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  • 特許-制御装置及び復帰処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】制御装置及び復帰処理方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/19 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
G05D23/19 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022513736
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015642
(87)【国際公開番号】W WO2021205534
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000250317
【氏名又は名称】理化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】福永 知嘉
(72)【発明者】
【氏名】金井 智英
(72)【発明者】
【氏名】山口 敬吾
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌士
【審査官】影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-090605(JP,A)
【文献】特開平04-287202(JP,A)
【文献】実開平02-099411(JP,U)
【文献】特開平03-059706(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0080235(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 23/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を、測定値と目標値に基づいて制御する制御装置であって、
停電などの電源異常からの復帰処理として、復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値を超えた場合には初期条件での制御処理を行い、復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値以下であった場合には再起動条件での制御処理を行う復帰処理部を備え、
前記動作切替基準値が、前記制御対象の測定値変化率に、ユーザによって設定された基準時間を乗じた値であり、
前記制御対象を測定値と目標値に基づいて制御する処理がPI制御又はPID制御によって行われ、前記測定値変化率の取得処理が、PI定数又はPID定数を決めるオートチューニング処理時に行われることを特徴とする制御装置。
【請求項2】
操作量を変化させた際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて前記測定値変化率を取得する測定値変化率取得部を備えることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記測定値変化率の取得処理を、操作量を最大から最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて行う、又は、操作量を最小から最大にした際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて行うことを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記操作量を最大から最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量と、前記操作量を最小から最大にした際の測定値の単位時間当たりの変化量と、の平均値に基づいて、前記測定値変化率の取得処理を行うことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記測定値変化率の取得処理を、操作量が定常状態である状態から操作量を最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて行うことを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
【請求項6】
操作量を変化させた際の測定値の単位時間当たりの変化量の最大値を取得し、当該最大値に基づいて前記測定値変化率を取得することを特徴とする請求項2から5の何れかに記載の制御装置。
【請求項7】
前記動作切替基準値に、比例制御の比例帯に係数をかけた上限値が設定されていることを特徴とする請求項1から6の何れかに記載の制御装置。
【請求項8】
前記動作切替基準値が、前記制御対象の測定値変化率に、基準時間から無駄時間を減算したものを乗じた値であることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の制御装置。
【請求項9】
前記基準時間が入力される入力部を備えることを特徴とする請求項1からの何れかに記載の制御装置。
【請求項10】
電源異常からの復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値を超えた場合には初期条件での制御処理を行い、電源異常からの復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値以下であった場合には再起動条件での制御処理を行う、停電などの電源異常からの復帰処理方法であって、
前記動作切替基準値が、制御対象の測定値変化率に、ユーザによって設定された基準時間を乗じた値であり、
前記制御対象を測定値と目標値に基づいて制御する処理がPI制御又はPID制御によって行われ、前記測定値変化率の取得処理が、PI定数又はPID定数を決めるオートチューニング処理時に行われることを特徴とする復帰処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、停電などの電源異常からの復帰において、初期条件での制御処理と再起動条件での復帰処理を切り替える制御装置及び復帰処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
停電などの電源異常からの復帰において、より早く通常の処理へ復帰させるようにしているものがある。通常の電源投入時に行われる初期条件での制御処理に対して、初期条件とは異なる再起動条件にて制御を行うことで、より早く通常の処理へ復帰させるものである。
このような復帰処理に関する従来技術が、特許文献1によって開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-90605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で開示される技術は、電源異常からの復帰の際に、目標温度と測定値との差を算出し、その値が“一定のしきい値”以内の場合は、積分出力設定プログラムによりPIDコントローラへ初期積分出力を入力して、制御処理を行う。一方、目標温度と測定値との差が“一定のしきい値”を超える場合は、初期積分出力をゼロとした通常のPID制御を行う。即ち、電源異常からの復帰の際における目標温度と測定値との差に応じて、初期条件での制御処理と再起動条件(積分出力設定プログラムに基づく条件)での復帰処理を使い分けているものである。再起動条件として積分出力設定プログラムに基づいて算出した積分出力をPID制御に使用することで、再通電時から定常運転時の温度になるまでの時間を短縮するものである。一方で、目標温度と測定値との差が“一定のしきい値”を超える場合は、上記のような再起動条件を使用することが適当でないため、初期条件での制御を行うようにしている。
特許文献1は、分析装置における温度制御であり、制御対象が決まっているものと考えられる。このような場合、上記処理を行うための“一定のしきい値”である目標値と測定値との差の基準値については、随時の変更は必要ないと言える。
しかしながら、例えば制御対象が変更されるような装置の場合、“一定のしきい値”を、制御対象の特性を考慮して適宜設定する必要がある。例えば、制御対象の熱容量の大小等の相違により、停電時間が同じであっても低下する温度は異なることになるため、これを考慮して“一定のしきい値”を決める必要がある。
このように、制御対象の変更等に応じて、初期条件での制御と再起動条件での制御を切り替えるための基準値の設定変更を手動でしなければならない点は、ユーザーにとって煩雑なものであった。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑み、停電などの電源異常からの復帰において、初期条件での制御と再起動条件での制御を切り替えるための基準値の設定に関し、制御対象などの条件の変更に応じて都度設定する煩わしさを低減させることが可能な制御装置又は復帰処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(構成1)
制御対象を、測定値と目標値に基づいて制御する制御装置であって、停電などの電源異常からの復帰処理として、復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値を超えた場合には初期条件での制御処理を行い、復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値以下であった場合には再起動条件での制御処理を行う復帰処理部を備え、前記動作切替基準値が、前記制御対象の測定値変化率に基準時間を乗じた値であることを特徴とする制御装置。
【0007】
(構成2)
操作量を変化させた際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて前記測定値変化率を取得する測定値変化率取得部を備えることを特徴とする構成1に記載の制御装置。
【0008】
(構成3)
前記測定値変化率の取得処理を、操作量を最大から最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて行う、又は、操作量を最小から最大にした際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて行うことを特徴とする構成2に記載の制御装置。
【0009】
(構成4)
前記操作量を最大から最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量と、前記操作量を最小から最大にした際の測定値の単位時間当たりの変化量と、の平均値に基づいて、前記測定値変化率の取得処理を行うことを特徴とする構成3に記載の制御装置。
【0010】
(構成5)
前記測定値変化率の取得処理を、操作量が定常状態である状態から操作量を最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて行うことを特徴とする構成2に記載の制御装置。
【0011】
(構成6)
操作量を変化させた際の測定値の単位時間当たりの変化量の最大値を取得し、当該最大値に基づいて前記測定値変化率を取得することを特徴とする構成2から5の何れかに記載の制御装置。
【0012】
(構成7)
前記制御対象を測定値と目標値に基づいて制御する処理がPI制御又はPID制御によって行われ、前記測定値変化率の取得処理が、PI定数又はPID定数を決めるオートチューニング処理時に行われることを特徴とする構成2から4の何れかに記載の制御装置。
【0013】
(構成8)
前記動作切替基準値に、比例制御の比例帯に係数をかけた上限値が設定されていることを特徴とする構成7に記載の制御装置。
【0014】
(構成9)
前記動作切替基準値が、前記制御対象の測定値変化率に、基準時間から無駄時間を減算したものを乗じた値であることを特徴とする構成1から8の何れかに記載の制御装置。
【0015】
(構成10)
前記基準時間が入力される入力部を備えることを特徴とする構成1から9の何れかに記載の制御装置。
【0016】
(構成11)
電源異常からの復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値を超えた場合には初期条件での制御処理を行い、電源異常からの復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値以下であった場合には再起動条件での制御処理を行う、停電などの電源異常からの復帰処理方法であって、前記動作切替基準値が、制御対象の測定値変化率に基準時間を乗じた値であることを特徴とする復帰処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の制御装置若しくは復帰処理方法によれば、停電などの電源異常からの復帰において、初期条件での制御と再起動条件での制御を切り替えるための基準値の設定において、そのイメージを感覚的につかみやすくできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明にかかる実施形態の温度制御装置の構成の概略を示すブロック図
図2】オートチューニング時の動作を説明するための概略図
図3】実施形態におけるオートチューニングの処理動作に伴って行われる動作切替基準値Sの算出処理の概略を示すフローチャート
図4】実施形態における、初期条件での制御と再起動条件での制御を切り替える処理の概略を示すフローチャート
図5】初期条件での制御と再起動条件での制御の切り替えに関する説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0020】
図1は、本発明に係る実施形態の温度制御装置(制御装置の一例)の構成の概略を示すブロック図である。
本実施形態の温度制御装置1は、制御対象2の温度を制御するための装置であり、ここではヒータ21によって加熱される温度制御対象22の温度を制御するものを例として説明する。
温度制御装置1は、目標値SVと制御対象の測定値PVの偏差に基づくPID制御によって、制御対象2の温度を制御するものであり、停電などの電源異常からの復帰処理として、復帰時の測定値と目標値の差分に応じて、初期条件での制御処理と再起動条件での制御処理を切り替えるものである。“制御対象の測定値”とは、温度測定部23によって測定される温度制御対象22の温度情報である。
温度制御装置1は、その大まかな構成として、演算部11と、記憶部12と、入力部13を備えている。
【0021】
演算部11は、
停電などの電源異常からの復帰処理として、復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値を超えた場合には初期条件での制御処理を行い、復帰時の測定値と目標値の差分が動作切替基準値以下であった場合には再起動条件での制御処理を行わせる復帰処理部111と、
操作量を変化させた際の測定値の単位時間当たりの変化量に基づいて測定値変化率を取得する測定値変化率取得部112と、
目標値SVと制御対象の測定値PVの偏差に基づくPID演算による操作量の算出処理を行うPID演算部113と、
PID演算のためのPID定数の算出を行うオートチューニング部114と、
を備えている。
なお、図1では機能ごとに構成を分けて記載しているが、必ずしもハード的にこれらの構成に分かれていることを示すものではなく、例えば、演算部11がPLC、MCU、マイコン等の周知のデバイスを用いて構成されて各構成がソフトウェア的に実装されるものであってもよい。以下で説明するように、本実施形態では各構成がソフトウェア的に実装されるものを例としている。もちろん各構成がハード的に構成されるものであってよく、例えばFPGA等を利用して構成されるものや、ASICなどによって専用のハードとして構成されるもの等であってもよい。
【0022】
記憶部12には、ユーザーによって設定された基準時間、以下で説明する動作切替基準値や上限値、オートチューニング部114によって算出されたPID定数等が記憶されている。また、各制御サイクルで使用される制御出力が一時記憶される。
入力部13は、ユーザーによって設定される基準時間の入力を受けるものであり、例えば、ユーザーが設定作業を行う操作部や、外部装置からデータの入力を受ける受信部等によって構成される。
【0023】
上述したごとく、本実施形態の温度制御装置1は、停電などの電源異常からの復帰処理において、復帰時の測定値と目標値の差分に応じて、初期条件での制御処理と再起動条件での制御処理を切り替えるものである。本実施形態の温度制御装置1は、当該切り替えの閾値となる“動作切替基準値”を、装置によって自動取得した測定値変化率に、ユーザーによって設定された基準時間を乗じることによって算出するようにしている。即ち、ユーザーは、基準時間の設定によって、“動作切替基準値”の設定を行うことができる。
以下、当該特徴に関する温度制御装置1の処理動作について、図3、4のフローチャートを参照しつつ説明する。
なお、図3、4の処理は、必要に応じて記憶部12にデータを読み書きしつつ、演算部11によって実行されるものである。即ち、ここでは、復帰処理部111、測定値変化率取得部112、PID演算部113、オートチューニング部114が、ソフトウェア的に実装されるものを例としている。
【0024】
図3は、オートチューニングの処理動作に伴って行われる“動作切替基準値”の算出処理の概略を示すフローチャートである。また、図2はオートチューニング時の動作を説明するための概略図である。
オートチューニングは、PID定数を算出するために行われる処理であり、図2に示されるように、測定値PVが目標値SVに至った時をトリガとして、操作量MVを最大(100%)と最小(0%)に切り替えて出力する処理が行われる(リミットサイクル法)。なお、オートチューニングについては、利用できる任意のオートチューニングを用いることができる。オートチューニング機能自体については、本発明と直接的に関係するものではないため、ここでのこれ以上の説明を省略する。
【0025】
図3の処理では、オートチューニング時に取得される測定値PVに基づいて、その波形の傾きの絶対値の最大値であるΔPVmaxを取得する(ステップ301)。ΔPVmaxは“操作量を変化させた際の測定値の単位時間当たりの変化量の最大値”に該当する。
【0026】
続くステップ302では、ΔPVmaxに基準時間を乗じた値が、上限値Lを超えているか否かを判別する。
基準時間は、ユーザーによって設定される値であり、記憶部12に記憶されている。上限値Lは、本実施形態では比例制御の比例帯に基づく値を用いており、本実施形態では比例帯/10の値を上限値Lとしている。上限値Lは、演算部11によって、PID制御のための設定値である比例帯に対して係数を乗算して算出され、記憶部12に記憶されている。
【0027】
ΔPVmaxに基準時間を乗じた値が上限値L以下である場合には、ΔPVmaxに基準時間を乗じた値を動作切替基準値Sとして、記憶部12に記憶する(ステップ302:No→ステップ303)。即ち、本実施形態では、“測定値変化率”であるΔPVmaxに基準時間をかけた値を動作切替基準値Sとしている。ΔPVmaxは、上記説明のごとく、操作量MVを最大と最小で切り替えて出力した際に得られる測定値PVの傾きの絶対値であるため、“操作量を最大から最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量”又は“操作量を最小から最大にした際の測定値の単位時間当たりの変化量”であり、且つ、これらの最大値である。
一方、ΔPVmaxに基準時間を乗じた値が上限値Lを超えている場合には、上限値であるLを動作切替基準値Sとして記憶部12に記憶する(ステップ302:Yes→ステップ304)。即ち、動作切替基準値Sには、比例制御の比例帯に係数をかけた上限値が設定される。動作切替基準値Sが大きくなり過ぎるのは適当でないため、上限値を設けているものである。動作切替基準値Sが大きくなり過ぎると、再起動条件を使用することが適当でない場合にまで再起動条件にて制御が行われてしまうことになるため、これを防止するものである。比例帯に係数をかけた値を上限値Lとして用いることで、制御対象に応じて変動する上限値とすることができ、好ましい。
【0028】
以上の図3の処理により、オートチューニングの処理動作に伴って動作切替基準値Sが自動算出される。
【0029】
次に、停電などの電源異常からの復帰において、初期条件での制御と再起動条件での復帰を切り替える処理について図4を参照しつつ説明する。
【0030】
ステップ401では、目標値SVと測定値PVの偏差が動作切替基準値S以下であるか否かを判別する。
目標値SVと測定値PVの偏差が動作切替基準値S以下であった場合には、再起動条件でのPID制御を行い(ステップ401:Yes→ステップ402)、目標値SVと測定値PVの偏差が動作切替基準値Sを超えてた場合には、初期条件でのPID制御を行う(ステップ401:No→ステップ403)。
“再起動条件”とは、より早く制御対象を目標温度で安定させるための制御条件であり、例えば、PI制御やPID制御における積分出力を所定値に設定するものである。本実施形態では、各制御サイクルで使用される制御出力を更新、保持(記憶)しており、ステップ402では、停電発生時(停電直前)に使用していた制御出力と同等の出力となるように、目標値SVと制御対象の測定値PVの偏差に基づく出力を基に積分出力を設定しPID制御を行うものである。より具体的には、1.「停電が発生する直前に保持していた制御出力」と2.「現在の目標値SVと制御対象の測定値PVの偏差に基づく出力(比例出力)」から、3.「積分出力」を演算し、設定する。1=2+3となるように積分値を決めるものである。
一方、“初期条件でのPID制御”では、積分出力をゼロにしてPID制御を行うものとなる。 ここでは制御出力を保持(記憶)しておくものを例としているが、積分出力を保持し、その値を所定値に設定する構成でもよい。
【0031】
図5は、初期条件での制御と再起動条件での制御を対比する説明図である。
ここでは、操作量が定常状態になっている状態において停電が起こった場合を例としており、再起動条件での制御への切り替えが無い場合に比べ、本実施形態のごとく再起動条件での制御への切り替えがある場合には、短い時間のうちに安定状態に復帰していることがわかる。
なお、目標値SVと測定値PVの偏差が図5で示される動作切替基準値Sの範囲を超えている場合には、再起動条件を使用することが適当でないため、初期条件での制御を行うようにしている(ステップ401:No→ステップ403)。
【0032】
以上のごとく、本実施形態の温度制御装置1によれば、制御対象などの条件が変更されても、オートチューニングを行うことで都度適切な動作切替基準値が自動算出されるため、都度設定する煩わしさを解消することも可能となる。例えば、制御対象が変わった際にも、制御対象の変更に応じて実行されるオートチューニングの際に得られる“測定値変化率”と、設定してある基準時間によって、適切な動作切替基準値が自動算出されるため、ユーザーが都度設定する必要がないものである。
【0033】
また、本実施形態の温度制御装置1によれば、測定値変化率であるΔPVmaxが自動算出され、これにユーザーによって設定された基準時間をかけた値が、初期条件での制御と再起動条件での制御を切り替えるための基準値(動作切替基準値S)として設定される。測定値変化率は、制御対象が単位時間当たりにどの程度の温度変化を起こすかを表す値である。これに基準時間を掛けた値は、基準時間において制御対象がどの程度の温度変化を起こすかを表す値となる。即ち、基準時間を30秒とした場合、動作切替基準値Sは、30秒間停電した場合に制御対象が起こす温度変化に該当するイメージとなる。
従って、ユーザーは、基準時間(どの程度の停電時間を基準とするか)の設定において、そのイメージを感覚的につかみやすい。なお、基準時間設定は、制御対象が変わる毎に設定変更する必要はない(勿論、変更するものであってもよい)。
【0034】
なお、本実施形態では、測定値変化率の取得を、“操作量を最大から最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量”と“操作量を最小から最大にした際の測定値の単位時間当たりの変化量”のうちの最大値として取得しているが、本発明をこれに限るものではなく、操作量を変化させた際の測定値の単位時間当たりの変化量に該当する任意の値を使用することができる。
例えば、上記“操作量を最大から最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量”と“操作量を最小から最大にした際の測定値の単位時間当たりの変化量”をそれぞれ複数取得し、これらの絶対値の平均値を測定値変化率とするものや、“操作量を最大から最小にした際の測定値の単位時間当たりの変化量”と“操作量を最小から最大にした際の測定値の単位時間当たりの変化量”の絶対値のそれぞれの最大値の平均値を測定値変化率としてもよい。
【0035】
また、本実施形態では、オートチューニングを行った際に測定値変化率を取得するものを例としているが、本発明をこれに限るものではなく、任意のタイミングで測定値変化率を取得するものであってよい。
例えば、通常の温度制御処理において、操作量MVを変化させた際に、測定値PVの単位時間当たりの変化量を取得し、これを測定値変化率として設定するようにしてよい。このようなものの具体例の一つとして、通常の温度制御処理において、温度制御の終了に伴い、定常状態から操作量MVを最小にした際に、測定値PVの単位時間当たりの変化量を取得し、これを測定値変化率として設定するようにしてもよい。このように、定常状態から操作量MVを最小にした際の測定値PVの単位時間当たりの変化量を測定値変化率とすることにより、図5で示したような定常状態における停電の発生に対して、より適切な値を設定することができる。
【0036】
本実施形態では、動作切替基準値を、測定値変化率に基準時間を掛けた値としているが、制御対象の無駄時間(入力に変化が発生した時刻から、それによって出力に変化が現れる時刻までの間の時間)が既知の場合、動作切替基準値を、測定値変化率に、基準時間から無駄時間を減算したものを掛けた値とすることで、制御対象の無駄時間を考慮した制御となるようにしてもよい。
【0037】
本実施形態では、制御処理としてPID制御を例として説明しているが、本発明をこれに限るものではなく、例えばPI制御やその他の制御方法(初期条件での制御処理と再起動条件での復帰処理を切り替えることができる任意の制御方法)に使用することができる。
また、“再起動条件”として、再起動後のPID制御の積分出力を、停電発生時に使用していた値で開始するものを例としているが、本発明をこれに限るものではない。例えば、特許文献1で開示されている方法を用いるようなものであってよい。“再起動条件”はそれぞれの制御方法の違い等に応じて、適宜定められるものであってよい。
【0038】
なお、上記で説明した“動作切替基準値”や“測定値変化率”等の算出において、補正係数をかけるなど適宜最適化等の演算を行うことは、本発明の基本的な概念に相違を与えるものではない。
また、数値の比較処理において、“以上”であるか“超える”であるか、及び“未満”であるか“以下”であるか等の違いは、本発明の基本的な概念に相違を与えるものではない。
【符号の説明】
【0039】
1...温度制御装置(制御装置)
11...演算部
111...復帰処理部
112...測定値変化率取得部
113...PID演算部
114...オートチューニング部
12...記憶部
13...入力部
2...制御対象
図1
図2
図3
図4
図5