(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-16
(45)【発行日】2024-01-24
(54)【発明の名称】反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスク
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20240117BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20240117BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/54
(21)【出願番号】P 2020080520
(22)【出願日】2020-04-30
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀亮
(72)【発明者】
【氏名】合田 歩美
(72)【発明者】
【氏名】市川 顯二郎
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-190900(JP,A)
【文献】特開2008-41740(JP,A)
【文献】特表2009-519593(JP,A)
【文献】特開2010-103463(JP,A)
【文献】特開2019-139085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、
前記吸収層は、インジウム(In)と酸素(O)とを合計で50原子%以上含有する材料で形成され、
前記吸収層における、インジウム(In)に対する酸素(O)の原子数比(O/In)は、1.5を超え、
前記吸収層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内である、反射型フォトマスクブランク。
【請求項2】
前記吸収層は、Ta、Pt、Te、Zr、Hf、Ti、W、Si、Cr、Mo、Sn、Pd、Ni、F、N、C、及びHからなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有する請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項3】
基板と、
前記基板に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上に形成され、インジウム(In)と酸素(O)とを合計で50原子%以上保有し、且つインジウム(In)に対する酸素(O)の原子数比(O/In)が1.5を超える材料を含有し、パターンが形成されている吸収パターン層と、を有し、
前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内である、反射型フォトマスク。
【請求項4】
前記吸収パターン層は、Ta、Pt、Te、Zr、Hf、Ti、W、Si、Cr、Mo、Sn、Pd、Ni、F、N、C、及びHからなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有する請求項3に記載の反射型フォトマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外領域の光を光源としたリソグラフィで使用する反射型フォトマスク及びこれを作製するための反射型フォトマスクブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおける転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、露光光源は、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光から、波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)領域の光に置き換わってきている。
【0003】
EUV領域の光は、ほとんどの物質で高い割合で吸収されるため、EUV露光用のフォトマスク(EUVマスク)としては、反射型のフォトマスクが使用される(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ガラス基板上にモリブデン(Mo)層及びシリコン(Si)層を交互に積層した多層膜からなる反射層を形成し、その上にタンタル(Ta)を主成分とする光吸収層を形成し、この光吸収層にパターンを形成することで得られたEUVフォトマスクが開示されている。
【0004】
また、EUVリソグラフィは、前記のように、光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材もレンズではなく、反射型(ミラー)となる。このため、反射型フォトマスク(EUVマスク)への入射光と反射光が同軸上に設計できない問題があり、通常、EUVリソグラフィでは、光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けて入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に導く手法が採用されている。
このように、EUVリソグラフィではミラーを介し光軸を傾斜することから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクのマスクパターン(パターン化された光吸収層)の影をつくる、いわゆる「射影効果」と呼ばれる問題が発生することがある。
【0005】
現在のEUVマスクブランクでは、光吸収層として膜厚60~90nmのタンタル(Ta)を主成分とした膜が用いられている。このマスクブランクを用いて作製したEUVマスクでパターン転写の露光を行った場合、EUV光の入射方向とマスクパターンの向きとの関係によっては、マスクパターンの影となるエッジ部分で、コントラストの低下を引き起こす恐れがある。これに伴い、半導体基板上の転写パターンのラインエッジラフネスの増加や、線幅が狙った寸法に形成できないなどの問題が生じ、転写性能が悪化することがある。
【0006】
そこで、光吸収層をタンタル(Ta)からEUV光に対する吸収性(消衰係数)が高い材料への変更や、タンタル(Ta)に吸収性の高い材料を加えた反射型フォトマスクブランクが検討されている。例えば、特許文献2では、光吸収層を、Taを主成分として50原子%(at%)以上含み、さらにTe、Sb、Pt、I、Bi、Ir、Os、W、Re、Sn、In、Po、Fe、Au、Hg、Ga及びAlから選ばれた少なくとも一種の元素を含む材料で構成した反射型フォトマスクブランクが記載されている。
【0007】
さらに、ミラーは、EUV発生の副生成物(例えばSn)や炭素などによって汚染されることが知られている。汚染物質がミラーに蓄積することにより、ミラー表面の反射率が減少し、リソグラフィ装置のスループットを低下させることになる。この問題に対し、特許文献3では、装置内に水素ラジカルを生成することで、水素ラジカルと汚染物質とを反応させて、ミラーからこの汚染物質を除去する方法が開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載の反射型フォトマスクブランクでは、光吸収層が水素ラジカルに対する耐性(水素ラジカル耐性)を有することについては検討されていない。そのため、EUV露光装置への導入によって光吸収層に形成された転写パターン(マスクパターン)を安定的に維持できず、結果として転写性が悪化する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-176162号公報
【文献】特開2007-273678号公報
【文献】特開2011-530823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ水素ラジカルへの耐性を有する反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、基板と、前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、前記吸収層は、インジウム(In)と酸素(O)とを合計で50原子%以上含有する材料で形成され、前記吸収層における、インジウム(In)に対する酸素(O)の原子数比(O/In)は、1.5を超え、前記吸収層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内であることを特徴とする。
また、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、基板と、前記基板に形成された多層膜を含む反射層と、前記反射層の上に形成され、インジウム(In)と酸素(O)とを合計で50原子%以上保有し、且つインジウム(In)に対する酸素(O)の原子数比(O/In)が1.5を超える材料を含有し、パターンが形成されている吸収パターン層と、を有し、前記吸収パターン層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニングにおいて半導体基板への転写性能が向上し、且つ水素ラジカル環境下でも使用可能な反射型フォトマスクが期待できる。つまり、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクであれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ水素ラジカルへの耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図3】EUV光の波長における各金属材料の光学定数を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図7】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図8】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図9】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの設計パターンの形状を示す概略平面図である。
【
図10】本発明の実施例及び比較例に係る反射型フォトマスクの反射率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
図1は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の構造を示す概略断面図である。また、
図2は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20の構造を示す概略断面図である。ここで、
図2に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20は、
図1に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の吸収層4をパターニングして形成したものである。
【0014】
(全体構造)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、基板1と、基板1上に形成された反射層2と、反射層2の上に形成されたキャッピング層3と、キャッピング層3の上に形成された吸収層4と、を備えている。
(基板)
本発明の実施形態に係る基板1には、例えば、平坦なSi基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1には、チタンを添加した低熱膨張ガラスを用いることができるが、熱膨張率の小さい材料であれば、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
(反射層)
本発明の実施形態に係る反射層2は、露光光であるEUV光(極端紫外光)を反射するものであればよく、EUV光に対する屈折率の大きく異なる材料の組み合わせによる多層反射膜であってもよい。多層反射膜を含む反射層2は、例えば、Mo(モリブデン)とSi(シリコン)、またはMo(モリブデン)とBe(ベリリウム)といった組み合わせの層を40周期程度繰り返し積層することにより形成したものであってもよい。
【0016】
(キャッピング層)
本発明の実施形態に係るキャッピング層3は、吸収層4に転写パターン(マスクパターン)を形成する際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されており、吸収層4をエッチングする際に、反射層2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能するものである。キャッピング層3は、例えば、Ru(ルテニウム)で形成されている。ここで、反射層2の材質やエッチング条件により、キャッピング層3は形成されていなくてもかまわない。また、図示しないが、基板1の反射層2を形成していない面に裏面導電膜を形成することができる。裏面導電膜は、反射型フォトマスク20を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0017】
(吸収層)
図2に示すように、反射型フォトマスクブランク10の吸収層4の一部を除去することにより、即ち吸収層4をパターニングすることにより、反射型フォトマスク20の吸収パターン(吸収パターン層)41が形成される。EUVリソグラフィにおいて、EUV光は斜めに入射し、反射層2で反射されるが、吸収パターン41が光路の妨げとなる射影効果により、ウェハ(半導体基板)上への転写性能が悪化することがある。この転写性能の悪化は、EUV光を吸収する吸収層4の厚さを薄くすることで低減される。吸収層4の厚さを薄くするためには、従来の材料よりEUV光に対する吸収性の高い材料、つまり波長13.5nmに対する消衰係数kの高い材料を適用することが好ましい。
【0018】
図3は、各金属材料のEUV光の波長13.5nmに対する光学定数を示すグラフである。
図3の横軸は屈折率nを表し、縦軸は消衰係数kを示している。従来の吸収層4の主材料であるタンタル(Ta)の消衰係数kは0.041である。それより大きい消衰係数kを有する化合物材料であれば、従来に比べて吸収層4の厚さを薄くすることが可能である。消衰係数kが0.06以上であれば、吸収層4の厚さを十分に薄くすることが可能であり、射影効果を低減できる。
【0019】
上記のような光学定数(nk値)の組み合わせを満たす材料としては、
図3に示すように、例えば、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、インジウム(In)、コバルト(Co)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)がある。
また、反射型フォトマスク20は、水素ラジカル環境下に曝されるため、水素ラジカル耐性の高い光吸収材料でなければ、反射型フォトマスク20は長期の使用に耐えられない。本発明の実施形態においては、マイクロ波プラズマを使って、電力1kWで水素圧力が0.36ミリバール(mbar)以下の水素ラジカル環境下で、膜減り速さが0.1nm/s以下の材料を、水素ラジカル耐性の高い材料とする。
【0020】
上記材料のうち、インジウム(In)単体では水素ラジカルへの耐性が低いことが知られているが、酸素を追加することによって水素ラジカル耐性が高くなる。具体的には、表1に示すように、インジウム(In)と酸素(O)との原子数比が1:1.5を超えた材料で、水素ラジカル耐性が確認された。これはインジウム(In)と酸素(O)との原子数比が1:1.5以下ではインジウム(In)の結合がすべて酸化インジウム(In2O3)にならず、膜全体(吸収層4全体)を酸化インジウム(In2O3)にするためには1:1.5を超えた原子数比が必要であると考えられる。なお、表1に示す膜減り速さの評価試験では、膜減り速さの測定を複数回繰り返し、その全てにおいて膜減り速さが0.1nm/s以下であった場合を「○」と評価し、水素ラジカル処理開始直後で数nmの膜減りがあったものの、その後膜減り速さが0.1nm/s以下であった場合を「△」と評価し、その全てにおいて膜減り速さが0.1nm/s超であった場合を「×」と評価した。本発明の実施形態において、「△」の評価であれば、使用上、何ら問題はないが、「○」の評価であれば、より好ましい。
また、上記原子数比(O/In比)は、膜厚1μmに成膜された材料をEDX(エネルギー分散型X線分析)で測定した結果である。
【0021】
【0022】
吸収層4を形成するためのインジウム(In)及び酸素(O)を含む材料は、化学量論的組成の酸化インジウム(In2O3)よりも酸素(O)を多く含むことが好ましい。即ち、吸収層4を構成する材料中のインジウム(In)と酸素(O)との原子数比は1:1.5を超えていることが好ましい。つまり、吸収層4における、インジウム(In)に対する酸素(O)の原子数比(O/In)は、1.5を超えることが好ましい。吸収層4を構成する材料中のインジウム(In)と酸素(O)との原子数比が1:1.5を超えることで、吸収層4に十分な水素ラジカル耐性を付与することができる。
なお、インジウム(In)と酸素(O)との原子数比が1:2.5を超えるとEUV光吸収性の低下が進行するため、原子数比は1:3以下であることが好ましく、1:2.5以下であることがより好ましい。
【0023】
また、吸収層4を構成する材料は、インジウム(In)及び酸素(O)を合計で50原子%以上含有することが好ましい。これは、吸収層4にインジウム(In)と酸素(O)以外の成分が含まれていると、EUV光吸収性と水素ラジカル耐性が共に低下する可能性があるものの、インジウム(In)と酸素(O)以外の成分が50原子%未満であれば、EUV光吸収性と水素ラジカル耐性の低下はごく僅かであり、EUVマスクの吸収層4としての性能の低下はほとんどないためである。
【0024】
インジウム(In)と酸素(O)以外の材料として、例えば、Ta、Pt、Te、Zr、Hf、Ti、W、Si、Cr、Mo、Sn、Pd、Ni、F、N、CやHが混合されていてもよい。つまり、吸収層4は、インジウム(In)と酸素(O)以外に、Ta、Pt、Te、Zr、Hf、Ti、W、Si、Cr、Mo、Sn、Pd、Ni、F、N、C、及びHからなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有していてもよい。
【0025】
例えば、吸収層4にTa、Pt、Te、Sn、Pd、Niを混合することで、EUV光に対する高吸収性を確保しながら、膜(吸収層4)に導電性を付与することが可能となる。このため、波長190~260nmのDUV(Deep Ultra Violet)光を用いたマスクパターン検査において、検査性を高くすることが可能となる。あるいは、吸収層4にNやHf、あるいはZr、Mo、Cr、Fを混合した場合、膜質をよりアモルファスにすることが可能となる。このため、ドライエッチング後の吸収層パターン(マスクパターン)のラフネスや面内寸法均一性、あるいは転写像の面内均一性を向上させることが可能となる。また、吸収膜4にTi、W、Siを混合した場合、洗浄への耐性を高めることが可能となる。
なお、
図1及び
図2には単層の吸収層4を示したが、本発明の実施形態に係る吸収層4はこれに限定されるものではない。本発明の実施形態に係る吸収層4は、例えば、1層以上の吸収層、即ち複層の吸収層であってもよい。
【0026】
従来のEUV反射型フォトマスクの吸収層4には、上述のようにTaを主成分とする化合物材料が適用されてきた。この場合、吸収層4と反射層2との光強度のコントラストを表す指標である光学濃度OD(式1)で1以上を得るには、吸収層4の膜厚は40nm以上必要であり、ODで2以上を得るには、吸収層4の膜厚は70nm以上必要であった。Taの消衰係数kは0.041だが、消衰係数kが0.06以上のインジウム(In)と酸素(O)とを含む化合物材料を吸収層4に適用することで、ベールの法則より、少なくともODが1以上であれば吸収層4の膜厚を17nmまで薄膜化することが可能であり、ODが2以上であれば吸収層4の膜厚を45nm以下にすることが可能である。ただし、吸収層4の膜厚が45nmを超えると、従来のTaを主成分とした化合物材料で形成された膜厚60nmの吸収層4と射影効果が同程度となってしまう。
OD=-log(Ra/Rm) ・・・(式1)
【0027】
そのため、本発明の実施形態に係る吸収層4の膜厚は、17nm以上45nm以下であることが好ましい。つまり、吸収層4の膜厚が17nm以上45nm以下の範囲内であると、Taを主成分とした化合物材料で形成された従来の吸収層4に比べて、射影効果を十分に低減することができ、転写性能が向上する。なお、光学濃度(OD:Optical Density)値は、吸収層4と反射層2のコントラストであり、OD値が1未満の場合には、十分なコントラストを得ることができず、転写性能が低下する傾向がある。
また、上述した「主成分」とは、吸収層全体の原子数に対して50原子%以上含んでいる成分をいう。
以下、本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの実施例について説明する。
【0028】
[実施例1]
最初に、反射型フォトマスクブランク100の作製方法について
図4を用いて説明する。
まず、
図4に示すように、低熱膨張特性を有する合成石英の基板11の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層12を形成する。反射層12の膜厚は280nmとした。
次に、反射層12上に、中間膜としてルテニウム(Ru)で形成されたキャッピング層13を、膜厚が3.5nmになるように成膜した。
次に、キャッピング層13の上に、インジウム(In)と酸素(O)とを含む吸収層14を膜厚が26nmになるように成膜した。インジウム(In)と酸素(O)との原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:2であった。また、吸収層14の結晶性をXRD(X線回析装置)で測定したところ、僅かに結晶性が見られるものの、アモルファスであった。
【0029】
次に、基板11の反射層12が形成されていない側の面に窒化クロム(CrN)で形成された裏面導電膜15を100nmの厚さで成膜し、反射型フォトマスクブランク100を作成した。
基板11上へのそれぞれの膜の成膜(層の形成)は、多元スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。吸収層14は、反応性スパッタリング法により、スパッタリング中にチャンバーに導入する酸素の量を制御することで、O/In比が2になるように成膜した。
【0030】
次に、反射型フォトマスク200の作製方法について
図5から
図8を用いて説明する。
まず、
図5に示すように、反射型フォトマスクブランク100の吸収層14の上に、ポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚にスピンコートで塗布し、110℃で10分ベークし、レジスト膜16を形成した。
次に、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってレジスト膜16に所定のパターンを描画した。その後、110℃、10分のプリベーク処理を行い、次いでスプレー現像機(SFG3000:シグマメルテック社製)を用いて現像処理をした。これにより、
図6に示すように、レジストパターン16aを形成した。
次に、レジストパターン16aをエッチングマスクとして、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより、吸収層14のパターニングを行った。これにより、
図7に示すように、吸収層14に吸収パターン(吸収パターン層)141を形成した。
【0031】
次に、レジストパターン16aの剥離を行い、
図8に示すように、本実施例の反射型フォトマスク200を作製した。本実施例において、吸収層14に形成した吸収パターン141は、転写評価用の反射型フォトマスク200上で、線幅64nmLS(ラインアンドスペース)パターン、AFMを用いた吸収層の膜厚測定用の線幅200nmLSパターン、EUV反射率測定用の4mm角の吸収層除去部を含んでいる。本実施例では、EUV照射による射影効果の影響が見えやすくなるように、線幅64nmLSパターンを、
図9に示すように、x方向とy方向それぞれに設計した。
【0032】
[実施例2]
吸収層4のインジウム(In)と酸素(O)との原子数比率が1:2となるように、また、インジウム(In)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、残りの30原子%がTaとなるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が26nmになるように成膜した。なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0033】
[実施例3]
吸収層4のインジウム(In)と酸素(O)との原子数比率が1:2となるように、また、インジウム(In)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、また、残りの30原子%がSnとなるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が26nmになるように成膜した。なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0034】
[比較例1]
吸収層4のインジウム(In)と酸素(O)との原子数比率が1:1となるように、また、吸収層4の膜厚が26nmになるように、吸収層4を成膜した。なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
[比較例2]
吸収層4のインジウム(In)と酸素(O)との原子数比率が1:2となるように、また、吸収層4の膜厚が15nmになるように、吸収層4を成膜した。なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0035】
[比較例3]
吸収層4のインジウム(In)と酸素(O)との原子数比率が1:2となるように、また、インジウム(In)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の30原子%となるように、また、残りの70原子%がSiOとなるように、吸収層4を成膜した。また、吸収層4の膜厚が26nmになるよう成膜した。なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の反射型フォトマスクブランク100及び反射型フォトマスク200を作製した。
【0036】
前述の実施例及び比較例とは別に、従来のタンタル(Ta)系吸収層を有する反射型フォトマスクも参考例として比較した。反射型フォトマスクブランクは、前述の実施例及び比較例と同様に、低熱膨張特性を有する合成石英の基板上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層と、膜厚3.5nmのルテニウム(Ru)キャッピング層3とを有し、キャッピング層3上に形成された吸収層4は、膜厚58nmのTaN上に膜厚2nmのTaOを成膜したものである。また、前述の実施例及び比較例と同様に、吸収層4がパターニングされたものを評価に用いた。
前述の実施例及び比較例において、吸収層4の膜厚は、透過電子顕微鏡によって測定した。
【0037】
以下、本実施例で評価した評価項目について説明する。
(反射率)
前述の実施例及び比較例において、作製した反射型フォトマスク200の吸収パターン層141領域の反射率RaをEUV光による反射率測定装置で測定した。こうして、実施例及び比較例に係る反射型フォトマスク200のOD値を得た。
(水素ラジカル耐性)
マイクロ波プラズマを使って、電力1kWで水素圧力が0.36ミリバール(mbar)以下の水素ラジカル環境下に、実施例及び比較例で作製した反射型フォトマスク200を設置した。水素ラジカル処理後での吸収層4の膜厚変化を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて確認した。測定は線幅200nmLSパターンで行った。
【0038】
(ウェハ露光評価)
EUV露光装置(NXE3300B:ASML社製)を用いて、EUVポジ型化学増幅型レジストを塗布した半導体ウェハ上に、実施例及び比較例で作製した反射型フォトマスク200の吸収パターン141を転写露光した。このとき、露光量は、
図9に示すx方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した。具体的には、本露光試験では、
図9に示すx方向のLSパターン(線幅64nm)が、半導体ウェハ上で16nmの線幅となるように露光した。電子線寸法測定機により転写されたレジストパターンの観察及び線幅測定を実施し、解像性の確認を行った。
これらの評価結果を、
図10、表2及び表3に示した。
【0039】
【0040】
【0041】
図10では、各実施例及び各比較例のEUV光反射率を示している。
図10では、インジウム(In)と酸素(O)との原子数比率が1:1と1:2の吸収層4、即ち実施例1、比較例1及び比較例2の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200は反射率に変化がなかったため、まとめてある。
図10及び表2に示すように、従来の膜厚60nmのタンタル(Ta)系吸収層を備えた反射型フォトマスク200の反射率は、0.019(OD=1.54)であるのに対し、膜厚が26nmであり、InとOとを含有した材料で形成された吸収層4、即ち実施例1及び比較例1の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200の反射率は、0.011(OD=1.77)であり、Taを30原子%含有した材料で形成された吸収層4、即ち実施例2の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200の反射率は、0.018(OD=1.55)であり、Snを30原子%含有した材料で形成された吸収層4、即ち実施例3の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200の反射率は、0.011(OD=1.76)と良好であった。
【0042】
これに対し、InとOとを含有した材料で形成され、膜厚を15nmにした吸収層4、即ち比較例2の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200の場合、反射率が0.116(OD=0.74)となり、転写性能が悪化した。更に、InとOとの合計含有量が吸収層4全体の30原子%であり、残りの70原子%がSiOである材料で形成された吸収層4、即ち比較例3の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200は、反射率が0.139(OD=0.66)となり、転写性能が悪化する結果となった。
なお、本評価では、OD値が1以上であれば転写性能に問題はないとして、「合格」とした。
【0043】
表2に、各実施例及び比較例に係る反射型フォトマスク200の水素ラジカル耐性の結果を示す。表2では、吸収層4の膜減り速さが0.1nm/s以下の材料を「〇」、0.1nm/sを超えるものを「×」として表している。インジウム(In)と酸素(O)との原子数比率が1:2である材料を70原子%以上含む吸収層4、即ち実施例1から実施例3及び比較例2の吸収層4では良好な水素ラジカル耐性が確認された。しかしながら、InとOとの原子数比率が1:1である材料で形成された吸収層4、即ち比較例1の吸収層4の場合と、InとOとの原子数比率が1:2であっても、InとOとの合計含有量が吸収層4全体に対して30原子%である材料で形成された吸収層4、即ち比較例3の吸収層4の場合には、十分な水素ラジカル耐性を得ることができなかった。
【0044】
表3では、各実施例及び比較例に係る反射型フォトマスク200のマスク特性と、ウェハ上のレジストパターン寸法を示している。
膜厚が26nmであって、InとOとを含んだ材料で形成された吸収層4、即ち実施例1及び比較例1の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200、Taを30原子%含んだ材料で形成された吸収層4、即ち実施例2の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200、Snを30原子%含んだ材料で形成された吸収層4、即ち実施例3の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200では、y方向のパターン寸法が、従来のTa系吸収層を用いたy方向のパターン寸法8.7nmよりも良好であり、それぞれ11.8nm、12.4nm、11.8nmであった。
【0045】
膜厚が15nmであって、InとOとを含んだ材料で形成された吸収層4、即ち比較例2の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200、InとOとの合計含有量が吸収層4全体の30原子%である材料で形成された吸収層4、即ち比較例3の吸収層4を備えた反射型フォトマスク200では、y方向のパターン寸法が、14.0nm、14.7nmと更に良好ではあるものの、前述したように反射率及び水素ラジカル耐性の少なくとも一方が十分でなかった。
【0046】
なお、表3では、射影効果を抑制または軽減できた反射型フォトマスク200については、「判定」の欄に「○」と記し、射影効果を十分に抑制または軽減できなかった反射型フォトマスク200については、「判定」の欄に「×」と記した。
これにより、吸収層4に、化学量論的組成の酸化インジウムよりも酸素を多く含むインジウム(In)と酸素(O)の材料を用いたフォトマスクであれば、光学濃度、水素ラジカル耐性が共に良好であり、射影効果を低減でき、長寿命であり、且つ転写性能が高くなるという結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクは、半導体集積回路などの製造工程において、EUV露光によって微細なパターンを形成するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
1…基板
2…反射層
3…キャッピング層
4…吸収層
41…吸収パターン(吸収パターン層)
10…反射型フォトマスクブランク
20…反射型フォトマスク
11…基板
12…反射層
13…キャッピング層
14…吸収層
141…吸収パターン(吸収パターン層)
15…裏面導電膜
16…レジスト膜
16a…レジストパターン
17…反射部
100…反射型フォトマスクブランク
200…反射型フォトマスク