(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】多孔質ガラス体の焼結装置
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20240117BHJP
C03B 37/014 20060101ALI20240117BHJP
【FI】
C03B8/04 Q
C03B37/014 Z
(21)【出願番号】P 2020077308
(22)【出願日】2020-04-24
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 英雄
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-247133(JP,A)
【文献】特開平11-322356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04,37/014-37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持棒によって支持された多孔質ガラス体を焼結する多孔質ガラス体の焼結装置であって、
前記支持棒によって支持された前記多孔質ガラス体を収容することが可能な炉心管と、
前記炉心管の外側に設けられ、前記多孔質ガラス体を加熱するヒータと、
前記ヒータを収容するヒータ収容体とを備え、
前記ヒータ収容体が冷却ジャケットで構成され、
前記冷却ジャケットが、
前記ヒータに対し前記炉心管の開口端部側で前記炉心管を包囲するように設けられる第1端部と、
前記ヒータに対し前記第1端部と反対側に設けられる第2端部とを有し、
前記ヒータは、前記炉心管の長手方向における前記第1端部と前記第2端部との間の区間のうち中心側に配置され、
前記第1端部が、前記炉心管の中心軸線に沿った位置のうち
前記中心軸線上における前記ヒータの位置の温度が1500℃以下となるように当該ヒータを加熱して前記多孔質ガラス体を焼結する場合に前記炉心管の中心軸線上における温度が950℃以上となる位置に配置されている、多孔質ガラス体の焼結装置。
【請求項2】
前記ヒータ収容体の前記第1端部が、前記炉心管の中心軸線に沿った位置のうち前記多孔質ガラス体を焼結する場合に前記炉心管の中心軸線上における温度が1150℃以下となる位置に配置されている、請求項1に記載の多孔質ガラス体の焼結装置。
【請求項3】
前記ヒータ収容体の前記第2端部が、前記炉心管の中心軸線に沿った位置のうち前記多孔質ガラス体を焼結する場合に前記炉心管の中心軸線上における温度が1150℃以下となる位置に配置されている、請求項1又は2に記載の多孔質ガラス体の焼結装置。
【請求項4】
前記ヒータ収容体の前記第1端部が、前記炉心管の前記開口端部側の端面から前記ヒータ側に離間している、請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質ガラス体の焼結装置。
【請求項5】
前記第1端部は、前記ヒータ収容体の上端であり、前記多孔質ガラス体を焼結している状態において前記炉心管に接触する、請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔質ガラス体の焼結装置。
【請求項6】
前記ヒータ収容体と前記炉心管との間の空間に充填され、前記ヒータの熱が周囲に放散することを抑制する断熱材を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質ガラス体の焼結装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ガラス体の焼結装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ母材は一般に、VAD法(Vapor-phase Axial Deposition Method)やOVD法(Outside Vapor Deposition Method)等のスート法によって多孔質ガラス体を形成し、必要に応じて脱水処理を行った後、この多孔質ガラス体を、多孔質ガラス体の焼結装置で焼結して透明化させて製造される。
【0003】
このような多孔質ガラス体の焼結装置として一般に、支持棒によって支持された多孔質ガラス母材を収容する炉心管と、炉心管の外側に設けられるヒータと、ヒータを取り囲む筐体又はジャケットとを備える焼結装置が知られている。ここで、筐体やジャケットとしては、周囲への放熱抑制や接触時の火傷を抑制するなどの理由から、水冷ジャケットなどの冷却ジャケットが用いられることが多い(例えば下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載の多孔質ガラス体の焼結装置は、以下に示す課題を有していた。
【0006】
すなわち、上記特許文献1に記載の多孔質ガラス体の焼結装置では、焼結時において多孔質ガラス体の支持棒が加熱により伸びる場合があった。この場合、多孔質ガラス体が伸びて炉心管の底部に衝突し、その結果として炉心管が破損する恐れがあった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、焼結時において多孔質ガラス体の支持棒の伸びを抑制できる多孔質ガラス体の焼結装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、支持棒によって支持された多孔質ガラス体を焼結する多孔質ガラス体の焼結装置であって、前記支持棒によって支持された前記多孔質ガラス体を収容することが可能な炉心管と、前記炉心管の外側に設けられ、前記多孔質ガラス体を加熱するヒータと、前記ヒータを収容するヒータ収容体とを備え、前記ヒータ収容体が冷却ジャケットで構成され、前記冷却ジャケットが、前記ヒータに対し前記炉心管の開口端部側で前記炉心管を包囲するように設けられる第1端部と、前記ヒータに対し前記第1端部と反対側に設けられる第2端部とを有し、前記第1端部が、前記炉心管の中心軸線に沿った位置のうち前記多孔質ガラス体を焼結する場合に前記炉心管の中心軸線上における温度が950℃以上となる位置に配置されている、多孔質ガラス体の焼結装置である。
【0009】
本発明の多孔質ガラス体の焼結装置によれば、支持棒で支持された多孔質ガラス体を炉心管内に収容した状態で、ヒータによって加熱して多孔質ガラス体が焼結される。このとき、ヒータ収容体を構成する冷却ジャケットの第1端部が、炉心管の中心軸線上における温度が950℃以上となる位置に配置されていることで、第1端部が、炉心管の中心軸線上における温度が950℃未満となる位置に配置される場合に比べて、第1端部による炉心管からの吸熱が多くなり、炉心管内の温度が低下しやすくなる。このため、支持棒の伸びを抑制することができる。
【0010】
上記多孔質ガラス体の焼結装置においては、前記ヒータ収容体の前記第1端部が、前記炉心管の中心軸線に沿った位置のうち前記多孔質ガラス体を焼結する場合に前記炉心管の中心軸線上における温度が1150℃以下となる位置に配置されていることが好ましい。
【0011】
この場合、多孔質ガラス体を焼結する場合に、第1端部が、炉心管の中心軸線上における温度が1150℃を超える温度となる位置に配置される場合に比べて、第1端部の破損がより抑制される。
【0012】
上記多孔質ガラス体の焼結装置においては、前記ヒータ収容体の前記第2端部が、前記炉心管の中心軸線に沿った位置のうち前記多孔質ガラス体を焼結する場合に前記炉心管の中心軸線上における温度が1150℃以下となる位置に配置されていることが好ましい。
【0013】
この場合、多孔質ガラス体を焼結する場合に、ヒータ収容体の第2端部が、炉心管の中心軸線上における温度が1150℃を超える温度となる位置に配置される場合に比べて、炉心管からの第2端部の吸熱量が少なくなり、第2端部の熱変形による破損がより抑制され、それによる第2端部又はヒータ収容体の交換費用がより抑制される。
【0014】
上記多孔質ガラス体の焼結装置においては、前記ヒータ収容体の前記第1端部が、前記炉心管の前記開口端部側の端面から前記ヒータ側に離間していることが好ましい。
【0015】
この場合、ヒータ収容体の第1端部が、炉心管の開口端部側の端面からヒータ側に離間することで、支持棒のうちヒータ収容体の第1端部によって冷却される部分の占める割合がより大きくなり、焼結時において多孔質ガラス体の支持棒の伸びをより抑制できる。
【0016】
なお、本発明において、「炉心管の中心軸線上における温度」は、ヒータを、焼結時の温度に設定した状態で、炉心管の中心軸線上に熱電対を配置して測定される温度をいう。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、焼結時において多孔質ガラス体の支持棒の伸びを抑制できる多孔質ガラス体の焼結装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の多孔質ガラス体の焼結装置の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の多孔質ガラス体の焼結装置の実施形態について詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明の多孔質ガラス体の焼結装置について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の多孔質ガラス体の焼結装置の一実施形態を示す図である。
図1の左側には、本発明の多孔質ガラス体の焼結装置の一実施形態を示す断面図が示され、右側には、炉心管中心温度と炉心管の中心軸線方向に沿った位置との関係が示されている。
【0021】
図1に示すように、多孔質ガラス体の焼結装置100は、支持棒2によって支持された多孔質ガラス体Gを焼結するものであり、筒状の本体部1aを有する炉心管1と、炉心管1の外側に設けられ、多孔質ガラス体Gを加熱するヒータ3と、ヒータ3を収容するヒータ収容体4と、ヒータ収容体4と炉心管1との間に設けられ、ヒータ3の熱が周囲に放散することを抑制する断熱材5とを備えている。
【0022】
炉心管1の本体部1aは、開口端部1bと底部1cとを有し、炉心管1は、開口端部1b側から、支持棒2によって支持された多孔質ガラス体Gを挿入して収容することが可能となっている。また炉心管1の底部1cには、炉心管1内にガスを供給するガス供給口1dが形成され、開口端部1bには、炉心管1内のガスを排気するガス排気口1eが形成されている。ガス供給口1dにはガス供給装置(図示せず)が接続され、ガス排気口1eには排気装置(図示せず)が接続されている。
【0023】
炉心管1の開口端部1bは蓋部6によって密閉されるようになっている。蓋部6は、炉心管1の本体部1aに対して取り外し可能に設けられている。
【0024】
ヒータ3は、炉心管1の開口端部1bと底部1cとの間に配置されている。
【0025】
ヒータ収容体4は冷却ジャケットで構成されている。ヒータ収容体4は、ヒータ3に対し炉心管1の開口端部1b側で炉心管1を包囲するように配置されるリング状の第1端部4aと、ヒータ3に対し炉心管1の開口端部1bと反対側で炉心管1を包囲するように配置されるリング状の第2端部4bと、第1端部4aと第2端部4bとの間に設けられる筒状の本体部4cと、本体部4cの第1端部4a側の端部から炉心管1側に延びて第1端部4aを支持するリング状の第1支持部4dと、本体部4cの第2端部4b側の端部から炉心管1側に延びて第2端部4bを支持するリング状の第2支持部4eとを有する。
【0026】
ここで、第1端部4a及び第2端部4bは、炉心管1の本体部1aに接触していても接触していなくてもよいが炉心管1aの本体部1aを効果的に冷却して支持棒2の伸びを抑制する観点からは、接触していることが好ましい。また、第1端部4a及び第2端部4bが炉心管1の本体部1aに接触していない場合であっても、第1端部4aと炉心管1の本体部1aとの間の隙間の大きさ、及び、第2端部4aと炉心管1の本体部1aとの間の隙間の大きさは、多孔質ガラス体Gの焼結時における炉心管1の本体部1a、第1端部4a及び第2端部4bの熱膨張によって、第1端部4aと炉心管1の本体部1aとが接触し、第2端部4bと炉心管1の本体部1aとが接触する程度であることが好ましい。この場合でも、炉心管1aの本体部1aを効果的に冷却して支持棒2の伸びを抑制することができる。また、第1端部4aは、交換を容易とするため、第1支持部4dに対して取り外し可能に設けられている。第2端部4bも、交換を容易とするため、第2支持部4eに対して取り外し可能に設けられている。さらに、第1端部4aは、炉心管1の開口端部1bの端面からヒータ3側に離間している。すなわち、第1端部4aは、蓋部6からヒータ3側に離間している。
【0027】
そして、第1端部4aは、炉心管1の中心軸線Lに沿った位置のうち多孔質ガラス体Gを焼結する場合に炉心管1の中心軸線L上における温度(以下、「炉心管中心温度」と呼ぶ)が950℃以上となる位置に配置されている。
【0028】
上述した多孔質ガラス体の焼結装置100によれば、支持棒2で支持された多孔質ガラス体Gを、炉心管1の開口端部1b側から挿入して炉心管1内に収容した状態で、ヒータ3によって加熱して多孔質ガラス体Gが焼結される。このとき、ヒータ収容体4の第1端部4aが、炉心管中心温度が950℃以上となる位置に配置され、ヒータ3から適度に離間することになることで、第1端部4aが、炉心管中心温度が950℃未満となる位置に配置される場合に比べて、第1端部4aによる炉心管1からの吸熱が多くなり、炉心管1内の温度が低下しやすくなる。このため、支持棒2の伸びを抑制することができる。その結果、多孔質ガラス体Gが炉心管1の底部1cに達して炉心管1が破損することを抑制することができる。
【0029】
また、多孔質ガラス体の焼結装置100においては、第1端部4aが蓋部6からヒータ3側に離間しているため、支持棒2のうちヒータ収容体4の第1端部4aによって冷却される部分の占める割合がより大きくなり、焼結時において多孔質ガラス体Gの支持棒2の伸びをより抑制できる。
【0030】
次に、上述した多孔質ガラス体の焼結装置100について詳細に説明する。
【0031】
(炉心管)
炉心管1は通常、石英で構成される。炉心管1の中心軸線Lは、例えば炉心管1の本体部1aの延び方向に直交する断面における内壁面が円形状である場合には、その円の中心を通る線である。
【0032】
(蓋部)
蓋部6は通常、石英で構成される。蓋部6は支持棒2を貫通可能な貫通孔を有する。
【0033】
(支持棒)
支持棒2は通常、石英で構成される。支持棒2の断面形状は通常は円形である。但し、支持棒2の断面形状は円形に限られるものではなく、四角形などの多角形でもよい。
【0034】
(ヒータ)
ヒータ3は、多孔質ガラス体Gを加熱するものであり、炉心管1の外側に設けられていればよい。ヒータ3は通常、炉心管1を包囲するように設けられる。ここで、ヒータ3は、炉心管1の本体部1aが円筒状である場合には、多孔質ガラス体Gを均等に加熱する観点から、リング状であることが好ましい。但し、ヒータ3は、複数の加熱部に分割されて構成され、これら複数の加熱部が炉心管1を包囲するように不連続に配置されるようにしてもよい。
【0035】
(ヒータ収容体)
第1端部4aは、炉心管1の中心軸線Lに沿った位置のうち炉心管中心温度が950℃以上となる位置に配置されていればよい。これは、第1端部4aが、炉心管中心温度が950℃未満となる位置に配置され、ヒータ3から大きく離間することになる場合に比べて、第1端部4aによる炉心管1からの吸熱を多くして炉心管1内の温度を低下しやすくし、支持棒2の伸びを抑制するためである。
【0036】
第1端部4aは、炉心管1の中心軸線Lに沿った位置のうち炉心管中心温度が1000℃以上となる位置に配置されていることが好ましい。この場合、第1端部4aによる炉心管1からの吸熱がより多くなり、炉心管1内の温度がより低下しやすくなるため、支持棒2の伸びがより抑制される。
【0037】
第1端部4aの位置は、炉心管1に最も近い位置によって決定される。具体的には、第1端部4aの内周の位置が第1端部4aの位置となる。
【0038】
第2端部4bは、炉心管1の中心軸線Lに沿った位置のうち炉心管中心温度が1150℃以下となる位置に配置されていることが好ましい。この場合、第2端部4bは、炉心管中心温度が1150℃を超える温度となる位置に配置される場合に比べて、第2端部4bの破損がより抑制される。
【0039】
第2端部4bは、炉心管1の中心軸線Lに沿った位置のうち炉心管中心温度が1000℃以下となる位置に配置されていることが好ましい。この場合、第2端部4bが、炉心管中心温度が1000℃を超える温度となる位置に配置される場合に比べて、第2端部4bの破損がより一層抑制される。また、炉心管1からの第2端部4bによる吸熱量が減少するため、焼結に要する電力をより低減させることができる。
【0040】
第2端部4bは、炉心管1の中心軸線Lに沿った位置のうち炉心管中心温度が900℃以下となる位置に配置されていることがより好ましい。この場合、第2端部4bが、炉心管中心温度が900℃を超える温度となる位置に配置される場合に比べて、第2端部4bの破損が特に抑制される。また、炉心管1からの第2端部4bによる吸熱量がより減少するため、焼結に要する電力をより一層低減させることができる。
【0041】
第2端部4bの位置は、炉心管1に最も近い位置によって決定される。具体的には、第2端部4bの内周の位置が第2端部4bの位置となる。
【0042】
ヒータ収容体4を構成する冷却ジャケットとしては、例えば水冷ジャケット及び空冷ジャケットなどが挙げられる。中でも、水冷ジャケットが好ましい。この場合、ヒータ3の熱が放散されることをより効果的に抑制できる。
【0043】
ヒータ収容体4が水冷ジャケットで構成される場合には、ヒータ収容体4を構成する第1端部4a、第2端部4b、本体部4c、第1支持部4d及び第2支持部4eはそれぞれ、水を貯留する中空の貯留部を有し、貯留部内に流入された水は、焼結時においては、新たな水に常時交換され、冷却機能を保持するようになっている。
【0044】
水冷ジャケットを構成する材料は、特に制限されるものではないが、ヒータ3からの熱に対して耐えられる程度の耐熱材料であることが好ましい。このような耐熱材料としては、例えばステンレス鋼などが挙げられる。中でも、耐食性が高く、廉価であることから、SUS304が好ましい。
【0045】
(断熱材)
断熱材5は、ヒータ3の熱が周囲に放散することを抑制するものであれば特に制限されるものではなく、断熱材5としては、例えばカーボンなどが挙げられる。ここで、カーボンは、軽量でハンドリングしやすいことから、カーボンフェルトで構成されることが好ましい。
【0046】
次に、多孔質ガラス体の焼結装置100を用いた多孔質ガラス体の焼結方法について説明する。
【0047】
まず、支持棒2によって支持された多孔質ガラス体Gを用意する。多孔質ガラス体Gは、VAD法や外付け法などのスート法によって得た後、必要に応じて脱水処理することによって得ることができる。このとき、スート法は以下のようにして行われる。すなわち、まず予め、支持棒2の下端部と接続可能な形状を持つダミーロッドと、ガラス微粒子を堆積させるガラスロッドとを溶着させておく。そして、バーナーを設置し、このバーナーに酸素ガス、水素ガス、不活性ガスを流して反応させた火炎中に、SiCl4などのガラス原料ガスを供給し、回転するガラスロッドにガラス微粒子を堆積させる。こうしてスート法が行われる。
【0048】
一方、ヒータ3を作動させ、炉心管1の中心軸線Lに沿って温度分布を形成させる。この温度分布においては、第1端部4aの位置において炉心管中心温度が950℃以上となるようにするとともに、最高温度が多孔質ガラス体Gの焼結温度以上となるようにする。ここで、多孔質ガラス体Gの焼結温度は、多孔質ガラス体Gを透明ガラス化させることが可能なヒータ3の温度範囲の最低値である。但し、最高温度は好ましくは1650℃以下である。
【0049】
そして、支持棒2によって支持された多孔質ガラス体Gを、炉心管1の開口端部1b側から炉心管1内に挿入する。
【0050】
次に、多孔質ガラス体の焼結装置100においてガス供給口1dより、He、Arなどの不活性ガスを含む焼結用ガスを供給しながら、排ガスをガス排気口1eから排出させる。
【0051】
そして、多孔質ガラス体Gを炉心管1の本体部1aの延び方向に沿って移動させ、ヒータ3の内側に配置し、多孔質ガラス体10を焼結する。
【0052】
このとき、ヒータ収容体4を構成する冷却ジャケットの第1端部4aが、炉心管中心温度が950℃以上となる位置に配置されていることで、第1端部4aが、炉心管中心温度が950℃未満となる位置に配置される場合に比べて、第1端部4aによる炉心管1からの吸熱が多くなり、炉心管1内の温度が低下しやすくなる。このため、支持棒2の伸びを抑制することができる。その結果、多孔質ガラス体Gが炉心管1の底部1cに衝突して炉心管1が破損することを抑制することができる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、多孔質ガラス体Gの製造装置100が断熱材5を備えているが、必ずしも断熱材5を備えていなくてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、第1端部4a及び第2端部4bはそれぞれ、第1支持部4d及び第2支持部4eに対して取り外し可能に設けられているが、第1支持部4d及び第2支持部4eは省略されてもよい。この場合、第1端部4a及び第2端部4bが本体部4cに直接設けられることになる。この場合、第1端部4a、第2端部4b及び本体部4cが一体に形成されていてもよい。
【0055】
さらに、上記実施形態では、第1端部4aは、炉心管1の開口端部1b側の端面からヒータ3側に離間しているが、第1端部4aは、炉心管1の開口端部1b側の端面からヒータ3側に離間していなくてもよい。
【0056】
さらにまた、上記実施形態では、第2端部4bが、ヒータ3に対し炉心管1の開口端部1bと反対側で炉心管1を包囲するように配置されているが、第2端部4bは、炉心管1を包囲するように配置されている必要はなく、炉心管1の底部1cに対向する位置に配置されてもよい。この場合、第2端部4bは、リング状である必要はなく、円板状等であってもよい。
【実施例】
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
まず以下のようにして多孔質ガラス体Gを作製した。すなわち、まず、ガラス微粒子を堆積させるガラスロッドの端部にダミーロッドを溶着させてなる溶着ロッドを用意した。そして、バーナーを設置し、このバーナーに酸素ガス、水素ガス、不活性ガスであるArを流して反応させた火炎中に、ガラス原料としてのSiCl4を供給し、回転する溶着ロッドのガラスロッドにガラス微粒子からなるスート部を形成した。このとき、ガラスロッドはSiO2で構成した。こうして多孔質ガラス体Gを得た。得られた多孔質ガラス体Gは、スート部と、そのスート部の端部から延びるダミーロッドとで構成されていた。
【0059】
得られた多孔質ガラス体Gにおいては、スート部の全長が100cm、最大外径は15cmであった。
【0060】
一方、
図1に示す多孔質ガラス体の焼結装置100において、炉心管1及び蓋部6を石英で構成し、炉心管1の本体部1aの形状は円筒状とし、炉心管1の本体部1aの内径は18cm、炉心管1の本体部1aの厚さは1cmとした。
【0061】
ヒータ3はリング状とし、ヒータ3の内径は20cm、外径は23cm、高さは10cmとした。
【0062】
また、ヒータ収容体4は、ステンレス鋼からなる水冷ジャケットで構成し、第1端部4a(上端)、第2端部4b(下端)、第1支持部4d及び第2支持部4eはいずれもリング状とし、本体部4cは円筒状とした。第1端部4a、第2端部4b、本体部4c、第1支持部4d及び第2支持部4eの寸法は以下の通りとした。
第1端部4a:内径20.5cm、外径28cm、厚さ6cm
第2端部4b:内径20.5cm、外径28cm、厚さ6cm
本体部4c:内径35cm、外径40cm、厚さ40cm
第1支持部4d:内径26cm、外径40cm、厚さ4cm
第2支持部4e:内径26cm、外径40cm、厚さ4cm
【0063】
また断熱材5はカーボンで構成し、ヒータ収容体4と炉心管1との間の空間に充填させた。
【0064】
そして、ヒータ3を作動させた。このとき、炉心管中心温度が、第1端部4aの位置において950℃、ヒータ3の位置において1500℃、第2端部4bの位置においては900℃となるようにした。
【0065】
そして、上記のようにして用意した多孔質ガラス体Gを、直径8cm、長さ100cmの石英からなる支持棒2の下端部に吊り下げた。そして、多孔質ガラス体Gを炉心管1内に挿入して収容した。このとき、蓋部6によって炉心管1の開口端部1bの開口を塞ぎ、炉心管1を密閉させた。
【0066】
次に、Heからなる焼結用ガスを、ガス供給口1dを通して炉心管1内に10slmの流量で供給しながら、炉心管1内のガスを、ガス排気口1eを通して排ガス処理装置へ排気させた。
【0067】
次に、支持棒2を20rpmの回転速度で回転させながら、多孔質ガラス体Gを下降させ、多孔質ガラス体を下端から上端にわたって焼結させて、光ファイバ母材を作製した。
【0068】
(実施例2~8及び比較例1)
ヒータ3を作動させるときに、炉心管中心温度が、第1端部4a及び第2端部4bの位置においてそれぞれ表1及び表2に示す通りとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして光ファイバ母材を作製した。
【0069】
実施例1~8及び比較例1において、焼結後に支持棒2を観察し、支持棒2の伸びの有無を調べた。結果を表1及び表2に示す。その結果、実施例1~8では支持棒2において伸びが無かったのに対し、比較例1では支持棒2において伸びがあったことが分かった。
【0070】
また、実施例1~8及び比較例1において、焼結後にヒータ収容体(水冷ジャケット)の第1端部4a及び第2端部4bを観察し、第2端部4a及び第2端部4bにおける破損の有無を調べた。結果を表1及び表2に示す。その結果、実施例5では第1端部に破損が見られ、実施例8では第2端部に破損が見られたが、実施例1~4及び6~7では第1端部にも第2端部にも破損は無かった。
【0071】
また、実施例6については、実施例7を基準とした、ヒータ3に印加する電力量の削減率を下記式(A)に基づいて算出し、第2端部4bの位置における炉心管中心温度を低下させることによってヒータ3に印加する電力量をどの程度削減できるかを調べた。このとき、実施例6及び実施例7において、ヒータ中心の温度が同じ温度となるようにヒータ3の温度を設定した。その結果、表2に示すように、実施例6の方が、実施例7に比べて、12.7%もヒータ3に印加する電力を削減できることが分かった。
電力量削減率(%)
=100×(実施例7の電力量-実施例6の電力量)/実施例7の電力量)・・・(A)
【表1】
【表2】
【0072】
以上より、本発明の多孔質ガラス体の焼結装置によれば、焼結時において多孔質ガラス体の支持棒の伸びを抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0073】
1…炉心管
1b…開口端部
2…支持棒
3…ヒータ
4…ヒータ収容体
4a…第1端部
4b…第2端部
G…多孔質ガラス体
L…中心軸線