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特許7421287冷凍機油、冷凍機用作動流体組成物及び冷凍機
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  • 特許-冷凍機油、冷凍機用作動流体組成物及び冷凍機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】冷凍機油、冷凍機用作動流体組成物及び冷凍機
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240117BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240117BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20240117BHJP
   C10M 129/68 20060101ALN20240117BHJP
   C10M 129/16 20060101ALN20240117BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240117BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240117BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
C10M169/04
F25B1/00 387Z
C10M101/02
C10M129/68
C10M129/16
C10N20:02
C10N30:06
C10N40:30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019152890
(22)【出願日】2019-08-23
(65)【公開番号】P2021031580
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-03-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】庄野 洋平
(72)【発明者】
【氏名】奈良 文之
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-325151(JP,A)
【文献】国際公開第2013/129579(WO,A1)
【文献】特開平09-157676(JP,A)
【文献】特開2009-235179(JP,A)
【文献】特開平11-071591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における動粘度が10mm/s以下であり、%C/%Cが1より大きいパラフィン系鉱油を含む潤滑油基油と、
エステル油性剤及びエーテル油性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む油性剤と、を含む、冷凍機油(ただし、n-d-M環分析における%C が20~60、流動点が-15℃以下、40℃における動粘度が1.5~15mm /sである鉱油と、アルキルベンゼンとを、前記鉱油/前記アルキルベンゼン=85/15~15/85の質量比で含有し、40℃における動粘度が2~12mm /s、引火点が120℃以上である冷凍機油を除く)
【請求項2】
前記油性剤が、エーテル油性剤を含む、請求項1に記載の冷凍機油。
【請求項3】
前記エーテル油性剤が、アルキル又はアルケニルグリセリルエーテルである、請求項2に記載の冷凍機油。
【請求項4】
冷媒と、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷凍機油と、を含有する冷凍機用作動流体組成物。
【請求項5】
圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器がこの順で配管接続されている冷媒循環システムを備え、前記冷媒循環システム内に、冷媒と、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷凍機油と、が充填されている冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油、冷凍機用作動流体組成物及び冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫等の冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁、キャピラリ)、蒸発器等を有する冷媒循環システムを備えており、冷媒がこの冷媒循環システム内を循環することで冷却が行われている。
【0003】
冷凍機用圧縮機は、ロータリー式圧縮機、ピストン・クランク式圧縮機等がある。例えば、ピストン・クランク式圧縮機では、モータの回転運動をコンロッドで往復運動に変換し、当該コンロッドと連結したピストンを往復運動させることで、冷媒を圧縮する。冷凍機油は、圧縮機内に冷媒とともに封入され、例えばコンロッドやピストン等の摺動部材を潤滑する。冷凍機油としては、例えば下記特許文献1には、所定基油と、リン系極圧剤と、エステル系添加剤と、を含有する冷凍機油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/012469号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の冷凍機油は、例えば流体潤滑領域における低摩擦化には有効であるものの、弾性流体潤滑領域及び混合潤滑領域、或いは境界潤滑領域といったすべり速度の低い領域では、低摩擦化の効果を十分に得ることができず、この点において未だ改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、すべり速度の低い領域において優れた摩擦特性を有する冷凍機油、当該冷凍機油を含有する冷凍機用作動流体組成物、及び当該冷凍機油が充填されている冷凍機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、40℃における動粘度が10mm/s以下である潤滑油基油と、エステル油性剤及びエーテル油性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む油性剤と、を含む、冷凍機油を提供する。
【0008】
潤滑油基油は、鉱油を含んでいてもよい。
【0009】
油性剤は、エーテル油性剤を含んでいてもよい。
【0010】
エーテル油性剤は、アルキル又はアルケニルグリセリルエーテルであってもよい。
【0011】
本発明はまた、冷媒と、上記本発明に係る冷凍機油と、を含有する冷凍機用作動流体組成物を提供する。
【0012】
本発明はさらに、圧縮機、凝縮器、膨張機構及び蒸発器がこの順で配管接続されている冷媒循環システムを備え、冷媒循環システム内に、冷媒と、上記本発明に係る冷凍機油と、が充填されている冷凍機を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、すべり速度の低い領域において優れた摩擦特性を有する冷凍機油、当該冷凍機油を含有する冷凍機用作動流体組成物、及び当該冷凍機油が充填されている冷凍機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】冷凍機の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本実施形態に係る冷凍機油は、40℃における動粘度が10mm/s以下である潤滑油基油と、エステル油性剤及びエーテル油性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む油性剤と、を含む。
【0017】
潤滑油基油は、鉱油、合成油、又は両者の混合物のいずれであってもよいが、すべり速度の低い領域においてより優れた摩擦特性を発揮する観点から、鉱油を含むことが好ましい。潤滑油基油が鉱油を含む場合、鉱油の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、50質量%以上、70質量%以上、又は90質量%以上であってよい。
【0018】
鉱油としては、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を単独又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の鉱油などが挙げられ、特にパラフィン系鉱油が好適に用いられる。なお、これらの鉱油は単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0019】
パラフィン系鉱油は、%Cと%Cの比(%C/%C)が、好ましくは1より大きく、より好ましくは1.1以上であり、更に好ましくは1.5以上であってよい。パラフィン系鉱油の%C/%Cが1より大きいことで、引火点が向上し(例えば100℃以上)、より摩擦特性に優れた冷凍機油を得ることができる。本発明における%C及び%Cは、それぞれASTM D3238-95(2010)に準拠した方法(n-d-M環分析)により測定された値を意味する。
【0020】
合成油としては、合成系炭化水素油、含酸素油等が挙げられる。
【0021】
合成系炭化水素油としては、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリα-オレフィン(PAO)、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体等が挙げられる。
【0022】
含酸素油としては、エステル、エーテル、カーボネート、ケトン、シリコーン、ポリシロキサン等が挙げられる。エステルとしては、モノエステル、ポリオールエステル、芳香族エステル、二塩基酸エステル、コンプレックスエステル、炭酸エステル及びこれらの混合物等が例示される。中でも、1価脂肪族アルコール及び1価脂肪酸とのモノエステルを用いることが好ましく、必要に応じて、当該モノエステルと、2~6価のアルコール及び1価脂肪酸とのポリオールエステルとの混合物を用いることが望ましい。このようなエステルを構成する1価脂肪族アルコールとしては、例えば、炭素数1~20、好ましくは4~18、更に好ましくは4~12の1価脂肪族アルコールが挙げられる。また、このようなエステルを構成する1価脂肪酸としては、例えば、炭素数1~20、好ましくは4~18、更に好ましくは4~12の1価脂肪酸が挙げられる。また、このようなエステルを構成する2~6価のアルコールとしては、好ましくはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。エーテルとしては、ポリビニルエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、パーフルオロエーテル及びこれらの混合物等が例示される。
【0023】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、すべり速度の低い領域において摩擦係数を効果的に低減する観点から、10mm/s以下であることが必要であり、好ましくは5mm/s以下、より好ましくは4mm/s以下である。潤滑油基油の40℃における動粘度の下限は、特に制限はないが、例えば1mm/s以上、又は1.5mm/s以上であってよい。潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは0.5mm/s以上、より好ましくは1mm/s以上であってよい。潤滑油基油の100℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以下、より好ましくは2mm/s以下であってよい。本発明における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された動粘度を意味する。
【0024】
潤滑油基油の引火点は、安全性の観点から、例えば、100℃以上、110℃以上、又は120℃以上であってよい。また、潤滑油基油の引火点は、例えば、155℃以下、又は145℃以下であってよい。本発明における引火点は、JIS K2265-4:2007(クリーブランド解放(COC)法)に準拠して測定された引火点を意味する。
【0025】
潤滑油基油の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下であってよい。本発明における流動点は、JIS K2269:1987に準拠して測定される流動点を意味する。
【0026】
潤滑油基油の含有量は、冷凍機油全量を基準として、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよい。
【0027】
本実施形態に係る冷凍機油は、エステル油性剤及びエーテル油性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む油性剤を含む。
【0028】
エステル油性剤は、天然物(通常は動植物等に由来する天然油脂に含まれるもの)であっても合成物であってもよいが、得られる冷凍機油の安定性やエステル成分の均一性等の観点から、合成エステルであることが好ましい。
【0029】
エステル油性剤としての合成エステルは、例えば、アルコールとカルボン酸とを反応させることにより得られる。アルコールとしては、1価アルコールでも多価アルコールでもよい。また、カルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でもよい。
【0030】
エステル油性剤におけるアルコールとカルボン酸との組合せは任意であって、特に制限されないが、例えば、下記(i)~(vii)の組合せによるエステルを挙げることができる。
(i)1価アルコールと一塩基酸とのエステル
(ii)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(iii)1価アルコールと多塩基酸とのエステル
(iv)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(v)1価アルコール及び多価アルコールの混合物と多塩基酸との混合エステル
(vi)多価アルコールと一塩基酸及び多塩基酸の混合物との混合エステル
(vii)1価アルコール及び多価アルコールの混合物と一塩基酸及び多塩基酸の混合物との混合エステル
【0031】
なお、上記(ii)~(vii)のエステルは、多価アルコールの水酸基又は多塩基酸のカルボキシル基の全てがエステル化された完全エステルであってもよく、また、一部が水酸基又はカルボキシル基として残存する部分エステルであってよいが、すべり速度の低い領域における低摩擦化をより効果的に発揮する観点から、部分エステルであることが好ましい。
【0032】
エステル油性剤を構成する1価アルコールとしては、通常炭素数1~24、好ましくは1~12、より好ましくは1~8のものが用いられ、このようなアルコールとしては、直鎖ものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。1価アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール及びこれらの混合物等が好ましく用いられる。
【0033】
エステル油性剤を構成する多価アルコールとしては、通常2~10価、好ましくは2~6価のものが用いられる。多価アルコールとしては、例えばグリセリン、ソルビトール、ソルビタン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール及びこれらの混合物等が好ましく用いられる。
【0034】
また、エステル油性剤を構成する一塩基酸としては、通常炭素数2~24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでもよく、また飽和のものであっても不飽和のものであってもよい。一塩基酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、オクタデセン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が好ましく用いられる。
【0035】
エステル油性剤を構成する多塩基酸としては、二塩基酸、トリメリット酸等が挙げられるが、冷媒雰囲気下及び低温下での析出防止性の観点から、二塩基酸であることが好ましい。二塩基酸は、鎖状二塩基酸、環状二塩基酸のいずれであってもよい。また、鎖状二塩基酸の場合、直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、また、飽和、不飽和のいずれであってもよい。このような多塩基酸としては、炭素数2~16の鎖状二塩基酸が好ましく、例えばエタン二酸、プロパン二酸、ブタン二酸、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸、デカン二酸及びこれらの混合物等が好ましく用いられる。
【0036】
好適なエステル油性剤の具体例としては、例えば、グリセリルモノオレート、グリセリルジオレート、グリセリルトリオレート及びこれらの混合物、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレート、ソルビタントリオレート及びこれらの混合物等が挙げられ、中でもすべり速度の低い領域における低摩擦化をより効果的に発揮する観点から、部分エステルを主体とするエステル油性剤が好ましく、グリセリルモノオレート及びグリセリルジオレートを主体とするグリセリンオレート等が特に好ましく用いられる。
【0037】
エステル油性剤のけん化価は、すべり速度の低い領域における低摩擦化をより効果的に発揮する観点から、好ましくは100mgKOH/g以上、より好ましくは130mgKOH/g以上であり、好ましくは200mgKOH/g以下、より好ましくは185mgKOH/g以下である。また、エステル油性剤のヨウ素価は、特に制限はないが、不飽和結合を有する油性剤である場合、好ましくは、50以上、より好ましくは60以上であり、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である。ここで、けん化価及びヨウ素価とは、JIS K 0070(1992)に準拠して測定されるけん化価及びヨウ素価を意味する。
【0038】
エーテル油性剤としては、3~6価の脂肪族多価アルコールのエーテル化物、3~6価の脂肪族多価アルコールの二分子縮合物又は三分子縮合物のエーテル化物等が挙げられる。
【0039】
3~6価の脂肪族多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ソルビトール、トリメチロールプロパン、エリスリトール、ペンタエリスリトール等が挙げられる。3~6価の脂肪族多価アルコールの二分子縮合物、三分子縮合物の具体例としては、ジグリセリン、ジソルビトール、トリグリセリン、トリソルビトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリトリメチロールプロパン、トリペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0040】
好適なエーテル油性剤の具体例としては、アルキル又はアルケニルグリセリルエーテルが挙げられ、例えば、炭素数4~20、好ましくは炭素数8~18のアルキル基若しくはアルケニル基を有する、アルキル又はアルケニルモノグリセリルエーテル、アルキル又はアルケニルポリグリセリルエーテル等が挙げられ、より具体的には、例えば、ラウリル(モノ又はポリ)グリセリルエーテル、ミリスチル(モノ又はポリ)グリセリルエーテル、パルミチル(モノ又はポリ)グリセリルエーテル、ステアリル(モノ又はポリ)グリセリルエーテル、オレイル(モノ又はポリ)グリセリルエーテル等が挙げられ、オレイル(モノ及びジ)グリセリルエーテルが好ましい例として挙げられる。このようなエーテル油性剤は、すべり速度の低い領域における低摩擦化をより効果的に発揮する観点から、水酸基を分子中に有しているものが好ましく、その水酸基価は、好ましくは50mgKOH/g以上、より好ましくは100mgKOH/g以上、更に好ましくは200mgKOH/g以上、特に好ましくは250mgKOH/g以上であり、好ましくは400mgKOH/g以下、より好ましくは320mgKOH/g以下である。ここで、水酸基価とは、JIS K 0070(1992)に準拠して測定される水酸基価を意味する。
【0041】
油性剤としては、上記エステル油性剤及びエーテル油性剤に加えて、他の油性剤を更に含有していてもよい。このような油性剤としては、例えば、1価アルコール油性剤、カルボン酸油性剤等が挙げられる。1価アルコール油性剤としては、例えば、上記エステル油性剤の説明において例示された1価アルコールが挙げられる。カルボン酸油性剤としては、例えば、上記エステル油性剤の説明において例示された一塩基酸や多塩基酸等が挙げられる。
【0042】
油性剤の含有量の合計は、特に制限されないが、冷凍機油の摩擦特性をより向上させる観点から、冷凍機油全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、冷媒雰囲気下及び低温下での析出を防止する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下である。
【0043】
本実施形態に係る冷凍機油は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、上述した各成分に加えて、その他の添加剤を更に含有していてもよい。その他の添加剤としては、酸化防止剤、酸捕捉剤、極圧剤、消泡剤、金属不活性化剤、耐摩耗剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。これらの添加剤の含有量は、冷凍機油全量を基準として、10質量%以下又は5質量%以下であってよい。
【0044】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert.-ブチル-p-クレゾール(DBPC)、2,6-ジ-tert.-ブチル-フェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert.-ブチル-フェノール)等が例示される。アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル-α-ナフチルアミン類、ジアルキル化ジフェニルアミン類等が例示される。これらの酸化防止剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
酸捕捉剤としては、例えば、エポキシ化合物(エポキシ系酸捕捉剤)が挙げられる。エポキシ化合物としては、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリールオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステル、エポキシ化植物油等が挙げられる。これらの酸捕捉剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。冷凍機油が酸捕捉剤を更に含むことにより、加水分解安定性を更に向上させることができる。このことは、潤滑油基油がエステルを含む場合に特に顕著である。
【0046】
極圧剤としては、例えば、リン含有極圧剤が挙げられる。リン含有極圧剤は、例えばリン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル、フォスフォロチオネート、ジチオリン酸エステル、ジチオフォスフォリル化カルボン酸等が挙げられる。リン酸エステルは、好ましくはトリフェニルフォスフェート(TPP)、トリクレジルフォスフェート(TCP)、又はトリフェニルフォスフォロチオネート(TPPT)である。これらの極圧剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
消泡剤としては、冷凍機油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種又は2種以上の化合物を配合することができる。
【0048】
冷凍機油の40℃における動粘度は、冷凍機の省エネルギー性や効率向上の観点から、好ましくは10mm/s以下、より好ましくは5mm/s以下、更に好ましくは4mm/s以下である。冷凍機油の40℃における動粘度の下限は、特に制限はないが、例えば1mm/s以上、又は1.5mm/s以上であってよい。冷凍機油の100℃における動粘度は、好ましくは0.5mm/s以上、より好ましくは1mm/s以上であってよい。冷凍機油の100℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以下、より好ましくは2mm/s以下であってよい。
【0049】
冷凍機油の粘度指数は、70以上であってよく、200以下であってよい。本発明における粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0050】
冷凍機油の流動点は、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下であってよい。
【0051】
冷凍機油の体積抵抗率は、好ましくは1.0×10Ω・m以上、より好ましくは1.0×1010Ω・m以上、更に好ましくは1.0×1011Ω・m以上であってよい。本発明における体積抵抗率は、JIS C2101:1999に準拠して測定した25℃での体積抵抗率を意味する。
【0052】
冷凍機油の水分含有量は、冷凍機油全量基準で、好ましくは200ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であってよい。
【0053】
冷凍機油の酸価は、好ましくは2.0mgKOH以下、より好ましくは1.0mgKOH/g以下、更に好ましくは0.1mgKOH/g以下であってよい。冷凍機油の水酸基価は、通常0~100mgKOH/gであり、好ましくは50mgKOH/g以下、より好ましくは20mgKOH/g以下、更に好ましくは5mgKOH/g以下である。
【0054】
冷凍機油の灰分は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下であってよい。本発明における灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定された灰分を意味する。
【0055】
本実施形態に係る冷凍機油は、通常、冷凍機において、冷媒と混合された冷凍機用作動流体組成物の状態で存在している。すなわち、本実施形態に係る冷凍機用作動流体組成物は、上記の冷凍機油と冷媒とを含有する。冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油の含有量は、冷媒100質量部に対して、1~500質量部、又は2~400質量部であってよい。
【0056】
冷媒としては、炭化水素冷媒、飽和フッ化炭化水素冷媒、不飽和フッ化炭化水素冷媒、パーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ビス(トリフルオロメチル)サルファイド冷媒、3フッ化ヨウ化メタン冷媒、及び、アンモニアや二酸化炭素等の自然系冷媒が例示される。
【0057】
炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~5の炭化水素、より好ましくは炭素数2~4の炭化水素である。炭化水素としては、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン(R290)、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン(R600a)、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2-メチルブタン、ノルマルペンタン又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。炭化水素冷媒は、これらの中でも好ましくは、25℃、1気圧で気体の炭化水素冷媒であり、より好ましくは、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2-メチルブタン又はこれらの混合物である。
【0058】
飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは炭素数1~3、より好ましくは1~2の飽和フッ化炭化水素である。飽和フッ化炭化水素冷媒としては、具体的には、ジフルオロメタン(R32)、トリフルオロメタン(R23)、ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(R134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、1,1-ジフルオロエタン(R152a)、フルオロエタン(R161)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(R227ea)、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236ea)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(R236fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(R245fa)、及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン(R365mfc)、又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0059】
飽和フッ化炭化水素冷媒は、上記の中から用途や要求性能に応じて適宜選択される。飽和フッ化炭化水素冷媒は、例えばR32単独;R23単独;R134a単独;R125単独;R134a/R32=60~80質量%/40~20質量%の混合物;R32/R125=40~70質量%/60~30質量%の混合物;R125/R143a=40~60質量%/60~40質量%の混合物;R134a/R32/R125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;R134a/R32/R125=40~70質量%/15~35質量%/5~40質量%の混合物;R125/R134a/R143a=35~55質量%/1~15質量%/40~60質量%の混合物などである。飽和フッ化炭化水素冷媒は、更に具体的には、R134a/R32=70/30質量%の混合物;R32/R125=60/40質量%の混合物;R32/R125=50/50質量%の混合物(R410A);R32/R125=45/55質量%の混合物(R410B);R125/R143a=50/50質量%の混合物(R507C);R32/R125/R134a=30/10/60質量%の混合物;R32/R125/R134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);R32/R125/R134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);R125/R134a/R143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などであってよい。
【0060】
不飽和フッ化炭化水素(HFO)冷媒は、好ましくは炭素数2~3の不飽和フッ化炭化水素、より好ましくはフルオロプロペン、更に好ましくはフッ素数が3~5のフルオロプロペンである。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、好ましくは、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ye)、及び3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)のいずれか1種又は2種以上の混合物である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、冷媒物性の観点からは、好ましくは、HFO-1225ye、HFO-1234ze及びHFO-1234yfから選ばれる1種又は2種以上である。不飽和フッ化炭化水素冷媒は、フルオロエチレンであってもよく、好ましくは1,1,2,3-トリフルオロエチレンである。
【0061】
本実施形態に係る冷凍機油又は冷凍機用作動流体組成物を好適に用いることのできる冷凍機の一例を図1に示す。図1は、冷凍機の一実施形態を示す模式図である。図1に示すように、冷凍機10は、圧縮機(冷媒圧縮機)1と、凝縮器(ガスクーラー)2と、膨張機構(キャピラリ、膨張弁等)3と、蒸発器(熱交換器)4とが流路5で順次配管接続された冷媒循環システム6を少なくとも備えている。
【0062】
冷媒循環システム6においては、まず、圧縮機1から流路5内に吐出された高温の冷媒が、凝縮器2にて高密度流体(超臨界流体等)となる。続いて、冷媒は、膨張機構3を有する狭い流路を通ることによって液化し、更に蒸発器4にて気化して低温となる。冷凍機10による冷房は、冷媒が蒸発器4において気化する際に周囲から熱を奪う現象を利用している。
【0063】
圧縮機1内においては、高温条件下で、少量の冷媒と多量の冷凍機油とが共存する。圧縮機1から流路5に吐出される冷媒は、気体状であり、少量(通常1~10体積%)の冷凍機油をミストとして含んでいるが、このミスト状の冷凍機油中には少量の冷媒が溶解している(図1中の点a)。
【0064】
凝縮器2内においては、気体状の冷媒が圧縮された高密度の流体となり、比較的高温の条件下で、多量の冷媒と少量の冷凍機油とが共存する(図1中の点b)。さらに、多量の冷媒と少量の冷凍機油との混合物は、膨張機構3、蒸発器4に順次送られて急激に低温となり(図1中の点c、d)、再び圧縮機1に戻される。
【0065】
圧縮機1としては、冷凍機油を貯留する密閉容器内に回転子と固定子からなるモータと、回転子に嵌着された回転軸と、この回転軸を介して、モータに連結された圧縮機部とを収納し、圧縮機部より吐出された高圧冷媒ガスが密閉容器内に滞留する高圧容器方式の圧縮機、冷凍機油を貯留する密閉容器内に回転子と固定子からなるモータと、回転子に嵌着された回転軸と、この回転軸を介して、モータに連結された圧縮機部とを収納し、圧縮機部より吐出された高圧冷媒ガスが密閉容器外へ直接排出される低圧容器方式の圧縮機、等が例示される。なお、圧縮機としては、圧縮機1のようなロータリー式のものには限られず、ピストン・クランク式等の往復式、スクリュー式、遠心式であっても良いが、往復式が特に好ましい。また、圧縮機の密閉構造としては、開放型、半密閉型、密閉型のいずれであっても良いが、密閉型が特に好ましい。
【0066】
本実施形態に係る冷凍機油又は冷凍機用作動流体組成物は、例えば0.4m/s以下、好ましくは0.2m/s以下、より好ましくは0.1m/s以下のようなすべり速度の低い領域で摺動部材が摺動するような条件で運転される圧縮機を備える冷凍機に使用された場合に、優れた摩擦特性を得ることが可能である。なお、すべり速度の下限は特に制限されず、例えば0m/s以上であってよく、0.001m/s以上であってよい。このような冷凍機としては、例えば、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有する冷蔵庫、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷凍機、遠心式の圧縮機を有する冷凍機等が好適である。本明細書において、圧縮機における「すべり速度」とは、2つの摺動剤がすべりを伴って摺動する際の相対速度であり、摺動部における摺動材1の速度をU[m/s]、摺動材2の速度をU[m/s]としたとき、以下の式で表される。
すべり速度=|U-U|
なお、上式において、UとUは同じ値であってもよく、いずれかの値が0であってもよい。
【実施例
【0067】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[潤滑油基油]
以下に示すA1~A3の潤滑油基油を準備した。
A1:パラフィン鉱油系基油、40℃における動粘度:3.4mm/s、100℃における動粘度:1.3mm/s、流動点:-35℃、引火点:131℃、%C/%C=1.2
A2:パラフィン鉱油系基油、40℃における動粘度:2.4mm/s、100℃における動粘度:1.0mm/s、流動点:-25℃、引火点:110℃、%C/%C=1.6
A3:2-エチルヘキサノールと2-エチルヘキサン酸とのモノエステル及びネオペンチルグリコールと2-エチルヘキサン酸とのポリオールエステルからなるエステル系基油、40℃における動粘度:3.0mm/s、酸価0.01mgKOH/g以下、引火点140℃
【0069】
[冷凍機油]
実施例及び比較例においては、上記の潤滑油基油及び添加剤としてそれぞれ以下の成分を用いて、表1に示す組成(冷凍機油全量基準での質量%)を有する冷凍機油を調製した。
【0070】
(油性剤)
B1:オレイルグリセリルエーテル(水酸基価:300mgKOH/g)
B2:ソルビタンモノオレート(けん化価:153mgKOH/g、ヨウ素価:68)
B3:グリセリンモノオレート(けん化価:154mgKOH/g、ヨウ素価:70)
【0071】
(その他添加剤)
C1:トリクレジルフォスフェート、トリフェニルフォスフォロチオネート及び消泡剤の混合物
C2:グリシジルデカノエート及び2,6-ジ-tert-ブチルパラクレゾールの混合物
【0072】
[摩擦特性の評価]
実施例及び比較例の各冷凍機油の摩擦特性を評価するために、以下に示す試験を実施した。
MTM(Mini Traction Machine)試験機(PCS Instruments社製)を用いて、以下の条件で摩擦係数(μ)を測定した。結果を表1に示す。なお、摩擦係数が小さいほど、摩擦特性に優れていることを意味する。
ボール及びディスク:標準試験片(AISI52100規格)
試験温度:40℃
すべり速度:0.003、0.015、0.03、0.9m/s
負荷荷重:10N
すべり率:30%
なお、すべり速度は、|U-U|[m/s]の値を用いた。ここで、Uは摺動部におけるディスクの速度[m/s]であり、Uは摺動部におけるボールの速度[m/s]である。
【0073】
【表1】
【0074】
実施例1~6の各冷凍機油は、すべり速度の低い領域で、比較例1~3の各冷凍機油と比較して、優れた摩擦特性を有することが示された。一方、添加剤としてエステル油性剤及びエーテル油性剤のいずれも含まない比較例1~3の冷凍機油は、すべり速度の低い領域において摩擦係数が高い結果となった。特に、比較例2において示されるように、冷凍機油の40℃における動粘度を低くし、低粘度化を図った場合であっても、すべり速度の高い領域における摩擦特性は改善するものの、すべり速度の低い領域における摩擦特性は改善されなかった。なお、比較例2の冷凍機油に油性剤B1を0.1質量%添加した冷凍機油では、特に0.1m/s未満の低いすべり速度において摩擦係数が低下することを確認している。
【符号の説明】
【0075】
1…圧縮機、2…凝縮器、3…膨張機構、4…蒸発器、5…流路、6…冷媒循環システム、10…冷凍機。
図1