(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】眼底撮影装置
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
A61B3/10 300
(21)【出願番号】P 2019161604
(22)【出願日】2019-09-04
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃一
【審査官】増渕 俊仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-202880(JP,A)
【文献】特開2017-189219(JP,A)
【文献】特開2016-028687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察光および撮影光を出射する光出射部と、
前記光出射部からの光を被検眼の眼底へ照射する照射光学系であって、前記眼底上で前記光を走査する走査手段を有する照射光学系と、
前記眼底からの前記光の戻り光を受光することによって受光信号を出力する受光素子を有する受光光学系と、
前記照射光学系および前記受光光学系の少なくとも一方におけるフォーカス位置を調整するフォーカス調整部と、
制御手段と、を備え、前記受光素子からの受光信号に基づく眼底画像として、前記観察光による前記戻り光の受光信号に基づく観察画像と、前記撮影光による前記戻り光の受光信号に基づく撮影画像と、を取得する眼底撮影装置であって、
前記照射光学系および前記受光光学系の少なくとも一方における照明深度を、第1の照明深度と、第1の照明深度よりも浅い第2の照明深度と、の間で切換可能な照明深度調整部を、更に備え、
前記制御手段は、前記照明深度を前記第2の照明深度に設定した状態で前記観察画像に基づいてフォーカス位置を調整すると共に、前記第2の照明深度に設定した状態で調整された前記フォーカス位置において、前記撮影画像を、前記照明深度を前記第1の照明深度に設定した状態で撮影する、眼底撮影装置。
【請求項2】
前記照明深度調整部として、前記受光光学系における前記眼底と共役位置に配置されており、且つ、前記受光素子に導かれる前記戻り光が通過する通過領域を規制する光制限部を有し、
前記光制限部は、前記通過領域のサイズを、前記第1の照明深度と対応する第1のサイズと、第1のサイズよりも狭く、前記第2の照明深度と対応する第2のサイズと、の間で切換可能である、請求項1記載の眼底撮影装置。
【請求項3】
前記照明深度調整部として、前記照射光学系から前記被検眼へ照射される前記光のビーム径を、前記第1の照明深度と対応する第1のビーム径と、第1のビーム径よりも径が太く、前記第2の照明深度と対応する第2のビーム径と、の間で切換可能なビーム径切換部を有する、請求項1又は2記載の眼底撮影装置。
【請求項4】
前記制御手段は、眼底の撮影範囲の一部を観察部位として設定する設定処理を、更に実行すると共に、
前記観察画像上の前記観察部位におけ
る結像状態に関する情報に基づいて前記フォーカス調整部を駆動する、請求項1から3のいずれかに記載の眼底撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼底撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼底撮影装置の1種として、眼底上で光を走査することによって眼底画像として正面画像を撮影する装置が知られている。
【0003】
走査型の眼底撮影装置は、共焦点光学系を備えた装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。共焦点光学系では、例えば、受光光路上の眼底共役位置に、ノイズ光を除去するためのアパーチャが配置されたものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、フォーカス位置を変えながら複数枚の眼底画像を取得し、各眼底画像の結像状態が比較された結果として、撮影画像を得る際のフォーカス位置を好適な結像状態となる位置に調整する装置、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来は、眼底において疾患や湾曲による高低差がある場合、フォーカスを適正に調整することが困難であった。
【0007】
本開示は、従来技術の問題点の少なくとも1つを解決し、適正にフォーカスを調整して眼底画像を撮影しやすい眼底撮影装置を提供すること、を技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様に係る眼底撮影装置は、観察光および撮影光を出射する光出射部と、前記光出射部からの光を被検眼の眼底へ照射する照射光学系であって、前記眼底上で前記光を走査する走査手段を有する照射光学系と、前記眼底からの前記光の戻り光を受光することによって受光信号を出力する受光素子を有する受光光学系と、前記照射光学系および前記受光光学系の少なくとも一方におけるフォーカス位置を調整するフォーカス調整部と、制御手段と、を備え、前記受光素子からの受光信号に基づく眼底画像として、前記観察光による前記戻り光の受光信号に基づく観察画像と、前記撮影光による前記戻り光の受光信号に基づく撮影画像と、を取得する眼底撮影装置であって、前記照射光学系および前記受光光学系の少なくとも一方における照明深度を、第1の照明深度と、第1の照明深度よりも浅い第2の照明深度と、の間で切換可能な照明深度調整部を、更に備え、前記制御手段は、前記照明深度を前記第2の照明深度に設定した状態で前記観察画像に基づいてフォーカス位置を調整すると共に、前記第2の照明深度に設定した状態で調整された前記フォーカス位置において、前記撮影画像を、前記照明深度を前記第1の照明深度に設定した状態で撮影する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、適正にフォーカスを調整して眼底画像を撮影しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】眼底撮影装置1の光学系の概略構成を示す図である。
【
図2】レンズアタッチメント3装着時の眼底撮影装置1の光学系の概略構成を示す図である。
【
図3】眼底撮影装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】通過領域のサイズが第1のサイズに設定された状態で撮影される眼底画像の一例を示した図である。
【
図5】通過領域のサイズが第2のサイズに設定されたうえで、更に、フォーカス位置が網膜表面側に設定された状態で撮影される眼底画像の一例を示した図である。
【
図6】通過領域のサイズが第2のサイズに設定されたうえで、更に、フォーカス位置が脈絡膜側に設定された状態で撮影される眼底画像の一例を示した図である。
【
図7】実施例における撮影動作の流れを示したフローチャートである。
【
図8】観察部位の設定操作を受け付けるためにモニタ80上に表示される観察画像を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
「概要」
本開示で例示する眼底撮影装置(
図1~3参照)は、光出射部と、照射光学系と、受光光学系と、フォーカス調整部と、照明深度調整部と、制御部(制御手段)と、を備える。眼底撮影装置は、走査型の装置である。眼底撮影装置は、例えば、スポット状の光束を眼底上で2次元的に走査する2次元スキャンタイプの装置であってもよいし、スリット状の光束をスリットの長手方向と交差する方向に走査するスリットスキャン(ラインスキャンともいう)タイプの装置であってもよい。
【0012】
光出射部は、観察光および撮影光を出射する。観察光と撮影光との間で、波長帯が互いに異なっていてもよい。例えば、観察光は、赤外光であってもよく、撮影光は可視光であってもよい。また、光出射部から、観察光と撮影光とのうちいずれかが選択的に出射されてもよい。
【0013】
照射光学系は、光出射部からの光を被検眼の眼底へ照射する。また、照射光学系は、眼底上で光を走査する走査部(走査手段、光スキャナともいう)を有する。
【0014】
受光光学系は、受光素子を少なくとも有する。
【0015】
受光素子は、眼底からの光(観察光および照明光)の戻り光を受光することによって受光信号を出力する。受光素子からの信号に基づいて、眼底画像(眼底の正面画像)が撮影される。
【0016】
フォーカス調整部は、照射光学系および受光光学系におけるフォーカス位置を調整する。フォーカス調整部は、例えば、移動されるレンズを備えたものであってもよいし、液晶レンズ等の可変焦点レンズを備えたものであってもよいし、光路長を変更可能な光学系を備えたものであってもよい。光路長を変更可能な光学系は、例えば、1つ又は複数の、レンズ、ミラー、または、これらの組み合わせであってもよい。
【0017】
照明深度調整部は、照射光学系および受光光学系の少なくとも一方における照明深度(被写界深度ともいう)を切換可能である。照明深度は、少なくとも第1の照明深度と、第1の照明深度よりも浅い第2の照明深度と、の間で切換られてもよい。
【0018】
照明深度が深いほど、深さ方向に関して情報量のより多い眼底画像を取得しやすくなる(
図4参照)。その反面、照明深度が深いほど、フォーカス位置の変化に対する画質の変化が乏しくなる。一方、照明深度がより浅い第2の照明深度である場合は、フォーカス位置の変化に対する画質の変化がより明確になる(
図5,
図6参照)。
【0019】
照明深度調整部は、例えば、下記の光制限部であってもよいし、ビーム径切換部であってもよい。
【0020】
光制限部は、受光光学系において、眼底と共役な位置に配置される。光制限部は、受光素子に導かれる戻り光が通過する領域(以下、通過領域と称する)を規制する。光制限部は絞り(いわゆる共焦点絞り)であってもよい。スポットスキャンタイプにおいては、例えば、ピンホールを光制限部として利用してもよい。また、スリットスキャンタイプにおいてはスリットを光制限部として利用してもよい。また、光制限部の他の構成として、受光素子と光制限部とが一体化されたものが考えられる。この場合、受光素子の受光面において有効に露光される領域が制御可能であってもよい。このような構成は、例えば、電子シャッタであってもよいし、液晶シャッタであってもよい。また、スリットスキャンタイプの光学系の場合、CMOSにおけるローリングシャッタ機能を利用することで、受光素子と光制限部との一体化構成を実現してもよい。
【0021】
なお、本開示において「共役」とは、必ずしも完全な共役関係に限定されるものではなく、「略共役」を含む。例えば、光制限部は、眼底画像の利用目的(例えば、観察、解析等)との関係で許容される範囲で、完全な眼底共役位置に対してズレた位置へ配置されてもよい。
【0022】
本実施形態において、光制限部は、通過領域のサイズを、第1の照明深度と対応する第1のサイズと、第1のサイズよりも狭く、第2の照明深度と対応する第2のサイズとの間で切換可能である。この場合、通過領域のサイズが異なる少なくとも2つの光制限部を、受光光路上に択一的に配置することで、通過領域のサイズを切換えてもよい。また、光制限部が有する1つの通過領域が、少なくとも2段階でサイズが切換可能な構成であってもよい。
【0023】
ビーム径切換部は、照射光学系から被検眼へ照射される光のビーム径を、第1の照明深度と対応する第1のビーム径と、第1のビーム径よりも径が太く、第2の照明深度と対応する第2のビーム径と、の間で切換可能であってもよい。ビーム径切換部は、例えば、照射光学系に配置される可変ビームエキスパンダであってもよい。この場合、可変ビームエキスパンダは、光出射部と走査部との間に配置されてもよい。
【0024】
制御部は、眼底撮影装置の各種動作を司るプロセッサである。制御部は、例えば、CPU、RAM、および、ROM等によって構成されてもよい。
【0025】
制御部は、照明深度制御処理を実行する。照明深度制御処理では、少なくとも、観察画像に基づいてフォーカス位置を調整する際と、撮影画像を撮影する際と、の間で、照明深度を変更する。
【0026】
ここでいう「観察画像」は、観察光による戻り光の受光信号に基づいて生成される眼底画像である。また、「撮影画像」は、撮影光による戻り光の受光信号に基づいて生成される眼底画像である。
【0027】
観察画像に基づいてフォーカス位置を調整する際には、より浅い第2の照明深度に設定される。これにより、第1の照明深度に設定される場合に比べて、フォーカス位置の変化に対する画質の変化が大きくなる(例えば、
図4⇒
図5,
図6)。結果、撮影範囲となる眼底領域に、疾患による高低差が存在している場合、および、眼底の湾曲による高低差が存在している場合、の各場合において、眼底領域上においてフォーカスが合った部位を、観察画像および撮影画像を介して良好に確認しやすくなる。
【0028】
また、撮影画像を取得する際には、照明深度が第1の照明深度に設定されることで、深さ方向に関して情報量のより多い眼底画像を取得しやすくなる。このとき、照明深度切換部が光制限部である場合、通過領域のサイズがより広い状態となるので、より受光効率が高い状態となる。その結果、より明るい撮影画像が撮影されやすくなる(
図4参照)。また、照明深度切換部がビーム径調整部である場合、ビーム径がより太い状態となるので、より解像度の良好な眼底画像が撮影されやすくなる。
【0029】
更に、制御部は、フォーカス制御処理を更に実行してもよい。フォーカス制御処理において制御部は、第2の照明深度に設定された状態で観察画像を逐次取得すると共に、観察画像から検出される結像状態に関する情報に基づいてフォーカス調整部を駆動する。これにより、眼底に対して適正にフォーカスが調整された撮影画像が撮影されやすくなる。
【0030】
制御部は、撮影範囲の一部を観察部位として設定する設定処理を実行してもよい。更に、上述のフォーカス制御処理において制御部は、観察部位における結像状態に関する情報に基づいて、フォーカス調整部を駆動してもよい。これにより、観察部位に対して適正にフォーカスが調整された眼底画像を、撮影画像として得ることができる。
【0031】
観察部位は、例えば、検者の設定操作に基づいて設定されてもよい。この場合、制御部は、設定処理において、観察部位の設定操作を受け付けると共に、設定操作に基づいて観察部位を設定してもよい。設定操作は、観察画像上で観察部位を指定する操作であってもよい。これにより、観察画像から検者が特定した所望の観察部位に対して適正にフォーカスが調整された眼底画像を撮影できる。
【0032】
また、観察部位は、例えば、観察画像上で観察部位を特定する位置情報に基づいて設定されてもよい。位置情報は、例えば、他の眼底検査装置(例えば、OCT、視野計等)での検査結果に基づいて特定された疾患部等を示すものであってもよい。また、過去の検査において特定された疾患部を示すものであってもよい。これらの場合、位置情報は、制御部からアクセス可能なメモリから取得されてもよい。
【0033】
眼科撮影装置は、90°以上の撮影画角(瞳孔中心で90°以上)である第2画角で被検眼を撮影可能であってもよい。この場合、例えば、操作部と被検眼との間に、撮影画角が90°以上の対物光学系が設けられてもよい。ここで、撮影画角は、眼底画像の撮影範囲を示す。
【0034】
画角が広いほど、眼底の湾曲による高低差が大きくなるので、照明深度制御処理は、より有用である。
【0035】
「実施例」
以下、図面を参照しつつ、本発明の典型的な一実施例を説明する。まず、
図1から
図3を参照して、眼底撮影装置1(以下、本装置1と称す)の全体構成について説明する。本実施例では、本装置1は、SLO(Scanning Light Ophthalmoscope:SLO)の構成を備える。本装置1は、被検眼Eの眼底Erの正面画像を撮影する装置である。本装置1は、眼底Er上で光を走査し、眼底Erからの戻り光を受光することによって、眼底Erの正面画像を取得する。
【0036】
なお、以下の説明において、本装置1は、観察面上でスポット上に集光される光を、走査部(光スキャナ)の動作に基づき,2次元的に走査することで眼底画像を得る。但し、必ずしもこれに限られるものではなく、本装置1は、いわゆるスリットスキャンタイプの装置であってもよい。この場合、観察面上で、スリット状の光束が走査される。
【0037】
<光学系>
図1を参照して、本装置1に設けられた光学系を説明する。
図1に示すように、本装置1は、照射光学系10と、受光光学系20と、を有する。本装置1は、これらの光学系10,20を用いて眼底画像を撮影する。
【0038】
本実施例の本装置1は、対物光学部におけるレンズ構成を切換えることで、撮影画角を切換える。詳細には、レンズアタッチメント3(
図2参照)の着脱によって、撮影画角が予め定められた2つの撮影画角のいずれかに選択的に切換えられる。ここでは、より狭い撮影画角を「第1画角」、より広い方の撮影画角を「第2画角」と称す。例えば、第1画角は、90°未満であり、第2画角は、90°以上であってもよい。例えば、第1画角は、45°~60°程度であり、第2画角は、90°~150°程度であってもよい。
【0039】
初めに、
図1を参照して、撮影画角が第1画角である場合の光学系を説明する。本実施例では、レンズアタッチメント3(
図2参照)が未装着の場合に、撮影画角が第1画角に設定される。
【0040】
<照射光学系>
照射光学系10は、走査部16と、対物光学部17と、を含む。対物光学部17は、少なくとも1つのレンズを含む。また、
図1に示すように、照射光学系10は、更に、光出射部11、コリメーティングレンズ12、穴開きミラー13、レンズ14(本実施例において、フォーカス調整部40の一部)、および、レンズ15を有する。
【0041】
光出射部11は、照射光学系10の光源である。本実施例では、光出射部11からの光が、観察光および撮影光として利用される。本実施例の光出射部11は、複数色の光を、同時に、又は選択的に出射可能である。一例として、本実施例では、光出射部11は、青,緑,赤の可視域の3色と、赤外域の1色と、の計4色の光を出射する。各色の光は、任意の組合せで同時に出射可能である。光出射部11は、例えば、レーザーダイオード(LD)、および、スーパールミネッセントダイオード(SLD)等を含んで形成されてもよい。
【0042】
以下、特に断りが無い限り、本実施例では、赤外光は観察光として利用され、可視光は撮影光として利用されるものとして説明する。
【0043】
光出射部11から照射された光に対する被検眼Eからの戻り光は、例えば、被検眼Eの組織による反射光であってもよい。また、光出射部11からの光が照射に基づいて組織から発せられる光(例えば蛍光等)であってもよい。
【0044】
但し、説明の便宜上、以下の説明においては、特に断りが無い限り、光出射部11から出射される各色の光は、眼底反射光による反射画像の撮影に利用されるものとして説明する。
【0045】
反射画像として、赤外画像、カラー画像、レッドフリー画像、および、単色可視画像等のいずれか、または全てが撮影されてもよい。
【0046】
本実施例において、光出射部11から出射された光は、
図1に示した光線の経路にて眼底Erに導かれる。つまり、光出射部11からの光は、コリメーティングレンズ12を経て穴開きミラー13に形成された開口部を通り、レンズ14およびレンズ15を介した後、走査部16に向かう。走査部16によって反射されたレーザー光は、ダイクロイックミラー51を通過し、対物光学部17を通過した後、被検眼Eの眼底Erに照射される。その結果、光出射部11から出射された光は、眼底Erで反射・散乱される。この光(つまり、眼底反射光)が、戻り光として、瞳孔から出射される。
【0047】
走査部16(「光スキャナ」ともいう)は、光出射部11から発せられたレーザー光を、眼底Er上で走査するためのユニットである。以下の説明では、特に断りが無い限り、走査部16は、走査方向が互いに異なる2つの光スキャナを含むものとする。即ち、主走査用(例えば、X方向への走査用)の光スキャナ16Aと、副走査用(例えば、Y方向への走査用)の光スキャナ16Bと、を含む。
【0048】
対物光学部17は、本装置1の対物光学系である。対物光学部17は、走査部16によって走査される光を、被検眼Eに照射させ、眼底Erに導くために利用される。そのために、対物光学部17は、走査部16を経た光が旋回される旋回点Pを形成する。旋回点Pは、照射光学系10の基準光軸L1上であって、対物光学部17に関して走査部16と光学的に共役な位置に形成される。
図1において、本装置1の対物光学部17は屈折系として示されているが、必ずしもこれに限られるものではなく、反射系であってもよい。
【0049】
走査部16を経たレーザー光は、対物光学部17を通過することによって、旋回点Pを経て、眼底Erに照射される。このため、対物光学部17を通過したレーザー光は、走査部16の動作に伴って旋回点Pを中心に旋回される。その結果として、本実施例では、眼底Er上でレーザー光が2次元的に走査される。眼底Erに照射されたレーザー光は、集光位置(例えば、網膜表面)にて集光される。
【0050】
<受光光学系>
次に、受光光学系20について説明する。受光光学系20は、1つ又は複数の受光素子を持つ。例えば、
図1に示すように、受光光学系20は、複数の受光素子25,27,29を有してもよい。この場合、眼底Erからの戻り光は、受光素子25,27,29の少なくともいずれかによって受光される。
【0051】
図1に示すように、本実施例における受光光学系20は、対物光学部17から穴開きミラー13までに配置された各部材を、照射光学系10と共用してもよい。この場合、眼底Erからの戻り光は、照射光学系10の光路を遡って、穴開きミラー13まで導かれる。穴開きミラー13は、被検眼Eの角膜,および,装置内部の光学系(例えば対物レンズ系のレンズ面等)での反射によるノイズ光の少なくとも一部を取り除きつつ、眼底Erからの光を、受光光学系20の独立光路へ導く。
【0052】
本実施例の受光光学系20は、穴開きミラー13の反射光路に、レンズ21、光制限部23、および、光分離部(光分離ユニット)30を有する。また、光分離部30と各受光素子25,27,29との間に、レンズ24,26,28が設けられている。
【0053】
光制限部23は、受光光路上における眼底共役位置に配置される。
図1に示すように、光制限部23は、受光素子に導かれる戻り光が通過する領域(以下、通過領域と称する)を規制する。
【0054】
図1に示すように、光制限部23は、大きさが互いに異なる複数の開口が共焦点開口として形成された回転盤である。一例として、4つの開口23a~23dが形成されている。各開口によって戻り光の通過領域が規制される。光制限部23の回転中心は、光軸L2(受光光学系20の独立光路における基準光軸)に対してオフセットされている。23a~23dは、光軸L2の通過位置に形成されている。光制限部23がモータ32によって回転されることによって、開口23a~23dのうち1つが光軸L2上に選択的に配置される。戻り光のうち光軸L2上の開口を通過した一部が受光素子25,27,29へ導かれ、それ以外が回転盤によって遮光される。本実施例では、開口23a~23dのうち光軸L2上に配置されるものが切替わることで、通過領域のサイズが切換わる。本実施例では、これにより、照明深度が調整される。
【0055】
本実施例では、開口23a,23bが第1画角の場合における共焦点開口として設けられており、開口23c,23dが第2画角の場合における共焦点開口として設けられている。
【0056】
開口23aは、本実施例の第1のサイズの通過領域として利用される。本実施例では、第1画角の場合において眼底画像を撮影する際に利用される。また、開口23bは、開口23aと比べて小さい。本実施例において、開口23bは、第2のサイズの通過領域として利用される。つまり、第1画角の場合においてフォーカスを調整する際に利用される。
【0057】
また、開口23dは、第3サイズの通過領域として利用される。つまり、第2画角の場合においてフォーカスを調整する際に利用される。開口23cは、第2画角の場合において眼底画像を撮影する際に利用される。
【0058】
光分離部30は、眼底Erからの光を分離させる。本実施例では、光分離部30によって、眼底Erからの光が波長選択的に光分離される。また、光分離部30は、受光光学系20の光路を分岐させる光分岐部を兼用していてもよい。例えば、
図1に示すように、光分離部30は、光分離特性(波長分離特性)が互いに異なる2つのダイクロイックミラー(ダイクロイックフィルター)31,32を含んでいてもよい。受光光学系20の光路は、2つのダイクロイックミラー31,32によって、3つに分岐される。また、それぞれの分岐光路の先には、受光素子25,27,29の1つがそれぞれ配置される。
【0059】
例えば、光分離部30は、眼底Erからの光の波長を分離させ、3つの受光素子25,27,29に、互いに異なる波長域の光を受光させる。例えば、青,緑,赤の3色の光を、受光素子25,27,29に1色ずつ受光させてもよい。この場合、各受光素子25,27,29の受光結果から、カラー画像を取得してもよい。また、光分離部30は、赤外域の眼底反射光を、いずれかの受光素子に受光させてもよい。この受光素子からの信号に基づいて、赤外画像を取得してもよい。
【0060】
ここで、光分離部30の分光特性を、一例として説明する。実施例においてダイクロイックミラー31は、赤色の光を少なくとも反射し、それ以外の波長域の光を透過する。つまり、赤色の照明光に対する眼底反射光が、受光素子25によって受光される。
【0061】
また、ダイクロイックミラー32は、緑色の光を少なくとも反射し、それ以外の波長域の光を透過する。ダイクロイックミラー32の反射光路に置かれた受光素子29は、緑色の照明光に対する眼底反射光は、受光素子27によって受光される。
【0062】
更に、ダイクロイックミラー32の透過光路に置かれた受光素子29は、青色の光と、赤外光と、を受光する。よって、青色の照明光に対する眼底反射光が、受光素子29によって受光される。また、光出射部11から発せられる赤外光に対する眼底反射光が、受光素子29によって受光される。
【0063】
<画角切換部>
次に、
図2を参照して、撮影画角がより広画角な第2画角である場合の光学構成を示す。本実施例では、対物光学部17と被検眼Eとの間に、レンズアタッチメント3が配置されることで、第2画角で撮影を行うための対物光学部18が構成される。本実施例のレンズアタッチメント3は、少なくとも1つのレンズを有する。対物光学部18の撮影画角は、第2画角となる。
【0064】
<前眼部観察光学系、および、アライメント指標投影光学系>
また、眼科撮影装置は、前眼部観察光学系、および、アライメント指標投影光学系のうちいずれかを有していてもよい(いずれも図示略)。前眼部観察光学系は、前眼部の正面画像による前眼部観察画像を取得するために利用される。アライメント指標投影光学系は、アライメント調整の基準となるアライメント指標を被検眼の角膜へ投影する。
【0065】
<制御系>
次に、
図3を参照して、本装置1の制御系を説明する。本装置1は、制御部70によっての各部の制御が行われる。制御部70は、本装置1の各部の制御処理と、演算処理とを行う電子回路を有する処理装置(プロセッサ)である。制御部70は、CPU(Central Processing Unit)およびメモリ等で実現される。制御部70は、記憶部71と、バス等を介して電気的に接続されている。また、制御部70は、光出射部11、受光素子25,27,29、走査部16、モータ23e、アクチュエータ40a、入力インターフェイス75、および、モニタ80等の各部とも電気的に接続されている。
【0066】
記憶部71には、各種の制御プログラムおよび固定データ等が格納される。本実施例では、後述する撮影制御プログラム等が記憶部71に記憶される。また、記憶部71には、一時データ等が記憶されてもよい。本装置1で得られた画像は、記憶部71に記憶されていてもよい。ただし、必ずしもこれに限られるものではなく、外部の記憶装置(例えば、LANおよびWANで制御部70に接続される記憶装置)へ本装置1で得られた画像が記憶されてもよい。
【0067】
制御部70は、例えば、受光素子25,27,29から出力される受光信号を基に眼底画像を形成する。より詳細には、制御部70は、走査部16による光走査と同期して眼底画像を形成する。例えば、制御部70は、副走査用の光スキャナ16Bがn回(nは、1以上の整数)往復する度に、少なくとも1フレーム(換言すれば、1枚)の眼底画像を、(受光素子毎に)形成する。なお、以下では、特段の断りが無い限り、便宜上、副走査用の光スキャナ16Bの1往復につき、その1往復に基づく1フレームの眼底画像が形成されるものとする。本実施例では、3つの受光素子25,27,29が設けられているので、制御部70は、それぞれの受光素子25,27,29からの信号に基づく最大3種類の画像を、副走査用の光スキャナ16Bが1往復する度に生成する。
【0068】
制御部70は、上記のような装置の動作に基づいて逐次形成される複数フレームの眼底画像を、観察画像として時系列にモニタ80へ表示させてもよい。観察画像は、略リアルタイムに取得された眼底画像からなる動画像である。
【0069】
また、制御部70は、撮影トリガに基づいて、眼底画像を、撮影画像(キャプチャ画像)として撮影する(キャプチャする)。撮影画像は、記憶媒体に記憶される。撮影画像が記憶される記憶媒体は、不揮発性の記憶媒体(例えば、ハードディスク,フラッシュメモリ等)であってもよい。
【0070】
入力インターフェイス75は、検者の操作を受け付ける操作部である。例えば、タッチパネル、マウス、および、キーボード等が、入力インターフェイス75として利用されてもよい。
【0071】
<動作説明>
次に、
図7のフローチャートを参照して、本装置1の撮影動作を説明する。
【0072】
事前に、本装置1に対してレンズアタッチメント3が着脱され、本装置1の撮影画角が設定される(S1)。レンズアタッチメント3の着脱状態は、検者が手動で本装置1に入力してもよい。また、レンズアタッチメント3の着脱状態を検出するセンサを本装置1に設け、センサからの検出信号が、本装置1に入力されてもよい。
【0073】
次に、被検眼Eに対する装置のアライメントが行われる(S2)。アライメントに際して、検者は、本装置1の顔支持ユニット(図示略)に被検者の顔を固定させる。また、本装置1の固視標投影ユニット(図示略)によって被検眼Eを固視させる。また、前眼部観察光学系(図示略)を制御し、前眼部観察画像の生成および表示を行ってもよい。また、制御部70は、アライメント指標投影光学系(図示略)から角膜に対してアライメント指標を投影してもよい。これにより、アライメント指標像が前眼部観察画像に重畳される。前眼部観察画像およびアライメント指標像に基づいて、被検眼に対する光学系(照射光学系10および受光光学系20)の位置関係が調整される。アライメントは手動アライメントであってもよいし、自動アライメントであってもよい。眼底画像を撮影可能な位置関係(アライメント許容範囲)へと光学系が移動されることによって、アライメント調整が完了される。
【0074】
光学系がアライメント許容範囲へと移動された後、制御部70は、眼底観察画像の取得および表示を開始する(S3)。
【0075】
次に、制御部70は、撮影画角と対応する2つの開口のうち、よりサイズが大きな開口を、光軸L2上に配置させる(S4)。つまり、撮影画角が第1画角である場合には開口23aを、撮影画角が第2画角である場合には開口23cを、モータ23eを駆動し、光軸L2上に配置させる。
【0076】
本実施例では、より大きなサイズの通過領域が光軸L2上に設定された状態で、画像輝度の最適化制御が実行される(S5)。随時取得される観察画像のヒストグラムが予め定められた目標ヒストグラムに近づくように、光量、露光時間、およびゲイン、のうち少なくとも何れかを調整する。目標ヒストグラムは目標値によって規定されていてもよく、例えば、ヒストグラムの幅(分散、半値幅、標準偏差等)が、目標値として予め定められていてもよい。詳細は後述するが、本実施例では、通過領域の大きさが第1のサイズに設定された状態で撮影画像の撮影が行われるので、画像輝度の最適化制御においても同様の通過領域のサイズで行われることで、画像輝度が適正に調整された眼底画像が撮影画像として撮影されるようになる。
【0077】
画像輝度の調整後、観察部位の設定処理が実行される(S6)。本実施例では、制御部70は、観察画像を複数の領域に分割するグリッドを、観察画像上に表示する(
図8参照)。検者は、グリッドによって分割された複数の領域のうちいずれかを、入力インターフェイス75を介して選択する(本実施例における設定操作)。選択された領域に含まれる部位を、制御部70は、観察部位として設定する。
図8の例では、グリッドによって格子状に分割されているが、必ずしもこれに限られるものでは無い。例えば、同心円状、蜘蛛の巣状等の他の分割態様で分割されてもよい。また、例えば、観察画像上における任意の点を指定することで、その点を中心とする所定範囲を、観察部位として設定してもよい。
【0078】
次に、制御部70は、撮影画角と対応する2つの開口のうち、よりサイズが小さな開口を、光軸L2上に配置させる(S7)。ここで、撮影画角が第1画角である場合には開口23bを、撮影画角が第2画角である場合には開口23dを、モータ23eを駆動し、光軸L2上に配置させる。
【0079】
その後、制御部70は、フォーカス制御処理を実行する(S8)。フォーカス制御処理では、所定の調整可能範囲において、レンズ14を初期位置から一方向へ、所定ステップずつ(例えば、第1画角の場合は、0.25Dステップずつ、第2画角の場合は1.0Dステップずつ)移動させる。また、所定ステップの移動毎に、観察画像上において設定された観察部位における評価値を求め、評価値がピークとなる位置へフォーカス位置を調整する。評価値は、観察画像における観察部位での微分ヒストグラムに関する情報が利用されてもよい。より詳細については、例えば、本出願人による特開2013-188316号公報等を参照されたい。
【0080】
本実施例において、画像輝度の最適化制御(S5)が完了してから、フォーカス調整制御(S8)が行われるので、フォーカス調整制御(S8)において、結像状態をより良好に検出できる。
【0081】
本実施例では、より小さなサイズの通過領域が光軸L2上に設定された状態で取得される観察画像に基づいて、フォーカス調整が行われる。通過領域のサイズがより小さなサイズに設定されることで(つまり、より狭まることで)、後述の撮影時に比べて照明深度が浅くなる。結果、観察部位が良好に観察できるようにフォーカスが調整されやすい。また、観察部位が疾患等によって周囲に対して起伏していても、観察部位が良好に観察できるように、フォーカスが調整され得る。
【0082】
フォーカス調整後、制御部70は、光軸L2へ配置される開口を、撮影画角と対応する2つの開口のうち、よりサイズが大きな開口へ戻す(S9)。そのうえで、眼底画像を撮影(キャプチャー)する(S10)。撮影時には、通過領域がより大きなサイズに設定されることで(つまり、より広がることで)、より明るい撮影画像が撮影される。また、前述の通り、フォーカス制御処理の結果として、撮影画像においては、観察部位に対して適正にフォーカスが調整されているので、撮影画像において、観察部位が良好に観察されやすい。
【0083】
なお、レンズアタッチメント3が装着された場合(より撮影画角が大きな第2画角である場合)は、未装着の場合(第1画角の場合)と比べて、NAが小さくなって、照明深度が深くなる。これに対し、本実施例では、レンズアタッチメント3が装着された場合では、未装着の場合と比べて、フォーカス位置を調整する際の通過領域のサイズがより小さくなることで、照明深度が深くなることが抑制される。結果、レンズアタッチメント3が装着された場合であっても、眼底領域上においてフォーカスが合った部位が、観察画像および撮影画像を介して良好に確認されやすい。
【符号の説明】
【0084】
10 照射光学系
11 光出射部照射光学系
23 光制限部
40 フォーカス調整部
70 制御部