(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240117BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20240117BHJP
H01L 25/18 20230101ALI20240117BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H01L25/04 C
(21)【出願番号】P 2020200337
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】山川 智之
(72)【発明者】
【氏名】花岡 勇
(72)【発明者】
【氏名】柏木 航平
【審査官】井上 弘亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-188860(JP,A)
【文献】特開2013-099087(JP,A)
【文献】特開2017-046550(JP,A)
【文献】特開平11-220888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H01L 25/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する第1ヒートシンクおよび第2ヒートシンクと、前記第1ヒートシンクと前記第2ヒートシンクとの間に設けられた第1回路構造体と、を含むスタックと、
前記第1回路構造体に電気的に接続された第1コンデンサと、
を含む電力変換部を備え、
前記第1回路構造体は、
第1スイッチング素子と、
前記第1スイッチング素子に直列に接続された第2スイッチング素子と、
前記第1スイッチング素子に逆並列に接続された第1ダイオードと、
前記第2スイッチング素子に逆並列に接続された第2ダイオードと、
を含み、
前記第1回路構造体では、前記第2スイッチング素子のコレクタ端子上に前記第1ダイオードのアノード端子が設けられ、前記第1ダイオードのカソード端子上に前記第1スイッチング素子のコレクタ端子が設けられ、前記第1スイッチング素子のエミッタ端子上に前記第2ダイオードのカソード端子が設けられた直列接続体が設けられ、
前記第1コンデンサは、前記第2スイッチング素子のエミッタ端子と前記第1ダイオードのカソード端子との間に接続され、
前記第1ヒートシンクおよび前記第2ヒートシンクは、前記スタックおよび前記第1コンデンサを収納する筐体内に設けられた導電性を有するフレームの電位に等しい電位とされた電力変換装置。
【請求項2】
前記スタックは、
2つの前記第1回路構造体
と、前記第1ヒートシンクおよび前記第2ヒートシンクから電気的に分離された導電性を有する第3ヒートシンクおよび第4ヒートシンクと、を含み、
前記
2つの第1回路構造体
のうちの1つは、
前記第1ヒートシンクと前記第2ヒートシンクとの間に設けられ、
前記2つの第1回路構造体のうちの他の1つは、前記第3ヒートシンクと前記第4ヒートシンクとの間に設けられ、
前記2つの第1回路構造体は、カスケードに接続された請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記スタックは、
導電性を有する第3ヒートシンクおよび第4ヒートシンクと、
前記第3ヒートシンクと前記第4ヒートシンクとの間に設けられた第2回路構造体と、
を含み、
前記電力変換部は、前記第2回路構造体に電気的に接続された第2コンデンサを含み、
前記第2回路構造体は、
第3スイッチング素子と、
前記第3スイッチング素子に直列に接続された第4スイッチング素子と、
前記第3スイッチング素子に逆並列に接続された第3ダイオードと、
前記第4スイッチング素子に逆並列に接続された第4ダイオードと、
を含み、
前記第2回路構造体では、前記第4ダイオードのアノード端子上には前記第4スイッチング素子のエミッタ端子が設けられ、前記第4スイッチング素子のコレクタ端子上には前記第3スイッチング素子のエミッタ端子が設けられ、前記第3スイッチング素子のコレクタ端子上には前記第3ダイオードのカソード端子が設けられ、
前記第2コンデンサは、前記第4スイッチング素子のエミッタ端子と前記第3スイッチング素子のコレクタ端子との間に接続され、
前記第2回路構造体は、前記第1回路構造体にカスケード接続された請求項1記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、圧接型半導体モジュールで構成されたスタックを用いた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力システムの運用に用いられる電力変換装置には、大電力を取り扱うため圧接型半導体モジュールが用いられることがある。このような圧接型半導体モジュールは、たとえば回路ブロックごとにヒートシンクとともに上下に重ねられて、スタックに組み付けられた上で装置に収納される。
【0003】
このような電力変換装置においては、小型化や省スペース化等の要求は強く、装置の構成要素であるスタックを含めた各種部品の小型化、省スペース化等が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実施形態は、小型化、省スペース化を実現した電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る電力変換装置は、導電性を有する第1ヒートシンクおよび第2ヒートシンクと、前記第1ヒートシンクと前記第2ヒートシンクとの間に設けられた第1回路構造体と、を含むスタックと、前記第1回路構造体に電気的に接続された第1コンデンサと、を含む電力変換部を備える。前記第1回路構造体は、第1スイッチング素子と、前記第1スイッチング素子に直列に接続された第2スイッチング素子と、前記第1スイッチング素子に逆並列に接続された第1ダイオードと、前記第2スイッチング素子に逆並列に接続された第2ダイオードと、を含む。前記第1回路構造体では、前記第2スイッチング素子のコレクタ端子上に前記第1ダイオードのアノード端子が設けられ、前記第1ダイオードのカソード端子上に前記第1スイッチング素子のコレクタ端子が設けられ、前記第1スイッチング素子のエミッタ端子上に前記第2ダイオードのカソード端子が設けられた直列接続体が設けられる。前記第1コンデンサは、前記第2スイッチング素子のエミッタ端子と前記第1ダイオードのカソード端子との間に接続される。前記第1ヒートシンクおよび前記第2ヒートシンクは、前記スタックおよび前記第1コンデンサを収納する筐体内に設けられた導電性を有するフレームの電位に等しい電位とされる。
【発明の効果】
【0007】
本実施形態では、小型化、省スペース化を実現した電力変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る電力変換装置の一部を例示する模式的な等価回路図である。
【
図2】
図2(a)は、第1の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図2(b)は、
図2(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
【
図3】
図3(a)は、比較例の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図3(b)は、
図3(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
【
図4】
図4(a)は、第1の実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的な構成図である。
図4(b)は、比較例の電力変換装置の動作を説明するための模式的な構成図である。
【
図5】
図5(a)は、第2の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図5(b)は、
図5(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
【
図6】
図6(a)は、比較例の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図6(b)は、
図6(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。的な正面図である。
【
図7】
図7(a)は、第3の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図7(b)は、
図7(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る電力変換装置の一部を例示する模式的な等価回路図である。
図1に示すように、電力変換装置は、電力変換部300を備える。電力変換部300は、端子30a,30bを含む。電力変換部300は、端子30a,30bを介して、たとえば、交流回路に接続される。交流回路には、交流で動作する負荷、たとえば電動機等を含むことができる。交流回路は、端子30a,30bに現れる交流電圧を、直流や含有される高調波の割り合いがより小さい交流電圧に変換するフィルタ等であってもよい。電力変換部300では、端子30a,30bから交流電圧を出力する場合に限らず、端子30a,30bに交流電圧を入力してもよい。
【0011】
電力変換部300は、ハーフブリッジ形式の電力変換回路である。電力変換部300は、スイッチング素子31a,31bと、ダイオード32a,32bと、コンデンサ33と、を含む。スイッチング素子31a,31bは、直列に接続されている。スイッチング素子31aは、スイッチング素子31bよりも高電位側に接続されている。ダイオード32aは、スイッチング素子31aに逆並列に接続されている。ダイオード32bは、スイッチング素子31bに逆並列に接続されている。
【0012】
スイッチング素子31a,31bの直列回路およびダイオード32a,32bの直列回路のうち、高電位側に接続されたスイッチング素子31aおよびダイオード32aをハイサイド側の素子のように呼び、低電位側に接続されたスイッチング素子31bおよびダイオード32bをローサイド側の素子のように呼ぶことがある。
【0013】
コンデンサ33は、スイッチング素子31a,31bの直列回路およびダイオード32a,32bの直列回路に並列に接続されている。コンデンサ33の両端には、電圧Vdcを印加することができ、端子30a,30bを介して、コンデンサ33を充電してもよいし、端子30a,30bを介して、コンデンサ33から電荷を放電してもよい。
【0014】
本実施形態および後述する他の実施形態において、電力変換部は、
図1のハーフブリッジ形式の回路構成をとるものとし、各実施形態の電力変換装置は、ハーフブリッジ形式の電力変換部を備えるものとする。
【0015】
図2(a)は、第1の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図2(b)は、
図2(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
図2(a)は、
図1のハーフブリッジ形式の電力変換部300のうち、スイッチング素子およびダイオードのそれぞれを圧接型半導体モジュールとし、これらをスタックとした場合に、構成したスタックをフレーム160に組み付けた場合の例を示している。フレーム160は、電力変換部300を収納する変換器モジュールの筐体内に設けられている。
図2(b)は、
図2(a)を実体的な等価回路図に表したもので、
図1の等価回路と実質的に同じものである。
【0016】
図2(a)に示すように、スタックは、ヒートシンク141~145と、回路構造体(第1回路構造体)130と、を含む。回路構造体130は、スイッチング素子(第2スイッチング素子)131b、ダイオード(第1ダイオード)132a、スイッチング素子(第1スイッチング素子)131aおよびダイオード(第2ダイオード)132bを含んでいる。スイッチング素子131b、ダイオード132a、スイッチング素子131aおよびダイオード132bは、この図の下から上へ、この順に重ねられている。
【0017】
スイッチング素子131a,131bおよびダイオード132a,132bは、それぞれ圧接型パッケージに収納された圧接型半導体モジュールである。よく知られているように、圧接型半導体モジュールでは、この図の上下に位置する両端の導電部が主端子を形成している。スイッチング素子131a,131bは、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の自己消弧型の半導体素子である。IGBTに代えてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)やGaN等のワイドバンドギャップ半導体を用いた接合側FET等であってもよいが、以下では、スイッチング素子131a,131bは、IGBTスイッチング素子であるものとして説明する。
【0018】
以下では、
図1等の回路図におけるスイッチング素子31a,31bに対応する圧接型半導体モジュールの素子をスイッチング素子131a,131bと表記し、ダイオード32a,32bに対応する圧接型半導体モジュールの素子をダイオード132a,132bと表記するものとする。また、スイッチング素子131a,131bでは、両端の導電部がコレクタ端子およびエミッタ端子であり、ダイオード132a,132bでは、両端の導電部がアノード端子およびカソード端子である。コレクタ端子をC端子、エミッタ端子をE端子、アノード端子をA端子、カソード端子をK端子と呼ぶことがある。
【0019】
スイッチング素子131a,131bおよびダイオード132a,132bは、相互に接続する場合に、それぞれの主端子の間に導電性のヒートシンク142~144を介在させて接続する。回路構造体130の上下の両端にもヒートシンク141,145が設けられる。つまり、回路構造体130は、ヒートシンク141,145の間に挟まれた状態でスタックに組み込まれる。ヒートシンク141~145は、素子間の電気的接続とともに、素子間の熱的結合をはかり、各素子の熱抵抗を低減して、スタックの放熱性能を向上させるために設けられる。
【0020】
なお、図中、ヒートシンク141,145に記された“N”は、電力変換部30のコンデンサ33の負側端子Nに電気的に接続されることを示している。ヒートシンク143に記された“P”は、
図2(b)に示すように、電力変換部30のコンデンサ33の正側端子Pに電気的に接続されることを示している。ヒートシンク142,144に記された“AC”は電力変換部30の端子30aの電圧を示している。
【0021】
ローサイド側のスイッチング素子131bは、ヒートシンク144,145の間に接続されている。ハイサイド側のダイオード132aは、ヒートシンク143,144の間に接続されている。ハイサイド側のスイッチング素子131aは、ヒートシンク142,143の間に接続されている。ローサイド側にダイオード132bは、ヒートシンク141,142の間に接続されている。
【0022】
ローサイド側のスイッチング素子131bでは、E端子がヒートシンク145に接続され、C端子がヒートシンク144を介して、ハイサイド側のダイオード132aのA端子に接続されている。ハイサイド側のダイオード132aのK端子は、ヒートシンク143を介して、ハイサイド側のスイッチング素子131aのC端子に接続されている。ハイサイド側のスイッチング素子131aのE端子は、ローサイド側のダイオード132bのK端子に接続されている。ローサイド側のダイオード132bのA端子は、ヒートシンク141に接続されている。
【0023】
ヒートシンク145は、導電性の接続部材154を介して、ヒートシンク141に接続されている。接続部材154は、導電性の接続部材155に接続されており、接続部材155は、
図2(b)のコンデンサ33の負側端子Nに接続される。ヒートシンク143は、導電性の接続部材153に接続されており、接続部材153は、コンデンサ33の正側端子Pに接続される。
【0024】
ヒートシンク142,144は、導電性の接続部材151によって接続されている。接続部材151は、導電性の接続部材152に接続されている。接続部材152は、
図2(b)の端子30aに接続される。
【0025】
回路構造体130の両端のヒートシンク141,145は、コンデンサ33の負側端子Nに接続される。たとえば、フレーム160をコンデンサ33の負側端子Nと同電位とすれば、ヒートシンク141,145とフレーム160との間は同電位となる。端子30bの電位は、負側端子Nの電位であり、フレーム160を端子30bとして利用することができる。
【0026】
このようにして、スタックは、素子相互およびコンデンサ33との間で電気的に接続されている。
【0027】
このように接続することによって、回路構造体130の両端のヒートシンク141,145の電位は、コンデンサ33の負側端子Nの電位とすることができる。スタックやコンデンサ33等を含む電力変換部300は、変換器モジュール内に収納され、スタックは、変換器モジュール内のフレーム160に固定されたり、フレーム160の近傍に配置されたりすることがある。フレーム160は、強度や熱伝導性能等の観点から金属等の導電性を有する部材で形成されている。フレーム160をコンデンサ33の負側端子Nの電位とする場合には、ヒートシンク145とフレーム160との間に、絶縁構造を設ける必要がなく、ヒートシンク145とフレーム160との間の距離を短くすることができる。図示しないが、ヒートシンク141の側にもフレームが設けられ、フレーム160と同電位とした場合には、ヒートシンク141の電位と同電位とすることができる。したがって、ヒートシンク141とフレームとの間に絶縁構造を設ける必要がなく、ヒートシンク141とフレームとの間の距離を短くすることができる。これらにより、スタックの上下方向の長さ、すなわち、ヒートシンク145側のフレーム160と、ヒートシンク141側のフレームとの間の距離を短くすることができ、スタックの小型化、省スペース化をはかることが可能になる。
【0028】
図3(a)は、比較例の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図3(b)は、
図3(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
比較例の電力変換装置に用いられる回路構造体130Xは、ダイオード132b、スイッチング素子131b、スイッチング素子131aおよびダイオード132aを含んでいる。ダイオード132b、スイッチング素子131b、スイッチング素子131aおよびダイオード132aは、この図の下から上へ、この順に重ねられている。
【0029】
回路構造体130Xでは、ローサイド側のダイオード132bは、ヒートシンク144,145の間に接続されている。ローサイド側のスイッチング素子131bは、ヒートシンク143,144の間に接続されている。ハイサイド側のスイッチング素子131aは、ヒートシンク142,143の間に接続されている。ハイサイド側のダイオード132aは、ヒートシンク141,142の間に接続されている。
【0030】
ローサイド側のダイオード132bでは、K端子がヒートシンク145に接続され、A端子がヒートシンク144を介して、ローサイド側のスイッチング素子131bのE端子に接続されている。ローサイド側のスイッチング素子131bのC端子は、ヒートシンク143を介して、ハイサイド側のスイッチング素子131aのE端子に接続されている。ハイサイド側のスイッチング素子131aのC端子は、ハイサイド側のダイオード132aのK端子に接続されている。ハイサイド側のダイオード132aのK端子は、ヒートシンク141に接続されている。
【0031】
この比較例のスタックでは、ヒートシンク144が接続部材155を介して、コンデンサ33(
図3(b))の負側端子Nに接続され、ヒートシンク142が接続部材153を介して、コンデンサ33の正側端子Pに接続される。このようにして、スタックとコンデンサ33とは、
図3(b)のように電気的に接続される。
【0032】
比較例の場合には、このように各素子を配置し、接続することによって、スタックとコンデンサ33との間を、均等な長さの接続部材155,153を用いて接続することができる。
【0033】
その一方で、フレーム160をコンデンサ33の負側端子Nの電位とすると、ヒートシンク145の電位は、端子30aの電位であり、最大でVdcまで上昇する。そのため、ヒートシンク145とフレーム160との間には、Vdc以上の電圧を絶縁できる絶縁構造を設ける必要がある。同様に、ヒートシンク141側に設ける図示しないフレームもフレーム160と同電位にするのが通常であり、ヒートシンク141とフレームとの間には、Vdc以上の電圧を絶縁できる絶縁構造を設ける必要がある。
【0034】
これにより、上下のフレーム間の長さは、ヒートシンク141とフレームとの距離、および、ヒートシンク145とフレーム160との距離の分だけ、少なくとも実施形態の場合のスタックの上下のフレーム間の距離よりも長くなる。
【0035】
なお、比較例のスタックにおいて、フレームの電位を端子30aの電位とした場合には、ヒートシンクとフレームとの間の絶縁構造を省略することができる。しかしながら、フレームとコンデンサ33との間や他の回路要素との間での絶縁が必要になるので、全体として小型化、省スペース化するのが困難である。
【0036】
図4(a)は、本実施形態の電力変換装置の動作を説明するための模式的な構成図である。
図4(b)は、比較例の電力変換装置の動作を説明するための模式的な構成図である。
本実施形態の電力変換装置に用いられるスタックでは、スイッチング素子131a,131bおよびダイオード132a,132bを上述のように配置することによって、電力変換部300(
図1)のスイッチング動作時のサージ電圧発生を抑制することが可能になる。
【0037】
電力変換部300のスイッチング動作時のサージ電圧発生を生じる場合の代表的な経路は、ハイサイド側のダイオード132aが導通した後に、そのダイオード132aに直列に接続されたローサイド側のスイッチング素子131bがオンする場合に生じる経路である。ダイオード132aが導通した後、遮断されることによって、ダイオード132aには、逆回復現象による電流が流れる。この逆回復電流によるdi/dtおよび電流経路の寄生インダクタンスによって、サージ電圧が発生する。di/dtは、スイッチング素子131bのオン時間によって決定されるので、これを抑制することは、回路機能、回路性能上等から困難な場合が多い。そのため、ダイオード132aのA端子とスイッチング素子131bのC端子との接続部における寄生インダクタンスを低減させることがサージ電圧を抑制するのに効果的である。
【0038】
図4(a)に示すように、本実施形態では、ダイオード132aのA端子とスイッチング素子131bのC端子とは、ヒートシンク144を介して、ほぼ直接接続されている。そのため、ダイオード132aのA端子とスイッチング素子131bのC端子との間の電流経路は、もっとも短くなっている。また、A端子およびC端子は、もっとも広い面積で接続されている。したがって、この電流経路における寄生インダクタンスは、非常に小さく抑えることが可能であり、スイッチング素子131bのターンオンによるdi/dtおよび電流経路の寄生インダクタンスにもとづいて発生するサージ電圧を抑制することができる。
【0039】
図4(b)に示すように、比較例の場合には、ダイオード132aの逆回復時の電流は、ハイサイド側のダイオード132aのA端子から、一旦接続部材151を介して、ローサイド側のスイッチング素子131bのC端子へ流れ込む。したがって、ヒートシンク141,143の間の接続部材151の有限な長さにもとづく寄生インダクタンスが発生する。ヒートシンク141,143の間の長さは、ダイオード132aの圧接パッケージの厚さ、スイッチング素子131bの圧接パッケージの厚さおよびヒートシンク142の厚さで決定されるため、これ以下に長さを短縮することは困難である。したがって、比較例の場合には、実施形態の場合よりも、サージ電圧の大きさが大きくなる。
【0040】
本実施形態の電力変換装置の効果について説明する。
本実施形態では、回路構造体130を、コンデンサ33の負側端子Nの電位が印加されるヒートシンク141,145で挟むようにスタックを構成することによって、スタックの両端のヒートシンク141,145の電位をほぼ一定の低い電位に維持することできる。
【0041】
フレーム160の電位をコンデンサ33の負側端子Nの電位と等しくする場合には、フレーム160と回路構造体130との間の絶縁構造を設ける必要がないので、スタック全体の形状を小型化することができる。
【0042】
電力変換部300の筐体の電位をコンデンサ33の負側端子Nの電位に等しくする場合には、筐体と、スタックおよびそのフレーム160との間の絶縁のための構造を省略することができ、さらなる小型化、省スペース化が可能になる。
【0043】
ダイオード132aのA端子と、ダイオード132aに直列接続されたスイッチング素子131bのC端子とを、ヒートシンク144を介して、直接接続することによって、これらの間の電流経路における寄生インダクタンスを小さくすることができる。そのため、スイッチング素子131bのオン時に発生するサージ電圧の大きさを抑制することができ、ダイオード132aのサージ電圧による破損等の不具合の発生を低減させることができる。
【0044】
ダイオード132aのA端子とスイッチング素子131bのC端子との間の電流経路の寄生インダクタンスを小さくすることによって、サージ電圧の発生を抑制できるので、スイッチング素子131bのスイッチング性能を十分に活かした回路設計ができる。そのため、スイッチング時の損失を低減することが可能になり、電力変換部300の小型化、省スペース化が可能になる。
【0045】
(第2の実施形態)
図5(a)は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図5(b)は、
図5(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
本実施形態では、第1の実施形態のスタックを構成する回路構造体130がカスケードに接続されてスタックを構成する場合の構成となる。本実施形態の電力変換装置は、回路構造体130-1,130-2を備える。回路構造体130-1,130-2は、第1の実施形態の場合の回路構造体130と同じ構成をそれぞれ有する。本実施形態では、第1の実施形態の各構成要素に“-1”を付加することによって、回路構造体130-1の構成要素であるものとし、第1の実施形態の各構成要素に“-2”を付加することによって回路構造体130-2の構成要素であるものとする。
【0046】
2つの回路構造体130-1,130-2は、カスケードに接続されており、具体的には、回路構造体130-1に設けられたヒートシンク141-1は、接続部材155に接続されており、接続部材155は、回路構造体130-2の導電性の接続部材151-2に接続されている。図示しないが、回路構造体130-2のヒートシンク141-2から導電性の接続部材を介して、次段の回路構造体に接続するようにしてもよい。
【0047】
本実施形態では、カスケード接続された2つの回路構造体130-1,130-2を1つのスタックに組み込む場合に、フレーム160の電位をたとえば回路構造体130-1のヒートシンク141-1と同電位とすることができる。この場合には、回路構造体130-1とフレーム160との絶縁構造を省略することができる。なお、回路構造体130-1にカスケード接続された回路構造体130-2では、ヒートシンク141-2の電位は、ヒートシンク141-1の電位よりも、コンデンサ33(
図1)の電圧Vdc分だけ低くなるために、両者の間には絶縁構造を設ける必要がある。
【0048】
図6(a)は、比較例の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図6(b)は、
図6(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
この比較例においては、
図3(a)および
図3(b)において説明した比較例の回路構造体130Xと同じ構成の回路構造体130X-1,130X-2がカスケード接続されている。回路構造体130X-1のヒートシンク142-1に接続部材155-1が接続されており、接続部材155-1は、回路構造体130X-2の接続部材151-2に接続されている。
【0049】
この比較例では、フレーム160の電位を回路構造体130X-1に設けられたヒートシンク142-1の電位としている。回路構造体130X-1とフレーム160の電位差は、最大でコンデンサ33の電圧Vdc分あり、回路構造体130X-2とフレーム160との電位差も最大で電圧Vdc分ある。したがって、いずれの回路構造体130X-1,130X-2をフレーム160に組み付ける場合にも、絶縁構造を設ける必要がある。
【0050】
本実施形態の電力変換装置の効果について説明する。
本実施形態では、カスケードに接続された回路構造体130-1,130-2の少なくとも一方について、第1の実施形態の場合と同じ効果を有する。たとえば、回路構造体130-1では、コンデンサ33の負側端子の電位が印加されるヒートシンク141-1,145-1で挟むように回路構造体130-1を構成することによって、回路構造体130-1の両端のヒートシンク141-1,145-1の電位をほぼ一定の低い電位に維持することできる。したがって、フレーム160との絶縁構造を省略することができるので、装置の小型化、省スペース化が可能になる。
【0051】
また、回路構造体130-1,130-2とも、ハイサイド側のダイオード132aのA端子とローサイド側のスイッチング素子131bのC端子とは、ヒートシンクを介して直接的に接続されるので、寄生インダクタンスを小さくすることができ、サージ電圧の発生を抑制することができる。
【0052】
(第3の実施形態)
図7(a)は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的な構成図である。
図7(b)は、
図7(a)の構成を実体的に表した模式的な等価回路図である。
本実施形態では、第1の実施形態のスタックを構成する回路構造体と比較例のスタックを構成する回路構造体とを組み合わせることによって、いずれの回路構造体ともフレーム160との絶縁構造を省略することができる。なお、回路構造体130-1は、
図5(a)の回路構造体130-1と同じ構成を有し、回路構造体130X-2は、
図6(a)の回路構造体130X-2と同じ構成を有している。
【0053】
図7(a)および
図7(b)に示すように、回路構造体130-1では、ヒートシンク141-1が接続部材155に接続されている。接続部材155は、回路構造体(第2回路構造体)130X-2の接続部材151に接続されており、接続部材151を介して、ヒートシンク141-2,143-2,145-2に接続されている。
【0054】
フレーム160を回路構造体130-1側のコンデンサ33の負側端子Nの電位とすると、回路構造体130-1のヒートシンク141-1の電位も負側端子Nの電位となる。そして、回路構造体130X-2のヒートシンク141-2の電位も負側端子Nの電位となり、ヒートシンク141-1,141-2とフレーム160との間の絶縁構造を省略することができる。ヒートシンク145-1,145-2側の図示しないフレームについても、ヒートシンク145-1,145-2と同電位とすることができ、絶縁構造を省略することができる。
【0055】
本実施形態の電力変換装置の効果について説明する。
本実施形態では、複数の回路構造体をカスケード接続してスタックに組み込む場合に、第1の実施形態のスタックを構成する回路構造体130-1と、その比較例のスタックを構成する回路構造体130X-2を交互に接続することによって、両端のヒートシンクの電位をコンデンサ33の負側端子Nの電位とすることができる。そのため、フレーム160をコンデンサ33の負側端子Nの電位とした場合に、ヒートシンクとの間の絶縁構造を省略することができ、スタックのより一層の小型化、省スペース化が可能になる。
【0056】
本実施形態では、回路構造体130-1では、ハイサイド側のダイオード132aおよびローサイド側のスイッチング素子131bの経路によるサージ電圧は、十分抑制されるが、回路構造体130X-2では、接続部材151による寄生インダクタンス等によって、サージ電圧の抑制が十分でない場合が起こり得る。したがって、本実施形態では、スイッチング素子のスイッチング性能や流れる電流値等により、サージ電圧発生の少ない場合等に適用されることができる。
【0057】
このようにして、小型化、省スペース化を実現した電力変換装置が実現される。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0059】
30,300 電力変換部、31a,31b,131a,131b,131a-1,131b-1,131a-2,131b-2 スイッチング素子、32a,32b,132a,132b,132a-1,132b-1,132a-2,132b-2 ダイオード、33 コンデンサ、130,130-1,130-2,130X-2 回路構造体、160 フレーム