(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物に用いるカーボンブラック
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240117BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240117BHJP
C09C 1/48 20060101ALI20240117BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/04
C09C1/48
B60C1/00 Z
(21)【出願番号】P 2019229232
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000116747
【氏名又は名称】旭カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直也
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-087173(JP,A)
【文献】特開2011-116920(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038768(WO,A1)
【文献】特開2010-144011(JP,A)
【文献】特開2013-082776(JP,A)
【文献】特開平06-279624(JP,A)
【文献】米国特許第05516833(US,A)
【文献】特開2016-037591(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0197715(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09C 1/48-1/60
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジブチルフタレート吸収量が150~170mL/100gであり、圧縮ジブチルフタレート吸収量が
112~115mL/100gであり、前記ジブチルフタレート吸収量と前記圧縮ジブチルフタレート吸収量との差が35~60mL/100gであり、セチルトリメチルアンモニウムブロミド比表面積が90~140m
2/gであり、水素発生量が3000~4000ppmであり、遠心沈降法で得られる凝集体分布の最頻径Dst及び当該Dstを含むピークの半値幅ΔD50との比(ΔD50/Dst)が0.65~0.75である事を特徴とする、タイヤ用ゴム組成物向けカーボンブラック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に用いるカーボンブラックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー、省資源の社会的要請の下、自動車の燃料消費量を節約するため、転がり抵抗の小さいタイヤが求められている。このような要求に対し、タイヤの転がり抵抗を減少させる手法としては、カーボンブラックの使用量を低減したり、低級カーボンブラックを使用する等して、ヒステリシスロスの低下した、すなわち発熱性の低いゴム組成物をタイヤ部材、特にトレッドゴムに用いる方法が知られている。
しかしながら、使用するカーボンブラックの単純な減量は、加硫ゴムの耐摩耗性を低下させることがある。また、ゴム成分中に占めるポリブタジエンゴムの割合を増大させたり、加硫ゴムを高弾性化することによって、タイヤの転がり抵抗を改善することもできるが、この場合、タイヤの耐引裂き性に検討の余地があった。このような問題を改善するために種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、トレッドのようなタイヤ用部材に適用した際、高い低発熱性、耐摩耗性及び耐カット性を有すると共に、優れた耐疲労亀裂性を実現したタイヤを得るために、下記関係式(1)~(3)を満たすカーボンブラックを含んだゴム組成物を用いることが開示されている(特許文献1参照)。
8350≦62.5×24M4DBP+水素発生量≦9000 ・・・(1)
24M4DBP+0.25×CTAB≧62.5 ・・・(2)
Dst+0.75×ΔD50≧152.5 ・・・(3)
ここで、24M4DBPは圧縮DBP吸収量(mL/100g)、CTABはCTAB吸着比表面積(m2/g)、Dstは遠心沈降法で得られるカーボンブラック凝集体分布の最頻径(nm)、ΔD50はDstに対する分布曲線の半値幅(nm)を示し、水素発生量の単位は質量ppmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された発明によって、タイヤの耐摩耗性と転がり抵抗の減少について一定の成功が得られたものの、当該タイヤ物性の改善は継続的な課題であり、更なる向上が求められている。
本発明は、上記事情に鑑み、耐摩耗性と低転がり抵抗をより高次で両立したタイヤを得ることができるタイヤ用ゴム組成物に適したカーボンブラックを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
タイヤ用ゴム組成物に用いるカーボンブラックであって、当該カーボンブラックはジブチルフタレート吸収量が150~170mL/100gであり、圧縮ジブチルフタレート吸収量が110~120mL/100gであり、前記ジブチルフタレート吸収量と前記圧縮ジブチルフタレート吸収量との差が35~60mL/100gであり、セチルトリメチルアンモニウムブロミド比表面積が90~140m2/gであり、水素発生量が3000~4000ppmであり、遠心沈降法で得られる凝集体分布の最頻径Dst及び当該Dstを含むピークの半値幅ΔD50との比(ΔD50/Dst)が0.65~0.75である事を特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐摩耗性と低転がり抵抗を高位に両立したタイヤを得ることができるタイヤ用ゴム組成物に適したカーボンブラックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】カーボンブラックを製造するためのカーボンブラック製造炉の一例の部分縦断正面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のカーボンブラックは、次の(1)~(6)の特性を有する。
(1)ジブチルフタレート吸収量が150~170mL/100gである。
(2)圧縮ジブチルフタレート吸収量が110~120mL/100gである。
(3)前記ジブチルフタレート吸収量と前記圧縮ジブチルフタレート吸収量との差が35~60mL/100gである。
(4)セチルトリメチルアンモニウムブロミド比表面積が90~140m2/gである。
(5)水素発生量が3000~4000ppmである。
(6)遠心沈降法で得られる凝集体分布の最頻径Dst及び当該Dstを含むピークの半値幅ΔD50との比(ΔD50/Dst)が0.65~0.75である。
【0010】
(1)~(6)の特性を有するカーボンブラックを「本発明のカーボンブラック」と称することがある。
また、「ジブチルフタレート吸収量」を、「DBP吸収量」と称するか、または、単に「DBP」と略記することがある。
「圧縮ジブチルフタレート吸収量」を「圧縮DBP吸収量」と称するか、または、単に「24M4DBP」と略記することがある。
「ジブチルフタレート吸収量と圧縮ジブチルフタレート吸収量との差」を「ΔDBP」と称することがある。
「セチルトリメチルアンモニウムブロミド比表面積」を、「CTAB比表面積」と称するか、または、単に「CTAB」と略記することがある。
【0011】
本発明のカーボンブラックは、(1)~(6)を同時に満たす上記構成であることで、耐摩耗性を損なわずに、転がり抵抗の小さいタイヤを得ることができるタイヤ用ゴム組成物を得ることが出来る。この理由は定かではないが、高水素化、高ΔDBP及び凝集体分布の均一化による耐摩耗性の向上、およびそれらとバランスしたDBP、CTABの選択によって、本発明効果が得られると考えられる。
以下、本発明のカーボンブラック、および当該カーボンブラックを配合したゴム組成物の詳細について説明する。
【0012】
〔ゴム成分〕
一般的にタイヤに用いられるゴム成分としては、天然ゴム(NR)及び合成ジエン系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種のジエン系ゴムが挙げられる。
合成ジエン系ゴムとして、具体的には、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(BIR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム(SIR)、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム(SBIR)等が挙げられる。
ジエン系ゴムは、天然ゴム、合成イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、及びイソブチレンイソプレンゴムが好ましく、天然ゴム及びブタジエンゴムがより好ましい。ジエン系ゴムは、一種単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0013】
ゴム成分は、天然ゴムと合成ジエン系ゴムのいずれか一方のみを含んでいてもよいし、両方を含んでいてもよいが、耐摩耗性をより向上し、転がり抵抗をより小さくする観点から、ゴム成分は、少なくとも天然ゴムを含むことが好ましい。
同様の観点から、ゴム成分中の天然ゴムの割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0014】
〔カーボンブラック〕
本発明のカーボンブラックは、既述の(1)~(6)の特性を有すれば、特に制限されず、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】
(1)DBP吸収量
本発明のカーボンブラックは、ジブチルフタレート吸収量(DBP吸収量)が150~170mL/100gである。
DBP吸収量は、カーボンブラック100g当たりに吸収されるジブチルフタレート(DBP)の体積〔mL〕であり、カーボンブラックの一次粒子によって成る、凝集体構造の発達度合いの指標となる。
DBP吸収量が150mL/100g未満であると、凝集体構造の発達が不十分でゴムの補強性が得られず、170mL/100gを超えると、発達が過度となり、カーボンブラックの分散性が悪化して物性向上効果が得られない。
係る観点から、カーボンブラックのDBP吸収量は150~170mL/100gであることが好ましく、155~168mL/100gであることがより好ましく、165~168mL/100gであることが更に好ましい。
【0016】
(2)圧縮DBP吸収量
本発明のカーボンブラックは、圧縮ジブチルフタレート吸収量(圧縮DBP吸収量)が110~120mL/100gである。
圧縮DBP吸収量(mL/100g)は、24,000psiの圧力で4回繰り返し圧力を加えた後、DBP(ジブチルフタレート)吸収量を測定した値である。DBP吸収量及び圧縮DBP吸収量(24M4DBP)は、ASTM D2414-19(JIS K6217-4:2017)に記載の方法により測定される。
【0017】
この圧縮DBP吸収量は、いわゆるファンデルワールス力により生じている変形性又は破壊性の構造形態(2次ストラクチャー)によるDBP吸収量を排除し、非破壊性の真のストラクチャーの構造形態(1次ストラクチャー)に基くDBP吸収量を求めるときに用いる、1次ストラクチャーを主体とするカーボンブラックの骨格的構造特定を評価する指標である。
【0018】
圧縮DBP吸収量が110mL/100g未満であると、ゴム捕捉力が強まりにくく、タイヤの耐摩耗性を損ねる。一方、圧縮DBP吸収量が120mL/100gを超えると、発熱性が低くなりにくく、タイヤの転がり抵抗を低減することができない。
かかる観点から、圧縮DBP吸収量は、110~120mL/100gであることが好ましく、110~118mL/100gであることがより好ましく、112~115mL/100gであることが更に好ましい。
【0019】
(3)ΔDBP
本発明のカーボンブラックは、前期DBP吸収量と前記圧縮DBP吸収量との差(ΔDBP)が35~60mL/100gである。
ΔDBPは、カーボンブラックの表面活性の指標となる。ΔDBPが35mL/100g未満であると、表面活性が低く、ゴム成分とカーボンブラックとの相互作用が少なくなるため、加硫ゴムの耐摩耗性が低下する。ΔDBPが60mL/100gを超えると、表面活性が高すぎて、ゴム成分との過度な相互作用が生じ、発熱性が低くなりにくく、タイヤの転がり抵抗を低減する事が出来ない。
かかる観点から、ΔDBPは、35~60mL/100gであることが好ましく、37~56mL/100gであることがより好ましく、50~56mL/100gであることが更に好ましい。
【0020】
(4)CTAB比表面積
本発明のカーボンブラックは、セチルトリメチルアンモニウムブロミド比表面積(CTAB比表面積)が90~140m2/gである。
カーボンブラックのCTAB比表面積が90m2/g未満であると、タイヤが耐摩耗性に優れず、140m2/gを超えるとタイヤが低発熱性に優れず、転がり抵抗を低減することができない。耐摩耗性をより向上し、転がり抵抗をより小さくする観点から、カーボンブラックのCTAB比表面積は90~140m2/gであることが好ましく、95~140m2/gであることがより好ましく、95~120m2/gであることが更に好ましい。
カーボンブラックのCTAB比表面積は、JIS K6217-3:2001に準拠した方法で測定することができる。
【0021】
(5)水素発生量
本発明のカーボンブラックは、水素発生量が3000~4000ppmである。
水素発生量が3000ppm未満であると表面活性が低く、ゴム成分とカーボンブラックとの相互作用が少なくなるため、加硫ゴムの耐摩耗性が低下する。4000ppmを超えると表面活性が高すぎて、ゴム成分との過度な相互作用が生じ、発熱性が低くなりにくく、タイヤの転がり抵抗を低減する事が出来ない。
かかる観点から、水素発生量は、3000~4000ppmであることが好ましく、3200~4000ppmであることがより好ましい。
【0022】
本発明において、水素発生量は、ガスクロマトグラフ装置を用いて、カーボンブラックを不活性ガス雰囲気中2000℃で15分間加熱した場合の、水素ガス発生量(質量ppm)を意味する。
水素発生量の測定は、より具体的には、次の(i)~(iii)に基づいて行うことができる。(i)カーボンブラックを105℃の恒温乾燥機中で1時間乾燥し、デシケータ中で室温(23℃)まで冷却する。(ii)(i)で得たカーボンブラック約10mgを精秤し、スズ製のチューブ状サンプル容器に入れて圧着・密栓する。(iii)水素分析装置を使用して、アルゴン気流下、2000℃で15分間サンプル容器を加熱したときの水素ガス発生量を測定する。
【0023】
(6)ΔD50、Dst
本発明のカーボンブラックは、遠心沈降法で得られる凝集体分布の最頻径Dst及び当該Dstを含むピークの半値幅ΔD50との比(ΔD50/Dst)が0.65~0.75である。
Dstは、JIS K6217-6記載の方法に従って遠心沈降法を用いて得られた凝集体分布の最多頻度を与える凝集体径を指す。ΔD50(nm)は、遠心沈降法で得られた凝集体分布曲線において、その頻度が最大点の半分の高さのときの分布の幅である。
【0024】
ΔD50/Dstが0.75を超えると、破壊性能が維持できない可能性があり、ΔD50/Dstを0.65未満とすることは困難である。
タイヤの転がり抵抗をより小さくする観点から、ΔD50/Dstは0.65~0.73であることが好ましく、0.66~0.71であることがより好ましく、0.67~0.70であることが更に好ましい。
【0025】
本発明のカーボンブラックは、上記(1)~(6)の特性を備えるカーボンブラックを製造し得る方法であれば特に制限されないが、以下に説明する製法に従うことが好ましい。
カーボンブラック製造炉内部は、燃焼帯域と反応帯域と反応停止帯域とを連接した構造であり、その全体は耐火物で覆われている。
カーボンブラック製造炉は、燃焼帯域として、可燃性流体導入室と、炉頭部外周から酸素含有ガス導入管によって導入された酸素含有ガスを、整流板を用いて整流して可燃性流体導入室へ導入する酸素含有ガス導入用円筒と、酸素含有ガス導入用円筒の中心軸に設置され、可燃性流体導入室へ燃料用炭化水素を導入する燃料油噴霧装置導入管とを備える。燃焼帯域内では、燃料用炭化水素の燃焼により高温燃焼ガスを生成する。
【0026】
カーボンブラック製造炉は、反応帯域として、円筒が次第に収れんする収れん室と、収れん室の下流側に例えば4つの原料油噴霧口を含む原料油導入室と、原料油導入室の下流側に反応室とを備える。原料油噴霧口は、燃焼帯域からの高温燃焼ガス流中に原料炭化水素を噴霧導入する。反応帯域内では、高温燃焼ガス流中に原料炭化水素を噴霧導入し、不完全燃焼又は熱分解反応により、原料炭化水素をカーボンブラックに転化する。
【0027】
図1は、当該ゴム配合用カーボンブラックを製造するためのカーボンブラック製造炉の一例の部分縦断正面説明図であって、カーボンブラックの原料(原料炭化水素)を含んだ高温ガスが導入される反応室10及び反応継続兼冷却室11を示す。
図1に示すように、カーボンブラック製造炉1は、反応停止帯域として、多段急冷媒体導入手段12を有する反応継続兼冷却室11を備える。多段急冷媒体導入手段12は、反応帯域からの高温燃焼ガス流に対して、水などの急冷媒体を噴霧する。反応停止帯域内では、高温燃焼ガス流を急冷媒体により急冷して反応を終結する。
また、カーボンブラック製造炉1は、反応帯域あるいは反応停止帯域において、ガス体を導入する装置を更に備えてもよい。ここで、「ガス体」としては、空気、酸素と炭化水素の混合物、これらの燃焼反応による燃焼ガス等が使用可能である。
【0028】
燃焼帯域とは、燃料と空気との反応により高温ガス流が生成される領域であり、この下流端は原料油が反応装置内に導入される点(複数位置で導入される場合は最も上流側)、例えば原料油が導入される点よりも上流側(
図1では左側)を指す。
また、反応帯域とは、原料炭化水素が導入された点(複数位置の場合は最も上流側)から反応継続兼冷却室11内の多段急冷水噴霧手段12(これらの手段は反応継続兼冷却室11内で抜き差し自在であり、生産する品種、特性により使用位置は選択される)の作動(水等の冷媒体を導入する)点までを指す。すなわち、例えば第3番目の原料油噴霧口で原料油を導入し、多段急冷媒体導入手段12で水を導入した場合、この間の領域が反応帯域となる。反応停止帯域とは、急冷水圧入噴霧手段を作動させた点よりも下側(
図1では右側)の帯域を指す。
図1において、反応継続兼冷却室11という名称を用いたのは、原料導入時点から前記反応停止用急冷水圧入噴霧手段の作動時点までが反応帯域、それ以降が反応停止帯域であり、この急冷水導入位置が要求されるカーボンブラック性能により移動することがあるためである。
【0029】
本発明のカーボンブラックを配合して成るゴム組成物から得られる加硫ゴムは、通常背反する耐摩耗性と低発熱性を高位に両立する事から、タイヤ、防振ゴム、免震ゴム、コンベアベルト等のベルト、ゴムクローラ、各種ホースなどの種々のゴム製品に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
〔カーボンブラックの製造方法〕
図1に代表されるカーボンブラック製造炉を用いて、表2の条件で各カーボンブラックを製造した。燃料には比重0.8622(15℃/4℃)のA重油を用い、原料油としては表1に示した性状の重質油を使用した。
【0032】
【0033】
【0034】
ここで、前記DBP及び24M4DBPは、KOH量の調整で制御する。
また、前記ΔDBPはクエンチ水量の調整で制御する。
また、前記CTABは原料導入量や空気導入量等の調整で制御する。
また、前記水素発生量は反応時間の調整で制御する。
また、ΔD50/Dstは空気導入量の調整などで制御する。
ただし、上記製造条件は一例であり、所望の値が得られるのであれば、他の製造条件で製造することも可能であるし、製造条件以外を調整することで実現することもできる。
【0035】
上記製造条件で得られたカーボンブラックの各物性を表3に示す。
【0036】
【0037】
各カーボンブラックの特性は、以下の方法にて求めた。
【0038】
(1)DBP吸収量と(2)圧縮DBP吸収量
DBP吸収量と圧縮DBP吸収量(24M4DBP)は、ASTM D2414-19(JIS K6217-4:2017)に記載の方法により測定した。
【0039】
(3)ΔDBP
ΔDBPは、上記DBP吸収量と圧縮DBP吸収量との差分として算出した。
【0040】
(4)CTAB比表面積
CTAB比表面積(m2/g)は、JIS K 6217-3:2001に準拠した方法で測定した。
【0041】
(5)水素発生量
カーボンブラックを105℃の恒温乾燥機中で1時間乾燥し、デシケータ中で室温(23℃)まで冷却した。得られたカーボンブラック約10mgを精秤し、スズ製のチューブ状サンプル容器に圧着して密栓した。ガスクロマトグラフ装置を使用して、アルゴン気流下、2000℃で15分間サンプル容器を加熱したときの水素ガス発生量を測定した。
【0042】
(6)遠心沈降法による凝集体分布(ΔD50/Dst)
DstとΔD50(nm)は、JIS K6217-6記載の方法により測定した。これらの測定結果から、ΔD50/Dstを算出した。
【0043】
<ゴム組成物の調製>
各カーボンブラックの性能評価の為、表4に示す成分を用い、常法に従ってゴム組成物を調製した。表4における各成分の詳細は下記のとおりである。
RSS♯1:Ribbed Smoked Sheet 1号
MBTS :2,2’-ジベンゾチアジルジスルフィド
IPPD :N-イソプロピル-N-フェニル-P-フェニレンジアミン
【0044】
【0045】
<ゴムの製造と評価>
調製したゴム組成物を加硫して試験片とし、加硫ゴムの耐摩耗性及び転がり抵抗(発熱性)を評価した。結果を表5に示す。
【0046】
1.耐摩耗性
試験片を用い、JIS K6264-2:2005に準じて、DIN摩耗試験を行った。室温でDIN摩耗試験を行った際の摩耗量(mm3)を測定した。比較例1の摩耗量の逆数を100とした場合の各摩耗量の逆数を指数として示す。指数値が大きい程、耐摩耗性が良好であることを示す。
【0047】
2.発熱性
試験片について、粘弾性測定装置(レオメトリックス社製)を使用し、温度60℃、歪5%、周波数15Hzで損失正接(tanδ)を測定した。比較例1のtanδを100とした場合の各tanδを指数表示した。指数値が小さいほど、加硫ゴムは発熱性が低く、当該加硫ゴムから得られるタイヤは転がり抵抗が小さいことを示す。
【0048】
【0049】
表5から明らかなように、実施例のカーボンブラックを用いた加硫ゴムは耐摩耗性と発熱性の高位の両立を達成した。また、比較例のカーボンブラックを用いた加硫ゴムは、実施例の加硫ゴムと比較して同等の発熱性であっても高い耐摩耗性が得られず、高位の両立には至らなかった。これは、比較例のゴム組成物を用いて得られるタイヤは、発熱性を低減することができても、耐摩耗性の向上を同時に達成することができないことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のカーボンブラックを配合したゴム組成物を用いることで、耐摩耗性と発熱性を高位に両立したタイヤが得られるため、本発明のカーボンブラックは、乗用車用、軽乗用車用、軽トラック用及び重荷重用{トラック・バス用、オフザロードタイヤ用(鉱山用車両用、建設車両用、小型トラック用等)}等の各種タイヤのタイヤケース、トレッド部材等の製造に使用されるゴム組成物に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0051】
1 カーボンブラック製造炉
10 反応室
11 反応継続兼冷却室
12 多段急冷媒体導入手段