(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】減衰装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20240117BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240117BHJP
F16F 15/073 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
F16F15/04 L
F16F15/023 A
F16F15/073
(21)【出願番号】P 2020110267
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 一生
(72)【発明者】
【氏名】岡村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 聡
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-44328(JP,A)
【文献】特開2017-203297(JP,A)
【文献】特開2017-3089(JP,A)
【文献】特開2012-13234(JP,A)
【文献】実開昭49-69109(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00-15/36
F16F 1/00-6/00
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルダンパーと、
前記オイルダンパーに直列に連結される弾性機構と、を備え、
前記弾性機構は圧縮量の調整によりばね定数が調整可能である減衰装置。
【請求項2】
前記弾性機構が、
シリンダーと、
前記オイルダンパーに連結され、前記シリンダーの一端に設けられる第1エンドプレートと、
前記シリンダーの他端に設けられる第2エンドプレートと、
前記第2エンドプレートを貫通して前記シリンダーに挿入され、軸方向に移動可能なピストンロッドと、
前記シリンダー内において前記ピストンロッドの外周面から径方向外方に向かって突出するフランジと、
前記第1エンドプレート又は前記第2エンドプレートに螺合して、軸方向に前記シリンダー内に突き出る調整ボルトと、
前記シリンダー内において前記調整ボルトに突き当てられ、軸方向に移動可能な座板と、
前記フランジと前記座板との間に挟まれる第1の非線形スプリングと、
前記第1エンドプレート及び前記第2エンドプレートのうち前記調整ボルトが螺合してしてないエンドプレートと前記フランジとの間に挟まれる第2の非線形スプリングと、を有する請求項1に記載の減衰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに直列に連結されるオイルダンパー及び弾性機構を備える減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、互いに直列に連結されるオイルダンパー及び弾性機構を有した減衰装置を建物に設置する技術が開示されている。オイルダンパーの減衰係数及び弾性機構のばね定数は、減衰装置が設置される建物に合わせて設計される。ところが、建物の構築の際に誤差が発生した場合、オイルダンパーの弾性機構のばね定数がその建物に適さないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、減衰装置の弾性機構のばね定数を設置現場の状況に適合できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、減衰装置が、オイルダンパーと、前記オイルダンパーに直列に連結される弾性機構と、を備え、前記弾性機構は圧縮量の調整によりばね定数が調整可能である。
よって、弾性機構の圧縮量を調整することによってばね定数を設置現場の状況に適合するように調整することができる。
【0006】
好ましくは、前記弾性機構が、シリンダーと、前記オイルダンパーに連結され、前記シリンダーの一端に設けられる第1エンドプレートと、前記シリンダーの他端に設けられる第2エンドプレートと、前記第2エンドプレートを貫通して前記シリンダーに挿入され、軸方向に移動可能なピストンロッドと、前記シリンダー内において前記ピストンロッドの外周面から径方向外方に向かって突出するフランジと、前記第1エンドプレート又は前記第2エンドプレートに螺合して、軸方向に前記シリンダー内に突き出る調整ボルトと、前記シリンダー内において前記調整ボルトに突き当てられ、軸方向に移動可能な座板と、前記フランジと前記座板との間に挟まれる第1の非線形スプリングと、前記第1エンドプレート及び前記第2エンドプレートのうち前記調整ボルトが螺合してしてないエンドプレートと前記フランジとの間に挟まれる第2の非線形スプリングと、を有する。
よって、調整ボルトをねじ込めば、第1及び第2の非線形スプリングの圧縮変位が増加するため、弾性機構のばね定数が調整される。調整ボルトを緩めれば、第1及び第2の非線形スプリングの圧縮変位が減少するため、弾性機構のばね定数が調整される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、減衰装置の弾性機構のばね定数を設置現場の状況に適合するように調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】減衰装置を一部破断して示した部分断面図である。
【
図4】減衰装置の弾性機構の弾性特性を示したグラフである。
【
図5】変位の応答特性についてのシミュレーション結果である。
【
図6】加速度の応答特性についてのシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているので、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0010】
図1は減衰装置1の一部を破断して示した部分断面図であり、
図2は
図1の一部の拡大図であり、
図3は減衰装置1を力学的にモデル化して示した図面である。この減衰装置1は、その両端部(つまり、後述の連結部40,50)が建物等の構造物に連結されて、地震等による構造物の振動エネルギーを吸収することによって構造物の振動を減衰させる。
【0011】
減衰装置1は、オイルダンパー10と、弾性機構30と、連結部40,50と、連結ブロック60とを備える。オイルダンパー10と弾性機構30はこれらの間に連結ブロック60を介在させて、連結部40と連結部50との間において直列に互いに連結される。オイルダンパー10は、力学的に粘弾性体として機能するため、ばね110とダッシュポッド112を直列に連結したマクスウェルモデルにモデル化される。弾性機構30は、力学的にばね130として機能する。弾性機構30がオイルダンパー10に直列に連結されるため、減衰装置1全体としてのばね定数、つまりばね110とばね130の直列のばね定数は、オイルダンパー10のばね110のばね定数よりも小さくなる。
【0012】
弾性機構30のばね定数は減衰装置1の設置現場の状況に適合させるべく調整可能である。具体的には、
図4に示すように、弾性機構30の変位と荷重の関係は非線形であり、変位が大きくなるにつれて傾きが小さく(剛性が低く)なるものの、変位の狭い範囲では傾きが一定で線形とみなすことができる。したがって、弾性機構30の初期変位を調整することによって弾性機構30のばね定数が調整され、弾性機構30が地震等によって微視的に変位しても荷重と変位は正比例の関係にみなせる。
【0013】
弾性機構30のばね定数を調整することにより、減衰装置1全体としてのばね定数、つまりばね110とばね130の直列のばね定数も調整することができる。
【0014】
オイルダンパー10はシリンダー11、ロッド12、ピストン及びオイルを備える。オイルがシリンダー11に封入されている。ロッド12の一部がシリンダー11に挿入されて、ピストンがそのロッド12の基端部に取り付けられており、ロッド12及びピストンが軸方向に移動可能となっている。ピストンがシリンダー11内の空間を軸方向に区画する。ピストンには制御弁が設けられ、ピストンによって仕切られた一方の空間内のオイルがピストンの軸方向の移動に伴って他方の空間へ制御弁を通過し、その通過抵抗によりロッド12の振動が減衰する。なお、シリンダー11内に、オイルの存在する空間と気体の存在する空間を仕切るフリーピストンが設けられてもよい。
【0015】
オイルダンパー10のロッド12の先端には連結部40が設けられ、その連結部40が軸方向に直交するピンの回りに回転可能にビル等の構造体に連結される。シリンダー11の基端部が連結ブロック60を介して弾性機構30に連結されている。
【0016】
弾性機構30はシリンダー31、エンドプレート32、エンドプレート33、ピストンロッド34、フランジ35、座板36、調整ボルト37、非線形スプリング38及び非線形スプリング39を有する。
【0017】
シリンダー31は両端が開口した筒状に設けられている。エンドプレート32がシリンダー31の一端にボルト等によって固定され、エンドプレート33がシリンダー31の他端にボルト等によって固定されている。シリンダー31の両端の開口がそれぞれエンドプレート32,33によって蓋をされている。エンドプレート32の中央には開口32aが形成されており、連結ブロック60がボルト等によってエンドプレート32に固定されて、開口32aが連結ブロック60によって蓋をされている。
【0018】
ピストンロッド34がエンドプレート33の開口33aを貫通して、ピストンロッド34の一部がシリンダー31に挿入されている。ピストンロッド34の一端がシリンダー31内においてエンドプレート32の開口32aに差し込まれ、ピストンロッド34の他端がシリンダー31の外において連結部50に取り付けられている。連結部50は軸方向に直交するピンの回りに回転可能にビル等の構造体に連結される。
【0019】
座板36はシリンダー31内のエンドプレート33寄りに収容されている。この座板36がリング状に設けられ、ピストンロッド34が座板36の穴に挿入されている。この座板36は軸方向に移動可能に設けられている。
【0020】
ピストンロッド34の中間部にはフランジ35が一体に設けられている。このフランジ35はピストンロッド34の外周面から径方向外方に向かって突出している。フランジ35は、シリンダー31内に収容されて、座板36とエンドプレート32との間に位置している。
【0021】
非線形スプリング38がシリンダー31内においてエンドプレート32とフランジ35との間に挟まれており、非線形スプリング39がシリンダー31内においてフランジ35と座板36との間に挟まれている。非線形スプリング38は、複数の皿ばね38aが軸方向に積み重ねられることにより構成された皿ばね積層体からなる。非線形スプリング39も、複数の皿ばね39aが軸方向に積み重ねられることにより構成された皿ばね積層体からなる。皿ばね38a,39aは非線形ばねであり、皿ばね38a,39aの圧縮量が大きくなるにつれて皿ばね38a,39aのばね定数が小さくなる。なお、逆に、皿ばね38a,39aの圧縮量が小さくなるにつれて皿ばね38a,39aのばね定数が大きくなってもよい。
【0022】
エンドプレート33には複数の雌ねじ穴が周方向に等間隔で形成されている。複数の調整ボルト37が複数の雌ねじ穴にそれぞれねじ込まれて、各調整ボルト37の先端が座板36に突き当てられている。
【0023】
以上の減衰装置1においては、弾性機構30のばね定数を設置現場の状況に適合するように調整できる。調整に際しては、作業者が調整ボルト37を回転させることによって、エンドプレート33からシリンダー31内への調整ボルト37の突出長さを調整して、座板36の初期位置を軸方向に調整する。具体的には、調整ボルト37によって座板36の初期位置をエンドプレート33から離すにつれて、非線形スプリング38,39の圧縮量及び弾性機構30の初期変位が増加する。これにより、弾性機構30のばね定数を小さく調整することができる。一方、調整ボルト37によって座板36の初期位置をエンドプレート33に近づけるにつれて、非線形スプリング38,39の圧縮量及び弾性機構30の初期変位が減少する。これにより、弾性機構30のばね定数、つまりばね130のばね定数を大きく調整することができる。
【0024】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。また、本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。以上の実施形態からの変更点について以下に説明する。以下に説明する変形点は、可能な限り組み合わせて適用してもよい。
【0025】
(1) 上述の実施形態では、非線形スプリング38及び非線形スプリング39が皿ばね積層体である。それに対して、非線形スプリング38及び非線形スプリング39が例えば丸線コイルスプリング(例えば、テーパーコイルスプリング、不等ピッチコイルスプリング)、板ばね又は角ばねであってもよい。
【0026】
(2) 上述の実施形態では、調整ボルト37がエンドプレート33に螺合している。それに対して、調整ボルト37がエンドプレート32に螺合してもよい。この場合、座板36がシリンダー31内のエンドプレート32寄りに収容され、調整ボルト37の先端が座板36に突き当てられている。更に、非線形スプリング38がシリンダー31内において座板36とフランジ35との間に挟まれており、非線形スプリング39がシリンダー31内においてフランジ35とエンドプレート33との間に挟まれている。
【実施例】
【0027】
実施例1及び実施例2として減衰装置1を不減衰の1自由度の主系(主系は構造物のモデル)と基礎との間に連結した場合と、比較例として減衰装置1を連結していない場合について、主系の応答特性をシミュレーションし、その結果を
図5及び
図6に示す。
図5のグラフの横軸は振動数を表し、縦軸は変位に関する応答倍率を表す。変位に関する応答倍率とは、基礎の変位に対する主系の相対変位の比のことをいい、主系の相対変位は主系の変位と基礎の絶対変位の差分のことをいう。
図6のグラフの横軸は振動数を表し、縦軸は加速度に関する応答倍率を表す。加速度に関する応答倍率とは、基礎の加速度に対する主系の絶対加速度の比のことをいう。
【0028】
比較例のように減衰装置1を連結していない場合、変位に関する応答倍率は次式(1)によって求まり、加速度に関する応答倍率は次式(2)によって求まる。
【0029】
【0030】
実施例1及び実施例2のように減衰装置1を連結した場合、変位に関する応答倍率は次式(3)によって求まり、加速度に関する応答倍率は次式(4)によって求まる。
【0031】
【0032】
ここで、
図5及
図6のように応答倍率を算出にするにあたって、各パラメータの値は以下のようにした。
【0033】
【0034】
図5及び
図6から明らかなように、実施例1及び実施例2のように減衰装置1を設けると、主系の固有振動数近傍で応答倍率が大きく低下していることがわかる。また、実施例1の減衰装置1による応答特性が実施例2の減衰装置1による応答特性と異なることから、調整ボルト37の回転により弾性機構30のばね定数k
aを調整すれば、減衰装置1による応答特性を調整できることがわかる。従って、調整ボルト37の回転により弾性機構30のばね定数k
aを調整することによって、減衰装置1の設置現場の状況に合わせて減衰装置1による応答特性を最適化することができる。
【符号の説明】
【0035】
1…減衰装置
10…オイルダンパー
30…弾性機構
31…シリンダー
32…エンドプレート
33…エンドプレート
34…ピストンロッド
35…フランジ
36…座板
37…調整ボルト
38…非線形スプリング
39…非線形スプリング