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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】波形スレート葺き屋根の改修方法
(51)【国際特許分類】
   E04D 3/00 20060101AFI20240117BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240117BHJP
   E04G 23/03 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
E04D3/00 N
E04D3/00 T
E04G23/02 H
E04G23/03
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019149440
(22)【出願日】2019-08-16
(65)【公開番号】P2021031857
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】押田 博之
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-063872(JP,A)
【文献】特開2007-154624(JP,A)
【文献】特開2009-013663(JP,A)
【文献】特開2002-371673(JP,A)
【文献】特開2010-065506(JP,A)
【文献】特開平04-020643(JP,A)
【文献】特開2012-087537(JP,A)
【文献】特開2005-256374(JP,A)
【文献】特開2003-129614(JP,A)
【文献】特開平10-219936(JP,A)
【文献】韓国登録実用新案第20-0392080(KR,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 3/00- 3/40
E04B 7/00- 7/24
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に沿い山部と谷部が交互に連なり、該山部のうちの少なくとも一つの山部を貫いて母屋に連係するフックボルトを介して固定保持された波形スレート葺き屋根につき、その波形スレート葺き屋根の上方に、固定金具を介して金属製屋根材を設置、配列して新規な屋根を葺きあげることにより該波形スレート葺き屋根を改修する方法において、
前記波形スレート葺き屋根は、幅方向に第1の働き幅を有し、
前記金属製屋根材は、山部と谷部が交互に連なる波形形状をなすとともに、幅方向に前記第1の働き幅とは異なる第2の働き幅を有する屋根材であり、
前記波形スレート葺き屋根は、前記幅方向の端部を重ね合わせた重ね合わせ部分の山部と、前記幅方向において当該重ね合わせ部分の山部から前記第1の働き幅の半分の距離に位置する山部とにおいて前記フックボルトにより固定され、
前記固定金具は、前記波形スレート葺き屋根の山部のうち、前記フックボルトが位置する山部のほか、新たに座金付きビスが打ち込まれる山部に設置され、
前記座金付きビスは、前記金属製屋根材の設置開始点、及び当該設置開始点から前記第2の働き幅を重ね合わせた位置の各々に存在する前記波形スレート葺き屋根の山部のうち、前記波形スレート葺き屋根の重ね合わせ部分と、当該重ね合わせ部分の山部から前記第1の働き幅の半分の距離に位置する山部とを除いた山部に対して前記母屋に打ち込まれ、
前記波形スレート葺き屋根の山部のうちの複数個所の山部に固定金具をそれぞれ設置したのち、該固定金具を介して前記金属製屋根材を固定し、
前記固定金具は、前記波形スレート葺き屋根と新規な屋根の相互間に断熱材の配置空間を区画形成する高さを備えた標準固定金具と、該標準固定金具よりも5~10mm高い高さを備えた長身固定金具の二種からなり、
前記標準固定金具は、波形スレート葺き屋根の重ね合わせ部分に位置するフックボルトを基準にして、該フックボルトが位置する山部と、その山部を両側に挟む2つの山部とに対して用いられ、
前記長身固定金具は、前記幅方向において前記波形スレート葺き屋根が有する山部のうち、前記重ね合わせ部分の山部から前記第1の働き幅の半分の距離に位置する山部と、その山部を両側に挟む2つの山部とに対して用いられる
ことを特徴とする波形スレート葺き屋根の改修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の波形スレート葺き屋根の上に金属製屋根材を載置して該波形スレート葺き屋根そのものを覆い隠すことにより劣化した屋根材を取り外すことなしに波形スレート葺き屋根を改修しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
波形スレート葺き屋根は、幅方向(働き幅方向)に沿い山部と谷部を交互に連続的に連なる波形形状を有する屋根材を用いて葺きあげられる屋根であり、屋根の効率的な構築が可能であることから、とくに大型工場や倉庫、体育館等に広く適用されている。
【0003】
従来、この種の屋根は、経年劣化等により劣化して改修する必要が生じた場合、既設の波形スレート葺き屋根の上に、同等の断面形状をなす金属製屋根材を施設して覆い隠すことによって改修するのが普通であり、この点に関する先行技術としては、例えば、特許文献1に開示された波形スレート屋根改修方法が知られている。
【0004】
上記文献に開示された工法は、波形スレート屋根と母屋材を連結すると共に、該波形スレート屋根の波形山部上に吐出した既設のフックボルトをそのまま利用し、波形山部上に突出した既設のフックボルトにタップを切って新たに雄ねじ部を形成する第1工程と、この第1工程で形成された雄ねじ部に座板を貫挿して固定ナットを螺挿して、該座板を波形山部上跨って固定する第2工程と、この第2工程で固定された座板上に、長尺状の金属製タルキを該波形山部と直角方向に間隔を有して複数列に亘って固定する第3工程と、この第3工程で固定された金属製タルキ上に、複数の台形状山部を備えて形成された鋼板製屋根材を設置する第4工程とからなるものであって、かかる工法によれば、既存の波形スレート屋根に全く手を加えることなしに改修作業を行うことができるとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-130441号公報
【0006】
ところで、上記の従来技術にあっては、金属製タルキ等の余計な部材が必要であり、その取り付けにも手間がかかることからコスト上昇が避けられないばかりか、波形スレート屋根の効率的な改修が行えるとはいえないものであった。また、波形スレート屋根の改修に際しては、既存の屋根と新規な屋根との相互間に断熱材を充填することが要望されることもあるが、従来技術を適用した波形スレート屋根の改修においては、金属製タルキが設置されている部分に大きな断熱欠損が生じる不具合を有していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、金属製タルキ等の部材を不要とし、かつ、既存の波形スレート葺き屋根と新規な屋根との相互間に断熱材を充填するのに十分な空間を確保できる波形スレート葺き屋根の改修方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、幅方向に沿い山部と谷部が交互に連なり、該山部のうちの少なくとも一つの山部を貫いて母屋に連係するフックボルトを介して固定保持された波形スレート葺き屋根につき、その波形スレート葺き屋根の上方に、金属製屋根材を設置、配列して新規な屋根を葺きあげることにより該波形スレート葺き屋根を改修する方法において、
前記波形スレート葺き屋根の山部のうちの複数個所の山部に固定金具をそれぞれ設置したのち、該固定金具を介して前記金属屋根材を固定することを特徴とする波形スレート葺き屋根の改修方法である。
【0009】
上記の構成からなる波形スレート葺き屋根の改修方法において、前記固定金具は、前記フックボルトが位置する山部と、該フックボルトが存在しない山部を貫いて母屋に打ち込まれた座金付きビスが位置する山部に設置すること、また、前記金属製屋根材は、山部と谷部が交互に連なる波形形状をなす屋根材であること、また、前記固定金具は、前記波形スレート葺き屋根と新規な屋根の相互間に断熱材の配置空間を区画形成する高さを備えた標準固定金具と、該標準固定金具よりも5~10mm高い高さを備えた長身固定金具の二種からなること、さらに、前記標準固定金具は、波形スレート葺き屋根の重ね合わせ部分に位置するフックボルトを基準にして、該フックボルトが位置する山部と、その山部を両側に挟む2つ山部においてのみ用いられるものであること、が課題解決のための具体的手段として好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、波形スレート葺き屋根の複数個所の山部に固定金具を設置して、その設置された固定金具を利用して金属製屋根材を設置、配列して波形スレート葺き屋根の上に新規な屋根を葺きあげるようにしたため、既存の屋根の屋根材と新規な屋根の屋根材の働き幅に違いがあったとしても金属製タルキ等のような余計な部材を用いることなしに波形スレート葺き屋根の改修が可能となる。
【0011】
また、本発明によれば、固定金具を使用することにより既存の波形スレート葺き屋根と新規な屋根との間に空間が形成されるため、その空間を利用して断熱材を配置することができる。
【0012】
また、本発明によれば、波形スレート葺き屋根の重ね合わせ部分に位置するフックボルトを基準にして、そのフックボルトが位置する山部とその山部を両側において挟む2つの山部においてのみ標準固定金具を用いるようにしたため、新規な屋根を葺きあげる際に、金属製屋根材を水平姿勢に保持して固定することが可能となり、新規な屋根の美観を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】波形スレート葺き屋根の正面を一部分について示した図である。
図2】(a)(b)は、固定金具の構成を模式的に示した図である。
図3】波形スレート葺き屋根の改修状況を示した図である。
図4】座金付きビスを設けて固定金具を固定した状況を示した図である。
図5】金属製屋根材が傾いて取り付けられた状態を示した図である。
図6】固定金具の設置パターンを示した図である。
図7】フックボルトを利用して固定金具を固定した場合と、座金付きビスを使用して固定金具を固定した場合の固定状況を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
図1は、幅方向に沿い山部と谷部が交互に連なる波形スレート葺き屋根の正面を一部分について示した図である。
【0015】
通常、この種の波形スレート葺き屋根は、例えば、働き幅が780mmになる屋根材を複数枚用い、隣接配置される屋根材との相互間で幅方向の端部に重ね合わせ部分1を形成するとともに、重ね合わせ部分1に位置する山部2a(山部2aから次の山部2aに至るまでの直線寸法W:780mm)、屋根材の幅方向の中間部分に位置する山部2b(山部2aから山部2bに至るまでの直線寸法W1が390mm)にそれら山部を貫いて母屋3に連係するフックボルト4を介して屋根材を固定保持(直線寸法Wの間にフックボルト4を1本配置して固定する場合)するか、あるいは、直線寸法W1を260mmとして、直線寸法Wの間に2本のフックボルト4を等間隔に配置して屋根材を固定保持することにより葺きあげられている。
【0016】
本発明は、かかる波形スレート葺き屋根において、該波形スレート葺き屋根の山部に図2(a)(b)に示すような固定金具5をそれぞれ配置し、図3に示すように該固定金具5を介して金属製屋根材6を固定することにより新規な屋根を葺きあげるものである。
【0017】
本発明においては、金属製屋根材6として、山部と谷部が交互に連なる波形形状をなす屋根材を用いることできる。また、固定金具5としては、一対の係止片5aを備え該一対の係止片5aをフックボルト4のナット4aの下面に挿し込み、固定金具5の本体部分に設けられたボルト5bをねじ込み、係止片5aによりナット4aを抱き込むことにより波形スレート葺き屋根に固定するとともに、その天面壁5cにて金属製屋根材6の山部をビス5dで係止する構造のものを用いることができる。
【0018】
波形スレート葺き屋根を構成する屋根材の働き幅が780mmであり、金属製屋根材6として、例えば、働き幅が650mmになる屋根材を使用して波形スレート葺き屋根の改修を行う場合、使用する金属製屋根材6の働き幅は、波形スレート葺き屋根の働き幅よりも小さくなるため、フックボルト4を利用して固定金具5を固定しても金属製屋根材6を固定することができない箇所が生じる。
【0019】
このため、本発明では、図4に示すように、フックボルト4が存在しない山部については、その山部を貫いて母屋3に打ち込むことができる座金付きビス7を設け、この座金付きビス7を用いて固定金具5を固定する。
【0020】
本発明においては、波形スレート葺き屋根の複数個所の山部に固定金具5を設置して、その設置された固定金具5を利用して金属製屋根材6を設置、配列して波形スレート葺き屋根の上に新規な屋根を葺きあげるようにしたため、金属製タルキ等のような余計な部材を用いることなしに波形スレート葺き屋根の改修が可能であり、しかも、固定金具5を使用することにより既存の波形スレート葺き屋根と新規な屋根との間に空間Mを形成することが可能であり、その空間Mを利用して断熱材を配置することができる。
【0021】
波形スレート葺き屋根は、幅方向の端部を重ねあわせて重ね合わせ部分1を形成しながら屋根の葺きあげを行うものであり、重ね合わせ部分1には、その厚さ分だけ段差が形成されることから、同じ高さを有する固定金具5を使用して新規な屋根を葺きあげると、図5に示すように、金属製屋根材6が傾いて固定されることとなり、新規な屋根の美観が損なわれることも懸念される。
【0022】
本発明では、断熱材を充填するのに充分な空間Mを形成することができる高さを持った標準的な固定金具(標準固定金具)5Aと、上記段差を考慮に入れて標準固定金具5Aよりも5~10mm程度高い固定金具(長身固定金具)5Bの2種を用いて新規な屋根の水平姿勢を保持して美観を保つものである。
【0023】
標準固定金具5Aは、図1に示すように、波形スレート葺き屋根の重ね合わせ部分1に位置するフックボルト4を基準にして、該フックボルト4が位置する山部と、その山部を両側に挟む2つの山部においてのみ用い(図1のLの領域)、その他の部位には長身固定金具5Bを用いればよく、これにより金属製屋根材6をほぼ水平姿勢で固定保持することか可能であり、美観の良好な新規な屋根を葺きあげることができる。
【0024】
図6は、働き幅が780mmになる波形スレート葺き屋根の上に、働き幅が650mmになる金属製屋根材6を設置して波形スレート葺き屋根の改修を行う場合の、標準固定金具5A、長身固定金具5Bの配置パターンを示した図である。ただし、金属製屋根材6の固定金具5による固定は、屋根材の重ね合わせ部において行うものとする。
【0025】
図6における設置パターン1は、 金属製屋根材6の設置開始点Pを、波形スレート葺き屋根の重ね合わせ部分1のフックボルトに一致させて金属製屋根材6を設置する場合の固定金具5の設置パターンであり、設置パターン2は、金属製屋根材6の設置開始点Pを、紙面右側へ一山ずらして金属製屋根材6を設置する場合の固定金具5の設置パターンであり、設置パターン3は、金属製屋根材6の設置開始点Pを、紙面右側へ二山ずらして金属製屋根材6を設置する場合の固定金具5の設置パターンであり、設置パターン4は、金属製屋根材6の設置開始点Pを、紙面右側へ三山ずらして設置する場合の固定金具5の設置パターンであり、設置パターン5は、金属製屋根材6の設置開始点Pを、紙面右側へ四山ずらして金属製屋根材6を設置する場合の固定金具5の設置パターンである。
【0026】
いずれの設置パターンにおいても、標準固定金具5A、長身固定金具5Bが適切な位置で固定されることになるため、金属製屋根材6を、水平姿勢を保持したまま波形スレート葺き屋根の上に確実に固定することができる。
【0027】
なお、本発明にしたがう波形スレート葺き屋根の改修方法では、波形スレート葺き屋根の働き幅が780mm、金属製屋根材6の働きが650mmになるものを例として説明したが、波形スレート葺き屋根の重ね合わせ部分1に位置するフックボルト4を基準にして、該フックボルト4が位置する山部と、その山部を両側に挟む2つの山部においてのみに標準固定金具5Aを設置するように設置パターンを決定することにより、働き幅の違いにかかわらず金属製屋根板材6を、波形スレート葺き屋根に確実に固定することが可能であり、図示の設置パターンに限定されることはない。
【0028】
図7は、フックボルト4を利用して固定金具5を固定した場合と、座金付きビス7を使用して固定金具5を固定した場合の固定状況を模式的に示した図である。フックボルト4を利用して固定金具5を固定した場合と、座金付きビス7を使用して固定金具5を固定した場合とでは、固定金具5の設置位置に若干のずれ(d)が生じるため、固定金具5の中心にビス5dで金属製屋根材6を固定すると、ビス5dの打ち込み位置が(d)分だけずれることとなり見栄えが損なわれることなる。このため、金属製屋根材6を固定金具5に固定するに当たっては、座金付きビス7で固定された固定金具5については、図7の仮想線で示すように、ビス5dの打ち込み位置を(d)だけずらして金属製屋根材6を固定するのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、金属製タルキ等の部材を不要とし、かつ、既存の波形スレート葺き屋根と新規な屋根との相互間に断熱材を充填するのに十分な空間を確保することが可能な波形スレート葺き屋根の改修方法が提供できる。
【0030】
また、本発明によれば、既存のスレート葺き屋根を構成する屋根材と新規な屋根を構成する屋根材の働き幅に違いがあったとしても新規な屋根を構成する屋根材を基礎の屋根の上に水平姿勢を維持したまま確実に固定可能な波形スレート葺き屋根の改修方法が提供できる。
【符号の説明】
【0031】
1 重ね合わせ部分
2a 山部
2b 山部
3 母屋
4 フックボルト
4a ナット
5 固定金具
5a 係止片
5b ボルト
5c 天面壁
5d ビス
5A 標準固定金具
5B 長身固定金具
6 金属製屋根材
7 座金付きビス
M 空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7