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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】トランス複製型RNA
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/86 20060101AFI20240117BHJP
   C12N 15/40 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20240117BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240117BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240117BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N15/40
A61K31/7105
A61K39/00 A
A61P31/00
A61P35/00
C12P21/02 C
【請求項の数】 21
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021160491
(22)【出願日】2021-09-30
(62)【分割の表示】P 2018549306の分割
【原出願日】2017-03-13
(65)【公開番号】P2022020634
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/056160
(32)【優先日】2016-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519258736
【氏名又は名称】バイオエヌテック エスエー
(73)【特許権者】
【識別番号】515123258
【氏名又は名称】トロン- トランスラショナル オンコロジー アン デア ウニヴェリジテーツメディツィン デア ヨハネス グーテンベルク-ウニヴェルシテート マインツ ゲマインニューツィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRON- Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg-Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【住所又は居所原語表記】Freiligrathstr. 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ベイゼルト, ティム
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
(72)【発明者】
【氏名】ペルコビッチ, マリオ
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-530245(JP,A)
【文献】PLoS One,2016年03月10日,Vol.11, No.3,e0151616
【文献】Cellular Microbiology,2015年,Vol.17, No.4, pp.520-541
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるための単離されたmRNAコンストラクトであって、自己複製が可能ではない、単離されたmRNAコンストラクト;
(b)トランスで、レプリカーゼにより複製することができる、単離されたRNAレプリコン;及び
(c)粒子形成剤
を含み、
(a)に記載のアルファウイルスレプリカーゼを発現させるための単離されたmRNAコンストラクトが、レプリカーゼ翻訳を駆動するための5’キャップを含み、且つレプリカーゼの結合について(b)に記載の単離されたRNAレプリコンと競合することがなく、
(b)に記載の単離されたRNAレプリコンが、
(1)アルファウイルス5’複製認識配列、
(2)薬学的に活性のタンパク質又はペプチドをコードするオープンリーディングフレーム、及び
(3)アルファウイルス3’複製認識配列、
を含み、
アルファウイルス5’複製認識配列及びアルファウイルス3’複製認識配列が、レプリカーゼの存在下で、RNAレプリコンの複製を導く、
RNA含有粒子。
【請求項2】
5’キャップが、天然の5’キャップ又は5’キャップ類似体である、請求項1に記載のRNA含有粒子。
【請求項3】
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるための単離されたmRNAコンストラクトが、レプリカーゼの翻訳を駆動するための、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントを含まない;且つ/又は
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるための単離されたmRNAコンストラクトが、
(1)5’UTR、
(2)レプリカーゼをコードするオープンリーディングフレーム、及び
(3)3’UTR
含む
請求項1又は2に記載のRNA含有粒子。
【請求項4】
5’UTR及び/又は3’UTRが、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して非天然である、請求項3に記載のRNA含有粒子。
【請求項5】
アルファウイルスレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームが、RNAの複製に必要とされる非構造タンパク質のコード領域を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項6】
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるための単離されたmRNAコンストラクトが、3’ポリ(A)配列を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項7】
アルファウイルス5’複製認識配列及びアルファウイルス3’複製認識配列が、レプリカ-ゼが由来するアルファウイルスに対して天然である、請求項1からのいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項8】
(a)薬学的に活性のタンパク質又はペプチドが、ワクチン接種に適するエピトープを含む、
(b)薬学的に活性のタンパク質又はペプチドが、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を誘発するエピトープを含む、若しくは
(c)薬学的に活性のタンパク質又はペプチドをコードするオープンリーディングフレームが、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して非天然である;且つ/又は
薬学的に活性のタンパク質又はペプチドをコードするオープンリーディングフレームの発現が、サブゲノムプロモーターの制御下にある;且つ/又は
サブゲノムプロモーターが、アルファウイルスの構造タンパク質のためのプロモーターである、
請求項1からのいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項9】
サブゲノムプロモーターが、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して、天然である、請求項8に記載のRNA含有粒子。
【請求項10】
単離されたRNAレプリコンが、3’ポリ(A)配列及び/又は5’キャップを含む、請求項1からのいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項11】
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのmRNAコンストラクト、及び/又はRNAレプリコンが、インタクトのアルファウイルス構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項12】
アルファウイルスが、セムリキ森林ウイルス又はベネズエラウマ脳炎ウイルス又はシンドビスウイルス又はチクングニヤウイルスである、請求項1から11のいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項13】
薬学的に許容される担体、又は単離されたmRNAコンストラクト及び単離されたRNAレプリコンの送達に適する薬学的に許容される媒体を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項14】
タンパク質性粒子の形態又は脂質含有粒子の形態である、請求項1から13のいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項15】
リポプレックス粒子である、請求項1から14のいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項16】
リポプレックスナノ粒子である、請求項15に記載のRNA含有粒子。
【請求項17】
カチオン性脂質を含む、請求項1から16のいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項18】
粒子形成剤が、カチオン性脂質、カチオン性ポリマー、又はカチオン性若しくはポリカチオン性のペプチド若しくはタンパク質である、請求項1から17のいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項19】
粒子形成剤が、プロタミン、ポリエチレンイミン、ポリ-L-リシン、ポリ-L-アルギニン、ヒストン、又はカチオン性脂質からなる群から選択される、請求項1から18のいずれか一項に記載のRNA含有粒子。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載のRNA含有粒子を含む医薬又はワクチン。
【請求項21】
RNA含有粒子、医薬、又はワクチンを対象に投与するステップを含む治療における使用のための、請求項1から19のいずれか一項に記載のRNA含有粒子又は請求項20に記載のワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、高レベルのタンパク質の作製に適するシステム及び方法に関する。本発明は、機能的に連結された、2つの個別のRNA分子を含むシステムであって、1つのRNA分子である、レプリカーゼコンストラクトが、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトを含み、第2のRNA分子である、トランスレプリコンが、トランスで、レプリカーゼにより複製することができるRNA配列を含むシステムを供する。トランスレプリコンは、発現させるための、目的の遺伝子、例えば、ワクチンをコードする遺伝子を含みうる。アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトは、5’キャップを含む。トランスでの目的の遺伝子の高レベルの発現には、5’キャップが極めて重要であることが見出された。本発明は、ウイルス粒子の繁殖を必要とせず、目的のタンパク質、例えば、標的生物、例えば、動物におけるワクチンなど、治療用タンパク質又は抗原性タンパク質を、効率的、かつ、安全に作製するのに適する。
【背景技術】
【0002】
予防及び治療を目的とする、1又は複数のポリペプチドをコードする外来遺伝情報の導入は、多年にわたり、生物医学的研究の目標であった。先行技術の手法は、核酸分子の、標的細胞又は標的生物への送達を共有するが、核酸分子及び/又は送達システムの種類が異なる。デオキシリボ核酸(DNA)分子の使用と関連する安全性の懸念の影響で、近年、リボ核酸(RNA)分子が、ますます関心を集めている。ネイキッドRNAの形態、又は複合体化形態若しくはパッケージング形態、例えば、非ウイルス性送達媒体若しくはウイルス性送達媒体による、一本鎖RNA若しくは二本鎖RNAの投与を含む、多様な手法が提起されている。ウイルス及びウイルス性送達媒体では、典型的に、遺伝情報を、タンパク質及び/又は脂質(ウイルス粒子)により封入する。例えば、RNAウイルスに由来する、操作RNAウイルス粒子が、植物を治療する(国際公開第2000/053780A2号)ための送達媒体として、又は哺乳動物のワクチン接種(Tubulekas等, 1997, Gene, vol. 190, pp. 191-195)のために提起されている。
【0003】
一般に、RNAウイルスは、RNAゲノムを伴う感染性粒子の多様な群である。RNAウイルスは、一本鎖RNA(ssRNA)ウイルス及び二本鎖RNA(dsRNA)ウイルスへと細分することができ、ssRNAウイルスは一般に、プラス鎖[(+)鎖]及び/又はマイナス鎖[(-)鎖]ウイルスへと更に分けることができる。プラス鎖RNAウイルスは、明らかに、それらのRNAが、宿主細胞内の翻訳のための鋳型として直接用いられうるため、生物医学における送達システムとして魅力的である。
【0004】
アルファウイルスは、プラス鎖RNAウイルスの典型的な代表例である。アルファウイルスは、感染細胞の細胞質内で複製される(アルファウイルスの生活環の総説については、Jose等, Future Microbiol., 2009, vol. 4, pp. 837-856を参照されたい)。多くのアルファウイルスの総ゲノム長は、典型的に、11,000から12,000ヌクレオチドの間の範囲であり、ゲノムは典型的に、5’キャップ及び3’ポリ(A)テールを有する。アルファウイルスのゲノムは、非構造タンパク質(ウイルスRNAの転写、修飾、及び複製、並びにタンパク質の修飾に関与する)及び構造タンパク質(ウイルス粒子を形成する)をコードする。ゲノム内には、典型的に、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)が存在する。4つの非構造タンパク質(nsP1-nsP4)が、典型的に、ゲノムの5’末端の近傍において始まる第1のORFにより共にコードされるのに対し、アルファウイルスの構造タンパク質は、第1のORFの下流において見出される第2のORF内で共にコードされ、ゲノムの3’末端の近傍に伸びている。典型的に、第1のORFは、ほぼ2:1の比で、第2のORFより大型である。
【0005】
アルファウイルスが感染した細胞では、非構造タンパク質だけが、ゲノムRNAから翻訳されるのに対し、構造タンパク質は、真核生物メッセンジャーRNAに相似するRNA分子である、サブゲノム転写物から翻訳可能である(mRNA;Gould等, 2010, Antiviral Res., vol. 87, pp. 111-124)。感染後、すなわち、ウイルス生活環の早期において、(+)鎖ゲノムRNAは、メッセンジャーRNAと同様に、非構造ポリタンパク質(nsP1234)の翻訳のために直接作用する。一部のアルファウイルスでは、nsP3のコード配列と、nsP4のコード配列との間に、オパール終止コドンが存在する。つまり、翻訳が、オパール終止コドンで終結すると、nsP1、nsP2、及びnsP3を含有するP123ポリタンパク質が産生され、加えて、nsP4も含有するポリタンパク質P1234が、このオパールコドンの読了時に産生される(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562、Rupp等, 2015, J. Gen. Virology, vol. 96, pp. 2483-2500)。nsP1234は、自己タンパク質分解により、断片であるnsP123及びnsP4へと切断される。ポリペプチドであるnsP123及びnsP4は、会合して、(+)鎖ゲノムRNAを鋳型として使用して、(-)鎖RNAを転写する、(-)鎖レプリカーゼ複合体を形成する。典型的に、後期には、nsP123断片は、個別のタンパク質である、nsP1、nsP2、nsP3及びnsP4へと完全に切断され(Shirako及びStrauss, 1994, J. Virol. Vol. 68, pp. 1874-1885)、これらのタンパク質は、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、新たな(+)鎖ゲノムを合成する(+)鎖レプリカーゼ複合体を形成するようにアセンブルされる(Kim等, 2004, Virology, vol. 323, pp. 153-163、Vasiljeva等, 2003, J. Biol. Chem. Vol. 278, pp. 41636-41645)。
【0006】
アルファウイルスの構造タンパク質(ウイルス粒子の全ての構成要素である、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、及びエンベロープタンパク質E1)は、典型的に、単一のサブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームによりコードされる(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。サブゲノムプロモーターは、シスで作用する、アルファウイルスの非構造タンパク質により認識される。特に、アルファウイルスレプリカーゼは、ゲノムRNAの(-)鎖相補体を鋳型として使用して、(+)鎖サブゲノム転写物を合成する。(+)鎖サブゲノム転写物は、アルファウイルスの構造タンパク質をコードする(Kim等, 2004, Virology, vol. 323, pp. 153-163、Vasiljeva等, 2003, J. Biol. Chem. Vol. 278, pp. 41636-41645)。サブゲノムRNA転写物は、構造タンパク質を、1つのポリタンパク質としてコードするオープンリーディングフレームの翻訳のための鋳型として用いられ、ポリタンパク質は、切断されて、構造タンパク質をもたらす。宿主細胞内のアルファウイルス感染の後期には、nsP2のコード配列内に配置されるパッケージングシグナルが、構造タンパク質によりパッケージングされた出芽ビリオンへの、ゲノムRNAの選択的パッケージングを確保する(White等, 1998, J. Virol., vol. 72, pp. 4320-4326)。
【0007】
感染細胞内では、サブゲノムRNA並びに新たなゲノムRNAには、nsP1により、5’キャップがもたらされ(Pettersson等 1980, Eur. J. Biochem. 105, 435-443、Rozanov等, 1992, J. Gen. Virology, vol. 73, pp. 2129-2134)、nsP4により、ポリアデニル酸[ポリ(A)]テールがもたらされる(Rubach等, Virology, 2009, vol. 384, pp. 201-208)。したがって、サブゲノムRNA及びゲノムRNAのいずれも、メッセンジャーRNA(mRNA)に相似する。
【0008】
アルファウイルスゲノムは、宿主細胞内のウイルスRNAの複製に重要であることが理解されている(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)、4つの保存配列エレメント(CSE)を含む。ウイルスゲノムの5’末端において、又はこの近傍において見出されるCSE1は、(-)鎖鋳型からの(+)鎖の合成のためのプロモーターとして機能すると考えられる。nsP1のコード配列内にあり、CSE1の下流に配置されているが、それでもゲノムの5’末端に近接するCSE2は、ゲノムRNA鋳型からの(-)鎖合成の開始のためのプロモーターとして作用すると考えられる(CSE2を含まないサブゲノムRNA転写物は、(-)鎖の合成のための鋳型として機能しないことに留意されたい)。CSE3は、非構造タンパク質のコード配列と、構造タンパク質のコード配列との間の接合領域内に配置され、サブゲノム転写物の効率的な転写のためのコアプロモーターとして作用する。最後に、アルファウイルスゲノムの3’非翻訳領域内のポリ(A)配列のすぐ上流に配置されるCSE4は、(-)鎖合成の開始のためのコアプロモーターとして機能すると理解される(Jose等, Future Microbiol., 2009, vol. 4, pp. 837-856)。アルファウイルスのCSE4及びポリ(A)テールは、効率的な(-)鎖合成のために共に機能すると理解される(Hardy及びRice, J. Virol., 2005, vol. 79, pp. 4630-4639)。アルファウイルスタンパク質に加えてまた、宿主細胞因子、おそらくは、タンパク質も、保存配列エレメントに結合しうる(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。
【0009】
典型的なアルファウイルスである、セムリキ森林ウイルス(SFV)のゲノムの一部の特色を、図1Aに例示する。
【0010】
アルファウイルスの宿主は、昆虫、魚類、並びに家畜及びヒトなどの哺乳動物を含む、広範にわたる動物を含み、したがって、アルファウイルス由来のベクターは、外来遺伝情報の、広範にわたる標的生物への送達のための潜在的なベクターとして考えられている。先行技術による一部の手法であって、アルファウイルスを、遺伝情報の送達のためのベクターとして使用する手法については、Strauss及びStrauss,Microbiol.Rev.,1994,vol.58,pp.491-562により総説されており、より近年では、Ljungberg及びLiljestrom,2015,Expert Rev.Vaccines,vol.14,pp.177-94により総説されている。既に、Strauss及びStraussは、アルファウイルスベースのベクターが、遺伝情報の送達に、特に有利であると考え、これらの著者らは、サブゲノムプロモーターの下流において、目的のタンパク質をコードするベクターについて記載している。それぞれの核酸分子(レプリコン)を、図1Bに、概略的に描示する。図1Bに概略的に描示されるレプリコンを、宿主細胞へと導入すると、コードされるレプリカーゼが合成され、膜陥入を伴って複製複合体を形成し、これはシス複製を優先することが想定される。シス優先的複製は、アルファウイルスと同様のゲノム構成を伴うトガウイルス(Togaviridae)科のメンバーである、風疹ウイルス(Rubella virus)(Liang及びGillam, 2001, Virology 282, 307-319)で裏付けられた。
【0011】
しかし、複製は、シス制約的ではなく、2つの個別の核酸分子上のアルファウイルスエレメントに依拠するトランス複製についても記載されている。アルファウイルス由来のトランス複製システムは、1つの核酸分子が、ウイルスレプリカーゼをコードし、他の核酸分子が、トランスで前記レプリカーゼによる複製(トランス複製システム)が可能である、2つの核酸分子を含む。このようなトランス複製システムは、トランス複製のために、単一の宿主細胞内の、両方の核酸分子の存在を必要とする。
【0012】
ウイルスRNAベクターは、繁殖コンピテントのウイルス粒子を形成することにより、治療される個体において繁殖するそれらの潜在的可能性のために、しばしば、不利であると考えられている。これは、治療される個体についての健康上の危険性だけではなく、また、一般的な人口についての健康上の危険性とも関連すし、例えば、一部のアルファウイルスは、ヒトに対して病原性である(例えば、チクングニヤウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV);アルファウイルスの、ヒト及び動物の疾患における役割については、Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562において総説されている)。
【0013】
代替法では、非ウイルス性トランス複製システムを、宿主細胞へと導入することが提起された(Sanz等, Cellular Microbiol., 2015, vol. 17, pp. 520-541、Spuul等, J. Virol., 2011, vol. 85, pp. 4739-4751)。これらの参考文献に従うトランス複製システムは、DNAベクターの、宿主細胞への導入に基づき、この場合、ベクターは、バクテリオファージT7プロモーターを含有し、宿主細胞は、T7ポリメラーゼを発現する、特化された操作細胞である(Buchholz等, J. Virol., 1999, vol. 73, pp. 251-259)。Spuulらにより使用されたDNAコンストラクトは、T7プロモーターの下流において、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントをコードし、この論文によれば、IRESエレメントは、おそらく、細胞内のT7ポリメラーゼにより合成される、キャップなしのRNA転写物の発現の増強に関与する。Sanz等は、加えて、IRESの下流における、RNAレプリカーゼコンストラクト(nsP1-4をコードする)の直接的な使用についても記載し、RNAコンストラクトを、in vitroにおいて、キャップ構造であるmG(5’)ppp(5’)Gの非存在下で調製する。まとめると、これらの2つの研究は、トランス複製システムが、バクテリオファージのRNAポリメラーゼを発現する操作宿主細胞内でRNAを合成するための、バクテリオファージプロモーターを伴う間接的なDNAベクターとして、又はレプリカーゼの翻訳を駆動するために、IRESを含む、直接的なRNAシステムの形態で機能的であることを示す。
【0014】
安全性の懸念を念頭に、医学コミュニティー及び獣医学コミュニティーは、DNAベクター又は自己複製ウイルス核酸を、ヒト又は動物へと投与することに消極的である。これに加え、核酸、特に、RNAの送達のための多くの先行技術による手法は、トランス遺伝子の不満足な発現レベルを伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、ワクチンなど、治療価値を伴うタンパク質をコードする核酸を送達する、安全且つ効率的な方法が必要とされている。本明細書で記載される通り、本発明の態様及び実施態様は、この必要に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0016】
免疫療法的戦略は、例えば、感染性疾患及び癌疾患の予防及び治療のための、有望な選択肢である。ますます多数の病原体関連抗原及び腫瘍関連抗原の同定は、免疫療法に適する標的の広範なコレクションをもたらした。本発明は、一般に、疾患を予防及び治療するための、効率的な免疫療法による治療に適する薬剤及び方法を包含する。
【0017】
第1の態様では、本発明は、
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトと、
トランスで、レプリカーゼにより複製することができるRNAレプリコンと
を含み、
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトが、レプリカーゼによる翻訳を駆動するための5’キャップを含む
システムを提供する。
【0018】
一実施態様では、5’キャップは、天然の5’キャップ又は5’キャップ類似体である。
【0019】
一実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトは、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントを含まない。したがって、レプリカーゼの翻訳は、IRESエレメントにより駆動されない。
【0020】
一実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトは、レプリカーゼをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。加えて、5’-UTR及び/又は3’-UTRも存在しうる。好ましい実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトは、
(1)5’UTRと、
(2)レプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームと、
(3)3’UTRと
を含む。
【0021】
好ましくは、5’UTR及び/又は3’UTRは、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して、異種又は非天然である。
【0022】
好ましくは、アルファウイルスレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームは、RNAの複製に必要とされる非構造タンパク質のコード領域を含む。
【0023】
一実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトは、3’ポリ(A)配列を含む。
【0024】
一実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトを、レプリカーゼにより複製することができない。
【0025】
一実施態様では、RNAレプリコンは、
(1)アルファウイルスの5’複製認識配列と、
(2)アルファウイルスの3’複製認識配列と
を含む。
【0026】
一実施態様では、アルファウイルスの5’複製認識配列及びアルファウイルスの3’複製認識配列は、レプリカーゼの存在下で、RNAレプリコンの複製を導くことが可能である。したがって、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト及びRNAレプリコンが、共に存在する場合、これらの複製認識配列は、RNAの複製を導く。
【0027】
一実施態様では、アルファウイルスの5’複製認識配列及びアルファウイルスの3’複製認識配列は、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然である。
【0028】
一実施態様では、RNAレプリコンは、異種核酸を含む。
【0029】
一実施態様では、RNAレプリコンは、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0030】
好ましくは、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して非天然である。好ましくは、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、アルファウイルスの構造タンパク質をコードしない。
【0031】
一実施態様では、RNAレプリコンは、サブゲノムプロモーターを含む。
【0032】
好ましくは、目的のタンパク質(すなわち、目的の遺伝子)をコードする遺伝子は、サブゲノムプロモーターの制御下にある。これは、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームの発現を、サブゲノムプロモーターの制御下に置くことを可能とする。
【0033】
好ましくは、サブゲノムプロモーターは、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然である。
【0034】
好ましくは、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスの構造タンパク質のためのプロモーターである。これは、サブゲノムプロモーターが、アルファウイルスに対して天然であり、前記アルファウイルス内の、1又は複数の構造タンパク質の遺伝子の転写を制御するプロモーターであることを意味する。
【0035】
一実施態様では、RNAレプリコンは、3’ポリ(A)配列を含む。
【0036】
1つの代替的な実施態様又は更なる実施態様では、RNAレプリコンは、5’キャップを含む。
【0037】
一実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト、及び/又はRNAレプリコンは、インタクトのアルファウイルス構造タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含まない。
【0038】
一実施態様では、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルスである。
【0039】
第2の態様では、本発明は、レプリカーゼによる翻訳を駆動するための5’キャップを含む、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトを提供する。
【0040】
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に従う、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコン、又はこれらの両方をコードする核酸配列を含むDNAを提供する。好ましくは、DNAは、本発明の第1の態様に従うシステムをコードする。
【0041】
第4の態様では、本発明は、
(a)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトを得る工程と、
(b)トランスで、レプリカーゼによる複製が可能であり、タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンを得る工程と、
(c)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトと、RNAレプリコンとを、細胞へと共接種する工程と
を含み、
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトが、レプリカーゼによる翻訳を駆動するための5’キャップを含む、
細胞内でタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0042】
方法についての多様な実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト、及び/又はRNAレプリコンは、本発明のシステムについて上記で規定した通りである。
【0043】
第5の態様では、本発明は、第1の態様のシステムを含有する細胞を提供する。一実施態様では、細胞を、第4の態様に従う方法に従い接種する。一実施態様では、細胞は、本発明の第4の態様の方法により得られる。一実施態様では、細胞は、生物の一部である。
【0044】
第6の態様では、本発明は、
(a)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトを得る工程と、
(b)トランスで、レプリカーゼによる複製が可能であり、タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンを得る工程と、
(c)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトと、RNAレプリコンとを、対象へと投与する工程と
を含み、
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトが、レプリカーゼによる翻訳を駆動するための5’キャップを含む、
対象においてタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0045】
方法についての多様な実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト、及び/又はRNAレプリコンは、本発明のシステムについて上記で規定した通りである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】アルファウイルスゲノムの構成と、アルファウイルスゲノムに由来するエレメントを含む操作核酸コンストラクトとを示す図である。 記号及び略号:A:ポリ(A)テール、C:キャップ、SGP:サブゲノムプロモーター(CSE3を含む)、SFV:セムリキ森林ウイルス、CSE:保存配列エレメント。 図1A:アルファウイルスのゲノムが、大型ポリタンパク質の2つのオープンリーディングフレーム(ORF)をコードする、プラス鎖の一本鎖RNA(ssRNA(+))であることを示す図である。ゲノムの5’末端におけるORFは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(レプリカーゼ)へと翻訳され、プロセシングされる、非構造タンパク質であるnsP1からnsP4(nsP1-4)をコードし、3’末端におけるORFは、構造タンパク質(カプシド及び糖タンパク質)をコードする。3’末端におけるORFは、サブゲノムプロモーター(SGP)による転写制御下にある。アルファウイルスゲノムを、シス複製システムと称することができる。 図1B:シスレプリコンを示す図である。遺伝子操作により、サブゲノムプロモーター(SGP)の下流の構造タンパク質を、目的の遺伝子で置き換えることができる。アルファウイルスレプリカーゼによる複製能を有するそれぞれのコンストラクトを、シスレプリコンと称する。シスレプリコンは、本発明のトランスレプリコンと異なる(「発明を実施する形態」を参照されたい)。 図1C:本発明のトランス複製システムの態様についての概略表示を示す図である。トランス複製システムでは、アルファウイルスレプリカーゼをコードするRNA(レプリカーゼコンストラクト)と、RNAレプリコン(「トランスレプリコン」)とは、2つの個別のRNA分子である。RNAレプリコンは、好ましくは、目的の遺伝子をコードする。好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、5’キャップ、5’-UTR、3’-UTR、及びポリ(A)テール(レプリカーゼをコードするmRNA)のうちの1又は複数、好ましくは、全てを伴う細胞内mRNAに相似する。レプリカーゼコンストラクトは、典型的に、アルファウイルスレプリカーゼによる複製に必要とされる配列エレメントを欠く。しかし、アルファウイルスレプリカーゼによる複製に必要とされる配列エレメントは、RNAレプリコン上に配置される。一部の実施態様では、RNAレプリコンは、CSE1、CSE2、及びCSE4、並びにSGPを含む。
図2】キャップジヌクレオチドの構造を示す図である。 上:天然のキャップジヌクレオチドである、mGpppG。 下:ホスホロチオエートキャップ類似体である、ベータ-S-ARCAジヌクレオチド:逆相HPLCにおけるそれらの溶出特徴に従い、D1及びD2と称する、立体中心であるP中心のために、ベータ-S-ARCAには、2つのジアステレオマーが存在する。
図3】レプリコンによりコードされるトランス遺伝子の発現の効率が、レプリカーゼをコードするORFの分子環境に依存することを示す図である。BHK21細胞への、シスレプリコンRNAとトランスレプリコンRNAとの共送達(左)、又はレプリカーゼをコードするmRNAと、トランスレプリコンRNAとの共送達(右)(実施例1)の後において、FACSにより測定される、eGFPの蛍光強度。eGFP陽性細胞の百分率(バー)、及びeGFP陽性細胞の平均値蛍光強度(MFI)(菱形)が示される。mRNA=本発明に従うレプリカーゼコンストラクト。
図4】初代細胞内の遺伝子発現が、トランス複製システムの効率を確認することを示す図である。シス複製システム(eGFPレプリコンRNA)の、ヒト包皮線維芽細胞への送達、又はトランス複製システム(レプリカーゼRNA及びトランスレプリコンRNAを含む)の、ヒト包皮線維芽細胞への共送達の後に測定されたeGFPの蛍光強度。ワクシニアウイルスプロテインキナーゼR(PKR)阻害剤E3をコードするRNAを共送達して、PKRの活性化を抑制し、これにより、RNAの翻訳を増加させた(実施例2)。eGFP陽性細胞の百分率(バー)、及びeGFP陽性細胞の平均値蛍光強度(MFI)(菱形)が示される。
図5A】レプリカーゼのRNA及びレプリカーゼのコドン使用の量の影響を示す図である。初代ヒト包皮線維芽細胞への、異なる量の、mレプリカーゼをコードするRNAのリポフェクションの後に測定された、相対光単位[RLU](分泌型NanoLuc)(実施例3)を示す図である。
図5B】レプリカーゼのRNA及びレプリカーゼのコドン使用の量の影響を示す図である。レプリカーゼRNA及びトランスレプリコンRNAの、BHK21細胞への共送達後に、FACSにより測定されたeGFPの蛍光強度(実施例4)を示す図である。eGFP陽性細胞の百分率(バー)、及びeGFP陽性細胞の平均値蛍光強度(MFI)(菱形)が示される。実施例4で記載する通り、コドン使用の修飾は、トランス遺伝子の発現、及びトランスレプリコンの生産的な複製に有利ではない(詳細については、実施例4を参照されたい)。hsのコドン使用:ヒト(Homo sapiens)に適合させたコドン使用、wtのコドン使用:野生型アルファウイルスのコドン使用。 下部:myc-nsP3及びアクチンのレベルを指し示すウェスタンブロット。
図6】in vivoにおける、効率的な、トランスレプリコンによりコードされる、トランス遺伝子の発現を示す図である。ルシフェラーゼをコードするトランスレプリコンRNAと、mRNAの形態のレプリカーゼコンストラクトとを含む、本発明に従うトランス複製システムの、筋内(i.m.)及び皮内(i.d.)共注射後における、マウスについての生物発光イメージング(BLI)(実施例5)。発光は、1秒間当たりの光子[p/秒]で表される。
図7】インフルエンザHAを、目的のタンパク質としてコードするトランスレプリコンが、致死性のウイルス感染からの防御をもたらすことを示す図である。実施例6で記載する通り、Balb/Cマウスに、インフルエンザHA(R-HA)をコードする、5μgのシスレプリコン、又は1μgのトランスレプリコン(TR-HA)を、3週間以内に、2回にわたり(プライム-ブースト)、皮内ワクチン接種した。適応の場合、4μgから14μgの、レプリカーゼをコードするmRNAを、トランスレプリコンと共投与した。適応の場合、翻訳を増強するために、ワクシニアウイルスE3をコードするmRNAを共投与した。 ポジティブコントロール:不活化ウイルス(IAV)。ネガティブコントロール:溶媒(PBS緩衝液)。 図7A:致死性用量のインフルエンザウイルスによるチャレンジ感染の前日における、ウイルス中和力価(VNT)の決定を示す図である。 図7B:マウス血清についての、ヘマグルチニン阻害(HAI)アッセイを示す図である。 図7C:チャレンジ感染におけるマウスの生存を示す、カプラン-マイヤー曲線を示す図である。緩衝液で治療されたマウスは、5日以内に死んだ。
図8A-B】キャップの影響を示す図である。BHK21細胞に、レプリカーゼORFの上流に、IRES(EMCV)(脳心筋炎ウイルスに由来する内部リボソーム侵入部位)を伴う、ベータ-S-ARCA(D2)キャップありのレプリカーゼmRNA又はキャップなしのmRNAと共に、自己切断型ペプチドであるP2A(ブタテッショウウイルス1 2A)により隔てられた、eGFP及びsecNLuc(分泌型ルシフェラーゼ)をコードするトランスレプリコンRNAをエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの24時間後に、細胞を、FACSにより、eGFP発現について解析し(A)、上清を、Nano-Glo(登録商標)Luciferase Assay System(Promega)により、secNLucの分泌レベルについて解析した(B)。
図8C】キャップの影響を示す図である。BHK21細胞に、レプリカーゼORFの上流に、IRES(EMCV)(脳心筋炎ウイルスに由来する内部リボソーム侵入部位)を伴う、ベータ-S-ARCA(D2)キャップありのレプリカーゼmRNA又はキャップなしのmRNAと共に、自己切断型ペプチドであるP2A(ブタテッショウウイルス1 2A)により隔てられた、eGFP及びsecNLuc(分泌型ルシフェラーゼ)をコードするトランスレプリコンRNAをエレクトロポレーションした。レプリカーゼの発現について、ウェスタンブロットにより解析した。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明について、下記で詳細に記載するが、本発明は、それらは、変動しうるので、本明細書で記載される特定の方法、プロトコール、及び試薬に限定されるものでないことを理解されたい。また、本明細書で使用される用語法は、特定の実施態様について記載することだけを目的とするものであり、付属の特許請求の範囲だけにより限定される、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されたい。そうでないことが規定されない限りにおいて、本明細書で使用される、全ての技術用語及び科学用語は、当業者により一般に理解される意味と同じ意味を有する。
【0048】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)”、H.G.W.Leuenberger、B.Nagel、及びH.Koelbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel,Switzerland(1995)において記載されている通りに規定される。
【0049】
本発明の実施では、そうでないことが指し示されない限りにおいて、当技術分野の範囲内の、化学、生化学、細胞生物学、免疫学、及び組換えDNA法の従来の方法が利用され、これらについては、当技術分野の文献において説明されている(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, J. Sambrook等編, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989を参照されたい)。
【0050】
以下では、本発明の要素について記載する。これらの要素を、具体的な実施態様と列挙するが、それらを、任意の形及び任意の数で組み合わせて、更なる実施態様を創出しうることを理解されたい。様々に記載される例及び好ましい実施態様は、本発明を、明示的に記載された実施態様だけに限定するようには解釈されないものとする。この記載は、明示的に記載された実施態様を、任意の数の、開示された要素及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施態様を開示し、包含するように理解されるものとする。更に、本出願で記載される全ての要素の、任意の順列及び組合せは、文脈によりそうでないことが指し示されない限りにおいて、この記載により開示されると考えられるものとする。
【0051】
「約」という用語は、「およそ」又は「ほぼ」を意味し、本明細書で明示される数値又は範囲の文脈では、好ましくは、引用されるか又は主張される数値又は範囲の±10%を意味する。
【0052】
「ある(a)」及び「ある(an)」及び「その」、並びに本発明について記載する文脈で(とりわけ、特許請求の範囲の文脈で)使用される類似の言及は、本明細書でそうでないことが指し示されないか、又は文脈により明確に否定されない限りにおいて、単数及び複数の両方を対象とするように解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の列挙は、範囲内に収まる各個別の値に、個々に言及することの縮約法として用いられることだけを意図するものである。本明細書でそうでないことが指し示されない限りにおいて、各個別の値は、本明細書で個別に列挙された場合と同様に、本明細書で利用される。本明細書でそうでないことが指し示されないか、又は文脈により明確に否定されない限りにおいて、本明細書で記載される全ての方法は、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提示される、任意の例及び全ての例、又は例示のための表現(例えば、「など」)の使用は、本発明をよりよく例示することだけを意図するものであり、他の形で特許請求される本発明の範囲に、限定を施すものではない。本明細書におけるいかなる表現も、本発明の実施に不可欠な、任意の、特許請求されていない要素を指し示すとは解釈されないものとする。
【0053】
そうでないことが明示的に指定されない限りにおいて、「~を含むこと」という用語は、本文献の文脈では、「~を含むこと」により導入されるリストのメンバーに加えて、更なるメンバーも、任意選択で存在しうることを指し示すのに使用される。しかし、本発明の具体的実施態様として、「~を含むこと」という用語は、更なるメンバーが存在しない可能性も包含する、ことも想定される。すなわち、この実施態様の目的では、「~を含むこと」とは、「~からなること」の意味を有すると理解されるものとする。
【0054】
総称により特徴づけられる構成要素の相対量の表示は、前記総称が対象とする、全ての特異的変異体又はメンバーの総量を指すことを意図する。総称により規定される、ある特定の構成要素が、ある特定の相対量で存在することが指定され、この構成要素が、総称により特徴づけられる特定の変異体又はメンバーであることが更に特徴づけられる場合、総称により対象とされる構成要素の全相対量が、指定された相対量を超えるように、総称により対象とされる、他の変異体又はメンバーも更に存在することはなく、より好ましくは、総称により対象とされる、他の変異体又はメンバーは、全く存在しないことを意味する。
【0055】
いくつかの文献が、本明細書の本文を通して引用される。本明細書で引用される文献の各々(全ての特許、特許出願、学術刊行物、製造元の仕様、指示書などを含む)は、上記の引用であれ、下記の引用であれ、出典明示によりそれらの全体において利用される。本明細書におけるいかなる事柄も、本発明が、このような開示に先行する権利が与えられていないことの容認として解釈されないものとする。
【0056】
本明細書で使用される「~を低減する」又は「~を阻害する」などの用語は、好ましくは、5%又はこれを超える、10%又はこれを超える、20%又はこれを超える、より好ましくは、50%又はこれを超えるレベルの全体的な低下を引き起こし、最も好ましくは、75%又はこれを超えるレベルの全体的な低下を引き起こす能力を意味する。「~を阻害する」という用語又は同様の語句は、完全又は本質的に完全な阻害、すなわち、ゼロ又は本質的にゼロへの低減を含む。
【0057】
「~を増加させる」又は「~を増強する」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは、少なくとも20%、好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも50%、なおより好ましくは、少なくとも80%の増加又は増強に関し、最も好ましくは、少なくとも100%の増加又は増強に関する。
【0058】
「正味の電荷」という用語は、化合物又は粒子など、全対象物上の電荷を指す。
【0059】
全体的な正味の正の電荷を有するイオンが、カチオンであるのに対し、全体的な正味の負の電荷を有するイオンは、アニオンである。したがって、本発明によると、アニオンとは、陽子より多くの電子を伴うイオンであり、正味の負の電荷をもたらすが、カチオンとは、陽子より少ない電子を伴うイオンであり、正味の正の電荷をもたらす。
【0060】
所与の化合物又は粒子に言及する場合の「帯電した」、「正味の電荷」、「負に帯電した」、又は「正に帯電した」という用語は、pH7.0で、水中に溶解又は懸濁させた場合の、所与の化合物又は粒子の、正味の電荷を指す。
【0061】
本発明によると、「核酸」という用語はまた、ヌクレオチド塩基上、糖上、又はリン酸上の核酸の化学的誘導、及び非天然のヌクレオチド及びヌクレオチド類似体を含有する核酸も含む。一部の実施態様では、核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)である。
【0062】
本発明によると、「RNA」又は「RNA分子」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは、リボヌクレオチド残基から、完全又は実質的に構成された分子に関する。「リボヌクレオチド」という用語は、β-D-リボフラノシル基の2’位に、ヒドロキシル基を伴うヌクレオチドに関する。「RNA」という用語は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、部分的又は完全に精製されたRNAなどの単離RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、並びに1又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換、及び/又は変更により、天然にあるRNAと異なる修飾RNAなど、組換えにより生成されたRNAを含む。このような変更は、RNAの末端又は内部、例えば、RNAの1又は複数のヌクレオチドなどにおける、非ヌクレオチド材料の付加を含みうる。RNA分子内のヌクレオチドはまた、天然にないヌクレオチド又は化学的な合成ヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドなどの非標準的ヌクレオチドも含みうる。これらの変更RNAを、類似体、特に、天然にあるRNAの類似体と称することができる。
【0063】
本発明によると、RNAは、一本鎖の場合もあり、二本鎖の場合もある。本発明の一部の実施態様では、一本鎖RNAが好ましい。「一本鎖RNA」という用語は、一般に、相補的な核酸鎖(典型的に、相補的なRNA鎖、すなわち、相補的なRNA分子)が、RNA分子と会合しない実施態様を指す。一本鎖RNAは、マイナス鎖[(-)鎖]として存在する場合もあり、プラス鎖[(+)鎖]として存在する場合もある。(+)鎖とは、遺伝情報を含むか又はコードする鎖である。遺伝情報は、例えば、タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列でありうる。(+)鎖RNAが、タンパク質をコードする場合、(+)鎖は、翻訳(タンパク質合成)のための鋳型として、直接用いられる。(-)鎖は、(+)鎖の相補体である。二本鎖RNAの場合、(+)鎖及び(-)鎖は、2つの個別のRNA分子であり、これらのRNA分子のいずれも、互いと会合して、二本鎖RNA(「二重鎖RNA」)を形成する。
【0064】
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」とは、分子の活性、量、又は数の半分を消失させるのに必要とされる時間に関する。本発明の文脈では、RNAの半減期は、前記RNAの安定性を示す。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続時間」に影響を及ぼしうる。半減期が長いRNAは、長時間にわたり発現することが予測される。
【0065】
「断片」又は「核酸配列の断片」とは、核酸配列の一部、すなわち、5’末端及び/又は3’末端において短縮された核酸配列を表す配列に関する。好ましくは、核酸配列の断片は、前記核酸配列に由来するヌクレオチド残基のうちの、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、又は99%を含む。本発明では、RNAの安定性及び/又は翻訳の効率を保持するRNA分子の断片が好ましい。
【0066】
本発明によると、例えば、核酸及びアミノ酸配列に関する「変異体」という用語は、任意の変異体、特に、突然変異体、ウイルス株、スプライス変異体、コンフォメーション、アイソフォーム、対立遺伝子変異体、種変異体、及び種相同体、特に、天然に存在する変異体を含む。対立遺伝子変異体は、正常な遺伝子配列の変更に関するが、その意義は、不明であることが多い。完全な遺伝子シーケンシングは、所与の遺伝子に対する、多数の対立遺伝子変異体を同定することが多い。核酸分子に関して、「変異体」という用語は、縮重核酸配列を含むが、この場合、本発明に従う縮重核酸とは、遺伝子コードの縮重のために、コドン配列が基準核酸と異なる核酸である。種相同体とは、所与の核酸配列又はアミノ酸配列の種と由来が異なる種による核酸配列又はアミノ酸配列である。ウイルス相同体とは、所与の核酸配列又はアミノ酸配列のウイルスと由来が異なるウイルスによる核酸配列又はアミノ酸配列である。
【0067】
本発明によると、核酸変異体は、基準核酸と比較した、単一の又は複数のヌクレオチドの欠失、付加、突然変異、及び/又は挿入を含む。欠失は、1又は複数のヌクレオチドの、基準核酸からの除去を含む。付加変異体は、1、2、3、5、10、20、30、50の、又はこれを超えるヌクレオチドなど、1又は複数のヌクレオチドの、5’末端及び/又は3’末端における融合を含む。突然変異は、配列内の少なくとも1つのヌクレオチドを除去し、別のヌクレオチドを、その場所に挿入する(塩基転換及び塩基転移など)置換、非塩基性部位、架橋部位、及び化学的に変更するか又は修飾した塩基を含みうるがこれらに限定されない。挿入は、少なくとも1つのヌクレオチドの、基準核酸への付加を含む。
【0068】
特異的核酸配列の変異体は、好ましくは、前記特異的配列の、少なくとも1つの機能的な特性を有し、好ましくは、前記特異的配列と機能的に同等であり、例えば、核酸配列は、特異的核酸配列の特性と同一又は同様の特性を呈する。
【0069】
好ましくは、所与の核酸配列と、前記所与の核酸配列の変異体である核酸配列との間の同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも85%、なおより好ましくは、少なくとも90%、又は最も好ましくは、少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%であろう。同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約30、少なくとも約50、少なくとも約70、少なくとも約90、少なくとも約100、少なくとも約150、少なくとも約200、少なくとも約250、少なくとも約300、又は少なくとも約400ヌクレオチドの領域について与えられる。好ましい実施態様では、同一性の程度は、基準核酸配列の全長について与えられる。
【0070】
「配列類似性」とは、同一であるか、又は保存的アミノ酸置換を表すアミノ酸の百分率を指し示す。2つのポリペプチド又は核酸配列の間の「配列同一性」とは、配列の間で同一なアミノ酸又はヌクレオチドの百分率を指し示す。
【0071】
「~%同一な」という用語は特に、比較される2つの配列の間の最適なアライメントにおいて同一なヌクレオチドの百分率であって、純粋に統計学的であり、2つの配列の間の差違が、配列の全長にわたり、ランダムに分布することが可能であり、2つの配列の間の最適なアライメントを得るために、比較される配列が、基準配列と比較した付加又は欠失を含む百分率を指すことを意図する。2つの配列の比較は通例、最適アライメントの後で、対応する配列の局所領域を同定するために、セグメント又は「比較域」に関して、前記配列を比較することにより実行する。比較のための最適アライメントは、手動で実行することもでき、Smith及びWaterman、1981、Ads App.Math.2,482による局所的相同性アルゴリズムを一助として実行することもでき、Needleman及びWunsch、1970、J.Mol.Biol.48,443による局所的相同性アルゴリズムを一助として実行することもでき、Pearson及びLipman、1988、Proc.Natl Acad.Sci.USA 85,2444による類似性検索アルゴリズムを一助として実行することもでき、前記アルゴリズム(GAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N、及びTFASTA in Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、Wis.)を使用するコンピュータプログラムを一助として実行することもできる。
【0072】
同一性百分率は、比較される配列が対応する同一な位置の数を決定し、この数を、比較される位置の数で除し、この結果に100を乗ずることにより得られる。
【0073】
例えば、ウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgi上で入手可能なBLASTプログラムである、「BLAST2配列」を使用することができる。
【0074】
2つの配列が、互いと相補的である場合、核酸は、別の核酸と「ハイブリダイズすることが可能である」か、又はこれと「ハイブリダイズする」。2つの配列が、互いと安定的な二重鎖を形成することが可能である場合、核酸は、別の核酸と「相補的」である。本発明によると、ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能とする条件(厳密な条件)下で実行することが好ましい。厳密な条件については、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、J.Sambrook等編、2nd Edition、Cold Spring Harbor Laboratory press、Cold Spring Harbor,New York、1989、又はCurrent Protocols in Molecular Biology、F.M.Ausubel等編、John Wiley & Sons,Inc.、New Yorkにおいて記載されており、例えば、ハイブリダイゼーション緩衝液(3.5倍濃度のSSC、0.02%のFicoll、0.02%のポリビニルピロリドン、0.02%のウシ血清アルブミン、2.5mMのNaHPO(pH7)、0.5%のSDS、2mMのEDTA)中、65℃のハイブリダイゼーションを参照されたい。SSCとは、0.15Mの塩化ナトリウム/0.15Mのクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーションの後、DNAを転写した膜を、例えば、2倍濃度のSSC中、室温で洗浄し、次いで0.1-0.5×SSC/0.1×SDS中、最高68℃で洗浄する。
【0075】
相補性パーセントとは、第2の核酸配列と、水素結合(例えば、ワトソン-クリック型の塩基対合)を形成しうる、核酸分子内の連続残基の百分率(例えば、10のうちの5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10が、50%、60%、70%、80%、90%、及び100%相補的である)を指し示す。「完全に(perfectly)相補的」又は「完全に(fully)相補的」とは、核酸配列の全ての連続残基が、第2の核酸配列内の、同じ数の連続残基と水素結合することを意味する。好ましくは、本発明に従う相補性の程度は、少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも85%、なおより好ましくは、少なくとも90%、又は最も好ましくは、少なくとも95%、96%、97%、98%、若しくは99%である。最も好ましくは、本発明に従う相補性の程度は、100%である。
【0076】
「誘導体」という用語は、ヌクレオチド塩基上、糖上、又はリン酸上の核酸の任意の化学的誘導を含む。「誘導体」という用語はまた、天然にないヌクレオチド及びヌクレオチド類似体を含有する核酸も含む。好ましくは、核酸の誘導は、その安定性を増加させる。
【0077】
本発明によると、「核酸配列に由来する核酸配列」とは、それが由来する核酸の変異体である核酸を指す。好ましくは、それがRNA分子内の特異的配列を置き換える場合、特異的配列に対して変異体である配列は、RNAの安定性及び/又は翻訳の効率を保持する。
【0078】
「転写」及び「~を転写すること」という用語は、RNAポリメラーゼが、一本鎖RNA分子を作製するように、特定の核酸配列を伴う核酸分子(「核酸鋳型」)が、RNAポリメラーゼにより読み取られる過程に関する。転写時には、核酸鋳型内の遺伝情報が転写される。核酸鋳型は、DNAでありうるが、例えば、アルファウイルスの核酸鋳型からの転写の場合、鋳型は、典型的に、RNAである。その後、転写されたRNAは、タンパク質へと翻訳されうる。本発明によると、「転写」という用語は、「in vitro転写」を含み、この場合、「in vitro転写」という用語は、RNA、特に、mRNAが、in vitroの、細胞非含有のシステム内で合成される過程に関する。好ましくは、転写物の生成に、クローニングベクターを適用する。これらのクローニングベクターは一般に、転写ベクターと称し、本発明による「ベクター」という用語に包含される。本発明によると、RNAは、好ましくは、in vitro転写されたRNA(IVT-RNA)であり、適切なDNA鋳型のin vitro転写により得ることができる。転写を制御するためのプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼのための、任意のプロモーターでありうる。in vitro転写のためのDNA鋳型は、核酸、特に、cDNAのクローニングと、これを、in vitro転写に適するベクターへと導入することとにより得ることができる。cDNAは、RNAの逆転写により得ることができる。
【0079】
転写時に産生される一本鎖核酸分子は、典型的に、鋳型の相補的な配列である核酸配列を有する。
【0080】
本発明によると、「鋳型」又は「核酸鋳型」又は「鋳型核酸」という用語は一般に、複製又は転写されうる核酸配列を指す。
【0081】
「核酸配列から転写された核酸配列」という用語は、該当する場合、鋳型核酸配列の転写産物である、完全なRNA分子の部分としての核酸配列を指す。典型的に、転写された核酸配列は、一本鎖RNA分子である。
【0082】
「核酸の3’末端」とは、本発明によると、遊離ヒドロキシ基を有する末端を指す。二本鎖核酸、特に、DNAについての概略表示では、3’末端は常に、右側にある。「核酸の5’末端」とは、本発明によると、遊離リン酸基を有する末端を指す。二本鎖核酸、特に、DNAについての概略表示では、5’末端は常に、左側にある。
5’末端 5’--P-NNNNNNN-OH-3’ 3’末端
3’-HO-NNNNNNN-P--5’
【0083】
「上流」とは、核酸分子の第1のエレメントの、この核酸分子の第2のエレメントに対する相対的配置であって、いずれのエレメントも、同じ核酸分子内に含まれ、第1のエレメントを、この核酸分子の第2のエレメントより、核酸の5’末端分子の近くに配置した相対的配置について記載する。したがって、第2のエレメントを、この核酸分子の第1のエレメントの「下流」であるという。第2のエレメントの「上流」に配置されるエレメントは、この第2のエレメントの「5’」側に配置されていることと同義に称することができる。二本鎖核酸分子については、「上流」及び「下流」などの表示は、(+)鎖に関してなされる。
【0084】
本発明によると、「機能的な連結」又は「機能的に連結された」は、機能的な関係内にある接続に関する。核酸は、それが、別の核酸配列と機能的に関連する場合、「機能的に連結」されている。例えば、プロモーターは、それが、前記コード配列の転写に影響を与える場合、コード配列へと機能的に連結されている。機能的に連結された核酸は典型的に、互いと隣接し、該当する場合、更なる核酸配列により隔てられ、特定の実施態様では、RNAポリメラーゼにより転写されて、単一のRNA分子(一般的な転写物)をもたらす。
【0085】
特定の実施態様では、核酸を、本発明によると、核酸に対して相同な場合もあり、異種の場合もある、発現制御配列と、機能的に連結する。
【0086】
「発現制御配列」という用語は、本発明に従うプロモーター、リボソーム結合性配列、及び遺伝子の転写、又はこれに由来するRNAの翻訳を制御する、他の制御エレメントを含む。本発明の特定の実施態様では、発現制御配列を調節することができる。発現制御配列の正確な構造は、種又は細胞型に応じて変動しうるが、通例、それぞれ、転写及び翻訳の開始に関与する、5’非転写配列、並びに5’非翻訳配列及び3’非翻訳配列を含む。より具体的には、5’非転写発現制御配列は、機能的に連結された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。発現制御配列はまた、エンハンサー配列又は上流のアクチベーター配列も含みうる。DNA分子の発現制御配列は、通例、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの、5’非転写配列、並びに5’非翻訳配列及び3’非翻訳配列を含む。アルファウイルスRNAの発現制御配列は、サブゲノムプロモーター、及び/又は1若しくは複数の保存配列エレメントを含みうる。本発明に従う具体的な発現制御配列は、本明細書で記載される、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターである。
【0087】
本明細書で指定される核酸配列、特に、転写可能なコード核酸配列は、前記核酸配列に対して、相同な場合もあり、異種の場合もある、任意の発現制御配列、特に、プロモーターと組み合わせることができるが、この場合、「相同」という用語は、核酸配列が、天然においてもまた、発現制御配列と機能的に連結されているという事実を指し、「異種」という用語は、核酸配列が、天然では、発現制御配列と機能的に連結されていないという事実を指す。
【0088】
転写される核酸配列、特に、ペプチド又はタンパク質をコードする核酸配列と、発現制御配列とは、それらが、互いと、転写される核酸配列の転写又は発現、特に、コード核酸配列の転写又は発現が、発現制御配列の制御下にあるか、又は影響下にあるような形で、共有結合的に連結されている場合、互いと「機能的に」連結されている。核酸配列を、機能的なペプチド又はタンパク質へと翻訳しようとする場合、コード配列へと機能的に連結された発現制御配列の誘導は、コード配列内でフレームシフトを引き起こさずに、又は所望されるペプチド又はタンパク質へと翻訳することが不可能なコード配列を伴わずに、前記コード配列の転写を結果としてもたらす。
【0089】
「プロモーター」又は「プロモーター領域」という用語は、RNAポリメラーゼに対する認識部位及び結合性部位をもたらすことにより、転写物、例えば、コード配列を含む転写物の合成を制御する核酸配列を指す。プロモーター領域は、前記遺伝子の転写の調節に関与する、更なる因子に対する、更なる認識部位又は結合性部位を含みうる。プロモーターは、原核生物の遺伝子の転写を制御する場合もあり、真核生物の遺伝子の転写を制御する場合もある。プロモーターは、「誘導性」プロモーターであり、インデューサーに応答して、転写を開始する場合もあり、転写が、インデューサーにより制御されず、「構成的」プロモーターである場合もある。インデューサーが非存在である場合、誘導性プロモーターは、極めてわずかな程度に限り発現するか、又は全く発現しない。インデューサーの存在下では、遺伝子は、「オンに切り替え」られるか、又は転写のレベルが増加する。これは通例、特異的転写因子の結合により媒介される。本発明に従う特異的プロモーターは、本明細書で記載される、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターである。他の特異的プロモーターは、アルファウイルスの、ゲノムのプラス鎖又はマイナス鎖のプロモーターである。
【0090】
「コアプロモーター」という用語は、プロモーターに含まれる核酸配列を指す。コアプロモーターは、典型的に、転写を適正に開始するのに必要とされるプロモーターの最小部分である。コアプロモーターは、典型的に、転写開始部位と、RNAポリメラーゼに対する結合性部位とを含む。
【0091】
「ポリメラーゼ」とは、一般に、単量体の構成単位からのポリマー分子の合成を触媒することが可能な分子実体を指す。「RNAポリメラーゼ」とは、リボヌクレオチド構成単位からのRNA分子の合成を触媒することが可能な分子実体である。「DNAポリメラーゼ」とは、デオキシリボヌクレオチド構成単位からのDNA分子の合成を触媒することが可能な分子実体である。DNAポリメラーゼ及びRNAポリメラーゼの場合、分子実体は、典型的に、タンパク質、又は複数のタンパク質のアセンブリー若しくは複合体である。典型的に、DNAポリメラーゼは、典型的にDNA分子である鋳型核酸に基づき、DNA分子を合成する。典型的に、RNAポリメラーゼは、DNA分子(この場合、RNAポリメラーゼは、DNA依存性RNAポリメラーゼであるDdRPである)、又はRNA分子(この場合、RNAポリメラーゼは、RNA依存性RNAポリメラーゼであるRdRPである)である鋳型核酸に基づき、RNA分子を合成する。
【0092】
「RNA依存性RNAポリメラーゼ」又は「RdRP」とは、RNA鋳型からのRNAの転写を触媒する酵素である。アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼの場合、ゲノムRNA及び(+)鎖のゲノムRNAの、(-)鎖相補体の逐次的合成は、RNAの複製をもたらす。したがって、アルファウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼは、同義に、「RNAレプリカーゼ」とも称する。天然では、RNA依存性RNAポリメラーゼは、典型的に、レトロウイルスを除く、全てのRNAウイルスによりコードされる。RNA依存性RNAポリメラーゼをコードするウイルスの典型的な代表例は、アルファウイルスである。
【0093】
本発明によると、「RNAの複製」とは、一般に、所与のRNA分子(鋳型RNA分子)のヌクレオチド配列に基づき合成されるRNA分子を指す。合成されるRNA分子は、例えば、鋳型RNA分子と同一であるか、又は相補的でありうる。一般に、RNAの複製は、DNA中間体の合成を介して生じる場合もあり、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)により媒介される、RNA依存性RNAの複製により直接生じる場合もある。アルファウイルスの場合、RNAの複製は、DNA中間体を介して生じず、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)により媒介される。つまり、鋳型RNA鎖(第1のRNA鎖)は、第1のRNA鎖又はその一部と相補的な、第2のRNA鎖の合成のための鋳型として用いられる。第2のRNA鎖は、任意選択で、第2のRNA鎖又はその一部と相補的な、第3のRNA鎖の合成のための鋳型として用いられうる。したがって、第3のRNA鎖は、第1のRNA鎖又はその一部と同一である。したがって、RNA依存性RNAポリメラーゼは、鋳型の相補的なRNA鎖を、直接的に合成することが可能であり、同一なRNA鎖を、間接的に合成すること(相補的な中間体鎖を介して)が可能である。
【0094】
本発明によると、「遺伝子」という用語は、1又は複数の細胞産物を産生し、且つ/又は1若しくは複数の細胞間機能若しくは細胞内機能を達成する一因となる、特定の核酸配列を指す。より具体的には、前記用語は、特異的なタンパク質又は機能的若しくは構造的なRNA分子をコードする核酸を含む核酸区画(典型的には、DNAであるが、RNAウイルスの場合には、RNA)に関する。
【0095】
本明細書で使用される「単離分子」とは、他の細胞物質など、他の分子を実質的に含まない分子を指すことを意図する。「単離核酸」という用語は、本発明によると、核酸が、(i)in vitroにおいて、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅されているか、(ii)クローニングにより、組換えで作製されているか、(iii)例えば、切断及びゲル電気泳動分画により精製されているか、又は(iv)例えば、化学合成により合成されていることを意味する。単離核酸は、組換え法による操作に利用可能な核酸である。
【0096】
「ベクター」という用語は、本明細書では、その最も一般的な意味で使用され、例えば、前記核酸を、原核宿主細胞及び/又は真核宿主細胞へと導入し、該当する場合、ゲノムへと組み込むことを可能とする、核酸のための任意の中間媒体を含む。このようなベクターは、細胞内で複製及び/又は発現されることが好ましい。ベクターは、プラスミド、ファージミド、ウイルスゲノム、及びこれらの部分を含む。
【0097】
本発明の文脈における「組換え」という用語は、「遺伝子操作により作製された」ことを意味する。好ましくは、本発明の文脈における組換え細胞などの「組換え対象物」とは、天然にあるものではない。
【0098】
本明細書で使用される「天然にある」という用語は、対象物が、天然で見出されうるという事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)に存在し、天然の供給源から単離することができ、実験室内で、意図的に改変されていないペプチド又は核酸は、天然にあるものである。
【0099】
本発明によると、「発現」という用語は、その最も一般的な意味で使用され、RNA、又はRNA及びタンパク質の産生を含む。発現はまた、核酸の部分的な発現も含む。更に、発現は、一過性の場合もあり、安定的な場合もある。RNAに関して、「発現」又は「翻訳」という用語は、メッセンジャーRNAの鎖が、ペプチド又はタンパク質を作り出すように、アミノ酸の配列のアセンブリーを導く、細胞のリボソーム内の過程に関する。
【0100】
本発明によると、「mRNA」という用語は、「メッセンジャーRNA」を意味し、典型的に、DNA鋳型を使用することにより生成し、ペプチド又はタンパク質をコードする転写物に関する。典型的に、mRNAは、5’-UTR、タンパク質コード領域、3’-UTR、及びポリ(A)配列を含む。mRNAは、in vitro転写により、DNA鋳型から生成させることができる。当業者には、in vitro転写法が公知である。例えば、様々なin vitro転写キットが市販されている。本発明によると、修飾及びキャッピングを安定化させることにより、mRNAを改変することができる。
【0101】
本発明によると、「ポリ(A)配列」又は「ポリ(A)テール」という用語は、典型的に、RNA分子の3’末端に配置される、アデニル酸残基の、間断のない配列又は間断のある配列を指す。間断のない配列は、連続アデニル酸残基を特徴とする。天然では、間断のないポリ(A)配列が典型的である。ポリ(A)配列は、通常、真核DNA内ではコードされないが、真核細胞による転写後に、細胞の核内で、鋳型非依存性RNAポリメラーゼにより、RNAの遊離3’末端へと接合し、本発明は、DNAによりコードされるポリ(A)配列を含む。
【0102】
本発明によると、RNA、例えば、mRNAなどの核酸は、ペプチド又はタンパク質をコードしうる。したがって、転写可能な核酸配列又はその転写物は、ペプチド又はタンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含有しうる。
【0103】
本発明によると、「ペプチド又はタンパク質をコードする核酸」という用語は、核酸が、適切な環境内、好ましくは、細胞内に存在する場合、翻訳の過程において、ペプチド又はタンパク質を産生するように、アミノ酸のアセンブリーを導きうることを意味する。好ましくは、本発明に従うRNAは、ペプチド又はタンパク質の翻訳を可能とする、細胞の翻訳機構と相互作用することが可能である。
【0104】
本発明によると、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチド及びポリペプチドを含み、ペプチド結合を介して互いと連結された、2又はこれを超える、好ましくは、3又はこれを超える、好ましくは、4又はこれを超える、好ましくは、6又はこれを超える、好ましくは、8又はこれを超える、好ましくは、10又はこれを超える、好ましくは、13又はこれを超える、好ましくは、16又はこれを超える、好ましくは、20又はこれを超える、最大で、好ましくは、50、好ましくは、100、又は、好ましくは、150の連続アミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」という用語は、大型のペプチド、好ましくは、少なくとも151アミノ酸を有するペプチドを指すが、本明細書では、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は通例、同意語として使用される。
【0105】
「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本発明によると、アミノ酸構成要素だけでなく、また、糖構造及びリン酸構造など、アミノ酸以外の構成要素も含有する物質を含み、また、エステル結合、チオエーテル結合、又はジスルフィド結合などの結合を含有する物質も含む。
【0106】
本発明によると、「アルファウイルス」という用語は、広義に理解され、アルファウイルスの特徴を有する、任意のウイルス粒子を含む。アルファウイルスの特徴は、宿主細胞内の複製に適する遺伝情報をコードし、RNAポリメラーゼ活性を含む、(+)鎖RNAの存在を含む。多くのアルファウイルスの更なる特徴については、例えば、Strauss及びStrauss,Microbiol.Rev.、1994、vol.58、pp.491-562、Gould等,2010,Antiviral Res.、vol.87,pp.111-124、Rupp等,2015、J.Gen.Virology、vol.96、pp.2483-2500において記載されている。「アルファウイルス」という用語は、天然で見出されるアルファウイルスのほか、その任意の変異体又は誘導体を含む。一部の実施態様では、変異体又は誘導体は、天然では見出されない。
【0107】
一実施態様では、アルファウイルスは、天然で見出されるアルファウイルスである。典型的に、天然で見出されるアルファウイルスは、動物(ヒトなどの脊椎動物、及び昆虫などの節足動物を含む)など、1又は複数の任意の真核生物に対して感染性である。典型的な実施態様では、天然で見出されるアルファウイルスは、動物に対して感染性である。天然で見出される、多くのアルファウイルスは、脊椎動物及び/又は節足動物に対して感染性である(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。
【0108】
天然で見出されるアルファウイルスは、好ましくは、以下:バーマ森林ウイルス複合体(バーマ森林ウイルスを含む);東部ウマ脳炎複合体(東部ウマ脳炎ウイルスの7つの抗原型を含む);ミドルバーグウイルス複合体(ミドルバーグウイルスを含む);ヌドゥムウイルス複合体(ヌドゥムウイルスを含む);セムリキ森林ウイルス複合体(ベバルウイルス、チクングニヤウイルス、マヤロウイルス及びその亜型であるウナウイルス、オニョンニョンウイルス及びその亜型であるイグボ-オラウイルス、ロスリバーウイルス及びその亜型であるベバルウイルス、ゲタウイルス、サギヤマウイルス、セムリキ森林ウイルス及びその亜型であるメトリウイルスを含む);ベネズエラウマ脳炎ウイルス複合体(カバスーウイルス、エバーグレーズウイルス、モッソダスペドラスウイルス、ムカンボウイルス、パラマナウイルス、ピクスナウイルス、リオネグロウイルス、トロカラウイルス及びその亜型であるビジューブリッジウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む);西部ウマ脳炎ウイルス複合体(アウラウイルス、ババンキウイルス、キジラガチウイルス、シンドビスウイルス、オケルボウイルス、ワタロアウイルス、バギークリークウイルス、フォートモーガンウイルス、ハイランドJウイルス、西部ウマ脳炎ウイルスを含む);並びにサケ膵臓病ウイルス;睡眠病ウイルス;ミナミゾウアザラシウイルス;トナテウイルスを含む、一部の未分類ウイルスからなる群から選択される。より好ましくは、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルス複合体(セムリキ森林ウイルスを含む、上記に表示のウイルス型を含む)、西部ウマ脳炎ウイルス複合体(シンドビスウイルスを含む、上記に表示のウイルス型を含む)、東部ウマ脳炎ウイルス(上記に表示のウイルス型を含む)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス複合体(ベネズエラウマ脳炎ウイルスを含む、上記に表示のウイルス型を含む)からなる群から選択される。
【0109】
更に好ましい実施態様では、アルファウイルスは、セムリキ森林ウイルスである。代替的な、更に好ましい実施態様では、アルファウイルスは、シンドビスウイルスである。代替的な、更に好ましい実施態様では、アルファウイルスは、ベネズエラウマ脳炎ウイルスである。
【0110】
本発明の一部の実施態様では、アルファウイルスは、天然で見出されるアルファウイルスではない。典型的に、天然で見出されないアルファウイルスは、天然で見出されるアルファウイルスの変異体又は誘導体であって、ヌクレオチド配列内、すなわち、ゲノムRNA内の少なくとも1つの突然変異により、天然で見出されるアルファウイルスから識別される変異体又は誘導体である。ヌクレオチド配列内の突然変異は、天然で見出されるアルファウイルスと比較した、1又は複数のヌクレオチドの挿入、置換、又は欠失から選択することができる。ヌクレオチド配列内の突然変異は、ヌクレオチド配列によりコードされるポリペプチド内又はタンパク質内の突然変異を伴う場合も伴わない場合もある。例えば、天然で見出されないアルファウイルスは、弱毒化アルファウイルスでありうる。天然で見出されない弱毒化アルファウイルスは、典型的に、そのヌクレオチド配列内の、少なくとも1つの突然変異であって、それにより、天然で見出されるアルファウイルスから識別される突然変異を有し、全く感染性ではないか、又は感染性であるが、病原能が低度であるか、若しくは病原能を全く有さないアルファウイルスである。例示的な例として述べると、TC83は、天然で見出されるベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)から識別される弱毒化アルファウイルス(MyKinney等, 1963, Am. J. Trop. Med. Hyg., 1963, vol. 12; pp. 597-603)である。
【0111】
「天然で見出される」という用語は、「天然で存在する」を意味し、公知の対象物のほか、いまだ、自然から発見及び/又は単離されていないが、将来、天然の供給源から発見及び/又は単離されうる対象物を含む。
【0112】
アルファウイルス属のメンバーはまた、ヒトにおけるそれらの相対的な臨床特色に基づいても分類することができる。つまり、主に脳炎と関連するアルファウイルス、並びに、主に、発熱、発赤、及び多発性関節炎と関連するアルファウイルスである。
【0113】
「アルファウイルスの」という用語は、アルファウイルス内で見出されるか、又はアルファウイルスに由来するか、又は、例えば、遺伝子操作により、アルファウイルスから導出されることを意味する。
【0114】
本発明によると、「SFV」とは、セムリキ森林ウイルスを表す。本発明によると、「SIN」又は「SINV」とは、シンドビスウイルスを表す。本発明によると、「VEE」又は「VEEV」とは、ベネズエラウマ脳炎ウイルスを表す。
【0115】
「保存配列エレメント」又は「CSE」という用語は、アルファウイルスRNA内で見出されるヌクレオチド配列を指す。異なるアルファウイルスのゲノム内には、オーソログが存在し、異なるアルファウイルスのオーソログであるCSEは、好ましくは、高百分率の配列同一性及び/又は類似の二次構造若しくは三次構造を共有するため、これらの配列エレメントを、「保存的」と称する。CSEという用語は、CSE1、CSE2、CSE3、及びCSE4を含む(詳細については、Jose等, Future Microbiol., 2009, vol. 4, pp. 837-856を参照されたい)。
【0116】
本発明によると、「サブゲノムプロモーター」又は「SGP」という用語は、核酸配列(例えば、コード配列)の上流(5’側)の核酸配列であって、RNAポリメラーゼ、典型的に、RNA依存性RNAポリメラーゼに対する認識部位及び結合性部位をもたらすことにより、前記核酸配列の転写を制御する核酸配列を指す。SGPは、更なる因子に対する、更なる認識部位又は結合性部位を含みうる。サブゲノムプロモーターは、典型的に、アルファウイルスなど、プラス鎖RNAウイルスの遺伝子エレメントである。アルファウイルスのサブゲノムプロモーターは、ウイルスゲノムRNA内に含まれる核酸配列である。サブゲノムプロモーターは一般に、RNA依存性RNAポリメラーゼ、例えば、アルファウイルスレプリカーゼの存在下で、転写(RNA合成)の開始を可能とすることを特徴とする。RNA(-)鎖、すなわち、アルファウイルスゲノムRNAの相補体は、(+)鎖であるサブゲノムRNA分子の合成のための鋳型として用いられ、サブゲノム(+)鎖の合成は、典型的に、サブゲノムプロモーターにおいて、又はこの近傍で開始される。例示的で非限定的な目的で、例であるアルファウイルスゲノム内に含まれるSGPの典型的な配置を、図1Aに例示する。しかし、本明細書で使用される「サブゲノムプロモーター」という用語は、このようなサブゲノムプロモーターを含む核酸内の、任意の特定の配置に制約されない。一部の実施態様では、SGPは、CSE3と同一であるか、又はCSE3と重複するか、又はCSE3を含む。
【0117】
「自家」という用語は、同じ対象に由来する何ものかについて記載するのに使用される。例えば、「自家細胞」とは、同じ対象に由来する細胞を指す。対象への自家細胞の導入は、これらの細胞が、そうでなければ、拒絶を結果としてもたらす、免疫学的障壁を越えるために、有利である。
【0118】
「同種」という用語は、同じ種の異なる個体に由来する何ものかについて記載するのに使用される。1又は複数の遺伝子座における遺伝子が同一ではない場合、2つ又はこれを超える個体を、互いと同種であるという。
【0119】
「同系」という用語は、同一な遺伝子型を有する個体又は組織、すなわち、同一な双生児若しくは同じ近交系の動物、又はそれらの組織若しくは細胞に由来する何ものかについて記載するのに使用される。
【0120】
「異種」という用語は、複数の異なるエレメントからなる何ものかについて記載するのに使用される。例としては、1つの個体の細胞の、異なる個体への導入は、異種移植を構成する。異種遺伝子とは、対象以外の供給源に由来する遺伝子である。
【0121】
以下は、本発明の個別の特色について、具体的変化形及び/又は好ましい変化形を提示する。本発明はまた、特に好ましい実施態様として、本発明の特色のうちの、2つ又はこれを超えるものについて記載される、具体的変化形及び/又は好ましい変化形のうちの、2つ又はこれを超えるものを組み合わせることにより生成しうる実施態様も想定する。
【0122】
本発明のシステム
第1の態様では、本発明は、
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトと、
トランスで、レプリカーゼにより複製することができるRNAレプリコンと、
を含み、
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトが、5’キャップを含む
システムを提供する。5’キャップは、レプリカーゼの翻訳を駆動する目的に適う。
【0123】
したがって、本発明は、2つの核酸分子:レプリカーゼを発現させるための(すなわち、レプリカーゼをコードする)第1のRNA分子と、第2のRNA分子(レプリコン)とを含むシステムを提供する。本明細書では、レプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトに、「レプリカーゼコンストラクト」と同義に言及する。
【0124】
本発明のシステムでは、レプリカーゼの役割は、トランスでレプリコンを増幅することである。したがって、レプリコンを、トランスレプリコンと称することができる。レプリコンが、発現させる目的の遺伝子をコードする場合、レプリカーゼのレベルを改変することにより、目的の遺伝子の発現レベル、及び/又は発現の持続期間を、トランスで調節することができる。
【0125】
一般に、RNAは、ヒト及び動物の治療におけるDNAの使用と関連する、潜在的な、安全性についての危険性を回避するための、DNAに対する魅力的な代替法を表す。RNAの治療的使用の利点は、一過性発現と、非形質転換性特徴とを含み、RNAは、発現するために、核に侵入する必要がなく、これにより、腫瘍形成の危険性を最小化する。
【0126】
これらの利点にもかかわらず、臨床適用のためのRNAの使用は、とりわけ、RNAの不安定性、及びこれと関連する、RNAの短い半減期のために制約されている。本発明では、宿主細胞又は生物におけるRNAの複製を駆動するシステムにより、RNAの短い半減期を補償することができる。これに加えて、本発明は、RNAの安定性に有利な、特異的なRNA修飾、製剤、媒体、及び送達方式を提供する。下記では、これらについて記載する。実際、本発明のシステムのRNAを、細胞又は動物へと導入すると、遺伝情報の効率的な発現が達成される。
【0127】
DNA鋳型の転写と、核から細胞質への転写物の輸送とが可欠であることは、先行技術の手法と比較した、本発明の利点である。これは、DNA依存性RNAポリメラーゼの適正な機能と、mRNAの輸送とに対する依存を消失させる。代わりに、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、翻訳にすぐ利用可能である。
【0128】
本明細書で記載される通り、本発明のシステムは、宿主細胞又は宿主生物における、所望されるポリペプチド(例えば、トランス遺伝子)の効率的な作製に適する。シスにおける複製に適する全長レプリコンの場合より高度な、トランス遺伝子の発現を達成しうることは、本発明の1つの利点である。高レベルの目的の遺伝子の発現を、野生型初代細胞(実施例2を参照されたい)内、及び生存動物、すなわち、in vivo(実施例5及び6)において達成しうることは、本発明の更なる利点である。これは、バクテリオファージ由来のDNA依存性RNAポリメラーゼである、T7 RNAポリメラーゼを発現する操作細胞株に依存する先行技術のシステム(Spuul等, J. Virol., 2011, vol. 85, pp. 4739-4751、Sanz等, Cellular Microbiol., 2015, vol. 17, pp. 520-541)と比較した、著明な利点である。哺乳動物細胞は、特異的に操作されない限り、T7 RNAポリメラーゼを発現しないことが典型的である(Buchholz等, J. Virol., 1999, vol. 73, pp. 251-259)。まとめると、RNAベースの本発明のシステムは、従来型の遺伝子送達法又は遺伝子治療法を凌駕して有利である。
【0129】
本発明のシステムは、たやすく調製することができる。例えば、RNA分子は、DNA鋳型から、in vitro転写することができる。一実施態様では、本発明のRNAは、in vitro転写RNA(IVT-RNA)である。したがって、一実施態様では、本発明のシステムは、IVT-RNAを含む。好ましくは、本発明のシステムの、全てのRNA分子は、IVT-RNAである。in vitro転写RNA(IVT-RNA)は、療法のために特に関心のある対象である。
【0130】
本発明のシステムは、少なくとも2つの核酸分子を含む。したがって、本発明のシステムは、2つ若しくはこれを超える、3つ若しくはこれを超える、4つ若しくはこれを超える、5つ若しくはこれを超える、6つ若しくはこれを超える、7つ若しくはこれを超える、8つ若しくはこれを超える、9つ若しくはこれを超える、又は10若しくはこれを超える核酸分子を含みうる。好ましい実施態様では、本発明のシステムは、正確に2つの核酸分子、好ましくは、RNA分子、レプリコン及びレプリカーゼコンストラクトを含有する。代替的な好ましい実施態様では、システムは、レプリカーゼコンストラクトに加えて、各々が、好ましくは、少なくとも1つの目的のタンパク質をコードする、1つを超えるレプリコンを含む。これらの実施態様では、レプリカーゼコンストラクトによりコードされるレプリカーゼは、各レプリコンに作用して、それぞれ、サブゲノム転写物の複製及び作製を駆動しうる。例えば、各レプリコンは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードしうる。例えば、いくつかの異なる抗原に対する、対象のワクチン接種が所望される場合、これは有利である。
【0131】
好ましくは、本発明のシステムは、ウイルス粒子、特に、次世代ウイルス粒子を形成することが可能ではない。好ましくは、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、標的細胞又は標的生物における自己複製が可能ではない。
【0132】
本明細書では、RNAの態様及び利点について記載するが、本発明の一部の実施態様ではシステムが、1又は複数のDNA分子を含むことも、代替的に可能である。本発明の一部の実施態様ではシステムの、任意の1又は複数の核酸分子は、DNA分子でありうる。レプリカーゼコンストラクト及び/又はレプリコンは、DNA分子であることが可能である。DNA分子の場合、好ましくは、DNA依存性RNAポリメラーゼに対するプロモーターが存在し、これにより、感染しているか又はワクチン接種された宿主細胞又は宿主生物における転写を可能とする。
【0133】
本発明のシステムの、更なる実施態様及び利点を、以下に記載する。
【0134】
レプリカーゼコンストラクトの特徴付け
好ましくは、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト(レプリカーゼコンストラクト)は、アルファウイルスレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。
【0135】
本発明によると、「レプリカーゼ」とは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)を指す。RdRPとは、酵素機能である。レプリカーゼは、一般に、(-)鎖RNA鋳型に基づく(+)鎖RNAの合成を触媒することが可能であり、且つ/又は(+)鎖RNA鋳型に基づく(-)鎖RNAの合成を触媒することが可能なポリペプチド、又は1つを超える同一なタンパク質及び/若しくは非同一なタンパク質の複合体若しくは会合体を指す。レプリカーゼは、加えて、例えば、プロテアーゼ(自己切断のための)、ヘリカーゼ、末端アデニリルトランスフェラーゼ(ポリ(A)テール付加のための)、メチルトランスフェラーゼ及びグアニリルトランスフェラーゼ(核酸に5’キャップを施すための)、核局在化部位、トリホスファターゼなど、1又は複数の更なる機能も有しうる(Gould等, 2010, Antiviral Res., vol. 87, pp. 111-124、Rupp等, 2015, J. Gen. Virol., vol. 96, pp. 2483-500)。
【0136】
本発明によると、「アルファウイルスレプリカーゼ」とは、アルファウイルスに由来するRNAレプリカーゼであって、天然にあるアルファウイルスに由来するRNAレプリカーゼ、及び弱毒化アルファウイルスなど、アルファウイルスの変異体又は誘導体に由来するRNAレプリカーゼを含むRNAレプリカーゼを指す。本発明の文脈では、文脈により、任意の特定のレプリカーゼが、アルファウイルスレプリカーゼではないことが指示されない限りにおいて、「レプリカーゼ」及び「アルファウイルスレプリカーゼ」という用語は、互換的に使用される。「レプリカーゼ」という用語は、アルファウイルス感染細胞が発現するか、又はレプリカーゼをコードする核酸をトランスフェクトされた細胞が発現する、アルファウイルスレプリカーゼの全ての変異体、特に、翻訳後修飾された変異体、コンフォメーション、アイソフォーム、及び相同体を含む。更に、「レプリカーゼ」という用語は、組換え法により作製されたレプリカーゼ、及び組換え法により作製されうるレプリカーゼの全ての形態を含む。例えば、実験室におけるレプリカーゼの検出及び/又は精製を容易とするタグ、例えば、mycタグ、HAタグ、又はオリゴヒスチジンタグ(Hisタグ)を含むレプリカーゼを、組換え法により作製することができる。
【0137】
任意選択で、レプリカーゼは、加えて、アルファウイルスの、保存配列エレメント1(CSE1)又はその相補的な配列、保存配列エレメント2(CSE2)又はその相補的な配列、保存配列エレメント3(CSE3)又はその相補的な配列、保存配列エレメント4(CSE4)又はその相補的な配列のうちのいずれか1又は複数への結合能によっても、機能的に規定される。好ましくは、レプリカーゼは、CSE2[すなわち、(+)鎖]、及び/若しくはCSE4[すなわち、(+)鎖]への結合が可能であるか、又はCSE1[すなわち、(-)鎖]の相補体、及び/若しくはCSE3[すなわち、(-)鎖]の相補体への結合が可能である。
【0138】
レプリカーゼの由来は、いかなる特定のアルファウイルスにも限定されない。好ましい実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼは、天然にあるセムリキ森林ウイルス、及び弱毒化セムリキ森林ウイルスなど、セムリキ森林ウイルスの変異体又は誘導体を含むセムリキ森林ウイルスに由来する。代替的な好ましい実施態様では、レプリカーゼは、天然にあるシンドビスウイルス、及び弱毒化シンドビスウイルスなど、シンドビスウイルスの変異体又は誘導体を含むシンドビスウイルスに由来する。代替的な好ましい実施態様では、レプリカーゼは、天然にあるVEEV、及び弱毒化VEEVなど、VEEVウイルスの変異体又は誘導体を含むベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)に由来する。
【0139】
アルファウイルスレプリカーゼは、典型的に、アルファウイルス非構造タンパク質(nsP)を含むか、又はこれからなる。この文脈では、「非構造タンパク質」とは、アルファウイルス由来の、任意の1又は複数の個別の非構造タンパク質(nsP1、nsP2、nsP3、nsP4)、又はアルファウイルス由来の、1つを超える非構造タンパク質のポリペプチド配列を含むポリタンパク質、例えば、nsP1234を指す。一部の実施態様では、「非構造タンパク質」とは、nsP123を指す。他の実施態様では、「非構造タンパク質」とは、nsP1234を指す。他の実施態様では、「非構造タンパク質」とは、nsP123(P123も同義)と、nsP4との複合体又は会合体を指す。一部の実施態様では、「非構造タンパク質」とは、nsP1、nsP2、及びnsP3の複合体又は会合体を指す。一部の実施態様では、「非構造タンパク質」とは、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4の複合体又は会合体を指す。一部の実施態様では、「非構造タンパク質」とは、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4からなる群から選択される、任意の1又は複数の複合体又は会合体を指す。
【0140】
好ましくは、「複合体又は会合体」とは、多数のエレメントの機能的な集合体である。アルファウイルスレプリカーゼの文脈では、「複合体又は会合体」という用語は、それらのうちの少なくとも1つが、アルファウイルス非構造タンパク質である、多数の、少なくとも2つのタンパク質分子について記載し、この場合、複合体又は会合体は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)活性を有する。複合体又は会合体は、複数の異なるタンパク質(ヘテロ多量体)からなる場合もあり、且つ/又は1つの特定のタンパク質の複数のコピー(ホモ多量体)からなる場合もある。多量体又は多数性の文脈では、「マルチ」とは、2、3、4、5、6、7、8、9、10の、又は10を超えるなど、1を超えることを意味する。
【0141】
複合体又は会合体はまた、1を超える異なるアルファウイルスに由来するタンパク質も含みうる。例えば、異なるアルファウイルス非構造タンパク質を含む、本発明に従う複合体又は会合体では、全ての非構造タンパク質が、同じアルファウイルスに由来することは必要とされない。本発明には、異種の複合体又は会合体も、同様に含まれる。例示だけを目的として述べると、異種の複合体又は会合体は、第1のアルファウイルス(例えば、シンドビスウイルス)に由来する、1又は複数の非構造タンパク質(例えば、nsP1、nsP2)と、第2のアルファウイルス(セムリキ森林ウイルス)に由来する、1又は複数の非構造タンパク質(例えば、nsP3、nsP4)とを含みうる。
【0142】
「複合体」又は「会合体」という用語は、2つ又はこれを超える、同じ又は異なるタンパク質分子であって、空間的に近接するタンパク質分子を指す。複合体のタンパク質は、互いと、直接的又は間接的な、物理的又は物理化学的接触にあることが好ましい。複合体又は会合体は、複数の異なるタンパク質(ヘテロ多量体)からなる場合もあり、且つ/又は1つの特定のタンパク質の複数のコピー(ホモ多量体)からなる場合もある。
【0143】
「レプリカーゼ」という用語は、アルファウイルス非構造タンパク質の、炭水化物修飾(グリコシル化など)形態及び脂質修飾形態を含む、各共翻訳修飾形態又は各翻訳後修飾形態、及びあらゆる共翻訳修飾形態又はあらゆる翻訳後修飾形態を含む。
【0144】
「レプリカーゼ」という用語は、アルファウイルスレプリカーゼの、各機能的断片及びあらゆる機能的断片を含む。断片は、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)として機能する場合に機能的である。
【0145】
一部の実施態様では、レプリカーゼは、レプリカーゼを発現する細胞内で、膜性複製複合体、及び/又は液胞を形成することが可能である。
【0146】
好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、上記で規定した、レプリカーゼのコード領域を含む。コード領域は、1又は複数のオープンリーディングフレームからなりうる。
【0147】
一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスの、nsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4の全てをコードする。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスのnsP1、nsP2、nsP3、及びnsP4を、単一のオープンリーディングフレームによりコードされる、単一の、任意選択で、切断型のポリタンパク質:nsP1234としてコードする。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスのnsP1、nsP2、及びnsP3を、単一のオープンリーディングフレームによりコードされる、単一の、任意選択で、切断型のポリタンパク質:nsP123としてコードする。この実施態様では、nsP4は、個別にコードされうる。
【0148】
好ましくは、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターを含まない。
【0149】
好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、mRNA分子である。mRNA分子は、好ましくは、CSE1も、CSE4も含まない。理論に束縛されることを望まずに述べると、レプリコンを、レプリカーゼにより、極めて効率的に複製することができるように、このようなmRNAは、レプリカーゼの結合について、レプリコンと競合しないことが想定される。
【0150】
レプリカーゼコンストラクトのRNAは、好ましくは、二本鎖ではなく、好ましくは、一本鎖であり、より好ましくは、(+)鎖RNAである。レプリカーゼは、レプリカーゼコンストラクト上のオープンリーディングフレームによりコードされる。
【0151】
一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、イントロン非含有のRNA、好ましくは、イントロンを含有しないmRNAである。好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、天然でイントロン非含有のRNA(mRNA)である。例えば、イントロン非含有のRNA(mRNA)は、in vitroにおける合成、例えば、in vitro転写により得られる。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、イントロンを含まない。nsP1234をコードするオープンリーディングフレームを含む。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、イントロンを含まない。nsP123をコードするオープンリーディングフレームを含む。好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、ウサギベータ-グロビン遺伝子から得られるイントロン(国際公開第2008/119827A1号において記載されている)を含まない。
【0152】
本明細書で使用される「イントロン」とは、RNAのコード配列の、ポリペプチドへの翻訳の前に、RNAから除去される、すなわち、スプライスアウトされる、前駆体mRNA(プレmRNA)の非コード区画と規定される。イントロンがプレmRNAからスプライスアウトされると、結果として得られるmRNA配列は、ポリペプチドへと翻訳される準備ができている。言い換えれば、イントロンのヌクレオチド配列は、タンパク質へと翻訳されないことが典型的である。イントロンを含有しないmRNAは、連続する順序でポリペプチドへと翻訳される、コドン(塩基トリプレット)を含有するmRNAである。イントロンを含有しないmRNA天然でイントロンを含有しない(すなわち、当初から、例えば、細胞内で、又はin vitro転写において、イントロンを含有しないmRNAとして合成された)場合もあり、イントロンを含有するプレmRNAをスプライシングすることにより、イントロンを含有しないmRNAへと成熟する場合もある。本発明では、天然ではイントロンを含有しないin vitro転写RNAが好ましい。
【0153】
本発明のレプリカーゼコンストラクトは、少なくとも、自己複製が可能でない点、及び/又はサブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームを含まない点で、アルファウイルスゲノムRNAと異なる。自己複製が不可能である場合、レプリカーゼコンストラクトはまた、「自殺コンストラクト」とも称される。
【0154】
好ましくは、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスの構造タンパク質と会合していない。好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスの構造タンパク質によりパッケージングされない。より好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、ウイルス粒子内にパッケージングされない。好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、ウイルスタンパク質(ウイルスタンパク質非含有のシステム)と会合していない。ウイルスタンパク質非含有のシステムは、例えば、上記Bredenbeek等による先行技術の、ヘルパーウイルスベースのシステムと比較した利点をもたらす。
【0155】
好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、(+)鎖鋳型に基づく(-)鎖合成、及び/又は(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖合成に必要とされる、少なくとも1つの保存配列エレメント(CSE)を欠く。より好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスに由来する保存配列エレメント(CSE)を含まない。特に、アルファウイルスの4つのCSE(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562、Jose等, Future Microbiol., 2009, vol. 4, pp. 837-856)の中で、以下のCSE:
・天然で見出されるアルファウイルス内の、(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖合成のためのプロモーターとして機能すると考えられるCSE1、
・天然で見出されるアルファウイルスの、(+)鎖のゲノムRNAに基づく(-)鎖合成のためのプロモーターとして機能すると考えられるCSE2、
・天然で見出されるアルファウイルス内の、サブゲノム(+)鎖RNAの効率的な転写に寄与すると考えられるCSE3、
・天然で見出されるアルファウイルス内の、(+)鎖のゲノムRNAに基づく(-)鎖合成の開始のためのコアプロモーターとして機能すると考えられるCSE4
のうちの任意の1又は複数は、好ましくは、レプリカーゼコンストラクト上に存在しない。
【0156】
一実施態様では、CSE1、CSE3、及びCSE4は、存在せず、CSE2は、存在する場合もあり、存在しない場合もある。
【0157】
特に、任意の1又は複数のアルファウイルスCSEの非存在下で、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、アルファウイルスゲノムRNAに相似するよりはるかによく、典型的な真核mRNAに相似する。
【0158】
一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、単離核酸分子である。
【0159】
キャップ
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト(レプリカーゼコンストラクト)は、5’キャップを含む。「5’キャップ」、「キャップ」、「5’キャップ構造」、「キャップ構造」という用語は、前駆体メッセンジャーRNAなど、一部の真核細胞一次転写物の5’末端に見出されるジヌクレオチドを指すように、同義に使用される。5’キャップは、(任意選択で、修飾された)グアノシンを、5’-5’三リン酸連結(又は、ある特定のキャップ類似体の場合における、修飾三リン酸連結)を介して、mRNA分子の最初のヌクレオチドへと結合させた構造である。用語は、従来型のキャップを指す場合もあり、キャップ類似体を指す場合もある。例示のために、一部の特定のキャップジヌクレオチド(キャップ類似体ジヌクレオチドを含む)を、図2に示す。
【0160】
「5’キャップを含むRNA」又は「5’キャップを施されたRNA」又は「5’キャップで修飾されたRNA」又は「キャップありのRNA」とは、5’キャップを含むRNAを指す。例えば、RNAに5’キャップを施すことは、前記5’キャップの存在下における、DNA鋳型のin vitro転写により達成することができるが、この場合、前記5’キャップを、共転写により、生成するRNA鎖へと組み込むか、又は、例えば、in vitro転写により、RNAを生成させ、転写後に、キャッピング酵素、例えば、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して、5’キャップを、RNAへと接合させることができる。キャップありのRNAでは、(キャップありの)RNA分子の最初の塩基の3’位を、ホスホジエステル結合を介して、RNA分子の後続の塩基(「第2の塩基」)の5’位へと連結する。例示のために、図1では、本発明に従う核酸分子のキャップの位置を、Cという文字で記号化する。
【0161】
「従来型の5’キャップ」という用語は、天然にある5’キャップ、好ましくは、7-メチルグアノシンキャップを指す。7-メチルグアノシンキャップでは、キャップのグアノシンは、修飾グアノシンであり、この場合、修飾は、7位におけるメチル化からなる(図2の上)。
【0162】
本発明の文脈では、「5’キャップ類似体」という用語は、従来型の5’キャップに相似する分子構造を指すが、好ましくは、in vivoにおいて、且つ/又は細胞内で、RNAに接合させた場合にそのRNAを安定化させる能力を有するように修飾されている。キャップ類似体は、従来型の5’キャップではない。
【0163】
本発明は、レプリカーゼの翻訳が、レプリカーゼコンストラクト上の5’キャップにより駆動されるという点で、先行技術のトランス複製システムから識別される。本発明者らは、とりわけ、レプリカーゼコンストラクト上の5’キャップが、極めて肯定的な影響を、レプリカーゼの発現に対してだけでなく、また、全体としてのシステムの性能に対しても及ぼす、つまりトランスでコードされる目的の遺伝子の、極めて効率的な作製を達成しうること(実施例を参照されたい)を見出した。一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントを含まない。
【0164】
一般に、IRESと略記される内部リボソーム侵入部位とは、例えば、mRNA配列の中間の位置など、mRNA配列の5’末端と異なる位置に由来するメッセンジャーRNA(mRNA)からの翻訳開始を可能とするヌクレオチド配列である。本明細書では、IRES及びIRESエレメントという用語は、互換的に使用される。IRESエレメント真核生物のほか、真核生物に感染することが可能ウイルスにおいても見出される。しかし、ウイルスIRES機能の機構は、現在、真核生物IRES機能の機構より良好に特徴づけられている(Lopez-Lastra等, 2005, Biol. Res., vol. 38, pp. 121-146)。真核細胞内のアルファウイルスレプリカーゼの発現を駆動するためにIRESを使用することが示唆されている(例えば、Sanz等, Cellular Microbiol., 2015, vol. 17, pp. 520-541)。本発明者らは、多様な実施態様では、トランスレプリコン上でコードされる遺伝子の効率的な遺伝子発現は、レプリカーゼコンストラクトが、IRESを含まない場合に達成しうる(実施例1から6を参照されたい)ことを示す。したがって、一実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト(レプリカーゼコンストラクト)は、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントを含まない。好ましくは、レプリカーゼの翻訳は、IRESエレメントにより駆動されない。IRESの下流のオープンリーディングフレーム内でコードされる翻訳タンパク質のレベルは、広範に変動し、特定のIRESの種類及び配列、並びに実験設定の詳細に依存することが公知である(Balvay等, 2009, Biochim. Biophys. Acta, vol. 1789, pp. 542-557において総説されている)。先行技術におけるIRES含有RNAからの遺伝子発現の場合、大型のトランスレプリコンからの遺伝子発現が、短いトランスレプリコンからの場合と比較して、それほど効率的ではなく(Spuul等, J. Virol., 2011, vol. 85, pp. 4739-4751)、アルファウイルスレプリカーゼに典型的な、膜性複製複合体のサイズは、トランスレプリコンの長さに依存することが観察された(Kallio等, 2013, J. Virol., vol. 87, pp. 9125-9134)。IRES含有RNAはまた、in vitroでも転写され、トランスレプリコンと共に、細胞へとトランスフェクトされた(Sanz等, Cellular Microbiol., 2015, vol. 17, pp. 520-541)。この研究は、in vitro転写されるIRES含有mRNAの使用は、細胞内でレプリカーゼを発現させ、レプリコンの複製を、トランスで媒介するのに機能的であることを示唆した。
【0165】
本発明の手法は、先行技術と顕著に異なり、上記Spuul等は、それらのRNA(トランスフェクト細胞内のin situで産生された)が、キャップなしであることを仮定した。Spuul等は、キャップなしのRNAへの、キャップの組込みを予見しなかった:Spuul等は、代替法を選び取り、内部リボソーム侵入部位(IRES)エレメントを、T7プロモーターの下流に組み込んだが、この参考文献によれば、IRESエレメントは、おそらく、キャップなしのRNAの発現の増強に関与している。本発明のレプリカーゼコンストラクトはまた、上記Sanz等により記載されている、nsP1-4をコードする、IRESを含有する、キャップなしのin vitro転写RNAとも異なる。
【0166】
本発明における、5’キャップによるIRESの置換(上記Sanz等及び上記Spuul等により使用されている)は、RNA分子によりコードされるポリペプチドの配列に影響を及ぼさない、RNA分子の特定の修飾(ポリペプチド配列非修飾型修飾)である。
【0167】
原則として、任意のコードRNAは、ポリペプチド配列非修飾型修飾に適する。現代の分子生物学では、いくつかのシステムにおける、ポリペプチド配列非修飾型修飾の、例えば、遺伝子発現の効率に対する可能な効果が研究されている。しかし、効率的な遺伝子発現、例えば、非修飾配列と比較して改善された遺伝子発現を達成するために、どの種類の、ポリペプチド配列非修飾型修飾を選択すべきなのかについて、一般に適用可能な規則は確立されていない。したがって、任意の特定のコード核酸及び/又は任意の特定の発現システムに適切なポリペプチド配列非修飾型修飾の選択は、困難な課題である。当技術分野では、様々な異なるポリペプチド配列非修飾型修飾について記載されている。例えば、真核メッセンジャーRNAについて、研究されているポリペプチド配列非修飾型修飾は、特定の非翻訳領域(例えば、国際公開第2013/143699A1号、国際公開第2013/143698A1号、Holtkamp等, Blood, 2006, vol. 108, pp. 4009-4017において記載されているUTR)の選択、イントロン、例えば、ウサギベータ-グロビンイントロンII配列の導入(例えば、Li等, J. Exp. Med., 1998, vol. 188, pp. 681-688)、又は例えば、コードされるポリペプチド配列を変更しない、宿主細胞又は宿主生物の優先的なコドン使用への適合化による、コード配列のサイレント修飾(例えば、国際公開第2003/085114A1号において一般に記載されているサイレント修飾)を含む。本発明者らに管見の限りにおいて、アルファウイルスベースの発現システム内の、多様なポリペプチド配列非修飾型修飾の影響についての体系的な比較研究は、現在のところ、利用可能ではない。
【0168】
本発明に到達すべく行われた研究では、例えば、ポリペプチド配列非修飾型修飾を伴う、多様な手法について、丹念に検討し、結果として、驚くべきことに、IRESの、レプリカーゼコンストラクト上の5’キャップによる特異的な置換は、トランスにおいて有益な効果、すなわち、トランスにおけるレプリコンのレベルにおいて有益な効果を及ぼしている、つまり、本発明に従うレプリコンによりコードされる目的のタンパク質の作製は、キャップが、レプリカーゼコンストラクト上に存在すると効率的であることが見出された。特に、代替的なポリペプチド配列非修飾型修飾、すなわち、コード配列の修飾の適合化は、本発明のシステムの性能を改善するのに失敗した:それどころか、レプリコンによりコードされる目的のタンパク質の作製の効率は、低減さえされたので、これは注目すべきことである。これについては、実施例4で例示する。したがって、アルファウイルスRNAエレメントに基づくトランス複製システムの場合、レプリカーゼコンストラクト上の5’キャップの組入れは、特に有利なポリペプチド配列非修飾型修飾である。コドン適合化セムリキ森林ウイルスレプリカーゼを、トランスフェクトされたBHK-21宿主細胞内で発現させることについて記載し、コドン最適化SFVレプリカーゼが、高度に活性であり、トランスにおけるレポーター遺伝子の発現を増強することが可能であると結論づける、国際公開第2008/119827A1号を念頭に置いてもまた、本発明の知見は驚くべきことである。したがって、国際公開第2008/119827A1号は、本発明と異なる方向を指示することから、代替的なポリペプチド配列非修飾型修飾、すなわち、イントロンの、レプリカーゼのコード配列への導入が、効率的なレプリカーゼ発現の一助となることが示唆される。
【0169】
真核細胞のmRNAでは、5’キャップの存在は、とりわけ、核からのmRNAの移出の調節、及びプロセシング、特に、5’側の近位イントロンの切出しの促進において、役割を果たすと考えられる(Konarska等, 2014, Cell, vol. 38, pp. 731-736)。本発明のレプリカーゼコンストラクトは典型的に、核から移出されることも、プロセシングされることも必要としない。それにもかかわらず、驚くべきことに、レプリカーゼコンストラクト上の5’キャップの存在は有利であることが見出された。
【0170】
真核細胞のmRNAの場合、5’キャップはまた、一般に、mRNAの効率的な翻訳に関与すると記載されており、一般に、真核生物では、翻訳は、IRESが存在しない限りにおいて、メッセンジャーRNA(mRNA)分子の5’末端だけで開始される。真核細胞は、核内の転写時において、RNAに5’キャップを施すことが可能であり、新たに合成されたmRNAは通例、例えば、転写物が、20-30ヌクレオチドの長さに到達すると、5’キャップ構造で修飾される。まず、5’末端のヌクレオチドであるpppN(pppは、三リン酸を表し、Nは、任意のヌクレオシドを表す)は、細胞内で、RNA 5’-トリホスファターゼ活性及びグアニリルトランスフェラーゼ活性を有するキャッピング酵素により、5’GpppNへと転換される。GpppNはその後、細胞内で、(グアニン-7)-メチルトランスフェラーゼ活性を伴う第2の酵素によりメチル化して、モノメチル化mGpppNキャップを形成しうる。一実施態様では、本発明で使用される5’キャップは、天然の5’キャップである。
【0171】
本発明では、天然の5’キャップジヌクレオチドは、典型的に、非メチル化キャップジヌクレオチド(G(5’)ppp(5’)N、GpppNとも称される)及びメチル化キャップジヌクレオチド(mG(5’)ppp(5’)N、mGpppNとも称される)からなる群から選択される。mGpppN(式中、Nは、Gである)は、以下の式:
により表される。
【0172】
本発明のレプリカーゼコンストラクトは、宿主細胞内のキャッピング機構に依存しない。宿主細胞へとトランスフェクトされると、本発明のレプリカーゼコンストラクトは典型的に、細胞の核、すなわち、そうでなければ、典型的な真核細胞内で、キャッピングが生じる部位へは局在化しないことが想定される。
【0173】
理論に束縛されることを望まずに、先行技術によるコンストラクト上のIRESとの類推で述べると、レプリカーゼコンストラクト上の5’キャップが、レプリカーゼの翻訳の開始を誘発するために有用であることが想定されうる。真核生物の翻訳開始因子であるeIF4Eは、本発明に従うキャップありのmRNAの、リボソームとの会合に関与することが想定されうる。驚くべきことに、本発明者らは、5’キャップの存在が、性能を著明に増加させることを見出した。したがって、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、5’キャップを含む。
【0174】
5’キャップの存在はまた、本発明のトランス複製システムにおいて、予測外の相乗効果ももたらす:実施例で示す通り、キャップありのレプリカーゼコンストラクトが、レプリコンRNAに対してトランスに置かれる場合、キャップありのレプリカーゼコンストラクトは、目的のタンパク質の産生を、より効率的に誘発する(例えば、実施例1を参照されたい)。したがって、本明細書では、5’キャップと、トランスにおける複製との相乗効果、すなわち、シスにおける複製より優れた相乗効果が裏付けられる。
【0175】
本発明のキャップありのRNAは、in vitroにおいて調製することができ、したがって、宿主細胞内のキャッピング機構に依存しない。in vitroにおいて、キャップありのRNAを作り出す、もっともよく使用される方法は、4つのリボヌクレオシド三リン酸全て、及びmG(5’)ppp(5’)G(mGpppGともまた呼ばれる)などのキャップジヌクレオチドの存在下で、細菌RNAポリメラーゼ又はバクテリオファージRNAポリメラーゼにより、DNA鋳型を転写する方法である。RNAポリメラーゼは、次の鋳型ヌクレオシド三リン酸(pppN)のα-リン酸上のmGpppGのグアノシン部分の3’-OHによる求核攻撃により転写を開始する結果として、中間体であるmGpppGpN(式中、Nは、RNA分子の第2の塩基である)をもたらす。競合的GTPにより誘発される産物である、pppGpNの形成は、in vitro転写時のキャップ対GTPのモル比を、5-10の間に設定することにより抑制する。
【0176】
本発明の好ましい実施態様では、5’キャップは、5’キャップ類似体である。これらの実施態様は、特に、RNAが、in vitro転写により得られる、例えば、in vitro転写RNA(IVT-RNA)である場合に適する。キャップ類似体は、まず、in vitro転写による、RNA転写物の大スケールの合成を容易とすることが初期には記載されていた。
【0177】
既に記載されている操作アルファウイルス複製システム(例えば、国際公開第2008/119827A1号、国際公開第2012/006376A2号)とは対照的に、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、好ましくは、キャップ類似体を含む。したがって、本発明のシステムのレプリカーゼの翻訳は、好ましくは、キャップ類似体により駆動される。理想的には、高度な翻訳効率、及び/又はin vivoにおける分解に対する耐性の増加、及び/又はin vitroにおける分解に対する耐性の増加と関連するキャップ類似体が選択される。したがって、本発明は、好ましくは、修飾ヌクレオチドを含有せず、mGpppGとも呼ばれ、任意選択で、市販のScriptCap m7G Capping System(Epicentre Biotechnologies)により付加される天然のキャップであるmG(5’)ppp(5’)Gを含むアルファウイルス発現コンストラクトについて記載する先行技術(国際公開第2012/006376A2号)と顕著に異なる手法をもたらす。
【0178】
メッセンジャーRNAについては、現在、一部のキャップ類似体(合成キャップ)が一般に記載されており、これらは全て、本発明の文脈でも使用することができる。1つの方向に限り、RNA鎖へと組み込まれうるキャップ類似体を使用することが好ましい。Pasquinelli等(1995, RNA J., vol., 1, pp. 957-967)は、in vitro転写時において、バクテリオファージのRNAポリメラーゼは、転写の開始のために、7-メチルグアノシン単位を使用するが、この場合、キャップを伴う約40-50%の転写物が、逆方向のキャップジヌクレオチド(すなわち、初期反応産物は、GpppmGpNである)を有することを裏付けた。適正なキャップを伴うRNAと比較して、リバースキャップを伴うRNAは、コードされるタンパク質の翻訳に関して機能的ではない。したがって、適正な方向でキャップを組み込むこと、すなわち、mGpppGpNなどに本質的に対応する構造を伴うRNAを結果としてもたらすことが所望される。キャップ-ジヌクレオチドの逆組込みは、メチル化グアノシン単位の2’-OH基又は3’-OH基の置換により阻害されることが示されている(Stepinski等, 2001; RNA J., vol. 7, pp. 1486-1495、Peng等, 2002; Org. Lett., vol. 24, pp. 161-164)。このような「抗リバースキャップ類似体」の存在下で合成されるRNAは、従来型の5’キャップであるmGpppGの存在下でin vitro転写されるRNAより効率的に翻訳される。この目的で、メチル化グアノシン単位の3’OH基を、OCHで置き換えた、1つのキャップ類似体については、例えば、Holtkamp等、2006、Blood, vol. 108、pp. 4009-4017により記載されている(7-メチル(3’-O-メチル)GpppG、抗リバースキャップ類似体(ARCA))。ARCAは、本発明に従う、適切なキャップジヌクレオチド
である。
【0179】
本発明の好ましい実施態様では、本発明のRNAは、本質的にキャップ除去を受けにくい。一般に、培養哺乳動物細胞へと導入された合成mRNAから産生されるタンパク質の量は、天然におけるmRNAの分解により限定されるため、これは重要である。in vivoにおける、mRNA分解の1つの経路は、mRNAキャップの除去で始まる。この除去は、調節性サブユニット(Dcp1)と、触媒性サブユニット(Dcp2)とを含有する、ヘテロ二量体のピロホスファターゼにより触媒される。触媒性サブユニットは、三リン酸架橋のαリン酸基と、βリン酸基との間を切断する。本発明では、この種の切断を受けないか、又は受けにくい、キャップ類似体が選択されうるか、又は存在しうる。この目的に適するキャップ類似体は、式(I):
は、任意選択で、置換アルキル、任意選択で、置換アルケニル、任意選択で、置換アルキニル、任意選択で、置換シクロアルキル、任意選択で、置換ヘテロシクリル、任意選択で、置換アリールと、任意選択で、置換ヘテロアリールとからなる群から選択され、
及びRは、独立に、H、ハロ、OHと、任意選択で、置換アルコキシとからなる群から選択されるか、又はR及びRは共に、O-X-Oを形成し、Xは、任意選択で、置換CH、CHCH、CHCHCH、CHCH(CH)、及びC(CHからなる群から選択されるか、又はRは、-O-CH-又は-CH-O-を形成するように、Rを接合させる環の4’位の水素原子と組み合わされ、
は、S、Se、及びBHからなる群から選択され、
及びRは、独立に、O、S、Se、及びBHからなる群から選択され、
nは、1、2、又は3である]
に従うキャップジヌクレオチドから選択することができる。
【0180】
、R、R3、R、R、Rに好ましい実施態様は、国際公開第2011/015347A1号に開示されており、したがって、本発明でも選択することができる。本発明の一実施態様では、Rは、メチルであり、R及びRは、独立に、ヒドロキシ又はメトキシである。
【0181】
例えば、本発明の好ましい実施態様では、本発明のRNAは、ホスホロチオエート-キャップ類似体を含む。ホスホロチオエート-キャップ類似体は、三リン酸鎖内の3つの非架橋O原子のうちの1つを、S原子で置き換えた、すなわち、式(I)中のR、R、又はRのうちの1つが、Sである特異的キャップ類似体である。ホスホロチオエート-キャップ類似体は、J.Kowalska等、2008、RNA,vol.14、pp.1119-1131により、所望されないキャップ除去過程に対する解決策、したがって、in vivoにおけるRNAの安定性を増加させる解決策として記載されている。特に、5’キャップのベータ-リン酸基における、酸素原子の、硫黄原子への置換は、Dcp2に対する安定化を結果としてもたらす。本発明において好ましいこの実施態様では、式(I)中のRは、Sであり、R及びRは、Oである。
【0182】
更に本発明の好ましい実施態様では、本発明のRNAは、RNA 5’キャップのホスホロチオエート修飾を、「抗リバースキャップ類似体」(ARCA)修飾と組み合わせた、ホスホロチオエート-キャップ類似体を含む。それぞれのARCA-ホスホロチオエート-キャップ類似体は、国際公開第2008/157688A2号において記載されており、全て、本発明のRNA内で使用することができる。この実施態様では、式(I)中のR又はRのうちの少なくとも1つは、OHではなく、好ましくは、R及びRのうちの1つは、メトキシ(OCH3)であり、R及びRのうちの他の1つは、好ましくは、OHである。好ましい実施態様では、ベータ-リン酸基における酸素原子を、硫黄原子に置換する(式(I)中のRが、Sであり、R及びRが、Oであるように)。ARCAのホスホロチオエート修飾は、αリン酸、βリン酸、及びγリン酸、並びにホスホロチオエート基が、翻訳機構及びキャップ除去機構のいずれにおいても、キャップ結合性タンパク質の活性部位内に正確に配置されることを確保することが考えられる。少なくともこれらの類似体のうちの一部は、ピロホスファターゼであるDcp1/Dcp2に対して、本質的に耐性である。ホスホロチオエート修飾ARCAは、ホスホロチオエート基を欠く、対応するARCAより、eIF4Eに対して、はるかに大きなアフィニティーを有することが記載された。
【0183】
本発明において特に、好ましい、それぞれのキャップ類似体、すなわち、m2’ 7,2’-OGpppGを、ベータ-S-ARCAと称する(国際公開第2008/157688A2号、Kuhn等, Gene Ther., 2010, vol. 17, pp. 961-971)。したがって、本発明の一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトを、ベータ-S-ARCAで修飾する。ベータ-S-ARCAは、以下の構造:
により表される。
【0184】
一般に、架橋リン酸における、酸素原子の、硫黄原子への置き換えは、HPLCにおけるそれらの溶出パターンに基づき、D1及びD2と称される、ホスホロチオエートジアステレオマーを結果としてもたらす。略述すると、「ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマー」又は「ベータ-S-ARCA(D1)」とは、HPLCカラム上で、ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマー(ベータ-S-ARCA(D2))と比較して、最初に溶出し、したがって、短い保持時間を呈する、ベータ-S-ARCAのジアステレオマーである。HPLCによる立体化学配置の決定については、国際公開第2011/015347A1号において記載されている。
【0185】
本発明の、第1の、特に好ましい実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトを、ベータ-S-ARCA(D2)ジアステレオマーで修飾する。ベータ-S-ARCAの2つのジアステレオマーは、ヌクレアーゼに対する感受性が異なる。ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマーを保有するRNAは、Dcp2切断に対して、ほぼ完全に耐性である(非修飾ARCA 5’キャップの存在下で合成されたRNAと比較して、6%の切断にとどまる)のに対し、ベータ-S-ARCA(D1)5’キャップを伴うRNAは、Dcp2切断に対する中程度の感受性(71%の切断)を呈することが示されている。更に、Dcp2切断に対する安定性の増加が、哺乳動物細胞内のタンパク質発現の増加と相関することも示されている。特に、ベータ-S-ARCA(D2)キャップを保有するRNAは、細胞内で、ベータ-S-ARCA(D1)キャップを保有するRNAより効率的に翻訳されることが示されている。したがって、本発明の一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトを、式(I)に従うキャップ類似体であって、ベータ-S-ARCAのD2ジアステレオマーのPβ原子における立体化学配置に対応する式(I)中の置換基Rを含むP原子における立体化学配置を特徴とするキャップ類似体で修飾する。この実施態様では、式(I)中のRは、Sであり、R及びRは、Oである。加えて、式(I)中のR又はRのうちの少なくとも1つは、好ましくは、OHではなく、好ましくは、R及びRのうちの1つは、メトキシ(OCH3)であり、R及びRのうちの他の1つは、好ましくは、OHである。
【0186】
本発明の、第2の、特に好ましい実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトを、ベータ-S-ARCA(D1)ジアステレオマーで修飾する。この実施態様は、ワクチン接種などを目的する、キャップありのRNAの、未成熟抗原提示細胞への導入に特に適する。ベータ-S-ARCA(D1)ジアステレオマーは、それぞれキャップありのRNAが、未成熟抗原提示細胞へと導入されると、RNAの安定性を増加させ、RNAの翻訳効率を増加させ、RNAの翻訳を延長し、RNAの全タンパク質発現を増加させ、且つ/又は前記RNAによりコードされる抗原又は抗原ペプチドに対する免疫応答を増加させるのに、特に適することが裏付けられている(Kuhn等, Gene Ther., 2010, vol. 17, pp. 961-971)。したがって、本発明の代替的実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトを、式(I)に従うキャップ類似体であって、ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学配置に対応する式(I)中の置換基Rを含むP原子における立体化学配置を特徴とするキャップ類似体で修飾する。それぞれのキャップ類似体及びそれらの実施態様については、国際公開第2011/015347A1号及びKuhn等、Gene Ther.、2010、vol.17、pp.961-971において記載されている。本発明では、国際公開第2011/015347A1号において記載されている、任意のキャップ類似体であって、置換基Rを含むP原子における立体化学配置が、ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学配置に対応するキャップ類似体を使用することができる。好ましくは、式(I)中のRは、Sであり、R及びRは、Oである。加えて、式(I)中のR又はRのうちの少なくとも1つは、好ましくは、OHではなく、好ましくは、R及びRのうちの1つは、メトキシ(OCH3)であり、R及びRのうちの他の1つは、好ましくは、OHである。
【0187】
一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトを、式(I)に従う5’キャップ構造であって、任意の1つのリン酸基を、ボラノリン酸基又はホスホロセレノエート基で置き換えた5’キャップ構造で修飾する。このようなキャップは、in vitro及びin vivoのいずれにおいても、安定性を増加させている。任意選択で、それぞれの化合物は、2’-O-アルキル基又は3’-O-アルキル基(式中、アルキルは、好ましくは、メチルである)を有し、それぞれのキャップ類似体を、BH-ARCA又はSe-ARCAと称する。mRNAのキャッピングに特に適する化合物は、国際公開第2009/149253A2号に記載されている、β-BH-ARCA及びβ-Se-ARCAを含む。これらの化合物には、式(I)中の置換基Rを含むP原子における立体化学配置であって、ベータ-S-ARCAのD1ジアステレオマーのPβ原子における立体化学配置に対応する立体化学配置が好ましい。
【0188】
UTR
「非翻訳領域」又は「UTR」という用語は、転写されるが、アミノ酸配列へと翻訳されない領域、又はmRNA分子など、RNA分子内の対応する領域に関する。3’-UTRは、存在する場合、遺伝子の3’末端の、タンパク質コード領域の終結コドンの下流に位置するが、「3’-UTR」という用語は、好ましくは、ポリ(A)テールを含まない。したがって、3’-UTRは、ポリ(A)テール(存在する場合)の上流にあり、例えば、ポリ(A)テールに直に隣接する。
【0189】
5’-UTRは、存在する場合、遺伝子の5’末端の、タンパク質コード領域の開始コドンの上流に位置する。5’-UTRは、5’キャップ(存在する場合)の下流にあり、例えば、5’キャップに直に隣接する。
【0190】
本発明によると、5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域を、これらの領域が、前記オープンリーディングフレームを含むRNAの安定性及び/又は翻訳効率を増加させる形で、オープンリーディングフレームと関連するように、オープンリーディングフレームへと、機能的に連結することができる。
【0191】
非翻訳領域(UTR)は、レプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームの5’(上流)(5’-UTR)、及び/又はレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームの3’(下流)(3’-UTR)に存在しうる。好ましい実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト(レプリカーゼコンストラクト)は、
(1)5’UTRと、
(2)レプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームと、
(3)3’UTRと
を含む。
【0192】
本発明のレプリカーゼコンストラクトについての実施態様ではとりわけ、「3’-UTR」という用語は、レプリカーゼのコード領域の3’側に位置する領域に関し、「5’-UTR」という用語は、レプリカーゼのコード領域の5’側に位置する領域に関する。
【0193】
UTRは、RNAベースのワクチンを使用する効果的な免疫応答に必須である、RNAの安定性及び翻訳効率に関与する。本明細書で記載される、5’キャップ及び/又は3’ポリ(A)テールに関する構造的修飾以外に、特異的5’非翻訳領域及び/又は3’非翻訳領域(UTR)を選択することにより、RNAの安定性及び翻訳効率のいずれも改善することができる。UTR内の配列エレメントは一般に、翻訳の効率(主に、5’-UTR)及びRNA安定性(主に、3’-UTR)に影響を及ぼすと理解される。核酸配列の翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために、活性の5’-UTRが存在することが好ましい。独立に、又は加えて、核酸配列の翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために、活性の3’-UTRが存在することが好ましい。
【0194】
第1の核酸配列(例えば、UTR)に言及する、「核酸配列の翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために、活性である核酸配列」という用語は、第1の核酸配列が、第2の核酸配列と共通の転写物内で、前記翻訳効率及び/又は安定性を、前記第1の核酸配列の非存在下における、前記第2の核酸配列の翻訳効率及び/又は安定性と比較して増加させる形で、前記第2の核酸配列の翻訳効率及び/又は安定性を修飾することが可能であることを意味する。この文脈では、「翻訳効率」という用語は、RNA分子によりもたらされる翻訳産物の量であって、特に、時間を伴う量に関し、「安定性」という用語は、RNA分子の半減期に関する。
【0195】
好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して、異種又は非天然である、5’-UTR及び/又は3’-UTRを含む。これは、非翻訳領域を、所望の翻訳効率及びRNAの安定性に従いデザインすることを可能とする。したがって、異種UTR又は非天然UTRは、高度の柔軟性を可能とし、この柔軟性は、天然のアルファウイルスUTRと比較して有利である。特に、アルファウイルス(天然)RNAはまた、5’UTR及び/又は3’UTRも含むことが公知であるが、アルファウイルスのUTRは、二重の機能を果たす、すなわち、(i)RNAの複製を駆動するほか、(ii)翻訳を駆動する。アルファウイルスのUTRは、翻訳に非効率的であることが報告されている(Berben-Bloemheuvel等, 1992, Eur. J. Biochem., vol. 208, pp. 581-587)が、それらの二重の機能のために、より効率的なUTRで、たやすく置き換えることはできない。しかし、本発明では、レプリカーゼコンストラクトの5’-UTR及び/又は3’-UTRを、RNAの複製に対する、それらの潜在的な影響から独立して選択することができる。
【0196】
好ましくは、レプリカーゼコンストラクトは、ウイルス由来ではない、特に、アルファウイルス由来ではない、5’-UTR及び/又は3’-UTRを含む。一実施態様では、RNAは、真核細胞の5’-UTRに由来する5’-UTR、及び/又は真核細胞の3’-UTRに由来する3’-UTRを含む。
【0197】
本発明に従う5’-UTRは、任意選択で、リンカーにより隔てられた、1つを超える核酸配列の任意の組合せを含みうる。本発明に従う3’-UTRは、任意選択で、リンカーにより隔てられた、1つを超える核酸配列の任意の組合せを含みうる。
【0198】
本発明によると、「リンカー」という用語は、前記2つの核酸配列を接続するように、2つの核酸配列の間に付加される核酸配列に関する。リンカー配列に関する特定の制限は存在しない。
【0199】
3’-UTRは、典型的に、200から2000ヌクレオチド、例えば、500から1500ヌクレオチドの長さを有する。免疫グロブリンmRNAの3’非翻訳領域は、比較的短い(約300ヌクレオチド未満)が、他の遺伝子の3’非翻訳領域は、比較的長い。例えば、tPAの3’非翻訳領域は、約800ヌクレオチドの長さであり、因子VIIIの3’非翻訳領域は、約1800ヌクレオチドの長さであり、エリスロポエチンの3’非翻訳領域は、約560ヌクレオチドの長さである。
【0200】
哺乳動物mRNAの3’非翻訳領域は、典型的に、AAUAAAヘキサヌクレオチド配列として公知の相同性領域を有する。この配列は、ポリ(A)接合シグナルであると推定され、ポリ(A)接合部位の10から30塩基上流に位置することが多い。
【0201】
3’非翻訳領域は、エキソリボヌクレアーゼに対する障壁として作用するか、又はRNAの安定性を増加させることが公知のタンパク質(例えば、RNA結合性タンパク質)と相互作用する、ステムループ構造をもたらすようにフォールドしうる、1又は複数の逆位リピートを含有しうる。
【0202】
ヒトベータ-グロビンの3’-UTR、特に、ヒトベータ-グロビンの3’-UTRの、2つの連続する同一なコピーは、高度な転写物の安定性及び翻訳の効率に寄与する(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017)。したがって、一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、ヒトベータ-グロビンの3’-UTRの、2つの連続する同一なコピーを含む。したがって、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、5’→3’方向に:(a)任意選択で、5’-UTR;(b)レプリカーゼをコードするオープンリーディングフレーム;(c)ヒトベータ-グロビンの3’-UTRの、2つの連続する同一なコピー、その断片、又はヒトベータ-グロビンの3’-UTR若しくはその断片の変異体を含む3’-UTRを含む。
【0203】
一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、レプリカーゼコンストラクトの翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために活性であるが、ヒトベータ-グロビンの3’-UTR、その断片、又はヒトベータ-グロビンの3’-UTR若しくはその断片の変異体ではない3’-UTRを含む。
【0204】
一実施態様では、本発明のレプリカーゼコンストラクトは、レプリカーゼコンストラクトの翻訳効率及び/又は安定性を増加させるために活性である5’-UTRを含む。
【0205】
本発明に従うUTR含有RNAは、例えば、in vitro転写により調製することができる。これは、5’-UTR及び/又は3’-UTRを伴うRNAの転写を可能とする形で、本発明の核酸分子(例えば、DNA)の発現を遺伝子改変することにより達成することができる。
【0206】
Poly(A)配列
一実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト(レプリカーゼコンストラクト)は、3’ポリ(A)配列を含む。
【0207】
アルファウイルスでは、少なくとも11の連続アデニル酸残基、又は少なくとも25の連続アデニル酸残基の、3’ポリ(A)配列が、マイナス鎖の効率的な合成に重要であると考えられる。特に、アルファウイルスでは、少なくとも25の連続アデニル酸残基の3’ポリ(A)配列は、保存配列エレメント4(CSE4)と共に機能して、(-)鎖の合成を促進すると理解される(Hardy及びRice, J. Virol., 2005, vol. 79, pp. 4630-4639)。しかし、本発明では、レプリカーゼコンストラクトの(-)鎖合成は、典型的に、所望されず、ポリ(A)配列は、主に、トランスフェクトされた真核細胞内の、RNAの安定性及びタンパク質の翻訳に影響を及ぼす機能を果たす。実際、約120のAヌクレオチドの3’ポリ(A)配列が、トランスフェクトされた真核細胞内のRNAのレベル、並びに3’ポリ(A)配列の上流(5’)に存在するオープンリーディングフレームから翻訳されるタンパク質のレベルに対して、有益な影響を及ぼすことが裏付けられている(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017)。本発明によると、一実施態様では、ポリ(A)配列は、少なくとも20、好ましくは、少なくとも26、好ましくは、少なくとも40、好ましくは、少なくとも80、好ましくは、少なくとも100のAヌクレオチドであり、好ましくは、最大で500、好ましくは、最大で400、好ましくは、最大で300、好ましくは、最大で200のAヌクレオチドであり、特に、最大で150のAヌクレオチドであり、特に、約120のAヌクレオチドを含むか、又はこれらから本質的になるか、又はこれらからなる。この文脈では、「~から本質的になる」とは、ポリ(A)配列内の大半のヌクレオチド、典型的に、「ポリ(A)配列」内のヌクレオチドの数で、少なくとも50%であり、好ましくは、少なくとも75%が、Aヌクレオチドであるが、残りのヌクレオチドが、Uヌクレオチド(ウリジル酸)、Gヌクレオチド(グアニル酸)、Cヌクレオチド(シチジル酸)など、Aヌクレオチド以外のヌクレオチドであることを許容することを意味する。この文脈では、「~からなる」とは、ポリ(A)配列内の全てのヌクレオチド、すなわち、ポリ(A)配列内のヌクレオチドの数で100%が、Aヌクレオチドであることを意味する。「Aヌクレオチド」又は「A」という用語は、アデニル酸を指す。
【0208】
本発明は、RNA転写時、すなわち、コード鎖と相補的な鎖内の、反復dTヌクレオチド(デオキシチミジル酸)内のポリ(A)配列を含むDNA鋳型に基づく、in vitro転写RNAの調製時に接合させる3’ポリ(A)配列を提供する。ポリ(A)配列(コード鎖)をコードするDNA配列を、ポリ(A)カセットと称する。
【0209】
本発明の好ましい実施態様では、DNAのコード鎖内に存在する3’ポリ(A)カセットは、dAヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)の分布が均等なランダム配列により中断されている。このようなランダム配列は、5から50、好ましくは、10から30、より好ましくは、10から20ヌクレオチドの長さでありうる。このような カセットは、国際公開第2016/005004A1号において開示されている。本発明では、国際公開第2016/005004A1号において開示されている、任意のポリ(A)カセットを使用することができる。dAヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(dA、dC、dG、dT)の分布が均等なランダム配列により中断されており、例えば、5から50ヌクレオチドの長さであるポリ(A)カセットは、DNAレベルでは、大腸菌(E.coli)内のプラスミドDNAの一定の繁殖を示し、なお、RNAレベルでは、RNAの安定性及び翻訳の効率の支援に関する有益な特性とも関連する。
【0210】
結果として、本発明の好ましい実施態様では、本明細書で記載されるRNA分子内に含有される3’ポリ(A)配列は、Aヌクレオチドから本質的になるが、4つのヌクレオチド(A、C、G、U)の分布が均等なランダム配列により中断されている。このようなランダム配列は、5から50、好ましくは、10から30、より好ましくは、10から20ヌクレオチドの長さでありうる。
【0211】
コドン使用
一般に、遺伝子コードの縮重は、同じコード能を維持しながらの、RNA配列内に存在するある特定のコドン(塩基トリプレット)の、他のコドン(塩基トリプレット)による置換を可能とするであろう。本発明の一部の実施態様では、RNA分子に含まれるオープンリーディングフレームの、少なくとも1つのコドンは、オープンリーディングフレームが由来する種における、それぞれのオープンリーディングフレーム内のそれぞれのコドンと異なる。この実施態様では、オープンリーディングフレームのコード配列を、「適合させた」という。
【0212】
例えば、オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる場合、高頻度で使用されるコドンを選択することができ、国際公開第2009/024567A1号は、核酸分子のコード配列の適合化であって、より高頻度で使用されるコドンによる、希少なコドンの置換を伴う適合化について記載する。コドン使用の頻度は、宿主細胞又は宿主生物に依存するので、この種の適合化は、核酸配列を、特定の宿主細胞又は宿主生物における発現へと適応させるのに適する。一般的に述べると、より高頻度で使用されるコドンは、典型的に、宿主細胞又は宿主生物において、より効率的に翻訳されるが、オープンリーディングフレームの全てのコドンの適合化が、常に必要とされるわけではない。
【0213】
例えば、オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる場合、各アミノ酸について、GC含量が最高となるコドンを選択することにより、G(グアニル酸)残基及びC(シチジル酸)残基の含量を変更することができる。オープンリーディングフレームがGCリッチなRNA分子は、免疫の活性化を低減し、翻訳及びRNAの半減期を改善する潜在的可能性を有することが報告されている(Thess等, 2015, Mol. Ther. 23, 1457-1465)。
【0214】
本発明に従うレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームは、それぞれ適応させることができる。
【0215】
レプリコンの特徴付け
本発明のシステムは、レプリコンを含む。レプリカーゼ、好ましくは、アルファウイルスレプリカーゼによる複製が可能な核酸コンストラクトを、レプリコンと称する。典型的に、本発明に従うレプリコンは、RNA分子である。
【0216】
本発明によると、「レプリコン」という用語は、(DNA中間体を伴わずに)RNAレプリコンの、1又は複数の、同一であるか、又は本質的に同一なコピーをもたらす、RNA依存性RNAポリメラーゼにより複製することができるRNA分子を規定する。「DNA中間体を伴わずに」とは、レプリコンのデオキシリボ核酸(DNA)のコピー又は相補体が、RNAレプリコンのコピーを形成する過程において形成されず、且つ/又はRNAレプリコン又はその相補体のコピーを形成する過程において、デオキシリボ核酸(DNA)分子を鋳型として使用しうることを意味する。
【0217】
本発明によると、「複製することができる」という用語は、一般に、核酸の、1又は複数の、同一であるか、又は本質的に同一なコピーを調製することができることについて記載する。「レプリカーゼにより複製することができる」など、「レプリカーゼ」という用語と共に使用される場合、「複製することができる」という用語は、レプリカーゼに関する、レプリコンの機能的特徴について記載する。これらの機能的特徴は、(i)レプリカーゼが、レプリコンを認識することが可能であること、及び(ii)レプリカーゼが、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)として作用することが可能であることのうちの少なくとも1つを含む。好ましくは、レプリカーゼは、(i)レプリコンを認識すること、及び(ii)RNA依存性RNAポリメラーゼとして作用することの両方が可能である。RNA依存性RNAポリメラーゼは、レプリコン、その相補体、又はこれらのいずれかの一部を、鋳型として使用しうる。
【0218】
「~を認識することが可能」という表現は、レプリカーゼが、レプリコンと物理的に会合することが可能であり、好ましくは、レプリカーゼが、典型的に、非共有結合的に、レプリコンに結合することが可能であることについて記載する。「結合すること」という用語は、レプリカーゼが、保存配列エレメント1(CSE1)又はその相補的な配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列エレメント2(CSE2)又はその相補的な配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列エレメント3(CSE3)又はその相補的な配列(レプリコンに含まれる場合)、保存配列エレメント4(CSE4)又はその相補的な配列(レプリコンに含まれる場合)のうちのいずれか1又は複数への結合能を有することを意味しうる。好ましくは、レプリカーゼは、CSE2[すなわち、(+)鎖]、及び/若しくはCSE4[すなわち、(+)鎖]への結合が可能であるか、又はCSE1[すなわち、(-)鎖]の相補体、及び/若しくはCSE3[すなわち、(-)鎖]の相補体への結合が可能である。
【0219】
「RdRPとして作用することが可能」という表現は、レプリカーゼが、アルファウイルスゲノムの(+)鎖RNAの(-)鎖相補体の合成を触媒することが可能であり、この場合、(+)鎖RNAが、鋳型機能を有すること、及び/又はレプリカーゼが、(+)鎖であるアルファウイルスゲノムRNAの合成を触媒することが可能であり、この場合、(-)鎖RNAが鋳型機能を有することを意味することを含む。一般に、「RdRPとして作用することが可能」という表現はまた、レプリカーゼが、(+)鎖サブゲノム転写物の合成を触媒することが可能であり、この場合、(-)鎖RNAが、鋳型機能を有し、且つ、(+)鎖サブゲノム転写物の合成が、典型的に、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターにおいて開始されることも含みうる。
【0220】
「結合が可能」及び「RdRPとして作用することが可能」という表現は、通常の生理学的条件における能力を指す。特に、表現は、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるか、又はアルファウイルスレプリカーゼをコードする核酸をトランスフェクトされた細胞内部の条件を指す。細胞は、好ましくは、真核細胞である。結合能及び/又はRdRPとして作用する能力は、例えば、細胞非含有のin vitroシステム又は真核細胞において、実験により調べることができる。任意選択で、前記真核細胞は、レプリカーゼの由来を表す、特定のアルファウイルスが感染性である種に由来する細胞である。例えば、ヒトに対して感染性である、特定のアルファウイルスに由来するアルファウイルスレプリカーゼを使用する場合、正常な生理学的条件は、ヒト細胞内の条件である。より好ましくは、真核細胞(一例では、ヒト細胞)は、レプリカーゼの由来を表す、特定のアルファウイルスが感染性である、同じ組織又は器官に由来する。
【0221】
これらの機能的な特徴を念頭に、本発明のレプリコンと、本発明のレプリカーゼコンストラクトとは、機能的な対を形成する。アルファウイルスレプリカーゼは、本発明に従う、任意のアルファウイルスレプリカーゼであることが可能であり、レプリコンを、アルファウイルスレプリカーゼにより、トランスで複製することができる限りにおいて、レプリコンRNAのヌクレオチド配列は、特に、限定されない。
【0222】
本発明のシステムを、細胞、好ましくは、真核細胞へと導入する場合、レプリカーゼコンストラクト上でコードされるレプリカーゼは、翻訳され、これにより、レプリカーゼ酵素を生成させうる。翻訳の後、レプリカーゼは、トランスで、RNAレプリコンを複製することが可能である。したがって、本発明は、トランスでRNAを複製するためのシステムを提供する。結果として、本発明のシステムは、トランス複製システムである。したがって、本発明に従うレプリコンは、トランスレプリコンである。
【0223】
本明細書では、トランス(例えば、トランス作用型、トランス調節型の文脈における)とは、一般に、「異なる分子から作用すること」(すなわち、分子間で作用すること)を意味する。トランスとは、一般に、「同じ分子から作用すること」(すなわち、分子内で作用すること)を意味するシス(例えば、シス作用型、シス調節型の文脈における)の逆である。RNA合成(RNAの転写及び複製を含む)の文脈では、トランス作用型エレメントは、RNA合成が可能な酵素(レプリカーゼ)をコードする遺伝子を含有する核酸配列を含む。レプリカーゼは、第2の核酸分子、すなわち、異なる分子の合成において機能する。トランス作用型のRNA、及びそれがコードするタンパク質のいずれも、標的遺伝子に対して「トランスで作用する」という。本発明の文脈では、トランス作用型のRNAは、アルファウイルスのRNAポリメラーゼをコードする。アルファウイルスのRNAポリメラーゼは、RNAを複製することが可能であり、したがって、レプリカーゼと称される。レプリカーゼは、第2のRNA分子(レプリコン)に対して、トランスで作用する。本明細書では、本発明に従う、トランスでレプリカーゼにより複製することができるレプリコンを、「トランスレプリコン」又は「本発明に従うレプリコン」として、同義に称する。
【0224】
アルファウイルスレプリカーゼが一般に、トランスで、鋳型RNAを認識し、複製することが可能であるという事実は、1980年代に初めて発見されたが、とりわけ、トランス複製されたRNAは、効率的な複製を阻害すると考えられた(これは、感染細胞内のアルファウイルスゲノムと共に共複製される欠損干渉(DI)RNAの場合に発見された)ため、生物医学的適用のためのトランス複製の潜在的可能性は、認識されされなかった(Barrett等, 1984, J. Gen. Virol., vol. 65 (Pt 8), pp. 1273-1283、Lehtovaara等, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 78, pp. 5353-5357、Pettersson, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 78, pp. 115-119)。DI RNAは、細胞株への、高ウイルスロードの感染時に、半天然で生じうるトランスレプリコンである。DIエレメントは、親ウイルスの毒力を低減し、これにより、阻害性寄生RNAとして作用する程度に効率的に共複製される(Barrett等, 1984, J. Gen. Virol., vol. 65 (Pt 11), pp. 1909-1920)。生物医学的適用への潜在的可能性は認識されなかったが、トランス複製の現象は、シスにおいて、同じ分子からのレプリカーゼを発現させることを必要とせずに、複製の機構を解明することを目的とする、いくつかの基礎研究において使用され、更に、レプリカーゼと、レプリコンとの分離はまた、それぞれの突然変異体が、機能喪失突然変異体であったにせよ、ウイルスタンパク質の突然変異体を伴う機能研究も可能とする(Lemm等, 1994, EMBO J., vol. 13, pp. 2925-2934)。これらの機能喪失研究及びDI RNAは、アルファウイルスエレメントに基づくトランス活性化システムが、最終的に、治療目的に適うように利用可能となりうることを示唆しなかった。RNAの、脊椎動物へのin vivo送達のための、より近年の手法は、自己複製RNA分子を含む、シス複製システムを示唆する(国際公開第2012/006376A2号)。
【0225】
先行技術における示唆とは対照的に、本発明のトランス複製システムは、遺伝子発現に極めて適しており、本発明のトランス複製システムは、高発現レベル、高抗原力価と関連し、抗原をコードするRNAのレベルが、比較的低レベルである場合であってもなお、ワクチン接種された動物の、十分な程度の生存を達成することができる。特に、本発明のシステムのトランスレプリコン-RNA 1μgの投与は、シスレプリコン5μgの投与と同等な、ウイルス中和力価及びHA力価をもたらしうる(実施例6及び図7を参照されたい)。これは、ワクチンをコードする核酸の全体量を低減しうるので、当技術分野、特に、動物へのワクチン接種の分野の進歩に対する著明な寄与を表す。これは、作製のための費用及び時間を節約し、少なくとも以下の理由で重要である。
【0226】
まず何にもまして、本発明のシステムの多用途性(2つの個別のRNA分子を含む)は、レプリコン及びレプリカーゼコンストラクトを、異なる時点及び/又は異なる部位において、デザイン及び/又は調製しうることを可能とする。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトを、第1の時点において調製し、レプリコンを、後の時点において調製する。例えば、その調製後、レプリカーゼコンストラクトを、後の時点における使用のために保存することができる。本発明は、シスレプリコンと比較した柔軟性の増加を提供する。つまり、新たな病原体が出現したら、新たな病原体に対する免疫応答を誘発するポリペプチドをコードする核酸へと、レプリコンをクローニングすることにより、本発明のシステムを、ワクチン接種のためにデザインすることができる。既に調製されたレプリカーゼコンストラクトは、保存物から回収することができる。したがって、レプリカーゼコンストラクトを、デザイン及び調製する時点において、特定の病原体、又は特定の病原体の抗原(1又は複数)の性格が既知であることは必要とされない。結果として、レプリカーゼコンストラクトを、デザイン及び調製する時点において、特定の新たな病原体に対する免疫応答を誘発するポリペプチドをコードするレプリコンが利用可能であることは必要とされない。言い換えれば、レプリカーゼコンストラクトは、任意の特定のレプリコンから独立に、デザイン及び調製することができる。これは、レプリカーゼを欠くレプリコンの調製は、シスレプリコンの調製より、必要とされる労力及び資源が少ないため、新たな病原体、又は少なくとも1つの新たな抗原の発現を特徴とする病原体の出現に対して、迅速に反応することを可能とする。歴史は、病原体に対する迅速な反応を可能とするシステムが必要とされると語っており、これは、例えば、近年における、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エボラウイルス、及び多様なインフルエンザウイルス亜型を引き起こす病原体の発生により例示される。
【0227】
第2に、動物へのワクチン接種の場合、ワクチンの費用は、獣医学的コミュニティー及び農場的コミュニティーにおけるその成功への鍵である。本発明のレプリコンは、例えば、ワクチン接種された動物の細胞内の、機能的なアルファウイルス非構造タンパク質の存在下で複製することができるので、比較的低量のレプリコンRNAを投与する場合であってもなお、高レベルの目的の遺伝子の発現を達成しうる。低量のレプリコンRNAは、対象1例当たりのワクチンの費用に、肯定的に影響する。
【0228】
第3に、トランス本発明に従うレプリコンは、典型的なシスレプリコンより短い核酸分子である。これは、目的のタンパク質、例えば、免疫原性ポリペプチドをコードするレプリコンの、より迅速なクローニングを可能とし、高収率の目的のタンパク質をもたらす(例えば、実施例1を参照されたい)。
【0229】
好ましい実施態様では、レプリコンを、天然にあるセムリキ森林ウイルス、及び弱毒化セムリキ森林ウイルスなど、セムリキ森林ウイルスの変異体又は誘導体を含む、セムリキ森林ウイルスから、アルファウイルスレプリカーゼにより複製することができる。代替的な好ましい実施態様では、レプリコンを、天然にあるシンドビスウイルス、及び弱毒化シンドビスウイルスなど、シンドビスウイルスの変異体又は誘導体を含む、シンドビスウイルスから、アルファウイルスレプリカーゼにより複製することができる。代替的な好ましい実施態様では、レプリコンを、天然にあるVEEV、及び弱毒化VEEVなど、VEEVの変異体又は誘導体を含む、ベネズエラウマ脳炎ウイルス (VEEV)から、アルファウイルスレプリカーゼにより複製することができる。
【0230】
本発明に従うRNAレプリコンは、好ましくは、一本鎖RNA分子である。一般に、一本鎖をコードする核酸分子は、核酸素材の1重量単位(例えば、1μg)当たり2倍の遺伝情報を含む。したがって、一本鎖の性質は、例えば、上記Spuul等により利用されている、先行技術による二本鎖DNAベクターと比較して、更なる利点を表す。本発明に従うレプリコンは、典型的に、(+)鎖RNA分子である。
【0231】
一実施態様では、RNAレプリコンは、単離核酸分子である。
【0232】
本発明のトランス複製システムは、宿主細胞への接種、及び宿主細胞内の目的の遺伝子の発現に適する(例えば、実施例1-3を参照されたい)。本発明の一部の実施例では、トランスレプリコンRNAは、目的の遺伝子として、それぞれの目的の遺伝子の発現の効率をたやすく決定することを可能とする、レポータータンパク質(例えば、GFP又はeGFPなどの蛍光タンパク質)をコードする遺伝子を含む。実施例2に示す通り、トランス複製システム(2つのRNAを含む)は、シス複製(eGFPレプリコンRNA)と比較した、目的の遺伝子の発現の、著明に良好な効率と関連する。
【0233】
本発明のトランス複製システムは、ヒト又は動物における、例えば、高レベルでの発現のための、目的の遺伝子の、効率的な発現に適する。特に、実施例5は、レポータータンパク質を効率的に産生しうることを裏付け、実施例6は、本発明のシステムで治療された動物では、治療効果、病原性感染からの保護を達成しうることを裏付ける。
【0234】
いかなる特定の理論により束縛されることを望まずに述べると、例えば、典型的な、天然で見出されるアルファウイルス内のレプリカーゼをコードする、約7400ヌクレオチドは、全長レプリコンの増幅が必要とされるので、細胞に負荷をかけることが考えられる。例えば、mRNAの形態の、非複製性レプリカーゼコンストラクトを、レプリカーゼ発現のために使用する場合、この負荷の主要部分は消滅することが考えられる。これは、トランスレプリコンを、RNAの増幅及びトランス遺伝子の発現に使用することを可能とする。レプリカーゼコンストラクトが、細胞内で複製されない(すなわち、複製される唯一の外来コンストラクトが、本発明のトランスレプリコンである)場合、細胞エネルギー及び資源(ヌクレオチドなど)の浪費が回避されることから、優れた発現レベルが説明されうるであろう。更に、短いレプリコンRNAは、RNA合成のために必要とする時間が短い可能性が高い。したがって、時間、細胞エネルギー、及び/又は資源の節約が、高レベルの複製に寄与することが考えられる。
【0235】
保存配列エレメント
一実施態様では、レプリコンは、アルファウイルスゲノムRNAであるか、若しくはこれを含むか、又は、アルファウイルスゲノムRNAに由来する。一実施態様では、本発明に従うレプリコンは、保存配列エレメント(CSE)(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)のうちの1又は複数を含む。特に、レプリコンは、天然で見出されるアルファウイルス又はその変異体若しくは誘導体の、保存配列エレメント(CSE)のうちの1又は複数を含みうる。
・(-)鎖鋳型からの(+)鎖合成のためのプロモーターとして機能すると考えられるCSE1。存在する場合、CSE1は、典型的に、レプリコンRNAの5’末端において、又はこの近傍に配置される。
・(+)鎖のゲノムRNA鋳型からの(-)鎖合成のためのプロモーター又はエンハンサーとして機能すると考えられるCSE2。存在する場合、CSE2は、典型的に、CSE1の下流であるが、CSE3の上流に配置される。
・サブゲノムRNAの効率的な転写に寄与すると考えられるCSE3。存在する場合、CSE3は、典型的に、目的の遺伝子(存在する場合)のコード配列の上流であるが、CSE2の下流に配置される。
・(-)鎖合成の開始のためのコアプロモーターとして機能すると考えられるCSE4。存在する場合、CSE4は、典型的に、目的の遺伝子(存在する場合)のコード配列の下流に配置される。ともあれ、CSE4は、典型的に、CSE3の下流に存在する。多様なアルファウイルスにおけるCSE4(3’CSEとも称される)の配列の詳細については、Hardy及びRice,J.Virol.、2005、vol.79、pp.4630-4639において記載されており、本発明では、CSE4の配列を、例えば、この文献の教示に従い、選択することができる。
【0236】
一実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、
(1)アルファウイルスの5’複製認識配列と、
(2)アルファウイルスの3’複製認識配列と
を含む。
【0237】
一実施態様では、アルファウイルスの5’複製認識配列は、アルファウイルスのCSE1及び/又はCSE2を含む。天然にあるアルファウイルスでは、CSE1及び/又はCSE2は典型的に、5’複製認識配列内に含まれる。
【0238】
一実施態様では、アルファウイルスの3’複製認識配列は、アルファウイルスCSE4を含む。天然にあるアルファウイルスでは、CSE4は典型的に、3’複製認識配列内に含まれる。
【0239】
一実施態様では、アルファウイルスの5’複製認識配列及びアルファウイルスの3’複製認識配列は、レプリカーゼの存在下で、本発明に従うRNAレプリコンの複製を導くことが可能である。したがって、単独で、又は、好ましくは、共に存在する場合、これらの認識配列は、レプリカーゼの存在下で、RNAレプリコンの複製を導く。いかなる特定の理論により束縛されることを望まずに述べると、アルファウイルスの、保存配列エレメント(CSE)1、CSE2、及びCSE4が、レプリカーゼの存在下で、RNAレプリコンの複製を導く認識配列である(この中に含まれる)ことが理解される。したがって、この実施態様では、レプリコンは、典型的に、CSE1、CSE2、及びCSE4を含むと予想される。
【0240】
レプリカーゼコンストラクトによりコードされるレプリカーゼは、レプリコンの、アルファウイルスの5’複製認識配列及びアルファウイルスの3’複製認識配列の両方を認識することが可能なアルファウイルスレプリカーゼであることが好ましい。
【0241】
一実施態様では、これは、アルファウイルスの5’複製認識配列及びアルファウイルスの3’複製認識配列が、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然である場合に達成される。天然とは、これらの配列の天然の由来が、同じアルファウイルスであることを意味する。一実施態様では、CSE1、CSE2、及びCSE4は、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然である。
【0242】
代替的実施態様では、5’複製認識配列(並びに/又はCSE1及び/若しくはCSE2)及び/又はアルファウイルスの3’複製認識配列(及び/又はCSE4)は、アルファウイルスレプリカーゼが、レプリコンの5’複製認識配列(並びに/又はCSE1及び/若しくはCSE2)及び3’複製認識配列(及び/又はCSE4)の両方を認識することが可能であるという条件で、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然ではない。言い換えれば、レプリカーゼは、5’複製認識配列(並びに/又はCSE1及び/若しくはCSE2)及び3’複製認識配列(及び/又はCSE4)と適合性である。非天然アルファウイルスレプリカーゼが、それぞれの配列又は配列エレメントを認識することが可能である場合、レプリカーゼを、適合性(ウイルス間適合性)という。当技術分野では、(3’/5’)複製認識配列及びCSEのそれぞれの、異なるアルファウイルスに由来する非天然レプリカーゼとのウイルス間適合性の例が公知である(例えば、Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562により総説されている)。ウイルス間適合性が存在する限りにおいて、(3’/5’)複製認識配列及びCSEのそれぞれの、アルファウイルスレプリカーゼとの任意の組合せが可能である。本発明を実行する当業者は、被験レプリカーゼを、被験3’複製認識配列及び被験5’複製認識配列を有するRNAと共に、RNAの複製に適する条件で、例えば、適切な宿主細胞内でインキュベートすることにより、ウイルス間適合性について、たやすく調べることができる。複製が生じる場合、(3’/5’)複製認識配列とレプリカーゼとは、適合性であると決定される。
【0243】
サブゲノムプロモーター
特定の実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、発現制御配列を含む。典型的な発現制御配列は、プロモーターであるか、又はこれを含む。一実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、サブゲノムプロモーターを含む。好ましくは、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターである。サブゲノムプロモーターのヌクレオチド配列は、アルファウイルス間で高度に保存的である(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。
【0244】
好ましくは、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスの構造タンパク質のためのプロモーターである。これは、サブゲノムプロモーターが、アルファウイルスに対して天然であり、前記アルファウイルス内の、1又は複数の構造タンパク質の遺伝子の転写を制御するプロモーターであることを意味する。
【0245】
サブゲノムプロモーターは、レプリカーゼコンストラクトのレプリカーゼと適合性であることが好ましい。この文脈における適合性とは、アルファウイルスレプリカーゼが、サブゲノムプロモーターを認識することが可能であることを意味する。したがって、レプリカーゼコンストラクトによりコードされるレプリカーゼは、レプリコンのサブゲノムプロモーターを認識することが可能なアルファウイルスレプリカーゼであることが好ましい。
【0246】
一実施態様では、これは、サブゲノムプロモーターが、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然である場合に達成される。天然とは、サブゲノムプロモーターの天然の由来と、レプリカーゼの天然の由来とが、同じアルファウイルであることを意味する。
【0247】
代替的実施態様では、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスレプリカーゼが、レプリコンのサブゲノムプロモーターを認識することが可能であるという条件で、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然ではない。言い換えれば、レプリカーゼは、サブゲノムプロモーターと適合性(ウイルス間適合性)である。ウイルス間適合性が存在する限りにおいて、サブゲノムプロモーターとレプリカーゼとの任意の組合せが可能である。本発明を実行する当業者は、被験レプリカーゼを、被験サブゲノムプロモーターを有するRNAと共に、サブゲノムプロモーターからのRNA合成に適する条件でインキュベートすることにより、ウイルス間適合性について、たやすく調べることができる。サブゲノム転写物が調製される場合、サブゲノムプロモーターとレプリカーゼとは、適合性であると決定される。ウイルス間適合性の多様な例が公知であり、場合によって、非天然サブゲノムプロモーターはなお、天然のサブゲノムプロモーターより効率的な転写さえももたらす(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562により総説されている)。
【0248】
好ましくは、本発明に従うレプリコンは、アルファウイルスに由来する保存配列エレメント3(CSE3)を含む。CSE3は、サブゲノムRNA効率的な転写に寄与すると考えられる。サブゲノムRNAの転写は、CSE3が存在する場合に、極めて効率的に生じることが公知である。典型的に、CSE3は、約24ヌクレオチドのポリヌクレオチドの連なりである。アルファウイルスゲノムでは、CSE3は、非構造タンパク質のコード配列と、構造タンパク質のコード配列との間の接合領域内に配置される。本発明のトランスレプリコン内では、CSE3は、典型的に、サブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレーム(ORF)の上流(5’側)に存在する。本発明に従うレプリコンが、サブゲノムプロモーターの制御下にある1つのORFを含有する場合、CSE3は、この1つのORFの5’側に配置される。本発明に従うレプリコンが、サブゲノムプロモーターの制御下にある1つを超えるORFを含有する場合、CSE3は、このような各ORFの5’側に配置されうる。一実施態様では、CSE3は、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然である。代替的実施態様では、CSE3は、アルファウイルスレプリカーゼが、レプリコンのCSE3を認識することが可能であるという条件で、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して天然ではない。
【0249】
レプリコンの、任意選択の更なる特色
一実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、3’ポリ(A)配列を含む。アルファウイルスRNAのポリ(A)配列は、ウイルス非構造タンパク質の翻訳効率及びRNAの安定性における役割であって、細胞内mRNAにおけるその役割と類似の役割を果たすことが記載されている(Hardy及びRice, J. Virol., 2005, vol. 79, pp. 4630-4639)。本発明では、ポリ(A)配列が、目的の遺伝子の翻訳の効率、及びレプリコンの安定性において役割を果たすことを想定する。レプリカーゼコンストラクトの3’ポリ(A)配列について、本明細書で開示される実施態様の中で、本発明に従うレプリコンの、3’ポリ(A)配列についての実施態様及び好ましい実施態様を選択することができる。これに加えて、一実施態様では、ポリ(A)配列(本発明に従うレプリコン上に存在する場合)に、アルファウイルスの、保存配列エレメント4(CSE4)を前置させる。CSE4の、最も3’側のヌクレオチドが、ポリ(A)テールの、最も5’側のAヌクレオチドに直に隣接するように、ポリ(A)配列は、CSE4に直に隣接することが好ましい。
【0250】
一実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、5’キャップ(キャップ類似体を含む)を含む。例示のために、図1では、キャップ(又はキャップ類似体)を、Cという文字で記号化する。本発明に従うレプリコンのキャップ(又は類似体)についての態様は、RNAレプリコンの場合には、キャップの存在が必須ではないことを除き、レプリカーゼコンストラクトのキャップ(又は類似体)について、本明細書で記載される態様と同一である。したがって、代替的実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、キャップを含まない。この実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、遊離5’OH末端、又は任意の適切な5’修飾を含みうる。図1が、RNAレプリコンが、Cという文字により例示されるキャップを含む代替的実施態様について、概略的に描示するという事実に関わらず、この実施態様も同等に、本発明に含まれる。
【0251】
一実施態様では、本発明に従うレプリコン上に存在する(存在する場合)オープンリーディングフレームのコード配列を適合させる。レプリカーゼコンストラクトのコドン適合化について、本明細書で開示される実施態様の中で、本発明に従うレプリコンの、コドン適合化についての実施態様及び好ましい実施態様を選択することができる。オープンリーディングフレームのコドンは、宿主細胞又は宿主生物における発現に適合させることができる。
【0252】
異種核酸配列
一実施態様では、レプリコンは加えて、ウイルスに由来しない、特に、アルファウイルスに由来しない、少なくとも1つの核酸配列も含む。好ましい実施態様では、本発明によると、RNAレプリコンは、異種核酸配列を含む。本発明によると、「異種」という用語は、核酸配列が、天然では、アルファウイルスの発現制御配列、特に、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターなど、アルファウイルスの核酸配列へと、機能的に連結されていない状況を指す。異種核酸配列は、レプリコンの核酸配列に含まれる。
【0253】
好ましくは、異種核酸配列は、サブゲノムプロモーター、好ましくは、アルファウイルスのサブゲノムプロモーターの制御下にある。より好ましくは、異種核酸配列は、サブゲノムプロモーターの下流に配置される。アルファウイルスのサブゲノムプロモーターは、極めて効率的であり、したがって、高レベルでの、異種遺伝子の発現に適する(Jose等, Future Microbiol., 2009, vol. 4, pp. 837-856)。好ましくは、サブゲノムプロモーターは、異種核酸配列又はその一部の転写物を含む、サブゲノムRNAの産生を制御する。
【0254】
好ましくは、サブゲノムプロモーターは、アルファウイルスの構造タンパク質のためのプロモーターである。これは、サブゲノムプロモーターが、アルファウイルスに対して天然であり、前記アルファウイルス内の、1又は複数の構造タンパク質のコード配列の転写を制御するプロモーターであることを意味する。本発明によると、異種核酸配列は、アルファウイルスの構造タンパク質をコードする核酸配列などのウイルス性核酸配列を、部分的又は完全に置き換えうる。好ましくは、異種核酸配列は、アルファウイルスに由来せず、特に、異種核酸配列は、サブゲノムプロモーターが由来するアルファウイルスと同じアルファウイルスに由来しないことが好ましい。一実施態様では、レプリコンは、CSE3を含み、異種核酸配列は、CSE3に対して異種である。
【0255】
目的のタンパク質
一実施態様では、本発明に従うRNAレプリコンは、目的のペプチド又は目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。好ましくは、目的のタンパク質は、異種核酸によりコードされる。好ましくは、目的のタンパク質(すなわち、目的の遺伝子)をコードする遺伝子は、発現制御配列と共に存在する。好ましくは、目的の遺伝子は、プロモーターの制御下、好ましくは、本明細書で記載されるサブゲノムプロモーターの制御下にある。より好ましくは、目的の遺伝子を、サブゲノムプロモーターの下流に配置する。
【0256】
目的のタンパク質をコードする遺伝子は、「目的の遺伝子」又は「トランス遺伝子」と同義に称される。トランス遺伝子は、好ましくは、サブゲノムプロモーターの制御下にある、本発明に従うレプリコン上に存在し、したがって、その配置は、アルファウイルス内の構造遺伝子の配置に相似する。好ましくは、サブゲノムプロモーターの下流の位置は、サブゲノム転写物が、目的の遺伝子の転写物を含むような位置である。好ましくは、目的の遺伝子は、開始コドン(塩基トリプレット)、典型的に、AUG(RNA分子内の)又はATG(それぞれのDNA分子内の)を含むオープンリーディングフレームを含む。
【0257】
好ましくは、本発明に従うレプリコンRNAが、少なくとも1つのオープンリーディングフレーム(タンパク質コード領域)を含む場合、レプリコンは、mRNA分子である。
【0258】
本発明に従うレプリコンは、単一のポリペプチドをコードする場合もあり、複数のポリペプチドをコードする場合もある。複数のポリペプチドは、単一のポリペプチド(融合ポリペプチド)としてコードされる場合もあり、個別のポリペプチドとしてコードされる場合もある。ポリペプチドが、個別のポリペプチドによりコードされる場合、これらのうちの1又は複数は、上流のIRES又は更なるウイルスプロモーターエレメントと共にもたらされる。代替的に、本発明に従うレプリコンは、それらの各々がサブゲノムプロモーターの制御下にある、1つを超えるオープンリーディングフレームを含みうる。このような複数のORFレプリコンが、真核細胞内に配置されれば、各々が、それ自身のサブゲノムプロモーターにより開始される、複数のサブゲノム転写物が調製されるであろう(Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。代替的に、ポリタンパク質又は融合ポリペプチドは、自己触媒性プロテアーゼ(例えば、口蹄疫ウイルス2Aタンパク質)、又はインテインにより隔てられた、個別のポリペプチドを含む。
【0259】
好ましくは、目的のタンパク質をコードするオープンリーディングフレームは、レプリカーゼが由来するアルファウイルスに対して非天然である。好ましくは、サブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームは、アルファウイルスタンパク質をコードしない。好ましい実施態様では、サブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームは、全長アルファウイルス非構造タンパク質(nsP)若しくはその断片をコードせず、且つ/又は、全長アルファウイルスの構造タンパク質(sP)若しくはその断片をコードしない。好ましくは、目的のタンパク質をコードするサブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームは、アルファウイルスの構造タンパク質をコードしない。一実施態様では、本発明のシステムは、1又は複数のアルファウイルスの構造タンパク質をコードする核酸配列を含まない。一実施態様では、システムは、いずれかのコアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、及び/又はエンベロープタンパク質E1をコードする核酸配列を含まない。
【0260】
本発明のシステムが、アルファウイルスの構造タンパク質をコードするヘルパーウイルスの存在又は投与を必要としないことは、本発明のシステムの利点である。これは、構造タンパク質のORFを欠くレプリコンベクターを、ウイルス粒子へとパッケージングすることが可能なトランス複製システムであって、構造タンパク質を、トランスで、ヘルパーRNAから発現させなければならない、トランス複製システムについて記載する先行技術(例えば、Bredenbeek等, J. Virol, 1993, vol. 67, pp. 6439-6446)と比較した利点である。アルファウイルスの構造タンパク質をコードする、これらのヘルパーRNAの複製は、典型的に、抗原をコードするレプリコンRNAから発現するレプリカーゼに依存する。ヘルパーRNA自体は、機能的なレプリカーゼを欠き、複製に必要とされる保存的RNA配列エレメントだけを含有する(Smerdou及びLiljestroem, 1999, J. Virol., vol. 73, pp. 1092-1098、Ehrengruber及びLundstrom, 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 96, pp. 7041-7046)。しかし、アルファウイルスの構造タンパク質をコードする、このようなヘルパーRNAは、本発明の成功を達成するのに必要とされない。したがって、本発明の核酸分子は、アルファウイルスの構造タンパク質をコードしないことが好ましい。
【0261】
一実施態様では、オープンリーディングフレームは、レポータータンパク質をコードする。この実施態様では、オープンリーディングフレームは、レポーター遺伝子を含む。ある特定の遺伝子は、それらを発現させる細胞又は生物に付与する特徴が、たやすく同定及び測定しうるか、又は選択用マーカーであるため、レポーターとして選び出すことができる。レポーター遺伝子は、ある特定の遺伝子が、細胞内又は生物集団内に取り込まれているか、又はこれらにおいて発現しているのかどうかについての指標として使用されることが多い。好ましくは、レポーター遺伝子の発現産物は、目視により検出可能である。目視により検出可能な、一般的なレポータータンパク質は、典型的に、蛍光タンパク質の又は発光タンパク質を有する。具体的なレポーター遺伝子の例は、それを発現させる細胞を、青色光下で緑色に発光させる、クラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子、ルシフェリンとの反応を触媒して光をもたらす酵素であるルシフェラーゼ、及び赤色蛍光タンパク質(RFP)を含む。変異体が、目視により検出可能な特性を有する限りにおいて、これらの特異的レポーター遺伝子のうちのいずれかの変異体も可能である。例えば、eGFPは、GFPの点突然変異体である。レポータータンパク質の実施態様は、本発明のトランス複製システムにより媒介される発現について、in vitro及びin vivoで調べるのに特に適する(例えば、実施例2及び4を参照されたい)。例えば、いずれの場合(シス複製システム及びトランス複製システムのそれぞれ)にも、レポータータンパク質の存在は、レポータータンパク質をコードする核酸配列を含むサブゲノム転写物の調製を前提とする。一方、細胞内のサブゲノム転写物の産生は、レプリカーゼコンストラクトが、この細胞内に存在し、レプリカーゼ遺伝子が、発現することを前提とする。
【0262】
代替的実施態様では、オープンリーディングフレームは、レポータータンパク質をコードしない。例えば、例えば、実施例6で示す通り、本発明のシステムを、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質を、ヒト対象又は動物対象へと導入するためにデザインする場合、蛍光レポータータンパク質は、コードされない可能性がある。例えば、薬学的に活性のタンパク質は、サブゲノムプロモーターの制御下にあるオープンリーディングフレームによりコードされるタンパク質だけでありうる。
【0263】
本発明によると、一実施態様では、レプリコンのRNAは、薬学的に活性のRNAを含むか、又はこれからなる。「薬学的に活性のRNA」とは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードするRNAでありうる。好ましくは、本発明に従うRNAレプリコンは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードする。好ましくは、オープンリーディングフレームは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードする。好ましくは、RNAレプリコンは、好ましくは、サブゲノムプロモーターの制御下にある、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む。
【0264】
「薬学的に活性のペプチド又はタンパク質」は、対象へと、治療有効量で投与されると、対象の状態(condition)又は疾患状態(disease state)に対して、肯定的であるか又は有利な効果を及ぼす。好ましくは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、治癒特性又は緩和特性を有し、疾患又は障害の、1又は複数の症状を改善するか、抑制するか、和らげるか、好転させるか、これらの発症を遅延させるか、これらの重症度を軽減するように投与することができる。薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、予防特性を有する場合もあり、疾患の発症を遅延させるか、又はこのような疾患若しくは病理学的状態の重症度を軽減するのに使用することができる。「薬学的に活性のペプチド又はタンパク質」という用語は、全タンパク質又は全ポリペプチドを含み、また、これらの薬学的に活性の断片を指す場合もある。「薬学的に活性のペプチド又はタンパク質」という用語はまた、ペプチド又はタンパク質の、薬学的に活性の類似体も含みうる。「薬学的に活性のペプチド又はタンパク質」という用語は、抗原であるペプチド及びタンパク質を含む、すなわち、ペプチド又はタンパク質は、対象において、治療的な場合もあり、部分的又は完全に保護的な場合もある、免疫応答を誘発する。薬学的に活性のペプチド又はタンパク質はまた、治療用ペプチド又は治療用タンパク質とも称しうる。
【0265】
一実施態様では、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、免疫学的に活性の化合物又は抗原又はエピトープであるか、又はこれを含む。
【0266】
本発明によると、「免疫学的に活性の化合物」という用語は、好ましくは、免疫細胞の成熟を誘導及び/若しくは抑制すること、サイトカインの生合成を誘導及び/若しくは抑制すること、並びに/又はB細胞による抗体産生を刺激することにより、体液性免疫を変更することにより、免疫応答を変更する、任意の化合物に関する。一実施態様では、免疫応答は、抗体応答(通例、免疫グロブリンG(IgG)を含む)の刺激を伴う。免疫学的に活性の化合物は、抗ウイルス活性及び抗腫瘍活性を含むがこれらに限定されない、強力な免疫刺激活性を有するが、また、例えば、TH免疫応答からの、免疫応答のシフティングであって、広範にわたるTH媒介性疾患を治療するのに有用であるシフティングにより、免疫応答の他の側面も下方調節しうる。
【0267】
本発明によると、「抗原」又は「免疫原」という用語は、免疫応答を誘発する任意の物質を対象とする。特に、「抗原」とは、抗体又はTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質に関する。本発明によると、「抗原」という用語は、少なくとも1つのエピトープを含む任意の分子を含む。好ましくは、本発明の文脈における抗原とは、任意選択で、プロセシングの後、免疫反応を誘導し、好ましくは、抗原に対して特異的な分子である。本発明によると、免疫反応のための候補物質であって、免疫反応が、体液性免疫反応並びに細胞性免疫反応のいずれでもありうる候補物質である、任意の適切な抗原を使用することができる。本発明の実施態様の文脈では、抗原は、細胞、好ましくは、抗原に対する免疫反応を結果としてもたらすMHC分子の文脈では、抗原提示細胞により、好ましくは、提示される。抗原は、好ましくは、天然にある抗原に対応するか、又はこれらに由来する産物である。このような天然にある抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物、及び他の感染作用物質を含みうるか、又はこれらに由来することが可能であり、病原体又は抗原はまた、腫瘍抗原でもありうる。本発明によると、抗原は、天然にある産物、例えば、ウイルスタンパク質又はその一部に対応しうる。好ましい実施態様では、抗原は、表面ポリペプチド、すなわち、天然で、細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍の表面上に提示されたポリペプチドである。抗原は、細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を誘発しうる。
【0268】
「病原体」という用語は、生物、好ましくは、脊椎生物において疾患を引き起こすことが可能な、病原性の生物学的物質を指す。病原体は、細菌、単細胞性真核生物(原虫)、真菌のほか、ウイルスなどの微生物を含む。
【0269】
本明細書では、「エピトープ」、「抗原ペプチド」、「抗原エピトープ」、「免疫原性ペプチド」、及び「MHC結合性ペプチド」という用語は、互換的に使用され、抗原など、分子内の抗原決定基、すなわち、特に、MHC分子の文脈で提示されると、免疫系により認識される、免疫学的に活性の化合物、例えば、T細胞により認識される、免疫学的に活性の化合物中の部分又はその断片を指す。タンパク質のエピトープは、好ましくは、前記タンパク質の連続的部分又は非連続的部分を含み、好ましくは、5から100アミノ酸の間、好ましくは、5から50アミノ酸の間、より好ましくは、8から30アミノ酸の間、最も好ましくは、10から25アミノ酸の間の長さであり、例えば、エピトープは、好ましくは、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25アミノ酸の長さでありうる。本発明によると、エピトープは、細胞の表面上のMHC分子などのMHC分子に結合することが可能であり、したがって、「MHC結合性ペプチド」又は「抗原ペプチド」でありうる。「主要組織適合性複合体」という用語及び「MHC」という略号は、MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子を含み、全ての脊椎動物において存在する、遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質又はMHC分子は、免疫反応における、リンパ球及び抗原提示細胞又は罹患細胞の間のシグナル伝達に重要であり、この場合、MHCタンパク質又はMHC分子は、ペプチドに結合し、それらを、T細胞受容体による認識のために提示する。MHCによりコードされるタンパク質は、細胞の表面上に発現し、自己抗原(細胞自体に由来するペプチド断片)及び非自己抗原(例えば、侵襲する微生物の断片)の両方を、T細胞へと提示する。好ましいこのような免疫原性部分は、MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子に結合する。本明細書で使用される免疫原性部分は、このような結合性が、当技術分野で公知の任意のアッセイを使用して検出可能である場合、MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子「に結合する」という。「MHC結合性ペプチド」という用語は、MHCクラスI分子及び/又はMHCクラスII分子に結合するペプチドに関する。クラスIのMHC/ペプチド複合体の場合、結合性ペプチドは、典型的に、8-10アミノ酸長であるが、より長いペプチド又はより短いペプチドも効果的でありうる。クラスIIのMHC/ペプチド複合体の場合、結合性ペプチドは、典型的に、10-25アミノ酸長であり、特に、13-18アミノ酸長であるが、この場合、より長いペプチド及びより短いペプチドも効果的でありうる。
【0270】
一実施態様では、本発明に従う目的のタンパク質は、標的生物へのワクチン接種に適するエピトープを含む。当業者には、免疫生物学及びワクチン接種の原理の1つが、疾患に対する免疫防御反応は、治療される疾患に関して、免疫学的に関連する抗原で、生物を免疫化することによりもたらされるという事実に基づくことが公知であろう。本発明によると、抗原は、自己抗原及び非自己抗原を含む群から選択される。非自己抗原は、好ましくは、細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、アレルゲン、又は寄生生物抗原である。抗原は、標的生物において、免疫応答を誘発することが可能であるエピトープを含むことが好ましい。例えば、エピトープは、細菌、ウイルス、真菌、寄生生物、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を誘発しうる。
【0271】
一部の実施態様では、非自己抗原は、細菌抗原である。一部の実施態様では、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染する細菌に対する免疫応答を誘発する。好ましくは、それに対する免疫応答が誘発される細菌は、病原性細菌である。
【0272】
一部の実施態様では、非自己抗原は、ウイルス抗原である。ウイルス抗原は、例えば、ウイルス表面タンパク質、例えば、カプシドポリペプチド又はスパイクポリペプチドに由来するペプチドでありうる。一部の実施態様では、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染するウイルスに対する免疫応答を誘発する。それに対する免疫応答が誘発されるウイルスは、病原性ウイルスである。
【0273】
一部の実施態様では、非自己抗原は、真菌に由来するポリペプチド又はタンパク質である。一部の実施態様では、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜を含む哺乳動物を含む動物に感染する真菌に対する免疫応答を誘発する。それに対する免疫応答が誘発される真菌は、病原性真菌である。
【0274】
一部の実施態様では、非自己抗原は、単細胞性の真核寄生生物に由来するポリペプチド又はタンパク質である。一部の実施態様では、抗原は、単細胞性の真核免疫応答寄生生物、好ましくは、病原性の単細胞性真核寄生生物に対する免疫応答を誘発する。病原性の単細胞性真核寄生生物は、例えば、マラリア原虫(Plasmodium)属、例えば、熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)、三日熱マラリア原虫(P.vivax)、四日熱マラリア原虫(P.malariae)、若しくは卵形マラリア原虫(P.ovale)、リーシュマニア(Leishmania)属、又はトリパノソーマ(Trypanosoma)属、例えば、クルーズトリパノソーマ(T.cruzi)若しくはブルーストリパノソーマ(T.brucei)に由来しうる。
【0275】
一部の実施態様では、非自己抗原は、アレルゲン性ポリペプチド又はアレルゲン性タンパク質である。アレルゲン性タンパク質又はアレルゲン性ポリペプチドは、減感作としてもまた公知の、アレルゲン免疫療法に適する。
【0276】
一部の実施態様では、抗原は、自己抗原、特に、腫瘍抗原である。当業者には、腫瘍抗原及びそれらの決定が公知である。
【0277】
本発明の文脈では、「腫瘍抗原」又は「腫瘍関連抗原」という用語は、正常条件下の、限定数の組織及び/若しくは器官又は特異的発生段階において特異的に発現するタンパク質に関し、例えば、腫瘍抗原は、正常条件下の、胃(stomach)組織、好ましくは、胃(gastric)粘膜、生殖器官、例えば、精巣、栄養膜組織、例えば、胎盤、又は生殖細胞系列細胞において、特異的に発現する場合があり、1又は複数の腫瘍組織内又は癌組織内で、発現又は異常に発現する。この文脈では、「限定数」とは、好ましくは、3を超えない、より好ましくは、2を超えない数を意味する。本発明の文脈における腫瘍抗原は、例えば、分化抗原、好ましくは、細胞型特異的分化抗原、すなわち、正常条件下の、ある特定の分化段階にある、ある特定の細胞型において、特異的に発現するタンパク質、癌/精巣抗原、すなわち、正常条件下の、精巣内と、場合によって、胎盤内とで特異的に発現するタンパク質、生殖細胞系列特異的抗原を含む。本発明の文脈では、腫瘍抗原は、好ましくは、癌細胞の細胞表面に付随し、好ましくは、正常組織内では発現しないか、又はまれにしか発現しない。好ましくは、腫瘍抗原又は腫瘍抗原の異常な発現は、癌細胞を同定する。本発明の文脈では、対象、例えば、癌疾患を患う患者における癌細胞が発現する腫瘍抗原は、好ましくは、前記対象における自己タンパク質である。好ましい実施態様では、本発明の文脈における腫瘍抗原は、正常条件下の、非必須の組織内若しくは器官内、すなわち、免疫系により損傷しても、対象の死をもたらさない組織内若しくは器官内で、又は免疫系がアクセスしないか、若しくはほとんどアクセスしない器官内若しくは身体構造内で特異的に発現する。好ましくは、腫瘍抗原のアミノ酸配列は、正常組織内で発現する腫瘍抗原と、癌組織内で発現する腫瘍抗原との間で同一である。
【0278】
本発明において有用でありうる腫瘍抗原の例は、p53、ART-4、BAGE、ベータ-カテニン/m、Bcr-abL CAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、CLAUDIN-6、CLAUDIN-18.2、及びCLAUDIN-12など、claudinファミリーの細胞表面タンパク質、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(又はhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、又はMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/Melan-A、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、-2、-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190 minor BCR-abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1又はRU2、SAGE、SART-1又はSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、SURVIVIN、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTE、及びWTである。特に好ましい腫瘍抗原は、CLAUDIN-18.2(CLDN18.2)及びCLAUDIN-6(CLDN6)を含む。
【0279】
一部の実施態様では、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質が、免疫応答を誘発する抗原であることを必要とされない。適切な薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、免疫学的に活性の化合物(例えば、インターロイキン、コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、インテグリン、アドレッシン、セレクチン、ホーミング受容体、T細胞受容体、免疫グロブリン)など、サイトカイン及び免疫系タンパク質、ホルモン(インスリン、甲状腺ホルモン、カテコールアミン、ゴナドトロピン、栄養ホルモン、プロラクチン、オキシトシン、ドーパミン、ウシソマトトロフィン、レプチンなど)、成長ホルモン(例えば、ヒト成長ホルモン)、増殖因子(例えば、表皮増殖因子、神経増殖因子、インスリン様増殖因子など)、増殖因子受容体、酵素(組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、コレステロール生合成酵素又はコレステロール分解酵素、ステロイド産生酵素、キナーゼ、ホスホジエステラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、デヒドロゲナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼ、アロマターゼ、チトクローム、アデニル酸シクラーゼ又はグアニル酸シクラーゼ、ノイラミニダーゼなど)、受容体(ステロイドホルモン受容体、ペプチド受容体)、結合性タンパク質(成長ホルモン結合性タンパク質又は増殖因子結合性タンパク質など)、転写因子及び翻訳因子、腫瘍増殖抑制タンパク質(例えば、血管新生を阻害するタンパク質)、構造タンパク質(など、コラーゲン、フィブロイン、フィブリノーゲン、エラスチン、チューブリン、アクチン、及びミオシン)、血液タンパク質(トロンビン、血清アルブミン、因子VII、因子VIII、インスリン、因子IX、因子X、組織プラスミノーゲンアクチベーター、プロテインC、フォンウィレブランド因子、抗トロンビンIII、グルコセレブロシダーゼ、エリスロポエチン顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、又は修飾因子VIII、抗凝固因子など)からなる群から選択することができる。一実施態様では、本発明に従う、薬学的に活性のタンパク質は、リンパ系のホメオスタシスの調節に関与するサイトカイン、好ましくは、T細胞の発生、プライミング、拡大、分化及び/又は生存に関与し、好ましくは、これらを誘導又は増強するサイトカインである。一実施態様では、サイトカインは、インターロイキン、例えば、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、又はIL-21である。
【0280】
本発明のシステムの多用途性
本発明のシステムの利点は、2つの個別のRNA分子上の、鍵となる遺伝情報の、核内の転写及び存在への非依存性であって、かつてないデザインの自由度をもたらす非依存性を含む。互いと組合せ可能な、その多用途性エレメントを念頭に、本発明は、レプリカーゼの発現を、所望のRNA増幅レベル、所望の標的生物、目的のタンパク質の所望の産生レベルなどに最適化することを可能とする。トランスでレプリカーゼにより複製することができるレプリコンは、独立にデザインすることができる。
【0281】
本明細書では、本開示に基づき、例えば、以下のエレメント:レプリカーゼコンストラクトのキャッピング(特に、特異的キャップの選出し)、レプリカーゼコンストラクトの5’-UTR、レプリカーゼをコードするORFのコード配列(コドン最適化)、レプリカーゼコンストラクトの3’-UTR、レプリカーゼコンストラクトのポリ(A)テール、5’-UTRのレプリコン(レプリコンが、アルファウイルスレプリカーゼの5’複製認識配列を含む限りにおいて)、サブゲノムプロモーター配列、レプリコンから生成するサブゲノム転写物の5’-UTR、目的の遺伝子をコードするORFのコード配列(コドン最適化)、レプリコン及び/又はレプリコンから生成するサブゲノム転写物の3’-UTR(レプリコンが、アルファウイルスレプリカーゼの3’複製認識配列を含む限りにおいて)、レプリコン及び/又はレプリコンから生成するサブゲノム転写物のポリ(A)テールを、個別に選び出し、デザインし、且つ/又は適合させることができる。
【0282】
これに加えて、本発明は、所与の任意の細胞型(休眠細胞又は周期細胞)に最適量のレプリコン及びレプリカーゼコンストラクトを、in vitro又はin vivoにおいて、共トランスフェクトすることも可能とする。
【0283】
本発明の実施態様の安全性の特色
本発明では、単独で、又は任意の適する組合せにおける、以下の特色が好ましい。
【0284】
好ましくは、本発明のシステムは、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、及び/又はエンベロープタンパク質E1など、任意のアルファウイルスの構造タンパク質を含まない。
【0285】
好ましくは、本発明のシステムは、粒子形成システムではない。これは、本発明のシステムによる宿主細胞の接種の後、宿主細胞が、次世代ウイルス粒子などのウイルス粒子を産生するわけではないことを意味する。一実施態様では、システムは、コアヌクレオカプシドタンパク質C、エンベロープタンパク質P62、及び/又はエンベロープタンパク質E1など、任意のアルファウイルスの構造タンパク質をコードする遺伝情報を全く含まない。本発明のこの態様は、安全性の点で、構造タンパク質がトランス複製ヘルパーRNA上でコードされる先行技術システム(例えば、Bredenbeek等, J. Virol, 1993, vol. 67, pp. 6439-6446)を上回る付加価値を提供する。
【0286】
好ましくは、レプリコンも、レプリカーゼコンストラクトも、それ自身の複製、すなわち、シス複製を駆動することが可能ではない。一実施態様では、レプリコンは、機能的なアルファウイルスレプリカーゼをコードしない。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、(+)鎖鋳型に基づく(-)鎖合成、及び/又は(-)鎖鋳型に基づく(+)鎖合成に必要とされる、少なくとも1つの配列エレメント(好ましくは、少なくとも1つのCSE)を欠く。一実施態様では、レプリカーゼコンストラクトは、CSE1及び/又はCSE4を含まない。
【0287】
好ましくは、本発明に従うレプリコンも、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトも、アルファウイルスパッケージングシグナルを含まない。例えば、SFVのnsP2のコード領域内に含まれるアルファウイルスパッケージングシグナル(White等, 1998, J. Virol., vol. 72, pp. 4320-4326)は、例えば、欠失又は突然変異により除去することができる。アルファウイルスパッケージングシグナルを除去する適切な方式は、nsP2のコード領域のコドン使用の適合化を含む。遺伝子コードの縮重は、コードされるnsP2のアミノ酸配列に影響を及ぼさずに、パッケージングシグナルの機能を欠失させることを可能としうる。
【0288】
一実施態様では、本発明のシステムは、孤立システムである。この実施態様では、システムは、哺乳動物細胞の内部など、細胞の内部に存在しないか、又は、アルファウイルスの構造タンパク質を含むコートの内部など、ウイルスカプシドの内部に存在しない。一実施態様では、本発明のシステムは、in vitroにおいて存在する。
【0289】
インターフェロン(IFN)シグナル伝達の阻害
RNAを発現させるために導入した細胞の生存率は、特に、細胞に、RNAを、複数回にわたりトランスフェクトした場合、低減されることが報告されている。解決策として、IFN阻害剤との共トランスフェクションは、RNAを発現させる細胞の生存率を増強することが見出された(国際公開第2014/071963A1号)。本発明では、国際公開第2014/071963A1号において記載されている、細胞内IFNシグナル伝達又は細胞外IFNシグナル伝達の任意の阻害剤が適する。好ましくは、阻害剤は、I型IFNシグナル伝達の阻害剤である。
【0290】
本発明の一実施態様では、本発明のシステムは、翻訳を増強する、特に、翻訳に対する負の影響を阻害するようにデザインすることができる。これは、細胞内インターフェロン(IFN)シグナル伝達を阻害し、細胞外IFNによる、IFN受容体への会合を防止することを含みうる。細胞外IFNによる、IFN受容体への会合を防止し、細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、細胞内のRNAの安定的発現を可能とする。代替的に、又は加えて、特に、細胞に、繰り返し、RNAをトランスフェクトする場合、細胞外IFNによる、IFN受容体への会合を防止し、細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、細胞の生存を増強する。理論に束縛されることを望まずに述べると、細胞内IFNシグナル伝達は、翻訳の阻害及び/又はRNAの分解を結果としてもたらしうることが想定される。これは、1又は複数のIFN誘導性抗ウイルス活性エフェクタータンパク質を阻害することにより対処することができる。IFN誘導性抗ウイルス活性エフェクタータンパク質は、RNA依存性タンパク質キナーゼ(PKR)、2’,5’-オリゴアデニル酸シンセターゼ(OAS)、及びRNアーゼLからなる群から選択することができる。細胞内IFNシグナル伝達を阻害することは、PKR依存性経路及び/又はOAS依存性経路を阻害することを含みうる。PKR依存性経路を阻害することは、eIF2-アルファのリン酸化を阻害することを含みうる。PKRを阻害することは、細胞を、少なくとも1つのPKR阻害剤で治療することを含みうる。PKR阻害剤は、ウイルス性のPKR阻害剤でありうる。好ましいウイルス性のPKR阻害剤は、ワクシニアウイルスE3である。ペプチド又はタンパク質(例えば、E3、K3)により、細胞内IFNシグナル伝達を阻害する場合、ペプチド又はタンパク質の細胞内発現が好ましい。
【0291】
ワクシニアウイルスE3は、dsRNAに結合し、これを隔離して、PKR及びOASの活性化を防止する、25kDaのdsRNA結合性タンパク質(E3L遺伝子によりコードされる)である。E3は、PKRに直接結合し、その活性を阻害する結果として、eIF2-アルファのリン酸化の低減をもたらす。IFNシグナル伝達の、他の適切な阻害剤は、単純ヘルペスウイルスICP34.5、トスカーナウイルスNS、カイコ(Bombyx mori)核多角病ウイルスPK2、及びHCV NS34Aである。
【0292】
細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤は、細胞へと、細胞内IFNシグナル伝達の阻害剤をコードする核酸配列(例えば、RNA)の形態で施すことができる。
【0293】
一実施態様では、細胞内IFNシグナル伝達又は細胞外IFNシグナル伝達の阻害剤は、mRNA分子によりコードされる。このmRNA分子は、本明細書で記載される、ポリペプチド配列非修飾型修飾、例えば、キャップ、5’-UTR、3’-UTR、ポリ(A)配列、コドン使用の適合化を含みうる。
【0294】
代替的実施態様では、細胞内IFNシグナル伝達又は細胞外IFNシグナル伝達の阻害剤は、レプリコン、好ましくは、トランスレプリコンによりコードされる。レプリコンは、アルファウイルスレプリカーゼ、典型的に、CSE1、CSE2、及びCSE4による複製を可能とする核酸配列エレメントを含み、好ましくは、また、サブゲノム転写物、すなわち、CSE3を典型的に含む、サブゲノムプロモーターの作製を可能とする核酸配列エレメントも含む。レプリコンは、加えて、1又は複数の本明細書で記載される、ポリペプチド配列非修飾型修飾、例えば、キャップ、ポリ(A)配列、コドン使用の適合化を含みうる。
【0295】
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト
第2の態様では、本発明は、レプリカーゼによる翻訳を駆動するための5’キャップを含む、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト(レプリカーゼコンストラクト)を提供する。第2の態様では、本発明に従うアルファウイルスレプリコンが存在しないことが可能である。言い換えれば、本発明の第2の態様では、本明細書で記載される、本発明のレプリカーゼコンストラクトを、本発明のレプリコンから独立に提供しうる。第2の態様では、レプリカーゼコンストラクトは、本発明の第1の態様のレプリカーゼコンストラクトのうちの、任意の1又は複数特色を独立に特徴としうる。一実施態様では、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトは、単離核酸分子である。これは、他の核酸分子から隔絶された、すなわち、これらを本質的に含まない実施態様を含む。
【0296】
第2の態様に従うRNAコンストラクトは、例えば、システム又はキットの形態における、適切なレプリコンの組合せに適する。
【0297】
本発明に従うDNA
第3の態様では、本発明は、本発明の第1の態様に従う、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト(レプリカーゼコンストラクト)、本発明の第1の態様に従うRNAレプリコン、又はこれらの両方をコードする核酸配列を含むDNAを提供する。
【0298】
一実施態様では、本発明に従うDNA分子は、本発明の第1の態様に従うシステムのレプリコン及びレプリカーゼコンストラクトをコードする。代替的実施態様では、第1のDNA分子は、本発明の第1の態様に従うシステムの、1つのRNAエレメント(レプリコン又はレプリカーゼコンストラクト)をコードし、第2のDNA分子は、本発明に従うシステムの、他のそれぞれのRNAエレメントをコードする。
【0299】
好ましくは、DNAは、二本鎖である。
【0300】
好ましい実施態様では、本発明に従うDNAの第3の態様は、プラスミドである。本明細書で使用される「プラスミド」という用語は、一般に、通例、染色体DNAとは独立に複製しうる、環状のDNA二重鎖である、染色体外の遺伝子素材のコンストラクトに関する。
【0301】
本発明のDNAは、DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されうるプロモーターを含みうる。これは、in vivo又はin vitroにおいてコードされるRNA、例えば、本発明のRNAの転写を可能とする。IVTベクターを、in vitro転写のための鋳型として、標準化された形で使用することができる。本発明に従う好ましいプロモーターの例は、SP6ポリメラーゼ、T3ポリメラーゼ、又はT7ポリメラーゼのためのプロモーターである。
【0302】
一実施態様では、本発明のDNAは、単離核酸分子である。
【0303】
RNAを調製する方法
本発明によると、任意のRNA分子は、本発明のシステムの一部であろうと、そうでなかろうと、in vitro転写により得られうる。本発明では、in vitro転写RNA(IVT-RNA)は、特に、関心の対象である。IVT-RNAは、核酸分子(特に、DNA分子)からの転写により得られる。本発明の第3の態様のDNA分子は、特に、DNA依存性RNAポリメラーゼにより認識されうるプロモーターを含む場合に、このような目的に適する。
【0304】
本発明に従うRNAは、in vitroにおいて合成することができる。これは、in vitro転写反応物へとキャップ類似体を添加することを可能とする。典型的に、ポリ(A)テールは、DNA鋳型上のポリ(dT)配列によりコードされる。代替的に、キャッピング及びポリ(A)テール付加は、転写後に。酵素的に達成することができる。
【0305】
当業者には、in vitro転写法が公知である。例えば、国際公開第2011/015347A1号で言及されている通り、様々なin vitro転写キットが市販されている。
【0306】
キット
本発明はまた、本発明の第1の態様に従うシステム、又は本発明の第2の態様に従う、アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトを含むキットも提供する。
【0307】
一実施態様では、キットの構成要素は、個別の実体として存在する。例えば、キットの1つの核酸分子は、1つの実体内に存在することが可能であり、キットの別の核酸は、別個の実体内に存在しうる。例えば、開放容器又は閉止容器は、適切な実体である。閉止容器が好ましい。使用される容器は、好ましくは、RNアーゼ非含有又は本質的にRNアーゼ非含有であるものとする。
【0308】
一実施態様では、本発明のキットは、細胞への接種及び/又はヒト対象又は動物対象への投与のためのRNAを含む。
【0309】
本発明に従うキットは、任意選択で、表示又は情報要素の他の形態、例えば、電子的データ担体を含む。表示又は情報要素は、指示書、例えば、印刷された書面の指示書、又は、任意選択で、印刷可能な、電子形態の指示書を含む。指示書は、少なくとも1つの、適切で可能なキットの使用を指す場合がある。
【0310】
薬学的組成物
本明細書で記載されるアルファウイルスレプリカーゼ及び/又はレプリコンを発現させるためのコンストラクトは、薬学的組成物の形態で存在しうる。本発明に従う薬学的組成物は、本発明に従う、少なくとも1つの核酸分子、好ましくは、RNAを含みうる。本発明に従う薬学的組成物は、薬学的に許容される希釈剤及び/又は薬学的に許容される賦形剤及び/又は薬学的に許容される担体及び/又は薬学的に許容される媒体を含む。薬学的に許容される担体、媒体、賦形剤、又は希釈剤の選出しは、特に限定されない。当技術分野で公知の、任意の適適切な、薬学的に許容される担体、媒体、賦形剤、又は希釈剤を使用することができる。
【0311】
本発明の一実施態様では、薬学的組成物は、RNAの完全性を保存することを可能とする、水性溶媒又は任意の溶媒などの溶媒を更に含みうる。好ましい実施態様では、薬学的組成物は、RNAを含む水溶液である。水溶液は、任意選択で、溶質、例えば、塩を含みうる。
【0312】
本発明の一実施態様では、薬学的組成物は、凍結乾燥組成物の形態にある。凍結乾燥組成物は、それぞれの水性組成物を凍結乾燥させることにより得られる。
【0313】
一実施態様では、薬学的組成物は、少なくとも1つのカチオン性実体を含む。一般に、カチオン性脂質、カチオン性ポリマー、及び正の電荷を伴う他の物質は、負に帯電した核酸との複合体を形成しうる。カチオン性化合物、好ましくは、例えば、カチオン性又はポリカチオン性のペプチド又はタンパク質などのポリカチオン性化合物との複合体化により、本発明に従うRNAを安定化させることが可能である。一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、プロタミン、ポリエチレンイミン、ポリ-L-リシン、ポリ-L-アルギニン、ヒストン、又はカチオン性脂質からなる群から選択される、少なくとも1つのカチオン性分子を含む。
【0314】
本発明によると、カチオン性脂質は、カチオン性両親媒性分子、例えば、少なくとも1つの親水性部分及び親油性部分を含む分子である。カチオン性脂質は、モノカチオン性の場合もあり、ポリカチオン性の場合もある。カチオン性脂質典型的に、ステロール鎖、アシル鎖、又はジアシル鎖などの親油性部分を有し、全体的な正味の正電荷を有する。脂質のヘッド基は、典型的に、正の電荷を保有する。カチオン性脂質は、好ましくは、1から10価の正電荷、より好ましくは、1から3価の正電荷を有し、より好ましくは、1価の正電荷を有する。カチオン性脂質の例は、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA);ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB);1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(DOTAP);1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウム-プロパン(DODAP);1,2-ジアシルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;1,2-ジアルキルオキシ-3-ジメチルアンモニウムプロパン;ジオクタデシルジメチル塩化アンモニウム(DODAC)、1,2-ジミリストイルオキシプロピル-1,3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、及び2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウム(propanamium)トリフルオロ酢酸(DOSPA)を含むがこれらに限定されない。カチオン性脂質はまた、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)を含む三級アミン基を伴う脂質も含む。カチオン性脂質は、リポソーム、エマルジョン、及びリポプレックスなど、本明細書で記載される脂質製剤中でRNAを製剤化するのに適する。典型的に、正の電荷は、少なくとも1つのカチオン性脂質による寄与であり、負の電荷は、RNAによる寄与である。一実施態様では、薬学的組成物は、カチオン性脂質に加えて、少なくとも1つのヘルパー脂質を含む。ヘルパー脂質は、中性脂質の場合もあり、アニオン性脂質の場合もある。ヘルパー脂質は、リン脂質など、天然脂質の場合もあり、天然脂質の類似体の場合もあり、完全な合成脂質の場合もあり、天然脂質と類似しない脂質様分子の場合もある。薬学的組成物が、カチオン性脂質及びヘルパー脂質の両方を含む場合、カチオン性脂質の、中性脂質に対するモル比は、製剤の安定性などを念頭に、適切に決定することができる。
【0315】
一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、プロタミンを含む。本発明によると、プロタミンは、カチオン性担体薬剤として有用である。「プロタミン」という用語は、アルギニンに富む、比較的低分子量で、強塩基性の多様なタンパク質のうちのいずれかを指し、とりわけ、魚類など、動物の精子細胞内で、体細胞ヒストンに代わりに、DNAと会合していることが見出される。特に、「プロタミン」という用語は、魚類精子内で見出されるタンパク質、強塩基性、水中で可溶性であり、熱により凝固せず、複数のアルギニン単量体を含むタンパク質を指す。本明細書で使用される、本発明によると、「プロタミン」という用語は、天然供給源又は生物学的供給源から得られるか、又はこれらに由来する任意のプロタミンアミノ酸配列であって、その断片、及び前記アミノ酸配列又はその断片の多量体形態を含むプロタミンアミノ酸配列を含むことを意図する。更に、用語は、人工的であり、特異的目的で特異的にデザインされ、天然供給源又は生物学的供給源からは単離されえない(合成)ポリペプチドを包含する。
【0316】
一部の実施態様では、本発明の組成物は、1又は複数のアジュバントを含みうる。アジュバントを、ワクチンへと添加して、免疫系の応答を刺激しうるが、アジュバントは、典型的に、免疫自体はもたらさない。例示的なアジュバントは、限定せずに述べると、以下:無機化合物(例えば、アラム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、水酸化リン酸カルシウム)、鉱物油(例えば、パラフィン油)、サイトカイン(例えば、IL-1、IL-2、IL-12)、免疫刺激性ポリヌクレオチド(RNA又はDNA、例えば、CpG含有オリゴヌクレオチドなど)、サポニン(例えば、キラヤ(Quillaja)属、ダイズ、セネガ(Polygala senega)に由来する植物サポニン)、油エマルジョン又はリポソーム、ポリオキシエチレンエーテル製剤及びポリオキシエチレンエステル製剤、ポリホスファゼン(PCPP)、ムラミルペプチド、イミダゾキノロン化合物、チオセミカルバゾン化合物、Flt3リガンド(国際公開第2010/066418A1号)、又は当業者に公知の、他の任意のアジュバントを含む。本発明に従うRNAの投与に好ましいアジュバントは、Flt3リガンド(国際公開第2010/066418A1号)である。Flt3リガンドを、抗原をコードするRNAと共に投与すると、抗原特異的CD8T細胞の大幅な増加が観察される。
【0317】
本発明に従う薬学的組成物は、緩衝することができる(例えば、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液で)。
【0318】
RNA含有粒子
一部の実施態様では、非保護RNAの不安定性のために、本発明のRNA分子を、複合体化形態又は封入形態で提供することが有利である。本発明では、それぞれの薬学的組成物が提供される。特に、本発明の一部の実施態様では薬学的組成物は、核酸含有粒子、好ましくは、RNA含有粒子を含む。それぞれの薬学的組成物を、粒子製剤と称する。本発明によると、粒子製剤では、粒子は、本発明に従う核酸と、核酸の送達に適する、薬学的に許容される担体、又は薬学的に許容される媒体とを含む。核酸含有粒子は、例えば、タンパク質性粒子の形態の場合もあり、脂質含有粒子形態の場合もある。適切なタンパク質又は脂質を、粒子形成剤と称する。タンパク質性粒子及び脂質含有粒子は、粒子形態におけるアルファウイルスRNAの送達に適すると、既に記載されている(例えば、Strauss及びStrauss, Microbiol. Rev., 1994, vol. 58, pp. 491-562)。特に、アルファウイルスの構造タンパク質(例えば、ヘルパーウイルスによりもたらされる)は、タンパク質性粒子の形態における、RNAの送達のための、適切な担体である。
【0319】
本発明に従うシステムを、粒子製剤として製剤化する場合、各RNA分子種(例えば、レプリコン、レプリカーゼコンストラクト、及び、IFNを阻害するのに適するタンパク質をコードするRNAなど、任意選択の、更なるRNA分子種)を、個別の粒子製剤として、個別に製剤化することが可能である。この場合、各個別の粒子製剤は、1つのRNA分子種を含むであろう。個別の粒子製剤は、例えば、個別の容器内に、個別の実体として存在しうる。このような製剤は、粒子形成剤と併せた各RNA分子種を、個別に(典型的に、各々、RNA含有溶液の形態で)用意し、これにより、粒子の形成を可能とすることにより得られる。それぞれの粒子は、もっぱら、粒子が形成される場合にもたらされる特異的RNA分子種(個別の粒子製剤)を含有するであろう。
【0320】
一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、1つを超える個別の粒子製剤を含む。それぞれの薬学的組成物を、混合粒子製剤と称する。本発明に従う混合粒子製剤は、上記で記載した、個別の粒子製剤を、個別に形成するのに続き、個別の粒子製剤を混合する工程により得られる。混合工程により、RNA含有粒子の混合集団を含む1つの製剤が得られる(例示のために述べると、例えば、粒子の第1の集団は、本発明に従うレプリコンを含有することが可能であり、粒子の第2の製剤は、本発明に従うレプリカーゼコンストラクトを含有しうる)。個別の粒子状集団は、個別の粒子製剤の混合集団を含む、1つの容器内に共に存在しうる。
【0321】
代替的に、薬学的組成物の全てのRNA分子種(例えば、レプリコン、レプリカーゼコンストラクト、及び、IFNを阻害するのに適するタンパク質をコードするRNAなど、任意選択の、更なる分子種)を、組合せ粒子製剤として、共に製剤化することが可能である。このような製剤は、粒子形成剤と併せた、全てのRNA分子種の組合せ(典型的に、組合せ溶液)を用意し、これにより、粒子の形成を可能とすることにより得られる。混合粒子製剤とは対照的に、組合せ粒子製剤は、典型的に、1つを超えるRNA分子種を含む粒子を含むであろう。組合せ粒子組成物では、異なるRNA分子種は、典型的に、単一粒子内に共に存在する。
【0322】
一実施態様では、本発明の粒子製剤は、ナノ粒子製剤である。この実施態様では、本発明に従う組成物は、ナノ粒子の形態にある、本発明に従う核酸を含む。ナノ粒子製剤は、多様なプロトコールにより、多様な複合体化化合物と共に得ることができる。脂質、ポリマー、オリゴマー、又は両親媒性物質は、ナノ粒子製剤の、典型的な構成要素である。
【0323】
本明細書で使用される「ナノ粒子」という用語は、粒子を、全身投与、特に、非経口投与に適するものとする直径を有する、任意の粒子であって、特に、典型的に、直径を1000ナノメートル(nm)又はこれ未満とする核酸の粒子を指す。一実施態様では、ナノ粒子は、約50nm-約1000nm、好ましくは、約50nm-約400nm、好ましくは、約150nm-約200nmなど、約100nm-約300nmの範囲の平均直径を有する。一実施態様では、ナノ粒子は、約200-約700nm、約200-約600nm、好ましくは、約250-約550nm、特に、約300-約500nm、又は約200-約400nmの範囲の直径を有する。
【0324】
一実施態様では、動的光散乱により測定される、本明細書で記載されるナノ粒子の多分散指数(PI)は、0.5若しくはこれ未満、好ましくは、0.4若しくはこれ未満、又は、なおより好ましくは、0.3若しくはこれ未満である。「多分散指数」(PI)とは、測定値粒子混合物中の個別の粒子(リポソームなど)の、均質又は不均質のサイズ分布であり、混合物中の粒子分布の幅を指し示す。PIは、例えば、国際公開第2013/143555A1号において記載されている通りに決定することができる。
【0325】
本明細書で使用される「ナノ粒子製剤」という用語又は同様の用語は、少なくとも1つのナノ粒子を含有する、任意の粒子製剤を指す。一部の実施態様では、ナノ粒子組成物は、ナノ粒子の一様なコレクションである。一部の実施態様では、ナノ粒子組成物は、リポソーム製剤又はエマルジョンなどの脂質を含有する薬学的製剤である。
【0326】
脂質を含有する薬学的組成物
一実施態様では、本発明の薬学的組成物は、少なくとも1つの脂質を含む。好ましくは、少なくとも1つの脂質は、カチオン性脂質である。前記脂質を含有する薬学的組成物は、本発明に従う核酸を含む。一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、小胞内、例えば、リポソーム内に封入されたRNAを含む。一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、エマルジョンの形態のRNAを含む。一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、カチオン性化合物と共に複合体化し、これにより、例えば、いわゆるリポプレックス又はポリプレックスを形成するRNAを含む。リポソームなどの小胞内のRNAの封入は、例えば、脂質/RNA複合体と顕著に異なる。脂質/RNA複合体は、例えば、RNAを、例えば、あらかじめ形成されたリポソームと混合する場合に得られる。
【0327】
一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、小胞内に封入されたRNAを含む。このような製剤は、本発明に従う、特定の粒子製剤である。小胞とは、球殻へと巻き込まれ、小空間を囲い込み、この空間を小胞外部の空間から隔てる脂質二重層である。典型的に、小胞内部の空間は、水性空間である、すなわち、水を含む。典型的に、小胞外部の空間は、水性空間である、すなわち、水を含む。脂質二重層は、1又は複数の脂質(小胞形成脂質)により形成される。小胞を囲い込む膜は、細胞膜のラメラ相と同様のラメラ相である。本発明に従う小胞は、多層型小胞の場合もあり、単層型小胞の場合もあり、これらの混合物の場合もある。小胞内に封入されると、RNAは、典型的に、任意の外部培地から隔てられる。したがって、RNAは、天然のアルファウイルス内の保護形態と機能的に同等な保護形態で存在する。適切な小胞は、粒子、特に、本明細書で記載されるナノ粒子である。
【0328】
例えば、RNAは、リポソーム内に封入することができる。この実施態様では、薬学的組成物は、リポソーム製剤であるか、又はこれを含む。リポソーム内の封入は、典型的に、RNAを、RNアーゼによる消化から保護するであろう。リポソームは、一部の外部RNA(例えば、それらの表面上の)を含むが、RNAのうちの少なくとも半分(及び理想的にはその全て)を、リポソームのコア内に封入することが可能である。
【0329】
リポソームは、リン脂質など、小胞形成脂質の、1又は複数の二重層を有することが多い、微小な脂質性小胞であり、薬物、例えば、RNAを封入することが可能である。本発明の文脈では、それらに限定せずに述べると、多層型小胞(MLV)、小型の単層型小胞(SUV)、大型の単層型小胞(LUV)、立体安定化リポソーム(SSL)、多胞性小胞(MV)、及び大型の多胞性小胞(LMV)のほか、当技術分野で公知の、他の二重層形態を含む、異なる種類のリポソームを利用することができる。リポソームのサイズ及びラメラ性は、調製方式に依存するであろう。単層から構成されるラメラ相、六方相及び逆六方相、立方相、ミセル、逆ミセルを含む脂質が、水性培地中に存在しうる、いくつかの他の形態の超分子構成が存在する。これらの相はまた、DNA又はRNAとの組合せでも得ることができ、RNA及びDNAとの相互作用は、相状態に、実質的に影響を及ぼしうる。このような相は、本発明のナノ粒子状RNA製剤中に存在しうる。
【0330】
リポソームは、当業者に公知の標準的方法を使用して形成することができる。それぞれの方法は、逆蒸発法、エタノール注射法、脱水-再水和法、超音波処理法、又は他の適する方法を含む。リポソームの形成後、リポソームをサイズ分けして、実質的に均一のサイズ範囲を有するリポソームお集団を得る。
【0331】
本発明の好ましい実施態様では、RNAは、少なくとも1つのカチオン性脂質を含むリポソーム内に存在する。それぞれのリポソームは、少なくとも1つのカチオン性脂質を使用することを条件として、単一の脂質から形成することもでき、脂質の混合物から形成することもできる。好ましいカチオン性脂質は、プロトン化が可能な窒素原子を有し、好ましくは、このようなカチオン性脂質は、三級アミン基を伴う脂質である。特に、適切な三級アミン基を伴う脂質は、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DLinDMA)である。一実施態様では、本発明に従うRNAは、国際公開第2012/006378A1号において記載されているリポソーム製剤、つまり、RNAを含む水性コアを封入する脂質二重層を有するリポソームであって、脂質二重層が、pKaが5.0から7.6の範囲にある脂質であり、好ましくは、三級アミン基を有する脂質を含むリポソーム内に存在する。好ましいカチオン性三級アミン基を伴う脂質は、DLinDMA(pKa 5.8)を含み、一般に、国際公開第2012/031046A2号において記載されている。国際公開第2012/031046A2号に従い、それぞれの化合物を含むリポソームは、RNAの封入に特に適し、したがって、リポソームによるRNAの送達に特に適する。一実施態様では、本発明に従うRNAは、リポソーム製剤中に存在し、この場合、リポソームは、それらのヘッド基が、プロトン化が可能な、少なくとも1つの窒素原子(N)を含む、少なくとも1つのカチオン性脂質を含み、この場合、リポソーム及びRNAは、1:1から20:1の間のN:P比を有する。本発明によると、「N:P比」とは、国際公開第2013/006825A1号において記載されている通り、カチオン性脂質内の窒素原子(N)の、脂質含有粒子(例えば、リポソーム)内に含まれるRNA内のリン酸原子(P)に対するモル比を指す。1:1から20:1の間のN:P比は、リポソームの正味の電荷、及び脊椎動物細胞へのRNAの送達効率に関与する。
【0332】
一実施態様では、本発明に従うRNAは、ポリエチレングリコール(PEG)部分を含む、少なくとも1つの脂質を含むリポソーム製剤中に存在し、この場合、RNAは、PEG部分が、国際公開第2012/031043A1号及び国際公開第2013/033563A1号に記載されている通り、リポソームの外殻上に存在するように、PEG化リポソーム内に封入されている。
【0333】
一実施態様では、本発明に従うRNAは、リポソーム製剤中に存在し、この場合、リポソームは、国際公開第2012/030901A1号に記載されている通り、60-180nmの範囲の直径を有する。
【0334】
一実施態様では、本発明に従うRNAは、リポソーム製剤中に存在し、この場合、RNA含有リポソームは、国際公開第2013/143555A1号において開示されている通り、ゼロに近いか、又は負である、正味の電荷を有する。
【0335】
他の実施態様では、本発明に従うRNAは、エマルジョンの形態で存在する。エマルジョンについては、RNA分子など、核酸分子の、細胞への送達に使用されることが既に記載されている。本明細書では、水中油エマルジョンが好ましい。それぞれのエマルジョン粒子は、油コア及びカチオン性脂質を含む。本発明に従うRNAを、エマルジョン粒子へと複合体化させた、カチオン性水中油エマルジョンがより好ましい。エマルジョン粒子は、油コア及びカチオン性脂質を含む。カチオン性脂質は、負に帯電したRNAと相互作用することが可能であり、これにより、RNAを、エマルジョン粒子へとアンカリングする。水中油エマルジョン中では、エマルジョン粒子は、水性連続相中に分散している。例えば、エマルジョン粒子の平均直径は、典型的に、約80nmから180nmでありうる。一実施態様では、本発明の薬学的組成物は、エマルジョン粒子が、国際公開第2012/006380A2号に記載されている通り、油コア及びカチオン性脂質を含む、カチオン性水中油エマルジョンである。本発明に従うRNAは、国際公開第2013/006834A1号に記載されている通り、エマルジョンのN:P比が、少なくとも4:1であるカチオン性脂質を含むエマルジョンの形態で存在しうる。本発明に従うRNAは、国際公開第2013/006837A1号に記載されている通り、カチオン性脂質エマルジョンの形態で存在しうる。特に、組成物は、油/脂質の比が、少なくとも約8:1(モル:モル)である、カチオン性水中油エマルジョンの粒子と複合体化させたRNAを含みうる。
【0336】
他の実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、リポプレックスのフォーマットで、RNAを含む。「リポプレックス」又は「RNAリポプレックス」という用語は、脂質と、RNAなどの核酸との複合体を指す。リポプレックスは、カチオン性(正に帯電した)リポソームと、アニオン性(負に帯電した)核酸とから形成することができる。カチオン性リポソームはまた、中性「ヘルパー」脂質も含みうる。最も単純な場合には、ある特定の混合プロトコールで、核酸を、リポソームと混合することにより、リポプレックスは、自発的に形成されるが、他の多様なプロトコールも適用することができる。正に帯電したリポソームと、負に帯電した核酸との静電相互作用が、リポプレックス形成の駆動力である(国際公開第2013/143555A1号)ことが理解される。本発明の一実施態様では、RNAリポプレックス粒子の正味の電荷は、ゼロに近いか、又は負である。RNA及びリポソームの、電気的に中性であるか、又は負に帯電したリポプレックスは、全身投与の後、脾臓樹状細胞(DC)内で、実質的なRNA発現をもたらすが、正に帯電したリポソーム及びリポプレックスについて報告されている毒性の増加を伴わない(国際公開第2013/143555A1号を参照されたい)ことが公知である。したがって、本発明の一実施態様では、本発明に従う薬学的組成物は、(i)ナノ粒子内の正の電荷の数が、ナノ粒子内の負の電荷の数を超えず、且つ/又は(ii)ナノ粒子が、中性であるか、若しくは正味の負の電荷を有し、且つ/又は(iii)ナノ粒子内の、正の電荷の、負の電荷に対する電荷比が、1.4:1若しくはこれ未満であり、且つ/又は(iv)ナノ粒子のゼータポテンシャルが、0若しくはこれ未満である、ナノ粒子、好ましくは、リポプレックスナノ粒子のフォーマットで、RNAを含む。国際公開第2013/143555A1号において記載されている通り、ゼータポテンシャルとは、コロイド系における、動電学的ポテンシャルについての学術用語である。本発明では、(a)ゼータポテンシャル、及び(b)ナノ粒子内の、カチオン性脂質の、RNAに対する電荷比のいずれも、国際公開第2013/143555A1号において開示されている通りに計算することができる。まとめると、本発明の文脈では、規定された粒子サイズを伴うナノ粒子状リポプレックス製剤であって、粒子の正味の電荷が、国際公開第2013/143555A1号において開示されている通り、ゼロに近いか、又は負であるナノ粒子状リポプレックス製剤である薬学的組成物が、好ましい薬学的組成物である。
【0337】
タンパク質を作製するための方法
第4の態様では、本発明は、
(a)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトを得る工程と、
(b)トランスで、レプリカーゼによる複製が可能であり、タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンを得る工程と、
(c)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトと、RNAレプリコンとを、細胞へと共接種する工程と
を含み、
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトが、レプリカーゼによる翻訳を駆動するための5’キャップを含む、
細胞内でタンパク質を作製するための方法を提供する。
【0338】
(a)によるアルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトは、本発明の第1の態様に従うシステムに含まれる、レプリカーゼコンストラクトの特色のうちの、任意の1又は複数を特徴としうる。
【0339】
(b)に従うRNAレプリコンは、本発明の第1の態様に従うシステムに含まれる、レプリコンの特色のうちの、任意の1又は複数を特徴としうる。
【0340】
一実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法において使用される、(a)によるアルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクト、及び(b)に従うRNAレプリコンは、本発明に従うシステムの構成要素である。
【0341】
1又は複数の核酸分子を接種しうる細胞を、「宿主細胞」と称することができる。本発明によると、「宿主細胞」という用語は、外因性核酸分子を形質転換又はトランスフェクトしうる、任意の細胞を指す。「細胞」という用語は、好ましくは、インタクトの細胞、すなわち、酵素、細胞小器官、又は遺伝子素材など、その正常な細胞内構成要素を放出していない、インタクトの膜を伴う細胞である。インタクト細胞は、好ましくは、生細胞、すなわち、その正常な代謝機能を実行ことが可能な生存細胞である。「宿主細胞」という用語は、本発明によると、原核細胞(例えば、大腸菌)又は真核細胞(例えば、ヒト及び動物細胞、並びに昆虫細胞)を含む。ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、及びヤギを含む家畜のほか、霊長動物に由来する細胞などの哺乳動物細胞が、特に好ましい。細胞は、複数の組織型に由来することが可能であり、初代細胞及び細胞株を含みうる。具体例は、角化細胞、末梢血白血球、骨髄幹細胞、及び胚性幹細胞を含む。他の実施態様では、宿主細胞は、抗原提示細胞、特に、樹状細胞、単球、又はマクロファージである。核酸は、宿主細胞内に、単一のコピー又はいくつかのコピーで存在することが可能であり、一実施態様では、宿主細胞内で発現する。
【0342】
細胞は、原核細胞の場合もあり、真核細胞の場合もある。原核細胞は、本明細書では、例えば、本発明に従うDNAの繁殖に適し、真核細胞は、本明細書では、例えば、レプリコンのオープンリーディングフレームの発現に適する。
【0343】
本発明の方法では、本発明に従うシステム、又は本発明に従うキット、又は本発明に従う薬学的組成物のうちのいずれかを使用することができる。RNAは、薬学的組成物の形態で使用することもできる、例えば、エレクトロポレーションのためのネイキッドRNAとして使用することもできる。RNAを含む組成物の、細胞への接種のほか、ネイキッドRNAの、細胞へのエレクトロポレーションについては、既に記載されている(本明細書の、本発明に従う薬学的組成物について記載する節において引用する参考文献を参照されたい)。
【0344】
本発明の方法に従い、宿主細胞内の、目的の遺伝子の効率的な発現を達成することができる(例えば、実施例1及び2を参照されたい)。
【0345】
本発明に従う、細胞内でタンパク質を作製するための方法では、第1の態様に従う、異なるRNA分子(レプリコン及びレプリカーゼコンストラクト)は、同じ時点に接種することもでき、代替的に、異なる時点に接種することもできる。第2の場合には、レプリカーゼコンストラクトを、典型的に、第1の時点に接種し、レプリコンを、典型的に、第2の時点、後の時点に接種する。この場合、レプリカーゼは、既に、細胞内で翻訳されているので、レプリコンは、すぐに複製されることが想定される。第2の時点は、典型的に、第1の時点の直後、例えば、第1の時点の1分間から24時間後である。
【0346】
一実施態様では、更なるRNA分子、好ましくは、mRNA分子を、細胞へと接種することができる。任意選択で、更なるRNA分子は、本明細書で記載されるE3など、IFNの阻害に適するタンパク質をコードする。任意選択で、更なるRNA分子を、本発明に従うレプリコン又はレプリカーゼコンストラクト又はシステムの接種の前に接種することもできる。
【0347】
本発明に従う、細胞内でタンパク質を作製するための方法では、細胞は、抗原提示細胞であることが可能であり、方法を、抗原をコードするRNAを発現させるために使用することができる。この目的で、本発明は、抗原をコードするRNAの、樹状細胞などの抗原提示細胞への導入を伴いうる。樹状細胞などの抗原提示細胞のトランスフェクションのために、抗原をコードするRNAを含む薬学的組成物を使用することができる。
【0348】
一実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法は、in vitro法である。一実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法は、手術又は治療による、ヒト対象又は動物対象からの細胞の除去を含まない。
【0349】
この実施態様では、本発明の第4の態様に従い接種される細胞は、対象においてタンパク質を作製し、対象にタンパク質を施すように、対象へと投与することができる。細胞は、対象に関して、自家の場合もあり、同系の場合もあり、同種の場合もあり、異種の場合もある。
【0350】
別の実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法における細胞は、患者など、対象において存在しうる。この実施態様では、細胞内でタンパク質を作製するための方法は、RNA分子の、対象への投与を含むin vivo法である。
【0351】
この点で、本発明また、
(a)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトを得る工程と、
(b)トランスで、レプリカーゼによる複製が可能であり、タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含むRNAレプリコンを得る工程と、
(c)アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトと、RNAレプリコンとを、対象へと投与する工程と
を含み、
アルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトが、レプリカーゼによる翻訳を駆動するための5’キャップを含む、
対象においてタンパク質を作製するための方法も提供する。
【0352】
(a)によるアルファウイルスレプリカーゼを発現させるためのRNAコンストラクトは、本発明の第1の態様に従うシステムに含まれる、レプリカーゼコンストラクトの特色のうちの、任意の1又は複数を特徴としうる。(a)に従うRNAコンストラクトは、例えば、本明細書で記載される通りに得ることができる。
【0353】
(b)に従うRNAレプリコンは、本発明の第1の態様に従うシステムに含まれる、レプリコンの特色のうちの、任意の1又は複数を特徴としうる。好ましくは、(b)に従うレプリコンは、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質を、目的のタンパク質としてコードする。一実施態様では、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質は、免疫学的に活性の化合物又は抗原である。(b)に従うRNAレプリコンは、例えば、本明細書で記載される通りに得ることができる。本発明に従う、対象においてタンパク質を作製するための方法は、予防的適用のほか、治療的適用にも特に適する。好ましくは、対象においてタンパク質を作製するための方法では、RNAレプリコンは、目的の遺伝子として、薬学的に活性のタンパク質又はポリペプチドをコードする。
【0354】
対象において、タンパク質を作製するための方法では、(a)に従うRNAレプリカーゼコンストラクト及び(b)に従うレプリコンは、同じ時点に投与することもでき、代替的に、異なる時点に投与することもできる。第2の場合には、(a)に従うRNAレプリカーゼコンストラクトを、典型的に、第1の時点に投与し、(b)に従うレプリコンを、典型的に、第2の時点、後の時点に投与する。この場合、レプリカーゼは、既に、細胞内で翻訳されているので、レプリコンは、すぐに複製されることが想定される。第2の時点は、典型的に、第1の時点の直後、例えば、第1の時点の1分間から24時間後である。好ましくは、レプリコン及びレプリカーゼコンストラクトが、同じ標的組織又は細胞に到達する見込みを増加させるために、レプリコンの投与を、同じ部位に、レプリカーゼコンストラクトの投与と同じ投与経路を介して実施する。「部位」とは、対象の身体の位置を指す。適切な部位は、例えば、左腕、右腕などである。
【0355】
一実施態様では、更なるRNA分子、好ましくは、mRNA分子を、対象へと投与することができる。任意選択で、更なるRNA分子は、本明細書で記載されるE3など、IFNの阻害に適するタンパク質をコードする。任意選択で、更なるRNA分子を、本発明に従うレプリコン又はレプリカーゼコンストラクト又はシステムの接種の前に投与することもできる。
【0356】
本発明に従うシステム、又は本発明に従うキット、又は本発明に従う薬学的組成物のうちのいずれかを、本発明に従う、対象においてタンパク質を作製するための方法において使用することができる。例えば、本発明の方法では、RNAは、例えば、本明細書で記載される薬学的組成物のフォーマットで使用することもでき、ネイキッドRNAとして使用することもできる。RNAを含む薬学的組成物投与については、既に記載されており、例えば、本明細書の、本発明に従う薬学的組成物について記載する節において引用する参考文献を参照されたい。
【0357】
対象へと投与される効能を念頭に、本発明に従うシステム、又は本発明に従うキット、又は本発明に従う薬学的組成物の各々を、「医薬」などと称することができる。本発明は、本発明のシステム、キット、及び/又は薬学的組成物を、医薬としての使用のために提供することを見越す。医薬を使用して、対象を治療することができる。「~を治療する」とは、本明細書で記載される化合物又は組成物又は他の実体を、対象へと投与することを意味する。用語は、療法により、ヒト又は動物の身体を治療するための方法を含む。
【0358】
上記で記載した医薬は、典型的に、DNAを含まず、したがって、先行技術(例えば、国際公開第2008/119827A1号)に記載されているDNAワクチンと比較して、更なる安全性の特色と関連している。
【0359】
本発明に従う、代替的な医学的使用は、本発明の第4の態様に従う、細胞内でタンパク質を作製するための方法であって、細胞が、樹状細胞などの抗原提示細胞でありうる方法に続き、前記細胞の、対象への導入を行う方法を含む。例えば、抗原など、薬学的に活性のタンパク質をコードするレプリコンを含むシステムを、ex vivoにおいて、抗原提示細胞へと導入(トランスフェクト)することができる、例えば、対象から採取した抗原提示細胞と、任意選択で、ex vivoにおいて、クローン的に繁殖させた抗原提示細胞とを、同じ対象又は異なる対象へと導入することができる。トランスフェクトされた細胞は、当技術分野で公知の、任意の手段を使用して、対象へと再導入することができる。
【0360】
本発明に従う医薬は、それを必要とする対象へと投与することができる。本発明の医薬は、対象を治療する予防法のほか、治療法においても使用することができる。
【0361】
本発明に従う医薬は、有効量で投与する。「有効量」とは、単独で又は他の投与と共に、反応又は所望の効果を引き起こすのに十分な量に関する。対象における、ある特定の疾患又はある特定の状態の治療の場合、所望される効果は、疾患の進行の阻害である。これは、疾患の進行の減速化、特に、疾患の進行の中断を含む。疾患又は状態の治療における所望の効果はまた、疾患の発生の遅延又は疾患の発生の阻害でもありうる。
【0362】
有効量は、治療される状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、身長、及び体重を含む、患者の個別のパラメータ、治療の持続期間、併用療法(存在する場合)の種類、具体的投与方式、及び他の因子に依存するであろう。
【0363】
ワクチン接種
「免疫化」又は「ワクチン接種」という用語は、一般に、治療的理由又は予防的理由で、対象を治療する工程を指す。治療、特に、予防的治療は、好ましくは、例えば、1又は複数の抗原に対する、対象の免疫応答を誘導又は増強することを目的とする治療であるか、又はこれを含む。本発明によると、本明細書で記載されるRNAを使用することにより、免疫応答を誘導又は増強することが所望される場合、免疫応答は、RNAにより、誘発又は増強することができる。一実施態様では、本発明は、好ましくは、対象のワクチン接種であるか、又はこれを含む予防的治療を提供する。レプリコンが、目的のタンパク質として、免疫学的に活性の化合物又は抗原である、薬学的に活性のペプチド又はタンパク質をコードする、本発明の実施態様は、ワクチン接種に、特に、有用である。
【0364】
病原体又は癌を含む、外来の作用物質に対するワクチン接種のためのRNAについては、既に記載されている(近年、Ulmer等, 2012, Vaccine, vol. 30, pp. 4414-4418により総説されている)。先行技術における一般的な手法とは対照的に、本発明に従うレプリコンは、本発明のレプリカーゼコンストラクトによりコードされるレプリカーゼによるトランス複製能のために、効率的なワクチン接種に、特に、適するエレメントである。本発明に従うワクチン接種を、例えば、弱く免疫原性であるタンパク質に対する免疫応答の誘導のために使用することができる。本発明に従うRNAワクチンの場合、タンパク質抗原を血清抗体へと曝露するのではなく、RNAの翻訳の後で、トランスフェクト細胞自体が産生する。したがって、アナフィラキシーは、問題とならないはずである。したがって、本発明は、アレルギー反応の危険性を伴わずに、患者の免疫化の反復を可能とする。
【0365】
本発明の実施例5は、組換えタンパク質の極めて強力な発現から証拠立てられる通り、トランス遺伝子含有レプリコンが、ワクチン接種された動物において、高コピー数に到達することに説得力を与える。実施例6は、レプリコンが、治療用タンパク質をコードする、本発明に従うワクチン接種が、極めて効率的であることを証拠立てる。したがって、本発明は、アルファウイルスベースのトランス複製RNAシステムによる効率的なワクチン接種を可能とする。
【0366】
本発明に従うワクチン接種を伴う方法では、特に、抗原を伴う疾患を有するか、又は抗原を伴う疾患により、疾病に罹患する危険性がある対象を治療することが所望される場合、本発明の医薬を、対象へと投与する。
【0367】
本発明に従うワクチン接種を伴う方法では、本発明に従うレプリコンによりコードされる目的のタンパク質は、例えば、それに対する免疫応答が導かれる細菌抗原、又はそれに対する免疫応答が導かれるウイルス抗原、又はそれに対する免疫応答が導かれる癌抗原、又はそれに対する免疫応答が導かれる単細胞生物の抗原をコードする。ワクチン接種の有効性は、生物に由来する抗原特異的IgG抗体の測定など、公知の標準的方法により評価することができる。本発明に従う、アレルゲン特異的免疫療法を伴う方法では、本発明に従うレプリコンによりコードされる目的のタンパク質は、アレルギーに関連する抗原をコードする。アレルゲン特異的免疫療法(減感作としてもまた公知である)は、原因アレルゲンへのその後の曝露に伴う症状が緩和される状態を達成するために、好ましくは、1又は複数のアレルギーを伴う生物へのアレルゲンワクチンの用量を増加させる投与として規定される。アレルゲン特異的免疫療法の有効性は、生物に由来するアレルゲン特異的IgG抗体及びアレルゲン特異的IgE抗体の測定など、公知の標準的方法により評価することができる。
【0368】
本発明の医薬は、例えば、対象のワクチン接種を含む、対象の治療のために、対象へと投与することができる。
【0369】
「対象」という用語は、脊椎動物、特に、哺乳動物に関する。例えば、本発明の文脈における哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長動物、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどの家畜哺乳動物、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどなどの実験室動物のほか、動物園動物などの捕獲動物である。「対象」という用語はまた、鳥類(特に、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウなどの家禽)及び魚類(特に、養殖魚、例えば、サケ又はナマズ)など、哺乳動物以外の脊椎動物にも関する。本明細書で使用される「動物」という用語はまた、ヒトも含む。
【0370】
一部の実施態様では、イヌ、ネコ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマ、ラクダ、ニワトリ、カモ、ガチョウ、シチメンチョウなどの家畜、又は野生動物、例えば、キツネ、シカ、ノロジカ、イノシシへの投与が好ましい。例えば、本発明に従う予防用ワクチン接種は、例えば、畜産業における動物集団にワクチン接種するのにも適し、野生の動物集団にワクチン接種するのにも適しうる。愛玩動物又は動物園動物など、他の捕獲動物集団にも、ワクチン接種することができる。
【0371】
対象へと投与されると、医薬として使用されるレプリコン及び/又はレプリカーゼコンストラクトは、好ましくは、治療される対象が属する種又は属に対して感染性であるアルファウイルスの種類に由来する配列を含まない。好ましくは、この場合、レプリコン及び/又はレプリカーゼコンストラクトは、それぞれの種又は属に感染しうるアルファウイルスに由来するヌクレオチド配列を含まない。この実施態様は、RNAを投与される対象が、(例えば、偶然に)感染性アルファウイルスに罹患した場合であってもなお、感染性(例えば、完全に機能的な又は野生型)アルファウイルスによる組換えが可能ではないという利点を保有する。例示的な例として述べると、ブタの治療のために、使用されるレプリコン及び/又はレプリカーゼコンストラクトは、ブタに感染しうるアルファウイルスに由来するヌクレオチド配列を含まない。
【0372】
投与方式
本発明に従う医薬は、任意の適切な経路により、対象へと適用することができる。
【0373】
例えば、医薬は、全身、例えば、静脈内(i.v.)、皮下(s.c.)、皮内(i.d.)、又は吸入により投与することができる。
【0374】
一実施態様では、本発明に従う医薬を、骨格筋などの筋肉組織、又は皮膚へと、例えば、皮下投与する。一般に、RNAの、皮膚又は筋肉への移入は、高度且つ持続的な発現と並行して、体液性免疫応答及び細胞性免疫応答の強力な誘導をもたらす(Johansson等, 2012, PLoS. One., 7, e29732、Geall等, 2012, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 109, pp. 14604-14609)ことが理解される。
【0375】
筋肉組織又は皮膚への投与に対する代替法は、皮内投与、鼻腔内投与、眼内投与、腹腔内投与、静脈内投与、間質内、口腔内投与、経皮投与、又は舌下投与を含むがこれらに限定されない。皮内投与及び筋内投与が、2つの好ましい経路である。
【0376】
投与は、多様な方式で達成することができる。一実施態様では、本発明に従う医薬を、注射により投与する。好ましい実施態様では、注射は、注射針を介する。無針注射を、代替法として使用することができる。
【0377】
本発明について、詳細に記載し、図及び例により例示してきたが、これらは、例示だけを目的として使用されるものであり、限定的であることを意図するものではない。記載及び例により、当業者は、それらもまた本発明に含まれる、更なる実施態様にアクセス可能である。
【実施例
【0378】
材料及び方法:
下記で記載される例では、以下の材料及び方法を使用した。
【0379】
レプリコン、レプリカーゼコンストラクト、及びE3LをコードするDNA;並びにin vitroにおける転写
(1)例において使用されるシスレプリコンをコードするDNAは、以下の通りに調製した:セムリキ森林ウイルス(SFV)レプリカーゼによる複製が可能なRNAレプリコンのin vitro転写に適するDNAプラスミドを調製した:基準セムリキ森林ウイルスレプリコンプラスミド(pSFV-gen-GFP)は、K.Lundstrom(Lundstrom等, 2001, Histochem. Cell Biol., vol. 115, pp. 83-91、Ehrengruber及びLundstrom, 1999, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, vol. 96, pp. 7041-7046)により恵与された。pSFV-gen-GFPによりコードされるポリ(A)カセットは、元のベクター内の62アデニル酸残基から、120アデニル酸残基へと伸長させたものであり、SapI制限部位を、ポリ(A)カセットのすぐ下流に配置した。このポリ(A)デザインは、合成mRNAの発現を増強することが記載された(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017)。最後に、ファージ-ポリメラーゼプロモーターを、SP6から、T7へと変化させた。
【0380】
(2)ベクター骨格を保ちながら、アルファウイルスレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレーム(レプリカーゼORFのヌクレオチド222-6321)を欠失させることにより、トランスレプリコンをコードするDNAを、上記で記載したシスレプリコンから操作した。
【0381】
(1a、2a)本発明者らは、レポーター遺伝子ホタルルシフェラーゼ、分泌型NanoLuc(いずれも、Promega、Madison、WI、USAにより市販されている)、インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/08/1934のヘマグルチニン(HA)、及び増強型緑色蛍光タンパク質(eGFP;図中では、「GFP」又は「eGFP」)を、シスレプリコン及びトランスレプリコンのサブゲノムプロモーターに対して3’側に、独立にクローニングした。
【0382】
(3)レプリカーゼコンストラクトを創出するために、SFVレプリカーゼをコードするオープンリーディングフレームを、ヒトベータ-グロビンの3’UTR、ポリ(A120)テール、及びポリ(A)テールのすぐ下流におけるSapI制限部位のタンデムコピーを特徴とする、pST1プラスミド(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017)へとクローニングした。
【0383】
(4)ワクシニアウイルスE3Lをコードするオープンリーディングフレームを、ヒトベータ-グロビンの3’UTR、ポリ(A120)テール、及びポリ(A)テールのすぐ下流におけるSapI制限部位のタンデムコピーを特徴とする、pST1プラスミド(Holtkamp等, 2006, Blood, vol. 108, pp. 4009-4017)へとクローニングした。
【0384】
pST1に由来するプラスミド及びpSFV-gen-GFPに由来するプラスミド[(1a)、(2a)、(3)、及び(4)]からのin vitro転写、及びRNAの精製は、ベータ-S-ARCA(D2)キャップ類似体を、ARCAの代わりに使用したことを例外として、既に記載されている(上記Holtkamp等、Kuhn等, Gene Ther., 2010, vol. 17, pp. 961-971)通りに実施した。精製されたRNAの品質は、分光光度法、及び2100 BioAnalyzer(Agilent、Santa Clara、USA)上の解析により評価した。例において使用されるRNAは、精製IVT-RNAである。
【0385】
細胞へのRNAの移入:
エレクトロポレーションのために、以下の設定:750V/cm、16ミリ秒(ms))の1パルスを使用する、方形波エレクトロポレーションデバイス(BTX ECM 830、Harvard Apparatus、Holliston、MA、USA)を使用して、RNAを、室温で、細胞へとエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションのために、RNAを、キュベットのギャップサイズ1mm当たりの最終容量62.5μl中に再懸濁させた。
【0386】
製造元の指示書(Life Technologies、Darmstadt、Germany)に従い、Lipofectamine RNAiMAXを使用して、RNAリポフェクションを実施した。増殖面積1cm当たりの細胞約20,000個で、細胞を播種し、1cm当たりの合計260ngのRNA及び1cm当たり1μlのRNAiMAXをトランスフェクトした。RNA分子種を、RNアーゼ非含有のエッペンドルフ管内で混合し、トランスフェクションのために使用するまで、氷上で保持した。
【0387】
細胞培養物:全ての成長培地、ウシ胎仔血清(FCS)、抗生剤、及び他の補充物質は、そうでないことが言明されない限りにおいて、Life Technologies/Gibcoにより提供された。System Bioscience(HFF、新生児)又はATCC(CCD-1079Sk)から得たヒト包皮線維芽細胞を、15%のFCS、1ml当たり1単位のペニシリン、1ml当たり1μgのストレプトマイシン、1%の非必須アミノ酸、1mMのピルビン酸ナトリウムを含有する最小必須培地(MEM)中、37℃で培養した。細胞を、5%のCO2へと平衡化させた加湿雰囲気中、37℃で増殖させた。BHK21細胞(ATCC;CCL10)を、10%のFCSを補充した、イーグル最小必須培地中で増殖させた。
【0388】
フローサイトメトリー:そうでないことが指し示されない限りにおいて、トランスフェクションの16時間後に、トランスフェクト細胞を採取して、生産的トランスフェクションの効率、及びフローサイトメトリー(FACS)によるトランス遺伝子(eGFP)の発現を測定した。測定は、FACS Canto IIフローサイトメーター(BD Bioscience、Heidelberg、Germany)を使用するフローサイトメトリーにより実施し、収集されたデータは、対応するDivaソフトウェア又はFlowJoソフトウェア(Tree Star Inc.、Ashland、OR、USA)により解析した。
【0389】
ルシフェラーゼアッセイ:トランスフェクト細胞内のルシフェラーゼの発現について評価するために、トランスフェクト細胞を、96ウェル白色マイクロプレート(Nunc、Langenselbold、Germany)内に播種した。ホタルルシフェラーゼの検出は、Bright-Glo Luciferas Assay Systemにより実施し、NanoLucは、製造元の指示書に従い、NanoGloキットを使用して検出した(いずれも、Promega、Madison、WI、USA)。生物発光は、マイクロプレート発光リーダーである、Infinite M200(Tecan Group、Maennedorf、Switzerland)を使用して測定した。データは、相対ルシフェラーゼ単位[RLU]で表し、ルシフェラーゼ陰性細胞を使用して、バックグラウンドシグナルを控除した。
【0390】
動物:6-8週齢のBalb/cマウスを、Janvier LABS(Saint Berthevin Cedex、France)から購入し、概日明暗周期、並びに標準的なマウス飼料及び水道水の自由摂取を伴う、通常の実験室条件下で飼育した。全ての実験は、Regional Council’s Ethics Committee for Animal Experimentation(Koblenz/Rhineland-Palatinate、Germany、G 13-8-063)により承認された。
【0391】
インフルエンザウイルスの作製及び力価の決定:感染させるために、Madin-Darbyイヌ腎臓II(MDCK-II)細胞を、FCS(感染培地)の代わりに、0.2%ウシ血清アルブミン(30%、とりわけ、IgG非含有のBSA;Sigma)を含有するMEM中で培養した。マウスに適合させたインフルエンザウイルスA/Puerto Rico/08/1934を、1μg/mlのトシルスルホニルフェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)処理トリプシン(Sigma)を含有する感染培地中のMDCK-II細胞内で繁殖させた。細胞上清を、低速遠心分離により清明化させ、-80℃で保存した。ウイルス力価(1ml当たりのプラーク形成単位(PFU))は、コンフルエンシーを70-80%とする、MDCK-II細胞単層(12ウェルプレート)を使用するプラークアッセイにより決定した。細胞に、ウイルス調製物の10倍の系列希釈液(10-2-10-8倍)200μlを接種した。ウイルスを、37℃で、1時間にわたり吸着させてから、細胞に、低粘性の培地であるAvicelを重層化させて、ウイルスの拡散を低減し、プラークの形成を可能とした。2.4%のAvicel溶液を、2倍濃度のMEM/1μg/mlのTPCK処理トリプシンで希釈して、1.2%の最終Avicel濃度へと到達させた。3日後、重層化層を除去し、10%のホルムアルデヒドを含有する、1%のクリスタルバイオレット水溶液を使用して、細胞を染色した(RTで10分間にわたる)。染色された細胞を、水で洗浄し、ウェル1つ当たりのプラークをカウントし、1ml当たりのPFUを計算した。
【0392】
赤血球凝集力価(HA力価):赤血球凝集単位(HAU)は、2011年の「Manual for laboratory diagnosis and virological surveillance of influenza」において、WHOにより公表された推奨に従い、ニワトリ赤血球(RBC、Fitzgerald、USA)を使用して決定した。略述すると、ウイルス調製物の系列希釈(2倍)は、V字型の96ウェルプレート内で実施し、次いで、0.5%のニワトリRBC(「標準化RBC」)50μlと共に、25℃で、30分間にわたりインキュベートした。ウイルス調製物とのインキュベーションの後で、RBCが、なおも懸濁している場合に、赤血球凝集を完全であると考えた(非凝集RBCは、ウェルの底部に沈殿した)。HA力価は、完全凝集を示した最低の希釈率の逆数として記録し、等容量の標準化RBC凝集させるのに必要なウイルス量を、50μl当たりの1赤血球凝集単位(HAU)として規定した。
【0393】
赤血球凝集阻害(HAI)アッセイ:免疫化マウスにおける赤血球凝集を阻害する抗HA抗体の血清レベルを決定するために、血清を回収し、比を1:5とする受容体破壊酵素II「Seiken」(RDE(II);日本、デンカ生研株式会社)で、一晩にわたり処理するのに続き、56℃で30分間にわたり熱不活化させた。血清を、二連で使用し、系列希釈(1:2)を実施してから、25μlのPR8ウイルス希釈液(50μl当たり4HAU)を添加した。室温で15分間にわたるインキュベーションの後、0.5%のRBC 50μlを添加し、混合物を、30分間にわたりインキュベートしてから、凝集を査定した。HAI力価は、凝集を阻害した最低の希釈率の逆数(50μl当たりのHAI)として記録した。
【0394】
ウイルス中和力価(VNT)の決定:ワクチン接種されたマウスの血清中のウイルス中和抗体の力価を決定するために、本発明者らは、血清抗体が、Madin-Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞の感染を防止する能力についてアッセイし、したがって、MDCK細胞からの、デノボのウイルス放出を防止する能力についてアッセイした。この目的のために、ワクチン接種マウス及びコントロールマウスに由来する熱不活化(56℃30分間にわたり)血清の、1:2の系列希釈液を、一定濃度の感染性インフルエンザウイルス(1μl当たり2TCID50)(組織培養物感染用量(50))と共にインキュベートした。コントロールは、ウイルス調製物の力価を確認するように、各マイクロ滴定プレート上に、無血清コントロール及び無ウイルスコントロールのほか、血清の非存在下におけるウイルス調製物の逆滴定も含む。全ての調製物(血清-ウイルス混合物及びコントロール試料)を、1μg/mlのトシルスルホニルフェニルアラニルクロロメチルケトン(TPCK)処理トリプシンの存在下、37℃で、2時間にわたりインキュベートしてから、MDCK細胞を、37℃で、3日間にわたり、調製物へと曝露した。3日後、細胞培養物上清を、MDCK細胞から採取し、上記で記載したHA力価決定にかけた。
【0395】
動物の皮内免疫化、ウイルスチャレンジによる感染、及び査定:8-10週齢の雌BALB/cマウスを、免疫化実験に使用した。イソフルランの吸入により、マウスに麻酔をかけ、背部領域を剃毛し、レプリカーゼ及びE3 mRNAと組み合わせた、HAレプリコンRNAを、20μlのRNアーゼ非含有PBS中に溶解させ、0及び21日目に皮内注射した。血液は、初回の免疫化後20、35、及び55日目、イソフルラン麻酔下の、眼窩静脈叢における採血により採取した。遠心分離により、細胞破砕物を、血液からペレット化させ、血清試料を、ヘマグルチニン(HAI)アッセイのために使用した。インフルエンザウイルスによる感染に対する防御について査定するため、免疫化マウスに、ケタミン/キシラジンで麻酔をかけながら、10倍LD50のマウス適合インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/08/1934(PR8)でチャレンジした。マウスを毎日秤量し、チャレンジの14日間後、又は打切り基準(25%の体重減少)が満たされたら、安楽死させた。
【0396】
実施例1
トランス遺伝子の発現効率は、レプリカーゼをコードするRNA分子の種類に依存する
SGPの下流で、レプリカーゼをコードし、ルシフェラーゼをコードする、RNAシスレプリコン(「シスレプリコンRNA」)、又はレプリカーゼをコードする合成mRNA(「mRNA」)の各々を、SGPの下流でeGFPをコードするRNAトランスレプリコンと共に、エレクトロポレーションにより、BHK21細胞へと導入した(図3)。トランスレプリコンの発現は、FACSを介して、eGFPの蛍光を測定することにより決定し、シスレプリコンからのルシフェラーゼの発現には注目しなかった。特に、実験の成功は、eGFP陽性細胞の百分率(図3のバー)により反映されるトランスフェクション率を決定し、eGFP陽性細胞の平均値蛍光強度(MFI)(図3の菱形)により反映される、eGFPの発現レベルを決定することにより定量化した。図3に示す通り、トランス複製システム(この場合、レプリカーゼを、mRNAの形態で、トランスに用意する)は、シス複製が可能なレプリコン(「シスレプリコンRNA」)から発現させたレプリカーゼと比較して、大きなeGFP陽性細胞の百分率、並びに高度なeGFP陽性細胞の平均値蛍光強度の両方をもたらした。したがって、シス複製が可能なレプリコンから発現させたレプリカーゼは、トランスレプリコンのサブゲノム転写物を増幅するのに、それほど強力ではない結果として、低レベルのトランス遺伝子の発現をもたらす。加えて、BHK21細胞へと共送達される、レプリカーゼmRNA及びトランスレプリコンRNAを含むシステムは、eGFP陽性細胞の百分率から推定される通り、トランスレプリコンを複製する生産性を増加させる可能性が高い(図3のバー)。
【0397】
まとめると、トランス複製システム内の目的の遺伝子の発現は、レプリカーゼを送達するのに、mRNAを使用する場合に、より効率的であることが結論づけられた。
【0398】
実施例2
mRNAによりコードされるレプリカーゼと、トランス遺伝子をコードするトランスレプリコンとから構成されるトランス複製システムは、初代細胞内でもまた、高レベルのトランス遺伝子の発現をもたらし、トランス遺伝子をコードするシスレプリコンと比較して、高度な発現を結果としてもたらす
RNAトランスレプリコン(「eGFPトランスレプリコンRNA」)と併せた、シス複製が可能なRNAレプリコン(「eGFP-レプリコンRNA」);又はレプリカーゼをコードするmRNA(「レプリカーゼmRNA」)を、初代ヒト包皮線維芽細胞へとトランスフェクトした(図4)。プロテインキナーゼRの活性を低減するために、ワクシニアウイルスタンパク質E3をコードするmRNAを、各RNA試料へと添加した。トランスフェクションは、RNA又はRNAの混合物を、RNAiMAXトランスフェクション試薬と組み合わせ、この製剤を、細胞の培地へと添加すること(添加し、これにより、RNAを、同じリポソーム内に共送達すること)により実施した。
【0399】
目的の遺伝子の発現は、eGFPの蛍光を測定すること、すなわち、eGFP陽性細胞の百分率(図4のバー)を決定し、eGFP陽性細胞の平均値蛍光強度(MFI)(図4の菱形)を決定することにより決定した。トランス複製システム(「レプリカーゼmRNA」と併せた「eGFPトランスレプリコンRNA」)は、シス複製システム(「eGFP-レプリコンRNA」)より大きなeGFP陽性細胞の百分率、並びに高度なeGFP陽性細胞の平均値蛍光強度の両方をもたらした。したがって、トランス複製システムの場合、トランス遺伝子をコードするRNAの生産的な複製が生じる可能性は大きい。いずれのシステムにおいても、生産的な複製を確立する可能性は、用量依存性であるが、50ngのトランスレプリコンRNAは、625ngの基準レプリコン(シスレプリコン)とほぼ同じ程度に強力であり、10ngのトランスレプリコンは、500ngの基準レプリコンと同じ程度に強力である。加えて、トランス複製システムは、基準レプリコンより高度な、細胞1個当たりのトランス遺伝子発現レベル(MFIにより反映される)ももたらす(図4の菱形)。
【0400】
実施例3
目的のタンパク質の作製は、レプリカーゼの用量に依存する
図5Aに指し示す通り、RNAトランスレプリコン(「トランスレプリコン」)及びE3 mRNAと併せた、レプリカーゼをコードするRNA(「レプリカーゼmRNA」)を、初代ヒト包皮線維芽細胞へとリポフェクトした。RNAトランスレプリコンは、分泌型レポータータンパク質である、NanoLucルシフェラーゼを、目的の遺伝子としてコードする。タンパク質作製の効率は、分泌されるNanoLucの測定により裏付けられる通り、レプリカーゼRNAの量により、用量依存的にモジュレートすることができる(図5A)。
【0401】
実施例4
レプリカーゼコンストラクトのコドン使用の修飾は、有利なポリペプチド配列非修飾型修飾ではない
本実施例では、レプリカーゼコンストラクトが、mycでタグづけしたnsP3をコードする、トランス複製システムを使用した。mycタグを、nsP3の可変領域へと挿入して、抗myc抗体によるウェスタンブロットによる、nsP3レベル(総レプリカーゼ量を反映する)の検出を可能とした。nsP3の可変領域への挿入は、レプリカーゼポリタンパク質の活性に影響を及ぼさない(Spuul等, 2010, J. Virol, vol. 85, pp. 7543-7557)。mycでタグづけしたレプリカーゼのコドン使用(「レプリカーゼのwtのコドン使用」)を、任意選択で、ヒト(Homo sapiens)におけるコドン使用(「レプリカーゼのhsのコドン使用」をもたらす)へと適合させた。eGFPを目的の遺伝子としてコードするトランスレプリコンを、指し示す通り、異なる量のレプリカーゼRNAと共に、BHK21細胞へと共リポフェクトした(図5B)。
【0402】
目的の遺伝子の発現は、eGFPの蛍光を測定すること、すなわち、eGFP陽性細胞の百分率(図5Bのバー)を決定し、eGFP陽性細胞の平均値蛍光強度(MFI)(図5Bの菱形)を決定することにより決定した。
【0403】
コドン使用の修飾は、レプリカーゼレベル(mycでタグづけしたnsP3のレベル)の増加をもたらすが、これは、eGFPをコードするトランスレプリコンからの、目的の遺伝子の発現に有利ではない:コドン最適化RNAからの、非コドン最適化レプリカーゼRNAと比較してはるかに高度なレプリカーゼの発現は、高eGFP発現として反映されることはなく(図5Bの菱形)、トランスレプリコンの生産的な複製を確立する可能性は、eGFP陽性細胞の百分率により示されある通り、小さくなる(図5Bのバー)。
【0404】
実施例5
本発明に従うレプリコンによりコードされる効率的なトランス遺伝子の発現は、in vivoにおいても達成することができる
RNAトランスレプリコン及びワクシニアウイルスタンパク質E3をコードするmRNAと併せた、レプリカーゼをコードするIVT RNAを、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)中に再懸濁させ、マウスへと、皮内共注射するか、又は前脛骨筋(筋内)へと共注射した。トランスレプリコンのオープンリーディングフレームは、レポータータンパク質であるルシフェラーゼを、目的のタンパク質としてコードする。
【0405】
群1つ当たりの動物を3匹ずつとする群2つを使用した。各動物の2つの位置に注射した。in vivoにおけるルシフェラーゼの発現は、記載されている通りに測定した(Kuhn等, Gene Ther., 2010, vol. 17, pp. 961-971)。発現は、RNAの、それぞれ、筋内(i.m.)共注射及び皮内(i.d.)共注射の後における、マウスの生物発光イメージング(BLI)により示される通り、少なくとも9日間にわたり持続する。結果を、図6に示す。
【0406】
実施例6
インフルエンザHAを、目的のタンパク質としてコードする、本発明に従うレプリコンを含むトランス複製システムによるワクチン接種は、致死性のウイルス感染からの防御をもたらす
Balb/Cマウスに、図7に指し示す通り、ヘマグルチニン(HA)を、目的の遺伝子としてコードするRNAレプリコン(図7では:「R-HA」);又はレプリカーゼをコードするRNA(図7では:「レプリカーゼ」)、及びヘマグルチニン(HA)を、目的の遺伝子としてコードするトランスレプリコンRNA(図7では:「TR-HA」)を、3週間以内に、2回にわたり(プライム-ブースト)、皮内ワクチン接種した。適応の場合、翻訳を増強するために、ワクシニアウイルスE3をコードするmRNAを共トランスフェクトした。コントロール動物には、不活化ウイルス(IAV)をワクチン接種するか、又は溶媒(PBS)を施した。
【0407】
致死性用量のインフルエンザウイルスによるチャレンジ感染の前日に、全ての動物の血清を回収し、ウイルス中和力価(VNT)を決定するのに使用した。基準レプリコン群では、全ての動物は、IAVで治療された動物の力価に近接するVNTを示す。トランスレプリコン群では、共移入されるレプリカーゼmRNAが多いほど、VNTがより大きく増加した。トランスレプリコンに対して、14倍過剰量のレプリカーゼmRNAにより、レプリコンコントロールによるVNTと同程度のVNTが達成されたことは、わずかに20%の、抗原をコードするRNA(5μgのR-HAと対比した、1μgのTR-HA)が、同等なVNT力価を結果としてもたらしたことを意味する(図7A)。
【0408】
マウス血清はまた、ヘマグルチニン阻害(HAI)アッセイにもかけた。RNAでワクチン接種された全ての動物は、同等なHAI力価を示した(図7B)。
【0409】
チャレンジ感染後におけるマウスの生存をモニタリングした。緩衝液で治療されたマウスは、5日以内に死んだ。ワクチン接種された全てのマウスは、TR-HA及び15μgのE3でワクチン接種された1匹を、群内の例外として生存した(図7C)。
【0410】
まとめると、HAをコードするトランスレプリコンによるワクチン接種は、致死性のウイルス感染からの防御をもたらし、抗原をコードするRNAの量の低減を可能とすることが結論づけられた。
【0411】
実施例7
キャップの影響
BHK21細胞に、レプリカーゼORFの上流に、IRES(EMCV)(脳心筋炎ウイルスに由来する内部リボソーム侵入部位)を伴う、ベータ-S-ARCA(D2)キャップありのレプリカーゼmRNA又はキャップなしのmRNAと共に、自己切断型ペプチドであるP2A(ブタテッショウウイルス1 2A)により隔てられた、eGFP及びsecNLuc(分泌型ルシフェラーゼ)をコードするトランスレプリコンRNAをエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの24時間後に、細胞を、FACSにより、eGFP発現について解析し(図8A)、上清を、Nano-Glo(登録商標)Luciferase Assay System(Promega)により、secNLucの分泌レベルについて解析し(図8B)、レプリカーゼの発現について、ウェスタンブロットにより解析した(図8C)。
【0412】
図8Aで裏付ける通り、キャップありのレプリカーゼmRNAは、eGFP陽性の百分率(バー)により測定される、トランスレプリコンの複製を確立する大きな可能性と、陽性細胞内の高eGFP発現レベル(菱形)とをもたらす。
【0413】
差違を定量化するために、分泌型ルシフェラーゼの活性を測定し、いずれのレプリカーゼmRNAも機能的である(アッセイバックグラウンドは、-10RLUである)ことを明らかにしたが、記載されるトランス複製システムは、図8Bで裏付ける通り、キャップありのmRNAを使用する場合に、37倍強力である。
【0414】
図8Cで裏付ける通り、上記の観察の理由は、試料を、抗myc抗体でプロービングすること(上ブロット)により示される通り、発現を、キャップ(左レーン)により駆動する場合に、IRES(右レーン)と比較してレプリカーゼタンパク質濃度が高いことである。図8Aで既に示した通り、抗eGFP抗体による試料のプロービング(中ブロット)は、高eGFP発現を確認した。ゲルへのローディング量が等しいことは、対応する抗体(低ブロット)による、細胞タンパク質であるα-チューブリンの検出により確認する。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A-B】
図8C