(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】作業支援システム、作業システム、作業支援方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20240117BHJP
A01D 41/12 20060101ALI20240117BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20240117BHJP
【FI】
A01B69/00 303Z
A01B69/00 303M
A01D41/12 B
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2020041526
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100135817
【氏名又は名称】華山 浩伸
(74)【代理人】
【識別番号】100141298
【氏名又は名称】今村 文典
(74)【代理人】
【識別番号】100181869
【氏名又は名称】大久保 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】名城 昂平
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-185112(JP,A)
【文献】特開2020-028224(JP,A)
【文献】特開2010-200666(JP,A)
【文献】特開2020-000158(JP,A)
【文献】特開2015-181469(JP,A)
【文献】特許第6569213(JP,B2)
【文献】特開2019-121267(JP,A)
【文献】特開2019-170189(JP,A)
【文献】特開2020-031588(JP,A)
【文献】特許第2869325(JP,B2)
【文献】特開2018-169826(JP,A)
【文献】米国特許第06041582(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00
A01C 11/00 - 11/02
A01D 41/00 - 41/16
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを動力源としてほ場を走行する作業機と共に用いられ、
少なくとも前記エンジンの負荷の大きさに基づいて、前記負荷の変動を伴う対象イベントの発生の有無を推定する推定部と、
前記推定部の推定結果に応じた出力データを出力する出力部と、を備え
、
前記出力部は、前記対象イベントが発生するより前のタイミングで前記出力データを出力する、
作業支援システム。
【請求項2】
前記対象イベントは、前記負荷が高負荷状態となるときの前記負荷の変動を伴うイベントを含む、
請求項1に記載の作業支援システム。
【請求項3】
前記推定部は、前記作業機の現在の状況に係る現在データと前記作業機の過去の状況に係る履歴データとの比較結果を用いて、前記対象イベントの発生の有無を推定し、
前記現在データと前記履歴データとの少なくとも一方に、前記負荷の大きさが反映されている、
請求項1又は2に記載の作業支援システム。
【請求項4】
前記履歴データは、少なくとも前記対象イベントが発生したときの前記作業機の位置に関する特定位置情報を含み、
前記現在データは、前記作業機の位置に関する位置情報を含み、
前記推定部は、前記位置情報と前記特定位置情報とが所定の関係を満たす場合に、前記対象イベントが発生すると推定する、
請求項3に記載の作業支援システム。
【請求項5】
前記出力データは、前記エンジンの回転数を制御するための指示情報を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の作業支援システム。
【請求項6】
前記対象イベントは、特定領域において生じる前記負荷が高負荷状態となるイベントを含み、
前記出力部は、
前記作業機が前記特定領域に差し掛かる時点の手前で、前記エンジンの回転数の指示値を上昇させるように、前記出力データを出力する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の作業支援システム。
【請求項7】
前記作業機を制御する制御部を更に備える、
請求項1~6のいずれか1項に記載の作業支援システム。
【請求項8】
前記制御部は、前記出力データに従って前記作業機を制御する、
請求項7に記載の作業支援システム。
【請求項9】
前記制御部の制御対象は、前記エンジンの回転数と、前記作業機の移動速度と、前記作業機の操舵装置と、前記作業機の差動装置と、の少なくとも1つを含む、
請求項7又は8に記載の作業支援システム。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の作業支援システムと、
前記エンジンを搭載した前記作業機と、を備える、
作業システム。
【請求項11】
エンジンを動力源としてほ場を走行する作業機を用いた作業を支援する方法であって、
少なくとも前記エンジンの負荷の大きさに基づいて、前記負荷の変動を伴う対象イベントの発生の有無を推定する推定工程と、
前記推定工程の推定結果に応じた出力データを出力する出力工程と、を有
し、
前記出力工
程では、前記対象イベントが発生するより前のタイミングで前記出力データを出力する、
作業支援方法。
【請求項12】
請求項11に記載の作業支援方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に作業支援システム、作業システム、作業支援方法及びプログラムに関し、より詳細には、エンジンを動力源としてほ場を走行する作業機と共に用いられる作業支援システム、作業システム、作業支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ほ場を走行する農業機械としてのコンバイン等の作業機を使用するユーザに対し、作業機の低燃費運転をアドバイスする作業支援システム(遠隔サーバシステム)が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の作業支援システムでは、例えば、遠隔サーバと、作業機に設けられた端末サーバとが通信可能に構築されている。遠隔サーバは、多数の作業機に設けられた端末サーバと通信可能に構築されている。端末サーバは、GPSによって特定される作業機の位置情報、及び燃料消費量情報等を遠隔サーバに送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような、ほ場を走行する作業機を用いた作業時においては、ほ場の特定の箇所で、例えば、作業機の沈み込みのように、作業の障害となり得るイベントが発生することがある。このようなイベントに対しては、例えば、作業機のエンジンの回転数を上昇させて走破する等、何らかの対策を講じることが求められるが、特許文献1に記載の技術では、このような対策については特に考慮されていない。
【0006】
本開示は上記事由に鑑みてなされており、作業の障害となり得るイベントへの対策を講じやすい、作業支援システム、作業システム、作業支援方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る作業支援システムは、エンジンを動力源としてほ場を走行する作業機と共に用いられ、推定部と、出力部と、を備える。前記推定部は、少なくとも前記エンジンの負荷の大きさに基づいて、前記負荷の変動を伴う対象イベントの発生の有無を推定する。前記出力部は、前記推定部の推定結果に応じた出力データを出力する。
【0008】
本開示の一態様に係る作業システムは、前記作業支援システムと、前記エンジンを搭載した前記作業機と、を備える。
【0009】
本開示の一態様に係る作業支援方法は、エンジンを動力源としてほ場を走行する作業機を用いた作業を支援する方法であって、推定工程と、出力工程と、を有する。前記推定工程では、少なくとも前記エンジンの負荷の大きさに基づいて、前記負荷の変動を伴う対象イベントの発生の有無を推定する。前記出力工程では、前記推定工程の推定結果に応じた出力データを出力する。
【0010】
本開示の一態様に係るプログラムは、前記作業支援方法を、1以上のプロセッサに実行
させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、作業の障害となり得るイベントへの対策を講じやすい、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る作業支援システムの概略構成図である。
【
図2】
図2は、同上の作業支援システムの使用例を示す説明図である。
【
図3】
図3は、同上の作業支援システムの使用例を示すエンジン回転数のグラフである。
【
図4】
図4は、同上の作業支援システムの動作例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、同上の作業支援システムの動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
以下、本実施形態に係る作業支援システム10(
図1参照)、作業システム100(
図1参照)、作業支援方法及びプログラムについて、
図1~
図5を参照して説明する。
【0014】
(1)概要
本実施形態に係る作業支援システム10は、
図1に示すように、作業機3と共に用いられるシステムである。作業機3は、エンジン31を動力源として、ほ場A1(
図2参照)を走行する。つまり、作業機3は、一例として、田植機及びトラクタ等の、農業に関する作業を補助する農業機械である。作業支援システム10は、この種の作業機3と共に用いられることにより、作業機3を用いた作業を支援する。
【0015】
ほ場A1を走行する作業機3を用いた作業時においては、ほ場A1の特定の箇所で、例えば、作業機3の沈み込みのように、作業の障害となり得るイベントが発生することがある。このようなイベントに対しては、例えば、作業機3のエンジン31の回転数を上昇させて走破する等、何らかの対策を講じることが求められる。しかし、作業機3を操作するオペレータB1(
図2参照)が作業に不慣れな場合等においては、適切な対策がとられないこともあり、作業機3を用いた作業の障害となり得る。例えば、上述した作業機3の沈み込みのケースでは、適切な対策がとられずに作業機3が自走で脱出できないほどに作業機3が沈み込むと、沈み込んだ作業機3を脱出させるのに時間を要して、結果的に、作業機3を用いた作業が滞ることにもなり得る。
【0016】
そこで、本実施形態に係る作業支援システム10は、作業の障害となり得るイベントへの対策を講じやすくするために、以下の構成を採用している。
【0017】
すなわち、本実施形態に係る作業支援システム10は、
図1に示すように、作業機3と共に用いられるシステムであって、推定部12と、出力部13と、を備える。作業機3は、エンジン31を動力源として、ほ場A1を走行する。推定部12は、少なくともエンジン31の負荷の大きさに基づいて、負荷の変動を伴う対象イベントの発生の有無を推定する。出力部13は、推定部12の推定結果に応じた出力データD2(
図2参照)を出力する。
【0018】
この構成によれば、少なくともエンジン31の負荷の変動を伴うような対象イベントに関しては、推定部12にて、その発生が推定可能となる。そして、推定部12の推定結果に応じた出力データD2が出力されるので、出力データD2によれば、エンジン31の負荷の変動を伴う対象イベントについて、少なくとも何らかの対策を講じるきっかけを得る
ことができる。そのため、一例として、対象イベントとして作業機3の沈み込みの発生が推定される場合には、その推定結果に基づいて、作業機3のエンジン31の回転数を上昇させて走破する等の対策を講じやすくなる。したがって、作業の障害となり得るイベントへの対策を講じやすい、という利点がある。
【0019】
また、本実施形態に係る作業支援システム10は、
図1に示すように、作業機3と共に作業システム100を構築する。言い換えれば、本実施形態に係る作業システム100は、作業支援システム10と、エンジン31を搭載した作業機3と、を備える。すなわち、作業支援システム10は、作業機3を用いた作業を支援するためのシステムであるのに対して、作業システム100は、作業機3にて実際に作業を実行するシステムである。
【0020】
(2)詳細
以下、本実施形態に係る作業支援システム10、作業システム100、作業支援方法及びプログラムについて詳しく説明する。
【0021】
(2.1)定義
本開示でいう「作業機」は、エンジン31を動力源として、ほ場A1を走行する種々の作業機3を含み、一例として、農業機械としての田植機、トラクタ、散布機、移植機、噴霧器、収穫機又はコンバイン等を含む。本実施形態では一例として、作業機3が乗用タイプの田植機である場合を想定する。また、本実施形態では、ほ場A1の一例として、屋外の田んぼを想定する。
【0022】
本開示でいう「対象イベント」は、作業支援システム10での推定対象となるイベントであって、作業機3のエンジン31の負荷の変動を伴うイベントである。すなわち、エンジン31の負荷が、「高負荷状態」又は「低負荷状態」となるような変動を伴うイベントが、対象イベントとなり得る。本開示でいう「高負荷状態」は、基準値から見て、閾値以上、負荷が高く(大きく)なった状態を意味する。本開示でいう「低負荷状態」は、基準値から見て、閾値以上、負荷が低く(小さく)なった状態を意味する。ここでいう「基準値」は、例えば、直前の所定期間における負荷の平均値(移動平均値)であってもよいし、固定値であってもよい。
【0023】
例えば、作業機3の走行抵抗が増加するとエンジン31の負荷が増大して高負荷状態となるので、ほ場A1の一部に、他の箇所に比べて走行抵抗が高抵抗となるポイントがあれば、このポイントを作業機3が走行する際に、対象イベントが生じ得る。本実施形態では一例として、ほ場A1の一部に、ぬかるみ等からなる特定領域A11(
図2参照)があり、この特定領域A11において生じる作業機3の「沈み込み」が、対象イベントである場合を想定する。
【0024】
本開示でいう「沈み込み」は、ほ場A1のぬかるみ等において、作業機3の少なくとも車輪の一部が地中に沈む(埋まる)ことにより、走行抵抗が増加して高負荷状態となる事象を意味する。車輪の一部のみが沈む程度の軽度の沈み込みであれば、一般的には、作業機3のエンジン31の回転数を上昇させることで、作業機3は自走で走破可能である。一方、作業機3の車体までも沈む程度の重度の沈み込みとなれば、作業機3は自走での脱出が困難となる。本実施形態では、「対象イベント」の例として、軽度の沈み込み及び重度の沈み込みのうち、軽度の沈み込みを想定する。
【0025】
(2.2)構成
(2.2.1)全体構成
本実施形態に係る作業支援システム10は、
図1に示すように、上位システム1と、少なくとも1つの下位システム2と、を備えている。つまり、上位システム1は、下位シス
テム2と共に、作業支援システム10を構成する。
【0026】
本実施形態では、上位システム1及び下位システム2の各々は、1以上のメモリ及び1以上のプロセッサを含むコンピュータシステムを主構成とする。すなわち、コンピュータシステムの1以上のメモリに記録されたプログラムを、1以上のプロセッサが実行することにより、上位システム1及び下位システム2の各々の機能が実現される。プログラムはメモリに予め記録されていてもよいし、インターネット等の電気通信回線を通して提供されてもよく、メモリカード等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。ここで、上位システム1等の「上位」、及び下位システム2等の「下位」は、単に、両者を区別するためのラベルとして用いているのであって、各々の地位及び順位等を特定する意味ではない。
【0027】
上位システム1と下位システム2とは、互いに通信可能に構成されている。本開示において「通信可能」とは、有線通信又は無線通信の適宜の通信方式により、直接的、又はネットワークNT1若しくは中継器等を介して間接的に、情報を授受できることを意味する。すなわち、上位システム1と下位システム2とは、互いに情報を授受することができる。
【0028】
本実施形態では、上位システム1と下位システム2とは、互いに双方向に通信可能であって、上位システム1から下位システム2への情報の送信、及び下位システム2から上位システム1への情報の送信の両方が可能である。上位システム1と下位システム2とは、いずれもインターネット等のネットワークNT1に接続可能であって、ネットワークNT1を介して間接的に情報を授受する。より詳細には、少なくとも下位システム2は、例えば、通信事業者が提供する携帯電話網(キャリア網)又は公衆無線LAN(Local AreaNetwork)等を介して、ネットワークNT1に接続される。携帯電話網には、例えば、3G(第3世代)回線、LTE(Long TermEvolution)回線、4G(第4世代)回線又は5G(第5世代)回線等がある。これにより、下位システム2は、屋外等であっても、携帯電話網又は公衆無線LANに接続可能な環境であれば、ネットワークNT1に接続可能となる。
【0029】
本実施形態では、作業支援システム10と共に用いられる作業機3と下位システム2とは、一対一の関係にある。つまり、1台の作業機3に対して1つの下位システム2が対応付けられている。下位システム2は、例えば、コンピュータシステムを主構成とする情報端末であって、作業機3に搭載されることにより、この作業機3に対応付けられる。以下では、ある下位システム2に対応付けられた作業機3を、この下位システム2の配下の作業機3ともいう。下位システム2は、配下の作業機3を管理(制御及び/又は監視)することによって、配下の作業機3を用いた作業を支援する。
【0030】
ここで、1つの上位システム1に対しては、少なくとも1つの下位システム2が通信可能に接続される。そして、上述のように1台の作業機3に対して1つの下位システム2が搭載されているので、複数台の作業機3が存在する場合には、1つの上位システム1に対して複数の下位システム2が通信可能に接続されることになる。複数台の作業機3が存在する場合、作業システム100は、1つの上位システム1と、複数の下位システム2と、複数台の作業機3と、を備えることになる。ただし、本実施形態では説明を簡単にするため、特に断りが無い限り、作業支援システム10が下位システム2を1つだけ備える場合、つまり作業システム100が作業機3を1台だけ備える場合を例として説明する。
【0031】
(2.2.2)各部の構成
次に、上位システム1、下位システム2及び作業機3の各部の構成について、
図1を参照して、より詳細に説明する。
【0032】
上位システム1は、上位通信部11と、推定部12と、出力部13と、履歴登録部14と、データ格納部15と、を有している。つまり、本実施形態に係る作業支援システム10は、推定部12及び出力部13に加えて、上位通信部11、履歴登録部14及びデータ格納部15を更に備えている。
【0033】
上位通信部11は、ネットワークNT1を介して間接的に、下位システム2(下位通信部21)と通信する。上位通信部11と下位システム2(下位通信部21)との間の通信方式としては、無線通信又は有線通信の適宜の通信方式が採用される。
【0034】
推定部12は、上述したように、少なくともエンジン31の負荷の大きさに基づいて、負荷の変動を伴う対象イベントの発生の有無を推定する。本実施形態では一例として、作業機3の「沈み込み」が、対象イベントである。そのため、対象イベントは、負荷が高負荷状態となるときの負荷の変動を伴うイベントを含む。この構成によれば、負荷が高負荷状態となるような、特定のイベントの推定が可能となる。
【0035】
また、本実施形態では、推定部12は、現在データD1(
図2参照)と履歴データとの比較結果を用いて、対象イベントの発生の有無を推定する。現在データD1は、作業機3の現在の状況に係るデータである。履歴データは、作業機3の過去の状況に係るデータである。現在データD1と履歴データとの少なくとも一方に、負荷の大きさが反映されている。この構成によれば、現在データD1と履歴データとがあれば、負荷の大きさを常時監視することなく対象イベントの推定が可能となる。
【0036】
出力部13は、上述したように、推定部12の推定結果に応じた出力データD2を出力する。出力部13は、出力データD2を上位通信部11に出力し、上位通信部11から下位システム2への出力データD2の送信を可能にする。本実施形態では、出力データD2は、エンジン31の回転数を制御するための指示情報を含む。この構成によれば、出力データD2を、エンジン31の回転数の制御に利用できる。また、本実施形態では、出力部13は、対象イベントが発生するより前のタイミングで出力データD2を出力する。この構成によれば、対象イベントの発生に先駆けて、対象イベントへの対策を講じやすい。
【0037】
履歴登録部14は、履歴データの登録を行う。具体的には、履歴登録部14は、履歴データを生成し、生成した履歴データをデータ格納部15に記録(格納)することによって、履歴データの登録を実行する。
【0038】
データ格納部15は、履歴データ等のデータを格納(記録)する。また、データ格納部15は、推定部12等での演算に必要な情報等を更に記憶する。データ格納部15は、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)のような書き換え可能な不揮発性メモリを含む。
【0039】
下位システム2は、下位通信部21と、位置検知部22と、状態検知部23と、制御部24と、ユーザインタフェース25と、を有している。つまり、本実施形態に係る作業支援システム10は、推定部12及び出力部13に加えて、下位通信部21、位置検知部22、状態検知部23、制御部24及びユーザインタフェース25を更に備えている。
【0040】
下位通信部21は、ネットワークNT1を介して間接的に、上位システム1(上位通信部11)と通信する。
【0041】
位置検知部22は、下位システム2の位置、つまり下位システム2が搭載された作業機3の位置を検知する。位置検知部22は、一例として、GPS(Global PositioningSyst
em)等の衛星測位システムを用いて実現される。
【0042】
状態検知部23は、作業機3の状態を検知する。本開示でいう「作業機3の状態」は、エンジン31の回転数、アクセルの開度等の操作系35の状態、及び変速装置32、操舵装置33又は差動装置34等の作動状態を含む。エンジン31の回転数については、状態検知部23は、一例として、クランクプーリ又はフライホイール等の、エンジン31の回転に同期して回転する部品の回転数を、ロータリエンコーダ等のセンサで測定することにより、検知する。また、アクセル開度等の操作系35の状態については、状態検知部23は、一例として、アクセルレバー等の操作系35の回転角(又は移動量)をポテンショメータ等のセンサで測定することにより、検知する。
【0043】
制御部24は、作業機3を制御する。この構成によれば、オペレータB1の操作によらずに作業機3を自動制御できる。本実施形態では一例として、制御部24は、作業機3の操作系35につながるアクチュエータ36を制御することにより、作業機3のエンジン31等の構成要素を制御する。具体的には、制御部24は、操作系35としてのアクセルレバーにつながるアクチュエータ36を駆動することで、アクセル開度を制御する。本実施形態では、制御部24は、出力データD2に従って作業機3を制御する。この構成によれば、推定部12の推定結果に応じた出力データD2が、作業機3の制御に反映される。
【0044】
ユーザインタフェース25は、例えば、タッチパネルディスプレイを含み、オペレータB1(人)の操作の受け付けと、オペレータB1への情報の提示(表示)を行う。ユーザインタフェース25は、タッチパネルディスプレイに限らず、例えば、キーボード、ポインティングデバイス、メカニカルなスイッチ、又はジェスチャセンサ等の入力装置を有していてもよい。また、ユーザインタフェース25は、タッチパネルディスプレイに代えて、又はタッチパネルディスプレイと共に、音声入出力部を有していてもよい。
【0045】
作業機3は、エンジン31と、変速装置32と、操舵装置33と、差動装置34と、操作系35と、アクチュエータ36と、を有している。これらの作業機3に含まれる構成要素は、下位システム2と共に、作業機3のボディに搭載されている。
【0046】
エンジン31は、作業機3の動力源であって、一例としてディーゼルエンジンである。エンジン31で発生した動力は、少なくとも作業機3の走行に利用される。さらに、エンジン31で発生した動力は、作業機3に実装されている田植機構等にも分配され、例えば、田植えのための植付けアーム等の駆動にも利用される。
【0047】
変速装置32は、エンジン31の動力を駆動輪等に伝達しつつ、作業機3の進行方向(前進/後進)及び移動速度(車速)を変化させる。特に、ここでは変速装置32として無段変速機が用いられることを想定しており、エンジン31の回転数が一定であっても、変速装置32によって作業機3の移動速度を無段階で変化させることが可能である。本実施形態では一例として、変速装置32には、油圧機械式変速機(HMT:Hydraulic Mechanical Transmission)が用いられる。
【0048】
操舵装置33は、作業機3の前輪の操舵角を制御する装置である。本実施形態では一例として、操舵装置33はパワーステアリングである。
【0049】
差動装置34は、作業機3における左側の駆動輪と右側の駆動輪との間に設けられ、両駆動輪間の回転差を吸収する装置である。差動装置34は、少なくともデフロック(差動固定:Differential Lock)モードを有しており、デフロックモードでは両駆動輪間を直結状態として、両駆動輪の回転数を同一とする。
【0050】
操作系35は、オペレータB1が作業機3の走行に関する各種の操作を行うシステムであって、アクセルレバー、ステアリングホイール、デフロックペダル、変速レバー及び変速ペダル等を含む。例えば、オペレータB1がアクセルレバーを操作することで、エンジン31の回転数を変化させることができる。
【0051】
アクチュエータ36は、操作系35に機械的に接続されており、オペレータB1によらずに操作系35を操作する。つまり、アクチュエータ36によれば、作業機3の自動操作が可能となる。
【0052】
また、作業支援システム10は、上記構成に加えて、例えば、下位システム2の電源回路等を更に備えている。
【0053】
(2.3)動作
次に、作業支援システム10の動作について説明する。ここでは、一例として、
図2に示すように、ほ場A1の一部に、ぬかるみ等からなる特定領域A11があり、この特定領域A11にて、対象イベントである作業機3の「沈み込み」が発生する状況を想定する。
【0054】
本実施形態では、上述したように、推定部12は、現在データD1と履歴データとの比較結果を用いて、対象イベントの発生の有無を推定する。そのため、推定部12にて対象イベントの発生の有無を推定するためには、予め履歴データが登録されていることが必要である。そこで、以下では、作業支援システム10の動作について、履歴データを登録する過程と、対象イベントを推定する過程と、に分けて説明する。
【0055】
図3は、作業機3がほ場A1を走行する際のエンジン31の回転数の変化を示すグラフである。
図3では、作業機3がほ場A1を走行する際に、特定領域A11に差し掛かる時点を第1時点t1とし、特定領域A11を抜ける時点を第2時点t2としている。つまり、時間軸(横軸)の期間T1が、作業機3が特定領域A11を走行する期間となる。
図3中のグラフG1は、履歴データを登録する過程でのエンジン31の回転数を示す。
図3中のグラフG2は、対象イベントを推定する過程におけるエンジン31の回転数の指示値を示し、
図3中のグラフG3は、対象イベントを推定する過程におけるエンジン31の回転数を示す。
【0056】
(2.3.1)履歴データの登録
まず、履歴データを登録する過程について、
図2~
図4を参照して説明する。
【0057】
オペレータB1の操作により作業機3がほ場A1内を走行する間、下位システム2は、定期的又は不定期に、現在データD1を上位システム1に送信する。現在データD1は、少なくとも位置検知部22で検知された作業機3の位置(
図2の例では「P1」)に関する位置情報を含む。ここでは一例として、現在データD1は、位置情報に加えて、状態検知部23で検知された作業機3の状態に関する状態情報を更に含む。状態情報は、エンジン31の回転数、アクセルの開度等の操作系35の状態、及び変速装置32、操舵装置33又は差動装置34等の作動状態を含んでいる。つまり、上位システム1は、現在データD1を受信することで、位置情報及びエンジン31の回転数を、取得することになる(
図4のS1)。
【0058】
上位システム1の履歴登録部14は、基本的には、下位システム2から現在データD1を取得すると、現在データD1中の位置情報と状態情報とを対応付けて履歴データとして登録する。つまり、履歴データは、作業機3の位置(位置情報)とエンジン31の回転数(状態情報)との組み合わせを含む、時系列データである。
【0059】
ここにおいて、本実施形態では、履歴登録部14は、現在データD1ごとに、エンジン31の回転数に基づいて、エンジン31の負荷が高負荷状態か否かを判断する(S2)。このとき、履歴登録部14は、一例として、状態情報に含まれるエンジン31の回転数が、アクセル開度で決まるエンジン31の回転数の指示値に比べて、所定値以上低くなったことをもって、高負荷状態であると判断する。
【0060】
図3の例では、特定領域A11以外においては、グラフG1で示すように、エンジン31の回転数は略一定となる。一方、特定領域A11では、エンジン31の回転数は大幅に低下する。そのため、作業機3が特定領域A11を走行中に得られた現在データD1については、高負荷状態であると判断されることになる。
【0061】
高負荷状態であると判断すれば(S2:Yes)、履歴登録部14は、対象イベントが発生したと判定し(S3)、そのときの現在データD1中の位置情報を特定位置情報とするように、特定位置情報を生成する(S4)。
図2の例では、位置P2の位置情報が特定位置情報となる。ここで、位置P2は、特定領域A11を走行中の作業機3の位置であって、一点だけでなく、ある程度の幅を持って表される。特定位置情報が生成されると、履歴登録部14は、特定位置情報を含めて履歴データを登録する(S5)。一方、高負荷状態でないと判断すれば(S2:No)、履歴登録部14は、処理S3,S4をスキップして、履歴データを登録する(S5)。
【0062】
このようにして登録される履歴データには、エンジン31の負荷の大きさが反映されている。すなわち、履歴データには、負荷の大きさに基づいて判断される特定位置情報が含まれるので、負荷の大きさは履歴データに反映されることになる。
【0063】
作業支援システム10は、履歴データを登録する過程では、現在データD1を取得するごとに処理S1~S5を繰り返す。これにより、作業機3がほ場A1を走行する間の履歴が履歴データとしてデータ格納部15に記録される。
図4のフローチャートは、一例に過ぎず、処理の順番が適宜変更されてもよいし、処理が適宜追加又は削除されてもよい。
【0064】
(2.3.2)対象イベントの推定
次に、対象イベントを推定する過程について、
図2、
図3及び
図5を参照して説明する。
【0065】
オペレータB1の操作により作業機3がほ場A1内を走行する間、下位システム2は、定期的又は不定期に、現在データD1を上位システム1に送信する。現在データD1は、上述したように、少なくとも位置検知部22で検知された作業機3の位置(
図2の例では「P1」)に関する位置情報を含む。つまり、上位システム1は、位置情報を含む現在データD1を取得する(
図5のS11)。
【0066】
上位システム1の推定部12は、基本的には、下位システム2から現在データD1を取得すると、現在データD1と履歴データとの比較を行い(S12)、比較結果から対象イベントの発生の有無を推定する。ここで、推定部12は、現在データD1と履歴データとの比較結果が、判定条件を満たすか否かを判定し(S13)、判定条件を満たす場合(S13:Yes)、対象イベントと推定する(S14)。判定条件は、例えば、現在データD1中の位置情報と、履歴情報中の特定位置情報と、が所定の関係を満たすことを含む。「所定の関係」は、一例として、位置情報が示す位置と特定位置情報が示す位置との相対距離が、閾値以下となるような関係を含む。
【0067】
すなわち、本実施形態では、履歴データは、少なくとも対象イベントが発生したときの作業機3の位置に関する特定位置情報を含む。現在データD1は、作業機3の位置に関す
る位置情報を含む。推定部12は、位置情報と特定位置情報とが所定の関係を満たす場合に、対象イベントが発生すると推定する。この構成によれば、作業機3の位置の関係性から、対象イベントを推定することが可能である。
【0068】
対象イベントが発生すると推定された場合、出力部13は、エンジン31の回転数を上昇させる指示情報を生成し(S15)、この指示情報を含む出力データD2を、下位システム2に対して出力(送信)する(S16)。上位システム1からの出力データD2を取得した下位システム2は、制御部24にて、出力データD2に従って作業機3を制御する(S17)。このとき、制御部24は、例えば、操作系35としてのアクセルレバーにつながるアクチュエータ36を駆動することで、アクセル開度を制御して、エンジン31の回転数を上昇させる。判定条件を満たさない場合(S13:No)、処理S14~S17はスキップされる。
【0069】
その結果、作業機3が特定領域A11の付近に位置する間は、対象イベントが発生すると推定されて、出力データD2によってエンジン31の回転数を上昇させるような制御がなされることになる。したがって、
図3のグラフG2のように、作業機3が特定領域A11に差し掛かる第1時点t1の手前で、エンジン31の回転数の指示値が上昇し、作業機3が特定領域A11を抜ける第2時点t2以降に、エンジン31の回転数の指示値が低下する。よって、グラフG3のように、作業機3が特定領域A11に差し掛かる第1時点t1の手前で、エンジン31の回転数が指示値を追従して上昇し、作業機3が特定領域A11を走行中にエンジン31の回転数が低下しても、その低下幅を小さく抑えることができる。すなわち、エンジン31の回転数を上昇させる制御がなされない場合のエンジン31の回転数に比較して、制御がなされる場合のエンジン31の回転数は、出力データD2が出力される前のエンジン31の回転数からの低下幅を、小さく抑えることができる。
【0070】
作業支援システム10は、対象イベントを推定する過程では、現在データD1を取得するごとに処理S11~S17を繰り返す。これにより、作業機3がほ場A1を走行する間、対象イベントの有無が常時監視される。
図5のフローチャートは、一例に過ぎず、処理の順番が適宜変更されてもよいし、処理が適宜追加又は削除されてもよい。
【0071】
ところで、制御部24は、出力データD2に従って作業機3を制御する。本実施形態では、制御部24の制御対象は、エンジン31の回転数と、作業機3の移動速度と、作業機3の操舵装置33と、作業機3の差動装置34と、の少なくとも1つを含む。この構成によれば、作業機3の多様な制御が可能となる。本実施形態では、出力データD2がエンジン31の回転数を制御するための指示情報を含むので、制御部24の制御対象は、少なくともエンジン31の回転数を含んでおり、制御部24は、対象イベントに先駆けてエンジン31の回転数を上昇させる。
【0072】
ここで、制御部24の制御対象は、エンジン31の回転数に加えて又は代えて、作業機3の移動速度と、作業機3の操舵装置33と、作業機3の差動装置34と、の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0073】
作業機3の移動速度(車速)を制御対象とする場合、制御部24は、例えば、操作系35としての変速ペダルにつながるアクチュエータ36を駆動することで、変速装置32を制御する。一例として、制御部24は、対象イベントに合わせてエンジン31の回転数を上昇させる場合に、作業機3を加速させて特定領域A11を走破しやすくしてもよいし、反対に作業機3を減速させてほ場A1での作業機3のスリップ率を低下させてもよい。さらに、制御部24は、対象イベントに合わせてエンジン31の回転数を上昇させる場合に、作業機3の移動速度を一定に維持して安定した走行を実現してもよいし、一定速度以上を維持してもよい。作業機3の移動速度をどのように制御するかは、ほ場A1の状態等に
応じて適宜決定することが好ましい。
【0074】
作業機3の操舵装置33を制御対象とする場合、例えば、制御部24は、対象イベントに合わせてエンジン31の回転数を上昇させるときに、操舵角を直進に近づけるように操舵装置33を制御する。作業機3の差動装置34を制御対象とする場合、例えば、制御部24は、対象イベントに合わせてエンジン31の回転数を上昇させるときに、デフロックモードとするように差動装置34を制御する。
【0075】
(2.3.3)対象イベントの推定に関する補足事項
以下に、対象イベントの推定に関する補足事項を説明する。
【0076】
すなわち、本実施形態では、推定部12は、基本的には、上述したように、現在データD1の位置情報と履歴データの特定位置情報とが所定の関係を満たす場合に、対象イベントが発生すると推定する。ただし、推定部12は、位置情報と特定位置情報とが所定の関係を満たす場合に、必ずしも対象イベントが発生すると推定するのではなく、例外的に対象イベントと推定しないケースも存在する。例えば、位置情報と特定位置情報とが所定の関係を満たすとしても、1年以上も前に登録された履歴データに対して、作業機3が行う作業の種類も異なるような現在データD1については、対象イベントと推定することが好ましくないケースもある。すなわち、推定部12は、作業機3の位置の関係だけでなく、作業機3の位置以外の補足情報を用いることで、対象イベントの誤った推定を低減する。
【0077】
一例として、履歴データと現在データD1とで、作業機3が行う作業の種類が同じである等、作業機3が行う作業について何らかの相関があることが、対象イベントの発生と推定するための補足情報となり得る。つまり、現在データD1に係る作業機3による作業が、履歴データの登録時と同じ作業である場合に、位置情報と特定位置情報とが所定の関係を満たすと、対象イベントの発生と推定される。例えば、田植機からなる作業機3での田植えの作業時に登録された履歴データと、次年度の田植えの作業時に得られる現在データD1とで、位置情報と特定位置情報とが所定の関係を満たすと、対象イベントの発生と推定される。
【0078】
他の例として、履歴データと現在データD1とで、作業機3が行う作業が続けて行われている等、作業機3が行う作業の時期について何らかの相関があることが、対象イベントの発生と推定するための補足情報となり得る。つまり、現在データD1に係る作業機3による作業が、履歴データの登録時の作業の次工程である場合に、位置情報と特定位置情報とが所定の関係を満たすと、対象イベントの発生と推定される。例えば、トラクタからなる作業機3での作業時に登録された履歴データと、トラクタでの作業の次工程となる田植機からなる作業機3での作業時に得られる現在データD1とで、位置情報と特定位置情報とが所定の関係を満たすと、対象イベントの発生と推定される。
【0079】
(3)変形例
実施形態1は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態1は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。本開示において説明する各図は、模式的な図であり、各図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。また、実施形態1に係る作業支援システム10と同様の機能は、作業支援方法、コンピュータプログラム、又はコンピュータプログラムを記録した非一時的記録媒体等で具現化されてもよい。一態様に係る作業支援方法は、作業機を用いた作業を支援する方法であって、推定処理(
図5の「S11」~「S14」に相当)と、出力処理(
図5の「S16」に相当)と、を有する。作業機3は、エンジン31を動力源として、ほ場A1を走行する。推定工程では、少なくともエンジン31の負荷の大きさに基づいて、負荷の変動を伴う対象イベントの発生の有無を推定する。出力
工程では、推定工程の推定結果に応じた出力データD2を出力する。一態様に係る(コンピュータ)プログラムは、上記の作業支援方法を、1以上のプロセッサに実行させるためのプログラムである。
【0080】
以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0081】
本開示における作業支援システム10は、コンピュータシステムを含んでいる。コンピュータシステムは、ハードウェアとしてのプロセッサ及びメモリを主構成とする。コンピュータシステムのメモリに記録されたプログラムをプロセッサが実行することによって、本開示における作業支援システム10としての機能が実現される。プログラムは、コンピュータシステムのメモリに予め記録されてもよく、電気通信回線を通じて提供されてもよく、コンピュータシステムで読み取り可能なメモリカード、光学ディスク、ハードディスクドライブ等の非一時的記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【0082】
また、作業支援システム10の少なくとも一部の機能が、1つの筐体内に集約されていることは作業支援システム10に必須の構成ではなく、作業支援システム10の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。例えば、作業支援システム10のうちの推定部12は、出力部13とは別の筐体に設けられていてもよい。さらに、作業支援システム10の少なくとも一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。
【0083】
反対に、実施形態1において、複数の装置に分散されている作業支援システム10の機能が、1つの筐体内に集約されていてもよい。例えば、上位システム1と下位システム2とに分散して設けられている機能の少なくとも一部が、上位システム1に集約されていてもよいし、下位システム2に集約されていてもよい。
【0084】
本実施形態に係る作業支援システム10が用いられる作業機3は、乗用タイプの田植機に限らず、例えば、トラクタ、散布機、移植機、噴霧器、収穫機又はコンバイン等であってもよい。さらに、作業機3は、乗用タイプの農業機械に限らず、例えば、自動運転型の農業機械であってもよい。
【0085】
また、特定領域A11は、1つのほ場A1に対して1箇所に限らず、ほ場A1内に複数個所、存在していてもよい。
【0086】
また、作業支援システム10での推定対象となる対象イベントは、作業機3のエンジン31の負荷の変動を伴うイベントであればよく、実施形態1で説明したような作業機3の「沈み込み」に限らない。例えば、ほ場A1の土の硬軟度等に起因した作業機3のスリップ等のように、エンジン31の負荷が低負荷状態となるような変動を伴うイベントが、対象イベントであってもよい。
【0087】
また、下位システム2に限らず、上位システム1も下位システム2と同様に、携帯電話網又は公衆無線LAN等を介して、ネットワークNT1に接続されていてもよい。反対に、下位システム2においても、携帯電話網又は公衆無線LAN等を介さずに、ネットワークNT1に直接的に接続されていてもよい。
【0088】
また、下位システム2を搭載した作業機3が複数台存在する場合には、これら複数台の作業機3の過去の状況に係る履歴データが、データ格納部15に格納されてもよい。すなわち、この場合、上位システム1に対して複数の下位システム2が通信可能に接続される。これにより、複数台の作業機3のいずれかで発生した対象イベントについても、作業支
援システム10での推定対象とすることができる。
【0089】
また、位置検知部22は、GPS等の衛星測位システムに限らず、衛星測位システムと共に、又は代えて、例えば、複数の発信器から電波で送信されるビーコン信号を受信する受信機を用いてもよい。この場合、複数の発信器は、作業機3が移動するほ場A1周辺の複数箇所に配置され、位置検知部22は、複数の発信器の位置と、受信機でのビーコン信号の受信電波強度とに基づいて、作業機3の位置を検知する。
【0090】
また、位置検知部22は、例えば、速度センサ、加速度センサ又はジャイロセンサ等のセンサを含み、これらのセンサにて作業機3の挙動を検知してもよい。さらに、位置検知部22は、例えば、イメージセンサ(カメラ)、ソナーセンサ、レーダ、及びLiDAR(Light Detection and Ranging)等のセンサを含み、これらのセンサにて作業機3の周辺状況を検知してもよい。そして、位置検知部22は、作業機3の挙動及び/又は周辺状況を用いて、作業機3の位置を検知してもよい。
【0091】
また、出力部13での出力データD2の出力の態様は、上位通信部11への出力に限らず、例えば、表示、音、印刷(プリントアウト)、オペレータB1等が所持する情報端末への送信、非一時的記録媒体への記録(書き込み)等であってもよい。つまり、出力部13は出力データD2を出力すればよく、出力部13から出力される出力データD2は、制御部24での作業機3の制御に用いられることに限らない。例えば、出力部13から出力される出力データD2は、ユーザインタフェース25でオペレータB1に提示されてもよい。例えば、ユーザインタフェース25は、沈み込み等の対象イベントの発生が推定される場所を、出力データD2に従ってオペレータB1に示すような表示を行ったり、対象イベントの発生が推定されることを音声出力等でオペレータB1に通知したりしてもよい。
【0092】
また、出力部13は、対象イベントが発生するより前のタイミングで出力データD2を出力する構成に限らず、例えば、対象イベントが発生するタイミング、又は対象イベントの発生後のタイミングで出力データD2を出力してもよい。
【0093】
また、推定部12は、作業機3の位置(現在データD1中の位置情報及び履歴データ中の特定位置情報)の関係性から対象イベントを推定する構成に限らず、例えば、作業機3の作業開始からの経過時間の関係性等から対象イベントを推定してもよい。
【0094】
また、作業支援システム10は、ほ場A1のうち、例えば、苗継ぎの作業等の特定の作業が行われるマスク領域については、対象イベントの推定を行わなくてもよい。特定の作業は、例えば、変速レバー等の操作から検知可能である。
【0095】
また、作業支援システム10は、対象イベントへの対策を制御部24によって自動的に行う場合に、制御部24の制御内容を評価してもよい。例えば、制御部24による制御で、特定領域A11をうまく走破できなかった場合には、制御内容を変更することが好ましい。
【0096】
(実施形態2)
本実施形態に係る作業支援システム10は、推定部12が履歴データを用いずに現在データD1のみから対象イベントの発生の有無を推定する点で、実施形態1に係る作業支援システム10と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
【0097】
すなわち、実施形態1では、推定部12は、現在データD1と履歴データとの比較結果を用いて、対象イベントの発生の有無を推定するのに対し、本実施形態では、推定部12
は、履歴データを用いずに対象イベントの発生の有無を推定する。そのため、本実施形態では、履歴登録部14(
図1参照)等は適宜省略可能である。
【0098】
具体的には、本実施形態では、推定部12は、「(2.3.1)履歴データの登録」の欄で説明した履歴登録部14の動作と同様に、現在データD1ごとに、エンジン31の回転数に基づいて、エンジン31の負荷が高負荷状態か否かを判断する。そして、推定部12は、一例として、状態情報に含まれるエンジン31の回転数が、アクセル開度で決まるエンジン31の回転数の指示値に比べて、所定値以上低くなったことをもって、高負荷状態であると判断し、対象イベントの発生と推定する。要するに、本実施形態では、推定部12は、現在データD1を用いてエンジン31の負荷をリアルタイムに監視し、対象イベントの発生の有無を推定する。言い換えれば、推定部12は、エンジン31の負荷の大きさが反映された現在データD1を用いて対象イベントを推定することで、少なくともエンジン31の負荷の大きさに基づいて、対象イベントの発生の有無を推定することになる。
【0099】
実施形態2で説明した種々の構成は、実施形態1で説明した種々の構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて採用可能である。
【符号の説明】
【0100】
3 作業機
10 作業支援システム
12 推定部
13 出力部
24 制御部
31 エンジン
33 操舵装置
34 差動装置
100 作業システム
A1 ほ場
D1 現在データ
D2 出力データ