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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】機器管理装置及び熱源システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/87 20180101AFI20240117BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240117BHJP
   F24F 140/12 20180101ALN20240117BHJP
   F24F 140/20 20180101ALN20240117BHJP
【FI】
F24F11/87
F25B1/00 399Y
F24F140:12
F24F140:20
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019103863
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020197346
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 知樹
(72)【発明者】
【氏名】中原 隆之
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-175093(JP,A)
【文献】特開2009-144950(JP,A)
【文献】特開2017-083032(JP,A)
【文献】特開2000-018683(JP,A)
【文献】国際公開第2016/157481(WO,A1)
【文献】特開2011-052892(JP,A)
【文献】特開2019-117033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源システム(1)を循環する熱媒体の状態を変化させる特定機器(10,11~13,40,111~131)を管理する機器管理装置(50)であって、
前記熱源システムが有するセンサが計測した前記熱媒体の状態値を受け、
前記特定機器の能力の変更操作を、前記状態値の変化に関するパラメータに基づいて禁止
前記パラメータは、所定期間における前記状態値の極値の数及び前記状態値の振れ幅のうちの少なくとも一方に関する変数を含む、
機器管理装置(50)。
【請求項2】
前記パラメータは、前記所定期間における前記状態値の極値の数と前記状態値の分散とに関する変数である、
請求項に記載の機器管理装置(50)。
【請求項3】
前記特定機器の能力の変更操作を禁止するための境界を示す前記パラメータの閾値を、前記パラメータの値と前記特定機器の能力の変更回数との関係から決定する、
請求項1からのいずれか一項に記載の機器管理装置(50)。
【請求項4】
前記変更操作を禁止している状態にあるか、前記変更操作を禁止していない状態にあるかを報知する、
請求項1からのいずれか一項に記載の機器管理装置(50)。
【請求項5】
循環する熱媒体の状態を変化させる特定機器(10,11~13,40,111~131)と、
前記熱媒体の状態を計測するセンサ(62,63)と、
前記センサが計測した前記熱媒体の状態値を受け、前記特定機器の能力の変更操作を、前記状態値の変化に関するパラメータに基づいて禁止する機器管理装置(50)と
を備え、
前記センサが、前記熱媒体の温度を測定する温度センサ、前記熱媒体の流量を測定する流量センサまたは前記熱媒体の圧力を測定する圧力センサであ
前記パラメータは、所定期間における前記状態値の極値の数及び前記状態値の振れ幅のうちの少なくとも一方に関する変数を含む、
熱源システム(1)。
【請求項6】
前記特定機器は、前記熱媒体の温度を変化させる熱源機器(10,11~13、111~131)であり、
前記センサは、前記熱源機器から出る前記熱媒体の温度を測定する出口温度センサ(63)であり、
前記出口温度センサで測定される出口温度と、目標温度との差が所定値よりも大きいときには、前記熱源機器が前記熱媒体の温度を変化させる能力の前記変更操作の禁止を解除する、
請求項に記載の熱源システム(1)。
【請求項7】
前記特定機器は、チラー(111~131)、冷却塔(11~13)またはポンプ(40)である、
請求項または請求項に記載の熱源システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
熱源システムを循環する熱媒体の状態を変化させる特定機器を管理する機器管理装置、及び当該機器管理装置を備える熱源システム
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1(特開H10-89742号公報)に記載されている冷凍システムのように、熱媒体が循環する複数台の冷凍機を備える熱源システムがある。このような熱源システムには、供給する熱量に合わせて冷凍機の冷凍能力を変更するため、冷凍機の運転台数を変更する制御が行われるように構成されているものがある。このような冷凍システムにおいて制御変数のハンチングを抑制するため、例えば、特許文献1に記載されている冷凍システムでは、冷凍機の運転台数、運転状態及び外気温等に基づき制御ゲインを調節する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、冷凍機の運転台数、運転状態及び外気温等に基づき制御ゲインを調節しようとすると、制御が複雑になり、熱源システムの製造及び調整が難しくなる。
【0004】
熱源システムを循環する熱媒体の状態を変化させる特定機器を管理する機器管理システムには、熱源システムを複雑化せずに、特定機器の能力についての無駄な変更操作を減らすという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点の機器管理装置は、熱源システムを循環する熱媒体の状態を変化させる特定機器を管理する機器管理装置であって、熱源システムが有するセンサが計測した熱媒体の状態値を受け、特定機器の能力の変更操作を、状態値の変化に関するパラメータに基づいて禁止する。
【0006】
第1観点の機器管理装置は、簡単な構成で、特定機器の能力の無駄な変更操作を減らすことができる。
【0007】
第2観点の機器管理装置は、第1観点の機器管理装置であって、パラメータは、所定期間における状態値の極値の数及び状態値の振れ幅のうちの少なくとも一方に関する変数を含む。
【0008】
第2観点の機器管理装置は、状態値が不安定な状況のときの不要な変更操作を減らすことができる。
【0009】
第3観点の機器管理装置は、第2観点の機器管理装置であって、パラメータは、所定期間における状態値の極値の数と状態値の分散とに関する変数である。
【0010】
第3観点の機器管理装置は、状態値の変動の挙動に応じた不要な操作の抑制の精度を向上させることができる。
【0011】
第4観点の機器管理装置は、第1観点から第3観点のいずれかの機器管理装置であって、特定機器の能力の変更操作を禁止するための境界を示すパラメータの閾値を、パラメータの値と特定機器の能力の変更回数との関係から決定する。
【0012】
第4観点の機器管理装置は、閾値を使って適切なタイミングで特定機器の能力の変更操作を簡単に禁止することができる。
【0013】
第5観点の熱源システムは、第1観点から第3観点のいずれかのシステムであって、変更操作を禁止している状態にあるか、変更操作を禁止していない状態にあるかを報知する。
【0014】
第5観点の熱源システムは、外部に管理状態を知らせることができる。
【0015】
第6観点の熱源システムは、循環する熱媒体の状態を変化させる特定機器と、熱媒体の状態を計測するセンサと、センサが計測した熱媒体の状態値を受け、特定機器の能力の変更操作を、状態値の変化に関するパラメータに基づいて禁止する機器管理装置とを備え、センサが、熱媒体の温度を測定する温度センサ、熱媒体の流量を測定する流量センサまたは熱媒体の圧力を測定する圧力センサである。
【0016】
第6観点の熱源システムは、熱媒体の温度、流量または圧力の値を熱媒体の状態値として用いる簡単な構成で、特定機器の能力の無駄な変更操作を減らすことができる。
【0017】
第7観点の熱源システムは、第6観点のシステムであって、特定機器は、熱媒体の温度を変化させる熱源機器であり、センサは、熱源機器から出る熱媒体の温度を測定する出口温度センサであり、出口温度センサで測定される出口温度と、目標温度との差が所定値よりも大きいときには、熱源機器が熱媒体の温度を変化させる能力の変更操作の禁止を解除する。
【0018】
第7観点の熱源システムは、出口温度と目標温度との差が大きくて能力を変更させるべきときに適切に能力の変更操作を行わせることができる。
【0019】
第8観点の熱源システムは、第6観点または第7観点のシステムであって、特定機器は、チラー、冷却塔またはポンプである。
【0020】
第8観点の熱源システムは、簡単な構成で、チラー、冷却塔またはポンプの能力の無駄な変更操作を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る熱源システムの構成例の概要を示すブロック図。
図2】実施形態に係る熱源システムの詳細構成例の概要を示すブロック図。
図3】特定機器の能力の変更操作を禁止するための判定のフローを説明するためのフローチャート。
図4A】プルダウンレート制御を説明するためのグラフ。
図4B】プルダウンレート制御の課題を説明するためのグラフ。
図4C】プルアップレート制御を説明するためのグラフ。
図5A】振幅が大きく且つ周期が長い緩やかな温度変化の一例を示すグラフ。
図5B】振幅が小さく且つ周期が短い細かな温度変化の一例を示すグラフ。
図6】温度変化の種類を説明するためのグラフ。
図7】温度変化の極値の数を説明するためのグラフ。
図8】温度変化の分散を説明するためのグラフ。
図9】温度変化に関するパラメータの値を説明するためのグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)全体構成
熱源システム1は、図1に示されているように、熱源機器10と利用側機器20と流路30とポンプ40と機器管理装置50とを備えている。熱源機器10は、熱源システム1を循環する熱媒体の温度を変化させる機器である。言い換えると、この実施形態において、熱源機器10は、熱源システム1を循環する熱媒体の状態を変化させる特定機器である。熱源機器10としては、例えば、チラー、冷却塔及び温水器がある。利用側機器20は、熱媒体を利用する機器である。利用側機器20としては、例えば、エアハンドリングユニット、ファンコイルユニット、水熱交換器を有する空気調和機がある。この実施形態の熱源システム1は、3台の熱源機器11,12,13を有している。熱源機器全体を指し示すときには符号「10」を用い、個別の熱源機器を指し示すときには符号「11,12,13」を用いる。実施形態では、3台の熱源機器11,12,13を例に挙げて説明するが、熱源システム1が備える熱源機器台数は、2台であってもよく、4台以上であってもよい。
【0023】
流路30は、主に、熱源機器10と利用側機器20とを繋ぐ配管である。熱源システム1の熱媒体は、流路30を通って熱源機器10と利用側機器20との間を循環している。流路30には、戻りヘッダ31と送りヘッダ32が含まれる。ポンプ40から送り出された水は戻りヘッダ31で熱源機器11~13に分配される。熱源機器11~13を出た冷水は、送りヘッダ32で混合されて利用側機器20へ送られる。
【0024】
ポンプ40は、熱媒体を循環させるために流路30の熱媒体に圧力を加える。ポンプ40は、流路30を循環する熱媒体の循環量を変更できるように構成されている。循環量を変更する方法としては、例えば、ポンプ40が可変容量型であってインバータ制御されており、インバータの周波数によって回転数を変化させて吐出量を変化させる方法がある。他の循環量を変更する方法としては、例えば、一定速度で回転する一定速ポンプを複数並列に繋いで、運転する一定速ポンプの台数を変更する方法がある。
【0025】
機器管理装置50は、熱源機器10を管理する。機器管理装置50は、状態値の変化に関するパラメータに基づいて、変更操作を禁止するか否かを判定する機能を有している。機器管理装置50は、状態値の変化に関するパラメータに基づいて、熱源機器10の能力を変更する変更操作を禁止する。この実施形態では、機器管理装置50が禁止する変更操作は、運転している熱源機器10の台数を変更する操作である。
【0026】
機器管理装置50は、熱源機器10の台数制御を行うための台数制御コントローラ51を有している。台数制御コントローラ51には、判定部52と変更操作禁止部53と報知部54が含まれる。判定部52は、状態値の変化に関するパラメータに基づいて、変更操作を禁止するか否かを判定する。変更操作禁止部53は、判定部52の判定結果に基づいて、熱源機器10の能力の変更操作を禁止する。機器管理装置50は、報知部54により、変更操作を禁止している状態にあるか、変更操作を禁止していない状態にあるかを報知する。報知部54による報知の方法には、例えば、ブザーにより変更操作を禁止している状態を報知する方法、表示装置に変更操作の禁止の有無を表示することで報知する方法、公衆回線を通じて報知の有無を示す情報を送信する方法などがある
機器管理装置50は、例えばコンピュータにより実現されるものである。機器管理装置50は、制御演算装置と記憶装置とを備える。制御演算装置には、CPU又はGPUといったプロセッサを使用できる。制御演算装置は、記憶装置に記憶されているプログラムを読み出し、このプログラムに従って所定の画像処理や演算処理を行う。さらに、制御演算装置は、プログラムに従って、演算結果を記憶装置に書き込んだり、記憶装置に記憶されている情報を読み出したりすることができる。図1には、制御演算装置により実現される機器管理装置50の各種の機能ブロックが示されている。記憶装置は、データベースとして用いることができる。
【0027】
機器管理装置50は、熱源機器10が設置される建物などの物件内に設置される場合と当該物件から離れた遠隔地に設置される場合とがある。遠隔地に設置される場合としては、例えば、熱源機器10と通信できるように構成されているクラウドサーバ(コンピュータ)に機器管理装置50が設置される場合がある。
【0028】
(2)詳細構成
ここでは、機器管理装置50が、熱媒体の温度を熱媒体の状態値として、状態値の変化に関するパラメータとして熱媒体の温度変化に基づいて特定機器の能力の変更操作を禁止する場合について説明する。判定のフローの説明では、3台の熱源機器11,12,13がチラーである場合について説明する。図2に示されているように、熱源機器10がチラー111,121,131である場合には、熱媒体が水であり、チラー111,121,131から利用側機器20へは流路30によって冷水が送られる。熱源システム1は、送りヘッダ32の下流に配置されている出口温度センサ63を有している。出口温度センサ63は、送りヘッダ32から送り出される冷水の温度を検知する。判定部52は、出口温度センサ63が検知した冷水の温度を、状態値として受け取る。
【0029】
(2-1)熱源システム1の構成例
図2に示されているように、熱源システム1の利用側機器20が4台のファンコイルユニット201,202,203,204である場合について説明する。ファンコイルユニット201~204は、チラー111,121,131から送られてくる冷水を使って、空調対象空間(図示せず)の冷房を行う。ファンコイルユニット201~204は、それぞれ、流量調整弁21と、空気熱交換器22と、送風ファン23とを有している。空気熱交換器22は、チラー111,121,131から送られてくる冷水と空調対象空間の空気との間の熱交換を行う。流量調整弁21は、空気熱交換器22に流す冷水の流量を調整する。送風ファン23は、空気熱交換器22を通過する空気の流れを発生させる。
【0030】
熱源システム1は、入口温度センサ61と、差圧センサ62と、出口温度センサ63とを有している。入口温度センサ61は、戻り水温を測定する。戻り水温は、チラー111,121,131に戻ってくる水の温度である。差圧センサ62は、ファンコイルユニット201~204に送られる冷水の圧力とファンコイルユニット201~204から戻ってくる水の圧力との差圧を測定する。
【0031】
ポンプ40は、インバータ制御されており、吐出し量を変更できるものとする。機器管理装置50は、差圧センサ62が検知する差圧が一定になるようにポンプ40の吐出し量を制御する。
【0032】
(2-2)熱源システム1の動作例
チラー111,121,131は、それぞれ内部に水熱交換器(図示せず)及びチラーコントローラ(図示せず)を備えている。チラー111,121,131の各チラーコントローラは、それぞれ、チラー111,121,131の各単体の出口水温が設定水温になるようにチラー111,121,131毎に制御を行う。設定水温は、チラー111,121,131のうちの運転している機器が送出する熱媒体(水)の温度である。
【0033】
熱源システム1が設定水温7℃、戻り水温13℃の安定状態で運転されている場合を例に挙げて、熱源システム1の動作について説明する。この安定状態で、チラー111が運転されており(オン状態であり)、チラー121,131が停止している(オフ状態である)とする。また、チラー111は、安定状態のときに、最大能力の50%の能力で運転されているとする。
【0034】
ファンコイルユニット201~204の負荷が急増すると、より多くの熱量をファンコイルユニット201~204が処理しなければならなくなる。そのため、ファンコイルユニット201~204は、流量調整弁21を開いて、多くの冷水を空気熱交換器22に流す。流量調整弁21が開かれると、差圧センサ62が検知する差圧が低下する。このように差圧センサ62が差圧の低下を検知すると、その差圧センサ62の検知結果を受けた機器管理装置50がポンプ40の吐出し量を増加させて差圧を元の状態に戻す制御を行う。
【0035】
ファンコイルユニット201~204の負荷の急増に伴って、チラー111は、より多くの熱量を処理しなければならなくなるので能力を例えば50%から100%に引き上げる。チラー111の能力が100%(最大能力)になっても能力が不足していれば、例えば、戻り水温が上昇して19℃になり、チラー111から供給される冷水の温度が12℃に上昇する。
【0036】
機器管理装置50は、チラー111の能力と戻り水温とから運転する熱源機器10の台数を判断する。前述のように、冷水の温度が設定水温よりも上昇すると、機器管理装置50は、チラー121も運転させる。このように熱源機器10の運転台数を増加させることを増段と呼ぶ。逆に、熱源機器10の運転台数を減少させることを減段と呼ぶ。機器管理装置50は、判定部52の判定結果に基づいて変更操作禁止部53により、チラー121の増段後の運転台数の変更操作を禁止する。
【0037】
例えば、前述のチラー121の増段によって、時間の経過とともに、送りヘッダ32から送り出される冷水の水温が12℃から10℃に変化し、戻り水温も19℃から16℃に変化する。さらに、時間が経過すると、例えば、冷水の水温が10℃から8℃に変化し、戻り水温も16℃から13℃に変化する。しかしながら、送りヘッダ32から送り出される冷水の水温が8℃では、設定温度の7℃より高いので、熱源システム1は、さらにチラー131の増段を行う場合がある。このような場合には、チラー111,121,131が50%の能力で運転されても、熱源機器10の能力が過多となり、送りヘッダ32から送り出される冷水の水温が6℃(設定温度より低い温度)にまで低下する可能性が高い。このように熱源機器10の能力が過多になると、熱源システム1は、減段しようとしてしまう可能性がある。
【0038】
上述のような増段によって熱源機器10の能力が過多になるのを避けるため、機器管理装置50は、一定時間での出口温度の変化率を取り、変化が大きい過渡状態での増段を禁止する。
【0039】
(3)判定のフロー
機器管理装置50の判定部52で行われる判定のフローについて、図3を用いて説明する。判定部52は、冷水の温度を用いて、プルダウンレート制御を行う。判定部52は、出口温度センサ63が検知したチラーの出口温度のプルダウンレートを求める。プルダウンレート制御においては、一定時間(以下、窓と呼ぶことがある。)の開始時点と終了時点の2点の温度変化による判断が行われる。プルダウンレートの計算式の一例が、次の(1)式である。
【0040】
プルダウンレート=(窓の開始時点の温度-窓の終了時点の温度)÷(窓の長さ)…(1)
ただし、プルダウンレートの単位が[℃/分]、窓の開始時点の温度と窓の終了時点の温度の単位が[℃]、窓の長さの単位が[分]である。
【0041】
例えば、窓の開始時点の温度が12℃、窓の終了時点の温度が10℃、窓の長さが0.5分(30秒)である場合には、プルダウンレートが4℃/分になる。予め設定されている第1閾値が4℃/分であるとし、この第1閾値が機器管理装置50のメモリ(図示せず)に記憶されているとする。判定部52は、この第1閾値をメモリから読み出して、チラーの出口温度のプルダウンレートが第1閾値以上であると判定する(ステップST1のYes)。
【0042】
プルダウンレートが第1閾値以上である場合には、機器管理装置50は、さらなるチラーの増段を禁止する(ステップST2)。
【0043】
プルダウンレートが第1閾値よりも小さい場合(ステップST1のNo)には、過渡状態が解消している可能性があるが、過渡状態が解消していない可能性もある。図4Aには、増段後の典型的な冷水の温度変化が示されている。図4Aに示されている冷水の温度変化は、単調減少である。しかし、増段後に、冷水の温度が、図4Bに示されているように、振動する場合がある。温度が振動していると、判定部52は、適切な判定ができなくなる可能性が大きくなる。ひいては、温度が振動していると、変更操作禁止部53が適切な変更操作の禁止を行えなくなる可能性が大きくなる。例えば、窓の開示時点の温度が12℃で窓の終了時点の温度が12℃であると、開始時点と終了時点の間で、一度10℃まで低下しても(増段すべき状態であっても)、プルダウンレートは0℃/分になってしまう。
【0044】
上述のようなプルダウンレート制御の弱点を克服するために、窓の長さ(開始時点から終了時点までの時間)を短くすることが考えられる。しかし、窓の長さを短くすると、温度が振動しながら緩やかに変化する場合でも増段禁止が掛かって、増段すべきタイミングで増段できずに、チラー111,121,131の能力不足でファンコイルユニット201~204の空調対象空間に居る人に不快感を与える可能性が大きくなる。
【0045】
図4Bに示されているように温度が振動している場合には、過渡状態と判断した方が、より良いプルダウンレート制御ができる可能性が高くなる。そこで、判定部52は、プルダウンレートが第1閾値以上であっても、増段の禁止をかけない場合の判断をステップST3、ST4によって行う。
【0046】
判定部52は、チラーの出口温度と設定温度との温度差が所定値以上である場合(ステップST3のYes)には、増段の禁止をかけるべきでないと判定する(ステップST5)。チラーの出口温度は、図2の構成では、出口温度センサ63が検出した温度である。
【0047】
判定部52は、チラーの出口温度と設定温度との温度差が所定値未満である場合(ステップST3のNo)には、温度(状態値)の変化のパラメータについて判断する(ステップST4)。判定部52が、温度の変化のパラメータの値が第2閾値以上と判定したとき(ステップST4のYes)には、変更操作禁止部53が増段を禁止する(ステップST2)。逆に、温度の変化のパラメータの値が第2閾値未満であると判定部52が判定したとき(ステップST4のYes)には、変更操作禁止部53は増段を禁止しない(ステップST5)。
【0048】
なお、温水を供給する場合には、判定部52は、プルアップレート制御を行う。プルアップレート制御においては、一定時間(窓)の開始時点と終了時点の2点の温度変化による判断が行われる。プルアップレートの計算式の一例が、次の(2)式である。
【0049】
プルアップレート=(窓の終了時点の温度-窓の開始時点の温度)÷(窓の長さ)…(2)
ただし、プルアップレートの単位が[℃/分]、窓の開始時点の温度と窓の終了時点の温度の単位が[℃]、窓の長さの単位が[分]である。
【0050】
例えば、窓の開始時点の温度が20℃、窓の終了時点の温度が22℃、窓の長さが0.5分(30秒)である場合には、プルアップレートが4℃/分になる。予め設定されている第1閾値が4℃/分であるとし、この第1閾値が機器管理装置50のメモリ(図示せず)に記憶されているとする。この場合、判定部52は、この第1閾値をメモリから読み出して、チラーの出口温度のプルアップレートが第1閾値以上であると判定する。プルダウンレートが第1閾値以上である場合には、機器管理装置50は、さらなるチラーの増段を禁止する。
【0051】
プルアップレートが第1閾値よりも小さい場合には、過渡状態が解消している可能性があるが、過渡状態が解消していない可能性もある。図4Cには、増段後の典型的な温水の温度変化が示されている。図4Cに示されている温水の温度変化は、単調増加である。しかし、増段後に、温水の温度が振動する場合がある。温度が振動していると、判定部52は、適切な判定ができなくなる可能性が大きくなる。ひいては、温度が振動していると、変更操作禁止部53が適切な変更操作の禁止を行えなくなる可能性が大きくなる。
【0052】
温度が振動している場合には、過渡状態と判断した方が、より良いプルアップレート制御ができる可能性が高くなる。そこで、判定部52は、プルアップレートが第1閾値以上であっても、増段の禁止をかけない場合の判断を行う。
【0053】
判定部52は、チラーの出口温度と設定温度との温度差が所定値以上である場合には、増段の禁止をかけるべきでないと判定する。
【0054】
判定部52は、チラーの出口温度と設定温度との温度差が所定値未満である場合には、温度(状態値)の変化のパラメータについて判断する。判定部52が、温度の変化のパラメータの値が第2閾値以上と判定したときには、変更操作禁止部53が増段を禁止する。逆に、温度の変化のパラメータの値が第2閾値未満であると判定部52が判定したときには、変更操作禁止部53は増段を禁止しない。
【0055】
(4)状態値の変化に関するパラメータ
(4-1)温度の変化に関するパラメータ
温度の変化には、種々のパターンが存在する。例えば、振幅が大きく且つ周期が長い緩やかな温度変化(図5A参照)、振幅が小さく且つ周期が短い細かな温度変化(図5B参照)などがある。図5A及び図5Bの縦軸は温度、横軸は時間である。図5A及び図5Bにおいては、温度が振動しているときに、振幅の中心に対して上下に変化している様子がしめされている。
【0056】
判定部52が、温度の変化に関するパラメータとして、極値の数と振れ幅を用いて判定する場合について説明する。温度の変化に関するパラメータとしての極値の数は、窓の開始時点と終了時点の間に生じる極値の数である。図5Aのような温度変化では、極値の数は2であり、図5Bのような温度変化では、極値の数は12である。また、温度の変化に関するパラメータとしての振れ幅は、窓の開始時点と終了時点の間に生じる最大の振れ幅である。図5Aのような温度変化では、振れ幅は8であり、図5Bのような温度変化では、振れ幅は1である。
【0057】
図6には、3種類の異なる温度変化が示されている。図6において、最初の温度変化TC1は、振れ幅が中くらいで細かく振動しており、2つ目の温度変化TC2は、振れ幅が中くらいで緩やかに振動しており、最後の温度変化TC3は、振れ幅が大きく且つ細かく振動している。極値の数と振れ幅を掛け合わせると、図6に示されている最後の温度変化TC3、最初の温度変化TC1、2つ目の温度変化TC2の順に振動が激しくなっていることを定量化することができる。
【0058】
図7には、最初の温度変化TC1についての極値の数NE1、2つ目の温度変化TC2についての極値の数NE2及び最後の温度変化TC3についての極値の数NE3が示されている。図7を見ると、最初の温度変化TC1の極値の数NE1と最後の温度変化TC3についての極値の数NE3とが比較的多く、2つ目の温度変化TC2についての極値の数NE2が比較的少ないことが分かる。
【0059】
振れ幅に対応する変数としては、例えば分散がある。図8には、最初の温度変化TC1についての分散Va1、2つ目の温度変化TC2についての分散Va2及び最後の温度変化TC3についての分散Va3が示されている。図8を見ると、最初の温度変化TC1の分散Va1と2つ目の温度変化TC2についての分散Va2とが中くらいで、最後の温度変化TC3についての分散Va3が比較的大きいことが分かる。
【0060】
ここでは、極値の数×分散が、温度の変化に関するパラメータの値TPである。図9には、最初の温度変化TC1に関するパラメータの値TP1、2つ目の温度変化TC2に関するパラメータの値TP2及び最後の温度変化TC3に関するパラメータの値TP3が示されている。
【0061】
(4-2)増段禁止の第2閾値の決定方法
増段禁止を判定するための第2閾値は、例えば、試運転期間のデータから決定される。実機の試運転期間において、出口温度センサ63で検知された温度の変化と、温度の変化に関するパラメータの値TPと、運転台数の変化とが観測される。例えば、パラメータの値TP3のときにはハンチングが観測され、パラメータの値TP1,TP2ではハンチングが観測されなければ、図9の直線Ln1で示された値に第2閾値が設定される。これらは、パラメータの値TP1,TP2<直線Ln1で示された値<パラメータの値TP3の関係を満たす。例えば、パラメータの値TP2,TP3のときにはハンチングが観測され、パラメータの値TP1ではハンチングが観測されなければ、図9の直線Ln2で示された値に第2閾値が設定される。これらは、パラメータの値TP1<直線Ln2で示された値<パラメータの値TP2,TP3の関係を満たす。
【0062】
(5)特徴
(5-1)
上述の機器管理装置50は、熱源システム1が有する出口温度センサ63が計測した熱媒体の状態値である冷水の温度を受け取っている。この機器管理装置50は、特定機器であるチラー111,121,131の能力の変更操作である運転台数の変更を、温度の変化に関するパラメータに基づいて禁止している。このように、機器管理装置50は、温度変化に関するパラメータに基づいて能力の変更操作を禁止するか否かを判定する判定部52を有するという簡単な構成で、チラー111,121,131の能力の無駄な変更操作を減らすことができている。
【0063】
(5-2)
上述の機器管理装置50では、状態値の変化に関するパラメータとして、所定期間である窓における状態値の極値の数及び状態値の振れ幅に関する変数が用いられている。状態値の変化に関するパラメータとしては、極値の数、または状態値の振れ幅が用いられてもよい。機器管理装置50は、状態値の変化に関するパラメータに状態値の極値の数及び状態値の振れ幅のうちの少なくとも一方に関する変数を用いることで、状態値が不安定な状況のときの不要な変更操作を減らすことができる。
【0064】
(5-3)
上述の機器管理装置50では、状態値の変化に関するパラメータとして、所定期間である窓における状態値の極値の数と状態値の分散とに関する変数が用いられている。その結果、図9を用いて説明したように、上述の機器管理装置50は、状態値の変動の挙動に応じて精度よく不要な操作をするのを抑制することができる。
【0065】
(5-4)
図9を用いて説明したように、上述の機器管理装置50では、特定機器の能力の変更操作を禁止するための境界を示すパラメータの閾値である第2閾値を、パラメータの値と特定機器の能力の変更回数との関係から決定している。その結果、図9に直線Ln1,Ln2で示されている第2閾値を使って適切なタイミングで特定機器の能力の変更操作を簡単に禁止することができる。
【0066】
(5-5)
機器管理装置50は、報知部54により、変更操作を禁止している状態にあるか、変更操作を禁止していない状態にあるかを報知し、外部に管理状態を知らせることができる。この報知により、能力の変更が禁止されている過渡期であることを外部に知らせることができ、熱源システム1の能力の調整がユーザなどに許容され易くなる。
【0067】
(5-6)
熱媒体の状態を計測するために熱源システム1が有するセンサには、出口温度センサ63のような熱媒体の温度を測定する温度センサ、熱媒体の流量を測定する流量センサまたは熱媒体の圧力を測定する圧力センサを用いることができる。熱源システム1は、このようなセンサにより測定される熱媒体の温度、流量または圧力の値を熱媒体の状態値として用いる簡単な構成で、特定機器の能力の無駄な変更操作を減らすことができる。
【0068】
(5-7)
熱媒体の状態を計測するために熱源システム1として、出口温度センサ63を用いるときには、熱源システムは1、出口温度と目標温度との差が大きくて能力を変更させるべきときに適切に能力の変更操作を行わせることができる。
【0069】
(6)変形例
(6-1)変形例1A
上記実施形態では、熱媒体が水の場合について説明したが、熱媒体は水には限られない。熱媒体は、例えば、ブライン液、冷媒またはオイルであってもよい。
【0070】
(6-2)変形例1B
上記実施形態では、特定機器として、チラー111,121,131について説明したが、特定機器はチラーに限られるものではない。特定機器は、例えば、チラー以外の他の熱源機器10であってもよい。熱源機器11,12,13を3台のチラー111,121,131に代えて3台の冷却塔に置き換えることができる。その場合には、例えば、冷却塔の冷却水が循環するチラーが利用側機器20になる。また、特定機器は、熱源機器10以外の機器であってもよい。熱源機器10以外の特定機器としては、例えば、熱源システム1のポンプ40がある。例えば、ポンプ40が複数台の一定速ポンプを含む場合には、機器管理装置50の変更操作禁止部53が禁止する能力の変更操作は、複数台の一定速ポンプの増減段になる。
【0071】
特定機器がチラー111,121,131、冷却塔またはポンプである場合には、簡単な構成で、チラー111,121,131、冷却塔またはポンプの能力の無駄な変更操作を減らすことができる。
【0072】
(6-3)変形例1C
上記実施形態では、熱媒体の状態値が温度である場合について説明したが、状態値は、温度以外のものであってもよい。例えば、熱源システム1の流路30を流れる冷水の流量を状態値として、流路30に流量センサを設けることができる。また、熱源システム1の流路30を流れる冷水の圧力を状態値として、流路30に圧力センサを設けることができる。流量または圧力を状態値とする場合、特定機器は、例えば、熱源機器10またはポンプ40である。流量または圧力を状態値とする場合、入口温度センサ61と出口温度センサ63の代わりに、流量センサまたは圧力センサが用いられる。
【0073】
(6-4)変形例1D
上記実施形態では、状態値の変化に関するパラメータが、状態値の極値の数及び状態値の振れ幅のうちの少なくとも一方に関する変数である場合について説明した。しかし、状態値の変化に関するパラメータは、状態値の極値の数及び状態値の振れ幅のうちの少なくとも一方に関する変数には限られない。機器管理装置50は、状態値の変化に関するパラメータとして、例えば、極値の数に代えて、周期、周波数または波長を用いることができる。機器管理装置50は、状態値の変化に関するパラメータとして、例えば、分散に代えて、標準偏差、最大値と最小値の差または振幅を用いることができる。
【0074】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0075】
1 熱源システム
10,11,12,13 熱源機器(特定機器の例)
40 ポンプ(特定機器の例)
50 機器管理装置
111,121,131 チラー(特定機器の例)
62 差圧センサ
63 出口温度センサ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0076】
【文献】特開平10-89742号公報
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9