(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】注湯状態の推定システム
(51)【国際特許分類】
B22D 39/04 20060101AFI20240117BHJP
B22D 37/00 20060101ALI20240117BHJP
B22D 46/00 20060101ALI20240117BHJP
G01G 23/01 20060101ALI20240117BHJP
B22D 41/00 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
B22D39/04
B22D37/00
B22D46/00
G01G23/01 Z
B22D41/00 Z
(21)【出願番号】P 2020012528
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-11-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム、試験研究タイプ、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】野田 善之
(72)【発明者】
【氏名】樺沢 暢俊
(72)【発明者】
【氏名】末木 裕太
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/174977(WO,A1)
【文献】特開2008-290148(JP,A)
【文献】特開2007-275933(JP,A)
【文献】特開2010-253527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 37/00
B22D 39/00
B22D 41/06
B22D 46/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋を傾動させて溶融物を鋳型に注湯させる注湯作業における注湯状態の推定システムであって、
角度取得部と、重量取得部と、取鍋内部形状取得部と、算出部とを備え、
前記角度取得部は、前記注湯作業における前記取鍋の傾動角度
および傾動角速度を取得し、
前記重量取得部は、前記注湯作業における前記取鍋の重量を取得し、
前記取鍋内部形状取得部は、前記取鍋の内部形状についてのデータを取得し、
前記算出部は、前記傾動角度と、前記重量と、前記内部形状についてのデータ
とに基づいて
前記溶融物の注湯状態を表す注湯流量モデルを算出し、算出した注湯流量モデルと、前記傾動角度と、前記傾斜角速度と、前記重量とを用いて拡張カルマンフィルタを構成することにより、前記取鍋から注湯される注湯量の推定値を算出する、推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の推定システムであって、
前記算出部は、前記溶融物の前記取鍋の出湯口の下端より上方に位置する部分の体積について、当該部分の垂直方向の高さおよび前記傾動角度のそれぞれに変化に対する変化量を算出し、前記注湯量の推定値を算出する、推定システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の推定システムであって、
記憶部をさらに備え、
前記取鍋内部形状取得部は、前記記憶部に記憶されている前記取鍋の内部形状についてのデータを取得する、推定システム。
【請求項4】
請求項3に記載の推定システムであって、
前記取鍋の内部形状についてのデータを測定する測定装置をさらに備え、
前記取鍋内部形状取得部は、前記測定装置が測定した前記取鍋の内部形状についてデータを取得する、推定システム。
【請求項5】
請求項4に記載の推定システムであって、
前記記憶部は、前記測定装置が測定した前記取鍋の内部形状についてのデータを記憶する推定システム。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の推定システムであって、
赤外線を検知可能な撮像部をさらに備え、
前記撮像部は、前記注湯作業において溶融物が鋳型に注入される位置を撮像する、推定システム。
【請求項7】
請求項6に記載の推定システムであって、
前記撮像部は、前記取鍋の傾動方向における当該取鍋の前方と、平面視において前記傾動方向と垂直な方向である当該取鍋の側方とに配置される、推定システム。
【請求項8】
請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の推定システムであって、
評価部をさらに備え、
前記評価部は、基準としての注湯作業における前記推定値である基準値と、評価対象としての注湯作業における前記推定値とを比較して、前記評価対象としての注湯作業の評価を行う、推定システム。
【請求項9】
請求項8に記載の推定システムであって、
前記評価部は、前記基準値と前記推定値との相関係数を算出して前記評価を行う、推定システム。
【請求項10】
請求項8に記載の推定システムであって、
前記評価部は、前記基準値と前記推定値との動的時間伸縮法を用いたマンハッタン距離を算出して前記評価を行う、推定システム。
【請求項11】
請求項8に記載の推定システムであって、
前記評価部は、前記基準値と前記推定値とのマンハッタン距離を算出して前記評価を行う、推定システム。
【請求項12】
請求項8に記載の推定システムであって、
前記評価部は、前記基準値と前記推定値とのユークリッド距離を算出して前記評価を行う、推定システム。
【請求項13】
取鍋を傾動させて溶融物を鋳型に注湯させる注湯作業における注湯状態の推定方法であって、
角度取得ステップと、重量取得ステップと、取鍋内部形状取得ステップと、算出ステップとを備え、
前記角度取得ステップでは、前記注湯作業における前記取鍋の傾動角度
および傾動角速度を取得し、
前記重量取得ステップでは、前記注湯作業における前記取鍋の重量を取得し、
前記取鍋内部形状取得ステップでは、前記取鍋の内部形状についてのデータを取得し、
前記算出ステップでは、前記傾動角度と、前記重量と、前記内部形状についてのデータ
とに基づいて
前記溶融物の注湯状態を表す注湯流量モデルを算出し、算出した注湯流量モデルと、前記傾動角度と、前記傾斜角速度と、前記重量とを用いて拡張カルマンフィルタを構成することにより、前記取鍋から注湯される注湯量の推定値を算出する、推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は注湯作業における注湯量の推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳型に溶融物を注湯する注湯作業において、注湯流量を制御した自動注湯装置がある。例えば、特許文献1には、取鍋を傾動させるサーボモータに印加する入力電圧と、取鍋内溶融金属の重量とを計測し、拡張カルマンフィルタに基づく指数減衰型オブザーバを用いて注湯流量を推定し、注湯流量の制御を行う自動注湯装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、手動の注湯作業においては、注湯作業に習熟した作業者と未習熟の作業者との間で、注湯作業による成果物としての鋳物の品質に大きな差が生じていた。注湯作業の成果物の品質は作業時の注湯状態に依存するため、注湯状態を精度良く推定することにより、推定された注湯状態に基づいて注湯量を制御したいというニーズがあった。
【0005】
本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、手動の注湯作業における注湯状態を精度よく推定可能にする推定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、取鍋を傾動させて溶融物を鋳型に注湯させる注湯作業における注湯状態の推定システムであって、角度取得部と、重量取得部と、取鍋内部形状取得部と、算出部とを備え、前記角度取得部は、前記注湯作業における前記取鍋の傾動角度を取得し、前記重量取得部は、前記注湯作業における前記取鍋の重量を取得し、前記取鍋内部形状取得部は、前記取鍋の内部形状についてのデータを取得し、前記算出部は、前記傾動角度と、前記重量と、前記内部形状についてのデータに基づいて、前記取鍋から注湯される注湯量の推定値を算出する、推定システムが提供される。
【0007】
このような構成とすることにより、注湯作業時にリアルタイムで取得した取鍋の傾動角度および重量と、取鍋の内部形状についてのデータとに基づいて注湯量の推定値を算出するため、手動の注湯作業における注湯状態を精度よく推定することが可能となる。
【0008】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴が独立に発明を構成する。
【0009】
好ましくは、前記算出部は、前記溶融物の前記取鍋の出湯口の下端より上方に位置する部分の体積について、当該部分の垂直方向の高さおよび前記傾動角度のそれぞれに変化に対する変化量を算出し、前記注湯量の推定値を算出する。
好ましくは、記憶部をさらに備え、前記取鍋内部形状取得部は、前記記憶部に記憶されている前記取鍋の内部形状についてのデータを取得する。
好ましくは、前記取鍋の内部形状についてのデータを測定する測定装置をさらに備え、前記取鍋内部形状取得部は、前記測定装置が測定した前記取鍋の内部形状についてデータを取得する。
好ましくは、前記記憶部は、前記測定装置が測定した前記取鍋の内部形状についてのデータを記憶する。
好ましくは、赤外線を検知可能な撮像部をさらに備え、前記撮像部は、前記注湯作業において溶融物が鋳型に注入される位置を撮像する。
好ましくは、前記撮像部は、前記取鍋の傾動方向における当該取鍋の前方と、平面視において前記傾動方向と垂直な方向である当該取鍋の側方とに配置される。
好ましくは、評価部をさらに備え、前記評価部は、基準としての注湯作業における前記推定値である基準値と、評価対象としての注湯作業における前記推定値とを比較して、前記評価対象としての注湯作業の評価を行う。
好ましくは、前記評価部は、前記基準値と前記推定値との相関係数を算出して前記評価を行う。
好ましくは、前記評価部は、前記基準値と前記推定値との動的時間伸縮法を用いたマンハッタン距離を算出して前記評価を行う。
好ましくは、前記評価部は、前記基準値と前記推定値とのマンハッタン距離を算出して前記評価を行う。
好ましくは、前記評価部は、前記基準値と前記推定値とのユークリッド距離を算出して前記評価を行う。
【0010】
本発明の他の態様によると、角度取得ステップと、重量取得ステップと、取鍋内部形状取得ステップと、算出ステップとを備える推定方法であって、前記角度取得ステップでは、前記注湯作業における前記取鍋の傾動角度を取得し、前記重量取得ステップでは、前記注湯作業における前記取鍋の重量を取得し、前記取鍋内部形状取得ステップでは、前記取鍋の内部形状についてのデータを取得し、前記算出ステップでは、前記傾動角度と、前記重量と、前記内部形状についてのデータに基づいて、前記取鍋から注湯される注湯量の推定値を算出する、推定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本願発明の第1実施形態に係る推定システムPの全体斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る推定システムPの機能を示す機能ブロック図である。
【
図3】溶融物の注入位置の測定について説明する図である。
【
図4】
図4Aは注湯流量モデルの生成におけるパラメータを示す取鍋1の断面図である。
図4Bは注湯流量モデルの生成におけるパラメータを示す取鍋1の斜視図である。
【
図5】
図5Aは傾動角度がθ1における取鍋1の内部形状の解析について説明する図である。
図5Bは傾動角度がθ2における取鍋1の内部形状の解析について説明する図である。
【
図6】実施例における測定結果および推定結果を示すグラフである。
【
図8】実施例における溶融物の注入位置の測定結果を示すグラフである。
【
図9】第2実施形態に係る推定システムPの機能を示す機能ブロック図である。
【
図10】評価部11eにおける評価結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1.実施形態>
(1.1.全体構成)
図1に、実施形態にかかる注湯量推定システムPの全体図を示す。推定システムPは、取鍋1と、鋳型2と、姿勢角センサ3と、ロードセル4と、撮像部5と、情報処理装置10を備える。以下、各構成を詳細に説明する。なお、本開示において「注湯量」とは、注湯重量、注湯体積、または注湯流量など、注湯作業において取鍋から流れ出る溶融物の量の総称である。
【0013】
取鍋1は、一例として有底円筒状に形成され、内部に溶融物を収容可能に構成される。取鍋1の前方には、溶融物を注湯する際の注ぎ口である出湯口1aが設けられている。取鍋1は、さらに、溶融物を注湯する際に取鍋1を傾動させるためのハンドル1bと、上方から吊り下げられたフック付きワイヤ9を引っ掛けるための取手1cを備える。作業者は、ハンドル1bを操作することにより、取鍋1を所望の角度に傾動させる。
【0014】
鋳型2は、一例として、直方体状に形成される。鋳型2の上面には、溶融物を注入するための注入口2aが形成されている。注入口2aから注湯された溶融物が、鋳型2の内部に形成された流通路内を流通して固化することにより、鋳型2内部に所望の造形物が形成される。
【0015】
姿勢角センサ3は、取鍋1の後方(すなわち、出湯口1aの反対側)に取り付けられている。姿勢角センサ3と取鍋1の間には、取鍋1の内部に収容された溶融物からの熱を遮蔽する遮蔽材6が設けられている。姿勢角センサ3は、取鍋1の傾動角度θおよび傾動角速度ωを測定する。
【0016】
ロードセル4は、取鍋1の上方に設けられており、取鍋1の重量を測定する。取鍋1の重量にはその内部に収容された溶融物の重量も含まれる。ロードセル4と、取鍋1の間には、取鍋1の内部に収容された溶融物からの熱を遮蔽する遮蔽材6が設けられている
【0017】
撮像部5は、注湯作業において溶融物が鋳型2に注入される位置である注入位置を撮像する。溶融物は非常に高温で発光しているため、撮像部5は、赤外線を検知可能なサーモグラフィを用いるのが好ましい。
【0018】
さらに好ましくは、撮像部5は、取鍋1の傾動方向における前方と、平面視において傾動方向と垂直な方向である取鍋1の側方とにそれぞれ配置される。このように配置することにより、溶融物の注入位置をより正確に撮像することが可能となる。
【0019】
情報処理装置10は、姿勢角センサ3およびロードセル4から受け付けたデータに基づいて、取鍋1から注湯される溶融物の注湯量の推定値を算出する。情報処理装置10の構成および処理内容については、詳細を後述する。
【0020】
(1.2.情報処理装置10の構成)
図2を参照し、情報処理装置10の構成を説明する。情報処理装置10は、たとえばPC(Personal Computer)で実現され、制御部11と、記憶部12を備える。
【0021】
(1.2.1.制御部11)
制御部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、DSP(Digital Signal Processor)等で実現され、情報処理装置10の全体の動作を制御する。制御部11は、角度取得部11aと、重量取得部11bと、取鍋内部形状取得部11cと、算出部11dを備える。
【0022】
角度取得部11aは、姿勢角センサ3が測定した取鍋1の傾動角度θおよび傾動角速度ωを取得する。重量取得部11bは、ロードセル4が測定した取鍋1の重量を取得する。取鍋内部形状取得部11cは、記憶部12に記憶されている取鍋1の内部形状についてのデータを取得する。
【0023】
算出部11dは、角度取得部11a、重量取得部11b、取鍋内部形状取得部11cが取得したデータに基づいて、溶融物の注湯状態についての注湯流量モデルを生成する。算出部11dは、さらに、生成した注湯流量モデルに基づいて、溶融物の注湯量の推定値を算出する。また、算出部11dは、撮像部5が撮像したデータに基づいて、溶融物の注入位置を算出する。
【0024】
(1.2.2.記憶部12)
記憶部12は、例えば、RAM(Random Access Memory)やDRAM(Dynamic Random Access Memory)等で実現されており、制御部11による各種プログラムに基づく処理の実行時のワークエリア等として用いられる。
【0025】
記憶部12は、さらに、ROM(Read Only Memory)等の不揮発性メモリ、またはHDD(Hard Disk Drive)を備えていてもよく、制御部11の処理に利用されるプログラムおよび各種データを保存する。一例として、記憶部12は、3Dスキャナー等で構成される測定装置13が測定した取鍋1の内部形状についてのデータを記憶する。
【0026】
(1.3.注入位置の算出)
図3を参照し、注入位置の算出について説明する。算出部11dは、撮像部5から取得した画像データに対してエッジ処理を施し、注入口2aにおける溶融物の取鍋1に近い方の端点の位置Pnと、取鍋1に遠い方の端点の位置Pfを算出する。そして、以下の式(1)を用いて、注入口2aの中心に対する溶融物の注入位置Ppを算出する。
【0027】
【0028】
ここで、Cnは注入口2aの取鍋1に近い方の端点の位置であり、Cfは注入口2aの取鍋1に遠い方の端点の位置を意味する。溶融物は非常に高温で発光しているため、撮像部5としては赤外線を検知可能なサーモグラフィを用いるのが好ましい。撮像部5としてサーモグラフィを用いる場合には、サーモグラフィの温度表示範囲を常温設置し、鋳型2を構成する砂と空気の温度差から取得した画像データのピクセル間に階調差が生じるので、これをエッジ処理することにより、注入口2aの端点の位置CnおよびCfを検知できる。
【0029】
このようにしてサーモグラフィから取得した端点はピクセルデータであるため、以下の式(2)を用いて実際の寸法としての注入口2aの中心に対する溶融物の注入位置Xpを算出する。
【0030】
【0031】
ここで、Dは注入口2aの直径を意味する。このようにして、式(1)および式(2)を、撮像部5が取得した画像データのフレームごとに実行することにより、取鍋1から流出する溶融物の注入位置を算出する。なお、
図3では、取鍋1の側方から撮像した画像データを例に説明しているが、取鍋1の前方から撮像した画像データについても同様の処理を行う。なお、溶融物の注入位置Xpが取得できるのであれば、撮像部5はサーモグラフィ以外の撮像装置を使用してもかまわない。
【0032】
(1.4.注湯流量モデルの生成)
図4および
図5を参照し、注湯流量モデルの生成処理について説明する。取鍋1から流出する溶融物の流量q(t)について、以下の式(3)および式(4)が知られている。
【0033】
【0034】
【0035】
ここで、
図4Aおよび
図4Bに示すように、Vrは出湯口1aの下端Rより上部の取鍋1内部の液体(溶融物)の体積、Vsは出湯口1aの下端Rより下部の取鍋1内部の液体の体積、hは出湯口1aでの液体の高さ、Lfは出湯口1aの幅、hbは取鍋1内における液体表面からの深さ、cは流量係数、tは時間、をそれぞれ意味している。
【0036】
式(3)において、体積Vsは取鍋1の傾動角度θに依存するため、以下の式(5)が成り立つ。
【0037】
【0038】
さらに、体積Vrは取鍋1の傾動角度θと液体の高さhに依存するため、以下の式(6)が成り立つ。
【0039】
【0040】
式(5)および式(6)を、式(3)に代入すると、注湯流量モデルとして以下の式(7)が求まる。
【0041】
【0042】
式(7)で示される注湯流量モデルでは、体積Vrについて、高さhの変化に対する変化量X(θ,h)および傾動角度θの変化に対するY(θ,h)を算出する必要がある。そこで、算出部11dは、取鍋1の内部形状についてのデータに基づいて、X(θ,h)およびY(θ,h)を算出する。
【0043】
具体的には、
図5Aに示すように、算出部11dは、測定装置13によって測定された取鍋1の内部形状データを、3Dキャドを用いて読み込み、3DキャドのAPI(アプリケーション プログラミング インターフェース)機能を用いて、傾動角度が所定の値(
図5Aの例ではθ=θ1)における高さhの変化に対する取鍋1内の体積変化量dV/dhを、所定の高さΔh(たとえば10cm)ごとに下から順に算出する。
【0044】
さらに、
図5Bに示すように、算出部11dは、傾動角度θの値を変化させて(
図5Bの例ではθ=θ2)、高さhの変化に対する取鍋1内の体積変化量dV/dhを、所定の高さΔhごとに下から順に算出する。
【0045】
このようにして、傾動角度θが取りうる範囲(例えば0°≦θ≦90°)における予め定められた角度ごと(たとえば1°ごと)のθに対して、高さhの変化に対する取鍋1内の体積変化量dV/dhを求めることにより、X(θ,h)およびY(θ,h)を算出する。さらに、算出部11dは、傾動角度θごとのVsを算出する。
【0046】
(1.5.注湯量の推定値の算出)
算出部11dは、上述の注湯流量モデル(式(7))、姿勢角センサ3が検知した傾動角度θ、傾動角速度ω、およびロードセル4が測定する取鍋1の重量を用いて拡張カルマンフィルタを構成することにより、取鍋1から実際に流出する溶融物の注湯量の推定値を算出する。
【0047】
ロードセル4が検知した取鍋1から流出した溶融物の重量WLについて、ロードセル4の応答遅れを一次遅れ系で表現すると、以下の式(8)および式(9)が成立する。
【0048】
【0049】
【0050】
ここで、Woは取鍋1から実際に流出した溶融物の重量、TLはロードセル4の応答特性を示す時定数、ρは溶融物の密度である。取鍋1から実際に流出した溶融物の重量Woに対して、ロードセル4が検知した取鍋1から流出した溶融物の重量WLは、ロードセル4の応答遅れの影響を受けている。
【0051】
これらのパラメータを用いて以下の式(10)および式(11)に示すように拡張カルマンフィルタを構築する。
【0052】
【0053】
【0054】
ここで、式(11-2)には、式(7)として算出された注湯流量モデルが採用されており、Tsはサンプリング時間を意味する。液体の高さhは以下の式(12)の条件を有する。
【数12】
【0055】
式(12)におけるθbは出湯境界角度(取鍋から液体が流出する取鍋傾動角度)であり、取鍋1の傾動角度θと体積Vsを用いて、以下の式(13)のように得られる。
【0056】
【数13】
式(13)において、Wciniは注湯開始前のロードセル4によって計測された取鍋内液体重量を意味する。さらに、拡張カルマンフィルタのヤコビ行列A(x)およびC(x)は、以下の式(14)および式(15)として設定される。
【0057】
【0058】
【0059】
このようにして構築されたカルマンフィルタを用いて、出湯口1aでの液体の高さh、注湯流量q、ロードセルの応答遅れを除いた注湯重量Wo、ロードセルの応答遅れを有する注湯重量WLを実時間で推定する。なお、流量係数および液体密度は周知の同定方法を用いて同定すればよい(たとえば、国際公開2014/174977を参照)。
【0060】
(1.6.実施例)
図6~
図8を参照し、本願発明の実施例を説明する。
図6において、グラフ(a)は姿勢角センサ3によって計測された取鍋1の傾動角速度ω、グラフ(b)は姿勢角センサ3によって計測された取鍋1の傾動角度θ、グラフ(c)は推定された取鍋1の出湯口1aでの液体の高さh、グラフ(d)は推定された注湯(体積)流量q、グラフ(e)は推定された注湯質量流量、グラフ(f)は推定された注湯重量である。
【0061】
図7に拡大して示すように、
図6のグラフ(f)には、ロードセル4によって計測された注湯重量Wxp、ロードセルの応答遅れを含む注湯重量の推定データW
L、ロードセルの応答遅れを除く注湯重量の推定データWoが示されている。
【0062】
図6のグラフ(f)および
図7から見てとれるように、ロードセル4から取得されるデータである注湯重量Wxpにはノイズやロードセルの応答遅れが発生しており、このデータを時間微分することで得られる注湯質量流量は判然としないことがわかる。このように、手動注湯作業においては、作業者が重たい取鍋を手動で調整して注湯するので、姿勢角センサ3やロードセル4の出力にノイズが発生し、データの解析が難しい。
【0063】
これに対して、本実施形態における拡張カルマンフィルタを用いた推定値のデータ(すなわち、グラフ(f)におけるWLおよびWo)はノイズやロードセルの応答遅れが抑制されるため、注湯(体積)流量や注湯重量を明確に把握できる。
【0064】
図8において、グラフ(a)は注湯(体積)流量であり、
図6におけるグラフ(d)に相当する。
図8のグラフ(b)は取鍋側方に設置されたサーモグラフィの温度分布画像から、(1)式と(2)式で推定された取鍋から流出する溶融金属の鋳型上面での前後方向の注入位置であり、グラフ(c)は取鍋前方に設置されたサーモグラフィの温度分布画像から、(1)式と(2)式で推定された取鍋から流出する溶融金属の鋳型上面での左右方向の注入位置である。
【0065】
グラフ(b)およびグラフ(c)において、破線は湯口カップの端を示し、*印が流出溶融金属の注入位置である。また、グラフ(b)およびグラフ(c)は湯口カップ中心を0とした注入位置を示している。
図8からわかるように、この実施例では注入位置は湯口カップ中心付近で注湯していることがわかる。
【0066】
以上のようにして、本実施形態における注湯量推定システムPは、角度取得部11aと、重量取得部11bと、取鍋内部形状取得部11cと、算出部11dを備える。角度取得部11aは、注湯作業における取鍋1の傾動角度θを取得する。重量取得部11bは、注湯作業における取鍋1の重量を取得する。取鍋内部形状取得部11cは、取鍋1の内部形状についてのデータを取得する。算出部11dは、傾動角度θと、取鍋1の重量と、内部形状についてのデータに基づいて、取鍋から注湯される溶融物の注湯流量の推定値を算出する。
【0067】
このような構成とすることにより、手動注湯装置における注湯状態を精度よく推定することが可能となる。
【0068】
また、注湯量推定システムPは、取鍋1の内部形状についてのデータを測定するために、3Dスキャナー等で構成される測定装置をさらに備えていてもよい。このような構成とすることで、3Dスキャナー等の測定装置で測定される取鍋形状データを用いて取鍋1からの注湯流量モデルを算出することとなり、取鍋の設計データを入手できないような注湯装置(たとえば、補修作業を行った取鍋等)に対しても注湯量の推定値を算出することができる。
【0069】
<2.第2実施形態>
図9および
図10を参照し、本願発明の第2実施形態について説明する。
図9に示すように、第2実施形態における注湯量推定システムPは、第1実施形態の構成の他に、評価部11eをさらに備える。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
【0070】
評価部11eは、算出部11dが算出した注湯量の推定データに対して、基準としての注湯作業における推定値である基準値と比較して、評価対象の注湯作業の評価を行う。このように、良好な注湯状態と比較し、作業者に評価結果を明示することにより、注湯作業に起因する鋳物品質のばらつきを抑え、良好な状態で維持することができる。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
図10に注湯作業を評価した一例を示す。横軸が相関係数を示し、縦軸が動的時間伸縮法を用いたマンハッタン距離の正負の符号を反転させた座標軸を示す。
図10のグラフは熟練者の3回の注湯作業と未習熟者の6回の注湯作業との評価結果を示している。具体的には、結果T1~T3は注湯作業の熟練者による1回目~3回目の作業の評価結果に対応し、結果N1~N6は注湯作業の未習熟者による1回目~6回目の作業の評価結果に対応する。
【0079】
ここで、評価結果が
図10のグラフの右上に配置されると(すなわち、結果T1~T3に近づくと)、鋳物品質が良い注湯流量データに類似した注湯ができていることを示す。言い換えると、矢印D1または矢印D2に向かうほど、良い注湯流量データに類似した注湯ができていることとなる。
【0080】
熟練者の注湯作業の評価結果T1~T3が右上にばらつきが小さく配置されていることから、鋳物品質が良好になる注湯作業が安定して行われていることが確認できる。また、未習熟者の注湯作業の評価結果N1~N6においては、注湯回数を重ねる度に徐々に右上に近づいてきており、良好な注湯作業に近づいてきていることが確認できる。
【0081】
また、注湯作業を習熟していない作業者が注湯技能を習得する際には、まず動的時間伸縮法を用いたマンハッタン距離がゼロに近づくように、注湯流量全体の大きさが基準データと同等になるような注湯作業をトレーニングし、その後に注湯流量を微調整し、相関係数が1に近づくように注湯作業をトレーニングするのが好ましい。このように定量的な評価に基づいて作業者をトレーニングすることにより、良品鋳物を生み出す注湯作業を効率的に習得させることが可能となる。
【0082】
<3.その他の実施形態>
以上、実施形態について説明したが、本願の技術的範囲の適用範囲は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0083】
たとえば、上記実施形態では、取鍋1の内部形状についてのデータは記憶部12に記憶されていたが、この例に限定されるものではない。たとえば、USB(Universal Serial Bus)メモリなどの外付けの記憶媒体に記憶しておいてもよいし、クラウドサーバーなどの他のサーバに記憶しておいてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、算出部11dは、拡張カルマンフィルタを用いて算出しているが、この例に限定されるものではなく、他の推定手法を用いても本開示の技術的思想を適用することができる。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
1 :取鍋
1a :出湯口
1b :ハンドル
1c :取手
2 :鋳型
2a :注入口
3 :姿勢角センサ
4 :ロードセル
5 :撮像部
6 :遮蔽材
9 :フック付きワイヤ
10 :情報処理装置
11 :制御部
11a :角度取得部
11b :重量取得部
11c :取鍋内部形状取得部
11d :算出部
11e :評価部
12 :記憶部
13 :測定装置