(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】ヒトガレクチン-3の分析、検出、測定に関する抗体、方法及びキット
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240117BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240117BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C07K16/28 ZNA
(21)【出願番号】P 2020061224
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-11-22
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-03099
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山城 宏道
(72)【発明者】
【氏名】李 賢
(72)【発明者】
【氏名】三上 寿幸
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-505368(JP,A)
【文献】特開2014-199261(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0029955(US,A1)
【文献】国際公開第2019/023247(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
C07K 16/28
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法であって、
ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープAを認識するモノクローナル抗体Aと、
ヒトガレクチン-3の糖鎖認識ドメイン(CRD)よりもN末端側に位置し、かつ、エピトープAとは異なるエピトープBを認識するモノクローナル抗体Bとを用いて、
ヒトガレクチン-3を検出又は濃度測定することを含
み、
前記モノクローナル抗体Aが、下記(1)及び(2)からなる群から選択される、方法。
(1)アイソタイプIgG1であり、軽鎖定常領域がラムダ鎖である;
(2)ハイブリドーマ1-7-H-1(受託番号:NITE BP-03099)から産生される抗体又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片である。
【請求項2】
エピトープBが、N末端から100アミノ酸残基の間の領域である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エピトープBが、YPGQAPPGAYPGQAPPGA(配列番号2)からなるアミノ酸配列Bに存在する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
モノクローナル抗体Bが、ラット抗ガレクチン-3モノクローナル抗体M3/38である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
免疫学的分析方法が、ELISA(エライザ)又はCLEIA(クレイア)である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれかに記載のガレクチン-3の免疫学的分析方法を行うためのキットであって、モノクローナル抗体A及びモノクローナル抗体Bを備えるキット。
【請求項7】
ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープを認識し、アイソタイプIgG1であり、軽鎖定常領域がラムダ鎖であるモノクローナル抗体、又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片。
【請求項8】
ハイブリドーマ1-7-H-1(受託番号:NITE BP-03099)から産生される抗ガレクチン-3モノクローナル抗体又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片。
【請求項9】
ハイブリドーマ1-7-H-1(受託番号:NITE BP-03099)。
【請求項10】
請求項
7又は
8に記載の抗ガレクチン-3モノクローナル抗体又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片を備える、ガレクチン-3の免疫学的分析方法を行うためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一態様において、ヒトガレクチン-3の分析、検出又は測定のための抗体、方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ガレクチンは、ガラクトースを含む糖鎖構造(β―ガラクシド)を特異的に認識して結合するタンパク質である。哺乳類のガレクチンとしては、ガレクチン-1からガレクチン-15まで知られている。ヒトのガレクチンとしては、現在、10種類が知られている。
ヒトガレクチンは、バイオマーカーとして使用されることがある。ヒトガレクチンの1つであるヒトガレクチン-3は、さまざまな疾病、症状のバイオマーカーとして注目されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2012-507724
【文献】特表2014-514536
【文献】WO2016/024627
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バイオマーカーとして診断などに利用する場合、検出や濃度測定が高感度になれば、診断の信頼性も向上すると考えれられる。
本開示は、ヒトガレクチン-3の検出や測定に利用可能なモノクローナル抗体、及び、該抗体を利用したヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、一態様において、
ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープAを認識するモノクローナル抗体Aと、
ヒトガレクチン-3の糖鎖認識ドメイン(CRD)よりもN末端側に位置し、かつ、エピトープAとは異なるエピトープBを認識するモノクローナル抗体Bとを用いて、
ヒトガレクチン-3を検出又は濃度測定することを含む、ヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法に関する。
【0006】
本開示は、その他の一態様において、前記モノクローナル抗体A及び前記モノクローナル抗体Bを備える、ヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法を行うためのキットに関する。
本開示は、その他の一態様において、ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列で表される線状エピトープを認識し、アイソタイプIgG1であり、軽鎖定常領域がラムダ鎖であるモノクローナル抗体、又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片に関する。
本開示は、その他の一態様において、ハイブリドーマ(寄託番号:NITE BP-03099)から産生される抗ガレクチン-3モノクローナル抗体又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片、及び/又は、前記ハイブリドーマ、及び/又は、前記抗体又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片を備えるヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法を行うためのキットに関する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープAを認識するモノクローナル抗体Aを提供できる。
本開示によれば、該モノクローナル抗体Aを用いたガレクチン-3の免疫学的分析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、2つのELISA系の相関プロットの一例である。縦軸がM3/38×1-7-H-1のELISA系で測定されたOD450nmの吸光度であり、横軸が市販のELISAキットで測定されたGal3の濃度(ng/ml)である。
【
図2】
図2は、M3/38×1-7-H-1のELISA系の吸光度を、M3/38×87B5のELISA系の吸光度で割った値を、40個の検体について示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープAを認識するモノクローナル抗体Aを用いることで、感度が向上したヒトガレクチン-3の免疫学的分析が可能になるという知見に基づく。
【0010】
[ヒトガレクチン-3]
本開示において「ヒトガレクチン-3」は、一又は複数の実施形態において、NCBIアクセッション番号NP_002297又はNP_002297.2で特定されるタンパク質をいい、そのアミノ酸配列としては配列番号3の配列が挙げられる。
本開示における「ヒトガレクチン-3」には、上記で特定されるタンパク質のほか、一又は複数の実施形態において、本開示に係るモノクローナル抗体が抗体抗原反応しうるアイソフォームやバリアントも含まれうる。
本開示において、単にヒトガレクチン-3という場合には、ヒトガレクチン-3タンパク質を指すことがある。ただし、ヒトガレクチン-3タンパク質をコードする遺伝子を指すことを排除しない。
本開示において、特に言及がない場合、ガレクチン-3は、ヒトガレクチン-3をいう。
【0011】
本開示において、免疫学的分析方法とは、一又は複数の実施形態において、抗体を用いて対象を検出又は濃度測定することを含み、2種類若しくはそれ以上の抗体を用いて対象を検出又は濃度測定することを含み、異なるエピトープを認識する2種類若しくはそれ以上の抗体を用いて対象を検出又は濃度測定することを含む。
2種類以上の抗体を用いる免疫学的分析方法の一又は複数の実施形態として、ELISA(エライザ)若しくはCLEIA(クレイア)、又は、イムノクロマトグラフィーが挙げられる。2種類以上の抗体を用いるELISAのなかでも、捕捉抗体と検出抗体を用いるELISAはサンドイッチ法と呼ばれることがある。イムノクロマトグラフィーは、イムノクロマト法とも呼ばれ、抗原に対して、標識抗体と捕捉抗体を用いる。イムノクロマト法は、一又は複数の実施形態において、金属コロイドやポリエスチレンラテックス粒子等で標識された標識抗体が配置されたパッドに検体を滴下して抗原-標識抗体の複合体を形成させ、それらをセルロース膜等のメンブレン上で一方向に展開し、セルロース膜上に固定された捕捉抗体で抗原-標識抗体の複合体を捕捉させ、目視で検出するという方法である。
但し、本開示において免疫学的分析方法はこれらに限定されなくてもよい。
【0012】
[ヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法]
本開示は、一態様において、ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープAを認識するモノクローナル抗体Aと、
ヒトガレクチン-3の糖鎖認識ドメイン(CRD)よりもN末端側に位置し、かつ、エピトープAとは異なるエピトープBを認識するモノクローナル抗体Bとを用いて、
ヒトガレクチン-3を検出又は濃度測定することを含む、ガレクチン-3の免疫学的分析方法(以下、「本開示に係る分析方法」ともいう)に関する。
【0013】
[モノクローナル抗体A]
本開示に係る分析方法で使用されるモノクローナル抗体Aは、線状エピトープAを認識する抗体であって、該線状エピトープAは、ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する。
アミノ酸配列Aは、配列番号3で表されるヒトガレクチン-3タンパク質のアミノ酸配列において、70番目から80番目のアミノ酸配列に該当する。
線状エピトープAは、アミノ酸配列Aそのものであってもよく、アミノ酸配列Aの一部であってもよい。通常、抗体のエピトープはアミノ酸残基数個から十数個で構成されることが知られている。
なお、ガレクチンファミリーに共通性が高い糖鎖認識ドメイン(CRD)は、ヒトガレクチン-3のC末端側、配列番号3の113番目以降である。ガレクチンファミリーで共通性が低い70番目から80番目のアミノ酸配列に該当するアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープAを認識するモノクローナル抗体Aは、ヒトガレクチン-3に特異的な抗体といえる。
【0014】
本開示において、線状エピトープとは、連続エピトープともいわれるものであり、単純な直鎖状アミノ酸配列によって構成されるエピトープをいう。
一方、本開示において、構造的エピトープとは、不連続エピトープともいわれるものであり、タンパク質の特定の立体構造に依存しているエピトープをいう。
【0015】
本開示に係る分析方法では、立体構造に依存しない線状エピトープAを認識するモノクローナル抗体Aを使用するからヒトガレクチン-3の免疫学的分析において感度が向上すると推定される。ただし、本開示はこのメカニズムに限定されなくてもよい。
【0016】
モノクローナル抗体Aの一又は複数の実施形態としては、アイソタイプIgG1であり、軽鎖定常領域がラムダ鎖であるものが挙げられる。本実施形態にあたるモノクローナル抗体Aは、実施例に記載の方法で作成できる。
本実施形態にあたるモノクローナル抗体Aとしては、ハイブリドーマ1-7-H-1(受託番号:NITE BP-03099)から産生される抗体が該当する。
【0017】
本開示において、抗体というときは、一又は複数の実施形態において、通常のIgGの形態であるほか、該形態と共通する少なくとも1つの抗原認識部位(CDR)を有するバイスペシフィック抗体、小型抗体、抗体断片を含みうる。小型抗体及び抗体断片としては、F(ab′)2、Fab、Fv、scFv、Fv-clasp、minibody、scFv-lucine zipper、tandem scFv(taFv)、及びdiabodyなどが挙げられる。
したがって、モノクローナル抗体Aは、一又は複数の実施形態において、ハイブリドーマ1-7-H-1(寄託番号:NITE BP-03099)から産生される抗ガレクチン-3モノクローナル抗体に由来する、あるいは、該抗体のCDRを少なくとも1つ有する小型抗体若しくは抗体断片が挙げられる。
【0018】
[モノクローナル抗体B]
本開示に係る分析方法で使用されるモノクローナル抗体Bは、エピトープBを認識する抗体であって、該エピトープBは、ヒトガレクチン-3の糖鎖認識ドメイン(CRD)よりもN末端側に位置し、かつ、エピトープAとは異なるエピトープである。
ヒトガレクチン-3のCRDよりもN末端側で、エピトープAとは異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体Bをモノクローナル抗体Aと組み合わせて免疫学的分析を行うことで、一又は複数の実施形態において、ヒトガレクチン-3の検出、濃度測定、及び分析の感度の向上が達成されうる。
【0019】
モノクローナル抗体BのエピトープBの位置としては、一又は複数の実施形態において、ヒトガレクチン-3のN末端から100アミノ酸残基の間の領域のなかである。
エピトープBは、線状エピトープでもよく、構造的エピトープであってもよい。構造に依存しない点、及び、エピトープAが線状エピトープである点から、エピトープBは、一又は複数の実施形態において、線状エピトープである。
エピトープBは、一又は複数の実施形態において、YPGQAPPGAYPGQAPPGA(配列番号2)のアミノ酸配列Bに存在する。アミノ酸配列Bは、配列番号3で表されるヒトガレクチン-3タンパク質のアミノ酸配列において、45番目から62番目のアミノ酸配列に該当する。
モノクローナル抗体Bとしては、一又は複数の実施形態において、市販の抗体M3/38が使用できる。
【0020】
[ELISA/CLEIA]
本開示に係る分析方法において、ELISA又はCLEIAを行う場合、固相に固定する捕捉抗体としては、一又は複数の実施形態において、モノクローナル抗体AでもよくBでもよい。感度を向上させる点から、捕捉抗体としてモノクローナル抗体Bを使用し、検出抗体としてモノクローナル抗体Aを使用することが好ましい。
検出抗体は、適宜、ビオチン化など検出のための修飾がほどこされてもよい。
検出は、限定されない一又は複数の実施形態において、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)とその基質(発色剤)である3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジン(TMB)を用いる系が挙げられ、あるいは、アルカリフォスターゼ(AP)とその基質(発色剤)を用いる系が挙げられる。
【0021】
本開示に係る分析方法の試料としては、ヒトガレクチン-3が含まれうる試料があげられ、一又は複数の実施形態において、生体試料、血液試料、血清試料、その他の体液試料が挙げられる。
【0022】
本開示において、ヒトガレクチン-3の分析方法とは、ガレクチン-3の検出又は濃度測定をすることを含む。
【0023】
本開示に係る分析方法は、一又は複数の実施形態において、高い感度が求められる早産/低体重児出産のリスク判定方法(特許文献3)において、利用されうる。
【0024】
[キット・第1の形態]
本開示は、一態様において、モノクローナル抗体A及びモノクローナル抗体Bを備える、ヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法を行うためのキットに関する。
モノクローナル抗体A及びモノクローナル抗体Bについては、上述のとおりである。
本態様に係るキットは、さらに、ヒトガレクチン-3の標準物質、及び、免疫学的分析方法に必要な試薬を含みうる。
本態様に係るキットとしては、一又は複数の実施形態において、モノクローナル抗体A及びモノクローナル抗体Bを備える、ヒトガレクチン-3のELISAキット又はCLEIAキットが挙げられる。本態様に係るキットとしては、その他の一又は複数の実施形態において、モノクローナル抗体A及びモノクローナル抗体Bを備える、ヒトガレクチン-3のイムノクロマトキットが挙げられる。
【0025】
[キット・第2の形態]
本開示は、一態様において、ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)のアミノ酸配列に存在する線状エピトープを認識し、アイソタイプIgG1であり、軽鎖定常領域がラムダ鎖であるモノクローナル抗体、又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片を備える、ヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法を行うためのキットに関する。
本態様に係るキットは、さらに、ヒトガレクチン-3の標準物質、及び、免疫学的分析方法に必要な試薬を含みうる。
本態様に係るキットとしては、上述の第1の形態のキットと重複する部分があるが、より限定された形態のモノクローナル抗体Aを含み、モノクローナル抗体Bを含まなくてもよい点で相違する。
本態様に係るキットとしては、サンドイッチ法以外のELISAキット、その他の免役測定方法に用いるキットが挙げられる。
【0026】
本開示は以下の限定されない一又は複数の実施形態に関しうる。
〔1〕 試料中のヒトガレクチン-3の免疫学的分析方法であって、
ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープAを認識するモノクローナル抗体Aと、
ヒトガレクチン-3の糖鎖認識ドメイン(CRD)よりもN末端側に位置し、かつ、エピトープAとは異なるエピトープBを認識するモノクローナル抗体Bとを用いて、
ヒトガレクチン-3を検出又は濃度測定することを含む、方法。
〔2〕 エピトープBが、N末端から100アミノ酸残基の間の領域である、〔1〕に記載の方法。
〔3〕 エピトープBが、YPGQAPPGAYPGQAPPGA(配列番号2)からなるアミノ酸配列Bに存在する、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕 モノクローナル抗体Bが、ラット抗ガレクチン-3モノクローナル抗体M3/38である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕 免疫学的分析方法が、ELISA(エライザ)又はCLEIA(クレイア)である、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕 モノクローナル抗体Aが、アイソタイプIgG1であり、軽鎖定常領域がラムダ鎖である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 モノクローナル抗体Aが、ハイブリドーマ1-7-H-1(受託番号:NITE BP-03099)から産生される抗体又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片である、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕 〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のガレクチン-3の免疫学的分析方法を行うためのキットであって、モノクローナル抗体A及びモノクローナル抗体Bを備えるキット。
〔9〕 ヒトガレクチン-3のYPGAPAPGVYP(配列番号1)からなるアミノ酸配列Aに存在する線状エピトープを認識し、アイソタイプIgG1であり、軽鎖定常領域がラムダ鎖であるモノクローナル抗体、又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片。
〔10〕 ハイブリドーマ1-7-H-1(受託番号:NITE BP-03099)から産生される抗ガレクチン-3モノクローナル抗体又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片。
〔11〕 ハイブリドーマ1-7-H-1(受託番号:NITE BP-03099)。
〔12〕 〔9〕又は〔10〕に記載の抗ガレクチン-3モノクローナル抗体又は該抗体に由来する小型抗体若しくは抗体断片を備える、ガレクチン-3の免疫学的分析方法を行うためのキット。
【0027】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0028】
ヒトガレクチン-3(hGal3)特異的モノクローナル抗体の取得
1)ヒトガレクチン-3(hGal3)をコードするcDNA(780bp)をpET21a(+)ベクターのNdeI/XhoIに挿入し、ニッケルカラム精製用に6残基のヒスチジンをC末端に付加した。
2)このベクターをBL21大腸菌にヒートショック法で形質転換した。
3)小スケール(2ml)系でIPTG添加によりGal3のタンパク質発現誘導が出来ていることを確認後、大スケール(1.5L)で抗原を調製した。
4)調製できたhGal3抗原溶液を、等量の完全フロイントアジュバントと混合することでエマルジョンを作製し、Balb/cマウス(メス、8週齢)腹腔内に約100ug投与した(初回免疫)。
5)2週間後に、hGal3抗原溶液を、等量の不完全フロイントアジュバントと混合し、腹腔内に約100ug投与した。この作業を2週間おきに更に3回実施した。
6)免疫マウスから採血後に血清を分離し、hGal3特異的ポリクロが検出されるか検討した。免疫抗原にはHisタグが付加されていることから、ポリクロ中にHisタグに対する抗体も含まれていることが推察される。これを排除する目的で、hGal3-GST融合タンパク(pGEX-4T-1)を使用してELISAによるタイターチェックを行った。具体的には、hGal3-GST融合タンパクを96wellプレートに1ug/mlで固相化→3%BSAでブロッキング→血清添加→抗マウスIgG 西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)添加→3,3’,5,5’-テトラメチルベンチジン(TMB)で発色、という作業フローで行った。
7)Gal3ポリクロタイターが十分と判断されたマウスから脾臓を取り出し、不死化の目的でSP2/0ミエローマ細胞とPEG1540で融合させた。融合細胞を96wellプレートに播種し、播種の翌日にHATを添加することで脾臓細胞とSP2/0が融合した細胞のみが生き残る系とした。
8)培養から約10日後、ハイブリドーマコロニーを形成しているwellの細胞上清を使用してスクリーニングを実施した。実施内容は6)参照。このスクリーニングにおいて、1つの陽性wellが出現した(1-7-H)。
9)陽性ハイブリドーマを拡大培養すると共に、リクローニング作業を実施した。具体的にはメチルセルロースHAT選択培地に各ハイブリドーマを添加し、数日後に目視でシングルコロニー化しているコロニーをピックアップして96wellに移した。それから2日後に細胞上清を利用してELISA法で特異性を確認した。
10)最終的に1-7-H-1がGal3特異的ハイブリドーマとして樹立された。
以下に重鎖・軽鎖種類を示す。
【0029】
【0030】
エピトープ解析
hGal3の糖鎖認識ドメイン(CRD)と、取得したハイブリドーマ1-7-H-1が産生するモノクローナル抗体(1-7-H-1抗体)とが反応するか検討した。具体的には、ELISAプレートにCRD部分タンパク(130aa)を固相化し、ブロッキング後に1-7-H-1抗体を反応させた。最終検出はHRP標識抗マウスIgGで行った。その結果、1-7-H-1抗体はCRDとは反応しなかった。よって、1-7-H-1抗体はhGal3の中でもCRD以外を認識していることが判明した。
更に、1-7-H-1に関して、独PEPperPRINT社のPEPperMAP Linear Epitope Mapping法にて、エピトープ解析を実施した。その結果、1-7-H-1抗体は、hGal3のアミノ酸配列のN末端から70番目から80番目に該当する配列(YPGAPAPGVYP(配列番号1))に含まれる線状エピトープを認識していることが判明した。
ハイブリドーマ1-7-H-1は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託した(受託日:2019年12月26日、受託番号:NITE BP-03099)。
【0031】
公知の抗hGal3モノクローナル抗体とエピトープを比較すると下記の表のようになる。
【表2】
【0032】
hGal3抗体を用いたELISA診断キットとの比較
捕捉抗体×検出抗体の組み合わせとして、M3/38×1-7-H-1の組み合わせを使用するhGal3ELISA系を構築した(以下、1-7-H-1ELISA系という)。
このELISA系と、捕捉抗体×検出抗体の組み合わせとしてM3/38×87B5を使用するhGal3測定診断ELISAキット(BGM社製、以下、市販ELISA系という)との反応性の相関を確認した。
検体は外部購入の妊婦血清検体、及び慢性心疾患(CHF)検体であり、計40検体を使用した。
この2つのELISA系の測定結果を相関プロットで示した(
図1)。
【0033】
図1は、縦軸がM3/38×1-7-H-1のELISA系で測定されたOD450nmの吸光度であり、横軸が市販ELISA系で測定されたhGal3の濃度(ng/ml)である、相関プロットである。
図1に示されるように、1-7-H-1ELISA系と、市販ELISA系とは、高い相関を示し、その相関係数は、0.994であった。よって、本開示に係る方法は、市販のキットと同等の信頼性があることが確認された。
【0034】
測定感度の比較
1-7-H-1ELISA系と、市販ELISA系とで、以下の手順で測定感度の比較をした。
1)96well ELISAプレートにM3/38抗体を固相化してブロッキングする。
2)凍結保管されていた検体(早産、或いは正期産妊婦由来の血清検体、市販品)を融解し、プレートに添加。
3)HRP標識1-7-H-1抗体又は87B5抗体添加し、さらに、TMB及び硫酸添加後にOD450を測定する。
得られた1-7-H-1ELISA系の吸光度を、市販ELISA系の吸光度で割った値を
図2に示す。
【0035】
図2において、縦軸が吸光度の比であり、横軸は検体である。
図2に示されるように、1-7-H-1ELISA系の組合せは、市販ELISA系よりも2倍以上の検出感度を備えていることが判明した。
【0036】
測定感度の比較2
検体による検討に加え、最小検出感度の検討を実施した。
抗原は大腸菌内でhGal3全長タンパクを誘導したものであり、Hisタグを付加してあるものである(rhGal3, Cat: P734-1, BBI社製)。この抗原を段階的に希釈し、各濃度における市販ELISA系、及び、1-7-H-1ELISA系による測定を実施した。
手法は前記「測定感度の比較」に記載される方法と同様であるが、検体が表3に記載される各濃度のrhGal3となっている。各検体濃度における吸光度を表3に示す。
表3中の「-」は測定吸光度が飽和していることを示す。また、各手法によるLOB(ブランク限界)、LOD(検出限界)を表4に示した。
なお、LOB・LODは以下の定義としている。
LOB=ブランクの平均+1.645×ブランクの標準偏差
LOD=LOB+1.645×低濃度サンプルの標準偏差
【0037】
【0038】
【0039】
表4の値から、0.155÷0.097=1.6となり、1-7-H-1ELISA系の組合せは、市販ELISA系と比較して最小検出感度が1.6倍高いことが判明した。
【配列表】