(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】熱流スイッチング素子
(51)【国際特許分類】
H10N 99/00 20230101AFI20240117BHJP
【FI】
H10N99/00
(21)【出願番号】P 2020025894
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 利晃
(72)【発明者】
【氏名】新井 皓也
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-062370(JP,A)
【文献】特開2010-251692(JP,A)
【文献】特開2013-106043(JP,A)
【文献】特表2019-506111(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0295879(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0144588(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0204585(US,A1)
【文献】国際公開第2010/073398(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103035833(CN,A)
【文献】松永 卓也,外3名,”外部電場で動作する熱流スイッチング素子の作製”,第80回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,公益社団法人応用物理学会,2019年,[令和5年10月17日検索],インターネット,<URL: https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsap2019a/19p-E214-11/public/pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 99/00
H10N 10/00
H10N 15/00
H10N 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する絶縁性フィルム
の基材と、
N型半導体層と、
絶縁体層と、
P型半導体層と
、
前記N型半導体層に接続されたN側電極と、
前記P型半導体層に接続されたP側電極とを備え、
前記絶縁性フィルム上に前記N型半導体層及び前記P型半導体層のうち一方の半導体層が積層され、前記一方の半導体層上に前記絶縁体層が積層され、前記絶縁体層上に前記N型半導体層及び前記P型半導体層のうち他方の半導体層が積層されて
おり、
前記N型半導体層と前記P型半導体層とは、その間に前記絶縁体層を配して絶縁状態であり、
前記N側電極と前記P側電極とに外部電圧を印加することにより熱伝導率が変化し、
前記基材が、湾曲状態とされていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項2】
請求項1に記載の熱流スイッチング素子において、
前記絶縁体層が、絶縁性フィルムであることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項3】
請求項
2に記載の熱流スイッチング素子において、
前記基材及び前記絶縁体層の前記絶縁性フィルムが、樹脂で形成されていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱流スイッチング素子において、
前記基材が、
帯状であり、湾曲されて筒状とされていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の熱流スイッチング素子において、
前記基材が、
帯状であり、渦巻き状に巻回されて柱状とされていることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の熱流スイッチング素子において、
前記N型半導体層及び前記P型半導体層が、厚さ5nm以上かつ1μm未満の薄膜で形成され、
前記絶縁体層が、厚さ1μm未満であることを特徴とする熱流スイッチング素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアス電圧で熱伝導を能動的に制御可能な熱流スイッチング素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導率を変化させる熱スイッチとして、例えば特許文献1には、熱膨張率の異なる2つの熱伝導体を軽く接触させて温度勾配の方向によって熱の流れ方が異なるサーマルダイオードが記載されている。また、特許文献2にも、熱膨張による物理的熱接触を使った熱スイッチである放熱装置が記載されている。
【0003】
また、特許文献3には、化合物に電圧を印加させることで起こる可逆的な酸化還元反応により熱伝導率が変化する熱伝導可変デバイスが記載されている。
さらに、非特許文献1には、ポリイミドテープを2枚のAg2S0.6Se0.4で挟み込んで電場を印加することで熱伝導度を変化させる熱流スイッチング素子が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2781892号公報
【文献】特許第5402346号公報
【文献】特開2016-216688号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】松永卓也、他4名、「バイアス電圧で動作する熱流スイッチング素子の作製」、第15回日本熱電学会学術講演会、2018年9月13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、特許文献1及び2に記載の技術では、熱膨張による物理的熱接触を使うため、再現性が得られず、特に微小変化であるためサイズ設計が困難であると共に、機械接触圧による塑性変形を回避することができない。また、材料間の対流熱伝達の影響が大き過ぎる問題があった。
また、特許文献3に記載の技術では、化学反応である酸化還元反応を用いており、熱応答性に劣り、熱伝導が安定しないという不都合があった。
これらに対して非特許文献1に記載の技術では、電圧を印加することで、材料界面に熱伝導可能な電荷を生成し、その電荷によって熱を運ぶことができるため、熱伝導が変化した状態に直ちに移行でき、比較的良好な熱応答性を得ることができる。しかしながら、生成される電荷の量が少ないため、より生成される電荷の量を増大させ、熱伝導率の変化がさらに大きい熱流スイッチング素子が望まれている。
さらに、従来の素子では、任意の曲面に設置して曲面の広い範囲で熱伝導率を変化させることが困難であった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、熱伝導率の変化がより大きく、優れた熱応答性を有すると共に任意の曲面にも設置可能な熱流スイッチング素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る熱流スイッチング素子は、可撓性を有する絶縁性フィルムと、N型半導体層と、絶縁体層と、P型半導体層とを備え、前記絶縁性フィルム上に前記N型半導体層及び前記P型半導体層のうち一方の半導体層が積層され、前記一方の半導体層上に前記絶縁体層が積層され、前記絶縁体層上に前記N型半導体層及び前記P型半導体層のうち他方の半導体層が積層されていることを特徴とする。
【0009】
すなわち、この熱流スイッチング素子では、絶縁性フィルム上にN型半導体層及びP型半導体層のうち一方の半導体層が積層され、一方の半導体層上に絶縁体層が積層され、絶縁体層上にN型半導体層及びP型半導体層のうち他方の半導体層が積層されているので、P型半導体層とN型半導体層とに電圧を印加すると、P型半導体層及びN型半導体層と絶縁体層との主に界面に電荷が誘起され、この電荷が熱を運ぶことで熱伝導率が変化する。特に、N型半導体層と絶縁体層との界面及びその近傍と、P型半導体層と絶縁体層との界面及びその近傍との両方で電荷が生成されるため、生成される電荷量が多く、熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とを得ることができる。また、外部電圧の大きさに乗じて、界面に誘起される電荷量が変化するので、外部電圧を調整することで、熱伝導率を調整することが可能となるので、本素子を介して、熱流を能動的に制御可能となる。
また、N型半導体層と絶縁体層とP型半導体層とが積層されているので、絶縁体層との界面を広く設定できると共に、N型半導体層とP型半導体層との距離が絶縁体層の厚さで決まり、PN間距離を小さく設計し易くなる。
なお、絶縁体層が絶縁体であるため、電圧印加に伴う電流が発生しないため、ジュール熱は生じない。そのため、自己発熱することなく、熱流を能動的に制御可能となる。
また、可撓性を有する柔軟な絶縁性フィルム上でN型半導体層とP型半導体層とが絶縁体層を挟んでいるので、フレキシブルに曲げることができ、曲面上に曲面に沿って貼り付けることで、任意の曲面に設置しても広い曲面の範囲で熱伝導率を変化させることができる。
【0010】
第2の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1の発明において、前記絶縁体層が、絶縁性フィルムであることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、N型半導体層とP型半導体層との間の絶縁体層も柔軟な絶縁性フィルムであるので、よりフレキシブルに曲げることが可能になる。
【0011】
第3の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1又は第2の発明において、前記絶縁性フィルムが、樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0012】
第4の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、帯状の前記絶縁性フィルムが、湾曲されて筒状とされていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、帯状の絶縁性フィルムが、湾曲されて筒状とされているので、円筒状又は円柱状等の取付対象物の外周面を覆うようにして設置することで、熱媒体が流れている配管等から放出される放熱量の調整を行うことが可能となる。また、この熱流スイッチング素子を円筒状容器の外周面を覆うように取り付けることで、円筒状容器を温度調整可能な蓄熱容器とすることも可能になる。
【0013】
第4の発明に係る熱流スイッチング素子は、第1から第3の発明のいずれかにおいて、帯状の前記絶縁性フィルムが、渦巻き状に巻回されて柱状とされていることを特徴とする。
すなわち、この熱流スイッチング素子では、帯状の絶縁性フィルムが、渦巻き状に巻回されて柱状とされているので、円筒状の取付対象物の内部に挿入することで、取付対象物の内周面の周方向全体に熱接触して取付対象物の放熱量を内部から調整することが容易になる。
また、製造時にN型半導体層とP型半導体層とを複数回積層することなく、積層体と同等の特性を有する熱流スイッチング素子を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る熱流スイッチング素子によれば、絶縁性フィルム上にN型半導体層及びP型半導体層のうち一方の半導体層が積層され、一方の半導体層上に絶縁体層が積層され、絶縁体層上にN型半導体層及びP型半導体層のうち他方の半導体層が積層されているので、N型半導体層と絶縁体層との界面及びその近傍と、P型半導体層と絶縁体層との界面及びその近傍で、外部電圧印加により電荷が生成されるため、生成される電荷量が多く、熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とを得ることができる。
また、可撓性を有する柔軟な絶縁性フィルム上でN型半導体層とP型半導体層とが絶縁体層を挟んでいるので、フレキシブルに曲げることができ、曲面上に曲面に沿って貼り付けることで、任意の曲面に設置しても広い曲面の範囲で熱伝導率を変化させることができる。曲面を有する熱源や冷却源と熱接触させる面積が広いので、非常に高い熱応答性を有する熱流スイッチングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る熱流スイッチング素子の第1実施形態において、円筒状の取付対象物に熱流スイッチング素子を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態において、熱流スイッチング素子を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態において、原理を説明するための概念図である。
【
図4】本発明に係る熱流スイッチング素子の第2実施形態を示す平面図(a)及び斜視図(b)である。
【
図5】第2実施形態において、円筒状の取付対象物に熱流スイッチング素子を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図6】第2実施形態において、熱流スイッチング素子を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る熱流スイッチング素子における第1実施形態を、
図1から
図3を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、各部を認識可能又は認識容易な大きさとするために必要に応じて縮尺を適宜変更している。特に、
図2及び
図6では、各層を実際よりも大幅に厚く図示している。
【0017】
本実施形態の熱流スイッチング素子1は、
図1から
図3に示すように、可撓性を有する絶縁性フィルム2と、N型半導体層3と、絶縁体層4と、P型半導体層5とを備えている。
基材である上記絶縁性フィルム2上には、N型半導体層3及びP型半導体層5のうち一方の半導体層が積層され、一方の半導体層上に絶縁体層4が積層され、絶縁体層4上にN型半導体層3及びP型半導体層5のうち他方の半導体層が積層されている。
【0018】
また、本実施形態の熱流スイッチング素子1は、
図2に示すように、N型半導体層3に接続されたN側電極6と、P型半導体層5に接続されたP側電極7とを絶縁性フィルム2上に備えている。
すなわち、本実施形態では、絶縁性フィルム2上にN側電極6、N型半導体層3、絶縁体層4、P型半導体層5及びP側電極7がこの順で積層されている。
なお、絶縁性フィルム2上に、上記と逆の順序で積層しても構わない。
【0019】
上記N側電極6及びP側電極7には、外部電源Vが接続され、電圧が印加される。なお、
図2における矢印は、電圧(電場)の印加方向を示している。
なお、N型半導体層3及びP型半導体層5に直接電圧を印加可能な場合は、N側電極6及びP側電極7が不要である。すなわち、N型半導体層3及びP型半導体層5に直接ワイヤーボンディングしたり、リード線を接続しても構わない。
【0020】
本実施形態では、帯状の絶縁性フィルム2が湾曲されて筒状とされている。本実施形態では、帯状の絶縁体フィルム2が、その両端部が接続されて円筒状とされている。そして、本実施形態の熱流スイッチング素子1は、
図1に示すように、例えば円筒状の取付対象物Mの外周面に巻回状態で取り付けられる。
なお、上記円筒状の取付対象物Mは、例えば熱媒体が流れる配管等である。
【0021】
N型半導体層3及びP型半導体層5は、厚さ1μm未満の薄膜で形成されている。特に、絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷eは、5~10nmの厚さ範囲で主に溜まるため、N型半導体層3及びP型半導体層5は、100nm以下の膜厚で形成されることがより好ましい。なお、N型半導体層3及びP型半導体層5は、5nm以上の膜厚が好ましい。
なお、
図1中の、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷eの種類は、電子であり、白丸で表記されている。また、P型半導体層5と絶縁体層4との界面及びその近傍に生成される電荷eの種類は、正孔であり、黒丸で表記されている。(正孔は、半導体の価電子帯の電子の不足によってできた孔であり、相対的に正の電荷を持っているように見える。)
また、絶縁体層4は、40nm以上の膜厚が好ましく、絶縁破壊が生じない厚さに設定される。なお、絶縁体層4は、厚すぎると電荷eを運び難くなるため、1μm未満の膜厚とすることが好ましい。
【0022】
N型半導体層3及びP型半導体層5は、低い格子熱伝導を持つ縮退半導体材料が好ましく、例えばSiGe等の熱電材料、CrN等の窒化物半導体、VO2等の酸化物半導体などが採用可能である。なお、N型,P型の導電性は、半導体材料にN型,P型のドーパントを添加すること等で設定している。
【0023】
絶縁体層4は、熱伝導率が小さい絶縁性材料であることが好ましく、SiO2等の絶縁体、HfO2,BiFeO3等の誘電体、有機材料などが採用可能である。特に、誘電率の高い誘電体材料が好ましい。
上記絶縁性フィルム2も熱伝導率が小さい絶縁性材料が好ましい。上記絶縁性フィルム2は、樹脂で形成され、樹脂としては例えばポリイミド樹脂シート等が採用可能である。絶縁性フィルム2としては、他にPET:ポリエチレンテレフタレート,PEN:ポリエチレンナフタレート,LCP:液晶ポリマー等も採用可能である。
上記N側電極6及びP側電極7は、例えばMo,Al等の金属で形成される。
【0024】
本実施形態の熱流スイッチング素子1は、
図3に示すように、電場(電圧)印加により、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍に熱伝導可能な電荷eを生成することで、生成した電荷eが熱を運んで熱伝導率が変化する。
なお、熱伝導率は以下の式で得られる。
熱伝導率=格子熱伝導率+電子熱伝導率
この2種類の熱伝導率のうち、電場(電圧)印加により生成した電荷量に応じて変化するのは、電子熱伝導率である。したがって、本実施形態において、より大きな熱伝導率変化を得るには、格子熱伝導率が小さい材料が適している。したがって、N型半導体層3,絶縁体層4及びP型半導体層5のいずれにおいても、格子熱伝導率が小さい、すなわち、熱伝導率が小さい材料が選択される。
【0025】
本実施形態の各層を構成する材料の熱伝導率は、5W/mK以下、より好ましくは1W/mK以下の低いものであることが良く、上述した材料が採用可能である。
また、上記電子熱伝導率は、印加する外部電場(電圧)に応じて生成される電荷eの量に応じて増大する。
なお、N型半導体層3及びP型半導体層5と絶縁体層4との界面で電荷eが生成されることから、界面の総面積を増やすことで、生成する電荷eの量も増やすことができる。
【0026】
上記熱伝導率の測定方法は、例えば基板上に形成された薄膜試料をパルスレーザーで瞬間的に加熱し、薄膜内部への熱拡散による表面温度の低下速度あるいは表面温度の上昇速度を測定することにより、薄膜の膜圧方向の熱拡散率又は熱浸透率を求める方法であるパルス光加熱サーモリフレクタンス法により行う。なお、上記パルス光加熱サーモリフレクタンス法のうち、熱拡散を直接測定する方法(裏面加熱/表面測温(RF)方式)では、パルスレーザーが透過可能な透明基板を用いる必要があるため、透明基板でない場合は、熱浸透率を測定し、熱伝導率に換算する方式である表面加熱/測温(FF)方式で熱伝導率を測定する。なお、この測定には、金属膜が必要であり、Mo,Al等が採用される。
【0027】
このように本実施形態の熱流スイッチング素子1では、絶縁性フィルム2上にN型半導体層3及びP型半導体層5のうち一方の半導体層が積層され、一方の半導体層上に絶縁体層4が積層され、絶縁体層4上にN型半導体層3及びP型半導体層5のうち他方の半導体層が積層されているので、P型半導体層5とN型半導体層3とに電圧を印加すると、P型半導体層5及びN型半導体層3と絶縁体層4との主に界面に電荷eが誘起され、この電荷eが熱を運ぶことで熱伝導率が変化する。
【0028】
特に、N型半導体層3と絶縁体層4との界面及びその近傍と、P型半導体層5と絶縁体層4との界面及びその近傍との両方で電荷eが生成されるため、生成される電荷量が多く、熱伝導率の大きな変化と高い熱応答性とを得ることができる。また、化学反応機構を用いない、物理的に熱伝導率を変化させる機構であるので、熱伝導が変化した状態に直ちに移行でき、良好な熱応答性を得ることができる。
【0029】
また、絶縁性フィルム2上にN型半導体層3及びP型半導体層5のうち一方の半導体層が積層され、一方の半導体層上に絶縁体層4が積層され、絶縁体層4上にN型半導体層3及びP型半導体層5のうち他方の半導体層が積層されているので、絶縁体層4との界面を広く設定できると共に、N型半導体層3とP型半導体層5との距離が絶縁体層4の厚さで決まり、PN間距離を小さく設計し易くなる。また、外部電圧の大きさに乗じて、界面に誘起される電荷量が変化するので、外部電圧を調整することで、熱伝導率を調整することが可能となり、本素子を介して、熱流を能動的に制御可能となる。
なお、絶縁体層4が絶縁体であるため、電圧印加に伴う電流が発生しないため、ジュール熱は生じない。そのため、自己発熱することなく、熱流を能動的に制御可能となる。
【0030】
また、可撓性を有する柔軟な絶縁性フィルム2上でN型半導体層3とP型半導体層5とが絶縁体層4を挟んでいるので、フレキシブルに曲げることができ、曲面上に曲面に沿って貼り付けることで、任意の曲面に設置しても広い曲面の範囲で熱伝導率を変化させることができる。曲面を有する熱源や冷却源と熱接触させる面積が広いので、非常に高い熱応答性を有する熱流スイッチングが可能となる。
【0031】
特に、帯状の絶縁性フィルム2が、湾曲されて筒状とされているので、円筒状又は円柱状等の取付対象物Mの外周面を覆うようにして設置することで、熱媒体が流れている配管等から放出される放熱量の調整を行うことが可能となる。また、この熱流スイッチング素子1を円筒状容器の外周面を覆うように取り付けることで、円筒状容器を温度調整可能な蓄熱容器とすることも可能になる。
なお、帯状の絶縁性フィルム2を円筒状又は円柱状等の取付対象物Mの周囲に設置しているが、絶縁性フィルム2を複数回巻回してもよく、取付対象物Mに螺旋状に巻きつけてもよい。
また、取付対象物Mは円筒状又は円柱状円筒状ではなくてもよく、断面が略多角形の柱状や楕円状でもよい。
【0032】
次に、本発明に係る熱流スイッチング素子の第2実施形態について、
図4から
図6を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0033】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、帯状の絶縁性フィルム2が、湾曲されて筒状とされ、熱流スイッチング素子1を円筒状の取付対象物Mの外周面に巻回させて取り付けているのに対し、第2実施形態の熱流スイッチング素子21では、
図4及び
図5に示すように、N型半導体層23,絶縁体層及びP型半導体層25が積層された帯状の絶縁性フィルム22が、渦巻き状に巻回されて柱状とされ、円筒状の取付対象物Mの内周面に密着させて内部に挿入させている点である。
【0034】
すなわち、第2実施形態では、帯状の絶縁性フィルム22を渦巻き状に巻回させて円柱状にすることで、
図4の(a)(b)に示すように、絶縁性フィルム22上のN型半導体層23とP型半導体層25とが、絶縁層を挟みながら渦巻き状に巻回される。
また、第1実施形態では、N型半導体層3とP型半導体層5との間にSiO
2等の絶縁体層4が介在しているのに対し、第2実施形態では、絶縁体層がポリイミド樹脂シート等の樹脂製の絶縁性フィルム22である点で異なっている。
【0035】
すなわち、第2実施形態の熱流スイッチング素子21は、
図6に示すように、絶縁性フィルム22上にN型半導体層23とN型半導体層23の端部上にパターン形成したN側電極26とを成膜したN側フィルム22Nと、絶縁性フィルム22上にP型半導体層25とP型半導体層25の端部上にパターン形成したP側電極27とを成膜したP側フィルム22Pとを、N型半導体層23とP型半導体層25とが絶縁性フィルム22を挟んだ状態で互いに重ね合わせ、巻回して円柱状にすることで構成されている。
【0036】
このように第2実施形態の熱流スイッチング素子21では、帯状の絶縁性フィルム22が、渦巻き状に巻回されて柱状とされているので、
図5に示すように、筒状の取付対象物Mの内部に挿入することで、取付対象物Mの内周面の周方向全体に熱接触して取付対象物Mの放熱量を内部から調整することが容易になる。
また、N型半導体層23とP型半導体層25との間の絶縁体層も柔軟な絶縁性フィルム22であるので、よりフレキシブルに曲げることが可能になる。
なお、第2実施形態では、N側フィルム22NとP側フィルム22Pとの2枚の絶縁性フィルムを用いて筒状の熱流スイッチング素子としたが、第1実施形態のように1枚の帯状の絶縁性フィルム2にN型半導体層3と絶縁層4とP型半導体層5とを積層したものを渦巻き状に巻回することで、筒状の熱流スイッチング素子としてもかまわない。
【0037】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1,21…熱流スイッチング素子、2,22…絶縁性フィルム、3,23…N型半導体層、4…絶縁体層、5,25…P型半導体層、6,26…N側電極、7,27…P側電極