(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】アルカリ蓄電池、及びアルカリ蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/28 20060101AFI20240117BHJP
H01M 50/107 20210101ALI20240117BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20240117BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
H01M10/28 A
H01M50/107
H01M4/70 A
H01M4/24 J
(21)【出願番号】P 2020024565
(22)【出願日】2020-02-17
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】佐口 明
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-056682(JP,A)
【文献】特開2015-103498(JP,A)
【文献】特開2005-056678(JP,A)
【文献】特開2005-135674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/28
H01M 50/10
H01M 4/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極板と、帯状の負極板と、前記正極板及び前記負極板の間に配置された帯状のセパレータとが互いに重ね合わされて渦巻き状に形成された渦状電極群であって、該渦状電極群の最内周部分において前記負極板が前記正極板より内周側に位置するように形成された渦状電極群と、
該渦状電極群がアルカリ電解液とともに収容された導電性を有する外装缶と、を備え、
前記負極板は、帯状の負極芯体と、該負極芯体の外周側の面に坦持された第1負極合剤層と、前記負極芯体の内周側の面に坦持された第2負極合剤層とを有しており、前記負極芯体は、該負極芯体の最内周部分の端縁部において外周側に向かって突出するバリを有し、
前記第1負極合剤層の最内周部分の端縁部の厚さは前記第1負極合剤層の前記端縁部以外の部分の厚さより薄く、且つ、前記バリの高さは前記セパレータの厚さの30%以下である、ことを特徴とするアルカリ蓄電池。
【請求項2】
前記第1負極合剤層の前記端縁部は、0.19mm以下の厚さを有する、請求項1記載のアルカリ蓄電池。
【請求項3】
前記第1負極合剤層の前記端縁部は、前記第1負極合剤層の最内周部分の端縁から0.6mm以上10mm以下の距離を有する、請求項1又は2記載のアルカリ蓄電池。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項記載のアルカリ蓄電池の製造方法であって、
長手方向及び短手方向を有する帯状の負極芯体素地の一方の面に第1負極合剤層を塗工し、前記負極芯体素地の他方の面に第2負極合剤層を塗工する塗工工程と、
該塗工工程の後、前記負極芯体素地と前記第1負極合剤層と前記第2負極合剤層とを、前記負極芯体素地の短手方向の中央において長手方向に切断し、且つ、前記負極芯体素地の短手方向に切断し、帯状の負極板を作製する切断工程と、
該切断工程の後、前記負極板と、帯状の正極板と、前記正極板及び前記負極板の間に配置された帯状のセパレータとを重ね合わせて渦巻き状の渦状電極群を作製する巻回工程であって、前記渦状電極群の最内周部分において前記負極板が前記正極板より内周側に位置するように渦状電極群を作製する巻回工程と、
該巻回工程の後、前記渦状電極群をアルカリ電解液とともに導電性を有する外装缶に挿入する挿入工程と、を備え、
前記塗工工程の後であって前記切断工程の前に調整工程を備え、該調整工程において、前記負極芯体素地の前記中央を含む第1領域における前記第1負極合剤層の厚さが、前記第1領域以外の第2領域における前記第1負極合剤層の厚さより薄くなるように、前記第1負極合剤層を調整し、
前記巻回工程において、前記第1負極合剤層が前記負極板において外周側に位置し、且つ前記切断工程で切断された前記負極芯体素地の前記中央が前記負極板の最内周部分の端縁となるように渦状電極群を作製する、ことを特徴とするアルカリ蓄電池の製造方法。
【請求項5】
前記調整工程において、前記第1領域における前記第1負極合剤層の厚さが0.19mm以下となるように、前記第1負極合剤層を調整する、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記調整工程において、前記第1領域の範囲が、前記負極芯体素地の前記短手方向の前記中央から前記短手方向に夫々0.6mm以上10mm以下となるように、前記第1負極合剤層を調整する、請求項4又は5記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルカリ蓄電池、及びアルカリ蓄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ蓄電池は、正極板と負極板とセパレータとを積層した電極体を備えている。電極体において、セパレータは正極板と負極版との間に配置されている。当該アルカリ蓄電池において、例えば電極体は渦巻き状に巻回されて、導電性を有する円筒形状の外装缶にアルカリ電解液と共に収容されている。当該アルカリ蓄電池では、セパレータを介して対向する正極板と負極版との間で所定の電気化学反応が生じ、これにより充電及び放電が行われている。
【0003】
例えば特許文献1に記載の電池は、各々が帯状をした正極板と負極板と、その間に介挿されたセパレータを有する電極体を備えている。当該電極体は、Z軸周りに渦巻き状に巻回され、X軸方向に扁平化された形状を有している。具体的には、特許文献1に記載の電極体においては、巻回中心領域において、正極板の端部と当該正極板の端部に対向する負極板との間に、2層の外側セパレータと1層の内側セパレータが介挿されている。このため、特許文献1に記載の電池では、電極体の正極板の端部に、負極板の側を向くバリが形成されている場合であっても、3層のセパレータにより正極板と負極板との短絡の防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1に記載の電池では、正極板の端部と負極板との間に配置されるセパレータを3層にして当該セパレータの厚さを増やすことで、正極板のバリがセパレータを貫通して負極板に到達することを回避している。ところが、特許文献1に記載の電池では、正極板のバリがセパレータの厚みよりも高く形成された場合には、バリがセパレータを貫通して正極板と負極板との間で短絡が生じることがある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、正極板と負極板との間の短絡の防止を図ることのできるアルカリ蓄電池、及び当該アルカリ蓄電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るアルカリ蓄電池は、帯状の正極板と、帯状の負極板と、前記正極板及び前記負極板の間に配置された帯状のセパレータとが互いに重ね合わされて渦巻き状に形成された渦状電極群であって、該渦状電極群の最内周部分において前記負極板が前記正極板より内周側に位置するように形成された渦状電極群と、該渦状電極群がアルカリ電解液とともに収容された導電性を有する外装缶と、を備え、前記負極板は、帯状の負極芯体と、該負極芯体の外周側の面に坦持された第1負極合剤層と、前記負極芯体の内周側の面に坦持された第2負極合剤層とを有しており、前記負極芯体は、該負極芯体の最内周部分の端縁部において外周側に向かって突出するバリを有し、前記第1負極合剤層の最内周部分の端縁部の厚さは前記第1負極合剤層の前記端縁部以外の部分の厚さより薄く、且つ、前記バリの高さは前記セパレータの厚さの30%以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様に係るアルカリ蓄電池において、前記第1負極合剤層の前記端縁部は、0.19mm以下の厚さを有する。
【0009】
本発明の一態様に係るアルカリ蓄電池において、前記第1負極合剤層の前記端縁部は、前記第1負極合剤層の最内周部分の端縁から0.6mm以上10mm以下の距離を有する。
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係るアルカリ蓄電池の製造方法は、上記アルカリ蓄電池の製造方法であって、長手方向及び短手方向を有する帯状の負極芯体素地の一方の面に第1負極合剤層を塗工し、前記負極芯体素地の他方の面に第2負極合剤層を塗工する塗工工程と、該塗工工程の後、前記負極芯体素地と前記第1負極合剤層と前記第2負極合剤層とを、前記負極芯体素地の短手方向の中央において長手方向に切断し、且つ、前記負極芯体素地の短手方向に切断し、帯状の負極板を作製する切断工程と、該切断工程の後、前記負極板と、帯状の正極板と、前記正極板及び前記負極板の間に配置された帯状のセパレータとを重ね合わせて渦巻き状の渦状電極群を作製する巻回工程であって、前記渦状電極群の最内周部分において前記負極板が前記正極板より内周側に位置するように渦状電極群を作製する巻回工程と、該巻回工程の後、前記渦状電極群をアルカリ電解液とともに導電性を有する外装缶に挿入する挿入工程と、を備え、前記塗工工程の後であって前記切断工程の前に調整工程を備え、該調整工程において、前記負極芯体素地の前記中央を含む第1領域における前記第1負極合剤層の厚さが、前記第1領域以外の第2領域における前記第1負極合剤層の厚さより薄くなるように、前記第1負極合剤層を調整し、前記巻回工程において、前記第1負極合剤層が前記負極板において外周側に位置し、且つ前記切断工程で切断された前記負極芯体素地の前記中央が前記負極板の最内周部分の端縁となるように渦状電極群を作製することを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係るアルカリ蓄電池の製造方法において、前記調整工程において、前記第1領域における前記第1負極合剤層の厚さが0.19mm以下となるように、前記第1負極合剤層を調整する。
【0012】
本発明の一態様に係るアルカリ蓄電池の製造方法において、前記調整工程において、前記第1領域の範囲が、前記負極芯体素地の前記短手方向の前記中央から前記短手方向に夫々0.6mm以上10mm以下となるように、前記第1負極合剤層を調整する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルカリ蓄電池によれば、前記第1負極合剤層の最内周部分の端縁部の厚さは前記第1負極合剤層の前記端縁部以外の部分の厚さより薄く、且つ、前記バリの高さは前記セパレータの厚さの30%以下である。このように、本発明に係るアルカリ蓄電池は、渦状電極群の状態において、前記バリの高さが前記セパレータの厚さの30%以下である。従って、セパレータの内周側部分即ち負極芯体のバリと対向するセパレータの内周側部分が渦状電極群の状態において破断している場合であっても、負極芯体のバリがセパレータを貫通して正極板に到達することがない。よって、正極板と負極板との間の短絡の防止を図るアルカリ蓄電池を提供することができる。
【0014】
また、本発明に係るアルカリ蓄電池の製造方法によれば、調整工程において、前記負極芯体素地の前記中央を含む第1領域における前記第1負極合剤層の厚さが、前記第1領域以外の第2領域における前記第1負極合剤層の厚さより薄くなるように、前記第1負極合剤層を調整する。また、前記巻回工程において、前記第1負極合剤層が前記負極板において外周側に位置し、且つ前記切断工程で切断された前記負極芯体素地の前記中央が前記負極板の最内周部分の端縁となるように渦状電極群を作製する。このように、本発明に係るアルカリ蓄電池の製造方法においては、調整工程において、負極芯体素地の第1領域における第1負極合剤層が、第2領域における第1負極合剤層の厚さより薄く形成される。このため、切断工程において負極芯体素地の短手方向の中央(第1領域)を切断する時間が短くなり、当該切断工程における負極芯体素地の変形量を小さくすることができる。これにより、負極板の負極芯体に形成されるバリの高さを極力低く、具体的にはセパレータの厚さの30%以下にすることができる。従って、セパレータの内周側部分即ち負極芯体のバリと対向する部分が巻回工程において破断した場合であっても、負極芯体に形成されたバリがセパレータを貫通して正極板に到達することがない。よって、正極板と負極板との間の短絡の防止を図るアルカリ蓄電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るアルカリ蓄電池を部分的に破断して示した斜視図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係るアルカリ蓄電池の渦状電極群が外装缶に挿入された状態を示す断面図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係るアルカリ蓄電池の負極板を示す立面図である。
【
図4】
図4は、一実施形態に係るアルカリ蓄電池の製造方法に含まれる調整工程を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図4の工程後の負極芯体素地、第1負極合剤層、及び第2負極合剤層を示す立面図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係るアルカリ蓄電池の製造方法に含まれる切断工程の後の負極板を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化したアルカリ蓄電池の一例としてニッケル水素二次電池2(以下、単に「電池2」ともいう)の実施形態を説明する。なお、本実施形態として、AAサイズの円筒形の電池2に本発明が適用された場合を説明するが、電池2のサイズはこれに限るものではなく、例えばAAAサイズ等他のサイズでもよい。また、アルカリ蓄電池としては、電解液にアルカリ溶液を用いるものであればよく、例えばニッケルカドミウム蓄電池等でもよい。
【0017】
図1は、一実施形態に係るニッケル水素二次電池2(アルカリ蓄電池)を部分的に破断して示した斜視図である。
図2は、一実施形態に係るニッケル水素二次電池2の渦状電極群22が外装缶10に挿入された状態を示す図である。
図3は、一実施形態に係るニッケル水素二次電池2の負極板26を示す立面図である。なお、説明の便宜上、円筒形状の外装缶10の軸線xにおいて、矢印a方向を上側、矢印b方向を下側とする。ここで、上側とは、電池2における正極端子20が設けられている側を意味し、下側とは、電池2における底壁35が設けられている側であり、上側の反対側を意味する。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから遠ざかる方向を外周側とし(矢印c方向)、軸線xに向かう方向を内周側とする(矢印d方向)。
【0018】
図1に示すように、電池2は、上側(矢印a方向)が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10は導電性を有し、下側(矢印b方向)に設けられた底壁35は負極端子として機能する。外装缶10の開口には、封口体11が固定されている。この封口体11は、蓋板14及び正極端子20を含み、外装缶10を封口する。蓋板14は、導電性を有する円板形状の部材である。外装缶10の開口内には、蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁37をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁37に固定されている。すなわち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0019】
ここで、蓋板14は中央に中央貫通孔16を有し、そして、蓋板14の上側の面である外面上には中央貫通孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状をなす金属製の正極端子20が電気的に接続されている。この正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。なお、正極端子20には、図示しないガス抜き孔が開口されている。
【0020】
通常時、中央貫通孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、そのガスの圧力が高まれば、弁体18はガスの圧力によって圧縮され、中央貫通孔16を開き、その結果、外装缶10内から中央貫通孔16及び正極端子20のガス抜き孔(図示せず)を介して外部にガスが放出される。つまり、中央貫通孔16、弁体18及び正極端子20は電池2のための安全弁を形成している。
【0021】
図1,2に示すように、外装缶10には、渦状電極群22が収容されている。この渦状電極群22は、それぞれ帯状の正極板24、負極板26及びセパレータ28が互いに重ね合わされて形成されている。渦状電極群22は、正極板24と負極板26との間にセパレータ28が挟み込まれた状態で、渦状電極群22の最外周部分50において負極板26が正極板24より外周側(矢印c方向)に位置し、且つ、渦状電極群22の最内周部分58において負極板26が正極板24より内周側(矢印d方向)に位置するように渦巻き状に形成されている。すなわち、セパレータ28を介して正極板24及び負極板26が互いに重ね合わされている。
【0022】
渦状電極群22は、正極板24及び負極板26を、セパレータ28を介して、正極板24の巻始端36及び負極板26の巻始端38から巻芯(図示せず)を用いて渦巻き状に巻回して形成される。負極板26の巻始端38は正極板24の巻始端36と面一となっていてもよいし(
図2)、正極板24の巻始端36から周方向に突出していてもよい(図示せず)。また、正極板24及び負極板26における巻終端40,42は、渦状電極群22の最外周部分50に位置付けられる。負極板26の巻終端42は、正極板24の巻終端40と面一となっていてもよいし(
図2)、正極板24の巻終端40から周方向に突出していてもよい(図示せず)。
【0023】
渦状電極群22の最外周部分50において、負極板26の外周側の面である外面52は、セパレータ28で覆われず露出した状態であり、この外面52と外装缶10の内周壁13とが接触することにより、負極板26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。また、渦状電極群22の最外周部分50において、負極板26の内周側の面である内面54は、セパレータ28を介して正極板24と対向している。つまり、渦状電極群22の最外周部分50における負極板26は、内面54でのみ正極板24と対向している。
【0024】
負極板26は、負極板26の最外周部分26aより内周側に、最外周部分26aから連続する本体部26bを有している。負極板26は、本体部26bよりも更に内周側に、本体部26bから連続する最内周部分26cを有している。本体部26bは、負極板26の外面52及び内面54の両方の面がセパレータ28を介して正極板24と対向している部分である。負極板26の最内周部分26cでは、負極板26の外面52がセパレータ28を介して正極板24と対向しており、負極板26の内面54は正極板24と対向していない。なお、巻回後に巻芯は引き抜かれるので、渦状電極群22の中心部には、巻芯の形状に対応した空間44が存在している。
【0025】
そして、外装缶10内には、渦状電極群22の上側の端部と蓋板14との間に正極リード30が配置されている。詳しくは、正極リード30は、その一端が正極板24に接続され、その他端が蓋板14に接続されている。従って、正極端子20と正極板24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と渦状電極群22との間には円形の上部絶縁部材32が配置され、正極リード30は上部絶縁部材32に設けられたスリット39の中を通されて延びている。また、渦状電極群22と外装缶10の底壁35との間にも円形の下部絶縁部材34が配置されている。
【0026】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、渦状電極群22に含浸され、正極板24と負極板26との間での充放電の際の電気化学反応(充放電反応)を進行させる。このアルカリ電解液としては、KOH、NaOH及びLiOHのうちの少なくとも一種を溶質として含む水溶液を用いることが好ましい。また、アルカリ電解液の濃度についても特に限定されず、例えば、8N(規定度)のものを用いることができる。
【0027】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したもの等を用いることができる。
【0028】
正極板24は、多孔質構造を有する導電性の正極基材と、この正極基材の空孔内に保持された正極合剤とを含んでいる。このような正極基材としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体を用いることができる。正極合剤は、正極活物質粒子、導電剤及び結着剤を含む。また、正極合剤には、必要に応じて正極添加剤が添加される。
【0029】
正極活物質粒子としては、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている水酸化ニッケル粒子が用いられる。この水酸化ニッケル粒子は、高次化されている水酸化ニッケル粒子を採用することが好ましい。上記したような正極活物質粒子は、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている製造方法により製造される。
【0030】
導電剤としては、例えば、コバルト酸化物(CoO)やコバルト水酸化物(Co(OH)2)などのコバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。この導電剤は、必要に応じて正極合剤に添加されるものであり、添加される形態としては、粉末の形態の他、正極活物質の表面を覆う被覆の形態で正極合剤に含まれていてもよい。
【0031】
正極合剤の結着剤は、正極活物質粒子を互いに結着させるとともに、正極活物質粒子を正極基材に結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。また、正極添加剤としては、酸化亜鉛、水酸化コバルト等が挙げられる。
【0032】
ついで、正極板24は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、正極活物質粒子、水、導電剤及び結着剤を含む正極合剤スラリーを調製する。正極合剤スラリーは、例えば、スポンジ状のニッケル製金属体に充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された金属体は、ロール圧延されてから裁断され、正極板24が製造される。
【0033】
次に、
図3を用いて負極板26について説明する。説明の便宜上、
図3において、紙面左方向を負極板26の巻始端38の側とし(矢印e方向)、紙面右方向を負極板26の巻終端42の側とする(矢印f方向)。また、後述する負極芯体26dより下側を渦状電極群22の状態における外周側とし(矢印c方向)、後述する負極芯体26dより上側を渦状電極群22の状態における内周側とする(矢印d方向)。
【0034】
負極板26は、導電性を有する金属製の負極芯体26dと、負極芯体26dに担持された、負極活性物質を含む負極合剤層(第1負極合剤層26e、第2負極合剤層26f)とを備え、全体として帯状をなしている。具体的には、
図3に示すように、負極板26は、帯状の負極芯体26dと、負極芯体26dの外周側(矢印c方向)の面である外周面26gに坦持された第1負極合剤層26eと、負極芯体26dの内周側(矢印d方向)の面である内周面26hに坦持された第2負極合剤層26fとを有している。また、負極芯体26dは、負極芯体26dの最内周部分26jの端縁部26kにおいて外周側(矢印c方向)に向かって突出するバリ26iを有している。具体的には、負極芯体26dのバリ26iは、負極板26の最内周部分26cの端縁部、即ち負極板26の巻始端38の側(矢印e方向)に形成されている。
【0035】
第1負極合剤層26eの最内周部分26qの端縁部26lの厚さD1は、第1負極合剤層26eの端縁部26l以外の部分の厚さD2より薄く、且つ、バリ26iの高さHはセパレータ28の厚さD4(
図2)の30%以下である。具体的には、第1負極合剤層26eの最内周部分26qの端縁部26lとは、負極板26の最内周部分26cに含まれる領域であり、バリ26iを覆う領域である。ここで、第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さD1は、負極板26が渦巻き状に形成される前の状態において、0.19mm以下の厚さ、より詳細には、0.13mm以上0.19mm以下の厚さを有することが好ましい。また、第1負極合剤層26eの端縁部26lは、負極板26が渦巻き状に形成される前の状態において、第1負極合剤層26eの最内周部分26qの端縁26rから0.6mm以上10mm以下の距離Lを有することが好ましい。第1負極合剤層26eの端縁26rは、負極板26の巻始端38に含まれる部分である。
【0036】
負極芯体26dは、貫通孔(図示せず)が分布された帯状の金属材であり、例えば、パンチングメタルシートを用いることができる。負極合剤層(第1負極合剤層26e、第2負極合剤層26f)は、負極活性物質を含む負極合剤により形成されている。負極合剤は、負極芯体26dの貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極芯体26dの外周面26g及び内周面26hにも層状に担持されて負極合剤層(第1負極合剤層26e、第2負極合剤層26f)を形成している。負極合剤は、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子、導電剤、結着剤及び負極補助剤を含む。
【0037】
上記した結着剤は水素吸蔵合金粒子、導電剤等を互いに結着させると同時に水素吸蔵合金粒子、導電剤等を負極芯体26dに結着させる働きをする。ここで、結着剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、親水性若しくは疎水性のポリマー、カルボキシメチルセルロースなどの、ニッケル水素二次電池用として一般的に用いられている結着剤を用いることができる。また、負極補助剤としては、スチレンブタジエンゴム、ポリアクリル酸ナトリウム等を用いることができる。水素吸蔵合金粒子における水素吸蔵合金としては、特に限定されるものではなく、一般的なニッケル水素二次電池に用いられているものを用いるのが好ましい。導電剤としては、ニッケル水素二次電池の負極に一般的に用いられている導電剤が用いられる。例えば、カーボンブラック等が用いられる。
【0038】
負極板26は、例えば、以下のようにして製造することができる。ここで、
図4は、一実施形態に係る電池2の製造方法に含まれる調整工程を示す斜視図である。
図5は、
図4の工程(調整工程)後の負極芯体素地26m、第1負極合剤層26e、及び第2負極合剤層26fを示す立面図である。
図6は、一実施形態に係る電池2の製造方法に含まれる切断工程の後の負極板26を示す立面図である。なお、説明の便宜上、
図4において、紙面上方向を負極芯体素地26mの長手方向とする(矢印g方向)。負極芯体素地26mの長手方向は、負極板26の製造過程において負極芯体素地26mの進行方向に沿う方向である。また、
図4及び
図5の説明において、負極芯体素地26mの短手方向における外側(短手方向外側)を矢印hで示し、負極芯体素地26mの短手方向における内側(短手方向内側)を矢印iで示し、一点鎖線Yは、後述する切断工程における切断位置を示す。また、
図6の説明においては、
図3の説明と同様に、矢印e方向を負極板26の巻始端38の側とし、矢印f方向を負極板26の巻終端42の側とする。また、負極芯体26dより下側を渦状電極群22の状態における外周側とし(矢印c方向)、後述する負極芯体26dより上側を渦状電極群22の状態における内周側とする(矢印d方向)。
【0039】
まず、上記のような水素吸蔵合金粒子の集合体である水素吸蔵合金粉末と、導電剤と、結着剤と、水とを準備し、これらを混練して負極合剤のペーストを調製する。
【0040】
得られたペーストは、塗工工程において負極芯体素地26mに塗工される(図示せず)。具体的には、塗工工程において、長手方向(矢印g方向)及び短手方向(矢印h及びi方向)を有する帯状の負極芯体素地26mの一方の面に第1負極合剤層26eを塗工し、負極芯体素地26mの他方の面に第2負極合剤層26fを塗工する。ここで、負極芯体素地26mの一方の面は、渦状電極群22の状態における負極板26の外周面26gに対応し、負極芯体素地26mの他方の面は、渦状電極群22の状態における負極板26の内周面26hに対応する。この塗工工程では、負極芯体素地26mに第1負極合剤層26e及び第2負極合剤層26fが一定の厚さで塗工される。
【0041】
塗工工程の後、
図4に示す調整工程が実施される。当該調整工程において、負極芯体素地26mの中央26nを含む第1領域26oにおける第1負極合剤層26eの厚さD1が、第1領域26o以外の第2領域26pにおける第1負極合剤層26eの厚さD2より薄くなるように、第1負極合剤層26eを調整する。負極芯体素地26mの中央26nとは、負極芯体素地26mの短手方向における中央を意味する。より詳細には、調整工程では、所定の形状を有する第1スリット60及び第2スリット61の間を、第1負極合剤層26e及び第2負極合剤層26fが塗工された負極芯体素地26mが通過することにより、第1負極合剤層26e及び第2負極合剤層26fの一部が掻き落とされ、第1負極合剤層26e及び第2負極合剤層26fの形状を調整する。なお、調整工程において、第1領域26oにおける第1負極合剤層26eの厚さD1が0.19mm以下、より詳細には0.13mm以上0.19mm以下となるように第1負極合剤層26eを調整することが好ましい。また、調整工程において、第1領域26oの範囲が、負極芯体素地26mの短手方向の中央26nから短手方向に夫々0.6mm以上10mm以下の距離Lとなるように、第1負極合剤層26eを調整することが好ましい。具体的には、第1領域26oは、負極芯体素地26mの中央26nから短手方向外側(矢印h方向)に0.6mm以上10mm以下の範囲とすることが好ましく、且つ、負極芯体素地26mの一方の面(負極板26の外周面26gに対応)から0.13mm以上0.19mm以下の厚さとすることが好ましい。
【0042】
第2領域26pは、第1領域26oよりも短手方向外側に位置する第1負極合剤層26eの部分であり、その形状は特に限定されるものではない。例えば、
図4に示すように、第2領域26pにおける第1負極合剤層26eは短手方向外側の部分が薄く形成されているが、第2領域26pにおける第1負極合剤層26eの形状はこれに限るものではなく、例えば同じ厚さに形成されていてもよい。また、第2負極合剤層26fの形状も特に限定されるものではない。例えば、
図4に示すように、第2負極合剤層26fは短手方向内側の部分だけ薄く形成されているが、第2負極合剤層26fの厚さはこれに限るものではなく、例えば同じ厚さに形成されていてもよい。
【0043】
調整工程の後、負極芯体素地26m、第1負極合剤層26e及び第2負極合剤層26fを乾燥し、
図5に示す状態の形状の第1負極合剤層26e及び第2負極合剤層26fを得る。その後、切断工程(図示せず)において、負極芯体素地26mと第1負極合剤層26eと第2負極合剤層26fとを、負極芯体素地26mの短手方向の中央26nにおいて長手方向(
図5の紙面上下方向)に切断し、且つ、負極芯体素地26mの短手方向に切断し、
図6に示す帯状の負極板26を作製する。この切断工程において、カッター(図示せず)により負極芯体素地26mと第1負極合剤層26eと第2負極合剤層26fとを長手方向に切断する際、
図6に示すように、外周側(矢印c方向)及び内周側(矢印d方向)に突出するバリ26iが形成される。
【0044】
次いで、電池2の製造方法について説明する。巻回工程において、上述のように製造された正極板24及び負極板26が、セパレータ28を介在させた状態で、渦巻き状に巻回される。具体的には、切断工程の後、負極板26と、帯状の正極板24と、正極板24及び負極板26の間に配置された帯状のセパレータ28とを重ね合わせ、渦状電極群22の最外周部分50において負極板26が正極板24より外周側に位置し、且つ、渦状電極群22の最内周部分58において負極板26が正極板24より内周側に位置するように渦巻き状の渦状電極群を作製する(
図2)。巻回工程において、第1負極合剤層26eが負極板26において外周側に位置し、且つ切断工程で切断された負極芯体素地26mの中央26nが負極板26の最内周部分26cの端縁(巻始端)38となるように渦状電極群22を作製する。なお、第1負極合剤層26eの最内周部分26qの端縁部26lの厚さD1、第1負極合剤層26eの端縁部26l以外の部分の厚さD2、セパレータ28の厚さD4、バリ26iの高さH、第1負極合剤層26eの最内周部分26qの端縁からの距離Lは、巻回工程の前後において変化しない。
【0045】
このようにして得られた渦状電極群22は、挿入工程において外装缶10内に挿入され、引き続き、当該外装缶10内には所定量のアルカリ電解液が注入される。具体的には、巻回工程の後、渦状電極群22をアルカリ電解液とともに、導電性を有する円筒形状の外装缶10に挿入する。これにより、負極板26の最外周部分26aは外装缶10と電気的に接続する。
【0046】
挿入工程の後、正極板24に正極端子20を電気的に接続する。具体的には、渦状電極群22及びアルカリ電解液を収容した外装缶10は、正極端子20を備えた封口体11により封口され、本発明に係る電池2が得られる。電池2は、初期活性化処理が施され、使用可能状態とされる。
【0047】
次いで、本発明の一実施形態の電池2、及び電池2の製造方法の作用、効果について説明する。上述したように、本発明の実施形態に係る電池2によれば、第1負極合剤層26eの最内周部分26qの端縁部26lの厚さD1は第1負極合剤層26eの端縁部26l以外の部分の厚さD2より薄く、且つ、セパレータ28の厚さD4の30%以下である。このように、本発明に係る電池2は、渦状電極群22の状態において、バリ26iの高さHがセパレータ28の厚さD4の30%以下である。従って、セパレータ28の内周側部分即ち負極芯体26dのバリ26iと対向するセパレータ28の内周側部分が渦状電極群22の状態で破断している場合であっても、負極芯体26dのバリ26iがセパレータ28を貫通して正極板24に到達することがない。よって、正極板24と負極板26との間の短絡の防止を図る電池2を提供することができる。
【0048】
本発明の実施形態に係る電池2の製造方法によれば、調整工程において、負極芯体素地26mの中央26nを含む第1領域26oにおける第1負極合剤層26eの厚さD1が、第1領域26o以外の第2領域26pにおける第1負極合剤層26eの厚さD2より薄くなるように、第1負極合剤層26eを調整する。また、巻回工程において、第1負極合剤層26eが負極板26において外周側に位置し、且つ切断工程で切断された負極芯体素地26mの中央26nが負極板26の最内周部分26cの端縁(巻始端38)となるように渦状電極群22を作製する。このように、本発明に係る電池2の製造方法においては、調整工程において、負極芯体素地26mの第1領域26oにおける第1負極合剤層26eが、第2領域26pにおける第1負極合剤層26eの厚さD2より薄く形成される。このため、切断工程において負極芯体素地26mの短手方向の中央26n(第1領域26o)を切断する時間が短くなり、当該切断工程における負極芯体素地26mの変形量を小さくすることができる。これにより、負極板26の負極芯体26dに形成されるバリ26iの高さHを極力低く、具体的にはセパレータ28の厚さD4の30%以下にすることができる。従って、セパレータ28の内周側部分即ち負極芯体26dのバリ26iと対向する部分が巻回工程において破断した場合であっても、負極芯体26dに形成されたバリ26iがセパレータ28を貫通して正極板24に到達することがない。よって、正極板24と負極板26との間の短絡の防止を図る電池2を提供することができる。
【0049】
1.電池の作製
(実施例1)
(1)正極板24の作製
2.5質量%の亜鉛と1.0質量%のコバルトを含有する水酸化ニッケル粉末を硫酸コバルト水溶液に投入した。次いで、この硫酸コバルト水溶液を攪拌しながら1mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下して反応させ、この反応中、PHが11に維持されるようにしながら沈殿物を生成させた。次いで、生成した沈殿物を濾別して、水洗したのち真空乾燥することにより、水酸化ニッケル粒子の表面が5質量%の水酸化コバルトで被覆された水酸化ニッケル粉末を得た。
【0050】
更に、得られた水酸化コバルトで被覆された水酸化ニッケル粉末を、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液中に投入した。ここで、水酸化コバルトで被覆された水酸化ニッケル粉末の質量をPとし、水酸化ナトリウム水溶液の質量をQとしたとき、これらの質量比がP:Q=1:10となるようにした、そして、この水酸化ニッケル粉末が加えられた水酸化ナトリウム水溶液を温度が85℃になるように保持した状態で8時間攪拌しながら加熱処理した。
【0051】
その後、上述した加熱処理を経た水酸化ニッケル粉末を水洗し、65℃で乾燥して、水酸化ニッケル粒子の表面が高次コバルト酸化物で被覆されたニッケル正極活物質粉末を得た。
【0052】
得られたニッケル正極活物質粉末95質量部に、酸化亜鉛の粉末3質量部と、水酸化コバルトの粉末2質量部と、結着剤としてのヒドロキシプロピルセルロースの粉末を0.2質量%含む水溶液50質量部とを添加して混錬し、正極合剤スラリーを作製した。
【0053】
次いで、正極合剤スラリーを面密度(目付)が約600g/m2、多孔度が95%、厚みが約2mmのニッケル発泡体に充填し、これを乾燥させ、正極合剤質量[g]÷(電極高さ[cm]×電極長さ[cm]×電極厚み[cm]-ニッケル発泡体の質量[g]÷ニッケルの比重[g/cm3])で計算される正極活物質の充填密度が2.9g/cm3となるように調整して圧延した後、所定の寸法に切断して非焼結ニッケル極からなる正極板24を得た。
【0054】
(2)負極板26の作製
La、Sm、Mg、Ni、Alの各金属材料を所定のモル比となるように混合した後、誘導溶解炉に投入して溶解させ、これを冷却してインゴットを作製した。
【0055】
次いで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴンガス雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施して均質化した後、アルゴンガス雰囲気下で機械的に粉砕して、希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末を得た。得られた希土類-Mg-Ni系水素吸蔵合金粉末について、レーザー回析・散乱式粒径分布測定装置(装置名:Microtrac社製SRA-150)により粒径分布を測定した。その結果、質量基準による積算が50%にあたる平均粒径35μmであった。
【0056】
この水素吸蔵合金粉末の組成を高周波プラズマ分光分析法(ICP)によって分析したところ、組成は、La0.30Sm0.70Mg0.11Ni3.33Al0.17であった。また、この水素吸蔵合金粉末についてX線回析測定(XRD測定)を行ったところ、結晶構造はCe2Ni7型であった。
【0057】
得られた水素吸蔵合金の粉末100質量部に対して、ケッチェンブラックの粉末0.5質量部、スチレンブタジエンゴムの粉末1.0質量部、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末0.25質量部、カルボキシメチルセルロースの粉末0.05質量部、水20質量部を添加して25℃の環境下において混錬し、負極合剤ペーストを調整した。
【0058】
この負極合剤ペーストを負極基材としてのパンチングメタルシート(負極芯体素地26m)に塗工した(塗工工程)。その後、2列塗工で中央切断部(中央26n)が巻回時に巻始側(巻始端38)となるように配置された構造ユニット(第1スリット60、第2スリット61)を用いて実施した(調整工程)。この調整工程により、正極板24と対向しない側(内周側)の第2負極合剤層26fの端縁部26lの厚さD3(
図3)を0.10mmとし、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)を0.15mmとし、第1負極合剤層26eの巻始端38からの距離Lを5.6mmとする第1負極合剤層26eを得た。
【0059】
(3)渦状電極群22の作製
得られた正極板24及び負極板26を、これらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻き状に巻回し、渦状電極群22を作製した。渦状電極群22の作製に使用したセパレータ28は、スルホン基を有するポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量53g/m2)であった。
【0060】
(実施例2)
調整工程により、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)を0.17mmとする第1負極合剤層26eを得た。その他は実施例1と同じ条件で渦状電極群22を作製した。
【0061】
(実施例3)
調整工程により、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)を0.19mmとする第1負極合剤層26eを得た。その他は実施例1と同じ条件で渦状電極群22を作製した。
【0062】
(比較例1)
調整工程により、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)を0.21mmとする第1負極合剤層26eを得た。その他は実施例1と同じ条件で渦状電極群22を作製した。
【0063】
(比較例2)
調整工程により、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)を0.23mmとする第1負極合剤層26eを得た。その他は実施例1と同じ条件で渦状電極群22を作製した。
【0064】
(比較例3)
調整工程により、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)を0.25mmとする第1負極合剤層26eを得た。その他は実施例1と同じ条件で渦状電極群22を作製した。
【0065】
(比較例4)
調整工程により、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)を0.27mmとする第1負極合剤層26eを得た。その他は実施例1と同じ条件で渦状電極群22を作製した。
【0066】
(比較例5)
調整工程により、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)を0.29mmとする第1負極合剤層26eを得た。その他は実施例1と同じ条件で渦状電極群22を作製した。
【0067】
2.電極及び電極群の評価
実施例1~3、比較例1~5の渦状電極群22を10本ずつ解体し、バリ26iによるセパレータ28の突き破り発生本数、負極板26のバリ26iの高さ(H)、第1負極合剤層の厚さ(D1)の関係を、表1に示す。なお、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さD1、正極板24と対向しない側(内周側)の第2負極合剤層26fの端縁部26lの厚さD3、セパレータ28の厚さD4、及び第1負極合剤層26eの巻始端38からの距離Lは、渦状電極群22が形成される前後においてに変化しない。
【0068】
【0069】
表1より、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの厚さ(D1)と負極板26のバリ26iの高さ(H)との間には相関関係を読み取ることができる。具体的には、当該第1負極合剤層の厚さ(D1)を薄くすると負極板26のバリ26iの高さ(H)も低くなるという相関関係がある。更に詳細には、当該第1負極合剤層の厚さ(D1)を0.19以下とすれば、バリ26iによるセパレータ28の突き破り発生本数が0本となり、正極板24と負極板26との間の短絡を防止できることが分かる。また、第1負極合剤層の厚さ(D1)と負極板26のバリ26iの高さ(H)との間の相関から、第1負極合剤層の厚さ(D1)を0.13mmとすれば負極板26のバリ26iの高さ(H)が0になると推定できる。
【0070】
また、解体した渦状電極群22の負極板26を観察したところ、巻始端38から0.6mmの位置を基点としてバリ26iが形成されていた。このため、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lの幅(距離L)は巻始端38から少なくとも0.6mm以上を必要とすると考えられる。他方、当該第1負極合剤層26eの端縁部26lの幅(距離L)を広くし過ぎると、第1負極合剤層26eの量が減少し電池特性(充電特性及び放電特性)が低下する懸念がある。このため、当該第1負極合剤層26eの端縁部26lの幅(距離L)の上限は、10mmとすることが好ましいと考えられる。
【0071】
以上より、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lは、負極板26が渦巻き状に形成される前の状態において、0.19mm以下、より詳細には0.13mm以上0.19mm以下の厚さを有することが好ましいといえる。また、正極板24と対向する側(外周側)の第1負極合剤層26eの端縁部26lは、負極板26が渦巻き状に形成される前の状態において、第1負極合剤層26eの最内周部分26qの端縁26rから0.6mm以上10mm以下の距離Lとすることが好ましいといえる。
【0072】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係るニッケル水素二次電池2に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、各構成を適宜選択的に組み合わせても良い。また、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的態様によって適宜変更され得る。
【符号の説明】
【0073】
10 外装缶
22 渦状電極群
24 正極板
26 負極板
26c,26j,26q,58 最内周部分
26d 負極芯体
26e 第1負極合剤層
26f 第2負極合剤層
26i バリ
26k,26l 端縁部
26m 負極芯体素地
26n 中央
26o 第1領域
26p 第2領域
26r 端縁
28 セパレータ