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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】保持治具
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/08 20060101AFI20240117BHJP
【FI】
C25D17/08 R
C25D17/08 G
C25D17/08 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019184835
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2021059756
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000189327
【氏名又は名称】上村工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松山 大輔
(72)【発明者】
【氏名】橋本 大督
(72)【発明者】
【氏名】西元 一善
(72)【発明者】
【氏名】奥田 朋士
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/021607(WO,A1)
【文献】特開2004-076022(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0000372(US,A1)
【文献】特開2002-161398(JP,A)
【文献】特開2005-220414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0014368(US,A1)
【文献】特開2004-052059(JP,A)
【文献】中国実用新案第208869693(CN,U)
【文献】特開昭53-078941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 17/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面部材と、該背面部材に対向し且つ開口部を有する正面部材との間に配置される板状被処理物に電気めっき処理を施すための板状被処理物用保持治具であって、
前記正面部材には、前記板状被処理物の幅方向における辺縁部を覆う複数の電極と、前記板状被処理物の幅方向における辺縁部を覆う複数の第1絶縁部が形成されており、
前記第1絶縁部は、前記板状被処理物の辺縁部に接触し、
前記板状被処理物の幅方向における辺縁の長さと、前記開口部の幅であって前記板状被処理物の幅方向における辺縁に平行なものの長さとを比べ、短い方の長さを100としたとき、
前記板状被処理物の幅方向における辺縁の長さのうち80以上の部分が、前記第1絶縁部または前記電極で覆われることを特徴とする保持治具。
【請求項2】
前記第1絶縁部は、前記背面部材に対して凸である凸部を有する請求項1に記載の保持治具。
【請求項3】
前記凸部は、前記第1絶縁部の幅方向全体にわたって設けられている請求項2に記載の保持治具。
【請求項4】
前記電極の前記板状被処理物と接触する側は、該板状被処理物に向かって曲げられている曲部を、電極の幅方向にわたって有している請求項1~3のいずれかに記載の保持治具。
【請求項5】
前記正面部材は、第2絶縁部を有しており、前記第1絶縁部および/または前記電極は、前記第2絶縁部で覆われている請求項1~4のいずれかに記載の保持治具。
【請求項6】
前記第2絶縁部は、前記開口部における周囲端部に、前記背面部材に対して凸である凸部を有する請求項5に記載の保持治具。
【請求項7】
前記第1絶縁部と前記電極は、前記板状被処理物の辺縁に沿って交互に配置されている請求項1~6のいずれかに記載の保持治具。
【請求項8】
前記第1絶縁部と前記電極は、前記板状被処理の辺縁に沿って交互に互いに接触して配置されている請求項1~7のいずれかに記載の保持治具。
【請求項9】
前記電極は、前記板状被処理物との接点以外の部分に絶縁皮膜を有する請求項1~8のいずれかに記載の保持治具。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の保持治具を用いて板状被処理物に電気めっきする方法であって、
前記電極とめっき液とを接触させた状態で電気めっきを行うことを特徴とする電気めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背面部材と、該背面部材に対向し且つ開口部を有する正面部材との間に配置される板状被処理物に電気めっきを施すための板状被処理物用保持治具に関する。
【背景技術】
【0002】
板状の被処理物に電気めっきを施す際には、例えば、板状被処理物を固定する保持治具を用い、該保持治具に固定した板状被処理物を液浴に浸漬し、該板状被処理物と陽極電極とを対向して配置した後、板状被処理物と陽極電極との間に電流を通電することによって電気めっきが行われる。板状被処理物を固定する保持治具としては、例えば、背面部材と、該背面部材に対向し且つ開口部を有する正面部材とを有する保持治具が用いられ、上記板状被処理物は、背面部材と正面部材との間に配置される。
【0003】
電気めっきで形成するめっき膜の厚さは、均一であることが求められる。しかし、めっき膜の厚さは、板状被処理物と陽極電極との間の電場分布に影響を受け、特に、板状被処理物に接触している陰極電極の近傍は、他の部分に比べてめっき膜が厚くなる傾向がある。めっき膜の膜厚を均一化する方法として、電流の流れを制御して電場分布を均一化するために、板状被処理物と陽極電極との間に遮蔽板を配置することが知られている。
【0004】
遮蔽板付き基板保持具が特許文献1に開示されている。この基板保持具は、開閉自在の前後の基板押さえ板を有しており、基板保持具に遮蔽板を設けると共に、前後の押さえ板を非導電性樹脂で構成すると共に押さえ板内に導通バーを埋設し、これと接続される通電ピンを前後の押さえ板の内側当接面に向かって設け、更に、前後の押さえ板のクランプ機構を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-161398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の遮蔽板付き基板保持具を用いることによってめっき膜の膜厚を均一にできるが、板状被処理物の辺縁部にめっきが付着することがあった。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、板状被処理物に電気めっきを施す際に用いる保持治具であって、板状被処理物の辺縁部に付着するめっき量を低減できる保持治具を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記保持治具を用いて板状被処理物に電気めっきする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の発明を含む。
[1] 背面部材と、該背面部材に対向し且つ開口部を有する正面部材との間に配置される板状被処理物に電気めっき処理を施すための板状被処理物用保持治具であって、前記正面部材には、前記板状被処理物の幅方向における辺縁部を覆う複数の電極と、前記板状被処理物の幅方向における辺縁部を覆う複数の第1絶縁部が形成されており、前記板状被処理物の幅方向における辺縁の長さと、前記開口部の幅であって前記板状被処理物の幅方向における辺縁に平行なものの長さとを比べ、短い方の長さを100としたとき、前記板状被処理物の幅方向における辺縁の長さのうち80以上の部分が、前記第1絶縁部または前記電極で覆われる保持治具。
[2] 前記第1絶縁部は、前記背面部材に対して凸である凸部を有する[1]に記載の保持治具。
[3] 前記凸部は、前記第1絶縁部の幅方向全体にわたって設けられている[2]に記載の保持治具。
[4] 前記電極の前記板状被処理物と接触する側は、該板状被処理物に向かって曲げられている曲部を、電極の幅方向にわたって有している[1]~[3]のいずれかに記載の保持治具。
[5] 前記正面部材は、第2絶縁部を有しており、前記第1絶縁部および/または前記電極は、前記第2絶縁部で覆われている[1]~[4]のいずれかに記載の保持治具。
[6] 前記第2絶縁部は、前記開口部における周囲端部に、前記背面部材に対して凸である凸部を有する[5]に記載の保持治具。
[7] 前記第1絶縁部は、前記板状被処理物の辺縁部に接触する[1]~[6]のいずれかに記載の保持治具。
[8] 前記第1絶縁部と前記電極は、前記板状被処理物の辺縁に沿って交互に配置されている[1]~[7]のいずれかに記載の保持治具。
[9] 前記第1絶縁部と前記電極は、前記板状被処理部の辺縁に沿って交互に互いに接触して配置されている[1]~[8]のいずれかに記載の保持治具。
[10] 前記電極は、前記板状被処理物との接点以外の部分に絶縁皮膜を有する[1]~[9]のいずれかに記載の保持治具。
[11] [1]~[10]のいずれかに記載の保持治具を用いて板状被処理物に電気めっきする方法であって、前記電極とめっき液とを接触させた状態で電気めっきを行う電気めっき方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の保持治具は、背面部材と正面部材との間に板状被処理物を配置したときに、板状被処理物の幅方向における辺縁部の所定の範囲が、複数の電極と複数の第1絶縁部で覆われる。その結果、電流の流れが適切に制御され、電場分布が均一になり、板状被処理物の辺縁部に電流が回り込みにくくなり、板状被処理物の辺縁部に付着するめっき量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る保持治具の実施形態の一例を示す斜視図であり、背面部材と正面部材とを閉じた状態を示している。
図2図2は、本発明に係る保持治具の実施形態の一例を示す斜視図であり、背面部材と正面部材とを開いた状態を示している。
図3図3は、本発明に係る保持治具の実施形態の一例について、背面部材と正面部材とを閉じた状態における背面部材と正面部材との接続部分を示した斜視図(一部断面図)である。
図4図4は、本発明に係る保持治具の実施形態の一例について、背面部材と正面部材とを開いた状態における背面部材と正面部材との接続部分を示した斜視図である。
図5図5(a)は、図3に示した保持治具におけるA-A位置の断面図を示し、図5(b)は、図3に示した保持治具におけるB-B位置の断面図を示す。
図6図6は、保持治具の背面部材と正面部材との間に板状被処理物を配置した状態を説明するための模式図であり、図6(a)は、板状被処理物の長さよりも開口部の幅の長さの方が短い場合を示し、図6(b)は、板状被処理物の長さの方が開口部の幅の長さよりも短い場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る保持治具は、背面部材と、該背面部材に対向し且つ開口部を有する正面部材との間に配置される板状被処理物に電気めっきを施すための板状被処理物用保持治具であり、前記正面部材には、前記板状被処理物の幅方向における辺縁部を覆う複数の電極と、前記板状被処理物の幅方向における辺縁部を覆う複数の第1絶縁部が形成されており、前記板状被処理物の幅方向における辺縁の長さと、前記開口部の幅であって前記板状被処理物の幅方向における辺縁に平行なものの長さとを比べ、短い方の長さを100としたとき、前記板状被処理物の幅方向における辺縁のうち80以上の部分が、前記電極または前記第1絶縁部で覆われる点に特徴を有する。
【0012】
以下、本発明に係る保持治具について図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明は図示例に限定される訳ではなく、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0013】
図1および図2は、本発明に係る保持治具1の実施形態の一例を示す斜視図である。図1は、背面部材11と、該背面部材11に対向し且つ開口部12を有する正面部材13とを閉じた状態を示しており、図2は、上記背面部材11と上記正面部材13とを開いた状態を示している。背面部材11と正面部材13との間に板状被処理物を配置することによって、板状被処理物を保持治具1で保持できる。なお、図1および図2では、板状被処理物は図示していない。
【0014】
上記保持治具1の正面部材13には、板状被処理物の幅方向における辺縁部を覆う複数の電極と、該板状被処理物の幅方向における辺縁部を覆う複数の第1絶縁部が形成されている。
【0015】
上記電極は、配線および電源に接続されており、板状被処理物に接触することによって通電できる。
【0016】
上記第1絶縁部は、電流が板状被処理物の辺縁部に回り込まないように遮蔽する部材であり、正面部材に第1絶縁部を形成することによって、板状被処理物の辺縁部に付着するめっき量を低減できる。
【0017】
上記電極の数は、複数、即ち、2以上であれば特に限定されず、保持治具1の大きさや板状被処理物の大きさ、電場分布等を考慮して決定すればよい。上記電極の数が多いほど、電流の集中を抑制できるため、めっき膜の膜厚を均一にできる。上記電極の数は、例えば、4以上が好ましく、より好ましくは6以上である。上記電極の数の上限は、例えば、10以下である。
【0018】
上記第1絶縁部の数は、複数、即ち、2以上であれば特に限定されず、保持治具1の大きさや板状被処理物の大きさ、電場分布等を考慮して決定すればよい。上記第1絶縁部の数が多いほど、電流の集中を抑制できるため、めっき膜の膜厚を均一にできる。上記第1絶縁部の数は、例えば、4以上が好ましく、より好ましくは6以上である。上記第1絶縁部の数の上限は、例えば、10以下である。
【0019】
上記電極の数と上記第1絶縁部の数は同じであってもよいが、異なっていることが好ましく、上記電極の数よりも上記第1絶縁部の数の方が多い方がより好ましい。第1絶縁部の数を多くすることによって、電流が板状被処理物の辺縁部に回り込むことを抑制できるため、板状被処理物の辺縁部に付着するめっき量を低減できる。
【0020】
正面部材13に形成されている電極と第1絶縁部について図3図5を用いて詳細に説明する。
【0021】
図3は、上記図1と同様、背面部材11と正面部材13とを閉じた状態の保持治具1を示しており、保持治具1における上記背面部材11と上記正面部材13との接続部分を示した斜視図(一部断面図)である(正面部材13は図示せず)。一方、図4は、上記図2と同様、背面部材11と正面部材13とを開いた状態の保持治具1を示しており、保持治具1における上記背面部材11と上記正面部材13との接続部分を示した斜視図である。上記図面と同じ箇所には同一の符号を付して重複説明を避ける。
【0022】
図3および図4に示すように、上記正面部材13には、上記背面部材11との接続部分近傍に、第1絶縁部31と電極32が、図示しない板状被処理物の辺縁に沿って配置されている。なお、図3図4に示した背面部材11と正面部材13の接続部分は、上記保持治具1を重力方向に立てたときにおける保持治具1の上部に配置されており、この上部における正面部材13に、上記第1絶縁部31と上記電極32が図示しない板状被処理物の幅方向に配置されている。一方、上記保持治具1を重力方向に立てたときにおける保持治具1の下部にも、上記第1絶縁部31と上記電極32が正面部材13に、図示しない板状被処理物の辺縁に沿って配置されている。
【0023】
図3に示した保持治具1において、正面部材13に第1絶縁部31を形成した位置(A-A位置)の断面図を図5(a)に示し、正面部材13に電極32を形成した位置(B-B位置)の断面図を図5(b)に示す。
【0024】
図5(a)に示すように、背面部材11の上方に板状被処理物41が配置されている。第1絶縁部31は、板状物を図5(a)に示すように屈曲させたものであり、第1絶縁物31の一方は正面部材13にボルトで固定されており、固定されていない側は、背面部材11の面方向に対して凸である凸部31aを有している。この凸部31aは、板状被処理物41に接している。
【0025】
図5(b)においても、背面部材11の上方に板状被処理物41が配置されている。電極32は、板状物を図5(b)に示すように屈曲させたものであり、電極32の一方は正面部材13に配置された通電部材15にボルトで固定されており、固定されていない側は、板状被処理物41に向かって曲げられている曲部32aを有している。この曲部32aは、板状被処理物41に接している。
【0026】
本発明の保持治具は、上記板状被処理物の幅方向における辺縁の長さと、上記開口部の幅であって上記板状被処理物の幅方向における辺縁に平行なものの長さとを比べ、短い方の長さを100としたとき、上記板状被処理物の幅方向における辺縁の長さのうち80以上の部分が、上記第1絶縁部または上記電極で覆われているところに特徴がある。板状被処理物の幅方向における辺縁の長さのうち80以上の部分が、上記第1絶縁部31または上記電極32で覆われることによって、電流が板状被処理物41の辺縁部へ回りにくくなるため、板状被処理物41の辺縁部に付着するめっき量を低減できる。
【0027】
上記第1絶縁部31または上記電極32で覆われている部分は、上記板状被処理物41の幅方向における辺縁のうち90以上の部分であることが好ましく、より好ましくは95以上の部分であり、最も好ましくは100の部分である。
【0028】
上記第1絶縁部31または上記電極32で覆われている部分の長さは、上記板状被処理物の幅方向における辺縁の長さと、上記開口部の幅であって上記板状被処理物の幅方向における辺縁に平行なものの長さとを比べ、短い方の長さを100としている。
【0029】
即ち、保持治具1の背面部材11と正面部材13との間に板状被処理物41を配置する際には、図6(a)、(b)に示すように、板状被処理物41の幅方向における辺縁の長さ41aと、上記正面部材13に設けられた開口部12の幅であって上記板状被処理物41の幅方向における辺縁に平行なものの長さ12aとが一致せず、板状被処理物41の長さ41aよりも開口部12の幅の長さ12aの方が短くなることや、板状被処理物41の長さ41aの方が開口部12の幅の長さ12aよりも短くなることがある。
【0030】
そこで、本発明では、上記第1絶縁部31または上記電極32で覆われている部分の長さは、上記板状被処理物41の幅方向における辺縁の長さ41aと、上記開口部12の幅であって上記板状被処理物41の幅方向における辺縁に平行なものの長さ12aとを比べ、短い方の長さを100としている。従って、図6(a)では、開口部12の幅の長さ12aが長さの基準(100)となり、図6(b)では、板状被処理物41の幅方向における辺縁の長さ41aが長さの基準(100)となる。
【0031】
上記第1絶縁部31と上記電極32は、上記板状被処理物の辺縁に沿って交互に配置されていることが好ましい。第1絶縁部31と電極32を交互に配置することによって、電極32付近における電場分布が均一になるため、めっき膜の膜厚を均一にできる。上記第1絶縁部31と上記電極32は、互いに接触して配置されていてもよいし、離間して配置されていてもよい。
【0032】
上記第1絶縁部31と上記電極32は、上記板状被処理部の辺縁に沿って交互に互いに接触して配置されていることがより好ましい。第1絶縁部31と電極32を互いに接触して配置することによって第1絶縁部31と電極32との間の隙間が無くなるため、電流が板状被処理物41の辺縁部に回り込みにくくなる。その結果、板状被処理物41の辺縁部に付着するめっき量を一層低減できる。
【0033】
上記図5(b)に示したように、上記電極32の上記板状被処理物41と接触する側は、該板状被処理物41に向かって曲げられている曲部32aを有することが好ましい。また、上記曲部32aは、電極32の幅方向にわたって設けられていることが好ましい。
【0034】
電極32の一端部に曲部32aを形成することによって、曲部32aに板ばねのように弾性が付与されるため、該曲部32aと板状被処理物41とを確実に接触させることができ、確実に通電できる。また、曲部32aを電極32の幅方向にわたって有することによって電流が板状被処理物41の辺縁部へ回り込みにくくなるため、板状被処理物41の辺縁部に付着するめっき量を低減できる。曲部32aの形状は、湾曲した形状や屈曲した形状が挙げられる。
【0035】
上記電極32は、上記板状被処理物41との接点以外の部分に、図示しない絶縁皮膜を有することが好ましい。接点以外を絶縁皮膜で被覆することによって、電極32自体に付着するめっき量を低減できる。
【0036】
上記絶縁皮膜の種類は特に限定されず、例えば、絶縁性を有する樹脂フィルムが挙げられる。絶縁性を有する樹脂フィルムとしては、例えば、塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどが挙げられる。
【0037】
上記図5(a)に示したように、上記第1絶縁部31は、上記背面部材11の面方向に対して凸である凸部31aを有することが好ましい。第1絶縁部31の一端部に凸部31aを形成することによって、第1絶縁部31に受けた応力が凸部31aに集中するため、凸部31aで板状被処理物41を背面部材11側へ確実に押さえ込むことができる。その結果、第1絶縁部31に応力を受けても第1絶縁部31と板状被処理物41との接触状態を維持できるため、板状被処理物41の辺縁部にめっき液が存在していても、電流が板状被処理物41の辺縁部へ回り込みにくくなり、板状被処理物41の辺縁部に付着するめっき量を低減できる。なお、めっき液が板状被処理物41の辺縁部に存在することによって、電気めっき時に発熱しても放熱されやすくなるため、電気抵抗を下げることができる。
【0038】
上記凸部31aの形状は特に限定されず、図5(a)に示すように、背面部材11の面方向に対して垂直方向に延びる突起でもよいし、球状でもよい。また、図5(b)に示すように、板状被処理物41に向かって曲げられている曲部32aを有してもよい。
【0039】
上記凸部31aは、上記第1絶縁部31の幅方向全体にわたって(即ち、板状被処理物41の幅方向における辺縁部を覆う方向全体にわたって)設けられていることが好ましい。凸部31aを第1絶縁部31の幅方向にわたって有することによって電流が板状被処理物41の辺縁部へ回り込みにくくなるため、板状被処理物41の辺縁部に付着するめっき量を低減できる。
【0040】
上記第1絶縁部31は、上記板状被処理物41に接触しなくてもよいが、上記板状被処理物41の辺縁部に接触することが好ましい。第1絶縁部31を板状被処理物41に接触させることによって、電流が板状被処理物41の辺縁部へ回り込みにくくなるため、板状被処理物41の辺縁部に付着するめっき量を一層低減できる。
【0041】
上記第1絶縁部31の素材は、絶縁性であれば特に限定されず、例えば、塩化ビニル、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。上記第1絶縁部31の素材は、更に弾性を有していることが好ましい。
【0042】
上記正面部材13は、図5に示すように、第2絶縁部33を有しており、上記電極32および/または上記第1絶縁部31は、前記第2絶縁部33で覆われていることが好ましい。電極32および/または第1絶縁部31が第2絶縁部33で覆われていることによって、第2絶縁部33による電流遮蔽効果が期待できるため、板状被処理物41の辺縁部に付着するめっき量を一層低減できる。本発明の保持治具1は、上記電極32および上記第1絶縁部31の両方が第2絶縁部33で覆われていることがより好ましい。
【0043】
上記第2絶縁部33は、上記開口部12における辺縁部に、上記背面部材11の面方向に対して凸である凸部(例えば、堰)を有することが好ましい。上記第2絶縁部33の一端部に、上記背面部材11の面方向に対して凸である凸部を形成することによって、電流が板状被処理物41の辺縁部へ一層回り込みにくくなるため、板状被処理物41の辺縁部に付着するめっき量を一層低減できる。
【0044】
特に、電気めっきとしてCuめっきを行う際には、正面部材13に上記第2絶縁部33を設けた保持治具を用いることが好ましく、上記開口部12における辺縁部に、上記背面部材11の面方向に対して凸である凸部(例えば、堰)を形成することがより好ましい。
【0045】
上記正面部材13と上記第2絶縁部33は、一体構造とすることができるが、図5に示したように、正面部材13に別部材として第2絶縁部33を形成することが好ましい。正面部材13と第2絶縁部33とを別部材とすることによって、第2絶縁部33の大きさや形状を容易に交換できる。
【0046】
本発明には、本発明に係る保持治具を用いて板状被処理物に電気めっきする方法であって、電極とめっき液とを接触させた状態で電気めっきを行う方法も含まれる。電極とめっき液とを接触させた状態で電気めっきを行うことによって、通電および放熱しやすくなるため、電気抵抗が低下し、めっきしやすくなる。
【0047】
本発明に係る保持治具を用いて板状被処理物に電気めっきを施すには、まず、図2に示したように、背面部材11と正面部材13を開き、背面部材11の正面部材13との対向面上に、板状被処理物を配置した後(図示せず)、図1に示すように、背面部材11と正面部材13とを閉じ、開閉ロック14aと14bを用いて背面部材11と正面部材13が開かないようにする。次に、板状被処理物を配置した保持治具1を、例えば、処理槽内のめっき液に浸漬し、電気めっきを行う。電気めっき後は、保持治具1に板状被処理物を保持したまま保持治具1ごと洗浄し、開閉ロック14aと14bを解除し、背面部材11と正面部材13を開き、板状被処理物を保持治具から取り外す。
【0048】
<その他>
上記板状被処理物41の辺縁部には、絶縁皮膜を形成してもよい。
【0049】
絶縁皮膜の種類は特に限定されず、例えば、絶縁性を有する樹脂フィルムが挙げられる。絶縁性を有する樹脂フィルムとしては、例えば、塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどが挙げられる。
【0050】
絶縁皮膜を形成する幅は特に限定されないが、例えば、5~15mm程度が好ましい。絶縁皮膜は、板状被処理物41の辺縁端を含む領域に形成することが好ましい。
【0051】
上記開閉ロック14aと14bは、背面部材11と正面部材13が電気めっき中に開かないように構成すればその種類は特に限定されず、例えば、嵌合する凸部と凹部を設ける構成や、磁力を用いる構成などが挙げられる。
【0052】
上記保持治具1の下方には、ガイド21を設けることが好ましく、該ガイド21を、電気めっきを行う処理槽内に設けられたガイドサポートに装入することによって、保持治具1を処理槽に固定できる。
【符号の説明】
【0053】
1 保持治具
11 背面部材
12 開口部
12a 開口部12の幅であって板状被処理物41の幅方向における辺縁に平行なものの長さ
13 正面部材
14a、14b 開閉ロック
15 通電部材
21 ガイド
31 第1絶縁部
31a 凸部
32 電極
32a 曲部
33 第2絶縁部
41 板状被処理物
41a 板状被処理物41の幅方向における辺縁の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6