる。周期的な周波数変調に特定の制御を行うことにより、シリンドリカル・レンズの焦点距離を変更し、音響光学偏向器から出るビームの発散度を変更することができる。このように発散度が設定されたビームは、照射デバイスの撮像ユニットに誘導され、そこではビームがレンズによって集束した状態で材料に照射される。材料に導入されるビームの焦点は、ここではz方向において発散度の関数として変化する。
【0017】
ここで好適な設計により、音波の周波数変調が一定の音波周波数勾配を有することになる。これは、いわゆる「シリンドリカル・レンズ効果」を作り出すのに有利である。一方、音波周波数が線形に変化しない場合、波面誤差が発生する。
【0018】
好ましくは、周波数変調の(一定の)音波周波数勾配における変化によって焦点が変位されることが、さらに実現される。音波周波数勾配の変化は、例えば、周期的な変調の周期の長さを一定に保ったまま周波数変調の帯域幅を変化させることによって、実現できる。或いは、帯域幅を一定に保ち、音波周波数勾配の変化を周期の長さの変化によって引き起こすこともできる。
【0019】
音波の基本周波数は、例えばTeO2でできた透明な固体では、好ましくは50MHz以上、特に好ましくは100MHzより上、さらに特に好ましくは100~150MHzである。例えば、基本周波数は少なくとも±10%、好ましくは±20~30%変調される。基本周波数が例えば110MHzの場合、これを±25MHzで周期的に変調し、すなわち周波数変調の帯域幅は50MHzであり、したがって音波の周波数は85MHzと135MHzとの間で周期的に変調される。既に述べたように、音波周波数勾配の変化がシリンドリカル・レンズの焦点距離を決定し、それによって変調周波数は少なくとも100kHz、特に0.1~10MHzであることが好ましい。
【0020】
好ましくは、少なくとも2つの音響光学偏向器がビーム経路において順番に使用され、少なくとも2つの音響光学偏向器は、好ましくは、ビーム偏向の方向が互いに実質的に垂直であるか、又はビーム偏向の向きが同じである。2つの音響光学偏向器を組み合わせ、好ましくは互いのすぐ背後で垂直に配置することにより、単一の偏向器で発生する非点収差が解消される。1つの平面上に2つの音響光学偏向器を配置したとき、z方向において焦点が変位できる経路が2倍になる。別の好ましい実施例によると、4つの音響光学偏向器が直列に設けられてよく、そのうちの最初の2つの偏向器が第1のペアを形成し、後続の2つの偏向器が第2のペアを形成する。ペア内の偏向器は、それぞれ同じビーム偏向の向きで構成され、第1のペアの偏向器は、第2のペアの偏向器に対してビーム偏向の方向が垂直である。
【0021】
それ自体知られているように、焦点は、好ましくは、z方向に対して横断方向に延びるx-y平面内でも変位し、x-y平面内の変位は、少なくとも1つの音響光学偏向器とは別の偏向ユニットによって行われる。偏向ユニットは、有利には、少なくとも1つの音響光学偏向器と撮像ユニットとの間のビーム経路に配置される。偏向ユニットは、例えば、ガルバノ・スキャナとして設計することができる。2次元のビーム偏向については、ミラーを2方向に偏向させてもよく、又は、直交した軸で枢動可能な2枚のミラーを互いに近接させて設置し、それらのミラーでビームを反射させてもよい。2枚のミラーは、それぞれガルバノメータ駆動又は電気モータで駆動することができる。
【0022】
好ましくは、部品は、x-y平面内に延在する層で層状に構築され、ある層から次の層への変更は、部品に対する照射デバイスのz方向における相対位置の変更を含む。部品に対する照射デバイスの相対位置を機械的に調節することによって、z方向における焦点の粗調整、すなわちある層から次の層への変更が行われる。しかしながら、z方向における中間ステップの調節、すなわち、z方向における焦点の細かい位置決めのために、焦点は音響光学偏向器によって位置が変更される。
【0023】
好ましくは、焦点は、層厚の範囲内で、音響光学偏向器によってz方向に変位させることができる。部品に対する照射デバイスの相対位置を機械的に調節する必要なく、z方向に互いに重ねて配置された体積要素の複数の層を、1つの層内で作り出すこともできる。
【0024】
本発明の好ましい適用例によると、部品の湾曲した外形を形成するために、音響光学偏向器によって焦点をz方向において変位させる。代替的又は追加的に、音響光学偏向器によって焦点をz方向において変位させて、x,y平面に対して傾斜した部品の外形を形成することもできる。焦点のz方向における変位は、固化される体積要素の仮想中心から体積要素の外側表面までの距離に対応する距離だけ生産される部品の表面から離れた、部品のエッジ領域内に焦点を位置決めすることで、表面形状に追従することができる。
【0025】
好ましい方法によると、材料は、トラフの中などの材料支持体上に存在し、材料の照射は、少なくともいくつかの領域で放射に対して透過性のある材料支持体を通して下方から実行される。この場合、構築プラットフォームは、材料保持体から距離をあけて位置決めすることができ、構築プラットフォームと材料保持体との間に位置する材料を固化させることによって、構築プラットフォーム上に部品を構築することができる。或いは、材料を上方から照射することも可能である。
【0026】
多光子吸収を利用した適切な材料の構造化では、構造分解能が非常に高く、50nm×50nm×50nmまでの最小構造サイズを有する体積要素が実現されるという利点がある。しかしながら、そのような方法のスループットは、焦点における体積が小さいため、例えば1mm3の体積に対して合計109個を超える箇所を照射しなければならず、非常に低くなる。これにより構築にかかる時間が非常に長くなり、これは、多光子吸収プロセスの産業利用が少ない主な理由である。
【0027】
高い構造分解能を可能にしたまま部品のスループットを増加させるために、本発明の好ましいさらなる展開例では、異なる体積の固化体積要素から部品が構築されるように、部品の構築中に少なくとも1回、焦点の体積が変化する。
【0028】
焦点の体積が可変であるため、(小さい焦点の体積では)高分解能が可能である。同時に、高い描画速度(mm3/hで測定)が(大きい焦点の体積で)実現可能である。このように、焦点体積を変化させることで、高分解能と高スループットとを兼ね備えることができる。焦点体積を変化させることは、例えば、スループット向上のために構築される部品の内部では大きい焦点体積が使用され、部品表面を高分解能で形成するために部品の表面上では小さい焦点体積が使用されるように、使用可能である。焦点体積を増加させることにより、1回の照射で固化する材料の体積が増加するので、構造化のスループットを高めることができる。高いスループットで高分解能を維持するために、微細な構造及び表面には小さい焦点体積を使用することができ、粗い構造用、及び/又は内部空間を充填するためには大きな焦点体積を使用することができる。焦点体積を変化させるための方法及びデバイスは、WO2018/006108A1に記載されている。
【0029】
本発明の文脈では、部品の内部に位置する層が、厚い層厚で、したがって大きい体積の体積要素で構築され、エッジ領域がより小さい体積の体積要素から構築され、エッジ領域では、表面において高い構造分解能を得るために、体積要素の位置がさらにz方向に沿って個別に調節される場合、構築時間をかなり減少させることができる。
【0030】
好ましい方法では、焦点体積の変化量は、部品生産中の最大焦点体積と、最小焦点体積との体積比が、少なくとも2、好ましくは少なくとも5となるようなものである。
【0031】
多光子吸収の原理は、本発明の文脈では、感光材料浴の中の光化学プロセスを開始するために使用される。多光子吸収法には、例えば、2光子吸収法が挙げられる。光化学反応の結果、材料は少なくとも1つの他の状態に変化し、典型的には光重合が生じる。多光子吸収の原理は、前述の光化学プロセスが、ビーム経路のうち多光子吸収に十分な光子密度が存在する領域でのみ起こるという事実に基づいている。光学撮像システムの焦点において光子密度が最も高いので、多光子吸収が起こる可能性が十分にあるのは焦点においてのみである。焦点の外側では光子密度がより低いので、焦点の外側で多光子吸収が生じる確率は低く、光化学反応によって材料に不可逆的な変化を引き起こすことができない。電磁放射は、使用する波長では大部分が妨げられることなく材料を通過し、焦点でのみ感光材料と電磁放射との間の相互作用が生じる。多光子吸収の原理は、例えば、Zipfelら、「Nonlinear magic:multiphoton microscopy in the biosciences」NATURE BIOTECHNOLOGY、第21巻、第11号、2003年11月、に記載されている。
【0032】
電磁放射の発生源は、好ましくは、平行レーザ・ビームであってよい。レーザは、1つ又は複数の、固定又は可変の波長を放出することができる。特に、ナノ秒、ピコ秒、フェムト秒の範囲のパルス長を持つ連続レーザ又はパルス・レーザである。パルス・フェムト秒レーザは、多光子吸収に必要な平均出力がより低いという利点を提供する。
【0033】
感光材料とは、構築条件下で流動性又は固体であり、焦点体積での多光子吸収、例えば重合によって第2の状態に変化する材料として定義される。材料の変化は、焦点体積とそのすぐ周辺に限定されなければならない。物質特性の変化は、恒久的で、例えば液体状態から固体状態への変化であってもよいが、一時的なものであってもよい。なお、恒久的な変化とは可逆的であっても、又は不可逆的であってもよい。材料特性の変化は、必ずしもある状態から他の状態への完全移行である必要はなく、両状態の混合形態として存在することもできる。
【0034】
電磁放射の出力及び露光時間は、生産される部品の品質に影響する。放射出力及び/又は露光時間を調節することで、焦点の体積を狭い範囲内で変化させることができる。放射出力が高すぎると、部品の損傷につながり得るさらなるプロセスが発生する。放射出力が低すぎると、恒久的な材料特性の変化が起きない。したがって、各感光材料について、良好な部品特性に関連付けられた典型的な構築プロセス・パラメータがある。
【0035】
好ましくは、焦点体積の変化は、少なくとも1つ、好ましくは2つ、特に3つの、互いに垂直な空間方向において起こることが実現される。
【0036】
本発明の第2の態様によると、3次元部品をリソグラフィに基づいて生成して製造する、特に本発明の第1の態様による方法を実行するための装置であって、固化可能な材料のための材料支持体と、少なくとも1つのビームで固化可能な材料を位置選択的に照射するために制御することができる照射デバイスとを備え、照射デバイスが、少なくとも1つのビームを材料内の複数の焦点に順次集束させるための光学偏向ユニットを備え、これによって、各ケースにおいて、焦点に位置する材料の体積要素を、多光子吸収によって固化することができる装置において、照射デバイスが、ビームのビーム経路に配置され、焦点をz方向において変位させるように設計された少なくとも1つの音響光学偏向器を備え、z方向は、少なくとも1つのビームの材料の中への照射方向に対応することを特徴とする、装置が提供される。
【0037】
好ましくは、少なくとも1つの音響光学偏向器の制御ユニットは、超音波周波数を周期的に変調するように構成された周波数発生器を備える。
【0038】
好ましくは、ここで周波数発生器は音波周波数勾配を変化させるように設計されていることが実現される。
【0039】
本発明による方法に関連して既に述べたように、少なくとも2つの音響光学偏向器がビーム経路において前後に配置されており、少なくとも2つの音響光学偏向器は、好ましくは、ビーム偏向の方向が互いに実質的に垂直に延びているか、又はビーム偏向の向きが同一であると、有利である。
【0040】
さらに、偏向ユニットは、z方向に対して横断方向に延在しているx-y平面内で焦点を変位させるように設計されることが好ましい。
【0041】
特に、照射デバイスは、x-y平面内に延在する層で1層ずつ部品を構築し、ある層から次の層への変更が、部品に対する照射デバイスのz方向における相対位置の変更を含むように構成されてよい。
【0042】
照射デバイスは、音響光学偏向器によるz方向における焦点の変位が、層の厚さの範囲内で行われるように設計されることが好ましい。
【0043】
さらに、材料がトラフの中などの材料保持体上に存在し、材料の照射が、少なくとも一定の領域で放射に対して透過性のある材料保持体を通して下方から実行されることが実現されてよい。
【0044】
構築プラットフォームは、好ましくは、材料支持体から距離をあけて位置決めされ、構築プラットフォームと材料支持体との間に位置する固体要素を固化させることによって、構築プラットフォーム上に部品が構築される。
【0045】
部品の構築中に少なくとも1回、焦点の体積を変化させて、異なる体積の固化体積要素から部品を構築すると有利である。
【0046】
以下、図面に示す実施例の概略的な実例を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図3】部品のエッジ領域における体積要素の配置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
図1では基板又は保持体を1で示し、その上に部品が構築される。基板は、光重合性材料が充填された材料桶(図示せず)内に配置される。放射源2から放出されたレーザ・ビームは、照射デバイス3によって材料の中に集束して光重合性材料内の複数の焦点に順次集束し、それによって各焦点に位置する材料の体積要素が多光子吸収により固化される。この目的のため、照射デバイスは、描画領域内の材料にレーザ・ビームを導入するレンズ4を備えた撮像ユニットを含む。
【0049】
レーザ・ビームは、まず放射源2からパルス圧縮器5に入り、次いで少なくとも1つの音響光学偏向器モジュール6を通過し、その2つの音響光学偏向器によってビームが分割されて、0次ビームと1次ビームになる。0次ビームはビーム・トラップ7に集光される。音響光学偏向器モジュール6は、前後に配置された2つの音響光学偏向器を備え、そのビーム偏向の方向は互いに垂直である。1次の偏向ビームに関して、音響光学偏向器モジュール6は、各ケースにおいて、焦点距離を調節可能なシリンドリカル・レンズとして機能し、これにより、1次ビームは調節可能な発散度を有する。次に、1次のビームはリレー・レンズ8、偏向ミラー15を介して偏向ユニット9に誘導され、そこでビームは2枚のミラー10で順次反射される。ミラー10は、互いに直交する回転軸を中心に枢動するように駆動され、これによりビームをx軸とy軸との両方において偏向させることができる。2枚のミラー10は、それぞれガルバノメータ駆動又は電気モータで駆動することができる。偏向ユニット9から出たビームは、好ましくは、リレー・レンズ系を介して対物レンズに入射し(図示せず)、対物レンズは、上述のように光重合性材料の中にビームを集束させる。
【0050】
1層ずつ部品を構築するために、1層ずつ順番に体積要素を材料内で固化する。最初の層を構築するために、レーザ・ビームは、材料内の対物レンズ4の焦点面に位置する複数の焦点上に順次集束する。x,y平面におけるビームの偏向は、ここでは偏向ユニット9を用いて実行され、それによって描画領域が対物レンズ4によって限定される。次の平面に変更するために、保持体11に取り付けられた対物レンズ4は、層厚に対応する層間距離だけ、基板1に対してz方向において変位される。或いは、基板1を固定された対物レンズ4に対して相対的に変位させることも可能である。
【0051】
生産する部品が対物レンズ4の描画領域よりもx方向及び/又はy方向において大きい場合、部品の部分的構造を互いの隣に構築する(いわゆるスティッチング)。この目的のため、基板1は、照射デバイス3に対してx方向及び/又はy方向に移動させることができるx-yステージ12上に配置されている。
【0052】
さらに、少なくとも1つの音響光学偏向器6、偏向デバイス9、保持体11、及びx-yステージ12を制御する制御ユニット13が設けられている。音響光学偏向器6は、周波数変調の音波周波数勾配に依存したシリンドリカル・レンズ効果を形成する。シリンドリカル・レンズの等価焦点距離F
lは、以下のように計算できる。
【数1】
ここで、v
aは結晶中の音響伝搬速度、λはレーザ・ビームの波長、dF
a/d
tは結晶中の音響波周波数勾配である。レーザ波長780nmにおける伝搬速度が4200m/sで、(例えば、基本励起周波数110MHzから開始して)±25MHzの帯域幅が0.2μs以内で過ぎるTeO
2において、音響光学シリンドリカル・レンズの焦点距離は90mmである。この結果、焦点距離9mmで倍率が20xの対物レンズ4について、システム全体の新しい焦点距離が以下のようになり、
【数2】
F
totalは、上述のパラメータについて、勾配の符号に依存するz方向における変位±90μmに対応している。音波周波数勾配を変化させることで、体積要素のz位置を線形で連続的に調節することができる。
【0053】
本発明によると、
図3に概略的に示されるように、説明されたようにz方向における焦点の連続的な変位が可能であることを利用して、傾いた表面又は湾曲表面に最適に近似させることができる。
図3では、個々の体積要素に15、部品の湾曲表面に14の符号を付している。個々の体積要素15のサイズは同じままであっても、体積要素15のz位置は表面形状に追従することが見て取れる。
【0054】
図2は、
図1によるデバイスの修正実施例を示し、
図1とは対照的に、音響光学偏向器モジュール6は、音響光学偏向器モジュール6の入力及び出力における焦点が同一線上に配置されることを確実にするためにリレー・レンズが間に配置された2つの音響光学偏向器を有している。