(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】表面処理銅箔及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20240117BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20240117BHJP
C25D 5/16 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C25D7/06 A
C25D5/12
C25D5/16
(21)【出願番号】P 2019232813
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000232014
【氏名又は名称】日本電解株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 利雄
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 安浩
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179416(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/147116(WO,A1)
【文献】特開2014-133936(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110579(WO,A1)
【文献】特開2011-179078(JP,A)
【文献】特開2005-248323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
C25D 5/12
C25D 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解銅箔と、前記電解銅箔の少なくとも一方の面側を覆う粗化層と、前記粗化層を更に覆う防錆層とを備える表面処理銅箔であって、
前記防錆層が前記表面処理銅箔の少なくとも一方の表面であり、前記防錆層がニッケル層を少なくとも備え、前記ニッケル層の厚さが、ニッケルの単位面積当たりの質量換算で0.8~4.4g/m
2であり、
前記防錆層における非接触粗さSpdが
1.7~
2.0個/μm
2であり、且つ前記防錆層における表面粗さRzJISが
1.3~
1.9μmである、表面処理銅箔。
【請求項2】
前記防錆層がクロメート処理層および/またはシランカップリング剤処理層を更に備える、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記電解銅箔と前記粗化層との間に、銅と、モリブデン、亜鉛、タングステン、ニッケル、コバルト、及び鉄から選ばれる少なくとも1種以上の金属との複合金属層を更に備える請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
電解銅箔の少なくとも一方の面に粗化層を形成する粗化処理工程であって、前記粗化層における非接触粗さSpdを2.6個/μm
2超、且つ前記粗化層における表面粗さRzJISを2.5μm超とする、粗化処理工程と、
前記粗化層の上に防錆層として、少なくともニッケル層を形成する防錆処理工程であって、前記ニッケル層の厚さが、ニッケルの単位面積当たりの質量換算で0.8~4.4g/m
2であり、前記防錆層における非接触粗さSpdを
1.7~
2.0個/μm
2とし、且つ前記防錆層
における表面粗さRzJISを
1.3~
1.9μmとする、防錆処理工程と
を含む、
前記防錆層が少なくとも一方の表面である表面処理銅箔の製造方法。
【請求項5】
前記防錆処理工程が、前記ニッケル層の形成に加えて、クロメート処理および/またはシランカップリング剤処理を更に含む、請求項4に記載の表面処理銅箔の製造方法。
【請求項6】
前記粗化処理工程の前に、前記粗化層が形成される前記電解銅箔の面に、銅と、モリブデン、亜鉛、タングステン、ニッケル、コバルト、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属とを含むめっき浴によって、複合金属層を形成する工程を更に含む、請求項4又は5に記載の表面処理銅箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔及びその製造方法に関し、より詳しくは、リチウムイオン電池等の二次電池の負極集電体用やプリント配線板用の表面処理銅箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電解銅箔は、圧電銅箔と比べて量産性に優れ、比較的製造コストも低いことから、リチウムイオン電池等の二次電池やプリント配線板等の様々な用途で用いられている。特に、リチウムイオン電池等の二次電池においては、電解銅箔は、負極集電体の材料として好適に用いられている。その理由としては、炭素等から構成された負極活物質との密着性が高く、前述のように製造コストが低く生産性も高く、かつ、薄層化が容易であることが挙げられる。更に、スマートフォン等の携帯端末が一般的になり、電子機器の高性能化と小型化が平行して加速度的に進化している。更に、ウェアラブル製品やIoTの普及も進んできており、より一層のプリント配線板の高密度化が求められる。この高密度化は半導体をはじめとする電子部品の小型化だけでなく、プリント配線板の微細化(ファインパターン)により配線密度も向上してきたことも要因である。
【0003】
また、電解銅箔を上記の用途に使用する場合、樹脂基材との密着性の向上が求められている。例えば、引用文献1には、電解銅箔の少なくとも一方の面に、粗化粒子が形成された粗化処理表面を少なくとも含む表面処理皮膜を有する表面処理銅箔が記載されている。この表面処理銅箔は、面処理皮膜の表面において、粗化粒子の粒子高さの標準偏差を0.16μm以上、0.30μm以下とし、且つ粗化粒子の粒子幅に対する粒子高さ比(粒子高さ/粒子幅)の平均値を2.30以上、4.00以下とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
IoT化が進み、従来、主にパソコンやサーバー等のIT関連機器が接続していたインターネットに、衣服(ウェアラブルデバイス)、自動車(スマートカー)、家屋(スマートハウス)等あらゆるものがスマート化され、且つ、必ずしも人を介さず端末やもの同士が自立連携する社会になってきている。これに伴い、通信システムの高速・大容量化が急速に進み、通信部品等に求められる性能要求は大幅にアップしている。
【0006】
このような情報通信機器には、プリント配線板が使用されている。プリント配線板は通常、電気回路となる銅箔を樹脂等の絶縁体からなる基板を加熱・加圧し銅張積層板を作製した後、エッチングして回路を形成し、更に、電子部品を実装し完成する。
【0007】
その一方、利便性、快適性等の要求に対して電子機器の障害は情報の損失につながり、その障害は電子部品の高い相対湿度と腐食性のガスや微粒子による腐食が要因の一つとなっている。例えば、スマートフォンやウェアラブル製品等、ユーザーが屋外や車内で使用する時間が増えてきており、高い相対湿度や腐食性ガスに曝される機会が増え、スマートフォンやウェアラブル製品等のIoT機器の劣化が促進される。また、銅箔表面にクロメート処理をして腐食を防ぐことも行われているが、環境問題の点からクロムを使用しないことが求められている。
【0008】
そこで本発明は、このような腐食による障害を避けるため、腐食性のガスや微粒子に曝されても電解銅箔と樹脂基材との高い接着強度を維持することができる、表面処理銅箔及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、表面処理銅箔であって、この表面処理銅箔は、電解銅箔と、前記電解銅箔の少なくとも一方の面側を覆う粗化層と、前記粗化層を更に覆う防錆層とを備え、前記防錆層は前記表面処理銅箔の少なくとも一方の表面であり、前記防錆層はニッケル層を少なくとも備え、前記ニッケル層の厚さは、ニッケルの単位面積当たりの質量換算で0.8~4.4g/m2であり、前記防錆層における非接触粗さSpdは1.4~2.6個/μm2であり、且つ前記防錆層における表面粗さRzJISは1.0~2.5μmである。
【0010】
前記防錆層は、必要に応じてクロメート処理層および/またはシランカップリング剤処理層を更に備えてもよい。
【0011】
前記電解銅箔と前記粗化層との間に、銅と、モリブデン、亜鉛、タングステン、ニッケル、コバルト、及び鉄から選ばれる少なくとも1種以上の金属との複合金属層を更に備えることが好ましい。
【0012】
本発明は、別の一態様として、表面処理銅箔の製造方法であって、この方法は、電解銅箔の少なくとも一方の面に粗化層を形成する粗化処理工程であって、前記粗化層における非接触粗さSpdを2.6個/μm2超、且つ前記粗化層における表面粗さRzJISを2.5μm超とする、粗化処理工程と、前記粗化層の上に防錆層として、少なくともニッケル層を形成する防錆処理工程であって、前記ニッケル層の厚さが、ニッケルの単位面積当たりの質量換算で0.8~4.4g/m2であり、前記防錆層における非接触粗さSpdを1.4~2.6個/μm2とし、且つ前記防錆層における表面粗さRzJISを1.0~2.5μmとする、防錆処理工程とを含む。
【0013】
前記防錆処理工程が、前記ニッケル層の形成に加えて、必要に応じてクロメート処理および/またはシランカップリング剤処理を更に含んでもよい。
【0014】
前記粗化処理工程の前に、前記粗化層が形成される前記電解銅箔の面に、銅と、モリブデン、亜鉛、タングステン、ニッケル、コバルト、及び鉄からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属とを含むめっき浴によって、複合金属層を形成する工程を更に含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
このように本発明によれば、電解銅箔の少なくとも一方の面の粗化層の上に、少なくともニッケル層を備える防錆層を形成し、このニッケル層の厚さを、ニッケルの単位面積当たりの質量換算で0.8~4.4g/m2とし、この防錆層における非接触粗さSpdを1.4~2.6個/μm2とし、且つ防錆層における表面粗さRzJISを1.0~2.5μmとすることで、表面処理銅箔を二次電池やプリント配線板などの用途に使用する際、表面処理銅箔の防錆層の上に設けられる樹脂基材との接着強度を高くすることができるとともに、腐食性のガスや微粒子に曝されても高い接着強度を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る電解銅箔及びその製造方法の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0017】
[表面処理銅箔]
本実施の形態の表面処理銅箔は、電解銅箔と、この電解銅箔の少なくとも一方の面側を覆う粗化層と、この粗化層を更に覆う防錆層とを備え、この防錆層が表面処理銅箔の少なくとも一方の表面であり、防錆層における非接触粗さSpdは1.4~2.6個/μm2であり、且つ防錆層における表面粗さRzJISは1.0~2.5μmである。
【0018】
非接触粗さSpdは、ISO 25178に準拠して測定するものである。この非接触粗さSpdは、単位面積当たりの山頂点の数(単位:個/μm2)を表し、この数値が大きい程、表面に接触する他の物体との接触点の数が多くなることを意味する。非接触粗さSpdの下限は、1.5個/μm2以上が好ましく、1.7個/μm2以上がより好ましい。非接触粗さSpdの上限は、2.2個/μm2以下が好ましく、2.0個/μm2以下がより好ましい。
【0019】
表面粗さRzJISは、JIS B 0601 1994に準拠して測定するものである。表面粗さRzJISは、「十点平均粗さ(JIS B 0601 2013においてはRzjis94)」とも呼ばれるパラメーターであり、カットオフ値λCの位相補償高域フィルタを適用して得た基準長さの輪郭曲線において、最高の山頂から高い順に5番目までの山高さの平均と最深の谷底から深い順に5番目までの谷深さの平均との和の値(単位:μm)で求められる。表面粗さRzJISの下限は、1.1μm以上が好ましく、1.3μm以上がより好ましい。表面粗さRzJISの上限は、2.1μm以下が好ましく、1.9μm以下がより好ましい。
【0020】
このように防錆層の表面を、非接触粗さSpdと表面粗さRzJISの2つのパラメーターで評価することで、防錆層の表面の鉛直方向の凹凸の大きさと平面におけるその頻度がわかるので、このような防錆層の凹凸による樹脂基材に対するアンカー効果から、樹脂基材との接着強度を推測することが可能となる。そして、このように本実施の形態の表面処理銅箔は、防錆層の表面の非接触粗さSpdと表面粗さRzJISの2つのパラメーターをそれぞれ所定の範囲内にすることで、粗化層を覆う防錆層の厚さも推測することが可能となり、これにより、腐食性のガスや微粒子に十分に耐え得る厚さの防錆層を形成することができる。
【0021】
表面処理銅箔の接着強度は、JIS C 6481に準拠して測定することができる。具体的には、表面処理銅箔の防錆層の表面にFR-5相当ガラスエポキシ樹脂含侵基材を積層して銅張積層板とし、この銅張積層板の樹脂基材から表面処理銅箔を垂直方向に所定の条件で引きはがし、その時の荷重の最低値(単位:kN/m)を接着強度(引きはがし強さ)とするものである。表面処理銅箔の接着強度は、腐食性のガスや微粒子に曝された後も、0.70kN/m以上を維持していることが好ましく、0.73kN/m以上がより好ましく、0.75kN/m以上が更に好ましい。
【0022】
防錆層の素材は、腐食性のガスや微粒子への耐性から、ニッケルが好ましい。また、防錆層のニッケル層の厚さは、ニッケルの単位面積当たりの質量換算で0.8~4.4g/m2とすることが好ましい。防錆層が覆う粗化層の非接触粗さSpd及び表面粗さRzJISに応じて変わるものの、防錆層のニッケル層の厚さを上記の範囲内にすることで防錆層の非接触粗さSpd及び表面粗さRzJISを上記の範囲にすることができる。防錆層のニッケル層の厚さの下限は、ニッケルの単位面積当たりの質量換算で1.0g/m2以上が好ましく、1.5g/m2以上がより好ましい。また、防錆層のニッケル層の厚さの上限は、ニッケルの単位面積当たりの質量換算で4.0g/m2以下が好ましく、3.0g/m2以上がより好ましい。
【0023】
防錆層のニッケル層の厚さは、原子吸光法、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法、蛍光X線分析法、重量測定法などにより測定することができる。
【0024】
また、防錆層は、複数の層で形成してもよい。例えば、防錆層として、上記のニッケル層に加えて、クロメート処理やシランカップリング剤処理によって、ニッケル層の粗化層側または表面側に、クロメート処理層やシランカップリング剤処理層を更に形成してもよい。
【0025】
粗化層の素材は、導電性を維持するため、銅が好ましいが、銅の他、タングステンや、モリブデン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛の金属、又はこれらのうちの2つ以上からなる複合金属であってもよい。粗化層の厚さは、0.7~2.0μmが好ましい。
【0026】
電解銅箔は、厚さが6~35μmのものが好ましい。厚さが6μmよりも薄すぎると、電解銅箔のハンドリングが難しくなる場合がある。一方、厚さが18μmよりも厚すぎると、二次電池やプリント配線板等の用途に使用する際にその卷回数が減少することによる電池容量の低下やファインパターンファインパターンを形成するうえで不利になる場合がある。電解銅箔の厚さの下限は、6μm以上がより好ましく、8μm以上が更に好ましい。電解銅箔の厚さの上限は、35μm以下がより好ましく、18μm以下が更に好ましい。
【0027】
電解銅箔は、一般に、その製造過程において電着ドラムと接していた側である光沢を有する陰極面と、その反対側のめっきにより形成された析出面とを有する。上記の粗化層および防錆層は、電解銅箔の陰極面と析出面の両面側に形成してもよいし、どちらか一方の面に形成してもよく、一方の場合は、電解銅箔の析出面に形成することが好ましい。
【0028】
本実施形態の表面処理銅箔は、必要に応じて、電解銅箔と粗化層との間に、複合金属層を備えてもよい。複合金属層の素材は、銅と、モリブデン、亜鉛、タングステン、ニッケル、コバルト、及び鉄から選ばれる少なくとも1種以上の金属との複合金属が好ましく、更には、銅と、タングステン及びモリブデンから選ばれる1種以上の金属と、ニッケル、コバルト、鉄、及び亜鉛から選ばれる少なくとも1種以上の金属との複合金属がより好ましい。このような複合金属層を電解銅箔と粗化層との間に設けることで、銅箔表面に針状または粒状の銅めっき層を均一に形成することができるというメリットがある。
【0029】
[表面処理銅箔の製造方法]
上述した表面処理銅箔を製造する方法の実施形態について、以下、説明する。本実施形態の表面処理銅箔の製造方法は、粗化処理工程と、防錆処理工程とを主に含む。
【0030】
粗化処理工程は、電解銅箔の両面または一方の面をめっきして、粗化層を形成する工程である。これにより、電解銅箔の両面または一方の面の表面を粗化し、例えば、粗化層における非接触粗さSpdを2.6個/μm2超に、粗化層における表面粗さRzを2.5μm超とすることができる。その後に形成する防錆処理層に応じて、非接触粗さSpdを2.2個/μm2超、表面粗さRzを2.1μm超としてもよいし、非接触粗さSpdを2.0個/μm2超、表面粗さRzを1.9μm超としてもよい。このような粗化層を形成するためには、酸性銅めっき浴を用いることが好ましく、具体的なめっき浴組成およびめっき条件としては、例えば、硫酸銅の濃度を130~150g/L、硫酸の濃度を80~120g/L、浴温度を25~35℃、電流密度を1~3A/dm2、処理時間を10~30秒とすることができる。なお、電解銅箔の粗化処理としては、例えば、特公昭53-39376号公報に開示されている酸性銅めっき浴を用いた方法、即ち、酸性銅めっき浴を用いて限界電流密度以上の電流により樹枝状銅めっき層を形成後、限界電流密度未満の電流で被覆めっきをする方法を用いてもよい。
【0031】
上記のめっき浴組成およびめっき条件は、銅の粗化層を形成する場合についてであるが、後述するように、粗化処理をする前に電解銅箔の面に複合金属層を形成しておく場合でも、上記と同様の酸性銅めっき浴を用いることで粗化処理をすることができる。なお、粗化処理工程では、電解銅箔をめっきする前に、予め水洗や、酸洗処理をしておくことが好ましい。
【0032】
防錆処理工程は、電解銅箔の両面または一方の面に形成した粗化層をめっきして、その上に防錆層を形成する工程である。これにより、粗化層が防錆層に覆われ、防錆層における非接触粗さSpdを1.4~2.6個/μm2に、防錆層における表面粗さRzJISを1.0~2.5μmとすることができる。特に、非接触粗さSpdを1.7~2.0個/μm2に、防錆層における表面粗さRzJISを1.3~1.9μmとすることが好ましい。このような防錆層を形成するための、めっき浴組成およびめっき条件としては、例えば、硫酸ニッケルの濃度を300~500g/L、ホウ酸の濃度を30~50g/L、浴温度を40~60℃、電流密度を5~15A/dm2、処理時間を4~17秒とすることができる。これにより形成されるニッケルの防錆層の厚さは、単位面積当たりのニッケルの質量換算で0.8~4.4g/m2とすることができる。
【0033】
なお、防錆処理工程では、電解銅箔の粗化層の表面を、めっきする前に、予め水洗しておくことが好ましい。また、防錆処理工程では、上述したように、ニッケル層の形成に加えて、必要に応じてクロメート処理やシランカップリング剤処理を組み合わせてもよい。クロメート処理、シランカップリング剤処理の処理条件は、電解銅箔に行われている公知の処理条件を適用することができる。
【0034】
本実施形態の表面処理銅箔の製造方法は、必要に応じて、粗化処理工程の前に、粗化層が形成される電解銅箔の面に、複合金属層を形成する工程を更に含んでもよい。複合金属層を形成するために、上述した複合金属層の素材の各金属イオンを含有するめっき浴を用いることが好ましい。例えば、銅とモリブデンと亜鉛の複合金属層を形成するための、具体的なめっき浴組成およびめっき条件としては、例えば、硫酸銅の濃度を40~60g/L、モリブデン酸ナトリウムの濃度を1~3g/L、硫酸亜鉛の濃度を40~60g/L、pHを2~3、浴温度を25~35℃、電流密度を2~8A/dm2、処理時間を2~8秒とすることができる。なお、複合金属層を形成した後に粗化層を形成するために、例えば、特許第3949871号公報に開示されている粗化処理銅箔の製造方法、即ち、上記複合金属層の各金属のイオンを含有するめっき浴を用いて、浴の限界電流密度未満の電流で複合金属層を形成した後、酸性銅めっき浴による被覆めっきをする方法を用いてもよい。
【0035】
なお、複合金属層を形成する工程では、電解銅箔をめっきする前に、予め水洗や、酸洗処理をしておくことが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例および比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
(1)表面処理銅箔の製造
先ず、厚さ12μmの電解銅箔(日本電解株式会社製、品番:SEED箔)を、10%硫酸で20秒にわたり酸洗処理をした。そして、この銅箔を水洗し、硫酸銅五水和物50g/L、モリブデン酸ナトリウム二水和物2g/L、および硫酸亜鉛七水和物50g/Lからなるめっき浴を、pH2.5、浴温度30℃に調整し、このめっき液を用いて、電解銅箔の両面を5A/dm2の電流密度、5秒の処理時間でめっきして銅、モリブデン、および亜鉛を含む複合金属層を形成した。
【0038】
次に、この銅箔を水洗し、硫酸銅五水和物130g/L、硫酸100g/L、および浴温度30℃に調整しためっき液を用いて、銅箔の両面を2A/dm2の電流密度、20秒の処理時間でめっきして、複合金属層上に銅からなる粗化層を形成した。
【0039】
更に、この銅箔を水洗し、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、銅箔の両面を10A/dm2の電流密度、4秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成し、表面処理銅箔(実施例1)を得た。
【0040】
(2)表面処理銅箔の特性試験
このようにして得られた表面処理銅箔について、その防錆層の単位面積当たりのニッケルの量を、蛍光X線分析法に基づき、波長分散型蛍光X線分光分析装置(株式会社リガク製、ZSX Primus II)で測定した。その結果を表1に示す。
【0041】
また、この表面処理銅箔の接着強度を測定するために、FR-5相当ガラスエポキシ樹脂含侵基材を表面処理銅箔の一方の面を積層して銅張積層板とし、試験片を作製した。この試験片の表面処理銅箔と樹脂基材との間の接着強度をJIS C 6481に準拠し、室温下で測定(銅箔幅:1mm)した。なお、接着強度は、試験片を塩酸溶液(濃度:18%)に浸漬させる処理前の状態(常態)と、処理後の状態(塩酸浸漬後)とで測定した。また、接着強度の測定は、引張試験機(株式会社東洋精機製作所製、ストログラフE3-L)で行った。その結果を表1に示す。
【0042】
更に、この表面処理銅箔の非接触粗さSpdを、ISO 25178に準拠して測定するとともに、この表面処理銅箔の表面粗さRzJISを、JIS B 0601 1994に準拠して測定した。なお、非接触粗さSpd及び表面粗さRzJISの測定は、レーザー顕微鏡装置(株式会社キーエンス製、VK-X150)で行った。その結果を表1に示す。
【0043】
[実施例2]
表面処理銅箔の製造において、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、10A/dm2の電流密度、8秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
[実施例3]
表面処理銅箔の製造において、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、10A/dm2の電流密度、12秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
[実施例4]
表面処理銅箔の製造において、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、10A/dm2の電流密度、17秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1]
表面処理銅箔の製造において、重クロム酸ナトリウム二水和物3.5g/L、pH5.3、浴温度28℃に調整した水溶液に10秒浸漬し、防錆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
[比較例2]
表面処理銅箔の製造において、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、10A/dm2の電流密度、1秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
[比較例3]
表面処理銅箔の製造において、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、10A/dm2の電流密度、2秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
[比較例4]
表面処理銅箔の製造において、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、10A/dm2の電流密度、20秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0050】
[比較例5]
表面処理銅箔の製造において、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、10A/dm2の電流密度、40秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0051】
[比較例6]
表面処理銅箔の製造において、硫酸ニッケル六水和物400g/L、ホウ酸40g/L、および浴温度50℃に調整しためっき液を用いて、10A/dm2の電流密度、2秒の処理時間でめっきしてニッケルからなる防錆層を形成し、重クロム酸ナトリウム二水和物3.5g/L、pH5.3、浴温度28℃に調整した水溶液に10秒浸漬し、更に防錆層を積層したこと以外は実施例1と同様にして表面処理銅箔を製造し、各特性試験を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示すように、防錆層のニッケル量が0.8~4.4g/m2であり、防錆層の表面の非接触粗さSpdが1.7~2.0個/μm2であり、表面粗さRzJISが1.3~1.9μmであった実施例1~4の表面処理銅箔は、樹脂基材との接着強度が常態および塩酸浸漬後の両方で0.70kN/m以上となり、腐食性ガスに対して優れた接着強度を維持できることが確認された。
【0054】
一方、クロメート処理のみで防錆層を形成した比較例1は、樹脂基材との接着強度が常態では実施例に近い接着強度を示したが、塩酸浸漬後では接着強度が約0.6kN/mまで低下し、腐食による影響が大きいことが確認された。また、防錆層のニッケル量が0.8未満であり、防錆層の表面の非接触粗さSpdが2.0個/μm2超、表面粗さRzJISが1.9μm超であった比較例2、3の表面処理銅箔は、樹脂基材との接着強度が常態では実施例に近い接着強度を示したが、塩酸浸漬後では接着強度が0.1kN/m以上も低下し、腐食による影響が非常に大きいことが確認された。
【0055】
防錆層のニッケル量が4.4g超であり、防錆層の表面の非接触粗さSpdが1.7個/μm2未満、表面粗さRzJISが1.3μm未満であった比較例4、5の表面処理銅箔では、樹脂基材との接着強度が常態および塩酸浸漬後の両方で顕著に低い値となり、十分な接着強度を得ることはできなかった。また、ニッケル層とクロメート処理層の2層で防錆層を形成した比較例6は、防錆層の表面の非接触粗さSpdが1.7~2.0個/μm2であり、表面粗さRzJISが1.3~1.9μmであったものの、ニッケル量が0.8未満であったため、樹脂基材との接着強度が常態では実施例に近い接着強度を示したが、塩酸浸漬後では接着強度が約0.6kN/mまで低下し、腐食による影響が大きいことが確認された。