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特許7421161無アルカリガラス基板の製造方法及び無アルカリガラス基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】無アルカリガラス基板の製造方法及び無アルカリガラス基板
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/225 20060101AFI20240117BHJP
   C03B 5/235 20060101ALI20240117BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20240117BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20240117BHJP
   C03C 3/085 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C03B5/225
C03B5/235
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/085
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019552703
(86)(22)【出願日】2018-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2018039540
(87)【国際公開番号】W WO2019093129
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2017215462
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】櫻林 達
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-132713(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054314(WO,A1)
【文献】特開2013-151407(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185976(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157349(WO,A1)
【文献】特開2012-162422(JP,A)
【文献】国際公開第2013/011837(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00 - 5/44
C03C 1/00 - 14/00
G09F 9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、質量%で、SiO 50~70%、Al 15~25%、B 4.5超~12%、MgO 0~10%、CaO 0~15%、SrO 0~10%、BaO 0~15%、ZnO 0~5%、ZrO 0~5%、TiO 0~5%、P 0~15%、SnO 0~0.5%を含有する無アルカリガラスとなるように原料バッチを調製するバッチ調製工程と、調製した原料バッチを直接通電加熱による電気溶融により溶融する溶融工程と、溶融されたガラスを清澄する清澄工程と、清澄されたガラスを板状に成形する成形工程とを含み、
清澄工程における最高温度より、得られるガラスの泡径拡大開始温度が低くなるように溶融窯内の底面の温度を調整して原料バッチを溶融し、溶融工程において、バーナー燃焼による輻射加熱を併用しないことを特徴とする無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項2】
得られたガラスの泡品位を評価する評価工程を含み、前記評価工程での泡品位の評価結果に基づいて、前記清澄工程における最高温度より、得られるガラスの泡径拡大開始温度が低くなるように、溶融窯内の底面の温度を調整して原料バッチを溶融することを特徴とする請求項1に記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項3】
得られるガラスの泡径拡大開始温度が1520~1680℃となるように原料バッチを溶融することを特徴とする請求項1又は2に記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項4】
原料バッチ中に、塩化物を添加することを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項5】
ホウ素源となるガラス原料の少なくとも一部に、無水ホウ酸を使用することを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項6】
原料バッチ中に、水酸化物原料を含有しないことを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項7】
原料バッチ中にガラスカレットを添加して無アルカリガラス基板を製造する方法であって、ガラスカレットの少なくとも一部に、β-OH値が0.4/mm以下のガラスからなるガラスカレットを使用することを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項8】
得られるガラスのβ-OH値が0.3/mm以下となるように、ガラス原料及び/又溶融条件を調節することを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラス基
板の製造方法。
【請求項9】
得られるガラスの歪点が650℃より高くなることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラス基板の製造方法。
【請求項10】
得られるガラスの熱収縮率が30ppm以下となることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の無アルカリガラスの製造方法。
【請求項11】
含有量が4.5超~12質量%であるアルミノシリケート系無アルカリガラス
となるように原料バッチを調製するバッチ調製工程と、調製した原料バッチを直接通電加熱による電気溶融により溶融する溶融工程と、溶融されたガラスを清澄する清澄工程と、清澄されたガラスを板状に成形する成形工程とを含み、
清澄工程における最高温度より、得られるガラスの泡径拡大開始温度が低くなるように溶融窯内の底面の温度を調整して原料バッチを溶融し、溶融工程において、バーナー燃焼による輻射加熱を併用しないことを特徴とする無アルカリガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無アルカリガラス基板に関し、詳細には、低温ポリシリコン(LTPS:Low Temperature p-Si)膜を有する薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)を備えるディスプレイなどに好適な無アルカリガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイには、一般的に、支持基板として、ガラス基板が用いられている。このガラス基板の表面上には、TFTなどの電気回路パターンが形成される。このため、この種のガラス基板には、TFTなどに悪影響を及ぼさないように、アルカリ金属成分を実質的に含まない無アルカリガラス基板が採用されている。
【0003】
またガラス基板は、薄膜形成工程や、薄膜のパターニング工程などの電気回路パターンの形成工程において高温雰囲気に曝される。ガラス基板が高温雰囲気に曝されると、ガラスの構造緩和が進行するため、ガラス基板の体積が収縮(以下、このガラスの収縮のことを「熱収縮」という。)することとなる。電気回路パターンの形成工程においてガラス基板に熱収縮が生じると、ガラス基板上に形成される電気回路パターンの形状寸法が、設計値からずれてしまい、所望の電気的性能を有するフラットパネルディスプレイが得難くなってしまう。このため、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板など、電気回路パターンなどの薄膜パターンが表面に形成されるガラス基板には、熱収縮率が小さいことが望まれている。
【0004】
特に、低温ポリシリコン膜を有するTFTを備える高精細なディスプレイ用のガラス基板の場合、低温ポリシリコン膜を形成する際に、例えば450℃~600℃という非常に高い温度雰囲気に曝され、熱収縮が生じやすいが、電気回路パターンが高精細であるため、熱収縮が生じると所望する電気的性能が得難くなる。それゆえ、このような用途に使用されるガラス基板には、熱収縮率が非常に小さいことが強く望まれている。
【0005】
ところで、フラットパネルディスプレイなどに用いられるガラス基板の成形方法としては、フロート法や、オーバーフローダウンドロー法に代表されるダウンドロー法などが知られている。
【0006】
フロート法とは、溶融ガラスを溶融スズが満たされたフロートバスの上に流出させ、水平方向に引き延ばしてガラスリボンを形成した後に、フロートバスの下流側に設けられた徐冷炉においてガラスリボンを徐冷することにより、ガラス基板を成形する方法である。フロート法では、ガラスリボンの搬送方向が水平方向となるため、徐冷炉を長くすることが容易である。このため、徐冷炉におけるガラスリボンの冷却速度を十分に低くしやすい。従って、フロート法には、熱収縮率の小さなガラス基板が得やすいというメリットがある。
【0007】
しかしながら、フロート法では、薄いガラス基板を成形することが困難であるというデメリットや、成形後に、ガラス基板の表面を研磨して、ガラス基板の表面に付着しているスズを除去しなければならないというデメリットがある。
【0008】
一方、ダウンドロー法は、溶融ガラスを下方に引き伸ばして板状に形成する方法である。ダウンドロー法の一種であるオーバーフローダウンドロー法は、横断面略楔形の成形体(forming body)の両側から溢れさせた溶融ガラスを下方に引き伸ばすことによりガラスリボンを成形する方法である。成形体の両側から溢れた溶融ガラスは、成形体の両側面に沿って流下し、成形体の下方において合流する。従って、オーバーフローダウンドロー法では、ガラスリボンの表面が、空気以外と接触せず、表面張力によって形成されるため、成形後に表面を研磨せずとも、表面に異物が付着しておらず、また表面が平坦なガラス基板を得ることができる。また、オーバーフローダウンドロー法によれば、薄いガラス基板を成形しやすいというメリットもある。
【0009】
その一方で、ダウンドロー法は、溶融ガラスが成形体から下方に向かって流下する。長い徐冷炉を成形体の下に配置しようとすると、成形体を高所に配置しなければならない。しかしながら、実際上は、工場の天井の高さ制約などにより、成形体を配置できる高さには制約がある。つまり、ダウンドロー法では、徐冷炉の長さ寸法に制約があり、十分に長い徐冷炉を配置することが困難である場合がある。徐冷炉の長さが短い場合、ガラスリボンの冷却速度が高くなるため、熱収縮率の小さなガラス基板を成形することが困難となる。
【0010】
そこで、ガラスの歪点を高くして、ガラスの熱収縮率を小さくすることが提案されている。例えば特許文献1には、歪点の高い無アルカリガラス組成が開示されている。また同文献には、ガラス中の水分量を表すβ-OH値が低いほど、歪点が上昇することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2013-151407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図1に示すように、歪点が高くなるほど、熱収縮率は小さくなる。しかし歪点が高くなるように組成設計されたガラスは粘性が高いため、泡切れが悪く、泡品位に優れたガラスを得ることが難しいという問題がある。
【0013】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、歪点が高く、しかも泡品位に優れた無アルカリガラス基板と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないため、原料バッチが溶解し難いことが知られている。それゆえ原料バッチを溶解させる溶融工程を高温で行うことが一般的である。本発明者等は、溶融工程を高温で行うと、清澄剤から発生するガスがその後の清澄工程で発生し難くなることに着目し、本発明を提案するに至った。
【0015】
即ち本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、ガラス組成として、質量%で、SiO 50~70%、Al 15~25%、B 4.5超~12%、MgO 0~10%、CaO 0~15%、SrO 0~10%、BaO 0~15%、ZnO 0~5%、ZrO 0~5%、TiO 0~5%、P 0~15%、SnO 0~0.5%を含有する無アルカリガラスとなるように原料バッチを調製するバッチ調製工程と、調製した原料バッチを溶融する溶融工程と、溶融されたガラスを清澄する清澄工程と、清澄されたガラスを板状に成形する成形工程、とを含み、清澄工程における最高温度より、得られるガラスの泡径拡大開始温度が低くなるように原料バッチを溶融することを特徴とする。
【0016】
ここで「無アルカリガラス」とは、アルカリ金属酸化物成分を意図的に添加していないガラスであり、具体的にはガラス組成中のアルカリ金属酸化物(LiO、NaO、及びKO)の含有量が3000ppm(質量)以下であるガラスを意味する。なおガラス組成中のアルカリ金属酸化物の含有量は2000ppm以下であることが望ましい。「泡径拡大開始温度」とは以下の方法により特定した温度を意味する。まず、得られたガラスを粉砕・分級した後、1500℃で10分間保持する。その後、昇温速度2℃/分で1500℃から昇温し、ガラス融液中の泡の挙動を観察する。直径100μm以下の任意の泡を3個以上選択し、10℃毎にそれらの泡径を計測し、1500℃の泡径に対して泡径が50μm以上大きくなった温度を泡径拡大開始温度とする。
【0017】
本発明においては、使用するガラス組成のB含有量が少ないことから、歪点の高いガラス基板を得ることが可能である。ただし歪点の高いガラスは、一般に粘性が高く、高い泡品位を達成することが難しい。そこで更に本発明の方法では、得られるガラスの泡径拡大開始温度が清澄工程における最高温度より低くなるように、原料バッチを溶融する。本発明で定義する「泡径拡大開始温度」は、ガラス中の泡が、浮上するのに十分な大きさとなる温度であるため、泡径拡大開始温度を清澄工程における最高温度より低くすることにより、清澄工程でガラス中の泡が十分に拡大、浮上し易くなり、泡品位に優れたガラスを得ることができる。
【0018】
また本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、ガラス組成として、質量%で、SiO 50~70%、Al 15~25%、B 4.5超~12%、MgO 0~10%、CaO 0~15%、SrO 0~10%、BaO 0~15%、ZnO 0~5%、ZrO 0~5%、TiO 0~5%、P 0~15%、SnO 0~0.5%を含有する無アルカリガラスとなるように原料バッチを調製するバッチ調製工程と、調製した原料バッチを溶融する溶融工程と、溶融されたガラスを清澄する清澄工程と、清澄されたガラスを板状に成形する成形工程と、得られたガラスの泡品位を評価する評価工程とを含み、得られたガラスの泡品位に基づいて泡径拡大開始温度を調整することを特徴とする。
【0019】
上記構成を採用する本発明の製造方法においては、既述の効果に加えて、一時的に泡径拡大開始温度が清澄工程での最高温度より高くなった場合でも、これを修正することが容易になる。それゆえ泡品位に優れたガラスを安定的に得ることができる。
【0020】
本発明の製造方法においては、得られるガラスの泡径拡大開始温度が1520~1680℃となるように原料バッチを溶融することが好ましい。
【0021】
上記構成を採用すれば、ガラスの泡径拡大開始温度を清澄工程の最高温度より低くすることが容易になり、泡品位に優れたガラスを得やすくなる。また清澄工程の温度が高くなり過ぎる事態を容易に回避できる。
【0022】
本発明の製造方法においては、電気溶融することが好ましい。ここで「電気溶融」とは、ガラス中に電気を通電し、それによって発生するジュール熱でガラスを加熱、溶融する溶融方法である。なおヒーターやバーナーによる輻射加熱を補助的に利用する場合を排除するものではない。
【0023】
上記構成を採用すれば、雰囲気中の水分の増加を抑制することができる。結果として、雰囲気からガラスへの水分供給を大幅に抑制することが可能になり、歪点の高いガラスを製造することが容易になる。またガラス自身の発熱(ジュール熱)を利用してガラス融液を加熱することから、効率よくガラスを加熱できる。それゆえ比較的低温で原料バッチを溶融することが可能となり、泡径拡大開始温度を低温化し易くなる。
【0024】
本発明の製造方法においては、バーナー燃焼による輻射加熱を併用しないことが好ましい。「バーナー燃焼による輻射加熱を併用しない」とは、通常生産時にバーナー燃焼による輻射加熱を一切行わないことを意味し、生産立ち上げ時(昇温時)のバーナー使用を排除するものではない。また生産立ち上げ時や通常生産時に、ヒーターによる輻射加熱を併用することを排除するものではない。なお生産立ち上げ時とは、原料バッチが溶解してガラス融液になり、通電加熱が可能になるまでの期間を指す。
【0025】
上記構成を採用すれば、溶融窯内の雰囲気に含まれる水分量が極めて少なくなり、雰囲気からガラス中に供給される水分を大幅に減少させることができる。その結果、極めて水分含有量の低いガラスを製造することが可能になる。また燃焼加熱する際に必要な、バーナー、煙道、燃料タンク、燃料供給経路、空気供給装置(空気燃焼の場合)、酸素発生装置(酸素燃焼の場合)、排ガス処理装置、集塵機等の設備が不要、又は大幅に簡略化でき、溶融窯のコンパクト化、設備コストの低廉化を図ることが可能になる。また低温で原料バッチを溶融することが可能であり、泡径拡大開始温度の低温化が容易になる。
【0026】
本発明の製造方法においては、原料バッチ中に、塩化物を添加することが好ましい。
【0027】
塩化物はガラス中の水分を低下させる効果がある。ガラス中に含まれる水分が少なくなると、ガラスの歪点が上昇する。それゆえ上記構成を採用すれば、歪点の高いガラスを製造することが容易になる。
【0028】
本発明の製造方法においては、ホウ素源となるガラス原料の少なくとも一部に、無水ホウ酸を使用することが好ましい。
【0029】
上記構成を採用すれば、得られるガラスの水分量を低下させることが可能になる。
【0030】
本発明の製造方法においては、原料バッチ中に、水酸化物原料を含有しないことが好ましい。
【0031】
上記構成を採用すれば、得られるガラスの水分量をさらに低下させることが可能になる。
【0032】
本発明の製造方法においては、原料バッチ中にガラスカレットを添加して無アルカリガラス基板を製造する方法であって、ガラスカレットの少なくとも一部に、β-OH値が0.4/mm以下のガラスからなるガラスカレットを使用することが好ましい。ここで「ガラスカレット」とは、ガラスの製造中に生じた不良ガラス、又は市場から回収されたリサイクルガラス等を意味する。「β-OH値」は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式を用いて求めた値を指す。
【0033】
β-OH値 = (1/X)log(T1/T2)
X:ガラス肉厚(mm)
T1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
T2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
無アルカリガラスは体積抵抗が高いことから、アルカリを含有するガラスに比べて溶融し難い傾向がある。そこで上記構成を採用すれば、ガラスの溶融が容易になるとともに、得られるガラスの水分量をさらに低下させることが可能になる。
【0034】
本発明の製造方法においては、得られるガラスのβ-OH値が0.3/mm以下となるように、ガラス原料及び/又は溶融条件を調節することが好ましい。
【0035】
上記構成を採用すれば、歪点が高く、熱収縮率の高いガラスを得ることが容易になる。
【0036】
本発明の製造方法においては、得られるガラスの歪点が650℃より高くなることが好ましい。ここで「歪点」は、ASTM C336-71の方法に基づいて測定した値である。
【0037】
上記構成を採用すれば、熱収縮率が極めて小さいガラスを得ることができる。
【0038】
本発明の製造方法においては、得られるガラスの熱収縮率が30ppm以下となることが好ましい。ここで「熱収縮率」とは、ガラスを常温から500℃まで5℃/分の速度で昇温し、500℃で1時間保持した後に、5℃/分の速度で降温させる条件で熱処理した後に測定した時の値である。
【0039】
上記構成を採用すれば、低温ポリシリコンTFTを形成するのに好適なガラス基板を得ることができる。
【0040】
また本発明の無アルカリガラス基板の製造方法は、B含有量が4.5質量%超~12%であるアルミノシリケート系無アルカリガラスとなるように原料バッチを調製するバッチ調製工程と、調製した原料バッチを溶融する溶融工程と、溶融されたガラスを清澄する清澄工程と、清澄されたガラスを板状に成形する成形工程とを含み、清澄工程における最高温度より、得られるガラスの泡径拡大開始温度が低くなるように原料バッチを溶融することを特徴とする。ここで「アルミノシリケート系」とは、SiOとAlを主成分とするガラス組成系を指す。より具体的には、ガラス組成として、質量%でSiO 50~80%、Al 15~30%含有する組成系を指す。
【0041】
また本発明の無アルカリガラス基板は、ガラス組成として、質量%で、SiO 50~70%、Al 15~25%、B 4.5超~12%、MgO 0~10%、CaO 0~15%、SrO 0~10%、BaO 0~15%、ZnO 0~5%、ZrO 0~5%、TiO 0~5%、P 0~15%、SnO 0~0.5%を含有し、泡径拡大開始温度が1520~1680℃であることを特徴とする。
【0042】
本発明の無アルカリガラス基板においては、β-OH値が0.3/mm以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の無アルカリガラス基板においては、歪点が650℃より高いことが好ましい。
【0044】
本発明の無アルカリガラス基板においては、熱収縮率が30ppm以下であることが好ましい。
【0045】
本発明の無アルカリガラス基板においては、低温p-SiTFTが形成されるガラス基板として用いられることが好ましい。
【0046】
低温ポリシリコンTFTは、基板上に形成する際の熱処理温度が高温(450~600℃)付近)であり、しかも回路パターンがより微細になる。よってこの種の用途に使用されるガラス基板には、特に熱収縮率の小さいものが必要になる。それゆえ歪点の高い本発明のガラス基板を採用するメリットが極めて大きい。
【0047】
また本発明の無アルカリガラス基板は、B含有量が4.5超~12質量%のアルミノシリケート系無アルカリガラスであって、泡径拡大開始温度が1520~1680℃であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】ガラスの歪点と熱収縮率の関係を示すグラフである。
図2】本発明の製造方法を実施するためのガラス製造設備の概略構成を示す説明図である
図3】ガラス基板の熱収縮率の測定手順を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の無アルカリガラス基板の製造方法を詳述する。
【0050】
本発明の方法は、無アルカリガラス基板を連続的に製造する方法であり、原料バッチを調製するバッチ調製工程と、調製した原料バッチを溶融する溶融工程と、溶融されたガラスを清澄する清澄工程と、清澄されたガラスを成形する成形工程とを含む。以下、工程毎に詳述する。
【0051】
(1)バッチ調製工程
まず、所望の無アルカリガラスが得られるようにガラス原料を調製する。例えば歪点が650℃以上の無アルカリガラスとなるようにガラス原料を調製することができる。またB含有量が4.5超~12質量%のアルミノシリケート系無アルカリガラスとなるようにガラス原料を調製することができる。より具体的には、ガラス組成として、質量%で、SiO 50~70%、Al 15~25%、B 4.5超~12%、MgO 0~10%、CaO 0~15%、SrO 0~10%、BaO 0~15%、ZnO 0~5%、ZrO 0~5%、TiO 0~5%、P 0~15%、SnO 0~0.5%含有する無アルカリガラスとなるようにガラス原料を調製することが好ましい。上記のように、各成分の含有量を規制した理由を以下に説明する。なお以下の各成分の説明における%表示は、特に断りがない限り、質量%を指す。また使用する原料については後述する。
【0052】
SiOは、ガラスの骨格を形成する成分である。SiOの含有量は50~70%、50~69%、50~68%、51~67%、51~66%、51.5~65%、特に52~64%であることが好ましい。SiOの含有量が少な過ぎると、密度が高くなり過ぎると共に、耐酸性が低下し易くなる。一方、SiOの含有量が多過ぎると、高温粘度が高くなり、溶融性が低下し易くなる。またクリストバライト等の失透結晶が析出し易くなって、液相温度が上昇し易くなる。
【0053】
Alは、ガラスの骨格を形成する成分であり、また歪点やヤング率を高める成分であり、更に分相を抑制する成分である。Alの含有量は15~25%、15~24%、15~23%、15.5~22%、16~21.5%、16.5~21%、特に17~20.5%であることが好ましい。Alの含有量が少な過ぎると、歪点、ヤング率が低下し易くなり、またガラスが分相し易くなる。一方、Alの含有量が多過ぎると、ムライトやアノーサイト等の失透結晶が析出し易くなって、液相温度が上昇し易くなる。
【0054】
は、溶融性を高めると共に、耐失透性を高める成分である。Bの含有量は4.5超~12%、4.5超~11%、4.5超~10%、4.5超~9.5%、4.5超~9%、4.5超~8.5%、4.5超~8%、4.6~7.5%、4.8~7.2%、5~7%、5~6.7%、特に5~6.5%であることが好ましい。Bの含有量が少な過ぎると、溶融性や耐失透性が低下し易くなり、またフッ酸系の薬液に対する耐性が低下し易くなる。一方、Bの含有量が多過ぎると、歪点やヤング率が低下し易くなる。またバッチからの水分の持ち込み量が多くなる。
【0055】
MgOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、ヤング率を顕著に高める成分である。MgOの含有量は0~10%、0~9%、1~8%、1~7%、1.5~7.5%、特に2~6%であることが好ましい。MgOの含有量が少な過ぎると、溶融性やヤング率が低下し易くなる。一方、MgOの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下し易くなると共に、歪点が低下し易くなる。
【0056】
CaOは、歪点を低下させずに、高温粘性を下げて、溶融性を顕著に高める成分である。また、アルカリ土類金属酸化物の中では、導入原料が比較的安価であるため、原料コストを低廉化する成分である。CaOの含有量は0~15%、0~13%、0~12%、0~11%、0~10.5%、0~10%、1~10%、2~9%、3~8%、3.5~7%、特に4~6%であることが好ましい。CaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。一方、CaOの含有量が多過ぎると、ガラスが失透し易くなると共に、熱膨張係数が高くなり易い。
【0057】
SrOは、分相を抑制し、また耐失透性を高める成分である。更に、歪点を低下させることなく、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。また液相温度の上昇を抑制する成分である。SrOの含有量は0~10%、0~9%、0~8%、0.5~7.5%、特に0.5~7%であることが好ましい。SrOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。一方、SrOの含有量が多過ぎると、ストロンチウムシリケート系の失透結晶が析出し易くなって、耐失透性が低下し易くなる。
【0058】
BaOは、耐失透性を顕著に高める成分である。BaOの含有量は0~15%、0~14%、0~13%、0~12%、特に0.5~10.5%であることが好ましい。BaOの含有量が少な過ぎると、上記効果を享受し難くなる。一方、BaOの含有量が多過ぎると、密度が高くなり過ぎると共に、溶融性が低下し易くなる。またBaOを含む失透結晶が析出し易くなって、液相温度が上昇し易くなる。
【0059】
ZnOは、溶融性を高める成分である。しかし、ZnOを多量に含有させると、ガラスが失透し易くなり、また歪点が低下し易くなる。ZnOの含有量は0~5%、0~4%、0~3%、特に0~2%であることが好ましい。
【0060】
ZrOは、化学的耐久性を高める成分であるが、ZrOを多量に含有させるとZrSiOの失透ブツが発生しやすくなる。ZrOの含有量は0~5%、0~4%、0~3%、0~2%、特に0~0.1%であることが好ましい。
【0061】
TiOは、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分である。またソラリゼーションを抑制する成分である。しかしTiOを多量に含有させると、ガラスが着色して、透過率が低下し易くなる。TiOの含有量は0~5%、0~4%、0~3%、0~2%、特に0~0.1%であることが好ましい。
【0062】
は、歪点を高める成分であると共に、アノーサイト等のアルカリ土類アルミノシリケート系の失透結晶の析出を抑制し得る成分である。但し、Pを多量に含有させると、ガラスが分相し易くなる。Pの含有量は、好ましくは0~15%、0~13%、0~12%、0~11%、0~10%、0~9%、0~8%、0~7%、0~6%、特に0~5%である。
【0063】
SnOは、高温域で良好な清澄作用を有する成分であると共に、歪点を高める成分であり、また高温粘性を低下させる成分である。またモリブデン電極を浸食しないというメリットがある。SnOの含有量は0~0.5%、0.001~0.5%、0.001~0.45%、0.001~0.4%、0.01~0.35%、0.1~0.3%、特に0.15~0.3%であることが好ましい。SnOの含有量が多過ぎると、SnOの失透結晶が析出し易くなり、またZrOの失透結晶の析出を促進し易くなる。なお、SnOの含有量が0.001%より少ないと、上記効果を享受し難くなる。
【0064】
上記成分以外にも、Cl、F等その他の成分を合量で10%以下、特に5%以下含有させることができる。ただし、AsやSbは、環境上の観点や電極の浸食防止の観点から、実質的に含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、これらの成分を含むガラス原料やガラスカレットを、ガラスバッチに意図的に添加しないことを意味する。より具体的には、得られるガラス中に、ヒ素がAsとして50ppm以下、アンチモンがSbとして50ppm以下であることを意味する。
【0065】
次にバッチを構成するガラス原料について説明する。なお以下の各原料の説明における%表示は、特に断りがない限り、質量%を指す。
【0066】
珪素源として珪砂(SiO)等を用いることができる。
【0067】
アルミニウム源としてアルミナ(Al)、水酸化アルミニウム(Al(OH))等を用いることができる。なお水酸化アルミニウムは結晶水を含むため、使用割合が大きい場合にはガラスの水分量を低下させにくくなる。それゆえ水酸化アルミニウムは、できる限り使用しないことが好ましい。具体的には、アルミニウム源(Al換算)100%に対して、水酸化アルミニウムの使用割合を50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下とすることが好ましく、できれば使用しないことが望ましい。
【0068】
ホウ素源としては、オルトホウ酸(HBO)や無水ホウ酸(B)を使用することができる。オルトホウ酸は結晶水を含むため、使用割合が大きい場合にはガラスの水分量を低下させにくくなる。このため、できる限り無水ホウ酸の使用割合を高くすることが好ましい。具体的には、ホウ素源(B換算)100%に対して、無水ホウ酸の使用割合を50%以上、70%以上、90%以上とすることが好ましく、特に全量を無水ホウ酸とすることが望ましい。
【0069】
アルカリ土類金属源には、炭酸カルシウム(CaCO)、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、炭酸バリウム(BaCO)、硝酸バリウム(Ba(NO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)等を用いることができる。なお水酸化マグネシウムは結晶水を含むため、使用割合が大きい場合にはガラスの水分量を低下させにくくなる。それゆえ水酸化マグネシウムは、できる限り使用しないことが好ましい。具体的には、マグネシウム源(MgO換算)100%に対して、水酸化マグネシウムの使用割合を50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下とすることが好ましく、できれば使用しないことが望ましい。
【0070】
亜鉛源として酸化亜鉛(ZnO)等を用いることができる。
【0071】
ジルコニア源としてジルコン(ZrSiO)等を用いることができる。なお溶融窯を構成する耐火物にとして、ジルコニア電鋳耐火物、デンスジルコン等のZr含有耐火物を使用する場合、耐火物からのジルコニア成分の溶出がある。これらの溶出成分もジルコニア源として利用してもよい。
【0072】
チタン源として酸化チタン(TiO)等を用いることができる。
【0073】
リン源としてメタリン酸アルミ(Al(PO)、ピロリン酸マグネシウム(Mg)等を用いることができる。
【0074】
スズ源として酸化錫(SnO)等を使用することができる。なお酸化錫を用いる場合、平均粒径D50が0.3~50μm、2~50μm、特に5~50μmの範囲にある酸化錫を用いることが好ましい。酸化錫粉末の平均粒径粒径D50が小さいと粒子間の凝集が起こり、調合プラントでの詰まりが生じ易くなる。一方、酸化錫粉末の平均粒径D50が大きいと、酸化錫粉末のガラス融液への溶解反応が遅れ、融液の清澄が進まない。結果としてガラス溶融の適切な時期に酸素ガスを十分に放出できなくなり、ガラス製品中に泡が残存し易く、泡品位に優れた製品を得ることが難しくなる。またガラス製品中に、SnO結晶の未溶解ブツが出現する事態を引き起こし易くなる。
【0075】
なおガラスの水分量を制限する観点から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物原料の使用割合は、バッチに対して5%以下、3%以下であることが好ましく、できれば使用しないことが望ましい。
【0076】
さらに本発明においては、バッチ中に塩化物を含んでいてもよい。塩化物は、ガラスの水分量を大幅に低下させる脱水剤として機能する。また清澄剤である錫化合物の作用を促進する効果がある。さらに塩化物は、1200℃以上の温度域で分解、揮発して清澄ガスを発生し、その攪拌効果により異質層の形成を抑制する。また、塩化物は、その分解時に珪砂等のシリカ原料を取り込んで溶解させる効果がある。塩化物としては、例えば塩化ストロンチウム等のアルカリ土類金属の塩化物、塩化アルミニウム等を使用することができる。
【0077】
本発明においては、バッチ中にヒ素化合物及びアンチモン化合物を実質的に含まないようにすることが望ましい。これらの成分を含有していると、モリブデン電極を浸食するため、長期に亘って安定して電気溶融することが困難になる。またこれらの成分は、環境上好ましくない。
【0078】
本発明においては、上記したガラス原料に加えて、ガラスカレットを使用することが好ましい。ガラスカレットを使用する場合、原料バッチの総量に対するガラスカレットの使用割合は1質量%以上、5質量%以上、特に10質量%以上であることが好ましい。ガラスカレットの使用割合の上限に制約はないが、50質量%以下、40質量%以下、特に30質量%以下であることが好ましい。また使用するガラスカレットの少なくとも一部を、β-OH値が0.4/mm以下、0.35/mm以下、0.3/mm以下、0.25/m以下、0.2/mm以下、0.18/mm以下、0.17/mm以下、0.16/m以下、特に0.15/mm以下のガラスからなる低水分ガラスカレットとすることが望ましい。なお低水分ガラスカレットのβ-OH値の下限値は特に制限されないが、現実的には0.01/mm以上である。
【0079】
低水分ガラスカレットの使用量は、使用するガラスカレットの総量に対して50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であることが好ましく、特に全量を低水分ガラスカレットとすることが望ましい。低水分ガラスカレットのβ-OH値が十分に低くない場合、或いは低水分ガラスカレットの使用割合が少ない場合は、得られるガラスのβ-OH値を低下させる効果が小さくなる。
【0080】
なお、ガラス原料、ガラスカレット或いはこれらを調合した原料バッチは、水分を含んでいることがある。また保管中に大気中の水分を吸収することもある。そこで本発明では、個々のガラス原料を秤量、供給するための原料サイロや、調製された原料バッチを溶融窯に投入するための炉前サイロ等の内部に乾燥空気を導入することが好ましい。
【0081】
(2)溶融工程
次に、調製した原料バッチを、清澄工程における最高温度より泡径拡大開始温度が低くなるように溶融する。なお泡径拡大開始温度を低くするには、溶融窯内の最高温度を低下させればよい。例えばバーナー燃焼を併用しない電気溶融の場合、溶融窯の電極底面付近の温度を変更することにより調整することができる。
【0082】
原料バッチの溶融には、バーナー燃焼による輻射熱や電極間の通電により発生するジュール熱で加熱可能な溶融窯を使用する。特に電気溶融が可能な溶融窯を使用することが好ましい。
【0083】
電気溶融可能な溶融窯は、モリブデン、白金、錫等からなる電極を複数有するものであり、これらの電極間に電気を印加することにより、ガラス融液中に電気が通電され、そのジュール熱によってガラスを連続的に溶融する。なお補助的にヒーターやバーナーによる輻射加熱を併用してもよいが、ガラスのβ-OH値を低下させる観点から、バーナーを用いない完全電気溶融とすることが望ましい。バーナーによる加熱を行う場合、燃焼によって生じた水分がガラス中に取り込まれてしまい、ガラスの水分量を十分に低下させることが難しくなる。
【0084】
電極としては、モリブデン電極を使用することが好ましい。モリブデン電極は、配置場所や電極形状の自由度が高いため、電気を通し難い無アルカリガラスであっても、最適な電極配置、電極形状を採用することができ、通電加熱が容易になる。電極形状としてはロッド状であることが好ましい。ロッド状であれば、溶融窯の側壁面や底壁面の任意の位置に、所望の電極間距離を保って、所望の数の電極を配置することが可能である。電極の配置は、溶融窯の壁面(側壁面、底壁面等)、特に底壁面に、電極間距離を短くして複数対配置することが望ましい。なおガラス中にヒ素成分やアンチモン成分が含まれている場合、既述の理由からモリブデン電極が使用できず、代わりにこれらの成分で浸食を受けない錫電極を使用する必要がある。ところが錫電極は、配置場所や電極形状の自由度が非常に低いため、無アルカリガラスを電気溶融することが難しくなる。
【0085】
溶融窯に投入された原料バッチは、輻射熱やジュール熱によって溶解し、ガラス融液(溶融ガラス)となる。原料バッチ中に塩化物が含まれている場合、塩化物が分解、揮発することによってガラス中の水分を雰囲気中に持ち去り、ガラスのβ-OH値を低減する。また原料バッチ中に含まれる錫化合物等の多価酸化物は、ガラス融液中に溶解し、清澄剤として作用する。例えば錫成分は、昇温過程で酸素泡を放出する。放出された酸素泡は、ガラス融液中に含まれる泡を拡大、浮上させてガラスから除去する。また錫成分は、降温過程では酸素泡を吸収することで、ガラス中に残存する泡を消滅させる。
【0086】
(3)清澄工程
次に溶融されたガラスを昇温し、清澄する。清澄工程は、独立した清澄槽内で行ってもよいし、溶融窯内の下流部分等で行ってもよい。
【0087】
清澄工程に供される溶融ガラスは、泡径拡大開始温度が清澄工程での最高温度(以下、最高清澄温度という)より低くなるように、溶融工程で溶融されたものである。ガラス融液が溶融時よりも高温になると、上述の反応により、清澄剤成分から酸素泡が放出され、ガラス融液中に含まれる泡を拡大、浮上させてガラスから除去することができる。この際、溶融時の温度と清澄時の温度差が大きい程、清澄効果が高くなる。そのため、溶融時の温度をなるべく低くすることが望ましい。この溶融時の温度の目安となるのが泡径拡大開始温度である。
【0088】
泡径拡大開始温度は、得られたガラスを以下の手順で再溶融することにより求めることができる。まず、得られたガラスを2.0~5.6mmに粉砕・分級する。分級後のガラス15gを石英管に入れ、1500℃で10分間保持する。その後、昇温速度2℃/分で1500℃から昇温し、ガラス融液中の泡の挙動を観察する。動画もしくは動画から抽出した観察画像を用い、以下の通りに泡径拡大開始温度を計測する。直径100μm以下の任意の泡を3個以上選択し、10℃毎にそれらの泡径を計測する。1500℃の泡径に対して泡径が50μm以上拡大した温度を泡径拡大開始温度とする。選択した泡が他の泡を吸収することにより泡径が拡大した場合は、泡を選択するところからやり直す必要がある。なお設備への負担を考慮して昇温は1680℃まで、特に1650℃までとすることが望ましい。
【0089】
泡径拡大開始温度は、1520~1680℃、1530~1670℃、1530~1660℃、1530~1640℃、1530~1630℃、1530~1625℃、特に1530~1620℃であることが好ましい。また清澄工程での最高温度は、1540~1640℃、1540~1635℃、特に1540~1630℃であることが好ましい。さらに泡径拡大開始温度と清澄最高温度との温度差は、15℃以上、20℃以上、特に25℃以上であることが好ましい。泡径拡大開始温度と清澄最高温度との温度差が大きいと、清澄効果が大きくなる。また溶解条件が変動した際であっても得られた板ガラス中の泡数が増加し難い。なお泡径拡大開始温度と清澄最高温度との温度差の上限は制限されるものではないが、現実的には200℃以下、170℃以下、特に150℃以下であることが好ましい。
【0090】
(4)成形工程
次に、清澄されたガラスを成形装置に供給し、板状に成形する。なお清澄槽と成形装置の間に撹拌槽、状態調節槽等を配置し、これらを通過させた後に、成形装置にガラスを供給するようにしてもよい。また溶融窯、清澄槽、成形装置(或いはその間に設ける各槽)の間を繋ぐ連絡流路は、ガラスの汚染を防止するために、少なくともガラスとの接触面が白金又は白金合金製であることが好ましい。
【0091】
成形方法は特に制限されるものではないが、徐冷炉の長さの制約があり、熱収縮率を低減し難いダウンドロー法を採用すれば、本発明の効果を享受し易くなる。ダウンドロー法としては、オーバーフローダウンドロー法を採用することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法とは、断面が楔状の樋状耐火物の両側から溶融ガラスを溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状耐火物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラスを板状に成形する方法である。オーバーフローダウンドロー法では、ガラス基板の表面となるべき面は樋状耐火物に接触せず、自由表面の状態で成形される。このため、未研磨で表面品位が良好なガラス基板を安価に製造することができ、またガラスの大型化や薄型化も容易である。なお、オーバーフローダウンドロー法で用いる樋状耐火物の構造や材質は、所望の寸法や表面精度を実現できるものであれば、特に限定されない。また、下方への延伸成形を行う際に、力を印加する方法も特に限定されない。例えば、十分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラスに接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用してもよいし、複数の対になった耐熱性ロールをガラスの端面近傍のみに接触させて延伸する方法を採用してもよい。なおオーバーフローダウンドロー法以外にも、例えば、スロットダウン法等を採用することが可能である。
【0092】
このようにして板状に成形されたガラスは、所定のサイズに切断され、必要に応じて各種の化学的、或いは機械的な加工等が施され、ガラス基板となる。
【0093】
(5)評価工程
本発明においては、得られたガラスの泡品位を評価する評価工程を設けてもよい。この工程における泡品位の評価結果に基づいて、泡径拡大開始温度を調整することが好ましい。例えば泡品位が基準を下回った場合、泡径拡大開始温度が最高清澄温度を上回っている可能性がある。このような場合、泡径拡大開始温度を調整する必要がある。泡径拡大開始温度の調整は、(2)の溶融工程の条件を変更することによって行うことができる。具体的には溶融窯内の最高温度(例えばバーナー燃焼を併用しない電気溶融の場合は底面付近の温度)を変更することにより泡径拡大開始温度を調整することができる。
【0094】
次に本発明の方法によって作製可能な無アルカリガラス基板について説明する。なお無アルカリガラス基板の組成及び泡径拡大開始温度は既述の通りであり、ここでは説明を省略する。
【0095】
本発明の方法によって得られる無アルカリガラス基板は、ガラスを常温から500℃まで5℃/分の速度で昇温し、500℃で1時間保持した後に、5℃/分の速度で降温させたときの熱収縮率が30ppm以下、28ppm以下、27ppm以下、26ppm以下、25ppm以下、24ppm以下、23ppm以下、22ppm以下、21ppm以下、20ppm以下、19ppm以下、18ppm以下、17ppm以下、16ppm以下、特に15ppm以下となることが好ましい。熱収縮率が大きいと、低温ポリシリコンTFTを形成するための基板として使用することが難しくなる。
【0096】
本発明の方法によって得られる無アルカリガラス基板は、β-OH値が0.3/mm以下、0.25/mm以下、0.2/mm以下、0.18/mm以下、0.16/mm以下、特に0.15/mm以下であるガラスからなることが好ましい。なおβ-OH値の下限値は制限されないが、0.01/mm以上、特に0.05/mm以上であることが好ましい。β-OH値が大きいと、ガラスの歪点が十分に高くならず、熱収縮率を大幅に低減することが難しくなる。
【0097】
本発明の方法によって得られる無アルカリガラスは、歪点が650℃以上、650℃超、660℃以上、670℃以上、680℃以上、685℃以上、690℃以上、695℃以上、特に700℃以上であることが好ましい。このようにすれば、低温ポリシリコンTFTの製造工程において、ガラス基板の熱収縮を抑制し易くなる。歪点が高すぎると、成形時や溶解時の温度が高くなり過ぎて、ガラス基板の製造コストが高沸し易くなる。従って、本発明の方法によって得られる無アルカリガラスは、歪点が750℃以下、740℃以下、特に730℃以下であることが好ましい。
【0098】
本発明の方法によって得られる無アルカリガラス基板は、104.5dPa・sに相当する温度が1340℃以下、1335℃以下、1330℃以下、1325℃以下、1320℃以下、特に1315℃以下であるガラスからなることが好ましい。104.5dPa・sにおける温度が高くなると、成形時の温度が高くなり過ぎて、ガラス基板の製造コストが高騰し易くなる。104.5dPa・sにおける温度が低すぎると、液相温度における粘度を高く設計し難い。従って、104.5dPa・sに相当する温度が1190℃以上、1200℃以上、特に1210℃以上であることが好ましい。なお「104.5dPa・sに相当する温度」は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0099】
本発明の方法によって得られる無アルカリガラス基板は、102.5dPa・sにおける温度が1650℃以下、1640℃以下、1630℃以下、1620℃以下、1615℃以下、特に1610℃以下であるガラスからなることが好ましい。102.5dPa・sにおける温度が高くなると、ガラスが溶解し難くなって、ガラス基板の製造コストが高騰すると共に、泡等の欠陥が生じ易くなる。102.5dPa・sにおける温度が低すぎると、液相温度における粘度を高く設計し難い。従って、102.5dPa・sに相当する温度が1490℃以上、1500℃以上、特に1510℃以上であることが好ましい。なお、「102.5dPa・sに相当する温度」は、白金球引き上げ法で測定した値である。
【0100】
本発明の方法によって得られる無アルカリガラスは、液相温度が1280℃未満、1270℃未満、1260℃未満、1250℃未満、1240℃未満、特に1230℃未満であるガラスからなることが好ましい。このようにすれば、ガラス製造時に失透結晶が発生し難く、生産性が低下する事態を防止し易くなる。更に、オーバーフローダウンドロー法で成形し易くなるため、ガラス基板の表面品位を高め易くなると共に、ガラス基板の製造コストを低廉化することができる。そして、近年のガラス基板の大型化、及びディスプレイの高精細化の観点から、表面欠陥となり得る失透物を極力抑制するためにも、耐失透性を高める意義は非常に大きい。なお、液相温度は、耐失透性の指標であり、液相温度が低い程、耐失透性に優れる。「液相温度」は、標準篩30メッシュ(500μm)を通過し、50メッシュ(300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、1100℃から1350℃に設定された温度勾配炉中に24時間保持した後、白金ボートを取り出し、ガラス中に失透(結晶異物)が認められた温度を指す。
【0101】
本発明の方法によって得られる無アルカリガラス基板は、液相温度における粘度が104.0dPa・s以上、104.1dPa・s以上、104.2dPa・s以上、104.3dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.5dPa・s以上、104.6dPa・s以上、104.7dPa・s以上、104.8dPa・s以上、104.9dPa・s以上、特に105.0dPa・s以上であるガラスからなることが好ましい。このようにすれば、成形時に失透が生じ難くなるため、オーバーフローダウンドロー法でガラス基板を成形し易くなり、結果として、ガラス基板の表面品位を高めることが可能になり、またガラス基板の製造コストを低廉化することができる。なお、液相温度における粘度は、成形性の指標であり、液相温度における粘度が高い程、成形性が向上する。なお「液相温度における粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を指し、例えば白金球引き上げ法で測定可能である。
【実施例
【0102】
[実施例1]
以下、本発明の製造方法の実施形態を説明する。図2は、本発明の製造方法を実施するための好適なガラス製造設備1の概略構成を示す説明図である。
【0103】
まずガラス製造設備の構成を説明する。ガラス製造設備10は、原料バッチを電気溶融する溶融窯1と、該溶融窯1の下流側に設けられた清澄槽2と、該清澄槽2の下流側に設けられた調整槽3と、調整槽3の下流側に設けられた成形装置4とを有し、溶融窯1、清澄槽2、調整槽3及び成形装置4は、それぞれ連絡流路5、6、7によって接続されている。
【0104】
前記溶融窯1は、底壁、側壁、及び天井壁を有し、これらの各壁は、ZrO電鋳耐火物等の高ジルコニア系耐火物やデンスジルコンで形成される。側壁は、耐火物が冷却され易いように壁厚が薄く設計されている。また左右両側の側壁下部及び底壁には複数対のモリブデン電極が設置される。各電極には電極温度が過度に上昇しないように冷却手段が設けられる。そして電極間に電気を印加することによりガラスを直接通電加熱することができる。なお本実施態様では、通常生産時に使用するバーナー(生産立ち上げ時のバーナーは除く)やヒーターは設けられていない。
【0105】
前記溶融窯1の上流側の側壁には、炉前サイロ(図示せず)から供給される原料の投入口が設けられ、下流側の側壁には、流出口が形成されており、該流出口を上流端に有する幅狭の連絡流路5を介して溶融窯1と清澄槽2とが接続している。
【0106】
前記清澄槽2は、底壁、側壁及び天井壁を有し、これらの各壁は、高ジルコニア系耐火物で形成されている。また前記連絡流路5は、底壁、側壁及び天井壁を有し、これらの各壁も、ZrO2電鋳耐火物等の高ジルコニア系耐火物で形成されている。前記清澄槽2は、溶融窯1よりも容積が小さく、その底壁及び側壁の内壁面(少なくとも溶融ガラスと接触する内壁面部位)は、白金又は白金合金が内貼りされており、前記連絡流路5の底壁及び側壁の内壁面にも白金又は白金合金が内貼りされている。この清澄槽2は、上流側の側壁に前記流出路5の下流端が開口している。清澄槽2は主としてガラスの清澄が行われる部位であり、ガラス中に含まれる微細な泡が、清澄剤から放出される清澄ガスにより拡大浮上され、ガラスから除去される。
【0107】
前記清澄槽2の下流側の側壁には、流出口が形成されており、該流出口を上流端に有する幅狭の連絡流路6を介して清澄槽2と調整槽3が接続している。
【0108】
前記調整槽3は、底壁、側壁及び天井壁を有し、これらの各壁は、高ジルコニア系耐火物で形成されている。また前記連絡流路6は、底壁、側壁及び天井壁を有し、これらの各壁も、ZrO2電鋳耐火物等の高ジルコニア系耐火物で形成されている。前記調整槽3の底壁及び側壁の内壁面(少なくとも溶融ガラスと接触する内壁面部位)は、白金又は白金合金が内貼りされており、前記連絡流路7の底壁及び側壁の内壁面にも、白金又は白金合金が内貼りされている。調整槽3は主としてガラスを成形に適した状態に調整する部位であり、溶融ガラスの温度を徐々に低下させて成形に適した粘度に調整する。
【0109】
前記調整槽3の下流側の側壁には、流出口が形成されており、該流出口を上流端に有する幅狭の連絡流路7を介して調整槽3と成形装置4が接続している。
【0110】
成形装置4は、ダウンドロー成形装置であり、例えばオーバーフローダウンドロー成形装置である。また前記連絡流路7の底壁及び側壁の内壁面は、白金又は白金合金が内貼りされている。
【0111】
なお本実施例における供給経路とは、溶融窯の下流に設けられる連絡流路5から、成形装置上流側に設けられた連絡流路7までを指す。またここでは溶融窯、清澄槽、調整槽及び成形装置の各部位からなるガラス製造設備を例示したが、例えば調整槽と成形装置の間に、ガラスを攪拌均質化する攪拌槽を設けておくことも可能である。さらに上記各設備は、白金又は白金合金が耐火物に内貼りされてなるものを示したが、これに代えて白金又は白金合金自身で構成された設備を使用してもよいことは言うまでもない。
【0112】
以上のような構成を有するガラス製造設備を用いてガラスを製造する方法を述べる。
【0113】
まず所望の組成となるように、ガラス原料(及びガラスカレット)を混合し、調合する。
【0114】
続いて調合したガラス原料を溶融窯1に投入し、溶融、ガラス化する。溶融窯1内では、モリブデン電極へ電圧印加してガラスを直接通電加熱する。本実施態様ではバーナー燃焼による輻射加熱を行わないため、雰囲気中の水分増加が起こらず、雰囲気からガラス中へ供給される水分量が大幅に低下する。また泡径拡大開始温度が最高清澄温度を下回るように、溶融窯内の底面付近の温度等を調整する。
【0115】
なお本実施態様では、生産立ち上げ時はバーナーを用いてガラス原料を加熱し、最初に投入したガラス原料が融液化した時点でバーナーを停止し、直接通電加熱に移行する。
【0116】
溶融窯1でガラス化された溶融ガラスは、連絡流路5を通って清澄槽2へ導かれる。溶融ガラス中には、ガラス化反応時に発生したガスに起因する泡や、原料粒子間に存在し、ガラス化時に閉じ込められた空気に起因する泡が多数含まれているが、清澄槽2では、これらの泡を清澄剤成分であるSnOから放出された清澄ガスにより拡大浮上させて除去する。
【0117】
清澄槽2で清澄された溶融ガラスは、連絡流路6を通って調整槽へ導かれる。調整槽3へ導かれた溶融ガラスは高温であり、粘性が低く、そのまま成形装置で成形することはできない。そこで調整槽3にてガラスの温度を下げ、成形に適した粘度に調整する。
【0118】
調整槽3で粘性が調整された溶融ガラスは、連絡流路7を通ってオーバーフローダウンドロー成形装置へ導かれ、薄板状に成形される。さらに切断、端面加工等が施され、無アルカリガラスからなるガラス基板を得ることができる。
【0119】
上記方法によれば、ガラス中に供給される水分を極力少なくすることが可能であるため、β-OH値を0.3/mm以下にすることが可能であり、熱収縮率の小さいガラスを得ることができる。
【0120】
[実施例2]
次に、本発明方法を用いて製造したガラスについて説明する。表1~5は本発明の実施例(No.1~6、9~38)及び比較例(No.7、8、39、40)を示している。
【0121】
【表1】
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
【表4】
【表5】
まず表1~5の組成となるように珪砂、酸化アルミニウム、無水ホウ酸、炭酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、炭酸バリウム、メタリン酸アルミ、酸化第二錫、塩化ストロンチウム、塩化バリウムを混合し、調合した。なおNo.1~5については、さらに目標組成と同じ組成のガラスカレット(β-OH値 0.1/mm、原料バッチの総量に対して35質量%使用)を併用した。
【0124】
次に、ガラス原料を、バーナー燃焼を併用しない電気溶融窯に供給して溶融し、続いて清澄槽、調整槽内で、溶融ガラスを清澄均質化するとともに、成形に適した粘度に調整した。なお泡径拡大開始温度の調整は、溶融窯の底面付近の温度を調整することにより行った。工程中の最高温度は清澄槽が最も高くなるようにした。また清澄槽内の最高温度は各表に示す温度とした。なお清澄槽内の最高温度は、清澄槽内壁に内貼りされた白金又は白金合金の温度をモニターすることにより確認した。
【0125】
続いて溶融ガラスをオーバーフローダウンドロー成形装置に供給し、板状に成形した後、切断することにより、0.5mm厚のガラス試料を得た。なお溶融窯を出た溶融ガラスは、白金又は白金合金のみと接触しながら成形装置へと供給された。
【0126】
得られたガラス試料について、β-OH値、歪点、熱収縮率、泡径拡大開始温度及び泡品位を評価した。結果を表1、2に示す。
【0127】
表1~4から明らかなように、泡径拡大開始温度が最高清澄温度より低い場合、優れた泡品位が得られた。
また表5から、泡径拡大開始温度と最高清澄温度の差が十分に大きいと、流量が変わった場合であっても優れた泡品位が得られることが分かった。一方、泡径拡大開始温度が最高清澄温度を上回った場合、流量によらず泡品位が悪かった。
【0128】
なおガラスのβ-OH値は、FT-IRを用いてガラスの透過率を測定し、下記の式を用いて求めた。
【0129】
β-OH値 = (1/X)log10(T1/T2
X :ガラス肉厚(mm)
1:参照波長3846cm-1における透過率(%)
2:水酸基吸収波長3600cm-1付近における最小透過率(%)
【0130】
歪点は、ASTM C336-71の方法に基づいて測定した。
【0131】
熱収縮率は以下の方法で測定した。まず図3(a)に示すように、ガラス基板1の試料として160mm×30mmの短冊状試料Gを準備した。この短冊状試料Gの長辺方向の両端部のそれぞれに、#1000の耐水研磨紙を用いて、端縁から20~40mm離れた位置でマーキングMを形成した。その後、図3(b)に示すように、マーキングMを形成した短冊状試料GをマーキングMと直交方向に沿って2つに折り割って、試料片Ga,Gbを作製した。そして、一方の試料片Gbのみを、常温(25℃)から500℃まで5℃/分で昇温させ、500℃で1時間保持した後に、5℃/分で常温まで降温させる熱処理を行った。上記熱処理後、図3(c)に示すように、熱処理を行っていない試料片Gaと、熱処理を行った試料片Gbを並列に配列した状態で、2つの試料片Ga,GbのマーキングMの位置ずれ量(△L1,△L2)をレーザー顕微鏡によって読み取り、下記の式により熱収縮率を算出した。なお、式中のlは、初期のマーキングM間の距離である。
【0132】
熱収縮率=[{ΔL(μm)+ΔL(μm)}×10]/l(mm) (ppm)
泡径拡大開始温度は、次のようにして求めた。まず得られたガラス板を2.0~5.6mmに粉砕・分級した。分級後のガラス15gを石英管に入れ、1500℃で10分間保持した。その後、昇温速度2℃/分で1500℃から昇温し、ガラス融液中の泡の挙動をビデオカメラで撮影した。撮影した動画もしくは動画から抽出した観察画像を用い、直径100μm以下の任意の泡を3個以上選択し、10℃毎にそれらの泡径を計測した。この観察結果に基づき、泡径の拡大長が50μm以上となる温度を泡径拡大開始温度とした。
【0133】
泡品位は、直径100μm以上の泡を数え、0.05個/kg以下であった場合を「◎」、0.05~0.1個/kgであった場合を「〇」、0.1~0.3個/kgであった場合を「△」、0.3個/kgを超えたものを「×」として表示した。
成形流量は、図2において、流路7から成形装置4に入る溶融ガラスの流量を指し、表6における成形流量比は、実施例No.1を基準に「No.Xの成形流量/No.1の成形流量」の比を示している。
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明によれば、泡品位が良好であり、しかも低温ポリシリコンTFTの作製に好適な熱収縮率の小さなガラス基板を容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0135】
1 溶融窯
2 清澄槽
3 調整層
4 成形装置
5、6、7 連絡流路
10 ガラス製造設備
図1
図2
図3