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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】トリメチルアミンの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/84 20060101AFI20240117BHJP
   C07C 209/86 20060101ALI20240117BHJP
   C07C 211/04 20060101ALI20240117BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C07C209/84
C07C209/86
C07C211/04
B01D53/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020068456
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021165239
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】玉井 直史
(72)【発明者】
【氏名】谷口 敬寿
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓之
(72)【発明者】
【氏名】八尾 章史
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-22681(JP,A)
【文献】米国特許第8664446(US,B1)
【文献】特開平10-139737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01D 53/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともジメチルアミンを含む粗トリメチルアミンを直径0.2~0.6nmの細孔を有するゼオライトに接触させ、前記粗トリメチルアミン中のジメチルアミン濃度を前記ゼオライト接触前よりも低減させることを特徴とするトリメチルアミンの精製方法。
【請求項2】
前記粗トリメチルアミン中のジメチルアミン濃度を400体積ppm以下に低減させることを特徴とする請求項1記載のトリメチルアミンの精製方法。
【請求項3】
前記粗トリメチルアミンを接触させる前に、前記ゼオライトを1kPa以下、150℃以上の条件で30分以上乾燥させることを特徴とする請求項1又は2記載のトリメチルアミンの精製方法。
【請求項4】
気体状態の前記粗トリメチルアミンを、20~30℃、大気圧以上の条件下で、前記ゼオライトに100秒以上流通接触させることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のトリメチルアミンの精製方法。
【請求項5】
ゼオライト接触前の粗トリメチルアミン中のジメチルアミン濃度が500~1500体積ppmであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のトリメチルアミンの精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゼオライトを用いてジメチルアミンを除去するトリメチルアミンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機アミンの1つであるトリメチルアミンの粗体中には、不純物として1000体積ppm程度のジメチルアミンが含まれていることがある。トリメチルアミンとジメチルアミンは蒸気圧が近く、共沸となるため、蒸留ではジメチルアミンの濃度を400~500体積ppm程度までしか低減することができない。
【0003】
近年、有機アミンの粗体中に含まれる不純物を除去する方法として、合成ゼオライトを用いる方法が提案されている。
特許文献1では、平均直径が0.3nm又は0.4nmの細孔を有する合成ゼオライトを用いて、モノメチルアミンに含まれる低沸点不純物を除去する精製装置が開示されている。除去する低沸点不純物としては、水素、酸素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素及びメタンが挙げられている。更に特許文献1では、平均直径が0.5nmの細孔を有する合成ゼオライトを用いて、水分及び炭化水素を吸着することが開示されている。
【0004】
特許文献2では、3A又は4Aのゼオライトを用いてトリメチルアミン含有ガス中の水及びアンモニアを除去し、5Aのゼオライトを用いてモノメチルアミン及び窒素を除去する、トリメチルアミンの精製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-150926号公報(特許第6441116号公報)
【文献】米国特許第8,664,446号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでは、不純物としてジメチルアミンを含むトリメチルアミン中のジメチルアミンを400体積ppm以下に低減する方法はなかった。なお特許文献2では、合成ゼオライトを用いてモノメチルアミンを除去する方法が開示されているが、合成ゼオライトを用いてジメチルアミンが除去されることは記載されておらず、従って、ジメチルアミンが除去されることはこれまで知られていない。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑み、粗トリメチルアミン中のジメチルアミン濃度を低減させる新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ジメチルアミンを含む粗トリメチルアミンを直径0.2~0.6nmの細孔を有するゼオライトに接触させることにより、ジメチルアミン濃度を低減させることができることを見出し、本開示を完成させるに至った。
【0009】
具体的には、本開示のトリメチルアミンの精製方法は、少なくともジメチルアミンを含む粗トリメチルアミンを直径0.2~0.6nmの細孔を有するゼオライトに接触させ、上記粗トリメチルアミン中のジメチルアミン濃度を上記ゼオライト接触前よりも低減させることを特徴とする。
本開示のトリメチルアミンの精製方法によれば、蒸留のようにエネルギーを消費する必要がなく、粗トリメチルアミン中のジメチルアミンを除去することができる。
【発明の効果】
【0010】
本開示のトリメチルアミンの精製方法により、蒸留のようにエネルギーを消費することなく粗トリメチルアミン中のジメチルアミンを除去することができ、半導体製造工程においても使用することが可能な、極めて純度が高いトリメチルアミンを供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本開示のトリメチルアミンの精製方法は、少なくともジメチルアミンを含む粗トリメチルアミンを直径0.2~0.6nmの細孔を有するゼオライトに接触させ、上記粗トリメチルアミン中のジメチルアミン濃度を上記ゼオライト接触前よりも低減させることを特徴とする。
【0013】
本開示の精製方法で用いるゼオライトは、モレキュラーシーブ(分子篩)とも呼ばれる結晶性アルミノケイ酸塩であり、合成ゼオライト、人工ゼオライト、天然ゼオライトに分類される。本開示の精製方法においては、直径0.2~0.6nm、又は、直径3~5Åの細孔を有するゼオライトであれば、合成ゼオライト、人工ゼオライト、天然ゼオライトのいずれも用い得るが、純度が高い合成ゼオライトを用いることが好ましい。ゼオライトの細孔の直径が0.2nm未満であるか、0.6nmを超えると、粗トリメチルアミン中のジメチルアミン濃度の低減効果が小さくなる。
【0014】
直径0.2~0.6nmの細孔を有する合成ゼオライトとしては、3A型、4A型又は5A型の合成ゼオライトが好適である。なお、3A型、4A型又は5A型の合成ゼオライトにおける「A」とは、Å(オングストローム)のことを表す。
3A型の合成ゼオライトは、細孔径が0.3nmであり、直径が0.3nmまでの分子を通過させることができる。4A型の合成ゼオライトの細孔径は0.35nmであるが、通常の操作温度において、空洞内に入ってくる分子の伸縮と運動エネルギーのため、直径0.4nmまでの分子を通過させることができる。また、5A型の合成ゼオライトについても、それの細孔径は0.42nmであるが、同様の理由により、直径が0.5nmまでの分子を通過させることができる。
ここで、3A型、4A型又は5A型の合成ゼオライトの、通過できる分子の直径(吸着口径)の範囲を以下、明記する。
3A型 0.3nm以下
4A型 0.3nmを超えて、0.4nm以下
5A型 0.4nmを超えて、0.5nm以下
【0015】
3A型、4A型、5A型の合成ゼオライトとしては、具体的には、ユニオン昭和社製のモレキュラーシーブ3A、モレキュラーシーブ4A、モレキュラーシーブ5A;富士フイルム和光純薬社製のモレキュラーシーブス3A、モレキュラーシーブス4A、モレキュラーシーブス5A等を用い得る。
本開示の精製方法で用いるゼオライトの形状は特に限定されず、ビーズ状、ペレット状、パウダー状等のいずれでもよいが、ビーズ状、ペレット状のものが化学工業プラントで用い易く好ましい。
【0016】
本開示の精製方法で用いるゼオライトは、購入したものをそのまま用いることもできるが、使用する前に乾燥させることが好ましい。乾燥条件としては、1kPa以下、150℃以上で30分以上が好ましく、1kPa以下、150~200℃、30~60分がより好ましい。
【0017】
粗トリメチルアミンをゼオライトに接触させる方法は特に限定されず、粗トリメチルアミンを貯留する容器等にゼオライトを添加して放置する方法(静置法)、ゼオライトをカラムや充填塔等に充填し、粗トリメチルアミンをカラムや充填塔に流通させてゼオライトに流通接触させる方法(カラム法)等が挙げられる。ジメチルアミンを除去する効果が高いこと、短時間で精製が行える点でカラム法が好ましい。しかしながら、粗トリメチルアミン中のジメチルアミンの濃度が高い場合は、カラム法を行う前に静置法を行い、ジメチルアミンの濃度を一定まで低減してからカラム法を行う等、静置法とカラム法とを組み合わせて行うこともできる。
【0018】
粗トリメチルアミンをゼオライトに流通接触させる温度及び圧力条件は、20~30℃、大気圧以上が好ましい。圧力条件は、150~200kPaがより好ましい。
粗トリメチルアミンをゼオライトに流通接触させる時間は、50~200秒が好ましい。50秒未満であると、ジメチルアミンが十分除去されない場合がある。一方、200秒を超えて流通接触させても、ジメチルアミンを除去する効果が上がらない場合がある。粗トリメチルアミンをゼオライトに流通接触させる時間は、100~150秒がより好ましい。
【0019】
本開示の精製方法において、好ましい態様は、気体状態の粗トリメチルアミンを、20~30℃、大気圧以上の条件下で、ゼオライトに100秒以上流通接触させることである。
【0020】
粗トリメチルアミンをゼオライトに流通接触させる場合、粗トリメチルアミンの線速度は、0.001~0.1m/secが好ましい。より好ましくは0.01~0.1m/secである。
【0021】
本開示の精製方法で精製する対象となる粗トリメチルアミンは、少なくともジメチルアミンを不純物として含むトリメチルアミンである。粗トリメチルアミンは、トリメチルアミンを従来公知の方法(例えば、特開昭58-049340号公報に記載の方法等)で合成して得られたものであってもよいし、購入したものであってもよく、入手方法は特に限定されない。粗トリメチルアミンは、ジメチルアミン以外の他の不純物を含んでいてもよく、他の不純物としては、モノメチルアミン、水素、酸素、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、アンモニア、水等が挙げられる。
【0022】
粗トリメチルアミンは、トリメチルアミンを98重量%含むことが好ましく、99重量%以上含むことがより好ましく、99.9重量%以上含むことが更に好ましい。
粗トリメチルアミン中のジメチルアミンの濃度は、500~1500体積ppmが好ましい。粗トリメチルアミン中のジメチルアミンの濃度が上記の値より大きい場合、本開示の精製方法で処理する前に蒸留等の方法を用いてジメチルアミンを除去しておくか、又は、上記の静置法とカラム法とを組み合わせて行うことが考えられる。
【0023】
粗トリメチルアミン中のジメチルアミンは不安定で、気相中の濃度は安定しない。
好ましい態様において、本開示の精製方法で精製する粗トリメチルアミンは液体でも気体でもよいが、常温常圧で精製が行えることから気体が好ましい。
【0024】
本開示の精製方法では、粗トリメチルアミン中のジメチルアミン濃度を400体積ppm以下に低減することが好ましい。より好ましくは300体積ppm以下である。本開示の精製方法を用いれば、上述のような純度が高いトリメチルアミンを得ることができる。このような純度が高いトリメチルアミンは、シリコン酸化物のドライエッチング等の用途に好適に用いられる。
【実施例
【0025】
以下、本開示の実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例で用いたモレキュラーシーブ3A、4A及び5Aは、それぞれ3A型、4A型又は5A型の合成ゼオライトに対応する。
【0026】
(粗トリメチルアミン)
本実施例で用いる粗トリメチルアミンは、従来の製造方法を参考に合成した。当該トリメチルアミンには、不純物として、気相にジメチルアミン500~2000体積ppm、水分100~1000体積ppmを含んでいた。不純物濃度は、ガスクロマトグラフ分析装置(GC-2014、株式会社島津製作所製、検出器:FID)で分析した。
【0027】
[実施例1]
直径10.6mm、長さ0.1mの充填塔1本に、ゼオライトとしてモレキュラーシーブ3A(細孔径0.3nm、ユニオン昭和社製)を充填し、減圧条件、150℃で30分間乾燥させたのち、粗トリメチルアミンを線速度0.02m/secで流通させ(ゼオライトへの接触時間5秒)、充填塔出口からトリメチルアミンを捕集してジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0028】
[実施例2]
充填塔の長さを1mに変更した以外は、実施例1と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間50秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0029】
[実施例3]
充填塔の本数を2本に変更した以外は、実施例2と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間100秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0030】
[実施例4]
充填塔の本数を3本に変更した以外は、実施例2と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間150秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0031】
[実施例5]
ゼオライトをモレキュラーシーブ4A(細孔径0.35nm、ユニオン昭和社製)に変更した以外は、実施例1と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間5秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0032】
[実施例6]
充填塔の長さを1mに変更した以外は、実施例5と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間50秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0033】
[実施例7]
充填塔の本数を2本に変更した以外は、実施例6と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間100秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0034】
[実施例8]
充填塔の本数を3本に変更した以外は、実施例6と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間150秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0035】
[実施例9]
ゼオライトをモレキュラーシーブ5A(細孔径0.42nm、ユニオン昭和社製)に変更した以外は、実施例1と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間5秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0036】
[実施例10]
充填塔の長さを1mに変更した以外は、実施例9と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間50秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0037】
[実施例11]
充填塔の本数を2本に変更した以外は、実施例10と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間100秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0038】
[実施例12]
充填塔の本数を3本に変更した以外は、実施例10と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間150秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例1]
充填塔にゼオライトを充填しなかった以外は、実施例1と同様に粗トリメチルアミンを流通させ、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例2]
ゼオライトをモレキュラーシーブ13X(細孔径1.0nm、ユニオン昭和社製)に変更した以外は、実施例1と同様に粗トリメチルアミンを流通させ(ゼオライトへの接触時間5秒)、ジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0041】
[比較例3]
粗トリメチルアミンを、理論段数20段で全還流を72時間行った後、還流比200で塔頂部より仕込み量の30重量%のトリメチルアミンをパージし、液相のトリメチルアミン中のジメチルアミン濃度を分析した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表1の結果から明らかなように、実施例1~12では、充填剤を使用しなかった比較例1と比べて、精製後のジメチルアミンの濃度が著しく低くなった。ゼオライトとの接触時間が50秒以上の実施例2~4、6~8、10~12では、蒸留を行った比較例3よりもジメチルアミン濃度が低くなった。なお、ゼオライトとの接触時間が100秒以上の実施例3~4、7~8、11~12では、比較例3と比べてジメチルアミン濃度が半分以下となった。ゼオライトとしてモレキュラーシーブ13Xを用いた比較例2では、充填剤を使用しなかった比較例1と比べてジメチルアミンの濃度がほとんど変わらなかった。