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特許7421019カチオン交換樹脂の製造方法および有機酸溶液の精製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】カチオン交換樹脂の製造方法および有機酸溶液の精製方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 49/53 20170101AFI20240116BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240116BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20240116BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20240116BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20240116BHJP
   B01J 49/06 20170101ALI20240116BHJP
   C08J 5/20 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B01J49/53
B01D15/00
B01J39/05
B01J39/07
B01J39/20
B01J49/06
C08J5/20
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023573308
(86)(22)【出願日】2023-08-17
(86)【国際出願番号】 JP2023029696
【審査請求日】2023-11-27
(31)【優先権主張番号】P 2022161732
(32)【優先日】2022-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
【審査官】▲高▼橋 明日香
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-149813(JP,A)
【文献】特開2022-070585(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110177(WO,A1)
【文献】特開2002-080209(JP,A)
【文献】特開2020-001955(JP,A)
【文献】特開2007-117781(JP,A)
【文献】特開2019-141800(JP,A)
【文献】特開2019-188300(JP,A)
【文献】特開2000-272908(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0052674(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J39/00-49/90
B01D15/00-15/42
C08J5/00-5/02
C08J5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程と、
該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程と、
該精製工程後のカチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(C)を得る第二の再生工程と、
を有するカチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)を、前記精製工程において用いるカチオン交換樹脂(B)として再利用し、さらに前記精製工程および前記第二の再生工程を1回以上繰り返し行う、請求項1に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸溶液は、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、およびホスホン酸類からなる群より選択される、請求項1または2に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸溶液の濃度が3質量%~60質量%であり、かつ、前記精製工程に供される精製前の該有機酸溶液中のNa(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)およびFe(鉄)の合計金属不純物量が2mg/L以下である、請求項3に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記第一の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(B)に、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が、5mg/L-R以下であり、かつ、前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)に、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が、5mg/L-R以下である、請求項1または2に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項6】
繰り返し行われる前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)について、含有金属不純物量、表面の割れ具合および非球形率からなる群より選択される1つ以上のパラメータを所定期間毎に測定し、各パラメータについて事前に設定した所定範囲から逸脱したカチオン交換樹脂(C)を、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させて得られる、有機酸溶液の精製に使用されていないカチオン交換樹脂と交換する、請求項2に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記精製工程と前記第二の再生工程との間に、前記精製工程後のカチオン交換樹脂(B)内に残存する有機酸溶液を水で置換し、前記第二の再生工程に使用するまで、水で置換したカチオン交換樹脂(B)を保管する保管工程を有する、請求項1または2に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)中の鉄(Fe)の含有量が、前記第一の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(B)中の鉄(Fe)の含有量よりも少ない、請求項1に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
【請求項9】
カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程と、
該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程と、
を有する有機酸溶液の精製方法であって、
前記精製工程後のカチオン交換樹脂(B)を、前記第一の再生工程において用いる前記カチオン交換樹脂(A)として再利用し、さらに前記第一の再生工程および前記精製工程を1回以上繰り返し行うことを特徴とする、有機酸溶液の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン交換樹脂の製造方法および該カチオン交換樹脂を用いた有機酸溶液の高度精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程においては、様々な高純度の薬液が使用されており、超純水に限らず、各種薬液中の金属不純物の低減が強く求められている。各種薬液中の金属不純物の除去には、イオン交換樹脂(カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂、キレート樹脂)が使用される。そのため、各種薬液の精製に用いられるイオン交換樹脂自体からの溶出物の低減が求められる。
【0003】
イオン交換樹脂の含有金属不純物量を低減する方法としては、イオン交換樹脂に、含有金属不純物量が1mg/L以下である高純度の鉱酸溶液を接触させる方法が提案されている(特許文献1)。また、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤を含む鉱酸水溶液を用いてイオン交換樹脂の精製を行う方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-117781号公報
【文献】特開2010-234339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特に、イオン交換樹脂を用いて有機酸溶液の精製を行う場合、精製対象(被処理液)である有機酸溶液自身の金属溶解や抽出効果によって、イオン交換樹脂からの金属溶出量が多くなる傾向がある。そのため、上記特許文献に記載の方法によって精製したイオン交換樹脂を用いて有機酸溶液を精製しても、微量の金属溶出が問題となるケースがあった。また、有機酸溶液の精製においては、用いるイオン交換樹脂のライフが短く、イオン交換樹脂の交換頻度が高くなることにより、コストが増大するという問題があった。
【0006】
したがって、本発明は、カチオン交換樹脂中の含有金属不純物量を低減し、有機酸溶液の精製に用いた場合にも、金属溶出が少ないカチオン交換樹脂の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、再生運用可能な前記カチオン交換樹脂を用いた有機酸溶液の高度精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程と、該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程と、該精製工程後のカチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(C)を得る第二の再生工程と、を有するカチオン交換樹脂の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程と、該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程と、を有する有機酸溶液の精製方法であって、前記精製工程後のカチオン交換樹脂(B)を、前記第一の再生工程において用いる前記カチオン交換樹脂(A)として再利用し、さらに前記第一の再生工程および前記精製工程を1回以上繰り返し行うことを特徴とする、有機酸溶液の精製方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カチオン交換樹脂中の含有金属不純物量を低減し、有機酸溶液の精製に用いた場合にも、金属溶出が少ないカチオン交換樹脂を得ることができる。また、該カチオン交換樹脂を用いることで、有機酸溶液中の含有金属不純物を安定的に低減することができる。さらに、本発明によれば、該カチオン交換樹脂を再生運用することにより、コストの増大を抑制し得る有機酸溶液の高度精製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<カチオン交換樹脂の製造方法>
本発明に係る金属溶出量を低減したカチオン交換樹脂の製造方法は、以下の工程を有する。カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程。該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程。該精製工程後のカチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(C)を得る第二の再生工程。以下、各工程について詳細に説明する。
【0011】
[第一の再生工程]
第一の再生工程では、カチオン交換樹脂(A)に、再生剤として、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、H形(水素イオン形)のカチオン交換樹脂(B)を得る。ここで、「カチオン交換樹脂(A)」は、精製前、すなわち再生前のカチオン交換樹脂を意味し、「カチオン交換樹脂(B)」は、精製後、すなわち再生後のカチオン交換樹脂を意味する。本工程は、有機酸溶液の精製に先立ち、該精製に用いられるカチオン交換樹脂の含有金属不純物量を低減する工程である。
【0012】
(カチオン交換樹脂(A))
カチオン交換樹脂(A)としては、Na形およびK形等の塩形やH形のカチオン交換樹脂をいずれも用いることができる。ただし、再生剤の必要量が増大することによるコストアップを抑制する観点から、カチオン交換樹脂(A)としては、H形のカチオン交換樹脂を用いることが好ましい。カチオン交換樹脂(A)は、特に制限されるものではないが、有機高分子を母体とする有機高分子系のカチオン交換樹脂が好ましい。母体となる有機高分子としては、スチレン系樹脂やアクリル系樹脂が挙げられる。
【0013】
なお、本明細書において、「スチレン系樹脂」とは、スチレンまたはスチレン誘導体を単独または共重合した、スチレンまたはスチレン誘導体に由来する構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。スチレン誘導体としては、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。スチレン系樹脂としては、スチレンまたはスチレン誘導体の単独または共重合体を主成分とするものであれば、共重合可能な他のビニルモノマーとの共重合体であってもよい。そのようなビニルモノマーとしては、例えば、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン等のジビニルベンゼン;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性モノマー;(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート等から選択される1種以上を挙げることができる。これらの中でも、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレン重合数が4~16のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましく、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジビニルベンゼンが特に好ましい。
【0014】
また、本明細書において、「アクリル系樹脂」とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルから選択される1種以上を単独重合または共重合した、アクリル酸に由来する構成単位、メタクリル酸に由来する構成単位、アクリル酸エステルに由来する構成単位およびメタクリル酸エステルに由来する構成単位から選択される構成単位を50質量%以上含む樹脂を意味する。アクリル系樹脂としては、アクリル酸の単独重合体、メタクリル酸の単独重合体、アクリル酸エステルの単独重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体、アクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸と他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、アクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等)等)との共重合体、メタクリル酸エステルと他のモノマー(例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、α-オレフィン(例えばエチレン、ジビニルベンゼン等))との共重合体から選択される1種以上を挙げることができる。これらの中でも、メタクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体またはアクリル酸・ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0015】
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸アルキルエステルが好ましく、アクリル酸の直鎖状アルキルエステルまたは分岐状アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸の直鎖状アルキルエステルがさらに好ましい。また、アルキルエステル部位に含まれるアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましく、アクリル酸エステルがアクリル酸メチルまたはアクリル酸エチルであることが特に好ましい。
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸の直鎖状アルキルエステルまたは分岐状アルキルエステルがより好ましく、メタクリル酸の直鎖状アルキルエステルがさらに好ましい。また、アルキルエステル部位に含まれるアルキル基の炭素数は1~4であることが好ましく、メタクリル酸アルキルエステルがメタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルであることが特に好ましい。
【0016】
また、カチオン交換樹脂(A)の母体は、樹脂の有する細孔の径が小さく透明なゲル型および細孔の径が大きいマクロポアを有するマクロリテキュラー型(MR型)またはマクロポーラス型(ポーラス型、ハイポーラス型とも呼ばれる)のいずれであってもよい。
【0017】
カチオン交換樹脂(A)としては、スルホン酸基を有する強酸性カチオン交換樹脂およびカルボン酸基を有する弱酸性カチオン交換樹脂が挙げられる。カチオン交換樹脂(A)としては、一般的な純水製造用樹脂(例えば、アンバーライトシリーズ(商品名、デュポン社製))等をいずれも使用することができる。具体的に、カチオン交換樹脂(A)としては、アンバーライト(登録商標)IRN99H(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂)、IR120B、IR124、200CT(いずれも商品名、デュポン社製);アンバージェット(登録商標)1060H(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂)、1020、1024、1220(いずれも商品名、オルガノ(株)製);オルライト(登録商標)DS-1(ゲル型の強酸性カチオン交換樹脂)、DS-4(マクロポーラス型の強酸性カチオン交換樹脂)(いずれも商品名、オルガノ(株)製);ダイヤイオン(登録商標)SK104H、SK1B、SK110、SK112、PK208、PK212L、PK216、PK218、PK220、PK228、UBK08、UBK10、UBK12(いずれも商品名、三菱ケミカル(株)製);C100、C100E、C120E、C100x10、C100x12、C150、C160、SGC650(いずれも商品名、ピュロライト(株)製);モノプラスS108H、SP112、S1668(いずれも商品名、レバチット社製)等が挙げられるがこれらに限定されない。カチオン交換樹脂(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより得られる、精製されたH形のカチオン交換樹脂(B)として、そのような方法により精製された市販のカチオン交換樹脂を用いることもできる。具体的には、上記例示したカチオン交換樹脂のうち、オルライトシリーズ(商品名、オルガノ(株)製)については、次工程である精製工程におけるカチオン交換樹脂(B)として、そのまま用いることができる。すなわち、そのようなカチオン交換樹脂を用いる場合は、第一の再生工程を省略することができる。金属除去性能の観点からは、カチオン交換樹脂は、強酸性カチオン交換樹脂であることが好ましく、総交換容量が1.9eq/L-R以上の強酸性カチオン交換樹脂であることがより好ましい。
【0018】
カチオン交換樹脂の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、0.1mm~1.0mmであることができる。ここで、本明細書において、平均粒子径は、調和平均径を意味する。
【0019】
本工程においては、特許文献1に記載されるように、カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、該カチオン交換樹脂(A)に含まれる金属不純物を除去、低減し、精製されたH形のカチオン交換樹脂(B)を得る。含有金属不純物量が極めて少ない鉱酸溶液にカチオン交換樹脂(A)を接触させることにより、確実かつ効果的に、カチオン交換樹脂(A)に含まれる金属不純物量を低減することができ、溶出金属不純物量の少ないカチオン交換樹脂(B)を得ることができる。なお、カチオン交換樹脂(A)を鉱酸溶液に接触させた後は、純水または超純水により、樹脂中に残存する鉱酸溶液を洗浄し、除去することが好ましい。
【0020】
再生剤として用いる鉱酸溶液中の含有金属不純物量は1mg/L以下であり、0.5mg/L以下であることが好ましく、0.2mg/L以下であることがより好ましい。また、鉱酸溶液の濃度は、5質量%以上である。鉱酸溶液の濃度が5質量%未満である場合、十分なカチオン交換樹脂内の金属不純物低減効果を得ることができない。鉱酸溶液の濃度の上限は限定されるものではないが、通常、30質量%以下である。なお、鉱酸溶液に含まれる金属不純物とは、金属不純物イオンをも含む概念であり、代表的なものとして、例えば、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)等が挙げられる。鉱酸溶液としては、水溶液が好ましく、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。「カチオン交換樹脂(A)に鉱酸溶液を接触させる」とは、カチオン交換樹脂(A)に鉱酸溶液を通過、通液させることのほか、カチオン交換樹脂(A)を鉱酸溶液中に浸漬すること等も含む。
【0021】
第一の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(B)に、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は、好ましくは5mg/L-R以下、より好ましくは3mg/L-R以下である。なお、前記濃度3質量%の塩酸に含まれる金属不純物量は、分析精度を上げる目的から、好ましくは1mg/L以下、より好ましくは0.5mg/L以下、さらに好ましくは0.2mg/L以下であるが、その限りではない。また、「体積比25倍量」の塩酸とは、カチオン交換樹脂(B)の体積に対して25倍の体積の塩酸を通過させることを意味する。また、単位「/L-R」は、「水湿潤状態におけるカチオン交換樹脂の体積1L当たり」を意味する。なお、水湿潤状態とは、イオン交換体が水に浸漬された状態を指す。水湿潤状態の体積は、水に浸漬された状態のイオン交換体の体積をメスシリンダー等の測定器具を用いて測定することができる。ここで、水湿潤状態におけるカチオン交換樹脂は、カチオン交換樹脂を、25℃で相対湿度100%の大気に15分間以上接触させることによって得られる。
【0022】
再生剤として用いる前記濃度が5質量%以上の鉱酸溶液中のナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であることが好ましい。これら金属不純物の含有量が少ない鉱酸溶液をカチオン交換樹脂に接触させることにより、確実かつ効果的に、カチオン交換樹脂内のNa、Mg、CaおよびFeの含有量を低減させることができる。同様に、前記濃度3%の塩酸中のナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)の含有量は、それぞれ200μg/L以下であることが好ましい。
【0023】
カチオン交換樹脂(A)に鉱酸溶液を接触させる方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、カラム等の樹脂充填容器と、送液部と、貯留槽とを用いて鉱酸溶液を通液する方法が挙げられる。ここで、送液部とは、鉱酸溶液を通液するために用いられるポンプや、圧縮空気または窒素等を押し出す装置等を含む。貯留槽は、鉱酸溶液や処理後の鉱酸溶液を溜める容器である。通液時の鉱酸溶液の温度は、安全上の観点から、例えば、15℃以上60℃以下とすることができる。また、樹脂充填容器へ通液する鉱酸溶液のSV(空間速度)は特に限定されないが、運用可能な範囲において、低流速であることが好ましい。鉱酸溶液のSVは、例えば、0.5以上20以下とすることができ、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。また、鉱酸溶液のSVは、後述する精製工程における有機酸溶液のSVよりも低速であることが好ましい。樹脂量に対する、通液する鉱酸溶液の流量倍数は、1BV以上40BV以下であることが好ましい。なお、上記の通液条件は一例であり、各条件については、適宜、調整することができる。また、再生で使用する高純度の鉱酸溶液の量が多いほど、樹脂の含有金属不純物量をより低減することができる。
【0024】
[精製工程]
精製工程では、前記第一の再生工程で得られたカチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、有機酸溶液の精製を行う。
【0025】
(有機酸溶液)
精製対象である有機酸溶液は、半導体製造工程において用いられる有機酸であれば特に限定されない。そのような有機酸としては、例えば、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、乳酸およびリンゴ酸などのカルボキシ基を有する水溶性有機化合物、ならびにホスホン酸類を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。ホスホン酸類としては、ホスホン酸基(-P=O(OH))を有する有機化合物であれば特に限定されない。これらの中でも、有機酸溶液としては、クエン酸およびシュウ酸が好ましい。
【0026】
本発明においては、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を用いる。有機酸溶液としては通常、有機酸濃度が3質量%~60質量%であるものが用いられる。また、含有金属不純物量を低減する前の有機酸溶液(精製工程に供される、精製前の有機酸溶液)中のNa(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)およびFe(鉄)の合計金属不純物量は、2mg/L以下であることが好ましく、1mg/L以下であることがより好ましい。なお、精製工程に供される、精製前の有機酸溶液の前記合計金属不純物量が、上記範囲となるように、公知の方法により精製した有機酸溶液を用いてもよい。有機酸溶液中には、上記以外にも、K(カリウム)、Al(アルミニウム)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、As(ヒ素)その他の任意の金属不純物が含まれていてもよい。
【0027】
カチオン交換樹脂(B)に有機酸溶液を接触させる方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、上記カチオン交換樹脂(A)に鉱酸溶液を接触させる方法と同様の方法を挙げることができる。具体的には、カチオン交換樹脂(B)を充填したカラムに有機酸溶液を通液することにより、有機酸溶液の精製を行うことができる(カラム式)。また、バッチ式により、有機酸溶液をカチオン交換樹脂(B)に接触させてもよい。通液時の有機酸溶液の温度は、固形の有機酸を水溶液へ溶解させた場合、有機酸が低温で析出しやすいことや、カチン交換樹脂の耐熱温度などを考慮して、例えば、15℃以上80℃以下とすることができる。また、樹脂充填容器へ通液する有機酸溶液のSV(空間速度)は特に限定されないが、1以上20以下であることが好ましい。樹脂量に対する、通液する有機酸溶液の流量倍数は、10BV以上であることが好ましい。なお、流量倍数の上限は、目標を満たす流量倍数を、適宜、事前に評価して設定することが好ましい。また、上記の通液条件は一例であり、各条件については、適宜、調整することができる。上記精製工程を行うことにより、有機酸溶液中の各金属不純物量を、好ましくはそれぞれ10μg/L以下、より好ましくは5μg/L以下まで、大幅に低減することができる。
【0028】
[第二の再生工程]
第二の再生工程では、前記精製工程において有機酸溶液の精製に使用したカチオン交換樹脂(B)を、再度、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液に接触させる。これにより、カチオン交換樹脂(B)を再生したカチオン交換樹脂(C)が得られる。第二の再生工程は、前記第一の再生工程における「カチオン交換樹脂(A)」として、有機酸溶液の精製に使用した、すなわち、有機酸溶液と接触後の「カチオン交換樹脂(B)」を用いる以外は、前記第一の再生工程と同様の工程である。なお、実施例において示すように、第二の再生工程において、濃度が5質量%以上の鉱酸溶液として、金属不純物量が1mg/Lを超えるものを用いた場合、樹脂中の特にカルシウム(Ca)濃度が増加することが明らかとなった。そのため、第一の再生工程および第二の再生工程における再生剤として、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を用いることが重要である。
【0029】
カチオン交換樹脂(C)は、カチオン交換樹脂の鉱酸水溶液との1回目の接触、有機酸溶液との接触、および鉱酸水溶液との2回目の接触を経て得られる。ここで、カチオン交換樹脂と有機酸溶液との接触は、有機酸溶液中の含有金属不純物をカチオン交換樹脂によって除去する有機酸溶液の精製工程である。一方で、これをカチオン交換樹脂の視点から説明すると、鉱酸水溶液による精製(再生)によっては除去しきれない不純物を有機酸溶液によって除去するカチオン交換樹脂の精製工程ということもできる。すなわち、本発明に係る方法によれば、被処理液である有機酸溶液の精製をしつつ、その精製に用いるカチオン交換樹脂に含まれる、鉱酸水溶液によっては除去しきれない不純物を、被処理液である有機酸溶液との接触によって、該カチオン交換樹脂から除去することができる。なお、カチオン交換樹脂に含まれる、鉱酸水溶液によっては除去しきれない不純物の量は微量(例えば数μg/L以下レベル)であり、これらわずかな不純物が有機酸溶液中に溶出しても、有機酸溶液の高度精製において影響を与えるものではないと考えられる。
【0030】
第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)に、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量は、第一の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(B)と同様、好ましくは5mg/L-R以下、より好ましくは3mg/L-R以下である。なお、カチオン交換樹脂中に含まれる金属不純物としては、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、および鉄(Fe)、アルミニウム(Al)等の種々の金属が挙げられる。特に、本発明に係る方法によれば、カチオン交換樹脂(C)中の鉄の含有量を、第一の再生工程後に得られるカチオン交換樹脂(B)中の鉄の含有量よりも少なくすることができる。具体的には、カチオン交換樹脂(C)中の鉄の含有量を、第一の再生工程後に得られるカチオン交換樹脂(B)中の鉄の含有量と比べて、例えば70質量%以下、好ましくは50質量%以下まで低減することができることが分かった。鉄は、鉱酸溶液である塩酸等と錯体を形成することが知られており、該錯体は、カチオン交換樹脂中に吸着される。しかし、有機酸溶液を接触させることにより、錯体となってカチオン交換樹脂に吸着された鉄を、有機酸のキレート作用によってカチオン交換樹脂から除去することができたものと推測している。なお、上記のような鉄の含有量の低減効果は、精製工程と第二の再生工程とを繰り返し行う場合においても得ることができる。
【0031】
なお、鉄に限らず、第二の再生工程において用いる再生剤(鉱酸溶液)の量を増やすことにより、カチオン交換樹脂(C)の含有金属不純物量をより低減することができる。具体的に、カチオン交換樹脂と鉱酸溶液との1回目の接触(第一の再生工程)の後、有機酸溶液と接触した後の樹脂の再生処理(第二の再生工程)で用いる鉱酸溶液量を、第一の再生工程で用いた量の1.0倍~3.0倍に設定することが挙げられる。または、精製工程と第二の再生工程とを繰り返し行う場合において、有機酸溶液との1回目の接触後、カチオン交換樹脂に鉱酸溶液を通液して、カチオン交換樹脂と接触した後の該鉱酸溶液中のCaやFe等の金属濃度を分析し、得られた金属濃度が一定以下に低減する倍量を再生剤の必要量と定める。そして、有機酸溶液との2回目の接触以降の再生工程においては、前記定めた再生剤の必要量の1.0倍~3.0倍の範囲の再生剤を用いて再生処理を行う。なお、金属除去性能が目標値を満たさない場合、例えば数回に1回の割合で、再生剤量を増やす操作や再生剤濃度を上げる操作を加えてもよい。
【0032】
[カチオン交換樹脂の再生運用]
中性付近の溶液の精製と比べ、有機酸溶液の精製においては、イオン交換樹脂のライフが短いことが知られている(後述する参考例を参照)。すなわち、有機酸溶液の精製においては、イオン交換樹脂の交換頻度が高くなり、コストの増大につながる。そこで、実質的なイオン交換樹脂の交換頻度を低くするために、本発明に係る方法においては、カチオン交換樹脂の再生運用を行うことが好ましい。
すなわち、本発明に係る方法においては、前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)を、前記精製工程において用いるカチオン交換樹脂(B)として再利用し、さらに前記精製工程および前記第二の再生工程を1回以上繰り返し行うことができる。このように、本発明によれば、有機酸溶液の精製に用いた、精製工程後のカチオン交換樹脂(B)を再生して、繰り返し有機酸溶液の精製に用いることができるため、実質的なイオン交換樹脂の交換頻度を低くすることができる。すなわち、有機酸溶液の精製コストを抑えることが可能となる。
【0033】
なお、本明細書において、「精製工程後のカチオン交換樹脂(B)」は、精製工程を1回経た後のカチオン交換樹脂(B)と、精製工程を1回経た後のカチオン交換樹脂(B)を再生して得られるカチオン交換樹脂(C)を精製工程において再利用した場合に、その再度の精製工程後に得られる、精製工程を複数回経た後のカチオン交換樹脂(B)との両方を含む意味である。同様に、「第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)」は、第二の再生工程を1回経た後のカチオン交換樹脂(C)と、第二の再生工程を複数回経た後のカチオン交換樹脂(C)との両方を含む意味である。
【0034】
第二の再生工程後に得られるカチオン交換樹脂(C)を、精製工程におけるカチオン交換樹脂(B)として再利用する場合において、前記精製工程および前記第二の再生工程は、1回以上、例えば、5回以上、10回以上、50回以上、そして100回以上繰り返し行うことができる。ただし、本発明のように、精製後の有機酸溶液中の金属濃度がμg/Lレベルであるような高度精製に適用するカチオン交換樹脂を再生して利用する場合、再生剤や再生後の樹脂の含有金属不純物量の管理を行い、必要に応じて、劣化した樹脂の交換を行う必要がある。特に、有機酸は、イオン交換樹脂の膨潤収縮を引き起こしやすい。そのため、定期的に、樹脂母体の劣化の状態についての管理を行うことが重要である。
【0035】
そこで、特に、(繰り返し行われる)第二の再生工程後に得られるカチオン交換樹脂(C)を、精製工程におけるカチオン交換樹脂(B)として再利用する場合においては、該カチオン交換樹脂(C)について、所定のパラメータを所定期間毎に測定し、各パラメータについて事前に設定した所定範囲から逸脱したカチオン交換樹脂(C)の一部または全部を、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させて得られる、有機酸溶液の精製に使用されていないH形のカチオン交換樹脂(再利用品ではなく、新たに再生した新品のカチオン交換樹脂(B)に相当)と交換することが好ましい。
【0036】
ここで、所定のパラメータとしては、カチオン交換樹脂の含有金属不純物量、顕微鏡観察によるカチオン交換樹脂の表面の割れ具合および非球形率、ならびにカチオン交換樹脂の交換容量からなる群より選択される1つ以上が挙げられる。これらの中でも、樹脂の劣化具合を早期に判断することが可能であることから、カチオン交換樹脂の含有金属不純物量、ならびに顕微鏡観察によるカチオン交換樹脂の表面の割れ具合および非球形率からなる群より選択される1つ以上について、所定期間毎に測定し、樹脂の劣化具合を管理することが好ましい。
【0037】
(含有金属不純物量)
カチオン交換樹脂を再生し、繰り返し有機酸溶液の精製に使用する場合、再生時にわずかに残存する不純物等が、樹脂内に少しずつ蓄積することが考えられる。そのため、定期的に樹脂中の含有金属不純物量を測定し、含有金属不純物量が一定量を超えた場合には、その一部または全部を、新たなカチオン交換樹脂と交換することが好ましい。含有金属不純物量の測定は、例えば、塩酸を用いて樹脂中の含有金属を溶離させる方法(塩酸溶離法)によって測定することができる。具体的には、再生後のカチオン交換樹脂(C)に対して、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量を、ICP-MSを用いて測定する。また、樹脂中に、酸によっては溶離できない金属が存在する場合、樹脂自体を分解して金属含有量を測定するMicrowave法(MW法)を用いてもよい。含有金属不純物量の分析以外に、イオン交換樹脂の細孔分布や容積、水分保有能力、反応速度、後述する交換容量を分析してもよい。
【0038】
再生後のカチオン交換樹脂(C)の含有金属不純物量は少ない方が好ましいが、具体的な交換の目安は、例えば、含有金属不純物量が5mg/L-Rを超えた時点、より好ましくは3mg/L-Rを超えた時点である。なお、上記交換の目安となる所定範囲については、事前に有機酸溶液中の含有金属不純物量と、樹脂中の含有金属不純物量との関係を評価した上で、適宜設定することが好ましい。
【0039】
(樹脂表面の割れ具合、非球形率)
半導体製造工程で使用される濃度3質量%~60質量%の有機酸溶液を精製する場合、水よりも高い密度と粘度を有する液体を精製することになる。そのような有機酸溶液の精製においては、溶液を樹脂へ通液する際に圧力が上昇しやすく、樹脂の膨潤収縮や樹脂破砕が起こることで、さらに圧力が上昇しやすくなる。したがって、金属除去性能の変化だけでなく、通液時の圧力変化を中心とした運転状況への影響についても注意する必要がある。顕微鏡観察によってカチオン交換樹脂の表面の割れ具合を測定する方法としては、任意の数のカチオン交換樹脂のうち、樹脂表面の割れや欠け、亀裂などが無いものの割合(%)を、顕微鏡を用いて目視または自動でカウントする方法(PBC:Perfect Beads Content)が挙げられる。また、顕微鏡観察によって非球形率を測定する方法としては、任意の数のカチオン交換樹脂のうち、球状を保っているものの割合(%)を、顕微鏡を用いて目視または自動でカウントする方法(WBC:Whole Beads Content)が挙げられる。
【0040】
樹脂表面の割れ具合(PBC)について、具体的な交換の目安は、まだ精製に用いていない新品樹脂のPBCを100%とした場合、70%以下となった時点、好ましくは80%以下となった時点である。また、非球形率(WBC)について、具体的な交換の目安は、非球形率が80%以下となった時点、好ましくは90%以下となった時点である。なお、上記交換の目安となる所定範囲については、事前に有機酸溶液中の金属不純物量と、樹脂のPBCおよびWBCとの関係を評価した上で、適宜設定することが好ましい。本発明においては、特に各工程を繰り返し行う場合に、破砕したイオン交換樹脂の微粒子が被処理液中へ溶出することがないように、樹脂を充填する容器の後段に、微粒子除去フィルターを設けることが好ましい。
【0041】
(交換容量)
樹脂の劣化によって交換容量が低下すると、処理性能が低下する。そのため、カチオン交換樹脂の交換容量が一定以下となった場合には、新たなカチオン交換樹脂と交換することが好ましい。交換容量は、滴定法等によって測定することができる。交換容量について、具体的な交換の目安は、交換容量が未使用樹脂(新品樹脂)の80%以下となった時点、好ましくは90%以下となった時点である。なお、上記交換の目安となる所定範囲については、事前に有機酸溶液中の金属不純物量と、樹脂の交換容量との関係を評価した上で、適宜設定することが好ましい。
【0042】
以上説明したように、樹脂の各パラメータ測定の例としては、再生後の樹脂に対し、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量を、ICP-MSを用いて測定することや、再生前後(または精製に用いる前後)の樹脂の含有金属不純物量、交換容量、ならびに表面の割れ具合および非球形率を測定することが挙げられる。また、得られたデータを品質管理データとして記録しておくことで、該データを基に、樹脂が劣化する前に樹脂の交換時期を判断することができる。なお、劣化した樹脂を、再利用品でなく新たに再生した樹脂(カチオン交換樹脂(B))と交換する際は、全量交換でも部分的な交換でもよい。ただし、品質管理の容易性の観点からは、全量交換が好ましい。
【0043】
なお、各パラメータを測定するタイミング、すなわち所定期間については、特に限定されず、適宜、設定することができる。例えば、精製工程後に毎回行ってもよく、第二の再生工程後に毎回行ってもよく、精製工程と第二の再生工程とを1回、2回、または5回繰り返し実施する毎に行ってもよい。あるいは、本発明に係る方法を用いて有機酸溶液の精製を行うにあたり、一週間ごとに測定を行ってもよく、実際の作業のタイミングに合わせて、適切なタイミングを設定すればよい。各パラメータは、いずれか1つを確認してもよいし、複数を組み合わせて確認してもよい。パラメータを確認せずに、過剰な量の鉱酸を用いて再生運用することも可能であるが、品質管理の面からは好ましくない。
【0044】
(樹脂の保管方法)
本発明に係る方法においては、再生したカチオン交換樹脂を、すぐに有機酸溶液の精製に用いてもよいが、一旦保管した後に、有機酸溶液の精製に用いてもよい。また、有機酸溶液の精製に用いたカチオン交換樹脂を、すぐに再生してもよいが、一旦保管した後に、再生してもよい。また、例えば、有機酸溶液の精製とカチオン交換樹脂の再生とを、別の工場で実施する場合、精製後のカチオン交換樹脂を移送する必要がある。
ここで、樹脂を有機酸浸漬状態(精製に用いた後のカチオン交換樹脂の状態)で移送する場合、以下のような問題が生じる可能性がある。有機酸は高比重であり、輸送費が高くなる。%オーダーの濃度を有する有機酸の輸送自体に規制がある可能性がある。輸送による揺れや振動によって、普段接液しない場所に有機酸が接液し、金属溶出が起こる可能性がある。有機酸浸漬状態においては樹脂が膨潤するため、振動等によって攪拌された場合に、樹脂が物理的ダメージを受ける可能性がある。また、%オーダーの濃度を有する有機酸が漏れたり、配管内に残留したりした場合、乾燥時に結晶化するおそれがある。特に、半導体製造工場では、濃度20質量%前後の有機酸が使用されているが、加温によって有機酸が溶解している場合、温度の低下により析出する可能性がある。また、鉱酸溶液によって再生後、純水または超純水を用いて洗浄した後の水浸漬状態の樹脂であっても、水の量が多いと、輸送費が増大する可能性が考えられる。
【0045】
したがって、有機酸溶液の精製に使用した、精製工程後のカチオン交換樹脂を、移送する等のために保管する場合や、有機酸溶液の精製を一旦停止する場合等においては、カチオン交換樹脂内に残存する有機酸を水で置換することが好ましい。すなわち、本発明に係るカチオン交換樹脂の製造方法は、精製工程と第二の再生工程との間に、精製工程後のカチオン交換樹脂(B)内に残存する有機酸溶液を水で置換し、第二の再生工程に使用するまで、水で置換したカチオン交換樹脂(B)を保管する保管工程を有することが好ましい。なお、水としては、純水または超純水を用いることができる。また、上記のとおり、水浸漬状態の樹脂であっても、水の量が多いと輸送費が増大する可能性が考えられるため、水で置換した後に、必要に応じて、公知の方法により脱水してもよい。なお、上記「有機酸溶液の精製に使用した、精製工程後のカチオン交換樹脂」とは、有機酸溶液の精製に1回使用した後のカチオン交換樹脂(1回目の精製工程後のカチオン交換樹脂(B))でもよく、有機酸溶液の精製および再生を複数回繰り返した後のカチオン交換樹脂(B)であってもよい。
【0046】
有機酸溶液の精製に使用した後のカチオン交換樹脂内の有機酸を水に置換する際の通液条件は特に限定されないが、例えば、SV10以下で、2BV~30BV程度が好ましい。この際、カチオン交換樹脂を充填した樹脂塔出口の水溶液のpHを確認し、弱酸~中性を示すようになるまで水で洗浄してもよい。なお、カチオン交換樹脂内の有機酸濃度が一定レベルまで希釈され、容易に析出しない濃度まで低減されていればよい。
【0047】
<有機酸溶液の精製方法>
本発明に係る有機酸溶液の精製方法は、上記カチオン交換樹脂の製造方法における第一の再生工程または第二の再生工程によって得られるカチオン交換樹脂を用いて有機酸溶液を精製する方法である。すなわち、本発明に係る有機酸溶液の精製方法は、以下の工程を有する。カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程。該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程。本発明に係る有機酸溶液の精製方法は、前記精製工程後のカチオン交換樹脂(B)を、前記第一の再生工程において用いるカチオン交換樹脂(A)として再利用し、さらに前記第一の再生工程および前記精製工程を1回以上繰り返し行うことを特徴とする。この方法によれば、精製に用いるカチオン交換樹脂を再生運用し得るため、カチオン交換樹脂の実質的な交換頻度を低下させることができる。
【0048】
本発明に係る有機酸溶液の精製方法における第一の再生工程および精製工程は、それぞれ、上述の本発明に係るカチオン交換樹脂の製造方法における第一の再生工程および精製工程に相当する工程であり、詳細な説明を省略する。なお、精製工程後のカチオン交換樹脂(B)を、第一の再生工程におけるカチオン交換樹脂(A)として再利用して行う2回目以降の第一の再生工程は、上述の本発明に係るカチオン交換樹脂の製造方法における第二の再生工程に相当する工程ともいえる。
【0049】
また、上述の本発明に係るカチオン交換樹脂の製造方法において説明したカチオン交換樹脂の再生運用や樹脂の保管方法についても、適宜、本発明に係る有機酸溶液の精製方法において適用することができる。
【0050】
本発明に係る精製方法を用いることにより、例えば、以下のようなフローで、有機酸溶液の精製を行うことができる。樹脂充填容器として、例えば、浄水カートリッジサイズ(数百mL)からガスボンベサイズ(数L~70L)、またはカラムサイズ(50L~100L)の容器を使用し、これら容器に、第一の再生工程で得られたカチオン交換樹脂(B)を充填する。続いて、該容器に、被処理液(有機酸溶液)を通液し、精製した処理液を得る(1回目の精製工程)。精製工程後のカチオン交換樹脂(B)を、該樹脂充填容器に充填したまま水洗浄し、脱水する。続いて、水洗浄後のカチオン交換樹脂(B)を、カチオン交換樹脂(A)として再利用し、再生処理を行う(2回目の第一の再生工程)。再生後の樹脂の品質管理や、再生後の樹脂からの溶出評価(導電率、比抵抗、TOC)の結果から、再生した樹脂の品質管理や樹脂の交換時期の推定を行う。そして、再生したカチオン交換樹脂(B)を用いて(ただし、必要に応じて、該カチオン交換樹脂の一部または全部を交換する)、再度、有機酸溶液の精製を行う(2回目の精製工程)。適宜、上記各工程を繰り返し行う。
【0051】
(アニオン交換樹脂の適用)
以上の説明においては、カチオン交換樹脂の製造方法および該カチオン交換樹脂を用いた有機酸溶液の精製方法について述べたが、本発明は、前記カチオン交換樹脂に代えてアニオン交換樹脂を用いた場合にも適用することができる。アニオン交換樹脂を用いる実施形態において、第一の再生工程を経た再生後のアニオン交換樹脂として、例えば、オルライトシリーズ(商品名、オルガノ(株)製)を用いることができるが、これに限定されない。
【実施例
【0052】
[参考例1]:高純度精製樹脂を用いた有機酸溶液の精製
本発明に係る第一の再生工程を経て高純度精製したH形強酸性カチオン交換樹脂(商品名:オルライトDS-1、オルガノ(株)製)を用いて、30質量%クエン酸(和光特級グレード、富士フイルム和光純薬(株)製、超純水により希釈したもの)を、SV5で6時間通液処理し、精製した(合計30BV)。精製前後のクエン酸中の金属濃度を、Agilent 8900 トリプル四重極ICP-MS(商品名、アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて分析した。結果を表1に示す。
表1に示すように、精製前の30質量%クエン酸中の金属濃度は、高いもので約800μg/Lであったが、全て5μg/L以下まで低減することができた。すなわち、サブmg/Lオーダーから、1桁μg/Lレベルまで、金属不純物を大幅に低減することができた。
【0053】
[参考例2~3]:有機酸精製における樹脂のライフの確認
本発明に係る第一の再生工程を経て高純度精製したH形強酸性カチオン交換樹脂(商品名:オルライトDS-1、オルガノ(株)製)を用いて、30質量%クエン酸(和光特級グレード、富士フイルム和光純薬(株)製、超純水により希釈したもの)を、SV5で12時間通液処理し、精製した(合計60BV)。精製前後のクエン酸中の金属濃度を、参考例1と同様に分析した(参考例2)。
また、強酸性の有機酸溶液の精製における樹脂のライフが短いことを示すため、前記30質量%クエン酸と同等以上の金属不純物を含む模擬液の精製を、同様のH形強酸性カチオン交換樹脂を用いて、同様の条件(SV5で12時間、合計60BV)で行った。精製前後の模擬液中の金属濃度を、参考例1と同様に分析した(参考例3)。なお、模擬液は、純水にICP-MS用混合標準液(商品名:XSTCシリーズ、SPEX社製)を添加し、純水で希釈することにより調製した。
参考例2および3の精製試験の結果を、参考例1の精製試験の結果と併せて表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すように、精製前の模擬液は、精製前の30質量%クエン酸溶液よりも金属不純物濃度が高かったが、60BV通液時点で5μg/Lを超える金属元素は見られなかった(参考例3)。一方、30質量%クエン酸の精製試験においては、60BV通液時点でNaが270μg/Lリークした(参考例2)。すなわち、60BV通液時点では、クエン酸中のNaが、樹脂に吸着されずにそのままクエン酸中に残存していた。また、Naよりも原液濃度は低いものの、Asについても、30BV通液時点ではリークがみられなかったのに対し、60BV通液時点では、原液同等の濃度までリークしていた。これらの結果から、有機酸溶液の精製においては、純水や中性付近の溶液の精製と比べて金属リークが早く起こり、樹脂の再生頻度が高くなることが確認された。
【0056】
[実施例1]
(第一の再生工程)
金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を用いた本発明に係る第一の再生工程を経たH形強酸性カチオン交換樹脂(商品名:オルライトDS-1、オルガノ(株)製、カチオン交換樹脂(B))を用意した。該カチオン交換樹脂(B)に対して、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物溶出量をICP-MSを用いて分析したところ(塩酸溶離1)、5mg/L-R以下であった。
(精製工程)
該カチオン交換樹脂(B)をカラム(直径:19mm、高さ:300mm)に充填し、30質量%クエン酸模擬液(金属不純物量は2mg/L以下、Na、Mg、CaおよびFeの合計金属不純物量は2mg/L以下)を、SV5で通液した。なお、30質量%クエン酸模擬液は、和光特級グレードのクエン酸(富士フイルム和光純薬(株)製)を30質量%になるように純水へ溶解した後、ICP-MS用混合標準液(XSTCシリーズ、SPEX社製)を添加することにより調製した。その後、超純水をSV10で2時間以上通水し、洗浄水のpHが弱酸性(pH4)であり、クエン酸濃度が十分に低いことを確認した。
(第二の再生工程)
再生処理として、前記精製工程に使用した後のカチオン交換樹脂(B)に対して、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより(前記精製工程のクエン酸模擬液の通液よりも低い流速で通液)、本発明に係る第二の再生工程を実施した。得られたカチオン交換樹脂(C)に対して、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量を、ICP-MSを用いて分析したところ(塩酸溶離2)、5mg/L-R以下であった。そして、有機酸通液前の塩酸溶離1と有機酸通液後の塩酸溶離2で得られた各金属濃度の比(有機酸通液後の金属濃度/有機酸通液前金属濃度)を求めた。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、第一の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(B)と比較して、有機酸通液後にさらに鉱酸による再生を行った後に得られるカチオン交換樹脂(C)においては、特にFeの含有量が顕著に低下する傾向が見られた。有機酸通液により、有機酸中の金属を除去するイオン交換反応と同時に、イオン交換樹脂に含まれるFeが有機酸のキレート作用によって低減されたと考えられる。以上から、カチオン交換樹脂に対し、鉱酸、有機酸、および鉱酸をこの順で接触させることにより、カチオン交換樹脂に含まれる、鉱酸のみによっては除去が困難な金属と鉱酸によって除去可能な金属との両方を低減し、高度に精製されたカチオン交換樹脂を得ることができることが分かった。
【0059】
[実施例2]
カラム(直径:19mm、高さ:300mm)に、本発明に係る第一の再生工程(1回目の再生工程)を経たカチオン交換樹脂(B)として、実施例1と同様のH形強酸性カチオン交換樹脂を充填した。該カラムへ、実施例1で用いた30質量%クエン酸模擬液(金属不純物量は2mg/L以下、Na、Mg、CaおよびFeの合計金属不純物量は2mg/L以下)を通液(SV3の流速)し、次いで、実施例1と同様に、超純水洗浄を行った(1回目の精製工程)。その後、精製に用いたカチオン交換樹脂(B)に対し、ELグレードの鉱酸溶液(金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上)を用いた本発明に係る第二の再生工程を実施(前記精製工程のクエン酸模擬液の通液よりも低い流速で実施)し、続いて、超純水洗浄を行った(2回目の再生工程)。このように、鉱酸再生(再生工程)と有機酸通液(精製工程)とを繰り返して、有機酸溶液の精製を合計4回行った。1回目~4回目の各有機酸溶液の精製における、精製前後の有機酸溶液中の金属濃度を、Agilent 8900 トリプル四重極ICP-MS(商品名、アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて測定し、金属除去性能を評価した。金属除去性能は、各金属について、下式に基づき、金属除去率を算出することにより評価した。結果を表3に示す。
金属除去率(%)={(精製前の金属濃度-精製後の金属濃度)/(精製前の金属濃度)}×100
【0060】
また、4回目の有機酸溶液の精製後、さらに再生処理を行い、該再生処理後のカチオン交換樹脂に、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する金属不純物量(mg/L-R)を分析した。測定は、Agilent 8900 トリプル四重極ICP-MS(商品名、アジレント・テクノロジー(株)製)を用いて行った。そして、得られた金属不純物量を、有機酸溶液の精製に用いていない新品のカチオン交換樹脂(再生工程後の樹脂)の金属不純物量と比較した。各金属について、4回精製に用いた後の樹脂の金属不純物量/新品の樹脂の金属不純物量から求めた金属不純物量の比を表4に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
表3に示すように、有機酸溶液の精製に繰り返し使用した樹脂を用いて有機酸溶液を精製した場合においても、有機酸溶液からの金属除去率は90%を超えた。特に、Ni以外の金属については、4回目の精製であっても99%以上の安定した金属除去率を示した。このように、本発明によれば、有機酸溶液の精製に繰り返し使用した樹脂であっても、鉱酸溶液による再生を行うことにより、再生運用できることが確認できた。
また、表4の結果から、Ca等、繰り返し使用する中で増加した金属は見られたものの、Feについては、精製と再生を繰り返すことにより低減する傾向が確認された。さらに、カチオン交換樹脂中の全金属不純物量は、精製と再生を繰り返した場合においても、5mg/L-R以下であり、該樹脂をさらに再利用して有機酸溶液の精製を行うことも可能であることが示された。
【0064】
[比較例1]
カラム(直径:19mm、高さ:300mm)に、実施例1と同様の方法によりクエン酸模擬液を精製した後のカチオン交換樹脂を充填した。そして、含有金属不純物量が1mg/Lを超える濃度5質量%以上の鉱酸溶液を、前記クエン酸模擬液の通液よりも低い流速で通液することにより、第二の再生工程を実施した。再生後に得られたカチオン交換樹脂(C)について、実施例1と同様の方法で金属不純物量を分析した。
その結果、再生後のカチオン交換樹脂(C)に含まれるCaの量が、実施例1の第二の再生工程後のカチオン交換樹脂(C)に含まれるCaの量に対して5倍以上であった。
【0065】
[実施例3]
250mLビーカーに20質量%クエン酸(和光特級グレード、富士フイルム和光純薬(株)製、超純水により希釈したもの、金属不純物量は2mg/L以下、Na、Mg、CaおよびFeの合計金属不純物量は2mg/L以下)を注加した。そこへ、本発明に係る第一の再生工程を経たカチオン交換樹脂(B)として、実施例1と同様のカチオン交換樹脂を浸漬し、30分間静置した(精製工程)。なお、カチオン交換樹脂(B)に対して20質量%クエン酸は5BV使用した。静置後、クエン酸を除去し、クエン酸と接触後のカチオン交換樹脂(B)を、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液に30分間浸漬して再生し(鉱酸溶液は5BV使用)、超純水洗浄を行った(第二の再生工程)。この精製工程および第二の再生工程を、さらに10回繰り返し行った後、得られた樹脂サンプルのPBC、WBCおよび交換容量を測定した。
なお、PBCは、カチオン交換樹脂のうち、樹脂表面の割れや欠け、亀裂などが無いものの割合(%)を、顕微鏡(商品名:デジタルマイクロスコープ、(株)キーエンス製)を用いて目視でカウントすることにより算出した。また、WBCは、カチオン交換樹脂のうち、球状を保っているものの割合(%)を、上記顕微鏡を用いて目視でカウントすることにより算出した。さらに、交換容量は、塩形に調製したカチオン交換樹脂に酸を通液し、イオン交換によって消費された酸のモル数を、中和滴定により求めた。結果を表5に示す。なお、表中、「超純水」条件とは、上記カチオン交換樹脂(B)を上記クエン酸と同量の超純水に浸漬する条件であり、これは、まだ有機酸溶液の精製には用いられていない新品の樹脂(第一の再生工程を経たもの)に相当する条件である。また、表5中、PBCについては、超純水条件におけるPBCを100%とした場合の、各条件におけるPBCの値を示した。
【0066】
【表5】
【0067】
表5に示すように、有機酸溶液の精製と再生を合計11回繰り返した場合、WBCについては変化がなかったものの、PBCの低下がみられた。なお、PBCが新品の樹脂(表5における超純水条件)と比べて90%を下回る程度であれば、まだ繰り返し精製に用いることが可能なレベルであるが、この結果から、樹脂の劣化具合を測定する指標として、WBCよりもPBCを用いることで、早期に樹脂母体のダメージを把握することができることが分かった。また、有機酸溶液の精製と再生を合計11回繰り返した場合、PBCの低下は確認されたが、交換容量自体には影響はなかった。すなわち、有機酸溶液の精製と再生の繰り返しは、交換容量よりも樹脂のヒビ等、母体に対して、より大きな影響を与えることが分かった。
【0068】
本発明は、以下の構成を含む。
[構成1]
カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程と、
該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程と、
該精製工程後のカチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(C)を得る第二の再生工程と、
を有するカチオン交換樹脂の製造方法。
[構成2]
前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)を、前記精製工程において用いるカチオン交換樹脂(B)として再利用し、さらに前記精製工程および前記第二の再生工程を1回以上繰り返し行う、構成1に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
[構成3]
前記有機酸溶液は、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、およびホスホン酸類からなる群より選択される、構成1または2に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
[構成4]
前記有機酸溶液の濃度が3質量%~60質量%であり、かつ、前記精製工程に供される精製前の該有機酸溶液中のNa(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Ca(カルシウム)およびFe(鉄)の合計金属不純物量が2mg/L以下である、構成3に記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
[構成5]
前記第一の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(B)に、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が、5mg/L-R以下であり、かつ、前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)に、濃度3質量%の塩酸を体積比25倍量で通過させたときに溶出する全金属不純物量が、5mg/L-R以下である、構成1~4のいずれかに記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
[構成6]
任意に繰り返し行われる前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)について、含有金属不純物量、表面の割れ具合および非球形率からなる群より選択される1つ以上のパラメータを所定期間毎に測定し、各パラメータについて事前に設定した所定範囲から逸脱したカチオン交換樹脂(C)を、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させて得られる、有機酸溶液の精製に使用されていないカチオン交換樹脂と交換する、構成1~5のいずれかに記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
[構成7]
前記精製工程と前記第二の再生工程との間に、前記精製工程後のカチオン交換樹脂(B)内に残存する有機酸溶液を水で置換し、前記第二の再生工程に使用するまで、水で置換したカチオン交換樹脂(B)を保管する保管工程を有する、構成1~6のいずれかに記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
[構成8]
前記第二の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(C)中の鉄(Fe)の含有量が、前記第一の再生工程で得られるカチオン交換樹脂(B)中の鉄(Fe)の含有量よりも少ない、構成1~7のいずれかに記載のカチオン交換樹脂の製造方法。
[構成9]
カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程と、
該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程と、
を有する有機酸溶液の精製方法であって、
前記精製工程後のカチオン交換樹脂(B)を、前記第一の再生工程において用いる前記カチオン交換樹脂(A)として再利用し、さらに前記第一の再生工程および前記精製工程を1回以上繰り返し行うことを特徴とする、有機酸溶液の精製方法。

【要約】
カチオン交換樹脂中の含有金属不純物量を低減し、有機酸溶液の精製に用いた場合にも、金属溶出が少ないカチオン交換樹脂の製造方法を提供する。カチオン交換樹脂(A)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(B)を得る第一の再生工程と、該カチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が2mg/L以下でかつ濃度が3質量%以上の有機酸溶液を接触させることにより、該有機酸溶液を精製する精製工程と、該精製工程後のカチオン交換樹脂(B)に、金属不純物量が1mg/L以下でかつ濃度が5質量%以上の鉱酸溶液を接触させることにより、カチオン交換樹脂(C)を得る第二の再生工程と、を有するカチオン交換樹脂の製造方法。