(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】チェーンガイド
(51)【国際特許分類】
F16H 7/18 20060101AFI20240117BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
F16H7/18 B
F02B67/06 C
(21)【出願番号】P 2020070943
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】村椿 研次
(72)【発明者】
【氏名】浪江 勤
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-184828(JP,A)
【文献】特開平10-288249(JP,A)
【文献】米国特許第05000724(US,A)
【文献】中国特許出願公開第107289080(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 7/18
F02B 67/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行するチェーンを摺動案内する案内面と、少なくとも1つの取付部を備えたチェーンガイドであって、
前記案内面が、長手方向に伸びる第1案内面と、前記第1案内面と並行に突出して設けられた第2案内面とを有し、
前記第2案内面が前記第1案内面から突出する高さが、長手方向で異なる部分を有
し、
前記第1案内面と前記第2案内面の長手方向の軌跡が、それぞれ異なる中心を持つ弧状に形成されていることを特徴とするチェーンガイド。
【請求項2】
前記第1案内面が、前記第2案内面の幅方向の両側に形成されていることを特徴とする
請求項1に記載のチェーンガイド。
【請求項3】
前記案内面の、幅方向の両側にガイドリップを有し、
前記ガイドリップの前記案内面と隣接する部分が、前記第2案内面の突出高さよりも高く形成されていることを特徴とする
請求項2に記載のチェーンガイド。
【請求項4】
前記案内面の長手方向の少なくとも一方の端部には、前記第1案内面及び前記第2案内面の少なくとも一方と円滑に連続する傾斜面が形成されていることを特徴とする
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のチェーンガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行するチェーンを摺動案内する案内面と、少なくとも1つの取付部を備えたチェーンガイドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スプロケット間を走行するチェーンを安定させ張力を適正に保持するために、走行するチェーンを摺動案内する案内面と、案内面をチェーン走行方向に沿って支持する本体部を備えたチェーンガイドを用いることは慣用されている。
例えば、
図8に示すように、エンジンルームE内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケットS1、S2間に無端懸回したローラチェーン、ブシュチェーン、サイレントチェーン等の伝動チェーンCHを走行させるエンジンのタイミングシステムであって、タイミングチェーンCHがエンジンルームE内のクランク軸に取り付けた駆動スプロケットS1とカム軸に取り付けた一対の従動スプロケットS2との間に無端懸回されており、このタイミングチェーンCHが揺動するチェーンガイド(揺動ガイド)500とチェーンガイド(固定ガイド)600とによってガイドされるタイミングシステムが公知である。
【0003】
チェーンガイド(固定ガイド)600は、2つの取付部623を用いて、2つの取付軸QによってエンジンルームE内に固定される。
チェーンガイド(揺動ガイド)500は、取付部523が揺動軸Pを中心にタイミングチェーンCHの懸回平面内で揺動可能にエンジンルームE内に取り付けられる。
チェーンテンショナTは、チェーンガイド(揺動ガイド)500の押圧部524を押圧することでタイミングチェーンCHの張力を適正に保持するとともに振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような公知のチェーンガイドにおいては、
図8の例のようエンジンルームE内に取り付ける場合、エンジンの仕様、チェーンレイアウト、使用するチェーンの規格等によって最適な性能となるようにチェーンガイドとチェーンとが接触する位置、軌跡、長さ等が決定され、個別に専用のものが使用される。
そのため、エンジンの仕様、チェーンレイアウト等が異なる場合には、チェーンガイドもそれぞれ異なる仕様のものを設計製造する必要があった。
エンジンの取付部の相違に対しては、例えば特許文献1等で公知のように、複数の取付部をあらかじめ設けておくことで、共通のチェーンガイドを使用することが可能である。
しかしながら、チェーンレイアウトが異なる場合は、最適な性能を得ることは困難である。
また、使用するチェーンの規格が異なる場合には、チェーンレイアウトが同一で、チェーンガイドの取付部が同一であっても、最適な性能とするためのチェーンガイドとチェーンとが接触する位置、軌跡、長さ等が異なり、異なるチェーンガイドを設計製造する必要があった。
【0006】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、使用するチェーンが異なる場合でも、同一のもので、最適な性能とするためのチェーンガイドとチェーンとが接触する位置、軌跡、長さを提供できるチェーンガイドを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、走行するチェーンを摺動案内する案内面と、少なくとも1つの取付部を備えたチェーンガイドであって、前記案内面が、長手方向に伸びる第1案内面と、前記第1案内面と並行に突出して設けられた第2案内面とを有し、前記第2案内面が前記第1案内面から突出する高さが、長手方向で異なる部分を有することにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本請求項1に係るチェーンガイドによれば、案内面が、長手方向に伸びる第1案内面と、前記第1案内面と並行に突出して設けられた第2案内面とを有し、前記第2案内面が前記第1案内面から突出する高さが、長手方向で異なる部分を有することにより、第1案内面で摺動案内されるチェーンと、第2案内面で摺動案内されるチェーンとで、接触する位置、軌跡、長さを異なるものとすることができ、同一のもので、最適な性能とするためのチェーンガイドとチェーンとが接触する位置、軌跡、長さを提供できる。
【0009】
また、第1案内面と第2案内面の長手方向の軌跡が、それぞれ異なる中心を持つ弧状に形成されていることにより、異なる軌跡を容易に実現できる。
本請求項2に記載の構成によれば、第1案内面が、第2案内面の幅方向の両側に形成されていることにより、ローラチェーンあるいはブシュチェーンの場合、リンクプレートが幅方向両側の第1案内面と摺動し、サイレントチェーンの場合、背面が幅方向中央の第2案内面と摺動することから、いずれのチェーンでも幅方向の中心位置を同一とすることができる。
本請求項3に記載の構成によれば、案内面の、幅方向の両側にガイドリップを有し、ガイドリップの案内面と隣接する部分が、第2案内面の突出高さよりも高く形成されていることにより、第2案内面でサイレントチェーンを摺動案内した際のチェーンの幅方向の偏位を小さく規制することができる。
本請求項4に記載の構成によれば、案内面の長手方向の少なくとも一方の端部には、第第1案内面及び第2案内面の少なくとも一方と円滑に連続する傾斜面が形成されていることにより、2種類のチェーンのそれぞれに最適な接触位置、接触長さを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るチェーンガイド(固定ガイド)の斜視図。
【
図5】第1案内面と第2案内面の一実施形態の模式図。
【
図6】第1案内面と第2案内面の他の実施形態の模式図。
【
図7】第1案内面と第2案内面のさらに他の実施形態の模式図。
【
図8】従来のエンジンのタイミングシステムの説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係るチェーンガイド(固定ガイド)100は、タイミングシステムを有するエンジン内に固定され、タイミングチェーンの走行をガイドして安定させるものであり、
図1、
図2に示すように上方に案内面110を有し、2つの取付部123を用いてエンジンルーム内に固定される。
案内面110は、長手方向に伸びる第1案内面111と、第1案内面と並行に突出して設けられた第2案内面112とを有している。
第1案内面111は、第2案内面112の幅方向の両側に形成され、両方の第1案内面111の幅方向の外側には、タイミングチェーンの側方への移動を規制するガイドリップ120が設けられている。
【0012】
本実施形態は、
図3に示すような、ローラチェーンRC及びサイレントチェーンSCのいずれにも使用可能に構成されており、
図4に模式的に示すように、ローラチェーンRCは、内リンクプレートIPが第1案内面111によって摺動案内され、サイレントチェーンSCは、リンクプレートLPの背面が第2案内面112によって摺動案内される。
また、
図4に示すように、ガイドリップ120はローラチェーンRCの外リンクプレートOPの外方を規制するとともに、ガイドリップ120の第1案内面111と隣接する部分が第2案内面112の突出高さよりも高く形成されていることで、サイレントチェーンSCのガイドプレートGPの外方を規制するように構成されている。
【0013】
チェーンレイアウトが同一で、チェーンガイドの取付部が同一であっても、ローラチェーンRCを使用する場合と、サイレントチェーンSCを使用する場合では、それぞれ、最適なチェーンピッチRP、SPはそれぞれ異なるものとなる。
また、
図4に示すように、ローラチェーンRCの内リンクプレートIPの背面高さRH(ピッチラインから摺動面までの距離)と、サイレントチェーンSCのリンクプレートLPの背面高さSHもそれぞれ異なるものとなる。
このことで、チェーンガイドとチェーンとが接触する高さ方向の位置、軌跡の最適値がそれぞれ異なり、スプロケットからチェーンガイドまでのフリースパンの最適長さも異なる。
【0014】
本発明では、第2案内面112が第1案内面111から突出する高さが、長手方向で異なる部分を有する、すなわち、均一な高さの突出としないことにより、チェーンガイドとチェーンとが接触する高さ方向の位置、軌跡を最適に設定することが可能となる。
また、第1案内面111の長手方向の一方の端部には、第1案内面111と円滑に連続する第1前端傾斜面113、他方の端部には第1後端傾斜面115が、第2案内面112の長手方向の一方の端部には、第2案内面112と円滑に連続する第2前端傾斜面114、他方の端部には第2後端傾斜面116が、それぞれ形成されている。
第1前端傾斜面113、第1後端傾斜面115、第2前端傾斜面114、第2後端傾斜面116は、通常はチェーンとは摺動せず、チェーンが上下に振動した際に第1案内面111案内面、第2案内面112に接触する際の衝撃を緩和するものであり、この部分の長さをそれぞれ異ならせることで、チェーンガイドとチェーンとが接触する長手方向の位置、を最適に設定し、フリースパンを異なるチェーンで最適長さとすることが可能となる。
【0015】
第1案内面111と第2案内面112の長手方向の軌跡は、それぞれ異なる中心を持つ弧状に形成されるのが好適である。
例えば、
図5に記載のように、同一の円弧半径とし、第1案内面111の中心C1と第2案内面112の中心C2をチェーンに近づく方向にずらした軌跡としてもよく、
図6に記載のように、同一の円弧半径とし、第1案内面111の中心C1と第2案内面112の中心C2をチェーンに近づく方向及び長手方向にずらした軌跡としてもよく、
図7に記載のように、円弧半径を異なるものとし、第1案内面111の中心C1と第2案内面112の中心C2をチェーンに近づく方向にずらした軌跡としてもよい。
なお、
図5-7は、説明のため誇張したものであり、第1案内面111と第2案内面112の軌跡のずれ量はごく僅かであり、実際はローラチェーンRCのローラが第2案内面112に当たらない範囲で設計される。
【0016】
以上説明した実施形態は、本発明に係るチェーンガイドの具体例であるが、本発明に係るチェーンガイドはこれらに限定されるものではなく、各構成部材の形状、位置、寸法、配置関係等、様々な変形が可能である。
例えば、上記実施形態は固定ガイドとして使用される形態を示したが、2箇所の支持部の一方をテンショナによる押圧部として揺動ガイドとして使用されるものであってもよい。
また、各実施形態は2箇所の支持部を有するチェーンガイドであるが、3箇所以上の支持部を有するものであってもよい。
【0017】
また、前述した実施形態では、第2案内面112は中央に一条のみであるが、サイレントチェーンSCの幅がローラチェーンRCのより広い場合は、第1案内面111の両外側にも第2案内面112を設けてもよい。
さらに、幅方向で摺動位置が異なるチェーンに対応して、幅方向のいかなる位置に、いかなる条数の第1案内面111、第2案内面112を設けてもよく、さらに、異なる軌跡の複数の案内面を設けてもよい。
【0018】
また、ガイドリップ120の形状や、チェーンを規制する位置等も、使用するチェーンに応じて、適宜設計可能である。
また、前述した実施形態は、タイミングシステムを有するエンジン内に設けられるものであるが、これに限定されず様々な機器類に適用可能である。
また、チェーンによる伝動機構に限らず、ベルト、ロープ等の類似の伝動機構に適用されてもよく、種々の産業分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0019】
500 ・・・ チェーンガイド(揺動ガイド)
100、 600 ・・・ チェーンガイド(固定ガイド)
110 ・・・ 案内面
111 ・・・ 第1案内面
112 ・・・ 第2案内面
113 ・・・ 第1前端傾斜面
114 ・・・ 第2前端傾斜面
115 ・・・ 第1後端傾斜面
116 ・・・ 第2後端傾斜面
120 ・・・ ガイドリップ
123、523、623 ・・・ 取付部
524 ・・・ 押圧部
E ・・・ エンジンルーム
S1 ・・・ 駆動スプロケット
S2 ・・・ 従動スプロケット
CH ・・・ タイミングチェーン
Q ・・・ 取付軸
P ・・・ 揺動軸
T ・・・ チェーンテンショナ
RC ・・・ ローラチェーン
SC ・・・ サイレントチェーン
RH ・・・ 背面高さ(ローラチェーン)
SH ・・・ 背面高さ(サイレントチェーン)
RP ・・・ チェーンピッチ(ローラチェーン)
SP ・・・ チェーンピッチ(サイレントチェーン)
PL ・・・ ピッチライン
C1 ・・・ 第1案内面円弧中心
C2 ・・・ 第2案内面円弧中心