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  • 特許-発泡粒子及び発泡粒子成形体 図1
  • 特許-発泡粒子及び発泡粒子成形体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】発泡粒子及び発泡粒子成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/16 20060101AFI20240117BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20240117BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
C08J9/16 CES
B29C44/00 G
B29K23:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020034038
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134332
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永木 雅紘
(72)【発明者】
【氏名】平 晃暢
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108084484(CN,A)
【文献】国際公開第2019/065517(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/060162(WO,A1)
【文献】特開昭58-125727(JP,A)
【文献】特開昭58-092540(JP,A)
【文献】特表2008-536954(JP,A)
【文献】特開2016-094326(JP,A)
【文献】国際公開第2019/171987(WO,A1)
【文献】特開2017-171773(JP,A)
【文献】特開昭62-036436(JP,A)
【文献】特開2019-108540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60、67/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂を含む発泡層を有する粒子本体と、
前記粒子本体の表面に付着している単層カーボンナノチューブと、を有し、
導電性を有し、
JIS Z8722:2009に規定された方法により前記発泡粒子の表面を測定して得られるL*値(B)の変動係数が0.30以下である、発泡粒子。
【請求項2】
前記単層カーボンナノチューブの塗布量は前記粒子本体の表面1m2あたり0.1mg以上10.0mg以下である、請求項1に記載の発泡粒子。
【請求項3】
JIS Z8722:2009に規定された方法により前記粒子本体の断面を測定して得られるL*値(A)は40以上80以下であり、かつ、前記発泡粒子の表面を測定して得られるL*値(B)と前記L*値(A)との差(A)-(B)は0を超え10以下である、請求項1または2に記載の発泡粒子。
【請求項4】
前記単層カーボンナノチューブは、1nm以上10nm以下の平均直径と、1μm以上の平均長さと、を有している、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項5】
前記粒子本体は、オレフィン系樹脂からなる発泡層と、オレフィン系樹脂からなり前記発泡層を覆う被覆層と、を有している、請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項6】
前記粒子本体の表面の軟化温度は145℃以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項7】
前記発泡粒子は有彩色を呈している、請求項1~6のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項8】
前記発泡粒子の見掛け密度が20g/L以上100g/L以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の発泡粒子。
【請求項9】
オレフィン系樹脂を含む発泡層を有する粒子本体と、前記粒子本体の表面に付着している単層カーボンナノチューブと、を有するとともに、半導電性を有する発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体であって、
前記発泡粒子成形体の平均表面抵抗率が1×10 5 Ω以上1×10 9 Ω以下であり、
前記発泡粒子成形体の表面抵抗率の最小値(C)に対する前記表面抵抗率の最大値(D)の比(D)/(C)の値が2.9以下である、発泡粒子成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡粒子及び発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂を含む発泡粒子成形体は、衝撃吸収性に優れているという特性を活かし、スペーサや箱等の梱包資材として使用されることがある。梱包資材によって保護される対象物としては、例えば、精密機器や電子機器、電子部品などがある。
【0003】
電子機器や電子部品等の梱包のために使用される梱包資材には、衝撃吸収性に加えて、静電気を緩やかに放電することができる、静電気拡散性と呼ばれる性質や、その他の電気的性能が求められることがある。この種の梱包資材を作製するために用いられる発泡粒子には、導電性物質が含まれている。導電性物質としては、導電性カーボンブラック等が用いられることが多い。
【0004】
また、特許文献1には、多層カーボンナノチューブ分散配合水性ゲルを予備発泡させたポリスチレンビーズに添加し、加熱混合してなる発泡成形材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-87041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、オレフィン系樹脂を含む発泡性粒子や発泡粒子に導電性物質を付着させて半導電性または導電性の発泡粒子を得ようとする場合には、発泡粒子同士の融着性を維持しつつ、発泡粒子成形体の表面からの導電性物質の脱落を十分に抑制することができなかった。また、発泡粒子成形体の表面から導電性物質が脱落すると、発泡粒子成形体の表面に表面抵抗が高い部分と低い部分とが形成され、所望の電気的特定を有する発泡粒子成形体を得ることが難しくなるおそれもある。一方で、発泡粒子の融着性を向上させるために、導電性物質の付着量を少なくしてしまうと、発泡粒子成形体の表面において、所望する表面抵抗値が発揮されなくなるおそれがあった。
【0007】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、融着性に優れ、電気伝導性または静電気拡散性を呈し、表面抵抗値のバラつきが小さい発泡粒子成形体を作製することができる発泡粒子及びこの発泡粒子からなる発泡粒子成形体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、オレフィン系樹脂を含む発泡層を有する粒子本体と、
前記粒子本体の表面に付着している単層カーボンナノチューブと、を有し、
導電性または半導電性を有する、発泡粒子にある。
【0009】
本発明の他の態様は、前記の態様の発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体であって、
平均表面抵抗率が1×10Ω以上1×1010Ω以下である、発泡粒子成形体にある。
【発明の効果】
【0010】
前記の態様の発泡粒子の表面には、導電性物質としての単層カーボンナノチューブが付着している。これにより、オレフィン系樹脂を含む粒子本体からの導電性物質の脱落を抑制することができる。それ故、前記発泡粒子を型内成形することにより、融着性に優れ、電気伝導性または静電気拡散性を呈し、表面抵抗値のバラつきが小さい発泡粒子成形体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1における、発泡粒子の表面の電子顕微鏡写真(30000倍)である。
図2図2は、比較例2における、発泡粒子の表面の電子顕微鏡写真(30000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
前記発泡粒子は、発泡層を有する粒子本体と、粒子本体の表面に付着している単層カーボンナノチューブと、を有している。なお、以下、単層カーボンナノチューブを「SWCNT」と略すことがある。
【0013】
前記発泡粒子は、粒子本体の表面にSWCNTが付着していることによって、導電性または半導電性を呈する。なお、発泡粒子が導電性または半導電性を呈するとは、前記発泡粒子を型内成形した場合に、前記発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体の表面抵抗率が1×10Ω以上1×1010Ω以下となる電気的特性をいう。
【0014】
また、本発明の発泡粒子を用いた発泡粒子型内成形体は、電気伝導性又は静電気拡散性に優れたものとなる。なお、本明細書において、「静電気拡散性」とは、具体的には、発泡粒子成形体の表面抵抗率が1×104Ω以上1×1010Ω以下の範囲内となる電気的特性をいい、「電気伝導性」とは、発泡粒子成形体の表面抵抗率が1×104Ω未満の範囲となる電気的特性をいう。
【0015】
前記粒子本体の発泡層は、オレフィン系樹脂を含む発泡体である。発泡層に含まれるオレフィン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体(h-PP)、プロピレン成分とその他の重合性モノマー成分との共重合体や、これら2種以上の混合物が挙げられる。前記その他の重合性モノマー成分としては、エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、3-メチル-1-ヘキセンなどの炭素数4~10のα-オレフィンが例示される。また、前記共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよく、更に二元共重合体のみならず三元共重合体であってもよい。なお、前記共重合体中のプロピレンと共重合可能なその他の重合性モノマーのポリプロピレン樹脂中の含有量は、25質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。より具体的には、前記共重合体としては、プロピレン-エチレンランダム共重合体やプロピレン-エチレン-ブテンランダム共重合体(r-PP)、プロピレン-エチレンブロック共重合体(b-PP)などを使用することができる。
【0016】
オレフィン系樹脂としては、剛性、耐摩耗性、加工性に優れ、コストも安く汎用的であるポリプロピレン系樹脂を使用することが好ましい。ポリプロピレン系樹脂とは、ポリプロピレン;プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン三元共重合体等の共重合体であってプロピレン成分比率が50質量%以上のプロピレン系共重合体;ポリプロピレン及びプロピレン系共重合体から選択される2以上の重合体の混合物をいう。
【0017】
前記オレフィン系樹脂には、前述した重合体又は混合物の他に、触媒中和剤、滑剤、結晶核剤等の添加剤が含まれていてもよい。添加剤の含有量は、例えば、100質量部のオレフィン系樹脂に対して15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、5質量部以下であることがさらに好ましく、1質量部以下であることが特に好ましい。
【0018】
前記粒子本体は、オレフィン系樹脂を含む発泡層のみからなる発泡状態の単層構造を有していてもよいし、オレフィン系樹脂を含む発泡層と、発泡層を被覆する被覆層とを備えた多層構造を有していてもよい。被覆層は発泡した状態であってもよく、発泡していない状態であってもよい。また、被覆層は、例えば、発泡層と同様の重合体又は混合物であってもよい。
【0019】
前記粒子本体の表面の軟化温度は145℃以下の温度であることが好ましい。なお、前述した「軟化温度」とは、粒子本体の表面が融解し始める温度をいう。この場合には、型内成形時における発泡粒子同士の融着性をより向上させることができる。なお、前述した粒子本体の表面の融解特性は、例えば、走査型プローブ顕微鏡のプローブを測定対象に接触させて示差熱分析を行う、いわゆるマイクロ示差熱分析法により得られる融点に基づいて評価することができる。
【0020】
前記発泡粒子における粒子本体の表面には、SWCNTが付着している。導電性物質としてSWCNTを使用することにより、発泡粒子に所望する導電性または半導電性を付与しつつ、他の導電性物質よりも塗布量を低減することができる。また、SWCNTは、粒子本体や粒子本体に付着している他の成分、他のSWCNTと絡み合った状態で粒子本体の表面に付着可能であるため、導電性カーボンブラックや多層カーボンナノチューブ等の他の導電性物質に比べて粒子本体からの脱落を抑制することができる。それ故、前記発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体は、SWCNTの付着量のバラつきを低減し、ひいては発泡粒子成形体の表面における表面抵抗率のバラつきを低減することができる。
【0021】
また、前記発泡粒子は、所望の導電性または半導電性を確保しつつ粒子本体の表面における導電性物質の塗布量を低減することにより、発泡粒子同士の融着性を向上させることができる。したがって、より低い成形圧で成形を行っても良好な融着性を有する発泡粒子成形体が得られる。また、低成形圧での成形においてはSWCNTの脱落がさらに防止されるので、前述した粒子本体からの脱落の抑制効果との相乗効果により、より表面抵抗率のバラつきを低減することが可能となる。
【0022】
SWCNTの塗布量は、粒子本体の表面1m2あたり0.1mg以上10.0mg以下であることが好ましい。この場合には、粒子本体にSWCNTを均一に付着させることができる。その結果、発泡粒子成形体の表面における表面抵抗率のバラつきをより低減することができる。
【0023】
SWCNTの塗布量は、0.2mg/m2以上であることが好ましく、0.5mg/m2以上であることがより好ましい。この場合には、発泡粒子成形体を構成する発泡粒子に付着したSWCNTにより、発泡粒子成形体に静電気の導電経路が十分に形成され、電気伝導性または静電気拡散性をより確実に発泡粒子成形体に付与することができる。
【0024】
また、SWCNTの塗布量は、9.0mg/m2以下であることが好ましく、8.0mg/m2以下であることがより好ましく、7.0mg/m2以下であることがさらに好ましい。この場合には、所望の電気的特性を備え、かつ、発泡粒子同士の融着性に優れた発泡粒子成形体をより容易に得ることができる。更に、この場合には、導電性物質であるSWCNTの塗布量をSWCNT以外の導電性物質に比べて低減することができ、より明るい色調の発泡粒子成形体を作製することができる。
【0025】
なお、SWCNTの塗布量は、SWCNT分散液の濃度と、粒子本体と混合する際のSWCNT分散液の添加量と、粒子本体の表面積とから算出することができる。また、例えば、発泡粒子表面から単離したSWCNTの全炭素量を定量分析によって測定した後、検量線法などを用いて全炭素量を塗布量に換算する方法によって算出することもできる。
【0026】
SWCNTの平均直径は、1nm以上10nm以下であることが好ましく、1.2nm以上5nm以下であることがより好ましい。また、SWCNTの平均長さは、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。また、SWCNTのL/D、つまり、平均長さを平均直径で除した値は、100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましい。この場合には、粒子本体の表面において、粒子本体とSWCNTとの絡み合いやSWCNT同士の絡み合いをより複雑にし、粒子本体からのSWCNTの脱落をより効果的に抑制することができる。
【0027】
なお、SWCNTの平均直径及び平均長さは、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、走査型電子顕微鏡により発泡粒子の表面像を取得する。この表面像中に存在するSWCNTの直径を無作為に選択した50か所において測定する。そして、得られた直径の平均値を平均直径とすることができる。
【0028】
同様に、走査型電子顕微鏡により取得した表面像から無作為に50本のSWCNTを選択し、画像解析により各SWCNTの長さを測定する。なお、SWCNTが直線状ではなく、折れ曲がった形状である場合には、キルビメーター等を用いてSWCNTの形状に沿った長さを測定すればよい。このようにして得られた長さの平均値を平均長さとすることができる。
【0029】
前記発泡粒子における、JIS Z8722:2009に規定された方法により前記粒子本体の断面を測定して得られるL*値(A)は40以上80以下であり、かつ、前記発泡粒子の表面を測定して得られるL*値(B)と前記L*値(A)との差(A)-(B)は0を超え10以下であることが好ましい。なお、このL*値は、CIE 1976 L*a*b*表色系におけるL*値を意味する。L*値は、発泡粒子の明度を表す数値であり、値が大きいほど明るい色調であることを示している。発泡粒子のL*値は、具体的には、微小面分光色差計を用いて、JIS Z8722:2009に準じた測定方法により測定することができる。
【0030】
SWCNTは黒色を呈しているため、発泡粒子の表面を測定して得られるL*値(B)は、SWCNTの塗布量が多くなるほど大きくなる。一方、SWCNTは粒子本体の表面に付着しているため、粒子本体の断面、つまり、粒子本体を任意の断面で切断した際に露出する面にはSWCNTが付着していない。従って、粒子本体の断面を測定して得られるL*値(A)は、SWCNTを付着させる前の粒子本体のL*値とほぼ一致する。それ故、前記発泡粒子の表面を測定して得られるL*値(B)と前記L*値(A)との差(A)-(B)は、粒子本体の表面に付着したSWCNTの付着量を表しており、(A)-(B)の値が大きいほどSWCNTの付着量が多いことを意味する。
【0031】
発泡粒子の表面のL*値(B)と、粒子本体の断面のL*値(A)と発泡粒子の表面のL*値(B)との差(A)-(B)の値とをそれぞれ前記特定の範囲内とすることにより、発泡粒子成形体に電気伝導性または静電気拡散性を付与するとともに、かつ、発泡粒子成形体の色調を従来よりも明るくすることができる。発泡粒子成形体に所望する電気伝導性または静電気拡散性を付与しつつ発泡粒子成形体の色調をより明るくする観点からは、(A)-(B)の値を1以上10以下とすることがより好ましく、1以上7以下とすることがさらに好ましく、2以上5以下とすることが特に好ましい。
【0032】
また、発泡粒子成形体には、内容物の識別や意匠性の向上等を目的として、白色や灰色、黒色等の無彩色以外に、例えば赤色、青色、緑色、黄色のような有彩色を呈していることが望まれる場合がある。有彩色を呈する発泡粒子成形体は、有彩色に着色された発泡粒子から作製される。このような用途においては、目視によって識別可能な色の数を多くすることが強く望まれている。粒子本体の断面のL*値(A)及びL*値(A)と発泡粒子の表面のL*値(B)との差(A)-(B)の値をそれぞれ前記特定の範囲とすることにより、SWCNTが付着した状態においても発泡粒子の色調を十分に明るくし、目視によって識別可能な色の数を多くすることができる。
【0033】
前記発泡粒子の表面のL*値(B)の変動係数Lcvは、0.15以下であることが好ましい。L*値(B)の変動係数Lcvは、発泡粒子の色調のバラつきの程度、つまり、粒子本体の表面に付着したSWCNTの付着量のバラつきの程度を表しており、変動係数の値が小さいほどバラつきが少ないことを示す。
【0034】
L*値(B)の変動係数Lcvは、具体的には、以下の式(1)及び式(2)により算出される値である。なお、下記式(1)~(2)におけるLavはL*値(B)の平均値を示す記号であり、nは測定により得られたL*値(B)の総数を示す記号であり、記号Liはi回目の測定により得られたL*値(B)を示す記号である。
【0035】
【数1】
【0036】
【数2】
【0037】
nの値を大きくするほど、より正確なL*値(B)の平均値Lav及び変動係数Lcvの値を算出することができる。nの値は、例えば、50以上であればよい。
【0038】
前記L*値(B)の変動係数Lcvを0.15以下とすることにより、発泡粒子の融着性をより高めるとともに、得られる発泡粒子成形体に電気伝導性または静電気拡散性をより確実に付与することができる。特に、L*値(B)の変動係数Lcvを前記特定の範囲内とすることにより、発泡粒子成形体における静電気の導電経路の偏りを低減し、所望の電気的特性を安定して発揮させることができる。
【0039】
上記の作用効果をより確実に奏する観点から、L*値(B)の変動係数Lcvは、0.12以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましく、0.05以下であることがさらに好ましい。
【0040】
前記発泡粒子を作製するに当たっては、例えば、SWCNTを含有する水溶液からなる分散液を、せん断をかけながら粒子本体と混合することが好ましい。これにより、粒子本体の表面にSWCNTをむらなく付着させることができる。前記分散液としては、例えば、KJ特殊紙株式会社製TB002Lグレードなどを使用することができる。なお、分散液には、ポリオレフィン系樹脂発泡粒子の融着を阻害するバインダーが含有されていないことが好ましい。また、上記せん断の効果をより高めるためには、前記分散液のSWCNT濃度は0.1質量%以上1.0質量%以下であることが好ましい。また、前記分散液の粘度は、25℃において8mPa・s以上150mPa・s以下であることが好ましく、10mPa・s以上50mPa・s以下であることがより好ましく、12mPa・s以上30mPa・s以下であることがさらに好ましい。
【0041】
前記発泡粒子は、導電性物質としてSWCNTを使用することにより、導電性物質の付着による表面のL*値(B)の低下を抑制しつつ、発泡粒子の表面に導電性または半導電性を付与することができる。また、得られた発泡粒子は成形性に優れている。それ故、前記発泡粒子を型内成形して得られる発泡粒子成形体は、発泡粒子同士が十分に融着しているため、発泡粒子成形体から発泡粒子が欠けて脱落すること等を抑制することができる。
【0042】
前記発泡粒子の見掛け密度は、20g/L以上100g/L以下であることが好ましい。この場合には、発泡粒子成形体の衝撃吸収性を損なうことなく、質量を低減することができる。また、未発泡状態の樹脂粒子を発泡させる際に、見掛け密度が前記特定の範囲となるように樹脂粒子を発泡させることにより、樹脂粒子の表面の樹脂を適度に引き伸ばし、特定の表面状態を有する粒子本体を形成することができる。
【0043】
この範囲の見掛け密度を有する粒子本体の表面は、SWCNTを付着させるのに適する凹凸形状を有していると考えられる。そして、前述したように、せん断または摩擦をかけることによってSWCNTを粒子本体の表面に容易に固定することができる。特に、見掛け密度が20g/L以上100g/L以下である高発泡倍率の発泡粒子においては、低発泡倍率の発泡粒子に比べて、粒子表面に凹凸が形成され易く、SWCNTを付着させるのに適する凹凸形状を有していると考えられる。上記観点から、発泡粒子の見掛け密度は、25g/L以上90g/L以下であることが好ましく、30g/L以上80g/L以下であることがさらに好ましい。
【0044】
前記特定の範囲の見掛け密度を有する発泡粒子は、例えば、未発泡状態のオレフィン系樹脂粒子を発泡剤と共に耐圧容器内で水等の分散媒に分散させ、加熱して樹脂粒子を軟化させるとともに樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、樹脂粒子の軟化温度以上の温度で容器内より低圧下(例えば、通常大気圧下)に分散媒と共に樹脂粒子を放出して発泡させる方法により製造することができる。
【0045】
発泡粒子の見掛け密度は、例えば、以下の方法により測定することができる。まず、水を入れたメスシリンダーに予め質量を測定した発泡粒子を沈め、メスシリンダーの水位の上昇分から発泡粒子の体積を決定する。発泡粒子の質量を、このようにして得られた発泡粒子の体積で除すことにより、発泡粒子の見掛け密度を算出することができる。
【0046】
発泡粒子の色は特に限定されることはないが、発泡粒子は、例えば、有彩色を呈していてもよい。この場合には、有彩色を呈する発泡粒子成形体を作製することができる。有彩色を呈する発泡粒子成形体は、無彩色を呈する発泡粒子成形体に比べて意匠性に優れている。また、例えば、有彩色を呈する発泡粒子成形体を梱包資材として使用することにより、発泡粒子成形体の色によって梱包資材により保護される対象物を容易に識別することができる。それ故、有彩色を呈する発泡粒子成形体は、例えば、製造工程間で対象物を搬送するための通い箱等の用途に好適である。
【0047】
有彩色を呈する発泡粒子は、例えば、着色剤を含み、着色剤によって有彩色に着色された粒子本体に、SWCNTを付着させることにより作製することができる。着色剤は、顔料であってもよいし、染料であってもよい。なお、有彩色を呈する発泡粒子は、発泡粒子の融着性が低下しやすいので、SWCNTを用いることにより、本発明の効果がさらに発揮され易くなる。より具体的には、着色剤としては、有機系顔料、有機系染料、無機系顔料、無機系染料を使用することができる。
【0048】
有機系顔料としては、例えば、モノアゾ系、縮合アゾ系、アントラキノン系、イソインドリノン系、複素環系、ペリノン系、キナクリドン系、ペリレン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、フタロシアニン系、ニトロソ系、フタロシアニン顔料、有機蛍光顔料等を使用することができる。
【0049】
無機系顔料としては、例えば、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄、群青、コバルトブルー、焼成顔料、メタリック顔料、マイカ、パール顔料、亜鉛華、沈降性シリカ、カドミウム赤等を使用することができる。
【0050】
染料としては、例えば、アンスラキノン系、複素環系、ペリノン系などの有機系染料、塩基性染料、酸性染料、媒染染料等を使用することができる。
【0051】
着色剤としては、前述した顔料及び染料のうち1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらの着色剤の中でも、耐候性の観点から、有機顔料または無機顔料を使用することが好ましい。粒子本体に含まれる着色剤の量は特に限定されることはないが、例えば、オレフィン系樹脂100質量部に対して0.01質量部以上10質量部であることが好ましく、0.1質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。
【0052】
前記発泡粒子は、例えば、以下の方法により作製することができる。まず、粒子本体の原料となる未発泡状態の樹脂粒子を作製する。樹脂粒子は、例えば、押出成形によってオレフィン系樹脂のストランドを作製した後、ペレタイザーによりストランドを所望の寸法に切断することにより得ることができる。粒子本体を着色する場合には、着色剤をオレフィン系樹脂と共に押出機に供給し、両者を加熱下で混練しつつ押出成形を行えばよい。このようにして作製された着色された粒子本体は、粒子本体の内部にまで着色剤が含浸されている。この場合、粒子本体の断面を測定して得られるL*値(A)は、SWCNTを付着させる前の粒子本体のL*値とほぼ一致することになる。樹脂粒子の質量は、例えば0.1mg以上5mg以下、より好ましくは0.5mg以上2mg以下、さらに好ましくは0.8mg以上1.8mg以下とすることができる。
【0053】
前記発泡粒子を製造するに当たり、オレフィン系樹脂を含む発泡層のみからなる粒子本体を作製しようとする場合には、単一のオレフィン系樹脂からなる樹脂粒子を作製すればよい。発泡層と被覆層とを備えた鞘芯型の多層構造を有する粒子本体を作製しようとする場合には、押出成形において、発泡層となるオレフィン系樹脂の周囲が被覆層となるオレフィン系樹脂によって覆われた2層構造のストランドを作製した後、このストランドから樹脂粒子を作製すればよい。
【0054】
次に、得られた樹脂粒子を水などの水性の分散媒中に分散させた後、分散媒ごとオートクレーブ等の加圧容器に封入する。この加圧容器内に発泡剤を加え、攪拌しながら加圧と加温とを行うことにより、発泡剤を樹脂粒子に含浸させる。発泡剤が十分に樹脂粒子に含浸された後に加圧容器を開放することにより、発泡剤の膨張によって樹脂粒子内に気泡が形成される。以上の結果、粒子本体を得ることができる。
【0055】
なお、分散媒中には、必要に応じて、樹脂粒子が分散媒中に均一に分散するように、分散剤及び/または分散助剤が添加されていてもよい。分散剤としては、例えば、酸化アルミニウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、マイカ、タルク等の難水溶性無機物質等を使用することができる。これらの分散剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。分散剤に対する樹脂粒子の質量比(樹脂粒子/分散剤)は、20~2000であることが好ましく、30~1000であることがより好ましい。発泡後の粒子本体の表面には、前記分散剤が残存している。このような粒子本体の表面にSWCNTを塗布することにより、発泡粒子の表面におけるSWCNTは、粒子本体の表面に存在する前記分散剤を含めた状態で粒子本体の表面に絡み合い、粒子本体の表面に付着していると考えられる。
【0056】
分散助剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤等を使用することができる。これらの分散助剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。分散助剤に対する分散剤の質量比(分散剤/分散助剤)は、1~500であることが好ましく、1~100であることがより好ましい。
【0057】
発泡剤としては、例えば、ブタン、ペンタン及びヘキサン等の炭化水素、トリクロロフルオロメタン、ジクロロフルオロメタン及びテトラクロロジフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素、二酸化炭素、窒素、空気等の無機ガス、水などを使用することができる。発泡剤としては、これらの物質を単独で使用してもよいし、2種以上の物質を併用してもよい。
【0058】
以上のようにして発泡層を有する粒子本体を得た後、粒子本体の表面に、SWCNTが分散された分散液を塗布する。この際、分散液の体積が粒子本体の体積よりも十分に少ない状態で分散液と粒子本体とをせん断力を掛けながら攪拌することが好ましい。より具体的には、SWCNTの量が前記粒子本体の表面1m2あたり0.1mg以上10.0mg以下となるようにして攪拌することが好ましい。
【0059】
この場合には、粒子本体とSWCNTとが接触した際に大きな荷重が加わるため、粒子本体からのSWCNTの脱落をより効果的に抑制することができる。更に、この場合には、粒子本体に付着するSWCNTの付着量の偏りをより低減することもできる。また、前述したように見掛け密度が特定の範囲となるように発泡され、特定の表面形状を備えた粒子本体に対してせん断力を掛けながら攪拌を行うことにより、粒子本体に付着するSWCNTの付着量の偏りをより低減することができる。その結果、粒子本体の表面に、より強固にSWCNTを保持することができる。
【0060】
その後、分散液を乾燥させて分散媒を除去することにより、発泡粒子を得ることができる。
【0061】
前記発泡粒子から発泡粒子成形体を作製するに当たっては、例えば、金型のキャビティ内に発泡粒子を充填した後、キャビティ内に水蒸気などの高温ガスを導入する方法を採用することができる。キャビティ内の発泡粒子は、高温ガスによって加圧されるとともに加温される。これにより、発泡粒子同士を融着させつつキャビティの形状に対応した発泡粒子成形体を得ることができる。
【0062】
このようにして得られた発泡粒子成形体は、1×10Ω以上1×1010Ω以下の平均表面抵抗率を有している。発泡粒子成形体の平均表面抵抗率が1×104Ω未満の場合には、発泡粒子成形体が電気伝導性を呈するため、例えば包装容器として使用する際に、被包装物の帯電を抑制することができる。また、発泡粒子成形体の平均表面抵抗率が1×104Ω以上1×1010Ω以下の場合には、発泡粒子成形体が静電気拡散性を呈するため、帯電した被包装物と接触した際に静電気を緩やかに放電することができ、有機EL素子や高密度集積回路等の比較的耐電圧の低い被包装物の保護に有用である。
【0063】
一方、発泡粒子成形体の平均表面抵抗率が1×1010Ωを超える場合には、発泡粒子成形体自体が帯電しやすくなるおそれがある。そのため、帯電した発泡粒子成形体が物体と接触した際に、発泡粒子成形体から物体に静電気が放電されやすくなる。このような静電気によるトラブルをより容易に回避する観点から、発泡粒子成形体の平均表面抵抗率は、1×105Ω~1×109Ωであることが好ましく、1×105Ω~1×108Ωであることがさらに好ましい。
【0064】
前記発泡粒子を型内成形して得られる発泡粒子成形体は、発泡粒子成形体を構成する個々の発泡粒子に均一にSWCNTが付着しているため、成形体に直接SWCNTなどの分散液を塗布した場合に比べて、複雑な形状の成形体であっても均一な電気伝導性または静電気拡散性を発揮することが可能となる。したがって、複雑な形状の成形体であっても塗布ムラなどが生じ難く、成形体の表面における種々の位置で表面抵抗率を測定した際に、成形体の表面抵抗率のバラつきを低減させることができる。具体的には、発泡粒子成形体の表面抵抗率の最小値(C)に対する表面抵抗率の最大値(D)の比(D)/(C)の値が2.9以下である。同様の観点から、発泡粒子成形体の表面抵抗率の最小値(C)に対する表面抵抗率の最大値(D)の比(D)/(C)の値は2.8以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましく、2.0以下であることが特に好ましい。
【0065】
また、前記発泡粒子を型内成形して得られる発泡粒子成形体は、個々の発泡粒子に均一にSWCNTが付着している。そのため、成形体表面にSWCNTなどの導電性物質が直接塗布される場合とは異なり、発泡粒子成形体を切削加工した場合においても、その切断面において電気伝導性または静電気拡散性を発揮することができる。前記発泡粒子成形体の内部(つまり、切断面)における表面抵抗率は、1×105~1×1014Ωであることが好ましく、1×107~1×1010Ωであることがより好ましい。
【実施例
【0066】
前記発泡粒子及び発泡粒子成形体に係る実施例を説明する。本例においては、以下の材料を使用し、粒子本体の表面にSWCNTが付着した発泡粒子(表1、実施例1~4、ただし、本明細書において、実施例3は参考例とする)を作製した。また、これらの実施例との比較のため、粒子本体の表面に導電性物質としての多層カーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」という。)が付着した発泡粒子(表1、比較例1~2)を作製した。
【0067】
本例において使用した材料は、具体的には以下の通りである。
【0068】
・粒子本体(無彩色):エチレン-プロピレンランダム共重合体を含む発泡層と、エチレン-ブテン-プロピレンランダム共重合体を含み発泡層の表面を覆う、非発泡状態の被覆層とからなる粒子
・粒子本体(有彩色):エチレン-プロピレンランダム共重合体を含む発泡層からなる粒子
【0069】
・分散液の種類
TB002L:SWCNT分散液(KJ特殊紙株式会社製、SWCNTの平均直径1.6nm、平均長さ5μm以上、比表面積500m2/g)
K1004M:MWCNT分散液(KJ特殊紙株式会社製、MWCNTの平均直径8~15nm、平均長さ26μm、比表面積260m2/g)
N7006L:MWCNT分散液(KJ特殊紙株式会社製、MWCNTの平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、比表面積250~300m2/g)
【0070】
・着色剤
着色剤としては、キナクリドン系赤色顔料を含むマスターバッチを用いた。
【0071】
粒子本体の作製方法は、具体的には以下の通りである。
【0072】
・無彩色の粒子本体
粒子本体の作製には、内径65mmの発泡層形成用押出機および内径30mmの被覆層形成用押出機が併設され、多数本の複層ストランド状の共押出が可能なダイが出口側に付設された共押出機を使用した。発泡層形成用押出機にはポリプロピレン系樹脂としてのエチレン-プロピレンランダム共重合体(MFR:7g/10分、融点142℃)と、気泡調整剤としてのホウ酸亜鉛のマスターバッチとを供給し、押出機内で200~230℃にて溶融混練した。被覆層形成用押出機にはエチレン-ブテン-プロピレンランダム共重合体(MFR:6g/10分、融点131℃)を供給し、押出機内で200~230℃にて溶融混練した。
【0073】
その後、共押出機から発泡層と被覆層との質量比が発泡層:被覆層=97:3となるように溶融混練物をストランド状に共押出して水冷し、複層のストランドを得た。得られたストランドをペレタイザーにより質量が平均1.3mgとなるように切断して複層の未発泡状態の樹脂粒子を得た。なお、樹脂粒子のL/D比、つまり、直径に対する長さの比は2.5とし、発泡層中に含まれるホウ酸亜鉛の含有量は1000質量ppmとした。
【0074】
上記樹脂粒子1kgと、樹脂粒子100質量部に対して0.3質量部の分散剤と、0.01質量部の分散助剤と、0.004質量部の界面活性剤とを、分散媒としての水3Lとともに密閉容器内に封入した。なお、本例においては、分散剤としてはカオリン、界面活性剤としてはアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、分散助剤としては硫酸アルミニウムを使用した。
【0075】
次いで、密閉容器内に、容器内の圧力が3.1MPaとなるまで発泡剤としての二酸化炭素を供給した。その後、容器内を攪拌しながら加熱し、容器内の温度を145℃とした。容器内の温度が145℃に到達した後、この温度を15分保持した。その後、密閉容器を開放し、内容物を大気圧下に放出することにより樹脂粒子を発泡させた。以上により、複層の粒子本体を得た。
【0076】
・有彩色の粒子本体
有彩色を呈する粒子本体の作製に当たっては、まず、以下の方法により着色剤のマスターバッチを作製した。着色剤とエチレン-プロピレンランダム共重合体とを160℃に加熱溶融して混練した後、シート状に成形した。得られたシートをペレタイザーにより切断し、20質量%の着色剤がエチレン-プロピレンランダム共重合体中に分散されたマスターバッチを得た。
【0077】
この着色剤のマスターバッチとともに、ポリプロピレン系樹脂としてのエチレン-プロピレンランダム共重合体(MFR:7g/10分、融点142℃、エチレン比率3.1%)と、気泡調整剤としてのホウ酸亜鉛のマスターバッチとを押出機に供給し、単層押出機内で200~230℃にて溶融混練した。次いで、溶融状態のエチレン-プロピレンランダム共重合体をストランド状に押出して水冷し、ストランドを得た。得られたストランドを無彩色を呈する粒子本体と同様の方法により切断して未発泡状態の樹脂粒子を得た。なお、樹脂粒子中のホウ酸亜鉛の含有量は500質量ppmとし、着色剤の含有量は10000質量ppmとした。
【0078】
以上により得られた樹脂粒子を無彩色を呈する粒子本体と同様の方法で発泡させることにより、有彩色を呈する単層の粒子本体を得た。
【0079】
表1に記載したように、実施例1~3及び比較例1~2に用いた粒子本体の色調は無彩色であり、実施例4に用いた粒子本体の色調は、同表に記載した有彩色である。
【0080】
・カーボンナノチューブ(CNT)の固定
100gの粒子本体に対して表1に示す量の分散液を添加した後、これらの表に示す条件で、パドルミキサーを用いて粒子本体と分散液とを攪拌した。攪拌を行っている間、分散液中のCNTが粒子本体と繰り返し接触することにより、分散液中のCNTが粒子本体の表面に固定される。これにより、粒子本体の表面にSWCNTまたはMWCNTを付着させることができる。
【0081】
以上により得られた発泡粒子(表1、実施例1~4及び比較例1~2)について、見掛け密度及び色調の測定を行った。また、これらの発泡粒子を用いて発泡粒子成形体を作製し、融着率の評価、成形体密度の測定、表面抵抗率の測定及び色調の測定を行った。なお表1に示したCNTの塗布量は、分散液のCNT濃度、粒子本体に対する分散液の添加量及び粒子本体の表面積に基づいて算出した。
【0082】
・発泡粒子の見掛け密度
多数の発泡粒子からなる発泡粒子群の質量を精秤した後、水の入ったメスシリンダーを用意し、金網などを使用して発泡粒子群を水中に完全に沈めた。このときの液面の上昇量を発泡粒子群の体積とした。このようにして得られた発泡粒子の質量を体積で除することにより、発泡粒子の見掛け密度を算出した。発泡粒子の見掛け密度は、表1の「見掛け密度」欄に示す通りであった。
【0083】
・粒子本体の断面の色調
発泡粒子を概ね2等分となるように切断し、粒子本体の断面を露出させた。微小面分光色差計(日本電色工業株式会社製「VSS 7700」)を用いて粒子本体の断面を測定し、CIE 1976 L*a*b*色空間における色座標を取得した。色座標の取得には50個の発泡粒子を用い、1個の粒子本体の断面について、無作為に選択した5か所を測定した。
【0084】
より具体的には、光源としてJIS Z8720:2012に規定されたイルミナントCを放射する標準光源を使用し、JIS Z8722:2009:に記載された反射物体の測定方法に従って測定を行った。0.5mmφの測定領域に測定光を照射し、2度視野に基づく三刺激値の値を得た。この値をL*a*b*色空間における色座標に変換した。表1の「粒子本体のL*値(A)」欄に、粒子本体の断面のL*値(A)の算術平均を示す。なお、表1には示さないが、有彩色を呈する実施例4の粒子本体のa*値(F)は46.9であり、b*値(G)は-5.9であった。
【0085】
・発泡粒子の色調
測定位置を粒子本体の断面から発泡粒子の表面に変更した以外は粒子本体の色調の測定方法と同様の方法により、発泡粒子の表面の色調を測定し、CIE 1976 L*a*b*色空間における色座標を取得した。表1の「発泡粒子のL*値(B)」欄及び「L*値(B)の変動係数」欄に、それぞれ、L*値(B)の平均値Lav及びL*値の変動係数Lcvを示す。なお、表1には示さないが、有彩色を呈する実施例4の発泡粒子のa*値(H)は44.9であり、b*値(I)は-5.7であった。
【0086】
・発泡粒子成形体の作製、最低成形圧の評価及び融着率の評価
縦250mm、横200mm、厚み50mmの平板形状のキャビティを有する金型を準備し、発泡粒子をキャビティ内に充填した。次いで、キャビティ内にゲージ圧で0.3MPa(G)のスチームを供給することにより、発泡粒子を加熱して相互に融着させつつ、キャビティに対応した形状に成形した。以上により発泡粒子成形体を得た。本例では、金型から取り出した発泡粒子成形体を60℃に調整されたオーブン内に12時間静置し、発泡粒子成形体の乾燥及び養生を行った。
【0087】
また、表1の「融着率」欄には、発泡粒子成形体の融着率を記載した。融着率の値は、具体的には、以下の方法により測定された値である。まず、発泡粒子成形体を長手方向に略等分となるように折り曲げて破断させた。これにより露出した破断面を目視観察し、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数とを数えた。そして、破断面に露出している発泡粒子の総数、つまり、発泡粒子同士の界面が剥離している発泡粒子の数と、内部で破断した発泡粒子の数との合計に対する発泡粒子の内部で破断した発泡粒子の数の割合を算出した。この割合を百分率(%)で表した値を融着率とした。なお、前記発泡粒子成形体の融着率は、60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0088】
・発泡粒子成形体の成形体密度の測定
発泡粒子成形体の成形体密度は、発泡粒子成形体の質量を、発泡粒子成形体の体積で除することにより求めた。なお、発泡粒子成形体の見掛けの体積は、水中に発泡粒子成形体を水没させ、その水位上昇から求めた。発泡粒子成形体の成形体密度は、表1「成形体密度」欄に示す通りであった。
【0089】
・表面抵抗率
JIS C 2170:2004に準拠した方法により、発泡粒子成形体の表面抵抗率の測定を行った。具体的には、まず、発泡粒子成形体を温度23℃、50%RHの環境下に1日静置して養生した。次いで、発泡粒子成形体中央部のスキン面のうち、平坦部分から無作為に10か所の測定位置を設定した。これら10か所の測定位置において、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック株式会社製「ハイレスタMCP-HT450」)を用いて表面抵抗率を測定した。プローブとしては、三菱ケミカルアナリテック株式会社製「URS」を使用した。
【0090】
なお、表面抵抗率が1×104Ω未満の場合には、測定装置として三菱ケミカルアナリテック株式会社製「ロレスタMCP-T610」、プローブとして三菱ケミカルアナリテック株式会社製「ESP」を使用し、測定時の印加電圧を10V、印加時間を30秒とした以外は、上記の方法と同様にして表面抵抗率を測定した。
【0091】
表1の「平均表面抵抗率」欄には、上記の測定により得られた表面抵抗率の10点の測定値のうち、上位の2点及び下位の2点を除外した6点の表面抵抗率の算術平均値を記載した。「表面抵抗率の最大値(D)」欄には、上記の測定により得られた表面抵抗率の10点の測定値のうち、上位から3番目の測定値を記載した。「表面抵抗率の最小値(C)」欄には、上記の測定により得られた表面抵抗率の10点の測定値のうち、下位から3番目の測定値を記載した。また、同表の「(D)/(C)」欄には、最大値(D)を最小値(C)で除した値を記載した。
【0092】
・発泡粒子成形体のL*値
分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製「CM-5」)を用いて発泡粒子成形体のスキン面の色調を測定し、CIE 1976 L*a*b*色空間における色座標を取得した。色座標の取得は、互いに異なる測定対象を用いて複数回行った。表1の「L*値(E)」欄に、複数回の測定によって得られた発泡粒子成形体のL*値の平均値を示す。また、同表の「(B)/(E)」欄には、発泡粒子の表面のL*値(B)を発泡粒子成形体のL*値(E)で除した比率を記載した。なお、表1には示さないが、有彩色を呈する実施例4の発泡粒子成形体のa*値は45.4であり、b*値は-3.1であった。
【0093】
(発泡粒子の電子顕微鏡写真)
実施例1及び比較例2の発泡粒子の表面を走査型電子顕微鏡にて観察し、倍率30000倍の電子顕微鏡写真を撮影した。図1に実施例1の発泡粒子、図2に比較例2の発泡粒子から得られた電子顕微鏡写真を示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示したように、実施例1~4における粒子本体の表面には、導電性物質としてのSWCNTが付着している。図1に示す電子顕微鏡写真のように、SWCNTは、粒子本体2の表面や、粒子本体2の表面に残存するカオリン、他のSWCNTとも絡まりあうようにして発泡粒子1の表面に付着している。そのため、実施例1~4の発泡粒子を型内成形することにより、型内成形時の発泡粒子からのSWCNTの脱落を抑制することができる。その結果、前記発泡粒子の型内成形体は、所望の表面抵抗率を有し、表面抵抗値のバラつきが小さい発泡粒子成形体となる。更に、導電性物質としてSWCNTを用いることにより、発泡粒子成形体に所望の電気伝導性または静電気拡散性を付与しつつ、発泡粒子成形体の色調を明るくすることができる。
【0096】
比較例1~2は、導電性物質としてMWCNTを使用したため、発泡粒子成形体の電気伝導性または静電気拡散性を確保するために必要なMWCNTの塗布量が実施例1~4に比べて多くなった。そのため、比較例1~2の発泡粒子及びこれらの発泡粒子を用いて作製された発泡粒子成形体の色調は、実施例1~4に比べて暗くなった。
【0097】
また、図2に示す電子顕微鏡写真のように、発泡粒子4の表面にはMWCNTが互いに重なるようにして付着している。このような付着状態においては、最表面に露出したMWCNTの一部は、粒子本体と直接接触しておらず、他のMWCNTを介して間接的に粒子本体に保持されていると推測される。そして、このようなMWCNTは、粒子本体に直接接触しているMWCNTに比べて発泡粒子から脱落しやすいと考えられる。
【0098】
また、比較例1~2の発泡粒子成形体は、実施例1~4の発泡粒子成形体に比べて表面抵抗率の最大値(D)と最小値(C)との比(D)/(C)の値が大きくなった。
これは、MWCNTの塗布量が多くなったことに加え、MWCNTがSWCNTに比べて粒子本体から脱落しやすいため、型内成形時に発泡粒子から脱落したMWCNTの量が多くなり、発泡粒子成形体の表面に存在するMWCNTの量の偏りが大きくなったことが原因と考えられる。
【0099】
本発明に係る発泡粒子及び発泡粒子成形体の態様は、前述した実施例の態様に限定されるものではなく、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 発泡粒子
2 粒子本体
3 単層カーボンナノチューブ
図1
図2