(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】干渉除去装置及び干渉除去プログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/36 20060101AFI20240117BHJP
G01S 13/53 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
G01S7/36
G01S13/53
(21)【出願番号】P 2020016164
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2023-01-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト/非協調式SAAの研究開発/電波・光波センサ統合技術の開発」助成事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】板倉 晃
(72)【発明者】
【氏名】平木 直哉
(72)【発明者】
【氏名】土屋 廣憲
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-053028(JP,A)
【文献】特開2002-156444(JP,A)
【文献】特開2012-037306(JP,A)
【文献】特開2019-007872(JP,A)
【文献】米国特許第04528565(US,A)
【文献】特開2015-121452(JP,A)
【文献】特開2011-196941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自レーダ送受信装置の複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、
前記自レーダ送受信装置のあるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅に
、パルス繰り返し周期が前記自レーダ送受信装置と相違する他レーダ送受信装置からの干渉成分が混入していれば、
前記自レーダ送受信装置の他のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅を用いた、
前記自レーダ送受信装置の前記あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、
PPI表示における真円状を除く渦巻状の又はランダムな前記干渉成分を除去する干渉成分除去部
を備えることを特徴とする干渉除去装置。
【請求項2】
前記干渉成分除去部は、
前記自レーダ送受信装置の前記あるパルス繰り返し周期の前後に隣接する
、前記自レーダ送受信装置のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の平均値を用いた、
前記自レーダ送受信装置の前記あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、
PPI表示における真円状を除く渦巻状の又はランダムな前記干渉成分を除去する
ことを特徴とする、請求項1に記載の干渉除去装置。
【請求項3】
前記干渉成分除去部は、
前記自レーダ送受信装置の前記他のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の正弦関数へのフィッティング結果を用いた、
前記自レーダ送受信装置の前記あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、
PPI表示における真円状を除く渦巻状の又はランダムな前記干渉成分を除去する
ことを特徴とする、請求項1に記載の干渉除去装置。
【請求項4】
パルス繰り返し周期が前記自レーダ送受信装置と相違する前記他レーダ送受信装置からの前記干渉成分が除去された又は混入されていない
、前記自レーダ送受信装置の前記複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、各レンジに存在する目標又はクラッタの速度を検出する目標速度検出部をさらに備える
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の干渉除去装置。
【請求項5】
前記目標速度検出部が検出した各レンジの速度の分散に基づいて、各レンジに目標及びクラッタのうちのいずれが存在するかを識別する目標存在識別部をさらに備える
ことを特徴とする、請求項4に記載の干渉除去装置。
【請求項6】
前記目標存在識別部は、前記目標速度検出部が検出した各レンジの速度の分散が分散閾値より大きいならば、各レンジに目標ではなくクラッタが存在すると識別する
ことを特徴とする、請求項5に記載の干渉除去装置。
【請求項7】
自レーダ送受信装置の複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、
前記自レーダ送受信装置のあるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅に
、パルス繰り返し周期が前記自レーダ送受信装置と相違する他レーダ送受信装置からの干渉成分が混入していれば、
前記自レーダ送受信装置の他のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅を用いた、
前記自レーダ送受信装置の前記あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、
PPI表示における真円状を除く渦巻状の又はランダムな前記干渉成分を除去する干渉成分除去ステップ
をコンピュータに実行させるための干渉除去プログラム。
【請求項8】
パルス繰り返し周期が前記自レーダ送受信装置と相違する前記他レーダ送受信装置からの前記干渉成分が除去された又は混入されていない
、前記自レーダ送受信装置の前記複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、各レンジに存在する目標又はクラッタの速度を検出する目標速度検出ステップ
を前記干渉成分除去ステップの後にコンピュータに実行させるための、請求項7に記載の干渉除去プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、干渉成分を除去するレーダ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
目標の速度を検出するレーダ技術が、特許文献1等に開示されている。従来技術の速度検出処理を
図1に示す。同一の期間を有するパルス繰り返し周期t
1、t
2、t
3、t
4、t
5、t
6、t
7の順序で時間が経過し、レンジR
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7の順序で距離が増加する。
【0003】
図1の左欄では、各パルス繰り返し周期t
1~t
7での各レンジR
1~R
7の受信振幅を測定する。
図1の中欄では、各パルス繰り返し周期t
1~t
7でのレンジR
3の受信振幅を抽出する。複数のパルス繰り返し周期t
1~t
7にわたるレンジR
3の受信振幅は、目標の速度が有限値であるため、正弦関数で時間変化する。
図1の右欄では、複数のパルス繰り返し周期t
1~t
7にわたるレンジR
3の受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、レンジR
3に存在する目標の速度を検出する。複数のパルス繰り返し周期t
1~t
7にわたるレンジR
3の受信振幅は、干渉成分を混入していないため、レンジR
3に存在する目標の速度を反映するピーク周波数fは、小さい分散σを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
目標の速度を検出するレーダ技術において、他方のレーダ送受信装置からの干渉成分を除去する必要がある。干渉除去処理の解決課題を
図2及び
図3に示す。
【0006】
図2及び
図3では、自己及び他方のレーダ送受信装置のパルス繰り返し周期は、若干相違しており、このような場合が通常である。
図2の左欄では、パルス繰り返し周期t
1、t
2、t
3、t
4、t
5、t
6、t
7において、それぞれ、レンジR
7、R
6、R
5、R
4、R
3、R
2、R
1の受信振幅に干渉成分が混入している。
図3の左欄では、PPI表示Pにおいて、渦巻状の干渉領域Iが表示されている。渦巻状の干渉領域Iの表示位置は、時々刻々と回転するように変化している。
【0007】
図2の中欄では、各パルス繰り返し周期t
1~t
7でのレンジR
3の受信振幅を抽出する。パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅は、干渉成分を混入している。そこで、ランクフィルタ等を用いて、パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅を、最大値をとる受信振幅として検出し、ゼロ値をとる受信振幅へと置換する。
図2の右欄では、複数のパルス繰り返し周期t
1~t
7にわたるレンジR
3の受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、レンジR
3に存在する目標の速度を検出する。パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅は、高周波成分を包含しているため、レンジR
3に存在する目標の速度を反映するピーク周波数fは、大きい分散σを有する。
【0008】
図3の右欄では、PPI表示Pにおいて、渦巻状の干渉領域Iが一部しか除去されていない。そして、渦巻状の干渉領域Iを通過する目標Tは、通過中の検出速度の分散σが大きいため、通過中及び通過前後の検出速度が大きく相違し得て、通過前後で同一目標と識別されず追尾処理が不能である。ここで、有人機等では、ユーザの目視により、渦巻状の干渉領域Iを通過する目標Tは、通過前後で同一目標と識別されて追尾処理が可能である。しかし、無人機等では、
図3の右欄に示したように、渦巻状の干渉領域Iを通過する目標Tは、通過前後で同一目標と識別されず追尾処理が不能である。
【0009】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、目標の速度を検出するレーダ技術において、他方のレーダ送受信装置からの干渉成分を高精度に除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅に干渉成分が混入していれば、他のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅を用いた、当該あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行する。
【0011】
具体的には、本開示は、複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅に干渉成分が混入していれば、他のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅を用いた、前記あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、前記干渉成分を除去する干渉成分除去部を備えることを特徴とする干渉除去装置である。
【0012】
また、本開示は、複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅に干渉成分が混入していれば、他のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅を用いた、前記あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、前記干渉成分を除去する干渉成分除去ステップをコンピュータに実行させるための干渉除去プログラムである。
【0013】
これらの構成によれば、目標の速度を検出するレーダ技術において、他方のレーダ送受信装置からの干渉成分を高精度に除去することができる。
【0014】
また、本開示は、前記干渉成分除去部は、前記あるパルス繰り返し周期の前後に隣接するパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の平均値を用いた、前記あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、前記干渉成分を除去することを特徴とする干渉除去装置である。
【0015】
この構成によれば、目標の速度を検出するレーダ技術において、他方のレーダ送受信装置からの干渉成分を容易な処理によって高精度に除去することができる。
【0016】
また、本開示は、前記干渉成分除去部は、前記他のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の正弦関数へのフィッティング結果を用いた、前記あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、前記干渉成分を除去することを特徴とする干渉除去装置である。
【0017】
この構成によれば、目標の速度を検出するレーダ技術において、他方のレーダ送受信装置からの干渉成分を複雑な処理であるが高精度に除去することができる。
【0018】
また、本開示は、前記干渉成分が除去された又は混入されていない前記複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、各レンジに存在する目標又はクラッタの速度を検出する目標速度検出部をさらに備えることを特徴とする干渉除去装置である。
【0019】
また、本開示は、前記干渉成分が除去された又は混入されていない前記複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、各レンジに存在する目標又はクラッタの速度を検出する目標速度検出ステップを前記干渉成分除去ステップの後にコンピュータに実行させるための干渉除去プログラムである。
【0020】
これらの構成によれば、干渉領域においても、干渉成分が除去された受信振幅を目標の位置及び速度の検出に用いるため、干渉領域に位置する目標についても、目標の位置及び速度を検出することができる。
【0021】
また、本開示は、前記目標速度検出部が検出した各レンジの速度の分散に基づいて、各レンジに目標及びクラッタのうちのいずれが存在するかを識別する目標存在識別部をさらに備えることを特徴とする干渉除去装置である。
【0022】
この構成によれば、検出した速度分散が干渉成分により不当に大きくならないため、検出した速度分散に基づいて、目標及びクラッタの識別を実行することができる。
【0023】
また、本開示は、前記目標存在識別部は、前記目標速度検出部が検出した各レンジの速度の分散が分散閾値より大きいならば、各レンジに目標ではなくクラッタが存在すると識別することを特徴とする干渉除去装置である。
【0024】
この構成によれば、クラッタによる速度分散が、目標による速度分散と比べて、大きい速度分散にまで分布することを、目標及びクラッタの識別に応用することができる。
【発明の効果】
【0025】
このように、本開示は、目標の速度を検出するレーダ技術において、他方のレーダ送受信装置からの干渉成分を高精度に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図4】本開示のレーダシステムの構成を示す図である。
【
図5】本開示の干渉除去装置の処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0028】
本開示のレーダシステムの構成を
図4に示す。本開示の干渉除去装置の処理を
図5に示す。レーダシステムRは、レーダ送受信装置1、干渉除去装置2及びレーダ表示装置3を備え、レーダ送受信装置1において、目標Tからの反射信号を受信するとともに、他のレーダ送受信装置1’からの干渉信号を受信してしまう。干渉除去装置2は、干渉成分除去部21、目標速度検出部22及び目標存在識別部23を備える。干渉除去装置2は、
図5に示した干渉除去プログラムをコンピュータ(例えば、CPU等。)にインストールすることにより実現可能であり、
図5に示した干渉除去処理をROMを有したIC(例えば、FPGA等。)に実行させることにより実現可能であり、上記のコンピュータ及びROMを有したICを両方とも備えることによっても実現可能である。
【0029】
図5の各々のステップの順序で、本開示の干渉除去処理を説明する。本開示の干渉除去処理を
図6から
図8までに示す。本開示のクラッタ除去処理を
図9に示す。
【0030】
干渉成分除去部21は、同一の期間を有する複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅に干渉成分が混入しているかを識別する(ステップS1、S2)。以下に、具体的に説明する。
【0031】
図6から
図8まででは、自他のレーダ送受信装置1、1’のパルス繰り返し周期は、若干相違しており、このような場合が通常である。
図6及び
図7の左欄では、パルス繰り返し周期t
1、t
2、t
3、t
4、t
5、t
6、t
7において、それぞれ、レンジR
7、R
6、R
5、R
4、R
3、R
2、R
1の受信振幅に干渉成分が混入している。
図8の左欄では、PPI表示Pにおいて、渦巻状の干渉領域Iが表示されている。渦巻状の干渉領域Iの表示位置は、時々刻々と回転するように変化している。
【0032】
図6及び
図7の中欄では、干渉成分除去部21は、各パルス繰り返し周期t
1~t
7でのレンジR
3の受信振幅を抽出する。パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅は、干渉成分を混入している。そこで、干渉成分除去部21は、ランクフィルタ等を用いて、パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅を、最大値をとる受信振幅として検出し、直接波である干渉成分を混入している受信振幅として検出する。
【0033】
干渉成分除去部21は、ステップS2でYESと判定すれば、他のパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅を用いた、当該あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅の補間を実行し、干渉成分を除去する(ステップS3)。干渉成分除去部21は、ステップS2でNOと判定すれば、ステップS3を実行しない。以下に、具体的に説明する。
【0034】
図6の中欄では、干渉成分除去部21は、パルス繰り返し周期t
5の前後に隣接するパルス繰り返し周期t
4、t
6でのレンジR
3の受信振幅の平均値を用いた、パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅の補間を実行し、干渉成分を除去する。このように、目標Tの速度を検出するレーダ技術において、他方のレーダ送受信装置1’からの干渉成分を容易な処理によって高精度に除去することができる。
【0035】
図7の中欄では、干渉成分除去部21は、パルス繰り返し周期t
1、t
2、t
3、t
4、t
6、t
7でのレンジR
3の受信振幅の正弦関数へのフィッティング結果を用いた、パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅の補間を実行し、干渉成分を除去する。このように、目標Tの速度を検出するレーダ技術において、他方のレーダ送受信装置1’からの干渉成分を複雑な処理であるが高精度に除去することができる。
【0036】
干渉成分除去部21は、ステップS2の判定の結果の如何によらず、処理結果を目標速度検出部22及び目標存在識別部23に出力する。つまり、干渉領域Iにおいても、干渉成分が除去された受信振幅を目標Tの位置及び速度の検出に用いるため、干渉領域Iに位置する目標Tについても、目標Tの位置及び速度を検出することができる。
【0037】
目標速度検出部22は、直前の段落で説明したように、干渉成分が除去された又は混入されていない複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、各レンジに存在する目標又はクラッタの速度を検出する(ステップS4)。以下に、具体的に説明する。
【0038】
図6の右欄では、目標速度検出部22は、複数のパルス繰り返し周期t
1~t
7にわたるレンジR
3の受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、レンジR
3に存在する目標Tの速度を検出する。パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅は、パルス繰り返し周期t
5の前後のパルス繰り返し周期t
4、t
6でのレンジR
3の受信振幅の平均値への置換処理により、高周波成分を包含していないため、レンジR
3に存在する目標Tの速度を反映するピーク周波数fは、中程度の分散σを有する。
【0039】
図7の右欄では、目標速度検出部22は、複数のパルス繰り返し周期t
1~t
7にわたるレンジR
3の受信振幅の時間変化において、時間領域から周波数領域への変換を実行し、レンジR
3に存在する目標Tの速度を検出する。パルス繰り返し周期t
5でのレンジR
3の受信振幅は、パルス繰り返し周期t
1、t
2、t
3、t
4、t
6、t
7でのレンジR
3の受信振幅の正弦関数へのフィッティング処理により、高周波成分を包含していないため、レンジR
3に存在する目標Tの速度を反映するピーク周波数fは、小さい分散σを有する。
【0040】
図8の中欄では、PPI表示Pにおいて、渦巻状の干渉領域Iがすべて除去されている。そして、渦巻状の干渉領域Iを通過する目標Tは、通過中の検出速度の分散σが小さいため、通過中及び通過前後の検出速度がほぼ同一であり、有人機等のみならず無人機等であっても、通過前後で同一目標と識別されて追尾処理が可能である。
【0041】
ここで、干渉成分除去部21は、パルス繰り返し周期t1~t7にわたるレンジR3の受信振幅の時間変化に対して、ローパスフィルタ処理を実行することも考えられる。しかし、レンジR3に存在する目標Tの速度を反映するピーク周波数fは、ローパスフィルタのカットオフ周波数程度の大きい分散σを有する。そして、パルス繰り返し周期t1~t7にわたるレンジR3の受信振幅の時間変化は、ローパスフィルタへの入力信号として短い信号長さしか有さない。そこで、本開示では、ローパスフィルタ処理を実行しない。
【0042】
目標存在識別部23は、
図6及び
図7の右欄で説明したように、目標速度検出部22が検出した各レンジの速度の分散に基づいて、各レンジに目標及びクラッタのうちのいずれが存在するかを識別する(ステップS5、S6)。以下に、具体的に説明する。
【0043】
図9では、クラッタCとして、シークラッタが想定されている。変形例として、クラッタCとして、グランドクラッタが想定されてもよい。クラッタCによる速度分散は、ほぼ0の速度分散から大きい速度分散まで分布する。目標Tによる速度分散は、ほぼ0の速度分散から小さい速度分散まで分布する。つまり、クラッタCによる速度分散は、目標Tによる速度分散と比べて、大きい速度分散にまで分布する。なお、クラッタCによる物標速度は、目標Tによる物標速度と比べて、ほぼ同様な物標速度の分布を有する。
【0044】
目標存在識別部23は、目標速度検出部22が検出した各レンジの速度の分散σが分散閾値より大きいならば(ステップS5でYES)、各レンジに目標TではなくクラッタCが存在すると識別し(ステップS6)、クラッタCをレーダ表示装置3に表示させない。
【0045】
目標存在識別部23は、目標速度検出部22が検出した各レンジの速度の分散σが分散閾値以下であるならば(ステップS5でNO)、各レンジに目標T(目標Tと識別不能なクラッタCを含む。)が存在すると識別し、目標Tをレーダ表示装置3に表示させる。
【0046】
ここで、分散閾値として、目標Tによる速度分散の分布の上限の近傍等が挙げられる。そして、好天候(悪天候)に応じて、分散閾値を小さく(大きく)設定してもよい。
【0047】
図8の右欄では、PPI表示Pにおいて、クラッタCがほとんど除去されている。そして、渦巻状の干渉領域Iを通過する目標Tは、通過中及び通過前後の検出速度の分散σが小さいため、通過中及び通過前後でクラッタCとして除去されず、有人機等のみならず無人機等であっても、通過前後で同一目標と識別されて追尾処理が可能である。
【0048】
このように、クラッタCによる速度分散が、目標Tによる速度分散と比べて、大きい速度分散にまで分布することを、目標T及びクラッタCの識別に応用することができる。そして、検出した速度分散σが干渉成分により不当に大きくならないため、検出した速度分散σに基づいて、目標T及びクラッタCの識別を実行することができる。
【0049】
本実施形態では、「同一の期間を有する」複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅に干渉成分が混入しているかを識別している。変形例として、「スタガトリガ方式の」複数のパルス繰り返し周期にわたる各レンジの受信振幅の時間変化において、あるパルス繰り返し周期での各レンジの受信振幅に干渉成分が混入しているかを識別してもよい。
【0050】
自己のレーダ送受信装置1のパルス繰り返し周期がt
1、t
2、t
3、・・・(t
1≠t
2≠t
3)であり、他方のレーダ送受信装置1’のパルス繰り返し周期もt
1、t
2、t
3、・・・であれば、
図8の左欄と異なり、真円状の干渉領域Iが表示される。この場合には、
図6及び
図7の中欄と異なり、干渉成分を除去することはできない。
【0051】
自己のレーダ送受信装置1のパルス繰り返し周期がt
1、t
2、t
3、・・・であり、他方のレーダ送受信装置1’のパルス繰り返し周期がt
1+a、t
2+a、t
3+a、・・・(aは同一)であれば、
図8の左欄と同様に、渦巻状の干渉領域Iが表示される。この場合には、
図6及び
図7の中欄と同様に、干渉成分を除去することができる。
【0052】
自己のレーダ送受信装置1のパルス繰り返し周期がt
1、t
2、t
3、・・・であり、他方のレーダ送受信装置1’のパルス繰り返し周期がt
1+a、t
2+b、t
3+c、・・・(a≠b≠c)であれば、
図8の左欄と異なり、ランダムに干渉領域Iが表示される。この場合にも、
図6及び
図7の中欄と同様に、干渉成分を除去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
このように、本開示の干渉除去装置及び干渉除去プログラムは、目標の速度を検出するレーダ技術において、無人機等及び有人機等のいずれに適用するかによらず、他方のレーダ送受信装置からの干渉成分を高精度に除去することができる。
【符号の説明】
【0054】
R:レーダシステム
P:PPI表示
I:干渉領域
T:目標
C:クラッタ
1、1’:レーダ送受信装置
2:干渉除去装置
3:レーダ表示装置
21:干渉成分除去部
22:目標速度検出部
23:目標存在識別部