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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】抗腫瘍のウイルス
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/768 20150101AFI20240117BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240117BHJP
   C12N 7/00 20060101ALN20240117BHJP
   C12N 7/01 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
A61K35/768
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
C12N7/00 ZNA
C12N7/01
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022569290
(86)(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 CN2021072775
(87)【国際公開番号】W WO2021147874
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】202010065206.8
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【微生物の受託番号】CGMCC  CGMCC 19294
(73)【特許権者】
【識別番号】522289806
【氏名又は名称】シャンシー アカデミー オブ アドバンスト リサーチ アンド イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガオ、シャン
(72)【発明者】
【氏名】ツェイ、インツィー
(72)【発明者】
【氏名】トン、チョウ
(72)【発明者】
【氏名】ガオ、フー
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】Virol. J.,2019年08月06日,Vol.16 No.1 Article number:98,p.1-10
【文献】Virol. Sinica,2020年03月06日,Vol.35 No.4,p.426-435
【文献】Cell Host & Microbe,2018年,Vol.23,pp.636-643,e1-e5
【文献】ZHAO Y. et al.,NATURE COMMUNICATIONS,2020年01月07日,Vol.11:38,https://doi.org/10.1038/s41467-019-13936-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍を治療するために使用される、KRM1を受容体とするエンテロウイルスを含む、医薬組成物であって、該エンテロウイルスが、CV-A10である、上記医薬組成物
【請求項2】
前記エンテロウイルスが、操作されたウイルスである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記操作されたウイルスのゲノムが、追加の腫瘍治療剤をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記エンテロウイルスが、2020年1月19日に寄託番号CGMCC NO.19294で中国普通微生物菌種寄託管理センターに寄託されている、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記エンテロウイルスは、消化管経路及び/又は注射経路により投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記エンテロウイルスは、経口、腫瘍内注射、癌傍注射、筋肉内注射及び静脈内注射からなる群より選択される経路により投与される、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
追加の抗腫瘍治療をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記追加の抗腫瘍治療が、化学治療、放射線治療、標的治療及び免疫治療からなる群より選択される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記腫瘍が、結腸がん、黒色腫、前立腺がん、肺癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮頸癌、子宮癌、膵臓がん、胃癌、食道癌、脳腫瘍、爪母細胞がん及び乳がんからなる群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記腫瘍が、結腸がん又は肺癌である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
腫瘍細胞の成長をイン・ビトロで阻害する方法であって、前記腫瘍細胞をKRM1を受容体とするエンテロウイルスに曝すことを含み、該エンテロウイルスが、CV-A10である、上記方法。
【請求項12】
前記腫瘍細胞が、結腸がん、黒色腫、前立腺がん、肺癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮頸癌、子宮癌、膵臓がん、胃癌、食道癌、脳腫瘍、爪母基細胞がん、及び乳がんからなる群より選択される細胞に由来するものである、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本願は、2020年01月20日に中国特許局に出願された、出願番号が202010065206.8である中国特許出願に基づく優先権を主張し、その全内容は援用により本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、Wntシグナル伝達を阻害するウイルス及び前記ウイルスを用いてWntシグナル伝達を阻害する方法に関し、さらに前記ウイルスを用いて腫瘍を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
手足口病は、5歳以下の幼児に多発するが、成人に発生することが少ない感染病である。感染経路には、消化管、呼吸器及び接触感染が含まれる。手足口病の潜伏期間は2~10日で、平均3~5日である。症状には、口の痛み、食欲不振、微熱、手足口などの部位での小さなヘルペス又は小さな潰瘍がある。多くの子供は、1週間以内で自然に治癒するが、少数の子供は、心筋炎、肺水腫、無菌性髄膜脳炎などの合併症を発症し、一部の重篤な症例は、病状が急速に進行して死亡した。今、有効な治療薬はまだなく、主に対症療法が使用されている。
【0004】
様々なエンテロウイルスは、手足口病を引き起こす可能性があり、最も一般的な病原体は、コクサッキーウイルスA16型(CV-A16、CVA16とも呼ばれる)及びエンテロウイルス71型(EV-A71、EV-71又はEV71とも呼ばれる)であり、いずれも小RNAウイルス科のエンテロウイルス属に属する。
【0005】
コクサッキーウイルスは、A(23型)とB(6型)の2種類に分けられる。CV-A16は手足口病の重要な病原体であるにもかかわらず、コクサッキーウイルス感染の90%は症状を引き起こさないか、又は発熱のみを引き起こす。
【0006】
今まで、これらのエンテロウイルスに対する理解はまだ限られているので、エンテロウイルスの病原性スペクトル及び発症メカニズムをさらに研究する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コクサッキーウイルスA10型(CV-A10、CVA10とも呼ばれる)をモデルとしてエンテロウイルスの病原性スペクトルを研究する過程において、発明者らは、CV-A10などのエンテロウイルスがインビトロで腫瘍細胞の成長を阻害できることを驚くべきことに見出した。また、発明者らは、CV-A10がインビボでの抗腫瘍活性を有することをマウスモデルでさらに確証した。
【0008】
CV-A10などのエンテロウイルスの発症メカニズム及びその可能な抗腫瘍メカニズムを研究するために、発明者らは、低温電子顕微鏡法を用いて、CV-A10とKremen 1(KRM1)複合体の構造を研究した。この過程において、発明者らは、KRM1上のCV-A10結合部位とDKK1(Dickkopf-related protein 1)及びKRM1の結合部位とが多く重なることをさらに驚くべきことに見出し、そして、発明者らはこの結合部位が重なることを実験において確証した。本発明は、発明者が上記の知見に基づいて完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様では、細胞におけるWnt経路シグナル伝達を阻害する方法であって、前記細胞をKRM1を受容体とするエンテロウイルスに曝すことを含む方法が提供される。前記エンテロウイルスは、例えば、CV-A2、CV-A3、CV-A4、CV-A5、CV-A6、CV-A10及びCV-A12からなる群より選択され、特にCV-A10ウイルスである。
【0010】
理論に限定されることなく、本明細書に記載の「KRM1を受容体とするエンテロウイルス」は、細胞表面でのウイルス受容体とするKRM1に結合することによりウイルスの宿主細胞への膜貫通侵入を完成する。本明細書では、このようなエンテロウイルスは、KRM1を受容体とするエンテロウイルスとも呼ばれる。例えば、KRM1媒介によりウイルス侵入及び次過程を実現するコクサッキーウイルスCV-A2、CV-A3、CV-A4、CV-A5、CV-A6、CV-A10及びCV-A12は、いずれも本明細書に記載のKRM1を受容体とするエンテロウイルス(Jacqueline Staring etc.KREMEN1 Is a Host Entry Receptor for a Major Group of Enteroviruses,2018,Cell Host&Microbe 23,636-643)である。
【0011】
第2の態様においては、細胞におけるβ-カテニンを分解する方法であって、前記細胞をKRM1を受容体とするエンテロウイルスに曝すことを含む方法が提供される。前記エンテロウイルスは、例えば、CV-A2、CV-A3、CV-A4、CV-A5、CV-A6、CV-A10及びCV-A12からなる群より選択され、特にCV-A10ウイルスである。
【0012】
上記の態様の一実施形態では、前記ウイルスが、操作されたものである。例えば、操作されたウイルスは、その目的の達成に寄与する追加のタンバク質及び/又はそのコード配列、及び/又は非コードRNAなどの核酸も含む。
【0013】
第3の態様においては、腫瘍細胞の成長を阻害する方法であって、前記腫瘍細胞をKRM1を受容体とするエンテロウイルスに曝すことを含む方法が提供される。前記エンテロウイルスは、例えば、CV-A2、CV-A3、CV-A4、CV-A5、CV-A6、CV-A10及びCV-A12からなる群より選択され、特にCV-A10ウイルスである。
【0014】
一実施形態では、前記腫瘍細胞は、例えば、結腸がん、黒色腫、前立腺がん、非小細胞肺癌などの肺癌、肝臓癌、肝細胞癌、子宮頸癌、子宮癌、膵臓がん、胃癌、食道癌、脳腫瘍、爪母基細胞がん、及び乳がんに由来する細胞である。
【0015】
別の一実施形態では、前記ウイルスが、操作されたものである。例えば、操作されたウイルスは、その目的の達成に寄与する追加のタンバク質及び/又はそのコード配列、及び/又は非コードRNAなどの非コード核酸をさらに含むか、又は生成することができる。例えば、この態様において、「その目的の達成に寄与する」という用語は、腫瘍細胞の成長を阻害するのに寄与することを意味する。例えば、前記操作されたウイルスのゲノムは、追加の抗腫瘍剤又は腫瘍治療剤をコードするヌクレオチド配列をさらに含む。
【0016】
第4の態様においては、腫瘍を治療する方法であって、KRM1を受容体とするエンテロウイルスを、これを必要とする対象に投与することを含む方法が提供される。また、前記エンテロウイルスは、例えば、CV-A2、CV-A3、CV-A4、CV-A5、CV-A6、CV-A10及びCV-A12からなる群より選択され、例えばCV-A10ウイルスである。
【0017】
一実施形態では、前記腫瘍は、結腸がん、黒色腫、前立腺がん、非小細胞肺癌肺癌などの肝臓癌、肝細胞癌、子宮頸癌、子宮癌、膵臓がん、胃癌、食道癌、脳腫瘍、爪母細胞がん及び乳がんからなる群より選択される。
【0018】
別の一実施形態では、前記ウイルスが、操作されたものである。例えば、このような工学的は、その目的の達成に寄与する任意の工学的改造であり得る。例えば、この態様では、「その目的の達成に寄与する」という用語は、腫瘍を治療するのに寄与することを意味する。例えば、ウイルスの保存/輸送に寄与し、ウイルスの投与に寄与し、より良い抗ウイルス治療効果を達成するのに寄与することである。例えば、操作されたウイルスは、その目的の達成に寄与する追加のタンバク質、核酸及び/又はそのコード配列をさらに含むか、又は生成することができ、前記核酸は、例えば、非コードRNAなどの非コード核酸である。本明細書で「操作される」という用語は、他の目的を達成するために実施される遺伝子工学の改造も含むことができることが理解されるであろう。
【0019】
具体的な一実施形態では、前記操作されたウイルスのゲノムは、追加の腫瘍治療剤をコードするヌクレオチド配列をさらに含む。前記の追加の腫瘍治療剤は、例えば、腫瘍を治療するためのタンバク質及び/又は非コードRNAなどの核酸であり得る。
【0020】
別の一実施形態では、前記ウイルスは、腫瘍内注射、癌傍注射、静脈内注射及び/又は筋肉内注射により前記対象に投与される。例えば、前記ウイルスは、腫瘍内注射により投与され、癌傍注射により投与され、静脈内注射により投与され、筋肉内注射により投与され、腫瘍内注射及び/又は癌傍注射により投与され、腫瘍内注射及び/又は静脈内注射により投与され、腫瘍内注射、癌傍注射及び/又は静脈内注射により投与される。腫瘍内注射は、抗腫瘍のウイルスの典型的な投与経路であり、ウイルスは循環器系を通過することなく直接に治療部位に入ることができる。ただし、腫瘍内注射は、経験豊富な専門家が行う必要があることがよくある。癌傍注射は、実行がより簡単であり、通常、初期訓練を受けた専門家でも実行することができる。癌傍注射では、治療剤が一般的に腫瘍内注射よりもやや遅く治療部位に入るため、癌傍注射は腫瘍内注射より比較的好ましくない。実際には、腫瘍内注射を目的とする操作が実践中に癌傍に注射されることになりやすい。静脈内注射は、ほぼすべての医療専門家により習得される操作であり、追加の訓練は必要としない。静脈内注射では、治療剤が循環器系により治療部位に運ばれ、そして治療剤も循環器系で希釈されてしまう。従って、腫瘍内注射及び癌傍注射に比べると、静脈内注射は、抗腫瘍のウイルス治療では一般に好ましくない。驚くべきことに、発明者らは、本明細書に記載されているエンテロウイルスを用いた抗腫瘍治療においては、静脈内注射が腫瘍内注射とほぼ同じ抗腫瘍効果を示すことを見出した。筋肉内注射は、要求される補助条件が比較的に低いが、局所吸収を経て循環器系に入り、次に循環器系につれて治療部位に入ることを必要とされるものである。
【0021】
別の一実施形態では、前記ウイルスは、消化管経路、例えば経口により投与される。消化管経路は、抗腫瘍のウイルス治療の通常の選択ではないことが知られている。驚くべきことに、発明者らは、消化管経路を介して前記ウイルスを投与しても、有意な抗腫瘍効果を依然として達成できることを見出した。
【0022】
別の一実施形態では、前記方法は、前記対象に追加の抗腫瘍治療を実行することをさらに含む。前記の追加の抗腫瘍治療は、例えば化学治療、放射線治療、標的治療及び免疫治療からなる群より選択される1つ又は複数のものである。
【0023】
なお、エンテロウイルスは、手足口病の病原体であるが、手足口病が主にCV-A16及びEV-A71に起因したものであり、しかも、5歳以下の児童で手足口病を引き起こすことしか見られなく、多くの子供の症状が軽微であり、年長の児童及び成人では症状がめったに見られない。これらの意外な発見から、このような広範な安全性は、KRM1を受容体とするエンテロウイルスが腫瘍、特に年長の児童(5歳を超える)及び成人に見られる腫瘍の治療に特に適されることを可能にする。従って、具体的な一実施形態では、前記の治療対象としては、年長の児童又は成人である。
【0024】
第5の態様においては、KRM1を受容体とするエンテロウイルスであって、細胞におけるWnt経路シグナル伝達の阻害、細胞におけるβ-カテニンの分解、結腸がん細胞などの腫瘍細胞の成長の阻害、結腸がんなどの腫瘍の治療に使用されるウイルスが提供される。前記エンテロウイルスは、例えば、CV-A2、CV-A3、CV-A4、CV-A5、CV-A6、CV-A10及びCV-A12からなる群より選択され、特にCV-A10ウイルスである。
【0025】
一実施形態では、前記ウイルスが、操作されたものである。例えば、このような工学的は、その目的の達成に寄与する任意の遺伝子工学的改造であり得る。例えば、この態様では、「その目的の達成に寄与する」という用語は、腫瘍を治療するのに寄与することを意味する。例えば、ウイルスの保存/輸送に寄与し、ウイルスの投与に寄与し、より良い抗ウイルス治療効果を達成するのに寄与することである。例えば、操作されたウイルスは、その目的の達成に寄与する追加のタンバク質、核酸及び/又はそのコード配列をさらに含むか、又は生成することができ、前記核酸は、例えば、非コードRNAなどの非コード核酸である。本明細書で「操作される」という用語は、他の目的を達成するために実施される遺伝子工学の改造も含むことができることが理解されるであろう。
【0026】
具体的な一実施形態では、前記操作されたウイルスのゲノムは、追加の腫瘍治療剤をコードするヌクレオチド配列をさらに含む。前記の追加の腫瘍治療剤は、例えば、腫瘍を治療するためのタンバク質及び/又は非コードRNAなどの核酸であり得る。
【0027】
別の一実施形態では、前記ウイルスは、腫瘍内注射、癌傍注射、静脈内注射及び/又は筋肉内注射により前記対象に投与される。例えば、前記ウイルスは、腫瘍内注射により投与され、癌傍注射により投与され、静脈内注射により投与され、筋肉内注射により投与され、腫瘍内注射及び/又は癌傍注射により投与され、腫瘍内注射及び/又は静脈内注射により投与され、腫瘍内注射、癌傍注射及び/又は静脈内注射により投与される。腫瘍内注射は、抗腫瘍のウイルスの典型的な投与経路であり、ウイルスは循環器系を通過することなく直接に治療部位に入ることができる。ただし、腫瘍内注射は、経験豊富な専門家が行う必要があることがよくある。癌傍注射は、実行がより簡単であり、通常、初期訓練を受けた専門家でも実行することができる。癌傍注射では、治療剤が一般的に腫瘍内注射よりもやや遅く治療部位に入るため、癌傍注射は腫瘍内注射より比較的好ましくない。実際には、腫瘍内注射を目的とする操作が実践中に癌傍に注射されることになりやすい。静脈内注射は、ほぼすべての医療専門家により習得される操作であり、追加の訓練は必要としない。静脈内注射では、治療剤が循環器系により治療部位に運ばれ、そして治療剤も循環器系で希釈されてしまう。従って、腫瘍内注射及び癌傍注射に比べると、静脈内注射は、抗腫瘍のウイルス治療では一般に好ましくない。驚くべきことに、発明者らは、本明細書に記載されているエンテロウイルスを用いた抗腫瘍治療においては、静脈内注射が腫瘍内注射とほぼ同じ抗腫瘍効果を示すことを見出した。筋肉内注射は、要求される補助条件が比較的に低いが、局所吸収を経て循環器系に入り、次に循環器系につれて治療部位に入ることを必要とされるものである。
【0028】
別の一実施形態では、前記ウイルスは、消化管経路、例えば経口により投与される。消化管経路は、抗腫瘍のウイルス治療の通常の選択ではないことが知られている。驚くべきことに、発明者らは、消化管経路を介して前記ウイルスを投与しても、有意な抗腫瘍効果を依然として達成できることを見出した。
【0029】
第6の態様においては、細胞におけるWnt経路シグナル伝達の阻害、細胞におけるβ-カテニンの分解、結腸がん細胞などの腫瘍細胞の成長の阻害、結腸がんなどの腫瘍の治療に使用される、第6の態様に記載されているエンテロウイルスを含む医薬組成物が提供される。前記ウイルスは、例えば、CV-A2、CV-A3、CV-A4、CV-A5、CV-A6、CV-A10及びCV-A12からなる群より選択され、特にCV-A10ウイルスである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、CV-A10の透過型電子顕微鏡図を示す。ここで、スケールが100nmである。
図2図2Aは、CV-A10がインビトロでヒト結腸がん細胞RKOの成長を阻害し、この阻害効果がウイルス力価と正に相関し、時間経過につれて漸進的に増強することを示す;図2Bは、対照としてEV-A71に感染したRKO細胞を示す。
図3図3は、RKO結腸がん細胞を接種したNCGマウスにCV-A10ウイルスを注射する前後の腫瘍成長を示す。(A)CV-A10ウイルスの腫瘍内注射の統計学的結果、(B)腫瘍内注射後の腫瘍サイズの概略図、(C)CV-A10ウイルスの静脈内注射の統計学的結果、(D)静脈内注射後の腫瘍サイズの概略図。
図4図4は、組換えKRM1タンパク質の精製及びSDS-PAGEによる同定図を示す。
図5図5は、KRM1とCV-A10の複合体の構造(A)、KRM1とCV-A10の結合部位(B)、及びKRM1とDKK1の結合部位(C)の構造比較図を示す。
図6図6は、ウイルス感染細胞におけるレポーター遺伝子の相対的な発現レベルを示す。CV-A10はRD細胞(A、B)及び293T細胞(C、D)においてWnt/β-カテニン経路シグナル伝達の下流の遺伝子の発現を阻害したことに対して、対照としてのEV-71は有意な阻害効果を示さず、DKK1はCV-A10に近い阻害効果を示した。
図7図7は、CV-A10がRKO細胞においてβ-カテニンの分解を引き起し、この効果がウイルス量と正に相関し、ウイルス量の増加につれて増強することを示す。
図8図8は、がんの様々な段階(A)及び様々な腫瘍(B)におけるKRM1の発現プロファイリングの解析を示す。
図9図9は、RKO細胞のCV-A10感染後のKRM1発現の増加を示す。
図10図10は、CV-A10がヒト肺癌細胞株MRC5、PC3、Calu-1及びNCI-h1299の成長を阻害し、この阻害効果がウイルス力価と正に相関し、時間経過につれて漸進的に増強することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
特に明記しない限り、本明細書で使用される用語は、当業者により一般的に理解される意味を有する。以下に、本明細書で使用されるいくつかの用語の定義を示し、これらの用語について他の解釈がある場合、本明細書で記載される定義に準じることにする。
【0032】
本明細書で使用される「エンテロウイルス」などの「ウイルス」という用語は、環境又は罹患した個体から直接単離された野生型ウイルス株を含み、これらの野生型ウイルスから誘導された様々なウイルス変異体も含む。一方、「ウイルス」という用語は、従来の感染により生成したウイルス粒子に加えて、ウイルス複製、組立てなどの一つまたはそれ以上のプロセスへの人為的に介入により生成したウイルス粒子及びウイルス様粒子(VLP)も含む。
【0033】
本明細書で使用される「操作されたウイルス」という用語は、野生型ウイルスとは異なる、遺伝子工学的に改造されたウイルス又はその変異体を指し、この遺伝子工学的改造は、本明細書に記載の目的を達成するために行ってもよく、他の目的のために行っても良い。
【0034】
本明細書で使用される「治療」という用語は、対象の健康状態に有益な任意の手段を指し、例えば、疾患の発生を予防する、疾患の発生リスクを低減する、疾患の進行を遅らせる又は妨げる、疾患に関連する細胞又は実体(例えば、腫瘍細胞又は腫瘍実体)の成長を阻害又は停止する、疾患に関連する細胞(例えば、腫瘍細胞)を殺す、疾患に関連する実体(例えば、腫瘍実体)を縮小させる、疾患に関連する症状を軽減又は排除する、疾患に関連する合併症の発生や進行を防止するか又は遅らせる、疾患の転移を阻害するか又は遅らせる、罹患した対象の生存率を向上させることであり得る。
【0035】
本明細書で使用される「抗腫瘍治療」という用語は、腫瘍の発生を予防するか又は遅延させる、腫瘍の発生リスクを低減する、腫瘍の進行を遅らせるか又は妨げる、腫瘍細胞又は腫瘍実体の成長を阻害するか又は停止する、腫瘍細胞を殺す、腫瘍実体の成長を停止するか又は縮小させる、腫瘍に関連する症状(例えば、腫瘍の痛み)を減少するか又は排除する、腫瘍に関連する合併症の発生又は進行を防止するか又は遅らせる、腫瘍の転移を阻害するか又は遅らせる、罹患した対象の生存率を向上させることに寄与する任意の手段を指す。抗腫瘍治療は、例えば、手術切除、化学治療、放射線治療、標的治療及び免疫治療のうちの1つ又は複数であり得る。医療実践では、罹患した対象の非健康状態を緩和又は排除するために、医学専門家は、1つ又は複数の適用可能な腫瘍治療手段を選択することが多い。
【0036】
本明細書で使用される「Wnt経路」、「Wnt/β-カテニン経路」という用語は、Wnt及びその受容体タンパク質に媒介されるシグナル伝達プロセスを指す。Wnt経路は、細胞内シグナル伝達の重要な経路であり、様々な生理学的及び病理学的プロセスに広く関与した。「Wnt経路シグナル伝達を阻害する」という用語は、生理学的プロセスを媒介するWnt経路シグナル伝達に生理学的プロセスとは逆の変化を生じることを指し、Wnt経路シグナル伝達を負に調節するとも呼ばれることがある。
【0037】
本明細書で使用される「から選択される」という用語は、複数の候補から選択することを指す。該当する場合、特に明記しない限り、前記「から選択される」は、複数の候補から1つ又は複数の候補を選択することができる。
【実施例
【0038】
以下、実施例を合わせて本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を説明するために用いられるに過ぎなく、本発明の範囲を限定するものと見なすべきではないということは、当業者であれば理解されるであろう。実施例に具体的な条件が示されていない場合は、従来の条件又はメーカーが推奨する条件に従って行う。使用される試薬又は機器は、メーカーが示されていない場合、いずれも市販で購入できる従来の製品である。

実施例1:CV-A10ウイルスの増幅及び精製
【0039】
コクサッキーウイルスA10(CV-A10)HB09-035ウイルス株は、2009年に中国河北省で分離して得られた。このウイルス株は、2020年1月19日に寄託番号CGMCC NO.19294で中国普通微生物菌種寄託管理センター(中国北京市朝日区北辰西路1号院3号)に、ブダペスト条約に基づく国際寄託として寄託された。ヒト横紋筋肉内腫細胞(rhabdomyosarcoma cell、RD cell、ATCC CCL-136)を10%ウシ胎児血清含有DMEM培地に培養し、5×10個の細胞を15cm培養皿に接種し、37°Cで5%COを24時間培養した。培地を廃棄し、感染多重度MOI=0.1でCV-A10ウイルスシードを追加し、ウイルスシードをDMEM培地で希釈した。培養を36時間続け、顕微鏡で90%の細胞変性効果(CPE)が観察された場合、上澄みを収集し、KrosFlo(R)TFF systems 300kDを用いてウイルスを濃縮し、細胞破片を除去した。次に、140000gで2時間超遠心分離し、上澄みを廃棄した。PBS(pH7.4)を加えてウイルス沈殿物をゆっくりと再懸濁し、マイクロ遠心チューブに収集した。次に、ウイルスの再懸濁液を15%~45%スクロース密度勾配で140000gで4時間遠心分離し、200μlごとに一層として別々のチューブに収集し、等体積のPBSを加えて溶液浸透圧を低下させた。OD260/280が1.5を超えるサンプルを透過型電子顕微鏡により検査し、成熟したウイルス粒子を多く含むサンプル(図1に示すように)を残した。ウイルスをPBS溶液に保存し、濃度及び力価を測定した後に予備とした。

実施例2:CV-A10はヒト結腸がん細胞株RKOの成長を阻害した
【0040】
RKO結腸がん細胞株(ATCC CRL-2577)を培養し、2×10個の細胞を96ウェルプレートに入れ、8時間培養した。培地を無血清DMEM培地に変更し、細胞を様々な力価のウイルス(MOI=0.001~10)に感染させ、37°Cで培養を続け、様々な時点で細胞生存率を測定した。生存率測定は、CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay assays(Promega)キットを使用してユーザーマニュアルに従って検出した。その結果、図2Aに示すように、高いウイルス力価(MOI=10)に感染した12時間後に、細胞生存率が低下していく傾向を示し始め、48hではほぼすべての細胞が死亡した。より低いウイルス力価(MOI=1)によっても60時間後に癌細胞がほぼすべて死亡したことを引き起こした。他の力価のウイルスは、異なる時間に阻害効果の勾配を生じた。最も低いウイルス力価(MOI=0.001)でも、72hで細胞増殖への阻害を示した。CV-A10がインビトロで結腸がん細胞株RKOの成長を阻害することができ、また、ウイルス力価及び感染時間と正に相関していることが示された。EV-A71を用いて同じ条件下で実験を行った結果、EV-A71が48hまでヒト結腸がん細胞RKOに対して有意な増殖阻害効果を示さなかった(図2B)ことから、CV-A10の作用が特異的であることが示された。

実施例3:CV-A10の腫瘍内又は静脈内注射によるマウスの実体腫瘍の成長への阻害
【0041】
4週齢のNCGマウス(17~19g)を合計15匹選択し、5×10RKO細胞/匹ずつに背中に注射した。腫瘍を植えた後、5日間飼育して背中の腫瘍形成状況を観察した。腫瘍が120mmに成長すると、3日ごとに治療を行い、即ち、5、8、11、14、17日目にCV-A10ウイルスの腫瘍内注射又は静脈内注射を行い、対照群を配置し、各群に5匹とした。ここでは、腫瘍内注射群には、腫瘍内多点注射を行い、静脈内注射群には、尾静脈への単針注射を行い、治療用量を1×10ウイルス粒子/次とした。対照群には、操作誤差を排除するためにPBSを用いて腫瘍内の複数点の注射を行った。マウスの体重を2日おきに記録し、腫瘍の長径および短径をノギスで測定し、腫瘍の体積を記録し、20日間連続的にモニタリングした。腫瘍接種の20日後にマウスを処死し、腫瘍を取り出し、腫瘍の体積を測定した。腫瘍体積データから:腫瘍内注射群には11日目(2回の治療、治療後6日)、静脈内注射群には13日目(3回治療、治療後8日)に、腫瘍サイズに有意差が認められた。CV-A10腫瘍内注射(図3A-3B)又は静脈内注射(図3C-3D)のいずれかによって腫瘍の成長を阻害することができたことが実証された。

実施例4:受容体KRM1タンパク質の発現及び精製
【0042】
発明者らは、ヒトKremen 1(KRM1)細胞外セグメント(第23~373位のアミノ酸)をコードするDNA配列(Genbank番号:AAH63787)を制限酵素切断部位HindIII及びBamHIを介してpCMV3ベクター(北京シノバイオロジカル社)に連結した。KRM1タンパク質の5’末端にヒトII型インターフェロンシグナルペプチドを添加し、3’末端に10個のヒスチジンのアフィニティタグ(His10-tag)のコード配列を添加し、また、終止コドン(挿入配列は配列番号1で示す)を添加し、プラスミドpCMV3-KRM1-ectodomainを得た。1×10個の293T細胞を20mlのDMEM培地を含む15cmの細胞培養皿に接種して培養し、細胞が70%まで増殖した後、プラスミドトランスフェクションを行った。50μgプラスミドと150μlトランスフェクション試薬PEI(1mg/ml)を緩衝液HBS(20mM HEPES、150mM NaCl、pH7.4)に配合し、トランスフェクションシステムを2mlとし、室温で30分間混合した後、293T細胞を培養する15cm培養皿に加えた。6時間トランスフェクションした後、上澄みを廃棄し、培地を血清及びトランスフェクション試薬のないDMEM培地に変更し、培養を3日間続けた。3日後培養上澄みを回収し、ニッケルイオンアフィニティークロマトグラフィー(HisTrapTM HP(GE))及びゲルろ過クロマトグラフィー(superdexTM 200 increase 10/300 GL(GE))により精製された後、SDS-PAGEでタンパク質の純度を同定し、可溶性ヒトKRM1細胞外セグメントタンパク質を得た(図4に示す)。同定により、サイズが約70kDaの高純度のKRM1タンパク質が得られた。
【0043】
組換えヒトKRM1の細胞外ドメインをコードする配列は、次の通りである。
AAGCTTGCCACCATGGGCATTCTGCCCAGCCCCGGCATGCCCGCTCTGCTGTCTCTGGTGTCTCTGCTGAGCGTGCTGCTGATGGGCTGCGTGGCTGAGACCGGAGCTCCTTCCCCCGGACTGGGACCCGGACCCGAGTGCTTTACCGCCAACGGCGCCGACTACAGAGGAACACAGAATTGGACCGCTCTGCAAGGAGGAAAGCCTTGTCTGTTCTGGAACGAGACATTCCAACACCCCTACAACACCCTCAAGTACCCCAACGGAGAGGGAGGACTGGGAGAACACAACTACTGCAGAAACCCCGACGGCGATGTGAGCCCTTGGTGCTACGTCGCCGAACACGAGGACGGAGTCTACTGGAAGTACTGCGAAATCCCCGCTTGCCAAATGCCCGGCAATCTGGGCTGCTACAAGGATCACGGAAACCCCCCTCCCCTCACCGGCACCTCCAAGACCTCCAACAAGCTCACCATCCAGACATGCATCAGCTTCTGCAGATCCCAGAGGTTTAAGTTCGCCGGCATGGAGTCCGGCTATGCTTGCTTCTGCGGCAACAACCCCGACTATTGGAAGTACGGCGAAGCTGCCAGCACCGAGTGCAATTCCGTGTGCTTCGGCGATCACACCCAGCCTTGCGGAGGAGACGGAAGAATCATTCTGTTTGACACACTGGTGGGCGCTTGCGGCGGAAACTACTCCGCCATGAGCAGCGTGGTGTACAGCCCCGACTTCCCCGACACCTACGCCACCGGCAGAGTGTGTTACTGGACCATTAGAGTGCCCGGCGCCAGCCACATCCACTTTAGCTTCCCTCTGTTCGACATTAGAGATAGCGCTGACATGGTCGAGCTGCTGGATGGATACACCCATAGGGTGCTGGCTAGATTCCACGGAAGGAGCAGACCTCCTCTGTCCTTCAACGTCTCTCTGGACTTCGTGATTCTGTACTTCTTCAGCGATAGAATCAACCAAGCCCAAGGCTTCGCCGTCCTCTATCAAGCCGTGAAAGAGGAGGGCAGCGAGAACCTCTACTTTCAAGGCGGATCTCTGCCCCAAGAGAGACCCGCCGTCAACCAAACAGTGGCCGAGGTGATTACAGAGCAAGCCAATCTGAGCGTGTCCGCTGCTAGAAGCTCCAAGGTGCTGTATGTGATCACCACCTCCCCTAGCCATCCCCCCCAGACAGTGCCCGGCACACACCACCACCACCATCACCACCATCATCACTGAGGATCC(配列番号1)

実施例5:KRM1とCV-A10との結合モード及び作用過程がDKK1と類似していること
【0044】
実施例1及び4に精製されたCV-A10及び受容体KRM1をインビトロでインキュベートし、精製されたCV-A10ウイルス(2mg/ml)を過剰なKRM1(0.2mg/ml)と5分間インキュベートした後、複合体サンプルを超薄カーボンフィルム付き銅メッシュ(Lacey carbon、Electron Microscopy China)に吸着させ、1分間吸着させた後、銅メッシュ表面の余分のウイルスをろ紙で吸い取り、Vitrobot Mark IV(FEI)冷凍サンプル調製機を用いて液体エタンに迅速に挿入した後、液体窒素に移してサンプルを保存した。データ収集は、Gatan K2直接電子検出器を備えた200kV Arctica(FEI)電子顕微鏡を使用して行われた。すべての電子顕微鏡オリジナル写真は、MotionCor2プログラムによりドリフト補正された。コントラスト伝達関数(contrast transfer function、CTF)の補正は、CTFFIND4により計算され、EMAN2を使用して粒子自動選択を行い、最終にRelion計算により解像度が3.0ÅであるCV-A10/KRM1複合体の構造を得た。最終的な解像度は、フーリエシェル相関(Fourier shell correlation、FSC)曲線から推定された。生理学的条件下で細胞外pH7.4の中性環境をシミュレートすることにより、KRM1がそのKringle(KR)及びWSCドメインを介してCV-A10ウイルスに結合し、その結合モードはKRM1がWnt/β-カテニンシグナル経路においてDKK1に結合する部位とほぼ一致していることが確認された。図5に示すように、KRM1の結合モードとDKK1の結合モード(PDB code:5FWW)との比較により、CV-A10は、DKK1がWnt/β-カテニンシグナル経路を阻害することをシミュレートできることが示された。

実施例6:Wnt/β-カテニン経路シグナル伝達へのCV-A10の阻害
【0045】
本実施例において、実施例1におけるCV-A10の増幅及び精製と類似な方法で、EV-A71ウイルスを対照群として精製した。実施例4と類似な方法を参照してKRM1全長プラスミドを構築し、即ち、1~473位のアミノ酸のコード配列(Genbank番号:AAH63787)を5’XhoI及び3’NotI制限酵素切断部位を介してベクターpLVX-DsRed-Monomer-N1(Clontech)に連結し、3’末端にFlagタグ及び終止コドンを添加し、外因性トランスフェクションにより細胞にKRM1を過剰発現させた。
【0046】
293T又はRD細胞を24ウェル細胞培養プレートに培養し、レポーター遺伝子プラスミドTop-Flash(Beyotime、D2501)、内部参照対照pRenilla-TKプラスミドを細胞にトランスフェクションした。ここで、1つのグループに同時に構築された全長KRM1過剰発現プラスミドを加えた。トランスフェクションシステムとしては、1グループあたり3つの複製ウェルで、90μlのHBS溶液を、70μlのPEI(0.1mg/ml)及び2μgのプラスミド調製した。6時間トランスフェクション後、DMEM培地を交換した。12時間トランスフェクション後、培地にWnt3a(R&D、1324-WN-500/CF)を加え、それぞれCV-A10又はEV-A71ウイルス(MOI=1)で細胞に感染させ、24時間処理後に細胞を分解して蛍光酵素活性検出を行った。図6に示すように、CV-A10は、Wnt/β-カテニンシグナル経路に対して有意な阻害効果を示し、また、この効果はKRM1が過剰発現するときに増強し(図6B、6D)、シグナル伝達に対するWnt3aの活性化効果をほぼブロックした。一方、EV-A71ウイルスは、レポーター遺伝子の発現に影響を及ぼさなかった(図6A、6B)。従って、CV-A10は、Wnt/β-カテニン経路阻害剤として機能することができる。さらに、293T群にDKK1タンパク質(50ng/ml、北京シノバイオロジカル社から購入した)を加えると、DKK1及びCV-A10はいずれもWnt/β-カテニンシグナル経路に対する阻害効果を示したが、両方を同時に加える場合、その阻害効果は倍増しなかった(図6C、6D)。CV-A10がウイルス受容体KRM1を介してWnt/β-カテニンシグナル経路を阻害し、CV-A10およびKRM1の結合エピトープがDKK1と類似しており、両方が結合をめぐって競合していることが再度に確証された。

実施例7:CV-A10によって引き起されたβ-カテニンの分解によるWnt/β-カテニン経路の阻害
【0047】
RKO結腸がん細胞1×10を6ウェルプレートに培養した12時間後、細胞が90%に成長した時に、それぞれCV-A10(MOI=1)及び異なる力価のウイルス(MOI=0.001~10)に感染させ、37°Cで培養を続けた。CV-A10(MOI=1)に感染したRKO細胞を36hでPBSで2回洗浄し、IP分解液を加えて分解した後、Western blot検出を行った。異なる力価のウイルス(MOI=0.001-10)に感染した細胞をそれぞれ12h、24h、36h、48h、60h、72hでPBSで2回洗浄し、IP分解液200μlで分解した後、Western blot検出を行った。図7に示すように、感染時間の増加につれて、RKO細胞におけるβ-カテニンの発現量が減少し(図7A)、また、感染時間が同じであった場合、加えたウイルス量の増加につれてβ-カテニンが減少した(図7B)。これにより、CV-A10がWnt/β-カテニン経路を阻害することはβ-カテニンの分解により実現されたことが示される。CV-A10で293T細胞に感染したところ、類似な結果を得た(図7C)。

実施例8:CV-A10侵入に重要な受容体KRM1の組織発現プロファイリング
【0048】
がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas、TCGA)データベースを利用して解析したところ、がん感染の異なる時期においてKRM1の発現レベルに有意差が見られなかった(図8A)。ただし、腫瘍によってはKRM1の発現量が大きく異なり、嫌色素性腎細胞癌(KICH)、肺腺癌(LUAD)、肺扁平上皮癌(LUSC)及び腎臓腎明細胞癌(KIRC)などの幾つかの腫瘍では高発現が示され、特に結腸がんでは発現量が正常組織より明らかに高かった(図8B)。これは、CV-A10がこれらの腫瘍に対してより著しい治療効果を持つ可能性があることを示唆している。
【0049】
さらに、インビトロ免疫蛍光実験により、CV-A10に感染した後にRKO細胞におけるKRM1の発現量が増加したことが見られた(図9)。これは、CV-A10に感染した細胞が細胞におけるKRM1の発現の増加を引き起こし、より多くのウイルスに感染され、正のフィードバック効果を果たす、ことを示した。

実施例9:CV-A10による肺癌細胞の生存率の低下
【0050】
MRC5(ATCC、CCL-171)、PC3(ATCC、CRL-1435)、Calu-1(ATCC、HTB-54)、NCI-h1299(ATCC、CRL-5083)肺癌細胞株をそれぞれ培養し、2×10個の細胞を96ウェルプレートに敷いた。8時間培養後、無血清DMEM培地に交換し、異なる力価のウイルス(MOI=0.001~10)に感染させ、37°Cで培養を続けた。CellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay assays(Promega)キットを用いて異なる時点で細胞生存率を測定した。図10A~10Dに示すように、4株の肺癌細胞が高いウイルス力価(MOI=10)に感染した12時間後に、生存率が低下する傾向を示し始め、48時間後に、ほぼすべての細胞が死亡した。より高いウイルス力価(MOI=1)では、60時間後に癌細胞がほぼすべて死亡したことになった。他の力価ウイルスでは、異なる時間で阻害効果の勾配が生じた。最も低いウイルス力価(MOI=0.001)でも、72時間後に細胞増殖への阻害が現れた。これは、CV-A10が肺癌細胞の生存率を低下させることができ、その効果がウイルス力価及び感染時間と正に相関していること、を示している。
【配列表フリーテキスト】
【0051】
配列番号1 <223> 組換えKRM1細胞外ドメインコード配列
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
【配列表】
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