(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】易洗浄の衛生材料または生活用品、および微生物の除去方法
(51)【国際特許分類】
A01N 47/12 20060101AFI20240117BHJP
A01N 43/80 20060101ALI20240117BHJP
A01N 25/10 20060101ALI20240117BHJP
A01N 31/08 20060101ALI20240117BHJP
A01N 37/34 20060101ALI20240117BHJP
A01N 41/10 20060101ALI20240117BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20240117BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20240117BHJP
B08B 1/00 20240101ALI20240117BHJP
B08B 3/02 20060101ALI20240117BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20240117BHJP
B08B 17/02 20060101ALI20240117BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20240117BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240117BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240117BHJP
C09D 201/06 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
A01N47/12 Z
A01N43/80 102
A01N25/10
A01N31/08
A01N37/34 101
A01N41/10 A
A01P1/00
A01P3/00
B08B1/00
B08B3/02 Z
B08B3/04 Z
B08B17/02
C09D5/14
C09D5/16
C09D201/00
C09D201/06
(21)【出願番号】P 2019142796
(22)【出願日】2019-08-02
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2019107939
(32)【優先日】2019-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】伏見 麻由
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-256571(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169592(WO,A1)
【文献】特開2001-152051(JP,A)
【文献】特開2001-009361(JP,A)
【文献】国際公開第2008/004677(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/087810(WO,A1)
【文献】特開2018-178077(JP,A)
【文献】特開平09-309803(JP,A)
【文献】特開平01-311006(JP,A)
【文献】特開2014-080471(JP,A)
【文献】ACS Applied Materials & Interfaces,2017年,Vol.9, No.33,pp.27491-27503
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
B08B
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性表面層を有する衛生材料または生活用品であり、前記親水性表面層が、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、該親水性表面層の水接触角が60°以下である衛生材料または生活用品であり、
前記親水性表面層が、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つとスルホン酸基を有する高分子とを含有する親水性膜からなり、表面スルホン酸基濃度(Sa)と該親水性表面層の厚み1/2地点における深部スルホン酸基濃度(Da)の親水基濃度の傾斜度(Sa/Da)が1.1以上であり、
抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つが、ジヨードメチル-p-トリルスルフォン、3-ヨード-2-プロピニル-N-ブチルカルバメート、フェニルトリブロモメチルスルホン、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド、2-(4-チアゾイル)ベンズイミダゾール、p-クロロ-m-クレゾール、およびイソチアゾリン骨格を有する物質からなる群より選ばれる少なくとも1つで
あり、かつ、
前記抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つとして、3-ヨード-2-プロピニル-N-ブチルカルバメート、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-(4-チアゾイル)ベンズイミダゾールからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
衛生材料または生活用品。
【請求項2】
親水性表面層を有する衛生材料または生活用品であり、前記親水性表面層が、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、該親水性表面層の水接触角が60°以下である衛生材料または生活用品であり、
前記親水性表面層が、スルホン酸基と、重合性炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの官能基とを有する化合物(I)(ただし親水基が水酸基を有する基の場合は、重合性炭素-炭素二重結合を有する官能基は1つである。)、重合性炭素-炭素二重結合を有する官能基を2つ以上有する化合物(II)(ただし、水酸基は有してもよいが、アニオン性親水基、およびカチオン性親水基はいずれも有さない。)、および抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む重合性組成物を重合することにより得られる架橋樹脂からなる単層膜であり、
該単層膜のアニオン性親水基、カチオン性親水基、および水酸基から選ばれる少なくとも1つの親水基の表面濃度(Sa)と単層膜の膜厚1/2地点における親水基の深部濃度(Da)の親水基濃度の傾斜度(Sa/Da)が1.1以上であり、
抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つが、ジヨードメチル-p-トリルスルフォン、3-ヨード-2-プロピニル-N-ブチルカルバメート、フェニルトリブロモメチルスルホン、2,2-ジブロモ-2-シアノアセトアミド、2-(4-チアゾイル)ベンズイミダゾール、p-クロロ-m-クレゾール、およびイソチアゾリン骨格を有する物質からなる群より選ばれる少なくとも1つで
あり、かつ、
前記抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つとして、3-ヨード-2-プロピニル-N-ブチルカルバメート、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-(4-チアゾイル)ベンズイミダゾールからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、
衛生材料または生活用品。
【請求項3】
日用品、家具、電気製品、建材、水回り品または医療・介護用品として用いられる請求項1または2に記載の衛生材料または生活用品。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の衛生材料または生活用品の親水性表面層に付着した微生物を、水を用いて除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌の付着防止性、易ふき取り性に優れた衛生材料または生活用品、および微生物の除去方法に関する。さらに詳しくは、親水性表面層を有する衛生材料または生活用品、および微生物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の清潔志向や衛生向上の観点から、生活環境中の微生物を減少させることが求められている。特に医療機関においては、感染防止の為に微生物を防止する必要があり、建屋内や病室の頻繁な清掃が必要とされている。
【0003】
例えば、銀や亜鉛などを含有する抗菌性材料が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、銀や亜鉛などは、価格や生体毒性の点で課題を有している。
そこで、安価で多量に存在し、生体毒性の少ない、光触媒である酸化チタンを抗菌性材料として使用する試みが行われている(例えば、特許文献3参照)。しかし、光触媒は励起光として紫外線を必要とするため、太陽光照射が可能な屋外または屋内の窓周辺での利用に限られている。
上記のように、毒性の問題や使用場所の制限がなく、微生物を防止できるコーティングが求められていた。
【0004】
ところで、衛生材料または生活用品に付着した微生物を除去するには、酸、アルカリや界面活性剤等の洗浄剤、エタノールや次亜塩素酸ナトリウム等の消毒薬、プロテアーゼ等の分解酵素、スプレー、スクラバー等の物理的手段による表面洗浄方法が利用されている。
【0005】
しかしながらこれらの手段は、コストや手間を有する、化学薬品は使用環境が限られるなどの問題をも有していた。有機系溶剤は引火性や繰り返し使用による使用者の手荒れ、次亜塩素酸ナトリウムは金属腐食性といった問題も指摘される。すなわち、環境に対する負荷が低く簡便に微生物を除去する方法が求められている。
【0006】
上記課題を解決する手段として、本出願人は、特定の親水性表面層を有する衛生材料または生活用品等をすでに提案している。(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-255101号公報
【文献】特開2011-42642号公報
【文献】特開2003-275601号公報
【文献】特開2018-178077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献4の技術は、微生物が付着したとしても容易にふき取ることができ、また、清掃の手間や頻度を軽減できるという点で、優れた技術である。しかし、本発明者らの検討によると、その親水性表面層上には菌、カビなどの微生物の初期付着量が多い場合があるという課題があった。
【0009】
本発明は、微生物が付着しにくく、付着したとしても水で容易にふき取ることができる衛生材料または生活用品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の剤を含有し、かつ特定の水接触角を有する親水性表面を有する材料によれば、微生物の初期付着量を低減させるとともに、微生物が付着したとしても水を用いて容易に除去可能であることを見い出し本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の衛生材料または生活用品は、親水性表面層を有し、その親水性表面層が、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、該親水性表面層の水接触角が60°以下であることを特徴とする。
【0012】
前記衛生材料または生活用品は、日用品、家具、電気製品、建材、水回り品または医療・介護用品として用いられることが好ましい。
【0013】
前記親水性表面層は、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基、シラノール基、およびこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有することが好ましい。
前記親水性表面層は、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つとスルホン酸基を有する高分子とを含有する親水性膜からなり、表面スルホン酸基濃度(Sa)と該親水性表面層の厚み1/2地点における深部スルホン酸基濃度(Da)の比(Sa/Da)が1.1以上であることが好ましい。
前記親水性表面層は、スルホン酸基と、重合性炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの官能基とを有する化合物(I)(ただし親水基が水酸基を有する基の場合は、重合性炭素-炭素二重結合を有する官能基は1つである。)、重合性炭素-炭素二重結合を有する官能基を2つ以上有する化合物(II)(ただし、水酸基は有してもよいが、アニオン性親水基、およびカチオン性親水基はいずれも有さない。)、および抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む重合性組成物を重合することにより得られる架橋樹脂からなる単層膜であり、該単層膜のアニオン性親水基、カチオン性親水基、および水酸基から選ばれる少なくとも1つの親水基の表面濃度(Sa)と単層膜の膜厚1/2地点における親水基の深部濃度(Da)の親水基濃度の傾斜度(Sa/Da)が1.1以上であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、かつ水接触角が60°以下である親水性表面層に付着した微生物を除去する方法は、水を用いることに特徴がある。
【発明の効果】
【0015】
本発明の衛生材料または生活用品は、微生物が付着しにくく、付着したとしても水で容易にふき取ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の衛生材料または生活用品は親水性表面層を有し、その親水性表面層の水接触角は60°以下である。水接触角が60°以下であると、衛生材料または生活用品の表面は親水性が高く、微生物が付着したとしても容易にふき取ることができるようになる。また、親水性表面層は、水となじみ(濡れ)易いため、本発明の衛生材料または生活用品は、例えば、防曇性、防汚性、帯電防止性、およびほこり耐付着性にも優れることも期待できる。上記水接触角は、例えば、下記実施例に記載の方法により測定できる。
【0017】
親水性の向上、微生物の易洗浄性の向上の観点からは、上記水接触角は、好ましくは50°以下、より好ましくは30°以下、さらに好ましくは20°以下、とりわけ好ましくは10°以下である。なお上記水接触角は通常0°以上である。
【0018】
本発明の衛生材料または生活用品が有する上記親水性表面層は、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する。このような剤を親水性表面層が含有することにより、親水性表面層の有する親水性を損なうことなく、菌、カビなどの微生物の初期付着量を低減し、衛生材料または生活用品に微生物が付着しにくくすることが可能となる。
【0019】
上記親水性表面層が含有する抗菌剤または抗カビ剤としては、該表面層の親水性の発現を妨げない限り特に制限されないが、抗菌剤としてはハロゲンを含有する物質が好ましい傾向にあり、抗カビ剤としてはイソチアゾリン骨格を有する物質が好ましい傾向にある。これら抗菌剤または抗カビ剤は1種で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、抗菌剤および抗カビ剤を混合して用いてもよい。
【0020】
抗菌剤および抗カビ剤の上記親水性表面層中の含有量は、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.1~1重量%である。上記下限値未満の含有量であると、微生物の初期付着量抑制効果が十分ではない場合があり、上記上限値以上となると、上記親水性表面層の親水性発現を損なう場合がある。
【0021】
抗菌剤または抗カビ剤を含有する親水性表面層を作製する方法としては、親水性表面層に抗菌剤または抗カビ剤が含有され、本発明の効果が損なわれないかぎり特に制限はない。後述するように、親水性表面層が、抗菌剤または抗カビ剤、および親水基(例えばスルホン酸基)を有する高分子材料からなる場合には、例えば、抗菌剤または抗カビ剤、親水基を有する高分子材料、および溶剤を含有する組成物を物品に塗布し、その塗布物から溶剤を除去して親水性表面層を作製する方法、抗菌剤または抗カビ剤、および親水基を有する単量体を含む重合性組成物を物品に塗布して、熱または放射線等により該重合性組成物を重合(硬化)して、重合物(硬化物)からなる親水性表面層を作製する方法などが挙げられる。
【0022】
本発明の衛生材料または生活用品において親水性表面層は、水接触角を低減する為に、親水性を発現する化学構造として、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基、シラノール基、およびこれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を有することが好ましい。中でも、上記親水性表面層はスルホン酸基を有することがより好ましい。
【0023】
リン酸(エステル)基を有する親水性表面層としては、例えば、日油株式会社製「LIPIDURE」(登録商標)シリーズの単量体、特開平07-010892号公報に記載のホスホリルコリン基を有する親水性単量体などに代表されるリン酸基(リン酸エステル基を含む)または該リン酸塩基を含む単量体組成物の重合物からなる層が挙げられる。
【0024】
シラノール基を有する親水性表面層としては、例えば、大阪有機化学工業株式会社の「LAMBIC」(登録商標)に代表されるシラノール基を有するくし型ポリマーを含む組成物からなる層、特開2011-219637号公報に代表されるアルコキシシリル基を有する重合体およびチオール基を有するシランカップリング剤を含有する第1液と、(メタ)アクリルモノマーを含有する第2液とを混合して得られる表面改質材料からなる層、特開2012-007053号公報に代表される、(メタ)アクリル酸塩単量体とアルコキシシラン含有単量体を含む組成物の重合物からなる層が挙げられる。
【0025】
スルホン酸基を有する親水性表面層としては、例えば、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つとスルホン酸基を有する高分子とを含有する親水性膜からなり、表面スルホン酸基濃度(Sa)と該親水性表面層の厚み1/2地点における深部スルホン酸基濃度(Da)の比(Sa/Da)、すなわち親水基濃度の傾斜度(Sa/Da)が1.1以上である膜が挙げられる。なお、表面スルホン酸基濃度、深部スルホン酸基濃度は、例えば、飛行時間型2次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)により測定できる。スルホン酸基含有親水性表面層を形成できるスルホン酸基を有する高分子、該高分子を形成できる組成物としては、WO2007/064003国際公開パンフレットに記載の高分子膜を用いることができる。なお、WO2007/064003国際公開パンフレットに代表される技術の場合、スルホン酸基を有する高分子を形成可能な組成物(典型的にはスルホン酸基を有する(メタ)アクリレート)、多官能(メタ)アクリレート、および必要に応じて含まれる溶剤)に、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有させ、必要に応じて溶媒の除去をした後に重合することにより、スルホン酸基を有する親水性表面層が形成できる。
【0026】
スルホン酸基を有する親水性表面層としては、以下のものがさらに好ましい。
スルホン酸基と、重合性炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つの官能基とを有する化合物(I)(ただし親水基が水酸基を有する基の場合は、重合性炭素-炭素二重結合を有する官能基は1つである。)、重合性炭素-炭素二重結合を有する官能基を2つ以上有する化合物(II)(ただし、水酸基は有してもよいが、アニオン性親水基、およびカチオン性親水基はいずれも有さない。)および抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む重合性組成物を重合することにより得られる架橋樹脂からなる親水性膜、特に単層膜。
【0027】
重合前に調製された前記重合性組成物には溶剤が含まれていてもよい。溶剤としては、簡易計算法によって計算された溶解度パラメーター(SP値)σ(cal/cm3)1/2が9.0(cal/cm3)1/2以上の溶剤が好ましく、9.3(cal/cm3)1/2以上の溶剤がより好ましく、9.5(cal/cm3)1/2以上であればさらに好ましい。ただし、該有機溶媒には、スルホン酸基と強い相互作用をする化合物(例えば、メタノールアミン系化合物)が含まれていないことが望ましい。また、重合する際には、前記重合性組成物に含まれる溶媒は十分に除去(例えば、有機溶媒の残存量が10重量%以下)されていることが望ましい。
【0028】
前記重合性組成物は、さらに、アニオン性親水基、カチオン性親水基、または2つ以上の水酸基を有する親水部、および有機残基からなる疎水部を有する界面活性剤(III)、ならびにシロキサン結合を有する分子量200~1,000,000の化合物(IV)から選ばれる少なくとも1つの化合物(ただし、界面活性剤(III)および化合物(IV)は重合性炭素-炭素二重結合を有さない。)を含んでもよい。
【0029】
前記親水性膜(単層膜)のアニオン性親水基、カチオン性親水基、および水酸基から選ばれる少なくとも1つの親水基の表面濃度(Sa)と単層膜の膜厚1/2地点における親水基の深部濃度(Da)の親水基濃度の傾斜度(Sa/Da)が、1.1以上であることが好ましい。なお、親水基の表面濃度、および親水基の深部濃度は、例えば、飛行時間型2次イオン質量分析装置(TOF-SIMS)により測定できる。
【0030】
前記単層膜のスルホン酸基の表面濃度(Sa)と単層膜の膜厚1/2地点におけるスルホン酸基の深部濃度(Da)のスルホン酸基濃度の傾斜度(Sa/Da)が、1.1以上であることがより好ましい。
【0031】
抗菌剤または抗カビ剤をさらに添加して、用い得る重合性組成物としては、例えば、WO2015/087810国際公開パンフレットに記載の単層膜の製造に用いる組成物が挙げられる。
【0032】
本発明で得られる抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、かつ水接触角が60°以下である親水性表面層では、その親水性表面層に付着した微生物を、水を用いて除去することができる。
【0033】
例えば膜(MEMBRANE),Vol. 18 (2), 107-116 (1993)に記載のように、スルホン酸基を有する表面がタンパクを吸着させやすいことが知られている。そのため、吸着成分としてタンパクを使う細胞成分は吸着しやすいと予想される。しかし、本発明の親水性表面層からは微生物を容易に除去できる。
【0034】
水を用いて親水性表面層に付着した微生物を除去する方法としては、例えば、流水または水を含むスプレーで微生物を洗い流す方法、水を含むウェスまたは布類で微生物をふき取る方法、水中に本発明の衛生材料または生活用品を浸漬する方法、衛生材料または生活用品の浸漬に加え、振とうまたは超音波洗浄を行う方法などが挙げられる。
【0035】
親水性表面層に付着した微生物を除去するために用いる水には、洗浄効果を高めるために、界面活性剤または添加剤などが含まれていてもよい。
【0036】
本発明の衛生材料または生活用品が有する親水性表面は、上述した範囲の水接触角を有する。そのため、親水性が高く、水となじみ(濡れ)やすく親水性材料として優れる。この親水性に由来して、菌またはカビなどの微生物が付着したとしても容易にふき取ることができる。このため清掃の手間や頻度を軽減することができる。
【0037】
本発明の親水性表面層を有する衛生材料または生活用品は、例えば、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つ、高分子材料、および溶剤を含有する組成物を基材などの物品に塗布して、これから溶剤を除去する方法、抗菌剤および抗カビ剤からなる群から選ばれる少なくとも1つ、単量体、ならびに必要に応じて含まれる溶剤を含有する重合性組成物を基材などの物品に塗布して、必要に応じて溶剤を除去した後に、熱、放射線等により重合する方法、により作製できる。
【0038】
また、上記方法に替えて、フィルムまたはシート状の基材に上記組成物の塗布等により親水性表面層を有する基材を作製し、得られた親水性表面層を有するフィルムまたはシート状の基材を物品に貼り合わせて、衛生材料または生活用品を作製してもよい。
【0039】
上記基材などの物品としては、例えば、ガラス、シリカなどのセラミックス、金属、金属酸化物等の無機材料からなる物品;ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、紙、パルプ等の有機材料からなる物品;不飽和ポリエステル樹脂と炭酸カルシウムなどの充填材とガラス繊維などを複合したSMCおよびBMCなどの有機-無機複合材料からなる物品;上記無機材料、有機材料、または有機-無機複合材料からなる物品の表面に塗料等を塗布して、塗膜が形成された、塗膜を有する物品等が挙げられる。
上記基材などの物品は、汚れふき取り性の観点から連続した平滑面を有する物品が好ましい。
【0040】
また、これら物品の表面は必要に応じて、物品表面を活性化することを目的に、コロナ処理、オゾン処理、酸素ガスもしくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等による酸化処理、火炎処理等の物理的または化学的処理を施すこともできる。またこれら処理に替えてあるいはこれら処理に加えてプライマー処理、アンダーコート処理、アンカーコート処理を施してもよい。
【0041】
上記プライマー処理、アンダーコート処理、またはアンカーコート処理に用いるコート剤としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンおよびポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂もしくはその共重合体またはこれら樹脂もしくは共重合体を変性した樹脂、セルロース系樹脂等の樹脂をビヒクルの主成分とするコート剤を用いることができる。上記コート剤としては、溶剤型コート剤、水性型コート剤のいずれであってもよい。
【0042】
これらコート剤の中でも、変性ポリオレフィン系コート剤、エチルビニルアルコール系コート剤、ポリエチレンイミン系コート剤、ポリブタジエン系コート剤、ポリウレタン系コート剤;
ポリエステル系ポリウレタンエマルジョンコート剤、ポリ塩化ビニルエマルジョンコート剤、ウレタンアクリルエマルジョンコート剤、シリコンアクリルエマルジョンコート剤、酢酸ビニルアクリルエマルジョンコート剤、アクリルエマルジョンコート剤;
スチレン-ブタジエン共重合体ラテックスコート剤、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体ラテックスコート剤、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体ラテックスコート剤、クロロプレンラテックスコート剤、ポリブタジエンラテックスのゴム系ラテックスコート剤、ポリアクリル酸エステルラテックスコート剤、ポリ塩化ビニリデンラテックスコート剤、ポリブタジエンラテックスコート剤、あるいはこれらラテックスコート剤に含まれる樹脂のカルボン酸変性物ラテックスもしくはディスパージョンからなるコート剤が好ましい。
【0043】
これらコート剤は、例えば、グラビアコート法、リバ-スロ-ルコート法、ナイフコート法、キスコート法などにより塗布することができ、基材への塗布量は、組成物に含まれる溶剤の除去した状態で、通常0.05g/m2~10g/m2、好ましくは0.05g/m2~5g/m2である。
【0044】
これらコート剤の中では、ポリウレタン系コート剤がより好ましい。ポリウレタン系コート剤は、そのコート剤に含まれる樹脂の主鎖あるいは側鎖にウレタン結合を有するものである。ポリウレタン系コート剤は、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、またはアクリルポリオールなどのポリオールとイソシアネート化合物とを反応させて得られるポリウレタンを含むコート剤である。
これらポリウレタン系コート剤の中でも、縮合系ポリエステルポリオール、ラクトン系ポリエステルポリオールなどのポリエステルポリオールとトリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等のイソシアネート化合物とを混合して得られるポリウレタン系コート剤が、密着性に優れているため好ましい。
ポリオール化合物とイソシアネート化合物とを混合する方法は、特に限定されない。また配合比も特に制限されないが、イソシアネート化合物が少なすぎると硬化不良を引き起こす場合があるためポリオール化合物のOH基とイソシアネート化合物のNCO基が当量換算でNCO基/OH基=2/1~1/40の範囲であることが好適である。
【0045】
本発明の衛生材料または生活用品では、その親水性表面層を形成させる表面は、上記表面活性化処理された部分を含んでもよい。
【0046】
このようにして衛生材料または生活用品の表面に前記親水性表面層(例:単層膜)を形成したものは、基材などの物品と親水性表面層(例:単層膜)とを含む積層体となったものである。衛生材料または生活用品に含まれる親水性表面層は、その親水性の性質に由来して、防曇性、防汚性、速乾性、または帯電防止性などの機能を有する場合もある。
【0047】
また、本発明の衛生材料または生活用品がフィルム状またはシート状の物品である場合には、例えば、前記親水性表面層(例:単層膜)を形成しない面に、後述の粘着層を設けることもできる。さらにその粘着層の表面に剥離フィルムを設けることもできる。フィルム状またはシート状の物品の他の片面に粘着層を積層しておくと、前記親水性表面層(例:単層膜)を有するフィルム状またはシート状の物品(積層体)として、ガラス、浴室等の鏡、ディスプレイ、テレビ等の表示材料表面、看板、広告、案内板等の案内板、鉄道、道路等の標識、建物の外壁、窓ガラス等に容易に貼付できる。
【0048】
粘着層に用いる粘着剤は特に制限はなく、公知の粘着剤を用いることができる。粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ビニルエーテルポリマー系粘着剤、およびシリコーン粘着剤等が挙げられる。粘着層の厚さは通常2~50μmの範囲、好ましくは5~30μmの範囲である。
【0049】
また、本発明の衛生材料または生活用品が有する親水性表面層(例:単層膜)は、外気に接するその表面が被覆材で被覆されていてもよい。被覆材により親水性表面層が被覆されている場合、輸送、保管、陳列等する際に、親水性表面層が傷ついたり、汚れたりするのを防ぐことができる。上記被覆材は通常フィルムまたはシートである。上記被覆材として好ましく用いられる材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアセチルセルロース(TAC)、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系重合体、ポリアクリルアミド、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン(PS)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)が挙げられる。
【0050】
本発明の衛生材料または生活用品は、微生物が付着しにくく、付着したとしても水で容易にふき取ることができるため、種々の用途に用いることができる。本発明の衛生材料または生活用品としては、例えば、日用品、家具、電気製品、建材、水回り品または医療・介護用品に好適に用いることができる。
【0051】
日用品としては、例えば、テーブルクロス、文具、玩具、洗面具、化粧道具、食器などが挙げられる。
家具および電気製品としては、例えば、テーブル、家具外面、ベッド、モバイル端末外面、パソコン筐体、パソコン周辺機器、各種家電製品(加湿器、エアコン、洗濯機、掃除機)などが挙げられる。
建材としては、例えば、床面、手摺、壁(内装用)、ドアノブ、化粧台、カウンター、窓ガラス、サッシなどが挙げられる。
水回り品としては、例えば、浴室浴槽、浴室床、浴室鏡、浴室壁面、浴室天井、便座、便器、シンク、まな板、調理器具、洗面台、洗面台鏡などが挙げられる。
医療・介護用品としては、例えば、医療介護施設(床、壁、手摺)、医療用ベッド、食事用トレイ、医療機器、杖などが挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
[調製例1](重合性組成物A'の調製)
下記表1に記載の配合比に従い、固形分80質量%の均一な重合性組成物A'を調製した。
【0054】
【0055】
【0056】
[調製例2](10重量%界面活性剤含有液の調製)
ジステアリルスルホコハク酸ナトリウム(以下DS-Naと略す)10g、水30g、および1-メトキシ-2-プロパノール(以下PGMと略す)60gをホモミキサー(プライミクス株式会社,ロボミックス(登録商標)S-model)を用いて15000rpmで3分間かき混ぜ、10重量%DS-Naを含有する液を調製した。
【0057】
【0058】
[調製例3]
(コーティング用組成物A'の調製)
調製例1で得た重合性組成物A'10.0gに、界面活性剤を含む液として調製例2で得た10重量%DS-Na含有液0.11g、UV重合開始剤としてダロキュア 1173(BASF社製) 0.24g、および希釈溶剤としてPGM10.3gを加えて混合し、固形分40重量%のコーティング用組成物A'を調製した。
【0059】
親水性表面層等の物性評価は、下記のようにして行った。
【0060】
<水接触角の測定>
協和界面科学社製の水接触角測定装置CA-V型を用いて、1サンプルについて3箇所測定し、これら値の平均値を水接触角の値とした。
【0061】
[比較実験例1]
易接着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムであるルミラーU403(膜厚100μm・東レ(株)社製)そのものの表面の水接触角を上記方法にしたがって測定した。結果を表1に示す。
【0062】
[比較実験例2]
(親水性表面層0を有するPETフィルムの作製)
PETフィルム ルミラーU403の両面に、上記調製例3で得たコーティング用組成物A'をバーコーター#06で塗布し、温風乾燥機に2分間入れて60℃で組成物中に含まれる溶剤を除去して、未硬化層を有するPETフィルムを得た。
上記未硬化層を有するPETフィルムを、UVコンベアー内を一度通過させてUV照射し(無電極Hバルブ 積算照度240W/cm2,積算光量200mJ/cm2,(積算照度、積算光量は、Electronic Instrumentation & Technology, Inc.,のUV Power Puck IIにより測定))、PETフィルム上に膜厚3μmの親水性表面層(架橋樹脂からなる単層膜)を形成させた。得られたPETフィルム上の親水性表面層を親水性表面層0とした。水接触角を上記方法にしたがって測定したところ、親水性表面層0の水接触角は6度であった。結果を表2に示す。
【0063】
[実験例1]
(親水性表面層1を有するPETフィルムの作製)
上記調製例3で得たコーティング組成液A'に、抗菌剤としてジヨードメチル-p-トリルスルフォン(三井化学(株)製)を、コーティング組成液A'に含まれる固形分に対し0.2重量%となるように添加し、その後、得られるコーティング用組成物の固形分が40重量%となるように溶剤として1-メトキシ-2-プロパノールを添加して、固形分40重量%のコーティング用組成物A1を得た。
【0064】
PETフィルム ルミラーU403の両面に、上記コーティング用組成物A1をバーコーター#06で塗布し、温風乾燥機に2分間入れて60℃で組成物中に含まれる溶剤を除去して、未硬化層を有するPETフィルムを得た。
上記未硬化層を有するPETフィルムを、UVコンベアー内を一度通過させてUV照射(無電極Hバルブ 照度240W/cm2,積算光量200mJ/cm2)し、PETフィルム上に膜厚3μmの親水性表面層(架橋樹脂からなる単層膜)を形成させた。得られたPETフィルム上の親水性表面層を親水性表面層1とした。水接触角を上記方法にしたがって測定したところ、親水性表面層1の水接触角は8度であった。結果を表2に示す。
【0065】
[実験例2~12]
(親水性表面層2~12を有するPETフィルムの作製)
抗菌剤または抗カビ剤の種類およびその添加量を、下記表2に記載のように変更する以外は、実験例1と同様にして、固形分40重量%のコーティング用組成物A2~A12をそれぞれ得て、さらに未硬化層を有するPETフィルムを得た。
実験例1と同様の条件で、未硬化層を有するPETフィルムにUV照射を行い、PETフィルム上に膜厚3μmの親水性表面層(架橋樹脂からなる単層膜)2~12をそれぞれ形成させた。水接触角を上記方法にしたがって測定した。それらの結果を表2にまとめる。
【0066】
【0067】
[比較例1、2および実施例1~8]
下記表3に記載の、比較実験例または実験例で得られたPETフィルムを用いて、下記のようにして、抗菌性試験を行った。抗菌性試験の結果は下記表3にまとめる。
【0068】
(抗菌性試験)
大腸菌NBRC3972株を普通寒天斜面培地(Merck社、普通寒天培地)で35℃、一晩培養した。増殖した菌体の一白金耳を採取し、1/500ブイヨン液体培地 40ml(Merck社、普通ブイヨン)に懸濁しO.D.550を測定し、O.D.が0.1になる様に調整した。この懸濁液を100mlの1/500ブイヨン液体培地に1ml添加、混合し104~106cfu/mlになるように、菌液を調製した。
【0069】
この菌液400μlを、プラスティックシャーレ(アズワン社、アズノール滅菌シャーレ)に入れた各実験例または比較実験例で得たPETフィルムから切り出した試験片(50mm×50mm)上に添加し、OPPフィルム(三井化学東セロ(株)社、OP U-0、40mm×40mm)をかぶせ菌液が均一に広がるようにした。シャーレと水を入れた小瓶をタッパーに入れ、35℃で24時間培養した。
培養後、上にかぶせたOPPフィルムをはがし、菌液をプラスティックシャーレに移した。OPPフィルムの菌液が接触した面、試験片の菌液が接触した面をそれぞれSCDLP溶液(日本製薬社、SCDLP培地「ダイゴ」)(1ml×5回)で洗浄し、洗浄液を先ほどのプラスティックシャーレ(アズワン社、直径85mm)に集めた。この洗浄液を、以下に示すリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBS)を用いて100倍または10000倍に希釈した溶液Xを作製した。
【0070】
PBSの調整
水400mlに塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)社)3.4gを溶解、滅菌し生理食塩水を作製した。水10mlにりん酸二水素カリウム(純正化学(株)社)を溶解、滅菌し、リン酸緩衝液を作製した。生理食塩水400mlにリン酸緩衝液 0.5mlを加えPBSを作製した。
【0071】
試験片の洗浄液の生菌数測定
試験片洗浄液である上記溶液中Xにおける生菌数は、シスメックス・ビオメリュー(株)社の自動生菌数測定装置テンポ、およびテンポ試薬としてテンポCC一般生菌計数キット(培地バイヤルと培地カード)を使用し、下記の手順で測定した。
培地バイヤルに、滅菌精製水3.0mlと溶液X 1mlを添加し、ボルテックスミキサーで混合した。この培地バイヤルと培地カードを充填ラックに立て、テンポフィラーにセットし、培地カードに培地を充填した。充填が終了した培地カードは読み取りラックにセットし、35℃の恒温器に入れた。22~26時間培養後、読み取りラックをテンポリーダーにセットし、溶液X1ml当たりの生菌数を測定した。
無塗装のルミラーU403上で発生した生菌数に比べて、菌が確認されなかったものを◎、菌は確認されるが1%未満のものを〇、それ以上のものを×と評価した。結果を表3にまとめる。
【0072】
【0073】
[比較例3、4および実施例9~20]
下記表6に記載の、比較実験例または実験例で得られたPETフィルムを用いて、下記のようにして、抗カビ性試験を行った。
【0074】
(抗カビ性試験)
混合胞子懸濁液の作製
下記表4に示す5種類のカビをPDA培地(ポテトデキストロース寒天培地)で28℃、7~20日間前培養した。
【0075】
【0076】
培養後、斜面培地に0.05%の湿潤剤を含む精製水を10mlずつ分注し、胞子懸濁液を作製した。その後滅菌したグルコース添加無機塩溶液に胞子を懸濁し、胞子数106個/mlになるように調整した。得られた単一胞子液を等容量ずつ混合し混合胞子懸濁液を作製した。
【0077】
カビの接種と培養
グルコース添加無機塩寒天培地の表面に混合胞子懸濁液を約0.4ml滴下し、培地の全面に拡散させた。培地表面の乾燥後、各実験例または比較実験例で得たPETフィルムから切り出した試験片(50mm×50mm)が密着するように置き、試験片表面に、再度、混合胞子懸濁液を0.1ml滴下し全体に塗抹した後、24±1℃、相対湿度95%以上で培養した。1種類の試験片につきN=5で試験を行った。
別途、25mm×25mmの滅菌した紙片1枚を用いて、試料と同様に寒天培地上で培養し、7日毎にカビの発育を確認し、これを対照とした。試料の培養期間は28日間とした。
【0078】
抗カビ性の判定
抗カビ性の観測は1週間ごとに行い、各試験片の観測結果は、下記表5に記載のランクを基準に判定した。判定結果は、N=5の平均値(小数点第1位で四捨五入)で示した。また、1週間後~4週間の各週間後の、親水性表面層を有さないPETフィルム(比較例3)に対するランクの差を求めた。顕微鏡の観察条件:実体顕微鏡 SZX16(オリンパス株式会社製)を用いて倍率10倍で観察した。
親水性表面層を有さないPETフィルム(比較例3)上の菌糸発育ランクの判定結果に比べて、1週間後~4週間後のランクの差の平均が1.5ランク未満の改善しかみられないもの、または全く改善がみられないものを×、1.5ランク以上3.0ランク未満の改善がみられるものを△、3.0ランク以上4.8ランク未満の改善がみられるものを〇、全期間でランク0を維持したものを◎とした。結果を表6にまとめる。
【0079】
【0080】
【0081】
[比較例5、6および実施例21、22]
下記表7に記載の、比較実験例または実験例で得られたPETフィルムを用いて、下記のようにして、菌の易洗浄性試験を行った。
【0082】
(菌の易洗浄性試験)
大腸菌NBRC3972株を普通寒天斜面培地で35℃、一晩培養した。増殖した菌体の一白金耳を採取し、前記PBSに入れボルテックスを用いて分散した。LB培地にPBSを加え、菌数が104~106 cfu/mlになる様に調整し菌懸濁液とした。この菌懸濁液20mlをプラスティックシャーレに入れ、各実験例または比較実験例で得たPETフィルムから切り出した試験片(70mm×20mm)を投入し、35℃で4時間培養した。培養後、試験片をピンセットを用いて取り出しPBS40mlを加えた50mlチューブに入れ30秒ボルテックスを行った。この作業を3回繰り返した後、試験片を取り出し乾燥した。乾燥した試験片をプラスティックシャーレに入れ試験片にLB培地200μlを滴下後、OPPフィルム(60mm×15mm)をかぶせ培地が均一に広がる様にした。シャーレと水を入れた小瓶をタッパーに入れ、35℃で24時間培養した。
培養後、上にかぶせたOPPフィルムをはがし、菌液をプラスティックシャーレに移した。OPPフィルムの菌液が接触した面、試験片の菌液が接触した面をそれぞれLB培地(1ml×5回)で洗浄し、洗浄液を先ほどのプラスティックシャーレ(アズワン社、直径85mm)に集めた。この洗浄液を、PBS溶液を用いて100倍または10000倍に希釈した溶液Yを作製した。
【0083】
試験片の洗浄液の生菌数測定
寒天培地に、上記溶液Y100μlを均一に塗布し、35℃で24時間培養し、コロニー数をカウントした。
親水性表面層を有さないPETフィルム(比較例5)上で発生した生菌数に比べて、1%以上10%未満のものを△、1%未満のものを〇と評価した。結果を表7にまとめる
【0084】
【0085】
[比較例7、8および実施例23、24、25]
下記表8に記載の、比較実験例または実験例で得られたPETフィルムを用いて、下記のようにして、カビの易洗浄性試験を行った。
【0086】
(カビの易洗浄性試験)
混合胞子懸濁液の作製
上記表4に示す5種類のカビをPDA培地(ポテトデキストロース寒天培地)で28℃、7~20日間前培養した。
培養後、斜面培地に0.05%の湿潤剤を含む精製水を10mlずつ分注し、胞子懸濁液を作製した。その後滅菌したグルコース添加無機塩溶液に胞子を懸濁し、胞子数106個/mlになるように調整した。得られた単一胞子液を等容量ずつ混合し混合胞子懸濁液を作製した。
【0087】
カビの接種と培養
グルコース添加無機塩寒天培地の表面に混合胞子懸濁液を約0.4ml滴下し、培地の全面に拡散させた。培地表面の乾燥後、各実験例または比較実験例で得たPETフィルムから切り出した試験片(50mm×50mm)が密着するように置き、試験片表面に、再度、混合胞子懸濁液を0.1ml滴下し全体に塗抹した後、24±1℃、相対湿度95%以上で7日間培養した。
【0088】
カビの洗浄
試験片を培地からピンセットを用いて取り出してプラスティックシャーレに入れ、PBSを20ml入れ30秒間ボルテックス洗浄した。この作業を3回繰り返した。
【0089】
評価
洗浄した試験片をPBSですすいだ後、目視で確認できるカビが試験片上に全くない場合は◎、フィルムの面積中10%以下の場合〇、10%以上の場合を×とした。結果を表8にまとめる。
【0090】
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の衛生材料または生活用品は、菌、カビなどの微生物が付着しにくく、また付着したとしても容易にふき取ることができる。このため清掃の手間や頻度を軽減することができる。したがって、前述した種々の用途に有用である。