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特許7421236海綿/皮質骨および骨/軟組織の境界を検出するように構成された電気インピーダンス感知歯科用ドリルシステム
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  • 特許-海綿/皮質骨および骨/軟組織の境界を検出するように構成された電気インピーダンス感知歯科用ドリルシステム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】海綿/皮質骨および骨/軟組織の境界を検出するように構成された電気インピーダンス感知歯科用ドリルシステム
(51)【国際特許分類】
   A61C 3/02 20060101AFI20240117BHJP
   A61C 1/08 20060101ALI20240117BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61C 19/04 20060101ALI20240117BHJP
   A61B 17/16 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
A61C3/02
A61C1/08
A61C8/00 Z
A61C19/04 Z
A61B17/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022024606
(22)【出願日】2022-02-21
(62)【分割の表示】P 2019548569の分割
【原出願日】2018-03-08
(65)【公開番号】P2022065138
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】62/468,490
(32)【優先日】2017-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/475,724
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504303713
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ダートマウス カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ライアン ホルター
(72)【発明者】
【氏名】レベッカ バトラー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル サリン
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-525150(JP,A)
【文献】特表2014-502183(JP,A)
【文献】国際公開第2008/119992(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0296242(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0241628(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0094808(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0141385(US,A1)
【文献】板垣 昌幸,インピーダンス分光法の原理と解析法,表面科学,日本,2012年,Vol. 33, No. 2,pp. 64-68
【文献】片山 英樹,電気化学インピーダンス測定による表面・界面の解析,日本金属学会誌,日本,2014年,Vol. 78, No11,pp. 419-425
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 3/02
A61C 1/08
A61C 8/00
A61C 19/04
A61B 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリルシステムの作動方法であって、前記ドリルシステムは、
ビットを回転させるように結合されているかさ歯車ユニットを組み込むハンドセットと、
前記ビットの絶縁されていないカニューレに電気的に接触するカニューレ軸受と、
前記ビットの切断端の近傍から前記ビットのハンドセット端まで延在する絶縁コーティングであって、前記絶縁コーティングは、前記ビットの外部を前記ハンドセットから隔離する、絶縁コーティングと、
EIS測定および計算ユニットと、
接地板と
を備え、前記方法は、前記ビットを用いて穿孔するときに、界面への前記ビットの接近を検出するためのものであり、前記方法は、
前記カニューレ軸受を用いて前記EIS測定および計算ユニットを前記ビットに界面接触させることと、
前記EIS測定および計算ユニットが、少なくとも1つの交流周波数において前記ビットと前記接地板との間で電圧制限電流を駆動することと、
前記EIS測定および計算ユニットが、前記ビットと前記接地板との間の電圧および位相を測定することと、
前記EIS測定および計算ユニットが、測定された電圧および位相からインピーダンスを決定することと、
前記EIS測定および計算ユニットが、前記界面への接近を示すインピーダンス変化を示す視覚または聴覚信号を生成することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記EIS測定および計算ユニットは、複数の周波数のそれぞれにおいて電圧制限電流を提供し、結果として生じる電圧および位相を測定する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の周波数は、100~100,000ヘルツの範囲内の少なくとも2つの周波数を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記絶縁コーティングは、ダイヤモンド状炭素コーティングである、請求項1、2、または3に記載の方法。
【請求項5】
前記EIS測定および計算ユニットは、前記界面への接近を決定するように構成された分類子を備える、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カニューレ軸受は、ステンレス鋼を含む、請求項1、2、または3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権主張)
本願は、2017年3月23日に出願された米国仮特許出願第62/475,724号に対する優先権を主張するものである。また、本願は、2017年3月8日に出願された米国仮特許出願第62/468,490号における優先権を主張するものである。本段落において引用された両仮出願の全内容は、参照により本明細書中に援用される。
【0002】
(政府の利益)
本発明は、アメリカ国立衛生研究所によって与えられた助成番号1 R41 DE024938-01のもとでの政府支援によってなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
骨は、典型的には、2つの有意に異なる形態、すなわち、皮質骨および海綿骨を有する。皮質骨は、典型的には、関節、および長骨の骨幹部の大部分、および高い応力下にあり得る他の面積の中を含む、骨の表面において見出される。皮質または緻密質骨は、全ての骨の外面を裏打ちし、海綿骨よりも本質的に高密度で構造化されている。これは、それぞれ、同心円状の基質によって囲繞される中心においてハバース管(直径約50ミクロン)から成る、密集した骨単位に編成される。海綿骨は、皮質骨を支持し、それを往復して負荷を伝達する、網状網を形成する、海綿状構造を有する。骨梁または海綿状骨とも称される、海綿骨は、長骨および顎(上顎および下顎)骨の内側で見出され、主に、皮質骨よりも軽量で可撓性の構造支持を提供する。これは、蜂巣様構造に順序付けられた骨梁から成り、海綿骨内の細孔は、多くの場合、骨髄および血管で充填される。
【0004】
皮質および海綿骨の物理的および生物学的性質は、骨構造の差異により異なる。特に、これらの骨型の大いに異なる多孔性により、接着剤の浸透および接着、ねじまたは釘が骨の中で持続するであろう程度、および多孔質の埋め込まれた物体の中への骨の成長率は、皮質骨と海綿骨との間で異なる。
【0005】
骨は、寿命の全体を通して再形成する。皮質骨が海綿骨にわたって横たわる場合、皮質骨の厚さは、遺伝的特徴、小児期の栄養および運動歴、患者の年齢および健康、および骨折、歯周病、抜歯、筋肉使用および骨にかかる重量、および他の因子を含む、過去の病歴とともに変動する。外科医は、患者間の骨構造の変動を予期しなければならない。下顎骨および上顎骨では、具体的には、臨床医は、LekholmとZarbの分類に従って歯科インプラント部位内の骨を特性評価し、インプラント成功の可能性を決定する。均質な皮質骨から、皮質および海綿骨の組み合わせ、ほぼ完全に低密度の海綿骨に及ぶ、4つのタイプが存在する。その分類は、インプラント部位が位置する場所(すなわち、内部領域対小臼歯対大臼歯の中)および患者特性に依存する。
【0006】
骨、特に、下顎骨および上顎骨を含む、頭部の骨は、典型的には、骨を通した孔または開口部を通して、神経および動脈によって貫通され得る。これらの神経および動脈は、それらへの損傷が、口または顔の部分において感覚の損失を引き起こす、または骨の部分の壊死分解を引き起こす可能性を有するため、重要な構造である。例えば、下歯槽神経(IAN)は、下顎骨を通して貫通する。
【0007】
口腔外科手術を含む、手術を実施するとき、外科医が、作業している骨および重要な構造を含む周辺構造のタイプおよび寸法を認識することが望ましい。外科医は、外科医が作業している骨の寸法、タイプ、および層の厚さに従って、穿孔の深度および軌道等の手術技法を修正し、骨の中に留まり、上顎洞等の洞およびIAN等の神経のような隣接する構造を貫通することを回避する必要があり得る。
【0008】
1つの一般的な歯科手術手技は、支台または義歯が取り付けられ得る、アンカインプラントの設置である。本手技は、初期骨切り、またはその中にインプラントが設置される骨内の空洞を形成するために、骨を穿孔することを要求する。
【0009】
初期骨切り術を実施するとき、外科医は、海綿骨に到達する前に皮質骨の第1の層を通して穿孔し得、インプラントに良好な接合表面を与えるために骨の中に十分深く穿孔しなければならないが、ドリルが、上顎骨を通した上顎洞の空洞の中または神経または血管の中への穿孔に起因する、感染症または感覚神経障害等の外科合併症を予防するように、皮質骨の薄い遠位層を貫通しないことを確実にする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
ドリルシステムのビットが、隣接する皮質または海綿骨の中にあるか、海綿/皮質骨界面に接近しているか、または骨/軟組織界面に接近しているかを示すように構成される、電気インピーダンス分光感知を伴う歯科用ドリルシステムは、そのハンドセットの中にカニューレ装着ビットを有する、歯科用ドリルであって、カニューレ装着ビットは、刃先の遠位表面の一部を除いて表面全体を被覆する絶縁コーティングを有する、歯科用ドリルと、カニューレ装着ビットのカニューレの絶縁されていない内部に電気的に結合される、カニューレ軸受と、カニューレ軸受と接地板または帰還電極との間のインピーダンスを測定するように構成される、電気インピーダンス分光感知(EIS)測定および計算ユニットと、接近する海綿/皮質骨界面を示す電気性質の変化、またはドリルシステムのビットが海綿骨と皮質骨との間の界面または骨・軟組織界面に接近する際の変化を区別するように構成される、処理システムとを含む。
【0011】
皮質骨または軟組織へのビットの接近を検出する一方で、ビットを用いて骨を穿孔する方法は、ビットの切断端の近傍からビットのハンドセット端まで延在する絶縁コーティングを提供することと、ビットをカニューレ軸受と接触させることと、少なくとも1つの交流周波数においてビットと接地板との間で電圧制限電流を駆動することと、ビットと接地板との間の電圧および位相を測定することと、測定された電圧および位相からインピーダンスを決定することと、インピーダンスが変化し、骨と軟組織との間または海綿骨と皮質骨との間の界面を示すときにアラームを生成することとを含む。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
ドリルシステムのビットが海綿・皮質骨界面または骨・軟組織界面に接近しているかどうかを示すように構成される電気インピーダンス感知(EIS)を伴う歯科用ドリルシステムであって、
歯科用ドリルであって、前記歯科用ドリルは、そのハンドセットの中にカニューレ装着ビットを有し、前記カニューレ装着ビットは、前記ビットの切断端の近傍から前記ビットのハンドセット端まで延在する絶縁コーティングを有する、歯科用ドリルと、
前記カニューレ装着ビットのカニューレの絶縁されていない内部に電気的に結合されるカニューレ軸受と、
前記カニューレ軸受と接地板との間のインピーダンスを測定するように構成されるEIS測定および計算ユニットと、
前記ドリルシステムのビットが海綿・皮質骨または骨・軟組織界面に接近するときを区別するように構成される処理システムと
を備える、歯科用ドリルシステム。
(項目2)
ドリルビットの電気絶縁部分は、ダイヤモンド状炭素(DLC)コーティングで絶縁される、項目1に記載の歯科用ドリルシステム。
(項目3)
EIS測定および計算ユニットは、複数の周波数のそれぞれにおいて電圧制限電流を提供し、結果として生じる電圧および位相を測定する、項目1に記載の歯科用ドリルシステム。
(項目4)
前記EIS測定および計算ユニットは、ドリルビットが皮質骨に接近するときに視覚および/または聴覚アラームを提供するように構成される、項目1に記載の歯科用ドリルシステム。
(項目5)
前記EIS測定および計算ユニットは、100~100,000ヘルツの範囲内の少なくとも2つの周波数においてインピーダンスを測定するように構成される、項目1、2、3、または4に記載の歯科用ドリルシステム。
(項目6)
皮質骨へのビットの接近、または骨・軟組織界面へのビットの接近を検出する一方で、前記ビットを用いて骨を穿孔する方法であって、
前記ビットの切断端の近傍から前記ビットのハンドセット端まで延在する絶縁コーティングを提供することと、
前記ビットをカニューレ軸受と接触させることと、
少なくとも1つの交流周波数において前記ビットと接地板との間で電圧制限電流を駆動することと、
ビットと接地板との間の電圧および位相を測定することと、
測定された電圧および位相からインピーダンスを決定することと、
前記インピーダンスが変化し、海綿・皮質骨界面または骨・軟組織界面への接近を示すときにアラームを生成することと
を含む、方法。
(項目7)
前記電圧制限電流は、100~1,000,000ヘルツの複数の周波数において駆動される、項目6に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、電気インピーダンス分光感知を伴うドリルシステムのブロック図である。
【0013】
図2図2は、現在のドリルシステムのドリルビットのスケッチである。
【0014】
図3図3は、カニューレ軸受が取り付けられたビットを有するドリルの実施形態を示す写真である。
【0015】
図4図4は、2mmツイストビットを伴うNobel Biocareドリル上に統合されたプロトタイプを用いて測定される、海綿および皮質骨サンプルの電気抵抗およびリアクタンスの説明図である。
【0016】
図5図5は、むき出しの切断端を有する、DLCコーティングされたドリルビットの写真である。
【0017】
図6図6は、生体外の骨におけるドリルビットを伴う標準Nobel Biocareドリル上に統合されたプロトタイプを用いて測定される、海綿および皮質骨の正規化平均抵抗およびリアクタンスの対比を図示する。
【0018】
図7図7は、新鮮な状態の原位置の骨におけるドリルビットを伴う標準Nobel Biocareドリル上に統合されたプロトタイプを用いて測定される海綿および皮質骨の正規化平均抵抗およびリアクタンスの対比を図示する。
【0019】
図8図8は、外科的手技中に皮質骨へのドリルビットの接近を検出する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
皮質および海綿骨の大いに異なる細胞成分は、それぞれ、電気伝導度(σ)および誘電率(ε)(σおよびεは、抵抗およびリアクタンスに逆相関する)によって表される、電荷搬送および電荷貯蔵能力のスペクトルを提供する。電気インピーダンス分光法(EIS)で行われるように、広範囲の周波数(数100Hz~数10MHz)にわたってこれらの電気性質を記録するとき、皮質および海綿骨は、有意に異なることが報告されている。研究は、椎骨の中への椎弓根ねじ挿入において電気インピーダンス測定を調査しており、海綿骨と皮質骨との間の電気性質差が、椎骨を通して外科医を誘導するために使用され得ることを示している。
【0021】
本明細書では、歯科における種々の外科的手技およびいくつかの非歯科手術のために要求され得るもの等の骨に孔を穿孔するために構成されるドリルと統合されたEISデバイスを説明する。ドリルは、特に、歯科インプラント手技の初期骨切り術中に生体内の生体インピーダンススペクトルを測定するために構成される。ドリルは、特に、ドリルが構造の中に前進されるにつれて、生体内の骨構造の電気インピーダンススペクトルを測定するために適合される。本EISドリルは、聴覚または視覚信号のいずれかとしてリアルタイムフィードバックを臨床医に提供し、皮質層の貫通が起こる前に臨床医が穿孔を止めることを可能にする(必要である場合、即時臨床介入を可能にする)。特定の実施形態では、ドリルは、歯科用ドリルである。
【0022】
EIS感知ドリルシステム100が、図1に図示される。歯科用ドリルハンドセット102は、直角かさ歯車ユニット106に至る高速モータおよび駆動シャフト104を含有し、かさ歯車ユニットおよび駆動シャフト104の筐体110は、絶縁コーティング108で絶縁される。かさ歯車ユニットには、絶縁部分114と、むき出しの切断部分116とを有する、ドリルビット112が結合される。むき出しの切断部分116は、いくつかの実施形態では、ボール様バリの一部、他の実施形態では、ツイストドリルビットの先端であり、絶縁部分は、切断部分から、歯科用ドリルハンドセットの中に機械的に結合されるビットのハンドセット端まで延在する。かさ歯車ユニット106内には、ビット112に電気的に結合されるカニューレ軸受118がある。ハンドセット102は、洗浄流体用の管122を保持する供給管状筐体120と、ハンドセット102のモータ用の電気駆動ワイヤと、カニューレ軸受118を電気インピーダンス分光(EIS)測定および計算ユニット130に結合するために適合される電気ワイヤとを有し、EIS測定および計算ユニット130はまた、別のワイヤ132を通して第2の電極板134に結合する。EIS測定および計算ユニット130内には、プロセッサ138およびEISインピーダンス測定ユニット140の指図の下で100、1,000、10,000、および100,000Hzにおいて動作が可能なEIS刺激ユニット136がある。代替実施形態では、EISインピーダンス測定および計算ユニット130は、100Hz~1MHz範囲内の2つ以上の周波数において動作が可能である。プロセッサ138は、EIS測定ファームウェアおよび分類子ファームウェア144を伴うメモリ142を有し、分類子ファームウェアは、EIS測定を使用し、ビット112が海綿または皮質骨に穿孔しているかどうかを決定するように、かつインジケータ146を使用して、使用中である骨型ビット112を告知するように適合される。
【0023】
ツイストドリル実施形態が、図2により詳細に図示される。ツイストドリルビット160は、接触し、骨に孔を穿孔し得る、刃先を伴うむき出しまたは絶縁されていない端部162を有する。ビット160はまた、ダイヤモンド状炭素(DLC)のコーティング、すなわち、孔が骨に穿孔されている間に殆ど摩耗しないように非常に硬質および電気的に高抵抗性の両方である、コーティングを支承する、電気絶縁部分164も有し、DLCのコーティングは、ビット160の外部の残りの全体を通して、ドリルヘッド170のかさ歯車に係合する部分を含み、かつ溝171にわたる部分を含む、ビット160のドリル端まで延在する。ビット160はまた、ビットのドリル端から、全体ではないがビットの中に延在する、絶縁されていない軸方向孔172も有する。
【0024】
軸方向孔172内では、カニューレ軸受166の絶縁されていない端部分174が、その孔の中でビット160の絶縁されていない表面と電気接触している。カニューレ軸受166は、ビット160の端部から絶縁176を通して電子EIS測定および計算ユニット130(図1)まで延在する。駆動シャフト178およびかさ歯車180は、回転してドリルヘッド170のかさ歯車168を駆動し、ビット160を回転させて骨に孔を穿孔する。
【0025】
図1および2は、概略図であり、図3は、カニューレ軸受206および絶縁リード線208が取り付けられたビット204を有する、実験用ドリル202の実施形態を示す写真であり、図4は、一対の配設されていないカニューレ軸受210を示す写真である。実施形態では、カニューレ軸受210、206は、ステンレス鋼から形成される。
【0026】
種々の実施形態では、ビット160の絶縁されていない端部分174またはビット116の絶縁されていないボール部分は、長さが1~3ミリメートルである。
EISドリルシステムの動作:
【0027】
EIS測定および計算ユニット、ドリル、およびカニューレ軸受を伴うビットは、EISドリルシステムをともに形成する。ドリルビットのカニューレ内に軸受206を位置付けることは、外科的作業空間を減少させず、依然として、カニューレ内チャネルを通して、またはドリルビットの外部表面の周辺に洗浄を可能にする。カニューレ軸受は、インピーダンス分析器と界面接触するリード線に接続する。同様に、帰還電極134(図1)は、インピーダンス分析器と界面接触する別のリード線に接続する。電圧制限交流(AC)電流が、いくつかの周波数において2つの電極要素の間に印加され、それらの間に誘発される電圧および位相が、記録される。これらの測定から、インピーダンスが、電圧対電流の比として計算される。
【0028】
インピーダンス(Z)は、測定された電圧対注入された電流の比として計算され、方程式Z=R+jXに従って、インピーダンスを、実数の抵抗成分(R)および虚数のリアクティブ成分(X)から成る複素量と見なす。電子ボックスは、試験されている各周波数においてRおよびX測定を算出する。これらから、インピーダンス、伝導度、抵抗率、および同等物を算出する。
【0029】
生体外および原位置のブタ大腿骨における以前の実験では、皮質骨が海綿骨よりも高い抵抗率およびインピーダンスを有することを示している。皮質対海綿抵抗率の比は、生体外の骨では1.28~1.48、新鮮な状態の原位置の骨では2.82~2.94に及んだ。結果として、ドリルビットが海綿骨を通して皮質界面に向かって移動すると、その界面に接近するにつれてインピーダンス/抵抗率の増加を受けるであろうことを予期している。
【0030】
実施形態では、EIS測定および計算ユニットは、ドリルビットが皮質骨に接近するときに視覚および/または聴覚アラームを提供するように構成される。
【0031】
本デバイスの臨床使用は、ドリルを使用し、インプラント挿入のためにマークされる初期骨切り(骨の中の孔)を作成することを伴う。骨の電気性質、具体的には、抵抗およびリアクタンスは、ドリルが骨の中に前進されるにつれて、単一または複数の周波数にわたって記録される。これらの測定は、接近する組織遷移(すなわち、海綿・皮質界面)を感知するために使用される、リアルタイム分類ユニットの中に入力されるであろう。変化するインピーダンスに基づいて反復率が増加する、視覚または聴覚信号が、臨床医フィードバックとして使用されるであろう。
【0032】
我々は、皮質および海綿骨の生体外および原位置の電気性質の有意なデータセットを収集し、2つの骨型の間の有意なインピーダンス対比を示している。
【0033】
生体外実験では、標準カニューレ装着ドリルビットを、ブタから新鮮な状態で収穫された皮質および海綿骨のそれぞれ10個のサンプルの中に3ミリメートル深く位置付け、41の周波数において100Hz~1MHzのインピーダンスを記録した。それぞれ、0.1kHz、1kHz、10kHz、および100kHzにおいて41%、37%、29%、および32%の抵抗の対比を伴って、2つの骨型の間に有意なRおよびX差(p<0.05)があることを実証した。我々のプロトタイプを用いて記録された、これらのトレースは、海綿および皮質骨に関して前もって報告されたものに類似する。
【0034】
原位置実験では、カスタムDLCコーティングされたドリルビットを使用し、麻酔の30分後のブタの大腿骨内の皮質および海綿骨のそれぞれ40個のサンプルからインピーダンスを記録した。100kHzにおいて約300%の最大抵抗対比および1kHzにおいて約250%の最大リアクタンス対比を伴って、2つの組織型の間に有意なRおよびX差(p<0.001)があることを実証した。
【0035】
電気インピーダンス感知は、先端の近傍の組織型ではなく、先端が中にある組織型のみに応答する。本システムは、したがって、ドリルが骨を貫通するにつれてインピーダンス変化を監視し、インピーダンス変化が、先端が海綿・皮質骨界面に接近していることを示すとき、または先端が骨・軟組織界面に接近しているときにアラームを生成することができ、骨・軟組織界面は、骨と血管、神経、洞内層、筋肉、および他の非骨化組織との間の界面を含む。
特徴
【0036】
電気インピーダンス分光感知を伴う本歯科用ドリルシステムの特徴は、
1)感知または駆動電極としてのコーティングされた歯科用ドリルビットと、
2)ドリルビットの遠位数ミリメートルを除いた全体を絶縁するためのダイヤモンド状炭素(DLC)コーティングと、
3)ドリルビットをインピーダンス感知モジュールと界面接触させるためのカニューレ内軸受と、
4)本特定の外科用ドリル適用のために複数の周波数においてインピーダンス測定を収集することと、
5)純閾値検出を超えて界面検出特徴を拡張することと
を含む。
【0037】
加えて、カニューレ空間を通して我々のシステムを歯科インプラントドリルに界面接触させることによって、いかようにもドリルを増強させる必要もなく、外科医に利用可能な作業体積を減少させることもない。洗浄は、軸受の存在にもかかわらず、依然として可能であり、外科医が意図された通りにカニューレ装着ドリルビットを使用し続けることを可能にする。
【0038】
DLCコーティングは、極めて高い硬度(4,000~9,000HV)、高い抵抗率(最大10Ω-cm)を有し、生体適合性であるように設計される。本絶縁コーティングをドリルビットの大部分に適用し、遠位1~3mmのみを感知のために露出した状態にすることによって、材料の中のドリルビット深度に依存しない、より堅調かつ反復可能なインピーダンス測定を提供する。いくつかの従来技術は、ドリルデバイスに適用される絶縁材料のための規定を含むが、絶縁材料のタイプを特定することもなく、遠位端上の面積を感知のために露出した状態にすることもない。
【0039】
単一の周波数の代わりに複数の周波数においてインピーダンス測定を収集することは、海綿骨と皮質骨との間のより良好な分類の可能性を有する。測定数の増加は、2つの骨型を対比するために使用され得る、付加的特徴を追究することを可能にするであろう。殆どの従来技術は、接近する組織界面を臨床医に警告するための単一の周波数における閾値検出に基づく。我々は、複数の特徴およびアルゴリズムを使用し、界面検出に使用するための最適な組み合わせを見出す。
【0040】
実施形態では、皮質骨へのビットの接近を検出する一方で、ビットを用いて骨を穿孔する方法は、ビットの切断端の近傍からビットのハンドセット端まで延在する絶縁コーティングを提供すること302(図8)と、ビットをカニューレ軸受と接触させること304とを含む。次いで、EIS測定および計算ユニットは、少なくとも1つの交流周波数においてビットと接地板との間で電圧制限電流を駆動し306、電圧および位相を測定し、次いで、ビットと接地板との間の電圧および位相の測定からインピーダンスを決定し308、インピーダンスが変化し、海綿・皮質骨または骨・軟組織界面への接近を示すときにアラームを生成する310。
【0041】
代替実施形態では、ビットのハンドセット端の接触部分は、DLC絶縁コーティングがなく、ハンドセットは、EIS測定および計算デバイスからの電気接触を、ビットのハンドセット端のそのむき出しの部分に提供する一方で、EIS測定および計算デバイスからドリルハンドセットの残りの部分を隔離するように修正される。
特徴の組み合わせ
【0042】
ドリルシステムのビットが海綿・皮質骨界面または骨・軟組織界面に接近しているかどうかを示すように構成される、電気インピーダンス感知(EIS)を伴う、Aと指定された歯科用ドリルシステムは、そのハンドセットの中にカニューレ装着ビットを有する、歯科用ドリルであって、カニューレ装着ビットは、ビットの切断端の近傍からビットのハンドセット端まで延在する絶縁コーティングを有する、歯科用ドリルと、カニューレ装着ビットのカニューレの絶縁されていない内部に電気的に結合される、カニューレ軸受と、カニューレ軸受と接地板との間のインピーダンスを測定するように構成される、EIS測定および計算ユニットと、ドリルシステムのビットが海綿・皮質骨または骨・軟組織界面に接近するときを区別するように構成される、処理システムとを含む。
【0043】
ドリルビットの電気絶縁部分が、ダイヤモンド状炭素(DLC)コーティングで絶縁される、Aと指定された歯科用ドリルシステムを含む、AAと指定された歯科用ドリルシステム。
【0044】
EIS測定および計算ユニットが、複数の周波数のそれぞれにおいて電圧制限電流を提供し、結果として生じる電圧および位相を測定する、AまたはAAと指定された歯科用ドリルシステムを含む、ABと指定された歯科用ドリルシステム。
【0045】
EIS測定および計算ユニットが、ドリルビットが皮質骨に接近するときに視覚および/または聴覚アラームを提供するように構成される、A、AA、またはABと指定された歯科用ドリルシステムを含む、ACと指定された歯科用ドリルシステム。
【0046】
EIS測定および計算ユニットが、100~100,000ヘルツの範囲内の少なくとも2つの周波数においてインピーダンスを測定するように構成される、A、AA、AB、またはACと指定された歯科用ドリルシステムを含む、ADと指定された歯科用ドリルシステム。
【0047】
皮質骨へのビットの接近、または骨・軟組織界面へのビットの接近を検出する一方で、ビットを用いて骨を穿孔する、Bと指定された方法は、ビットの切断端の近傍からビットのハンドセット端まで延在する絶縁コーティングを提供することと、ビットをカニューレ軸受と接触させることと、少なくとも1つの交流周波数においてビットと接地板との間で電圧制限電流を駆動することと、ビットと接地板との間の電圧および位相を測定することと、測定された電圧および位相からインピーダンスを決定することと、インピーダンスが変化し、海綿・皮質骨界面または骨・軟組織界面への接近を示すときにアラームを生成することとを含む。
【0048】
電圧制限電流が、100~100,000ヘルツの複数の周波数において駆動される、Bと指定された方法を含む、BAと指定された方法。
結語
【0049】
変更が、本明細書の範囲から逸脱することなく、上記の方法およびシステムの変更に行われ得る。したがって、上記の説明に含有される、または付随する図面に示される事項は、限定的な意味ではなく例証的として解釈されるべきであることに留意されたい。以下の請求項は、本明細書に説明される全ての一般的および具体的特徴、および言語上、その間に入ると言われ得る、本方法およびシステムの範囲の全ての記述を網羅することを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8