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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】クエンチ塔およびガスの冷却方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 5/00 20060101AFI20240117BHJP
   C07C 7/11 20060101ALN20240117BHJP
   C07C 11/167 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
B01D5/00 Z
C07C7/11
C07C11/167
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019159592
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021037447
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 稔
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】杉本 麻由
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕一郎
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-005030(JP,A)
【文献】特開2011-157480(JP,A)
【文献】特表2016-500336(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01B 1/00-1/08
B01D 1/00-8/00
C07B 31/00-61/00;63/00-63/04
C07C 1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に気液接触用部材を備え、塔下部より供給される被冷却ガスが、塔上部より供給される冷却水によって冷却されるクエンチ塔において、
前記被冷却ガスは、冷却されることによって前記気液接触用部材に付着する固形成分を析出するものであり、
前記気液接触用部材に洗浄水を供給する洗浄機構を有し、
前記洗浄機構は、最下段の前記気液接触用部材に対して洗浄水を噴射によって供給する噴射ヘッドを有し、
前記洗浄機構における前記洗浄水の供給量は、861~1076L/minであることを特徴とするクエンチ塔。
【請求項2】
塔内に前記気液接触用部材の複数が互いに空間を介して上下に重なるよう配設されており、前記洗浄機構が、最下段の気液接触用部材にその上方から洗浄水を供給するものであることを特徴とする請求項1に記載のクエンチ塔。
【請求項3】
前記洗浄機構が、前記気液接触用部材に対して洗浄水を噴射する噴射ヘッドを有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のクエンチ塔。
【請求項4】
前記洗浄機構が、指定されたときに駆動されることを特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載のクエンチ塔。
【請求項5】
気液接触用部材を備えるクエンチ塔において、塔下部より供給される被冷却ガスを、塔上部より供給される冷却水によって冷却するガス冷却方法であって、
前記被冷却ガスは、冷却されることによって前記気液接触用部材に付着する固形成分を析出するものであり、
最下段の前記気液接触用部材に対して洗浄水を噴射によって供給し、
前記気液接触用部材に洗浄水を861~1076L/minの供給量で供給することを特徴とするガス冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却されることによって固形成分を析出する不純物が含有された被冷却ガスを冷却するために好適なクエンチ塔およびガスの冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1,3-ブタジエン(以下、単に「ブタジエン」ともいう。)を製造する方法としては、ナフサのクラッキングにより得られた炭素数4の留分(以下、「C4留分」ともいう。)からブタジエン以外の成分を蒸留によって分離する方法が採用されている。
ブタジエンは合成ゴムなどの原料として需要が増加しているが、エチレンの製法がナフサのクラッキングによる方法からエタンの熱分解による方法に移行している等の事情により、C4留分の供給量が減少しており、C4留分を原料としないブタジエンの製造が求められている。
【0003】
そこで、ブタジエンの製造方法として、n-ブテンを酸化脱水素させて得られる生成ガスからブタジエンを分離して得る方法が注目されている(例えば特許文献1乃至特許文献4参照。)。この製造方法は、n-ブテンと、分子状酸素を含有する分子状酸素含有ガス(具体的には、例えば空気)とを含む原料ガスを、酸化脱水素反応させる酸化脱水素反応工程と、この工程によって得られた生成ガスを冷却する冷却工程と、この工程によって冷却された生成ガスからブタジエンを分離する生成ガス分離工程とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-72086号公報
【文献】特開2014-198707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のブタジエンの製造方法においては、アセトアルデヒド、メチルビニルケトン等のカルボニル化合物や、カルボン酸等の有機酸類などの反応副生成物が発生する。このような反応副生成物は、例えば冷却工程において生成ガスが急冷されることにより析出し、用いられるクエンチ塔内における固体充填物に固形成分が付着する。この固形成分の付着量が経時的に多くなると、クエンチ塔内に差圧が生じることにより、冷却工程の続行が不能となる。このため、クエンチ塔を分解して付着した固形成分を除去することが必要となり、従って、生成ガスの冷却を長期間にわたって安定して実行することが困難である。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、冷却によって析出する固形成分が固体充填物に多量に付着することを防止または抑制することができ、被冷却ガスの冷却を長期間にわたって安定して実行することができるクエンチ塔を提供することにある。
本発明の他の目的は、被冷却ガスの冷却を長期間にわたって安定して実行することができるガス冷却方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のクエンチ塔は、内部に気液接触用部材を備え、塔下部より供給される被冷却ガスが、塔上部より供給される冷却水によって冷却されるクエンチ塔において、
前記被冷却ガスは、冷却されることによって前記気液接触用部材に付着する固形成分を析出するものであり、
前記気液接触用部材に洗浄水を供給する洗浄機構を有し、
前記洗浄機構は、最下段の前記気液接触用部材に対して洗浄水を噴射によって供給する噴射ヘッドを有し、
前記洗浄機構における前記洗浄水の供給量は、861~1076L/minであることを特徴とする。
【0008】
本発明のクエンチ塔においては、塔内に前記気液接触用部材の複数が互いに空間を介して上下に重なるよう配設されており、前記洗浄機構が、最下段の気液接触用部材にその上方から洗浄水を供給するものであることが好ましい。
【0009】
また、本発明のクエンチ塔においては、前記洗浄機構が、前記気液接触用部材に対して洗浄水を噴射する噴射ヘッドを有することが好ましい。
【0010】
また、本発明のクエンチ塔においては、前記洗浄機構が、指定されたときに駆動されることが好ましい。
【0011】
本発明のガス冷却方法は、気液接触用部材を備えるクエンチ塔において、塔下部より供給される被冷却ガスを、塔上部より供給される冷却水によって冷却するガス冷却方法であって、
前記被冷却ガスは、冷却されることによって前記気液接触用部材に付着する固形成分を析出するものであり、
最下段の前記気液接触用部材に対して洗浄水を噴射によって供給し、
前記気液接触用部材に洗浄水を861~1076L/minの供給量で供給することを特徴とする。
【0012】
本発明のガス冷却方法においては、前記気液接触用部材に対して洗浄水を噴霧することによって供給することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のクエンチ塔によれば、気液接触用部材に洗浄水を供給する洗浄機構を有するため、冷却によって析出する固形成分が気液接触用部材に多量に付着することを防止または抑制することができ、従って、被冷却ガスの冷却を長期間にわたって安定して実行することができる。
本発明のガス冷却方法によれば、気液接触用部材に洗浄水を供給するため、冷却によって析出する固形成分が気液接触用部材に多量に付着することが防止または抑制され、その結果、被冷却ガスの冷却を長期間にわたって安定して実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のクエンチ塔の一例における構成の概略を示す説明用断面図である。
図2】本発明のクエンチ塔を用いてブタジエンを製造するための具体的な手法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
[クエンチ塔およびガス冷却方法]
図1は、本発明のクエンチ塔の一例における構成の概略を示す説明用断面図である。
このクエンチ塔2は、被冷却ガスに冷却水を向流接触させることによって、当該被冷却ガスを急冷する構成のものであって、上下方向に伸びる、両端が閉塞された円筒状の塔本体20を有する。
【0017】
塔本体20の周壁部21における下部側位置には、被冷却ガスを塔本体20の内部に導入するガス導入口25が設けられている。また、塔本体20の塔頂部22には、被冷却ガスを塔本体20の内部から導出するガス導出口26が設けられている。また、塔本体20の塔底部23には、後述する冷却水供給機構35から供給された冷却水を導出する冷却水導出口27が設けられている。
【0018】
塔本体20内には、ガス導入口25とガス導出口26との間の位置に、気液接触用部材30が設けられている。図示の例では、複数の気液接触用部材30が、互いに空間を介して上下に重なるよう配設されている。最上段の気液接触用部材30の上方位置には、被冷却ガスを冷却する冷却水を供給する冷却水供給機構35が設けられている。そして、最下段の気液接触用部材30の上方位置には、当該最下段の気液接触用部材30に洗浄水を供給することによって当該気液接触用部材30を洗浄処理する洗浄機構40が設けられている。
【0019】
気液接触用部材30としては、クエンチ塔2を充填塔により構成する場合には、不規則充填物を利用することができる。不規則充填物の具体例としては、ラシヒリング、ポールリング、カスケードミニリングなどが挙げられる。また、クエンチ塔2を棚段塔により構成する場合には、気液接触用部材30として棚板が用いられる。
【0020】
冷却水供給機構35は、冷却水を噴霧する噴霧ヘッド36を有する。この噴霧ヘッド36は、塔本体20内の最上段の気液接触用部材30の上方において、下方を向くよう配置されている。冷却水供給機構35から供給される冷却水としては、水、アルカリ水を用いることができる。冷却水の温度は、被冷却ガスの冷却温度に応じて適宜に定められるが、10℃以上90℃以下であることが好ましく、より好ましくは20℃以上70℃以下であり、特に好ましくは20℃以上40℃以下である。また、噴霧ヘッド36からの冷却水の供給量は、例えば1200~1500L/minである。
【0021】
洗浄機構40は、最下段の気液接触用部材30に対して洗浄水を噴射によって供給する噴射ヘッド41を有する。この噴射ヘッド41は、塔本体20内の最下段の気液接触用部材30の上方において、下方を向くよう配置されている。
噴射ヘッド41としては、噴射される洗浄水が円錐状のスプレーパターンを形成するものを用いることが好ましい。また、噴射ヘッド41から噴射される円錐状のスプレーパターンは、スプレー距離(形成される円錐の高さ)Lとスプレー幅(形成される円錐の底面の直径)Dとの比(L/D)が2以下のものが好ましく、より好ましくは0.6~1.6である。
【0022】
洗浄機構40から供給される洗浄水としては、水、アルカリ水を用いることができる。洗浄水の温度は特に限定されないが、例えば5~30℃である。
また、噴射ヘッド41からの洗浄水の供給量は、例えば861~1076L/minである。
気液接触用部材30の表面の単位面積当りの洗浄水の供給量は、例えば44~55L/m2 である。
また、気液接触用部材30に対する1回の洗浄処理に使用される洗浄水の量は、例えば144~179Lである。
【0023】
この洗浄機構40においては、被冷却水の冷却処理中において指定されたときに駆動されるよう制御することができる。例えば、被冷却水の冷却処理中において、所定の時間、例えば6~8時間が経過する毎に、洗浄機構40の駆動および停止の動作が繰り返し行われるよう、すなわち、洗浄機構40の駆動が間欠的に行われるよう洗浄機構40を制御することができる。
【0024】
上記のクエンチ塔2においては、被冷却ガスが、ガス導入口25から塔本体20の内部に導入され、ガス導出口26から導出される。これにより、被冷却ガスは、塔本体20の内部において、当該塔本体20の下部から気液接触用部材30を介して上部に流通される。一方、冷却水供給機構35による冷却水は、噴霧ヘッド36から下方に向かって噴霧される。これにより、塔本体20の内部において、上方に流通する被冷却ガスに対して冷却水が向流接触する結果、被冷却ガスが急冷される。供給された冷却水は、冷却水導出口27から塔本体20の外部に導出される。
【0025】
以上において、被冷却ガスが冷却によって気液接触用部材30に付着する固形成分を析出するものであるときには、最下段の気液接触用部材30には析出した固形成分が付着する。そして、被冷却ガスの冷却処理中において洗浄機構40が駆動されると、噴射ヘッド41から洗浄水が最下段の気液接触用部材30に噴射されることによって供給され、これにより、最下段の気液接触用部材30に付着した固形成分が除去される。
【0026】
このように、本発明のクエンチ塔2によれば、気液接触用部材30に洗浄水を供給する洗浄機構40を有するため、冷却によって析出する固形成分が気液接触用部材30に多量に付着することを防止または抑制することができ、従って、被冷却ガスの冷却を長期間にわたって安定して実行することができる。
【0027】
[1,3-ブタジエンの製造方法]
本発明は、n-ブテンを含む原料ガスと酸素とを酸化脱水素反応することによって1,3-ブタジエンを製造する方法において、生成ガスの冷却工程に好適に利用することができる。
すなわち、本発明によれば、n-ブテンを含有する原料ガスと酸素との酸化脱水素反応により得られる1,3-ブタジエンを含む生成ガスを、気液接触用部材を備えるクエンチ塔の下部より供給すると共に、当該クエンチ塔の上部より冷却水を供給することにより、前記生成ガスを冷却する冷却工程を有するブタジエンの製造方法において、
前記クエンチ塔における気液接触用部材に洗浄水を供給する洗浄処理工程が行われることを特徴とするブタジエンの製造方法を提供することができる。
【0028】
このブタジエン(1,3-ブタジエン)の製造方法は、下記の(1)~(3)に示す工程を有するものであり、当該下記の(1)~(3)の工程を経ることにより、n-ブテンを含む原料ガスからブタジエンを製造するものである。
【0029】
(1)1-ブテンおよび2-ブテンを含む原料ガスと分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応により1,3-ブタジエンを含む生成ガスを得る第1工程
(2)第1工程において得られた生成ガスを冷却する第2工程
(3)第2工程を経た生成ガスを、吸収溶媒への選択的吸収により、分子状酸素および不活性ガス類と1,3-ブタジエンを含むその他のガスとに分離する第3工程
【0030】
図2は、本発明のクエンチ塔を用いてブタジエンを製造するための具体的な手法の一例を示すフロー図である。以下、図2を用いて、上記のブタジエンの製造方法の具体的な一例を詳細に説明する。
図2に示す例のブタジエンの製造方法は、上記の(1)~(4)の工程を有すると共に、第3工程において得られた、1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収した吸収溶媒を、溶媒分離処理する脱溶工程と、第3工程において得られた、分子状酸素および不活性ガス類を、第1工程に還流する、すなわち還流ガスとして送給する循環工程とを有するものである。
また、図2に示す例のブタジエンの製造方法においては、第3工程に供される吸収溶媒が循環使用される。
【0031】
<第1工程>
第1工程においては、金属酸化物触媒の存在下において、原料ガスと分子状酸素含有ガスとを酸化脱水素反応させることにより、ブタジエン(1,3-ブタジエン)を含む生成ガスを得る。この第1工程において、原料ガスと分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応は、図2に示されているように、反応器1によって行われる。ここに、反応器1は、上部にガス導入口、下部にガス導出口が設けられ、内部に金属酸化物触媒が充填されることによって触媒層(図示省略)が形成された塔状のものである。この反応器1において、ガス導入口には配管116を介して配管100と配管112とが接続されており、また、ガス導出口には、配管101が接続されている。
【0032】
第1工程について具体的に説明すると、反応器1に、配管116に連通する配管100を介して、原料ガスおよび分子状酸素含有ガス、並びに、必要に応じて、不活性ガス類および水(水蒸気)(以下、これらをまとめて「新規供給ガス」ともいう。)を供給する。新規供給ガスは、反応器1に導入される前に、当該反応器1と配管100との間に配設された予熱器(図示省略)によって200℃以上400℃以下程度に加熱される。また、反応器1には、配管100を介して供給される新規供給ガスと共に、循環工程からの還流ガスが、配管116に連通する配管112を介して、前記予熱器によって加熱された後、供給される。すなわち、反応器1には、新規供給ガスと還流ガスとの混合ガスが、予熱器によって加熱された後、供給される。ここに、新規供給ガスと還流ガスとは、別個の配管から反応器1に直接供給されてもよいが、図2に示されているように、共通の配管116から、混合された状態で供給されることが好ましい。共通の配管116を設けることにより、種々の成分を含む混合ガスを、予め均一に混合した状態で反応器1に供給することができるため、当該反応器1内において不均一な混合ガスが部分的に爆鳴気を形成する事態を防止することなどができる。
そして、混合ガスが供給された反応器1においては、原料ガスと分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応によってブタジエン(1,3-ブタジエン)が生成されて、そのブタジエンを含む生成ガスが得られる。得られた生成ガスは、反応器1のガス導出口から配管101に流出する。
【0033】
(原料ガス)
原料ガスとしては、炭素数4のモノオレフィンであるn-ブテンを気化器(図示省略)でガス化したガス状物が用いられる。この原料ガスは、可燃性ガスである。本発明において、「n-ブテン」とは、直鎖状ブテンを意味し、具体的には、1-ブテン、シス-2-ブテンおよびトランス-2-ブテンがn-ブテンに含まれる。
また、原料ガスには、任意の不純物が含まれていてもよい。この不純物の具体例としては、i-ブテン等の分岐型モノオレフィン、プロパン、n-ブタンおよびi-ブタン等の飽和炭化水素などが挙げられる。また、原料ガスには、不純物として、製造目的物である1,3-ブタジエンが含まれていてもよい。原料ガスにおける不純物量は、通常、原料ガス100体積%において、60体積%以下であり、好ましくは40体積%以下、より好ましくは25体積%以下、特に好ましくは5体積%以下である。不純物量が過大である場合には、原料ガスにおける直鎖状ブテンの濃度が低下することに起因して反応速度が遅くなったり、副生成物量が増加したりする傾向にある。
【0034】
原料ガスとしては、例えば、ナフサ分解で副生するC4留分(炭素数4の留分)からブタジエンおよびi-ブテンを分離して得られる直鎖状ブテンを主成分とする留分(ラフィネート2)や、n-ブタンの脱水素反応または酸化脱水素反応により生成するブテン留分を使用することができる。また、エチレンの2量化により得られる、高純度の、1-ブテン、シス-2-ブテンおよびトランス-2-ブテン、並びに、これらの混合物を含有するガスを使用することもできる。さらには、石油精製プラントなどで原油を蒸留した際に得られる重油留分を、流動層状態で粉末状の固体触媒を使って分解し、低沸点の炭化水素に変換する流動接触分解(Fluid Catalytic Cracking)から得られる炭素数4の炭化水素類を多く含むガス(以下、「FCC-C4」と略記することもある。)をそのまま原料ガスとすることもでき、また、FCC-C4からリンなどの不純物を除去したものを原料ガスとして使用することもできる。
【0035】
(分子状酸素含有ガス)
分子状酸素含有ガスは、通常、分子状酸素(O2)を10体積%以上含むガスである。この分子状酸素含有ガスにおいて、分子状酸素の濃度は、15体積%以上であることが好ましく、より好ましくは20体積%以上である。
また、分子状酸素含有ガスは、分子状酸素と共に、分子状窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、ヘリウム(He)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)および水(水蒸気)などの任意のガスを含むものであってもよい。分子状酸素含有ガスにおける任意のガスの量は、任意のガスが分子状窒素である場合には、通常、90体積%以下であり、好ましくは85体積%以下、より好ましくは80体積%以下であり、また、任意のガスが分子状窒素以外のガスである場合には、通常、10体積%以下であり、好ましくは1体積%以下である。任意のガスの量が過大である場合には、反応系(反応器1の内部)において、必要とされる量の分子状酸素を原料ガスと共存させることができなくなるおそれがある。
第1工程において、分子状酸素含有ガスの好ましい具体例としては、空気が挙げられる。
【0036】
(不活性ガス類)
不活性ガス類は、原料ガスおよび分子状酸素含有ガスと共に反応器1に供給されることが好ましい。
反応器1に不活性ガス類を供給することにより、当該反応器1内において、混合ガスが爆鳴気を形成することがないように、原料ガスおよび分子状酸素の濃度(相対濃度)を調整することができる。
不活性ガス類としては、分子状窒素(N2)、アルゴン(Ar)および二酸化炭素(CO2)などが挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、経済的観点から、分子状窒素が好ましい。
【0037】
(水(水蒸気))
水は、原料ガスと分子状酸素含有ガスと共に反応器1に供給されることが好ましい。
反応器1に水を供給することにより、前述の不活性ガス類と同様に、当該反応器1内において、混合ガスが爆鳴気を形成することがないように、原料ガスおよび分子状酸素の濃度(相対濃度)を調整することができる。
【0038】
(混合ガス)
混合ガスは、可燃性の原料ガスと分子状酸素とを含むものであることから、原料ガスの濃度が爆発範囲とならないように、その組成が調整される。
具体的には、混合ガスを構成する各々のガス(具体的には、原料ガス、分子状酸素含有ガス(空気)、並びに、必要に応じて用いられる不活性ガス類および水(水蒸気))を反応器1に供給する配管(具体的には、配管100に連通する配管(図示省略)および配管112)に設置された流量計(図示省略)にて流量を監視しながら、反応器1のガス導入口における混合ガスの組成を制御する。例えば、配管112を介して反応器1に供給される還流ガスの分子状酸素濃度に応じて、配管100を介して反応器1に供給する新規供給ガスの組成を制御する。
なお、本明細書中において、「爆発範囲」とは、混合ガスが何らかの着火源の存在下で着火するような組成を有する範囲を示す。ここに、可燃性ガスの濃度が或る値より低い場合には着火源が存在しても着火しないことが知られており、この濃度を爆発下限界という。爆発下限界は、爆発範囲の下限値である。また、可燃性のガスの濃度が或る値より高い場合にはやはり着火源が存在しても着火しないことが知られており、この濃度を爆発上限界という。爆発上限界は、爆発範囲の上限値である。そして、これらの値は分子状酸素の濃度に依存しており、一般に、分子状酸素の濃度が低いほど両者の値が近づき、分子状酸素の濃度が或る値になったとき両者が一致する。このときの分子状酸素の濃度を限界酸素濃度という。而して、混合ガスにおいては、分子状酸素の濃度が限界酸素濃度よりも低ければ原料ガスの濃度によらず混合ガスは着火しない。
【0039】
具体的に、混合ガスにおいて、1-ブテンと2-ブテンとの合計の濃度は、ブタジエンの生産性および金属酸化物触媒の負担抑制の観点から、混合ガス100体積%において、2体積%以上30体積%以下であることが好ましく、より好ましくは3体積%以上25体積%以下であり、特に好ましくは5体積%以上20体積%以下である。1-ブテンと2-ブテンとの合計の濃度が過小である場合には、ブタジエンの生産性が低下するおそれがある。一方、1-ブテンと2-ブテンとの合計の濃度が過大である場合には、金属酸化物触媒の負担が大きくなるおそれがある。
【0040】
また、混合ガスにおいて、原料ガスに対する分子状酸素の濃度(相対濃度)は、原料ガス100体積部に対して、50体積部以上170体積部以下であることが好ましく、より好ましくは70体積部以上160体積部以下である。混合ガスにおける分子状酸素の濃度が上記の範囲を逸脱する場合には、反応温度を調整することによって反応器1のガス導出口における分子状酸素の濃度を調整しづらくなる傾向がある。そして、反応温度によって反応器1のガス導出口における分子状酸素の濃度を制御できなくなることによれば、反応器1の内部における目的生成物の分解および副反応の発生を抑止することができなくなるおそれがある。
【0041】
また、混合ガスにおいて、原料ガスに対する分子状窒素の濃度(相対濃度)は、原料ガス100体積部に対して、400体積部以上1800体積部以下であることが好ましく、より好ましくは500体積部以上1700体積部以下である。また、原料ガスに対する水(水蒸気)の濃度(相対濃度)は、原料ガス100体積部に対して、0体積部以上900体積部以下であることが好ましく、より好ましくは80体積部以上300体積部以下である。分子状窒素の濃度や水の濃度が過大である場合には、いずれの場合においても、その値が大きくなるほど、原料ガスの濃度が小さくなることからブタジエンの生産効率が低下する傾向がある。一方、分子状窒素の濃度や水の濃度が過小である場合には、いずれの場合においても、その値が小さくなるほど、原料ガスの濃度が爆発範囲となったり、後述する、反応系の除熱が困難となったりする傾向がある。
【0042】
(金属酸化物触媒)
金属酸化物触媒としては、モリブデンおよびビスマスを含有する複合酸化物触媒が用いられる。このような複合酸化物触媒としては、例えば、モリブデン(Mo)、ビスマス(Bi)および鉄(Fe)を少なくとも含有するものを用いることができ、その具体例としては、下記の組成式(1)で表される複合金属酸化物を含有するものが挙げられる。
【0043】
組成式(1):
MoaBibFecdefg
【0044】
上記の組成式(1)中、Xは、NiおよびCoよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。Yは、Li、Na、K、Rb、CsおよびTlよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。Zは、Mg、Ca、Ce、Zn、Cr、Sb、As、B、PおよびWよりなる群から選ばれる少なくとも一種である。a、b、c、d、e、fおよびgは、それぞれ独立して、各元素の原子比率を示し、aが12のとき、bは0.1~8であり、cは0.1~20であり、dは0~20であり、eは0~4であり、fは0~2であり、gは上記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素元素の原子数である。
【0045】
上記の組成式(1)で表される複合金属酸化物を含有する複合酸化物触媒は、酸化脱水素反応を使用してブタジエンを製造する方法において、高活性かつ高選択性であり、さらに寿命安定性に優れている。
【0046】
複合酸化物触媒の調製法としては、特に限定されず、調製すべき複合酸化物触媒を構成する複合金属酸化物に係る各元素の原料物質を用いた、蒸発乾固法、スプレードライ法、酸化物混合法などの公知の方法を採用することができる。
上記各元素の原料物質としては、特に限定されず、例えば、成分元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、水酸化物、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、ハロゲン化アンモニウム塩、水素酸、アルコキシドなどが挙げられる。
【0047】
また、複合酸化物触媒は、不活性な担体に担持させて使用してもよい。担体種としてはシリカ、アルミナ、シリコンカーバイドなどが挙げられる。
【0048】
(酸素脱水素反応)
第1工程において、酸化脱水素反応を開始させるときには、先ずは反応器1に対する、分子状酸素含有ガス、不活性ガス類および水(水蒸気)の供給を開始し、それらの供給量を調整することによって、反応器1のガス導入口における分子状酸素の濃度が限界酸素濃度以下となるように調整し、次いで、原料ガスの供給を開始し、反応器1のガス導入口における原料ガスの濃度が爆発上限界を超えるように、原料ガスの供給量と分子状酸素含有ガスの供給量とを増加していくことが好ましい。
また、原料ガスおよび分子状酸素含有ガスの供給量を増やしていくときには、水(水蒸気)の供給量を減らすことにより、混合ガスの供給量を一定となるようにしてもよい。このようにすることにより、配管や反応器1におけるガス滞留時間が一定に保たれ、反応器1の圧力の変動を抑えることができる。
【0049】
反応器1の圧力(具体的には、反応器1のガス導入口における圧力)、すなわち第1工程の圧力は、0.1MPaG以上0.4MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0.15MPaG以上0.35MPaG以下であり、さらに好ましくは0.2MPaG以上0.3MPaG以下である。
第1工程の圧力を上記範囲とすることにより、酸化脱水素反応における反応効率が向上する。第1工程の圧力が過小である場合には、酸化脱水素反応における反応効率が低下する傾向にある。一方、第1工程の圧力が過大である場合には、酸化脱水素反応における収率が低下する傾向にある。
【0050】
また、酸化脱水素反応において、下記の数式(1)により求められる気体時空間速度(GHSV)は、500h-1以上5000h-1以下であることが好ましく、より好ましくは800h-1以上3000h-1以下であり、さらに好ましくは1000h-1以上2500h-1以下である。
GHSVを上記範囲とすることにより、酸化脱水素反応における反応効率をより向上させることができる。
【0051】
数式(1):
GHSV[h-1]=大気圧換算ガス流量[Nm3 /h]÷触媒層体積[m3
【0052】
上記の数式(1)中、「触媒層体積」とは、空隙を含む触媒層全体の体積(見かけ体積)を示す。
【0053】
また、酸化脱水素反応において、下記の数式(2)により求められる実体積気体時空間速度(実体積GHSV)は、500h-1以上2300h-1以下であることが好ましく、より好ましくは600h-1以上2000h-1以下であり、さらに好ましくは700h-1以上1500h-1以下である。
実体積GHSVを上記範囲とすることにより、酸化脱水素反応における反応効率をより向上させることができる。
【0054】
数式(2):
実体積GHSV[h-1]=実ガス流量[m3 /h]÷触媒層体積[m3
【0055】
上記の数式(2)中、「触媒層体積」とは、上記数式(1)と同様に、空隙を含む触媒層全体の体積(見かけ体積)を示す。
【0056】
また、酸化脱水素反応においては、当該酸化脱水素反応が発熱反応であることから、反応系の温度が上昇し、また、複数種類の副生成物が生成し得る。そして、副生成物として、アクロレイン、アクリル酸、メタクロレイン、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、メチルビニルケトン、クロトンアルデヒドおよびクロトン酸などの炭素数3~4の不飽和カルボニル化合物が生成し、生成ガスにおける濃度が高くなることによれば、種々の弊害が生じる。具体的には、上記不飽和カルボニル化合物が、第3工程にて循環使用する吸収溶媒などに溶解することから、吸収溶媒などにおいて不純物が蓄積し、各部材における付着物の析出が誘発されやすくなる。
【0057】
而して、酸化脱水素反応において、上記不飽和カルボニル化合物の濃度を一定の範囲内とする手法としては、酸化脱水素反応の反応温度を調整する方法が挙げられる。また、反応温度を調整することにより、反応器1のガス導出口における分子状酸素の濃度を、一定範囲内とすることもできる。
具体的に、反応温度は、300℃以上400℃以下であることが好ましく、より好ましくは320℃以上380℃未満である。
反応温度を上記範囲とすることにより、金属酸化物触媒におけるコーキング(固体炭素の析出)を抑制することができると共に、生成ガスにおける、上記不飽和カルボニル化合物の濃度を、一定範囲内とすることが可能となる。また、反応器1のガス導出口における分子状酸素の濃度を、一定範囲内とすることも可能となる。
一方、反応温度が過小である場合には、n-ブテンの転化率が低下するおそれがある。また、反応温度が過大である場合には、上記不飽和カルボニル化合物の濃度が高くなり、吸収溶媒などにおいて不純物が蓄積したり、金属酸化物触媒におけるコーキングが生じたりする傾向がある。
【0058】
ここに、反応温度を調整する方法の好ましい具体例としては、例えば熱媒体(具体的には、ジベンジルトルエン、亜硝酸塩など)による除熱を行うことにより、反応器1を適宜冷却して、触媒層の温度を一定に制御する手法が挙げられる。
【0059】
(生成ガス)
生成ガスには、原料ガスと分子状酸素含有ガスとの酸化脱水素反応の目的生成物である1,3-ブタジエンと共に、反応副生成物、未反応の原料ガス、未反応の分子状酸素、および濃度調整用ガスなどが含まれている。反応副生成物としては、カルボニル化合物および複素環式化合物が挙げられる。ここに、カルボニル化合物には、ケトン類、アルデヒド類、有機酸類が含まれる。
ケトン類としては、メチルビニルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノンおよびフルオレノンが挙げられる。
アルデヒド類としては、アセトアルデヒド、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが挙げられる。
有機酸類としては、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、フタル酸、安息香酸、クロトン酸、テトラヒドロフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、メタクリル酸、フェノールなどが挙げられる。
また、複素環式化合物としては、フランなどが挙げられる。
【0060】
<第2工程>
第2工程においては、第1工程において得られた生成ガスを冷却する。この第2工程において、第1工程からの生成ガスの冷却は、本発明のクエンチ塔2および冷却用熱交換器3によって行われる。
具体的に説明すると、第1工程からの生成ガス、すなわち反応器1から流出された生成ガスは、配管101を介してクエンチ塔2に送給され、当該クエンチ塔2において冷却された後、配管104を介して冷却用熱交換器3に送給されて、当該冷却用熱交換器3においてさらに冷却される。このようにしてクエンチ塔2および冷却用熱交換器3によって冷却された第1工程からの生成ガスは、冷却用熱交換器3から配管105に流出する。
この第2工程を経ることにより、第1工程からの生成ガスが精製される。具体的には、第1工程からの生成ガスに含まれている副生成物の一部が除去される。
【0061】
(クエンチ塔)
クエンチ塔2においては、第1工程からの生成ガスに冷却媒体を向流接触することによって、当該生成ガスを、例えば30℃以上90℃以下程度の温度に急冷される。
クエンチ塔2のガス導入口には、一端が反応器1のガス導出口に接続された配管101が接続されており、クエンチ塔2のガス導出口には配管104が接続されている。また、クエンチ塔2における冷却水供給機構(図示省略)の噴射ヘッド(図示省略)には、配管102が接続され、クエンチ塔2の冷却水導出口には配管103が接続されている。
【0062】
また、動作中のクエンチ塔2において、内部の温度は、10℃以上100℃以下であることが好ましく、より好ましくは20℃以上90℃以下である。
【0063】
また、動作中のクエンチ塔2の圧力(具体的には、クエンチ塔2のガス導出口の圧力)、すなわち第2工程の圧力は、第1工程の圧力と同等または第1工程の圧力未満であることが好ましい。
具体的には、第2工程の圧力の、第1工程の圧力との差、すなわち第1工程の圧力から第2工程の圧力を減じた値は、0MPaG以上0. 05MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0. 01MPaG以上0. 04MPaG以下である。
第1工程と第2工程との圧力差を上記範囲とすることにより、クエンチ塔2において、第1工程からの生成ガス中の反応副生成物の、凝縮および冷却水への溶解を促進することができ、その結果、クエンチ塔2から流出する生成ガスにおける反応副生成物の濃度をより低減することができる。
【0064】
そして、クエンチ塔2においては、洗浄機構(図示省略)によって、最下段の気液接触用部材(図示省略)に対して洗浄水を噴霧によって供給する洗浄処理が、間欠的に行われる。
【0065】
(冷却用熱交換器)
冷却用熱交換器3としては、クエンチ塔2から流出された生成ガスを、室温(10℃以上30℃以下)に冷却することのできるものが適宜用いられる。
この図の例において、冷却用熱交換器3には、ガス導入口に、一端がクエンチ塔2のガス導出口に接続された配管104が接続され、ガス導出口には、配管105が接続されている。
【0066】
また、動作中の冷却用熱交換器3の圧力(具体的には、冷却用熱交換器3のガス導出口の圧力)は、動作中のクエンチ塔2の圧力(クエンチ塔2のガス導出口の圧力)と同等であることが好ましい。
【0067】
冷却用熱交換器3から流出された冷却生成ガス、すなわち第2工程によって冷却された生成ガスにおいて、分子状窒素の濃度は、60体積%以上94体積%以下であることが好ましく、より好ましくは70体積%以上85体積%以下である。また、ブタジエンの濃度は、2体積%以上15体積%以下であることが好ましく、より好ましくは3体積%以上10体積%である。また、水(水蒸気)の濃度は、1体積%以上30体積%以下であることが好ましく、より好ましくは1体積%以上3体積%以下である。ケトン・アルデヒド類の濃度は、0体積%以上0.3体積%であることが好ましく、より好ましくは0.05体積%以上0.25体積%以下である。
第2工程において冷却された生成ガスにおける各成分の濃度が上記の範囲であることにより、次工程以降におけるブタジエン精製の効率を向上させ、かつ、脱溶工程で生じる副反応を抑制することができ、これにより、ブタジエンを製造する際のエネルギー消費量をより低減することができる。
【0068】
<第3工程>
第3工程においては、第2工程を経た生成ガスを、吸収溶媒への選択的吸収により、分子状酸素および不活性ガス類と1,3-ブタジエンを含むその他のガスとに分離(粗分離)する。ここに、「1,3-ブタジエンを含むその他のガス」とは、吸収溶媒に吸収される、少なくとも、ブタジエンと1-ブテンおよび2-ブテン(未反応の1-ブテンおよび2-ブテン)とを含むガスを示す。
この第3工程において、第2工程を経た生成ガスの分離は、図2に示されているように、吸収塔4によって行われる。ここに、吸収塔4は、下部に第2工程を経た生成ガスを導入するガス導入口が設けられ、上部に吸収溶媒を導入する溶媒導入口が設けられていると共に、塔底には、ガス(具体的には、1,3-ブタジエンを含むその他のガス)を吸収した吸収溶媒を導出する溶媒導出口が設けられ、塔頂には、吸収溶媒に吸収されなかったガス(具体的には、分子状酸素および不活性ガス類)を導出するガス導出口が設けられたものである。ガス導入口には一端が熱交換器3のガス導出口に接続された配管105が接続され、溶媒導入口には配管106が接続されており、また溶媒導出口には配管113が接続され、ガス導出口には配管107が接続されている。
第3工程について具体的に説明すると、第2工程を経た生成ガス、すなわち熱交換器3から流出された生成ガスは、配管105を介して吸収塔4に送給され、それと同期して当該吸収塔4には配管106を介して吸収溶媒を供給する。このようにして、第2工程を経た生成ガスに吸収溶媒を向流接触し、第2工程を経た生成ガス中の1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収溶媒に選択的に吸収させることにより、1,3-ブタジエンを含むその他のガスと分子状酸素および不活性ガス類とを粗分離する。そして、1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収した吸収溶媒は、吸収塔4から配管113に流出し、一方、吸収溶媒に吸収されなかった、分子状酸素および不活性ガス類は、吸収塔4から配管107に流出する。
【0069】
動作中の吸収塔4において、当該吸収塔4の内部の温度は、特に限定はされないが、吸収塔4の内部の温度が高くなるに従って分子状酸素および不活性ガス類が吸収溶媒に吸収されにくくなり、その一方、吸収塔4の内部の温度が低くなるに従ってブタジエン等の炭化水素(1,3-ブタジエンを含むその他のガス)の吸収溶媒への吸収効率が高くなることから、ブタジエンの生産性を考慮して、0℃以上60℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以上50℃以下である。
【0070】
また、動作中の吸収塔4の圧力(具体的には、吸収塔4のガス導出口の圧力)、すなわち第3工程の圧力は、第2工程の圧力と同等または第2工程の圧力未満であることが好ましい。
具体的には、第3工程の圧力の、第2工程の圧力との差、すなわち第2工程の圧力から第3工程の圧力を減じた値は、0MPaG以上0. 05MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0. 01MPaG以上0. 04MPaG以下である。
第2工程と第3工程との圧力差を上記範囲とすることにより、吸収塔4における吸収溶媒へのブタジエン(1,3-ブタジエンを含むその他のガス)の吸収を促進することができ、その結果、吸収溶媒の使用量を低減することができ、エネルギー消費を低減させることができる。
【0071】
(吸収溶媒)
吸収溶媒としては、例えば、有機溶媒を主成分とするものが挙げられる。ここに「有機溶媒を主成分とする」とは、吸収溶媒における有機溶媒の含有割合が50質量%以上であることを示す。
吸収溶媒を構成する有機溶媒としては、例えばトルエン、キシレンおよびベンゼン等の芳香族化合物、ジメチルホルムアミドおよびN-メチル-2-ピロリドン等のアミド化合物、ジメチルスルホキシドおよびスルホラン等の硫黄化合物、アセトニトリルおよびブチロニトリル等のニトリル化合物、シクロヘキサノンおよびアセトフェノン等のケトン化合物などが挙げられる。
【0072】
吸収溶媒の使用量(供給量)は、特に限定されないが、第2工程を経た生成ガスにおけるブタジエンと1-ブテンと2-ブテンとの合計の流量(質量流量)に対して、10質量倍以上100質量倍以下であることが好ましく、より好ましくは17質量倍以上35質量倍以下である。
吸収溶媒の使用量を上記範囲とすることにより、1,3-ブタジエンを含むその他のガスの吸収効率を向上させることができる。
一方、吸収溶媒の使用量が過大である場合には、吸収溶媒を循環使用するための精製に用いるエネルギー消費量が増大する傾向がある。また、吸収溶媒の使用量が過小である場合には、1,3-ブタジエンを含むその他のガスの吸収効率が低下する傾向にある。
【0073】
吸収溶媒の温度(溶媒導入口における温度)は、0℃以上60℃以下であることが好ましく、より好ましくは0℃以上40℃以下である。
吸収溶媒の温度を上記範囲とすることにより、1,3-ブタジエンを含むその他のガスの吸収効率をより向上させることができる。
【0074】
<循環工程>
循環工程においては、第3工程において得られた、分子状酸素および不活性ガス類を、第1工程に対して還流ガスとして送給する。この循環工程において、第3工程からの分子状酸素および不活性ガス類は、溶剤回収塔5および圧縮機6によって処理される。
具体的に説明すると、第3工程からの分子状酸素および不活性ガス類、すなわち吸収塔4から流出された分子状酸素および不活性ガス類は、配管107を介して溶剤回収塔5に送給されて溶媒除去処理された後、配管110を介して圧縮機6に送給され、必要に応じて圧力調整処理される。このようにして溶媒除去処理および圧力調整処理された第3工程からの分子状酸素および不活性ガス類は、圧縮機6から反応塔1に向かって配管112に流出する。
この図の例において、溶剤回収塔5から流出された、分子状酸素および不活性ガス類は、配管110を流通する過程において、当該分子状酸素および不活性ガス類の一部が、配管110に連通する配管111を介して廃棄される。このように、溶剤回収塔5から流出された、分子状酸素および不活性ガス類の一部を廃棄するための配管111を設けることにより、第1工程に対する還流ガスの供給量を調整することができる。
【0075】
(溶剤回収塔)
溶剤回収塔5は、第3工程からの分子状酸素および不活性ガス類を水または溶剤によって洗浄することにより、当該分子状酸素および不活性ガス類を溶媒除去処理する構成のものである。溶剤回収塔5における中央部には第3工程からの分子状酸素および不活性ガス類を導入するガス導入口が設けられている。溶剤回収塔5における上部には水または溶剤を導入する洗浄用液体導入口が設けられている。ガス導入口には、一端が吸収塔4のガス導出口に接続された配管107が接続されており、また洗浄用液体導入口には配管108が接続されている。また、溶剤回収塔5には、塔頂に、水または溶剤によって洗浄された、分子状酸素および不活性ガス類を導出するガス導出口が設けられている。また、溶剤回収塔5における塔底には、第3工程からの分子状酸素および不活性ガス類の洗浄に用いた水または溶剤を導出する洗浄用液体導出口が設けられている。ガス導出口には、配管110が接続されており、洗浄用液体導出口には配管109が接続されている。
【0076】
この溶剤回収塔5においては、第3工程からの分子状酸素および不活性ガス類に含まれていた吸収溶媒が除去され、除去された吸収溶媒が、洗浄に用いられた水または溶剤と共に洗浄用液体導出口から配管109に流出し、この配管109を介して回収される。また、溶剤除去処理された、第3工程からの分子状酸素および不活性ガス類は、溶剤回収塔5のガス導出口から配管110に流出する。
【0077】
また、動作中の溶剤回収塔5において、当該溶剤回収塔5の内部の温度は、特に限定されないが、0℃以上80℃以下であることが好ましく、より好ましくは10℃以上60℃以下である。
【0078】
(圧縮機)
圧縮機6としては、溶剤回収塔5からの分子状酸素および不活性ガス類を、必要に応じて昇圧し、第1工程において必要とされる圧力にすることのできるものが適宜用いられる。
この図の例において、圧縮機6には、ガス導入口に、一端が溶剤回収塔5のガス導出口に接続された配管110が接続され、ガス導出口には、配管112が接続されている。
【0079】
この圧縮機6においては、第3工程の圧力が第1工程の圧力未満である場合において、第3工程と第1工程との圧力差に応じ、当該圧力差分の昇圧を行う。
この圧縮機6において昇圧が行われる場合において、その昇圧は、通常、小さいものであるため、圧縮機の電気エネルギー消費量は小さなものに留まる。
【0080】
圧縮機6から流出された分子状酸素および不活性ガス類、すなわち還流ガスにおいて、分子状窒素の濃度は、87体積%以上97体積%以下であることが好ましく、より好ましくは90体積%以上95体積%以下である。また、分子状酸素の濃度は、1体積%以上6体積%以下であることが好ましく、より好ましくは2体積%以上5体積%以下である。
【0081】
<脱溶工程>
脱溶工程においては、第3工程において得られた、1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収した吸収溶媒を溶媒分離処理する。すなわち、第3工程からの吸収溶媒から吸収溶媒を分離することにより、1,3-ブタジエンを含むその他のガス、すなわち1,3-ブタジエンを含むガスのガス流を得る。この脱溶工程においては、図2に示されているように、1,3-ブタジエンを含むその他のガスと吸収溶媒との分離が脱溶塔7によって行われる。
具体的に説明すると、第3工程からの吸収溶媒、すなわち吸収塔4から流出された、1,3-ブタジエンを含むその他のガスを吸収した吸収溶媒は、配管113を介して脱溶塔7に送給されて溶媒分離処理される。そして、脱溶塔7においては、1,3-ブタジエンを含むその他のガスと吸収溶媒とを蒸留分離する。
【0082】
(脱溶塔)
脱溶塔7は、第3工程からの吸収溶媒を蒸留分離することによって溶媒分離処理する構成のものである。脱溶塔7における中央部には第3工程からの吸収溶媒を導入する溶媒導入口が設けられている。また、脱溶塔7における塔頂には、第3工程からの吸収溶媒から分離された1,3-ブタジエンを含むガスを導出するガス導出口が設けられている。脱溶塔7における塔底には、第3工程からの吸収溶媒から分離された吸収溶媒を導出する溶媒導出口が設けられている。溶媒導入口には、一端が吸収塔4の溶媒導出口に接続された配管113が接続されており、また、ガス導出口には、配管115が接続され、溶媒導出口には配管114が接続されている。
【0083】
この脱溶塔7においては、第3工程からの吸収溶媒から分離された、1,3-ブタジエンを含むガスと吸収溶媒とが、それぞれ、1,3-ブタジエンを含むガスがガス導出口から配管115に流出し、吸収溶媒が溶媒導出口から配管114に流出する。
【0084】
脱溶塔7の内部の圧力は、特に限定されないが、0.03MPaG以上1.0MPaG以下であることが好ましく、より好ましくは0.2MPaG以上0.6MPaG以下である。
【0085】
また、動作中の脱溶塔7において、当該脱溶塔7の塔底の温度は、80℃以上1900℃以下であることが好ましく、より好ましくは100℃以上180℃以下である。
【0086】
このような1,3-ブタジエンの製造方法によれば、クエンチ塔2において、最下段の気液接触用部材に対して洗浄水を供給する洗浄処理を行うことにより、生成ガスを冷却する第2工程を長期間にわたって安定して実行することができるため、高い時間的効率で1,3-ブタジエンを製造することができる。
【実施例
【0087】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
[実施例1]
図2のフロー図に従って、下記の第1工程、第2工程、第3工程、脱溶工程および循環工程を経ることにより、1-ブテンおよび2-ブテンを含む原料ガスから1,3-ブタジエンを、500時間連続して製造した。
また、原料ガスとしては、1-ブテンおよび2-ブテンを含み、1-ブテンと2-ブテンとの合計100体積%に対する2-ブテンの割合が87体積%のものを用いた。
【0089】
(第1工程)
金属酸化物触媒を、触媒層長が4000mmとなるように充填した反応器1(内径21.2mm、外径25.4mm)に、体積比(1-ブテンおよび2-ブテン/O2/N2/H2O)が1/1.5/16.3/1.2である混合ガスを2000h-1のGHSVにて供給し、反応温度320~350℃の条件によって、原料ガスと分子状酸素含有ガスとを酸化脱水素反応させることにより、1,3-ブタジエンを含む生成ガスを得た。この第1工程の圧力、すなわち反応器1のガス導入口における圧力は、0.1MPaGであった。ここに、混合ガスの実体積GHSVは2150h-1であった。
この第1工程において、金属酸化物触媒としては、組成式Mo12Bi5Fe0.5Ni2Co30.1Cs0.1Sb0.2で表される酸化物を球状のシリカに触媒総体積の20%の割合で担持したものを用いた。
また、混合ガスは、原料ガスと還流ガス(分子状酸素および不活性ガス類)とが混合され、必要に応じて、分子状酸素含有ガスとしての空気、不活性ガス類としての分子状窒素および水(水蒸気)がさらに混合されることにより、組成が調整されたものである。
【0090】
(第2工程)
クエンチ塔2としては、下記の仕様のものを用いた。
塔本体20の全長:780cm
塔本体20の内径:15.24cm
気液接触用部材30:不規則充填物(カスケードミニリング)
気液接触用部材30の数:5
噴射ヘッド41によるスプレー距離Lとスプレー幅Dとの比(L/D):1.6
【0091】
反応器1から流出された生成ガスを、クエンチ塔2において、冷却水と向流接触させて急冷し、76℃まで冷却した後、冷却用熱交換器3において30℃まで冷却した。冷却水の供給量は1L/minである。この第2工程の圧力、すなわちクエンチ塔2のガス導出口における圧力は、0.1MPaGであり、また冷却用熱交換器3のガス導出口における圧力も0.1MPaGであった。
そして、クエンチ塔2において、生成ガスの冷却処理が8時間経過する毎に、下記の条件で洗浄機構を駆動させた。
噴射ヘッド41からの洗浄水の供給量:0.002L/min
気液接触用部材30の表面の単位面積当りの洗浄水の供給量:55L/m2
気液接触用部材30に対する1回の洗浄処理に使用される洗浄水の量:1L
【0092】
(第3工程)
熱交換器3から流出された生成ガス(以下、「冷却生成ガス」ともいう。)を、内部に規則充填物を配置した吸収塔4(外径152.4mm、高さ7800mm、材質SUS304)の下部のガス導入口から供給し、当該吸収塔4の上部の溶媒導入口からは、トルエンを95質量%以上含む吸収溶媒を10℃で供給した。吸収溶媒の供給量は、冷却生成ガスにおけるブタジエンと1-ブテンと2-ブテンとの合計の流量(質量流量)に対して33質量倍であった。この第3工程の圧力、すなわち吸収塔4のガス導出口における圧力は、0.1MPaGであった。
【0093】
(循環工程)
吸収塔4から流出されたガスを、溶剤回収塔5において、水または溶剤によって洗浄することにより、当該ガスに含まれていた少量の吸収溶媒を除去した。このようにして吸収溶媒が除去されたガスは、溶剤回収塔5から流出し、一部が廃棄され、残りの大部分が圧縮機6に送給された。そして、圧縮機6においては、溶剤回収塔5からのガスが、圧力調整処理によって昇圧された。このようにして吸収溶媒が除去され、昇圧されたガスは、圧縮機6から流出し、反応器1に還流された。
【0094】
(脱溶工程)
吸収塔4から流出された液体を脱溶塔7に供給し、脱溶塔本体から流出されたガスをコンデンサーにおいて冷却することにより、1,3-ブタジエンを含むガスを得た。また、脱溶塔本体から流出された液の一部をリボイラーにおいて加熱した流出液、すなわち吸収溶媒(以下、「循環吸収溶媒」ともいう。)も得た。このようにして、脱溶塔7において1,3-ブタジエンを含むガスと循環吸収溶媒とを蒸留分離した。
【0095】
[比較例1]
第2工程において、クエンチ塔2の洗浄機構を駆動しなかったこと以外は実施例1と同様にして、1-ブテンおよび2-ブテンを含む原料ガスから1,3-ブタジエンを、127.5時間連続して製造した。
【0096】
実施例1および比較例1において、1,3-ブタジエンの製造が終了した後、クエンチ塔2における最下段の気液接触用部材30を調べたところ、実施例1においては少量の固形成分が付着しているのに対し、比較例1においては多量に固形成分が付着していることが確認された。
また、クエンチ塔2からの排水を調べたところ、実施例1においては多量の固形成分が認められ、比較例1においては少量の固形成分が認められた。
以上のことから、実施例1によれば、冷却によって析出する固形成分が気液接触用部材30に多量に付着することが防止または抑制され、その結果、生成ガスの冷却を長期間にわたって安定して実行することが可能であることが理解される。
【符号の説明】
【0097】
1 反応器
2 急冷塔
3 熱交換器
4 吸収塔
5 溶剤回収塔
6 圧縮機
7 脱溶塔
20 塔本体
21 周壁部
22 塔頂部
23 塔底部
25 ガス導入口
26 ガス導出口
27 冷却水導出口
30 気液接触用部材
35 冷却水供給機構
36 噴霧ヘッド
40 洗浄機構
41 噴射ヘッド
100~116 配管
図1
図2