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  • 特許-タブ用アルミニウム合金板 図1
  • 特許-タブ用アルミニウム合金板 図2
  • 特許-タブ用アルミニウム合金板 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】タブ用アルミニウム合金板
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20240116BHJP
   C22B 9/16 20060101ALI20240116BHJP
   C22B 21/00 20060101ALI20240116BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240116BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C22C21/06
C22B9/16
C22B21/00
C22F1/00 602
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630B
C22F1/00 630K
C22F1/00 673
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/047
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023067405
(22)【出願日】2023-04-17
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智徳
(72)【発明者】
【氏名】池田 幸将
(72)【発明者】
【氏名】工藤 智行
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-514269(JP,A)
【文献】特開平09-070925(JP,A)
【文献】特開平04-221036(JP,A)
【文献】国際公開第2023/095859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/00- 1/18
C22B 9/16
C22B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素(Si)の含有量が0.20質量%以上0.60質量%以下であり、
鉄(Fe)の含有量が0.30質量%以上0.70質量%以下であり、
銅(Cu)の含有量が0.11質量%以上0.40質量%以下であり、
マンガン(Mn)の含有量が0.7質量%以上1.2質量%以下であり、
マグネシウム(Mg)の含有量が1.1質量%以上3.0質量%以下であり、
残部がアルミニウム(Al)及び不可避的不純物からなり、
板厚t(mm)と、圧延方向に対し0°方向における引張強さσB_0°(MPa)とが下記式(1)を満たし、
L-ST断面において、面積が0.3μm以上のMgSi粒子の総面積の割合が0.2%以下である、タブ用アルミニウム合金板。
(2.7×t-0.45)×σB_0°≧67 ・・・(1)
【請求項2】
請求項1に記載のタブ用アルミニウム合金板であって、
幅が12.5mm、長さが200mm以上300mm以下の短冊状に切り出した試験片に対し、曲げ稜線が圧延方向と平行となる向きで、90°曲げて0°位置に戻す曲げ操作を繰り返した際に、前記試験片の破断までの前記曲げ操作の回数である繰り返し曲げ回数Nを、前記試験片の板厚t(mm)及び下記式(2)により規格化した規格化繰り返し曲げ回数Nが11.7回以上であり、
前記引張強さσB_0°が330MPa以上である、タブ用アルミニウム合金板。
=N×t/0.245 ・・・(2)
【請求項3】
請求項2に記載のタブ用アルミニウム合金板であって、
前記規格化繰り返し曲げ回数Nが15.0回以上である、タブ用アルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタブ用アルミニウム合金板であって、
圧延方向に対し0°方向の0.2%耐力σ0.2_0°から、圧延方向に対し90°方向の0.2%耐力σ0.2_90°を引いた値が-4MPa以上である、タブ用アルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタブ用アルミニウム合金板であって、
ケイ素(Si)の含有量が0.27質量%以上0.39質量%以下であり、
鉄(Fe)の含有量が0.35質量%以上0.55質量%以下であり、
銅(Cu)の含有量が0.17質量%以上0.25質量%以下であり、
マンガン(Mn)の含有量が0.75質量%以上0.95質量%以下であり、
マグネシウム(Mg)の含有量が2.2質量%以上2.8質量%以下である、タブ用アルミニウム合金板。
【請求項6】
請求項4に記載のタブ用アルミニウム合金板であって、
ケイ素(Si)の含有量が0.27質量%以上0.39質量%以下であり、
鉄(Fe)の含有量が0.35質量%以上0.55質量%以下であり、
銅(Cu)の含有量が0.17質量%以上0.25質量%以下であり、
マンガン(Mn)の含有量が0.75質量%以上0.95質量%以下であり、
マグネシウム(Mg)の含有量が2.2質量%以上2.8質量%以下である、タブ用アルミニウム合金板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タブ用アルミニウム合金板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから製造工程においてCO排出量の少ないアルミニウム合金板が求められている。アルミニウムの製造工程においてCOの排出に間接的に大きく寄与するのは鋳造工程におけるアルミニウム新地金の配合である。
【0003】
アルミニウム新地金の製造は、その精錬工程において大きな電力を使用し、大量のCO排出に繋がる。そのため、アルミニウム新地金の配合量を減らし、水平リサイクル率を上げることがアルミニウム合金板の製造にとってCO排出量削減に繋がる。
【0004】
一般的にアルミニウムスクラップを再溶解して鋳造した場合のCO排出量は、アルミニウム新地金を製造する場合に対して約30分の1まで抑えられると言われている。特に世界中で使用される飲料缶用アルミニウム合金板の生産量は非常に多く、その水平リサイクル率をさらに向上させることは環境負荷低減に大きな意味を持つ。
【0005】
その中でも、主に5182アルミニウム合金(AA5182合金)で形成されるタブは、3104アルミニウム合金(AA3104合金)で形成される缶胴に比べて、Si、Fe、Cu、Mn等の成分規格上限が低く、3104アルミニウム合金を混合した缶材由来のスクラップを配合しにくい。
【0006】
例えば、市中から発生する缶スクラップ(UBC:Used Beverage Can)をそのまま配合すると、缶胴と缶蓋との重量比から3104アルミニウム合金の成分をより多く含むため、5182アルミニウム合金の成分上限を超えやすくなり、新地金で成分を希釈する必要が出てくる。
【0007】
そのため、タブ用アルミニウム合金板は、缶胴用アルミニウム合金板に比べて新地金を多く使用して5182アルミニウム合金の成分に調整しており、リサイクル率が低い。したがって、タブを3104アルミニウム合金が配合しやすい成分の合金に変更することにより、タブの新地金使用率を大きく低減させることができる。
【0008】
特許文献1ではリサイクル性に優れる3104アルミニウム合金の成分に比較的近づけたタブ用アルミニウム合金板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平5-263175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
タブ用の合金を3104アルミニウム合金に近い成分にする場合の課題として、タブ折れ強度及び材料の靭性の低下が挙げられる。例えば、ステイオンタブのように梃の原理でスコア部を抉じ開けるようなメカニズムでは、開缶時にタブが折れ曲がる開缶不良が発生するおそれがある。
【0011】
タブ折れ強度とは、開缶時に、開缶不良が発生してタブが折れ曲がった場合の引き上げ部にかかった荷重の最大値であり、タブの折れ曲がりに対する抵抗力を表す指標となる。そのため、開缶不良を起こさないために、高いタブ折れ強度が求められる。
【0012】
一般的に板厚が大きくなるほど、また、材料の強度が大きくなるほどタブ折れ強度は増加する。そのため、タブにはMgを多く含有した高強度の5182アルミニウム合金が使用される。
【0013】
これに対し従来の3104アルミニウム合金をタブに使用するとタブ折れ強度が大きく低下し、開缶不良を起こすおそれが高くなる。また、タブ折れ強度を増加させるために板厚を大きくしすぎると、タブ重量の増加及びタブ原価の上昇を招く。
【0014】
また、材料の靭性はタブの成形性に影響する。材料の靭性が低いと、特にタブの曲げ加工部で成形割れが生じることがある。しかしながら、従来の3104アルミニウム合金の成分に比較的近づけたタブ用アルミニウム合金板は、上記2つの課題、すなわちタブ折れ強度と靭性(成形性)とのどちらか、もしくは両方を満足するものではない。
【0015】
本開示の一局面は、缶材由来のスクラップ原料を配合しつつ、高タブ折れ強度及び高靭性を両立できるタブ用アルミニウム合金板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の一態様は、ケイ素(Si)の含有量が0.20質量%以上0.60質量%以下であり、鉄(Fe)の含有量が0.30質量%以上0.70質量%以下であり、銅(Cu)の含有量が0.11質量%以上0.40質量%以下であり、マンガン(Mn)の含有量が0.7質量%以上1.2質量%以下であり、マグネシウム(Mg)の含有量が1.1質量%以上3.0質量%以下であり、残部がアルミニウム(Al)及び不可避的不純物からなり、板厚t(mm)と、圧延方向に対し0°方向における引張強さσB_0°(MPa)とが下記式(1)を満たし、L-ST断面において、面積が0.3μm以上のMgSi粒子の総面積の割合が0.2%以下である、タブ用アルミニウム合金板である。
(2.7×t-0.45)×σB_0°≧67 ・・・(1)
【0017】
このような構成によれば、缶材由来のスクラップ原料を配合しつつ、アルミニウム合金板において高タブ折れ強度及び高靭性を両立できる。すなわち、缶胴用の3104アルミニウム合金のスクラップを一定量配合でき、新地金使用率を低減しCO排出量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、繰り返し曲げ試験の模式図である。
図2図2は、L-ST断面の説明図である。
図3図3は、実施例における値Vとタブ折れ強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1-1.構成]
<組成>
本開示のタブ用アルミニウム合金板(以下、単に「合金板」ともいう。)は、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)及びマグネシウム(Mg)を含む。
【0020】
Siの含有量の下限としては、0.20質量%であり、0.27質量%が好ましい。Siの含有量が0.20質量%未満であると、熱間圧延及び溶体化処理後の冷間圧延の加工熱におけるSiの析出量が低下し、合金板の引張強さが不足するおそれがある。
【0021】
また、JIS-H-4000:2014で規格される3104アルミニウム合金のSi成分規格の平均値は、0.30質量%であり、JIS-H-4000:2014で規格される5182アルミニウム合金のSi成分規格の平均値は、0.10質量%である。そのため、Siの含有量を0.27質量%以上とすることで、3104アルミニウム合金のスクラップを多く配合できる。
【0022】
Siの含有量の上限としては、0.60質量%であり、0.39質量%が好ましい。Siの含有量が0.60質量%超であると、MgSiの固溶温度とAlマトリクスの固相線温度との差が小さくなり、鋳塊に存在するMgSiを均質化処理工程でより多く固溶させることが難しくなる。また、熱間圧延において、粗大なMgSiが新たに析出する。その結果、引張強さ及び靭性が低下する。
【0023】
さらに、Siの含有量を0.39質量%以下とすることで、MgSiを均質化処理工程で容易に固溶することができる。また、熱間圧延における粗大なMgSiの析出が抑制され、熱間圧延後の熱処理工程を実施することなく、良好な引張強さ及び靭性が得られる。
【0024】
Feの含有量の下限としては、0.30質量%であり、0.35質量%が好ましい。3104アルミニウム合金のFe成分規格の平均値は、0.40質量%であり、5182アルミニウム合金のFe成分規格の平均値は、0.18質量%である。そのため、Feの含有量を0.30質量%以上とすることで、3104アルミニウム合金のスクラップを多く配合できる。
【0025】
Feの含有量の上限としては、0.70質量%であり、0.55質量%が好ましい。Feの含有量が0.70質量%超であると、異常に粗大なAl-Fe-Mn系、又はAl-Fe-Mn-Si系の金属間化合物(つまりジャイアントコンパウンド)が増加する。その結果、亀裂の伝搬経路が生成され、合金板の靭性が低下する。
【0026】
さらに、Feの含有量を0.55質量%以下とすることで、Mgを多く添加した場合に上述した粗大な金属間化合物の晶出を抑えつつ、合金板の引張強さ及び靭性を補うことができる。
【0027】
Cuの含有量の下限としては、0.11質量%であり、0.17質量%が好ましい。Cuの含有量が0.11質量%未満であると、固溶又は析出によって強度を増加させるCuが不足し、合金板の引張強さが低下する。なお、熱間圧延及び溶体化処理後の冷間圧延の加工においてCuを析出させることで、合金板の引張強さは著しく増加する。
【0028】
また、3104アルミニウム合金のCu成分規格の平均値は、0.15質量%であり、5182アルミニウム合金のCu成分規格の平均値は、0.075質量%である。そのため、Cuの含有量を0.11質量%以上とすることで、3104アルミニウム合金のスクラップを多く配合できる。
【0029】
Cuの含有量の上限としては、0.40質量%であり、0.25質量%が好ましい。Cuの含有量が0.40質量%超であると、粗大な析出物が増加し、合金板の靭性が低下する。さらに、Cuの含有量を0.25質量%以下とすることで、合金板の靭性を大きく損なうことなく、引張強さを増加させることができる。
【0030】
Mnの含有量の下限としては、0.7質量%であり、0.75質量%が好ましい。Mnの含有量が0.7質量%未満であると、固溶又は析出によって強度を増加させるMnが不足し、合金板の引張強さが低下する。
【0031】
また、3104アルミニウム合金のMn成分規格の平均値は、1.1質量%であり、5182アルミニウム合金のMn成分規格の平均値は、0.35質量%である。そのため、Mnの含有量を0.75質量%以上とすることで従来の5182アルミニウム合金に比べ、3104アルミニウム合金のスクラップを多く配合できる。
【0032】
Mnの含有量の上限としては、1.2質量%であり、0.95質量%が好ましい。Mnの含有量が1.2質量%超であると、異常に粗大なAl-Fe-Mn系、又はAl-Fe-Mn-Si系の金属間化合物が増加する。その結果、亀裂の伝搬経路が生成され、合金板の靭性が低下する。
【0033】
Mgの含有量の下限としては、1.1質量%であり、2.2質量%が好ましい。Mgの含有量が1.1質量%未満であると、固溶によって強度を増加させるMgが不足し、合金板の引張強さが低下する。なお、熱間圧延及び溶体化処理後の冷間圧延の加工においてMgを析出させることで、合金板の引張強さが著しく増加する。
【0034】
Mgの含有量の上限としては、3.0質量%であり、2.8質量%が好ましい。3104アルミニウム合金のMg成分規格の平均値は、1.05質量%であり、5182アルミニウム合金のMg成分規格の平均値は、4.5質量%である。そのため、Mgの含有量を3.0質量%以下、好ましくは2.8質量%以下とすることで、3104アルミニウム合金のスクラップを多く配合しつつ、Mg含有原料の追加配合量を低減できる。
【0035】
合金板は、チタン(Ti)を含んでもよい。Tiの含有量の上限としては、0.10質量%が好ましい。Tiを含むことで、合金板の鋳塊組織が微細化される。また、合金板は、亜鉛(Zn)を含んでもよい。Znの含有量の上限としては、0.25質量%が好ましい。さらに、合金板は、クロム(Cr)を含んでもよい。Crの含有量の上限としては、0.10質量%が好ましい。
【0036】
合金板は、合金板の性能を著しく損なわない範囲で、不可避的不純物を含んでもよい。つまり、合金板は、Si、Fe、Cu、Mn、Mg、Ti、Zn及びCrをそれぞれ上述の範囲で含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物の総量の上限としては、0.15質量%が好ましい。
【0037】
<板厚、材料強度及びタブ折れ強度>
本開示の合金板では、板厚t(mm)と、圧延方向に対し0°方向における引張強さσB_0°(MPa)とが下記式(1)を満たす。
V=(2.7×t-0.45)×σB_0°≧67 ・・・(1)
【0038】
アルミニウム合金製タブのタブ折れ強度の値は、経験的にアルミニウム合金板の材料強度と板厚とで表される値V(つまり式(1)の左辺)と正の相関が強い。そのため、値Vが67以上であることで、十分なタブ折れ強度を有するタブを成形することができる。
【0039】
また、引張強さσB_0°は、330MPa以上であるとよい。これにより、合金板の板厚を大きく増加させることなく、十分なタブ折れ強度の値を有するタブを成形することができる。
【0040】
V値とタブ折れ強度との関係に関する力学的な意味は以下のように説明できる。すなわち、開缶のためタブを引き上げた際に、タブにかかる荷重に対してタブの抵抗力が低いと、正常にスコアが開口される前に局所的な材料の降伏により塑性変形が開始する。タブ折れは、この塑性変形が進行することでタブが折れ曲がる現象である。
【0041】
タブにおいて、タブの折れ曲がりが発生する位置における曲げ稜線と平行な断面について考えると、タブの引き上げによって断面にかかる曲げモーメントに対する抵抗力は、断面形状に固有の値である断面係数及び材料の降伏強度である0.2%耐力σ0.2が高いほど大きくなる。
【0042】
上述の断面における断面係数は、例えば一般的なDRT社タイプのステイオンタブ形状のように一定の形状を有するタブであれば、板厚が大きいほど高くなる。そのため、タブ折れにおいて材料の降伏及び塑性変形による折れ曲がりの開始のしやすさは、板厚と材料の0.2%耐力σ0.2とにより説明することができる。
【0043】
なお、タブ折れは塑性変形が進行し、タブが折れ曲がることまでを含む現象であるため、塑性変形中の材料の加工硬化を考慮する必要がある。0.2%耐力σ0.2が低く、塑性変形の開始が早い場合でも、塑性変形中の加工硬化量が大きければ塑性変形の進行が抑制されタブが折れ曲がりにくくなる。
【0044】
そのため、0.2%耐力σ0.2に変えて加工硬化までを含めた材料強度を表す指標として引張強さσB_0°を導入し、板厚tと引張強さσB_0°で表される値Vとを用いることでアルミニウム合金板のタブ折れ性を評価することができる。
【0045】
式(1)における引張強さσB_0°は、JIS-Z-2241:2011に規定されている方法で測定される。板厚tは、例えばマイクロゲージで測定される。
【0046】
アルミニウム合金板のタブ折れ強度は、例えば以下の手順で測定される。アルミニウム合金板から成形したシェルに対してスコア加工以外のコンバージョン加工を実施し、スコアの無いエンドとして缶蓋を成形する。さらに、アルミニウム合金板から成形したタブを缶蓋に取り付ける。この缶蓋を治具に固定し、タブを引き上げる。このとき引き上げ部に加わった最大荷重の値をタブ折れ強度とする。
【0047】
具体的には、タブの成形には一般的なDRT社タイプのステイオンタブ形状タブ金型を用いる。シェルの成形には、例えばφ204Fullform(B64)形状シェル金型を用いる。タブ折れ強度の測定は、例えばリード測器有限会社の開口試験機ポップ・ティアーテスターを用いる。
【0048】
より詳細には、専用の治具で成形した、スコアが無くタブが取り付けられた缶蓋を治具に固定する。その後、タブの引き上げ部に荷重付与用の治具を取り付け、蓋のパネル部に対して垂直な方向にタブが塑性変形しない大きさの荷重をかけた状態で荷重付与用の治具を固定する。この状態で30°/secの回転速度で蓋を回転させることでタブを引き上げ、折り曲げる。回転角度90°までの範囲で、タブの引き上げ部にかかる荷重の最大値を読み取る。
【0049】
<靭性>
タブの成形性には、アルミニウム合金板の靭性が影響することが知られている。
【0050】
(繰り返し曲げ回数)
アルミニウム合金板の靭性の評価指標の一つとして、繰り返し曲げ試験がある。板厚が同じであれば繰り返し曲げ回数が多いほど、アルミニウム合金板は靭性に優れる。
【0051】
繰り返し曲げ試験は、以下の手順で行われる。例えば図1に示すように、幅12.5mm、長さ200mmの短冊状に切り出した試験片を、曲げ稜線Rが合金板の圧延方向Dと平行となる向きに配置する。この試験片の両端をチャックで固定し、荷重200Nで張力をかける。
【0052】
この状態で、一方の不動のチャックに固定された試験片端部から、試験片の長手方向150mmの位置に配置した曲げR2.0mmの治具を支点として、他方のチャックを左右に90°回転させることで繰り返し曲げを行い、試験片が破断するまでの曲げ回数を測定する。
【0053】
曲げ回数は、左右どちらかに90°曲げる操作、及び元の位置に戻す操作をそれぞれ1回とカウントする。途中で破断した場合、その角度Θ(0°-90°)を読み取り、下記式(2)で繰り返し曲げ回数Nを計算する。式(2)中、Nは、左右どちらかに90°曲げる操作、及び90°曲げた位置から元の0°位置に戻す操作を、試験片が破断するまでに実行した回数の合計である。
N=N+Θ/90 ・・・(2)
【0054】
繰り返し曲げ評価は、板厚が大きい程不利になるため基準となる板厚で補正して考える必要がある。そこで、板厚0.245mmを基準として下記式(3)により規格化された規格化繰り返し曲げ回数Nを求める。なお、t(mm)は試験片の板厚である。
=N×t/0.245 ・・・(3)
【0055】
本開示のアルミニウム合金板の規格化繰り返し曲げ回数Nとしては、11.7回以上が好ましく、15.0回以上がより好ましい。
【0056】
(第二相粒子)
靭性には強度と第二相粒子の分布とが影響する。つまり、強度が高いほど、また、面積の大きい第二相粒子の密度が高いほど、靭性が低下する。特にMg及びSiの含有量が高くなると、MgSi粒子が形成されやすくなる。その結果、MgSi粒子が亀裂の起点及び伝播経路となり靭性の低下に影響する。
【0057】
本開示のアルミニウム合金板は、図2に斜線で示す、L-ST断面の板厚の中央領域において、面積が0.3μm以上のMgSi粒子の総面積の割合が0.2%以下であることが好ましい。なお、図2において、Lは長手方向、STは板厚方向、LTは幅方向を示す。
【0058】
MgSi粒子の面積割合は、例えば以下の方法で測定できる。まず、測定サンプルを切断し、測定を行う面(つまりL-ST断面)を鏡面状に機械研磨する。次に、研磨面(つまりL-ST断面)をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察し、板厚の中央領域で10個の視野を得る。SEMの加速電圧は15kV、倍率は500倍とし、1つの視野の範囲を0.049mmとして撮影を行い、COMPO(反射電子組成)像を取得する。
【0059】
撮影したCOMPO像に対し、画像解析ソフト「ImageJ」により解析を行う。具体的には、256階調での画像の輝度の最頻値をバックグラウンドの輝度とし、最頻値の輝度から30減じた値よりも低い輝度の粒子をMgSi粒子と判定する。
【0060】
判定されたMgSi粒子のうち、0.3μm以上の面積を持つ粒子の総面積を計算し、10視野分の撮影面積(つまり撮影した総面積)で除することで、面積が0.3μm以上のMgSi粒子のL-ST断面における総面積の割合が算出される。
【0061】
<強度異方性>
冷間圧延率(以下、冷延率と略記する)の低い材料は靭性が高いことが知られている。冷延率が高いほど、圧延方向に対し90°方向の0.2%耐力σ0.2_90°が、0°方向の0.2%耐力σ0.2_0°に比べて大きくなる。そのため、圧延方向に対し0°方向と90°方向とにおける0.2%耐力の差、すなわち強度異方性を材料の冷延率と対応付けることができる。
【0062】
本開示の合金板は、式(4)で求められる、圧延方向に対し0°方向の0.2%耐力σ0.2_0°から、圧延方向に対し90°方向の0.2%耐力σ0.2_90°を引いた値Dが-4MPa以上であることが好ましい。
D=σ0.2_0°-σ0.2_90° ・・・(4)
【0063】
式(4)における0.2%耐力σ0.2_0°,σ0.2_90°は、JIS-Z-2241:2011に規定されている方法で測定される。
【0064】
圧延方向に対し0°方向の0.2%耐力σ0.2_0°から、圧延方向に対し90°方向の0.2%耐力σ0.2_90°を引いた強度異方性の材料組織的な意味は以下のように説明できる。
【0065】
熱間圧延後又は焼鈍後の材料は再結晶状態であり、等方なcube方位の集積度が高い。ここから冷間圧延による塑性変形によって、cube方位が圧延方向に異方性を持つ圧延集合組織に変形していく。さらに、冷延率が大きいほど、結晶粒は圧延方向に細長く伸ばされるため、圧延方向に対し0°方向に対する結晶粒の径は大きくなる一方で、圧延方向に対し90°方向に対する結晶粒の径の変化は0°方向に比べて小さくなる。
【0066】
これらの圧延により生じる組織的な変化と、0.2%耐力σ0.2との関係はホールペッチの式を参考にすると式(5)の関係を示す。式(5)中、κは結晶粒界の滑りに対する抵抗、dは結晶粒径である。
σ0.2∝κ×d-1/2 ・・・(5)
【0067】
圧延方向に対し0°方向又は90°方向への引張応力に対して、抵抗κは異なる値となる。これは冷延率の増加に対して、圧延方向に異方性を持つ圧延集合組織の集積度が高くなることで、引張方向によって結晶粒界の滑りに対する抵抗が変化するためである。
【0068】
また、圧延方向に対し0°方向では冷延率の増加に対して結晶粒が伸長して径が大きくなる一方で、圧延方向に対し90°方向では冷延率に対する結晶粒径の変化は相対的に小さい。これらの影響が積算されることで冷延率の増加に対して強度異方性が生じる。
【0069】
<アルミニウム合金板の製造方法>
本開示のアルミニウム合金板は、例えば、以下のように製造することができる。まず、本開示のアルミニウム合金板の組成を有するアルミニウム合金に対し、常法にしたがって半連続鋳造法(つまりDC鋳造)を用い、鋳塊を製造する。
【0070】
次に、鋳塊の前後端を除く4面を面削する。その後、鋳塊を均熱炉に投入して均質化処理を行う。均質化処理における温度は、530℃以上、Alマトリクスの固相線温度以下が好ましい。
【0071】
均質化処理温度が530℃以上であれば、均質化処理温度がMgSiの固溶温度より十分に高くなるため、鋳塊に晶出又は析出した第二相粒子であるMgSiの存在量を少なくすることができる。これにより、アルミニウム合金板の引張強さ及び靭性がともに向上する。さらに、均質化処理温度を550℃以上とすることで、MgSiの存在量を極めて少なくすることができる。
【0072】
一方、均質化処理における温度がAlマトリクスの固相線温度以下である場合、局部溶融が生じることなくアルミニウム合金板を製造することができる。均質化処理温度としては、Alマトリクスの固相線温度より10℃以上低い温度がより好ましい。これにより、局部融解を生じることなく安定してアルミニウム合金板を生産することができる。
【0073】
MgSiの固溶温度及びAlマトリクスの固相線温度はアルミニウム合金の組成によって一意的に決まる。例えば、Sente Software社により開発された熱力学計算ソフトウェアである「JMatPro」にアルミニウム合金の組成を入力して平衡状態図を計算することで、これらの温度を求めることができる。熱力学モデルの計算には、CALPHAD法が用いられる。
【0074】
均質化処理の時間は、例えば1時間以上20時間以下が好ましい。均質化処理の時間が1時間以上である場合、スラブ全体の温度が均一になり、鋳塊組織の偏析も解消しやすく、MgSi粒子を再固溶させやすい。均質化処理時間が長いほど、MgSi粒子を再固溶させることができる。ただし、均質化処理の時間が20時間を越えると、均質化処理の効果が飽和する。
【0075】
均質化処理後、鋳塊を熱間圧延に供する。熱間圧延工程は、粗圧延工程と、仕上圧延工程とを有する。粗圧延工程では、リバース圧延によって、鋳塊を約数十mmの厚さの板材に加工する。仕上圧延工程では、例えばタンデム圧延等によって、板材の厚さを約数mmに落とすと共に、板材をコイル状に巻き取った熱間圧延コイルを形成する。
【0076】
仕上圧延の総圧下率が高いと、巻き取り後に再結晶組織となり等方なcube方位の集積度を高めることができる。仕上圧延の巻取温度が高いと、巻き取り後に再結晶組織となりcube方位の集積度を高めることができる。
【0077】
また、熱間圧延コイルを中間焼鈍(つまり溶体化処理)し、Mgなどを再固溶させることで引張強さの高い合金板を得ることができる。例えば、連続焼鈍炉(CAL)を用いて目標実体温度440℃以上30秒以上の熱処理(つまり焼鈍)を実施し、その後、空冷などで強制冷却することで、合金板の引張強さを効果的に増加させることが可能である。
【0078】
熱間圧延に続いて板材の冷間圧延を行う。冷間圧延では、製品板厚となるまで熱間圧延コイルを圧延する。冷間圧延は、シングル圧延及びタンデム圧延のどちらであってもよい。シングル圧延による冷間圧延では2パス以上の複数回に分けて圧延を実施するとよい。
【0079】
また、冷間圧延途中のコイルを中間焼鈍しMgなどを再固溶させることで、材料の引張強さを高くしつつ、最終的な冷延率を下げて材料の異方性を抑制した合金板を得ることができる。例えば連続焼鈍炉を用いて目標実体温度440℃以上の熱処理(つまり焼鈍)を実施し、その後、空冷などで強制冷却することで、合金板の引張強さを効果的に増加させることが可能である。なお、熱間圧延コイル及び冷間圧延途中のコイルに対する中間焼鈍は、任意である。
【0080】
また、最終パス以外の途中パスにおける冷間圧延の上がり温度を120℃以上とすることで、Si、Cu及びMgが微細析出し、時効硬化するため、合金板の引張強さを増加させることができる。さらに上がり温度を130℃以上とすることで、合金板の引張強さをより増加させることができる。
【0081】
冷間圧延途中に溶体化処理をしない場合、冷延率(つまり狙いの総圧下率)は、75%以上が好ましい。冷延率が75%以上である場合、合金板の引張強さを高められる。また、冷延率が低いほど、cube方位が残存するため、冷延率は92%以下が好ましい。
【0082】
冷間圧延途中に溶体化処理を行う場合、冷延率(つまり溶体化処理後における狙いの総圧下率)は、45%以上が好ましい。冷延率が45%以上である場合、溶体化処理によってMgなどを再固溶させることで冷延率を低くして、合金板の引張強さを高められる。また、冷延率が低いほど、cube方位が残存するため、冷延率は80%以下が好ましい。
【0083】
冷延率R(%)は、熱間圧延後又は溶体化処理後の板厚t(mm)、冷間圧延後の製品板厚t(mm)を用いて、下記式(6)で求められる。
R=(t-t)/t×100 ・・・(6)
【0084】
製品板厚は所望のタブ折れ強度が得られるよう適宜選択することができる。製品板厚は、式(1)を満たすように選択される。上述のように、本開示のアルミニウム合金板によればタブ折れ強度を高く保つための板厚の増加を抑えることができる。
【0085】
製品板厚まで冷間圧延したコイルに対し、塗装ラインなどでプレコートを実施してもよいし、実施しなくてもよい。プレコートを実施する場合、冷間圧延されたコイルは、表面に対する脱脂、洗浄、及び化成処理が施され、さらに塗料が塗布された後、塗装焼付処理される。
【0086】
化成処理では、クロメート系、ジルコニウム系等の薬液が用いられる。塗料は、エポキシ系、ポリエステル系等が用いられる。これらは用途に合わせて選択可能である。塗装焼付処理ではコイルの実体温度(PMT:Peak Metal Temperature)で220℃以上270℃以下、およそ30秒以内の間、加熱される。このときPMTが低いほど、材料の回復が抑制され、合金板の引張強さを高く維持することができる。
【0087】
[1-2.効果]
以上、詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)缶材由来のスクラップ原料を配合しつつ、アルミニウム合金板において高タブ折れ強度及び高靭性を両立できる。すなわち、缶胴用の3104アルミニウム合金のスクラップを一定量配合でき、新地金使用率を低減しCO排出量を削減できる。
【0088】
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0089】
(2a)本開示には、上記実施形態のアルミニウム合金板以外に、このアルミニウム合金板で構成される部材、及びこのアルミニウム合金板の製造方法等の種々の形態も含まれる。
【0090】
(2b)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載の文言から特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0091】
[3.実施例]
以下に、本開示の効果を確認するために行った試験の内容とその評価結果とについて説明する。
【0092】
<アルミニウム合金板の製造>
実施例及び比較例として、表1及び表2に示すS1-S17のアルミニウム合金板を製造した。具体的な製造手順を以下に説明する。
【0093】
まず、0.32質量%のSiと、0.43質量%のFeと、0.22質量%のCuと、0.80質量%のMnと、2.6質量%のMgとを含有し、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなる鋳塊を半連続鋳造法により製造した。鋳塊は、0.10質量%以下のTi、0.25質量%以下のZn、0.10質量%以下のCr、及び0.15質量%以下の不可避的不純物を含む。
【0094】
次に、鋳塊の前後端を除く4面を面削した。その後、鋳塊を炉に入れ、均質化処理を行った。均質化処理の温度は、表1に示す通りである。均質化処理後、炉から鋳塊を出し、すぐに熱間圧延を開始して圧延板とした。
【0095】
さらに、S1-S8については、熱間圧延後の圧延板に対し、表1に示す板厚になるまで冷間圧延を実施した。冷間圧延後、圧延板に対し、中間焼鈍を実施した。中間焼鈍時の温度は表1に示す通りであり、時間は30秒とした。中間焼鈍後、圧延板を空冷で室温まで冷却した。冷却後、圧延板に対し再度冷間圧延を実施した。中間焼鈍後の冷間圧延における狙いの冷延率は表1に示す通りである。
【0096】
S9-S14については、熱間圧延後の圧延板に対し、中間焼鈍を実施した。中間焼鈍時の板厚及び温度は表1に示す通りであり、時間は30秒とした。中間焼鈍後、圧延板に対し、圧延板を空冷で室温まで冷却した。冷却後、圧延板に対し冷間圧延を実施した。冷間圧延における狙いの冷延率は表1に示す通りである。
【0097】
S15-S17については、熱間圧延後の圧延板に対し、焼鈍を行わずに冷間圧延を実施した。冷間圧延における狙いの冷延率は、表1に示す通りである。
【0098】
S1-S17における冷間圧延後の製品板厚(つまり式(6)におけるt)はおよそ0.330±0.05mmの範囲とした。
【0099】
S1-S14、S16、S17において、冷間圧延後、板面に塗料を塗布し、約30秒間の塗装焼付処理を実施した。塗装焼付時の実体温度(PMT)は表1に示す通りである。S15では、塗布及び焼付は行わなかった。これらにより、S1-S17のアルミニウム合金板が得られた。また、S1-S17のアルミニウム合金板において、マイクロゲージにより測定した板厚(つまり製品板厚)を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
【表2】
【0102】
<アルミニウム合金板の評価>
(引張特性)
S1-S17のアルミニウム合金板からJIS-Z-2241:2011に規定される5号試験片をフライス加工によって2つずつ作製した。2つの試験片の長手方向は、それぞれ、圧延方向に対して0°及び90°の角度をなす方向に延びる。
【0103】
これらの試験片について、JIS-Z-2241:2011に準拠して引張試験を行い、0.2%耐力及び引張強さを測定した。圧延方向に対し0°方向における引張強さσB_0°の測定結果と、圧延方向に対し0°方向の0.2%耐力σ0.2_0°及び圧延方向に対し90°方向の0.2%耐力σ0.2_90°の測定結果とを表2に示す。
【0104】
また、板厚及び引張強さの測定結果から、式(1)の値V=(2.7×t-0.45)×σB_0°を算出した。計算結果を表2に示す。
【0105】
(靭性)
S1-S17のアルミニウム合金板において、実施形態において説明した測定方法により、面積が0.3μm以上のMgSi粒子のL-ST断面における総面積の割合(面積率)を算出した。その測定結果を表2に示す。
【0106】
S1-S17のアルミニウム合金板において、実施形態において説明した測定方法と、式(2)及び式(3)とから、規格化繰り返し曲げ回数を算出した。その結果を表2に示す。
【0107】
(強度異方性)
S1-S17のアルミニウム合金板において、実施形態において説明した式(4)から強度異方性(つまり値D)を算出した。その結果を表2に示す。
【0108】
(スクラップ配合率)
S1-S17のアルミニウム合金板の組成に関し、3104アルミニウム合金のスクラップの可能配合率が50質量%以上となるか否か判断した。その結果を表2に示す。
【0109】
表2中、「≧50」とされているアルミニウム合金板は、3104アルミニウム合金を50質量%以上配合することが可能である。なお、3104アルミニウム合金のスクラップの可能配合率は、表3に基づいて判断される。
【0110】
表3は、3104アルミニウム合金と5182アルミニウム合金との配合比率と、成分規格の平均値との対応を表している。表3の1行目は、3104アルミニウム合金の成分規格の平均値であり、2行目は、5182アルミニウム合金の成分規格の平均値である。
【0111】
例えば、3104アルミニウム合金の配合割合が50質量%の場合、Siの平均値は0.20質量%、Feの平均値は0.29質量%、Cuの平均値は0.11質量%、Mnの平均値は、0.7質量%、Mgの平均値は2.8質量%となる。
【0112】
したがって、アルミニウム合金板の各成分の割合が上記のSi、Fe、Cu、Mn、Mgの数値以上であるとき、3104アルミニウム合金板の可能配合率が50質量%以上となる。3104アルミニウム合金の配合割合が大きくなるほど、Si、Fe、Cu、及びMnの含有量は上がり、Mgの含有量は下がる。S1-S17のアルミニウム合金板は、3104アルミニウム合金のスクラップを50質量%以上配合可能である。
【0113】
【表3】
【0114】
(タブ折れ強度)
S1-S17のアルミニウム合金板とは別に、板厚及び引張強さの異なる複数のアルミニウム合金板を用意し、実施形態に記載した測定方法によりそれぞれのタブ折れ強度を測定した。
【0115】
この測定結果と、アルミニウム合金板の板厚t、圧延方向に対して0°方向の引張強さσB_0°及び式(1)の値V=(2.7×t-0.45)×σB_0°の関係を表4及び図3に示す。また、タブ折れ強度を測定したアルミニウム合金板の成分を表5に示す。
【0116】
図3から、値Vとタブ折れ強度との間に高い相関関係があることが確認された。なお、図3は一般的なDRT社タイプのステイオンタブ形状のタブを用いた結果だが、他形状のタブについても同様の傾向が得られる。
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
表2に示すように、S1-S17のいずれのアルミニウム合金板においても、タブ折れ強度との相関が強い値Vは67以上であり、高いタブ折れ強度を得られる板厚及び引張強さを有することが確認された。
【0120】
また、S1-S17のいずれのアルミニウム合金板においても、圧延方向に対して0°方向の引張強さσB_0°が330MPa以上であり、板厚の過度な増加を抑制しつつ高いタブ折れ強度を保つことができる。
【0121】
均質化処理温度を高くしたS1-S11、S15-S17のアルミニウム合金板は、高い引張強さと規格化繰り返し曲げ回数とを示した。例えば、S9-S11のアルミニウム合金板は、S12-S14のアルミニウム合金と比較して、均質化処理温度が高いため、工程及び塗装焼付温度が同じあっても、引張強さ及び繰り返し曲げ回数が高い。
【0122】
また、塗装焼付温度(PMT)が低いほど、合金板の引張強さは高くなった。例えば、S1とS2、S5とS6、S7とS8、S9-S11それぞれ、S12-S14それぞれ、及びS16とS17を比較すると、塗装焼付温度が低い実施例ほど、圧延方向に対して0°方向の0.2%耐力σ0.2_0°、圧延方向に対して90°方向の0.2%耐力σ0.2_90°、及び圧延方向に対して0°方向の引張強さσB_90°が高い値を示した。
【0123】
均質化処理温度を550℃以上としたS1-S11、S15-S17のアルミニウム合金は、MgSi粒子の面積率が他の実施例に比べて小さく、0.2%以下であった。そのため、S9-S11のアルミニウム合金板とS12-S14のアルミニウム合金板とを比較すると、S9-S11のアルミニウム合金の圧延方向に対して0°方向の引張強さがS12-S14のアルミニウム合金板よりも高いにも関わらず、S9-S11のアルミニウム合金は、S12-S14のアルミニウム合金板よりも規格化繰り返し曲げ回数が多かった。
【0124】
繰り返し曲げ回数は引張強さによっても異なり、MgSi粒子の面積率が比較的小さく、かつ冷圧率が同じであるS9、S11のアルミニウム合金板を比較すると、引張強さが相対的に低いS11のアルミニウム合金板は、S9のアルミニウム合金板よりも規格化繰り返し曲げ回数が高いことが分かる。
【0125】
規格化繰り返し曲げ回数は材料組織の異方性によっても異なり、例えば強度異方性が-4MPa以上であるS1、S2、S5のアルミニウム合金板と、-4MPa未満であるS9-S11のアルミニウム合金板とを比較すると、引張強さは比較的近いものの、S1、S2、S5の繰り返し曲げ回数は、S9-S11に比べて非常に高い。
【0126】
また、強度異方性が-4MPa以上であるS3、S4、S6-S8のアルミニウム合金板と-4MPa未満であるS15-S17のアルミニウム合金板とを比較すると、引張強さは比較的近いものの、S3、S4、S6-S8の繰り返し曲げ回数は、S15-S17に比べて非常に高い。
【要約】
【課題】缶材由来のスクラップ原料を配合しつつ、高タブ折れ強度及び高靭性を両立できるタブ用アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】本開示の一態様は、Siが0.20質量%以上0.60質量%以下、Feが0.30質量%以上0.70質量%以下、Cuが0.11質量%以上0.40質量%以下、Mnが0.7質量%以上1.2質量%以下、Mgが1.1質量%以上3.0質量%以下であり、板厚t(mm)と、圧延方向に対し0°方向における引張強さσB_0°(MPa)とが下記式(1)を満たし、L-ST断面において、面積が0.3μm以上のMgSi粒子の総面積の割合が0.2%以下であるタブ用アルミニウム合金板である。
(2.7×t-0.45)×σB_0°≧67 ・・・(1)
【選択図】なし
図1
図2
図3