(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】電気デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C06B 45/12 20060101AFI20240117BHJP
C06B 43/00 20060101ALI20240117BHJP
C06B 45/14 20060101ALI20240117BHJP
B23K 3/04 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C06B45/12
C06B43/00
C06B45/14
B23K3/04
(21)【出願番号】P 2020023128
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門口 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】生津 資大
(72)【発明者】
【氏名】訓谷 保広
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】児玉 健太
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-085352(JP,A)
【文献】特開2010-185665(JP,A)
【文献】特開2015-178676(JP,A)
【文献】特表2015-514581(JP,A)
【文献】特開2017-202952(JP,A)
【文献】特開2015-116574(JP,A)
【文献】特表2006-528556(JP,A)
【文献】米国特許第05340533(US,A)
【文献】特開2016-048781(JP,A)
【文献】自己伝播発熱素材を用いた瞬間はんだ接合技術,エレクトロニクス実装学会誌,日本,2015年,Vol.18,No.7,474-478
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C06B 45/12
C06B 43/00
C06B 45/14
B23K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合された二つの部材を含む電気デバイスの製造方法であり、
前記二つの部材の各接合面の間に、自己伝播発熱反応を示す多層膜を配置する工程と、
前記多層膜を自己伝播発熱反応させることによって、前記二つの部材を互いに接合する工程と、
を備え、
前記二つの部材の各接合面は、Al材で被覆されており、
前記多層膜は、最外層がNi層となるようにNi層とAl層とが交互に積層された構造、又は、最外層がTi層となるようにTi層とSi層とが交互に積層された構造を有し、
前記接合する工程では、前記多層膜の自己伝播発熱反応と並行して、前記多層膜の最外層を構成するNi層又はTi層が、前記接合面を被覆する前記Al材と反応して化合物を生成
し、
前記Al材の厚みは、前記接合する工程の後において前記化合物で構成された層と前記二つの部材のそれぞれとの間に前記Al材が残存する厚みである、
製造方法。
【請求項2】
前記多層膜は、前記Ni層と前記Al層とが交互に積層された
前記構造を有するとともに、前記Al層にはBが含有されている、
請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、例えば半導体装置といった電気デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、自己伝播発熱反応を利用して、二つの部材を電気的及び物理的に接合する技術が開示されている。この技術では、二つの部材の各接合面の間に、自己伝播発熱反応を示す多層膜を配置し、その多層膜を自己伝播発熱反応させることによって、二つの部材を互いに接合する。反応後の多層膜は、比較的に融点の高い化合物層となり、高温下でも安定した接合層を構成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した接合技術は、常温での接合も可能であることから、例えば半導体装置といった、様々な電気デバイスの製造に対して好適に適用することができる。しかしながら、多層膜の自己伝播発熱反応では、化合物の生成に伴う体積減少が比較的に大きく、各部材と接合層との間で剥離やボイドが発生したり、接合層(反応後の多層膜)にクラックが生じることがある。本明細書は、このような問題を解決又は低減し得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、互いに接合された二つの部材を含む電気デバイスについて、一つの製造方法に具現化される。この製造方法は、二つの部材の各接合面の間に、自己伝播発熱反応を示す多層膜を配置する工程と、多層膜を自己伝播発熱反応させることによって、二つの部材を互いに接合する工程とを備える。この製造方法において、二つの部材の各接合面は、Al(アルミニウム)材で被覆されている。また、多層膜は、最外層がNi(ニッケル)層となるようにNi層とAl層とが交互に積層された構造を有するか、又は、最外層がTi(チタン)層となるようにTi層とSi(シリコン)層とが交互に積層された構造を有する。これにより、多層膜が自己伝播発熱反応するときに、それと並行して、多層膜の最外層を構成するNi層又はTi層が、少なくとも一方の部材の接合面を被覆するAl材と反応して化合物を生成する。接合層(即ち、反応後の多層膜)と各部材との間が強固に結合されるので、剥離やボイドといった界面における欠陥の発生が抑制される。
【0006】
本明細書が開示する技術は、互いに接合された二つの部材を含む電気デバイスについて、他の一つの製造方法にも具現化される。この製造方法もまた、二つの部材の各接合面の間に、自己伝播発熱反応を示す多層膜を配置する工程と、多層膜を自己伝播発熱反応させることによって、二つの部材を互いに接合する工程とを備える。但し、この製造方法では、前二つの部材の各接合面が、Al材に限定されない金属材料で被覆されていればよい。また、多層膜は、Ni層とAl層とが交互に積層された構造を有するとともに、Al層にはB(ボロン)が含有されている。これにより、反応後の多層膜(即ち、接合層)は、AIとNiとの化合物にBが添加されたものとなり、Bが添加されていないものと比較して延性が高まる。接合層の延性が高まることで、接合層にクラックが生じることが抑制される。
【0007】
上記した各々の製造方法において、Al材又はAl層とは、Al又はAl合金で構成された材料又は層を意味し、Alのみで構成された材料又は層に限定されるものではない。Ni層、Ti層及びSi層についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の半導体装置10の構造を模式的に示す断面図。
【
図2】実施例1の半導体装置10の製造方法の一例であって、Ni層32とAl層34とが交互に積層された多層膜30xを使用した場合を示す。
【
図3】実施例1の半導体装置10の製造方法の一変形例であって、多層膜30xが半導体素子12に予め設けられた場合を示す。
【
図4】実施例1の半導体装置10の製造方法の一変形例であって、多層膜30xが絶縁回路基板20に予め設けられた場合を示す。
【
図5】実施例1の半導体装置10の製造方法の一変形例であって、Ti層132とSi層134とが交互に積層された多層膜130xを使用した場合を示す。
【
図6】実施例2の半導体装置10Aの構造を模式的に示す断面図。
【
図7】実施例2の半導体装置10Aの製造方法の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施例1)図面を参照して、実施例1の半導体装置10とその製造方法について説明する。
図1に示すように、半導体装置10は、半導体素子12と絶縁回路基板20とを備えており、それらの間が接合層30を介して接合されている。なお、半導体素子12及び絶縁回路基板20は、半導体装置10を構成する複数の部材の一部である。本明細書で開示する技術は、半導体素子12と絶縁回路基板20に限られず、半導体装置10を構成する他の二つの部材(図示省略)にも、同様に適用することができる。さらに、本明細書で開示する技術は、半導体装置10に限られず、物理的及び電気的に接合された二つの部材を有する限りにおいて、様々な電気デバイスにも採用することができる。
【0010】
半導体素子12は、パワー半導体素子であって、例えばダイオード、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、又は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってよい。また、半導体素子12の半導体基板は、例えばSi基板、SiC(炭化シリコン)基板、又は、GaN(窒化ガリウム)基板であってよい。半導体素子12の具体的な構成については、特に限定されない。
【0011】
絶縁回路基板20は、セラミック基板22と、セラミック基板22の一面に設けられた内側導体板24と、セラミック基板22の他面に設けられた外側導体板26とを備える。特に限定されないが、セラミック基板22は、SiN(窒化シリコン)で構成されており、内側導体板24及び外側導体板26は、Cu(銅)で構成されている。絶縁回路基板20は、例えばDBC(Direct Bonded Copper)基板や、AMB(Active Metal Braze Copper)基板であってもよい。
【0012】
接合層30は、半導体素子12と絶縁回路基板20との間に位置しており、AlとNiとの化合物(即ち、Ni-Al系金属間化合物)で構成されている。Ni-Al系金属間化合物の具体的な組成については、特に限定されないが、例えばAlNiであってよい。Ni-Al系金属間化合物は、比較的に高い融点を有するので、半導体装置10が高温下で動作する場合であっても、半導体素子12と絶縁回路基板20との間の接合は安定して維持される。ここで、接合層30の厚みについては、一例ではあるが、1~50マイクロメートルとすることができる。なお、他の実施形態として、接合層30は、TiとSiとの化合物(即ち、Ti-Si系金属間化合物)で構成されてもよい。この場合でも、Ti-Si系金属間化合物の具体的な組成については特に限定されないが、例えばTiSi及び/又はTi5Si4であってよい。
【0013】
接合層30と半導体素子12との間には、バッファ層40が設けられている。本実施例におけるバッファ層40は、Al材で構成されている。Al材は、比較的に高い延性を有する。従って、バッファ層40がAl材で構成されていると、接合層30と半導体素子12との間で応力を緩和するように機能する。同様に、接合層30と内側導体板24との間にも、バッファ層42が設けられている。このバッファ層42についても、Al材で構成されており、接合層30と内側導体板24との間で応力を緩和するように機能する。なお、バッファ層40、42の各厚みは、1マイクロメートル以上であるとよく、それによって応力を緩和する機能を十分に発揮することができる。他の実施形態として、バッファ層40、42は、Zn(亜鉛)材、Cu材、Ag(銀)材で構成されてもよい。これらの材料についても、比較的に高い延性を有しているので、Al材の場合と同じく、バッファ層40、42は応力を緩和する機能を発揮することができる。また、これらの金属材料の融点は、Si(錫)の融点(232℃)よりも高いことから、例えばはんだ付けで組み付けられた製品と比較して、半導体装置10が高温下で動作することを可能とする。
【0014】
次に、
図2を参照して、半導体装置10の製造方法について説明する。
図2に示すように、半導体装置10の製造方法では、先ず、半導体素子12の接合面12aと、絶縁回路基板20の接合面20aとの間に、多層膜30xを配置する。なお、
図2では、図示の明瞭化を目的として、三つの部材12、20、30xの間に隙間が設けられているが、実際は、それら三つの部材12、20、30xは互いに接触するように重畳配置される。
【0015】
半導体素子12の接合面12aには、Al材で構成されたバッファ層40が予め設けられている。絶縁回路基板20の接合面20aにも、Al材で構成されたバッファ層42が予め設けられている。バッファ層40、42の各厚みは、特に限定されないが、例えば1マイクロメートル以上とすることができる。また、バッファ層40と半導体素子12との間や、バッファ層42と絶縁回路基板20との間には、Alの拡散を防止するための金属バリア層が設けられてもよい。この場合、金属バリア層は、例えばCr(クロム)やTiを用いて構成することができる。
【0016】
多層膜30xは、Ni層32とAl層34とが交互に積層された構造を有しており、自己伝播発熱反応を示す多層膜である。ここで、本実施例における多層膜30xでは、表裏に位置する各最外層がNi層32となるように、Ni層32とAl層34とが交互に積層されている。多層膜30xのその他の構成については、特に限定されない。一例ではあるが、本実施例における多層膜30xでは、Ni層32が40ナノメートルの厚みを有しており、Al層34が60ナノメートルの厚みを有しており、Ni層32とAl層34とがそれぞれ300層ずつ積層されている。
【0017】
次に、多層膜30xを自己伝播発熱反応させることによって、半導体素子12と絶縁回路基板20との間を互いに接合する。多層膜30xを自己伝播発熱反応させる具体的な方法は、特に限定されない。例えば、真空下(例えば5×10-4Pa)あるいは、不活性ガス(例えばN2やAr)雰囲気下において、多層膜30xに電圧(例えば20ボルト)を印加することにより、多層膜30xを自己伝播発熱反応させることができる。あるいは、多層膜30xに機械的な刺激を与えることでも、多層膜30xを自己伝播発熱反応させることができる。あるいは、多層膜30xにレーザ光を照射することでも、多層膜30xを自己伝播発熱反応させることができる。なお、多層膜30xの自己伝播発熱反応は、常温で行うことができるが、例えば多層膜30xの厚みが比較的に小さいときなど、多層膜30xによる発熱量が不足する場合には、予備的又は補助的に多層膜30xを加熱してもよい。
【0018】
多層膜30xを自己伝播発熱反応させると、多層膜30xの内部では、互いに隣接するNi層32とAl層34とが反応することで、Ni-Al系金属間化合物の生成が生じる。これにより、反応後の多層膜30xは、Ni-Al系金属間化合物で構成された接合層30(
図1参照)となり、半導体素子12と絶縁回路基板20との間が接合される。ここで、前述したように、多層膜30xの最外層にはそれぞれNi層32が位置しており、それらのNi層32には、Al材で構成されたバッファ層40、42がそれぞれ接触している。従って、多層膜30xが自己伝播発熱反応するときに、それと並行して、多層膜30xの最外層を構成するNi層32は、バッファ層40、42のAl材と反応して化合物(即ち、Ni-Al系金属間化合物)を生成する。その結果、反応後の多層膜30x(即ち、接合層30)は、半導体素子12及び絶縁回路基板20のそれぞれに強固に結合され、剥離やボイドといった界面における欠陥の発生が抑制される。
【0019】
前述したように、バッファ層40、42の厚みは、例えば1マイクロメートル以上であって、比較的に大きい。従って、上記した接合の後でも、接合層30と半導体素子12との間、及び、接合層30と絶縁回路基板20との間には、Al材で構成されたバッファ層40、42が残存する。これにより、バッファ層40、42は、製造段階において接合性を高めるという効果を奏するだけでなく、完成後の半導体装置10においても、応力を緩和するという効果を奏することができる。
【0020】
図2に示したように、多層膜30xは、独立した部材として用意することができる。しかしながら、
図3に示すように、多層膜30xは、半導体素子12に予め設けられていてもよい。この場合、多層膜30xを自己伝播発熱反応させたときに、多層膜30xの最外層に位置するNi層32は、絶縁回路基板20に設けられたバッファ層42のみと化合物を生成する。あるいは、
図4に示すように、多層膜30xは、絶縁回路基板20上に予め設けられていてもよい。この場合、多層膜30xを自己伝播発熱反応させたときに、多層膜30xの最外層に位置するNi層32は、半導体素子12に設けられたバッファ層42のみと化合物を生成する。いずれの場合においても、多層膜30xは、例えばスパッタリングによって成膜することができる。
【0021】
図5に示すように、上記した製造方法の一変形例として、多層膜130xは、Ti層132とSi層134とが交互に積層された構造を有してもよい。この場合でも、多層膜130xは、自己伝播発熱反応を示すことができる。なお、この多層膜130xでは、表裏に位置する各最外層がTi層132となるように、Ti層132とSi層134とが交互に積層されるとよい。このような構成によっても、多層膜130xの内部では、互いに隣接するTi層132とSi層134とが反応することで、Ti-Si系金属間化合物の生成が生じる。さらにそれと並行して、多層膜130xの最外層を構成するTi層132は、バッファ層40、42のAl材と反応して化合物(即ち、Ti-Al系金属間化合物)を生成する。その結果、反応後の多層膜130xは、半導体素子12及び絶縁回路基板20のそれぞれと強固に結合され、剥離やボイドといった界面における欠陥の発生が抑制される。
【0022】
一例ではあるが、多層膜130xは、Ti層132が13.5ナノメートルの厚みを有し、Si層134が11.5ナノメートルの厚みを有し、Ti層132とSi層134とがそれぞれ80層ずつ積層されてもよい。また、この多層膜130xについても、前述した多層膜30xと同じく、独立した部材で用意されてもよいし、半導体素子12又は絶縁回路基板20に対して予め設けられていてもよい。
【0023】
(実施例2)次に、実施例2の半導体装置10Aとその製造方法について説明する。
図6に示すように、本実施例の半導体装置10Aもまた、半導体素子12と絶縁回路基板20とを備えており、それらの間が接合層230を介して接合されている。半導体素子12と絶縁回路基板20については、実施例1と共通していることから、ここでは重複する説明を省略する。
【0024】
接合層230は、半導体素子12と絶縁回路基板20との間に位置しており、AlとNiとの化合物(即ち、Ni-Al系金属間化合物)で構成されている。但し、本実施例における接合層230では、B(ボロン)が添加されており、実施例1における接合層30よりも高い延性を有する。即ち、Bが未添加のNi-Al系金属間化合物は、脆性破壊の挙動を示すのに対して、Bが添加されたNi-Al系金属間化合物は、延性破壊の挙動を示す。接合層230が比較的に高い延性を示すことで、接合層230やその周辺におけるクラックの発生が効果的に抑制される。ここで、接合層230中のBの濃度は、特に限定されないが、0.1重量パーセントとすることができる。
【0025】
本実施例においても、接合層230と半導体素子12との間、及び、接合層230と半導体素子12との絶縁回路基板20との間には、バッファ層240、242がそれぞれ設けられている。但し、このバッファ層240、242は、特に限定されないが、Sn材で構成されている。本実施例の半導体装置10では、接合層230が比較的に高い延性を有しており、それによって接合層230やその周辺における欠陥(クラック等)の発生が抑制される。従って、バッファ層240、242には、Sn材を採用することができる。しかしながら、バッファ層240、242は、Sn材に限定されず、Al材、Zn材、Cu材、Ag材といった、他の金属材料を用いることもできる。
【0026】
次に、
図7を参照して、本実施例の半導体装置10Aの製造方法について説明する。
図7に示すように、この製造方法では、先ず、半導体素子12の接合面12aと、絶縁回路基板20の接合面20aとの間に、多層膜230xを配置する。なお、
図7では、図示の明瞭化を目的として、三つの部材12、20、230xの間に隙間が設けられているが、実際は、それら三つの部材12、20、230xは互いに接触するように重畳配置される。
【0027】
半導体素子12の接合面12aには、Sn材で構成されたバッファ層40が予め設けられている。絶縁回路基板20の接合面20aにも、Sn材で構成されたバッファ層42が予め設けられている。バッファ層240、242の各厚みは、特に限定されないが、例えば1マイクロメートル以上とすることができる。なお、バッファ層240、242は、前述したように、Al材といった他の金属材料で構成されてもよい。バッファ層240、242がAl材で構成される場合は、バッファ層240と半導体素子12との間や、バッファ層242と絶縁回路基板20との間に、例えばCr(クロム)やTiを用いて構成された金属バリア層がさらに設けられてもよい。
【0028】
多層膜230xは、Ni層232とAl層234とが交互に積層された構造を有しており、自己伝播発熱反応を示す多層膜である。また、Al層234には、Bが含有されている。多層膜230xのその他の構成については、特に限定されない。一例ではあるが、本実施例における多層膜230xでは、Ni層232が40ナノメートルの厚みを有しており、Al層234が60ナノメートルの厚みを有しており、Ni層232とAl層234とがそれぞれ300層ずつ積層されている。多層膜230xは、スパッタリングによって成膜することができる。この場合、Al層234を成膜するためのターゲットには、0.32重量パーセントの濃度でBを含有するAl材を用いることができる。また、特に限定されないが、本実施例における多層膜230xにおいても、表裏に位置する各最外層はNi層32となっている。
【0029】
次に、多層膜230xを自己伝播発熱反応させることによって、半導体素子12と絶縁回路基板20との間を互いに接合する。多層膜230xの自己伝播発熱反応は、例えば実施例1と同様に行うことができ、その具体的な方法は特に限定されない。多層膜230xを自己伝播発熱反応させると、多層膜230xの内部では、互いに隣接するNi層32とAl層34とが反応することで、Ni-Al系金属間化合物の生成が生じる。これにより、反応後の多層膜230xは、Ni-Al系金属間化合物で構成された接合層230(
図6参照)となり、半導体素子12と絶縁回路基板20との間が接合される。本実施例では、多層膜230xのAl層234にBが含有されていたので、接合層230を構成するNi-Al系金属間化合物にもBが含有されている。前述したように、Al層234の成膜に0.32重量パーセントの濃度でBを含有するターゲットを使用した場合、反応後の多層膜230x(即ち、接合層230)には、0.1重量パーセントの濃度でBが含有されることが確認されている。
【0030】
以上のように、実施例2の製造方法では、多層膜230xのAl層234にBが含有されている。これにより、反応後の多層膜230x(即ち、接合層230)は、AIとNiとの化合物にBが添加されたものとなり、Bが添加されていないものと比較して延性が高まる。接合層230の延性が高まることで、接合層230やその周辺に生じる応力が緩和され、クラックといった欠陥の発生が有意に抑制される。
【0031】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書、又は、図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書又は図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0032】
10、10A:半導体装置
12:半導体素子
20:絶縁回路基板
30、230:接合層
30x、130x、230x:多層膜
40、42、240、242:バッファ層