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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20240117BHJP
   A23L 2/68 20060101ALI20240117BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20240117BHJP
   A23L 2/56 20060101ALI20240117BHJP
   C12G 3/06 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C12C5/02
A23L2/00 D
A23L2/00 B
A23L2/56
A23L2/68
C12G3/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020006047
(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公開番号】P2021112144
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】大畠 麻由
(72)【発明者】
【氏名】小杉 隆之
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-027309(JP,A)
【文献】特開2019-037241(JP,A)
【文献】VANDERHAEGEN Bart, et al.,Evolution of Chemical and Sensory Properties during Aging of Top-Fermented Beer,J. Agri. Food Chem.,2003年,Vol.51,pp.6782-6790
【文献】SAISON Daan, et al.,Contribution of staling compounds to the aged flavour of lager beer by studying their flavour thresholds,Food Chemistry,2009年,Vol.114,pp.1206-1215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
A23L 2/
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コハク酸ジエチルと、乳酸エチルと、メチオナールと、を含有し、
前記コハク酸ジエチルの含有量が15~510ppbであり、
前記メチオナールの含有量が25~645ppbである、
ビールテイスト飲料。
【請求項2】
アルコール飲料であることを特徴とする、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
前記乳酸エチルの含有量が650~8500ppbである、請求項1または2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
前記乳酸エチルの含有量が700ppb以上である、請求項3に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
前記コハク酸ジエチルの含有量が450ppb以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
前記メチオナールの含有量が30ppb以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項7】
乳酸エチルを含有させる工程と、
コハク酸ジエチルを15~510ppb含有させる工程と、
メチオナールを25~645ppb含有させる工程と、
を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項8】
ビールテイスト飲料において、乳酸エチルを含有させ、さらに、コハク酸ジエチルの含有量を15~510ppbとし且つメチオナールの含有量を25~645ppbとすることを特徴とする、ビールテイスト飲料におけるジューシーさを感じる酸味および苦味のキレの向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、およびその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールテイスト飲料は、ビールらしい香味(ビール様の香味)を有する飲料であって、酒税法により定義されるビール、発泡酒、その他醸造酒、またはリキュールのいずれかに属するビールテイストアルコール飲料や、ノンアルコールビールテイスト飲料などが販売されている。
【0003】
そして近年においても、消費者の多様なニーズに応えるべく、ビールテイスト飲料の香味などに関する様々な技術開発が進められている。例えば、特許文献1には、発酵原料の麦芽比率が50質量%未満であり、総ポリフェノール含有量が130~170ppmであり、リナロール含有量が0.5~3ppbである、麦芽オフフレーバーが少ない上に、ボディ感が強く、かつ軽快感も良好な発酵麦芽飲料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-123067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、ビールテイスト飲料には味や香りの多様性が求められている。したがって、当業界においては、ビールテイスト飲料に新しい香味を付与する技術の開発が望まれていると言える。
【0006】
そこで本発明は、新しい香味を有するビールテイスト飲料、ならびにその製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ビールテイスト飲料において、コハク酸ジエチル、乳酸エチル、およびメチオナールが、ジューシーさを感じる酸味や苦味のキレに関与していることを明らかにした。そして、コハク酸ジエチルと、乳酸エチルと、メチオナールと、を含有し、コハク酸ジエチルの含有量が15~510ppbであり、メチオナールの含有量が25~645ppbであるビールテイスト飲料とすることにより、ジューシーさを感じる酸味および苦味のキレを有するビールテイスト飲料となることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(8)である。
(1)コハク酸ジエチルと、乳酸エチルと、メチオナールと、を含有し、前記コハク酸ジエチルの含有量が15~510ppbであり、前記メチオナールの含有量が25~645ppbである、ビールテイスト飲料。
(2)アルコール飲料であることを特徴とする、(1)に記載のビールテイスト飲料。
(3)前記乳酸エチルの含有量が650~8500ppbである、(1)または(2)に記載のビールテイスト飲料。
(4)前記乳酸エチルの含有量が700ppb以上である、(3)に記載のビールテイスト飲料。
(5)前記コハク酸ジエチルの含有量が450ppb以下である、(1)~(4)のいずれか1つに記載のビールテイスト飲料。
(6)前記メチオナールの含有量が30ppb以上である、(1)~(5)のいずれか1つに記載のビールテイスト飲料。
(7)乳酸エチルを含有させる工程と、コハク酸ジエチルを15~510ppb含有させる工程と、メチオナールを25~645ppb含有させる工程と、を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
(8)ビールテイスト飲料において、乳酸エチルを含有させ、さらに、コハク酸ジエチルの含有量を15~510ppbとし且つメチオナールの含有量を25~645ppbとすることを特徴とする、ビールテイスト飲料におけるジューシーさを感じる酸味および苦味のキレの向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ジューシーさを感じる酸味および苦味のキレを有するビールテイスト飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、コハク酸ジエチルと、乳酸エチルと、メチオナールと、を含有し、コハク酸ジエチルの含有量が15~510ppbであり、メチオナールの含有量が25~645ppbであるビールテイスト飲料(以下においては「本発明のビールテイスト飲料」という場合もある)、ならびに、乳酸エチルを含有させる工程と、コハク酸ジエチルを15~510ppb含有させる工程と、メチオナールを25~645ppb含有させる工程とを含むビールテイスト飲料の製造方法(以下においては「本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法」という場合もある)である。
【0011】
ここで、本発明において含有量の単位として示す「ppb」とは、特に断りのない限り、「μg/L」を意味する。そして、この含有量とは、ビールテイスト飲料の総容量に対する含有量である。
【0012】
まず、本発明のビールテイスト飲料について詳細に説明する。
なお、本発明において「ビールテイスト飲料」とは、ビールらしい香味、つまりビール様の香味を有する飲料を意味する。したがって、本発明の「ビールテイスト飲料」には、酒税法(昭和二十八年法律第六号)により定義される発泡性酒類(ビール、発泡酒、その他醸造酒、ならびにリキュール)に属するビール様の香味を有するアルコール飲料や、上記した酒税法により定義される発泡性酒類には属さないがビール様の香味を有するアルコール飲料(例えば非発泡性アルコール飲料)、ビール様の香味を有する清涼飲料水(例えばノンアルコールビールテイスト飲料)などが包含される。
また、本発明のビールテイスト飲料がアルコール飲料である場合、その製造において、酵母によるアルコール発酵工程(酵母が糖類などの有機物から代謝産物であるアルコールを生成する工程)を経て製造された発酵飲料であってもよく、あるいは、その製造において、アルコール発酵工程を行うことなく製造された非発酵飲料(例えば蒸留酒等の酒類を原料として用いて調合により製造されたアルコール飲料など)であってもよい。
【0013】
そして、本発明のビールテイスト飲料は、まず、コハク酸ジエチル(Diethyl Succinate:C14)を15~510ppb含有する。コハク酸ジエチルは、コハク酸と2分子のエタノールとがエステル結合してなる化合物である。なお、このコハク酸ジエチルは、市販品の製剤(コハク酸ジエチル製剤)を使用して含有させてもよく、あるいは、コハク酸ジエチル含有原料(例えば香料など)を使用して含有させてもよい。また、アルコール発酵条件や貯酒(熟成)条件などの調整によって酵母の作用等により生成したものであってもよい。
【0014】
本発明のビールテイスト飲料においては、このコハク酸ジエチルの含有量を15~510ppbとすることにより、後述する乳酸エチルおよびメチオナールとの相乗的な作用によって、特にジューシーさを感じる酸味、つまり果汁様の(みずみずしさのある)酸味を有するビールテイスト飲料とすることができる。
なお、コハク酸ジエチルの含有量は、上記したジューシーさを感じる酸味がより向上することから、その下限が20ppb以上であるのが好ましく、30ppb以上であるのがより好ましく、40ppb以上であるのがさらに好ましく、50ppb以上であるのがさらに好ましく、また、その上限が500ppb以下であるのが好ましく、450ppb以下であるのがより好ましく、400ppb以下であるのがさらに好ましく、350ppb以下であるのがさらに好ましい。
【0015】
さらに、本発明のビールテイスト飲料は、乳酸エチル(Ethyl Lactate:C10)を含有する。乳酸エチルは、乳酸とエタノールとがエステル結合してなる化合物である。なお、この乳酸エチルも、市販品の製剤(乳酸エチル製剤)を使用して含有させてもよく、あるいは、乳酸エチル含有原料(例えば香料など)を使用して含有させてもよい。また、アルコール発酵条件や貯酒(熟成)条件などの調整によって酵母の作用等により生成したものであってもよい。
【0016】
本発明のビールテイスト飲料においては、この乳酸エチルの含有量を650~8500ppbとするのが好ましい。このような含有量とすることにより、本発明のビールテイスト飲料が炭酸ガスを含有する発泡性飲料である場合、前述したコハク酸ジエチルおよび後述するメチオナールとの相乗的な作用によって、特に炭酸感の口当たりのなめらかさを有するビールテイスト飲料となるからである。
なお、乳酸エチルの含有量は、上記した炭酸感の口当たりのなめらかさがより向上することから、その下限が700ppb以上であるのがより好ましく、900ppb以上であるのがさらに好ましく、1000ppb以上であるのがさらに好ましい。また、ビールテイスト飲料としては好ましくない香味である発酵臭(酒類とは異なる発酵食品のような臭い)をより感じにくくなることから、その上限が8000ppb以下であるのがより好ましく、6000ppb以下であるのがさらに好ましく、4000ppb以下であるのがさらに好ましく、3000ppb以下であるのがさらに好ましい。
【0017】
さらに、本発明のビールテイスト飲料は、メチオナール(Methional:COS)を25~645ppb含有する。メチオナールは、チオエーテル類に分類される化合物である。なお、このメチオナールも、市販品の製剤(メチオナール製剤)を使用して含有させてもよく、あるいは、メチオナール含有原料(例えば香料など)を使用して含有させてもよい。また、アルコール発酵条件や貯酒(熟成)条件などの調整によって酵母の作用等により生成したものであってもよい。
【0018】
本発明のビールテイスト飲料においては、このメチオナールの含有量を25~645ppbとすることにより、前述したコハク酸ジエチルおよび乳酸エチルとの相乗的な作用によって、特に苦味のキレを有する、つまり苦味の後キレがよいビールテイスト飲料とすることができる。
なお、メチオナールの含有量は、上記した苦味のキレがより向上することから、その下限が35ppb以上であるのが好ましく、45ppb以上であるのがより好ましく、60ppb以上であるのがさらに好ましい。また、ビールテイスト飲料としては好ましくない香味である土臭さをより感じにくくなることから、その上限が600ppb以下であるのが好ましく、500ppb以下であるのがより好ましく、400ppb以下であるのがさらに好ましく、350ppb以下であるのがさらに好ましく、300ppb以下であるのがさらに好ましく、250ppb以下であるのがさらに好ましい。
【0019】
本発明のビールテイスト飲料は、乳酸エチルを含有し、且つコハク酸ジエチルおよびメチオナールを前述した数値範囲内の量で含有することにより、これら3成分の相乗的な作用によって、ジューシーさを感じる酸味および苦味のキレを有し、発泡性飲料である場合には炭酸感の口当たりのなめらかさも有するものとなる。そして、ビールらしい香味の厚みや複雑さなどがより向上したビールテイスト飲料となる。
【0020】
ここで、本発明のビールテイスト飲料におけるコハク酸ジエチル、乳酸エチル、およびメチオナールの含有量は、いずれもガスクロマトグラフィー(GC)等を用いた公知の方法によって測定する値である。
【0021】
なお、本発明のビールテイスト飲料は、原料として麦または麦加工物、米、とうもろこし、豆類、果実、香辛料などを任意に使用することができる。また、発酵飲料を製造する場合などにおいては、アルコール発酵促進等のために、原料として糖類を使用してもよい。なお、この「原料」とは、本発明のビールテイスト飲料の製造に用いられる全原料のうち、水およびホップ以外のものを指す。
【0022】
ここで、上記した麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦が挙げられる。また、麦加工物としては、例えば、麦エキス、麦芽、モルトエキスが挙げられる。この麦エキスは、麦から糖分および窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。また、麦芽は、麦を発芽させることにより得られる。そして、モルトエキスは、麦芽から糖分および窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。
【0023】
本発明のビールテイスト飲料にホップを使用する場合には、このホップの種類としては、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスなどが例示される。使用するホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよく、特段限定されない。
【0024】
そして、本発明のビールテイスト飲料の苦味価(BU)は、10以上であってもよく、15以上であってもよく、20以上であってもよい。また、50以下であってもよく、40以下であってもよく、30以下であってもよい。この苦味価(BU)は、ホップ等の使用量、品種、種類、添加のタイミングなどによって調整することができる。ここで、この苦味価(BU)とは、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.15 苦味価」に記載されている方法によって測定される値である。
【0025】
さらに、本発明のビールテイスト飲料には、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、飲料に通常配合され得る原料、例えば酸味料、着色料、甘味料、酸化防止剤、塩類等を含んでいてもよい。酸味料としては、例えば、リン酸、乳酸、乳酸ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウム、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウムなどが挙げられる。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素などが挙げられる。甘味料としては、例えば、高甘味度甘味料が挙げられる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムK、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、リチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどが挙げられる。塩類としては、例えば、食塩(塩化ナトリウム)、酸性リン酸カリウム、酸性リン酸カルシウム、リン酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
また、本発明の効果に影響を与えない範囲であれば、香料の使用などによって、前述したコハク酸ジエチル、乳酸エチル、およびメチオナール以外の香気成分となり得る成分をさらに含んでいてもよい。
【0026】
さらには、本発明のビールテイスト飲料は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲であれば、上記以外の任意の成分をさらに含んでもよい。
【0027】
また、本発明のビールテイスト飲料は、アルコール飲料(ビールテイストアルコール飲料)であるとより好適である。その場合のアルコール度数は特に限定されないが、一例としては、下限は1v/v%以上、より好ましくは2v/v%以上、さらに好ましくは3v/v%以上、さらに好ましくは4v/v%以上、さらに好ましくは5v/v%以上が示され、上限は好ましくは20v/v%以下、より好ましくは15v/v%以下、さらに好ましくは10v/v%以下、さらに好ましくは9v/v%以下、さらに好ましくは8v/v%以下、さらに好ましくは7v/v%以下、さらに好ましくは6v/v%以下が示される。
なお、本発明のビールテイスト飲料は、アルコール度数1v/v%未満、より好ましくは0.5v/v%未満、さらに好ましくは0.1v/v%未満、さらに好ましくは0.05v/v%未満であるノンアルコール飲料(ノンアルコールビールテイスト飲料)であってもよい。
【0028】
ここで、本発明において「アルコール度数(v/v%)」とは、改訂BCОJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.3 アルコール」に記載されている方法(8.3.6アルコライザー法)によって測定される値である。そして、本発明において「アルコール」とは、エタノールを意味する。
【0029】
本発明のビールテイスト飲料のアルコール度数は、その製造工程において、アルコール発酵条件を制御する方法や、各種スピリッツ(ウォッカ等)、焼酎、ブランデー、発泡酒、醸造用アルコールなどを添加する方法、発酵液を蒸留または希釈する方法等によって調整することができる。
【0030】
さらに、本発明のビールテイスト飲料は、非発泡性であってもよいが、本発明のビールテイスト飲料が発泡性であると、前述した炭酸感の口当たりのなめらかさ向上効果も発揮されるためより好ましい。ここで、本発明において「発泡性」とは、20℃における炭酸ガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)以上であることを意味し、「非発泡性」とは、20℃における炭酸ガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm)未満であることを意味する。そして、発泡性飲料である場合においては、この炭酸ガス圧は0.294MPa(3.0kg/cm)以下としてもよい。なお、この炭酸ガスは、発酵により生成されたものであってもよいし、炭酸水やカーボネーション(炭酸ガス圧入)工程により付与されたものであってもよい。そして、このカーボネーション工程は、バッチ式で行ってもよいし、配管路に炭酸ガス圧入システム(カーボネーター)が組み込まれたインライン方式で連続的に行ってもよい。また、このカーボネーション工程は、フォーミング(泡噴き)の発生等を避けるために、液温を10℃以下(より好ましくは4℃以下)として行うのが好適である。
【0031】
以上のような構成である本発明のビールテイスト飲料は、ジューシーさを感じる酸味および苦味のキレを有するものとなり、さらに発泡性飲料である場合には、炭酸感の口当たりのなめらかさも有するものとなる。
なお、本発明は、ビールテイスト飲料において乳酸エチルを含有させ、さらに、コハク酸ジエチルの含有量を15~510ppbとし且つメチオナールの含有量を25~645ppbとする、ビールテイスト飲料におけるジューシーさを感じる酸味および苦味のキレの向上方法を提供するものであるとも言える。
【0032】
次に、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法について詳細に説明する。
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、乳酸エチルを含有させる工程と、コハク酸ジエチルを15~510ppb含有させる工程と、メチオナールを25~645ppb含有させる工程とを含めば、その他の工程については常法にしたがえばよく、特段限定はされない。また、乳酸エチルの含有量を所定の範囲内とする工程をさらに備えていてもよい。そして、上記した各工程は、2工程以上を1工程において併せて行ってもよく、あるいは各工程の少なくとも1つを2工程以上に分けて行ってもよい。
【0033】
ここで、上記した「含有させる工程」とは、乳酸エチル、コハク酸ジエチル、またはメチオナールの製剤等を添加する工程だけでなく、これら3成分から選ばれる少なくとも1つを含む原料を選択して使用する工程や、アルコール発酵条件や貯酒(熟成)条件を調整して酵母の作用等によりこれら3成分の少なくとも1つを生成させる工程なども包含される。
【0034】
本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法の一例としては、非発酵飲料を製造する場合、まず調合工程として、製剤などを添加したり、乳酸エチル、コハク酸ジエチル、およびメチオナールからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む原料を選択して使用したりして、乳酸エチルと所定量のコハク酸ジエチルおよびメチオナールとを含む調合液を調製する。さらに必要であればホップ由来成分などをこの調合液に添加し、これも必要に応じてスピリッツや発泡酒などの添加によるアルコール度数の調整や、炭酸水の添加、カーボネーション等による炭酸ガス圧の調整などを行う。その後、濾過工程(フィルター濾過、ストレーナー濾過等)、殺菌工程(プレート殺菌等)などを行って、最終的に、乳酸エチルを含み、且つコハク酸ジエチルの含有量およびメチオナールの含有量が前述した範囲内である製品とする。さらに、この製品をアルミニウムやスチールなどの金属製容器、ガラス製容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ(プラスチックパウチ)容器などに充填して密封する容器充填工程を行ってもよい。特に、気体、水分、光線などの遮断性が高く、長期間常温において品質を維持することが可能であることから、金属製容器に充填され密封された構成とするのがより好ましい。
【0035】
また、発酵飲料を製造する方法の一例としては、まず発酵前工程として、麦芽、大麦等を使用して常法により仕込液(糖化液)を調製し、さらに必要であればホップなどをこの仕込液に添加して煮沸し、沈殿物を除去して発酵前液を取得し、この発酵前液に酵母を添加して所定の条件においてアルコール発酵工程を行う方法が示される。アルコール発酵後は、発酵後工程として、まず貯酒(熟成)を行う。次いで、貯酒後工程において、乳酸エチルと所定量のコハク酸ジエチルおよびメチオナールとを含有させ、さらに濾過などを行って、最終的に、乳酸エチルを含み、且つコハク酸ジエチルの含有量およびメチオナールの含有量が前述した範囲内である製品とする。これも必要であれば、発酵後工程などにおいて、スピリッツや発泡酒等の添加、アルコールの除去などによるアルコール度数の調整や、炭酸ガス圧の調整を行ってもよい。また、これも同様に、製品を金属製容器などに充填して密封する容器充填工程を行ってもよい。
【0036】
そして、上記したいずれの製造方法の例においても、乳酸エチル、コハク酸ジエチル、およびメチオナールを含有させる工程は、調合工程や貯酒後工程だけでなく、発酵前工程(仕込工程や煮沸工程)、アルコール発酵工程、発酵後工程、アルコール度数や炭酸ガス圧の調整工程、濾過工程、殺菌工程などにおいても可能である。
【0037】
なお、発酵飲料を製造する場合において、乳酸エチル、コハク酸ジエチル、およびメチオナールは、アルコール発酵工程や、発酵後工程における貯酒(熟成)の条件(温度、期間など)等を調整することにより、酵母の作用などによって原料由来成分から生成させて含有させることもできる。
例えば、発酵前工程において、酵母が乳酸エチル、コハク酸ジエチル、およびメチオナールを生成可能な原料由来成分を含む発酵前液を得た後に、所定の条件においてアルコール発酵工程を行い、さらに所定の条件において貯酒(熟成)を行い、これらの各工程において酵母の作用により乳酸エチル、コハク酸ジエチル、およびメチオナールを生成させ、必要であれば各工程中におけるこれら3成分の含有量を監視して条件等を調整する方法により発酵飲料の製造を行ってもよい。しかし、この場合においても、あわせて、製剤などを使用して乳酸エチル、コハク酸ジエチル、およびメチオナールから選ばれる少なくとも1つを添加したり、これら3成分から選ばれる少なくとも1つを含む原料を選択して使用したりすることは除外されない。
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例
【0039】
<ビールテイスト飲料の調製および官能評価(試験A)>
市販のビール(アルコール度数5.0v/v%、炭酸ガス圧2.2kg/cm)に、乳酸エチル製剤を乳酸エチル含有量が1500ppbとなるように添加し、また、メチオナール製剤をメチオナール含有量が90ppbとなるように添加し、さらに、コハク酸ジエチル製剤をコハク酸ジエチル含有量が下記表1上段に記載の量となるように添加した。このようにして、乳酸エチルを1500ppb、およびメチオナールを90ppb含有し、コハク酸ジエチルの含有量が異なる5種類の発泡性ビールテイストアルコール飲料サンプル(A-1~A-5)を作製した。
【0040】
そして、この得られた各サンプルにおけるジューシーさを感じる酸味について、訓練され官能的識別能力を備えた4名のパネリストにより、以下に示す評価基準を用いて官能評価を行った。
【0041】
[ジューシーさを感じる酸味の評価基準]
サンプルA-1におけるジューシーさを感じる酸味を1(ジューシーさを感じる酸味ではない)とし、このサンプルA-1との対比として、1(ジューシーさを感じる酸味ではない:サンプルA-1と同等)、2(ジューシーさをやや感じる酸味である)、3(ジューシーさを感じる酸味である)、4(ジューシーさをより感じる酸味である)、5(ジューシーさを非常に感じる酸味である)の5段階により比較官能評価を行った。
【0042】
この官能評価結果(4名のパネリストの評価平均値)を下記表1下段に示した。
この結果から、乳酸エチルを1500ppbおよびメチオナールを90ppb含有し、さらにコハク酸ジエチルを15~500ppb含有するサンプルA-2~A-5は、ジューシーさを感じる酸味を有するビールテイスト飲料であることが明らかとなった。
また、コハク酸ジエチルの含有量が50~320ppbであるサンプルA-3およびA-4は、ジューシーさを感じる酸味がより向上したビールテイスト飲料であることも明らかとなった。
【0043】
【表1】
【0044】
<ビールテイスト飲料の調製および官能評価(試験B)>
市販のビール(アルコール度数5.0v/v%、炭酸ガス圧2.2kg/cm)に、コハク酸ジエチル製剤をコハク酸ジエチル含有量が50ppbとなるように添加し、また、メチオナール製剤をメチオナール含有量が90ppbとなるように添加し、さらに、乳酸エチル製剤を乳酸エチル含有量が下記表2上段に記載の量となるように添加した。このようにして、コハク酸ジエチルを50ppb、およびメチオナールを90ppb含有し、乳酸エチルの含有量が異なる5種類の発泡性ビールテイストアルコール飲料サンプル(B-1~B-5)を作製した。
【0045】
そして、この得られた各サンプルにおける、炭酸感の口当たりのなめらかさおよび発酵臭について、訓練され官能的識別能力を備えた4名のパネリストにより、以下に示す評価基準を用いて官能評価を行った。
【0046】
[炭酸感の口当たりのなめらかさの評価基準]
サンプルB-1における炭酸感の口当たりのなめらかさを1(炭酸感の口当たりがなめらかではない)とし、このサンプルB-1との対比として、1(炭酸感の口当たりがなめらかではない:サンプルB-1と同等)、2(炭酸感の口当たりがややなめらかである)、3(炭酸感の口当たりがなめらかである)、4(炭酸感の口当たりがよりなめらかである)、5(炭酸感の口当たりが特になめらかである)の5段階により比較官能評価を行った。
【0047】
[発酵臭の評価基準]
サンプルB-1における発酵臭を1(発酵臭を感じない)とし、このサンプルB-1との対比として、1(発酵臭を感じない:サンプルB-1と同等)、2(発酵臭をわずかに感じる)、3(発酵臭をやや感じる)、4(発酵臭を感じる)、5(発酵臭が強い)の5段階により比較官能評価を行った。
【0048】
この官能評価結果(4名のパネリストの評価平均値)を下記表2下段に示した。
この結果から、コハク酸ジエチルを50ppbおよびメチオナールを90ppb含有し、さらに乳酸エチルを700~8500ppb含有するサンプルB-2~B-5は、炭酸感の口当たりのなめらかさを有するビールテイスト飲料であることが明らかとなった。
また、乳酸エチルの含有量が1500~4500ppbであるサンプルB-3およびB-4は、炭酸感の口当たりのなめらかさがより向上したビールテイスト飲料であり、乳酸エチルの含有量が700~1500ppbであるサンプルB-2およびB-3は、炭酸感の口当たりのなめらかさを有し且つ発酵臭が非常に少ないビールテイスト飲料であることも明らかとなった。
【0049】
【表2】
【0050】
<ビールテイスト飲料の調製および官能評価(試験C)>
市販のビール(アルコール度数5.0v/v%、炭酸ガス圧2.2kg/cm)に、コハク酸ジエチル製剤をコハク酸ジエチル含有量が50ppbとなるように添加し、また、乳酸エチル製剤を乳酸エチル含有量が1500ppbとなるように添加し、さらに、メチオナール製剤をメチオナール含有量が下記表3上段に記載の量となるように添加した。このようにして、コハク酸ジエチルを50ppb、および乳酸エチルを1500ppb含有し、メチオナールの含有量が異なる6種類の発泡性ビールテイストアルコール飲料サンプル(C-1~C-6)を作製した。
【0051】
そして、この得られた各サンプルにおける、苦味のキレのよさおよび土臭さについて、訓練され官能的識別能力を備えた4名のパネリストにより、以下に示す評価基準を用いて官能評価を行った。
【0052】
[苦味のキレのよさの評価基準]
サンプルC-1における苦味のキレのよさを1(苦味のキレが悪い)とし、このサンプルC-1との対比として、1(苦味のキレが悪い:サンプルC-1と同等)、2(苦味のキレがややよい)、3(苦味のキレがよい)、4(苦味のキレがよりよい)、5(苦味のキレが極めてよい)の5段階により比較官能評価を行った。
【0053】
[土臭さの評価基準]
サンプルC-1における土臭さを1(土臭さを感じない)とし、このサンプルC-1との対比として、1(土臭さを感じない:サンプルC-1と同等)、2(土臭さをわずかに感じる)、3(土臭さをやや感じる)、4(土臭さを感じる)、5(土臭さが強い)の5段階により比較官能評価を行った。
【0054】
この官能評価結果(4名のパネリストの評価平均値)を下記表3下段に示した。
この結果から、コハク酸ジエチルを50ppbおよび乳酸エチルを1500ppb含有し、さらにメチオナールを25~640ppb含有するサンプルC-2~C-6は、苦味のキレを有するビールテイスト飲料であることが明らかとなった。
また、メチオナールの含有量が45~320ppbであるサンプルC-3~C-5は、苦味のキレが向上したビールテイスト飲料であり、メチオナールの含有量が25~90ppbであるサンプルC-2~C-4は、苦味のキレを有し且つ土臭さが非常に少ないビールテイスト飲料であるであることも明らかとなった。
【0055】
【表3】