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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/02 20060101AFI20240116BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20240116BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240116BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20240116BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C09D133/02
C09D5/16
C09D7/63
B05D5/00 H
B05D7/24 303E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023552304
(86)(22)【出願日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2023027478
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2022120012
(32)【優先日】2022-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023029284
(32)【優先日】2023-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(72)【発明者】
【氏名】隅田 翔
(72)【発明者】
【氏名】藤木 豊
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-055024(JP,A)
【文献】特開2019-199600(JP,A)
【文献】国際公開第2016/084769(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/003136(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属エステル基を含有する加水分解性重合体(A)、メデトミジン(B)、トラロピリル(C)、銅ピリチオン(D)、および直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸(E)を含有し、
前記重合体(A)が、下記式(1)で表される金属エステル基含有単量体(a1)に由来する構成単位を含む、
防汚塗料組成物。
【化1】
(式(1)中、R11はそれぞれ独立に、末端エチレン性不飽和基を含有する1価の基を示し、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。)
【請求項2】
前記重合体(A)が、下記式(1')で表される金属エステル基含有単量体(a1)を含む、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【化2】
【請求項3】
前記アルキルカルボン酸(E)がバーサチック酸である、請求項1または2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項4】
前記銅ピリチオン(D)100質量%に対し、前記メデトミジン(B)の含有量が0.1~100質量%、前記トラロピリル(C)の含有量が10~1700質量%であり、且つ、
前記防汚塗料組成物の固形分100質量%に対し、銅ピリチオン(D)の含有量が0.5~12質量%である、請求項1または2に記載の防汚塗料組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
【請求項6】
基材と、請求項5に記載の防汚塗膜とを有する、防汚塗膜付き基材。
【請求項7】
前記基材が、船舶、水中構造物、及び漁業資材よりなる群から選択される、請求項6に記載の防汚塗膜付き基材。
【請求項8】
請求項1または2に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸し、塗布体又は含浸体を得る工程(1)、及び前記塗布体又は含浸体を乾燥する工程(2)を含む、防汚塗膜付き基材の製造方法。
【請求項9】
基材の少なくとも一部に、請求項5に記載の防汚塗膜を形成する工程を含む、基材の防汚方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材、防汚塗膜付き基材の製造方法および基材の防汚方法に関する。より詳しくは、本発明は、加水分解性重合体、防汚剤等の特定の成分を含む、防汚塗料組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
水棲生物等による、船舶等の基材の汚損を防ぐ方法として、加水分解性重合体を含む防汚塗膜を基材表面に形成する方法が広く利用されている。このような防汚塗膜として、金属エステル基を含有する重合体を含む防汚塗料が、種々検討されてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属エステル基を含有する重合体と、メデトミジンを少なくとも含み任意で銅ピリチオン、2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロール(別名:トラロピリル)等をさらに含んでもよい防汚剤とを含有する防汚塗料組成物が開示されており(特許請求の範囲等)、そのような防汚塗料組成物から「船舶・水中構造物等で安定した塗膜消耗度を有し、且つ長期間に亘って優れた防汚性を発揮する防汚塗膜」を形成することができると記載されている。
【0004】
特許文献2には、金属エステル基を含有する加水分解性重合体と、バーサチック酸を含む三級カルボン酸成分と、防汚剤成分、例えば4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(別名:トラロピリル)とを含有する防汚塗料組成物が開示されており(特許請求の範囲等)、そのような防汚塗料組成物から「長期間に亘って優れた塗膜消耗度および防汚性を有し、耐候性などの塗膜物性に優れ、かつ、劣化した塗膜上に形成されても発泡(フクレ)が生じにくい防汚塗膜」を形成することができると記載されている。
【0005】
特許文献3には、金属エステル基を含有する加水分解性重合体と、特定量の酸化亜鉛と、メデトミジンとを含有する防汚塗料組成物が開示されており(特許請求の範囲等)、そのような防汚塗料組成物から「長期間にわたって高い防汚性が維持され、耐ダメージ性に優れた防汚塗膜」が形成できると記載されている。
【0006】
特許文献4には、それぞれ特定量の、特定の金属カルボキシレート構造を有する樹脂と、メデトミジンおよび4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(別名:トラロピリル)を少なくとも含み、任意で銅ピリチオン等をさらに含んでもよい防汚剤とを含有する防汚塗料組成物が開示されており(特許請求の範囲等)、そのような防汚塗料組成物から「亜酸化銅を使用せずとも長期の防汚性を確保できる」塗膜が形成できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2011/118526号
【文献】WO2016/084769号
【文献】WO2018/003135号
【文献】特開2020-100794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、特許文献1~4に記載されているような、一定水準の防汚性能を有するとされていた従来の加水分解性防汚塗膜(例えば、特許文献1に記載されている、メデトミジンを含有する加水分解性防汚塗膜)であっても、高汚損海域での低速・低稼働時や入渠待ちの岸壁係留期間において、フジツボ、コケムシ、セルプラ等、動物種の付着が確認されるケースが報告されるようになった。そのため、特に新造船を建造する際の艤装工程において、静置防汚性と、運航後の停泊時の防汚性(長期動的浸漬後の静置防汚性)を兼ね備えた塗料が必要とされるようになってきている。さらに、COVID-19の世界的な流行の影響により、長期停泊する船舶や稼働率が低下する船舶が増えているだけでなく、異常気象や海洋環境の変化により、船舶の汚損リスクは増加している。このような船舶の汚損リスクに対応するため、長期停泊する船舶、さらには運航後に停泊する長期船舶に対しても優れた防汚性を有する塗料組成物の開発が強く求められている。
【0009】
一方、新造船の建造は、船体ブロック工法が一般的に行われている。そのエレクション工程(船体ブロックの接合工程)等において、溶接シーム周辺をパワーツールで塗膜表面を目荒らしする際、従来の防汚塗膜は、下塗りの防食塗膜に対する付着性や、その塗膜物性(硬度)等に起因すると推測される、塗膜片の剥離や飛散が発生するといった問題があった。また、一般的に、耐用期間が経過した防汚塗膜は、船舶等の構造物を陸上(例:船渠)に引き上げて補修(修繕)塗装される。しかし、この補修塗装中は、船舶が使用できないだけでなく、船渠等の使用料も高額であることから、短い期間で完了することが経済的に強く求められている。そのため、使用前の健全な防食塗膜等の下塗りに対する付着性だけでなく、補修対象の劣化した防汚塗膜(旧防汚塗膜)に対して直接塗装することができる(つまり旧防汚塗膜を除去する必要がない)優れた付着性を有することも重要である。
【0010】
本発明は、(1)防汚性として、防汚塗膜に対して一般的に要求される静置防汚性と、運行後の停泊時の船舶等(劣化、変質または消耗した防汚塗膜)に要求される長期動的浸漬後の静置防汚性の両方に優れると共に、(2)使用前(海水浸漬前)の健全な防食塗膜等(下塗り塗膜または中塗り塗膜)に対する付着性およびパワーツール処理時の塗膜の剥離耐性と、使用後(海水浸漬後)の旧防汚塗膜に対する付着性、のいずれにも優れる防汚塗膜を形成することができる、防汚塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特定の金属エステル基を含有する加水分解性重合体と、特定の3種類の防汚剤、すなわちメデトミジン、トラロピリルおよび銅ピリチオンと、特定のアルキルカルボン酸、例えばバーサチック酸とを必須成分とすることにより、上記の課題を解決することのできる防汚塗料組成物を調製することができることを見出し、本発明を完成させた。これらの成分は、個々に、または部分的に組み合わされて、従来の防汚塗料組成物においても使用されているが、これら全ての成分を組み合わせて用いることによって、上記のような様々な性能をバランスよく満たし、新たな課題を解決できる防汚塗料組成物となること、特に、従来の防汚塗料組成物において、同等物または代替物として扱われている類似の成分であっても、特定のものを選択することで、他のものを選択したときには奏されない効果を達成できることは、予測することのできない意外なことであった。従来技術の寄せ集めでは、個別の性能またはいくつかの性能を満たすことはできるかもしれないが、特定の成分を選択して組み合わせることによって、特定の性能を損なうことなく様々な性能を同時にバランスよく満たすことのできる本発明の防汚塗料組成物は、本発明者以外の当業者が容易になし得なかったことである。
【0012】
すなわち、本発明は少なくとも下記の事項を包含する。
[項1]
金属エステル基を含有する加水分解性重合体(A)、メデトミジン(B)、トラロピリル(C)、銅ピリチオン(D)、および直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸(E)を含有し、
前記重合体(A)が、下記式(1)で表される金属エステル基含有単量体(a1)に由来する構成単位および/または下記式(2)で表される金属エステル基含有単量体(a2)に由来する構成単位を含む、
防汚塗料組成物。
【化1】
(式(1)中、R11はそれぞれ独立に、末端エチレン性不飽和基を含有する1価の基を示し、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。)
【化2】
(式(2)中、R21は、末端エチレン性不飽和基を含有する1価の基を示し、R22は末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1~30の1価の有機基を示し、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。)
[項2]
前記重合体(A)が、下記式(1’)で表される金属エステル基含有単量体(a1)を含む、項1に記載の防汚塗料組成物。
【化3】
(式(1’)中、R12はそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示し、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。)
[項3]
前記アルキルカルボン酸(E)がバーサチック酸である、項1または2に記載の防汚塗料組成物。
[項4]
前記銅ピリチオン(D)100質量%に対し、前記メデトミジン(B)の含有量が0.1~100質量%、前記トラロピリル(C)の含有量が10~1700質量%であり、且つ、
前記防汚塗料組成物の固形分100質量%に対し、銅ピリチオン(D)の含有量が0.5~12質量%である、項1~3のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
[項5]
項1~4のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
[項6]
基材と、項5に記載の防汚塗膜とを有する、防汚塗膜付き基材。
[項7]
前記基材が、船舶、水中構造物、及び漁業資材よりなる群から選択される、項6に記載の防汚塗膜付き基材。
[項8]
項1~4のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸し、塗布体又は含浸体を得る工程(1)、及び前記塗布体又は含浸体を乾燥する工程(2)を含む、防汚塗膜付き基材の製造方法。
[項9]
基材の少なくとも一部に、項5に記載の防汚塗膜を形成する工程を含む、基材の防汚方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防汚塗料組成物により、一般的な静置防汚性だけでなく長期動的浸漬後の静置防汚性にも優れると共に、様々な下塗り塗膜および中塗り塗膜に対する付着性および剥離耐性と、様々な旧防汚塗膜に対する付着性の、いずれにも優れた防汚塗膜を形成することができる。これにより、近年の環境の変化により顕在化した、船舶等における防汚塗膜に対して新たに要求される性能にも対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は文脈に応じて、「アクリル酸またはメタクリル酸」か「アクリル酸およびメタクリル酸」を意味し、「(メタ)アクリレート」は文脈に応じて、「アクリレートまたはメタクリレート」か「アクリレートおよびメタクリレート」を意味する。
【0015】
本明細書に記載されている(例えば成分の含有量に関する)上限値および下限値は、任意に組みあわせて数値範囲を設定することができる。
【0016】
本明細書(特に実施例)において、数値の後に付された単位としての「部」は、特に断らない限り「質量部」を意味する。
【0017】
-防汚塗料組成物-
本発明の防汚塗料組成物は、金属エステル基を含有する加水分解性重合体(A)(本明細書において「重合体(A)または「成分(A)」と呼ぶこともある。)、メデトミジン(B)(本明細書において「成分(B)」と呼ぶこともある。)、トラロピリル(C)(本明細書において「成分(C)」と呼ぶこともある。)、銅ピリチオン(D)(本明細書において「成分(D)」と呼ぶこともある。)、および直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸(E)(本明細書において「アルキルカルボン酸(E)」または「成分(E)」と呼ぶこともある。)を含有する。
【0018】
<重合体(A)>
重合体(A)は、金属エステル基含有単量体(a1)(本明細書において「単量体(a1)と呼ぶこともある。)に由来する構成単位および/または金属エステル基含有単量体(a2)(本明細書において「単量体(a2)と呼ぶこともある。)に由来する構成単位を含む。重合体(A)は、いずれか1種を用いてもよいし、単量体(a1)に由来する構成単位および/または単量体(a2)に由来する構成単位の、構造や比率等の異なる2種以上を用いてもよい。重合体(A)は、少なくとも単量体(a1)に由来する構成単位を含むこと、つまり、単量体(a1)に由来する構成単位を含む、または、単量体(a1)に由来する構成単位および単量体(a2)に由来する構成単位の両方を含むことが好ましい。
【0019】
・単量体(a1)
金属エステル基含有単量体(a1)は、下記式(1)で表される単量体である。単量体(a1)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0020】
【化4】
【0021】
式(1)中、R11はそれぞれ独立に、末端エチレン性不飽和基(CH2=C<)を含有する1価の基を示し、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。
【0022】
11の末端エチレン性不飽和基の炭素数は、好ましくは2~50、より好ましくは2~30、さらに好ましくは2~10、特に好ましくは2~6である。
【0023】
11は、末端以外にエチレン性不飽和基をさらに含有してもよいが、末端のみにエチレン性不飽和基を含有することがより好ましい。
【0024】
11は、末端エチレン性不飽和基を含有する有機基(本明細書において「末端エチレン性不飽和有機基」と呼ぶ。)であることが好ましい。末端エチレン性不飽和有機基としては、例えば、構造の一部がエステル結合、アミド結合またはエーテル結合で置換されていてもよい、不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。そのような末端エチレン性不飽和有機基の具体例としては、アクリル酸(別名:2-プロペン酸)、メタクリル酸(別名:2-メチル-2-プロペン酸)、3-ブテン酸、4-ペンテン酸、10-ウンデセン酸、(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボン酸[例:3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルプロピオン酸]等の末端エチレン性不飽和基を含有する脂肪族不飽和モノカルボン酸からカルボキシ基を除いた基;およびイタコン酸等の末端エチレン性不飽和基を有する脂肪族不飽和ジカルボン酸から1つのカルボキシ基を除いた基;が挙げられる。末端エチレン性不飽和有機基としては、末端エチレン性不飽和基を含有する脂肪族不飽和モノカルボン酸からカルボキシ基を除いた基がより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸または(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボン酸からカルボキシ基を除いた基がさらに好ましく、アクリル酸またはメタクリル酸からカルボキシ基を除いた基が特に好ましい。
【0025】
単量体(a1)としては、下記式(1’)で表される単量体(本明細書において「単量体(a1’)と呼ぶこともある。)が好ましい。単量体(a1’)は、単量体(1)において、2つのR11の末端エチレン性不飽和有機基が両方とも、アクリル酸またはメタクリル酸からカルボキシ基を除いた基である場合に相当する。
【0026】
【化5】
【0027】
式(1’)中、R12はそれぞれ独立に、水素原子またはメチル基を示し、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。
【0028】
単量体(a1)としては、例えば、ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、アクリル酸メタクリル酸亜鉛、ジ(3-アクリロイルオキシプロピオン酸)亜鉛、ジ(3-メタクリロイルオキシプロピオン酸)亜鉛、ジ(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルプロピオン酸)亜鉛、ジアクリル酸銅、ジメタクリル酸銅、アクリル酸メタクリル酸銅、ジ(3-アクリロイルオキシプロピオン酸)銅、ジ(3-メタクリロイルオキシプロピオン酸)銅、ジ(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルプロピオン酸)銅が挙げられ、これらの中でも、十分な防汚性を有する防汚塗膜を容易に得ることができる等の点から、ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛またはアクリル酸メタクリル酸亜鉛が好ましい。なお、ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、アクリル酸メタクリル酸亜鉛、ジアクリル酸銅、ジメタクリル酸銅、アクリル酸メタクリル酸銅は、単量体(a1’)に該当する。
【0029】
・単量体(a2)
金属エステル基含有単量体(a2)は、下記式(2)で表される単量体である。単量体(a2)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0030】
【化6】
【0031】
式(2)中、R21は末端エチレン性不飽和基(CH2=C<)を含有する1価の基を示し、R22は末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1~30の1価の有機基を示し、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。
【0032】
21の末端エチレン性不飽和基に関する技術的事項については、本明細書において、式(1)との関係で記載したR11の末端エチレン性不飽和基に関する技術的事項をそのまま参照することができる。
【0033】
22としては、例えば、末端エチレン性不飽和基を含有しない、炭素数1~30の肪族炭化水素基、炭素数3~30の脂環式炭化水素基、炭素数6~30の芳香族炭化水素基などの有機基(本明細書において「非末端エチレン性不飽和有機基」と呼ぶ。)が挙げられる。非末端エチレン性不飽和有機基は、置換基(例えば、水酸基)をさらに含有していてもよい。
【0034】
非末端エチレン性不飽和有機基における脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれでもよく、また、飽和脂肪族炭化水素基でも、不飽和脂肪族炭化水素基(末端エチレン性不飽和基を含有しないものに限る。)でもよい。当該脂肪族炭化水素基の炭素数は、1~30、好ましくは1~28、より好ましくは1~26、さらに好ましくは1~24である。当該脂肪族炭化水素基は、脂環式炭化水素基または芳香族炭化水素基により置換されていてもよい。
【0035】
非末端エチレン性不飽和有機基における脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基でも、不飽和脂環式炭化水素基でもよい。当該脂環式炭化水素基の炭素数は、3~30、好ましくは4~20、より好ましくは5~16、さらに好ましくは6~12である。当該脂環式炭化水素基は、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基により置換されていてもよい。
【0036】
非末端エチレン性不飽和有機基における芳香族炭化水素基の炭素数は、6~30、好ましくは6~24、より好ましくは6~18、さらに好ましくは6~10である。当該芳香族炭化水素基は、脂肪族炭化水素基や脂環式炭化水素基により置換されていてもよい。
【0037】
22は、一塩基酸に由来する有機酸残基であることが好ましく、具体例としては、バーサチック酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、ナフテン酸等の有機酸からカルボキシ基を除いた基が挙げられ、これらの中でも、アビエチン酸、バーサチック酸またはナフテン酸からカルボキシ基を除いた基が好ましく、アビエチン酸またはバーサチック酸からカルボキシ基を除いた基がより好ましい。なお、バーサチック酸は、炭素数が9~11個、主に10個の、分岐の多いカルボン酸混合物の総称である。
【0038】
単量体(a2)としては、下記式(2’)で表される単量体(本明細書において「単量体(a2’)と呼ぶこともある。)が好ましい。単量体(a2’)は、単量体(2)において、R22の末端エチレン性不飽和有機基が、アクリル酸またはメタクリル酸からカルボキシ基を除いた基であるものに相当する。
【0039】
【化7】
【0040】
式(2’)中、R23は水素原子またはメチル基を示し、R24は式(2)中のR22と同義であり、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。
【0041】
単量体(a2)としては、例えば、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸ロジン亜鉛、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸バーサチック酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ロジン亜鉛、(メタ)アクリル酸バーサチック酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ナフテン酸亜鉛、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸ロジン銅、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸バーサチック酸銅、(メタ)アクリル酸ロジン銅、(メタ)アクリル酸バーサチック酸銅および(メタ)アクリル酸ナフテン酸銅が挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸ロジン亜鉛、(メタ)アクリル酸バーサチック酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ナフテン酸亜鉛、(メタ)アクリル酸ロジン銅、(メタ)アクリル酸バーサチック酸銅、(メタ)アクリル酸ナフテン酸銅は、単量体(a2’)に該当する。
【0042】
・その他の単量体
重合体(A)は、必要に応じて、単量体(a1)および/または単量体(a2)と共重合可能な、単量体(a1)および単量体(a2)以外の単量体をさらに含んでいてもよい。そのような任意の単量体としては、金属エステル基を含有せず、エチレン性不飽和基を有する単量体、例えば、オルガノシロキサンブロック含有単量体(a3)(本明細書において「単量体(a3)と呼ぶこともある。);(メタ)アクリレートまたはそのエステル(a4)(本明細書において「単量体(a4)と呼ぶこともある。);およびビニル化合物(a5)(本明細書において「単量体(a5)と呼ぶこともある。)が挙げられる。
【0043】
・単量体(a3)
単量体(a3)、すなわちオルガノシロキサンブロック含有単量体(a3)は、下記式(3)で表される単量体である。単量体(a3)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
【化8】
【0045】
式(3)中、R31、R32およびR33はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を示し、Xはそれぞれ独立に、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基またはメルカプトアルキル基を示し、mは1以上、nは0以上であり、pおよびqはそれぞれ独立に0または1であり、n+p+qは1以上である。
【0046】
31、R32およびR33における炭化水素基としては、例えば、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基、およびアリール基が挙げられる。当該アルキル基の炭素数は、好ましくは1~12、より好ましくは1~8、さらに好ましくは1~4である。当該アリール基の炭素数は、好ましくは6~14、より好ましくは6~10である。重合容易性の観点から、R31、R32およびR33はそれぞれ独立に、メチル基やブチル基などのアルキル基が好ましい。
【0047】
Xとしては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、(メタ)アクリロイルオキシブチル基等の(メタ)アクリロイルオキシアルキル基;およびメルカプトメチル基、メルカプトエチル基、メルカプトプロピル基、メルカプトブチル基等のメルカプトアルキル基が挙げられる。Xは、均一な重合の進行の観点からは、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基が好ましく、共重合体(A)の粘度を低減し、取り扱いを容易とする観点からは、メルカプトアルキル基が好ましい。
【0048】
mおよびnは、それぞれ(SiR32 2O)、(SiXR33O)の平均付加モル数を意味する。m+nは、2以上であることが好ましい。つまり、オルガノシロキサンブロック含有単量体(a3)は、ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体であることが好ましい。
【0049】
なお、本明細書において、式(3)のように、2以上の異なる繰り返し単位を[]間に並列記載している場合、それらの繰り返し単位が、それぞれランダム状、交互状またはブロック状のいずれの順序で繰り返されていてもよいことを示す。つまり、例えば、式-[Y3-Z3]-(ここで、YおよびZはそれぞれ繰り返し単位を示す。)の場合、-YYZYZZ-のようなランダム状でも、-YZYZYZ-のような交互状でも、-YYYZZZ-または-ZZZYYY-のようなブロック状でもよい。
【0050】
単量体(a3)の第1の実施形態として、nが0であり、pが1であり、qが0である単量体(a31)が挙げられる。共重合体(A)がこのような単量体(a31)に由来する構成単位を含むことは、例えば、防汚塗料組成物が防汚性に優れる防汚塗膜を形成しやすくなるため好ましい。単量体(a31)におけるmは、重合容易性等の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、また好ましくは200以下、より好ましくは70以下である。
【0051】
単量体(a31)としては、例えば、JNC(株)製の市販品「FM-0711」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:1,000)、「FM-0721」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:5,000)、「FM-0725」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:10,000);信越化学工業(株)製の市販品「X-22-174ASX」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:900g/mol)、「KF-2012」(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:4,600g/mol)、X-22-2426(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:12,000g/mol)などを用いることができる。
【0052】
単量体(a3)の第2の実施形態として、nが0であり、pおよびqが1である単量体(a32)が挙げられる。共重合体(A)がこのような単量体(a32)に由来する構成単位を含むことは、例えば、防汚塗料組成物が補修性に優れる、つまり使用後(海水浸漬後)の旧防汚塗膜に対する付着性に優れる、防汚塗膜を形成しやすくなるため好ましい。単量体(a32)におけるmは、重合容易性等の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上であり、好ましくは200以下、より好ましくは70以下である。
【0053】
単量体(a32)としては、例えば、JNC(株)製の市販品「FM-7711」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:1,000)、「FM-7721」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:5,000)、「FM-7725」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量:10,000);信越化学工業(株)製の市販品「X-22-164」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:190g/mol)、「X-22-164AS」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:450g/mol)、「X-22-164A」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:860g/mol)、「X-22-164B」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:1630g/mol)、「X-22-164C」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:2,370g/mol)、「X-22-164E」(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:3,900g/mol)、「X-22-167B」(両末端メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:1,670g/mol)などを用いることができる。
【0054】
単量体(a3)の第3の実施形態として、nが1以上である単量体(a33)が挙げられる。共重合体(A)がこのような単量体(a33)に由来する構成単位を含むことは、例えば、防汚塗料組成物の粘度が低下し、取扱いが容易となる傾向にあるため好ましい。単量体(a33)におけるmは、50~1,000であることが好ましく、nは1~30であることが好ましい。
【0055】
単量体(a33)としては、例えば、信越化学工業(株)製の市販品「KF-2001」(側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:1,900g/mol)、「KF-2004」(側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量:30,000g/mol)などを用いることができる。
【0056】
・単量体(a4)
単量体(a4)、すなわち(メタ)アクリレートまたはそのエステル(a4)は、下記式(4)で表される化合物である。単量体(a4)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0057】
【化9】
【0058】
式(4)中、R41はエチレン性不飽和基を含有する一価の基を示し、R42は水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基またはグリシジル基を示す。
【0059】
単量体(a4)の第1の実施形態として、R42が水素原子である単量体(a41)、例えば(メタ)アクリル酸が挙げられる。共重合体(A)が、このような単量体(a41)を含有する場合、得られる防汚塗料組成物は、使用後(海水浸漬後)の旧防汚塗膜に対する付着性に優れ、粘度が低く、塗装作業性に優れる傾向にあり、また、形成される防汚塗膜の塗膜消耗度が高くなる傾向にある。
【0060】
単量体(a4)の第2の実施形態として、R42がアルキル基またはアリール基である単量体(a42)が挙げられる。R42としてのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれの構造を有していてもよく、炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~6である。共重合体(A)が、このような単量体(a42)を含有する場合、得られる防汚塗料組成物より形成された防汚塗膜は、防汚性を大きく損なわずに塗膜消耗度が適切な更新速度に抑えられる傾向にあり、耐ダメージ性および/または耐クラック性にも優れる傾向にある。
【0061】
単量体(a42)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレートおよびシクロヘキシル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を単量体(a42)として用いることが好ましい。
【0062】
単量体(a4)の第3の実施形態として、R42がアルコキシアルキル基である単量体(a43)が挙げられる。R42としてのアルコキシアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれの構造を有していてもよく、炭素数(アルコキシ基中のアルキル基に含まれる炭素数と、アルキル基に含まれる炭素数の合計)は、好ましくは1~20、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~6である。共重合体(A)が、このような単量体(a43)を含有する場合、得られる防汚塗料組成物より形成された防汚塗膜は、長期に亘って適度な塗膜消耗度を持続する傾向にある。
【0063】
単量体(a43)の具体例としては、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、3-メトキシ-n-プロピル(メタ)アクリレート、2-プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソブトキシブチルジグリコール(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。例えば、2-メトキシエチル(メタ)アクリレートを単量体(a43)として用いることが好ましい。
【0064】
単量体(a4)の第4の実施形態として、R42がヒドロキシアルキル基である単量体(a44)が挙げられる。R42としてのヒドロキシアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれの構造を有していてもよく、炭素数は、好ましくは1~20、より好ましくは1~12、さらに好ましくは1~6である。共重合体(A)が、このような単量体(a44)を含有する場合、得られる防汚塗料組成物より形成された防汚塗膜は、塗膜消耗度が高くなる傾向にある。
【0065】
単量体(a44)の具体例としては、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0066】
単量体(a4)の第5の実施形態として、R42がグリシジル基である単量体(a45)、例えばグリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。共重合体(A)が、このような単量体(a44)を含有する場合、得られる防汚塗料組成物より形成された防汚塗膜は、塗膜消耗度が高くなる傾向にある。
【0067】
重合体(A)は、前記単量体(a4)のうち、得られる防汚塗料組成物より形成された防汚塗膜が、塗膜消耗度を適切に調整することができる点や、耐ダメージ性および/または耐クラック性にも優れる傾向にある点より、単量体(a42)および/または単量体(a43)を含有することが好ましい。
【0068】
・単量体(a5)
単量体(a5)、すなわちビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、塩化ビニルが挙げられる。単量体(a5)は、いずれか1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0069】
・構成単位の比率
重合体(A)に含まれる単量体(a1)および/または単量体(a2)ならびに必要に応じて用いられるその他の単量体それぞれに由来する構成単位の種類および比率は、本発明の効果やその他の技術的事項等を考慮して、適宜調節することができる。
【0070】
例えば、単量体(a1)に由来する構成単位および/または単量体(a2)に由来する構成単位の比率は、共重合体(A)中の全構成単位100質量%に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは9質量%以上であり、また好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0071】
また、重合体(A)は、単量体(a1)に由来する構成単位および/または単量体(a2)に由来する構成単位に加えて、少なくとも(メタ)アクリレートまたはそのエステル(a4)に由来する構成単位を含むことが好ましく、さらにオルガノシロキサンブロック含有単量体(a3)に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0072】
重合体(A)が、オルガノシロキサンブロック含有単量体(a3)に由来する構成単位を含む場合、その比率は、共重合体(A)中の全構成単位100質量%に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは8質量%以上であり、また好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0073】
重合体(A)が、(メタ)アクリレートまたはそのエステル(a4)に由来する構成単位を含む場合、その比率は、共重合体(A)中の全構成単位100質量%に対して、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下、特に好ましくは70質量%以下である。
【0074】
重合体(A)が、ビニル化合物(a4)に由来する構成単位を含む場合、その比率は、共重合体(A)中の全構成単位100質量%に対して、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、また好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。
【0075】
なお、共重合体(A)中の各構成単位の比率は、常法に従って、核磁気共鳴分光法(NMR)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)等で測定することができ、共重合体(A)を合成する際に用いる各単量体の使用量から算出することもできる。また、共重合体(A)中の全構成単位には、重合開始剤および連鎖移動剤に由来する構成単位は含まれない。
【0076】
重合体(A)の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、本発明の効果の程度が所望のものとなるよう、また得られる防汚塗料組成物の粘度や貯蔵安定性、得られる防汚塗膜の塗膜消耗度(溶出速度、更新性)等を考慮して、適宜調節することができる。重合体(A)のMnは、好ましくは500以上、より好ましくは700以上であり、また好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下である。共重合体(A)のMwは、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,200以上、特に好ましくは1,500以上であり、また好ましくは150,000以下、より好ましくは10,000以下、特に好ましくは7,000以下である。
【0077】
なお、MnおよびMwは、常法に従って、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定し、標準ポリスチレンにて換算することにより求めることができる。MnおよびMwのより具体的な測定方法、条件等は、後記実施例を参照することができる。
【0078】
・成分(A)の含有量
重合体(A)の含有量は、当該成分の種類や特性などに応じて、本発明の効果の程度が所望のものとなるよう、また得られる防汚塗料組成物の塗装作業性やその他の技術的事項を考慮して、適宜調節することができる。重合体(A)の含有量は、例えば、防汚塗料組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上であり、また好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0079】
なお、本明細書において、各成分(例えば、成分(A)~(E)、タレ止め剤・沈降防止剤(G)としての酸化ポリエチレンワックス、脂肪酸アマイドワックス等)または本発明の防汚塗料組成物またはそこに含まれる各成分の「固形分」とは、各成分または本発明の防汚塗料組成物に溶剤として含まれる揮発成分を除いた成分を指す。そのような固形分は、常法に従って、各成分または本発明の防汚塗料組成物の質量に対する、各成分または本発明の防汚塗料組成物を108℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥させて得られた物質の質量の比率として算出することができる。より具体的には、JIS K 5601-1-2:2008に従って、測定対象1±0.1gを平底皿に量り採り、質量既知の針金を使って底面に均一に広げ、108℃で3時間、1気圧で乾燥させ、得られた加熱残分から針金の質量を減算し、質量百分率の値とすることで算出される。なお、各成分の製品について固形分としての数値がラベル、カタログ等に示されている場合は、その数値をその成分の固形分とみなすことができる。また、前述の測定方法により、本発明の防汚塗料組成物の配合組成(各成分の種類および量、ならびに各成分の固形分)が既知の場合は、その配合組成に基づいて算出した数値を本発明の防汚塗料組成物の固形分とみなすことができる。
【0080】
<メデトミジン(B)>
メデトミジン(B)、体系名(+/-)4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾールは、以下の構造式で表される化合物である。なお、メデトミジン(B)は、(+)4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾールと、(-)4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾールのラセミ体(任意の比率、例えばほぼ等量の混合物)である。メデトミジン(B)は、光学異性を有するが、その一方のみであっても、任意の比率の混合物であってもよい。また、メデトミジン(B)は、その一部または全部として、イミダゾリウム塩や金属等のへの付加体を使用してもよい。この場合、本発明の防汚塗料組成物を調製する際の原料として、イミダゾリウム塩や金属等への付加体を用いてもよく、本発明の防汚塗料組成物または防汚塗膜中で、イミダゾリウム塩や金属等への付加体を形成してもよい。
【0081】
【化10】
【0082】
<トラロピリル(C)>
トラロピリル(C)、体系名4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル、2-(p-クロロフェニル)-3-シアノ-4-ブロモ-5-トリフルオロメチルピロールは、以下の構造式で表される化合物である。
【0083】
【化11】
【0084】
<銅ピリチオン(D)>
銅ピリチオン(D)、体系名銅(II)ビス[1,2-ジヒドロ-2-チオキソピリジン-1-オラート]は、以下の構造式で表される化合物である。
【0085】
【化12】
【0086】
式(D)中、R3はそれぞれ独立に、水素原子または炭素数1~6のアルキル基、環状アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基もしくはハロゲン化アルキル基を示し、Mは銅原子である。R3は、水素原子であることが好ましい。
【0087】
なお、本発明の防汚塗料組成物は、防汚剤として少なくともメデトミジン(B)、トラロピリル(C)および銅ピリチオン(D)を含み、これら3種の防汚剤のみの使用であっても一定水準の優れた防汚性能を発揮することができるが、必要であれば、1種または2種以上のその他の防汚剤を適量、追加的に用いることもできる。メデトミジン(B)、トラロピリル(C)および銅ピリチオン(D)以外の防汚剤としては、例えば、亜酸化銅、銅ピリチオン(D)以外の金属ピリチオン類(例:亜鉛ピリチオン)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(別名:DCOIT)、ピリジントリフェニルボラン、4-イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン、N,N-ジメチル-N’-(3,4-ジクロロフェニル)尿素(別名:ジウロン)、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、2,4,5,6-テトラクロロイソフタルニトリル、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン(別名:シブトリン)、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(別名:ポリカーバメート)、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド、N,N’-ジメチル-N’-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド(別名:ジクロフルアニド)、テトラアルキルチラウムジスルフィド(別名:TMTD)、ジンクジメチルジチオカーバメート(別名:ジラム)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2,3-ジクロロ-N-(2’,6’-ジエチルフェニル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’-エチル-6’-メチルフェニル)マレイミドなどが挙げられる。
【0088】
ただし、亜酸化銅は、環境への負荷が高い防汚剤であり、本発明の防汚塗料組成物は、亜酸化銅を用いることなく、優れた防汚性を長期にわたって発揮することができる。本発明の防汚塗料組成物の固形分中の亜酸化銅の含有量は、好ましく10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下であり、実質的に亜酸化銅を含有しないことが特に好ましい。なお、実質的に亜酸化銅を含有しないとは、亜酸化銅を意図的に添加しないことを意味し、不純物として少量の亜酸化銅を含有することを排除するものではない。
【0089】
・成分(B)、(C)および(D)の含有量
メデトミジン(B)、トラロピリル(C)および銅ピリチオン(D)の含有量は、本発明の効果の程度が所望のものとなるよう、また得られる防汚塗料組成物の塗装作業性やその他の技術的事項を考慮して、適宜調節することができる。
【0090】
例えば、メデトミジン(B)の含有量は、銅ピリチオン(D)100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、また好ましくは100質量%以下、より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
【0091】
トラロピリル(C)の含有量は、銅ピリチオン(D)100質量%に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上であり、また好ましくは1700質量%以下、より好ましくは1500質量%以下、さらに好ましくは1200質量%以下、よりさらに好ましくは1000質量%以下、特に好ましくは100質量%以下である。
【0092】
銅ピリチオン(D)の含有量は、防汚塗料組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは3.0質量%以上であり、また好ましくは12質量%以下、より好ましくは11質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは8質量%以下である。
【0093】
<アルキルカルボン酸(E)>
直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸(E)としては、例えば、バーサチック酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびイソステアリン酸が挙げられ、これらの中でもバーサチック酸が好ましい。バーサチック酸は、炭素数が5~15個、主に9~11個、特に10個の、分岐鎖を有するアルキルカルボン酸を含む混合物である。アルキルカルボン酸(E)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0094】
アルキルカルボン酸(E)は、金属エステル(例:銅エステル)を形成していてもよい。金属エステルは、防汚塗料組成物の製造前に予め形成されていてもよく、防汚塗料組成物の製造時に他の塗料成分との反応により形成されてもよい。
【0095】
なお、ロジン(ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン、水添ロジン、不均化ロジン等のロジン誘導体)は、共役二重結合を含む3つの環構造およびカルボキシ基を有するアビエチン酸とその異性体の混合物であり、モノカルボン酸ではあるが「直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸」には該当しない。また、ナフテン酸、サリチル酸なども、環構造およびカルボキシル基を有する化合物であり、モノカルボン酸ではあるが「直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸」には該当しない。
【0096】
・成分(E)の含有量
アルキルカルボン酸(E)の含有量は、当該成分の種類や特性などに応じて、本発明の効果等を考慮して、適宜調節することができる。アルキルカルボン酸(E)の含有量は、防汚塗料組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、また好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下である。
【0097】
<任意成分>
本発明の防汚塗料組成物は、必要に応じて、重合体(A)、メデトミジン(B)、トラロピリル(C)、銅ピリチオン(D)およびアルキルカルボン酸(E)以外の成分をさらに含有していてもよい。そのような任意成分としては、例えば、顔料(F)、タレ止め剤・沈降防止剤(G)、溶剤(H)、可塑剤(I)、バインダー成分(J)などが挙げられる。さらに、湿潤分散剤、脱水剤、可塑剤なども、任意の成分として挙げることができる。これらの任意成分は、本発明の効果を奏する上で必須のものではないが、防汚塗料組成物として実施するために自ずと必要となるまたは通常用いられる成分、本発明の効果を奏しやすくしたり増強したりできる成分、あるいは本発明以外の効果を奏するための成分となり得る。
【0098】
<顔料(F)>
本発明の防汚塗料組成物は、塗膜への着色や下地の隠ぺいを目的として、および/または適度な塗膜強度に調整することを目的として、顔料(F)を含有することができる。顔料(F)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0099】
顔料(F)としては、例えば、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、タルク、マイカ、クレー、カリ長石、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム(例:沈降性硫酸バリウム)、硫酸カルシウム(例:焼石膏)、硫化亜鉛等の体質顔料;および弁柄(赤色酸化鉄)、チタン白(酸化チタン)、黄色酸化鉄、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の着色顔料;が挙げられる。
【0100】
本発明の防汚塗料組成物が顔料(F)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは1~40質量%である。
【0101】
<タレ止め剤・沈降防止剤(G)>
本発明の防汚塗料組成物は、当該組成物の粘度を調整すること等を目的として、タレ止め剤・沈降防止剤(G)を含有することができる。タレ止め剤・沈降防止剤(G)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0102】
タレ止め剤・沈降防止剤(G)としては、例えば、有機粘土系ワックス(例:Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩)、有機系ワックス(例:ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、脂肪酸アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス)、有機粘土系ワックスと有機系ワックスとの混合物、合成微粉シリカが挙げられる。そのようなタレ止め剤・沈降防止剤(H)としては、例えば、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン4200-20」、「ディスパロンA630-20X」、「ディスパロン6900-20X」;伊藤製油(株)製の「A-S-A D-120」などの市販品を用いることができる。
【0103】
本発明の防汚塗料組成物がタレ止め剤・沈降防止剤(G)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、また好ましくは10質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0104】
<溶剤(H)>
本発明の防汚塗料組成物は、当該組成物の粘度を調整すること等を目的として、水または有機溶剤等の溶剤(H)を含有することができる。なお、本発明の防汚塗料組成物は、共重合体(A)を合成する際に得られる共重合体(A)を含む液体を用いて調製することができるが、その場合は、当該液体に含まれる溶剤や、共重合体(A)とその他の必須成分(B)~(E)および必要に応じて任意成分とを混合する際に別途添加される溶剤等が、溶剤(H)に相当する。溶剤(H)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。溶剤(H)としては、有機溶剤が好ましい。
【0105】
有機溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の脂肪族(炭素数1~10、好ましくは2~5程度)の一価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;が挙げられる。
【0106】
本発明の防汚塗料組成物が溶剤(H)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物100質量%に対して、好ましくは0~50質量%である。
【0107】
<可塑剤(I)>
本発明の防汚塗料組成物は、形成される防汚塗膜に可塑性を付与すること等を目的として、可塑剤(I)を含有していてもよい。可塑剤(I)は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0108】
可塑剤(I)としては、例えば、塩素化パラフィン、n-パラフィン、トリクレジルホスフェート(TCP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)が挙げられ、好ましくは塩素化パラフィン、TCPである。
【0109】
塩素化パラフィンは、直鎖状または分枝状のいずれの分子構造を有していてもよく、室温(例:23℃)条件下で液状でも固体状(例:粉末状)であってもよい。
【0110】
塩素化パラフィン一分子中の平均炭素数は、好ましくは8個以上、より好ましくは10個以上であり、かつ好ましくは30個以下、より好ましくは26個以下である。平均炭素数が8個未満であると、形成される防汚塗膜のクラックの発生を抑制する効果が不足する場合があり、一方で、平均炭素数が30個を超えると、形成される防汚塗膜の加水分解性(塗膜消耗度、更新性、研掃性)が過度に小さくなり、結果として防汚性が劣ってしまう場合がある。
【0111】
塩素化パラフィンの粘度(単位:ポイズ、測定温度:25℃)は、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上である。その比重(25℃)は、好ましくは1.05g/cm3以上、より好ましくは1.10g/cm3以上であり、かつ好ましくは1.80g/cm3以下、より好ましくは1.70g/cm3以下である。
【0112】
塩素化パラフィンの塩素化率(塩素含有量)は、塩素化パラフィンを100質量%とした場合、通常35~70質量%であり、好ましくは35~65質量%である。
【0113】
本発明の防汚塗料組成物が可塑剤(I)を含有する場合、その含有量は、防汚塗膜の可塑性を良好に保つことができる等の点から、本発明の防汚塗料組成物の固形分100質量%に対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0114】
<バインダー成分(J)>
本発明の防汚塗料組成物は、形成される防汚塗膜に耐水性、耐クラック性や強度を付与すること等を目的として、バインダー成分(J)を含有することができる。なお、バインダー成分(J)は、バインダー成分のうち重合体(A)以外のものを指す。バインダー成分(J)は、いずれか1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0115】
バインダー成分(J)としては、例えば、ポリエステル系重合体、(メタ)アクリル系(共)重合体、ビニル系(共)重合体、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂類、ケトン樹脂が挙げられる。これらの中でも、ポリエステル系重合体、(メタ)アクリル系(共)重合体、ビニル系(共)重合体、石油樹脂類が好ましく、ポリエステル系重合体、石油樹脂類がより好ましい。
【0116】
本発明の防汚塗料組成物がバインダー成分(J)を含有する場合、その含有量は目的や当該成分の種類などに応じて適宜調節することができるが、例えば、当該組成物の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1~40質量%である。
【0117】
<防汚塗料組成物の調製方法>
本発明の防汚塗料組成物は、一般的な防汚塗料組成物と同様の手段(装置、方法、条件等)により、成分(A)~(E)および必要に応じてその他の任意成分を用いて調製することができる。具体的には、共重合体(A)を合成した後、得られた共重合体(A)(の溶液)と、メデトミジン(B)、トラロピリル(C)、銅ピリチオン(D)およびアルキルカルボン酸(E)と、必要に応じてその他任意成分とを、一度にまたは順次容器に添加して、撹拌、混合することで調製することができる。
【0118】
-防汚塗膜-
本発明の防汚塗膜は、本発明の防汚塗料組成物から形成されるものである。従来の防汚塗料組成物から従来の防汚塗膜を形成する場合と同様に、本発明の防汚塗料組成物を乾燥させることにより、本発明の防汚塗膜が形成される。ただし、本発明の防汚塗膜はそのようにして本発明の防汚塗料組成物から形成された直後のものに限定されず、使用されることにより劣化した後のものも本発明の防汚塗膜に含まれる。本発明の防汚塗膜は、形成直後のものは、乾燥等により溶媒等の揮発性成分が失われることを除いて、本発明の防汚塗料組成物と同様の物質を含み、使用後のものは、揮発性成分に加えて防汚性能の発揮により一部の成分が失われる(放出される)ことを除いて、本発明の防汚塗料組成物と同様の物質を含む。
【0119】
本発明の防汚塗膜の厚さは特に限定されるものではなく、本発明の防汚塗膜の特性(例:塗膜消耗速度)や用途(基材の種類、使用期間等)に応じて適切な範囲とすることができるが、例えば、形成直後の状態における厚さとして、30~1,000μmが好ましい。
【0120】
-防汚塗膜付き基材-
本発明の防汚塗膜付き基材は、基材と、本発明の防汚塗膜とを有する。本発明の防汚塗膜は通常、基材上に形成され、防汚塗膜付き基材として使用される。
【0121】
基材は特に限定されるものでなく、本発明の防汚塗膜を形成することができ、機能を発揮できるものであればよいが、例えば、船舶(例:コンテナ船、タンカー、バルカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船、ヨット等の船体外板。新造船または修繕船のいずれも含む。)、漁業またはその他の海洋資材(例:ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ、ダイバースーツ、水中メガネ、酸素ボンベ、水着、魚雷)、水中構造物(例:石油パイプライン、導水配管、循環水管、火力・原子力発電所の給排水口等の構造物、海底ケーブル、海水利用機器類(海水ポンプ等)、メガフロート、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等における各種水中土木工事用構造物)などが挙げられる。本発明の効果に鑑みると、基材としては船舶(新造船または運行後の船舶)が好ましく、長期間にわたって外洋の航行と停泊を繰り返す、コンテナ船、タンカー、バルカー等の大型鋼鉄船などが特に好ましい。
【0122】
基材は、防錆剤やその他の処理剤により処理された基材や、表面に防錆塗膜(例えば、ジンクリッチペイント)、防食塗膜(例えば、エポキシ系重防食塗料)、バインダー塗膜等の防汚塗膜以外の塗膜(非防汚塗膜)、または劣化、変質もしくは消耗した本発明の防汚塗膜やその他の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜(旧防汚塗膜)が形成されている基材であってもよい。本発明の防汚塗膜付き基材において、防汚塗膜は基材の表面に直接接して形成されている必要はなく、処理剤、他の塗膜等を介して基材上に形成されていてもよい。したがって本発明の防汚塗膜付き基材は、基材と、本発明の防汚塗膜に加えて、他の処理剤、塗膜等をさらに含んでいてもよい。本発明の防汚塗膜は、様々な非防汚塗膜、劣化した防汚塗膜等の上に形成することができる。
【0123】
基材が有する「非防汚塗膜」は、基材の種類や用途に応じて、本発明の防汚塗膜を形成する前にあらかじめ基材上に形成されている、下塗り塗膜、中塗り塗膜などの防汚塗膜以外の塗膜を指す。非防汚塗膜の種類は特に限定されるものではなく、例えば、防錆塗料から形成された防錆塗膜、防食塗料から形成された防食塗膜、バインダー塗料から形成されたバインダー塗膜などが挙げられる。防食塗膜としては、例えば、エポキシ系の樹脂を含む防食塗料から形成されるものが挙げられる。バインダー塗膜としては、例えば、エポキシ系、ビニル系、(メタ)アクリル系などの1種または2種以上の樹脂を含むバインダー塗料から形成されるものが挙げられる。なお、船舶等の基材に塗布する場合、防食塗膜(下塗り塗膜)とバインダー塗膜(中塗り塗膜)の間に明確な区分は無く、両方を兼用する塗膜を使用することもあるが、「非防汚塗膜」はそのような防食塗膜的な機能も併せ持つバインダー塗膜であってもよい。
【0124】
基材が有する「旧防汚塗膜」は、一定期間(例えば防汚塗膜の耐用期間)、水(海水)に接触させて使用された後の防汚塗膜であって、使用前(海水浸漬前)の健全な防汚塗膜と比較して、劣化、変質または消耗した状態にある防汚塗膜を指す。防汚塗膜の劣化、変質または消耗の程度は特に限定されず、本発明の防汚塗膜を形成する必要が認められる、または形成することが好ましい程度であればよい。防汚塗膜の種類は特に限定されるものではなく、本発明の防汚塗膜であってもよいし、その他の防汚塗膜であってもよい。防汚塗膜としては、例えば、加水分解型(例:シリルエステル樹脂系の防汚塗料から形成される塗膜)、水和分解型(例:塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系の防汚塗料から形成される塗膜)が挙げられる。
【0125】
-防汚塗膜付き基材の製造方法-
本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は、下記の工程(1)および(2)を含む:
(1)本発明の防汚塗料組成物を基材に塗布または含浸し、塗布体または含浸体を得る工程;
(2)前記塗布体または含浸体を乾燥する工程。
【0126】
工程(1)における塗布は、一般的な方法に従って行うことができ、例えば、エアレススプレー、エアースプレー、刷毛、ローラー等を用いて、防汚塗料組成物を基材に塗布する方法を用いることができる。工程(1)における含浸も、一般的な方法に従って行うことができ、例えば、防汚塗料組成物に基材を浸漬する方法を用いることができる。
【0127】
塗布または含浸の条件は、工程(2)の乾燥条件も考慮して、目的とする厚さを有する防汚塗膜を形成できるように調節することができる。例えば、工程(2)の後の乾燥塗膜の厚さが10~300μm、好ましくは30~200μmとなるよう、基材の単位面積あたり適切な量の防汚塗料組成物を塗布または含浸することができる。
【0128】
工程(2)における乾燥は、一般的な方法に従って、適切な温度その他の環境下で適切な時間行えばよい。例えば、工程(1)により得られた塗布体または含浸体を、常温(例:25℃)下で、好ましくは0.5~14日間、より好ましくは1~7日間放置する方法が挙げられる。本工程における乾燥は、加熱下で行ってもよく、送風しながら行ってもよい。
【0129】
工程(1)および(2)は、必要に応じて繰り返すことができる。例えば、工程(1)および(2)を1回行っただけでは所望の厚さの防汚塗膜を形成できない場合は、1回目の工程(1)および(2)の後に、2回目の工程(1)および(2)を行い、さらに必要な回数の工程(1)および(2)を行うことができる。
【0130】
本発明の一実施形態において、本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は、工程(1)として、旧防汚塗膜を有する基材に、本発明の防汚塗料組成物を塗布または含浸し、塗布体または含浸体を得る工程を含む。本実施形態においては、必要な工程、例えば、水洗などにより旧防汚塗膜の表面の汚れを除き、乾燥させる工程を、工程(1)の前にさらに含んでもよい。なお、従来の防汚塗料組成物を使用する場合、旧防汚塗膜との密着性が悪いため、旧防汚塗膜を除去する工程が必要となることがあったが、本発明の防汚塗料組成物は、様々な旧防汚塗膜との接着性に優れているため、そのような除去工程を省略することができる。
【0131】
-基材の防汚方法-
本発明の基材の防汚方法は、基材の少なくとも一部に、本発明の防汚塗膜を形成する工程を含む。
【0132】
基材において、本発明の防汚塗膜を形成する部分は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、基材が船舶である場合、生物的汚損環境に曝される船底部(常時没水部)や水線部(乾湿交互部)を本発明の防汚塗膜を形成する部分(基材の一部)とすることができる。
【0133】
「基材の防汚方法」における「防汚塗膜を形成する工程」は、基本的には、「防汚塗膜付き基材の製造方法」における前記工程(1)および(2)と同様である。すなわち、本発明の基材の防汚方法は、(1’)本発明の防汚塗料組成物を記載の少なくとも一部に塗布または含浸し、塗布体または含浸体を得る工程;および(2’)前記塗布体または含浸体を乾燥する工程、を含むものと言い換えることができる。
【0134】
その他にも、本明細書において「防汚塗膜付き基材の製造方法」に関して記載した技術的事項は、適宜「基材の防汚方法」に関する技術的事項に読み替えることができる。例えば、基材が劣化した防汚塗膜を有するものである実施形態に対応させて、本発明の「基材の防汚方法」を「劣化した防汚塗膜付き基材の補修方法」に読み替えることができる。
【実施例
【0135】
(1)金属エスエル基含有単量体の合成に関する製造例
[製造例M1]金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-1)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)85.4部および酸化亜鉛40.7部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸43.1部、アクリル酸36.1部および水5部からなる混合物を滴下ロートから3時間かけて等速滴下した。さらに2時間撹拌した後、PGM36部を添加して、透明な金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-1)を得た。当該溶液(M-1)中の固形分は44.8質量%であった。なお、当該溶液(M-1)は、金属エステル基含有単量体(a1)の混合物として、化合物(1’)に該当するジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛およびアクリル酸メタクリル酸亜鉛を含む。
【0136】
[製造例M2]金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-2)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM72.4部および酸化亜鉛40.7部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸30.1部、アクリル酸25.2部およびバーサチック酸51.6質量部からなる混合物を滴下ロートから3時間かけて等速滴下した。さらに2時間撹拌した後、PGM11部を添加して、透明な金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-2)を得た。当該溶液(M-2)中の固形分は59.6質量%であった。なお、当該溶液(M-2)は、金属エステル基含有単量体(a1)および(a2)の混合物として、化合物(1’)に該当するジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛およびアクリル酸メタクリル酸亜鉛と、単量体(2’)に該当する(メタ)アクリル酸バーサチック酸亜鉛を含む。
【0137】
[製造例M3]金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-3)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM59.9部および酸化亜鉛40.7部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸43部、アクリル酸36部および水5部からなる混合物を滴下ロートから3時間かけて等速滴下した。さらに2時間撹拌した後、PGM29.4部を添加して、透明な金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-3)を得た。当該溶液(M-3)中の固形分は55.1質量%であった。なお、当該溶液(M-3)は、金属エステル基含有単量体(a1)の混合物として、化合物(1’)に該当するジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛およびアクリル酸メタクリル酸亜鉛を含む。
【0138】
(2)金属エステル基含有加水分解性共重合体の合成に関する製造例
[製造例A1]加水分解性共重合体溶液(A-1)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM15部、キシレン57部およびエチルアクリレート(EA)4部を仕込み、撹拌しながら100±5℃に昇温した。同温度を保持しつつ、滴下ロートより、前記金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-1)52部、メチルメタクリレート(MMA)1部、エチルアクリレート(EA)66.2部および2-メトキシエチルアクリレート(MEA)5.4部、ならびに重合開始剤2,2'-アゾビスイソブチロニトリル2.5部、重合開始剤2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)7部、連鎖移動剤「ノフマーMSD」(製品名、日油(株)製、α-メチルスチレンダイマー)1部、およびキシレン10部を6時間かけて滴下した。滴下終了後に重合開始剤tert-ブチルパーオクトエート(TBPO)0.5部およびキシレン7.0部を30分かけて滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレン4.4部を添加して、淡黄色透明の加水分解性共重合体溶液(A-1)を得た。
【0139】
[製造例A2]加水分解性共重合体溶液(A-2)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM10部、キシレン63部およびエチルアクリレート(EA)3部を仕込み、撹拌しながら100±5℃に昇温した。同温度を保持しつつ、滴下ロートより、前記金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-2)50.3部、メチルメタクリレート(MMA)9部、エチルアクリレート(EA)58部、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)5部およびPGM10部を4時間かけて滴下した。滴下終了後に重合開始剤tert-ブチルパーオクトエート0.5部およびキシレン7部を30分かけて滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレン12部を添加して、淡黄色透明の加水分解性共重合体溶液(A-2)を得た。
【0140】
[製造例A3]加水分解性共重合体溶液(A-3)の製造
冷却器、温度計、滴下タンクおよび撹拌機を備えた加圧重合可能なオートクレーブに、PGM10部、キシレン35部およびエチルアクリレート(EA)4部を仕込み、撹拌しながら350kPaに加圧し、135℃に昇温した。続いて、滴下タンクからメチルメタクリレート(MMA)15部、エチルアクリレート(EA)48部、n-ブチルアクリレート(n-BA)15部、前記金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-3)40部、キシレン10部、「ノフマーMSD」1.8部、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)4部および2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)2部を2.5時間かけて等速滴下した。滴下終了後、30分かけて110℃に降温し、t-ブチルパーオキシオクトエート0.5部およびキシレン5部を30分かけて滴下し、さらに1時間30分撹拌した後、キシレン3部を添加した。得られた混合物を300メッシュでろ過することで、不溶解物のない淡黄色透明な濾液として、加水分解性共重合体溶液(A-3)を得た。
【0141】
[製造例A4]加水分解性共重合体溶液(A-4)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび撹拌機を備えた四つ口フラスコに、n-ブタノール15部、キシレン56部およびエチルアクリレート(EA)4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、滴下ロートから、n-ブチルアクリレート(BA)12.5部、メチルメタクリレート(MMA)30.2部、エチルアクリレート23.2部、2-メトキシエチルアクリレート(2-MEA)6部、「X-22-174ASX」(製品名、信越化学工業(株)製)10部、前記金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-1)31.3部、キシレン10部、「ノフマーMSD」0.8部、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1部および2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)8部を6時間かけて等速滴下した。滴下終了後にtert-ブチルパーオキシオクトエート(TBPO)2部およびキシレン7部を90分かけて滴下し、更に60分撹拌した後、キシレン7.5部を添加して、無色透明な加水分解性共重合体溶液(A-4)を得た。
【0142】
[製造例A5]加水分解性共重合体溶液(A-5)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび撹拌機を備えた四つ口フラスコに、n-ブタノール15部、キシレン56部およびエチルアクリレート(EA)4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、滴下ロートから、n-ブチルアクリレート(n-BA)7.5部、メチルメタクリレート(MMA)37部、エチルアクリレート(EA)32部、「X-22-174ASX」10部、前記金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-1)21.5部、キシレン10部、「ノフマーMSD」0.8部、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1部および2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)8部を6時間かけて等速滴下した。滴下終了後にtert-ブチルパーオキシオクトエート(TBPO)2部およびキシレン7部を90分かけて滴下し、更に60分撹拌した後、キシレン13部を添加して、無色透明な加水分解性共重合体溶液(A-5)を得た。
【0143】
[製造例A6]加水分解性共重合体溶液(A-6)の製造
冷却器、温度計、滴下ロートおよび撹拌機を備えた四つ口フラスコに、n-ブタノール15部、キシレン36部およびエチルアクリレート(EA)4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、滴下ロートから、n-ブチルアクリレート(n-BA)7.5部、メチルメタクリレート(MMA)21部、エチルアクリレート(EA)30.9部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)12.5部、「X-22-174ASX」10部、前記金属エステル基含有単量体混合物溶液(M-1)31.3部、「ノフマーMSD」0.8部、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1部および2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)10部を6時間かけて等速滴下した。滴下終了後にtert-ブチルパーオキシオクトエート(TBPO)2部およびキシレン7部を90分かけて滴下し、更に60分撹拌した後、キシレン13.5部を添加して、無色透明な加水分解性共重合体溶液(A-6)を得た。
【0144】
<共重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)の測定>
加水分解性共重合体溶液(A-1)~(A-6)に含まれる共重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を、下記の条件によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。
【0145】
装置:「HLC-8320GPC」(東ソー(株)製)
カラム:「TSKgelG4000HXL*G2000HXL」(東ソー(株)製、サイズ7.8mmID×30cmL)
溶離液:THF(1mmolクエン酸)
流速:1.000ml/min
検出器:RI
カラム恒温槽温度:40℃
標準物質:ポリスチレン
サンプル調製法:各製造例で調製された共重合体溶液に、1mmolのクエン酸入りTHF(テトラヒドロフラン)を加えて共重合体の固形分濃度が0.4wt%になるよう希釈後、メンブレンフィルターで濾過して得られた濾物をGPC測定サンプルとした。
【0146】
加水分解性共重合体溶液(A-1)~(A-6)に関する情報(単量体および特性)を表1に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
(3)実施例1~23および比較例1~6の防汚塗料組成物の調製
ポリ容器に、溶剤としてのキシレン6.5部、「プロピレングルコールモノメチルエーテル」(製品名、プロピレングリコールモノメチルエーテル)3部、バーサチック酸0.5部、塩素化パラフィン1部、加水分解性重合体溶液(A―3)35部を添加して、各成分が均一に分散又は溶解するまでペイントシェーカーを用いて混合した。その後、さらにポリ容器に、タルク10部、酸化亜鉛25部、弁柄2部、沈降性硫酸バリウム5部、焼石膏2部、銅ピリチオン5部、メデトミジン0.5部、トラロピリル2.5部、酸化ポリエチレンワックス1部を添加して、1時間ペイントシェーカーを用いて撹拌してこれらの成分を分散させた。分散後、さらに脂肪酸アマイドワックス1部を添加して、20分間ペイントシェーカーを用いて撹拌した後、混合物を濾過網(目開き:80メッシュ)で濾過して、残渣を除いて、濾液として実施例1の金属エステル系防汚塗料組成物を得た。
【0149】
各成分の配合量を表2に記載のとおり変更したこと以外は上記と同様な調製方法にて、実施例2~23および比較例1~6の金属エステル系防汚塗料組成物を得た。
【0150】
なお、表2に記載の各成分の配合量は、有姿での配合量を示している。例えば、実施例1における、脂肪酸アマイドワックスの有姿での(全体としての)配合量は1部であり、固形分は20質量%であるので、脂肪酸アマイドワックスの配合量は、0.2部である。
【0151】
(4)評価試験
(4-1)運航(動的浸漬)後の静置防汚性能
広島県呉湾内に係留された試験筏に設置された回転ドラムの側面に取り付け可能なように、曲げ加工されたサンドブラスト処理鋼板(縦170mm×横70mm×厚み2.3mm)を用意した。このサンドブラスト処理鋼板に、エポキシ系防食塗料(中国塗料(株)製「バンノー500」)をその乾燥膜厚が150μmになるように塗布した後、室温で1日乾燥させて塗膜を形成した。この防食塗膜の表面に、エポキシ系バインダー塗料(中国塗料(株)製「バンノー500N」)をその乾燥膜厚が100μm厚となるように塗布し、室温で1日乾燥させた。さらにその塗膜の上に、実施例および比較例で調製したそれぞれの防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が100μmとなるように塗布し、室温で7日間乾燥させて、防汚塗膜付き試験板1を作成した。
【0152】
まず、動的防汚性試験に準じて、上記防汚塗膜付き試験板1を、前記回転ドラムに取り付けて、実際の船の運航を想定し、周速:10ktで6ヶ月間連続して回転させて、試験板全体を海水中で動的に浸漬した。次に、動的浸漬後の防汚塗膜付き試験板1を、広島湾の試験筏に、試験板全体が海水に浸漬されるように設置し、6ヶ月間および12ヶ月間の静置防汚性試験を実施した。6ヶ月後および12ヶ月後それぞれの防汚塗膜上の水棲生物付着面積を測定し、下記の防汚性能の評価基準に従って、運航(動的浸漬)後の防汚塗膜の静置防汚性を評価した。
【0153】
(4-2)乾湿交互部の静置防汚性能
サンドブラスト処理鋼板(縦300mm×横100mm×厚み2.3mm)に、エポキシ系防食塗料(中国塗料(株)製「バンノー500」)をその乾燥膜厚が150μmになるように塗布した後、室温で1日乾燥させて塗膜を形成した。この防食塗膜の表面に、エポキシ系バインダー塗料(中国塗料(株)製「バンノー500N」)をその乾燥膜厚が100μm厚となるように塗布し、室温で1日乾燥させた。さらにその塗膜の上に、実施例および比較例で調製したそれぞれの防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が100μmとなるように塗布し、室温で7日間乾燥させて、防汚塗膜付き試験板2を作成した。
【0154】
上記防汚塗膜付き試験板2を、広島湾の試験筏に、試験板の半分が海水に浸漬されるように設置し、6ヶ月間および12ヶ月間の静置防汚性試験を実施した。6ヶ月後および12ヶ月後それぞれの防汚塗膜上の水棲生物付着面積を測定し、下記の防汚性能の評価基準に従って、乾湿交互部の防汚塗膜の静置防汚性を評価した。
【0155】
<防汚性能の評価基準/0、1、2点は合格点>
0:海生生物の付着無し
1:海生生物の付着面積が全体の1%未満
2:海生生物の付着面積が全体の1%以上10%未満
3:海生生物の付着面積が全体の10%以上30%未満
4:海生生物の付着面積が全体の30%以上70%未満
5:海生生物の付着面積が全体の70%以上
【0156】
(4-3)バインダー塗膜上の付着性能(60℃×2日間乾燥)
サンドブラスト処理鋼板(縦150mm×横70mm×厚み2.3mm)に、エポキシ系防食塗料(中国塗料(株)製「バンノー500」)をその乾燥膜厚が150μmになるように塗布した後、室温で1日乾燥させて塗膜を形成した。この防食塗膜の表面に、エポキシ系バインダー塗料(中国塗料(株)製「バンノー500N」)をその乾燥膜厚が100μm厚となるように塗布し、40℃環境下で1日乾燥させた。さらにその塗膜の上に、実施例および比較例で調製したそれぞれの防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が100μmとなるように塗布し、60℃環境下で2日間乾燥させて、防汚塗膜付き試験板3を作成した。
【0157】
上記防汚塗膜付き試験板3に、JIS K 5600―5-3:1999の6.デュポン式を基に、落下高さ50cmから1000gのおもりを落下させた。おもり落下後の塗膜面の割れ、剥がれを目視により、下記の付着性能の評価基準に従って評価した。
【0158】
<付着性能の評価基準/0、1、2点は合格点>
0:塗膜面に割れ、剥がれが生じない
1:塗膜面に剥がれを生じ、おもりを落下させた中心点を通って測定される剥がれの最大長さが10mm未満
2:塗膜面に剥がれを生じ、上記最大長さが10mm以上20mm未満
3:塗膜面に剥がれを生じ、上記最大長さが20mm以上30mm未満
4:塗膜面に剥がれを生じ、上記最大長さが30mm以上40mm未満
5:塗膜面に剥がれを生じ、上記最大長さが40mm以上
【0159】
(4-4)バインダー基材上の付着性能(40℃海水3ヶ月浸漬)
前記防汚塗膜付き試験板2を、天然海水40℃に3ヶ月間浸漬させた後、JIS K 5600―5-6:1999に準ずる方法により、5mm間隔のカットを入れ、下記の付着性能の評価基準に従って評価した。
【0160】
<付着性能の評価基準/0、1、2点は合格点>
0:剥離無し
1:剥離面積が全体の5%未満
2:剥離面積が全体の5%以上10%未満
3:剥離面積が全体の10%以上30%未満
4:剥離面積が全体の30%以上70%未満
5:剥離面積が全体の70%以上
【0161】
(4-5)劣化塗膜上の付着性能
サンドブラスト処理鋼板(縦300mm×横100mm×厚み2.3mm)に、エポキシ系防食塗料(中国塗料(株)製「バンノー500」)をその乾燥膜厚が150μmになるように塗布した後、室温で1日乾燥させて塗膜を形成した。この防食塗膜の表面に、エポキシ系バインダー塗料(中国塗料(株)製「バンノー500N」)をその乾燥膜厚が100μm厚となるように塗布し、室温で1日乾燥させた。さらにその塗膜の上に、シリルエステル樹脂系防汚塗料組成物、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系防汚塗料組成物、ならびに実施例および比較例で調製した防汚塗料組成物のそれぞれをその乾燥膜厚が100μmとなるように塗布し、室温で7日間乾燥させた後、天然海水40℃に3ヶ月間浸漬させ、劣化塗膜付き試験板1~3を作製した。
【0162】
上記劣化塗膜付き試験板1~3を、80kgf/cm2の圧力で水洗し、室温で7日間乾燥させた。その後、各劣化塗膜上に、実施例および比較例の塗料組成物それぞれを塗装し、室温で7日間乾燥させ、劣化塗膜上の防汚塗膜付き試験板を作製した。これらの試験板を40℃の海水に3ヵ月浸漬させた後、JIS K 5600―5-6:1999に準ずる方法により、5mm間隔のカットを入れ、下記の付着性能の評価基準に従って評価した。
【0163】
<付着性能の評価基準/0、1、2点は合格点>
0:剥離無し
1:剥離面積が全体の5%未満
2:剥離面積が全体の5%以上10%未満
3:剥離面積が全体の10%以上30%未満
4:剥離面積が全体の30%以上70%未満
5:剥離面積が全体の70%以上
【0164】
なお、上記シリルエステル樹脂系防汚塗料組成物は、下記製造例Xに従って、上記塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系防汚塗料組成物は、下記製造例Yに従ってそれぞれ調製した。上記劣化塗膜付き試験板1は、シリルエステル樹脂系防汚塗膜を、劣化塗膜付き試験板2は、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系防汚塗膜を、劣化塗膜付き試験板3は、実施例、比較例に記載の防汚塗膜をそれぞれ形成した試験板を指す。
【0165】
[製造例X]シリルエステル樹脂系防汚塗料組成物
以下の反応は常圧、窒素雰囲気下で行った。撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを備えた反応容器に、キシレン428.6部およびトリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)100部を仕込み、撹拌機で撹拌しながら、液温が80℃になるまで加熱した。反応容器内の液温を80±5℃に維持しながら、トリイソプロピルシリルメタクリレート(TIPSMA)500部、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)250部、メチルメタクリレート(MMA)100部、ブチルアクリレート(BA)50部および2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)13部からなる混合物を、滴下ロートから2時間かけて反応容器内に滴下した。滴下終了後、反応液を80℃で1時間、80~95℃で1時間30分撹拌した。その後、95℃を保ちながら反応液にAIBN1部を30分毎に4回添加し、105℃まで液温を上昇させ重合反応を完結した。次いで反応容器内にキシレン238部を添加し、液が均一になるまで撹拌して、固形分61.1質量%、粘度1,498mPa・sの共重合体溶液(X1)を得た。この共重合体溶液(X1)中に含まれる共重合体のMwは31,213であった。
【0166】
ポリ容器に、溶剤としてのキシレン8.5部、芳香族系炭化水素溶剤(ソルベッソNo.100、エクソンモービル社製)1部、ロジン2.5部、アルコキシシラン(エチルシリケート28、コルコート(株)社製)0.5部、及び共重合体溶液(X1)21部を添加して、各成分が均一に分散又は溶解するまでペイントシェーカーを用いて混合した。その後、さらにポリ容器に、タルク4部、酸化亜鉛4部、亜酸化銅(NC-301)50部、弁柄1.5部、酸化チタン(Tipaque PFC105、石原産業(株)社製)2.5部、銅ピリチオン2部、及び酸化ポリエチレンワックス1部を添加して、1時間ペイントシェーカーを用いて撹拌してこれらの成分を分散させた。分散後、さらに脂肪酸アマイドワックス1.5部を添加して、20分間ペイントシェーカーを用いて撹拌した後、混合物を濾過網(目開き:80メッシュ)で濾過して、残渣を除いて濾液として、シリルエステル系防汚塗料組成物を得た。
【0167】
[製造例Y]塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系防汚塗料組成物
ポリ容器に、溶剤としてのキシレン13部、2-ヘブタノン3部、ロジン9部、トリクレジルホスフェート(TCP、協和発酵工業(株)社製)3部、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル共重合体(ラロフレックスMP25、BASF社製)5部を添加して、各成分が均一に分散又は溶解するまでペイントシェーカーを用いて混合した。その後、さらにポリ容器に、タルク10部、酸化亜鉛3部、亜酸化銅(Red Copp 97N Premium、American Chemet Corp社製)42部、酸化チタン4部、DCOIT(SEA NINE 211N、ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)社製、固形分30%)5部を添加して、1時間ペイントシェーカーを用いて撹拌してこれらの成分を分散させた。分散後、さらに脂肪酸アマイドワックス3部を添加して、20分間ペイントシェーカーを用いて撹拌した後、混合物を濾過網(目開き:80メッシュ)で濾過して、残渣を除いて濾液として、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル系防汚塗料組成物を得た。
【0168】
実施例1~23および比較例1~6の防汚塗料組成物に関する情報(組成および評価試験結果)を表2に示す。また、それらの防汚塗料組成物の調製に用いた、表2に記載されている成分(製品)の詳細を表3に示す。
【0169】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0170】
【表3】
【0171】
表2に記載されている実施例および比較例の評価試験の結果を対比することにより、例えば下記のようなことがいえる。
【0172】
(1)防汚剤として、トラロピリル(C)および銅ピリチオン(D)を含有するがメデトミジン(B)を含有しない比較例1と、メデトミジン(B)、トラロピリル(C)および銅ピリチオン(D)全てを含有し、それ以外は比較例1の成分と同等の実施例1、2および4の対比から、後者のような構成要件を具備する本発明の防汚塗料組成物は、前者のような従来の防汚塗料組成物に比べて、他の評価試験に係る性能を損なうことなく、長期動的浸漬後の静置防汚性に特に優れ、乾湿交互部の静置防汚性にも優れた防汚塗膜を形成することができる。また、前者の防汚塗膜に比べて後者の防汚塗膜は、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系の劣化防汚塗膜に対する付着性にも優れている。
【0173】
(2)防汚剤として、メデトミジン(B)および銅ピリチオン(D)を含有するがトラロピリル(C)を含有しない比較例4と、メデトミジン(B)、トラロピリル(C)および銅ピリチオン(D)全てを含有し、それ以外は比較例4の成分と同等の実施例2、5および6の対比から、後者のような構成要件を具備する本発明の防汚塗料組成物は、前者のような従来の防汚塗料組成物に比べて、他の評価試験に係る性能を損なうことなく、長期動的浸漬後の静置防汚性および乾湿交互部の静置防汚性に優れた防汚塗膜を形成することができる。また、前者の防汚塗膜に比べて後者の防汚塗膜は、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系の劣化防汚塗膜に対する付着性にも優れている。
【0174】
(3)直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸(E)(その代表例であるバーサチック酸)を含有しない比較例5と、アルキルカルボン酸(E)を含有し、それ以外は比較例9の成分と同等の実施例2、9および10の対比から、後者のような構成要件を具備する本発明の防汚塗料組成物は、前者のような従来の防汚塗料組成物に比べて、他の評価試験に係る性能を損なうことなくシリルエステル樹脂系の劣化防汚塗膜、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系の劣化防汚塗膜(つまり同一の防汚塗膜以外の旧防汚塗膜)に対する付着性に優れ、かつエポキシ系バインダー塗膜に対する付着性にも優れた防汚塗膜を形成することができる。
【0175】
(4)銅ピリチオン(C)を含有せず、代わりに亜鉛ピリチオンを含有する比較例3と、銅ピリチオン(C)を含有し、亜鉛ピリチオンは含有せず、それ以外は比較例3の成分と同等の実施例2の対比から、後者のような構成要件を具備する本発明の防汚塗料組成物は、前者のような従来の防汚塗料組成物に比べて、他の評価試験に係る性能を損なうことなくシリルエステル樹脂系の劣化防汚塗膜、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系の劣化防汚塗膜(つまり同一の防汚塗膜以外の旧防汚塗膜)に対する付着性に優れ、かつエポキシ系バインダー塗膜に対する付着性にも優れた防汚塗膜を形成することができる。
【0176】
(5)直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸(E)(その代表例であるバーサチック酸)を含有せず、代わりにロジンを含有する比較例6と、直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸(E)(その代表例であるバーサチック酸)を含有し、ロジンは含有せず、それ以外は比較例6の成分と同等の実施例2の対比から、後者のような構成要件を具備する本発明の防汚塗料組成物は、前者のような従来の防汚塗料組成物に比べて、他の評価試験に係る性能を損なうことなく、シリルエステル樹脂系の劣化防汚塗膜、塩化ビニル・イソブチルビニルエーテル樹脂系の劣化防汚塗膜(つまり同一の防汚塗膜以外の旧防汚塗膜)に対する付着性に著しく優れ、同一の劣化防汚塗膜に対する付着性にも優れ、かつエポキシ系バインダー塗膜に対する付着性にも著しく優れた防汚塗膜を形成することができる。

【要約】
本発明は、一般的な静置防汚性および長期動的浸漬後の静置防汚性の両方に優れると共に、下塗り塗膜および中塗り塗膜に対する付着性および剥離耐性と、旧防汚塗膜に対する付着性の、いずれにも優れた防汚塗膜を形成することのできる、防汚塗料組成物を提供する。本発明の防汚塗料組成物は、金属エステル基を含有する加水分解性重合体(A)、メデトミジン(B)、トラロピリル(C)、銅ピリチオン(D)、および直鎖または分岐鎖の炭素数4~30のアルキルカルボン酸(E)を含有し、前記重合体(A)が、下記式(1)で表される金属エステル基含有単量体(a1)に由来する構成単位および/または下記式(2)で表される金属エステル基含有単量体(a2)に由来する構成単位を含む。式(1)中、R11はそれぞれ独立に、末端エチレン性不飽和基を含有する1価の基を示し、Mは銅または亜鉛を示す。式(2)中、R21は、末端エチレン性不飽和基を含有する1価の基を示し、R22は、末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1~30の1価の有機基を示し、Mは銅原子または亜鉛原子を示す。